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特許7166609ポリオレフィンのメッキ成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】ポリオレフィンのメッキ成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/26 20060101AFI20221031BHJP
   C23C 18/28 20060101ALI20221031BHJP
   C23C 18/30 20060101ALI20221031BHJP
   C08F 297/00 20060101ALI20221031BHJP
   B32B 15/085 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
C23C18/26
C23C18/28
C23C18/30
C08F297/00
B32B15/085 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018215683
(22)【出願日】2018-11-16
(65)【公開番号】P2020084220
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-09-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトの掲載日:平成30年9月7日 http://www.jspp.or.jp/kikaku/sympo2018/dl/Symposia2018_Poster.pdf
(73)【特許権者】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(72)【発明者】
【氏名】八尾 滋
(72)【発明者】
【氏名】中野 涼子
(72)【発明者】
【氏名】内野 智仁
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-080329(JP,A)
【文献】特開2015-229725(JP,A)
【文献】特開2014-118623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン成形体と、前記ポリオレフィン成形体の表面に設けられた共重合体層と、前記共重合体層の上に設けられたナノ金属層と、前記ナノ金属層の上に設けられたメッキ層とを有するポリオレフィンのメッキ成形体の製造方法であって、
共重合体を分散させた、80℃以上のメッキ助剤液に、前記ポリオレフィン成形体を接触させて、前記ポリオレフィン成形体の表面に前記共重合体を含む共重合体層を設ける表面修飾工程と、
前記共重合体層にナノ金属層を設ける表面触媒化工程と、
前記ナノ金属層が設けられたポリオレフィン成形体を、無電解メッキ処理することで、前記ナノ金属層を介して前記ポリオレフィン成形体にメッキ層を設けるメッキ処理工程とを有し、
前記ポリオレフィン成形体が、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体であり、
前記共重合体が、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーに由来する構成単位(A)と、オキシアルキレン構造またはアミン構造を側鎖に有する構成単位(B)とを含む共重合体であることを特徴とする、ポリオレフィンのメッキ成形体の製造方法。
【請求項2】
ポリオレフィン成形体と、前記ポリオレフィン成形体の表面に設けられた共重合体層と、前記共重合体層の上に設けられたナノ金属層と、前記ナノ金属層の上に設けられたメッキ層とを有するポリオレフィンのメッキ成形体の製造方法であって、
共重合体を分散させた、80℃以上のメッキ助剤液に、前記ポリオレフィン成形体を接触させて、前記ポリオレフィン成形体の表面に前記共重合体を含む共重合体層を設ける表面修飾工程と、
前記共重合体層にナノ金属層を設ける表面触媒化工程と、
前記ナノ金属層が設けられたポリオレフィン成形体を、無電解メッキ処理することで、前記ナノ金属層を介して前記ポリオレフィン成形体にメッキ層を設けるメッキ処理工程とを有し、
前記ポリオレフィン成形体が、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体であり、
前記共重合体が、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィン及び置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーに由来する構成単位(A)と、イミノ二酢酸(IDA)基、低分子ポリアミノ基、アミノリン酸基、イソチオニウム基、ジチオカルバミン酸基およびグルカミン基からなる群から選択されるいずれかの構造を側鎖に有する構成単位(B)とを含む共重合体であることを特徴とする、ポリオレフィンのメッキ成形体の製造方法。
【請求項3】
前記共重合体が、前記構成単位(A)のブロックと、前記構成単位(B)のブロックを有するブロック共重合体である請求項1または2に記載のポリオレフィンのメッキ成形体の製造方法。
【請求項4】
前記ポリオレフィン成形体がリサイクルポリオレフィンの成形体であり、ポリエチレンを60質量%以上含有するものである請求項1~のいずれかに記載のポリオレフィンのメッキ成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィンのメッキ成形体およびその製造方法に関する。また、本発明は、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体をメッキする方法、および、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体に電気伝導性または抗菌性を付与する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック樹脂へのメッキは、製品の外観を高級化させたり、耐熱性、耐擦過性、耐衝撃性、耐候性などの機械的性質等を向上させるために従来広く行われている。これらの従来のメッキは、一般的に、ABS樹脂、ナイロン(ポリアミド)樹脂などの樹脂へのメッキに限られていた。これは、プラスチック樹脂等にメッキを行うためには、プラスチック樹脂の表面をメッキが密着しやすくなるように予め表面処理しておく必要があり、その表面処理に適した樹脂が限られていたためである。
【0003】
プラスチック樹脂へのメッキすることで、金属光沢調の種々の製品を作ることができる。また、プラスチック樹脂へメッキし、プリント配線基板のような製品を作れば、金属メッキ層の金属としての特徴と、基板のプラスチックとしての特徴とを活用することができる。このように、プラスチック樹脂へのメッキは、様々な用途が期待される。
しかし、ポリエチレンへのメッキについては、ABS樹脂等へのメッキを行う技術を転用することが難しい。ポリエチレンへのメッキは、プラズマ照射などによるエッチングを施しメッキ処理を行う手法等が検討(例えば、非特許文献1~2)されているが、十分には実用化や市販化に至っていない。
【0004】
これは、ポリエチレンが強酸・強アルカリに耐性を有するため、その表面が粗化されにくくメッキに適した状態に改質しにくいことによるものと考えられている。さらには、ポリエチレンは極性構造を持たないことからもメッキを行いにくい。
そのため、プラズマ照射などを施すことにより、ポリエチレンにメッキができる可能性が示唆されることもあるが、成形品全体への影響も大きく採用しにくかったり、成形品の形態によっては表面改質される場所を調整しにいという問題があった。また、メッキができても表面状態が不均一なため部分的なメッキとなったり、均質性が低いという問題があった。
【0005】
一方、本発明者らは、特定の共重合体を溶媒に分散させメッキ助剤液を調製する助剤液調製工程と、前記メッキ助剤液に、樹脂成形品を接触させて前記樹脂成形品の表層に前記共重合体の層を設ける表層修飾工程と、前記共重合体の層が設けられた樹脂成形品を、ナノ金属分散液に接触させて前記共重合体層にナノ金属層を設ける表層触媒化工程と、前記ナノ金属層が設けられた樹脂成形品を、無電解メッキ処理することで、前記ナノ金属層を介して樹脂成形品にメッキ処理層を設けるメッキ処理工程とを有することを特徴とする樹脂成形品のメッキ処理方法を開示している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-80329号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】X. P. ZOU, E. T. KANG*, and K. G. NEOH ,“PE Adhesion Enhancement of Evaporated Copper on HDPE Surface Modified by Plasma Polymerization of Glycidyl Methacrylate.”, POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE, OCTOBER 2001, Vol. 41, No. 10
【文献】JU-SHIK KONG, DONG-JIN LEE, HAN-DO KIM ,“PE SurfaceModification of Low-DensityPolyethylene (LDPE)”, Journal of Applied Polymer Science, Vol. 82, 1677-1690 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のメッキ処理方法は、従来メッキ処理が困難と言われていたポリエチレン系樹脂にもメッキ処理を行うことができ有用である。しかしながら、メッキ層と樹脂との接着性の更なる向上が求められる用途もあり、改良の余地があった。
【0009】
かかる状況下、本発明の目的は、メッキ層が剥がれにくい、ポリオレフィンのメッキ成形体およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> ポリオレフィン成形体と、前記ポリオレフィン成形体の表面に設けられた共重合体層と、前記共重合体層の上に設けられたナノ金属層と、前記ナノ金属層の上に設けられたメッキ層とを有するポリオレフィンのメッキ成形体の製造方法であって、共重合体を分散させたメッキ助剤液に、前記ポリオレフィン成形体を接触させて、前記ポリオレフィン成形体の表面に前記共重合体を含む共重合体層を設ける表面修飾工程と、前記共重合体層にナノ金属層を設ける表面触媒化工程と、前記ナノ金属層が設けられたポリオレフィン成形体を、無電解メッキ処理することで、前記ナノ金属層を介して前記ポリオレフィン成形体にメッキ層を設けるメッキ処理工程とを有し、前記ポリオレフィン成形体が、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体であり、前記共重合体が、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィンおよび置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーに由来する構成単位(A)と、金属吸着能を有する構造を側鎖に有する構成単位(B)とを含む共重合体であることを特徴とする、ポリオレフィンのメッキ成形体の製造方法。
