(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/56 20060101AFI20221031BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
C08G59/56
C08J5/24 CFC
(21)【出願番号】P 2019062643
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2021-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100193493
【氏名又は名称】藤原 健史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 江利子
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-003171(JP,A)
【文献】特開平01-096278(JP,A)
【文献】国際公開第2001/092368(WO,A1)
【文献】特開平05-016276(JP,A)
【文献】特開2003-002953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G59/00- 59/72
C08J 5/24
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、
アミン成分と酸成分とからなる塩と、
芳香族アミンと、
を含
み、
前記アミン成分が、1級アミン成分であり、
前記酸成分が、カルボン酸、スルホン酸及びホスホン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種である、
エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記アミン成分のアミン官能基数を「A」、前記酸成分の官能基数を「B」とした場合に、「A+B」が3以上である、請求項
1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
「A」が2以上であり、「B」が2以上である、請求項
2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記芳香族アミンが、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルメタン又はジアミノジフェニルエーテルである、請求項1乃至3のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記芳香族アミンが、ジアミノジフェニルスルホンである、請求項1乃至
3のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記ジアミノジフェニルスルホンが、3,3’-ジアミノジフェニルスルホンまたは4,4’-ジアミノジフェニルスルホンである、請求項
5に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
繊維強化複合材料のマトリックス樹脂用である、請求項1乃至
6のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
繊維と、前記繊維に含浸した請求項
7に記載のエポキシ樹脂組成物とを含む、繊維強化複合材料。
【請求項9】
アミン成分と酸成分とからなる塩と、芳香族アミンと、エポキシ樹脂とを混合し、エポキシ樹脂組成物を調製する工程と、
前記エポキシ樹脂組成物を繊維に含浸させる工程と、
前記繊維に含浸させたエポキシ樹脂組成物を加熱処理により硬化させる工程と、
を含
み、
前記アミン成分が、1級アミン成分であり、
前記酸成分が、カルボン酸、スルホン酸及びホスホン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種である、
繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項10】
前記芳香族アミンが、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルメタン又はジアミノジフェニルエーテルである、請求項9に記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項11】
前記芳香族アミンが、ジアミノジフェニルスルホンである、請求項9に記載の繊維強化複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物に関し、特に繊維強化複合材料のマトリックス樹脂として有用なエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂組成物は、様々な用途に使用されている。例えば、繊維強化複合材料のマトリックス樹脂として、熱硬化型のエポキシ樹脂組成物が使用される場合がある。繊維強化複合材料は、例えば航空機用等の耐熱性が求められる用途に使用される場合がある。
【0003】
熱硬化型のエポキシ樹脂組成物には、通常、エポキシ樹脂と硬化剤とが含まれている。硬化剤は、エポキシ樹脂組成物の特性に影響を与える。そのため、用途に応じて適切な硬化剤が選択される。
【0004】
