IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ インスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ ルシェルシュ メディカル (インセルム)の特許一覧 ▶ ユニヴェルシテ ドゥ パリの特許一覧 ▶ ユニバーシティ パリ 13 − パリ ノールの特許一覧 ▶ アシスタンス パブリック−オピトークス ド パリの特許一覧 ▶ インスティチュート・パスツールの特許一覧 ▶ センター ナショナル デ ラ リシェルシェ サイエンティフィックの特許一覧

特許7166512炎症のイメージングのための分子標識としてのCD31shed
<>
  • 特許-炎症のイメージングのための分子標識としてのCD31shed 図1
  • 特許-炎症のイメージングのための分子標識としてのCD31shed 図2
  • 特許-炎症のイメージングのための分子標識としてのCD31shed 図3A
  • 特許-炎症のイメージングのための分子標識としてのCD31shed 図3B
  • 特許-炎症のイメージングのための分子標識としてのCD31shed 図3C
  • 特許-炎症のイメージングのための分子標識としてのCD31shed 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】炎症のイメージングのための分子標識としてのCD31shed
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/60 20060101AFI20221031BHJP
   A61K 51/08 20060101ALI20221031BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20221031BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20221031BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20221031BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20221031BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
G01N33/60 A
A61K51/08 200
C07K7/06
C07K14/705 ZNA
C12Q1/02
G01N33/48 P
G01N33/53 D
G01N33/53 Y
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019510753
(86)(22)【出願日】2017-05-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 EP2017060574
(87)【国際公開番号】W WO2017191214
(87)【国際公開日】2017-11-09
【審査請求日】2020-04-30
(31)【優先権主張番号】16305516.3
(32)【優先日】2016-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504006489
【氏名又は名称】インスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ ルシェルシュ メディカル (インセルム)
(73)【特許権者】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(73)【特許権者】
【識別番号】518332974
【氏名又は名称】ユニバーシティ パリ 13 - パリ ノール
(73)【特許権者】
【識別番号】518390284
【氏名又は名称】アシスタンス パブリック-オピトークス ド パリ
(73)【特許権者】
【識別番号】593055203
【氏名又は名称】インスティチュート・パスツール
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT PASTEUR
(73)【特許権者】
【識別番号】518369442
【氏名又は名称】センター ナショナル デ ラ リシェルシェ サイエンティフィック(シーエヌアールエス)
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ベイ,シルビエ
(72)【発明者】
【氏名】ニコレッティ,アントニーノ
(72)【発明者】
【氏名】ル グルデック,ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】ヴィーニュ,ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】カリジューリ,ジュゼッピーナ
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-526485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/60
A61K 51/08
C07K 7/06
C07K 14/705
C12Q 1/02
G01N 33/48
G01N 33/53
CAplus/REGISTRY(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症部位をイメージングするのに使用するための組成物であって、標識CD31shedリガンドを分子イメージング剤として含み、
前記標識CD31shedリガンドが、
D-エナンチオマーのアミノ酸からなる配列番号6の配列のペプチドまたはD-エナンチオマーのアミノ酸からなる配列番号8の配列のペプチドである、CD31shedリガンドと、
放射性核種である少なくとも1種のイメージング標識と、
を含む、
組成物。
【請求項2】
前記標識CD31shedリガンドは、対象が炎症状態を罹患している、炎症状態を有するリスクがある、もしくは抗炎症治療後に炎症状態の再発のリスクがあるかどうかを決定するための方法または炎症状態の治療の有効性をモニタリングするための方法において炎症部位をイメージングするための分子イメージング剤として使用される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記炎症状態が、関節リウマチ、多発性硬化症、アレルギー、ミオパチー、炎症性腸疾患、乾癬、アトピー性皮膚炎、脳アミロイド血管症、血管炎、全身性エリテマトーデス、グレーブス病、糖尿病、急性もしくは慢性移植拒絶、癌、血栓症、アテローム血栓症、神経変性疾患、ならびに/または虚血性の心疾患および/もしくは脳疾患からなる群から選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記放射性核種が、ポジトロン断層法(PET)、単一光子放射断層撮影(SPECT)、SPECTおよび/もしくはPETのハイブリッド、またはそれらの組み合わせにより検出可能である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記放射性核種が、テクネチウム-99m(99mTc)、ガリウム-67(67Ga)、ガリウム-68(68Ga)、イットリウム-90(90Y)、インジウム-111(111In)、レニウム-186(186Re)、フッ素-18(18F)、銅-64(64Cu)、またはタリウム-201(201Tl)である、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記放射性核種が99mTcである、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記CD31shedリガンドが、少なくとも1つのスペーサーを介して、6-ヒドラジノピリジン-3-カルボン酸(HYNIC)と結合している、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、対象が炎症状態を罹患している、または炎症状態を有するリスクがある、または炎症状態を発症するリスクがあるかどうかを決定するため、および抗炎症治療後に炎症状態の度合いの変化をモニタリングするための、炎症部位の分子イメージングに関する。
【背景技術】
【0002】
炎症部位のイメージングは、炎症状態の診断に有用なツールである。炎症における高レベルのグルコース代謝により、18F-FDG(2-デオキシ-2-18F-フルオロ-D-グルコース)PETの使用が促されている。しかしながら、18F-FDGは、特異性が不十分であり、その生理的な取り込みが心臓、肺、および脳で多いことにより、その用途が限定されている。よって、炎症組織をイメージングするためのより特異的な標的が必要とされている。
【0003】
CD31は、白血球、血小板、および内皮細胞により恒常的に発現されている膜貫通型糖タンパク質受容体である。これは、6個のIg様細胞外ドメイン、短い膜貫通セグメント、および免疫受容体チロシンベースの阻害性モチーフ(ITIM)として作用する2つの重要なチロシンベースのモチーフ(Y663およびY686の周辺)を含む細胞質テールを含む一本鎖分子からなる。CD31の構造を、以下の表1に示す。
【表1】
【0004】
同種親和性および阻害性の機能により、CD31は、循環のホメオスタシスで重要な役割を発揮している。炎症促進性の状態では、受容体の同種親和性部分が、切断により失われており、活性化細胞はCD31の切断型を発現する。実際に、国際特許公開公報第2010/000756号は、CD31が、活性化/メモリーTリンパ球において、第5および第6の細胞外Ig様ドメインの間で切断されることを開示している。対して、国際特許公開公報第2013/152919号は、活性化血小板が、同様に、第6の細胞外ドメインと膜近傍配列との間で切断されているCD31を発現することを開示している。両種の、CD31の切断された細胞外配列(「可溶性CD31」とも呼ばれている)は、次に循環の中に放出され、循環中で、健常な内皮細胞により産生される、CD31の可溶性スプライシングバリアントと共に存在する。切断の後に膜に固定されたままである残りの小さなCD31エクトドメインは、「CD31shed」と呼ばれている。国際特許公開公報第2010/000756号および国際特許公開公報第2013/152919号は、個体の生物学的試料における前記可溶性のCD31の検出に基づき血栓性障害または自己免疫性障害を診断するための方法を開示している。
【0005】
国際特許公開公報第2010/000741号は、活性化白血球および血小板上のCD31shedを特異的に標的化することにより、CD31の生理的な免疫調節機能を回復させることができるCD31のエクトドメインの膜近傍のアミノ酸に対応するペプチドを開示している。このようなペプチドは、血栓障害または自己免疫障害の治療に有用である。国際特許公開公報第2013/190014号は、さらに、血栓障害または炎症障害の治療に関する有用性を保持し、薬物開発により適した物理化学的特性を呈する、細胞外CD31の膜傍近位部の中の、8アミノ酸の特異的ペプチドを開示している。
【0006】
依然として、炎症状態のイメージングおよび診断に関する信頼可能な解決策を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0007】
本発明の説明
本発明者らは、意外にも、CD31shed自体が、特に炎症部位の分子イメージングを可能にすることにより、炎症状態の診断のための分子標的として使用できることを見出した。実際にCD31shedは、驚くべきことに、標識CD31shedリガンドを使用する場合に検出可能なシグナルを得ることができる量で活性化細胞上に存在することが見いだされたが、循環中の活性化細胞、および炎症に関与していない他の臓器または細胞に存在するCD31shedに対応するノイズシグナルはほとんどなく、これにより良好なシグナル対ノイズ比がもたらされた。本発明者らは、実際に炎症の動物モデルにおいてin vivoで、CD31shedに特異的な放射標識CD31shedリガンドを前記動物に投与することにより、CD31shedを発現する活性化細胞への放射標識CD31shedリガンドの特異的結合、およびその後の炎症部位における濃度により、炎症部位を局在化することを可能にする一方で、残存する放射標識CD31shedリガンドが迅速に動物の体から排出されることを示している。
【0008】
これに関連して、本発明者らは、PEGスペーサーを介してHYNIC(6-ヒドラジノピリジン-3-カルボン酸)に結合させるとともに99mTcで放射標識した、D-エナンチオマーのアミノ酸からなる配列番号6の配列のペプチドP8RIを使用した。前記放射標識CD31shedリガンドは、in vitroおよびin vivoの両方において安定であり、CD31shedに特異的であり、血漿タンパク質への結合が非常に少ないことが見いだされた。
【0009】
よって、CD31shedに特異的に結合できる標識CD31shedリガンド(特に小さなペプチド)が、炎症の分子イメージングのためのトレーサーとして有用である。
【0010】
よって、本発明の1つの目的は、CD31shedリガンドと少なくとも1種のイメージング標識(好ましくは少なくとも1種の放射性核種)とを含む、標識CD31shedリガンドである。
【0011】
前記CD31shedリガンドは、好ましくは、
a)
(i)配列番号1の配列のアミノ酸579~601位により定義される配列の3~15アミノ酸のフラグメントからなるペプチド、
(ii)非ヒト哺乳類CD31において配列番号1の配列のアミノ酸579~601位に対応する配列の3~15アミノ酸のフラグメントからなるペプチド、
(iii)ペプチド(i)の配列と少なくとも70%同一である配列からなる3~15アミノ酸のペプチド、
(iv)ペプチド(i)、(ii)もしくは(iii)のレトロ-インベルソ(retro-inverso)配列からなるペプチド、および
