(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】フルカバー式イヤピース及びそれを備えたイヤホン
(51)【国際特許分類】
H04R 1/10 20060101AFI20221031BHJP
【FI】
H04R1/10 104Z
H04R1/10 104A
(21)【出願番号】P 2021514671
(86)(22)【出願日】2019-04-15
(86)【国際出願番号】 JP2019016137
(87)【国際公開番号】W WO2020213029
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】518338552
【氏名又は名称】東京音響株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【氏名又は名称】白石 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【氏名又は名称】酒井 太一
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅路
【審査官】渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/031238(WO,A1)
【文献】特表2014-524219(JP,A)
【文献】特開2016-048931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/10
H04R 25/00-25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動膜を支持するヨークを有するスピーカを収容するケースの外周全体を前記ヨークの軸線に直交する方向の外側から覆うとともに、使用状態で前記軸線に沿う方向から見て使用者の耳甲介腔に面する耳珠から対珠に向けて延びる略長円形状を有する覆い部と、
前記覆い部において前記振動膜に面する部分から前記振動膜の前記ヨークとは反対側へ向けて突出する筒状をなすとともに、前記スピーカによって発音された音を使用者の耳における外耳道に伝搬させるための音通筒体と、
前記ケースの外周部を支持可能に前記覆い部の内周から前記ヨークの前記振動膜とは反対側へ向けて突出する環状をなす環状凸部と、を備え
、
前記覆い部は、
前記音通筒体に連なるように前記ケースの外周近傍に形成され、前記音通筒体とは反対側の部分において、前記ケースとは反対側に向けて凸の湾曲状をなすとともに、前記耳珠に当接するための耳珠当接部と、
前記ケースを挟んで前記耳珠当接部とは反対側に形成され、前記ケースとは反対側に向けて凸の湾曲状をなして膨出するとともに、前記対珠に連なる耳甲介に当接するための耳甲介当接部と、を備え、
前記覆い部、前記音通筒体および前記環状凸部は、同一の弾性材料で一体に形成されている
ことを特徴とするフルカバー式イヤピース。
【請求項2】
前記音通筒体の先端部から前記覆い部へ向けて折り返された折り返し部を更に備え、
前記折り返し部は、前記外耳道に挿入可能なチューリップ型の形状を有することを特徴とする請求項1に記載のフルカバー式イヤピース。
【請求項3】
前記音通筒体は、
前記折り返し部が連結される第1音通部と、
前記覆い部において前記振動膜に面する部分と前記折り返し部と離反させるように前記第1音通部と前記覆い部とを連結する第2音通部と、を備えることを特徴とする請求項2に記載のフルカバー式イヤピース。
【請求項4】
前記第1音通部は円筒状を有し、
前記第1音通部の外径D1は6mm未満であり、
前記第1音通部の軸長さL1は6mm以上であり、
前記外径D1と前記軸長さL1との比D1/L1は1未満であることを特徴とする請求項3に記載のフルカバー式イヤピース。
【請求項5】
前記第1音通部は、断面視で楕円形状を有し、
前記楕円形状を有する前記第1音通部の断面積は、28.3mm
2未満であることを特徴とする請求項4に記載のフルカバー式イヤピース。
【請求項6】
前記第2音通部は、
前記第1音通部に連結される第1連結端部と、
前記覆い部に連結される第2連結端部と、を備え、
前記第2連結端部は、前記第1連結端部の外径よりも大きい外径を有し、
前記第2音通部は、前記第1連結端部から前記第2連結端部に近づくに従って漸次拡径していることを特徴とする請求項3から5のいずれか一項に記載のフルカバー式イヤピース。
【請求項7】
前記軸線に沿う方向から見て、前記略長円形状を有する前記覆い部の長軸の長さは、15.5mm以上17.5mm以下であることを特徴とする請求項1から
6のいずれか一項に記載のフルカバー式イヤピース。
【請求項8】
前記弾性材料は、シリコーンゴムであることを特徴とする請求項
1から7のいずれか一項に記載のフルカバー式イヤピース。
【請求項9】
振動膜と、前記振動膜を支持するヨークと、を有し、前記振動膜の振動によって発音するスピーカと、
前記スピーカを収容するケースと、
請求項1から
8のいずれか一項に記載のフルカバー式イヤピースと、を備えることを特徴とするイヤホン。
【請求項10】
前記ケースは、
前記ケースの内周側に位置する内ケースと、
前記内ケースに対し前記軸線の周りに相対的に回転可能に前記内ケースの外周部を支持する外ケースと、を備えることを特徴とする請求項
9に記載のイヤホン。
【請求項11】
前記ケースは、前記ケースにおいて前記振動膜に面する部分から前記振動膜の前記ヨークとは反対側へ向けて突出する筒状をなすとともに、前記音通筒体の基端部を支持するステムを備えることを特徴とする請求項
9または
10に記載のイヤホン。
【請求項12】
前記フルカバー式イヤピースは、前記ケースに着脱可能に装着されるための開口部を有し、
前記軸線に沿う方向から見て、前記開口部は前記ケースの外形よりも小さいことを特徴とする請求項
9から
11のいずれか一項に記載のイヤホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルカバー式イヤピース及びそれを備えたイヤホンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、イヤホンを使用者の耳の外耳道に挿入して使用するカナル型イヤホンが知られている。例えば、特許文献1には、外耳道に挿入可能なイヤーチップから延在する封止鍔部を備えた構造が開示されている。特許文献1では、イヤホンを使用する際、外耳道と耳甲介との間の遷移部の縁部に封止鍔部を接触させることによって、耳の外側の空間から外耳道を封止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このようなイヤホンにおいては、イヤホン使用時の封止性能のみならず、装着安定性を向上することが望まれている。
【0005】
