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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】薄膜サポート貼着フィルム
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20221031BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20221031BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20221031BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20221031BHJP
   C09J 7/50 20180101ALI20221031BHJP
   C09J 183/04 20060101ALI20221031BHJP
   C09J 7/22 20180101ALI20221031BHJP
   C09J 183/05 20060101ALI20221031BHJP
   C09J 183/07 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
C09J7/38
B32B27/00 M
B32B27/00 D
B32B27/00 101
B32B27/20 Z
B32B27/40
C09J7/50
C09J183/04
C09J7/22
C09J183/05
C09J183/07
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019021575
(22)【出願日】2019-02-08
(65)【公開番号】P2020128484
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000237237
【氏名又は名称】フジコピアン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】入江 朱加
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆史
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 海志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 教一
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-221877(JP,A)
【文献】特開2017-101095(JP,A)
【文献】特開2013-139509(JP,A)
【文献】特開2012-59846(JP,A)
【文献】特開2005-89622(JP,A)
【文献】国際公開第2010/041667(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/039387(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 27/00-27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Tg85℃以上の樹脂からなる基材の片面に易接着層、粘着剤層をこの順に積層した貼着フィルムであって、前記粘着剤層がシリコーン組成物を付加反応で硬化してなるシリコーン樹脂からなり、前記易接着層が、シリカを40~85重量%、アクリルウレタン樹脂を10~30重量%、およびエチルシリケートを5~30重量%含有することを特徴とする貼着フィルム。
【請求項2】
前記粘着剤層が前記シリコーン組成物として少なくともビニル基含有ポリジメチルシロキサン組成物、SiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、シリコーンレジンを含有するシリコーン組成物を付加反応で硬化してなるシリコーン樹脂からなることを特徴とする、請求項1に記載の貼着フィルム。
【請求項3】
前記易接着層中にポリスチレンスルホン酸を1~30重量%含有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の貼着フィルム。
【請求項4】
前記易接着層の膜厚が0.01~3.00μmであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の貼着フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜基板や薄膜シートを使用する部品の製造や加工において、加熱工程を含む工程中の部品の取り扱いを容易にするために、薄膜基板や薄膜シートの補強の為に用いられる貼着フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池(PV)、液晶パネル(LCD)、有機ELパネル(OLED)などのデバイス(電子機器)の薄型化、軽量化が進行しており、これらのデバイスに用いる部品としてのガラス基板の薄膜化が進行している。薄膜化によりガラス基板の強度が不足すると、デバイスの製造や加工工程において、ガラス基板の取り扱いが困難になる。
