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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】歯の漂白用組成物及び歯の漂白方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/23 20060101AFI20221031BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20221031BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20221031BHJP
   A61K 8/24 20060101ALI20221031BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20221031BHJP
   A61K 8/20 20060101ALI20221031BHJP
   A61K 8/19 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
A61K8/23
A61Q11/00
A61K8/02
A61K8/24
A61K8/36
A61K8/20
A61K8/19
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2018160861
(22)【出願日】2018-08-29
(65)【公開番号】P2020033296
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】502124248
【氏名又は名称】リジェンティス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100107799
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 希子
(72)【発明者】
【氏名】柴 肇一
(72)【発明者】
【氏名】川添 祐美
(72)【発明者】
【氏名】野口 直樹
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-536935(JP,A)
【文献】特開2017-222528(JP,A)
【文献】特開2015-155363(JP,A)
【文献】特開平02-056406(JP,A)
【文献】特開平03-164402(JP,A)
【文献】特開2015-098487(JP,A)
【文献】国際公開第2017/109889(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
C01B 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜塩素酸又はその塩を含む漂白剤前駆体(I)と、その水溶液が酸性を示す物質を含む酸性化剤(II)と、その水溶液が塩基性を示す物質を含む中和用剤(III)とを含み、漂白剤前駆体(I)、酸性化剤(II)及び中和用剤(III)の各々は、水を含有するものであってもよく、漂白剤前駆体(I)と酸性化剤(II)の両者が水を含有しない場合は、水性液体調製用液剤(IV)をも含み、漂白剤前駆体(I)及び酸性化剤(II)は、漂白剤前駆体(I)と酸性化剤(II)の少なくとも一方が水を含有する場合にはそれらの混合物A1が、漂白剤前駆体(I)と酸性化剤(II)の両者が水を含有しない場合には漂白剤前駆体(I)と酸性化剤(II)と水性液体調製用液剤(IV)との混合物A2が1.5乃至5.0のpHを示す比率で存在し、漂白剤前駆体(I)及び/又は酸性化剤(II)が、プラチナ・ナノコロイドをも含有し、混合物A1又はA2の量に対して、プラチナ・ナノコロイド中のプラチナの量が0.00008乃至0.00080w/v%であり、中和用剤(III)は、混合物A1又はA2に中和用剤(III)を添加して得られる混合物Bが4.0乃至8.0のpHを示す比率で存在し、漂白剤前駆体(I)、酸性化剤(II)及び中和用剤(III)の各々が、又は水性液体調製用液剤(IV)が存在する場合には漂白剤前駆体(I)、酸性化剤(II)、中和用剤(III)及び水性液体調製用液剤(IV)の各々が、相互に物理的に隔離された状態に保持されてなることを特徴とする歯の漂白用組成物。
【請求項2】
漂白剤前駆体(I)、酸性化剤(II)及び中和用剤(III)が、各々水性液体の形態で存在する、請求項1に記載の歯の漂白用組成物。
【請求項3】
漂白剤前駆体(I)、酸性化剤(II)及び中和用剤(III)の中の少なくとも一種がゲル状であるか、又は、混合物A1、混合物A2若しくは混合物Bがゲル状となる、請求項1に記載の歯の漂白用組成物。
【請求項4】
その水溶液が酸性を示す物質が、リン酸類、クエン酸及び硫酸、並びにそれらの塩類からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の歯の漂白用組成物。
【請求項5】
その水溶液が酸性を示す物質が、縮合リン酸類及びそれらの塩類からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の歯の漂白用組成物。
【請求項6】
その水溶液が酸性を示す物質が、ウルトラリン酸又はその塩である、請求項5に記載の歯の漂白用組成物。
【請求項7】
漂白剤前駆体(I)中の亜塩素酸又はその塩の量が、歯の漂白用組成物全量に対して0.03乃至15w/v%となる量である、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の歯の漂白用組成物。
【請求項8】
亜塩素酸又はその塩を含む漂白剤前駆体(I)とその水溶液が酸性を示す物質を含む酸性化剤(II)であって、漂白剤前駆体(I)と酸性化剤(II)の中の少なくとも一方が水性液体であるものを混合し、1.5乃至5.0のpHを示す混合物A1を得る工程(1-1)、又は、固体の亜塩素酸塩を含む漂白剤前駆体(I´)、固体のその水溶液が酸性を示す物質を含む酸性化剤(II´)及び水性液体調製用液剤(IV)を混合し、1.5乃至5.0のpHを示す混合物A2を得る工程(1-2)、得られた混合物A1又はA2を1乃至30分間放置する工程(2)、放置後の混合物A1又はA2とその水溶液が塩基性を示す物質を含む中和用剤(III)とを混合し、4.0乃至8.0のpHを示す混合物Bを得る工程(3)、及び混合物Bを歯に接触させる工程(4)を含み、工程(1-1)が、さらにプラチナ・ナノコロイド液体を添加し、プラチナ・ナノコロイドを含有する混合物A1を得る工程であり、混合物A1の量に対して、プラチナ・ナノコロイド中のプラチナの量が0.00008乃至0.00080w/v%であり、工程(1-2)が、さらにプラチナ・ナノコロイド液体を添加し、プラチナ・ナノコロイドを含有する混合物A2を得る工程であり、混合物A2の量に対して、プラチナ・ナノコロイド液体中のプラチナの量が0.00008乃至0.00080w/v%である、美容用の歯の漂白方法。
【請求項9】
漂白剤前駆体(I)、酸性化剤(II)及び中和用剤(III)が、各々水性液体の形態
で存在する、請求項8に記載の美容用の歯の漂白方法。
【請求項10】
漂白剤前駆体(I)、酸性化剤(II)及び中和用剤(III)の中の少なくとも一種がゲル状であるか、又は、混合物A1、混合物A2若しくは混合物Bがゲル状となる、請求項8に記載の美容用の歯の漂白方法。
【請求項11】
その水溶液が酸性を示す物質が、リン酸類、クエン酸及び硫酸、並びにそれらの塩類からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項8乃至10のいずれか一項に記載の美容用の歯の漂白方法。
【請求項12】
その水溶液が酸性を示す物質が、縮合リン酸類及びそれらの塩類からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項8乃至10のいずれか一項に記載の美容用の歯の漂白方法。
【請求項13】
その水溶液が酸性を示す物質が、ウルトラリン酸又はその塩である、請求項12に記載の美容用の歯の漂白方法。
【請求項14】
漂白剤前駆体(I)中の亜塩素酸又はその塩の量が、歯の漂白用組成物全量に対して0.03乃至15w/v%となる量であるか、又は、漂白剤前駆体(I´)中の亜塩素酸塩の量が、歯の漂白用組成物全量に対して0.03乃至15w/v%となる量である、請求項8乃至13のいずれか一項に記載の美容用の歯の漂白方法。
【請求項15】
工程(2)を20乃至60℃にて行う、請求項8乃至14のいずれか一項に記載の美容用の歯の漂白方法。
【請求項16】
工程(4)の終了時点が、工程(3)の終了後30分以内である、請求項8乃至15のいずれか一項に記載の美容用の歯の漂白方法。
【請求項17】
固体の亜塩素酸塩を含む漂白剤前駆体(I´)と、固体のその水溶液が酸性を示す物質を含む酸性化剤(II´)と、固体のその水溶液が塩基性を示す物質を含む中和用剤(III´)とを含み、漂白剤前駆体(I´)及び酸性化剤(II´)は、これらを含有する水性液体Cが、1.5乃至5.0のpHを示す比率で存在し、漂白剤前駆体(I´)及び/又は酸性化剤(II´)が、プラチナ・ナノコロイドをも含有し、水性液体Cの量に対して、プラチナ・ナノコロイド中のプラチナの量が0.00008乃至0.00080w/v%であり、中和用剤(III´)は、水性液体Cに中和用剤(III´)を添加して得られる水性液体Dが、4.0乃至8.0のpHを示す比率で存在し、漂白剤前駆体(I´)、酸性化剤(II´)及び中和用剤(III´)は、各々が相互に物理的に隔離された状態に保持されてなることを特徴とする歯の漂白用組成物。
【請求項18】
その水溶液が酸性を示す物質が、リン酸類、クエン酸及び硫酸、並びにそれらの塩類からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項17に記載の歯の漂白用組成物。
【請求項19】
その水溶液が酸性を示す物質が、縮合リン酸類及びそれらの塩類からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項17に記載の歯の漂白用組成物。
【請求項20】
その水溶液が酸性を示す物質が、ウルトラリン酸又はその塩である、請求項19に記載の歯の漂白用組成物。
【請求項21】
固体の亜塩素酸塩を含む漂白剤前駆体(I´)と、固体のその水溶液が酸性を示す物質を含む酸性化剤(II´)とを、水性液体中で混合し、1.5乃至5.0のpHを示す水性液体Cを得る工程(1´)、得られた水性液体Cを1乃至30分間放置する工程(2´)、放置後の水性液体Cと固体の中和用剤(III´)とを混合し、4.0乃至8.0のp
