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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20221031BHJP
   G01N 24/08 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
A61B5/055 351
A61B5/055 380
G01N24/08 520Y
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017220682
(22)【出願日】2017-11-16
(65)【公開番号】P2019088604
(43)【公開日】2019-06-13
【審査請求日】2020-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【氏名又は名称】鵜飼 健
(72)【発明者】
【氏名】森 昂也
(72)【発明者】
【氏名】石 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】葛西 由守
(72)【発明者】
【氏名】田中 翔
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0282438(US,A1)
【文献】特開2011-131045(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0115455(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0070013(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0278255(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01N 24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓に関する第1スライスに送信された複数の第1RFパルスに対応する複数の第1MR信号に基づいて、RFコイルに供給されるパワーのレベルを示すRFレベルを決定するRFレベル決定部と、
前記心臓に関する第2スライスへの前記RFレベルを有する第2RFパルスの送信に伴って受信された第2MR信号に基づいて、前記第2RFパルスに関する磁場の強度分布を示すB1マップを生成する生成部と、
前記第2スライスと交わる前記心臓に対して設定された第3スライスに関する前記RFレベルの調整値を、前記B1マップにおける前記心臓のうちの前記第3スライスの位置に対応する心筋領域に含まれる複数の画素値に基づいて決定する調整値決定部と、
前記調整値を用いて前記RFレベルを調整する調整部と、
前記調整されたRFレベルを有する第3RFパルスを用いて、前記第3スライスを撮像する撮像部と
を具備する磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記調整値決定部は、前記複数の画素値の平均値に基づいて前記調整値を決定する、請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
記第2スライスは、前記心臓の心軸を含む、請求項1または請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記生成部は、前記心臓の心周期における収縮期および拡張期のうちの少なくとも一方の時相に対応する前記B1マップを生成する、請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記生成部は、被検体の呼吸に伴う呼吸相および吸気相のうちの少なくとも一方の時相に対応する前記B1マップを生成する、請求項1または請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記撮像部が実行する撮像の手順を示す撮像プランから、前記第3スライスを撮像するタイミングに関する前記時相の情報を取得する時相情報取得部
を更に具備し、
