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特許7166755ホップ香気を著しく増強することなく味の厚みを付与した発酵アルコール飲料の製法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】ホップ香気を著しく増強することなく味の厚みを付与した発酵アルコール飲料の製法
(51)【国際特許分類】
   C12C 3/00 20060101AFI20221031BHJP
   C12C 5/02 20060101ALI20221031BHJP
   C12G 3/06 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
C12C3/00 Z
C12C5/02
C12G3/06
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2017246423
(22)【出願日】2017-12-22
(65)【公開番号】P2019110807
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2020-11-25
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】村 上 敦 司
(72)【発明者】
【氏名】小 林 諒 子
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-236709(JP,A)
【文献】特開2005-013142(JP,A)
【文献】特開2003-102458(JP,A)
【文献】特開2012-105592(JP,A)
【文献】特開2013-132275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C 3/
C12C 5/
C12G 3/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホップ懸濁組成物を製造する方法であって、ホップを水に懸濁してホップ懸濁液を作製する工程、およびホップ懸濁液に通気処理を施す工程を含んでなり、ホップ懸濁液の通気処理が、40℃以上80℃未満の温度条件において、30~300分間の条件で行われる、方法。
【請求項2】
ホップ懸濁液の通気処理が、該ホップ懸濁液におけるホップのレトロネーザル香気成分/オルソネーザル香気成分の比が0.5以上となる条件下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ホップ懸濁液の通気処理が、該ホップ懸濁液中のリナロール濃度が、該懸濁液中のホップ含有量1g/Lあたり、41ppb未満となる条件下で行われる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ホップ懸濁液の通気処理が、該ホップ懸濁液におけるホップのレトロネーザル香気成分/オルソネーザル香気成分の比が、通気処理の前に比べて0.15以上増加する条件下で行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ホップ懸濁液の通気処理が、液量1Lあたり0.1L/分以上の通気条件で行われる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ホップ懸濁液の通気処理が47℃以上80℃未満の温度条件で行われる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ホップ懸濁液の通気処理が30~180分間の条件で行われる、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ホップの品種が、ジクロロメタンに懸濁した後に30分間振盪させ、その後濾過し、ジクロロメタン中に溶出した画分をGC/MSで分析したときに、69m/zのイオンクロマトグラムにおいて〔レトロネーザル香気成分の面積〕/〔オルソネーザル香気成分の面積〕の比が0.55以上となる品種である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ホップ懸濁液のオルソネーザル香気を低減する方法であって、ホップを水に懸濁したホップ懸濁液を用意する工程、およびホップ懸濁液に通気処理を施す工程を含んでなり、ホップ懸濁液の通気処理が、40℃以上80℃未満の温度条件において、30~300分間の条件で行われる、方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法によって製造される、ホップ懸濁組成物。
