(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】表示システム
(51)【国際特許分類】
G01C 21/34 20060101AFI20221031BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20221031BHJP
G01C 21/26 20060101ALI20221031BHJP
B60K 35/00 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
G01C21/34
G08G1/16 C
G01C21/26 C
B60K35/00 A
(21)【出願番号】P 2018072326
(22)【出願日】2018-04-04
【審査請求日】2021-01-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000101732
【氏名又は名称】アルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【氏名又は名称】片寄 恭三
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【氏名又は名称】橘 和之
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】角谷 英俊
(72)【発明者】
【氏名】沖野 圭希
【審査官】久保田 創
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-284195(JP,A)
【文献】特開2015-115034(JP,A)
【文献】特開2005-127996(JP,A)
【文献】特開2017-144889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 21/34
G08G 1/16
G01C 21/26
B60K 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の前方に
進行方向の案内をするための仮想マーカー用の画像を投射する投射手段と、
前記自車両前方の障害物を検出する検出手段と、
前記検出された障害物と自車両との間の車間距離を計測する計測手段と、
前記車間距離に応じて前記仮想マーカー用の画像が前記障害物と前記自車両の間に表示されるように前記投射手段の投射を制御する制御手段とを有し、
前記制御手段は、前記車間距離が短くなると前記仮想マーカー用の画像の表示位置を手前にシフトさせ、前記車間距離が大きくなると前記仮想マーカー用の画像の表示位置を先方にシフトさせ、かつ前記車間距離が閾値以下になったときに前記仮想マーカー用の画像を他の画像に切り替える、表示システム。
【請求項2】
前記他の画像は、前記仮想マーカー
用の画像の上部が欠損した画像である、請求項1に記載の表示システム。
【請求項3】
前記閾値は複数存在し、前記制御手段は、前記車間距離が各々の閾値を下回るごとに上部から下部への欠損が段階的に大きくなるように他の画像に切り替える、請求項1または2に記載の表示システム。
【請求項4】
前記制御手段は、前記仮想マーカー用の画像の虚像が表示される位置が前記障害物の位置と重なるときに他の画像に切り替える、請求項2または3に記載の表示システム。
【請求項5】
前記制御手段は、前記車間距離が限界値より小さくなったとき、前記仮想マーカー用の画像の虚像を完全に非表示にする、請求項2ないし4いずれか1つに記載の表示システム。
【請求項6】
前記仮想マーカー用の画像は、車両の形状を模した仮想誘導車両であり、前記制御手段は、前記車間距離が小さくなるにつれて前記仮想誘導車両の上部から下部への欠損が徐々に大きくなるように画像へ段階的に切り替えていき、前記車間距離がある閾値以下に達したときに前記仮想誘導車両のリアタイヤ部分のみの画像に切り替える、請求項1ないし5いずれか1つに記載の表示システム。
【請求項7】
前記制御手段は、前記車間距離が大きくなるにつれて前記仮想誘導車両の欠損した部分が徐々に小さくなるように画像を段階的に切り替える、請求項6に記載の表示システム。
【請求項8】
前記表示システムはさらに、複数の仮想マーカー用の画像を記憶する記憶手段と、経路案内を行うナビゲーション手段を含み、
前記制御手段は、前記ナビゲーション手段に連動して、前記記憶手段から読み出される前記仮想マーカー
