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  • 特許-多層押出しチューブ容器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】多層押出しチューブ容器
(51)【国際特許分類】
   B65D 35/10 20060101AFI20221031BHJP
   B32B 1/08 20060101ALI20221031BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
B65D35/10 A BRQ
B65D35/10 BSF
B65D35/10 BSG
B65D35/10 ZBP
B32B1/08 B
B32B27/32 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020189148
(22)【出願日】2020-11-13
(65)【公開番号】P2022078461
(43)【公開日】2022-05-25
【審査請求日】2020-11-18
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509029885
【氏名又は名称】株式会社ベッセル・ジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100074251
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100066223
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 政美
(72)【発明者】
【氏名】滝井 博久
【合議体】
【審判長】久保 克彦
【審判官】山崎 勝司
【審判官】柳本 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-96431(JP,A)
【文献】特開平9-58707(JP,A)
【文献】特開2020-138752(JP,A)
【文献】特開2021-195149(JP,A)
【文献】特開2022-72409(JP,A)
【文献】特開2021-187516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D35/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の胴部と、胴部の一方の端部に接合している肩部及び口頸部からなる頭部とを備える押出しチューブ容器であって、
前記胴部を、内層から外層に向かって、ポリエチレン樹脂層/接着剤層/バリア層/接着剤層/ポリエチレン樹脂層の共押出成形体とし、
前記ポリエチレン樹脂層は、バイオマス由来のポリエチレン樹脂材からなり、
内層の前記ポリエチレン樹脂層は、低密度ポリエチレン(LDPE)と直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)との混合樹脂により厚み0.2mm~0.3mmとし、
外層の前記ポリエチレン樹脂層は、低密度ポリエチレン(LDPE)樹脂による厚み0.1mm~0.2mmとし
前記接着剤層は、接着性ポリオレフィンを使用し、
前記バリア層は、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂を使用して厚さ0.021mm~0.06mmとすることを特徴とする多層押出しチューブ容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層押出しチューブ容器の胴部に、バイオマス由来の樹脂層を備える多層押出しチューブ容器に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品や香料等の成分を従来の合成樹脂製のチューブ容器に収容すると、流動パラフィンや顔料等がチューブ容器の胴部から染み出し、あるいは滲出するおそれがあった。そのため、化粧品や香料収納時に、これらのおそれを解消する押出しチューブ容器が特許文献1に記載されている。
【0003】
この押出しチューブ容器は、胴部の構成を、外側層から内側層に向かって、低密度ポリエチレン樹脂層/接着剤層/エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂層/接着剤層/ポリブチレンテレフタレート樹脂層からなる積層構成の共押出し成形体で形成したものである。
【0004】
