(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】炭化水素類合成用触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 23/755 20060101AFI20221031BHJP
B01J 23/75 20060101ALI20221031BHJP
C07C 1/12 20060101ALN20221031BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20221031BHJP
【FI】
B01J23/755 M ZAB
B01J23/75 M
C07C1/12
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019083756
(22)【出願日】2019-04-25
【審査請求日】2022-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 拓飛
(72)【発明者】
【氏名】今川 晴雄
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-061640(JP,A)
【文献】特開昭48-060701(JP,A)
【文献】特表2013-511383(JP,A)
【文献】特開2009-034659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C07C 1/12
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Na含有CoO粒子と、Ni含有Al
2O
3粒子及びNi含有TiO
2粒子のうちの少なくとも一方のNi含有酸化物粒子とを含有することを特徴とする炭化水素類合成用触媒。
【請求項2】
前記Na含有CoO粒子の含有量が70~98質量%であり、前記Ni含有酸化物粒子の含有量が2~30質量%であることを特徴とする請求項1に記載の炭化水素類合成用触媒。
【請求項3】
NaとCoの合計量に対するNaの割合が5~30質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭化水素類合成用触媒。
【請求項4】
前記Ni含有酸化物粒子全体に対するNiの割合が2~40質量%であることを特徴とする請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の炭化水素類合成用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素類合成用触媒に関し、より詳しくは、二酸化炭素(CO2)を原料とした炭化水素類の合成反応に用いられる触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素(CO2)を原料とした炭化水素類の合成反応は、地球温暖化対策の一つであるCO2の有効利用という観点で注目されている。このようなCO2を原料とした炭化水素類の合成反応に用いられる触媒として、Rhodri E.Owenら(非特許文献1)には、メソポーラスシリカにコバルト及びアルカリ金属を担持した触媒が記載されており、この触媒を用いた、CO2とH2とを原料とする炭化水素類の合成反応においては、主としてメタンが生成することも記載されている。
【0003】
また、特開2009-34659号公報(特許文献1)には、多孔質シリカ単独又はイットリウム等を含有する多孔質シリカからなる担体にコバルト金属又はコバルト化合物が担持された触媒が開示されており、この触媒を用いた場合にも、一酸化炭素(CO)及び二酸化炭素(CO2)と水素(H2)とを原料とする炭化水素類の合成反応において、主としてメタンが生成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Rhodri E.Owenら、Chem.Commun.、2013年、第49巻、11683~11685頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のコバルト及びアルカリ金属を含有する触媒を用いてCO2とH2とからC2以上の炭化水素類を製造する場合には、高圧下又は300℃以上の高温下での反応が必要であり、生産コストやエネルギー効率が必ずしも十分なものではなかった。