(v)少なくとも1つもしくは少なくとも1つのさらなる化学的修飾を含むペプチド(i)、(ii)、(iii)もしくは(iv)
からなる群において選択されるペプチド、
または、
b)ペプチドa)のペプチド模倣体
である。
【0012】
(v)のCD31shedリガンドは、好ましくは、D-エナンチオマー型である少なくとも1つのアミノ酸を含む。
【0013】
CD31shedリガンドは、好ましくは、配列番号2の配列のペプチド、配列番号3の配列のペプチド、配列番号4の配列のペプチド、配列番号5の配列のペプチド、D-エナンチオマーのアミノ酸からなる配列番号6の配列のペプチド、配列番号7の配列のペプチド、およびD-エナンチオマーのアミノ酸からなる配列番号8の配列のペプチドからなる群で選択される。
【0014】
好ましいCD31shedリガンドは、配列番号5の配列のペプチド、またはD-エナンチオマーのアミノ酸からなる配列番号6の配列のペプチドである。
【0015】
標識CD31shedリガンドの放射性核種は、好ましくは、ポジトロン断層法(PET)、単一光子放射断層撮影(SPECT)、SPECTおよび/もしくはPETのハイブリッド、またはそれらの組み合わせなどの分子イメージング技術(複数可)により検出可能である。
【0016】
たとえば、放射性核種は、テクネチウム-99m(99mTcまたは99mTc)、ガリウム-67(67Ga)、ガリウム-68(68Ga)、イットリウム-90(90Y)、インジウム-111(111In)、レニウム-186(186Re)、フッ素-18(18F)、銅-64(64Cu)、またはタリウム-201(201Tl)である。
【0017】
好ましい標識CD31shedリガンドは、CD31shedリガンドとしてのD-エナンチオマーのアミノ酸からなる配列番号6の配列のペプチドと、放射性核種としての99mTcとを含む。
【0018】
1つの好ましい実施形態では、CD31shedリガンドは、任意に少なくとも1つのスペーサーを介して、HYNIC(6-ヒドラジノピリジン-3-カルボン酸)と結合している。
【0019】
本発明の別の目的は、特に、対象が炎症状態を罹患している、炎症状態を有するリスクがある、もしくは抗炎症治療後に炎症状態の再発のリスクがあるかどうかを決定するため、または炎症状態の治療の有効性をモニタリングするために、炎症部位をイメージングするための分子イメージング剤として使用するための上記に定義されている標識CD31shedリガンドに関する。また本発明は、特に炎症部位をイメージングするために、分子イメージング剤として上記に定義される標識CD31shedリガンドの使用に関する。
【0020】
本発明の別の目的は、好ましくは、対象が炎症状態を罹患している、炎症状態を有するリスクがある、もしくは抗炎症治療後に炎症状態の再発のリスクがあるかどうかを決定するため、または炎症状態の治療の有効性をモニタリングするための方法、特にin vitroでの方法であって、前記方法が、
対象から得た生物学的試料において、上記に定義された標識CD31shedリガンドで細胞表面上のCD31shedの存在を検出するステップを含む、
方法に関する。
【0021】
本発明の別の目的は、炎症部位のイメージングのため、より具体的には、対象が炎症状態を罹患している、炎症状態を有するリスクがある、もしくは抗炎症治療後に炎症状態の再発のリスクがあるかどうかを決定するため、または炎症状態の治療の有効性をモニタリングするために、分子イメージングの標的として使用するためのCD31shedに関する。また本発明は、特に炎症部位をイメージングするために、分子イメージングの標的として使用するためのCD31shedの使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
炎症状態
炎症状態は、多数の疾患の根底にある。たとえば免疫系は、多くの場合、アレルギー反応および一部のミオパチーの両方で実証されているように、炎症状態に関与しており、多くの免疫系の障害が、異常な炎症をもたらしている。
【0023】
本明細書を通して使用されている用語「炎症状態」は、限定するものではないが、慢性炎症状態、免疫障害、自己免疫障害、急性および慢性の移植片による同種異系免疫状態(grant alloimmune conditions)、急性および慢性の感染性炎症状態、炎症性プロセスの病因を伴う非免疫疾患、またはそれらの組み合わせを含む。
【0024】
慢性炎症状態は、たとえば、炎症性腸疾患、乾癬、アトピー性皮膚炎、脳アミロイド血管症および/または血管炎である。
【0025】
免疫障害は、たとえばアレルギーおよび/またはミオパチーである。
【0026】
自己免疫障害は、たとえば、関節リウマチ(RA)、多発性硬化症(MS)、炎症性腸疾患(IBD)、全身性エリテマトーデス(SLE)、グレーブス病、および/または糖尿病である。
【0027】
急性および慢性の同種異系免疫状態は、たとえば、同種異系移植片拒絶または移植片対宿主病(GVHD)である。
【0028】
急性および慢性の感染性の炎症状態として、敗血症性肉芽腫(膿瘍)および/または敗血症性ショックが挙げられる。
【0029】
炎症性プロセスの病因を伴う非免疫疾患は、たとえば、癌、血栓症、虚血性および/または虚血―再灌流による臓器障害(たとえば心筋梗塞および/または脳梗塞)、動脈炎症状態(アテローム血栓症、動脈解離、および/もしくは非治癒型/血栓性動脈瘤など)、ならびに/または神経変性疾患である。
【0030】
炎症状態は、たとえば、関節リウマチ、多発性硬化症、アレルギー、ミオパチー、炎症性腸疾患、乾癬、アトピー性皮膚炎、脳アミロイド血管症、血管炎、全身性エリテマトーデス、グレーブス病、糖尿病、急性もしくは慢性の移植片拒絶、癌、血栓症、アテローム血栓症、虚血性心筋梗塞および/もしくは脳梗塞、ならびに/または神経変性疾患からなる群から選択される。
【0031】
イメージングを行う、診断および/または治療すべき対象
本発明の文脈での「対象」は、ヒトまたは非ヒトの哺乳類である。
【0032】
用語「ヒト」、「個体」、または「患者」は、本明細書中同義であり、互換可能に使用され得る。
【0033】
前記ヒトは、たとえば男性または女性といった任意の性別であってもよく、かつ、たとえば乳児、小児、青年、成年、高齢者といった任意の年齢であってもよい。
【0034】
非ヒトの哺乳類は、好ましくは、マウス、ラット、ネコ、イヌ、ウサギ、ハムスター、ブタ、ヒツジ、ウマ、または霊長類である。
【0035】
対象は、炎症状態を罹患していてもよく、炎症状態を罹患している疑いがあってもよく、炎症状態を有するリスクがあってもよく、または炎症状態の再発のリスクがあってもよい。
【0036】
「炎症状態を有するリスクがある」、「炎症状態を罹患しているリスクがある」、および「炎症状態を発症するリスクがある」との表現は、本明細書中同義である。
【0037】
本発明の文脈での「リスク」は、たとえば炎症状態への転換といった事象が特定の期間にわたって起こる可能性に関する。
【0038】
炎症のイメージング
「炎症部位のイメージング」および「炎症のイメージング」との表現は、本明細書中同義である。
【0039】
炎症部位のイメージングは、対象の体内の炎症組織および/または炎症臓器の位置を特定することを可能にする。
【0040】
炎症部位のイメージングは、多くの利点を呈する。
【0041】
たとえば、炎症部位のイメージングは、炎症状態の診断、炎症状態の確認、炎症組織もしくは炎症臓器の位置特定、治療、たとえば抗炎症治療に対する応答のモニタリング、治療の炎症的な副作用のモニタリング、炎症状態の発症のリスクの予測、および/または抗炎症治療後の炎症状態の再発のリスクの決定を、可能にする。
【0042】
よって、炎症部位のイメージングは、対象が炎症状態を罹患している、炎症状態を有するリスクがある、抗炎症治療後に炎症状態の再発のリスクがあるかどうかを決定するため、または炎症状態の治療の有効性をモニタリングするために使用されてもよい。
【0043】
分子イメージングの標的および/または分子イメージング剤は、炎症のイメージングを実行するために必要とされる。
【0044】
本明細書中使用されている用語「分子イメージングの標的」は、分子イメージング技術を使用することにより検出できる化合物を表す。
【0045】
本明細書中使用されている用語「分子イメージング剤」は、分子イメージング技術を使用することにより、特定の生物学的要素、特に分子イメージングの標的を検出するために使用できる化合物を表す。
【0046】
分子イメージング剤は、好ましくは、共有結合または非共有結合でイメージング標識に結合している薬剤である。
【0047】
本発明の文脈では、分子イメージング剤は、in vivoまたはin vitroで(たとえば対象の血液試料において)、CD31shedを検出するために使用される。
【0048】
分子イメージングの標的として使用するためのCD31shed
よって本発明は、炎症部位をイメージングするための分子イメージングの標的として使用するためのCD31shedに関する。
【0049】
また本発明は、炎症部位のイメージングのための分子イメージングの標的としてのCD31shedの使用に関する。
【0050】
特に、本発明は、特にin vivoにおいて、炎症部位をイメージングするための方法において分子イメージングの標的として使用するためのCD31shedに関する。
【0051】
本明細書中使用されている「CD31shed」は、CD31膜貫通型糖タンパク質受容体の切断の後に、内皮細胞、血小板、または白血球の膜に固定したままである、残存している小さなCD31エクトドメインを表す。
【0052】
活性化内皮細胞、血小板、および白血球の表面にあるCD31shedは、少なくともCD31の第1~第5の細胞外Ig様ドメインを欠いている。
【0053】
活性化血小板および活性化内皮細胞の表面にあるCD31shedは、CD31の第1~第5の細胞外Ig様ドメイン、および第6の細胞外Ig様ドメインの少なくとも一部を欠いている。
【0054】
活性化白血球の表面にあるCD31shedは、第1~第5の細胞外Ig様ドメインを欠いているが、第6の細胞外Ig様ドメインを含んでいる。
【0055】
また本発明は、対象が炎症状態を罹患している、炎症状態を有するリスクがある、抗炎症治療後に炎症状態の再発のリスクがあるかどうかを決定するため、または炎症状態の治療の有効性をモニタリングするための方法、好ましくはin vivoでの方法において上記に定義するように使用するためのCD31shedに関する。
【0056】
また本発明は、特にin vivoにおいて、対象が炎症状態を罹患している、炎症状態を有するリスクがある、抗炎症治療後に炎症状態の再発のリスクがあるかどうかを決定するため、または炎症状態の治療の有効性をモニタリングするために使用するためのCD31shedに関する。
【0057】
「炎症状態」および「炎症部位のイメージング」との表現は、上記に定義される通りである。
【0058】
CD31shedリガンド
用語「CD31shedリガンド」は、CD31shedに特異的に結合できるいずれかの化合物を表す。
【0059】
細胞表面上に存在するCD31shedへの化合物の特異的な結合は、当業者に周知のいずれの方法によって評価してもよい。
【0060】
たとえば、特異的な結合は、表面プラズモン共鳴、フローサイトメトリー、またはbeta-imagerにより測定され得る。
【0061】
好ましい実施形態では、細胞表面に存在するCD31shedへの試験される化合物の結合を、以下のように評価する:試験される化合物、または陰性対照としての無関係のアナログを、蛍光プローブ(たとえばフルオレセイン(fluoresceine))に結合させる。この化合物を、Ca++およびMg++を含む生理食塩水バッファー(HBSS、培養培地)中10個の細胞/mlの密度でCD31+細胞(たとえば、JurkatT細胞などの細胞株、または末梢血T細胞などの初代培養細胞に由来)と共に連続希釈(たとえば1、10、100μmol)でインキュベートする。細胞活性化因子(たとえば細胞がTリンパ球の場合、1μg/mlの抗CD3e抗体+20μg/mlの二次F(ab’)2フラグメントなどのTCR架橋)の存在下で、同等の条件をインキュベートする。この反応を、冷たいバッファーで繰り返し洗浄することによって5または20分後に停止させる。細胞を、パラホルムアルデヒドで固定し、再度洗浄する。個々の細胞における試験される化合物の結合は、フローサイトメーターを使用して相対的な蛍光シグナルにより検出する。対照と比較して特定の化合物に関するシグナルが大きければ、および休止細胞と比較して細胞の活性化因子を含む条件のシグナルが大きければ、CD31shedに適切に結合することを表す。
【0062】
あるいは、試験される化合物、または陰性対照としての無関係のアナログを、活性化内皮細胞(たとえば、ヒトの免疫化した細胞株の血管由来の初代培養細胞)への結合に関して、試験する。この細胞を、コンフルエンスとなるまでI型コラーゲン薄層上で培養する。活性化のために、細胞を、培養培地中で、ヒト組み換え型TNFαと共に30分間インキュベートする。この反応を、冷却した生理食塩水バッファーで細胞をすすぐことにより停止させ、細胞を固定する(たとえばZinc-fixative溶液を室温で10分間用いる)。生理食塩水バッファーで十分にすすいだ後、活性化内皮細胞を、蛍光プローブ(たとえばフルオレセイン)に結合した試験される化合物または陰性対照としての無関係のアナログにより標識し、細胞膜の色素(たとえばCell Mask(商標))および核染色(たとえばHoechst 33342)により対比染色する。個々の細胞における試験される化合物の結合を、蛍光顕微鏡を使用して相対的な蛍光シグナルにより検出する。対照と比較して特異的な化合物に関するシグナルが大きければ、および休止細胞と比較して細胞活性化因子を含む条件のシグナルが大きければ、CD31shedに適切に結合することを表す。
【0063】
CD31shedリガンドは、ペプチド、ペプチド模倣体、化学化合物、抗体、またはアプタマーであってもよい。
【0064】