【請求項11】
原料としてホップを用いて発酵アルコール飲料を製造する方法であって、
請求項10に記載のホップ懸濁組成物が、前記方法に含まれる加熱操作を伴う全ての工程が終了し、加熱された原料混合物が冷却された後に、その原料混合物に添加される、方法。
【請求項12】
麦汁煮沸工程、麦汁静置工程、麦汁冷却工程および発酵工程を含んでなり、ホップ懸濁組成物が、麦汁冷却工程の後、かつ、発酵工程の直前に添加される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項11または12に記載の方法によって製造される、発酵アルコール飲料(以下の発酵アルコール飲料を除く:
ホップを添加して製造する発酵アルコール飲料であって、該発酵アルコール飲料の苦味成分が、
(1)HPLC用カラム:C18(オクタデシル)カラム、粒径5μm、カラム長250mm、内径4.0mmを用い、蒸留水27%、メタノール72%、及び、リン酸1%からなる移動相Aとメタノール99.0%、及びリン酸1.0%からなる移動相Bを、1ml/分の一定流速で、運転開始から10分までを移動相Aを100%、10分から40分の間に移動相Aから移動相Bに置換し、40分以降を移動相B100%で送液し、270nmの検出波長のHPLCによる測定をした場合において、イソα酸ピーク以前に検出される全てのピークの面積の総和として定義されるS-フラクションの、S-フラクション+イソα酸に対する比率:S-フラクション比率が、0.38以上であり、
(2)3N HClで酸性とした10.0ml試料を、イソオクタン20mlで抽出して、イソオクタン層を275nmでイソオクタンを対象として吸光度を測定し、その値に50を乗じて求めた値として定義される苦味価B.U.値が、19以上33未満であり、かつ、
(3)リナロール含量が、6.8ppb以下である、発酵アルコール飲料)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホップ香気を有する発酵アルコール飲料の製法に関し、より具体的には、ホップ香気を著しく増強することなく味の厚みを付与した発酵アルコール飲料の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホップはビールに爽快な苦味と香りを付与する。ホップに由来する香りはビールのキャラクター形成に大きな影響を与えている。香気特徴を表現する言葉として、フローラル、スパイシー、シトラス、フルーティー、ホッピー、スパイシー、マスカット等が一般的に用いられている(非特許文献1~5)。
【0003】
ホップの使用方法によってホップ香気の強弱を制御することができる。通常ホップは、煮沸中の麦汁に添加するが、よりホップ香気を強調するために、煮沸終了直前、あるいはワーループールタンク静置中に添加し、できるだけ熱を加えないことで実現できる。以上の仕込み工程中でのホップ使用は、「ケトルホッピング」とも言われている(非特許文献6)。この方法でホップ香気を強調したい場合は、ホップの使用量を増加させることが一般的であるが、少なからず熱にホップが接触するため、苦味成分であるイソα酸の生成を避けることはできない。
【0004】
さらに、ホップ香気を強調したい場合は、「ドライホッピング」と言われる発酵中の低温の若ビールにホップを添加する方法もある(非特許文献6)。このドライホッピングしたビールは、ホップの香味を極端に強調できる一方で、ケトルホッピングしたビールに比べ、香味は、樹脂様、松脂様の刺激感が強くかつ粗い官能評価上の印象を与える。
【0005】
さらに、「ドライホッピング」によるホップ香気の強調、ならびに荒々しさの少ない「ケトルホッピング」の長所を合わせ持つ発酵飲料の製法として、添加前のホップを65℃以上90℃未満の温度で1分間以上60分間未満という条件下で予め加熱処理し、得られたホップを、前記方法に含まれる加熱操作を伴う全ての工程が終了し、加熱された原料混合物が冷却された後に原料混合物に添加する方法が開発されている(特許文献1~3)。
【0006】
