(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】温度計の校正方法および温度計の校正装置
(51)【国際特許分類】
G01K 15/00 20060101AFI20221031BHJP
G01N 17/00 20060101ALI20221031BHJP
G01J 5/90 20220101ALI20221031BHJP
【FI】
G01K15/00
G01N17/00
G01J5/90
(21)【出願番号】P 2021010110
(22)【出願日】2021-01-26
【審査請求日】2022-07-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000107583
【氏名又は名称】スガ試験機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須賀 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】喜多 英雄
(72)【発明者】
【氏名】加藤 英嗣
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 翔子
【審査官】平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-202980(JP,A)
【文献】登録実用新案第3188249(JP,U)
【文献】特開2019-174363(JP,A)
【文献】特開2005-43372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 15/00
G01N 17/00-17/04
G01J 5/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対する環境試験を行う環境試験機において使用される、温度計の校正を行う方法であって、
校正対象の前記温度計と、熱流束センサとに対してそれぞれ、光源からの光を照射している所定の環境条件下において、
前記熱流束センサから出力される熱流束値を利用して、校正対象の前記温度計における校正を行う、
温度計の校正方法。
【請求項2】
前記熱流束値と前記温度計における測定温度との間の、所定の対応関係を利用して、校正対象の前記温度計における校正を行う
請求項1に記載の温度計の校正方法。
【請求項3】
前記所定の対応関係から求められた前記測定温度と、校正対象の前記温度計から出力されている前記測定温度との間で、校正を行う
請求項2に記載の温度計の校正方法。
【請求項4】
前記温度計において、前記光源からの光の被照射面の反対側を、裏面とした場合に、
前記所定の対応関係を規定する関係式では、
前記熱流束値と、前記温度計における前記裏面の温度としての裏面温度と、をそれぞれ変数として、前記測定温度が規定されている
請求項2または請求項3に記載の温度計の校正方法。
【請求項5】
前記熱流束値に基づいて、前記所定の環境条件になっていることを確認すると共に、
基準器となる前記温度計から出力されている測定温度が、前記所定の環境条件における所定の校正対象温度となっていることを確認した後に、
前記基準器となる前記温度計から出力されている前記測定温度と、校正対象の前記温度計から出力されている前記測定温度との間で、校正を行う
請求項1または請求項2に記載の温度計の校正方法。
【請求項6】
前記所定の環境条件が、前記温度計における測定温度を、所定の校正対象温度に設定するための条件である
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の温度計の校正方法。
【請求項7】
前記所定の校正対象温度に設定するための所定のパラメータとして、前記光源からの光の照度と、前記温度計および前記熱流束センサの周囲の環境温度とを、少なくとも含んでいる
請求項6に記載の温度計の校正方法。
【請求項8】
前記温度計において、前記光源からの光の被照射面の反対側を、裏面とした場合に、
前記所定のパラメータとして、前記周囲を流れる風の風速と、前記温度計における前記裏面の温度としての裏面温度とを、更に含んでいる
請求項7に記載の温度計の校正方法。
【請求項9】
前記温度計において、前記光源からの光の被照射面である表面が、黒色または白色にコーティングされている
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の温度計の校正方法。
【請求項10】
前記環境試験機が、前記環境試験としての耐候性試験を行う、耐候性試験機である
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の温度計の校正方法。
【請求項11】
試料に対する環境試験を行う環境試験機において使用される、温度計の校正を行う装置であって、
光を放射する光源と、