【0003】
また、半導体や、回路基板などの製造や加工工程においても薄膜化の要求があり、前記のガラス基板と同様に強度不足による製造や加工工程での取り扱いが困難となる。具体的には半導体チップそのものや、半導体チップを載せてボンディングを行う為の基板や、主にポリイミドやいわゆるガラスエポキシからなる電子回路のフレキシブル基板などの薄膜化が進行している。
【0004】
これら薄膜化した部品の取り扱いを容易にするためには、薄膜化した部品をサポートするために、粘着剤を基材に設置した貼着フィルムをサポートフィルムとして貼着して強度を確保した上で作業を行い、作業終了後に前記貼着フィルムを剥がす方法が考えられる。例えば特許文献1には薄膜化したガラス基板のハンドリング性や加工性を改善するための易剥離性のプラスチックフィルムが開示されている。また特許文献2には薄膜化したポリイミドフィルムを作製する際の補強用フィルムの例が開示されている。
【0005】
さらに、これらのデバイスや部品の製造や加工工程においては、例えば半導体を封止したり、回路を固定したり、保護層を形成したりする際に基板上に設置された樹脂の熱硬化を行うことがあり、例えば180℃程度の高温加熱が行われる。
【0006】
このような高温加熱を受ける部品をサポートする貼着フィルムとしては、基材および粘着剤が十分な耐熱性を持ち、かつ高温環境を通過後、貼着フィルムの剥離時に部品側に粘着剤が付着する、いわゆる糊残りを起こさないことが必要となる。しかしながら特許文献1には、前記のような耐熱性を考慮したものとはなっていない。
【0007】
また、特許文献2には耐熱性を配慮した補強用フィルムにおける粘着剤層の記載があり、実施例でシリコーン系粘着剤層の例が開示されている。しかしながら特許文献2における粘着剤層の被着体としては、機能性薄膜層として金属や半導体、金属化合物よりなるキャパシター材料や圧電材料の薄膜のみが開示されており、前記のポリイミドやガラスエポキシ等の有機物を含有する薄膜を被着体とした場合の耐熱性(糊残り)に対して考慮がなされていない。
【0008】
実際に本発明者らが特許文献2に基づいて、耐熱性を持つ基材としてTgが85℃以上である樹脂からなる基材に直接シリコーン系粘着剤層を設置した貼着フィルムを作製し、被着体をポリイミドやガラスエポキシの薄膜として前記粘着剤層と直接貼着するようにして実験を行ったところ、貼着後高温環境を経てから貼着フィルムを剥離した際に目視にて糊残りが確認できた。基材にコロナ処理等の易接着加工を行ったものを使用した場合も、糊残りの程度はよくなるものの完全に解決はできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2001-97733号公報
【文献】特開2009-154293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、無機物のみからなる被着体だけでなく、有機物からなる被着体や、有機物を含有する被着体に対しても、貼着後高温環境を経たあとで被着体から糊残りなく容易に剥離可能なシリコーン系貼着フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、基材にTgが85℃以上の樹脂を用い、前記基材の一方の面に、シリコーン組成物を付加反応で硬化してなるシリコーン樹脂からなる、シリコーン系粘着剤層を設置した貼着フィルムにおいて、前記基材と粘着剤層の間に、特定組成からなる易接着層を設けることで、粘着剤層を被着体に貼着した後に高温環境を経ても、被着体から糊残りなく容易に剥離可能な貼着フィルムを提供できるようになった。
【0012】
第1発明は、Tg85℃以上の樹脂からなる基材の片面に易接着層、粘着剤層をこの順に積層した貼着フィルムであって、前記粘着剤層がシリコーン組成物を付加反応で硬化してなるシリコーン樹脂からなり、前記易接着層が、シリカを40~85重量%、アクリルウレタン樹脂を10~30重量%、およびエチルシリケートを5~30重量%含有することを特徴とする貼着フィルムである。
【0013】
第2発明は、前記粘着剤層が前記シリコーン組成物として少なくともビニル基含有ポリジメチルシロキサン組成物、SiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、シリコーンレジンを含有するシリコーン組成物を付加反応で硬化してなるシリコーン樹脂からなることを特徴とする、第1発明に記載の貼着フィルムである。
【0014】
第3発明は、前記易接着層中にポリスチレンスルホン酸を1~30重量%含有することを特徴とする、第1発明または第2発明に記載の貼着フィルムである。
【0015】