そこで本発明は、フルカバー式イヤピース及びそれを備えたイヤホンにおいて、装着安定性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決手段として、本発明の態様は以下の構成を有する。
(1)本発明の態様に係るフルカバー式イヤピースは、振動膜を支持するヨークを有するスピーカを収容するケースの外周全体を前記ヨークの軸線に直交する方向の外側から覆うとともに、使用状態で前記軸線に沿う方向から見て使用者の耳甲介腔に面する耳珠から対珠に向けて延びる略長円形状を有する覆い部と、前記覆い部において前記振動膜に面する部分から前記振動膜の前記ヨークとは反対側へ向けて突出する筒状をなすとともに、前記スピーカによって発音された音を使用者の耳における外耳道に伝搬させるための音通筒体と、前記ケースの外周部を支持可能に前記覆い部の内周から前記ヨークの前記振動膜とは反対側へ向けて突出する環状をなす環状凸部と、を備え、前記覆い部は、前記音通筒体に連なるように前記ケースの外周近傍に形成され、前記音通筒体とは反対側の部分において、前記ケースとは反対側に向けて凸の湾曲状をなすとともに、前記耳珠に当接するための耳珠当接部と、前記ケースを挟んで前記耳珠当接部とは反対側に形成され、前記ケースとは反対側に向けて凸の湾曲状をなして膨出するとともに、前記対珠に連なる耳甲介に当接するための耳甲介当接部と、を備え、前記覆い部、前記音通筒体および前記環状凸部は、同一の弾性材料で一体に形成されている。
ここで、長円形状は、互いに平行な2つの線分と各線分の両端に接続された2つの円弧とを有する形状を意味する。なお、略長円形状には、楕円形状(平面上のある2定点からの距離の和が一定となるような点の軌跡からなる曲線)が含まれる。
【0007】
(2)上記(1)に記載のフルカバー式イヤピースでは、前記音通筒体の先端部から前記覆い部へ向けて折り返された折り返し部を更に備え、前記折り返し部は、前記外耳道に挿入可能なチューリップ型の形状を有してもよい。
【0008】
(3)上記(2)に記載のフルカバー式イヤピースでは、前記音通筒体は、前記折り返し部が連結される第1音通部と、前記覆い部において前記振動膜に面する部分と前記折り返し部と離反させるように前記第1音通部と前記覆い部とを連結する第2音通部と、を備えてもよい。
【0009】
(4)上記(3)に記載のフルカバー式イヤピースでは、前記第1音通部は円筒状を有し、前記第1音通部の外径D1は6mm未満であり、前記第1音通部の軸長さL1は6mm以上であり、前記外径D1と前記軸長さL1との比D1/L1は1未満であってもよい。
【0010】
(5)上記(4)に記載のフルカバー式イヤピースでは、前記第1音通部は、断面視で楕円形状を有し、前記楕円形状を有する前記第1音通部の断面積は、28.3mm2未満であってもよい。
【0011】
(6)上記(3)から(5)のいずれか一項に記載のフルカバー式イヤピースでは、前記第2音通部は、前記第1音通部に連結される第1連結端部と、前記覆い部に連結される第2連結端部と、を備え、前記第2連結端部は、前記第1連結端部の外径よりも大きい外径を有し、前記第2音通部は、前記第1連結端部から前記第2連結端部に近づくに従って漸次拡径していてもよい。
【0014】
(7)上記(1)から(6)のいずれか一項に記載のフルカバー式イヤピースでは、前記軸線に沿う方向から見て、前記略長円形状を有する前記覆い部の長軸の長さは、15.5mm以上17.5mm以下であってもよい。
【0016】
(8)上記(1)から(7)のいずれか一項に記載のフルカバー式イヤピースでは、前記弾性材料は、シリコーンゴムであってもよい。
【0017】
(9)本発明の態様に係るイヤホンは、振動膜と、前記振動膜を支持するヨークと、を有し、前記振動膜の振動によって発音するスピーカと、前記スピーカを収容するケースと、上記のフルカバー式イヤピースと、を備える。
【0018】
(10)上記(9)に記載のイヤホンでは、前記ケースは、前記ケースの内周側に位置する内ケースと、前記内ケースに対し前記軸線の周りに相対的に回転可能に前記内ケースの外周部を支持する外ケースと、を備えてもよい。
【0019】
(11)上記(9)または(10)に記載のイヤホンでは、前記ケースは、前記ケースにおいて前記振動膜に面する部分から前記振動膜の前記ヨークとは反対側へ向けて突出する筒状をなすとともに、前記音通筒体の基端部を支持するステムを備えてもよい。
【0020】
(12)上記(9)から(11)のいずれか一項に記載のイヤホンでは、前記フルカバー式イヤピースは、前記ケースに着脱可能に装着されるための開口部を有し、前記軸線に沿う方向から見て、前記開口部は前記ケースの外形よりも小さくてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の上記(1)に記載のフルカバー式イヤピースによれば、スピーカを収容するケースの外周全体をヨークの軸線に直交する方向の外側から覆うとともに、使用状態で軸線に沿う方向から見て使用者の耳甲介腔に面する耳珠から対珠に向けて延びる略長円形状を有する覆い部を備えることで、以下の効果を奏する。
覆い部によってケースの外周全体が覆われるため、イヤピースの使用時(耳へのイヤピースの装着時)、イヤピースの耳当たりがソフトになる。加えて、覆い部が使用状態で耳珠から対珠に向けて延びる略長円形状を有するため、覆い部の長軸端部を耳珠側および対珠側で支持しやすい。したがって、装着安定性を向上することができる。
加えて、コードの縦方向の振動ノイズ(コードを長手方向に擦ることにより発生するノイズ)およびコードの横方向の振動ノイズ(コードを振って服などに当たることにより発生するノイズ)を含めてコードから伝わるノイズを6~12dB(1/2~1/4)ほど低減することができる。
加えて、ケースの外周部を支持可能に覆い部の内周からヨークの振動膜とは反対側へ向けて突出する環状をなす環状凸部を備えることで、以下の効果を奏する。
環状凸部によってケースの外周全体が支持されるため、ケースと環状凸部との間に隙間が生じることを抑制することができ、音漏れを抑制することができる。
なお、覆い部は、使用状態で軸線に沿う方向から見て使用者の耳甲介腔に面する耳珠から対珠に向けて延びる長円形状を有することが好ましい。覆い部が長円形状の方が、装着安定性の面で楕円形状よりも若干有利になる場合がある。
加えて、覆い部は、音通筒体に連なるようにケースの外周近傍に形成され、音通筒体とは反対側の部分において、ケースとは反対側に向けて凸の湾曲状をなすとともに、耳珠に当接するための耳珠当接部を備えることで、以下の効果を奏する。
イヤピースの使用時、耳珠当接部を耳珠に広い範囲で接触させやすいため、形状的に耳珠部に固定しやすく、装着安定性を向上することができる。例えば、イヤピースが弾性材料で形成されている場合、耳への圧迫を抑え且つ滑りにくいため、装着安定性を更に向上することができる。
加えて、覆い部は、ケースを挟んで耳珠当接部とは反対側に形成され、ケースとは反対側に向けて凸の湾曲状をなして膨出するとともに、対珠に連なる耳甲介に当接するための耳甲介当接部を更に備えることで、以下の効果を奏する。