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、290℃以下の反応温度でもCO2とH2とからC2以上の炭化水素類を効率よく製造することが可能な炭化水素類合成用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、Na含有CoO触媒粒子にNi含有Al2O3粒子及びNi含有TiO2粒子のうちの少なくとも一方のNi含有酸化物粒子を配合することによって、CO2とH2とを原料とするC2以上の炭化水素類の合成反応において、C2以上の炭化水素類の生成量が最大となる反応温度を、Na含有CoO触媒粒子のみを用いた場合に比べて、低温化することができ、290℃以下の反応温度でもCO2とH2とからC2以上の炭化水素類を効率よく製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の炭化水素類合成用触媒は、Na含有CoO粒子と、Ni含有Al2O3粒子及びNi含有TiO2粒子のうちの少なくとも一方のNi含有酸化物粒子とを含有することを特徴とするものである。
【0010】
本発明の炭化水素類合成用触媒においては、前記Na含有CoO粒子の含有量が70~98質量%であり、前記Ni含有酸化物粒子の含有量が2~30質量%であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の炭化水素類合成用触媒においては、NaとCoの合計量に対するNaの割合が5~30質量%であることが好ましく、前記Ni含有酸化物粒子全体に対するNiの割合が2~40質量%であることが好ましい。
【0012】
なお、本発明の炭化水素類合成用触媒を用いることによって、低い反応温度でもCO2とH2とを原料とするC2以上の炭化水素類の合成反応を効率よく実施することができる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の炭化水素類合成用触媒は、Na含有CoO粒子と、Ni含有Al2O3粒子及びNi含有TiO2粒子のうちの少なくとも一方のNi含有酸化物粒子とを含有するものである。このような本発明の炭化水素類合成用触媒を用いてCO2とH2とからC2以上の炭化水素類を合成する反応においては、Na含有CoO粒子の触媒作用により、下記式:
CO2+H2→CO+H2O
で表される逆水性ガスシフト(RWGS)反応が進行する。また、Na含有CoO粒子の触媒作用により、下記式:
nCO+(2n+1)H2→CnH2n+2+nH2O
で表されるFischer-Tropsch(F-T)合成反応も進行するため、前記逆水性ガスシフト反応により生成したCOがH2と反応して炭化水素が生成する。なお、前記F-T合成反応においては、COとH2とが反応してCHx中間種が生成し、このCHx中間種が連鎖成長することによって、C2以上の炭化水素類(CnH2n+2(n≧2))が生成する。
【0013】
本発明の炭化水素類合成用触媒には、前記Na含有CoO粒子のほかに、低温でのCO2還元活性が高いNi含有Al2O3粒子やNi含有TiO2粒子が含まれているため、反応温度が低い場合でも、CO2の還元反応が進行してCOが生成し、さらに、このCOとH2とが反応してCHx中間種が生成することにより、CHx中間種の連鎖成長反応が促進されると推察される。また、このCO2の還元反応により発生した反応熱が前記逆水性ガスシフト反応やCHx中間種の連鎖成長反応に利用されるため、反応温度が低い場合でも、これらの反応が促進されると推察される。
【0014】
このように、本発明の炭化水素類合成用触媒を用いることによって、反応温度が低い場合でも前記逆水性ガスシフト反応やCHx中間種の連鎖成長反応が促進されるため、低い反応温度でもCO2とH2とを原料とするC2以上の炭化水素類の合成反応を効率よく実施することが可能になると推察される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、290℃以下の反応温度でもCO2とH2とからC2以上の炭化水素類を効率よく製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】各種炭化水素類合成用触媒のCO
2転化率と反応温度との関係を示すグラフである。
【
図2】各種炭化水素類合成用触媒によるCH
4生成量と反応温度との関係を示すグラフである。
【
図3】各種炭化水素類合成用触媒によるC
2炭化水素の生成量と反応温度との関係を示すグラフである。
【
図4】各種炭化水素類合成用触媒によるC