熱流束値を出力する熱流束センサと、
校正対象の前記温度計と、前記熱流束センサとに対してそれぞれ、前記光源からの光を照射している所定の環境条件下において、前記熱流束センサから出力される前記熱流束値を利用して、校正対象の前記温度計における校正を行う校正部と
を備えた、温度計の校正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境試験機において使用される温度計の校正を行う、校正方法および校正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種試料に対する環境試験を行う環境試験機の一例として、その試料(材料)の劣化度合い等を評価する(耐候性試験を行う)、耐候性試験機が挙げられる。具体的には、この耐候性試験機では、温湿度条件や水噴霧に加え、太陽に代わる光源(人工光源)からの光を各種試料に照射することにより、促進的環境条件(加速試験環境)を人工的に再現し、環境試験としての上記のような耐候性試験を行うようになっている。
【0003】
このような耐候性試験機では一般に、温度および湿度等の調節や水噴霧が可能な試験槽の中に、光源として、例えば、キセノンアークランプ、サンシャインカーボンアークランプ、紫外線カーボンアークランプ、メタルハライドランプまたは紫外線蛍光ランプ等が配置されている。また、この光源を中心とする円環状の試料枠が設けられ、この試料枠に各試料が取り付けられている。そして、上記の促進的環境条件の下、数時間から数千時間程度の試験が行われるようになっている。
【0004】
また、このような耐候性試験機等の環境試験機では、試料の表面温度に関する温度情報を得るために、各種方式の温度計が使用されている。そして、例えば特許文献1では、このような温度計の校正(較正)方法について、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような温度計の校正方法や校正装置では、校正精度の向上が求められている。校正精度を向上させることが可能な、温度計の校正方法および校正装置を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施の形態に係る温度計の校正方法は、試料に対する環境試験を行う環境試験機において使用される、温度計の校正を行う方法であって、校正対象の温度計と熱流束センサとに対してそれぞれ、光源からの光を照射している所定の環境条件下において、熱流束センサから出力される熱流束値を利用して、校正対象の温度計における校正を行うようにしたものである。
【0008】
本発明の一実施の形態に係る温度計の校正装置は、試料に対する環境試験を行う環境試験機において使用される、温度計の校正を行う装置であって、光を放射する光源と、熱流束値を出力する熱流束センサと、校正対象の温度計と熱流束センサとに対してそれぞれ、光源からの光を照射している所定の環境条件下において、熱流束センサから出力される熱流束値を利用して、校正対象の温度計における校正を行う校正部と、を備えたものである。
【0009】
本発明の一実施の形態に係る温度計の校正方法および校正装置では、上記環境試験機において使用される温度計の校正を行う際に、上記所定の環境条件下において、熱流束センサから出力される熱流束値を利用して、校正対象の温度計における校正が行われる。このような環境試験機において使用される温度計では、輻射熱、対流熱および伝導熱が、測定温度の決定に寄与しているが、熱流束センサから出力される熱流束値は、これらの輻射熱、対流熱および伝導熱の全てを含む、総合的な熱の流れが測定されたものとなる。したがって、このような総合的な熱の流れの測定値(熱流束値)を利用して、校正対象の温度計における校正が行われることで、上記所定の環境条件を一定に維持したうえでの校正が、容易となる。
【0010】
ここで、上記熱流束値と上記温度計における測定温度との間の、所定の対応関係を利用して、校正対象の温度計における校正を行うようにしてもよい。このようにした場合、上記所定の対応関係を利用することで、熱流束センサから出力される熱流束値を基にして、上記測定温度が求められることから、そのようにして得られた上記測定温度を利用して、校正対象の温度計の校正が、実行できるようになる。その結果、温度計の校正精度が更に向上する。
【0011】
この場合において、上記所定の対応関係から求められた測定温度と、校正対象の温度計から出力されている測定温度との間で、校正を行うようにしてもよい。このようにした場合、上記熱流束値を基にして上記所定の対応関係から求められた測定温度を利用して、校正が行われることから、例えば基準器となる温度計を使用せずに、校正対象の温度計の校正が、実行できるようになる。その結果、温度計の校正作業が容易となり、校正を行う際の利便性が向上することになる。なお、上記所定の対応関係を規定する関係式において、上記熱流束値と、上記温度計における裏面(上記光源からの光の被照射面の反対側)の温度(裏面温度)と、をそれぞれ変数として、上記測定温度を規定するようにしてもよい。