前記生成部は、前記取得された時相に対応する前記B1マップを生成する、請求項4または請求項5に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記第2MR信号は、前記心臓に含まれる血管からのMR信号を抑制させる方法を用いて収集される、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気共鳴イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング(Magnetic Resonance Imaging:MRI)装置は、本撮像を行う前に、RF(Radio Frequency)信号の送信強度(以降、RFレベルと呼ぶ)を決定する必要がある。MRI装置は、RFレベルを決定する際、胸部や腹部などの大まかな部位を撮像領域として、RF信号の送信強度とMR信号の受信強度との関係からRFレベルを推定する。例えば、心臓を撮像する場合、MRI装置は、心臓を含む胸部を基準としてRFLを推定する。
【0003】
しかしながら、RFレベルは、対象臓器に対して好適なレベルに設定されていないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2012/0161766号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、対象臓器に対する撮像に好適なRFレベルを設定することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置は、RFレベル決定部と、生成部と、調整値決定部と、調整部と、撮像部とを備える。RFレベル決定部は、対象臓器に関する第1スライスに送信された複数の第1RFパルスに対応する複数の第1MR信号に基づいて、RFコイルに供給されるパワーのレベルを示すRFレベルを決定する。生成部は、対象臓器に関する第2スライスへのRFレベルを有する第2RFパルスの送信に伴って受信された第2MR信号に基づいて、第2RFパルスに関する磁場の強度分布を示すBマップを生成する。調整値決定部は、Bマップにおける対象臓器のうちの組織領域に含まれる複数の画素値に基づいて、対象臓器に対して設定された第3スライスに関するRFレベルの調整値を決定する。調整部は、調整値を用いてRFレベルを調整する。撮像部は、調整されたRFレベルを有する第3RFパルスを用いて、第3スライスを撮像する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、一実施形態に係るMRI装置の構成を示すブロック図。
図2図2は、同実施形態における動作を示すフローチャート。
図3図3は、同実施形態における心臓を含む胸部のスライス位置を示す図。
図4図4は、同実施形態におけるRF信号の送信強度とMR信号の受信強度との関係を示す図。
図5図5は、同実施形態における心臓の心軸を含む断面の位置を示す図。
図6図6は、同実施形態における心臓の心軸を含む断面の画像を示す図。
図7図7は、同実施形態における心臓の心軸の断面におけるBマップを示す図。
図8図8は、実施形態におけるBマップの画素値とRFレベルの調整値とを対応付けたテーブル。
図9図9は、同実施形態における左室の短軸方向の断面の位置を示す図。
図10図10は、同実施形態における左室の短軸方向の断面の画像を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、磁気共鳴イメージング装置の実施形態について詳細に説明する。
【0009】
(一実施形態)
図1において、一実施形態に係るMRI装置100が例示される。MRI装置100は、静磁場磁石101と、傾斜磁場コイル103と、傾斜磁場電源105と、寝台107と、寝台制御回路109と、送信回路113と、送信コイル115と、受信コイル117と、受信回路119と、撮像制御回路(撮像部)121と、バス123と、インタフェース125と、ディスプレイ127と、記憶装置(記憶部)129と、処理回路131とを備える。尚、MRI装置100は、静磁場磁石101と傾斜磁場コイル103との間に、中空の円筒形状のシムコイルを有していてもよい。
【0010】
静磁場磁石101は、例えば中空の略円筒形状に形成された磁石である。静磁場磁石101は、内部の空間に一様な静磁場を発生する。静磁場磁石101としては、例えば、超伝導磁石などが使用される。
【0011】
傾斜磁場コイル103は、中空の円筒形状に形成されたコイルである。傾斜磁場コイル103は、静磁場磁石101の内側に配置される。傾斜磁場コイル103は、互いに直交するX、Y、Zの各軸に対応する3つのコイルが組み合わされて形成される。Z軸方向は、静磁場の方向と同方向であるとする。また、Y軸方向は、鉛直方向とし、X軸方向は、Z軸およびY軸に垂直な方向とする。傾斜磁場コイル103における3つのコイルは、傾斜磁場電源105から個別に電流供給を受けて、X、Y、Zの各軸に沿って磁場強度が変化する傾斜磁場を発生させる。