3炭化水素の生成量と反応温度との関係を示すグラフである。
【
図5】各種炭化水素類合成用触媒によるC
4炭化水素の生成量と反応温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0018】
〔炭化水素類合成用触媒〕
先ず、本発明の炭化水素類合成用触媒について説明する。本発明の炭化水素類合成用触媒は、Na含有CoO粒子と、Ni含有Al2O3粒子及びNi含有TiO2粒子のうちの少なくとも一方のNi含有酸化物粒子とを含有するものである。Na含有CoO粒子にNi含有Al2O3粒子及びNi含有TiO2粒子のうちの少なくとも一方のNi含有酸化物粒子を配合することによって、290℃以下の反応温度でもCO2とH2とからC2以上の炭化水素類を効率よく製造することが可能な触媒を得ることができる。
【0019】
本発明の炭化水素類合成用触媒に用いられるNa含有CoO粒子としては、NaとCoOとを含有する粒子であれば特に制限はなく、例えば、CoO粒子の内部にNaが包含されたものであっても、CoO粒子の表面にNaが担持したものであってもよい。
【0020】
前記CoO粒子は、下記式:
CO2+H2→CO+H2O
で表される逆水性ガスシフト(RWGS)反応、及び、下記式:
nCO+(2n+1)H2→CnH2n+2+nH2O
で表されるFischer-Tropsch(F-T)合成反応において、触媒作用を示すものである。
【0021】
また、前記Na含有CoO粒子にはCO2を吸着するNaが含まれているため、前記逆水性ガスシフト反応が促進され、C2以上の炭化水素類の生成量が増加する。このNaは、通常、ナトリウム化合物の状態で前記Na含有CoO粒子に含まれているが、本発明においては、これに限定されるものではない。前記ナトリウム化合物としては、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、硝酸ナトリウム等が挙げられる。これらのナトリウム化合物は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらのナトリウム化合物の中でも、触媒調製中の焼成処理においてナトリウム化合物が分解しやすいという観点から、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0022】
前記Na含有CoO粒子におけるNaの割合としては、NaとCoとの合計量に対して、5~30質量%が好ましく、10~20質量%がより好ましい。Naの割合が前記下限未満になると、CO2を吸着するサイトが少ないため、前記逆水性ガスシフト反応が十分に促進されず、C2以上の炭化水素類の生成量が減少する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、相対的にCoの割合が少なくなるため、CoO粒子による触媒作用が十分に発現せず、C2以上の炭化水素類の生成量が減少する傾向にある。
【0023】
このようなNa含有CoO粒子の調製方法としては特に制限はなく、公知の共沈法や含浸法を採用することができる。例えば、コバルトの塩(例えば、炭酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト、硫酸コバルト)とナトリウムの塩(例えば、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム)とを含有する水溶液に酸(例えば、炭酸、硝酸、塩酸、硫酸)を滴下してコバルトの塩とナトリウムの塩とを共沈させた後、水を蒸発させ、得られた共沈物を乾燥し、さらに焼成することによって、Na含有CoO粒子を調製することができる。また、公知の方法により調製したCoO粒子を、ナトリウムの塩(例えば、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム)を含有する水溶液に浸漬して、前記CoO粒子に前記ナトリウムの塩の水溶液を含浸させた後、乾燥、焼成することによって、Na担持CoO粒子を調製してもよい。
【0024】
本発明の炭化水素類合成用触媒に用いられるNi含有Al2O3粒子及びNi含有TiO2粒子としては、NiとAl2O3又はTiO2とを含有するNi含有酸化物粒子であれば特に制限はなく、例えば、Al2O3粒子又はTiO2粒子の表面にNiが担持したものであっても、Al2O3粒子又はTiO2粒子の内部にNiが包含されたものであってもよい。また、このようなNi含有酸化物粒子は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0025】