Hを示す水性液体Dを得る工程(3´)、及び水性液体Dを歯に接触させる工程(4´)を含み、工程(1´)が、さらにプラチナ・ナノコロイド液体を添加し、プラチナ・ナノコロイドを含有する水性液体Cを得る工程であり、水性液体Cの量に対して、プラチナ・ナノコロイド液体中のプラチナの量が0.00008乃至0.00080w/v%である、美容用の歯の漂白方法。
【請求項22】
その水溶液が酸性を示す物質が、リン酸類、クエン酸及び硫酸、並びにそれらの塩類からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項21に記載の美容用の歯の漂白方法。
【請求項23】
その水溶液が酸性を示す物質が、縮合リン酸類及びそれらの塩類からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項21に記載の美容用の歯の漂白方法。
【請求項24】
その水溶液が酸性を示す物質が、ウルトラリン酸又はその塩である、請求項23に記載の美容用の歯の漂白方法。
【請求項25】
水性液体Cの調製時に、漂白剤前駆体(I´)中の亜塩素酸塩の量が水性液体Dに対して0.03乃至15w/v%となる量の水性液体を使用する、請求項21乃至24のいずれか一項に記載の美容用の歯の漂白方法。
【請求項26】
工程(2´)を20乃至60℃にて行う、請求項21乃至25のいずれか一項に記載の美容用の歯の漂白方法。
【請求項27】
工程(4´)の終了時点が、工程(3´)の終了後30分以内である、請求項21乃至26のいずれか一項に記載の美容用の歯の漂白方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜塩素酸又はその塩を含有する歯の漂白用組成物及びその漂白用組成物を使用する歯の漂白方法、例えば美容用の歯の漂白方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、歯のホワイトニングには、過酸化水素や過酸化尿素等の酸素系漂白剤が用いられている。しかし、これらの酸素系漂白剤を用いたホワイトニングで有効な効果を得るためには、通常、8乃至10分間の処理を3回行うこと、即ち、合計で約30分間以上の処理時間が必要であり、数時間を要する場合もあった。
【0003】
日本において食品添加物としての使用が許可されている亜塩素酸ナトリウムを用いた歯の漂白方法が、特許文献1及び2に開示されている。特許文献1によると、亜塩素酸ナトリウムを酸味料と接触させて二酸化塩素を生じさせ、その二酸化塩素によって歯を漂白するのである。しかし、特許文献1に記載の方法では、酸性状態で漂白を行うため、歯の脱灰を促進してしまうという問題がある。
【0004】
特許文献2の図1には、亜塩素酸ナトリウムにクエン酸/クエン酸ナトリウム緩衝液を加えて系のpHを低下させても、二酸化塩素はわずかしか生成されなかった旨が、また図1及び図3には、クエン酸/クエン酸ナトリウム緩衝液の代わりに無水コハク酸及びコハク酸二ナトリウムを加えると、二酸化塩素が生成され且つ漂白効果が得られた旨が記載されている。後者の実施例では、亜塩素酸ナトリウムに弱塩基性(5%水溶液のpHが7.0乃至9.0)のコハク酸二ナトリウムを先に加え、その後、使用直前に無水コハク酸を加えている。
【0005】
また、特許文献1及び2のいずれも、使用の直前まで、亜塩素酸ナトリウムと酸味料又は有機酸無水物とを、物理的に相互に隔離した状態に保持する旨を教示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2000-516221
【文献】特表2009-536935
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、歯を脱灰することなく、高効率で、即ち、短時間で歯のホワイトニングを実施できる歯の漂白用組成物及びその漂白用組成物を用いる歯の漂白方法、例えば美容用の歯の漂白方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第一発明は、亜塩素酸又はその塩を含む漂白剤前駆体(I)と、その水溶液が酸性を示す物質を含む酸性化剤(II)と、その水溶液が塩基性を示す物質を含む中和用剤(III)とを含み、漂白剤前駆体(I)、酸性化剤(II)及び中和用剤(III)の各々は、水を含有するものであってもよく、漂白剤前駆体(I)と酸性化剤(II)の両者が水を含有しない場合は、水性液体調製用液剤(IV)をも含み、漂白剤前駆体(I)及び酸性化剤(II)は、漂白剤前駆体(I)と酸性化剤(II)の少なくとも一方が水を含有する場合にはそれらの混合物A1が、漂白剤前駆体(I)と酸性化剤(II)の両者が水を含有しない場合には漂白剤前駆体(I)と酸性化剤(II)と水性液体調製用液剤(IV)との混合物A2が1.5乃至5.0のpHを示す比率で存在し、中和用剤(III)は、混合物A1又はA2に中和用剤(III)を添加して得られる混合物Bが4.0乃至8.0のpHを示す比率で存在し、漂白剤前駆体(I)、酸性化剤(II)及び中和用剤(III)の各々が、又は水性液体調製用液剤(IV)が存在する場合には漂白剤前駆体(I)、酸性化剤(II)、中和用剤(III)及び水性液体調製用液剤(IV)の各々が、相互に物理的に隔離された状態に保持されてなることを特徴とする歯の漂白用組成物に関する。
【0009】
漂白剤前駆体(I)、酸性化剤(II)及び中和用剤(III)は、各々、水性液体や固体の形態をとり得る。
【0010】
「水性液体の形態で存在する」とは、水溶液、生理食塩水溶液、緩衝剤水溶液、水性懸濁液、水性ゲル等の形態をとっていることをいう。漂白剤前駆体(I)、酸性化剤(II)、及び中和用剤(III)のいずれもが水性液体の形態で存在する場合、本発明の組成物は、例えば、亜塩素酸又はその塩を含む塩基性水溶液(Ia)と、酸性水溶液(IIa)と、中和用水溶液(IIIa)とを含み、塩基性水溶液(Ia)と酸性水溶液(IIa)は、それらの混合物、即ち、混合液体A1aが、1.5乃至5.0のpHを示す比率で存在し、中和用水溶液(IIIa)は、混合液体A1aに中和用水溶液(IIIa)を添加して得られる混合物、即ち、混合液体Baが、4.0乃至8.0のpHを示す比率で存在し、塩基性水溶液(Ia)、酸性水溶液(IIa)及び中和用水溶液(IIIa)が個別に封入されてなることを特徴とする。
【0011】
漂白剤前駆体(I)、酸性化剤(II)及び中和用剤(III)の中の少なくとも一種がゲル状である態様、漂白剤前駆体(I)と酸性化剤(II)とを混合することによって得られる混合物A1がゲル状となる態様、漂白剤前駆体(I)と酸性化剤(II)と水性液体調製用液剤(IV)とを混合することによって得られる混合物A2がゲル状となる態様、及び、混合物A1若しくはA2と中和用剤(III)を混合することによって得られる混合物Bがゲル状となる態様も、第一発明に包含される。
【0012】
また、第二発明は、亜塩素酸又はその塩を含む漂白剤前駆体(I)とその水溶液が酸性を示す物質を含む酸性化剤(II)であって、漂白剤前駆体(I)と酸性化剤(II)の中の少なくとも一方が水性液体であるものを混合し、1.5乃至5.0のpHを示す混合物A1を得る工程(1-1)、又は、固体の亜塩素酸塩を含む漂白剤前駆体(I´)、固体のその水溶液が酸性を示す物質を含む酸性化剤(II´)及び水性液体調製用液剤(IV)を混合し、1.5乃至5.0のpHを示す混合物A2を得る工程(1-2)、得られた混合物A1又はA2を1乃至30分間放置する工程(2)、放置後の混合物A1又はA2とその水溶液が塩基性を示す物質を含む中和用剤(III)とを混合し、4.0乃至8.0のpHを示す混合物Bを得る工程(3)、及び混合物Bを歯に接触させる工程(4)を含む、美容用の歯の漂白方法に関する。
【0013】
漂白剤前駆体(I)、酸性化剤(II)及び中和用剤(III)のいずれもが水性液体の形態で存在する場合、第二発明の歯の漂白方法は、亜塩素酸又はその塩を含む塩基性水溶液(Ia)と酸性水溶液(IIa)とを混合し、1.5乃至5.0のpHを示す混合物、即ち、混合液体A1aを得る工程(1a)、得られた混合液体A1aを1乃至30分間放置する工程(2a)、放置後の混合液体A1aと中和用水溶液(IIIa)とを混合し、4.0乃至8.0のpHを示す混合物、即ち、混合液体Baを得る工程(3a)、及び混合液体Baを歯に接触させる工程(4a)を含む。
【0014】
混合物Bを歯に接触させる工程(4)又は混合液体Baを歯に接触させる工程(4a)は、混合物B又は混合液体Baを歯に塗布する、混合物B又は混合液体Baを浸漬させたもの、例えばろ紙やスポンジや布を、歯に貼り付ける、等の方法によって実施できる。混合物Bがたれ落ちない程度の粘度を有するゲルである場合には、上下二つのU字型トレー内に当該ゲルを入れ、当該ゲル入りU字型トレーを噛むことにより、上下の歯を同時に漂白することができる。
【0015】
漂白剤前駆体(I)中の亜塩素酸又はその塩の量は、混合物B、即ち、歯の漂白用組成物全量に対して、0.03乃至15w/v%となる量であることが好ましい。
【0016】
第三発明は、固体の亜塩素酸塩を含む漂白剤前駆体(I´)と、固体のその水溶液が酸性を示す物質を含む酸性化剤(II´)と、固体のその水溶液が塩基性を示す物質を含む中和用剤(III´)とを含み、漂白剤前駆体(I´)及び酸性化剤(II´)は、これらを含有する水性液体Cが、1.5乃至5.0のpHを示す比率で存在し、中和用剤(III´)は、水性液体Cに中和用剤(III´)を添加して得られる水性液体Dが、4.0乃至8.0のpHを示す比率で存在し、漂白剤前駆体(I´)、酸性化剤(II´)及び中和用剤(III´)は、各々が相互に物理的に隔離された状態に保持されてなることを特徴とする歯の漂白用組成物に関する。第三発明の歯の漂白用組成物は、水性液体が添加されて使用される。
【0017】
第四発明は、固体の亜塩素酸塩を含む漂白剤前駆体(I´)と、固体のその水溶液が酸性を示す物質を含む酸性化剤(II´)とを、水性液体中で混合し、1.5乃至5.0のpHを示す水性液体Cを得る工程(1´)、得られた水性液体Cを1乃至30分間放置する工程(2´)、放置後の水性液体Cと固体の中和用剤(III´)とを混合し、4.0乃至8.0のpHを示す水性液体Dを得る工程(3´)、及び水性液体Dを歯に接触させる工程(4´)を含む、美容用の歯の漂白方法に関する。
【0018】
水性液体Cを調製する際に使用する水性液体の量は、漂白剤前駆体(I´)中の亜塩素酸塩の量が、水性液体D、即ち、使用時の歯の漂白用組成物全量に対して、0.03乃至15w/v%となる量であることが好ましい。
【0019】
「その水溶液が酸性を示す物質」は、リン酸類、クエン酸及び硫酸、並びにそれらの塩類からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、縮合リン酸類及びそれらの塩類からなる群から選択される少なくとも一種であることがさらに好ましく、ウルトラリン酸又はその塩であることが特に好ましい。
【0020】
歯の漂白方法において、工程(2)、(2a)及び(2´)は、20乃至60℃にて行うことが好ましい。