耐熱性等に優れる硬化剤として、ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族アミンが知られている。
【0005】
例えば、特許文献1(特開2017-206615号公報)には、特定のシート状強化繊維基材、特定のエポキシ樹脂組成物、及び特定の樹脂粒子を含む繊維強化複合材料の製造方法において、エポキシ樹脂硬化剤として、硬化物の耐熱性および靭性に優れる点から、ジアミノジフェニルスルホンが好ましく用いられる点が記載されている。
【0006】
また、特許文献2(国際公開第2016/067736号)にも、特定の組成及び物性を有するエポキシ樹脂組成物において、ジアミノジフェニルスルホンを用いる点が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-206615号公報
【文献】国際公開第2016/067736号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族アミンは、エポキシ樹脂との反応性が低く、エポキシ樹脂組成物を硬化させるためには、高温で長時間の加熱処理が必要になる場合があった。また硬化物の耐熱性もさらなる改善が求められている。
【0009】
そこで、本発明の課題は、耐熱性および低温硬化性に優れるエポキシ樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の手段を含む。
[1]
エポキシ樹脂と、
アミン成分と酸成分とからなる塩と、
芳香族アミンと、
を含む、エポキシ樹脂組成物。
[2]
前記アミン成分が、1級アミン成分又は2級アミン成分を含む、[1]に記載のエポキシ樹脂組成物。
[3]
前記アミン成分のアミン官能基数を「A」、前記酸成分の官能基数を「B」とした場合に、「A+B」が3以上である、[1]又は[2]に記載のエポキシ樹脂組成物。
[4]
「A」が2以上であり、「B」が2以上である、[3]に記載のエポキシ樹脂組成物。
[5]
前記酸成分が、カルボン酸、スルホン酸及びホスホン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、[1]乃至[4]のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
[6]
前記芳香族アミンが、ジアミノジフェニルスルホンである、[1]乃至[5]のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
[7]
前記ジアミノジフェニルスルホンが、3,3’-ジアミノジフェニルスルホンまたは4,4’-ジアミノジフェニルスルホンである、[6]に記載のエポキシ樹脂組成物。
[8]
繊維強化複合材料のマトリックス樹脂用である、[1]乃至[7]のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
[9]
繊維と、前記繊維に含浸した[8]に記載のエポキシ樹脂組成物とを含む、繊維強化複合材料。
[10]
アミン成分と酸成分とからなる塩と、芳香族アミンと、エポキシ樹脂とを混合し、エポキシ樹脂組成物を調製する工程と、
前記エポキシ樹脂組成物を繊維に含浸させる工程と、
前記繊維に含浸させたエポキシ樹脂組成物を加熱処理により硬化させる工程と、
を含む、繊維強化複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐熱性および低温硬化性に優れるエポキシ樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
1:エポキシ樹脂組成物
本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、芳香族アミンと、アミン成分と酸成分からなる塩とを含んでいる。芳香族アミンは、耐熱性や保存安定性に優れたエポキシ樹脂用の硬化剤であるが、アミン成分と酸成分からなる塩を使用すると、耐熱性をさらに向上させることができる。また、硬化剤として芳香族アミンを単独で使用した場合には、硬化処理として高温で長時間の加熱処理が必要になる場合がある。これに対して、本実施形態によれば、アミン成分と酸成分とからなる塩を芳香族アミンと併用することにより、加熱処理に要する時間及び温度を低下させることができる。すなわち、アミン成分と酸成分とからなる塩は、芳香族アミンを有するエポキシ樹脂組成物における硬化剤乃至硬化促進剤として機能していると考えられ、その結果、より耐熱性および低温硬化性に優れるエポキシ樹脂組成物を得ることができると考えられる。
【0013】
以下に、エポキシ樹脂組成物に含まれる各成分について詳述する。
【0014】
2:エポキシ樹脂
エポキシ樹脂は、加熱により硬化する機能を有するものであればよく、特に限定されない。例えば、エポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、tert-ブチル-カテコール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、スピロ環含有エポキシ樹脂、シクロヘキサンジメタノール型エポキシ樹脂、トリメチロール型エポキシ樹脂及びハロゲン化エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも一種が挙げられ、好ましくは、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂は1種単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0015】