第4発明は、前記易接着層の膜厚が0.01~3.00μmであることを特徴とする、第1発明~第3発明のいずれかに記載の貼着フィルムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の貼着フィルムは、Tg85℃以上の樹脂からなる基材上に易接着層、シリコーン系粘着剤層をこの順に設置してなり、サポートフィルムとして貼着した被着体である薄膜部品製造工程中の高温環境を経たあとでも、被着体から糊残りなく容易に剥離することを可能とするものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の貼着フィルムを、その構成要素に基づいて、さらに詳しく説明する。
【0018】
(全体構成)
本発明の貼着フィルムは、基材をTgが85℃以上の樹脂からなるものとし、基材の一方
の面に易接着層を設け、その上にシリコーン組成物を付加反応で硬化してなるシリコーン
樹脂からなる、シリコーン系粘着剤層を設けた貼着フィルムである。
【0019】
(基材)
本発明の貼着フィルムの構成要素のうち、基材となる樹脂は、耐熱性があり高温加熱に耐えられるような樹脂が用いられる。具体的にはTgが85℃以上の樹脂が良好に使用でき、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の樹脂が挙げられる。なかでも耐熱性や易接着層との密着性、基材としてのフィルムの入手性から特にポリエーテルイミドが良好に使用できる。
【0020】
前記基材の厚みは、12~200μmが良好であり、25~125μmがより良好である。基材厚が12μm未満では、加工時のサポートフィルムとしては強度不足となる。厚みが200μmより厚くなると、柔軟性が無くなって被着体からの剥離が困難となる。また剥離時に被着体を損傷する場合があり、価格も高くなる。
【0021】
前記基材には、所望に応じて表面にコロナ放電処理、紫外線照射処理、プラズマ処理、火炎処理などの処理を行ってもよい。
【0022】
(易接着層)
本発明では、基材と粘着剤層の間に易接着層を設ける。前記易接着層の材料としては、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂や各種の添加剤などが挙げられるが、アクリルウレタン樹脂、およびエチルシリケートを易接着層に含有する事で、前記耐熱性基材およびシリコーン系粘着剤層と易接着層との密着性を維持することが可能となる。さらに易接着層にシリカを含有する事で、被着体貼着後に高温環境を経た後でも、被着体から貼着フィルムを剥がした際に粘着剤層の被着体への糊残りを生じさせない、耐熱性のある易接着層となる。
【0023】
前記易接着層の厚みは、0.01~3.00μmが良好であり、0.03~1.50μmがより良好である。易接着層の厚みが0.01μm未満では、易接着層の基材と粘着剤層の密着力が不足し、所望の性能が得られづらい。厚みが3.00μmより厚くなると、柔軟性が無くなって貼着フィルムの取り扱いが困難となる。また価格も高くなる。
【0024】
本発明の易接着層に使用するシリカの種類は特に限定されず、一般的な乾式シリカや湿式シリカが使用可能だが、塗工液の流動性や易接着層が薄膜となっても凹凸を生じず、均一に易接着層中に分散できてその機能を発揮できる点で、いわゆる湿式製法にて得られるコロイダルシリカが好適に使用できる。
【0025】
前記シリカの易接着層中含有量は40~85重量%の範囲が好適である。この範囲内であると、前記易接着層が十分な耐熱性を持ち、前記貼着フィルムを被着体に貼着して高温環境を経た後で、貼着フィルムと被着体を剥離する際に、粘着剤層の被着体への糊残りが生じない。含有量が40重量%未満では、本発明における十分な耐熱性が得られず、高温環境を経た後で、貼着フィルムと被着体を剥離する際に、粘着剤層の被着体への糊残りを生じることがある。含有量が85重量%を超えると、相対的にアクリルウレタン樹脂、およびエチルシリケートの含有量が少なくなり、基材と易接着層、および易接着層とシリコーン系粘着剤層の密着力が低くなるため、本発明の貼着フィルムを被着体に貼着しての取り扱い中に貼着フィルムが剥がれたり、高温環境を経た後で、貼着フィルムと被着体を剥離する際に、粘着剤層の被着体への糊残りを生じることがある。
【0026】
本発明の易接着層に使用するアクリルウレタン樹脂は、易接着剤層中のエチルシリケートと熱により結合して易接着層を形成し、基材と粘着剤層の密着を強固にするため、前記エチルシリケートと反応可能なアクリルウレタン樹脂が好適である。
【0027】
本発明におけるアクリルウレタン樹脂の易接着層中含有量は10~30重量%の範囲が好ましい。含有量が10重量%未満では易接着層の基材との密着力が不足し、所望の性能が得られづらい。含有量が30重量%を超えると、相対的にシリカおよび/またはエチルシリケートの量が減少する。シリカの量が減少すると本発明における十分な耐熱性が得られず、高温環境を経た後で、貼着フィルムと被着体を剥離する際に、粘着剤層の被着体への糊残りを生じることがある。エチルシリケートの量が減少すると、後に説明するシリコーン系粘着剤層と易接着層の密着力が低くなり、貼着フィルムを貼着した被着体の取り扱い中に貼着フィルムが剥離したり、高温環境を経た後での剥離時の糊残りを生じることがある。