よって、用語「抗体」は、抗原結合領域を有するいずれかの抗体様分子を表すように使用されており、この用語は、Fab’、Fab、F(ab’)2、単一ドメイン抗体(DABまたはVHH)、TandAbsダイマー、Fv、scFv(一本鎖Fv)、dsFv、ds-scFv、Fd、直鎖状抗体、ミニボディ、ダイアボディ、二重特異性抗体フラグメント、ビボディ(bibody)、トリボディ(scFv-Fab融合物、それぞれ二重特異性または3重特異性);sc-ダイアボディ;κ(λ)ボディ(scFv-CL融合物);DVD-Ig(二重可変ドメイン抗体、二重特異性形式);SIP(小分子免疫タンパク質、ミニボディの一種);SMIP(「小モジュール免疫薬」、scFv-Fcダイマー;DART(二本鎖安定化ダイアボディ「Dual Affinity ReTargeting」);1つまたは複数のCDRを含む小さな抗体模倣体などを含む。様々な抗体ベースの構築物およびフラグメントを調製および使用するための技術は、当該分野で周知である。一部の実施形態では、抗体はモノクローナル抗体である。一部の実施形態では、抗体は、非内部移行型である。本明細書中使用される用語「非内部移行型抗体」は、それぞれが、細胞表面に存在する標的抗原に結合する特性を有し、この標的抗原に結合しても細胞に入らず、リソソームで分解される抗体を表す。一部の実施形態では、異種ポリペプチドは、軽鎖イムノグロブリンである。一部の実施形態では、異種ポリペプチドは重鎖イムノグロブリンである。一部の実施形態では、異種ポリペプチドは、軽鎖を生来欠いているラクダ科の哺乳類で見出され得る種類の抗体の単一の重鎖可変ドメインである。
【0065】
特に、本発明の文脈では、抗体は、単一ドメイン抗体である。用語「単一ドメイン抗体」は、当該分野での一般的な意味を有し、かつ、軽鎖を生来欠いているラクダ科の哺乳類で見出され得る種類の抗体の単一の重鎖可変ドメインを表す。このような単一ドメイン抗体はまた、VHHまたは「nanobody(登録商標)」とも呼ばれている。(単一の)ドメイン抗体の一般的な説明に関しては、上述の従来技術、およびEP 0 368 684, Ward et al.(Nature 1989 Oct 12; 341 (6242): 544-6)、Holt et al., Trends Biotechnol., 2003, 21(11):484-490;および国際特許公開公報第06/030220号、国際特許公開公報第06/003388号を参照されたい。単一ドメイン抗体のアミノ酸配列および構造は、それぞれ「フレームワーク領域1」またはFR1;「フレームワーク領域2」またはFR2;「フレームワーク領域3」またはFR3;および「フレームワーク領域4」またはFR4と当該分野および本明細書中で呼ばれている、4つのフレームワーク領域または「FR」から構成されると考えることができ、フレームワーク領域の間には、それぞれ「CDR1」、すなわち「相補性決定領域1」、または「CDR2」、すなわち「相補性決定領域2」、または「CDR3」すなわち「相補性決定領域2(3)」と当該分野で呼ばれている、3つの相補性決定領域または「CDR」が存在する。よって、単一ドメイン抗体は、一般的な構造:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4を有するアミノ酸配列と定義することができ、ここでFR1~FR4は、それぞれフレームワーク領域1~4を表し、CDR1~CDR3は、相補性決定領域1~3を表す。本発明の文脈では、単一ドメイン抗体のアミノ酸残基は、IMGT(International ImMunoGeneTics)の情報システムによるアミノ酸のナンバリングにより提供されるVHドメインに関する一般的なナンバリングに従ってナンバリングされている(http://imgt.cines.fr/)。
【0066】
特に、本発明の文脈では、抗体は、一本鎖可変フラグメントである。用語「一本鎖可変フラグメント」または「scFvフラグメント」は、リンカー分子を介して結合した抗体のVHドメインおよびVLドメインを含む単一のフォールディングされたポリペプチドを表す。このようなscFvフラグメントでは、VHドメインおよびVLドメインは、VH-リンカー-VLまたはVL-リンカー-VHのいずれかの順とすることができる。この産生を容易にすることに加えて、scFvフラグメントは、スペーサーを介してscFvに結合するタグ分子を含んでもよい。よって、scFvフラグメントは、抗原認識に関与しているVHドメインおよびVLドメインを含むが、対応する抗体の免疫原性の定常ドメインを含まない。
【0067】
本発明の一実施形態では、CD31shedリガンドはペプチドである。
【0068】
本ペプチドは、好ましくは、国際特許公開公報第2010/000741号または同2013/190014号に開示されているペプチドである。
【0069】
好ましくは、CD31shedリガンドは合成ペプチドである。
【0070】
「合成ペプチド」とは、そのペプチドが、生きている生物(たとえばヒト)の中に存在しないことを意図する。
【0071】
合成ペプチドは、好ましくは精製されている。
【0072】
合成ペプチドは、組成物またはキットの一部であってもよい。
【0073】
本ペプチドは、
(i)配列番号1の配列のアミノ酸579~601位により定義されている配列の3~15アミノ酸のフラグメントからなるペプチドと、
(ii)非ヒト哺乳類のCD31における配列番号1の配列のアミノ酸579~601位に対応する配列の3~15アミノ酸のフラグメントからなるペプチドと、
(iii)ペプチド(i)の配列と少なくとも70%同一である配列からなる3~15アミノ酸のペプチドと、
(iv)ペプチド(i)、(ii)、もしくは(iii)のレトロ-インベルソ(retro-inverso)配列からなるペプチドと、
(v)少なくとも1つもしくは少なくとも1つのさらなる化学的修飾、好ましくはD-エナンチオマー型の少なくとも1つのアミノ酸を含むペプチド(i)、(ii)、(iii)、もしくは(iv)と
からなる群で選択されてもよい。
【0074】
「フラグメント」は、本明細書中、連続したアミノ酸の配列を表す。たとえば、フラグメントは、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15アミノ酸のフラグメントであってもよい。
【0075】
配列番号1の配列のアミノ酸579~601位により定義されている配列は、配列番号12である。
【0076】
よって、本ペプチドは、配列番号12の配列の3~15アミノ酸のフラグメントからなり得る。
【0077】
また本ペプチドは、非ヒト哺乳類CD31において配列番号12の配列に対応する配列の3~15アミノ酸のフラグメントからなってもよい。
【0078】
非ヒト哺乳類のCD31の非限定的な例は、配列番号9の配列のマウスCD31、配列番号10の配列のウシCD31、および配列番号11の配列のブタCD31である。
【0079】
当業者は、たとえば、配列番号1の配列と、前記非ヒト哺乳類CD31タンパク質の配列、たとえば配列番号9、配列番号10、および配列番号11の配列のうちの1つを含む配列との間で配列アライメントを行うことにより、非ヒト哺乳類CD31タンパク質における配列番号1の配列のアミノ酸579~601位、すなわち配列番号12に対応する配列を容易に同定することができる。
【0080】
たとえば、BioPerl、BLAST、BLAST-2、CS-BLAST、FASTA、ALIGN、ALIGN-2、LALIGN、Jaligner、matcher、またはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの公的に入手可能なコンピュータソフトウェアおよびNeedleman-Wunsch and Smith-Watermanアルゴリズムなどのアライメントアルゴリズムを使用する、配列アライメントおよび配列同一性の決定のための方法が、当業者に周知である。
【0081】
本発明に係るCD31ペプチドの配列は、好ましくはヒトCD31またはマウスCD31の配列に由来している。
【0082】
本ペプチドはまた、ペプチド(i)、すなわち配列番号1の配列のアミノ酸579~601位により定義されている配列の3~15アミノ酸のフラグメントの配列と、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、または少なくとも90%同一である配列からなる3~15アミノ酸のペプチドであってもよい。
【0083】
4~6アミノ酸の所定の配列と少なくとも70%同一のペプチド配列は、前記所定の配列と最大1つのアミノ酸が異なる。
【0084】
7~9アミノ酸の所定の配列と少なくとも70%同一のペプチド配列は、前記所定の配列と最大2つのアミノ酸が異なる。
【0085】
10~13アミノ酸の所定の配列と少なくとも70%同一のペプチド配列は、前記所定の配列と最大3つのアミノ酸が異なる。
【0086】
14または15アミノ酸の所定の配列と少なくとも70%同一のペプチド配列は、前記所定の配列と最大4つのアミノ酸が異なる。
【0087】
「参照配列と少なくともx%同一である配列」は、対象ペプチドのアミノ酸配列が、参照配列と同一であるか、または参照配列の100個アミノ酸あたり最大100-x個のアミノ酸変化によって参照配列と異なることが意図されている。言い換えると、参照アミノ酸配列と少なくともx%同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドを得るためには、対象配列のアミノ酸残基の最大100-x%を、挿入、欠失、または別のアミノ酸に置換してもよい。
【0088】
2つ以上の配列の同一性を比較するための方法は、当該分野で周知である。たとえば、Wisconsin Sequence Analysis Package、バージョン9.1で利用可能なプログラム、たとえばプログラムBESTFITおよびGAPを使用して、2つのポリペプチド配列間の%同一性を決定することができる。BESTFITは、Smith and Watermanの「ローカルホモロジー(local homology)」アルゴリズムを使用し、2つの配列間で最良に類似性のある単一の領域を発見する。配列間の同一性を決定するための他のプログラムもまた、当該分野で周知であり、たとえばNeedleプログラムは、Needleman and Wunsch (1970) J. Mol Biol. 48:443-453に記載されているNeedleman and Wunschアルゴリズムに基づいており、たとえば、ポリペプチド配列の比較に関して以下のパラメータを用いる:比較行列:BLOSUM62、ギャップオープンペナルティ:10、およびギャップ伸長ペナルティ:0.5、エンドギャップペナルティ:false、エンドギャップオープンペナルティ=10、エンドギャップ伸長ペナルティ=0.5;ならびにポリヌクレオチド配列の比較に関して以下のパラメータを用いる:比較行列:DNAFULL;ギャップオープンペナルティ=10、ギャップ伸長ペナルティ=0.5、エンドギャップペナルティ:false、エンドギャップオープンペナルティ=10、エンドギャップ伸長ペナルティ=0.5。
【0089】
参照配列と「少なくとも70%、75%、80%、85%、または90%同一である」アミノ酸配列からなるペプチドは、参照配列と比較して、欠失、挿入、および/または置換などの変異を含み得る。
【0090】
置換の場合、置換は、好ましくは、以下の表1に表されている保存的置換に対応する。好ましい実施形態では、参照配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、または90%同一であるアミノ酸からなるペプチドは、保存的置換によってのみ参照配列と異なる。
【表2】
【0091】
別の好ましい実施形態では、参照配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、または90%同一であるアミノ酸配列からなるペプチドは、参照配列の天然に存在するアレルバリアントに対応する。
【0092】
さらなる別の好ましい実施形態では、参照配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、または90%同一であるアミノ酸配列からなるペプチドは、参照配列と比較して、別の非ヒト哺乳類種に由来するホモログ配列に対応する。
【0093】
好ましい実施形態では、参照配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、または90%同一であるアミノ酸配列からなるペプチドは、保存的置換により参照配列と異なり、および/または参照配列と比較して別の非哺乳類種に由来するホモログ配列に対応する。
【0094】
「ペプチド(i)、(ii)、または(iii)のレトロ-インベルソ配列からなるペプチド」との表現は、本明細書中で、そのアミノ酸が、ペプチド(i)、(ii)、または(iii)の配列とそれぞれ比較すると逆の順番にあり、天然に存在するL-アミノ酸の代わりにD-アミノ酸からなるという点で、ペプチド(i)、(ii)、または(iii)と異なるペプチドを意味する。
【0095】
アミノ酸のD-エナンチオマー(D-アミノ酸とも呼ばれている)は、対応するL-エナンチオマー(L-アミノ酸とも呼ばれている)と同一の文字ではあるが小文字により表されている。よって、たとえばアルギニンのL-エナンチオマーは「R」と表されるが、D-エナンチオマーは、「r」と表されている。
【0096】
好ましくは、本ペプチドは、有機溶媒はまたは非有機溶媒に可溶性である。
【0097】
好ましい実施形態では、本ペプチドは水溶性である。より具体的には、本ペプチドは、好ましくは、水および/またはトリフルオロ酢酸塩(たとえば0.1%のトリフルオロ酢酸塩溶液中)、NaCl(9g/L)、PBS、トリス、もしくはトリス-リン酸などの水性バッファーに可溶性である。水および水性バッファーに可溶であることは、薬理学的観点から特に好適である。このような可溶性のため、本ペプチドは、たとえば少なくともまたは最大、1マイクロモル濃度、10マイクロモル濃度、50マイクロモル濃度、100マイクロモル濃度、500マイクロモル濃度、1mM、50mM、または100mMに等しい濃度で、水溶液に溶解し得る。
