(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】呈味の強度判定法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/02 20060101AFI20221031BHJP
G01N 30/88 20060101ALN20221031BHJP
【FI】
G01N33/02
G01N30/88 D
G01N30/88 F
(21)【出願番号】P 2018137417
(22)【出願日】2018-07-23
【審査請求日】2021-07-22
(73)【特許権者】
【識別番号】596096825
【氏名又は名称】ジェイ・アイ・サイエンス有限会社
(72)【発明者】
【氏名】松下 至
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-187252(JP,A)
【文献】特開平3-17554(JP,A)
【文献】国際公開第2010/069743(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/131225(WO,A1)
【文献】特開平3-130058(JP,A)
【文献】山口静子,味覚の数量化,調理科学,1976年,Vol.9, No.2,pp.80-85
【文献】橋田度,ヌクレオチド系呈味成分と調理,調理科学,1968年,Vol.1, No.1,pp.12-19
【文献】今村美穂ほか,醤油中における呈味成分の閾値に関する検討,日本食品科学工学会誌,2009年,Vol.56, No.7,pp.12-21
【文献】小林三智子ほか,水溶液とゲルにおける基本味の閾値と呈味性について,十文字学園女子大学人間生活学部紀要,2003年,Vol.1,pp.59-71
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/02,
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品に含まれる1又は複数の旨味成分について、前記食品の旨味成分の濃度βを測定するステップと、
前記各旨味成分の人が感ずることができる最低値を示す閾値αの逆数と前記濃度βとの積γを算出するステップと、
前記各旨味成分における積γの総和Σを算出するステップ、とを有し
前記総和Σを前記食品の呈味強度として算定する呈味強度判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品の呈味全般にわたる呈味力の強さの判定方法の開発であって、
特徴としては分析機器を活用して、その成分を定量し、本特許中の計算式を用いて計算した数値により、人の味覚に頼らなくても、機器分析により同等の判断ができる方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各食品メーカーの試作室では、呈味パネラーによる官能テストが実施されている。数十名による官能テストの結果を統計処理して、製品の呈味力の評価をしている。
この呈味性の判断力がその製品の価値に大きく寄与する。人による精緻な官能検査法や機器分析装置が開発されてきている。その1つに、九州大学の都甲先生らによる旨味に関するセンサーチップを使用するもので、人間の官能試験に近いデーターを出してきている(装置自体、高価である)。
このような技術と本発明の呈味の強度判定法とは次の点で異なっている。
1.全体のおいしさの評価でなくて、呈味の強度に的を絞った判定法である
2.その成分の閾値を活用した計算式で呈味の強度が分かる
3.計算式と定量装置を組み合わせて高価でない測定装置を組み立てられる
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、人間の官能試験の旨味性判定ではなく、食品の呈味力の強さを判定する測定方法である。しかるに現在までの官能テストとは違い、呈味の強さを精度よく測定する方法であるので、人員の呈味パネラーによる官能テストと本発明の結果とが一致しなければならない。そのために以下のような課題を上げ証明実験を実施した。
1.この呈味の強さ判定技法が現在、各品質管理室で実施されている官能テストの結果と合致するかという事が課題になる。そのために旨味成分と果汁の酸味成分を調査し、各成分の呈味の閾値を検索。
・ 旨味成分と酸味成分の濃度を官能テストパネラーが判定できる濃度を鋭利研究し定めた。
3.各成分の試料中の濃度が正確に測定できなければ、本発明の計算法及び判定法は使用する意味がないので、液体クロマトグラフィーを中心に各種分析装置のデーターの正確性が大切である。