<2> 前記表面修飾工程において、80℃以上の前記メッキ助剤液に前記ポリオレフィン成形体を接触させる<1>に記載のポリオレフィンのメッキ成形体の製造方法。
<3> 前記構成単位(B)が、オキシアルキレン構造またはアミン構造を側鎖に有する<1>または<2>に記載のポリオレフィンのメッキ成形体の製造方法。
<4> 前記構成単位(B)が、キレート構造を側鎖に有する<1>から<3>のいずれかに記載のポリオレフィンのメッキ成形体の製造方法。
<5> 前記共重合体が、前記構成単位(A)のブロックと、前記構成単位(B)のブロックを有するブロック共重合体である<1>から<4>のいずれかに記載のポリオレフィンのメッキ成形体の製造方法。
<6> 前記ポリオレフィン成形体がリサイクルポリオレフィンの成形体であり、ポリエチレンを60質量%以上含有するものである<1>から<5>のいずれかに記載のポリオレフィンのメッキ成形体の製造方法。
【0012】
<7> ポリオレフィン成形体と、前記ポリオレフィン成形体の表面に設けられた共重合体層と、前記共重合体層の上に設けられたナノ金属層と、前記ナノ金属層の上に設けられたメッキ層とを有するポリオレフィンのメッキ成形体であって、前記ポリオレフィン成形体が、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体であり、前記共重合体層に含まれる共重合体が、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィンおよび置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーに由来する構成単位(A)と、金属吸着能を有する構造を側鎖に有する構成単位(B)とを含む共重合体であることを特徴とする、ポリオレフィンのメッキ成形体。
【0013】
<8> 共重合体を分散させたメッキ助剤液に、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体を接触させて、前記ポリオレフィン成形体の表面に前記共重合体を含む共重合体層を設ける表面修飾工程と、前記共重合体層にナノ金属層を設ける表面触媒化工程と、前記ナノ金属層が設けられたポリオレフィン成形体を、無電解メッキ処理することで、前記ナノ金属層を介して前記ポリオレフィン成形体にメッキ層を設けるメッキ処理工程とを有し、前記共重合体が、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィンおよび置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーに由来する構成単位(A)と、金属吸着能を有する構造を側鎖に有する構成単位(B)とを含む共重合体である、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体をメッキする方法。
<9> 共重合体を分散させたメッキ助剤液に、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体を接触させて、前記ポリオレフィン成形体の表面に前記共重合体を含む共重合体層を設ける表面修飾工程と、前記共重合体層にナノ金属層を設ける表面触媒化工程と、前記ナノ金属層が設けられたポリオレフィン成形体を、無電解メッキ処理することで、前記ナノ金属層を介して前記ポリオレフィン成形体にメッキ層を設けるメッキ処理工程とを有し、前記共重合体が、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィンおよび置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーに由来する構成単位(A)と、金属吸着能を有する構造を側鎖に有する構成単位(B)とを含む共重合体である、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体に電気伝導性を付与する方法。
<10> 共重合体を分散させたメッキ助剤液に、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体を接触させて、前記ポリオレフィン成形体の表面に前記共重合体を含む共重合体層を設ける表面修飾工程と、前記共重合体層にナノ金属層を設ける表面触媒化工程と、前記ナノ金属層が設けられたポリオレフィン成形体を、無電解メッキ処理することで、前記ナノ金属層を介して前記ポリオレフィン成形体にメッキ層を設けるメッキ処理工程とを有し、前記共重合体が、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィンおよび置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーに由来する構成単位(A)と、金属吸着能を有する構造を側鎖に有する構成単位(B)とを含む共重合体である、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体に抗菌性を付与する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、メッキ層が剥がれにくい、ポリオレフィンのメッキ成形体およびその製造方法が提供される。
また、本発明によれば、リサイクルポリオレフィンを含有する成形体であっても、その表面をメッキ層で被覆するため、得られるポリオレフィンのメッキ成形体に金属光沢を付与することができ、その色調により利用用途が限定されていたリサイクルポリオレフィンの用途の拡大が可能である。さらに、電気伝導性、抗菌作用などを付与することができ、リサイクルポリオレフィンの高付加価値化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の製造方法の一例を示す図である。
図2】本発明の製造方法の他の一例を示す図である。
図3】本発明の製造方法の他の一例を示す図である。
図4】本発明の製造方法の他の一例を示す図である。
図5】基材として用いたリサイクルポリエチレンフィルム(未処理品)と実施例2のポリエチレンフィルム(2)(メッキ処理品)の写真である。
図6】テープ剥離試験(1)後の実施例2のポリエチレンフィルム(2)とテープの写真である。
図7】テープ剥離試験(1)後の比較例1のポリエチレンフィルム(3)とテープの写真である。
図8】テープ剥離試験(2)後の実施例2のポリエチレンフィルム(2)とテープの写真である。
図9】テープ剥離試験(2)後の比較例1のポリエチレンフィルム(3)とテープの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。
【0017】
本発明は、ポリオレフィン成形体と、前記ポリオレフィン成形体の表面に設けられた共重合体層と、前記共重合体層の上に設けられたナノ金属層と、前記ナノ金属層の上に設けられたメッキ層とを有するポリオレフィンのメッキ成形体の製造方法であって、共重合体を分散させたメッキ助剤液に、前記ポリオレフィン成形体を接触させて、前記ポリオレフィン成形体の表面に前記共重合体を含む共重合体層を設ける表面修飾工程と、前記共重合体層にナノ金属層を設ける表面触媒化工程と、前記ナノ金属層が設けられたポリオレフィン成形体を、無電解メッキ処理することで、前記ナノ金属層を介して前記ポリオレフィン成形体にメッキ層を設けるメッキ処理工程とを有し、前記ポリオレフィン成形体が、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体であり、前記共重合体が、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィンおよび置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーに由来する構成単位(A)と、金属吸着能を有する構造を側鎖に有する構成単位(B)とを含む共重合体であることを特徴とする、ポリオレフィンのメッキ成形体の製造方法(以下、「本発明の製造方法」という)に関するものである。
【0018】
本発明の製造方法の特徴は、金属メッキを施すための被処理物としてリサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体を用いることである。さらに、メッキ処理の前に、特定の共重合体を分散させたメッキ助剤液に、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体を接触させて、ポリオレフィン成形体の表面に、特定の共重合体を含む共重合体層を設ける表面修飾工程を有することである。
【0019】
本発明者らは、特定の共重合体で表面修飾したリサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体を被処理物として用いることで、驚くべきことに、バージン品などのリサイクルポリオレフィンを含有しないものにメッキ処理した場合と比較して、樹脂であるポリオレフィンと、形成されるメッキ層との接着性が著しく向上することを見出した。
【0020】
リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィンを用いることでメッキ層の接着性が向上する理由は限定するものではないが次のようなことが考えられる。
まず、リサイクル樹脂は、完全に単一の成分に分離することが困難である。リサイクルポリオレフィンは、通常、ポリエチレンとポリプロピレンの混合物であり、さらに、ポリオレフィンとは異種の樹脂(例えば、ポリスチレン)や、顔料等の無機物、不純物などが混入している。
このリサイクルポリオレフィンに混入する顔料等の無機物は、ポリオレフィン成形体の表面に微細な凹凸構造を形成したり、吸水性をわずかに示すと推測される。この表面の構造や吸水性が、接着性の向上に寄与していると推測される。
また、メッキ助剤液に、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体を接触させることで、リサイクルポリオレフィンに含まれる異種の樹脂や不純物などが溶出し、ポリオレフィン成形体の表面に微細な凹凸構造を生じさせたり、クラックや細孔が生じると推測される。その結果、アンカー効果を発揮し、ポリオレフィン成形体と、共重合体層やメッキ層との接着性が向上するものと推測される。
【0021】
また、本発明の製造方法では、ポリオレフィン成形体の表面を粗化するなどの処理を行わない場合でも、ポリオレフィン成形体と形成されるメッキ層との接着性を優れたものとすることができる。このため、メッキ層が剥がれにくい、ポリオレフィンのメッキ成形体をより簡単に製造することができる。