【0098】
水に容易に溶解できる本発明のCD31shedリガンドは、少なくとも1つの荷電アミノ酸(好ましくはアルギニン(R)および/またはリジン(K))の存在により得ることができる(前記荷電アミノ酸は、2つの疎水性残基の間に含まれていない)。
【0099】
よって、好ましい実施形態では、本発明に係るCD31shedリガンドは、少なくとも1つの荷電アミノ酸、好ましくはアルギニンおよび/またはリジンを含み、前記荷電アミノ酸は、2つの疎水性残基の間に含まれていない。
【0100】
より好ましい実施形態では、前記荷電アミノ酸は、配列のN末端またはC末端のいずれかに位置している。
【0101】
たとえば、本発明に係る好ましいCD31shedリガンドの配列は、モチーフRV(たとえばVRVの代わりに)で始まる。
【0102】
好ましい実施形態では、本ペプチドは、ペプチダーゼ、特に真核生物のペプチダーゼに抵抗性である。
【0103】
「ペプチダーゼに抵抗性である」は、本明細書中では、哺乳類の血清と共に37℃でインキュベーションした後、または生きている実験動物に注射した後に、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)および質量分析(MS)により決定した場合に、CD31shedリガンドが未消化なままであることを意味する。ペプチドの血清中での安定性を評価することを目的とする臨床検査は、十分に規格化されている(たとえばJenssen and Aspmo, 2008, Methods Mol Biol 494, 177-186を参照されたい)。非常にペプチターゼ抵抗性であるペプチドは、タンパク質分解酵素の存在下で、元の質量の最大70%が未消化のままであり、および/または240分より長い半減期を示すペプチドである(たとえば、Kumarasinghe and Hruby, 2015, In Peptide Chemistry and Drug Design, B.M. Dunn, ed. (Hoboken, New Jersey: Wiley), pp. 247-26を参照)。
【0104】
CD31shedリガンドは、好ましくは、可溶性ペプチダーゼまたは細胞表面に存在するペプチダーゼなどの、血中に存在するペプチダーゼに抵抗性である。
【0105】
またCD31shedリガンドは、好ましくはその安定性および/生物学的利用率を改善するために、少なくとも1つまたは少なくとも1つのさらなる化学的修飾を含んでもよい。
【0106】
このような化学的修飾は、一般的に、in vivoにおける酵素的分解に対するペプチドの保護を増大させ、および/または膜障壁を通る能力を増大させることにより、その半減期が増加する、および/またはその生物活性を維持もしくは改善するペプチドを得ることを目的とする。
【0107】
CD31shedリガンドは、少なくとも1つの人工のアミノ酸を含んでもよく、上記人工のアミノ酸は、好ましくは、D-エナンチオマーのアミノ酸、βメチルアミノ酸、α置換型αアミノ酸、およびアミノ酸アナログからなる群から選択される。
【0108】
「βメチルアミノ酸」は、本明細書中、側鎖にアミノメチル基を含むアミノ酸アラニンの誘導体を意味する。この非タンパク質原性アミノ酸は、極性塩基として分類される。
【0109】
「α置換型αアミノ酸」は、本明細書中、Lアミノ酸のα炭素上の基(NH2)が、別の非タンパク質性の基、たとえばメチル基、アリール基、またはアシル基に変化していることを意味する。
【0110】
「アミノ酸アナログ」は、本明細中、天然のアミノ酸の他のいずれかの人工のアナログを意味する。
【0111】
よって、CD31shedリガンドは、少なくとも1つのD-エナンチオマー型のアミノ酸を含んでもよい。たとえば、上記に定義されているCD31shedリガンドのアミノ酸のうちの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15個が、D-エナンチオマー型であってもよい。
【0112】
一実施形態では、CD31shedリガンドは、D-アミノ酸からなる。
【0113】
またCD31shedリガンドは、逆位の配列、すなわちアミノ酸鎖の逆位を(C末端からN末端まで)含んでもよい。本ペプチドのアミノ酸配列全体が逆位であってもよく、またはアミノ酸配列の一部が逆位であってもよい。たとえば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15アミノ酸の連続した配列が逆位であってもよい。本明細書中「逆位の」アミノ酸の意味は、配列における連続したアミノ酸の配列の逆位を表す。
【0114】
他の化学的修飾として、限定するものではないが、
ペプチドのN末端および/もしくはC末端への修飾、たとえばN末端のメチル化、N末端のアシル化(好ましくはアセチル化)もしくは脱アミノ化、もしくはC末端カルボキシル基のアミド基もしくはアルコール基への修飾、
2つのアミノ酸間でのアミド結合での修飾:2つのアミノ酸を結合するアミド結合の窒素原子もしくはα炭素でのアシル化(好ましくはアセチル化)、もしくはアルキル化(好ましくはメチル化)、
2つのアミノ酸を結合するアミド結合のα炭素での修飾、たとえば、2つのアミノ酸を結合するアミド結合のα炭素でのアシル化(好ましくはアセチル化)もしくはアルキル化(好ましくはメチル化)、
1つもしくは複数の天然に存在するアミノ酸(L-エナンチオマー)が、アミノ酸鎖の逆位(C末端からN末端まで)と共に、対応するD-エナンチオマーに置換されている、レトロインベルソ、
1つもしくは複数のα炭素が窒素原子に置換されている、アザペプチド、
1つもしくは複数のアミノ酸のアミノ基が、α炭素ではなくてβ炭素に結合する、βペプチド、
エステル結合(複数可)(αヒドロキシ酸(複数可)など)、
追加のメチレン基(複数可)(たとえばβアミノ酸およびγアミノ酸(複数可))の挿入、ならびに/または
ペプトイド(複数可)、オリゴ尿素(oligourea)(複数可)、アリールアミド(複数可)および/もしくはオリゴヒドラジド(複数可)
が、挙げられる。
【0115】
CD31shedリガンドは、翻訳後プロセシングなどの天然のプロセス、または当該分野で周知の化学修飾の技術のいずれかにより修飾されたアミノ酸を含む。このような修飾は、基本的なテキストおよびより詳細な研究論文、ならびに多くの研究文献で良好に説明されている。修飾は、ペプチド骨格、アミノ酸側鎖、およびアミノ末端またはカルボキシル末端を含むポリペプチドの任意の場所で起こり得、所定のポリペプチドのいくつかの部位で同じ程度にまたは様々な程度で、同種の修飾が存在し得ると認識されている。また、所定のポリペプチドは、多くの種類の修飾を含んでもよい。ポリペプチドは、ユビキチン化の結果として分岐していてもよく、これらは、分岐を伴うまたは伴わない環状であってもよい。環状ポリペプチド、分岐型ポリペプチド、および環状の分岐型ポリペプチドは、天然の翻訳後プロセスからもたらされてもよく、または合成方法により作製されてもよい。修飾として、アセチル化、アシル化、ADPリボース化、アライド化(araidation)、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質または脂質誘導体の共有結合、ホスファチジルイノシトールの共有結合、架橋、環化、ジスルフィド結合の形成、脱メチル化、共有結合性架橋の形成、シスチンの形成、ピログルタミン酸塩の形成、ホルミル化、γカルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨウ素化、メチル化(mefhylation)、ミリストイル化、酸化、タンパク質分解プロセシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化(selenoyiation)、硫酸化、アルギニル化(arginylation)などのトランスファーRNA介在型のタンパク質へのアミノ酸の付加、およびユビキチン化が、挙げられる。
【0116】
本発明の好ましい実施形態では、CD31shedリガンドは、
(i)配列番号1の配列のアミノ酸579~601位により定義されている配列の3~15アミノ酸のフラグメントからなるペプチドであって、前記フラグメントが、配列番号1のアミノ酸579~581位、アミノ酸589~591位、アミノ酸599~601位、および/またはアミノ酸593~595位を含む、ペプチド、
(ii)非ヒト哺乳類CD31における配列番号1の配列のアミノ酸579~601位に対応する配列の3~15アミノ酸のフラグメント、たとえば、配列番号9の配列のアミノ酸568~590位により定義されている配列の3~15アミノ酸のフラグメントからなるペプチドであって、前記フラグメントが、好ましくは、配列番号9のアミノ酸568~570位、アミノ酸578~580位、アミノ酸588~590位、および/またはアミノ酸582~584位を含む、ペプチド、
(iii)ペプチド(i)の配列と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも75%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも85%同一、さらにより好ましくは少なくとも90%同一である配列からなる3~15アミノ酸のペプチド、
(iv)ペプチド(i)、(ii)、または(iii)のレトロ-インベルソ(retro-inverso)配列からなるペプチド、および
(v)少なくとも1つまたは少なくとも1つのさらなる化学的修飾を含むペプチド(i)、(ii)、(iii)、または(iv)
からなる群で選択される。
【0117】
このようなペプチドは、たとえば、SSTLAVRVFLAPWKK(配列番号13、配列番号9のアミノ酸576~590位)、STLAVRVFLAPWKK(配列番号14、配列番号9のアミノ酸577~590位)、TLAVRVFLAPWKK(配列番号15、配列番号9のアミノ酸578~590位)、LAVRVFLAPWKK(配列番号16、配列番号9のアミノ酸579~590位)、AVRVFLAPWKK(配列番号17、配列番号9のアミノ酸580~590位)、VRVFLAPWKK(配列番号3、配列番号9のアミノ酸581~590位)、RVFLAPWKK(配列番号18、配列番号9のアミノ酸582~590位)、VFLAPWKK(配列番号19、配列番号9のアミノ酸583~590位)、FLAPWKK(配列番号20、配列番号9のアミノ酸584~590位)、LAPWKK(配列番号2、配列番号9のアミノ酸585~590位)、APWKK(配列番号21、配列番号9のアミノ酸586~590位)、PWKK(配列番号22、配列番号9のアミノ酸587~590位)、WKK(配列番号9のアミノ酸588~590位)、SKILTVRVILAPWKK(配列番号23、配列番号1のアミノ酸587~601位)、KILTVRVILAPWKK(配列番号24、配列番号1のアミノ酸588~601位)、ILTVRVILAPWKK(配列番号25、配列番号1のアミノ酸589~601位)、LTVRVILAPWKK(配列番号26、配列番号1のアミノ酸590~601位)、TVRVILAPWKK(配列番号27、配列番号1のアミノ酸591~601位)、VRVILAPWKK(配列番号4、配列番号1のアミノ酸592~601位)、RVILAPWKK(配列番号28、配列番号1のアミノ酸593~601位)、VILAPWKK(配列番号29、配列番号1のアミノ酸594~601位)、ILAPWKK(配列番号30、配列番号1のアミノ酸595~601位)、SSMRTSPRSSTLAVR(配列番号31、配列番号9のアミノ酸568~582位)、SSMRTSPRSSTLAV(配列番号32、配列番号9のアミノ酸568~581位)、SSMRTSPRSSTLA(配列番号33、配列番号9のアミノ酸568~580位)、SSMRTSPRSSTL(配列番号34、配列番号9のアミノ酸568~579位)、SSMRTSPRSST(配列番号35、配列番号9のアミノ酸568~578位)、SSMRTSPRSS(配列番号36、配列番号9のアミノ酸568~577位)、SSMRTSPRS(配列番号37、配列番号9のアミノ酸568~576位)、SSMRTSPR(配列番号38、配列番号9のアミノ酸568~575位)、SSMRTSP(配列番号39、配列番号9のアミノ酸568~574位)、SSMRTS(配列番号40、配列番号9のアミノ酸568~573位)、SSMRT(配列番号41、配列番号9のアミノ酸568~572位)、SSMR(配列番号42、配列番号9のアミノ酸568~571位)、SSM(配列番号9のアミノ酸568~570位)、NHASSVPRSKILTVR(配列番号43、配列番号1のアミノ酸579~593位)、NHASSVPRSKILTV(配列番号44、配列番号1のアミノ酸579~592位)、NHASSVPRSKILT(配列番号45、配列番号1のアミノ酸579~591位)、NHASSVPRSKIL(配列番号46、配列番号1のアミノ酸579~590位)、NHASSVPRSKI(配列番号47、配列番号1のアミノ酸579~589位)、NHASSVPRSK(配列番号48、配列番号1のアミノ酸579~588位)、NHASSVPRS(配列番号49、配列番号1のアミノ酸579~587位)、NHASSVPR(配列番号50、配列番号1のアミノ酸579~586位)、NHASSVP(配列番号51、配列番号1のアミノ酸579~585位)、NHASSV(配列番号52、配列番号1のアミノ酸579~584位)、NHASS(配列番号53、配列番号1のアミノ酸579~583位)、NHAS(配列番号54、配列番号1のアミノ酸579~582位)、NHA(配列番号1のアミノ酸579~581位)、TSPRSSTLAVRVFLA(配列番号55、配列番号9のアミノ酸572~586位)、SPRSSTLAVRVFL(配列番号56、配列番号9のアミノ酸573~585位)、PRSSTLAVRVF(配列番号57、配列番号9のアミノ酸574~584位)、RSSTLAVRV(配列番号58、配列番号9のアミノ酸575~583位)、SSTLAVR(配列番号59、配列番号9のアミノ酸576~582位)、STLAV(配列番号60、配列番号9のアミノ酸577~581位)、TLA(配列番号9のアミノ酸578~580位)、SVPRSKILTVRVILA(配列番号61、配列番号1のアミノ酸583~597位)、VPRSKILTVRVIL(配列番号62、配列番号1のアミノ酸584~596位)、PRSKILTVRVI(配列番号63、配列番号1のアミノ酸585~595位)、RSKILTVRV(配列番号64、配列番号1のアミノ酸586~594位)、SKILTVR(配列番号65、配列番号1のアミノ酸587~593位)、KILTV(配列番号66、配列番号1のアミノ酸588~562位)、ILT(配列番号1のアミノ酸589~591位)、RVF(配列番号9のアミノ酸582~584位)、RVFL(配列番号67、配列番号9のアミノ酸582~585位)、RVFLA(配列番号68、配列番号9のアミノ酸582~586位)、RVFLAP(配列番号69、配列番号9のアミノ酸582~587位)、RVFLAPW(配列番号70、配列番号9のアミノ酸582~588位)、RVFLAPWK(配列番号5、配列番号9のアミノ酸582~589位)、RVI(配列番号1のアミノ酸593~595位)、RVIL(配列番号71、配列番号1のアミノ酸593~596位)、RVILA(配列番号72、配列番号1のアミノ酸593~597位)、RVILAP(配列番号73、配列番号1のアミノ酸593~598位)、RVILAPW(配列番号74、配列番号1のアミノ酸593~599位)、RVILAPWK(配列番号7、配列番号1のアミノ酸593~600位)からなる群から選択される配列を有する。