【0012】
また、上記熱流束値に基づいて、上記所定の環境条件になっていることを確認すると共に、基準器となる温度計から出力されている測定温度が、上記所定の環境条件における所定の校正対象温度となっていることを確認した後に、上記基準器となる温度計から出力されている測定温度と、校正対象の温度計から出力されている測定温度との間で、校正を行うようにしてもよい。このようにした場合、上記熱流束値を基にして、基準器となる温度計における正確性(上記所定の温度環境において出力される測定温度が、上記所定の校正対象温度となっており、測定温度の経時変化等が生じていないこと)を確認したうえで、この基準器となる温度計を用いて、校正対象の温度計の校正が行われる。つまり、トレーサビリティが確保されている熱流束センサを利用することで、このような校正の際に使用される、基準器となる温度計の管理が、容易となる。その結果、校正を行う際の利便性が向上することになる。
【0013】
ここで、上記所定の環境条件としては、例えば、上記温度計における測定温度を所定の校正対象温度に設定するための条件が、挙げられる。この場合において、上記所定の校正対象温度に設定するための所定のパラメータとしては、例えば、上記光源からの光の照度と、温度計および熱流束センサの周囲の環境温度とを、少なくとも含んでいるようにしてもよい。また、上記所定のパラメータとして、例えば、上記周囲を流れる風の風速と、上記裏面温度とを、更に含んでいるようにしてもよい。
【0014】
なお、上記温度計において、上記光源からの光の被照射面(表面)を、黒色または白色にコーティングするようにしてもよい。また、上記環境試験機としては、例えば、上記環境試験としての耐候性試験を行う、耐候性試験機が挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施の形態に係る温度計の校正方法および校正装置によれば、上記所定の環境条件下において熱流束センサから出力される熱流束値を利用して、校正対象の温度計の校正を行うようにしたので、上記所定の環境条件を一定に維持したうえでの校正が、容易となる。よって、温度計の校正精度を、向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る校正装置の概略構成例を表す模式図である。
【
図2】
図1に示した恒温槽の中央部付近での側面構成例を表す模式図である。
【
図3】実施の形態に係る校正方法の一例(第1の手法)を表す流れ図である。
【
図4】実施の形態に係る熱流束値と測定温度との間の対応関係等の一例を表す図である。
【
図5】実施の形態に係る校正方法の他の例(第2の手法)を表す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態(熱流束センサから出力される熱流束値を利用して温度計を校正する例)
2.変形例
【0018】
<1.実施の形態>
[概略構成]
図1は、本発明の一実施の形態に係る校正装置(校正装置1)の概略構成例を、模式的に表したものである。また、
図2は、この
図1に示した、後述する恒温槽10の中央部付近での側面構成例(Y-Z側面構成例)を、模式的に表したものである。なお、本発明の一実施の形態に係る校正方法は、本実施の形態に係る校正装置1において具現化されるため、以下併せて説明する。
【0019】
校正装置1は、試料に対する環境試験を行う環境試験機において使用される、温度計の校正を行う装置である。この温度計としては、本実施の形態では、後述するBPT(ブラックパネル温度計)が使用されている。つまり、この校正装置1では、後述する校正対象のBPT(校正BPT151)について、校正を行うようになっている。また、上記した環境試験機の一例としては、上記した環境試験としての耐候性試験を行う、耐候性試験機が挙げられる。この耐候性試験では、試験槽内に配置された各種の材料からなる試料(試験片)について、促進的環境条件下での耐候性試験を行うようになっている。
【0020】
この校正装置1は、
図1,
図2に示したように、温度および湿度等の調節が可能な恒温槽10内に、光源11、温度センサ12、冷却機能付き台13、受光器14、熱流束センサ16および風力発生源17を、備えている。この校正装置1はまた、
図1に示したように、操作表示部(情報入出力部)18および校正部(制御部)19を、備えている。なお、後述する校正の作業の際には、例えば
図1に示したように、校正対象としての校正BPT151や、基準器となる基準BPT152とともに、上記した熱流束センサ16も、恒温槽10内(後述する冷却機能付き台13上)に、適宜配置されるようになっている。
【0021】