【0022】
また、本発明の製造方法では、ポリオレフィン成形体に、メッキされる金属の特性に応じて種々の機能を付与することができる。意匠性の観点からは、グレイな色調により利用用途が限定されていたリサイクルポリオレフィンを含有する成形体に金属光沢を付与できる。また、電気伝導性、抗菌作用などを付与することができ、リサイクルポリオレフィンの高付加価値化が可能である。
ポリオレフィンは、リサイクルプラスチックとして使用すると、バージン品の特性と比べて破断強度や伸度などの力学特性が著しく低下しやすいため、多くの場合、サーマルリサイクルされ、焼却処分されているか、あるいは埋め立て処分されている。また、混入する顔料などによってリサイクルポリオレフィンはグレイな色調となっており、マテリアルリサイクルする場合も、パレットや擬木等の限定的な用途に限定されている。本発明の製造方法は、このようなリサイクルポリオレフィンの用途を拡大する方法としても有用である。
【0023】
また、本発明は、ポリオレフィン成形体と、前記ポリオレフィン成形体の表面に設けられた共重合体層と、前記共重合体層の上に設けられたナノ金属層と、前記ナノ金属層の上に設けられたメッキ層とを有するポリオレフィンのメッキ成形体であって、前記ポリオレフィン成形体が、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体であり、前記共重合体層に含まれる共重合体が、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィンおよび置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーに由来する構成単位(A)と、金属吸着能を有する構造を側鎖に有する構成単位(B)とを含む共重合体であることを特徴とする、ポリオレフィンのメッキ成形体(以下、「本発明のポリオレフィンのメッキ成形体」という)に関するものである。
【0024】
本発明のポリオレフィンのメッキ成形体の特徴は、特定の共重合体で表面修飾されたリサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体の上にメッキ層を有することである。
このような構成とすることで、上記の通り、リサイクルポリオレフィンに含まれる異種の樹脂や、顔料、不純物等の混入に起因して、ポリオレフィン成形体の表面は微細な凹凸構造や吸水性を有するため、ポリオレフィン成形体と共重合体層やメッキ層との接着性が向上していると推測される。
【0025】
以下、本発明の製造方法で用いられるポリオレフィン成形体、共重合体について説明する。上記の通り、本発明の製造方法で用いられるポリオレフィン成形体は、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体(以下、単に、「ポリオレフィン成形体」と記載する場合がある。)である。また、本発明の製造方法で用いられる共重合体は、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィンおよび置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーに由来する構成単位(A)と、側鎖に金属吸着能を有する構造を有する構成単位(B)とを含む共重合体(以下、「表面修飾用の共重合体」と記載する場合がある。)である。
このポリオレフィン成形体および表面修飾用の共重合体は、本発明のポリオレフィンのメッキ成形体においても、特徴的な構成要件となるものである。
【0026】
(リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体)
本発明において、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体は、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィンが任意の形状に成形されたものである。
なお、リサイクル(廃棄)ポリオレフィンとは、バージン品のペレットからポリオレフィンを成形する工程で生じる廃棄物や不良品のようなプレコンシューマ品や、容器包装リサイクルプラスチック(いわゆる「容リプラ」)のような成形体として市場流通し、消費された後に廃棄されるポリオレフィンの総称である。また、ポリオレフィンとは、ポリエチレンやポリプロピレン等のように、1位に二重結合をもつαオレフィンの重合で得られる結晶性を有する高分子である。
【0027】
リサイクルポリオレフィンは2種以上のポリオレフィンを含むものとすることができる。また、さらに、無機粉末、無機フィラー、ポリスチレン由来物、1,4-付加ブタジエンユニット由来物、ポリエチレンテレフタレート由来物、およびプラスチックからなる群から選択される少なくとも1以上の成分を含むものとすることができる。
【0028】
このようなリサイクルポリオレフィンとしては、例えば、容器包装プラスチックから製造(再生)したポリエチレンまたはポリプロピレンが挙げられる。ポリエチレン(PE)またはポリプロピレン(PP)の再生材料は、ISO18263に基づき、リッチ品や準リッチ品に分類することができる。なお、リサイクルポリエチレンの場合、ポリエチレンの純度が60質量%以上85質量%未満のものを準リッチ品、85質量%以上のものをリッチ品と呼び分類される。リサイクルポリプロピレンの場合、ポリプロピレンの純度が60質量%以上85質量%未満のものを準リッチ品、85質量%以上のものをリッチ品と呼び分類される。本発明では、リサイクルポリオレフィンは、リッチ品であっても準リッチ品であってもよい。また、ポリエチレンとポリオレフィンのミックス品(60質量%>PEまたはPP≧40質量%)を用いてもよい。
【0029】
また、リサイクルポリオレフィンは、バージン品に比べて破断強度などの力学特性の低下が少ないものが好ましく、特開2016-049736号公報や特開2017-148997号公報に開示された製造方法を利用して製造されたものであることが好ましい。
【0030】
また、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体は、リサイクルポリオレフィンを含有すれば、リサイクルポリオレフィンからなる成形体であっても、リサイクルポリオレフィンと、バージン品のポリオレフィンとを含む成形体であってもよい。また、リサイクルポリオレフィンは、顔料やポリオレフィンと異種の樹脂等を含むものであるため、本発明において、ポリオレフィン成形体は、ポリオレフィン以外の成分を含むものである。
メッキ層の接着がより良いものとするためには、リサイクルポリオレフィンを主成分とすることが好ましく、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体におけるリサイクルポリオレフィンの含有量は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましい。その上限は、95質量%以下や92質量%以下、90質量%以下であってもよい。
【0031】
資源の有効活用の観点や接着性のより優れた表面構造としやすいことからは、ポリオレフィン成形体は、リサイクルポリオレフィンからなることが好ましく、例えば、ポリエチレンを60質量%以上含有するリサイクルポリオレフィンからなることがより好ましい。
【0032】
ポリオレフィン成形体の形状としては、特に限定されず、例えば、シート、板、繊維、多孔質材料、各種部材などの成形体が挙げられる。
【0033】
(表面修飾用の共重合体)
本発明において、表面修飾用の共重合体は、上記の通り、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィンおよび置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーに由来する構成単位(A)と、側鎖に金属吸着能を有する構造を有する構成単位(B)とを含む共重合体である。
構成単位(A)の側鎖は、リサイクルポリエチレンに代表されるようなメッキ対象のポリオレフィン成形体と優れた接着性を示す。構成単位(A)を介して表面修飾用の共重合体がポリオレフィン成形体の表面に修飾されることで、構成単位(B)に起因する金属吸着能をポリオレフィン成形体に付与することができる。
【0034】
(構成単位(A))
表面修飾用の共重合体は、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィンおよび置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーに由来する構成単位(A)を有する。
なお、ここで、本願において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタアクリレートの両者を意味する。同様に、「(メタ)アクリルアミド」とは、アクリルアミドおよびメタアクリルアミドの両者を意味する。
【0035】
側鎖のアルカン鎖が結晶性を示す構造となりやすく、ポリオレフィン成形体と相互作用しやすくなるため、構成単位(A)は、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレートまたはαオレフィンのモノマーに由来する構成単位であることが好ましい。
【0036】
構成単位(A)は、その側鎖に炭素数は8以上のアルカン鎖を有するものである。このような構成単位(A)の側鎖の炭素数8以上のアルカン鎖としては、例えば、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基(ステアリル基)、ドコシル基(ベヘニル基)等が挙げられる。また、側鎖のアルカン鎖は、主鎖に直接結合してもよく、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、ベンゼン環等の連結基を介して主鎖と結合してもよい。
【0037】
結晶性を示しやすく、表面修飾用の共重合体とポリオレフィン成形体との相互作用をより向上させることができるため、構成単位(A)は、炭素数は12以上のアルカン鎖を有することが好ましく、16以上のアルカン鎖を有することがより好ましい。なお、このアルカン鎖は直鎖状のアルカン鎖であることが好ましい。一方、その上限は、溶媒への分散性等を考慮し、ポリオレフィンとの接着性を維持することができる範囲で適宜設定することができる。具体的な上限としては、現実的には50以下が好ましく、40以下がより好ましく、30以下がさらに好ましい。アルカン鎖が大きすぎると共重合体として適当な立体構造がとれずポリオレフィン成形体への接着性が低下したり、溶媒への分散性が低下する。また、表面修飾用の共重合体を製造するための重合条件の設定が難しくなったりする場合がある。
【0038】
具体的には、構成単位(A)は、以下の一般式(A-1)または(A-2)で表されるいずれかであることが好ましい。
【0039】
【化1】
【0040】