エポキシ樹脂は、液状エポキシ樹脂及び固形状エポキシ樹脂のいずれであってもよい。。また、液状エポキシ樹脂と固体状エポキシ樹脂とを併用してもよい。液状エポキシ樹脂とは、20℃で液状のエポキシ樹脂を言い、固体状エポキシ樹脂とは、20℃で固体状のエポキシ樹脂を言う。
【0016】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、特に限定されるものでは無いが、例えば40~5000、より好ましくは110~700である。尚、エポキシ当量は、平均分子量を1分子あたりのエポキシ基数で割った値のことである。
【0017】
3:芳香族アミン
芳香族アミンは、加熱処理によってエポキシ樹脂と反応し、エポキシ樹脂を硬化させる機能を有するものであればよく、特に限定されない。
芳香族アミンとしては、例えば、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、及びこれらの異性体などが挙げられ、好ましくはジアミノジフェニルスルホン及びその異性体である。
ジアミノジフェニスルスルホンとしては、いずれの異性体のものも使用可能であるが、好ましくは、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン及び4,4’-ジアミノジフェニルスルホンである。
芳香族アミンの含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、例えば10~50質量部、好ましくは15~45質量部、より好ましくは20~40質量部である。
芳香族アミンは1種単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0018】
4:アミン成分と酸成分とからなる塩
アミン成分と酸成分とからなる塩は、アミン成分と酸成分とが酸塩基反応によって結合した物質であり、例えば、アミン成分が1級アミンかつ酸成分がカルボン酸である場合、アミン成分と酸成分とからなる塩は、下記式(I)により表されるような化合物である。
(なお、式Iにおいて、R
1及びR
2はそれぞれ独立して有機基を表す)。
【0019】
アミン成分と酸成分とからなる塩は、例えば、溶媒中でアミン成分と酸成分と混合することによって両者を酸塩基反応により反応させ、析出した反応物を回収することによって、得ることができる。
【0020】
アミン成分と酸成分とからなる塩は、芳香族アミンによるエポキシ樹脂の硬化反応を促進させる機能(硬化促進剤としての機能)を有する。また、アミン成分と酸成分とからなる塩は、それ自体でも、エポキシ樹脂を硬化させる機能(硬化剤としての機能)を有するものと考えられる。アミン成分と酸成分とからなる塩は、ある程度の熱を加えると、アミン成分と酸成分とに乖離し、乖離したそれぞれの成分がエポキシ樹脂と反応し、エポキシ樹脂を硬化させるものと考えられる。
【0021】
アミン成分と酸成分とからなる塩の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、例えば、0.1~20質量部、好ましくは1~10質量部である。
【0022】
好ましくは、アミン成分のアミン官能基数を「A」とし、酸成分の酸官能基数を「B」とした場合に、「A+B」が3以上である。好ましくは、「A」が2以上であり、かつ、「B」も2以上である。より好ましくは、「A+B」が4~6である。更に好ましくは、「A+B」が4である。最も好ましくは、A=2であり、かつ、B=2である。
このような官能基数を有するアミン成分及び酸成分を使用することで、エポキシ樹脂組成物の耐熱性及び保存安定性をより改善することができる。
【0023】
(アミン成分)
アミン成分としては、酸成分と反応して塩を形成するものであればよく、特に限定されない。アミン成分としては、例えば、それ単独でもエポキシ樹脂の硬化機能を有する化合物を用いることができる。アミン成分としては、例えば、1級アミン成分及び2級アミン成分が挙げられる。アミン成分は1種単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0024】
1級アミン成分としては、分子中に環構造を含む化合物、及び、分子中に環構造を含まない化合物のいずれも用いることができる。環構造としては、例えば、ベンゼン環及びシクロヘキサン環等が好ましく挙げられ、より好ましくはシクロヘキサン環が挙げられる。
【0025】
環構造を含む1級アミン成分としては、例えば、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、イソホロンジアミン、メンセンジアミン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、3,9-ビス(3-アミノプロピル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、4,4’-イソプロピリデンビスシクロヘキシルアミン、ノルボルナジアミン、N-アミノエチルピペラジン、ベンジルアミン、及びそれらの異性体等を挙げることができ、好ましくは、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、及び4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等を挙げることができる。