【0012】
傾斜磁場コイル103によって発生するX、Y、Z各軸の傾斜磁場は、例えば、周波数エンコード用傾斜磁場(リードアウト傾斜磁場ともいう)、位相エンコード用傾斜磁場およびスライス選択用傾斜磁場を形成する。周波数エンコード用傾斜磁場は、空間的位置に応じてMR信号の周波数を変化させるために利用される。位相エンコード用傾斜磁場は、空間的位置に応じて磁気共鳴(Magnetic Resonance:以下、MRと呼ぶ)信号の位相を変化させるために利用される。スライス選択用傾斜磁場は、撮像断面を決めるために利用される。
【0013】
傾斜磁場電源105は、撮像制御回路121の制御により、傾斜磁場コイル103に電流を供給する電源装置である。
【0014】
寝台107は、被検体Pが載置される天板107aを備えた装置である。寝台107は、寝台制御回路109による制御のもと、被検体Pが載置された天板107aを、ボア111内へ挿入する。寝台107は、例えば、長手方向が静磁場磁石101の中心軸と平行になるように、本MRI装置100が設置された検査室内に設置される。
【0015】
寝台制御回路109は、寝台107を制御する回路であり、インタフェース125を介した操作者の指示により寝台107を駆動することで、天板107aを長手方向および上下方向へ移動させる。
【0016】
送信回路113は、撮像制御回路121の制御により、ラーモア周波数などに対応する高周波パルス(RF(Radio Frequency)パルス)を送信コイル115に供給する。
【0017】
送信コイル115は、傾斜磁場コイル103の内側に配置されたRFコイルである。送信コイル115は、送信回路113からRF信号の供給を受けて、高周波磁場に相当する送信RF波(RFパルス)を発生する。送信コイルは、例えば、全身用コイル(whole body coil:WBコイル)である。WBコイルは、送受信コイルとして使用されてもよい。
【0018】
受信コイル117は、傾斜磁場コイル103の内側に配置されたRFコイルである。受信コイル117は、高周波磁場によって被検体Pから放射されるMR信号を受信する。受信コイル117は、受信されたMR信号を受信回路119へ出力する。受信コイル117は、例えば、1以上、典型的には複数のコイルエレメントを有するコイルアレイである。なお、図1において送信コイル115と受信コイル117とは別個のRFコイルとして記載されているが、送信コイル115と受信コイル117とは、一体化された送受信コイルとして実施されてもよい。送受信コイルは、被検体Pの撮像対象に対応し、例えば、頭部コイルのような局所的な送受信RFコイルである。
【0019】
受信回路119は、撮像制御回路121の制御により、受信コイル117から出力されたMR信号に基づいて、デジタル化された複素数データであるデジタルのMR信号を生成する。具体的には、受信回路119は、受信コイル117から出力されたMR信号に対して各種信号処理を施した後、各種信号処理が施されたデータに対してアナログ/デジタル(A/D(Analog to Digital))変換を実行する。受信回路119は、A/D変換されたデータを標本化(サンプリング)することにより、デジタルのMR信号(以下、MRデータと呼ぶ)を生成する。受信回路119は、生成されたMRデータを、撮像制御回路121に出力する。
【0020】
撮像制御回路121は、処理回路131から出力された撮像プロトコルに従って、傾斜磁場電源105、送信回路113および受信回路119などを制御し、被検体Pに対する撮像を行う。撮像プロトコルは、検査に応じた各種パルスシーケンスを有する。撮像プロトコルには、傾斜磁場電源105により傾斜磁場コイル103に供給される電流の大きさ、傾斜磁場電源105により電流が傾斜磁場コイル103に供給されるタイミング、送信回路113により送信コイル115に供給されるRF信号の大きさ、送信回路113により送信コイル115にRF信号が供給されるタイミング、受信コイル117によりMR信号が受信されるタイミングなどが定義されている。
【0021】
バス123は、インタフェース125と、ディスプレイ127と、記憶装置129と、処理回路131との間でデータを伝送させる伝送路である。バス123には、ネットワークなどを介して、各種生体信号計測器、外部記憶装置、各種モダリティなどが適宜接続されてもよい。例えば、生体信号計測器として、不図示の心電計がバスに接続される。
【0022】