・ パネラーによる呈味力の強さの判断と我々が開発したクロマトグラフィーによる結果と計算値との整合性を確かめる実験を準備した。そして順次濃度変化させ、パネラーに旨味と酸味の強さを記録し順番を付ける。
5.同サンプルをクロマトグラフィーにかけ、各成分の定量値を求め、計算式に当てはめて出たデーター値と比較した。その整合性と信頼性を得ることが課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の呈味強度判定技法と官能テストパネラーによる呈味力の強さの判断とが一致する事を証明するために次のような手段を講じた。
・ 酵母エキスの旨味成分と果汁の酸味成分を調べ、閾値の表を作成。
・ その閾値に準じて官能テストパネラーに最初に呈味検査を行う。その結果を基に実際に使用する濃度を決める。
・ 上述のテストで決められた濃度を正確に定量する方法を見つけること。
実際には液体クロマトグラフィーを中心に各種分析装置との比較で測定方法を決める。
・ 同一サンプルをクロマトグラフィーにかけ、各成分の定量値を求め、開発した計算式に当てはめて出たデーター値を記録した。
5、平行して順次試料の濃度変化をさせ、官能テストパネラーによる旨味と酸味の強さをペーパーで記録し順番を付ける。
5.演算検出器を用いての呈味強度結果と官能テストとの整合性を比較する。
【発明の効果】
【0006】
パネラーの官能試験と本発明の機器分析による呈味力判定の結果を組み合わせることにより、より正確な客観的なデーターを得ることができる。このことは食品製造メーカーの品質管理室において、その日に製造する製品の呈味の品質判定に活用できる。具体的にはめんつゆの製造工程において、配合終了時の中間製品の呈味の強さの判定がパネラーの官能試験に頼らず、本発明による官能テストにより、自動化されることになる。もう一つの例として、コーヒーは世界的に大量の輸出入が繰り返されている。その品質判定法はとても産業上価値が高い。その品質判定の中に呈味の度合いの判定は含まれる。コーヒーの呈味は苦みの強弱も大変重要である。その苦みの呈味の判定をするのにクロマトグラフィーで分離し、分離・定量し、その数値を本発明の数式に当てはめると、膨大の量の原料の苦みがパネラーによる甚大な人件費を伴わず、迅速に判定できることになる。
特異的な活用法として、人間では味わう事が出来ない食品素材でも機器分析による呈味力判定技法なので、測定が出来る。例えば、最初に味見する深海魚の内蔵とか、熱帯の新しいキノコの呈味とかがそれにあたる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】課題を解決するための手段とをフロー図として表わした。
【
図2】演算機を用いての課題を解決するための手段を表わした。
【発明を実施するための形態】
【0008】
【実施例】
【0009】
1.酵母エキス調味料の旨味強度の判定法
酵母調味料の旨味成分は核酸の呈味物質である5‘ IMP、5’-GMP, 5’-UMPと
アミノ酸のグルタミン酸ナトリューム(GLU)である。この4成分の定量が液体クロマトグラフィーで、測定出来るように、分析法を確立させた。シンプルな旨味の強さを判断できる技法を目的としたので、1本のカラムで同時に旨味成分が測定出来る分析法の開発から始めた。特にカラムの選択の実験に力を入れた。開発した技法と液体クロマトグラフィーの条件を以下に示す。
標品の5’-IMP , 5’-GMP,5’-UMPとグ5’-XMPを使用し、検量線を作成した。その結果2~20ppmの成分を測定できた。試料として市販の酵母エキス調味料をベースとして実施した。
(1) HPLCの条件
カラム (ナカライテスク製)(4.6Φ×150mm)
溶離液:0.025molリン酸緩衝液(pH7.2)20%CH3OH溶液
検出器:UV260nm
試料量:10μl
カラム温度25℃
流速0.5ml/min
(2) 旨味成分の濃度測定法
旨味の中心となる4成分の閾値を参考資料で調べ、その閾値の5~10倍量を決めて、検量線を作成した。参考文献として、I、II訂食品栄養便覧(著者、前愛媛大学教授田代農雄、平成9年3月刊行)をメインとして、数冊の書籍を活用した。
(3)定量の検量線
L-グルタミン酸は100g中0.005gが閾値である。イノシン酸は100g中0.004gが閾値である。他の2成分も0.002~0.010gに入るので、その5~10倍の濃度になるようにして、人間が官能出来る範囲の濃度で検量線を作製した。
・ 官能検査(パネラー10人による)