前記Ni含有酸化物粒子におけるNiは、低温でのCO2還元活性に優れたものである。このようなNiをAl2O3粒子又はTiO2粒子の表面に担持又は内部に包含させることによって、反応温度が低い場合でもCO2の還元反応が進行してCOが生成し、さらに、このCOとH2とが反応してCHx中間種が生成するため、CHx中間種の連鎖成長反応が促進され、C2以上の炭化水素類の生成量が増加する。このため、前記Na含有CoO粒子に前記Ni含有Al2O3粒子及びNi含有TiO2粒子のうちの少なくとも一方のNi含有酸化物粒子を配合することによって、低い反応温度でも、CO2とH2とからC2以上の炭化水素類を高収率で合成することが可能となる。
【0026】
一方、NiをCeO2粒子やZrO2粒子の表面に担持又は内部に包含させた場合には、低い反応温度でCO2の還元反応が進行してCOが生成するものの、このCOがH2と反応してCH4が生成するため、CHx中間種の生成量が減少する。その結果、CHx中間種の連鎖成長反応が起こりにくくなり、C2以上の炭化水素類の生成量が減少する。このため、前記Na含有CoO粒子にNi含有CeO2粒子やNi含有ZrO2粒子を配合した場合には、低い反応温度でCO2とH2とからC2以上の炭化水素類を合成できるものの、その収率は非常に低くなる。
【0027】
本発明に用いられる前記Ni含有酸化物粒子において、このようなNiは、還元雰囲気においてメタル状態になるものであれば、金属ニッケル、酸化ニッケル、ニッケルの塩(例えば、炭酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル、硫酸ニッケル)等のいずれの状態であってもよい。
【0028】
前記Ni含有酸化物粒子におけるNiの割合としては、前記Ni含有酸化物粒子全体に対して、5~40質量%が好ましく、10~30質量%がより好ましく、15~25質量%が更に好ましい。Niの割合が前記下限未満になると、Niによる触媒作用が十分に発現せず、低い反応温度でCO2とH2とからC2以上の炭化水素類を合成することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、低い反応温度でCO2とH2とからC2以上の炭化水素類を合成できるものの、その収率は非常に低くなる傾向にある。
【0029】
このようなNi含有酸化物粒子の調製方法としては特に制限はなく、公知の含浸法や共沈法を採用することができる。例えば、公知の方法により調製したAl2O3粒子又はTiO2粒子を、ニッケルの塩(例えば、炭酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル、硫酸ニッケル)を含有する水溶液に浸漬して、前記Al2O3粒子又はTiO2粒子に前記ニッケルの塩の水溶液を含浸させた後、乾燥、焼成することによって、Ni担持Al2O3粒子又はNi担持TiO2粒子を調製することができる。また、アルミニウム又はチタンの塩(例えば、炭酸塩、硝酸塩、塩化物、硫酸塩)とニッケルの塩(例えば、炭酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル、硫酸ニッケル)とを含有する水溶液にアルカリ(例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム)を滴下してアルミニウム化合物又はチタン化合物とニッケル化合物とを共沈させた後、水を蒸発させ、得られた共沈物を乾燥し、さらに焼成することによって、Ni含有Al2O3粒子又はNi含有TiO2粒子を調製してもよい。
【0030】
本発明の炭化水素類合成用触媒は、前記Na含有CoO粒子と、前記Ni含有Al2O3粒子及び前記Ni含有TiO2粒子のうちの少なくとも一方のNi含有酸化物粒子とを含有するものである。本発明の炭化水素類合成用触媒において、前記Na含有CoO粒子の含有量としては、70~98質量%が好ましく、75~95質量%がより好ましく、80~95質量%が更に好ましく、80~93質量%が特に好ましく、85~93質量%が最も好ましい。また、前記Ni含有酸化物粒子の含有量としては、2~30質量%が好ましく、5~25質量%がより好ましく、5~20質量%が更に好ましく、7~20質量%が特に好ましく、7~15質量%が最も好ましい。前記Na含有CoO粒子の含有量が前記下限未満になる(すなわち、前記Ni含有酸化物粒子の含有量が前記上限を超える)と、前記Na含有CoO粒子の触媒作用が十分に発現せず、CO2とH2とからC2以上の炭化水素類を合成することが困難となる傾向にある。他方、前記Na含有CoO粒子の含有量が前記上限を超える(すなわち、前記Ni含有酸化物粒子の含有量が前記下限未満になる)と、前記Ni含有酸化物粒子の添加効果が十分に得られず、低い反応温度でCO2とH2とからC2以上の炭化水素類を合成することが困難となる傾向にある。