【0028】
前記アクリルウレタン樹脂は、水酸基および(メタ)アクリロイル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとイソシアネートを反応させて得ることができる。またジオールとイソシアネートとの反応により生成する末端にイソシアネート基を有するポリウレタン鎖と、水酸基および(メタ)アクリロイル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとを反応させても得ることができる。
【0029】
前記の水酸基および(メタ)アクリロイル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート及び1,4-シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレートなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらの化合物は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0030】
前記イソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネートや、これらのイソシアネートモノマーが3分子結合したアダクト体、ビウレット体、イソシアヌレート体などの3量体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの化合物は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0031】
前記ジオールとしては、ポリカーボネートジオール、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオールなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらの化合物は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0032】
また、本発明の易接着層にはエチルシリケートを含有する。エチルシリケートを含有する事で、易接着層とシリコーン系粘着剤層との密着力が本発明における十分な値となる。
【0033】
前記エチルシリケートの易接着層中含有量は5~30重量%以下の範囲が好ましい。含有量が5重量%未満では易接着層とシリコーン系粘着剤層との密着力が不足し、所望の性能が得られづらい。含有量が30重量%を超えると、相対的にシリカおよび/またはアクリルウレタン樹脂の量が減少する。シリカの量が減少すると本発明における十分な耐熱性が得られず、高温環境を経た後で、貼着フィルムと被着体を剥離する際に、粘着剤層の被着体への糊残りを生じることがある。アクリルウレタン樹脂の量が減少すると、基材と易接着層の密着力が低くなるために、本発明の貼着フィルムを貼着した被着体の取り扱い中に貼着フィルムが剥がれたり、高温環境を経た後で、貼着フィルムと被着体を剥離する際に、粘着剤層の被着体への糊残りを生じることがある。
【0034】
また、前記のアクリルウレタン樹脂とエチルシリケートの熱による結合において、その反応を促進する酸性触媒としてポリアニオンを含有してもよい。ポリアニオンを含有することで前記反応の速度を早くする事ができる。ポリアニオンの中では易接着層の耐熱性や柔軟性、基材や粘着剤層との密着力の点からポリスチレンスルホン酸が好適に使用できる。
【0035】
前記ポリスチレンスルホン酸の易接着層中含有量は1~30重量%が好ましい。含有量が1重量%未満では、所望の性能が得られづらい。含有量が30重量%を超えると、相対的に他成分のいずれかの比率が少なくなり、含有比率が少なくなった他成分の機能である、シリカなら耐熱性、アクリルウレタン樹脂なら基材と易接着層の密着力、エチルシリケートなら易接着層と粘着剤層の密着力が低くなる。その結果本発明の貼着フィルムを貼着した被着体の取り扱い中に貼着フィルムが剥がれたり、高温環境を経た後で、貼着フィルムと被着体を剥離する際に、粘着剤層の被着体への糊残りを生じることがある。
【0036】
(粘着剤層)
本発明の貼着フィルムの粘着剤層としては、被着体に確実に貼着し、高温環境にさらされたあとでも、糊残りなく剥離可能であることが必要である。このような用途の粘着剤層としては天然、合成ゴムやシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂等の樹脂や、これらの個々の樹脂を硬化剤で硬化したものが使用可能であるが、耐熱性や柔軟性がある点から、シリコーン組成物を熱による付加反応で硬化してなる、付加反応型のシリコーン樹脂が特に好適に使用可能である。付加反応型のシリコーン樹脂で粘着剤層を形成し、本発明の基材、易接着層と組み合わせることで、高温環境にさらされた後でも被着体から糊残りなく容易に剥離する貼着フィルムとすることができる。
【0037】