ここで、上記した校正BPT151および基準BPT152はそれぞれ、本発明における「温度計」の一具体例に対応している。また、校正BPT151は、本発明における「校正対象の温度計」の一具体例に対応しており、基準BPT152は、本発明における「基準器となる温度計」の一具体例に対応している。
【0022】
光源11は、
図1,
図2に示したように、恒温槽10内の上方において、X軸方向に沿
って延在するように配置されている。この光源11は、恒温槽10内において、下方(後述する冷却機能付き台13上の校正BPT151、基準BPT152および熱流束センサ16)へ向けて、光Loutを放射するものである。このような光源11は、例えば、キセノンアークランプ、サンシャインカーボンアークランプ、紫外線カーボンアークランプ、メタルハライドランプまたは紫外線蛍光ランプ等のランプ光源により構成されている。
【0023】
温度センサ12は、恒温槽10内の温度(槽内温度T0)を測定するセンサである。なお、このようにして温度センサ12により得られた槽内温度T0は、例えば、後述する校正部19へ向けて、有線または無線にて伝送されるようになっている。
【0024】
ここで、上記した槽内温度T0は、本発明における「(温度計および熱流束センサの周囲の)環境温度」の一具体例に対応している。
【0025】
冷却機能付き台13は、
図1,
図2に示したように、後述する受光器14、校正BPT151、基準BPT152および熱流束センサ16をそれぞれ、載置する台であり、冷却機能を有している。
【0026】
受光器14は、光源11から放射された光Loutの放射照度(照度I)を測定する機器であり、
図1に示したように、冷却機能付き台13上に配置されている。なお、このようにして受光器14により得られた受光データ(受光値,光電圧値)も、例えば、後述する校正部19へ向けて、有線または無線にて伝送されるようになっている。
【0027】
校正BPT151および基準BPT152はそれぞれ、
図1,
図2に示したように、後述する熱流束センサ16とともに、冷却機能付き台13上において、X軸方向に沿って並んで配置されている。これらの校正BPT151および基準BPT152はそれぞれ、
図1,
図2に示したように、表面(光Loutの被照射面)S1側の温度(表面温度)を示す温度情報を測定するための、温度計(ブラックパネル温度計)である。また、校正BPT151は、前述した校正の際の対象(校正対象)となる温度計であり、基準BPT152は、そのような校正の際に、基準器(標準器)として機能する温度計である。
【0028】
ここで、上記した温度情報には、
図1,
図2に示したように、光Loutの光エネルギーが温度化された成分(輻射熱の成分)と、恒温槽10内の環境温度成分(槽内温度T0による成分)と、恒温槽10内を流れる後述する風Woutによる熱伝達成分(対流熱,伝導熱の成分)と、を含んでいる。なお、このようにして校正BPT151や基準BPT152により得られた温度情報(後述する測定温度Tmが示す情報)も、例えば、後述する校正部19へ向けて、有線または無線にて伝送されるようになっている。
【0029】
また、このような校正BPT151および基準BPT152はそれぞれ、
図1,
図2に示したように、表面S1側に熱感知部(感熱体)150を有している。この熱感知部150は、例えば、バイメタル、白金抵抗体、サーミスタまたは熱電対等を用いて構成されている。また、これらの校正BPT151および基準BPT152の表面S1はそれぞれ、黒色にコーティング(塗装)されている。
【0030】
熱流束センサ16は、
図1に示したように、熱流束値q[W/m
2]を測定して出力するセンサであり、前述したように、校正BPT151および基準BPT152とともに、冷却機能付き台13上に並んで配置されている。この熱流束値qは、詳細は後述するが、前述した輻射熱、対流熱および伝導熱の全てを含む、総合的な熱の流れが測定されたものとなっている。このようにして熱流束センサ16により得られた熱流束値qも、例えば、後述する校正部19へ向けて、有線または無線にて伝送されるようになっている。
【0031】
風力発生源17は、
図2に示したように、恒温槽10内において、冷却機能付き台13上の校正BPT151、基準BPT152および熱流束センサ16の周囲へ向けて、風Woutを発生させる機器である。なお、このような周囲を流れる風Woutでは、詳細は後述するが、風速Vwに設定されるようになっている。
【0032】
操作表示部18は、各種情報の入出力が行われる部分であり、例えば、各種方式のタッチパネルを搭載した表示パネルを用いて構成されている。具体的には、例えば、校正装置1の使用者(作業者)による各種操作に応じて、この操作表示部18から校正部19(制御部)へ向けて、操作入力信号(各種の指示を行うための制御信号)が入力されるようになっている。また、例えば、校正部19から出力される表示信号に基づいて、この操作表示部18において各種情報の表示が行われるようになっている。
【0033】