【0026】
あるいは、環構造を含む1級アミン成分としては、下記一般式(II)により表される化合物を挙げることもできる。
式(II)中、環Aは、5~7員の飽和又は不飽和環を表し、好ましくは、6員の飽和又は不飽和の炭素環である。L
2は独立して単結合又はC
1-6アルキレン基を表し、好ましくは単結合又はメチレン基である。aは1~4の整数を表し、好ましくは、2である。環Aは、L
2部分とは別に、C
1-6アルキル基等の置換基を有していてもよい。
【0027】
また、環構造を含む1級アミン成分として、下記一般式(III)により表されるものを挙げることもできる。
式(III)中、環B及び環Cは、それぞれ独立に、5~7員の飽和又は不飽和環を表し、好ましくは6員の飽和又は不飽和の炭素環であり、より好ましくはシクロヘキサン環である。
L
3は、C
1-6アルキレン基を表し、好ましくはメチレン基である。
L
4及びL
5は、独立して、単結合又はC
1-6アルキレン基を表し、好ましくは単結合である。
環B及び/又は環Cは、L
3~L
5部分とは別に、C
1-6アルキル基等の置換基を有していてもよい。
【0028】
環構造を含む1級アミン成分の好適な具体例としては、シクロヘキサンジアミン(例示:1,2-シクロヘキサンジアミン及び1,4-シクロヘキサンジアミン)、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、及び4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等が挙げられる。
【0029】
一方、環構造を含まない1級アミン成分としては、例えば、トリメチルヘキサメチレンジアミン、メチレンジアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシプロピレントリアミン、ジプロピレンジアミン、ジプロピレントリアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、1,2-ジアミノプロパン、トリプロピレンテトラミン、リシン及びそれらの異性体等が挙げられる。このような環構造を含まない1級アミンとして、好ましいものとしては脂肪族アミンが挙げられ、より好ましくはトリメチルヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。
【0030】
また、2級アミン成分としては、特に限定されるものでは無いが、例えば、窒素を含有する複素環式アミン化合物などが挙げられ、好ましくは、環構造を有するものなどが挙げられ、好ましくは、ピペラジン及びピペリジンなどを挙げることができる。
【0031】
(酸成分)
酸成分としては、1級アミン成分と反応して塩を形成するものであればよく、特に限定されない。酸成分としては、例えば、それ単独でもエポキシ樹脂の硬化機能を有する化合物を用いることができる。
好ましい酸成分としては、カルボン酸、スルホン酸及びホスホン酸が挙げられる。
酸成分は1種単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0032】
カルボン酸としては、分子内にカルボン酸基を有する化合物であれば特に限定されないが、保存安定性の観点から、好ましくは、カルボン酸基の数が2以上である化合物である。カルボン酸の官能基数は、好ましくは2~4であり、更に好ましくは2である。
カルボン酸としては、例えば、ピロメリット酸、フタル酸、ヒドロキシイソフタル酸、コハク酸、セバシン酸、マレイン酸、ドデセニルコハク酸、クロレンデック酸、トリメリット酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、メチルナジック酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、及びシクロヘキセンジカルボン酸、及びそれらの異性体などが挙げられ、好ましいものとして、シクロヘキサンジカルボン酸及びシクロヘキセンジカルボン酸が挙げられる。
シクロヘキサンジカルボン酸としては、例えば、cis-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸及び1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。シクロヘキセンジカルボン酸としては、例えば、cis-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸等が挙げられる。
スルホン酸としては、分子内にスルホン酸基を有する化合物であれば特に限定されないが、好ましくは、スルホン酸基数が2以上である化合物が好ましい。スルホン酸の官能基数は、好ましくは2~4であり、更に好ましくは2である。スルホン酸としては、例えば、ナフタレンジスルホン酸等が挙げられる。
ホスホン酸は、R-P(=O)(OH)2(RはH又は有機基)で表される化合物であり、Rに付加している-P(=O)(OH)2の数は特に限定されない。好ましくは、ホスホン酸は、(HO)2PH(=O)である。