イヤピースの使用時、耳珠当接部を耳珠に当接させつつ、耳甲介当接部を耳甲介に広い範囲で接触させやすいため、装着安定性を更に向上することができる。
加えて、覆い部、音通筒体および環状凸部は、同一の弾性材料で一体に形成されていることで、以下の効果を奏する。
イヤピースの使用時、耳珠、対珠および耳甲介の形状に沿うようにイヤピースを弾性変形させることができるため、装着安定性をより一層向上させることができる。加えて、覆い部、音通筒体および環状凸部が別個に形成されている場合と比較して、イヤピースの製造効率を向上することができる。
【0022】
本発明の上記(2)に記載のフルカバー式イヤピースによれば、音通筒体の先端部から覆い部へ向けて折り返された折り返し部を更に備え、折り返し部は、外耳道に挿入可能なチューリップ型の形状を有することで、以下の効果を奏する。
イヤピースの使用時、折り返し部が耳に柔軟に接触するため、装着安定性をより一層向上することができる。加えて、折り返し部によって外耳道が閉塞されるため、耳の外側の空間から外耳道を封止することができる。
【0023】
本発明の上記(3)に記載のフルカバー式イヤピースによれば、音通筒体は、折り返し部が連結される第1音通部と、覆い部において振動膜に面する部分と折り返し部と離反させるように第1音通部と覆い部とを連結する第2音通部と、を備えることで、以下の効果を奏する。
通常のイヤピースは音通筒体に外す方向の力が加わった場合、動作点(力が作用する点)と固定点(音通筒体の基端)との距離が近く、イヤピースが外れ易い傾向にある。これに対しこの構成によれば、第2音通部の長さ分だけ動作点と固定点との距離が長いため、イヤピースを外れ難くすることができる。加えて、イヤピースの使用時、第2音通部の長さ分だけ第1音通部を外耳道の奥へ入り込ませることができるため、外部雑音の侵入を抑制することができる。
【0024】
本発明の上記(4)に記載のフルカバー式イヤピースによれば、第1音通部は円筒状を有し、前記第1音通部の外径D1は6mm未満であり、前記第1音通部の軸長さL1は6mm以上であり、前記外径D1と前記軸長さL1との比D1/L1は1未満であることで、以下の効果を奏する。
第1音通部の外径が6mm以上の場合と比較して、第1音通部を外耳道へ挿入し易くすることができる。加えて、第1音通部の軸長さが6mm未満の場合と比較して、第1音通部を外耳道へ挿入する際の柔軟性を高めることができる。加えて、比D1/L1が1以上の場合と比較して、第1音通部を外耳道へ挿入する際の容易性および柔軟性を高めることができる。加えて、長時間使用した場合の外耳道への圧迫感による痛みの軽減に効果がある。
【0025】
本発明の上記(5)に記載のフルカバー式イヤピースによれば、第1音通部は、断面視で楕円形状を有し、楕円形状を有する第1音通部の断面積は、28.3mm2未満であることで、以下の効果を奏する。
第1音通部が断面視で真円形状を有する場合と比較して、装着安定性をより一層向上することができる。第1音通部が断面視で楕円形状を有する場合、一般的な外耳道の形状に合うため、外耳道への圧迫感を軽減することができる。
なお、第1音通部が断面視で楕円形状を有する場合、上記の断面積28.3mm2未満を優先し、楕円の直径は6mm以上であってもよい。
【0026】
本発明の上記(6)に記載のフルカバー式イヤピースによれば、第2音通部は、第1音通部に連結される第1連結端部と、覆い部に連結される第2連結端部と、を備え、第2連結端部は、第1連結端部の外径よりも大きい外径を有し、第2音通部は、第1連結端部から第2連結端部に近づくに従って漸次拡径していることで、以下の効果を奏する。
イヤピースの使用時、第1音通部を外耳道の奥へ入り込ませつつ、第2音通部を外耳道の入口近傍の広い範囲で介在させることができるため、外部雑音の侵入を抑制することができる。
【0029】
本発明の上記(7)に記載のフルカバー式イヤピースによれば、軸線に沿う方向から見て、略長円形状を有する覆い部の長軸の長さは、15.5mm以上17.5mm以下であることで、以下の効果を奏する。
略長円形状を有する覆い部の長軸の長さが15.5mm未満または17.5mm超過の場合と比較して、装着安定性をより一層向上することができる。加えて、一般的な耳甲介腔の大きさに合うため、耳甲介腔の隙間を可及的に小さくすることができる。そのため、イヤピースが外耳道から抜けにくくなり、密閉状態を持続することができる。
【0031】
本発明の上記(8)に記載のフルカバー式イヤピースによれば、弾性材料は、シリコーンゴムであることで、以下の効果を奏する。
シリコーンゴムは、生体適合性、耐熱性、耐薬品性、撥水性、電気絶縁性などに優れているため、弾性材料として好適である。
【0032】
本発明の上記(9)に記載のイヤホンによれば、振動膜と、前記振動膜を支持するヨークと、を有し、前記振動膜の振動によって発音するスピーカと、前記スピーカを収容するケースと、上記のフルカバー式イヤピースと、を備えることで、以下の効果を奏する。
装着安定性を向上することができるイヤホンを提供することができる。加えて、コードから伝わるノイズを低減するとともに、音漏れを抑制することができる。
【0033】
本発明の上記(10)に記載のイヤホンによれば、ケースは、ケースの内周側に位置する内ケースと、内ケースに対し軸線の周りに相対的に回転可能に内ケースの外周部を支持する外ケースと、を備えることで、以下の効果を奏する。
内ケースと外ケースとを任意の角度で回転させることができるため、ケースに設けられているコード出口部を任意の角度で設定することができる。そのため、使用者の耳に対してコードを下側に出したり、耳たぶに掛けたりする等、任意の使用方法に対応することが可能となる。加えて、耳の形状の個人差に対応することが可能となる。例えば、コードを耳たぶに掛けて使用する場合、コードの振動ノイズは縦方向および横方向とも大幅に減少することが知られているが、使い勝手が悪くなることがある。このように使用者の好みに応じて容易に使い分けが可能である。
【0034】
本発明の上記(11)に記載のイヤホンによれば、ケースは、前記ケースにおいて前記振動膜に面する部分から前記振動膜の前記ヨークとは反対側へ向けて突出する筒状をなすとともに、前記音通筒体の基端部を支持するステムを備えることで、以下の効果を奏する。
ステムによって音通筒体の基端部をしっかりと支持することができるため、耳へのイヤピースの装着時に音通筒体の基端部が曲がることを抑制することができる。したがって、装着安定性をより一層向上することができる。
【0035】
本発明の上記(12)に記載のイヤホンによれば、フルカバー式イヤピースは、ケースに着脱可能に装着されるための開口部を有し、軸線に沿う方向から見て、開口部は前記ケースの外形よりも小さいことで、以下の効果を奏する。