このように、ホップ香気をより強調した飲料を製造しうる新たな技術が開発されているが、用いる品種によっては、ホップ香気のみが強調され、味の厚みが少なく、単調な味わいと感じることがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】T. Kishimoto et al., J. Agric. Food Chem., 54, 8855-8861, 2006
【文献】G. T. Eyres et al., J. Agric. Food Chem., 55, 6252-6261, 2007
【文献】V. E. Peacock, et al., J. Agric. Food Chem., 28, 774-777, 1980
【文献】K. C. Lam et al., J. Agric. Food Chem, 34, 763-770, 1986
【文献】V. E. Peacock et al., J. Agric. Food Chem., 29, 1265-1269, 1981
【文献】「醸造物の成分」(財団法人日本醸造協会:平成11年12月10日発行)、p.259~261
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-132272号公報
【文献】特開2013-132274号公報
【文献】特開2013-132275号公報
【発明の概要】
【0009】
本発明者らは、ホップを水に懸濁させたホップ懸濁液を所定の条件下で通気処理し、得られたホップ懸濁液を原料として用いることにより、ホップ香気を著しく増強することなく味の厚みを付与した発酵アルコール飲料が得られることを見出した。また、ホップのレトロネーザル香気成分を特異的に残存させた香気付与剤を用いることによっても同様の発酵アルコール飲料が得られることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0010】
従って、本発明は、ホップ香気を著しく増強することなく味の厚みを付与した発酵アルコール飲料の製法および該製法に用いられるホップ懸濁組成物の製法を提供することを目的とする。
【0011】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)ホップ懸濁組成物を製造する方法であって、ホップを水に懸濁してホップ懸濁液を作製する工程、およびホップ懸濁液に通気処理を施す工程を含んでなる、方法。
(2)ホップ懸濁液の通気処理が、該ホップ懸濁液におけるホップのレトロネーザル香気成分/オルソネーザル香気成分の比が0.5以上となる条件下で行われる、前記(1)に記載の方法。
(3)ホップ懸濁液の通気処理が、該ホップ懸濁液中のリナロール濃度が、該懸濁液中のホップ含有量1g/Lあたり、41ppb未満となる条件下で行われる、前記(1)または(2)に記載の方法。
(4)ホップ懸濁液の通気処理が、該ホップ懸濁液におけるホップのレトロネーザル香気成分/オルソネーザル香気成分の比が、通気処理の前に比べて0.15以上増加する条件下で行われる、前記(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)ホップ懸濁液の通気処理が、液量1Lあたり0.1L/分以上の通気条件で行われる、前記(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)ホップ懸濁液の通気処理が40℃以上80℃未満の温度条件で行われる、前記(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7)ホップ懸濁液の通気処理が30~300分間の条件で行われる、前記(1)~(6)のいずれかに記載の方法。
(8)ホップの品種が、ジクロロメタンに懸濁した後に30分間振盪させ、その後濾過し、ジクロロメタン中に溶出した画分をGC/MSで分析したときに、69m/zのイオンクロマトグラムにおいて〔レトロネーザル香気成分の面積〕/〔オルソネーザル香気成分の面積〕の比が0.55以上となる品種である、前記(1)~(7)のいずれかに記載の方法。
(9)ホップ懸濁液のオルソネーザル香気を低減する方法であって、ホップを水に懸濁したホップ懸濁液を用意する工程、およびホップ懸濁液に通気処理を施す工程を含んでなる、方法。
(10)前記(1)~(8)のいずれかに記載の方法によって製造される、ホップ懸濁組成物。
(11)原料としてホップを用いて発酵アルコール飲料を製造する方法であって、前記(10)に記載のホップ懸濁組成物が、前記方法に含まれる加熱操作を伴う全ての工程が終了し、加熱された原料混合物が冷却された後に、その原料混合物に添加される、方法。