一般式(A-1)および(A-2)において、Ra1は、水素原子またはメチル基を表す。
【0041】
一般式(A-1)および(A-2)において、Ra2は、炭素数8以上のアルキル基(炭素数8以上のアルカン鎖)を表す。上記の通り、Ra2は直鎖状のアルキル基であることが好ましい。また、Ra2で表されるアルキル基の炭素数は、12以上が好ましく、16以上がより好ましい。また、その上限は、50以下や40以下、30以下、25以下などにすることができる。
【0042】
一般式(A-1)および(A-2)において、nは2以上の整数である。nは、側鎖のアルカン鎖の長さや構成単位(A)および構成単位(B)の配列、構成単位(B)の重合度等に応じて、ポリオレフィンとの接着性が維持できる範囲で適宜決定される。表面修飾用の共重合体がブロック共重合体である場合、nは、2~1,000であることが好ましく、5以上や、10以上とすることがより好ましい。5以上や、10以上とすることで、側鎖が結晶性を有するものとなりやすく、より安定してポリオレフィン成形体と結合させることができる。また、表面修飾用の共重合体がブロック共重合体である場合、構成単位(A)および構成単位(B)の効果が十分に得られる範囲で、nは、800以下や、500以下としてもよい。
【0043】
表面修飾用の共重合体の原料となるモノマーの入手のしやすさや、重合条件の制御のしやすさ、炭素数8以上のアルカン鎖同士の相互作用のしやすさなどの観点から、構成単位(A)は、一般式(A-1)であることがより好ましい。
【0044】
(構成単位(B))
表面修飾用の共重合体は、側鎖に金属吸着能を有する構造を有する構成単位(B)を有する。
ここで「金属吸着能」とは、分子構造に極性基を有するために金属や金属イオンと吸着特性を示したり、金属や金属イオンと化学結合したり、錯形成しやすい分子構造が共重合体内に設けられ、その構造が被処理物(リサイクルポリエチレン成形体等)の表面に配置されることで金属や金属イオンが担持され吸着・保持される性質を有することをいう。
【0045】
構成単位(B)は、オキシアルキレン構造またはアミン構造を側鎖に有することが好ましい。より好ましくは、オキシアルキレン構造またはアミン構造を側鎖に有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィンおよび置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーに由来する構造である。
【0046】
オキシアルキレン構造を側鎖に有する構成単位(B)としては、オキシアルキレン基を側鎖に有する構造が挙げられる。なお、オキシアルキレン基とは、「-(Cp2p-O)-」(pは1以上の整数である)で表される2価の基である。例えば、一般式(X)で表される置換基を側鎖に有するものとすることができる。また、一般式(X)は、主鎖に直接結合してもよく、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、ベンゼン環、アルキレン等の連結基を介して主鎖と結合してもよい。
【0047】
【化2】
【0048】
一般式(X)において、Rx1は水素原子またはアルキル基であり、pは1以上の整数であり、qは1以上の整数である。
x1で表されるアルキル基は、直鎖であっても分岐していてもよいが、直鎖であることが好ましい。また、アルキル基の炭素数が大きくなると、ポリオレフィンとの相互作用が強くなり金属吸着能を十分に発揮できなかったり、ナノ金属触媒と相互作用しにくくなる場合がある。そのため、Rx1は水素原子または炭素数1~5のアルキル基であることが好ましく、水素原子、メチル基またはエチル基であることがより好ましい。
【0049】
pは1~10が好ましい。また、キレート効果により金属と相互作用しやすくなるため、qは2~10が好ましい。
【0050】
また、アミン構造を側鎖に有する構成単位(B)としては、アミノ基を側鎖に有する構造が挙げられ、例えば、一般式(Y)で表される置換基を側鎖に有するものとすることができる。また、一般式(Y)は、主鎖に直接結合してもよく、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、ベンゼン環、アルキレン等の連結基を介して主鎖と結合してもよい。
【0051】
【化3】
【0052】
一般式(Y)において、Ry1、Ry2はそれぞれ独立に、水素原子またはアルキル基、アルキルカルボキシ基である。なお、アルキルカルボキシ基とは、アルキル基とカルボキシ基が結合した置換基であって、アルキル基をRalkylで表すと、-Ralkyl-COOHで表される置換基である。
中でも、Ry1およびRy2は、水素原子または炭素数1~5の直鎖または分岐アルキル基であることが好ましい。Ry1およびRy2で表されるアルキル基の炭素数が大きくなると、金属と相互作用しにくい場合がある。
【0053】
また、構成単位(B)は、キレート構造を側鎖に有することが好ましい。キレート構造を有する構造としては、イミノ二酢酸(IDA)基、低分子ポリアミノ基、アミノリン酸基、イソチオニウム基、ジチオカルバミン酸基、グルカミン基、オキシアルキレン構造等の種々の構造を有するものとすることができる。
【0054】
具体的には、構成単位(B)は、以下の一般式(B-1)~(B-4)で表される構造が挙げられる。
【0055】
【化4】
【0056】
一般式(B-1)~(B-4)において、Rb1は、水素原子またはメチル基を表す。また、RLは、単結合またはアルキレン基を表し、単結合または炭素数1~4のアルキレン基であることが好ましい。また、アルキレン基は、アルコール基やヒドロキシル基等の置換基を有してもよいが、Rb2の自由度が高くなり、金属と相互作用しやすい立体配置を取りやすくなり金属との親和性が向上するため、無置換のアルキレン基が好ましい。
【0057】
一般式(B-1)~(B-4)において、Rb2は、水素原子、アルキル基、ヒドロキシル基、アミノ基、スルホン酸基、および一般式(X)で表される置換基からなる群から選択されるいずれかを表す。なお、一般式(X)で表される置換基は、上記の通りである。
金属と相互作用しやすく、メッキ層の接着性がより優れたものとなるため、Rb2は、アミノ基または一般式(X)で表される置換基であることが好ましい。アミノ基としては、無置換のアミノ基(-NH2)であっても、アルキル基等が置換したアミノ基であってもよいが、上記一般式(Y)で表される構造がより好ましい。
【0058】
一般式(B-2)において、Rb3は、水素原子またはアルキル基を表し、水素原子または炭素数1~5のアルキル基が好ましく、水素原子または炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。
【0059】
また、構成単位(B)は、下記一般式(B-5)~(B-7)の構造とすることができる。
【0060】
【化5】
【0061】
一般式(B-5)~(B-7)において、Rb1は、水素原子またはメチル基を表す。また、RLは、単結合またはアルキレン基を表し、単結合または炭素数1~4のアルキレン基であることが好ましい。また、アルキレン基は、アルコール基やヒドロキシル基等の置換基を有してもよいが、無置換のアルキレン基が好ましい。
【0062】
b4は、ヒドロキシル基、アミノ基、スルホン酸基、および一般式(X)で表される置換基からなる群から選択されるいずれかを表す。なお、一般式(X)で表される置換基は、上記の通りである。
【0063】
また、金属と相互作用しやすく、メッキとの接着性がより優れたものとなるため、Rb4は、アミノ基または一般式(X)で表される置換基であることが好ましい。アミノ基としては、無置換のアミノ基(-NH2)であっても、アルキル基等が置換したアミノ基であってもよいが、上記一般式(Y)で表される構造がより好ましい。
【0064】
一般式(B-1)~(B-7)において、mは2以上の整数である。mは、金属吸着能を有する基の構造や構成単位(A)および構成単位(B)の配列、構成単位(B)の重合度等に応じて適宜決定される。
表面修飾用の共重合体がブロック共重合体である場合、mは2~1,000であることが好ましい。より安定した改質効果を発揮し、ポリオレフィン成形体の表面に金属吸着能を付与するためには、mは、2以上が好ましく、mは5以上や、10以上とすることがより好ましい。また、mは、構成単位(A)および構成単位(B)の効果が十分に得られる範囲で、800以下や、500以下としてもよい。
【0065】
表面修飾用の共重合体の原料となるモノマーの入手のしやすさや、重合条件の制御のしやすさから、中でも、構成単位(B)は、一般式(B-1)で表される構造であることがより好ましい。
【0066】
表面修飾用の共重合体は、構成単位(A)と、構成単位(B)とを含む共重合体である。表面修飾用の共重合体は、本発明の目的を損なわない範囲でさらにその他の構成単位を含んでいてもよい。例えば、後述するように、構成単位(B)が、その前駆体ポリマーの側鎖に金属吸着性部位を導入することで得られるものであるとき、表面修飾用の共重合体は、共重合体(A)と共重合体(B)に加えて、構成単位(B)の前駆体モノマーに由来する構造を含みうる。
また、表面修飾用の共重合体は、構成単位(A)および構成単位(B)を主成分として含むものであり、構成単位(A)と構成単位(B)との合計の割合が、表面修飾用の共重合体中、80質量%以上が好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0067】
好ましい表面修飾用の共重合体のひとつは、一般式(A-1)または(A-2)で表される構成単位(A)と、一般式(B-1)で表される構成単位(B)とを含む共重合体であり、より好ましくは、一般式(A-1)で表される構成単位(A)と、一般式(B-1)で表される構成単位(B)とを含む共重合体である。
【0068】
また、表面修飾用の共重合体は、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、トリブロック共重合体等のいずれであってもよいが、好ましくは、ブロック共重合体である。ブロック共重合体とすることで、構成単位(A)からなる構造ユニットと、構成単位(B)からなる構造ユニットとのそれぞれの機能が十分に発揮されやすくなる。
【0069】
表面修飾用の共重合体において、構成単位(A)に対応する分子量(g/mol)と、構成単位(B)に対応する分子量(g/mol)とは、それぞれ1000以上であることが好ましい。構成単位(A)に対応する分子量が1000以上であることで、基材となるポリオレフィン成形体に、より強固に接着することができる。構成単位(A)に対応する分子量は、1,500以上であることが好ましく、2,000以上であることがより好ましい。
【0070】
また、構成単位(B)に対応する分子量が1000以上であることで、より金属吸着能に優れた共重合体とすることができる。構成単位(B)に対応する分子量は、1,500以上であることが好ましく、2,000以上であることがより好ましい。
【0071】