校正部19は、校正装置1全体の動作を制御する制御部として機能すると共に、前述した校正BPT151における校正(自動校正)を行う機能を、有している。校正部19は、そのような制御動作の1つとして、例えば、光源11、温度センサ12、冷却機能付き台13、受光器14、熱流束センサ16、風力発生源17および操作表示部18における各動作を、制御するようになっている。
【0034】
また、校正部19は、上記した校正BPT151の校正を行う際に、詳細は後述するが、以下のようにして校正を行う。すなわち、校正部19は、校正BPT151および熱流束センサ16に対してそれぞれ、光源11からの光Loutを照射している所定の環境条件下において、熱流束センサ16から出力される熱流束値qを利用して、校正BPT151の校正を行うようになっている。なお、このような校正方法(後述する第1および第2の手法)の詳細については、後述する(
図3~
図5)。
【0035】
なお、ここでいう「校正」とは、校正BPT151から出力される測定温度Tm(後述する測定温度Tm1)について、後述する校正方法(後述する第1または第2の手法)で得られる測定温度Tm(後述する測定温度Tm0または測定温度Tm2)との関係を、確定することを意味している。
【0036】
[動作および作用・効果]
(A.校正動作)
続いて、
図1,
図2に加えて
図3~
図5を参照して、本実施の形態の校正装置1において行われる校正動作(校正方法:第1および第2の手法)について、詳細に説明する。ここで、
図3は、本実施の形態に係る校正方法の一例(第1の手法)を、流れ図で表したものである。
図4は、本実施の形態に係る、熱流束値qと測定温度Tmとの間の対応関係Rc等の一例を、表したものである。また、
図5は、本実施の形態に係る校正方法の他の例(第2の手法)を、流れ図で表したものである。
【0037】
(A-1.第1の手法について)
最初に、
図3に示した第1の手法では、まず、校正BPT151および熱流束センサ16をそれぞれ、
図1に示したように、校正装置1の恒温槽10内において、冷却機能付き台13上に並べて設定する(ステップS11)。
【0038】
次いで、この校正装置1の電源を入れて、前述した槽内温度T0および風Woutの風速Vwをそれぞれ、所定値に設定する(ステップS12)。そして、校正の際の対象温度(校正対象温度Tc)となるように、前述した光Loutの照度Iと、校正BPT151の裏面S2(光Loutの被照射面である表面S1の反対側の面:
図1,
図2参照)の温度である裏面温度T2とをそれぞれ、所定値に設定する(ステップS13)。なお、このような校正対象温度Tcとしては、一例として、63[℃]が挙げられる。
【0039】
このようにして、校正BPT151における測定温度Tmを所定の校正対象温度Tcに設定するための、所定の環境条件が設定されることになる。ここで、このような所定の環境条件(所定の校正対象温度Tc)に設定するためのパラメータとしては、例えば上記したように、照度Iおよび槽内温度T0(校正BPT151および熱流束センサ16の周囲の環境温度)がそれぞれ、少なくとも含まれている。また、本実施の形態では上記したように、このようなパラメータとして、そのような校正BPT151および熱流束センサ16の周囲を流れる風Woutの風速Vwと、裏面温度T2とがそれぞれ、更に含まれている。なお、このような設定を行うためのパラメータとして、他の種類のパラメータが、更に含まれているようにしてもよい。
【0040】
続いて、この第1の手法では、熱流束値qとBPT(校正BPT151等)での測定温度Tmとの間の対応関係Rc(
図4参照)を利用して、熱流束センサ16から出力される熱流束値q[W/m
2]から、そのような測定温度Tm[℃]を求める(ステップS14)。
【0041】
なお、
図4に示した対応関係Rcでは、熱流束値qおよび測定温度Tmについて、上記した照度Iおよび裏面温度T2との対応関係についても、示されている。具体的には、上記した槽内温度T0および風速Vwがそれぞれ一定である条件下において、裏面温度T2が一定であれば、照度Iを変化させることで、熱流束値qと測定温度Tmとの間の比例関係が、導かれるようになっている。また、一定にさせる裏面温度T2を変化させても、その比例関係は変わらず、測定温度Tmにおける切片に対応する温度は、裏面温度T2によって規定されることになる。なお、この
図4中に示した、照度Iについての例示の値(Ia~Ie)の大小関係は、Ia<Ib<Ic<Id<Ieとなっている。同様に、
図4中に示した、裏面温度T2についての例示の値(T2a~T2e)の大小関係は、T2a<T2b<T2c<T2d<T2eとなっている。
【0042】
また、この
図4中には、このような対応関係Rcを規定する関係式(熱流束値qから測定温度Tmを求める際の関係式)についても、示している。具体的には、この関係式は、所定の定数α,β,γを用いて、以下の(1)式によって規定されている。つまり、この関係式では、熱流束値qおよび裏面温度T2をそれぞれ変数として、測定温度Tmが規定されている。