本発明の粘着剤層に用いる前記付加反応型のシリコーン樹脂としては、シリコーン組成物として1分子中に2個以上のビニル基を有するポリオルガノシロキサンとシリコーンレジン、および硬化剤としてSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンの付加反応により熱硬化してなるものが好適に用いられる。シリコーン組成物として前記ポリオルガノシロキサン、前記シリコーンレジンおよび前記SiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含有し、熱硬化することで、好適な粘着剤層が得られる。
【0038】
以下にシリコーン樹脂を使用した粘着剤層について、更に詳しく説明する。
【0039】
(シリコーン樹脂粘着剤層)
本発明の粘着剤層に用いるシリコーン樹脂の性状としては、ゴムのような柔軟性を持っていて被着体の表面に対しても、粘着剤層の面が被着体表面に沿うことが求められる。さらに剥離の際には、小さい剥離力で容易に剥離できることが求められる。また、少なくとも厚み5μm以上で、塗布及び加熱処理だけで粘着剤層を設けるためには、シリコーン組成物の硬化反応に際して、白金触媒などの付加反応触媒のもとで、150℃以下の低温短時間で深部まで硬化し、透明で耐熱性、圧縮永久歪み特性に優れかつ低粘度で液状タイプである、1分子中に2個以上のビニル基を有するジオルガポリシロキサンとシリコーンレジン、および硬化剤としてSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンとの付加反応により熱硬化する付加反応型液状シリコーン組成物の使用が好ましい。
【0040】
1分子中に2個以上のビニル基を有するジオルガノポリシロキサンとしては、両末端にのみビニル基を有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンと、両末端及び側鎖にビニル基を有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンと、末端にのみビニル基を有する分岐状ジオルガノポリシロキサンと、末端及び側鎖にビニル基を有する分岐状ジオルガノポリシロキサンとから選ばれる少なくとも1種を用いると良い。
【0041】
これらのジオルガノポリシロキサンの1形態としては、両末端にのみビニル基を有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンで、下記一般式(化1)で表わされる化合物である。
【0042】
【化1】
【0043】
(式中Rは下記の有機基、nは整数を表す。)
【0044】
【化2】
【0045】
(式中Rは下記の有機基、n、mは整数を表す。)
【0046】
このビニル基以外のケイ素原子に結合した有機基(R)は異種でも同種でもよいが、具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、フェニル基、トリル基、などのアリール基、又はこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部または全部をハロゲン原子、シアノ基などで置換した同種、または異種の非置換または置換の脂肪族不飽和基を除く1価炭化水素基で、好ましくはその少なくとも50モル%がメチル基であるものなどが挙げられるが、このジオルガノポリシロキサンは単独でも2種以上の混合物であってもよい。
【0047】
両末端および側鎖にビニル基を有する直鎖状ジオルガノポリシロキサンは、上記一般式(化1)中のRの一部がビニル基である化合物である。末端にのみビニル基を有する分岐状ポリオルガノシロキサンは、上記一般式(化2)で表わされる化合物である。末端及び側鎖にビニル基を有する分岐状ポリオルガノシロキサンは、上記一般式(化2)中のRの一部がビニル基である化合物である。
【0048】
1分子中に2個以上のビニル基を有するジオルガノポリシロキサンの重量平均分子量としては、20,000~700,000の範囲のものが好ましい。前記のジオルガノポリシロキサンの重量平均分子量が20,000未満であると、硬化性が低下したり、被着体への粘着力が低下してしまう。また、700,000を超えてしまうと、組成物の粘度が高くなりすぎて製造時の撹拌が困難になる。
【0049】
本発明の粘着剤層に用いられるシリコーンレジンとしては、M単位(RSiO1/2:Rはメチル基、フェニル基などの1価の有機基)、D単位(RSiO2/2)、T単位(RSiO3/2)、Q単位(SiO4/2)からなるシリコーンレジンを用いる事ができるが、なかでも粘着剤層の粘着力を向上させる効果が大きいことから、M単位とQ単位からなる、いわゆる従来公知のMQ型オルガノポリシロキサンレジン(以下MQレジンと略す場合あり)を含有することが好適である。前記MQレジンの粘着剤層中含有量は、0.01~20.00重量%の範囲とすることが好ましい。特に0.10~15.00重量%の範囲がより好適である。含有量が0.01重量%未満だと、粘着力を向上する効果が得られづらい。含有量が20.00重量%を超えると粘着力が強くなりすぎて、粘着剤層を被着体から剥離する際に、被着体である薄膜基板や薄膜シートを破損するおそれがある。