なお、これらの分子量は、GPCにより得られる結果から、ポリスチレン換算で求めることができる値「Mw:重量平均分子量」である。また、共重合体が溶媒に溶けにくく分子量を測定しにくい場合がある。そのような場合には、元素分析、IR、NMRなどの手法により各々の分子量を算出することができる。
【0072】
表面修飾用の共重合体の一例として、下記化学式(I)で表されるポリマーが挙げられる。これは、第1のモノマー(A)として、ベヘニルアクリレート(BHA:側鎖のアルカン鎖が、炭素数22の直鎖状のアルキル基である。)を重合させ、その後、第2のモノマー(B)としてメタクリル酸2-(tert-ブチルアミノ)エチル(2-(tert-Butylamino)ethyl methacrylate:TBAEMA)を用いて共重合させたブロック共重合体である。これは、いわゆるAB型のブロック共重合体である。この共重合体は、BHA由来の構造によりポリオレフィン成形体への接着性を示すブロック共重合体部を有し、一方で、TBAEMA由来のアミン構造により、ポリオレフィン成形体(被処理物)に金属吸着能を付与することができる。
【0073】
【化6】
【0074】
表面修飾用の共重合体の重合方法は、特に限定されず、各種リビング重合法(ラジカル、アニオン、カチオン)等の公知の技術により重合することが可能である。リビングラジカル重合法としては、NMP法やATRP法、RAFT法などを用いることができる。また、上記のように、表面修飾用の共重合体はブロック共重合体であることが好ましく、ブロック共重合体となるように製造することが好ましい。
【0075】
例えば、その側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィンおよび置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかである第1のモノマー(A)と、側鎖に金属吸着能を有する構造を有する第2のモノマー(B1)とを重合させて得ることができる。
【0076】
具体的には、第1のモノマー(A)を重合溶媒に開始剤と共に混合して、モノマー(A)混合溶液を調製するモノマー(A)混合溶液調製工程を行う。次に、この混合溶液調製工程で調製されたモノマー(A)混合溶液を、適当な重合温度(例えば約90~120℃)で、リアクター内で適宜撹拌しながら、窒素雰囲気等の下でリビングラジカル重合等の開始剤の重合機構に基づくモノマー(A)重合工程を行い、モノマー(A)ブロック重合体を得る。さらに、このモノマー(A)ブロック重合体を混合させている溶液に、側鎖に金属吸着能を有する構造を有する第2のモノマー(B1)(例えば、アミノ基を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィンおよび置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマー)を混合して、溶液中のラジカル等によってさらにモノマー(B1)を重合させるモノマー(B1)重合工程を行う。これにより、モノマー(A)由来ブロックとモノマー(B1)由来ブロックを有するブロック共重合体を得ることができる。モノマー(A)とモノマー(B1)との重合を行う順序は、重合させようとするモノマー種や分子量、それぞれの重合条件等に応じて変更することもできる。
【0077】
また、その側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィンおよび置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかである第1のモノマー(A)と、その側鎖にオキシラニル基等の反応性基を有する第2のモノマー(B2)(構成単位(B)の前駆体モノマー)とを重合させて、前駆体ポリマーを合成した後、アミノ基等と反応させて得ることができる。
【0078】
具体的には、上記と同様に、第1のモノマー(A)を重合溶媒に開始剤と共に混合して、適当な重合温度(例えば約90~120℃)で、リアクター内で適宜撹拌しながら、窒素雰囲気等の下でリビングラジカル重合等の開始剤の重合機構に基づくモノマー(A)重合工程を行い、モノマー(A)ブロック重合体を得る。このモノマー(A)ブロック重合体を混合させている溶液に、オキシラニル基を有する第2のモノマー(B2)(例えば、オキシラニル基を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィンおよび置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマー)を混合して、溶液中のラジカル等によってさらにモノマー(B2)を重合させるモノマー(B2)重合工程を行う。これにより、モノマー(A)由来ブロックとモノマー(B2)由来ブロックを有する前駆体ポリマーが混合した溶液が得られる。次いで、この前駆体ポリマーにイミノ二酢酸を反応させると、オキシラニル基とイミノ二酢酸とが反応し、イミノ二酢酸由来のアミンの構造を有するものとなり、モノマー(B2)由来ブロックの側鎖に金属吸着能を有する共重合体となる。
【0079】
その他の構成単位を含むときには、例えば、第3のモノマーとして、第1のモノマーおよび第2のモノマーと重合させればよい。
【0080】
モノマー(A)を具体的に例示すると、ドデシルアクリレート(ラウリルアクリレート)、ドデシルメタクリレート(ラウリルメタクリレート)、オクタデシルアクリレート(ステアリルアクリレート)、オクタデシルメタクリレート(ステアリルメタクリレート)、ドコシルアクリレート(ベヘニルアクリレート)、ドコシルメタクリレート(ベヘニルメタクリレート)等が挙げられる。
【0081】
モノマー(B1)を具体的に例示すると、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(2-(Dimethylamino) ethyl Methacrylate、DMAEMA)、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート(2-(Dimethylamino) ethyl Acrylate、DMAEA)、2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート(2-(Diethylamino) ethyl Methacrylate、DEAEMA)、2-(ジエチルアミノ)エチルアクリレート(2-(Diethylamino) ethyl Acrylate、DEAEA)、2-(tert-ブチルアミノ)エチルメタクリレート(2-(tert- Butylamino) ethyl Methacrylate、TBAEMA)、N,N-ジメチルアクリルアミド(N、N-Dimethylacrylamide、DMAA)、N、N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(N、N-Dimethylaminopropyl Acrylamide、DMAPAA)、およびN,N-ジエチルアクリルアミド(N、N-Diethylacrylamide、DEAA)等のアミンを有するモノマーが挙げられる。
【0082】
また、モノマー(B1)として、ジ(エチレングリコール)エチルエーテルアクリレート(CH2=CH(CO)O(CH2―CH2―O―)225)、ポリエチレングリコール-モノアクリレート(CH2=CH(CO)O(CH2―CH2―O―)nH)(n=2~10)、メトキシ-ポリエチレングリコール-アクリレート(CH2=CH(CO)O(CH2―CH2―O―)nCH3)(n=2~9)などが挙げられる。より具体的には、ポリ(エチレングリコール)モノアクリレート(Poly(ethylene glycol) monoacrylate(PGMA))等のポリオキシアルキレン構造を側鎖に有するモノマーが挙げられる。
【0083】
モノマー(B2)としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等が挙げられる。
【0084】
<ポリオレフィンのメッキ成形体の製造方法>
本発明の製造方法は、上記の通り、表面修飾工程と、表面触媒化工程と、メッキ処理工程とを有する。本発明の製造方法の一例を図1に示す。
本発明の製造方法とすることで、安定してポリオレフィン成形体の上に、共重合体層とナノ金属層を介して、メッキ層を形成させることができ、形成されるメッキ層は接着性に優れたものとなる。
【0085】
以下、本発明の製造方法の各工程について説明する。
【0086】
[表面修飾工程]
表面修飾工程は、共重合体を分散させたメッキ助剤液に、前記ポリオレフィン成形体を接触させて、前記ポリオレフィン成形体の表面に前記共重合体を含む共重合体層を設ける工程である。
表面修飾工程で用いられるポリオレフィン成形体、上記の通り、リサイクルポリオレフィンを含有するものである。
また、メッキ助剤液に分散させる共重合体(表面修飾用の共重合体)は、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィンおよび置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーに由来する構成単位(A)と、側鎖に金属吸着能を有する構造を有する構成単位(B)とを含む共重合体であり、上記の通りである。
表面修飾用の共重合体を用いて、ポリオレフィン成形体の表面を修飾することで、金属との親和性が向上し、表面触媒化およびメッキ処理が進行しやすくなる。また、ポリオレフィン成形体の表面を、メッキ層との接着性に優れた表面状態とすることができる。
【0087】
(メッキ助剤液)
メッキ助剤液とは、表面修飾用の共重合体が溶媒に溶解または分散した液である。メッキ助剤液を、ポリオレフィン成形体と接触させることで、その表面を表面修飾用の共重合体により改質させるものである。ポリオレフィン成形体のメッキ部分となる任意の場所に、表面修飾用の共重合体を含む共重合体層を設けやすいように調製されたものである。例えば、表面修飾用の共重合体は、適宜、本発明の共重合体が分散や溶解可能な溶媒等に混合させ、メッキ助剤液とされる。
【0088】
メッキ助剤液の溶媒は、表面修飾用の共重合体を分散や溶解させることができれば、特に限定されない。80℃以上でメッキ助剤液とポリオレフィン成形体との接触を行うことが好ましいため、沸点の高い溶媒を用いることが好ましい。具体的には、1atmにおける沸点が80℃以上の溶媒が好ましく、120℃以上の溶媒が更に好ましい。
沸点が低すぎると、ポリオレフィン成形体とメッキ助剤との接触時に、溶媒が揮発する場合がある。この揮発によりメッキ助剤液の液量変化や濃度変化を抑制するために還流する場合がある。溶媒の沸点が低いとより還流機能を向上させる必要が生じ操作性が低下する場合がある。このため沸点は、上記のような範囲としてより高くするほうがよい。一方、沸点の上限は特に設ける必要はない。
【0089】
例えば、溶媒として、トルエンや、キシレン、酢酸ブチル、オクタン、デカリン等を用いることができる。
【0090】