このような積層構成の押出しチューブ容器によると、化粧品や香料の成分に含まれるリモネン、メントール、フェンチルアルコール等のモノテルペン系化合物が、チューブ容器の胴部から染み出し、あるいは滲出することがなく、化粧品や香料等の保持性能が良好になるというものである。
【0005】
また、特許文献2にも、医薬品の薬効成分、芳香成分等の浸透を抑える多層押出しチューブ容器が提案されている。このチューブ容器によると、胴部が、ポリエチレン系樹脂からなる内層と、ポリオレフィン系樹脂からなる外層と中間層とから形成されるものである。そして、中間層に少なくとも、非浸透性樹脂層を設けることで、薬効成分、芳香成分等の外部への透過、容器内部への酸素の浸入を確実に防ぐことができるというものである。
【0006】
一方、特許文献3には、バイオマス由来の樹脂層を備えた積層体が提案されている。この積層体は、化石燃料の使用量を削減するカーボンニュートラルな原料として、バイオマス由来の原料を用いたものである。すなわち、従来の化石燃料から得られるポリオレフィン樹脂に代えて、バイオマス由来のバイオマスポリオレフィン樹脂を積層体の一部の層に使用すると、従来の化石燃料から得られるポリオレフィン樹脂の積体と比べて機械的特性等の物性面で遜色のない積層体を提供できるというものである。この結果、従来に比べて化石燃料の使用量を大幅に削減することができ、環境負荷を減らすことに成功している。
【0007】
さらに、特許文献4に、チューブ容器の頭部がバイオマス由来の樹脂組成物からなるチューブ容器が提案されている。このチューブ容器は、頭部にバイオマス由来のポリエチレンを含んだ樹脂組成物を使用することで、チューブ容器の化石燃料の使用量の軽減を図り、二酸化炭素の排出量を低減することができるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第3639010号公報
【文献】特開2003-54589号公報
【文献】特許第6136273号公報
【文献】特許第6413231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1、2のように、化粧品や香料等の成分を合成樹脂製のチューブ容器に収容したときに生じる成分等の透過を防ぐチューブ容器は種々提案されているが、化石燃料の使用量を削減するバイオマス由来の原料を用いたチューブ容器で、化粧品や香料等の透過を防ぐチューブ容器は未だ提案されていない。
【0010】
例えば、特許文献3、4は、バイオマス由来の樹脂材料を用いたものであるが、特許文献3は、押出成形により成形したシート状の積層体をラミネートチューブ等に使用するものである。すなわち、この積層体は、バイオマスポリエステル樹脂層と、バイオマスポリオレフィン樹脂層と、非バイオマスポリオレフィン樹脂層と、をこの順に積層したものである。したがって、化粧品や香料等の透過を防ぐ多層押出しチューブ容器ではない。また、特許文献4もバイオマス由来の原料を用いたものであるが、チューブ容器の頭部のみにバイオマス由来の原料を用いたものに過ぎない。
【0011】
化粧品収容等の従来の多層押出しチューブ容器を、バイオマス由来の成分を含んだ多層押出しチューブ容器で代替できるようになると、従来に比べて化石燃料の使用量を削減して環境負荷を減らし、また、化石燃料の使用量の軽減を図り、多層押出しチューブ容器の二酸化炭素の排出量を低減することが可能になる。
【0012】
そこで、本発明は上述の課題を解消すべく案出されたもので、バイオマス由来の成分を含んだ多層押出しチューブ容器でも、従来の化石燃料から得られる原料で得られる多層押出しチューブ容器と同様に化粧品や香料等の成分を収容することができる多層押出しチューブ容器の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的を達成すべく本発明における第1の手段は、円筒状の胴部1と、胴部1の一方の端部に接合している肩部3及び口頸部4からなる頭部2とを備える押出しチューブ容器であって、前記胴部1を、内層から外層に向かって、ポリエチレン樹脂層11/接着剤層12/バリア層13/接着剤層14/ポリエチレン樹脂層15の共押出成形体とし、前記ポリエチレン樹脂層11、15は、バイオマス由来のポリエチレン樹脂材からなり、内層の前記ポリエチレン樹脂層11は、低密度ポリエチレン(LDPE)と直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)との混合樹脂により厚み0.2mm~0.3mmとし、外層の前記ポリエチレン樹脂層15は、低密度ポリエチレン(LDPE)樹脂による厚み0.1mm~0.2mmとし、前記接着剤層12は、接着性ポリオレフィンを使用し、前記バリア層13は、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂を使用して厚さ0.021mm~0.06mmの厚みとすることにある。