【0118】
本発明のより好ましい実施形態では、CD31shedリガンドは、
(i)配列番号1の配列のアミノ酸579~601位により定義されている配列の3~15アミノ酸のフラグメントからなるペプチドであって、前記フラグメントが、配列番号1のアミノ酸579~582位、アミノ酸588~592位、アミノ酸598~601位、および/またはアミノ酸593~595位を含む、ペプチド、
(ii)非ヒト哺乳類CD31における配列番号1の配列のアミノ酸579~601位に対応する配列の3~15アミノ酸のフラグメント、たとえば、配列番号9の配列のアミノ酸568~590位により定義されている配列の3~15アミノ酸のフラグメントからなるペプチドであって、前記フラグメントが、好ましくは、配列番号9のアミノ酸568~571位、アミノ酸578~580位、アミノ酸587~590位、および/またはアミノ酸582~584位を含む、ペプチド、
(iii)ペプチド(i)の配列と少なくとも70%同一、好ましくは少なくとも75%同一、好ましくは少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも85%同一、さらにより好ましくは少なくとも90%同一である配列からなる3~15アミノ酸のペプチド、
(iv)ペプチド(i)、(ii)、または(iii)のレトロ-インベルソ(retro-inverso)配列からなるペプチド、ならびに
(v)少なくとも1つまたは少なくとも1つのさらなる化学的修飾を含むペプチド(i)、(ii)、(iii)、または(iv)
からなる群で選択されている。
【0119】
好ましい実施形態では、CD31shedリガンドは、逆位および/または少なくとも1つの非天然のアミノ酸、たとえば少なくとも1つのD-アミノ酸を含む8アミノ酸のフラグメントである。実際に、このようなペプチドは、元のペプチドの活性を保持しているか、またはさらには活性の改善を示している。治療上の使用が意図されるペプチドに非天然のアミノ酸を組み込むことは、ペプチドの安定性を増大させるために、特にin vivoでの安定性を増大させるために有用である。
【0120】
本発明の別の好ましい実施形態では、CD31shedリガンドは、配列番号2の配列のペプチド、配列番号3の配列のペプチド、配列番号4の配列のペプチド、配列番号5の配列のペプチド、D-エナンチオマーのアミノ酸からなる配列番号6の配列のペプチド、配列番号7の配列のペプチド、およびD-エナンチオマーのアミノ酸からなる配列番号8の配列のペプチドからなる群で選択される。
【0121】
より好ましいCD31shedリガンドは、配列番号5の配列のペプチド、またはD-エナンチオマーアミノ酸からなる配列番号6の配列のペプチドである。
【0122】
CD31shedリガンドは、少なくとも1つのキレート剤をさらに含んでもよい。
【0123】
キレート剤は、リガンドに共有結合し、放射性金属(複数可)との錯体形成を可能にする分子である。
【0124】
概して、キレート剤は、6-ヒドラジノピリジン-3-カルボン酸(HYNIC)、キレーティングペプチド、たとえばGly-Gly-CysまたはHisベース配列(Francesconi 2004, Waibel 1999, Ali 2011)、MAG3 en N-ter(Okarvi 2012, 2004)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、1,4,7-トリス(カルボキシメチルアザ)シクロドデカン-10-アザアセチルアミド(azaacetylamide)(DO3A)、ニトリロ三酢酸(NTA)、D-ペニシラミン、2,3-ジメルカプトコハク酸、2,3-ジメルカプト-1-プロパンスルホン酸、2,3-ジメルカプトプロパノール(BAL)、トリエチレンテトラミン、テトラチオモリブデン酸アンモニウムアニオン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、2-(p-イソチオシアナトベンジル)-6-メチルジエチレントリアミンペンタ酢酸(IB4M)、またはヒドロキシピリジノン(HOPO)とすることができる。
【0125】
CD31shedリガンドは、直接キレート剤と結合してもよく(たとえばキレート剤は、外側のアミノ酸長鎖に結合する)、または、たとえば少なくとも1つのスペーサーを介して間接的にキレート剤と結合してもよい。
【0126】
好ましいキレート剤は、6-ヒドラジノピリジン-3-カルボン酸(HYNIC)である。
【0127】
このような場合、CD31shedリガンドのペプチドは、直接HYNICと結合してもよく(たとえばHYNICは、外側のアミノ酸長鎖に結合する)、またはたとえば少なくとも1つのスペーサーを介して間接的にHYNICと結合してもよい。
【0128】
スペーサーは、たとえば少なくとも1つのPEG(ポリエチレングリコール)、たとえば1つ、2つ、もしくは少なくとも3つのPEG、より好ましくは3つのPEGおよび/または少なくとも1つの脂肪族のスペーサーを、含む、またはからなる。
【0129】
好ましいCD31shedリガンドは、以下の式:
【化1】
の化合物である。
【0130】
この化合物は、以下でHYNIC-P8RIとも呼ばれている。
【0131】
CD31shedリガンドは、化学合成、たとえば固相合成もしくは液相合成、または遺伝子操作などの、当技術分野で周知のいずれかの手法により、調製することができる。固相合成として、たとえば合成されるペプチドのC末端に対応するアミノ酸を、有機溶媒に不溶性の支持体に結合させ、適切な保護基で保護したこれらのアミノ基および側鎖官能基を有するアミノ酸を、C末端からN末端の順序で、1つずつ縮合する反応と、樹脂に結合したアミノ酸またはペプチドのアミノ基の保護基が放出される反応を交互に繰り返すことにより、この方法によってペプチド鎖を伸長させる。望ましいペプチドを合成した後、これを脱保護反応に供し、固相支持体から切り離す。このようなペプチド切断反応は、Boc法ではフッ化水素またはトリフルオロメタンスルホン酸、Fmoc法ではTFAを用いて行われてもよい。
【0132】
固相合成法は、使用される保護基の種類に応じて、大きく、tBoc法およびFmoc法により分類される。概して使用される保護基として、アミノ基ではtBoe(t-ブトキシカルボニル)、Cl-Z(2-クロロベンジルオキシカルボニル)、Br-Z(2-ブロモベンジルオキシ(oyy)カルボニル)、Bzl(ベンジル)、Fmoc(9-フルオレニルメトキシ(fluorenylmcthoxy)カルボニル)、Mbh(4,4’-ジメトキシジベンズヒドリル)、Mtr(4-メトキシ-2,3,6-トリメチルベンゼンスルホニル)、Trt(トリチル)、Tos(トシル)、Z(ベンジルオキシカルボニル)、およびClz-Bzl(2,6-ジクロロベンジル);グアニジノ基ではNO2(ニトロ)およびPmc(2,2, 5,7,8-ペンタメチルクロマン-6-スルホニル);ならびにヒドロキシル基ではtBu(t-ブチル)が、挙げられる。
【0133】
あるいは、CD31shedリガンドは、組み換え技術を使用して合成してもよい。
【0134】
CD31shedリガンドを生産する方法は、任意に、前記CD31shedリガンドを精製するステップ、前記CD31shedリガンドを化学的に修飾するステップ、および/または前記CD31shedリガンドを医薬組成物に製剤化するステップを含んでもよい。
【0135】
一実施形態では、CD31shedリガンドは、上述のペプチドのペプチド模倣体、すなわち前記ペプチドを模倣する化合物である。
【0136】
「ペプチド模倣体」は、所定のペプチドを模倣することにより、前記ペプチドと同等または前記ペプチドと同様の生物学的活性を化合物に付与する、非ペプチドの構造要素からなる、または本質的になる、化合物である。
【0137】
ペプチド模倣体は、好ましくは、有機溶媒または無機溶媒に可溶性である。
【0138】
上述のペプチドとして、ペプチド模倣体は、好ましくは水溶性である。
【0139】
所定のペプチドのペプチド模倣体を設計および合成するための方法は、当該分野で周知であり、たとえば、Ripka and Rich(Curr. Opin. Chem. Biol. 1998; 2(4):441-52)およびPatch and Barron(Curr. Opin. Chem. Biol. 2002; 6(6):872-7)に記載されるものが挙げられる。
【0140】
イメージング標識
本発明に係る標識CD31shedリガンドは、少なくとも1つのイメージング標識を含む。
【0141】
前記イメージング標識は、放射性核種または造影剤(contrastophor)であり得る。
【0142】
本明細書中使用される用語「造影剤」は、たとえばキレート剤を含む、造影剤を表す。
【0143】
造影剤に使用され得るキレート剤の例が、「CD31shedリガンド」の節で以下に提供されている。
【0144】
造影剤の非限定的な例として、Gd-DTPA(ガドリニウムおよびDTPAの錯体)、またはGd-DOTA(ガドリニウムおよびDOTAの錯体)がある。
【0145】
造影剤は、好ましくはMRI(以下で「IRM」または「核磁気共鳴画像法」とも呼ばれている)に使用されている。
【0146】
本明細書中使用される用語「放射性核種」は、放射活性核種、ラジオアイソトープ、または放射活性アイソトープと同じ意味を有する。
【0147】
放射性核種は、好ましくは、ポジトロン断層法(PET)、単一光子放射断層撮影(SPECT)、SPECTおよび/もしくはPETのハイブリッド、またはそれらの組み合わせなどの核医学の分子イメージング技術(複数可)により検出可能である。
【0148】
本明細書中の単一光子放射断層撮影(SPECT)は、プラナーシンチグラフィー(PS)を含む。
【0149】
SPECTおよび/またはPETのハイブリッドは、たとえば、SPECT/CT、PET/CT、PET/IRM、またはSPECT/IRMである。
【0150】
SPECTおよびPETは、対象の身体に導入された放射性核種の濃度(または取り込み)に関する情報を取得する。PETは、陽電子(ポジトロン)を発する放射性核種により発せられたガンマ線の対を間接的に検出することにより、画像を作製する。PET解析は、対象の領域(たとえば脳、胸、肝臓...)にわたり身体の一連の薄い切片の画像をもたらす。これらの薄い切片の画像を、試験領域の3次元表示に組み立てることができる。SPECTは、PETと類似しているが、SPECTで使用される放射活性物質は、PETで使用されるものよりも長い減衰時間を有し、二重のガンマ線の代わりに単一のガンマ線を発する。SPECTの画像は、PETの画像よりも感度が低く詳細ではないが、SPECT技術は、PETよりも安価であり、粒子加速器が近くにあることを必要としないとの利点を提供する。実際の臨床上のPETは、SPECTよりも高感度であり、空間解像度が良好であり、光子の大きなエネルギーにより正確な減衰の補正の利点を呈し;よってPETは、SPECTよりも正確な定量データを提供する。プラナーシンチグラフィー(PS)は、同じ放射性核種を使用する点で、SPECTに類似している。しかしながら、PSは、2Dの情報のみを作製する。
【0151】
SPECTは、コンピュータで作製された、局所的な放射性トレーサーの取り込みの画像を作製し、CTは、ヒトの身体のX線密度の解剖学的な3D画像を作製する。SPECT/CTのイメージングの組み合わせは、1度の試験の間に得られる、SPECTからの機能的な情報およびCTからの解剖学的な情報を逐次的に提供する。またCTのデータは、単一の光子放出のデータの迅速かつ最適な減衰補正にも使用されている。異常および/または生理的なトレーサーの取り込みの領域を正確に局所化することにより、SPECT/CTは、感度および特異性を改善し、同様に、正確な線量測定用の推定値を得るため、ならびに介入手法を誘導するため、または体外照射療法に関する標的体積を良好に定義するためにも役立ち得る。単一の光子を発する放射性トレーサーを伴うガンマカメラのイメージングは、この手法の大部分を占める。
【0152】
好ましい実施形態では、放射性核種は、SPECTまたはSPECT/CTのハイブリッドにより検出可能である。
【0153】