【0031】
本発明の炭化水素類合成用触媒の調製方法としては特に制限はなく、例えば、前記Na含有CoO粒子と、前記Ni含有Al2O3粒子及び前記Ni含有TiO2粒子のうちの少なくとも一方のNi含有酸化物粒子とを物理混合する方法が挙げられる。
【0032】
また、本発明の炭化水素類合成用触媒は、そのまま使用してもよいが、ゼオライト担体に担持して使用してもよい。これにより、炭化水素類合成用触媒の活性が向上する。前記ゼオライト担体としては、ZSM-5型、BEA型、モルデナイト型、Y型、L型、フェリエライト型、A型、X型等の各種ゼオライト担体が挙げられる。これらのゼオライト担体の中でも、炭化水素類合成用触媒の活性が高くなるという観点から、ZSM-5型ゼオライト担体、BEA型ゼオライト担体が好ましく、ZSM-5型ゼオライト担体がより好ましい。これらのゼオライト担体は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、本発明においては、前記ゼオライト担体として、イオン交換したゼオライト(例えば、HZSM-5型ゼオライト)を用いてもよい。
【0033】
このようなゼオライト担体においては、平均細孔径が0.4~2.0nmであることが好ましく、0.5~1.0nmであることがより好ましい。ゼオライト担体の平均細孔径が前記下限未満になると、炭化水素の連鎖成長空間が不十分となり、炭化水素の連鎖成長が起こりにくいため、C2以上の炭化水素類が形成されにくく、C2以上の炭化水素類の合成反応における触媒活性が低くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、生成した炭化水素の滞留時間が短く、炭化水素の連鎖成長が起こりにくいため、C2以上の炭化水素類が形成されにくく、C2以上の炭化水素類の合成反応における触媒活性が低くなる傾向にある。
【0034】
また、前記ゼオライト担体においては、SiとAlとのモル比がSi/Al=20~500であることが好ましく、24~350であることがより好ましい。Si/Al比が前記下限未満になると、ゼオライト担体中の炭素連鎖成長の活性サイトとして作用する酸性サイトの強度が低く、炭化水素の連鎖成長が起こりにくいため、C2以上の炭化水素類が形成されにくく、C2以上の炭化水素類の合成反応における触媒活性が低くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、ゼオライト担体中の炭素連鎖成長の活性サイトとして作用する酸性サイトの数が少なく、炭化水素の連鎖成長が起こりにくいため、C2以上の炭化水素類が形成されにくく、C2以上の炭化水素類の合成反応における触媒活性が低くなる傾向にある。
【0035】
〔炭化水素類の合成方法〕
次に、本発明の炭化水素類合成用触媒を用いた炭化水素類の合成方法について説明する。本発明の炭化水素類合成用触媒は、CO2及びH2を原料とする炭化水素類の合成方法に好適に用いることができる。この炭化水素類の合成方法においては、本発明の炭化水素類合成用触媒にCO2とH2とを含有する原料混合ガスを接触させる。これにより、CO2を原料としてC2以上の炭化水素類を効率よく合成することができる。
【0036】
このような炭化水素類の合成方法において、原料混合ガス中のH2とCO2との体積比(H2/CO2)としては2.0~4.0が好ましく、2.5~3.8がより好ましく、2.8~3.5が特に好ましい。また、原料混合ガス中のH2の含有量としては65~85体積%が好ましく、70~80体積%がより好ましく、73~78体積%が特に好ましい。原料混合ガス中のCO2の含有量としては15~35体積%が好ましく、20~30体積%がより好ましく、22~27体積%が特に好ましい。さらに、前記原料混合ガスには予め脱硫処理が施されていることが好ましい。これにより、硫黄被毒による前記炭化水素類合成用触媒の劣化を抑制することができる。
【0037】