【0033】
好適な酸成分としては、例えば、下記一般式(IV)により表される化合物が挙げられる。
式(IV)中、環Dは、5~12員の単環又は二環式の飽和又は不飽和環を表し、好ましくは、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環又はナフタレン環である。R3は、カルボン酸又はスルホン酸を表す。bは、1~4の整数を表し、好ましくは2~4、より好ましくは2である。環Dは、C
1-6アルキル基等の置換基を有していてもよい。
【0034】
あるいは、酸成分としては、下記一般式(V)により表される化合物を挙げることもできる。
式(V)中、L6は、炭素数1~20の、分岐鎖または直鎖の炭化水素基を表し、好ましくは炭素数4~10の、分岐鎖または直鎖の炭化水素基を表す。炭化水素基は不飽和結合を含んでいてもよい。
【0035】
酸成分の好適な具体例としては、例えば、ピロメリット酸、cis-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、cis-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジスルホン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ドデカン二酸、及びホスホン酸等を挙げることができる。
【0036】
(その他)
本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物には、必要に応じて、その他の成分が含まれていてもよい。その他の成分としては、エポキシ樹脂以外の樹脂、硬化剤(ジアミノジフェニルスルホン、及び、アミン成分と酸成分とからなる塩以外のもの)、充填剤、安定剤、難燃剤、及び顔料などが挙げられる。
【0037】
本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物は、室温(25℃)で固体状でも液状でもよい。
【0038】
本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物は、芳香族アミンの存在により、耐熱性等に優れた硬化物を提供する。これに加えて、アミン成分と酸成分とからなる塩が使用されているため、耐熱性をさらに改善することができる。
加えて、本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物は、常温(5~35℃)であれば、エポキシ樹脂と硬化剤とを混合した状態であっても、硬化反応が進行しにくい。すなわち、保存安定性に優れている。
また、本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物は、芳香族アミンを単独で用いた場合に比べて、低温で熱硬化させることができる。また耐熱性も向上する。
以上のような性質から、本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物は、一液性の液状のエポキシ樹脂組成物として好適である。繊維強化複合材料のマトリックス樹脂用として好適である。
【0039】
本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物を硬化させる際の温度は、例えば、100~250℃、好ましくは120~180℃である。また、硬化時間は、30~180分、好ましくは60~120分である。また、この前後に昇温時間や昇温・降温のプロセスを経て硬化させることができ、その速度は0.1~100℃/分、好ましくは1~50℃/分である。
【0040】
本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物の具体的用途は特に限定されない。但し、常温での保存安定性に優れ、低温で熱硬化可能であり、耐熱性にも優れることから、例えば、繊維強化複合材料のマトリックス樹脂用として好適である。特に航空機用の繊維強化複合材料に使用するマトリックス樹脂用として、好適に用いられる。例えば、繊維強化複合材料のマトリックス樹脂用として使用する場合、本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物を、繊維基材にハンドレイアップ法、スプレーアップ法、RTM法、VaRTM法、フィラメントワインディング法、BMC法、SMC法、オートクレーブ法などにより含浸させることにより製造することができる。すなわち、本発明の樹脂組成物が繊維基材中に含浸した状態となる繊維強化複合材料とすることができる。繊維基材としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維等の繊維強化複合材料用の繊維基材として常用されているものを用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明をより詳細に説明するため、実施例について説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるべきものではない。
【0042】
<試験サンプルの調製>
表1乃至4に記載される組成にて、実施例1乃至19及び比較例1乃至6に係る硬化剤を調製した。詳細は以下の通りである。
【0043】