用の画像を切り替える、請求項1ないし7いずれか1つに記載の表示システム。
【請求項9】
前記制御手段は、走行方向変更の指示情報を含む前記仮想マーカー
用の画像を投射させる、請求項8に記載の表示システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドアップディスプレイを利用した表示システムに関し、特に、自車両を誘導または案内するための仮想マーカーを表示するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、運転者を支援するための情報の表示を行う技術として、ヘッドアップディスプレイ(以下、HUDと称す)が普及し始めてきている。一般的なHUDは、自動車の進路をガイドするマーカー画像を投射装置からフロントガラスまたは備え付けのスクリーン上に照射して、運転者が見ている自車両前方の実空間の風景上に虚像として表示する。これにより、運転者は視線方向に運転支援情報を視認できるため、車内に設置されたディスプレイなどの表示機器を見る場合と比べて、運転者の視線の移動を低減することができる。
【0003】
HUDに関する技術として、自車両の仮想車両の画像を表示し、経路案内を行う際に、仮想車両の画像により進むべき進路を運転者に視覚的に予告するものがある(特許文献1)。また、表示される仮想マーカーの位置に障害物が検知された場合に、その障害物と重ならない位置に仮想マーカーを移動する技術についても開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-182891号公報
【文献】特開2016-118423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
HUDにより仮想マーカーを表示するときの従来の課題について説明する。仮想車両をフロントガラスに表示した場合、例えば、
図11(A)に示すように、車両の形状をした仮想マーカーDが投射により実景に重畳して表示される。この仮想マーカーDは、ナビゲーション機能に連動して、進行方向や車線方向の指示を自車両に先導して表示するために用いられる。しかし、自車両前方に別の車両などの障害物が存在しており、その障害物と接近することで、運転者には仮想マーカーDが障害物に重なって見えてしまい、運転者は仮想マーカーDを認識しにくくなってしまうという問題が生じる。この場合に、仮想マーカーDが矢印などのようなものであれば、障害物を回避した位置に虚像の表示位置を移動することで解決できるが、仮想車両のような、先導することにより運転者に指示を行うものに適応してしまうと、
図11(B)のように、仮想車両が側方に移動させられてしまい、運転者が先導方向を誤認識し、運転者へ的確に案内情報を表示することができなくなってしまう。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するために成されたものであり、仮想マーカーを的確に運転者に表示できる表示システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る表示システムは、自車両の前方に進行方向等の案内をするための仮想マーカー用の画像を投射する投射手段と、前記自車両前方の障害物を検出する検出手段と、前記検出された障害物と自車両との間の車間距離を計測する計測手段と、前記車間距離に応じて前記仮想マーカー用の画像が前記障害物と前記自車両の間に表示されるように前記投射手段の投射を制御する制御手段とを有し、前記制御手段は、前記車間距離が閾値以下になったときに前記仮想マーカー用の画像を他の画像に切り替える。
【0008】
ある実施態様では、前記他の画像は、前記仮想マーカーの画像の上部が欠損した画像である。ある実施態様では、前記閾値は複数存在し、前記制御手段は、前記車間距離が各々の閾値を下回るごとに上部から下部への欠損が段階的に大きくなるように他の画像に切り替える。ある実施態様では、前記制御手段は、前記仮想マーカー用の画像の虚像が表示される位置が前記障害物の位置と重なるときに他の画像に切り替える。ある実施態様では、前記制御手段は、前記車間距離が限界値より小さくなったとき、前記仮想マーカー用の画像の虚像を完全に非表示にする。ある実施態様では、前記仮想マーカー用の画像は、車両の形状を模した仮想誘導車両であり、前記制御手段は、前記車間距離が小さくなるにつれて前記仮想誘導車両の上部から下部への欠損が徐々に大きくなるように画像へ段階的に切り替えていき、前記車間距離がある閾値以下に達したときに前記仮想誘導車両のリアタイヤ部分のみの画像に切り替える。