【0021】
歯の漂白方法において、工程(4)、(4a)及び(4´)の終了時点は、それぞれ、工程(3)、(3a)及び(3´)の終了後30分以内であることが好ましい。
【0022】
本明細書及び特許請求の範囲において、pHは、25℃において測定したpH値を指す。
【0023】
本明細書及び特許請求の範囲において、「混合し」とは、主体的に混合する場合のみならず、自動的に混ざる場合をも包含する。「自動的に混ざる場合」とは、例えば、水溶液の形態の漂白剤前駆体(I)を、酸性化剤(II)が固定されているろ紙に含浸させることにより、酸性化剤(II)が水溶液の形態の漂白剤前駆体(I)に溶解するというような態様を指す。
【0024】
本発明の歯の漂白用組成物は、上記の及び発明を実施するための形態に記載された好ましい組成物における構成要件の任意の組合せを含み、また、本発明の歯の漂白方法は、上記の及び発明を実施するための形態に記載された好ましい方法における構成要件の任意の組合せを含む。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、歯を脱灰することなく、高効率で、即ち、短時間で、歯のホワイトニングを実施できるようになる。本発明により、飛躍的に高い歯の漂白効果が得られる。
【0026】
本発明により、自宅やエステティックサロンにおいても歯の漂白を実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、中和前の水溶液の時間経過による360nmにおける吸光度の推移を示すグラフである。
図2図2は、中和後の水溶液の時間経過による360nmにおける吸光度の推移を示すグラフである。
図3図3は、実施例10の表11に示した結果に対応するグラフであり、二酸化塩素の生成量や生成速度、並びにその経時安定性に対する加温及びウルトラリン酸ナトリウムの増量の影響を示している。
図4図4は、各種塩基性水溶液の添加量によるpHの変化を示すグラフである。
図5図5は、酸の種類による漂白率の相違を示すグラフである。
図6図6は、酸の種類による漂白率の相違を示すグラフである。
図7図7は、酸の種類による漂白率の相違を示すグラフである。
図8図8は、酸の種類による漂白率の相違を示すグラフである。
図9図9は、酸の種類による漂白率の相違を示すグラフである。
図10図10は、実施例19の表25に示した結果に対応するグラフであり、三種の亜塩素酸ナトリウム濃度における、プラチナ・ナノコロイドの二酸化塩素生成反応に対する触媒効果を示すグラフである。
図11図11は、実施例20の表26に示した結果に対応するグラフであり、二種の亜塩素酸ナトリウム濃度における、プラチナ・ナノコロイドの二酸化塩素生成反応に対する触媒効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
第一発明の歯の漂白用組成物は、亜塩素酸又はその塩を含む漂白剤前駆体(I)と、その水溶液が酸性を示す物質を含む酸性化剤(II)と、その水溶液が塩基性を示す物質を含む中和用剤(III)とを含み、漂白剤前駆体(I)と酸性化剤(II)の両者が水を含有しない場合は、水性液体調製用液剤(IV)をも含む。
【0029】
第三発明の歯の漂白用組成物は、固体の亜塩素酸塩を含む漂白剤前駆体(I´)と、固体のその水溶液が酸性を示す物質を含む酸性化剤(II´)と、固体のその水溶液が塩基性を示す物質を含む中和用剤(III´)とを含む。
【0030】
漂白剤前駆体(I)に含有される亜塩素酸は、無色の液体である。漂白剤前駆体(I)及び(I´)に含有される亜塩素酸塩の例としては、亜塩素酸ナトリウム(CAS:7758-19-2)、亜塩素酸カリウム及び亜塩素酸リチウム等の水溶性の亜塩素酸塩が挙げられる。亜塩素酸塩は、その中性の水溶液は比較的安定である。亜塩素酸ナトリウムの水溶液は、無色乃至淡黄色である。亜塩素酸ナトリウムには、無水塩と三水塩が存在する。無水塩は無色の結晶性粉末であり、水に易溶であり、その水溶液は、塩基性では光にあてない限り安定である。したがって、漂白剤前駆体(I)として、固体(例えば、粉末状)の亜塩素酸ナトリウム又はその塩基性水溶液を使用することが特に好ましい。また、本明細書において、「漂白剤前駆体(I´)」という場合には、固体のものを指す。
【0031】
酸性化剤(II)及び(II´)に含有される「その水溶液が酸性を示す物質」は、無機酸又はその塩でも、有機酸又はその塩でもよく、特に限定されない。「その水溶液が酸性を示す物質」の例としては、ギ酸、酢酸、アスコルビン酸、リン酸類、クエン酸、硫酸及び塩酸、並びにそれらの塩類、例えばアルカリ金属塩が挙げられる。これらの中で、リン酸類、クエン酸及び硫酸並びにそれらの塩類からなる群から選択される少なくとも一種を使用することが好ましい。また、リン酸類及びそれらの塩類の中で、縮合リン酸類及びそれらの塩類からなる群から選択される少なくとも一種を使用することがさらに好ましく、ウルトラリン酸又はその塩を使用することが特に好ましい。酸性化剤(II)においては、「その水溶液が酸性を示す物質」が結晶や粉末形態の場合には、そのまま使用してもよいし、水溶液として使用してもよい。また、本明細書において、「酸性化剤(II´)」という場合には、固体のものを指す。
【0032】
「縮合リン酸」とは、2個以上のリン酸(PO)四面体が酸素原子を共有するポリマー又はそのオキソ酸を意味する。「縮合リン酸」には、直鎖状構造を有する「ポリリン酸」、環状構造又は極めて長い直鎖状構造を有する「メタリン酸」、高度な枝分かれ状(網目状)構造を有する「ウルトラリン酸」が包含される。さらに、「ポリリン酸」には、「長鎖ポリリン酸」、「中鎖ポリリン酸」、「短鎖ポリリン酸」がある。ウルトラリン酸及び短鎖ポリリン酸には、酸性化剤としての効果に加えて、物理化学的に歯のエナメル質や象牙質に沈着した色素(ステイン)の除去及び沈着防止効果が認められている。
【0033】
第一発明の歯の漂白用組成物に含有される、亜塩素酸又はその塩を含む漂白剤前駆体(I)とその水溶液が酸性を示す物質を含む酸性化剤(II)は、各々、水を含有するもの、例えば、水溶液や水性ゲルであってよく、両者ともに水を含有しない場合には、第一発明の組成物は、水性液体調製用液剤(IV)をも含む。亜塩素酸又はその塩から漂白剤である二酸化塩素を生じさせるために、漂白剤前駆体(I)と酸性化剤(II)とを混合して水系の混合物A1を、又は、漂白剤前駆体(I)と酸性化剤(II)と水性液体調製用液剤(IV)とを混合して水系の混合物A2を調製する必要があるためである。
【0034】
第三発明の歯の漂白用組成物は、固体の亜塩素酸塩を含む漂白剤前駆体(I´)と、固体のその水溶液が酸性を示す物質を含む酸性化剤(II´)とを含有する。したがって、第三発明の歯の漂白用組成物を使用する際には、外部から水等の水性液体を供給して、水性液体Cを調製する。
【0035】
中和用剤(III)及び(III´)に含有される、「その水溶液が塩基性を示す物質」は、水溶性であり且つ酸を中和できるものであれば特に限定されない。「その水溶液が塩基性を示す物質」の例として、リン酸水素二ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、クエン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、アンモニア、アルギニン、及びエタノールアミン類が挙げられる。「その水溶液が塩基性を示す物質」は、二種以上の物質の混合物であってもよい。例えば、リン酸水素二ナトリウムと水酸化ナトリウムとの併用系である。中和用剤(III)は、水を含有するもの、例えば、水溶液や水性ゲルであってもよい。「その水溶液が塩基性を示す物質」が結晶や粉末形態等の固体である場合には、中和用剤(III)は、固体そのままであっても、そのような固体の水溶液であってもよい。また、本明細書において、「中和用剤(III´)」という場合には、固体のものを指す。
【0036】
第一発明において、水性液体調製用液剤(IV)は、漂白剤前駆体(I)や酸性化剤(II)を溶解・分散させるために使用される。水性液体調製用液剤(IV)は、水であってもよいし、生理食塩水や緩衝剤水溶液のような水を主体とする液体であってもよい。
【0037】
前記したように、漂白剤前駆体(I)、酸性化剤(II)、及び中和用剤(III)は、各々ゲル状であってもよい。これらをゲル状とするために使用されるゲル化剤の例としては、食品添加物として使用されている増粘多糖類、例えば、カルボキシメチルセルロース(cmc)、cmcのナトリウム塩、cmcのカルシウム塩、キサンタンガム、グァーガム、ジェランガム、カラギーナン、ペクチン、ローカストビーンガム、カードラン、寒天、グルコマンナン、アルギン酸等が挙げられる。
【0038】
また、漂白剤前駆体(I)と酸性化剤(II)とを混合することによって得られる混合物A1がゲル状であり、又は、漂白剤前駆体(I)と酸性化剤(II)と水性液体調製用液剤(IV)とを混合することによって得られる混合物A2がゲル状であり、又は、混合物A1若しくはA2と中和用剤(III)を混合することによって得られる混合物Bがゲル状であるような態様も、第一発明に包含される。例えば、漂白剤前駆体(I)がカルシウムイオンを含有し、酸性化剤(II)がLMペクチンを含有する場合、それらの混合物はゲル状となる。
【0039】
第一及び第三発明の歯の漂白用組成物は、前記した必須成分のほかに、本発明によって得られる効果を損ねない限り、他の任意成分をも含有していてもよい。それらの任意成分は、漂白剤前駆体(I)、酸性化剤(II)、中和用剤(III)及び水性液体調製用液剤(IV)のいずれに含有されていてもよく、漂白剤前駆体(I´)、酸性化剤(II´)及び中和用剤(III´)のいずれに含有されていてもよく、あるいは、これらとは別途に提供されてもよい。任意成分の例としては、プラチナ・ナノコロイド、二酸化チタン、塩化白金酸、酸化コバルト、追加の水等が挙げられる。
【0040】
第一発明の歯の漂白用組成物において、漂白剤前駆体(I)と酸性化剤(II)は、それらの混合物A1が、又はそれらと水性液体調製用液剤(IV)との混合物A2が、1.5乃至5.0のpHを示す比率で、好ましくは1.5乃至4.5のpHを示す比率で、さらに好ましくは2.0乃至4.0のpHを示す比率で存在する。混合物A1又はA2がこのようなpHであると、亜塩素酸又はその塩から、漂白剤である二酸化塩素が効率よく発生する。なお、混合物A1及びA2は、本発明によって得られる効果を損ねない限り、任意成分をも含有していてもよい。
【0041】
また、第三発明の歯の漂白用組成物において、漂白剤前駆体(I´)と酸性化剤(II´)は、それらを含有する水性液体Cを調製した際に、1.5乃至5.0のpHを示す比率で、好ましくは1.5乃至4.5のpHを示す比率で、さらに好ましくは2.0乃至4.0のpHを示す比率で存在する。水性液体CがこのようなpHであると、亜塩素酸塩から、漂白剤である二酸化塩素が効率よく発生する。水性液体Cも、本発明によって得られる効果を損ねない限り、任意成分を含有していてもよい。