(実施例1)
200mlのエタノールに、酸成分としてピロメリット酸(酸成分)20gを溶解した。更に、得られた溶液に、ピロメリット酸と1:1モルとなる量の1,2-シクロヘキサンジアミン(アミン成分)を添加し、薬さじで攪拌した。攪拌後、25℃で1時間、溶液を静置した。静置後、生じた沈殿物を、ブフナー漏斗で5Cのろ紙を使用してろ過した。得られたろ過物をオーブンに投入し、40℃で1時間、60℃で3時間、乾燥させた。乾燥後、コーヒーミルを使用して試料を粉砕し、得られた試料を実施例1に係る硬化剤として得た。
【0044】
(実施例2~18)
酸成分及びアミン成分を、表1~3に記載される化合物に変更し、アミンと酸の種類を表1の組み合わせに変更した以外は、実施例1と同様の方法を用いて、実施例2~18に係る硬化剤を得た。
【0045】
(比較例1~6)
表4に記載される化合物を、それぞれ、比較例1乃至6に係る硬化剤として用意した。
【0046】
<樹脂配合物の調整>
(実施例1~18、比較例1~6)
エポキシ樹脂(jER828EL、三菱化学社製、エポキシ当量190)100質量部に、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン30質量部と、実施例1乃至18及び比較例1乃至6の各々に係る硬化剤5質量部を添加した。添加後、公転自転撹拌機(株式会社シンキー製ARE-250「あわとり錬太郎」)で撹拌し、実施例1乃至18及び比較例1乃至6に係るエポキシ樹脂組成物を得た。
(比較例7)
実施例1乃至18及び比較例1乃至6に係る硬化剤5質量部を添加しなかった点を除いて同様の方法により、比較例7に係るエポキシ樹脂組成物を得た。
【0047】
<測定方法>
(反応開始温度)
実施例及び比較例に係る各エポキシ樹脂組成物5mgを、サンプルパンに量り取って蓋で密閉し、日立ハイテクサイエンス社製高感度示差走査型熱量測定装置DSC7000Xを用いて、昇温速度5℃/分の条件下で、DSC測定を行った。得られた発熱ピークの曲線の立ち上がりと、基線の外挿とが交わる点の温度を、反応開始温度として求めた。結果を表5に示す。尚、得られた反応開始温度が低いほど、低温での硬化が可能となることを意味している。
【0048】
(初期粘度及び保存安定性)
RE80型粘度計(東機産業株式会社製)にコーンローター(ローターコードNo.6;3°×R9.7)を装着した。実施例及び比較例に係る各エポキシ樹脂組成物0.2~0.3mlをシリンジにて量り取り、25℃に設定した粘度計の測定室に投入した。ローターの回転数を20rpmに設定して120秒間回転させた後、粘度を測定し、測定結果を初期粘度とした(単位:Pa・s)。
また、エポキシ樹脂組成物を、25℃及び40℃の条件下で、それぞれ2日間及び7日間保管した後、初期粘度と同じ方法にて粘度を測定した。更に、保管後の粘度と初期粘度との値から、下記式により、保管後の粘度の初期粘度に対する倍数を求め、結果を保存安定性とした。
(式1):保存安定性=保管後粘度/初期粘度
【0049】
結果を表5に示す。尚、保管後に増粘してシリンジで吸入できなかったものについては、「硬化」と記載した。保存安定性の結果は、数値が低いほど、経時に伴う粘度増加量が小さく、保存安定性に優れていることを意味している。
【0050】
(硬化物の耐熱性)
12mlのアルミホイルシャーレ―、各エポキシ樹脂組成物2質量部を量り取り、180℃に設定したオーブンに投入し、所定時間加熱し、硬化物を得た。得られた硬化物10mgをサンプルパンに量り取って蓋で密閉し、日立ハイテクサイエンス社製高感度型示差走査型熱量測定装置DSC7000Xを用いて窒素雰囲気中、昇温速度5℃/分、交流測定の条件下でDSC測定し、得られた比熱曲線よりガラス転移温度(Tg)を測定した。結果を表5に示す。
【0051】
(結果の考察)
表5に示されるように、硬化剤として芳香族アミンである4,4’-ジアミノジフェニルスルホン酸のみ使用した比較例7においては、反応開始温度が163℃であった。これに対して、アミン成分と酸成分とからなる塩を添加した実施例1乃至18においては、比較例7よりも反応開始温度が低下していた。このことから、比較例7よりも実施例1乃至18の方が硬化処理に必要な熱量が少なく、低温短時間でエポキシ樹脂組成物を硬化できることが判る。
【0052】
実施例1乃至18は、比較例7よりもTgが大きく、耐熱性に優れていた。このことから、アミン成分と酸成分とからなる塩を添加することにより、エポキシ樹脂組成物の耐熱性が向上することが理解される。
【0053】
比較例1乃至6は、比較例7に比べると反応開始温度が低かったものの、保存安定性が著しく悪化していた。従って、単にアミン成分又は酸成分を添加した場合、硬化反応を促進させることができるものの、保存安定性が大きく損なわれることが理解できる。これに対して、実施例1乃至18は、比較例7と同程度の保存安定性を有しているか、少なくとも比較例1乃至6よりも良好な保存安定性を有していた。このことから、アミン成分と酸成分とからなる塩の形態にて添加することにより、驚いたことに、保存安定性と低温での硬化処理とを両立できることが判る。また耐熱性も向上することが分かる。
また、酸成分として安息香酸を用いた実施例17及び18よりも、酸成分として2~4官能のカルボン酸、2官能のスルホン酸、又は、ホスホン酸を用いた実施例1~16の方が、保存安定性により優れていた。
【0054】