放射性核種は、テクネチウム-99m(99mTc)、ガリウム-67(67Ga)、ガリウム-68(68Ga)、イットリウム-90(90Y)、インジウム-111(111In)、レニウム-186(186Re)、フッ素-18(18F)、銅-64(64Cu)、またはタリウム-201(201Tl)からなる群で選択されてもよい。
【0154】
好ましい放射性核種は、テクネチウム-99m(99mTc)である。
【0155】
標識CD31shedリガンド
よって、本発明は、特に、CD31shedリガンドおよび少なくとも1つのイメージング標識を含む標識CD31shedリガンドに関する。
【0156】
CD31shedリガンドおよびイメージング標識は、同じ名前の節で上記に定義されている通りである。
【0157】
標識CD31shedリガンドの放射化学的比活性は、好ましくは、70GBq/μmol超、より好ましくは80GBq/μmol超、より好ましくは90GBq/μmol超、たとえば100GBq/μmol超である。
【0158】
標識CD31shedリガンドは、好ましくは安定している。
【0159】
標識CD31shedリガンドの安定性は、当業者によく知られたいずれかの方法、たとえば放射化学的な純度(RCP)を決定することにより、in vitroおよび/またはin vivoで評価され得る。
【0160】
放射化学的な純度(RCP)は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)および/または迅速薄層クロマトグラフィー(ITLC)、好ましくは両方の方法を使用することにより、評価してもよい。
【0161】
たとえば、in vitroでの安定性は、標識CD31shedリガンドをin vitroで血漿中、好ましくは37℃のヒトの血漿中で、たとえば少なくとも1時間、少なくとも2時間、少なくとも3時間、または少なくとも4時間のインキュベーション後に、評価してもよい。
【0162】
たとえば、in vitroでの安定性は、ヒトまたは非ヒトの哺乳類に標識CD31shedリガンドを投与した後の、上記ヒトまたは非ヒトの哺乳類の尿、たとえばラットの尿の試料において、評価してもよい。
【0163】
標識CD31shedリガンドのin vitroおよび/またはin vivoでのRCPは、好ましくは80%超、好ましくは85%超、たとえば89%超である。
【0164】
活性化血小板、内皮細胞、および白血球による標識CD31shedリガンドの生体分布および特異的な取り込みは、エラスターゼの局所的な注入、次いでヒトの腹部大動脈瘤(abdominal aorta aneurysm:AAA)に存在し、AAAの炎症を誘導することが公知である歯周部の細菌の静脈内注入により誘導される実験的なAAAなどの、炎症モデル、たとえば心臓の炎症、脳の炎症、またはラット血管炎症モデルにおいて、評価してもよい。たとえば、標識CD31shedリガンドの静脈内注射の直後に、たとえばハイブリッドSPECT/CTカメラ(NanoSPECT/CT, Bioscan Inc)を使用して、連続的な全身データ取得(たとえば第1の時間で10分ごと)を行う。
【0165】
標識CD31shedリガンドの血漿タンパク質への結合は、好ましくは低く、たとえば37℃のヒトの血漿において4時間インキュベーションした後に、10%未満、より好ましくは5%未満である。
【0166】
血漿タンパク質への低い結合性は、たとえば、標識CD31shedリガンドをin vitroで少なくとも1時間、少なくとも2時間、少なくとも3時間、または少なくとも4時間、血漿、好ましくは37℃のヒト血漿中において、インキュベーションした後に、サイズ排除クロマトグラフィーなどの当業者に周知のいずれかの方法により、評価してもよい。
【0167】
CD31shedリガンドおよびイメージング標識は、共有結合または非共有結合していてもよい。
【0168】
CD31shedリガンドおよびイメージング標識は、好ましくは非共有結合している。
【0169】
CD31shedリガンドがキレート剤を含む場合、好ましくは、CD31shedリガンドは、上記キレート剤を介して、好ましくは非共有結合で、イメージング標識と結合している。
【0170】
標識CD31shedリガンドは、好ましくは放射標識CD31shedリガンドである。
【0171】
よって、好ましい標識CD31shedリガンドは、CD31shedリガンドおよび少なくとも1つの放射性核種を含む。
【0172】
本発明の1つの好ましい実施形態では、標識CD31shedリガンドは、CD31shedリガンドとしてのD-エナンチオマーのアミノ酸からなる配列番号6の配列のペプチドと、放射性核種としての99mTcとを含む。
【0173】
標識CD31shedリガンドは、さらに、少なくとも1つの共リガンド、すなわち、CD31shedリガンドに結合した1つまたは複数のリガンドを含んでもよい。
【0174】
共リガンド(複数可)は、好ましくは、CD31shedリガンドに結合したイメージング標識を安定させるために使用される。
【0175】
たとえば、共リガンドは、トリシン、EDDA(エチレンジアミン二酢酸)(EDDA)、アミノカルボン酸塩、ホスフィン、またはピリジンであってもよい。
【0176】
一実施形態では、標識CD31shedリガンドは、たとえば放射性核種が99mTcである場合、共リガンドとしてトリシンおよびEDDAの両方を含む。
【0177】
少なくとも1つの共リガンドを使用する場合、標識CD31shedリガンドは、上記共リガンド(複数可)、上記CD31shedリガンド、および上記放射性核種を含む複合体を含む、またはからなる。
【0178】
本発明の一実施形態では、CD31shedリガンドは、上記に定義されているように、スペーサーを介して結合したD―エナンチオマーのアミノ酸からなる配列番号6の配列のペプチドである。
【0179】
好ましい標識CD31shedリガンドは、99mTc-HYNIC-P8RIと呼ばれており、
式:
【化2】
の化合物、および
放射性核種99mTc
を含む。
【0180】
HYNICは、テクネチウムとHYNICのヒドラジン部分との間に99mTc-N結合を形成する。
【0181】
標識CD31shedリガンドは、当業者により完全に知られている従来の方法により、調製することができる。
【0182】
本明細書中記載の方法および使用において、標識CD31shedリガンドは、それ自体で使用してもよく、または以下に定義されている医薬組成物として使用してもよい。
【0183】
本明細書中記載の方法および使用は、以下に定義されているキットを使用することにより、行われてもよい。
【0184】
分子イメージング剤として使用するための標識CD31shedリガンド
また本発明は、炎症部位をイメージングするための、分子イメージング剤として上記に定義されている標識CD31shedリガンドの使用に関する。
【0185】
よって、本発明は、炎症部位をイメージングするための分子イメージング剤として使用するための、上記に定義されている標識CD31shedリガンドに関する。
【0186】
特に本発明は、炎症部位を検出、より具体的にはイメージングするin vivoでの方法において分子イメージング剤として使用するための、上記に定義した標識CD31shedリガンドに関する。
【0187】
特に、本発明は、対象が炎症状態を罹患している、もしくは炎症状態を有するリスクがある、もしくは抗炎症治療後に炎症状態の再発のリスクがあるかどうかを決定するため、または炎症状態の治療の有効性をモニタリングするための方法、好ましくはin vivoでの方法において、上記に定義されるように使用するための標識CD31shedリガンドに関する。
【0188】
また本発明は、CD31shedの存在、局在化、および/または量を決定する、上記に定義されるように使用するための標識CD31shedリガンドに関する。実際に、標識CD31shedリガンドは、CD31shedに結合する。
【0189】
CD31shedの存在、局在化、および/または量は、標識CD31shedリガンド、すなわち、前記標識CD31shedリガンドのイメージング標識に対応して検出されたシグナルの存在、局在化、および/または量により、決定される。
【0190】
標識CD31shedリガンドの存在、局在化、および/または量は、プラナーシンチグラフィー(PS)、ポジトロン断層法(PET)、光子単一光子放射断層撮影(SPECT)、ハイブリッドSPECT/CT、またはそれらの組み合わせにより、決定されてもよい。
【0191】
標識CD31shedリガンドは、好ましくは、静脈内で使用または投与される。
【0192】
標識CD31shedリガンドは、好ましくは、検出可能なシグナルを得るための十分な量で使用または投与、特には静脈内に1回注射される。
【0193】
標識CD31shedリガンドのイメージング標識に対応するシグナルは、好ましくは、標識CD31shedリガンドの投与の直後に検出される。
【0194】
このシグナルは、対象の身体全体、または対象の一部のみで(特に対象の身体の一部のみで)、検出され得る。
【0195】
よって、本発明は、特に、炎症部位を検出、具体的にはイメージングするための方法において使用するための、上記に定義されている標識CD31shedリガンドであって、前記方法が、
対象に前記標識CD31shedリガンドを投与するステップと、
前記対象または前記対象の身体の少なくとも一部をイメージングすることにより、前記対象または対象の身体の一部におけるCD31shedへの標識CD31shedリガンドの結合を検出するステップと
を含む、
標識CD31shedリガンドに関する。
【0196】
よって本発明は、特に、対象が炎症状態を罹患している、もしくは炎症状態を有するリスクがある、もしくは抗炎症治療後に炎症状態の再発のリスクがあるかどうかを決定するため、または炎症状態の治療の有効性をモニタリングするための方法に使用するための、上記に定義されている標識CD31shedリガンドであって、上記方法が、
対象に上記標識CD31shedリガンドを投与するステップと、
上記対象または上記対象の身体の少なくとも一部をイメージングすることにより、上記対象または対象の身体の一部において、CD31shedへの標識CD31shedリガンドの結合を検出するステップと
を含む、
標識CD31shedリガンドに関する。
【0197】
本発明の分子イメージング剤は、CD31shedに関連する炎症状態を診断または評価するための強力なツールを表している。
【0198】
a)対象が炎症状態を罹患している、または炎症状態を罹患するリスクがあるかどうかを決定すること
対象が炎症状態を罹患している、もしくは炎症状態を罹患するリスクがあるかどうかを決定するための方法において、診断される対象は、炎症状態を罹患している疑いがある、または罹患する可能性がある、または炎症状態を罹患している。本方法は、実際に、対象が炎症状態を罹患していることを確認するため、および/または炎症状態の種類を特定するために、行うことができる。
【0199】
CD31shedの存在、局在化、および/または量は、対象が炎症状態を罹患していることを表し得る。
【0200】
CD31shedの局在化は、炎症状態の種類をさらに表し得る。
【0201】
CD31shedの量は、炎症状態の重症度をさらに表し得る。
【0202】
CD31shedの存在、局在化、および/または量は、参照値または対照の生物学的な画像と比較してもよい。参照値または対照の生物学的試料が、健常な対象、特に、炎症状態を罹患していない対象、または健常な対象のパネルに対応する場合、生物学的試料中に検出されるCD31shedの存在、局在化、および/または量が参照値または対照の画像よりも高ければ、対象が炎症状態を罹患している、または有するリスクがあることを表している。
【0203】
b)抗炎症治療後の炎症状態の再発リスクの決定
本発明に係る方法および使用はまた、抗炎症治療後の炎症状態の再発のリスクを経過観察するために使用することもできる。特に、これらは、抗炎症治療後に対象をモニタリングするために使用することができる。このことはたとえば、CD31shedの存在、局在化、および/または量を決定するために、上記治療の終了後に、少なくとも1回、好ましくは2回、本方法を反復することにより達成できる。CD31shedの存在、局在化、および/または量が増大すれば、抗炎症治療後の炎症状態の再発のリスクが高いことを表し得る。CD31shedの存在、局在化、および/または量が安定または減少すれば、抗炎症治療後の炎症状態の再発のリスクが低いことを表し得る。たとえば、生物学的試料、および/または対象もしくは対象の少なくとも一部の画像は、治療の終了時、および治療後に少なくとも1回、作製される。治療の終了時および終了後の画像を比較することにより、抗炎症治療後の炎症状態の再発のリスクを、モニタリングすることが可能となる。
【0204】
c)炎症状態を罹患した対象の治療に対する応答のモニタリング
また本発明に係る方法および使用は、炎症状態を罹患した対象の治療に対する応答をモニタリングするために使用することもできる。このことはたとえば、少なくとも2回、たとえば治療前に1回および治療の間に少なくとも2回、または治療の間に少なくとも2回、本方法を反復することにより達成できる。たとえば、生物学的試料、および/または対象もしくは対象の少なくとも一部の画像は、治療、たとえば抗炎症治療の前、および治療の間に少なくとも1回、作製される。治療の前および治療の間の画像を比較することにより、特定の治療に対する対象の応答をモニタリングすることが可能となる。
【0205】
CD31shedの存在、局在化、および/または量が増大すれば、治療が効率的ではない、またはこれ以上は効率的ではないことを表し得る。CD31shedの存在、局在化、および/または量の安定または減少は、治療が効率的であることを表し得る。
【0206】
「治療に対する応答をモニタリングすること」、および「治療の有効性をモニタリングすること」との表現は、本明細書中では同義である。
【0207】
前記治療は、治療上の処置または予防上の処置であってもよい。
【0208】