インタフェース125は、操作者からの各種指示や情報入力を受け付ける回路を有する。インタフェース125は、例えば、マウスなどのポインティングデバイス、あるいはキーボードなどの入力デバイスに関する回路を有する。なお、インタフェース125が有する回路は、マウス、キーボードなどの物理的な操作部品に関する回路に限定されない。例えば、インタフェース125は、本MRI装置100とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、受け取った電気信号を種々の回路へ出力するような電気信号の処理回路を有していてもよい。
【0023】
ディスプレイ127は、処理回路131におけるシステム制御機能131aによる制御のもとで、画像生成機能により生成された各種MR画像、撮像および画像処理に関する各種情報などを表示する。ディスプレイ127は、例えば、CRTディスプレイや液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDディスプレイ、プラズマディスプレイ、または当技術分野で知られている他の任意のディスプレイ、モニタなどの表示デバイスである。
【0024】
記憶装置129は、画像生成機能を介してk空間に充填されたMRデータ、画像生成機能により生成された画像データなどを記憶する。記憶装置129は、各種撮像プロトコル、撮像プロトコルを規定する複数の撮像パラメータを含む撮像条件などを記憶する。記憶装置129は、処理回路131で実行される各種機能に対応するプログラムを記憶する。記憶装置129は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリなどの半導体メモリ素子、ハードディスクドライブ(hard disk drive)、ソリッドステートドライブ(solid state drive)、光ディスクなどである。また、記憶装置129は、CD-ROMドライブやDVDドライブ、フラッシュメモリなどの可搬性記憶媒体との間で種々の情報を読み書きする駆動装置などであってもよい。
【0025】
処理回路131は、ハードウェア資源として、図示していないプロセッサ、ROM(Read-Only Memory)やRAMなどのメモリなどを有し、本MRI装置100を統括的に制御する。処理回路131は、システム制御機能(システム制御部)131a、RFレベル決定機能(RFレベル決定部)131b、断面特定機能(断面特定部)131c、時相情報取得機能(時相情報取得部)131d、Bマップ生成機能(生成部)131e、調整値決定機能(調整値決定部)131f、および調整機能(調整部)131gを有する。RFレベル決定機能131b、断面特定機能131c、時相情報取得機能131d、Bマップ生成機能131e、調整値決定機能131f、および調整機能131gにて行われる各種機能は、コンピュータによって実行可能なプログラムの形態で記憶装置129へ記憶されている。処理回路131は、これら各種機能に対応するプログラムを記憶装置129から読み出し、実行することで各プログラムに対応する機能を実現するプロセッサである。換言すると、各プログラムを読み出した状態の処理回路131は、図1の処理回路131内に示された複数の機能などを有することになる。
【0026】
なお、図1においては単一の処理回路131にてこれら各種機能が実現されるものとして説明したが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路131を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより機能を実現するものとしても構わない。換言すると、上述のそれぞれの機能がプログラムとして構成され、1つの処理回路が各プログラムを実行する場合であってもよいし、特定の機能が専用の独立したプログラム実行回路に実装される場合であってもよい。 上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、およびフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))などの回路を意味する。
【0027】
プロセッサは、記憶装置129に保存されたプログラムを読み出し実行することで各種機能を実現する。なお、記憶装置129にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、寝台制御回路109、送信回路113、受信回路119、撮像制御回路121なども同様に、上記プロセッサなどの電子回路により構成される。
【0028】