Tm=(α×q+β×T2+γ) ……(1)
【0043】
次に、この第1の手法では、ステップS14において上記した対応関係Rcから求められた測定温度Tm(Tm0)と、校正BPT151から実際に出力されている測定温度Tm(Tm1)との間で、校正を行う(ステップS15)。
【0044】
以上により、
図3,
図4に示した第1の手法による、校正BPT151における校正が、完了となる。
【0045】
(A-2.第2の手法について)
一方、
図5に示した第2の手法では、まず、校正BPT151、基準BPT152および熱流束センサ16をそれぞれ、
図1に示したように、校正装置1の恒温槽10内において、冷却機能付き台13上に並べて設定する(ステップS21)。
【0046】
次いで、
図3に示した第1の手法と同様に、校正装置1の電源を入れて、槽内温度T0および風速Vwをそれぞれ、所定値に設定する(ステップS12)と共に、所定の校正対象温度Tcとなるように、照度Iおよび裏面温度T2をそれぞれ、所定値に設定する(ステップS13)。このようにして、この第2の手法においても第1の手法と同様に、校正BPT151および基準BPT152における測定温度Tmをそれぞれ、所定の校正対象温度Tcに設定するための、所定の環境条件が設定されることになる。
【0047】
次に、この第2の手法では、熱流束センサ16から出力される熱流束値qに基づいて、上記した所定の環境条件(校正対象温度Tcに設定するための、照度I、槽内温度T0、風速Vwおよび裏面温度T2)になっていることを、確認する(ステップS24)。続いて、この第2の手法では、基準BPT152から出力されている測定温度Tmが、上記した所定の環境条件での校正対象温度Tcとなっていることを、確認する(ステップS25)。
【0048】
そして、この第2の手法では、上記した各確認(ステップS24,S25)がなされた後に、基準BPT152から出力されている測定温度Tm(Tm2)と、校正BPT151から出力されている測定温度Tm(Tm1)との間で、校正を行う(ステップS26)。
【0049】
以上により、
図5に示した第2の手法による、校正BPT151における校正が、完了となる。
【0050】
(B.作用・効果)
ところで、耐候性試験機等の環境試験機にて使用される温度計(BPT等)では、物質状態(表面の劣化や、形状の違いなど)によって、出力される測定温度に、影響が出てくる。具体的には、そのような温度計内の熱感知部におけるトレーサビリティが確保されている、基準器となる温度計を用いて、校正対象の温度計との比較測定により、校正が行われるが、以下のようになる。すなわち、このBPT等の温度計の構造上、塗装面の厚さ、熱感知部と板との密着性の違い、熱容量の違い等により、置かれている環境(輻射熱の変動、裏面の風量の変動等)が変わる。このため、基準器となる温度計の表面が劣化した場合には、同じ環境下でも、基準器となる温度計から出力される測定温度が、変化してしまう可能性がある。これらのことから、従来の校正方法では、校正精度が低下してしまうおそれがある。
【0051】
これに対して本実施の形態では、上記した校正BPT151の校正を行う際に、前述した所定の環境条件下において、熱流束センサ16から出力される熱流束値qを利用して、校正BPT151における校正が行われる。ここで、上記した温度計(BPT等)では、前述した輻射熱、対流熱および伝導熱が、測定温度Tmの決定に寄与しているが、熱流束センサ16から出力される熱流束値qは、これらの輻射熱、対流熱および伝導熱の全てを含む、総合的な熱の流れが測定されたものとなる。したがって、このような総合的な熱の流れの測定値(熱流束値q)を利用して、校正BPT151における校正が行われることで、上記した所定の環境条件を一定に維持したうえでの校正が、容易となる。よって、本実施の形態では、校正BPT151の校正精度を、向上させることが可能となる。
【0052】
また、本実施の形態では、熱流束値qとBPTでの測定温度Tmとの間の所定の対応関係Rcを利用して、校正BPT151の校正を行うようにしたので、以下のようになる。すなわち、このような対応関係Rcを利用することで、熱流束センサ16から出力される熱流束値qを基にして測定温度Tmが求められることから、そのようにして得られた測定温度Tmを利用して、校正BPT151の校正が、実行できるようになる。その結果、校正BPT151の校正精度を、更に向上させることが可能となる。
【0053】
更に、本実施の形態(前述した第1の手法)では、上記した対応関係Rcから求められた測定温度Tm(Tm0)と、校正BPT151から出力されている測定温度Tm(Tm1)との間で、校正を行うようにしたので、以下のようになる。すなわち、この場合には、熱流束値qを基にして対応関係Rcから求められた測定温度Tmを利用して、校正が行われることから、例えば前述した第2の手法とは異なり、基準器となる温度計(基準BPT152)を使用せずに、校正BPT151の校正が、実行できるようになる。その結果、校正BPT151の校正作業が容易となり、校正を行う際の利便性を向上させることが可能となる。