イヤピースの開口部とケースとが密着するため、音漏れの原因となる隙間が生じることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】第1実施形態に係るイヤホンの斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係るイヤホンの背面図である。
【
図3】第1実施形態に係るイヤホンの第1側面図である。
【
図4】第1実施形態に係るイヤホンの第2側面図である。
【
図8】第1実施形態に係るイヤピースの側面図である。
【
図9】第1実施形態に係るイヤピースの背面図である。
【
図10】第1実施形態に係るステムの斜視図である。
【
図11】第1実施形態に係るイヤホンの使用状態の説明図である。
【
図12】比較例に係るイヤホンの使用状態の説明図である。
【
図13】第1実施形態の変形例に係る音通筒体の
図7に相当する断面図である。
【
図14】第2実施形態に係るイヤホンの
図5に相当する断面図である。
【
図15】第2実施形態に係る外ケースの回転動作の説明図である。
【
図16】第2実施形態に係るイヤホンを左耳へ装着した状態の一例を示す図である。
【
図17】第2実施形態に係るイヤホンを左耳へ装着した状態の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。各図において、同一構成については同一の符号を付す。実施形態においては、イヤホンを使用者の耳の外耳道に挿入して使用するカナル型イヤホンについて説明する。以下、カナル型イヤホンを単に「イヤホン」ともいう。実施形態においては、左耳用のイヤホンについて説明する。
【0038】
<第1実施形態>
<イヤホン全体>
図1は、第1実施形態に係るイヤホンの斜視図である。
図2は、第1実施形態に係るイヤホンの背面図である。
図3は、第1実施形態に係るイヤホンの第1側面図である。
図4は、第1実施形態に係るイヤホンの第2側面図である。
図5は、
図4のV-V断面図である。
図6は、
図2のVI-VI断面図である。
図1に示すように、イヤホン1は、スピーカ2(
図6参照)と、スピーカ2を収容するケース3と、コード40を保持する保持筒体4と、イヤピース5(フルカバー式イヤピース)と、を備える。
【0039】
<スピーカ>
図6に示すように、スピーカ2は、振動膜9と、振動膜9を支持するヨーク10と、を備える。スピーカ2は、振動膜9の振動によって発音する。例えば、スピーカ単体の最低共振周波数(f
0)は、400Hz以上に設定されている。
ヨーク10は、円筒状の筒壁部11を有するカップ状をなしている。以下、ヨーク10の軸線C1に沿う方向を「軸方向」、軸線C1に直交する方向を「径方向」、軸線C1周りの方向を「周方向」とする。
【0040】
例えば、ヨーク10は、磁性材料で形成されている。ヨーク10は、筒壁部11、フランジ部12および底部13を備える。
フランジ部12は、筒壁部11の第1端部(開放端部)に結合されている。フランジ部12は、筒壁部11の外径よりも大きい環状を有する。フランジ部12は、筒壁部11と同軸に設けられている。フランジ部12の外周縁部は、筒壁部11の第1端部から離れる方向にオフセットしている。
底部13は、筒壁部11の第2端部(軸方向で開放端部とは反対側の端部)に結合されている。底部13は、筒壁部11と同軸に設けられた貫通孔13aを有する。
【0041】
例えば、振動膜9は、絶縁性を有するフィルム材料で形成されている。振動膜9は、筒壁部11の外径よりも大きい円盤状を有する。振動膜9の中央部9aは、ドーム状に膨らんでいる。振動膜9の外周部9bは、中央部9aよりも小さく膨らんでいる。振動膜9は、空間を介してヨーク10を覆っている。振動膜9の外周縁部は、全周にわたってヨーク10のフランジ部12に接着されている。図中符号9cは、振動膜9において中央部9aと外周部9bとの間に位置する環状の境界部を示す。
【0042】
スピーカ2は、マグネット14およびコイル15を更に備える。
マグネット14は、ヨーク10内に収容されている。マグネット14は、筒壁部11と同軸の円筒状を有する。マグネット14は、底部13の貫通孔13aと実質的に同じ大きさの中空部14aを有する。マグネット14は、中空部14aを底部13の貫通孔13aに揃えるようにして底部13の第1面に配置されている。マグネット14は、底部13の第1面から筒壁部11の第1端部まで延びている。
【0043】
コイル15は、導線を円筒状に巻いて一体化したものである。コイル15は、振動膜9の第2面(ヨーク10と対向する面)に固定されている。軸方向から見て、コイル15は、振動膜9における境界部9cと重なっている。コイル15は、振動膜9の中央部9aを囲むように配置されている。コイル15は、ヨーク10の筒壁部11およびマグネット14のそれぞれと間隔をあけて径方向で対向している。
コイル15からは、リード線(不図示)が引き出されている。リード線は、マグネット14の中空部14aを介して、底部13の第2面側の端子部16に接続されている。
【0044】
<ケース>
ケース3は、スピーカ2を振動膜9の側から覆う第1カバー20と、スピーカ2をヨーク10の側から覆う第2カバー30と、を備える。例えば、ケース3(第1カバー20および第2カバー30)は、合成樹脂で形成されている。
【0045】
第1カバー20は、軸方向から見て円形状の外縁を有する(
図10参照)。第1カバー20は、全体的に扁平に形成されている。第1カバー20は、ヨーク10の径方向外側から振動膜9のヨーク10とは反対側にかけてスピーカ2を覆うドーム状をなしている。例えば、第1カバー20は、接着剤などで第2カバー30に固定されている。
【0046】
図5に示すように、第1カバー20は、スピーカ2の外周全体を径方向外側から覆うカバー本体21と、カバー本体21において振動膜9に面する部分から振動膜9のヨーク10とは反対側へ向けて突出する筒状をなすステム22と、カバー本体21の内周からヨーク10の振動膜9とは反対側へ向けて突出する環状をなす環状部23と、を備える。カバー本体21、ステム22および環状部23は、同一の合成樹脂で一体に形成されている。
【0047】
カバー本体21は、環状部23との間で段部24を形成するように環状部23に連結されている。段部24は、カバー本体21の全周にわたって形成されている。
ステム22は、音通筒体60の基部を支持している。ステム22は、音通筒体60の基部内面に当接している。ステム22は、ケース3において振動膜9の外縁近傍に形成されている。ステム22は、ケース3の外側に向けて軸線C1と交差するように斜めに突出している。ステム22は、ケース3の内外を連通する音通孔22aを有する。ステム22は、カバー本体21から離れるに従って漸次縮径している。
環状部23は、スピーカ2の外周部を支持している。環状部23は、軸方向から見てカバー本体21よりも小さい真円形状の外縁を有する。環状部23の突出端は、ヨーク10の軸方向中央近傍に位置している(