ある実施態様では、前記制御手段は、前記車間距離が大きくなるにつれて前記仮想誘導車両の欠損した部分が徐々に小さくなるように画像を段階的に切り替える。ある実施態様では、前記表示システムはさらに、複数の仮想マーカー用の画像を記憶する記憶手段と、経路案内を行うナビゲーション手段を含み、前記制御手段は、前記ナビゲーション手段に連動して、前記記憶手段から読み出される前記仮想マーカーの画像を切り替える。ある実施態様では、前記制御手段は、走行方向変更の指示情報を含む前記仮想マーカーの画像を投射させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、車間距離に応じて仮想マーカー用の画像の投射を制御するようにしたので、仮想マーカー用の画像の良好な視認性を確保することができる。また、仮想マーカー用の画像の投射位置が前方車両等の障害物と重なる場合に、重なる部分を欠損させるようにしたので、仮想マーカー用の画像の視認性がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る表示システム構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施例に係るHUDの構成の模式図である。
【
図3】本発明の実施例に係るHUDの構成の一例を示す図である。
【
図4】本発明の実施例に係る画像投射プログラムの機能的な構成を示す図である。
【
図5】本発明の実施例に係るHUDによる仮想マーカーの表示例を示す図である。
【
図6】車間距離による仮想マーカーの虚像の表示領域を説明する図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る表示システムの動作を説明するフローチャートである。
【
図8】車間距離と仮想マーカーの表示位置を模式的に示した側面図である。
【
図9A】それぞれの車間距離における表示例を示す図である。
【
図9B】それぞれの車間距離における表示例を示す図である。
【
図9C】それぞれの車間距離における表示例を示す図である。
【
図10】本発明の他の実施例による仮想マーカーの表示例である。
【
図11】従来技術の仮想マーカーを表示するときの課題を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る表示システムは、HUDに代表される画像投射装置を含み、HUDにより車両のフロントガラスまたはそのスクリーン上に種々の画像を投射または照射する機能を有する。運転者は、その視線方向においてHUDによりフロントガラス上に投射された画像の虚像を視認することができる。
【実施例】
【0012】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施例に係る表示システム10のシステム全体構成例を示すブロック図である。
図2は、HUDの構成を模式的に示した図である。表示システム10は、撮像部100、レーダー部110、記憶部120、ナビゲーション装置130、画像処理部140、HUD150、制御部160を含んで構成される。
【0013】
撮像部100は、少なくとも自車両の前方を撮像するものである。
図2の監視カメラ101のように、車両内部の前方付近に搭載される。実施態様によっては、車両外部に取り付けられるものであってもよい。撮像部100で撮像された画像データを制御部160へ出力する。撮像部100により取得した画像データは、前方車両等の障害物の検出および障害物のサイズの検出を行うことに用いられる。また、撮像部100はステレオカメラであってもよく、この場合、前方車両等の障害物までの距離を計測することができる。
【0014】
さらに撮像部100は、車内に搭載され、車内空間を撮像する撮像カメラを含むことができる。本実施例では、運転者の顔を撮影して視線方向または顔の向きを検出することに用いられる。よって、取り付け位置としては、
図2の内部カメラ102のようなステアリング近傍、または、インスツルメンツパネル内に設けられる。
【0015】
レーダー部110は、少なくとも車両の前方を監視し、前方の障害物の位置および車間距離や相対速度を検出する。レーダー部110は、赤外線レーザーやミリ波レーダー等である。なお、撮像部100としてステレオカメラを搭載している場合は、レーダー部110は搭載していなくてもよい。