システム制御機能131aは、MRI装置100を制御する機能である。具体的には、システム制御機能131aは、記憶装置129に記憶されているシステム制御プログラムを読み出してメモリ上に展開し、展開されたシステム制御プログラムに従って本MRI装置100の各回路を制御する。例えば、システム制御機能131aは、インタフェース125を介して操作者から入力される撮像条件に基づいて、撮像プロトコルを記憶装置129から読み出す。システム制御機能131aは、撮像プロトコルを撮像制御回路121に送信し、被検体Pに対する撮像を制御する。尚、システム制御機能131aは、調整機能131gによって調整されたRFレベルに基づいて、撮像プロトコルを生成してもよい。
【0029】
RFレベル決定機能131bは、RFレベルの初期値(初期RFレベル)を決定する機能である。RFレベルとは、例えば、被検体Pにおける原子のスピンを略90°倒すための電力を示すレベルである。即ち、RFレベルは、RFパルスのパワーに対応し、RFパルスの振幅に相当する。換言すると、RFレベル決定機能131bは、RFコイルを介して被検体Pに対して送受信された高周波磁場に基づいて、RFパルスの振幅を決定する。また、初期RFレベルとは、例えば、対象臓器を含んだ胸部領域や腹部領域の全体、即ち対象臓器を含むFOV(Field Of View)に最適化されたRFレベルである。
【0030】
具体的には、RFレベル決定機能131bは、対象臓器に関する第1スライスに送信された複数の第1RFパルスに対応する複数の第1MR信号に基づいて、RFコイルに供給されるパワーのレベルを示すRFレベルを決定する。RFコイルに供給されるパワーは、MR信号の受信強度と相関関係がある。MR信号の受信強度は、例えば位相エンコードを行わずに取得されたMRデータ(プロジェクションデータ)の信号値である。RFレベル決定機能131bは、例えば、MR信号の受信強度の最大値に対応するRF信号の送信強度に関する送信パワーを初期RFレベルとして決定する。
【0031】
第1スライスは、例えば、対象臓器を含んだ胸部領域または腹部領域の全体を含むスライスである。複数の第1RFパルスは、例えば、RF信号の送信強度をそれぞれ変化させたRFパルスである。対象臓器が心臓の場合、RFレベル決定機能131bは、心臓を含む胸部領域のスライスを用いて初期RFレベルを決定する。初期RFレベルは、本撮像前に行われるプリスキャンにおいて決定される。
【0032】
断面特定機能131cは、対象臓器の断面を特定する機能である。具体的には、断面特定機能131cは、対象臓器の位置決め測定(ロケータ撮像)を実行することによって、第2スライスおよび第3スライスを特定する。尚、断面特定機能131cは、インタフェース125を介した操作者の操作によって断面を指定されてもよい。
【0033】
第2スライスは、例えば、対象臓器における代表断面に関するスライスである。代表断面は、例えば、対象臓器の長軸を含む断面である。対象臓器が心臓の場合、第2スライスは、心臓の心軸を含む断面に関するスライスである。
【0034】
第3スライスは、例えば、対象臓器における代表断面に交わる断面に関するスライスである。対象臓器が心臓の場合、第3スライスは、心臓の心軸に交わる断面に関するスライスである。
【0035】
時相情報取得機能131dは、撮像プランなどから時相の情報を取得する機能である。具体的には、時相情報取得機能131dは、撮像制御回路121が実行する撮像の手順を示す撮像プランから、対象臓器に関する第3スライスを撮像するタイミングに関する時相の情報を取得する。
【0036】
時相の情報は、例えば、心臓の心周期における収縮期および拡張期のうちの少なくとも一方の時相に関する情報である。また、時相の情報は、例えば、被検体Pの呼吸に伴う呼吸相および吸気相のうちの少なくとも一方の時相に関する情報でもよい。撮像プランは、例えば、心臓を撮像する場合に、「収縮期の撮像」「拡張期の撮像」および「心臓のシネ撮像」などの情報が含まれる。
【0037】
マップ生成機能131eは、MR信号の受信強度の分布であるBマップを生成する機能である。具体的には、Bマップ生成機能131eは、対象臓器に関する第2スライスへの、初期RFレベルを有する第2RFパルスの送信に伴って受信された第2MR信号に基づいて、第2RFパルスに関する磁場の強度分布を示すBマップを生成する。
【0038】
心拍によって対象臓器における血液量が変化する、或いは呼吸によって対象臓器の形状が変化する場合、Bマップ生成機能131eは、心拍や呼吸に合わせてBマップを生成することが望ましい。このとき、Bマップ生成機能131eは、時相情報取得機能131dによって取得された時相を用いてBマップを生成する。
【0039】