図6参照)。
【0048】
第2カバー30は、ヨーク10の径方向外側からヨーク10の振動膜9とは反対側へ向けて延びる有底筒状をなしている。第2カバー30は、軸方向から見て音通側カバー20よりも小さい真円形状の外縁を有する(
図2参照)。
【0049】
図6に示すように、第2カバー30は、ヨーク10を収容するヨーク収容部31と、保持筒体4の基部39を収容する筒体基部収容部32と、保持筒体4が挿通される筒体挿通孔33と、スピーカ2の背圧を逃がすための制動孔34と、を有する。ヨーク収容部31および筒体基部収容部32は、同一の合成樹脂で一体に形成されている。
例えば、音響特性を纏める観点から、制動孔34が開放されている場合には、ヨーク10の底部13の貫通孔13aは音響制動部材によって塞がれる。
【0050】
ヨーク収容部31は、第2カバー30の第1端部寄りに配置されている。ヨーク収容部31は、第1カバー20の環状部23を取り付けるための環状凹部31aを有する。環状凹部31aは、ヨーク収容部31の第1端部の外周全体にわたって形成されている。環状凹部31aの深さ(径方向の長さ)は、環状部23の厚さ(径方向の長さ)と実質的に同じである。第1カバー20と第2カバー30との取り付け状態において、環状部23の外周面とヨーク収容部31の外周面(環状凹部31aを除いた最外周面)とは、実質的に同じ径方向位置にある。
【0051】
筒体基部収容部32は、第2カバー30の第2端部寄りに配置されている。
軸方向においてヨーク収容部31と筒体基部収容部32との間には、音声信号を供給するための配線41が引き回されている。筒体基部収容部32は、軸方向から見てヨーク収容部31よりも小さい真円形状の外縁を有する(
図2参照)。
【0052】
<保持筒体>
図6に示すように、保持筒体4は、第2カバー30に結合されている。保持筒体4は、ヨーク10の軸線C1と実質的に直交する方向(
図6の紙面下方向)に向けて延在している。保持筒体4には、電子機器(不図示)に接続されるコード40が挿通されている。コード40は、保持筒体4の基部39内で抜け防止用に結び目40aが形成されている。コード40には、スピーカ2に音声信号を供給するための配線41が内蔵されている。配線41は、底部13の第2面側の端子部16に接続されている。
【0053】
例えば、電子機器からコード40を介して音声信号が供給されると、リード線を介して音声信号がコイル15に供給される。すると、コイル15が変位することにより、振動膜9が振動する。これにより、スピーカ2が発音する。スピーカ2によって発音された音は、音通孔60a(
図5参照)を通じて使用者の耳における外耳道100へ伝搬される(
図11参照)。
【0054】
<イヤピース>
イヤピース5は、弾性材料で形成されている。例えば、イヤピース5は、シリコーンゴムで形成されている。イヤピース5は、ケース3よりも剛性が低い。イヤピース5は、ケース3の外周を全体的に覆うフルカバー式イヤピースである。
【0055】
図5に示すように、イヤピース5は、ケース3を覆う覆い部50と、覆い部50の一方から突出する音通筒体60と、覆い部50の他方から突出する環状凸部70と、音通筒体60の先端部から折り返された折り返し部80と、を備える。覆い部50、音通筒体60、環状凸部70および折り返し部80は、同一の弾性材料(例えばシリコーンゴム)で一体に形成されている(
図8参照)。
【0056】
覆い部50は、ケース3の外周全体を径方向外側から覆っている。覆い部50は、ケース3(カバー本体21)の径方向外側から振動膜9のヨーク10とは反対側にかけてケース3を覆うドーム状をなしている。覆い部50は、軸方向から見て長円形状の外縁を有する(
図2参照)。音通筒体60を使用者の外耳道100に挿入した使用状態で、覆い部50は、使用者の耳甲介腔101に面する耳珠102から対珠103に向けて延びる長円形状を有する(
図11参照)。例えば、覆い部50の長軸の長さH1(
図2参照)は、15.5mm以上17.5mm以下に設定される。本実施形態において、覆い部50の長軸の長さH1は、16.5mmである。
【0057】
覆い部50は、使用者の耳甲介腔101に面する耳珠102に当接するための耳珠当接部51と、耳甲介腔101に面する対珠103に連なる耳甲介104に当接するための耳甲介当接部52と、を備える(
図11参照)。覆い部50は、耳珠当接部51よりも耳甲介当接部52において肉厚(覆い部50の径方向の厚み)が大きくなるように形成されている。
【0058】
耳珠当接部51は、音通筒体60に連なるようにケース3(カバー本体21)の外周近傍に形成されている。耳珠当接部51は、軸方向で音通筒体60とは反対側の部分において、ケース3とは反対側に向けて凸の湾曲状をなしている。
耳甲介当接部52は、ケース3を挟んで耳珠当接部51とは反対側に形成されている。耳甲介当接部52は、ケース3とは反対側に向けて凸の湾曲状をなして膨出している。
【0059】
音通筒体60は、覆い部50において振動膜9に面する部分(具体的にはカバー本体21に面する部分)から振動膜9のヨーク10とは反対側へ向けて突出する筒状をなしている。音通筒体60は、スピーカ2によって発音された音を使用者の耳における外耳道100に伝搬させる機能を有する(
図11参照)。
【0060】
音通筒体60は、折り返し部80が連結される第1音通部61と、覆い部50において振動膜9に面する部分(具体的にはカバー本体21に面する部分)と折り返し部80とを離反させるように第1音通部61と覆い部50とを連結する第2音通部62と、を備える。第1音通部61および第2音通部62は、同一の部材で一体に形成されている。
【0061】
第1音通部61は、円筒状を有する。第1音通部61は、第1音通部61の延在方向(音通筒体60の軸線C2)と直交する断面視で真円形状を有する(
図7参照)。第1音通部61の外径D1は、6mm未満である。第1音通部61の軸長さL1は、6mm以上である。第1音通部61の外径D1と軸長さL1との比D1/L1は、1未満である。例えばSサイズの場合、第1音通部61の外径D1は4.8mm、軸長さL1は9.4mm、比D1/L1は0.51に設定される。例えば、XSサイズの場合、第1音通部61の外径D1は4.8mm、軸長さL1は8.7mm、比D1/L1は0.55に設定される。
【0062】
第2音通部62は、第1音通部61に連結される第1連結端部62aと、覆い部50に連結される第2連結端部62bと、を備える。第2連結端部62bは、第1連結端部62aの外径よりも大きい外径を有する。第2音通部62は、第1連結端部62aから第2連結端部62bに近づくに従って漸次拡径している。第2音通部62は、第1連結端部62aから第2連結端部62bに近づくに従ってヨーク10の軸線C1に近接するように傾斜するテーパ状をなしている。
【0063】