【発明の効果】
【0017】
本発明の押出しチューブ容器は、ポリエチレン樹脂層をバイオマス由来のポリエチレン樹脂層からなる積層構成の共押出し成形体で形成したことにより、カーボンニュートラルな押出しチューブ容器を実現できる。しかも、従来の化石燃料から得られる原料から製造された押出しチューブ容器のように、化粧品や香料等の透過を防いて収容できるといった収納特性に全く遜色がないため、従来の押出しチューブ容器の代替とすることができる。この結果、従来に比べて化石燃料の使用量を大幅に削減することができ、環境負荷を減らすことができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施例を示す要部縦断面図である。
図2】本発明の胴部を示す横断面図である。
図3図2に示す矢視III-III線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、例えば化粧品や香料等を収容する合成樹脂製の押出しチューブ容器であり、円筒状の胴部1と、該胴部1の一方の端部に接合している肩部3及び口頸部4からなる頭部2とを有するものである(図1参照)。
【0020】
胴部1は次の積層構成からなる積層体10を共押出し成形体で形成したものである。すなわち、内層から外層に向かって、ポリエチレン樹脂層11/接着剤層12/バリア層13/接着剤層14/ポリエチレン樹脂層15にて構成される(図3参照)。
【0021】
そして、内層と外層のポリエチレン樹脂層11、15に、バイオマス由来のポリエチレン樹脂を使用する。バイオマス由来のポリエチレン樹脂は、市販のものを使用する。例えば、ブラスケン社(Braskem S.A.)製のサトウキビ由来の低密度ポリエチレン(LDPE)や直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などの使用が可能である。
【0022】
すなわち、内層のポリエチレン樹脂層11は、低密度ポリエチレン(LDPE)と直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)との混合樹脂が積層され、厚み0.2mm~0.3mm程度に形成される。また、外層のポリエチレン樹脂層15は、低密度ポリエチレン(LDPE)樹脂が積層されるもので、厚み0.1mm~0.2mm程度に形成される。
【0023】
また、二層の接着剤層12、14は、いずれも接着性ポリオレフィンを使用する。例えば、アドマーやモディック等の商品名で市販されている接着性ポリオレフィン樹脂等によって、厚み0.01mm~0.02mm程度に形成される。
【0024】
そして、バリア層13は、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂を使用し、厚み0.021mm~0.06mm程度に形成する。本発明押出しチューブ容器に、脂分を含んだ透過し易い成分や、化粧品・香料等を収容する場合において、バリア層13の厚みは、従来の化石燃料由来のポリエチレン樹脂を使用した場合のバリア層13の厚みより、厚くする必要がある。

【0025】
たとえば、マヨネーズのような脂分を含んだ透過し易い成分を収容する場合を想定すると、内層と外層のポリエチレン樹脂層11、15に、従来の化石燃料由来のポリエチレン樹脂を使用した場合、仮に、バリア層13が、0.02mmで透過防止効果が得られるとする。
【0026】
このとき、内層と外層のポリエチレン樹脂層11、15の材料を、従来の化石燃料由来のポリエチレン樹脂からバイオマス由来のポリエチレン樹脂に変更すると、バリア層13の厚みを約2倍程度にすることで透過防止効果が得られるものである。尚、バリア層13以外の各層の厚みは夫々等しいものとする。また、化粧品や香料等を収容する場合は、バリア層13の厚みを更に厚くするもので、従来の3~4倍に形成することで透過防止効果が得られる。
【0027】
このように、本発明押出しチューブ容器の胴部1は、バリア層13による酸化防止の作用により収容可能な成分は多岐に亘っているが、特に、油分や化粧品・香料など、収容する成分によりバリア層13の厚みを任意に増加変更することが可能である。