【0042】
第一発明の歯の漂白用組成物において、中和用剤(III)は、前記混合物A1又はA2に中和用剤(III)を添加して得られる混合物Bが4.0乃至8.0のpHを示す比率で、好ましくは5.0乃至8.0のpHを示す比率で、より好ましくは6.0乃至8.0のpHを示す比率で、さらにより好ましくは6.5乃至8.0のpHを示す比率で、さらにより好ましくは6.5乃至7.5のpHを示す比率で、特に好ましくは6.7乃至7.5のpHを示す比率で、特に好ましくは6.7乃至7.3のpHを示す比率で存在する。混合物Bが歯の漂白に使用されるが、混合液BのpHが4.0乃至8.0であると、歯の脱灰が生じ難い。混合物Bも、本発明によって得られる効果を損ねない限り、任意成分を含有していてもよい。
【0043】
第三発明の歯の漂白用組成物において、中和用剤(III´)は、水性液体Cに中和用剤(III´)を添加して得られる水性液体Dが4.0乃至8.0のpHを示す比率で、好ましくは5.0乃至8.0のpHを示す比率で、より好ましくは6.0乃至8.0のpHを示す比率で、さらにより好ましくは6.5乃至8.0のpHを示す比率で、さらにより好ましくは6.5乃至7.5のpHを示す比率で、特に好ましくは6.7乃至7.5のpHを示す比率で、特に好ましくは6.7乃至7.3のpHを示す比率で存在する。水性液体Dが歯の漂白に使用されるが、水性液体DのpHが4.0乃至8.0であると、歯の脱灰が生じ難い。水性液体Dも、本発明によって得られる効果を損ねない限り、任意成分を含有していてもよい。
【0044】
漂白剤前駆体(I)中の亜塩素酸又はその塩の量は、混合物A1又はA2に対して0.05乃至20w/v%となる量であることが好ましく、0.08乃至15w/v%となる量であることがさらに好ましく、0.10乃至10w/v%となる量であることが特に好ましい。混合物A1又はA2中に、漂白効果を示す量の二酸化塩素が含有される必要があるからである。また、亜塩素酸又はその塩から発生し、水性液体中に溶けきらない二酸化塩素が気化するのは好ましくないからである。
【0045】
また、漂白剤前駆体(I)中の亜塩素酸又はその塩の量は、中和後の混合物B、即ち、本発明の歯の漂白用組成物の全量に対して、0.03乃至15w/v%となる量であることが好ましく、0.05乃至12w/v%となる量であることがさらに好ましく、0.08乃至10w/v%となる量であることが特に好ましく、0.10乃至10w/v%となる量であることが最も好ましい。使用時に、歯の漂白用組成物中に、漂白効果を示す量の二酸化塩素が含有される必要があるからである。
【0046】
上記した「亜塩素酸又はその塩の量」は、混合物A1若しくは混合物A2に、又は混合物Bに、実際に含有されている「亜塩素酸又はその塩の量」ではない。使用前の漂白剤前駆体(I)に含まれている「亜塩素酸又はその塩の量」である。亜塩素酸やその塩は、混合物A1又はA2中で分解し、それらの量は減少していくので、本発明においては、使用前の「亜塩素酸又はその塩の量」を、混合物A1若しくはA2の量や、歯の漂白用組成物の全量と対比させて特定している。
【0047】
漂白剤前駆体(I´)中の亜塩素酸塩の量は、水性液体Cに対して0.05乃至20w/v%となる量であることが好ましく、0.08乃至15w/v%となる量であることがさらに好ましく、0.10乃至10w/v%となる量であることが特に好ましい。水性液体C中に、漂白効果を示す量の二酸化塩素が含有される必要があるからである。また、亜塩素酸塩から発生し、水性液体C中に溶けきらない二酸化塩素が気化するのは好ましくないからである。
【0048】
また、漂白剤前駆体(I´)中の亜塩素酸塩の量は、中和後の混合物D、即ち、本発明の歯の漂白用組成物の全量に対して、0.03乃至15w/v%となる量であることが好ましく、0.05乃至12w/v%となる量であることがさらに好ましく、0.08乃至10w/v%となる量であることが特に好ましく、0.10乃至10w/v%となる量であることが最も好ましい。使用時に、歯の漂白用組成物中に、漂白効果を示す量の二酸化塩素が含有される必要があるからである。
【0049】
上記した「亜塩素酸塩の量」は、水性液体C又は水性液体Dに、実際に含有されている「亜塩素酸又はその塩の量」ではない。使用前の漂白剤前駆体(I´)に含まれている「亜塩素酸塩の量」である。亜塩素酸塩は、水性液体C中で分解し、それらの量は減少していくので、本発明においては、使用前の「亜塩素酸塩の量」を、水性液体Cの量や歯の漂白用組成物の全量と対比させて特定している。
【0050】
第一発明の歯の漂白用組成物は、漂白剤前駆体(I)、酸性化剤(II)及び中和用剤(III)の各々が、また、水性液体調製用液剤(IV)が存在する場合には、漂白剤前駆体(I)、酸性化剤(II)、中和用剤(III)及び水性液体調製用液剤(IV)の各々が、相互に物理的に隔離された状態に保持されている。歯の漂白を行う際に、これらは混合される。第三発明の歯の漂白用組成物は、漂白剤前駆体(I´)、酸性化剤(II´)及び中和用剤(III´)の各々が、相互に物理的に隔離された状態に保持されている。歯の漂白を行う際に、これらは混合される。
【0051】
「各々が相互に物理的に隔離された状態に保持されている」とは、例えば次のような状態を指す:
(1)漂白剤前駆体(I)、酸性化剤(II)及び中和用剤(III)の各々が、水溶液であり且つパウチの隔壁で三つの部分に分けられた各部分に封入されている状態;
(2)チューブの中に、漂白剤前駆体(I)、酸性化剤(II)及び中和用剤(III)が互いに接触しないように隔壁を隔てて封入されており、漂白剤前駆体(I)と酸性化剤(II)の中の一方が粉末等の固体であり、他方が水溶液であり、中和用剤(III)は固体でも水溶液でもよいという状態;
(3)漂白剤前駆体(I)、酸性化剤(II)及び中和用剤(III)の各々が、固体であり且つろ紙に固定されており、漂白剤前駆体(I)が固定されたろ紙と酸性化剤(II)が固定されたろ紙との間には、薬剤が固定されていないろ紙又はスポンジが存在し、漂白剤前駆体(I)(又は酸性化剤(II))が固定されたろ紙と中和用剤(III)が固定されたろ紙との間には、薬剤が固定されていないろ紙又はスポンジが存在し、水性液体調製用液剤(IV)は、別途パウチに封入されている状態;及び
(4)漂白剤前駆体(I´)、酸性化剤(II´)及び中和用剤(III´)の各々が、固体であり且つろ紙に固定されており、漂白剤前駆体(I´)が固定されたろ紙と酸性化剤(II´)が固定されたろ紙との間には、薬剤が固定されていないろ紙又はスポンジが存在し、漂白剤前駆体(I´)(又は酸性化剤(II´))が固定されたろ紙と中和用剤(III´)が固定されたろ紙との間には、薬剤が固定されていないろ紙又はスポンジが存在するという状態。
【0052】
第二発明の美容用の歯の漂白方法は、亜塩素酸又はその塩を含む漂白剤前駆体(I)とその水溶液が酸性を示す物質を含む酸性化剤(II)であって、漂白剤前駆体(I)と酸性化剤(II)の中の少なくとも一方が水性液体であるものを混合し、1.5乃至5.0のpHを示す混合物A1を得る工程(1-1)、又は、固体の亜塩素酸塩を含む漂白剤前駆体(I´)、固体のその水溶液が酸性を示す物質を含む酸性化剤(II´)及び水性液体調製用液剤(IV)を混合し、1.5乃至5.0のpHを示す混合物A2を得る工程(1-2)、得られた混合物A1又はA2を1乃至30分間放置する工程(2)、放置後の混合物A1又はA2と中和用剤(III)とを混合し、4.0乃至8.0のpHを示す混合物Bを得る工程(3)、及び混合物Bを歯に接触させる工程(4)を含む。
【0053】
第四発明の美容用の歯の漂白方法は、固体の亜塩素酸塩を含む漂白剤前駆体(I´)と、固体のその水溶液が酸性を示す物質を含む酸性化剤(II´)とを、水性液体中で混合し、1.5乃至5.0のpHを示す水性液体Cを得る工程(1´)、得られた水性液体Cを1乃至30分間放置する工程(2´)、放置後の水性液体Cと固体の中和用剤(III´)とを混合し、4.0乃至8.0のpHを示す水性液体Dを得る工程(3´)、及び水性液体Dを歯に接触させる工程(4´)を含む。
【0054】
工程(1-1)及び(1-2)は、酸性化剤(II)の存在により、亜塩素酸又はその塩を含む系を、pH1.5乃至5.0の酸性にする工程である。工程(1´)は、酸性化剤(II´)の存在により、亜塩素酸塩を含む系を、pH1.5乃至5.0の酸性にする工程である。pHは、1.5乃至4.5であることが好ましく、2.0乃至4.0であることがさらに好ましい。
【0055】
漂白剤前駆体(I)の量は、それに含有される亜塩素酸又はその塩の量が、混合物B、即ち、工程(3)で調製される歯の漂白用組成物の全量に対して、0.03乃至15w/v%となる量であることが好ましい。また、工程(1´)において使用する漂白剤前駆体(I´)及び水性液体の量は、混合物D、即ち、工程(3´)で調製される歯の漂白用組成物の全量に対して、漂白剤前駆体(I´)に由来する亜塩素酸の量が、0.03乃至15w/v%となる量であることが好ましい。
【0056】
工程(2)は、亜塩素酸又はその塩から二酸化塩素を発生させる工程である。工程(2´)は、亜塩素酸塩から二酸化塩素を発生させる工程である。工程(2)及び(2´)は、20乃至60℃にて行うことが好ましく、25乃至55℃行うことがさらに好ましく、30乃至50℃にて行うことが特に好ましい。また、工程(2)及び(2´)は、1乃至30分間程度実施されるが、工程(2)及び(2´)の実施温度によって、所要時間は変わる。例えば、工程(2)又は(2´)が20℃にて行われる場合には、所要時間は5乃至30分間であり、40℃にて行われる場合には、所要時間は3乃至20分間で十分であり、60℃にて行われる場合は、所要時間は1乃至15分間で十分である。
【0057】
工程(3)は、工程(2)において混合物A1又はA2を所定の温度に放置することによって得られた、発生した二酸化塩素を含有する水性液体(放置後の混合物A1又はA2)を、中和用剤(III)と混合して、4.0乃至8.0のpHを示す混合物Bを得る工程である。放置後の混合物A1又はA2には、漂白剤である二酸化塩素が含有されている。よって、これをそのまま歯の漂白に使用すると脱灰が生じるので、中和を行うのである。工程(3´)は、工程(2´)において水性液体Cを所定の温度に放置することによって得られた、発生した二酸化塩素を含有する水性液体(放置後の水性液体C)を、固体の中和用剤(III´)と混合し、4.0乃至8.0のpHを示す水性液体Dを得る工程である。放置後の水性液体Cには、漂白剤である二酸化塩素が含有されている。よって、これをそのまま歯の漂白に使用すると脱灰が生じるので、中和を行うのである。中和後のpHは4.0乃至8.0であるが、5.0乃至8.0であることが好ましく、6.0乃至8.0であることがより好ましく、6.5乃至8.0であることがさらにより好ましく、6.5乃至7.5であることがさらにより好ましく、6.7乃至7.5であることが特に好ましく、6.7乃至7.3であることが特に好ましい。