【0054】
加えて、本実施の形態(前述した第2の手法)では、熱流束値qに基づいて前述した所定の環境条件になっていることを確認すると共に、基準BPT152から出力されている測定温度Tmが、その所定の環境条件における所定の校正対象温度Tcとなっていることを確認した後に、基準BPT152から出力されている測定温度Tm(Tm2)と、校正BPT151から出力されている測定温度Tm(Tm1)との間で、校正を行うようにしたので、以下のようになる。すなわち、この場合には、熱流束値qを基にして基準BPT152における正確性(所定の温度環境において出力される測定温度Tmが、所定の校正対象温度Tcとなっており、測定温度Tmの経時変化等が生じていないこと)を確認したうえで、この基準BPT152を用いて、校正BPT151の校正が行われる。つまり、トレーサビリティが確保されている熱流束センサ16を利用することで、このような校正の際に使用される、基準BPT152の管理が、容易となる。その結果、校正を行う際の利便性を、向上させることが可能となる。
【0055】
<2.変形例>
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されず、種々の変形が可能である。
【0056】
例えば、上記実施の形態では、校正装置における各機器の構成(形状、配置、個数等)を具体的に挙げて説明したが、これらの構成については、上記実施の形態で説明したものには限られず、他の形状や配置、個数等であってもよい。
【0057】
また、上記実施の形態では、前述したランプ光源を用いて本発明における「光源」を構成する場合の例について説明したが、これには限られず、例えばLED(Light Emitting Diode)等の他の光源を用いて、本発明における「光源」を構成するようにしてもよい。更に、上記実施の形態等では、温度計の表面(光源11からの光Loutの被照射面)が、黒色にコーティングされている場合を例に挙げて説明したが、この例には限られず、例えば、温度計の表面が白色にコーティングされているようにしてもよい。すなわち、温度計の例としては、上記実施の形態で説明したBPT(ブラックパネル温度計)には限られず、WPT(ホワイトパネル温度計)であってもよい。また、これらのBPTやWPTではなく、例えば、BST(ブラックスタンダード温度計)や、WST(ホワイトスタンダード温度計)であってもよい。
【0058】
更に、上記実施の形態では、主に、校正部19において、校正対象の温度計(校正BPT151)を自動的に校正する手法について説明したが、この例には限られない。すなわち、例えば、このような校正対象の温度計における校正を、校正装置1の使用者(作業者)によって、手動で行うようにしてもよい。
【0059】
加えて、上記実施の形態では、温度計の校正方法について、具体的な手法を例に挙げて説明したが、上記実施の形態で説明した手法には限られず、他の手法を用いて、温度計の校正を行うようにしてもよい。
【0060】
また、上記実施の形態では、主に、校正対象の温度計が使用される環境試験機の一例として、環境試験としての耐候性試験を行う、耐候性試験機を挙げて説明したが、この例には限られない。すなわち、他の種類の環境試験機(例えば、屋外の太陽光を利用して、曝露台上の試料についての環境試験を行う場合における、環境試験機など)に使用される温度計についても、本発明の校正方法を適用することが可能である。
【0061】
更に、上記実施の形態で説明した一連の制御は、ハードウェア(回路)で行われるようにしてもよいし、ソフトウェア(プログラム)で行われるようにしてもよい。ソフトウェアで行われるようにした場合、そのソフトウェアは、上記した各機能をコンピュータ(マイクロコンピュータ等)により実行させるためのプログラム群で構成される。各プログラムは、例えば、上記コンピュータに予め組み込まれて用いられてもよいし、ネットワークや記録媒体から上記コンピュータにインストールして用いられてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1…校正装置、10…恒温槽、11…光源、12…温度センサ、13…冷却機能付き台、14…受光器、150…熱感知部、151…校正BPT、152…基準BPT、16…熱流束センサ、17…風力発生源、18…操作表示部、19…校正部、Lout…光、Wout…風、I,Ia~Ie…照度、q…熱流束値、Vw…風速、T0…槽内温度、T2,T2a~T2e…裏面温度、Tc…校正対象温度、Tm,Tm0,Tm1,Tm2…測定温度、S1…表面(被照射面)、S2…裏面、Rc…対応関係。