【0028】
表1、表2は、化粧品や香料等を収容する場合において、本発明押出しチューブ容器と従来のチューブ容器とのバリア層13の厚みを比較する表である。
【0029】
表1は、従来のチューブ容器に収容する場合で、内層のポリエチレン樹脂層11と外層のポリエチレン樹脂層15とに、石油由来原料の従来のポリエチレン樹脂を使用したときのバリア層13の厚みを示している。
【0030】
表2は、本発明押出しチューブ容器に収容する場合で、内層のポリエチレン樹脂層11と外層のポリエチレン樹脂層15に、バイオマス原料を使用したときのバリア層13の厚みを示している。尚、内層のポリエチレン樹脂層11及び外層のポリエチレン樹脂層15の各層の厚みは、本発明押出しチューブ容器と従来のチューブ容器とで同じ厚みである。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
表1、表2が示すように、本発明押出しチューブ容器に化粧品や香料等を収容する場合、バリア層13の厚みを従来の3~4倍に形成すると、バリア性及び押出し成形性が良好になる。
【0034】
本発明押出しチューブ容器は、任意の長さに切断した円筒状の胴部1の一端に、肩部3及び口頸部4からなる頭部2を接合することで得られる。例えば、胴部1の一端に、頭部2を射出成形して接合する方法や、あるいは、胴部1の一端に、頭部2を圧縮成形して接合する方法など、従来の接合方法で接合する。
【実施例
【0035】
以下、本発明押出しチューブ容器の具体的な構成を実施例に基づいて説明する。
<胴部の成形>
5層の共押出し成形機によって、内層から外層に向かって、ポリエチレン樹脂層11(0.25mm)/接着剤層12(0.015mm)/バリア層13(0.04mm)/接着剤層14(0.015mm)/ポリエチレン樹脂層15(0.15mm)からなる積層体10を押出し成形すると共に(図3参照)、直径2.5cmの円筒体の胴部1を形成した(図2参照)。
<押出しチューブ容器の成形>
次に、この胴部1を挿入した金型内にて肩部3と口頸部4とからなる頭部2を射出成形し、胴部1の一方の端部に頭部2の肩部3を接合して押出しチューブ容器を形成した(図1参照)。
【0036】
表3は、本発明の実施例に示す押出しチューブ容器の耐内溶液試験の結果を示している。この試験では、本発明押出しチューブ容器と、比較用とする従来の化石燃料由来のポリエチレン樹脂を使用した押出しチューブ容器とに流動パラフィンを充填し、胴部からの色調滲出有無を確認するチューブ評価試験を行った。
【0037】
本発明のバイオマス原料を使用したチューブ評価試験の内容は次の通りである。
1.試験目的
化石燃料由来のポリエチレン樹脂材に代えてバイオマス由来のポリエチレン樹脂材を使用した押出しチューブの評価を行う。
2.評価結果
耐内容液試験での胴部からの充填液染み出しは無かった。
よって、製品上の問題は無いと判断する。
3.評価試験
3-1.耐内容液試験
[検体]
A:ポリエチレン樹脂層にバイオマス由来のポリエチレン樹脂材使用 5本
B:ポリエチレン樹脂層に化石燃料由来のポリエチレン樹脂材使用(比較用) 1本
[試験方法]
(1)キャップをセットする。
(2)流動パラフィンを充填し、裾部をヒートシーラーにて閉じる。
(3)チューブ正立(キャップ下方向)で40℃恒温槽内に保管。
(4)1日、3日、7日、14日、21日、28日、35日経過ごとに、目視にて胴部か
ら流動パラフィン染み出しの有無を確認する。
(5)35日経過後に胴部裾部をカットし、充填した流動パラフィンを透明容器に
出す。
(6)流動パラフィンへの胴部顔料由来色調滲出有無を確認した。
【0038】
【表3】
評価試験の結果、全検体にて胴部から流動パラフィン染み出し・顔料由来色調滲出はなかった。
【0039】
上記試験の観察結果から明らかなように、本発明押出しチューブ容器は、従来の化石燃料から得られる原料から製造された押出しチューブ容器と比べて、胴部からの染み出し・色調滲出で遜色がないため、従来の押出しチューブ容器の代替とすることができる。この結果、本発明押出しチューブ容器は、従来の化石燃料から得られるポリエチレン樹脂を使用したチューブ容器と比べて物性面で遜色のないチューブ容器を提供できるので、従来に比べて化石燃料の使用量を大幅に削減し環境負荷を軽減するものである。
【符号の説明】
【0040】
1 胴部
2 頭部
3 肩部
4 口頸部
10 積層体
11 ポリエチレン樹脂層
12 接着剤層
13 バリア層
14 接着剤層
15 ポリエチレン樹脂層
図1
図2
図3