音通筒体60は、イヤピース5において軸方向で振動膜9の半体と重なるように形成されている。音通筒体60は、イヤピース5の外側に向けてヨーク10の軸線C1と交差するように斜めに突出している。音通筒体60には、イヤピース5の内部空間と外部空間とを連通する音通孔60aが形成されている。
【0064】
音通筒体60を外耳道100に挿入した使用状態において、音通筒体60は、ヨーク10の軸線C1においてイヤホン1と重なる部分C10よりも耳珠102の側にオフセットしている(
図11参照)。ヨーク10の軸線C1においてイヤホン1と重なる部分C10は、軸線C1において覆い部50の先端と第2カバー30の基端との間の部分を意味する。音通筒体60は、耳珠102から外耳道100に向けて傾斜して延びている(
図11参照)。
【0065】
音通筒体60が耳珠102から外耳道100に向けて傾斜して延びる方向において、音通筒体60の軸線C2とヨーク10の軸線C1とのなす角度をAとする。例えば、角度Aは、2度以上12度以下に設定される。本実施形態において、角度Aは、7度程度である。
【0066】
環状凸部70は、ケース3の外周部を支持可能に覆い部50の内周からヨーク10の振動膜9とは反対側へ向けて突出する環状をなしている。軸方向でヨーク10の振動膜9(振動膜9を支持する部分)とは反対側から見て(以下「背面視」ともいう)、環状凸部70は、覆い部50よりも小さい真円形状の外縁を有する(
図2参照)。
【0067】
環状凸部70は、ケース3に着脱可能に装着されるための開口部71を有する。軸方向から見て、開口部71はケース3(カバー本体21)の外形よりも小さい。開口部71は、イヤピース5の弾性変形により第1カバー20を覆い部50内に挿入可能かつ覆い部50内から第1カバー20を取り出し可能な大きさを有する。環状凸部70の突出端は、第2カバー30のヨーク収容部31の軸方向端部近傍(筒体基部収容部32寄りの部分)に位置している。
【0068】
折り返し部80は、音通筒体60の先端部から覆い部50へ向けて折り返されている。折り返し部80は、外耳道100に挿入可能なチューリップ型を有する。折り返し部80は、音通筒体60の先端部から覆い部50に近づくに従って漸次拡径する第1筒部81と、第1筒部81において覆い部50側の端部から覆い部50に近づくに従って漸次縮径する第2筒部82と、を備える。
【0069】
<作用>
以下、本実施形態のイヤホン1の作用について説明する。
図11は、第1実施形態に係るイヤホン1の使用状態の説明図である。
図12は、比較例に係るイヤホン1Xの使用状態の説明図である。
まず、比較例について説明する。
図12に示すように、比較例に係るイヤホン1Xは、使用者の耳珠102、対珠103、耳甲介104で囲まれた耳甲介腔101内に、振動膜9Xを耳甲介104に近接させるようにしてケース3Xを挿入する構成を有する。比較例では、耳甲介腔101から鼓膜へ延びる外耳道100内へ、ヨーク10Xの軸線に対して斜めに突設させた音通筒体4Xを挿入する。音通筒体4Xには、可撓性を有するイヤーチップ7Xが嵌められている。イヤーチップ7Xは、外耳道100の内壁に弾性的に当接する。ケース3Xは、耳へ直接的に触れている。
【0070】
次に、本実施形態について
図11を参照して説明する。
本実施形態においては、覆い部50によってケース3(第2カバー30を除く部分)の外周全体が覆われるため、イヤホン1の使用時(耳へのイヤホン1の装着時)、ケース3は耳へ直接的には触れず、ケース3よりも剛性が低いイヤピース5が耳へ接触する。そのため、比較例よりもイヤホン1の耳当たりをソフトにすることができる。加えて、覆い部50が使用状態で耳珠102から対珠103に向けて延びる長円形状を有するため、一般的な耳甲介腔101の形状に合わせることができ、覆い部50の長軸端部を耳珠102側および対珠103側で支持しやすい。
加えて、イヤホン1を使用する際、第2音通部62の長さ分だけ、音通筒体60を外耳道100の奥へ入り込ませることができる。そのため、比較例よりも外耳道100の奥の部分で折り返し部80を当接させることができる。
更に、本実施形態においては、イヤホン1を使用する際、耳珠当接部51の段部53を耳珠102でおさえることができる。そのため、比較例よりもイヤホン1を外れにくくすることができる。
【0071】
以上説明したように、上記実施形態におけるイヤピース5は、振動膜9を支持するヨーク10を有するスピーカ2を収容するケース3の外周全体をヨーク10の軸線C1に直交する方向の外側から覆うとともに、使用状態で軸線C1に沿う方向から見て使用者の耳甲介腔101に面する耳珠102から対珠103に向けて延びる長円形状を有する覆い部50と、覆い部50において振動膜9に面する部分から振動膜9のヨーク10とは反対側へ向けて突出する筒状をなすとともに、スピーカ2によって発音された音を使用者の耳における外耳道100に伝搬させるための音通筒体60と、ケース3の外周部を支持可能に覆い部50の内周からヨーク10の振動膜9とは反対側へ向けて突出する環状をなす環状凸部70と、を備える。
この構成によれば、覆い部50によってケース3の外周全体が覆われるため、イヤピース5の使用時(耳へのイヤピース5の装着時)、イヤピース5の耳当たりがソフトになる。加えて、覆い部50が使用状態で耳珠102から対珠103に向けて延びる長円形状を有するため、覆い部50の長軸端部を耳珠102側および対珠103側で支持しやすい。したがって、装着安定性を向上することができる。
加えて、コード40の縦方向の振動ノイズ(コード40を長手方向に擦ることにより発生するノイズ)およびコード40の横方向の振動ノイズ(コード40を振って服などに当たることにより発生するノイズ)を含めてコード40から伝わるノイズを6~12dB(1/2~1/4)ほど低減することができる。
加えて、ケース3の外周部を支持可能に覆い部50の内周からヨーク10の振動膜9とは反対側へ向けて突出する環状をなす環状凸部70を備えることで、以下の効果を奏する。
環状凸部70によってケース3の外周全体が支持されるため、ケース3と環状凸部70との間に隙間が生じることを抑制することができ、音漏れを抑制することができる。
加えて、覆い部が長円形状を有することで、装着安定性の面で楕円形状よりも若干有利になる場合がある。
【0072】
上記実施形態では、音通筒体60の先端部から覆い部50へ向けて折り返された折り返し部80を備え、折り返し部80は、外耳道100に挿入可能なチューリップ型の形状を有することで、以下の効果を奏する。
イヤピース5の使用時、折り返し部80が耳に柔軟に接触するため、装着安定性をより一層向上することができる。加えて、折り返し部80によって外耳道100が閉塞されるため、耳の外側の空間から外耳道100を封止することができる。
【0073】
上記実施形態では、音通筒体60は、折り返し部80が連結される第1音通部61と、覆い部50において振動膜9に面する部分と折り返し部80と離反させるように第1音通部61と覆い部50とを連結する第2音通部62と、を備えることで、以下の効果を奏する。