また、このような炭化水素類の合成方法において、炭化水素類合成用触媒と原料混合ガスとを接触させる際の温度(水素化反応温度)としては、200~290℃が好ましく、220~285℃がより好ましく、240~280℃が更に好ましい。反応温度が前記下限未満になると、炭化水素類合成用触媒の活性が低くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、炭素鎖の成長反応の進行が抑制される傾向にある。
【0038】
また、本発明の炭化水素類合成用触媒を用いた炭化水素類の合成方法においては、常圧下で炭化水素類を合成することができるが、3.0MPa以下(好ましくは2.0MPa以下)の低加圧下で合成してもよい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
(調製例1)
イオン交換水に硝酸コバルト(II)六水和物(Co(NO3)2・6H2O、和光純薬工業株式会社製)を溶解して調製した硝酸コバルト水溶液に、得られるNa含有CoO触媒粒子におけるNa含有量が15.5質量%、Co含有量が84.5質量%となるように、炭酸ナトリウム(Na2CO3、和光純薬工業株式会社製)を添加した。その後、水溶液のpHが3.0になるように、攪拌しながら硝酸(HNO3、和光純薬工業株式会社製)を滴下した。得られた水溶液を攪拌しながら加熱して水を蒸発させ、析出物を110℃で12時間乾燥させた後、500℃で5時間焼成してNa含有CoO触媒粒子を得た。
【0041】
(調製例2)
イオン交換水に硝酸ニッケル六水和物(Ni(NO3)2・6H2O、和光純薬工業株式会社製)を溶解して調製した硝酸ニッケル水溶液に、得られるNi含有Al2O3触媒粒子におけるNi含有量が20質量%、Al2O3含有量が80質量%となるように、Al2O3粒子(Grace Davison社製「MI-307」)を添加した。得られた水溶液を攪拌しながら加熱して水を蒸発させ、析出物を110℃で12時間乾燥させた後、500℃で5時間焼成してNi含有Al2O3触媒粒子を得た。
【0042】
(調製例3)
Al2O3粒子の代わりに、TiO2粒子(石原産業株式会社製「CR-EL」)を用いた以外は調製例2と同様にして、Niを20質量%含有するNi含有TiO2触媒粒子を得た。
【0043】
(比較調製例1)
得られるNiO-CeO2共沈触媒粒子におけるNiO含有量が50質量%、CeO2含有量が50質量%となるように、イオン交換水に硝酸ニッケル六水和物(Ni(NO3)2・6H2O、和光純薬工業株式会社製)と硝酸セリウム六水和物(Ce(NO3)3・6H2O、和光純薬工業株式会社製)とを溶解して調製した混合水溶液に、攪拌しながら、Ni及びCeがNi(OH)2及びCe(OH)4として沈殿するのに必要な量の1.2倍の炭酸ナトリウム(Na2CO3、和光純薬工業株式会社製)水溶液を30分掛けて滴下した後、70℃で1時間加熱した。得られた共沈物を濾過により回収し、60℃の温水で洗浄した。この濾過・洗浄操作を合計7回繰り返して共沈物からNa+を除去し、精製した共沈物を110℃で12時間乾燥させた後、450℃で2時間焼成してNiO-CeO2共沈触媒粒子を得た。
【0044】
(比較調製例2)
Al2O3粒子の代わりに、ZrO2粒子(第一稀元素化学工業株式会社製「RC-100」を用いた以外は調製例2と同様にして、Niを20質量%含有するNi含有ZrO2触媒粒子を得た。
【0045】
(実施例1)
調製例1で得られたNa含有CoO触媒粒子0.2gと調製例2で得られたNi含有Al2O3触媒粒子0.02gとを混合して炭化水素類合成用触媒(E1)を調製した。
【0046】
(実施例2)
調製例1で得られたNa含有CoO触媒粒子0.2gと調製例3で得られたNi含有TiO2触媒粒子0.02gとを混合して炭化水素類合成用触媒(E2)を調製した。
【0047】
(比較例1)
調製例1で得られたNa含有CoO触媒粒子のみを炭化水素類合成用触媒(C1)として使用した。
【0048】
(比較例2)
比較調製例1で得られたNiO-CeO2共沈触媒粒子のみを炭化水素類合成用触媒(C2)として使用した。
【0049】
(比較例3)
調製例1で得られたNa含有CoO触媒粒子0.2gと比較調製例1で得られたNiO-CeO2共沈触媒粒子0.02gとを混合して炭化水素類合成用触媒(C3)を調製した。
【0050】
(比較例4)
調製例1で得られたNa含有CoO触媒粒子0.2gと比較調製例2で得られたNi含有ZrO2触媒粒子0.02gとを混合して炭化水素類合成用触媒(C4)を調製した。
【0051】
<触媒性能評価試験>