メッキ助剤液の溶媒は、1種の溶媒を単独で用いてもよいし、混合溶媒を用いてもよい。混合溶媒とするときトルエンや、キシレン、酢酸ブチル、オクタン、デカリンのいずれかを主たる溶媒とすることが好ましい。主たる溶媒として用いる溶媒は、溶媒の全体積において50体積%以上を占めることが好ましく、70体積%以上、90体積%以上、95体積%以上を占めるものとしてもよい。
【0091】
メッキ助剤液中の表面修飾用の共重合体の濃度は、表面修飾用の共重合体の種類やポリオレフィン成形体と接触させるときの温度、表面修飾用の共重合体の接着量や接着膜厚、改質目的等に応じて適宜設定することができる。
メッキ助剤液の表面修飾用の共重合体濃度は、0.01~2.0質量%であることが好ましい。表面修飾用の共重合体濃度の下限は、0.02質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましい。濃度が薄すぎる場合、ポリオレフィン成形体の表面に表面修飾用の共重合体を含む共重合体層が十分に形成されずに改質効果が不足する場合がある。表面修飾用の共重合体の濃度の上限は、1.5%質量以下が好ましく、1.0%質量以下がより好ましい。0.9%質量以下や0.8%質量以下とすることもできる。濃度を高くしても改質効果は飽和する場合がある。また濃度が高すぎると、表面修飾用の共重合体自体の自己集合によるミセル化が生じてしまい改質できない場合がある。
【0092】
(接触方法)
メッキ助剤液とポリオレフィン成形体との接触方法としては、メッキ助剤液中に浸漬させたり、任意の位置に刷毛やスプレー、コーター等の塗工手段でメッキ助剤液を塗工したりといった方法で接触させる。そして、メッキ助剤液中の溶媒を乾燥処理等を行うことで除去し、ポリオレフィン成形体の表面に共重合体層を設けることが一般的である。
【0093】
メッキ助剤液とポリオレフィン成形体との接触は、メッキ助剤液を80℃以上の温度とし、ポリオレフィン成形体と接触させることが好ましい。メッキ助剤液の温度が低い場合、表面修飾用の共重合体がミセルを形成し沈降し、分散が不十分となる場合があり、メッキ層が形成されても接着性が低く剥離しやすくなる。メッキ助剤液の温度を高くすることで、表面修飾用の共重合体のミセルの形成を抑制し、より均一に分散させることで、ポリオレフィン成形体の表面をより金属との親和性に優れたものに改質することができる。また、メッキ助剤液の温度を80℃以上とすることで、ポリオレフィン成形体に含まれる異種の樹脂や不純物等をより溶出しやすくなり、ポリオレフィン成形体の表面に微細構造が生じ、メッキ層との接着性が向上する。メッキ層がより剥離しにくいポリオレフィン成形体を得やすいことから、メッキ助剤液は、100℃以上とすることがより好ましく、120℃以上がさらに好ましい。
また、メッキ助剤液の温度が高い場合、溶液中でポリオレフィン成形体の耐熱性が不足して変形したり、メッキ助剤液の溶媒に溶解するおそれがある。そのため、メッキ助剤液の温度は、200℃以下とすることが好ましく、180℃以下がより好ましく、150℃以下が更に好ましい。一方、メッキ助剤液の温度が高い場合であっても、メッキ助剤液とポリオレフィン成形体との接触時間を短時間化することで、変形等の影響を限定的にし、表面修飾することもできる。
【0094】
所定の温度における接触は、予めメッキ助剤液を所定の温度としておいてもよい。または、常温程度等のメッキ助剤液にポリオレフィン成形体を接触させてから加熱し、所定の温度となるように昇温してもよい。また、所定の時間、メッキ助剤液と接触させた後、ポリオレフィン成形体は速やかにメッキ助剤液から取り出してもよいし、メッキ助剤液に接触させたまま冷却や徐冷してもよい。
【0095】
ポリオレフィン成形体を、所定の温度のメッキ助剤液に接触させる時間は、共重合体により改質できる範囲で適宜設定することができる。この接触させる時間は、1秒~60分であることが好ましい。この時間の下限は2秒以上や5秒以上、10秒以上、30秒以上、1分以上としてもよい。接触させる時間が短すぎる場合、共重合体層の形成が不十分となる場合がある。この接触させる時間の上限は、50分以下や40分以下、30分以下、20分以下としてもよい。接触時間を長くしても効果は飽和する。また接触時間が長すぎる場合、ポリオレフィン成形体に対して浸食性を有する溶媒を用いる場合があることから、長時間接触させるとポリオレフィン成形体が溶解したり変形する恐れがある。
なお、本発明の製造方法では、このような所定の温度の共重合体溶液にポリオレフィン成形体を接触させる工程を有していればよく、その下限よりも低い温度で接触させる工程を有していてもよい。
【0096】
上記のように、この接触は、メッキ助剤液中にポリオレフィン成形体を浸漬させたり、任意の位置に刷毛やスプレー、コーター等の塗工手段で塗工したりといった方法で行うことができる。また、メッキ助剤液を循環させながら接触(かけ流し等)したり、メッキ助剤液を塗布する(コーティング)などの手法で行うことできる。メッキ助剤液を所定の温度で管理しやすいように、メッキ助剤液とポリオレフィン成形体との接触は、メッキ助剤液への浸漬によることが好ましい。
好適な手法の一つは、80℃以上のメッキ助剤液中にポリオレフィン成形体を浸漬する方法である。
【0097】
また、接触させる工程を終えたのち、溶媒を除去する場合、通気性のよい環境下、常温付近で乾燥してもよいし、適宜減圧乾燥等を行ってもよい。
【0098】
[表面触媒化工程]
表面触媒化工程は、前記共重合体層にナノ金属層を設ける工程である。
ナノ金属層を設けることにより、ポリオレフィン成形体の表面をメッキする金属が析出しやすいように活性化させることができる。このポリオレフィン成形体の表面は、表面修飾工程において、共重合体層が設けられているためナノ金属層が形成しやすい状態となっている。
【0099】
ナノ金属層は、メッキ処理工程において、メッキする金属塩の還元反応を触媒するナノ金属触媒を含む層であり、その形成方法は特に限定されない。例えば、共重合体層が設けられたポリオレフィン成形体と、ナノ金属触媒を含むナノ金属溶液とを接触させることで、共重合体層の上にナノ金属触媒を付与し、ナノ金属層を形成することができる。また、ナノ金属層の形成は、ポリオレフィン成形体と、ナノ金属触媒またはその前駆体を含むナノ金属溶液とを接触させ、共重合体層の上にナノ金属触媒またはその前駆体を付与した後、活性化を行う方法としてもよい。
具体的には、酸性キャタライジング法やアルカリキャタライジング法等の公知の方法を用いることで、ナノ金属層を形成することができる。
【0100】
ナノ金属溶液は、ナノ金属触媒またはその前駆体をアルコール等の有機溶媒や水に溶解や分散させたものである。ナノ金属触媒またはその前駆体の金属種は、具体的には、金、銀、白金、パラジウムなどが挙げられる。ナノ金属触媒としては、これらの金属やこれらの金属を含む合金のナノ粒子やコロイド粒子等を用いることができる。ナノ金属触媒の前駆体としては、これらの金属の塩等を用いることができる。ナノ金属溶液として代表的なものは、Pd系やPd-Sn系のナノ金属触媒またはその前駆体が溶解または分散した溶液である。
また、ナノ金属溶液は通常、塩酸等の酸を含み、酸性である。そのpHは6以下や3以下とすることができる。また、ナノ金属溶液中のナノ金属触媒の濃度は、金属種や溶媒等に応じて適宜決定され、0.001~0.1mol/Lや0.005~0.05mol/Lとすることができる。
【0101】
ポリオレフィン成形体を、ナノ金属溶液と接触させる時間は、ナノ金属溶液に含まれるナノ金属触媒の種類や濃度、溶媒の種類等に応じて、適宜決定することができる。例えば、1~60分や1~10分とすることができる。
また、ナノ金属溶液の温度は、ナノ金属触媒の種類や濃度、溶媒の種類等に応じて、適宜決定される。例えば、10~50℃や20~30℃とすることができる。
【0102】
また、ポリオレフィン成形体と、ナノ金属触媒またはその前駆体を含むナノ金属溶液とを接触させた後、さらに、活性化させるためには、酸やアルカリ水溶液を活性化液(アクセレーター)として用いる方法が利用できる。ナノ金属溶液で処理した後のポリオレフィン成形体を、活性化液と接触させることでナノ金属触媒を活性化することができる。この活性化を行うことで、ナノ金属触媒の活性を高めたり、ナノ金属触媒の前駆体をナノ金属触媒に変換することができる。
活性化液は、硫酸水溶液や塩酸水溶液などの酸性水溶液が用いられることが一般的である。また、アクセレーターとして市販されている液も利用できる。
ポリオレフィン成形体と活性化液とを接触させる時間は、活性化液の組成等に応じて、適宜決定することができる。例えば、1~60分や1~10分とすることができる。
また、活性化液の温度は、活性化液の組成等に応じて、適宜決定される。例えば、10~50℃や20~30℃とすることができる。
【0103】
ポリオレフィン成形体と、ナノ金属分散液や活性化液との接触は、一般的に、ナノ金属分散液や活性化液にポリオレフィン成形体を浸漬させて行われる。また、ポリオレフィン成形体にナノ金属分散液や活性化液を塗工することで接触させてもよい。
また、ナノ金属層は、共重合体層全体に形成されるようにしてもよいし、共重合体層の任意の位置にのみ形成されるようにしてもよい。
【0104】
[メッキ処理工程]
メッキ処理工程は、前記ナノ金属層が設けられたポリオレフィン成形体を、無電解メッキ処理することで、前記ナノ金属層を介して前記ポリオレフィン成形体にメッキ層を設ける工程である。
メッキ処理工程では、ナノ金属層のナノ金属触媒が起点となり、メッキする金属を析出し、ポリオレフィン成形体がメッキされる。
【0105】
無電解メッキ処理は、従来公知の方法を用いることができる。ポリオレフィンはそのものが非導電性素材であり、このような非導電性素材に対するメッキ方法としては自己触媒型の無電解メッキが代表的な手法である。
具体的には、金属塩と還元剤が含まれるメッキ溶液と、ナノ金属層が設けられたポリオレフィン成形体とを接触させることで、ポリオレフィン成形体の表面に付与されたナノ金属触媒によって還元剤が酸化され電子を生じる。この電子によってメッキ溶液中の金属塩が還元され、ポリオレフィン成形体上に金属が析出することで、ポリオレフィン成形体をメッキすることができる。メッキ溶液とポリオレフィン成形体との接触は、一般的に、メッキ溶液にポリオレフィン成形体を浸漬させることで行われる。
【0106】
ポリオレフィン成形体を、メッキ溶液に接触させる時間は、メッキさせる金属の種類やメッキ溶液中の金属塩の濃度、溶媒の種類等に応じて、適宜決定することができる。例えば、1~60分や10~30分とすることができる。
また、メッキ溶液の温度は、メッキさせる金属の種類やメッキ溶液中の金属塩の濃度、溶媒の種類等に応じて、適宜決定される。例えば、20~100℃や20~30℃とすることができる。
また、無電解メッキ処理後に、場合によってはさらに電気メッキを行ってもよい。
【0107】
無電解メッキで行われる典型的なメッキとしてはニッケルメッキや、銅メッキがあげられる。