通常のイヤピースは音通筒体に外す方向の力が加わった場合、動作点(力が作用する点)と固定点(音通筒体の基端)との距離が近く、イヤピースが外れ易い傾向にある。これに対しこの構成によれば、第2音通部62の長さ分だけ動作点と固定点との距離が長いため、イヤピース5を外れ難くすることができる。加えて、イヤピース5の使用時、第2音通部62の長さ分だけ第1音通部61を外耳道100の奥へ入り込ませることができるため、外部雑音の侵入を抑制することができる。
【0074】
上記実施形態では、第1音通部61は円筒状を有し、第1音通部61の外径D1は6mm未満であり、第1音通部61の軸長さL1は6mm以上であり、外径D1と軸長さL1との比D1/L1は1未満であることで、以下の効果を奏する。
第1音通部61の外径が6mm以上の場合と比較して、第1音通部61を外耳道100へ挿入し易くすることができる。加えて、第1音通部61の軸長さが6mm未満の場合と比較して、第1音通部61を外耳道100へ挿入する際の柔軟性を高めることができる。加えて、比D1/L1が1以上の場合と比較して、第1音通部61を外耳道100へ挿入する際の容易性および柔軟性を高めることができる。加えて、長時間使用した場合の外耳道100への圧迫感による痛みの軽減に効果がある。
【0075】
上記実施形態では、第2音通部62は、第1音通部61に連結される第1連結端部62aと、覆い部50に連結される第2連結端部62bと、を備え、第2連結端部62bは、第1連結端部62aの外径よりも大きい外径を有し、第2音通部62は、第1連結端部62aから第2連結端部62bに近づくに従って漸次拡径していることで、以下の効果を奏する。
イヤピース5の使用時、第1音通部61を外耳道100の奥へ入り込ませつつ、第2音通部62を外耳道100の入口近傍の広い範囲で介在させることができるため、外部雑音の侵入を抑制することができる。
【0076】
上記実施形態では、覆い部50は、音通筒体60に連なるようにケース3の外周近傍に形成され、音通筒体60とは反対側の部分において、ケース3とは反対側に向けて凸の湾曲状をなすとともに、耳珠102に当接するための耳珠当接部51を備えることで、以下の効果を奏する。
イヤピース5の使用時、耳珠当接部51を耳珠102に広い範囲で接触させやすいため、形状的に耳珠部に固定しやすく、装着安定性を向上することができる。例えば、イヤピース5が弾性材料で形成されている場合、耳への圧迫を抑え且つ滑りにくいため、装着安定性を更に向上することができる。
【0077】
上記実施形態では、覆い部50は、ケース3を挟んで耳珠当接部51とは反対側に形成され、ケース3とは反対側に向けて凸の湾曲状をなして膨出するとともに、対珠103に連なる耳甲介104に当接するための耳甲介当接部52を更に備えることで、以下の効果を奏する。
イヤピース5の使用時、耳珠当接部51を耳珠102に当接させつつ、耳甲介当接部52を耳甲介104に広い範囲で接触させやすいため、装着安定性を更に向上することができる。
【0078】
上記実施形態では、軸線C1に沿う方向から見て、略長円形状を有する覆い部50の長軸の長さH1は、15.5mm以上17.5mm以下であることで、以下の効果を奏する。
略長円形状を有する覆い部50の長軸の長さH1が15.5mm未満または17.5mm超過の場合と比較して、装着安定性をより一層向上することができる。加えて、一般的な耳甲介腔101の大きさに合うため、耳甲介腔101の隙間を可及的に小さくすることができる。そのため、イヤピース5が外耳道100から抜けにくくなり、密閉状態を持続することができる。
【0079】
上記実施形態では、覆い部50、音通筒体60および環状凸部70は、同一の弾性材料で一体に形成されていることで、以下の効果を奏する。
イヤピース5の使用時、耳珠102、対珠103および耳甲介104の形状に沿うようにイヤピース5を弾性変形させることができるため、装着安定性をより一層向上させることができる。加えて、覆い部50、音通筒体60および環状凸部70が別個に形成されている場合と比較して、イヤピース5の製造効率を向上することができる。
【0080】
上記実施形態では、弾性材料は、シリコーンゴムであることで、以下の効果を奏する。
シリコーンゴムは、生体適合性、耐熱性、耐薬品性、撥水性、電気絶縁性などに優れているため、弾性材料として好適である。
【0081】
上記実施形態におけるイヤホン1は、振動膜9と、振動膜9を支持するヨーク10と、を有し、振動膜9の振動によって発音するスピーカ2と、スピーカ2を収容するケース3と、上記のイヤピース5と、を備える。
この構成によれば、装着安定性を向上することができるイヤホン1を提供することができる。加えて、コード40から伝わるノイズを低減するとともに、音漏れを抑制することができる。
【0082】
上記実施形態では、ケース3は、ケース3において振動膜9に面する部分から振動膜9のヨーク10とは反対側へ向けて突出する筒状をなすとともに、音通筒体60の基端部を支持するステム22を備えることで、以下の効果を奏する。
ステム22によって音通筒体60の基端部をしっかりと支持することができるため、耳へのイヤピース5の装着時に音通筒体60の基端部が曲がることを抑制することができる。したがって、装着安定性をより一層向上することができる。
【0083】
上記実施形態では、イヤピース5は、ケース3に着脱可能に装着されるための開口部71を有し、軸線C1に沿う方向から見て、開口部71はケース3の外形よりも小さいことで、以下の効果を奏する。
イヤピース5の開口部71とケース3とが密着するため、音漏れの原因となる隙間が生じることを抑制することができる。
【0084】
<変形例>
上記実施形態では、覆い部50が使用状態で軸線C1に沿う方向から見て使用者の耳甲介腔101に面する耳珠102から対珠103に向けて延びる長円形状を有する例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、覆い部50は、使用状態で軸線C1に沿う方向から見て使用者の耳甲介腔101に面する耳珠102から対珠103に向けて延びる楕円形状を有してもよい。
【0085】
上記実施形態では、イヤピース5全体が弾性材料で形成されている例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、イヤピース5の表面等、イヤピース5の一部(耳に接触する部分のみ)が弾性材料で形成されていてもよい。
【0086】
上記実施形態では、弾性材料がシリコーンゴムである例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、弾性材料は、ウレタンゴム、フッ素ゴム等のシリコーンゴム以外のゴムであってもよい。
【0087】
上記実施形態では、折り返し部80が音通筒体60と同一の弾性材料で一体に形成されている例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、折り返し部80は、イヤーチップとして音通筒体60に着脱可能に取り付けられていてもよい。