【0058】
工程(4)は、歯の漂白工程である。工程(4)では、中和後の混合物Bを、歯に接触させる。工程(4´)も、歯の漂白工程である。工程(4´)では、中和後の水性液体Dを、歯に接触させる。具体的には、例えば、ろ紙やスポンジや布のような吸水性又は保水性材料に、混合物B又は水性液体Dを保持させ、その吸水性又は保水性材料を歯の表面に貼付する方法、U字型トレーに混合物B又は水性液体Dを入れ、そのトレーを口腔内で噛み込む方法によって、混合物B又は水性液体Dを歯に接触させる方法がある。
【0059】
工程(4)及び(4´)の終了時点は、各々、工程(3)及び(3´)の終了後、即ち、中和後、通常は30分以内であるが、20分以内でも満足いく漂白効果が得られ、場合によっては、漂白時間は10秒乃至10分間でもよい。
【0060】
漂白終了後は、うがいをする等により、口腔内をよくすすぐ。
【0061】
上記の第一乃至第四発明において、プラチナ・ナノコロイドを併用すると、漂白剤前駆体の分解による二酸化塩素の生成が促進される。
【0062】
第一発明の歯の漂白用組成物では、漂白剤前駆体(I)及び/又は酸性化剤(II)が、プラチナ・ナノコロイドをも含有し、混合物A1又はA2の量に対して、漂白剤前駆体(I)中の亜塩素酸又はその塩の量が0.05乃至5.00w/v%であり且つプラチナ・ナノコロイド中のプラチナの量が0.00008乃至0.00080w/v%であることが好ましい。
【0063】
第三発明の歯の漂白用組成物では、漂白剤前駆体(I´)及び/又は酸性化剤(II´)が、プラチナ・ナノコロイドをも含有し、水性液体Cの量に対して、漂白剤前駆体(I´)中の亜塩素酸塩の量が0.05乃至5.00w/v%であり且つプラチナ・ナノコロイド中のプラチナの量が0.00008乃至0.00080w/v%であることが好ましい。
【0064】
第二発明の美容用の歯の漂白方法では、工程(1-1)が、さらにプラチナ・ナノコロイド液体を添加し、プラチナ・ナノコロイドを含有する混合物A1を得る工程であり、混合物A1の量に対して、漂白剤前駆体(I)中の亜塩素酸又はその塩の量が0.05乃至5.00w/v%であり且つプラチナ・ナノコロイド中のプラチナの量が0.00008乃至0.00080w/v%であることが好ましい。あるいは、工程(1-2)が、さらにプラチナ・ナノコロイド液体を添加し、プラチナ・ナノコロイドを含有する混合物A2を得る工程であり、混合物A2の量に対して、漂白剤前駆体(I´)中の亜塩素酸塩の量が0.05乃至5.00w/v%であり且つプラチナ・ナノコロイド液体中のプラチナの量が0.00008乃至0.00080w/v%であることが好ましい。
【0065】
第四発明の美容用の歯の漂白方法では、工程(1´)が、さらにプラチナ・ナノコロイド液体を添加し、プラチナ・ナノコロイドを含有する水性液体Cを得る工程であり、水性液体Cの量に対して、漂白剤前駆体(I´)中の亜塩素酸塩の量が0.05乃至5.00w/v%であり且つプラチナ・ナノコロイド液体中のプラチナの量が0.00008乃至0.00080w/v%であることが好ましい。
【0066】
上記のプラチナ・ナノコロイドを使用する実施態様において、亜塩素酸又はその塩の量は0.05乃至5.00w/v%であるが、0.05乃至2.00w/v%であってよく、0.05乃至1.00w/v%であってもよく、さらには0.05乃至0.50w/v%であってよい。また、プラチナの量は0.00008乃至0.00080w/v%であるが、0.00008乃至0.00060w/v%であってよく、0.00008乃至0.00040w/v%であってもよく、さらには0.00008乃至0.00024w/v%であってよい。
【実施例
【0067】
以下に、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明が以下の実施例に限定されないことは、いうまでもない。
【0068】
[実施例1] 着色ハイドロキシアパタイト(HAP)の調製
漂白効果を検証する実験に使用する茶渋液及び着色ハイドロキシアパタイトを、以下の方法で調製した。
【0069】
(茶渋液の調製)
容器に、水110mL、インスタントコーヒー5g、紅茶ティーバック2個、緑茶ティーバック2個を入れ、電子レンジで2分加熱した。その後、室温において、容器を振とうさせながら、3時間乃至一晩かけて放熱させた。その後、容器内容物を、200メッシュのろ紙でろ過した。このようにして、茶渋液を得た。
【0070】
(着色ハイドロキシアパタイトの調製)
ハイドロキシアパタイト(Biogel-HTP, BioRad社)1乃至2gを50mL容のチューブにとり、そこに、タンパク質溶液(イクオスSCP5000(新田ゼラチン株式会社)の1%溶液)20mLを加えた。約60分間放置後、遠心分離(3000x g、2分間)を行い、上清を除去した。次に、遠心分離によって沈殿したハイドロキシアパタイトに茶渋液20mLを加えた。約24時間放置後、遠心分離(2500rpm、2分間)を行い、上清を除去した。最後に、遠心分離によって沈殿したハイドロキシアパタイトに、人口唾液(20mM HEPES-KOH、pH7.0、1.5mM CaCl、 0.9mM HPO)20mLを加えた。約60分間放置後、遠心分離(2500rpm、2分間)を行い、上清を除去した。再度、タンパク質溶液、茶渋液及び人口唾液による着色操作を同様に行った。その後、最後に沈殿したハイドロキシアパタイトを乾燥させた。以下、ここで作製したものを着色ハイドロキシアパタイトとする。
【0071】
[実施例2] 亜塩素酸ナトリウムに由来する漂白剤による漂白のための最適pHの検討
亜塩素酸ナトリウム(和光純薬)1.00gを秤量し、それに水を約6mL加えて溶解させた。次いで、10w/v%クエン酸水溶液を適量加え、さらに水を加えて全量を10mLとした。このようにして、pH調整10w/v%亜塩素酸ナトリウム水溶液を調製した。
【0072】
着色ハイドロキシアパタイト20mgを2mL容のマイクロチューブに入れ、上記の亜塩素酸ナトリウム水溶液600μLを加えて撹拌した。そのマイクロチューブを42℃に設定したヒートブロック恒温槽内に5分間静置した。その後、遠心分離(3000g、15秒間)によりハイドロキシアパタイトを沈殿させ、上清を除去した。水1mLを入れてよく混和し、ハイドロキシアパタイトを洗浄した。さらに、遠心分離(3000g、15秒間)し、上清を除去する操作を3回繰り返した。その後、ハイドロキシアパタイトを200μLの水に懸濁させ、その懸濁液を、96穴マイクロタイタープレートの1ウェルに移した。96穴マイクロタイタープレートをその底部よりスキャナー(エプソンGT8300)でスキャンし、イメージJ(imageJ)(フリーソフトウェア)にて光度を測定し、ステインの漂白率を下記式1によって算出した。なお、漂白処理操作は、1回又は2回行った。結果を表1に示す。
【0073】
【数1】
【0074】
【表1】
【0075】
表1の結果から、pHは低いほど漂白効果が高くなることが分かった。特に、pH7程度以上では漂白がなかなか進まないのに対し、酸性にすると飛躍的に漂白効果が得られることがわかった。また、pHが低くなるほど亜塩素酸ナトリウム水溶液は黄色を帯びてくることとから、二酸化塩素の濃度が高くなっていることが示唆された。したがって、二酸化塩素の濃度が高いほど、換言すると、生成される二酸化塩素量が多く、それが気化せずに水溶液中にとどまれば、漂白率は上がる傾向にあることがわかった。
【0076】
なお、漂白率がマイナスを示しているのは、漂白処理した着色ハイドロキシアパタイトの光度が、未処理の着色ハイドロキシアパタイトの光度よりも低くなっているためである。着色ハイドロキシアパタイトにpHの高い塩基性溶液を加えると、同様のことが起こる。また、ハイドロキシアパタイトそのものの色と比べているので、100%を超えている例では、漂白処理した着色ハイドロキシアパタイトの光度が、未着色のハイドロキシアパタイトの光度よりも高くなったということである。
【0077】
[実施例3] 亜塩素酸ナトリウム水溶液のハイドロキシアパタイト溶解作用に対するpHの影響-亜塩素酸ナトリウム水溶液のpHをクエン酸水溶液で調整した実験―
亜塩素酸ナトリウム0.5gに水を約4g加えた。次いで、10w/v%クエン酸水溶液を加えてpH調整し(実験Aでは各々pH=3、pH=5;実験Bでは各々pH=4、pH=6、pH=8)、さらに水を加えて全量5mLとした。このようにして、互いにpHの異なる10w/v%亜塩素酸ナトリウム水溶液5種類を調製した。
【0078】
2mL容のマイクロチューブに、無処理のハイドロキシアパタイト20.0mgを精秤し、マイクロチューブとハイドロキシアパタイトとの合計重量を量った。マイクロチューブに10w/v%亜塩素酸ナトリウム水溶液600μLを加え、室温にて一晩(17時間)放置した。その後、遠心分離(3000g、15秒間)によりハイドロキシアパタイトを沈殿させ、上清を除去した。水1mL入れてよく混和し、ハイドロキシアパタイトを洗浄した。さらに、遠心分離(3000g、15秒間)し、上清を除去する操作を3回繰り返した。その後、マイクロチューブ内を吸引加熱乾燥によって乾燥させ、マイクロチューブとハイドロキシアパタイトとの合計重量を量った。ハイドロキシアパタイト(HAP)残存率を、下記式2によって算出した。結果を表2に示す。
【0079】
【数2】
【0080】
【表2】
【0081】
表2の結果から、強酸性の亜塩素酸ナトリウム水溶液を使用すると、ハイドロキシアパタイトが溶解する、即ち、歯が脱灰してしまうことが明らかとなった。なお、pH=3の亜塩素酸ナトリウム水溶液は、ハイドロキシアパタイトとの接触17時間後には、pH=4.5となっていた。
【0082】
[実施例4] 二酸化塩素の生成後に中和する方法の検討
実施例2より、亜塩素酸ナトリウム水溶液のpHが低いほど、二酸化塩素の生成量が多くなるため、漂白効果が高くなることが分かった。一方、実施例3より、亜塩素酸ナトリウム水溶液のpHが低いほど、歯の脱灰が生じることも分かった。そこで、亜塩素酸ナトリウムから二酸化塩素を生成させた後、中和する方法を検討した。
【0083】
亜塩素酸ナトリウム1.00gに対し、0.1Mクエン酸水溶液4.36mL、10w/v%クエン酸水溶液200μL及び0.2Mリン酸水素二ナトリウム水溶液5.69mLを、この順番に加え、水溶液Xを得た。水溶液X中の亜塩素酸ナトリウム濃度(二酸化塩素に変わったものも、亜塩素酸ナトリウムとして換算)は、約10w/v%であり、水溶液XのpHは5.52であった。
【0084】
ところで、二酸化塩素水溶液は、黄色乃至褐色を呈し、その極大吸光波長は360nmである。そこで、水溶液X中に含まれる、亜塩素酸ナトリウム由来の二酸化塩素の量の目安とするため、水溶液Xの10倍希釈液の360nmにおける吸光度を測定した。その結果、吸光度は0.781であり、水溶液X中には二酸化塩素が含有されていることが分かった。