【0016】
記憶部120は、表示システム10に必要な各種情報を記憶する。ある実施態様では、記憶部120は、地図データ122、画像データ124を含む。また、表示システム10が実行するためのプログラムを格納することができる。地図データ122は、リンクデータおよびノードデータ等を格納する。リンクデータは、ノードとノード間を結ぶ道路情報であり、一般道路や高速道路種別、リンクの始点および終点の座標、リンクの方位などを含む。ノードデータは、交差点や分岐点などの位置座標や交差点の属性などを表す情報である。
【0017】
記憶部120はさらに、HUD150により投射される仮想マーカー用の画像データ124を格納している。実施形態によっては、前方車両との車間距離に応じて仮想マーカーの表示形態を変更するための、仮想マーカーの表示位置やサイズが異なるような種々の仮想マーカー用の画像データを格納していてもよい。さらに、仮想マーカー用の画像データは、2次元座標で定義される画像データの他、3次元座標で定義される画像データであることができる。この仮想マーカー用の画像データは、少なくとも車両の後部を表す2次元的な画像や、車両の後部から前部までの車両全体を表す3次元的な画像を含む。
【0018】
ナビゲーション装置130は、ユーザから目的地の設定が行われたとき、GPS信号を利用した測位や自律航法センサを利用した測位に基づき自車位置を検出し、自車位置から目的地までの経路を地図データ122等を参照して探索し、探索した経路に基づき経路案内を行う機能を有する。本実施形態では、ナビゲーション装置130により探索した経路の経路案内をHUD150による投射を行って運転者に提示をする。また、ナビゲーション装置130による表示はHUD150とは別に、液晶などのディスプレイ装置を設けてそこからも表示できるようにしてもよい。
【0019】
画像処理部140は、記憶部120から画像データ124を読出し、HUD150へ提供する。さらに画像処理部140は、ユーザ入力、あるいは制御部160からの指示により、投射される画像データを加工することも可能である。ある実施態様では、ナビゲーション装置130から取得した進行方向の変更などの経路案内情報から、画像処理部140により仮想マーカーにウィンカー等の方向指示に関する情報を付加した画像を生成し、HUD150から投射することも可能である。
【0020】
次に、HUD150は、
図2のようなフロントガラス25またはスクリーンに画像を投射し、運転者の視線方向に投射画像を表示させる。フロントガラス25またはスクリーンに投射することで、運転者には自車両前方の実空間の風景に重畳したように投射画像を視認できる。
図3は、HUD150の構成の一例を示す図である。HUD150は、光源151、光学系152、光変調手段153、投射光学系154、アクチュエータ155を含む。光源151は、ハロゲンランプ、発光ダイオードアレイ、あるいはレーザーダイオードアレイなどから構成される。光学系152は、光源151からの光を集束し、所定のアスペクト比の光を光変調手段153へ提供する。
【0021】
光変調手段153は、例えば、液晶デバイス、あるいは複数の可変ミラーが2次元的に配置されたディジタルミラーデバイスなどから構成される。また、光変調手段153は、制御部160から提供される画像データに基づき、光学系152から入射された光を空間的に変調する。投射光学系154は、光変調手段153によって変調された光をフロントガラス25またはそのスクリーン上に投射する。投射光学系154は、例えば、レンズや凹面鏡等の光学部材を用いる。アクチュエータ155は、例えば、投射光学系154のレンズの位置やミラーの角度等を調整することで光学的距離を調整する。ある実施態様では、アクチュエータ155は、制御部160からの制御信号に基づき投射光学系154の焦点距離や光軸を可変する。これにより、運転者が見る投射画像の虚像の位置や大きさを可変することができる。なお、表示システム10は、複数のHUD150を搭載し、それぞれのHUD150の投射画像を表示させるものであってもよい。
【0022】
制御部160は、ROM/RAM等を備えたマイクロコントローラまたはマイクロプロセッサを含み、ROM、RAMに記憶された制御プログラムに基づいて所定の処理を実行して、表示システム10の各部の動作を制御する。本実施例に係る制御プログラムには、画像投影プログラム200が含まれる。
【0023】