具体的には、Bマップ生成機能131eは、対象臓器が心臓の場合、心臓の心周期における収縮期および拡張期のうちの少なくとも一方の時相に対応するBマップを生成する。収縮期は、心臓内の血液が押し出されることによって、Bマップ上における血液からの信号が低下する。そのため、収縮期は、拡張期に比べて、心筋からの信号が大きく、血液からの信号が小さくなる。また、Bマップ生成機能131eは、対象臓器が腹部に位置する肝臓などの場合、被検体Pの呼吸に伴う呼吸相および吸気相のうちの少なくとも一方の時相に対応するBマップを生成する。
【0040】
各時相のタイミングに合わせてBマップを生成する場合、磁気共鳴イメージング装置100は、心電波形を用いて撮像を行う。心電波形から収縮期および拡張期を判別する場合、磁気共鳴イメージング装置100は、例えば、心電波形のR波およびT波用いて収縮期および拡張期を判別する。具体的には、磁気共鳴イメージング装置100は、ある心周期におけるR波の時刻からT波の時刻までの期間を収縮期と判別し、当該T波の時刻から次の心周期におけるR波の時刻までの期間を拡張期と判別する。
【0041】
また、磁気共鳴イメージング装置100は、心電波形を解析する所与のソフトウェアを用いて収縮期および拡張期を判別してもよい。具体的には、磁気共鳴イメージング装置100は、同期信号(例えばR波)からの遅延時間を変化させながら心時相の異なる複数の画像を収集し、収集した複数の画像に基づいて解析された信号値(例えば輝度値)によって収縮期および拡張期を判別する。このとき、遅延時間は、操作者によって手動で設定されてもよいし、所与のソフトウェアによって自動で設定されてもよい。
【0042】
なお、Bマップ生成機能131eにおいて、第2MR信号は、対象臓器に含まれる血管からのMR信号を抑制させる方法(例えば、ブラックブラッド(Black Blood:BB)法など)を用いて収集されるのが望ましい。BB法を用いることによって、高信号の血液を抑制することができるため、操作者などは、Bマップにおける対象臓器の組織を観察し易くなる。また、Bマップを生成する際の撮像方法は、例えば、部分フーリエ単ショットFSE(Fast Spin Echo)などの高速撮像を用いて、BB法およびダブルアングル(Double Angle)法を組合せて取得する方法がある。
【0043】
調整値決定機能131fは、対象臓器の撮像に最適化したRFレベルを得るために、初期RFレベルを増減させる値(調整値)を決定する機能である。調整値は、例えば、デシベル(dB)値である。
【0044】
具体的には、調整値決定機能131fは、Bマップ生成機能131eによって生成されたBマップにおける対象臓器のうちの組織領域に含まれる複数の画素値に基づいて、対象臓器に対して設定された第3スライスに関するRFレベルの調整値を決定する。例えば、調整値決定機能131fは、Bマップにおける対象臓器のうちの組織領域のうち、Bマップにおける第3スライスに対応する部分領域に含まれる複数の画素値の平均値に基づいて調整値を決定してもよい。組織領域は、Bマップにおける対象臓器のうちの組織が存在しうる領域である。画素値は、例えば、RF信号の送信強度に対するMR信号の受信強度の割合に関する数値で表される。例えば、Bマップ上のある画素の画素値が「50」の場合、当該ある画素に対応する組織領域は、RF信号の送信強度に対するMR信号の受信強度が「50%」であることを示す。
【0045】
調整値決定機能131fは、画素値または平均値をパラメータとして所与の推定式に適用することによって調整値を決定してもよいし、画素値または平均値と調整値とが対応付けられたテーブル(ルックアップテーブル(Look Up Table))を参照することによって調整値を決定してもよい。
【0046】
調整機能131gは、調整値決定機能131fによって決定された調整値を用いて初期RFレベルを調整する機能である。調整機能131gは、調整されたRFレベルを撮像制御回路121へと出力する。
【0047】
図2において、以上のように構成された磁気共鳴イメージング装置100の動作が例示される。以下、対象臓器に対する撮像に好適なRFレベルを調整する動作について説明する。また、具体例として、対象臓器が心臓である場合について説明するが、他の臓器に適用することも可能である。
【0048】
始めに、磁気共鳴イメージング装置100は、操作者の指示により、対象臓器に対する撮像に好適なRFレベルを調整するためのプログラムが選択される、当該プログラムが実行され、ステップS201の動作を開始する。このとき、操作者は、インタフェース125を介して、初期RFレベルを決定するためのスライス位置を設定してもよい。