前記治療は、少なくとも1つの抗炎症剤、少なくとも1つの免疫抑制剤、少なくとも1つのプロバイオティクス(すなわち、対象に健康上の有益性を提供し得る生きた微生物)、少なくとも1つの抗菌剤、またはそれらの組み合わせを投与することを含んでもよい、または本質的に投与することにある。
【0209】
分子イメージング剤としての標識CD31shedリガンドを使用した方法
また本発明は、上記に定義されている標識CD31shedリガンドを使用する炎症部位のイメージングのための方法に関する。
【0210】
また本発明は、対象が炎症状態を罹患している、炎症状態を有するリスクがある、もしくは抗炎症治療後に炎症状態の再発のリスクがあるかどうかを決定するため、または対象の炎症状態の治療の有効性をモニタリングするための方法、好ましくはin vitroでの方法であって、前記方法が、対象の生物学的試料において、上記に定義されている標識CD31shedリガンドによって、細胞の表面のCD31shedの存在を検出することを含む、方法に関する。
【0211】
この細胞は、好ましくは、血小板、白血球および/または内皮細胞である。
【0212】
「生物学的試料」は、本明細書中、内皮細胞、血小板、もしくは白血球を含むことができる任意の試料、たとえば血液試料もしくはその画分(たとえば血栓)または組織試料、たとえば生検、を意味する。
【0213】
本方法は、対象から生物学的試料を準備する最初のステップを含み得る。
【0214】
また本発明は、前記生物学的試料における細胞表面上のCD31shedの検出が、対象が炎症状態を罹患している、または炎症状態を有するもしくは発症するリスクがある、または炎症状態の再発のリスクがあることを表す、上記に定義した方法に関する。
【0215】
また本発明は、前記生物学的試料における細胞の表面上で検出したCD31shedの量を、参照値または対照の生物学的試料と比較する、上記に定義した方法に関する。参照値または対照の生物学的試料が、健常の対象、特に炎症状態を罹患していない対象、または健常な対象のパネルに対応する場合、生物学的試料で検出したCD31shedの量が参照値または対照の生物学的試料より大きければ、対象が、炎症状態を罹患している、炎症状態を有するもしくは炎症状態を発症するリスクがある、または炎症状態の再発のリスクがあることを表す。
【0216】
また本発明は、治療前もしくは治療の間の早い段階の生物学的試料で検出した量と比較することによる前記生物学的試料における細胞の表面で検出されるCD31shedの量が増加すれば、前記治療が効率的ではないことを表し、かつ/または、治療前もしくは治療の間の早い段階の生物学的試料で検出した量と比較することによる前記生物学的試料における細胞の表面で検出されるCD31shedの量が安定または減少すれば、前記治療が効率的であることを表す、上記に定義した方法に関する。
【0217】
前記方法は、細胞の表面のCD31shedの量を決定することをさらに含んでもよい。
【0218】
前記生物学的試料における細胞表面上のCD31shedの検出は、好ましくは、イメージング技術により行われる。
【0219】
上述の検出ステップは、分子イメージング剤としての標識CD31shedリガンド、好ましくは有効量の標識CD31shedリガンドと、対象の生物学的試料を接触させるステップを含む。
【0220】
また本発明は、上記に定義した方法であって、前記方法が、
標識CD31shedリガンドと対象の生物学的試料を接触させるステップと、
CD31shedに結合した標識CD31shedリガンドを検出することにより、生物学的試料における細胞の表面のCD31shedの存在を検出するステップと
を含む、方法にも関する。
【0221】
この接触は、好ましくは、分子イメージング剤が、(1)CD31shedを発現し得る対象の細胞(好ましくは内皮細胞、血小板、および/または白血球)に達することが可能である、および/または(2)相互作用によってCD31shedに対する分子イメージング剤の結合がもたらされるように当該CD31shedと相互作用することが可能である条件下で、行われる。標識CD31shedリガンドと接触した後、かつ相互作用を行うために十分な時間が経過した後に、対象の試料に存在するCD31shedに結合した分子イメージング剤を、上記に開示した分子イメージング技術により、検出する。
【0222】
「有効量」は、(1)細胞に到達する、(2)CD31shedと相互作用する、および(3)検出されるといったこれら3つの条件を分子イメージング剤が完遂できるために十分な量である。
【0223】
炎症状態の治療方法
また本発明は、その必要がある対象の炎症状態を予防および/または治療するための方法であって、前記方法が、
対象が炎症状態を罹患している、炎症状態を有するリスクがある、もしくは抗炎症治療後に炎症状態の再発のリスクがあるかどうかを決定するため、または対象の炎症状態の治療の有効性をモニタリングするために、上記に定義した方法を行うステップと、
対象が炎症状態を罹患している、炎症状態を有するリスクがある、もしくは抗炎症治療後に炎症状態の再発のリスクがあることが決定された場合、または治療が効率的ではない場合に、上記対象に適切な治療を行うステップと
を含む、方法に関する。
【0224】
前記適切な治療は、少なくとも1つの抗炎症剤、少なくとも1つの免疫抑制剤、少なくとも1つのプロバイオティクス(すなわち、対象に健康上の利益を提供し得る生きた微生物)、少なくとも1つの抗菌剤、有効成分と結合した少なくとも1つのCD31shedリガンド、またはそれらの組み合わせを投与するステップを含み得る、または本質的に投与するステップにあり得る。
【0225】
また本発明は、その必要がある対象の炎症状態を予防および/または治療するための方法であって、有効成分に結合したCD31shedリガンドを、上記対象に投与するステップを含む、方法に関する。
【0226】
有効成分は、たとえば、抗炎症剤なとの薬物である。これにより、CD31shedリガンドは、薬物標的化剤として使用され、上記薬物の効果を改善することができる。
【0227】
分子イメージング剤を含む医薬組成物
本発明に係る医薬組成物は、少なくとも1つの標識CD31shedリガンドと、少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体とを含む。
【0228】
本明細書中使用される用語「薬学的に許容可能な担体」は、有効成分、すなわち分子イメージング剤の生物学的活性の有効性に干渉せず、かつ、投与される濃度(複数可)で、対象に対して過度に毒性ではない、担体媒体を表す。この用語は、溶媒(複数可)、分散媒体(複数可)、コーティング剤(複数可)、抗菌剤および/または抗真菌剤(複数可)、等張剤(複数可)、吸収遅延剤(複数可)、ならびにそれらの組み合わせを含む。このような、薬学的に活性の物質(複数可)に関する当該媒体および/または薬剤(複数可)の使用は、当技術分野で周知である。
【0229】
本医薬組成物は、注射により投与されてもよい。注射による投与のために、分子イメージング剤を含む医薬組成物は、水性または非水性の無菌性液剤として、またはあるいは無菌性の注射可能な液剤の即時調製用の無菌性散剤として、製剤化されてもよい。本医薬組成物は、製造および保存の条件下で安定しているべきであり、細菌および真菌などの微生物の混入作用に対して保護されていなければならない。
【0230】
注射により投与するための薬学的に許容可能な担体(複数可)は、水性液剤(複数可)(たとえばハンクス溶液、アルコール性/水性液剤、または生理食塩水)、および非水性の担体(たとえばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステル)などの、溶媒(複数可)または分散媒体(複数可)である。また、注射可能な医薬組成物は、非経口ビヒクル(複数可)(塩化ナトリウムおよびリンガーデキストロース)および/または静脈内ビヒクル(複数可)(体液および栄養補充剤など);ならびに他の、塩(複数可)、バッファー(複数可)、および保存剤(複数可)、たとえば抗菌剤および/または抗真菌剤(たとえばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール(thirmerosal)など)を含む、従来の薬学的に許容可能な非毒性の賦形剤(複数可)および添加剤(複数可)を含んでもよい。注射可能な組成物の長期間の吸収は、吸収を遅延できる薬剤(たとえばモノステアリン酸アルミニウムおよび/またはゼラチン)を添加することにより、もたらすことができる。様々な構成要素のpHおよび濃度は、当業者により容易に決定することができる。
【0231】
無菌性の注射可能な液剤は、必要量の適切な溶媒に活性化合物(複数可)、すなわち分子イメージング剤および他の成分(複数可)を組み込み、その後、得られた混合物を、たとえば濾過および/または照射によって滅菌することにより、調製され得る。
【0232】
一般的に、分子イメージング剤(またはそれを含む医薬組成物)の用量は、対象の年齢、性別、および体重、ならびに患者が罹患している疑いのある特定の炎症状態、疾患の度合い、試験される身体の組織(複数可)、ならびに/またはイメージング標識の感受性などの検討事項に応じて変動する。禁忌、療法、および他の変数などの要因もまた、投与される分子イメージング剤の用量を調節するために考慮すべきである。しかしながら、これは、訓練を受けた医師により、容易に達成することができる。
【0233】
一般的に、分子イメージング剤、すなわち標識CD31shedリガンド、またはそれを含む医薬組成物の適切な用量の1つは、対象に存在するいずれかの関連するCD31shedの分子イメージングを可能にするために十分である、分子イメージング剤または医薬組成物の最少量に対応する。この用量を最小限にするために、投与は、静脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、または皮下投与であり、かつ好ましくは、試験される部位の近くで行われることが好ましい。
【0234】
キット
また本発明は、本発明の方法および使用を実行するために有用な材料(複数可)を含むキットをも提供する。
【0235】
特定の実施形態では、本キットは、上述の少なくとも1つのCD31shedリガンドおよび少なくとも1つのイメージング標識、好ましくは少なくとも1つの放射性核種と、任意に、前記CD31shedリガンドおよび前記イメージング標識、好ましくは放射性核種を結合させて、本発明に係る標識CD31shedリガンドを形成するための説明書とを含む。
【0236】
放射性核種は、好ましくは、短寿命の放射性核種、たとえばテクネチウム-99m(99mTc)、ガリウム-67(67Ga)、イットリウム-90(90Y)、インジウム-111(111In)、レニウム-186(186Re)、およびタリウム-201(201Tl)、より好ましくは99mTcである。
【0237】
さらに、本キットは、トリシンおよび/またはエチレンジアミン二酢酸(EDDA)などの少なくとも1つの共リガンドをさらに含んでもよい。
【0238】
さらに本キットは、標識バッファー、標識試薬、精製バッファー、精製試薬、精製手段、注射媒体、および/または注射試薬のうちの1つまたは複数を含んでもよい。調製手段および/または投与の異なるステップを行うためのこれらバッファー(複数可)、試薬(複数可)、および/または手段を使用するためのプロトコルは、本キットに含まれていてもよい。
【0239】
本キットに含まれている異なる成分は、固体(たとえば凍結乾燥した形態)または液体の形態で提供されてもよい。
【0240】
本キットは、任意に、個々の各成分用の異なる容器(たとえばバイアル、アンプル、試験管、フラスコ、またはビン)を含んでもよい。各構成要素は、一般に、それぞれの容器での分割に適しており、または濃縮した形態で提供されている。また、調製方法の特定のステップを行うために適切な他の容器が提供されてもよい。本キットの個々の容器は、好ましくは、商業的な販売のために厳重に密閉して維持されている。
【0241】
特定の実施形態では、本キットは、本明細書中記載の炎症状態のイメージングのため、特には、本明細書中記載のように、対象が炎症状態を罹患している。炎症状態を有するもしくは発症するリスクがある、または抗炎症治療後に炎症状態の再発のリスクがあるかどうかを決定するために、その構成要素を使用するための説明書をさらに含む。
【0242】
本発明に係るキットを使用するための説明書は、CD31shedリガンドおよびイメージング標識から標識CD31shedリガンドを調製するための説明書、これにより得られた分子イメージング剤の用量および投与形式に関する説明書、CD31shedの検出を行うための説明書、ならびに/または得られた結果を解釈するための説明書を含んでもよい。またキットは、医薬品または生物学的な製品の製造、使用、または販売を規制する行政機関により規定された形態での通知を含んでもよい。
【0243】
本発明は、以下の実施例および図面を考慮して、さらに例示されている。
【0244】
学術論文または抄録、公開済みまたは未公開の特許出願、発行済みの特許、または他のいずれかの参照を含む本明細書中記載の参照文献のすべては、記載の参照文献に存在するすべてのデータ、表、図面、およびテキストを含めた全体が本明細書中参照として援用されている。
【図面の簡単な説明】
【0245】
図1】共リガンドとしてのトリシン(A)およびトリシン/EDDAを含む99mTc-HYNIC-P8RIの放射性高速液体クロマトグラフィー(HPLC)。アセトニトリル分画のHPLC解析は、トリシンを含む複数種のプロファイルに反してトリシン/EDDAを含む主要な種(Tr=10.1分)を示す。
図2】共リガンドとしてのトリシン/EDDAを含む99mTc-HYNIC-P8RIの放射性HPLCの安定性試験。ヒト血漿中で4時間インキュベーションした後の血漿での安定性。B.共リガンドとしてのトリシン/EDDAを含む99mTc-HYNIC-P8RI 74MBqの注射から1時間後にラットの膀胱で回収した尿の放射性HPLCのクロマトグラム。AおよびBでは、アセトニトリル分画のピーク(Tr=10分)のピークは、分解の兆候がない最初の種に対応する。