【0088】
上記実施形態では、イヤピース5がケース3に着脱可能に装着される例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、イヤピース5は、ケース3に接着剤などで固定されていてもよい。
【0089】
上記実施形態では、音通筒体60が第1音通部61と第2音通部62とを備える例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、耳の小さい人向け用に音通筒体を短くする場合等には、音通筒体60は第2音通部62を有しなくてもよい。
【0090】
上記実施形態では、ステム22がカバー本体21から離れるに従って漸次縮径している例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、音通筒体60の基部をしっかりと支持する観点等から、ステム22は漸次縮径していなくてもよい。例えば、耳の小さい人向け用に音通筒体を短くする場合等には、ケース3はステム22を有しなくてもよい。
【0091】
上記実施形態では、左耳用のイヤホン1を挙げて説明したが、これに限らない。右耳用のイヤホンについても本発明を適用可能である。例えば、左耳用のイヤホンと右耳用のイヤホンとを、左右対称構造(左右勝手違い部品)とすることで対応可能である。
【0092】
上記実施形態では、第1音通部61が第1音通部61の延在方向と直交する断面視で真円形状を有する例(
図7参照)を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、
図13に示すように、第1音通部161は、第1音通部161の延在方向と直交する断面視で楕円形状を有してもよい。楕円形状を有する第1音通部161の長軸方向は、長円形状を有する覆い部50の長軸方向と実質的に直交している。楕円形状を有する第1音通部161の断面積は、28.3mm
2未満である。例えば、折り返し部180は、第1音通部161の延在方向と直交する断面視で楕円形状を有してもよい。楕円形状を有する折り返し部180の長軸方向は、楕円形状を有する第1音通部161の長軸方向と実質的に平行である。
この構成によれば、第1音通部61が断面視で真円形状を有する場合と比較して、装着安定性をより一層向上することができる。第1音通部161が断面視で楕円形状を有する場合、一般的な外耳道100の形状に合うため、外耳道100への圧迫感を軽減することができる。
なお、第1音通部61が断面視で楕円形状を有する場合、上記の断面積28.3mm
2未満を優先し、楕円の直径は6mm以上であってもよい。
【0093】
<第2実施形態>
第1実施形態では、ケース3は、スピーカ2を振動膜9の側から覆う第1カバー20と、スピーカ2をヨーク10の側から覆う第2カバー30と、を備え、第1カバー20と第2カバー30とが固定されている場合について説明したが、これに限らない。第2実施形態は、ケースの構成が上記第1実施形態と異なる。第2実施形態において上記第1実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、その詳細説明は省略する。
【0094】
図14は、第2実施形態に係るイヤホンの
図5に相当する断面図である。
図14に示すように、ケース203は、スピーカ2を振動膜9の側から覆う第1カバー220と、スピーカ2をヨーク10の側から覆う第2カバー30と、を備える。第1カバー220は、ケース203の内周側に位置する内ケース221と、内ケース221に対し軸線C1の周りに相対的に回転可能に内ケース221の外周部を支持する外ケース222と、を備える。
【0095】
内ケース221は、スピーカ2の外周部を支持する筒状の内筒体221aと、内筒体221aにおいて第2カバー30とは反対側の端部から径方向外側に突出する環状の鍔部221bと、を備える。内筒体221aにおいて鍔部221bとは反対側の端部は、第2カバー30に接着剤などで固定されている。
【0096】
外ケース222は、スピーカ2の外周全体を径方向外側から覆う外カバー体222aと、外カバー体222aにおいて振動膜9に面する部分から振動膜9のヨーク10とは反対側へ向けて突出する筒状をなすステム222bと、を備える。外カバー体222aの内周部には、鍔部221bを軸線C1の周りに回転可能に支持する凹部222cが形成されている。
【0097】
このような構成により、第2カバー30は、内ケース221を介して外ケース222に対し軸線C1の周りに相対回転可能とされている。すなわち、第2カバー30は、保持筒体4と共にイヤピース5に対して軸線C1の周りに相対回転可能である(
図15参照)。
図15においては、保持筒体4を軸線C1の周りに紙面下方位置(二点鎖線)から紙面左上方位置(実線)に回転させた例を示す。
【0098】
第2実施形態では、ケース203は、ケース203の内周側に位置する内ケース221と、内ケース221に対し軸線C1の周りに相対的に回転可能に内ケース221の外周部を支持する外ケース222と、を備えることで、以下の効果を奏する。
内ケース221と外ケース222とを任意の角度で回転させることができるため、ケース203に設けられている保持筒体4(コード出口部)を任意の角度で設定することができる。そのため、
図16、
図17に示すように、使用者の耳に対してコード40を下側に出したり、耳たぶに掛けたりする等、任意の使用方法に対応することが可能となる。加えて、耳の形状の個人差に対応することが可能となる。例えば、コード40を耳たぶに掛けて使用する場合、コード40の振動ノイズは縦方向および横方向とも大幅に減少することが知られているが、使い勝手が悪くなることがある。このように使用者の好みに応じて容易に使い分けが可能である。
【0099】
なお、上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更が可能である。上記実施形態とその変形は、発明の範囲と発明の要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0100】
1 イヤホン
2 スピーカ
3 ケース
5 イヤピース(フルカバー式イヤピース)
9 振動膜
10 ヨーク
22 ステム
50 覆い部
51 耳珠当接部
52 耳甲介当接部
60 音通筒体
61 第1音通部
62 第2音通部
62a 第1連結端部
62b 第2連結端部
70 環状凸部
71 開口部
80 折り返し部
100 外耳道
101 耳甲介腔
102 耳珠
103 対珠
104 耳甲介
161 第1音通部
180 折り返し部
203 ケース
220 第1カバー
221 内ケース
222 外ケース
C1 ヨークの軸線
D1 第1音通部の外径
H1 覆い部の長軸の長さ
L1 第1音通部の軸長さ