【0085】
水溶液Xを使用して、実施例2と同様の方法で着色ハイドロキシアパタイトの漂白実験を行った。その結果、ステイン漂白率は96.5%であった。この結果より、一旦二酸化塩素を生成させれば、その後中和しても、漂白効果が得られることが明らかとなった。
【0086】
[実施例5] 亜塩素酸ナトリウム水溶液を酸性としてから中和するまでの時間の検討
亜塩素酸ナトリウム水溶液のpHを酸性にすると、二酸化塩素が生成し、中和すると生成が鈍るもしくは止まる。したがって、十分な漂白効果を得るためには、亜塩素酸ナトリウム水溶液のpHを酸性としてから中和するまでの時間が重要になると考えられた。そこで、0.20gの亜塩素酸ナトリウムに、0.2Mクエン酸水溶液436μLと10w/v%クエン酸水溶液40μLとの混合液を加え、酸性の亜塩素酸ナトリウム水溶液を調製し、その後所定時間経過後に0.4Mリン酸水素二ナトリウム569μLを加えて中和し、中和から所定時間経過後に、360nmにて吸光度を測定した。なお、吸光度測定に使用した検体は、中和後の水溶液を50倍に希釈したものである。結果を表3に示す。
【0087】
【表3】
【0088】
表3の結果から、中和するまでの時間が長いほうが、より多くの二酸化塩素が生成されることが分かった。すぐに中和してしまうと、二酸化塩素が十分に生成しないこともわかった。また、二酸化塩素は不安定で長期間は保持され得ないと考えていたが、実際、中和から吸光度測定までの時間が20分間となると、それが10分間の場合よりも吸光度の値が小さくなった。
【0089】
[実施例6] 二酸化塩素の水溶液中での安定性の検討
二酸化塩素自体は、熱や光に弱い不安定な物質である。したがって、実際に歯の漂白に用いる際に、中和後どの程度の時間ならば、有効な漂白が行えるのかを検討した。
【0090】
(中和前の安定性の実験)
20w/v%亜塩素酸ナトリウム水溶液500μLに、3.0Mクエン酸水溶液40μLを加え、室温で5分間静置した。得られた水溶液を、中和せずに半分ずつに分けて、一方は室内に、他方は4℃の冷蔵庫内に置いた。設定時間毎にそれぞれの一部を取って100倍希釈し、360nmの吸光度測定を行い、二酸化塩素の濃度の推移をみた。結果を表4及び図1に示す。
【0091】
(中和後の安定性の実験)
20w/v%亜塩素酸ナトリウム水溶液250μLに、3.0Mクエン酸水溶液20μLを加え、室温で5分間静置した。その後、0.4Mリン酸水素二ナトリウム水溶液710μLを加えて中和した。得られた水溶液を半分ずつに分けて、一方は室内に、他方は4℃の冷蔵庫内に置いた。設定時間毎にそれぞれの一部を取って100倍希釈し、360nmの吸光度測定を行い、二酸化塩素の濃度の推移をみた。結果を表5及び図2に示す。
【0092】
【表4】
【0093】
【表5】
【0094】
表4及び5並びに図1及び2に示された結果から、時間の経過により、二酸化塩素の濃度が減少することが分かった。酸性に保った場合のほうが濃度の減少が緩やかだが、これは、残った亜塩素酸ナトリウムから二酸化塩素が生成し続けたためと考えられる。いずれでも二酸化塩素の濃度は減り続けるので、中和してから、なるべく30分以内に使用することが好ましいと考えられる。保存するには冷蔵庫内のほうが安定で、360nmにおける吸光度の値からすると、中和してから6時間程度であったら十分使用できると考えられた。
【0095】
[実施例7] 酸の種類の検討
亜塩素酸ナトリウム水溶液を酸性とするために使用する物質として、様々な酸及び酸の塩を検討した。1.5M濃度の酸又は酸の塩の水溶液40μL(酸又は酸の塩の量は60μmol)を、20w/v%亜塩素酸ナトリウム水溶液250μLに加え、全量を290μLとした。酸又は酸の塩の水溶液を加えて5秒後から10秒間、得られた水溶液を卓上撹拌機にて撹拌した。5分間静置した後、0.4Mリン酸水素二ナトリウム水溶液710μLを加えて中和した。得られた水溶液を50倍に希釈して、360nmにおいて吸光度を測定した。この実験は、室温(約23℃)にて行った。結果を表6に示す。
【0096】
【表6】
【0097】
表6に示された結果から、中和前のpHが低いほど360nmにおける吸光度の値も大きくなり、二酸化塩素の濃度も高くなっていることが示唆された。特に硫酸は二価の強酸であるためか、水溶液が黄色乃至褐色を呈するまでの時間が短く、二酸化塩素の生成量も多いと考えられた。しかし、大きな吸光度を示さなかった酸又は酸の塩についても、その使用量を増やしてpHを下げれば、二酸化塩素の生成量が増す可能性がある。一方、硫酸についても、安全性の観点から濃度を低下させて使用すると、二酸化塩素の生成量が減少する可能性もあると考えられた。
【0098】
[実施例8] ウルトラリン酸ナトリウム又はその塩の使用の検討
種々の酸及び酸の塩の中で、それ自体にステイン漂白効果があることが知られているウルトラリン酸ナトリウムの使用を検討することとした。ウルトラリン酸ナトリウムの水溶液は、pH2程度の酸性を示す。
【0099】
30w/v%亜塩素酸ナトリウム水溶液に、水、12w/v%プラチナ・ナノコロイド液体(アプト株式会社製の原液(プラチナを0.02w/v%含有)を12%となるように希釈したもの)及び表7に記載の濃度のウルトラリン酸ナトリウム水溶液を、表7に示す量でこの順に添加した。ウルトラリン酸ナトリウムを加えて5秒後から10秒間、得られた混合液体を卓上撹拌機にて撹拌し、その後5分間静置した。得られた混合液体の一部を採り、採った量の3倍容量の0.4Mリン酸水素二ナトリウム水溶液を加えて中和した。中和後の混合液体に、亜塩素酸ナトリウム(二酸化塩素に変わったものも亜塩素酸ナトリウムとして換算)の最終濃度が全て1%になるように、必要に応じて水を加えた。このようにして得られた混合液を50倍希釈して、360nmにおける吸光度を測定した。この実験は、室温(約23℃)にて行った。結果を表8に示す。
【0100】
【表7】
【0101】
【表8】
【0102】
亜塩素酸ナトリウムの中和前の混合液体中の濃度(二酸化塩素に変わったものも亜塩素酸ナトリウムとして換算)が5%の場合、実施例7の実験(実験例番号7-4)よりも中和前のpHを下げたが、360nmにおける吸光度の値はほぼ同じであった。また、多量の亜塩素酸ナトリウムを使用した実験例番号8-3では、ウルトラリン酸ナトリウム添加後、気泡が生じた。
【0103】
[実施例9] 反応時間についての検討
酸性化剤(II)に含有される、その水溶液が酸性を示す物質として、ウルトラリン酸ナトリウムを使用する場合、反応時間(二酸化塩素生成段階)を長くすることによって、二酸化塩素生成量を増すことができるのではないかと考え、反応時間を検討した。コントロールとして、硫酸を使用した系についても同様の実験を行った。
【0104】
硫酸の系は、実施例7の記載に従い、ウルトラリン酸ナトリウムの系は、実施例8の記載に従い、卓上撹拌機による撹拌工程までを行った。硫酸又はウルトラリン酸ナトリウムを加えてから所定時間毎に、20μLを取り出し、250倍希釈した上で360nmにおける吸光度を測定した。結果を表9に示す。
【0105】
【表9】
【0106】
表9に示された結果から、硫酸を使用した系では、硫酸を加えてから10分後に360nmにおける吸光度の値が最大となり、その後は低下したが、ウルトラリン酸ナトリウムを使用した系では、ウルトラリン酸ナトリウムの添加後30分間、吸光度の値が上がり続けたことがわかる。したがって、ウルトラリン酸ナトリウムを使用した系についても、その添加後30分間程度の反応時間を確保すれば、硫酸を使用した系にほぼ匹敵する漂白効果が得られるものと考えられる。
【0107】
[実施例10] ウルトラリン酸ナトリウムを使用した系での反応を促進する方法の検討
その水溶液が酸性を示す物質として、ウルトラリン酸ナトリウムを使用する場合の、二酸化塩素生成反応を促進する方法として、加温と、ウルトラリン酸ナトリウムの増量を検討した(実験例番号10-2乃至10-7)。なお、対照として、硫酸を使用して(実験例番号10-1)、同様の実験を行った。
【0108】
30w/v%亜塩素酸ナトリウム水溶液に、水、表10に記載の濃度のプラチナ・ナノコロイド液体(アプト株式会社製の原液(100%;プラチナを0.02w/v%含有)又はこの原液を12%となるように希釈したもの)及び表10に記載の濃度のウルトラリン酸ナトリウム水溶液を、表10に示す量でこの順に添加した。ウルトラリン酸ナトリウム水溶液を加えて5秒後から10秒間、得られた混合液体を卓上撹拌機にて撹拌し、その後、表10に示す所定の温度に設定したウォーターバス内に静置した。ウルトラリン酸ナトリウム水溶液を加えてから所定時間経過毎に、20μLを取り出し、250倍希釈した上で360nmにおける吸光度を測定した。また、ウルトラリン酸ナトリウム水溶液の代わりに3.0M硫酸を用いて、同様の実験を行った(実験例番号10-1)。結果を表11及び図3に示す。
【0109】
【表10】
【0110】
【表11】
【0111】
表11及び図3から明らかなように、実験例番号10-1及び10-2(40℃に加温した系)では、実施例9の実験(室温(23℃)で実施)と比べて、360nmにおける吸光度の値が最大となるのに要する時間が短く、その値も大きかった。しかしながら、実験例番号10-1の硫酸を使用した系では、最大値となった後の減少速度が早かった。実験例番号10-3(ウルトラリン酸ナトリウムの濃度を高めた系)は、実験例番号10-2と同様の傾向を示し、且つ吸光度は、実験例番号10-2よりもさらに高かった。実験例番号10-4及び10-5(60℃に加温した系)では、吸光度の値が最大となった後の減少速度が速く、二酸化塩素の分解が急速に進んでしまっていることが示唆された。実験例番号10-6及び10-7(ウルトラリン酸ナトリウムの濃度を高めた系)では、実験例番号10-3よりもさらに短時間で吸光度の値が最大となった。特に実験例番号10-6では、反応時間が5分で360nmにおける吸光度の値が最大となり、実験例番号10-1の硫酸を使用した系にかなり近い結果となった。
【0112】
[実施例11] 中和用剤(III)の検討
本発明において、二酸化塩素生成後の中和工程で使用する中和用剤(III)の検討を行った。実施例10の実験例番号10-6と同様の方法で、ウォーターバス(40℃に設定)内に静置する工程までを行った。ウォーターバス内で5分間加温した後、混合液体から200μLを取り出し、それを20倍希釈した。
【0113】
この20倍希釈液4mL(亜塩素酸ナトリウム:0.25w/v%)に、表12に示す各種塩基性水溶液を200乃至800μL添加し、100μLの添加ごとにpHの変化を測定し、それぞれの中和用剤(III)の緩衝能を評価した。結果を表12及び図4に示す。
【0114】
【表12】
【0115】