一般的に、銅メッキには、硫酸銅や塩化銅等の銅塩、ホルムアルデヒドやその誘導体等の還元剤、酒石酸塩(ロシェル塩)やエチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)等の錯化剤、水酸化ナトリウム等のpH調整剤等を含むメッキ溶液が用いられる。
また、ニッケルメッキには、硫酸ニッケルや塩化ニッケル等のニッケル塩、次亜リン酸ナトリウム等の還元剤、酢酸ナトリウム等の錯化剤、水酸化ナトリウム等のpH調整剤等を含むメッキ浴液が用いられる。
このようなメッキ溶液(メッキ浴)は市販されており、市販のメッキ浴を用いて、メッキ処理を行うこともできる。
【0108】
また、製造されるポリオレフィンのメッキ成形体は、その表面の少なくとも一部にメッキ層を有するものであれば、全体的にメッキ層を有するものであっても、任意の部分に部分的にメッキ層を有するものであってもよい。
例えば、図1に示すように、共重合体層、ナノ金属層およびメッキ層で全体的に被覆されたポリオレフィンのメッキ成形体を製造することもできる。
また、メッキ処理では、ナノ金属層のナノ金属触媒を触媒として、ナノ金属層を介して、金属がメッキされるので、一般的に、ナノ金属層全体にメッキ層が形成される。そのため、用途に応じて、共重合体層やナノ金属層を特定のパターンとなるように設計することで、特定のパターンのメッキ層を形成させることができる。
【0109】
例えば、図2に示すように、ポリオレフィン成形体の任意の面(少なくとも1つの面)に全体的に共重合体層を設けた後、前記共重合体層の上に全体的にナノ金属層を設け、更に、前記ナノ金属層の上に全体的にメッキ層を設けることで、任意の面にのみメッキ層を設けたポリオレフィンのメッキ成形体を製造することが可能である。
【0110】
また、図3に示すように、ポリオレフィン成形体の任意の面(少なくとも1つの面)に全体的に共重合体層を設けた後、前記共重合体層の任意の部分(少なくとも一部)にナノ金属層を設け、更に、前記ナノ金属層の上に全体的にメッキ層を設けることで、部分的にメッキ層を設けたポリオレフィンのメッキ成形体を製造することが可能である。
また、部分的にメッキ層を設けたポリオレフィンのメッキ成形体は、図4に示すように、ポリオレフィン成形体の任意の面の任意の部分に共重合体層を設けた後、前記共重合体層の上に全体的にナノ金属層を設け、更に、前記ナノ金属層の上に全体的にメッキ層を設ける方法でも製造することが可能である。
【0111】
本発明の製造方法では、メッキ処理により、リサイクルポリオレフィン成形体の上にメッキ層を形成させて、ポリオレフィンのメッキ成形体を製造することから、本発明は、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体をメッキする方法とすることもできる。すなわち、本発明は、共重合体を分散させたメッキ助剤液に、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体を接触させて、前記ポリオレフィン成形体の表面に前記共重合体を含む共重合体層を設ける表面修飾工程と、前記共重合体層にナノ金属層を設ける表面触媒化工程と、前記ナノ金属層が設けられたポリオレフィン成形体を、無電解メッキ処理することで、前記ナノ金属層を介して前記ポリオレフィン成形体にメッキ層を設けるメッキ処理工程とを有し、前記共重合体が、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィンおよび置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーに由来する構成単位(A)と、金属吸着能を有する構造を側鎖に有する構成単位(B)とを含む共重合体である、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体をメッキする方法に関するものとすることができる。
【0112】
また、メッキ処理により形成するメッキ層は金属で形成されているため電気伝導性を有する。そのため、本発明は、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体に電気伝導性を付与する方法とすることもできる。すなわち、本発明は、共重合体を分散させたメッキ助剤液に、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体を接触させて、前記ポリオレフィン成形体の表面に前記共重合体を含む共重合体層を設ける表面修飾工程と、前記共重合体層にナノ金属層を設ける表面触媒化工程と、前記ナノ金属層が設けられたポリオレフィン成形体を、無電解メッキ処理することで、前記ナノ金属層を介して前記ポリオレフィン成形体にメッキ層を設けるメッキ処理工程とを有し、前記共重合体が、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィンおよび置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーに由来する構成単位(A)と、金属吸着能を有する構造を側鎖に有する構成単位(B)とを含む共重合体である、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体に電気伝導性を付与する方法に関するものとすることができる。
【0113】
また、メッキ処理により形成するメッキ層の金属の作用により殺菌作用および/または除菌作用を発揮するものとすることができる。そのため、本発明は、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体に抗菌性を付与する方法とすることもできる。すなわち、本発明は、共重合体を分散させたメッキ助剤液に、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体を接触させて、前記ポリオレフィン成形体の表面に前記共重合体を含む共重合体層を設ける表面修飾工程と、前記共重合体層にナノ金属層を設ける表面触媒化工程と、前記ナノ金属層が設けられたポリオレフィン成形体を、無電解メッキ処理することで、前記ナノ金属層を介して前記ポリオレフィン成形体にメッキ層を設けるメッキ処理工程とを有し、前記共重合体が、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィンおよび置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーに由来する構成単位(A)と、金属吸着能を有する構造を側鎖に有する構成単位(B)とを含む共重合体である、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体に抗菌性を付与する方法に関するものとすることができる。
【0114】
このリサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体をメッキする方法、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体に電気伝導性を付与する方法、および、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体に抗菌性を付与する方法における、リサイクルポリオレフィンや共重合体、各工程等は、それぞれ、本発明の製造方法の対応するものと同様にすることができる。
【0115】
<ポリオレフィンのメッキ成形体>
本発明のポリオレフィンのメッキ成形体は、ポリオレフィン成形体と、前記ポリオレフィン成形体の表面に設けられた共重合体層と、前記共重合体層の上に設けられたナノ金属層と、前記ナノ金属層の上に設けられたメッキ層とを有するポリオレフィン成形体である。上記の通り、本発明のポリオレフィンのメッキ成形体の基材となるポリオレフィン成形体は、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体である。また、共重合体層に含まれる共重合体が、側鎖に炭素数8以上の長さのアルカン鎖を有する、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステル、シロキサン、αオレフィンおよび置換スチレンからなる群より選ばれるいずれかのモノマーに由来する構成単位(A)と、金属吸着能を有する構造を側鎖に有する構成単位(B)とを含む共重合体である。
この本発明のポリオレフィンのメッキ成形体は、上記した製造方法により好適に製造できる。
【0116】
本発明のポリオレフィンのメッキ成形体において、基材となるリサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体やポリオレフィン成形体の表面に設けられる共重合体層に含まれる表面修飾用の共重合体は、上記の通りであり、好ましい態様も同様である。
【0117】
共重合体層は、表面修飾用の共重合体を含む層であり、ポリオレフィン成形体の表面に設けられた層である。共重合体層において、表面修飾用の共重合体は、層全体に対して50体積%以上を占める主成分であり、表面修飾用の共重合体が90体積%以上や95体積%以上の層とすることもできる。
【0118】
ナノ金属層は、ナノ金属触媒を含む層であり、共重合体層の上に設けられた層である。また、ナノ金属層はナノ金属触媒以外を含んでもよい。ナノ金属触媒の付与量は、ナノ金属触媒やメッキ層を構成する金属の種類等に応じてメッキされる金属の析出性や接着性を考慮して決定されるため、ナノ金属触媒は低密度でも十分な場合もある。このような場合、ナノ金属層は、ナノ金属触媒と、ナノ金属層の上のメッキ層を形成する金属と同一の金属を含む層となりえる。上記の通り、ナノ金属触媒は、金、銀、白金、パラジウム等の金属ナノ粒子やコロイド粒子とすることができる。例えば、ナノ金属層は、Pdのナノ粒子を含む層やPdとSnのナノ粒子を含む層とすることができる。
【0119】
メッキ層は、メッキされた金属により形成される層で、銅からなる層やニッケルからなる層とすることができる。
【0120】
本発明のポリオレフィンのメッキ成形体において、共重合体層は、リサイクルポリオレフィンを含有するポリオレフィン成形体の少なくとも一部に形成されていればよく、ポリオレフィン成形体に全体的に設けられていても、任意の面のみに設けられたものであっても、任意の面に部分的に設けられた構造であってもよい。
ナノ金属層は、共重合体層の少なくとも一部に設けられていればよく、共重合体層に全体的に設けられていても、任意の位置に部分的に設けられた構造であってもよい。
また、メッキ層は、ナノ金属層のナノ金属触媒を触媒としてメッキされ形成することで簡単に製造できるため、ナノ金属層に全体的に設けられた構造であることが好ましい。
【0121】
また、本発明のポリオレフィンのメッキ成形体の形状は特に限定されず、ポリオレフィンをベースとしていることからも、基材であるポリオレフィン成形体の多様性を利用した種々の形状とすることができ、用途に応じて適宜選択できる。例えば、本発明のポリオレフィンのメッキ成形体の形状としては、シート、フィルム、繊維状、各種部材(例えば、装飾品、自動車部材、電子機器部材、食器、建材)等とすることができる。
【0122】