図3】ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)を毎週注射した、腹部大動脈瘤(AAA)を有する雄性Wistar系ラットにおける[99mTc]EDDA/HYNIC-P8RIのSPECT/CT画像。74MBqのトレーサー注射から30分後およびAAAの外科手術から21日後に、画像を取得した。腹部領域の横断面(A)、冠状面(B)、および矢状面(C)が示されている。腎臓(Bの白い矢印)および膀胱(Cの白い矢印)を介したトレーサーの除去が観察される。[99mTc]EDDA/HYNIC-P8RIの限局的な取り込みを、AAAの位置で観察することができる(A、B、Cの黒い矢印)。
図4】右後肢の炎症モデルにおける、テクネチウム-99mで放射標識したメルチアチドを注射したラット(n=3)およびP8RIを注射したラット(n=3)の大腿部の同じ領域で測定した、右後肢と左後肢との間の計測比の平均値の比較。簡潔に述べると、Wistar系ラットの右後肢にテレピン油を筋肉内注射し、反対側の大腿部に、生理食塩水を同様かつ同時に注射した。48時間後および[99mTc]-HYNIC-PEG3-P8RIまたは[99mTc]メルチアチドを80MBqで注射してから30分後に、SPECT/CTの取得を行った。マン・ホイットニーのU検定を使用して、2つのグループ間の比較を実行した。0.05未満のp値を、有意性があるとみなした。
【0246】
配列の簡単な説明
配列番号1は、ヒトCD31の配列に対応する。
配列番号2は、ヒトまたはマウスCD31由来の6アミノ酸のペプチドの配列LAPWKKに対応する。
配列番号3は、PepReg CD31とも呼ばれている、マウスCD31由来の10アミノ酸のペプチドの配列VRVFLAPWKKに対応する。
配列番号4は、ヒトCD31由来の10アミノ酸のペプチドの配列VRVILAPWKKに対応する。
配列番号5は、P8Fとも呼ばれている、マウスCD31に由来する8アミノ酸のペプチドの配列RVFLAPWKに対応する。
配列番号6は、配列番号5の逆位の配列を有し、D-アミノ酸からなる、P8RIとも呼ばれている8アミノ酸のペプチドの配列kwpalfvrに対応する。
配列番号7は、ヒトCD31に由来する8アミノ酸のペプチドの配列RVILAPWKに対応する。
配列番号8は、配列番号7の逆位の配列を有し、D-アミノ酸からなる、8アミノ酸のペプチドの配列kwpalivrに対応する。
配列番号9は、マウスCD31の配列に対応する。
配列番号10は、ウシCD31の配列に対応する。
配列番号11は、ブタCD31の配列に対応する。
配列番号12は、配列番号1の配列のアミノ酸579~601位に対応する。
配列番号13~74は、上記に定義される通りである。
【0247】
実施例
材料および方法
1.材料
特段記載した場合を除き、試薬を、シグマアルドリッチから購入し、そのまま使用した。P8RI(H-kwpalfvr-OH)を、RP-HPLC/MSにより解析される85%超の純度で、固相上で合成した。HYNIC-P8RIを、Fmoc化学を使用した固相ペプチド合成により調製した(RP-HPLCの精製後の収率:52%、RP-HPLCによる純度:96%)。
【0248】
Na99mTcO を、市販の99Mo/99mTcジェネレーター(TEKCIS(登録商標), Iba molecular, France)から得た。
【0249】
2.解析方法
2.1 HPLC
Bertholdの放射測定用検出器に連結したDionex Ultimate 3000システムを、RP-HPLCの解析に使用した。流速1ml/分および220nmでのUV検出を伴う、A ACE 3 C18、3μ、100Å、150×4.6mmのカラムを、以下の移動相:A:0.1%のTFA/水)、B:アセトニトリル(CAN)と共に使用した。勾配は、0~2分 23% B、2~20分 23-50% B、20~23分 50~100% B、23~25分 100~23% B、25~28分 23% Bであった。
【0250】
2.2 薄層クロマトグラフィー
TLCを、放射性クロマトグラフィー(MiniGita, Raytest, Germany)を使用して行った。固定相はシリカゲル(ITLC-SG, Agilent technologies, USA)であり、異なる移動相を使用した。MEKを使用して、遊離の99mTcO (Rf=1)の量を決定し、抗凝固剤のクエン酸デキストロース溶液(ACD-A, Baxter International, USA)を使用して、非ペプチド結合した99mTc共リガンドおよび99mTcO (Rf=1)を決定し、99mTc-コロイドには60%ACNを使用した(Rf=0)。
【0251】
3.99mTc放射標識
3.1 共リガンドとしてのトリシン
ゴムで密閉しN2パージしたバイアルにおいて、20μgのHYNIC-P8RIを、トリシン溶液(PBS1×バッファー中40mg/mL、pH7.2)500μL、スズ(II)溶液(HCL中1mg/mL、0.1N)80μL、1GBqの99mTcO4-溶出物、および総容量が3mlとなるような適量のPBSと、室温(RT)で30分間インキュベートした。
【0252】
3.2 共リガンドとしてのEDDA
ゴムで密閉しN2パージしたバイアルにおいて、20μgのHYNIC-P8RIを、EDDA溶液(NaOH中20mg/mL、0.1N)500μL、スズ(II)溶液(HCL中1mg/mL、0.1N)80μL、1GBqの99mTcO4-溶出物、および総容量が3mlとなるような適量のPBS1Xと、RTで30分間インキュベートした。
【0253】
3.3 トリシン/EDDAの交換標識
EDDA溶液(NaOH中20mg/mL、0.1N)500μLを除き、共リガンドとしてのトリシン以外は同じ手法を、反応バイアルに加え、100℃で10分間加熱した。
【0254】
4.精製手法
精製を、エタノール10ml、次いで水10mlおよび空気5mlであらかじめ活性化したC18 Sep-Pakカートリッジ(Sep-Pak C18 Plus Light Cartridge, Waters, USA)を使用して、実現した。放射標識した調製物をカートリッジに通し、8mlの水で洗浄した後、放射標識したペプチドを80%ACNで溶出し、その後真空下で蒸発させたの。
【0255】
5.In vitroでの安定性の試験
99mTc複合体の安定性を、0分、30分、1時間、2時間、および4時間のインキュベーションの後に、37℃の新鮮なヒト血漿において、100pmol/mLの濃度で評価した。次に、血漿試料をメタノールで沈殿させ、遠心分離した(20000g、10分間)。上清を、回収し、ろ過して(Millex-GV 0.22μm PVDF, Merck Millipore, Germany)、次に、放射性HPLCにより評価した。
【0256】
6.In vivoでの安定性の試験
74MBqの(共リガンドとしてのトリシン/EDDAと共に得られた)99mTc-HYNIC-P8RIを、雄性wistar系ラットに注射した。1時間後、ラットを屠殺し、シリンジを使用して尿を膀胱から直接収集し、0.22μmの濾過(Millex-GV 0.22μm PVDF, Merck Millipore, Germany)を行った後に放射性HPLCにより解析した。
【0257】
7.タンパク質の結合
精製した放射標識ペプチドのタンパク質の結合を、37℃の新鮮な血漿において、0分、30分、1時間、2時間、および4時間のインキュベーションの後に決定し、サイズ排除クロマトグラフィー(illustra Microspin G-50 Columns, Sephadex G-50, GE Healthcare, UK)の後に解析した。G-50カラムを、2000×gで1分間あらかじめ遠心沈降させ、次に、混合物20μLを添加し、カラムを2000×gで2分間遠心分離した。放射標識ペプチドのタンパク質の結合を、ガンマカウンター(Cobra II, Packard Bioscience)でカラムおよび溶出物を測定することにより、推定した。同時に、放射標識ペプチドを、対照として37℃のPBS 1X中で1時間インキュベートした。
【0258】
8.実験モデル
8.1 腹部大動脈瘤(AAA)モデル
研究室で設定されているラット血管炎症モデル:実験的な腹部大動脈瘤(AAA)を、エラスターゼの局所注入、次いでヒトのAAAに存在し、AAAの炎症を誘導することが知られている歯周部の細菌(ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis))(Delbosc et al., 2011, PLoS ONE 6(4): e18679. doi:10.1371/journal.pone.0018679)の静脈内注射により誘導した。
【0259】
8.2 後肢の炎症モデル
ラット後肢炎症モデルを、右の後肢において、テレピン油(150μl)の筋肉内注入により誘導し、対して、左の後肢に、生理食塩水溶液(150μl)を注射した(反対側の対照)。
【0260】
9.SPECT/CTイメージング―AAAモデル
74MBqの放射標識HYNIC-P8RI(トリシン/EDDAを使用して得た)の、陰茎静脈を介した静脈内注射の直後に、経時的なwhole-body acquisition(第1の時間で10分ごと)を、小動物専用のハイブリッドSPECT/CTカメラ(NanoSPECT/CT, Bioscan Inc.)を用いて行った。
【0261】
10.X線CTスキャナ、SPECT、およびSPECT/CTの取得-右後肢の炎症
80MBqの99mTc-HYNIC-P8RI(共リガンドとしてのトリシン/EDDAと共に得た)および99mTc-メルチアチドをそれぞれ注射してから30分後に、取得を行った。
【0262】
結果
1.放射標識
6-ヒドラジノピリジン-3-カルボン酸(HYNIC)を、3(PEG)スペーサーを介してP8RIペプチドのN末端のアミノ酸に結合させて、HYNIC-P8RIを得た。
【0263】
次に、HYNIC-P8RIを、共リガンドとしてのトリシン、EDDA、またはトリシン/EDDAを使用して、高い比活性(>71GBq/μmol)で標識した。標識の収率は、表2に示されているように、65.5%~98.3%で変動した。トリシン/EDDA交換標識の戦略は、高い標識収率のため、およびHPLCにより解析されるように単一の主要な種をもたらすため、選択された(図1参照)。
【表3】
【0264】
2.安定性試験
ヒトの血漿におけるin vitroでの安定性は、放射標識不純物の有意な放出または放射標識ペプチドの分解を伴うことなく99mTc複合体の安定性が高いことを明らかにした。RCP(放射化学的純度)は、4時間のインキュベーションの後、89%を超えていた(図2A参照)。放射性HPLCの解析によるラットの尿でのin vivo安定性試験は、注射した放射性トレーサーに対応する保持時間で排泄された1つの主要な種を示した。この結果は、99mTc-HYNIC-P8RIが、未変化のまま排泄され得ることを表している。(図2B参照)。
【0265】
3.タンパク質の結合
サイズ排除クロマトグラフィーにより決定される非常に低レベルのタンパク質の結合(4時間のインキュベーション後5%未満)が、トリシン/EDDA共リガンド交換標識戦略を使用して見いだされた。この知見は、99mTc-HYNIC-P8RIが親水性化合物であり得ることを示唆している。
【0266】
4.SPECT/CTイメージング―AAAモデル
代表的なSPECTおよびCTの画像を、図3に示されているように、AAAラットにおける99mTc-HYNIC-P8RI(共リガンドとしてのトリシン/EDDAと共に得た)の注射から30分後の取得の後に、得た。生体分布のパターンは、ほぼ排他的な腎臓の取り込みおよび排泄を表していた。興味深いことに、AAAの位置に対応する大動脈経路上で放射性トレーサーの局所的な取り込みが存在した。
【0267】
5.X線CTスキャナ、SPECTおよびSPECT/CTの取得―右後肢の炎症モデル
99mTc-HYNIC-P8RIを、テレピン油を使用したラット右後肢炎症モデルにおいてさらに評価した。
【0268】
メルチアチドは、腎機能の非特異的マーカーであり、ペプチドP8RIに近い生体分布のパターン(特に低分子量および迅速なクリアランス)であるため陰性対照として使用した。
【0269】
このモデルにおいて、テレピン油を注射した後肢と生理食塩水を注射した後肢との間でのテクネチウム-99mで放射標識P8RIの取り込みの比率は、テクネチウム―99mで放射標識メルチアチドを注射した対照のグループと比較して高く、これにより炎症部位へのP8RIの特異的結合を確認した(図4参照)。
【0270】
結論
[99mTc]EDDA/HYNIC-P8RIのRCPは、精製することなく93%超(HPLCおよびILTC)であり、比活性は、71GBq/μmol超であった。分解した放射標識ペプチドの有意な放出は存在せず(RCP>89%)、血漿タンパク質に対する放射性トレーサーの結合は、非常に低かった(4時間のインキュベーション後、5%未満)。In vivoにおいて、トレーサーの血液クリアランスは、ほぼ独占的に腎臓で行われ、注射から1時間後の腎臓および膀胱におけるピーク活性はHPLC上の未変化体のペプチドに対応した。さらに、AAAによる99mTc-HYNIC-P8RIの取り込みは、動物において注射の30分後から検出可能であり、免疫組織化学検査において活性化血小板および白血球に結合していた。また、99mTc-HYNIC-P8RIは、右後肢の炎症モデルにおいて炎症部位で特異的に検出された。
【0271】
切断型CD31(CD31shed)を発現し、迅速な血液クリアランスを伴う、炎症に関与する活性化細胞を特異的に標的化することにより、放射標識P8RIは、炎症のイメージングにおいて有用な新規の手法を構成する。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
【配列表】
0007166512000001.app