表12及び図4に示された結果から、リン酸水素二ナトリウムがpH7付近での緩衝能を持つことが認められた。しかしながら、リン酸水素二ナトリウムの水への溶解度はあまり高くはなく、0.4M濃度のものを冷蔵庫内に保存すると、固体が析出してしまう。炭酸水素ナトリウムは水への溶解度がさらに低く、クエン酸ナトリウムは、その溶解度はかなり高いものの、緩衝能を示すpHはpH6付近である。表12に示された結果からは、リン酸水素二ナトリウムと水酸化ナトリウムを組み合わせたもの、中でも、0.3Mリン酸水素二ナトリウム+0.25N水酸化ナトリウムの水溶液が、pH7付近で緩衝能を有し且つ中和に使用できることが分かった。
【0116】
[実施例12] ステイン漂白率の検討
実験例番号10-1の硫酸を使用した系と実験例番号10-6のウルトラリン酸ナトリウムを使用した系の各々について、ウォーターバス(40℃)内での5分間の静置までの工程を行い、各々300μLの混合液体を調製した。加温終了30秒後に、中和用剤(0.4Mリン酸水素二ナトリウム水溶液:1N水酸化ナトリウム水溶液:水=9:3:4の割合で混ぜたもの)1.2mLを加えて中和させ、その30秒後に、マイクロチューブ中の着色ハイドロキシアパタイト20mgに、中和後の混合液体600μLを加えた(最終亜塩素酸ナトリウム濃度:1w/v%)。また、着色ハイドロキシアパタイト20mgに300μLの水を加え、そこに中和後の混合液体300μLを加え、亜塩素酸ナトリウム濃度を0.5w/v%としたものも用意した。
【0117】
これらについて、実施例2に記載した方法で、着色ハイドロキシアパタイトの漂白実験を行った。また、実験例番号10-6のウルトラリン酸ナトリウムを使用した系において、30w/v%亜塩素酸ナトリウム水溶液50μLを用いる部分を水50μLに置き換えた、亜塩素酸ナトリウムを含まない系についても、加温及び中和工程と同様の工程に供して混合液体を調製し、これも比較例として着色ハイドロキシアパタイトの漂白実験に供した。式1にしたがって漂白率を算出した。結果を表13に示す。
【0118】
【表13】
【0119】
表13の結果からウルトラリン酸ナトリウムと亜塩素酸ナトリウムを混合したものにおいて、1%及び0.5%の亜塩素酸ナトリウム濃度の両方で高い漂白率が得られた。これらの漂白率は、硫酸と亜塩素酸ナトリウムとを混合したものを使用した場合及びウルトラリン酸ナトリウムのみを使用した場合よりも高い値であった。したがって、ウルトラリン酸ナトリウムと亜塩素酸ナトリウムとの組み合わせが、ステインを漂白することに関して優れていると考えられる。
【0120】
[実施例13] 褐色鶏卵の殻の漂白
鶏卵の殻の主成分は炭酸カルシウムであるが、褐色鶏卵の殻にはヘモグロビン由来の色素が入り込み、そのために褐色を呈している。歯の内因性の黄ばみ(象牙質の黄ばみ)もヘモグロビン由来の色である可能性が高い。したがって、褐色鶏卵の殻を用いたホワイトニングの評価系では、表面の汚れの除去ではなく、内因性の色素の漂白効率を評価できる(小川弘美ら、ポリリン酸を含む漂白剤-褐色鶏卵に対する漂白効果―、歯科の色彩、第20巻第1号37乃至42頁(2014))。
【0121】
実施例12と同様の方法で、ウルトラリン酸ナトリウムと亜塩素酸ナトリウムとを含有する系、硫酸と亜塩素酸ナトリウムとを含有する系、及びウルトラリン酸ナトリウムのみを含有する系を調製した。厚さ1mmのろ紙を用い、穴あけポンチで直径約0.5cmの円形にくり抜き、これを褐色鶏卵の殻の表面に乗せた。これらのろ紙の各々に、調製した中和後の混合液体3種のいずれか20μLを染み込ませた。5分間静置し、水で軽く洗い流した。また、水酸化ナトリウムを少量加えてpHを9に調整した15%過酸化水素水も、同様の処理に使用した。
【0122】
漂白処理前の褐色鶏卵の殻の色と、漂白処理後のろ紙が貼付されていた個所の色を、オリンパス株式会社製のクリスタルアイを使用して測色した。具体的には、漂白処理前の褐色鶏卵の殻の色と、漂白処理後のろ紙が貼付されていた個所の色について、白黒の傾向の差ΔL*、赤緑の傾向の差Δa*、黄青の傾向の差Δb*をそれぞれ求め、これらの値から、以下の式3にしたがって色素偏差ΔE* abを算出した。結果を表14に示す。
【0123】
【数3】
【0124】
【表14】
【0125】
表14の結果から、亜塩素酸ナトリウムを含む系で5分間1回という短時間の処理で、漂白効果が確認できた。一方、この条件では、ウルトラリン酸ナトリウムのみと過酸化水素水による漂白効果はほぼ無いといえる。また、ウルトラリン酸ナトリウムと亜塩素酸ナトリウムとの組み合わせが、漂白効果が最も高かった。
【0126】
[実施例14] 酸性化剤(II)の種類及び漂白時間の検討
30w/v%亜塩素酸ナトリウム水溶液50μLに、水及びプラチナ・ナノコロイド原液(アプト株式会社製、プラチナを0.02w/v%含有)を表15に示す量でこの順に添加し、得られた液体を40℃のウォーターバス中で30秒間温めた。次いで、表15に示す、酸又は酸の塩(その水溶液が酸性を示す物質)の水溶液のいずれかを、表15に示す量で添加し、得られた混合液体を40℃のウォーターバス中に5分間静置した。加温した上記混合液体を液体Yとする。
【0127】
別途、中和用剤(0.4Mリン酸水素二ナトリウム水溶液:1N水酸化ナトリウム水溶液:水=9:3:4の割合で混ぜたもの)を用意し、前記液体Y300μLに対して1.2mLを加えて中和させた。中和後の液体の一部を取り、50倍希釈し、360nmにおける吸光度を測定した。
【0128】
マイクロチューブ中の着色ハイドロキシアパタイト20mgに、表15に示す中和後の液体のいずれか600μLを加えた。マイクロチューブを卓上撹拌機にかけ、1分間撹拌した。その後、5分間静置し、合計6分間漂白を行った。遠心分離(3000g、15秒間)によりハイドロキシアパタイトを沈殿させ、上清を除去した。水1mL入れてよく混和し、ハイドロキシアパタイトを洗浄した。さらに、遠心分離(3000g、15秒間)し、上清を除去する操作を3回繰り返した。その後、ハイドロキシアパタイトを200μLの水に懸濁させ、その懸濁液を、96穴マイクロタイタープレートの1ウェルに移した。96穴マイクロタイタープレートをその底部よりスキャナー(エプソンGT8300)でスキャンし、イメージJ(imageJ)(フリーソフトウェア)にて光度を測定し、ステインの漂白率を、実施例2に示した式1によって算出した。
【0129】
対照としての、表15に示す、15%過酸化水素水(実験例番号14-6)、プラチナ・ナノコロイド及びウルトラリン酸ナトリウムを含み、亜塩素酸ナトリウムを含まないもの(実験例番号14-7)と、さらには、亜塩素酸ナトリウム及びウルトラリン酸ナトリウムを含み、プラチナ・ナノコロイドを含まないもの(実験例番号14-8)についても、同様の方法で着色ハイドロキシアパタイトの漂白処理に供し、ステインの漂白率を求めた。結果を表16及び図5に示す
【0130】
【表15】
【0131】
【表16】
【0132】
また、さらに短い時間での漂白効率を評価するために、マイクロチューブを卓上撹拌機にかけて撹拌する時間は1分で、その後静置する時間を2分として、合計3分間の漂白を行った実験結果を表17及び図6に、マイクロチューブを卓上撹拌機にかけて撹拌する時間は1分で、静置を0分とした場合の実験結果を表18及び図7に示した。さらに、ウルトラリン酸ナトリウムを使用したもの(実験例番号14-1)、硫酸を使用したもの(実験例番号14-5)、15%過酸化水素水(対照;実験例番号14-6)、並びにプラチナ・ナノコロイド及びウルトラリン酸ナトリウムを含み、亜塩素酸ナトリウムを含まないもの(対照;実験例番号14-7)については、マイクロチューブを卓上撹拌機にかけて撹拌する時間は30秒間又は10秒間で、静置を0分とした場合の実験結果を表19及び図8に示した。以上の結果をまとめて、図9に示した。
【0133】
【表17】
【0134】
【表18】
【0135】
【表19】
【0136】
上記の結果より、本発明の漂白用組成物を使用する場合には、処置時間1分でも著しい漂白効果が得られ、特に亜塩素酸ナトリウムからの二酸化塩素の解離のためにウルトラリン酸ナトリウム又は硫酸を使用する場合には、処置時間30秒以内であっても、著しい漂白効果が得られることが明らかとなった。
【0137】
[実施例15] 亜塩素酸ナトリウム水溶液のハイドロキシアパタイト溶解作用に対するpHの影響-亜塩素酸ナトリウム水溶液のpHをウルトラリン酸ナトリウムで調整した実験-
15w/v%亜塩素酸ナトリウム水溶液300μLに、12w/v%プラチナ・ナノコロイド液体(アプト株式会社製の原液(プラチナを0.02w/v%含有)を12%となるように希釈したもの)7.2μLと、25w/v%ウルトラリン酸ナトリウム水溶液592.8μLとを加え、実験(1)用の液体(1)を調製した。液体(1)300μLに対して、中和用剤(0.4Mリン酸水素二ナトリウム水溶液:1N水酸化ナトリウム水溶液:水=9:3:4の割合で混ぜたもの)1.2mLを加え、実験(2)用の液体(2)を調製した。液体(1)及び(2)のそれぞれを使用して、実施例3に記載の方法で、ハイドロキシアパタイトの溶解実験を行った。結果を表20に示す。
【0138】
【表20】
【0139】
表20から明らかなように、pH2では、ハイドロキシアパタイトは完全に溶解してしまった。一方、一旦酸性とした後、中和した液体であれば、脱灰がほぼ起こらないことが明らかとなった。
【0140】
[実施例16] ゲル状組成物を用いた抜去歯の漂白試験
亜塩素酸ナトリウムとプラチナ・ナノコロイドとウルトラリン酸ナトリウムとの混合液体、15%過酸化水素水、及びプラチナ・ナノコロイドとウルトラリン酸ナトリウムとの混合液体を用意した。それらにゲル状の中和用剤を加え、ゲル状の漂白用組成物を調製し、ヒトの抜去歯を漂白した。漂白用組成物は、具体的には以下のように調製した。
【0141】
(1)ゲル状の中和用剤の調製方法
水を溶媒として、5w/w%カルボキシメチルセルロース(サンローズF15MHC、日本製紙株式会社製)、0.24Mリン酸水素二ナトリウム、及び0.2M水酸化ナトリウムを含有するゲル状の中和用剤を調製した。
【0142】
(2)亜塩素酸ナトリウムとプラチナ・ナノコロイドとウルトラリン酸ナトリウムとを含有するゲル状漂白用組成物(2)の調製方法
30w/v%亜塩素酸ナトリウム50μLに、水50μL、プラチナ・ナノコロイド原液(アプト株式会社製、プラチナを0.02w/v%含有)2.4μL、25w/v%ウルトラリン酸ナトリウム197.6μLを順に加え、全量を300μLとした。これを40℃で5分間加温した。このうち50μLを、上記のゲル状の中和用剤200mgと混合し、ゲル状漂白用組成物(2)を調製した。
【0143】
(3)過酸化水素水を含有するゲル状漂白用組成物(3)の調製方法
30%過酸化水素水200μLを、上記のゲル状の中和用剤200mgと混合し、ゲル状漂白用組成物(3)を調製した。
【0144】
(4)プラチナ・ナノコロイドとウルトラリン酸ナトリウムを含有するゲル状漂白用組成物(4)の調製方法