図4は、本発明の実施形態に係る画像投影プログラム200の機能的な構成を示す図である。画像投影プログラム200は、障害物検出部210、車間距離測定部220、表示位置決定部230、表示サイズ決定部240、投射制御部250、閾値判定部260、投射画像切替部270を備えている。
【0024】
障害物検出部210は、撮像部100により撮像された画像データやレーダー部110の検出結果に基づき自車両の前方に存在する、例えば、前方車両などの障害物を検出する。ある実施態様では、撮像された画像データに基づき障害物のサイズを判別し、車両であった場合は車種(例えば、トラック、乗用車)を判別する。
【0025】
車間距離測定部220は、障害物検出部210により障害物が検出されたことに応答して、障害物と自車両との間の車間距離を計測する。本実施形態に係る障害物を前方車両として以下の説明を行う。例えば、
図5に示すように、前方車両Xが検出されたとき、自車両から前方車両Xまでの直線的な車間距離Lを計測する。車間距離Lは、レーダー部110により算出することができる。ある実施態様では、撮像部100にステレオカメラを使用している場合は、撮像部100から車間距離を計測する。
【0026】
表示位置決定部230は、車間距離測定部220により計測された車間距離に基づき仮想マーカーの表示位置を決定する。仮想マーカーの表示位置とは、運転者がその視線方向においてフロントガラス上に投射された仮想マーカーの虚像を実空間で見ることのできる投射位置のことであり、
図2および
図5に示すような、仮想マーカーの虚像Dが生成される位置(生成距離P)のことでもある。表示位置決定部230は、前方車両との接近により車間距離が短くなると、前方車両と仮想マーカーが重複しないように仮想マーカーの表示位置を手前にシフトさせ、反対に車間距離が大きくなるに従い仮想マーカーの表示位置を先方にシフトさせるように、仮想マーカーの表示位置を決定する。
【0027】
また、仮想マーカーの表示位置を可変する方法は任意であるが、1つの実施態様では、車間距離に応じた仮想マーカー用の画像データを複数用意し、その中から車間距離に応じた画像データを選択する。それぞれの画像データは、各フレーム内の決められた座標位置に仮想マーカーの画像を描写しており、例えば、車間距離が短い画像データであれば、フレームの手前側の座標位置に仮想マーカーの画像が描写され、車間距離が長いときの画像データであれば、フレームの奥側の座標位置に仮想マーカーの画像が描写される。また、別の実施態様では、制御部160は、車間距離に基づきアクチュエータ155を介して投射光学系154の投射角度や焦点距離などを制御し、これにより、仮想マーカーの表示位置を変化させるようにしてもよい。
【0028】
表示サイズ決定部240は、車間距離に応じて仮想マーカーのサイズを決定する。表示サイズ決定部240は、車間距離が短くなることに伴い、運転者からは前方車両が接近して大きく見えるため、それに合わせて仮想マーカーのサイズを大きくしたり、反対に、車間距離が長くなるに伴い、運転者からは前方車両が離れて小さく見えるため、それに合わせて仮想マーカーのサイズを小さくする。好ましくは、車間距離が短くなるにつれ仮想マーカーのサイズを段階的に大きくし、車間距離が長くなるにつれて仮想マーカーのサイズを段階的に小さくするように、表示サイズを制御する。
【0029】
表示サイズを可変する方法は任意であるが、1つの実施態様では、上記したように車間距離に応じた仮想マーカー用の画像データを複数用意し、フレーム内に描写される仮想マーカーの画像サイズを車間距離に応じて異ならせる。別の実施態様では、制御部160は、車間距離に基づきアクチュエータ155を介して投射光学系154の投射角度や焦点距離などを制御し、これにより、仮想マーカーの表示サイズを変化させるようにしてもよい。また、好ましくは、表示サイズ決定部240は、障害物検出部210により前方車両のサイズを計測し、それに応じて仮想マーカーの表示サイズを決定する。これにより、前方車両と仮想マーカーとのサイズの不一致による違和感を無くすことができる。また、前方車両の種別(バス、トラック、普通車、軽自動車、二輪車など)に応じて表示サイズを異ならせてもよい。
【0030】