【0049】
(ステップS201)
RFレベル決定機能131bは、第1スライスに送信された複数の第1RFパルスに対応する複数の第1MR信号に基づいて、初期RFレベルを決定する。
【0050】
図3および図4を参照し、初期RFレベルを決定する方法について説明する。RFレベル決定機能131bは、対象臓器として心臓301を撮像する場合、被検体Pの体軸302に交わるスライス位置303を設定する。スライス位置303における第1スライスは、心臓301を含み、且つ、被検体Pの体幹回りを全て覆うスライスである。
【0051】
RFレベル決定機能131bは、第1スライスに対して、RF信号の送信強度を段階的に変えていき、第1スライスに関するプロジェクションデータをそれぞれ取得する。プロジェクションデータの値がMR信号の受信強度に対応しているため、RFレベル決定機能131bは、MR信号の受信強度が最大となったRF信号の送信強度(例えば、図4の54dB)を初期RFレベルとする。尚、RF信号の送信強度は、段階的に変更されてもよいし、連続的に変更されてもよい。
【0052】
(ステップS202)
断面特定機能131cは、ロケータ撮像を実行することによって、対象臓器の断面を特定する。具体的には、断面特定機能131cは、少なくとも第2スライスおよび第3スライスを特定する。
【0053】
図5および図6を参照し、第2スライスおよび第3スライスについて説明する。第2スライスは、例えば、心臓301の心軸501を含む心軸断面502に関するスライスである。第2スライスを特定した場合に、磁気共鳴イメージング装置100は、心軸断面502の画像601を再構成してもよい。画像601は、心筋領域602を含む。第3スライスは、例えば、心軸501に交わるスライス位置603の断面に関するスライスである。
【0054】
なお、操作者がインタフェース125を介して第2スライスおよび第3スライスを選択する場合、このステップは省略されてもよい。
【0055】
(ステップS203)
時相情報取得機能131dは、撮像プランから第3スライスを撮像するタイミングに関する時相の情報を取得する。例えば、撮像プランが「心臓のシネ撮像」の場合、「収縮期」および「拡張期」の二つのBマップを生成することが望ましいため、時相情報取得機能131dは、「収縮期」および「拡張期」の二つの時相情報を取得する。
【0056】
(ステップS204)
マップ生成機能131eは、第2スライスへの初期RFレベルを有する第2RFパルスの送信に伴って受信された第2MR信号に基づいて、第2RFパルスに関するBマップを作成する。
【0057】
図6および図7を参照し、Bマップについて説明する。Bマップ生成機能131eは、画像601に対応したBマップ701を生成する。そのため、画像601に表示されうる心筋領域602は、Bマップ701においても同じ位置に存在する。即ち、Bマップ701におけるスライス位置603は、心筋領域602に相当する画素702、画素703、および画素704を含む。
【0058】
(ステップS205)
調整値決定機能131fは、Bマップにおける対象臓器のうちの組織領域に含まれる複数の画素値に基づいて、第3スライスに関するRFレベルの調整値を決定する。具体的には、調整値決定機能131fは、Bマップ701における心筋領域602のうち、スライス位置603に対応する部分領域に含まれる画素702、画素703、および画素704の各画素値の平均値に基づいて、心臓の短軸断面に関するRFレベルの調整値を決定する。RFレベルの調整値の決定には、図8に例示されるようなルックアップテーブルが用いられる。例えば、画素702、画素703、および画素704の画素値の平均値が「75」の場合、RFレベルの調整値は、「R_2」となる。
【0059】
(ステップS206)
調整機能131gは、ステップS205で決定された調整値を用いて初期RFレベルを調整する。具体的には、調整機能131gは、例えば調整値「R_2」を用いて初期RFレベルを調整する。 (ステップS207)
撮像制御回路121は、ステップS206で調整されたRFレベルを有する第3RFパルスを用いて、第3スライスを撮像する。具体的には、撮像制御回路121は、第3RFパルスを用いて、図9に例示される短軸断面901を含む第3スライスを撮像する。第3スライスを撮像することによって、磁気共鳴イメージング装置100は、図10に例示される画像1001を再構成する。
【0060】