(12)麦汁煮沸工程、麦汁静置工程、麦汁冷却工程および発酵工程を含んでなり、ホップ懸濁組成物が、麦汁冷却工程の後、かつ、発酵工程の直前に添加される、前記(11)に記載の方法。
(13)前記(11)または(12)に記載の方法によって製造される、発酵アルコール飲料。
(14)ホップ香気付与剤を製造する方法であって、
(a1)ホップを水に懸濁させ、50~70℃で1~30分間インキュベートし、15℃まで冷却した後に、砂糖水と酵母を添加して発酵を行うことにより、ホップ発酵液を得る工程、または
(a2)ホップを水に懸濁させ、そこに酵母破砕物または死滅酵母を添加して混合することにより、ホップ懸濁液を得る工程、ならびに
(b)工程(a1)で得られたホップ発酵液または工程(a2)で得られたホップ懸濁液を、70℃以上の温度条件下で減圧蒸留する工程、ならびに
(c)工程(b)において揮発せずに残った成分を、有効成分として回収する工程
を含んでなる、方法。
(15)ホップの品種が、ジクロロメタンに懸濁した後に30分間振盪させ、その後濾過し、ジクロロメタン中に溶出した画分をGC/MSで分析したときに、69m/zのイオンクロマトグラムにおいて〔レトロネーザル香気成分の面積〕/〔オルソネーザル香気成分の面積〕の比が0.55以上となる品種である、前記(14)に記載の方法。
(16)前記(14)または(15)に記載の方法によって製造される、ホップ香気付与剤。
(17)前記(16)に記載のホップ香気付与剤を含んでなる、発酵アルコール飲料。
【0012】
本発明によれば、ホップ香気を著しく増強することなく味の厚みを増強した発酵アルコール飲料が提供される。つまり、本発明によれば、同じホップ品種を同じ量で使用した従来法により得られる発酵アルコール飲料と比較して、ホップの鼻先香を著しく増強することなく味の厚みを増強した発酵アルコール飲料が提供される。
【発明の具体的説明】
【0013】
本発明において「発酵アルコール飲料」とは、炭素源、窒素源および水などを原料として酵母により発酵させたアルコール(エタノール)含有飲料を意味する。発酵アルコール飲料には、原料として麦芽を使用した発酵麦芽飲料や、原料として麦芽を使用しないビール風味アルコール飲料も含まれる。本発明において「発酵麦芽飲料」とは、炭素源、窒素源および水などを原料として酵母により発酵させた飲料であって、原料として少なくとも麦芽を使用した飲料を意味する。このような発酵麦芽飲料としては、ビール、発泡酒、リキュール(例えば、酒税法上、「リキュール(発泡性)(1)」に分類される飲料)などが挙げられる。本発明の発酵アルコール飲料および発酵麦芽飲料は、好ましくは原料としてホップを使用した飲料とされる。
【0014】
本発明において、「レトロネーザル香気成分」および「オルソネーザル香気成分」は、所定の条件下でのGC/MS分析における保持時間(リテンションタイム)および69m/zのイオンによって定義される。具体的には、次のように定義される。まず、香気成分を含む溶液をC18固相カラムで抽出し、ジクロロメタン溶出画分を分析用試料として用いる。この分析用試料を、次の条件〔キャピラリーカラム:商品名HP-INNOWAX(長さ60 m・内径0.25 mm・膜厚0.25μm)、オーブン温度:40℃で0.3 min→3℃/min→240℃で20 min、キャリアガス:He・10 psi定圧送気、トランスファーライン温度:240℃、MSイオンソース温度:230℃、MSQポール温度:150℃、フロント注入口温度:200℃〕でのGC/MS分析に供したときの69m/zのイオンクロマトグラムにおいて、保持時間40分よりも前に出現するピークをオルソネーザル香気成分とし、保持時間40分以降に出現するピークをレトロネーザル香気成分とする。69m/zのイオンは、ホップに含まれる主要な香気成分であるテルペン類に共通して見られるイオンである。また、上記の分析条件では、沸点が200℃未満の香気成分は保持時間40分よりも前に出現し、一方で沸点が200℃以上の香気成分は保持時間40分以降に出現する傾向にある。よって、「レトロネーザル香気成分」は200℃以上の沸点を有する香気成分であり、「オルソネーザル香気成分」は200℃未満の沸点を有する香気成分であると考えてもよい。また、本発明において「レトロネーザル香気成分/オルソネーザル香気成分の比」とは、上記のイオンクロマトグラムにおけるレトロネーザル香気成分のピークの総面積をオルソネーザル香気成分のピークの総面積で除した数値である。
【0015】