【0050】
前記ジオルガノポリシロキサンおよびシリコーンレジンとの組み合わせにおいて、硬化反応に用いる硬化剤は、公知のものでよいが、前記硬化剤の例として、分子内にSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン等が挙げられる。それらの中でも、特にメチルハイドロジェンシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマーを使用することが好ましい。前記コポリマーのメチルハイドロジェンシロキサン部分は、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有するものが好ましく用いられるが、実用上からは分子中に2個の≡SiH結合を有するものをその全量の50重量%までとし、残余を分子中に少なくとも3個の≡SiH結合を含むものとすることがよい。分子の形状としては、直鎖状、分岐状、環状のものを使用できる。
【0051】
また、前記ビニル基を有するジオルガノポリシロキサン中のビニル基(A)に対する、オルガノハイドロジェンポリシロキサン中のSiH基(B)のモル比(A)/(B)が1.0~2.0の範囲となるように配合することが好ましい。モル比(A)/(B)が1.0未満では硬化密度が不足して、これに伴い凝集力、保持力が低くなってしまうことがあり、逆に2.0を超えると硬化密度が高くなり、適度な粘着力が得られず、また前記易接着層表面の水酸基とSiH基との結合による十分な密着力が得られづらくなる。
【0052】
硬化反応に用いる付加反応触媒は、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とアルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン化合物との反応物、塩化白金酸とビニル基含有シロキサンとの反応物、白金-オレフィン錯体、白金-ビニル基含有シロキサン錯体、ロジウム錯体、ルテニウム錯体などが挙げられる。また、これらのものをイソプロパノール、トルエンなどの溶剤や、シリコーンオイルなどに溶解、分散させたものを用いてもよい。硬化した粘着剤層は、シリコーンゴムのような柔軟性を持ったものとなり、この柔軟性が被着体との密着を容易にさせるものである。
【0053】
前記付加反応触媒の添加量はシリコーン組成物の合計100重量部に対し、貴金属分として5~2,000ppm、特に10~500ppmとすることが好ましい。5ppm未満では硬化性が低下して硬化密度が低くなり、保持力が低下することがあり、2,000ppmを超えると塗工液の使用可能時間が短くなる場合がある。
【0054】
本発明に係るシリコーン組成物の市販品の形状は、無溶剤型、溶剤型、エマルション型があるが、いずれの型も使用できる。なかでも、無溶剤型は、溶剤を使用しないため、安全性、衛生性、大気汚染の面で非常に利点がある。但し、無溶剤型であっても、所望の膜厚を得るための粘度調節のために、必要に応じてトルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソパラフィンなどの脂肪族炭化水素系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸イソブチルなどのエステル系溶剤、ジイソプロピルエーテル、1、4-ジオキサンなどのエーテル系溶剤、またはこれらの混合溶剤などが使用される。
【0055】
前記溶剤の添加量はシリコーン組成物の合計100重量部に対し、20~1,000重量部、特に25~900重量部とすることが好ましい。20重量部未満では、粘着剤層と易接着層の密着性が低下して剥離する場合があり、1,000重量部を超えると、シリコーン組成物の塗工液の粘度が低くなりすぎるので、塗工後から硬化までの間に、塗工された粘着剤層が一部流動し、粘着剤層表面の平滑性が低下してしまう。
【0056】
本発明の粘着剤層の性状としては、ゴムのような柔軟性を持っていて被着体への貼着時に被着体の表面の凹凸に追従して密着力を確保することが求められる。そして、例えば前記部品製造のサポートフィルムとして使用する場合、粘着剤層の膜厚は、被着体に対する粘着剤層の密着面方向の剪断力を確保するために少なくとも5μm以上、通常は10~100μmが好ましく、20~50μmであることがより好ましい。5μm未満であると被着体に対する保護部材の密着面方向の剪断力が確保できず、特に長期貼り付け時には、貼着フィルムが被着体から剥がれ易い。また、粘着剤層の厚みが100μmを超える場合には、粘着剤層を構成する樹脂の使用量が多くなり、貼着フィルムの製造コストの上昇を招いてしまう。
【0057】
本発明における粘着剤層の形成方法としては、粘着剤層を構成する樹脂を有機溶剤に溶解し粘度を調整した樹脂溶液を塗工する方法や、粘着剤層を構成する樹脂を水に分散し塗工する方法等の公知の方法を用いることができる。前記有機溶剤としては一般の有機溶剤を特に制限無く用いることができる。例えば、前記の粘度調節のための有機溶剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