得られた炭化水素類合成用触媒0.2gを固定床触媒評価装置のステンレス管に充填し、これに水素含有ガス(H
2(10%)+He(90%))を流量20ml/分で流通させながら400℃で60分間加熱して還元前処理を行い、その後、触媒を100℃まで放冷した。この還元前処理後の触媒に原料混合ガス(CO
2(10%)+H
2(30%)+He(60%))を流量20ml/分で流通させながら昇温速度5℃/分で100℃から400℃まで昇温した。この間の触媒出ガス中のCO
2及び生成した炭化水素類についてガス分析計(株式会社アルバック製「Qulee BGM-202」)を用いて質量分析を行った。
図1には各触媒温度におけるCO
2転化率を示す。また、
図2~
図5には各触媒温度における生成した炭化水素類(CH
4、C
2~C
4)の質量分析強度を示す。
【0052】
図1に示したように、Na含有CoO触媒粒子にNi含有Al
2O
3触媒粒子、Ni含有TiO
2触媒粒子、NiO-CeO
2共沈触媒粒子又はNi含有ZrO
2触媒粒子を配合した炭化水素類合成用触媒(E1~E2及びC3~C4)を用いた場合には、Na含有CoO触媒粒子のみからなる炭化水素類合成用触媒(C1)を用いた場合に比べて、CO
2転化率が高くなることがわかった。また、250~400℃の温度範囲においては、NiO-CeO
2共沈触媒粒子のみからなる炭化水素類合成用触媒(C2)のCO
2転化率が他の炭化水素類合成用触媒(E1~E2及びC1、C3~C4)に比べて高くなることがわかった。
【0053】
図2に示したように、Na含有CoO触媒粒子にNi含有Al
2O
3触媒粒子、Ni含有TiO
2触媒粒子、NiO-CeO
2共沈触媒粒子又はNi含有ZrO
2触媒粒子を配合した炭化水素類合成用触媒(E1~E2及びC3~C4)を用いた場合には、Na含有CoO触媒粒子のみからなる炭化水素類合成用触媒(C1)を用いた場合に比べて、CH
4生成量が増加することがわかった。また、NiO-CeO
2共沈触媒粒子のみからなる炭化水素類合成用触媒(C2)を用いた場合には、他の炭化水素類合成用触媒(E1~E2及びC1、C3~C4)を用いた場合に比べて、CH
4生成量が多くなることがわかった。
【0054】
図3~
図5に示したように、Na含有CoO触媒粒子にNi含有Al
2O
3触媒粒子、Ni含有TiO
2触媒粒子、NiO-CeO
2共沈触媒粒子又はNi含有ZrO
2触媒粒子を配合した炭化水素類合成用触媒(E1~E2及びC3~C4)或いはNiO-CeO
2共沈触媒粒子のみからなる炭化水素類合成用触媒(C2)を用いた場合には、Na含有CoO触媒粒子のみからなる炭化水素類合成用触媒(C1)を用いた場合に比べて、C
2~C
4炭化水素の生成量が最大となる温度が35℃以上低くなることがわかった。また、Na含有CoO触媒粒子にNi含有Al
2O
3触媒粒子又はNi含有TiO
2触媒粒子を配合した炭化水素類合成用触媒(E1~E2)を用いた場合には、Na含有CoO触媒粒子にNiO-CeO
2共沈触媒粒子又はNi含有ZrO
2触媒粒子を配合した炭化水素類合成用触媒(C3~C4)或いはNiO-CeO
2共沈触媒粒子のみからなる炭化水素類合成用触媒(C2)を用いた場合に比べて、C
2~C
4炭化水素の生成量が非常に多くなることがわかった。
【0055】
以上の結果から、Na含有CoO触媒粒子にNi含有Al2O3触媒粒子又はNi含有TiO2触媒粒子を配合した炭化水素類合成用触媒を用いることによって、290℃以下の反応温度でも高収率でCO2とH2とからC2以上の炭化水素類を製造できることが確認された。
【0056】
一方、Na含有CoO触媒粒子のみからなる炭化水素類合成用触媒を用いる場合、CO2とH2とから高収率でC2以上の炭化水素類を製造するためには、反応温度を300℃以上に設定する必要があることがわかった。
【0057】
また、Na含有CoO触媒粒子にNiO-CeO2共沈触媒粒子又はNi含有ZrO2触媒粒子を配合した炭化水素類合成用触媒或いはNiO-CeO2共沈触媒粒子のみからなる炭化水素類合成用触媒を用いた場合には、CO2とH2とから高収率でC2以上の炭化水素類を製造することは困難であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上説明したように、本発明によれば、290℃以下の反応温度でもCO2とH2とからC2以上の炭化水素類を効率よく製造することが可能となる。したがって、本発明の炭化水素類合成用触媒は、CO2とH2とからC2以上の炭化水素類を製造するための触媒として有用である。