本発明において、「ppb」はμg/Lと同義であり、「ppm」はmg/Lと同義である。
【0016】
本発明の第一の態様による方法は、ホップ懸濁組成物を製造する方法であり、該方法は、ホップを水に懸濁してホップ懸濁液を作製する工程、およびホップ懸濁液に通気処理を施す工程を含む。さらに、本発明によれば、この通気処理を含む、ホップ懸濁液のオルソネーザル香気を低減する方法が提供される。また、本発明によれば、原料としてホップを用いて発酵アルコール飲料を製造する方法が提供され、該方法では、前記方法により製造されたホップ懸濁組成物が、該方法に含まれる加熱操作を伴う全ての工程が終了し、加熱された原料混合物が冷却された後に、その原料混合物に添加される。製造される発酵アルコール飲料におけるリナロールの濃度は、110ppb以下となることが望ましく、70ppb以下となることがより望ましく、40ppb以下となることがさらに望ましい。
【0017】
本発明の好ましい実施態様によれば、本発明のホップ懸濁組成物の製法では、ホップ懸濁液は、ホップのレトロネーザル香気成分/オルソネーザル香気成分の比が0.5以上となり、かつ、懸濁液中のリナロール濃度が、該懸濁液中のホップ含有量1g/Lあたり、41ppb未満(好ましくは33ppb未満、より好ましくは18ppb未満)となる条件下で、通気処理がなされる。本発明における通気処理は、空気、二酸化炭素、窒素、酸素などの気体による通気処理であり、好ましくは空気による通気処理である。
【0018】
ここで、液体中のリナロールの濃度は、該液体をC18固相カラムで抽出し、ジクロロメタン溶出画分を分析用試料として用いる上述のGC/MS分析において、ボルネオールを内部標準物質として用いることにより定量することができる。リナロールの定量に用いるイオンは93m/zとし、ボルネオールの定量に用いるイオンは110m/zとすることができる。
【0019】
本発明の他の好ましい実施態様によれば、ホップ懸濁液の通気処理は、レトロネーザル香気成分/オルソネーザル香気成分の比が、通気処理の前に比べて0.15以上増加する条件下で行われ、より好ましくは0.20以上増加する条件下、さらに好ましくは0.25以上増加する条件下で行われる。
【0020】
ホップ懸濁液の通気処理の条件として、温度は、好ましくは40℃以上80℃未満とされ、より好ましくは47℃以上80℃未満とされる。また、処理時間は、好ましくは30~300分間とされ、より好ましくは30~180分間、さらに好ましくは30~120分間、最も好ましくは30~60分間とされる。
【0021】
本発明の特に好ましい実施態様によれば、ホップ懸濁液の通気処理は、液量1Lあたり、0.1L/分以上、より好ましくは0.5L/分以上、さらに好ましくは1.0L/分以上、さらに好ましくは1.5L/分以上、さらに好ましくは3.0L/分以上、さらに好ましくは5.0L/分以上、さらに好ましくは7.0L/分以上の通気量で行われる。
【0022】
本発明において製造されるホップ懸濁組成物は、発酵アルコール飲料の製造方法において、該方法に含まれる加熱操作を伴う全ての工程が終了し、加熱された原料混合物が冷却された後に、その原料混合物に添加される。これにより、ホップに余分な熱が加わることを回避できる。ここで用いる「加熱操作」との用語は、自然な温度変化ではなく、加熱することを目的とした人為的な操作を意味するものであり、例えば、発酵工程における酵母の生理作用による発熱などは含まない。よって、例えば、上記の加熱操作を伴う工程には、麦汁煮沸工程は含まれるが、発酵工程は含まれない。また、「加熱された原料混合物が冷却された後」とは、加熱された原料混合物(例えば麦汁)が、放置されるか、あるいは積極的な冷却手段に供され、酵母による発酵工程の温度またはそれ以下の温度まで冷却された後を意味する。
【0023】
本発明の好ましい実施態様によれば、本発明の発酵アルコール飲料の製法は、麦汁煮沸工程、麦汁静置工程、麦汁冷却工程および発酵工程を含んでなる。これらの工程は、通常の発酵麦芽飲料の製造において典型的に用いられる工程である。この実施態様では、本発明のホップ懸濁組成物は、麦汁冷却工程の後に添加されることが好ましく、さらに好ましくは、麦汁冷却工程の後、かつ、発酵工程の直前に添加され、さらに好ましくは原料混合物(発酵前液)への酵母添加の直前またはこれと同時に添加される。
【0024】