水50μL、プラチナ・ナノコロイド原液(アプト株式会社製、プラチナを0.02w/v%含有)1.2μL、及び25w/v%ウルトラリン酸ナトリウム 98.8μLを混合し、全量を150μLとした。このうち50μLを、上記のゲル状の中和用剤200mgと混合し、ゲル状漂白用組成物(4)を調製した。
【0145】
(着色抜去歯の調製方法)
抜去歯を水ですすぎ、30%過酸化水素水に二日間浸けて漂白し、再度水ですすぎ、その後に乾燥させた。このように処理した抜去歯を、人口唾液(サリベート、帝人ファーマ株式会社)に1時間浸漬、水洗、タンパク質溶液(1%イクオスHDL-50F、新田ゼラチン株式会社製)に1時間浸漬、水洗、茶渋液(実施例1に記載のもの)に一晩浸漬、水洗という手順を3サイクル繰り返して処理し、最後に乾燥させ、着色抜去歯とした。
【0146】
(漂白方法)
ゲル状の漂白用組成物(2)乃至(4)のいずれか約20mgを、1本の着色抜去歯の表面に塗布し、塗布後の抜去歯を室温で5分間静置した。その後、ゲル状の漂白用組成物を拭き取り、抜去歯を水ですすいだ。この実験を、各ゲル状の漂白用組成物について5本の着色抜去歯を用いて行った。
【0147】
(色差の測定方法)
漂白前の抜去歯及び漂白後の抜去歯について、実施例13と同様に、オリンパス株式会社製のクリスタルアイを使用して測色した。具体的には、漂白処理前の抜去歯の色と、漂白処理後の抜去歯の色について、白黒の傾向の差ΔL*、赤緑の傾向の差Δa*、黄青の傾向の差Δb*をそれぞれ求め、これらの値から、前記の式3にしたがって色素偏差ΔE* abを算出した。結果を表21に示す。
【0148】
【表21】
【0149】
表21に示された結果から、ウルトラリン酸ナトリウムとプラチナ・ナノコロイドと亜塩素酸ナトリウムとの混合物に中和用剤を加えてなる系(本発明のゲル状の漂白用組成物(2))が、過酸化水素水に中和用剤を加えてなる系や、ウルトラリン酸ナトリウム及びプラチナ・ナノコロイドに中和用剤を加えてなる系よりも、高い漂白が得られることが分かった。即ち、ウルトラリン酸ナトリウムとプラチナ・ナノコロイドと亜塩素酸ナトリウムとを混合し、中和用剤でゲル状にした組成物を歯面に塗布した場合においても、短時間でのホワイトニングが可能であった。
【0150】
[実施例17] 低亜塩素酸ナトリウム濃度の歯の漂白用組成物を用いた漂白試験(その1)
(歯の漂白用組成物の調製)
4w/v%亜塩素酸ナトリウム水溶液20μLに、水及びプラチナ・ナノコロイド原液(アプト株式会社製;プラチナを0.02w/v%含有)を表22に示す量で添加し、混合物を得た。その混合物に、8.6w/v%リン酸水溶液を200μL添加した。得られた混合物を撹拌し、その後40℃のウォーターバス中で5分間加温した。加温後の混合物に、中和用剤として、0.3Mリン酸水素二ナトリウム、2.5w/v%炭酸ナトリウムの混合水溶液400μLを加えた。
【0151】
表22に示すように、実験例番号17-1の液体の全容量に対する、4w/v%亜塩素酸ナトリウム水溶液に含有されていた亜塩素酸ナトリウムの濃度は0.10w/v%であり、実験例番号17-2の液体の全容量に対する、4w/v%亜塩素酸ナトリウム水溶液に含有されていた亜塩素酸ナトリウムの濃度は0.05w/v%であった。また、これらの液体のpHは、いずれも6.5であった。
【0152】
また、比較対象として、30%過酸化水素水300μLに対し、上記中和用剤を300μL加えて塩基性としたもの(過酸化水素の最終濃度=15%)も用意した。この過酸化水素水のpHは10であった。
【0153】
【表22】
【0154】
(着色ハイドロキシアパタイトの漂白)
着色ハイドロキシアパタイト20mgを2mL容量のマイクロチューブに入れ、中和後の表22に示す液体のいずれか600μLを加えた。マイクロチューブを卓上撹拌機にかけ、1分間撹拌した。その後、9分間静置し、合計10分間漂白を行った。遠心分離(3000g、15秒間)によりハイドロキシアパタイトを沈殿させ、上清を除去した。水1mL入れてよく混和し、ハイドロキシアパタイトを洗浄した。さらに、遠心分離(3000g、15秒間)し、上清を除去する操作を3回繰り返した。その後、ハイドロキシアパタイトを200μLの水に懸濁させ、その懸濁液を、96穴マイクロタイタープレートの1ウェルに移した。96穴マイクロタイタープレートをその底部よりスキャナー(エプソンGT8300)でスキャンし、イメージJ(imageJ)(フリーソフトウェア)にて光度を測定し、ステインの漂白率を、実施例2に示した式1によって算出した(漂白回数:1回)。
【0155】
96穴マイクロタイタープレートに移した懸濁液を元のマイクロチューブに戻し、遠心分離(3000g、15秒間)し、上清を除去する操作を行った。マイクロチューブ内の1回漂白処理がなされた着色ハイドロキシアパタイトに対して、漂白液を調製する段階からステインの漂白率の算出までの工程を繰り返した(漂白回数:2回)。96穴マイクロタイタープレートに移した懸濁液を元のマイクロチューブに戻し、同様の漂白操作をさらに1回実施した(漂白回数:3回)。結果を表23に示す。
【0156】
【表23】
【0157】
表23に示された結果から、亜塩素酸ナトリウムの濃度の低い漂白用組成物でも、漂白を進めることが可能であると明らかになった。また、亜塩素酸ナトリウム濃度が0.10w/v%の系(実験例番号17-1)は、15%過酸化水素水(実験例番号17-3)とほぼ同等の漂白効果を示した。
【0158】
[実施例18] 低亜塩素酸ナトリウム濃度の歯の漂白用組成物を用いた漂白試験(その1)
(歯の漂白用組成物の調製)
4w/v%亜塩素酸ナトリウム水溶液50μLに、水446μL、プラチナ・ナノコロイド原液(アプト株式会社製;プラチナを0.02w/v%含有)4μLを添加し、混合物を得た。その混合物に、8.6w/v%リン酸水溶液を500μL添加した。得られた混合物を撹拌し、その後40℃のウォーターバス中で5分間加温した。
【0159】
別途、水を溶媒として、5w/w%カルボキシメチルセルロース(サンローズF15MHC、日本製紙株式会社製)、0.3Mリン酸水素二ナトリウム、及び2.5w/w%炭酸ナトリウムを含有するゲル状の中和用剤を調製した。このゲル状の中和用剤1g(約1mL)を上記の加温後の混合物(1mL)と練り混ぜ、ゲル状漂白用組成物(実験例番号18-1)を得た。こうして得られたゲル状漂白用組成物全量(約2mL)に対する、4w/v%亜塩素酸ナトリウム水溶液に含有されていた亜塩素酸ナトリウムの濃度は、約0.1w/v%であった。
【0160】
比較例として、30%過酸化水素水1mLと上記のように調製したゲル状の中和用剤1gとを練り混ぜ、15%過酸化水素水ジェル(実験例番号18-2)を得た。
【0161】
(褐色鶏卵の殻の漂白)
上記のように調製したゲル状漂白用組成物(実験例番号18-1)約20mgを褐色鶏卵の殻の一部に塗り、10分間静置し、その後ゲルを拭き取った。ゲル状漂白用組成物は同じものを使用し、同じ操作を三回行った。また、15%過酸化水素水ゲル(実験例番号18-2)約20mgを用い、同様に褐色鶏卵の殻に対する漂白操作を行った。
【0162】
実施例13と同様に、漂白処理前の褐色鶏卵の殻の色と、漂白処理後のゲルを塗った個所の色を、オリンパス株式会社製のクリスタルアイを使用して測色し、実施例13に示された式3にしたがって、色素偏差ΔE* abを算出した。結果を表24に示す。
【0163】
【表24】
【0164】
表24に示すように、歯の漂白用組成物全量に対する、組成物の調製に使用した亜塩素酸ナトリウムの濃度が0.1w/v%でも、漂白前後での色素偏差ΔE* abが5.43であり、このことから、褐色鶏卵の殻の漂白が進んだことが確認できた。一方、15%過酸化水素ゲルでは、漂白前後での色素偏差ΔE* abが0.79であり、褐色鶏卵の殻の漂白は殆ど進まないことを確認できた。なお、漂白がなされなかった場合には、ΔL、Δa及びΔbのいずれも、約0となる。
【0165】
この結果から、褐色鶏卵の殻を用いた漂白実験では、歯の漂白用組成物全量に対する、組成物の調製に使用した亜塩素酸ナトリウムの濃度が0.1w/v%でも、15%過酸化水素水ゲルよりも、著しく高い漂白効果が示されることが明らかとなった。
【0166】
[実施例19] プラチナ・ナノコロイドの触媒効果の検討(その1)
漂白剤前駆体である亜塩素酸ナトリウムが低濃度の場合に、プラチナ・ナノコロイドの併用により、漂白効果が高まるか否かを検討した。
【0167】
表25に示す量で、4w/v%亜塩素酸ナトリウム水溶液に、プラチナ・ナノコロイド原液(アプト株式会社製;プラチナを0.02w/v%含有)、水、及び6.8w/v%リン酸水溶液をこの順に加えた。得られた混合物を室温(30℃)に静置し、リン酸を加えてから5分後に10倍希釈し、二酸化塩素水溶液の極大吸収波長である360nmにおいて吸光度を測定した。結果を表25及び図10に示す。
【0168】
【表25】
【0169】
表25及び図10に示された結果から、漂白剤前駆体の酸性液体(中和前の液体)中の漂白剤前駆体である亜塩素酸ナトリウムの濃度(計算値;4%亜塩素酸ナトリウム水溶液に含有されていた亜塩素酸ナトリウムに由来するものの濃度)0.1%、0.2%及び0.4%のすべてにおいて、プラチナ・ナノコロイドを併用することにより、亜塩素酸ナトリウムの分解による二酸化塩素の生成が促進されることが分かった。プラチナ・ナノコロイド原液の濃度が1.2%(プラチナ濃度に換算すると0.00024%)のときに360nmにおける吸光度が最大となり、1.6%や3.2%では吸光度が若干下がったが、これは、プラチナ・ナノコロイド原液の濃度が1.6%や3.2%では、5分間の静置の間に亜塩素酸ナトリウムの分解が進行してしまったためと考えられる。
【0170】
[実施例20] プラチナ・ナノコロイドの触媒効果の検討(その2)
亜塩素酸ナトリウム濃度及びプラチナ・ナノコロイド原液の濃度を表26に示す値とし、吸光度を測定する際の希釈率を100倍にしたこと以外は、実施例19と同様の実験を行った。結果を表26及び図11に示す。
【0171】
【表26】
【0172】
表26及び図11に示された結果から、漂白剤前駆体の酸性液体(中和前の液体)中の漂白剤前駆体である亜塩素酸ナトリウムの濃度(計算値;30%亜塩素酸ナトリウム水溶液に含有されていた亜塩素酸ナトリウムに由来するものの濃度)5%においては、プラチナ・ナノコロイド原液の濃度が上がるにつれ、360nmにおける吸光度の値も緩やかに上昇した。また、亜塩素酸ナトリウム濃度が2%の場合は、プラチナ・ナノコロイド原液の濃度が0.8%(プラチナ濃度に換算すると0.00016%)以上で、360nmにおける吸光度の上昇がみられた。
【0173】
以上の結果から、漂白剤前駆体の濃度が高い場合には、その前駆体の分解で十分な量の二酸化塩素が生成されるため、触媒の併用は必ずしも必要ではないが、漂白剤前駆体の濃度が下がると、触媒による漂白剤前駆体の分解促進効果が発揮されることが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11