以上説明したように、一実施形態によれば、磁気共鳴イメージング装置100は、対象臓器に関する第1スライスに送信された複数の第1RFパルスに対応する複数の第1MR信号に基づいて、RFコイルに供給されるパワーのレベルを示すRFレベルを決定し、撮像臓器に関する第2スライスへの当該RFレベルを有する第2RFパルスの送信に伴って受信された第2MR信号に基づいて、当該第2RFパルスに関する磁場の強度分布を示すBマップを作成する。そして、磁気共鳴イメージング装置100は、Bマップにおける撮像臓器のうちの組織領域に含まれる複数の画素値に基づいて、対象臓器に対して設定された第3スライスに関する上記RFレベルの調整値を決定し、当該調整値を用いて上記RFレベルを調整し、調整されたRFレベルを有する第3RFパルスを用いて、第3スライスを撮像することができる。これにより、本磁気共鳴イメージング装置100は、対象臓器に対する撮像に好適なRFレベルを設定することができる。
【0061】
また、本磁気共鳴イメージング装置100は、組織領域のうち、Bマップにおける第3スライスに対応する部分領域に含まれる複数の画素値の平均値に基づいて調整値を決定することができる。これにより、本磁気共鳴イメージング装置100は、対象臓器に対する撮像に好適なRFレベルを設定することができる。
【0062】
また、本磁気共鳴イメージング装置100は、対象臓器を心臓とし、第2スライスとして心臓の心軸を含み、組織領域を心筋領域として設定することができる。これにより、本磁気共鳴イメージング装置100は、心臓の心筋に対する撮像に好適なRFレベルを設定することができる。
【0063】
また、本磁気共鳴イメージング装置100は、心臓の心周期における収縮期および拡張期のうちの少なくとも一方の時相に対応するBマップを生成することができる。これにより、本磁気共鳴イメージング装置100は、心時相に対応したBマップを生成することができるため、心臓の形状変化に伴うBムラに対しても好適なRFレベルを設定することができる。
【0064】
また、本磁気共鳴イメージング装置100は、被検体の呼吸に伴う呼吸相および吸気相のうちの少なくとも一方の時相に対応するBマップを生成することができる。これにより、本磁気共鳴イメージング装置100は、被検体の呼吸に対応したBマップを生成することができるため、対象臓器の形状変化に伴うBムラに対しても好適なRFレベルを設定することができる。
【0065】
また、本磁気共鳴イメージング装置100は、撮像の手順を示す撮像プランから、第3スライスを撮像するタイミングに関する時相の情報を取得し、取得された時相に対応するBマップを生成することができる。これにより、本磁気共鳴イメージング装置100は、時相の変化に対応したRFレベルを用いることができるため、シネ撮像などの連続撮像においても好適なRFレベルを設定することができる。
【0066】
また、本磁気共鳴イメージング装置100は、対象臓器に含まれる血管からのMR信号を抑制させる方法を用いて第2MR信号を収集することができる。これにより、本磁気共鳴イメージング装置100は、Bマップ上の血液領域からの信号を抑制させることができるため、対象臓器の組織領域からの信号を精度よく検出することができる。
【0067】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、対象臓器に対する撮像に好適なRFレベルを設定することができる。具体的には、磁気共鳴イメージング装置100は、好適なRFレベルを設定することによって、RF信号が入りにくかった心臓の心尖部付近における最適化が可能であり、心臓撮像などでよく使用されるシネ撮像の画質を向上させることができる。
【0068】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0069】
100…磁気共鳴イメージング装置、101…静磁場磁石、103…傾斜磁場コイル、105…傾斜磁場電源、107…寝台、107a…天板、109…寝台制御回路、111…ボア、113…送信回路、115…送信コイル、117…受信コイル、119…受信回路、121…撮像制御回路、123…バス、125…インタフェース、127…ディスプレイ、129…記憶装置、131…処理回路、131a…システム制御機能、131b…RFレベル決定機能、131c…断面特定機能、131d…時相情報取得機能、131e…Bマップ生成機能、131f…調整値決定機能、131g…調整機能、301…心臓、302…体軸、303…スライス位置、501…心軸、502…心軸断面、601,1001…画像、602…心筋領域、603…スライス位置、701…Bマップ、702,703,704…画素、901…短軸断面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10