本発明の一つの実施態様によれば、本発明の発酵アルコール飲料の製法は、少なくとも水、麦芽、およびホップを含んでなる発酵前液を発酵させることにより実施することができる。すなわち、麦芽等の醸造原料から調製された麦汁(発酵前液)に発酵用ビール酵母を添加して発酵を行い、所望により発酵液を低温にて貯蔵した後、ろ過工程により酵母を除去することにより、発酵麦芽飲料を製造することができる。
【0025】
本発明の発酵アルコール飲料の製法では、ホップ、麦芽以外に、米、とうもろこし、こうりゃん、馬鈴薯、でんぷん、糖類(例えば、液糖)等の酒税法で定める副原料や、タンパク質分解物、酵母エキス等の窒素源、香料、色素、起泡・泡持ち向上剤、水質調整剤、発酵助成剤等のその他の添加物を醸造原料として使用することができる。また、未発芽の麦類(例えば、未発芽大麦(エキス化したものを含む)、未発芽小麦(エキス化したものを含む))を醸造原料として使用してもよい。
【0026】
本発明の第二の態様による方法は、ホップ香気付与剤を製造する方法である。
【0027】
一つの実施態様では、本発明の第二の態様による方法は、
(a1)ホップを水に懸濁させ、50~70℃で1~30分間インキュベートし、15℃まで冷却した後に、砂糖水と酵母を添加して発酵を行うことにより、ホップ発酵液を得る工程、
(b)工程(a1)で得られたホップ発酵液を、70℃以上の温度条件下で減圧蒸留する工程、ならびに
(c)工程(b)において揮発せずに残った成分を、有効成分として回収する工程
を含む。
【0028】
他の実施態様では、本発明の第二の態様による方法は、
(a2)ホップを水に懸濁させ、そこに酵母破砕物または死滅酵母を添加して混合することにより、ホップ懸濁液を得る工程、
(b)工程(a2)で得られたホップ懸濁液を、70℃以上の温度条件下で減圧蒸留する工程、ならびに
(c)工程(b)において揮発せずに残った成分を、有効成分として回収する工程
を含んでなる、方法。
【0029】
本明細書において「酵母」とは、発酵作用を利用した発酵アルコール飲料や液体調味料の製造に用いられる酵母をいう。それぞれの発酵アルコール飲料の製造工程において発酵前液の発酵に用いられる様々な酵母が知られており、いずれも本発明に用いることができる。酵母としては、例えば、清酒酵母、焼酎酵母、ワイン酵母およびビール酵母などが挙げられる。「ビール酵母」とは、醸造酵母の一種であり、ビールなどのビールテイスト発酵アルコール飲料の製造に用いられる酵母をいう。ビール酵母は、サッカロミセス属に属する上面酵母(Saccharomyces cerevisiae)または下面酵母(Saccharomyces pastorianus)であり、アルコール生成能などを指標に選択され、育種されてきた酵母である。
【0030】
本発明では、乾燥酵母などの死滅酵母(代謝能力を実質的に失った酵母)や酵母の構成成分などの酵母破砕物を用いることができ、生きた酵母を用いる必要は無い。本発明では、酵母は80℃以上の高温で加熱したものであってもよいことから、酵母の代謝は必要とされない。従って、酵母の破砕物は、破砕物中に存在する酵素成分が不活性化したもの(すなわち、代謝能を実質的に失ったもの)であってもよい。
【0031】
本発明では、死滅酵母は、通常の培養後の酵母または発酵後の酵母を常法により乾燥させて得ることができる。例えば、乾燥酵母は、培養後または発酵後の酵母を用い、80~150℃の熱により水分含量が10%以下となるまで乾燥させて得ることができる。乾燥後は、乾燥によるこげ臭等を取り除くため、重量比で10倍以上の水で攪拌洗浄してから用いることが好ましい。
【0032】
本発明では、酵母破砕物は、常法に従い、超音波破砕やガラスビーズによる破砕によって得ることができる。酵母破砕物は、破砕後そのまま用いてもよいが、遠心分離等により固形成分を沈降させてから上清だけまたは固形成分だけを回収して用いてもよい。また、酵母破砕物は、加熱または乾燥してから用いてもよい。
【0033】
工程(a2)を用いたホップ香気付与剤の製造については、特開2014-128241号公報に記載されている。工程(a2)では、ホップと、乾燥酵母などの死滅酵母または酵母の構成成分などの酵母破砕物とを混合することにより接触させることができる。混合は、室温で行ってもよく、低温(例えば、0~10℃)で行ってもよく、また、高温(40℃以上、例えば、80~150℃)で行ってもよい。酵母が有する不要な酵素活性や代謝を停止させる観点では、高温(例えば、40℃以上、例えば、80℃)で混合することができる。混合時間は、例えば、5~60分とすることができる。
【0034】