本判定法との比較のために、男女合わせて10名による官能テストを実施した。4成分の呈味ヌクレオチドを閾値に準じて、呈味を感ずるように試料を調製した。10人のパネラーは官能テスト用個別室にて、会話等の影響を減じた。また溶液の温度、色合い等、ほとんど同じように仕上げて実施した。試料作製に利用した市販の酵母エキス調味料は100ml中に2gを溶解し、ベース液とした。
なお、計算式には、5´-GMP閾値 5´-IMP閾値 Glu閾値、 5´-UMP閾値を検索あるいは自らの実験で求めている。
呈味強度判定式の総合計(Σ)の数値の大きさの順番とパネラー10名が付けた旨味の強さ順位とが一致していたので本判定法は人間の官能テストと一致しているので、旨味の強さ順位法として使用できることを証明している。その結果を表1に示している。
【0010】
【0011】
2、果汁の酸味強度の判定
果汁中の酸味成分とその閾値の把握を行う。その閾値の換算係素はクエン酸1.0、酢酸1.1、アスコルビン酸0.45であった。このように3成分の閾値を把握すると成分濃度と換算係数をかけるのみで呈味強度を計算できる。クエン酸、酢酸、アスコルビン酸の定量分析・測定を実施。 各試料の濃度計算の濃度は閾値に合わせて0.005~0.012%とした。
各種果実4種100gよりの果汁抽出作製は絞り機で搾った。具体的には温州ミカン、夏柑、レモン、伊予柑の生果実を使用した。抽出液のろ過はNo2のろ紙を使用した。その後、精密遠心分離器で分離した、その上澄み液をHPLC用ろ過膜で処理し分析試料とした。(希釈は10~25倍程度である)
(1)HPLCの条件
カラム STR-ODS カラム(4.6Φ×150mm)
溶離液:0.025molリン酸緩衝液(pH2.4)
検出器:UV210nm (0.04 AUFS)
試料量:10μl
カラム温度25℃
流速0.5ml/min
(2)酸味成分の濃度測定法
酸味の中心となる3成分の閾値を参考資料で調べ、その閾値の2~5倍量を決めて、
検量線を作成した。参考文献として、I、II訂食品栄養便覧(著者、前愛媛大学教授田代農雄、平成9年3月刊行)をメインとして、数冊の書籍の表を活用した。
(3)各成分の定量と検量線
クエン酸は100g中0.0010g,アスコルビン酸は0.0020gが閾値である。酢酸は100g中0.0014gが閾値であるので、その5~20倍の濃度になるようにして、人間が官能出来る範囲の濃度で検量線を作製した。
・ 官能検査(パネラー10人による)
本判定法との比較のために、男女合わせて10名による官能テストを実施した。有機酸成分の酸味を閾値に準じて、呈味を感ずるように試料を調製した。10人のパネラーは官能テスト用個別室にて、会話等の影響を減じた。また溶液の温度、色合い等、ほとんど同じように仕上げて実施した。呈味強度の計算法は閾値で換算係数を作成した。すなわち、クエン酸は2,アスコルビン酸は1、酢酸は1.4。
果汁中の酸味成分を測定し、本特許法の数式にあてはめた数値と官能パネラーによる酸味の強さの結果とが一致していた。この事実は本判定法が人間の官能テスト結果と一致していることを証明しており、酸味の強さ順位法として優れていることが分かる。表2にその結果を示す。
【0012】
【産業上の利用可能性】
【0013】
この新規の旨味の強さ判定法の活用として次のような事が考えられる
・ 酵母エキス調味料の仕入れ金額の判定に利用できる、すなわち旨味の強度がエキスの単価に比例している。
・ 食品呈味エキス調味料の製造における品質管理に利用できる
・ 食品調味料の開発研究に利用できる、例えば酵素分解法や分離処理の良し悪しの判定に使用できる。
・ 加工食品の呈味の継時変化に利用出来、品質管理に幅が広がる。現在まで、考えられなかった品質管理の新規の判定項目になる可能性がある。
・ 新規性のある天然物の呈味判定に利用できる。人間による官能検査だと健康的に分からない食品素材は無理でもでも本手法なら可能、例えば毒性が有るやもしれぬエキスの官能検査等
計算法は
(呈味成分aの閾値の逆数) × (その成分aの濃度) = A
(呈味成分bの閾値の逆数) × (その成分bの濃度) = B
(呈味成分cの閾値の逆数) × (その成分cの濃度) = C
A+B+C = Σ
このΣの値の大きさが官能テスト10人のパネラーより実施した旨味強度の順位と合致しているかを判定する。
【符号の説明】
【0014】
A: 成分を分離するための溶離液―1
B: 成分を分離するための溶離液―2
C: 溶離液の速度を制御する送液ポンプ
D: 成分を分離するためのカラム
E: 呈味強度に換算する検出器