本発明のポリオレフィンのメッキ成形体において、ポリオレフィン成形体、共重合体層、ナノ金属層、メッキ層の順に配置された構成であるかは、各層を剥離しながら分析したり、切断面の成分分析を行うなどの手法で確認することができる。
【0123】
本発明のポリオレフィンのメッキ成形体は、表面が金属光沢を有するものとすることができ、グレイな色調により利用用途が限定されていたリサイクルプラスチックの用途の拡大が可能である。また、電気伝導性、抗菌作用などを付与することができ、リサイクルプラスチックの高付加価値化が可能である。
【0124】
例えば、本発明のポリオレフィンのメッキ成形体はメッキ層を有するため、金属光沢を有するポリオレフィンのメッキ成形体とすることができる。このようなポリオレフィンのメッキ成形体は、意匠性に優れる。そのため、意匠性が求められる用途に用いることができ、本発明のポリオレフィンのメッキ成形体は、装飾品や自動車部材、筐体等の電子機器部材とすることができる。
【0125】
また、メッキ層は電気伝導性を有するため、電気伝導性を有するポリオレフィンのメッキ成形体とすることができる。また、本発明のポリオレフィンのメッキ成形体のメッキ層の設計により、導電部位と非導電部位とを設計することができる。そのため、例えば、電子回路や半導体基板として用いることができる。
【0126】
また、メッキ層を有するため、金属の作用により、殺菌作用および/または除菌作用を発揮することができる。そのため、本発明のポリオレフィンのメッキ成形体は、抗菌性を有するポリオレフィンのメッキ成形体とすることができる。そのため、フィルター等の抗菌装置の部材として用いることができる。また、抗菌性を求められる、食器や建材に用いることもできる。
【実施例
【0127】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0128】
<参考例1>:表面修飾用の共重合体の製造
[原料]
・モノマー(A):BHA
ベヘニルアクリレートを用いた。このモノマーは、炭素数22のアルカン鎖を側鎖に有し、メタクリレート構造が、主鎖となるモノマーである。
【0129】
・モノマー(B):TBAEMA
メタクリル酸2-(tert-ブチルアミノ)エチル(2-(tert-Butylamino)ethyl methacrylate:TBAEMA)を用いた。このモノマーは、側鎖に2級アミノ基を有し、メタクリレート構造が、主鎖となるモノマーである。
【0130】
・重合開始剤:Bloc Builder MA No.33(アルケマ社製)
・ラジカル発生剤:アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)
・溶媒:酢酸ブチル
【0131】
[共重合体(1)の製造]
BHA6.7g、酢酸ブチル6.7g、開始剤0.385gを混合した溶液を、重合温度約105℃、リアクターの撹拌速度75rpm、窒素雰囲気下でリビングラジカル重合することにより、第1のモノマー(A)であるBHAのブロック重合体を製造した。さらに、これにより得られたBHAのブロック重合体の溶液に、第2のモノマー(B)であるTBAEMAを3.61g、酢酸ブチルを3.76g投入してBHAとTBAEMAのブロック共重合体である共重合体(1)を得た。この共重合体(1)の構造式を式(I)として示す。
なお、得られた共重合体(1)の分子量(Mw:重量平均分子量)を、GPCにより測定し、ポリスチレン換算にて求めた。モノマー(A-1-1)由来の構造は推算値として約5,000(g/mol)、モノマー(B-1-1)由来の構造が約6,000(g/mol)、Mw/Mnが1.1の共重合体であった。
【0132】
<実施例1>:ポリオレフィンのメッキ成形体の製造
・ポリオレフィン成形体(基材):
広島リサイクルセンター製のPE選別容リプラを180℃、25mPa、2分で熱プレス成型し、シート状(縦4cm×横3cm×厚さ0.1cm)に成形加工したリサイクルポリオレフィンフィルムを用いた。なお、広島リサイクルセンター製のPE選別容リプラは、ISO18263の規格では、ポリエチレンの準リッチ品となるものである。
【0133】
・キャタリスト(Sn-Pdのコロイド液):エンプレートアクチベーター444(メルテックス株式会社製)
・アクセレーター:メルプレートPA-360(メルテックス株式会社製)
・無電解銅メッキ浴:メルプレートCU-390(メルテックス株式会社製)
【0134】
[共重合体溶液(メッキ助剤溶液)の調製]
参考例1で製造した共重合体(1)を、キシレンを溶媒として、70℃にて混合撹拌することで溶解させて、共重合体(1)の濃度が0.1質量%の共重合体溶液を調製した。
【0135】
[表面修飾工程(浸漬処理)]
リサイクルポリエチレンフィルムをアセトンで洗浄して表面を清浄化させた後、上記の共重合体溶液に、室温(25℃)で10分間浸漬させ、その後、常温で静置し24時間自然乾燥させることで、表面修飾したリサイクルポリエチレンフィルムを得た。この表面修飾したリサイクルポリエチレンフィルムには、共重合体(1)の層が表面に設けられている。
【0136】
[表面触媒化工程]
上記の表面修飾工程を行って得た表面修飾したリサイクルポリエチレンフィルムを、25℃に調整したキャタリストに浸漬した。浸漬は、浸漬温度を25℃とし、撹拌しながら10分間行った。その後、表面を水洗した。次いで、25℃に調整したアクセレーターに浸漬した。浸漬は、浸漬温度を25℃とし、撹拌しながら1分間行った。その後、表面を水洗した。これにより、リサイクルポリエチレンフィルムの表面に設けられた共重合体(1)の層に触媒を付与し、共重合体(1)の層にナノ金属層を設けた。
【0137】
[メッキ処理工程]
上記の表面触媒化工程を行い、ナノ金属層を設けたリサイクルポリエチレンフィルムを、25℃に調整した無電解銅メッキ浴に浸漬した。浸漬は、浸漬温度を25℃とし、撹拌しながら20分間浸漬させた。これにより、リサイクルポリエチレンフィルムの表面にメッキ層を設けた。
さらに、メッキ処理後のリサイクルポリエチレンフィルムの表面を水洗し、表面の水分をふき取り乾燥させ、メッキ層を有するポリエチレンフィルム(1)を得た。
【0138】
<実施例2>:ポリオレフィンのメッキ成形体の製造
表面修飾工程において、アセトンで洗浄して表面を清浄化させた後のリサイクルポリエチレンフィルムの共重合体溶液への浸漬を、室温で10分間に変えて、80℃で10分間とした以外は、実施例1と同様にして、メッキ層を有するポリエチレンフィルム(2)を得た。
このポリエチレンフィルム(2)は、ポリエチレンフィルム(1)と比較して、メッキ層がしっかり接着していた。
【0139】
<比較例1>
リサイクルポリエチレンフィルムの代わりに、市販のポリエチレンフィルム(京葉ポリエチレン株式会社製HDPE FX201)を用いた以外は、実施例2と同様にし、メッキ層を有するポリエチレンフィルム(3)を得た。
【0140】
<評価>
1.フィルムの外観
メッキ処理フィルムである実施例1のポリエチレンフィルム(1)および実施例2のポリエチレンフィルム(2)を目視で観察したところ、その表面は銅の光沢が確認されるものだった。
基材のリサイクルポリエチレンフィルムおよび実施例2により得られたメッキ層を有するポリエチレンフィルム(2)の外観写真を図5に示す。図5に示すように、メッキ処理フィルムの表面は、銅の光沢が確認される。
【0141】
2.テープ剥離試験
テープ剥離試験は、JIS H 8504(1999)を参考にして行った。
【0142】
2-1.テープ剥離試験(1)
ニチバン社製のセロテープ(登録商標)CT-12M(12mm×30mm)を、実施例2のポリエチレンフィルム(2)および比較例1のポリエチレンフィルム(3)の上面に貼り付け、剥がした後の、テープの接着面を目視で評価した。
図6に、テープ剥離試験(1)後の実施例2のポリエチレンフィルム(2)とテープの写真を示す。また、図7に、テープ剥離試験(1)後の比較例1のポリエチレンフィルム(3)とテープの写真を示す。
テープ剥離(1)後のテープの接着面を確認すると、比較例1のポリエチレンフィルム(3)では、全体的にメッキ層が剥がれているのに対して、実施例2のポリエチレンフィルム(2)では、メッキの剥離が少なく、リサイクルポリエチレンフィルムを基材として用いるとメッキ層の接着性が大きく向上することがわかる。
また、メッキ層のリサイクルポリエチレンフィルム上における粘着力は、0.1kN/m未満であった。
【0143】
2-2.テープ剥離試験(2)
実施例2のポリエチレンフィルム(2)および比較例1のポリエチレンフィルム(3)の表面に2mm幅の正方形ができるように基材に達する切り込みを入れた上で、ニチバン社製のセロテープ(登録商標)CT-12M(12mm×30mm)を貼り付けた。テープを剥がした後の、テープの接着面を目視で評価した。
図8に、テープ剥離試験(2)後の実施例2のポリエチレンフィルム(2)とテープの写真を示す。また、図9に、テープ剥離試験(2)後の比較例1のポリエチレンフィルム(3)とテープの写真を示す。
図8、9からも、実施例2のポリエチレンフィルム(2)は、比較例1のポリエチレンフィルム(3)と比較してメッキ層の接着性が大きく向上していることがわかる。
【0144】
3.剥離箇所の評価
テープ剥離試験における剥離部分を評価するために、比較例1のポリエチレンフィルム(3)のメッキ層をセロテープ(登録商標)で強制的に剥離した後、実施例2のメッキ処理工程と同様にメッキ処理を行ったところ、メッキ層が形成されることが確認できた。
この結果より、テープ剥離試験によって剥離が生じた部分は、ナノ金属層とメッキ層との界面である可能性が高いことがわかった。したがって、メッキ層が剥がれにくいものとするためには、基材と共重合体層との密着性(接着性)や共重合体層とナノ金属層との密着性よりも、ナノ金属層とメッキ層との密着性を向上させることが重要であるといえる。ナノ金属層とメッキ層との密着性を向上させるためには、基材の表面を粗化するなどして表面形状を制御することが重要であると考えられる。
【0145】
また、実施例2のポリエチレンフィルム(2)のメッキ層をセロテープ(登録商標)で強制的に剥離した後、実施例2のメッキ処理工程と同様にメッキ処理を行ったところ、メッキ層が形成されることが確認できた。
この結果より、実施例2では、基材の表面形状等を特段制御することなしに、比較例1に比べて、ナノ金属層とメッキ層との界面の密着性が向上しているといえる。このように、リサイクルポリオレフィンを用いることで、簡単に、メッキ層が剥がれにくいポリエチレンフィルムを製造できた。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明によれば、ポリオレフィンのメッキ成形体が提供され、多分野の産業に利用することができる。また、本発明では、被処理物としてリサイクルポリオレフィンを用いるため、従来、リサイクルポリオレフィンの利用が困難であった用途にも適用できる。
図1
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図6
図7
図8
図9