工程(c)では、工程(b)において揮発せずに残った成分を、有効成分として回収する。これは、例えば、揮発せずに残った成分を吸着剤で回収・濃縮することにより行うことができる。吸着剤としては、例えば、ダイヤイオンHP2MG(三菱ケミカル社製)などの合成吸着剤を用いることができる。
【0035】
本発明に用いられるホップ(Humulus lupulus L.)は、クワ科に属する多年生植物である。ホップの種類は多く、例えば、ブリオン(Bullion)、ブリューワーズゴールド(Brewers Gold)、カスケード(Cascade)、チヌーク(Chinook)、クラスター(Cluster)、イーストケントゴールディング(East Kent Golding)、ファグルス(Fuggles)、ハレトウ(Hallertau)、マウントフッド(Mount Hood)、ノーザンブリューワー(Northan Brewer)、ペーレ(Perle)、ザーツ(Saaz)、スティリアン(Styrian)、テットナンガー(Tettnanger)、ウィラメット(Willamette)、ヘルスブルッカー(Hersbrucker)、ブラボー、シトラ、ギャラクシー、ネルソンソービン、IBUKI、トラディション等が挙げられる。
【0036】
本発明に用いられるホップとしては、上記のいずれの品種も好ましく用いることができる。また、これらのホップ品種は、2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
本発明の好ましい実施態様によれば、用いられるホップの品種は、ジクロロメタンに懸濁した後に30分間振盪させ、その後濾過し、ジクロロメタン中に溶出した画分をGC/MSで分析したときに、69m/zのイオンクロマトグラムにおいて〔レトロネーザル香気成分の面積〕/〔オルソネーザル香気成分の面積〕の比が0.55以上となる品種とされる。このGC/MS分析の詳細は上述したとおりである。
【0038】
本発明の特に好ましい実施態様によれば、ホップは、ブラボー種、シトラ種、ギャラクシー種、ヘルスブルッカー種、ネルソンソービン種、カスケード種、IBUKI種、トラディション種およびザーツ種からなる群から選択される1種または2種以上の混合物とされ、より好ましくはブラボー種、シトラ種、ギャラクシー種、ヘルスブルッカー種およびネルソンソービン種からなる群から選択される1種または2種以上の混合物とされる。
【0039】
本発明に用いられるホップとしては、ホップの毬花(雌花)、毬果(未受精の雌花が成熟したもの)、葉、茎および苞等の各部位(好ましくはルプリンを含む毬花)を、そのまま、または圧縮若しくは粉砕した後に、使用することができる。
【0040】
ホップ懸濁組成物に由来するホップの添加量は、通常の発酵麦芽飲料の製造に用いられる量であればよく、特に制限されない。本発明の好ましい実施態様によれば、ホップ懸濁組成物の添加量は、最終的に製造される発酵アルコール飲料に対する加工前のホップの質量(ホップ原単位)として、0.5~10g/L、より好ましくは0.5~8g/L、さらに好ましくは1~3g/Lとなるように調整される。
【実施例
【0041】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0042】
実施例における官能評価は、味の厚みおよびホップ香気強度について、訓練されたパネル10名で実施した。具体的な評価の基準は、以下の表1に示す。
【表1】
【0043】
味の厚み強度については、以下の表7の試験番号8の試飲サンプルをスコア「5」とし、表7の試験番号1の試飲サンプルをスコア「1」とした。ホップ香気の強度については、以下の表3の試験区3の試飲サンプルをスコア「5」とし、表7の試験番号1の試飲サンプルをスコア「1」とした。
【0044】
実施例1:ホップ懸濁液の空気による通気処理(バブリング処理)条件の検討
本実施例では、通気処理(バブリング処理)によってホップ懸濁組成物を作製し、このホップ懸濁組成物を用いて製造した発酵アルコール飲料について官能評価を行い、ホップの適切な通気処理条件を検討した。
【0045】
(1)各種試飲サンプルの調製
ホップ懸濁液の空気によるバブリング処理は次の通り実施した。ホップに対して10倍量の湯でホップを懸濁し、その懸濁液中にポンプを用いて空気を吹き込むことによってバブリングを行った。所定の時間経過後にバブリングを終了し、回収したホップ懸濁液を、添加率が製品原単位で1g/Lになるよう麦汁に添加し、ビール酵母を加えて1週間の主発酵および21日間の後発酵を行った。その後、得られた発酵液を濾過し、糖度12度になるように希釈水(炭酸ガスを含む)で希釈し、試飲用サンプルとした。