本発明の粘着剤層のコーティング法としては、コンマナイフコーター、ダイコーター、リバースコーターなどが挙げられる。
【0059】
(セパレータ)
本発明においては、粘着剤層の表面の汚れや異物付着を防いだり、貼着フィルムのハンドリングを向上させる目的で、プラスチックフィルムからなるセパレータを粘着剤層面に貼り合わせて用いることが好適である。前記セパレータは、剥離性の高いプラスチックフィルムよりなり、所望により、前記プラスチックフィルムの表面に剥離剤を形成したものが使用される。
【0060】
前記セパレータのプラスチックフィルムとしては、例えば、セロハンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスチレンフィルム等を挙げることができる。プラスチックフィルムの厚さとしては、25~200μmが好ましく用いられる。厚さが25μm未満だとフィルム強度が不足して十分な保護性能が得られなかったり、剥離時にセパレータが破れる等の問題が発生する。また、200μmより厚いと取り扱いが困難になったり、プラスチックフィルム自体が高価になる等の問題が発生する。
【0061】
前記剥離剤としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系や、フッ素系等の剥離効果の高い材料を用いることができる。
【0062】
前記剥離剤のプラスチックフィルムへの形成方法は、前記粘着剤層の基材への形成方法と同様の方法を用いることができる。またこれらの剥離剤を前記プラスチックフィルムに形成する面は、所望により片面でも、両面でもよい。
【実施例
【0063】
以下、実施例と比較例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、各実施例中の「部」は特に断ることのない限り重量部を示したものである。
【0064】
(実施例1~14、比較例1~6)
表2の実施例1~14、比較例1~6の各基材の片面にコロナ放電処理を行い、表2に記載の処方にて混合した各実施例、比較例の各易接着層塗工液を、乾燥後の厚みが表2記載の各々の値になるように調整して、各基材のコロナ放電処理した面に塗工し、100℃で2分間有機溶剤を除去する為に加熱乾燥して各易接着層を形成した。その上に下記表1の各粘着剤層塗工液を乾燥後の厚みが15μmになるように塗工した後、100℃で2分間有機溶剤を除去する為に加熱乾燥してから150℃で100秒間加熱して塗工液を硬化させて粘着剤層を形成し、実施例1~14、比較例1~6の貼着フィルムを作製した。作製した各貼着フィルムを幅25mmに切断して、厚み100μmのガラス板、ガラスエポキシ基板に各貼着フィルムの粘着剤層を貼着した後に、180℃で2分間加熱して室温まで冷却してガラス板、ガラスエポキシ基板に各貼着フィルムを貼着した積層物を作製した。
【0065】
【表1】
単位:重量部
【0066】
各実施例、比較例の材料構成比、評価結果を表2に、各評価方法を下記に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
(評価方法)
【0070】
(密着性評価:易接着層)
実施例1~14、比較例1~6の易接着層までを設置したフィルムにおいて、易接着層を指擦りして、基材と易接着層の密着性を目視観察し、次の基準により評価した。
◎:指擦り50回で、基材からの脱落無し。
○:指擦り10回以上、50回未満で基材から脱落有り。
×:指擦り10回未満で、基材からの脱落有り。
【0071】
(密着性評価:粘着剤層)
実施例1~14、比較例1~6の貼着フィルムの粘着剤層を指擦りして、易接着層と粘着剤層の密着性を目視観察し、次の基準により評価した。
◎:指擦り15回で、基材からの脱落無し。
○:指擦り5回以上、15回未満で基材から脱落有り。
×:指擦り5回未満で、基材からの脱落有り。
【0072】
(粘着剤層の耐熱、糊残り性評価)
前記実施例1~14、比較例1~6で作製したガラス板と各貼着フィルムの積層物において、貼着フィルムを速度300mm/minで180°剥離を行った際に、貼着フィルム剥離後のガラス板への粘着剤層の付着を、目視確認する方法にて糊残りの評価を行った。
評価基準
○:粘着剤層のガラス板上への付着がない。
×:粘着剤層のガラス板上への付着がある。
【0073】
(剥離性評価)
前記実施例1~14、比較例1~6で作製したガラスエポキシ基板と各貼着フィルムの積層物において、貼着フィルムを速度300mm/minで180°剥離を行った際に、貼着フィルムがガラスエポキシ基板と貼り付き、基板が折れるかどうかを目視で確認し、剥離性の評価を行った。
評価基準
◎:貼り付きの発生が無く、容易に剥離できた。
○:貼り付きが発生し、容易に剥離できなかったが、ガラスエポキシ基板の折れは発生しなかった。
×:貼り付きが発生し、ガラスエポキシ基板に折れが発生した。