投射制御部250は、表示位置決定部230により決定された表示位置、および表示サイズ決定部240により決定された表示サイズに従い、仮想マーカーが投射されるようにHUD130を制御する。つまり、投射制御部250は、光変調手段153へ提供する仮想マーカー用の画像データを制御したり、アクチュエータ155を介して投射光学系154の投射を制御する。以上の調整を行うことで、投射光学系154によりフロントガラス25上に仮想マーカーの画像が投射され、運転者は、仮想マーカーが前方車両に重複することなく視認することができる。
【0031】
閾値判定部260は、車間距離測定部220により計測された車間距離が予め設定されている閾値を下回るかの判定を行う。この閾値は複数存在し、必要に応じて設定の変更は可能である。閾値判定部260は、車間距離がそれぞれの閾値を下回るか否かを随時検出し、閾値を下回った際はその結果を投射画像切替部270へ出力する。
【0032】
ここで、車間距離による仮想マーカーを表示できる範囲について
図6を用いて説明する。
図6において、運転者が前方車両Xを視認している領域をA、自車両Mのボンネットなどにより仮想マーカーの虚像を表示しても運転者からの死角になる領域をC、前方車両Xと重複せず、かつ、ボンネットによる死角が生じない領域をBとする。この領域Bにおいて、仮想マーカーの表示位置を可変させる。但し、この領域Bは、前方車両Xの位置に応じて変化する。例えば、前方車両Xが接近することで車間距離Xが短くなり、それに従って領域Bが狭まっていく。L
tmaxの位置まで接近したときに領域Bは消滅する。つまり、前方車両の車両間において仮想マーカーを表示できるスペースが無くなる。このような、領域Bが消滅する車間距離の閾値をL
tmaxとする。
【0033】
投射画像切替部270は、閾値判定部260により設定された閾値を下回る毎に仮想マーカーの画像を切り替える。本実施形態では、記憶部120に記憶された画像データ124から下回った閾値毎の画像を選択して切り替える。なお、この投射画像切替部270の機能は投射制御部250が有していてもよい。
【0034】
次に、本発明の実施形態に係る表示システムの動作を
図7のフローチャートを用いて説明する。また、必要に応じて、車間距離と仮想マーカーの表示位置を模式的に示した側面図である
図8、および、それぞれの車間距離における表示例を示す
図9を用いて説明する。
【0035】
まず、HUD150により仮想マーカー用の画像を運転者の視線方向に投射し、仮想マーカーを虚像により表示する(S101)。本実施態様における仮想マーカーは車両の形状をしたものを用いる。この仮想マーカーの挙動をナビゲーション装置130と連動させて、目的地までの誘導を行う。次に、障害物検出部210より、前方に他の車両が存在するかの検出を行う(S103)。前方車両Xが検出された場合には、車間距離測定部220より、検出された前方車両Xとの車間距離を測定する(S105)。
【0036】
この車間距離に応じて、表示位置決定部230および表示サイズ決定部240により仮想マーカーの表示位置と表示サイズを決定し、投射制御部250により調整を行い、投射する(S107)。具体的には、
図8(A)のような車間距離がL1のように大きい場合には、そのL1における最適な位置(生成距離P1)に虚像D1が表示されるように投射制御部250により調整を行い、
図9(A)のように虚像D1を投射する。次に、
図8(B)のような車間距離がL1より短くなり、仮想マーカー全体を表示できる限界の車間距離であるL2まで接近した場合、L1と同様に、最適な位置(生成距離P2)に虚像D2が表示されるように投射制御部250により調整を行い、
図9(B)のように虚像D2を投射する。また、このL2のような、仮想マーカー全体を表示できる限界の車間距離を閾値L
t1とする。つまり、L
t1以上の車間距離であれば、投射制御部250で調整することにより、仮想マーカー全体での表示を行うことができる。
【0037】
次に、閾値判定部260により、車間距離が第1の閾値であるL
t1を下回ったかを判定する(S109)。
図8(C)のように、車間距離がL
t1より小さいL3のときに生成距離P2において虚像を生成した場合、仮想マーカーが前方車両Xと重複して見える部分Q1が発生する。この場合には、
図9(C)のような、予め仮想マーカーの上部の一部分が欠損した画像を用意しておき、投射画像切替部270により切り替えて投射して虚像D3を表示する(S111)。なお、この仮想マーカーの上部の一部分が欠損した画像を表示できる限界の車間距離を閾値L
t2とする。
【0038】
次に、閾値判定部260により第2の閾値であるL
t2を下回ったかを判定する(S113)。
図8(D)のように、車間距離がL
t2より小さいL4のときに生成距離P2において虚像を生成した場合、仮想マーカーが前方車両Xと重複して見える部分Q2(Q2>Q1)が発生する。この場合には、
図9(D)のような、さらに仮想マーカーの上部を欠損させてリアタイヤのみの画像に投射画像切替部270により切り替えて投射して虚像D4を表示する。(S115)。なお、リアタイヤのみの画像は、本実施例における前方車両Xの接近により段階的に画像を切り替えていく中で表示できる最後の画像である。
【0039】
次に、閾値判定部260により第3の閾値(表示可能な最後の閾値)であるL
tmaxを下回ったかを判定する(S117)。
図8(E)のように、車間距離がL
tmaxより小さいL5のときに生成距離P2において虚像を生成した場合、仮想マーカーが全て前方車両Xと重複して見えることになる。この場合には、
図9(E)のように仮想マーカーの表示を行わない(S119)。なお、第1の閾値、第2の閾値、第3の閾値のそれぞれの判定の際に閾値を下回らなかった場合は、車間距離が変化したか否かを車間距離測定部220により測定する(S121)。車間距離に変化があった場合にはS107へ移行する。このときに、車間距離が離れるに連れて、先程とは逆に表示画像を切り替える。例えば、リアタイヤのみの画像から上部が欠損した画像、そして全体の表示、のように投射制御部250および投射画像切替部270により段階的に表示を切り替えていく。次に、前方車両Xが無くなったかを障害物検出部210により検出する(S123)。前方車両Xが無くなった場合に処理を終了する。
【0040】
以上のように、前方車両が自車両へ接近することに伴って仮想マーカーの表示を手前側へシフトしていき、接近により仮想マーカーの全体表示ができなくなった際に、元の仮想マーカーの上側から欠損している範囲が徐々に大きくなる画像に段階的に切り替えて行くことで、仮想マーカーを前方車両に重ならせず、かつ、タイヤの部分やウィンカーの部分などの先導するための特徴となる部分をできる限り長い時間表示できるようになる。
【0041】
なお、閾値および閾値ごとに切り替える仮想マーカー用の画像の数は実施形態によって適宜変更可能である。また、それぞれの切り替わった仮想マーカーが表示できる区間の設定(閾値間の設定)についても変更可能である。また、それぞれ切り替わった仮想マーカーについても、表示位置決定部230および表示サイズ決定部240により最適な表示形態を決定して、投射制御部250より調整して投射することで違和感の無い表示ができる。
【0042】
次に、本実施例の他の実施例について説明する。車両の形状の仮想マーカーを表示した際に、例えば、仮想マーカー上のウィンカーの部分を加工して、点滅などを表現するなどをすることで、よりわかりやすい経路案内を行うことができる。しかし、本発明では仮想マーカーの上部から徐々に欠損させた画像に切り替えて行くため、ウィンカーなどのような情報提示を行っている部分が欠損した画像に切り替わった場合に、その情報を提供できなくなってしまう。
【0043】
そこで、例えば、
図10(A)のようにウィンカー30を点灯させて案内を行い、前方車両Xの接近によりリアタイヤのみの表示に切り替わった際に、ウィンカー補助33を設けるなどして補助表示できるようにする。なお、ウィンカー補助33の表示位置、および表示形態は実施態様により適宜変更可能である。また、ウィンカー以外でも、画像の切り替わりにより表示できなくなる付加情報については、画像の切り替わりを検知したことに伴って虚像上に別の形態で表示するようにする。これにより、仮想マーカーの欠損画像に切り替えても継続して付加情報を提示することができるようになる。
【0044】
また、本実施例では、運転者の顔の向きや視線方向に応じた位置に3次元画像の仮想マーカーを表示させるようなものであっても適応することができる。上記実施例では、仮想マーカーが車両の形状を有するものとして例示したが、これは一例であり、仮想マーカーは車両形状以外の形状であってもよい。
【0045】
本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨の範囲において、種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0046】
10 表示システム
25 フロントガラス
101 フロントカメラ
102 内部カメラ
X 前方車両
M 自車両
D 虚像
L 車間距離
P 生成距離