【0046】
(2)バブリング温度の検討
バブリング時の温度を変更したホップ懸濁液を、製品1Lあたりホップ1gの濃度となるように使用した試験品を作製した。温度やその他のバブリング時の条件は表2に示した。
【0047】
【表2】
【0048】
表2に示されるように、試験区1は、ホップの香りが突出することなく、味に厚みが生じ、最も好ましい香味を有していた。試験区2および3は、ホップの香りが感じられるものの、味に厚みが感じられ、好ましい香味を有していた。試験区4は、味の厚みが生じるもののホップの香りも強く感じられ、好ましい香味を有しているとはいえなかった。従って、通気処理の温度条件は、40℃以上80℃未満が好ましく、47℃以上80℃未満がより好ましいものと考えられた。
【0049】
(3)バブリング時の通気量の検討
バブリング時の通気量を変更したホップ懸濁液を、製品1Lあたりホップ1gの濃度となるように添加した試験品を作製した。通気量やその他のバブリング時の条件は、結果とともに表3に示した。
【0050】
【表3】
【0051】
表3に示されるように、試験区1は、ホップの香りが突出することなく、味に厚みが生じ、最も好ましい香味を有していた。試験区2は、ホップの香りが感じられるものの、味に厚みが感じられ、好ましい香味を有していた。試験区3は、ホップの香りが強過ぎるため、好ましくない香味を有していた。従って、通気処理の空気の通気量は、液量1Lあたり3.0L/分以上の通気量が好ましく、液量1Lあたり7.0L/分以上の通気量がより好ましいと考えられた。
【0052】
(4)バブリング時間の検討
バブリングの実施時間を変更したホップ懸濁液を、製品1Lあたりホップ1gの濃度となるように添加した試験品を作製した。バブリング時間やその他のバブリング時の条件は、結果とともに表4に示した。
【0053】
【表4】
【0054】
表4に示されるように、試験区1は、ホップの香りが突出することなく、味に厚みが生じ、最も好ましい香味を有していた。試験区2は、ホップの香りが感じられるものの、味に厚みが感じられ、好ましい香味を有していた。試験区3は、ホップの香りが強過ぎるため、好ましくない香味を有していた。従って、通気処理の時間は、30分以上が好ましいと考えられた。
【0055】
(5)ホップ品種の影響
ホップの品種を変更したホップ懸濁液を、製品1Lあたりホップ1gの濃度となるように添加した試験品を作製した。品種やバブリングの条件は、結果とともに表5に示した。
【0056】
【表5】
【0057】
表5に示されるように、試験区1は、ホップの香りが突出することなく、味に厚みが生じ、最も好ましい香味を有していた。試験区2は、ホップの香りが感じられるとともに、味にやや厚みが生じており、やや好ましい香味を有していた。従って、ホップとしてカスケード種のホップを用いた場合、ヘルスブルッカー種のホップを用いたサンプルほどの効果は得られないものの、同様の効果が認められた。よって、本発明の効果は、多少の差はあったとしても、様々なホップ品種において広く認められることが分かった。
【0058】
(6)レトロ/オルソ比による通気条件の特定の検討
上記の表2~5に記載した試飲サンプルのいくつかにおいて、通気処理前のホップ懸濁液におけるレトロネーザル香気成分/オルソネーザル香気成分の比、通気処理直後のホップ懸濁液におけるレトロネーザル香気成分/オルソネーザル香気成分の比、および通気処理後のホップ懸濁液中のリナロール濃度を測定した。以下の表6に、それぞれの値、通気処理の前後におけるホップ懸濁液のレトロネーザル香気成分/オルソネーザル香気成分の比の増加分、試飲サンプル中のリナロール濃度、および官能評価結果をまとめた。
【0059】
【表6】
【0060】
表6から、通気処理後のホップ懸濁液におけるホップのレトロネーザル香気成分/オルソネーザル香気成分の比が0.5以上となり、かつ、懸濁液中のリナロール濃度が、該懸濁液中のホップ含有量1g/Lあたり、41ppb未満(本実施例におけるホップ懸濁液は、1Lあたり100gのホップを含むため、表6から好ましい数値範囲と認められる懸濁液中の4100ppb未満という数値は、該懸濁液中のホップ含有量1g/Lあたり41ppb未満に相当する)となることが望ましいものと考えられた。また、ホップ懸濁液の通気処理は、レトロネーザル香気成分/オルソネーザル香気成分の比が、通気処理の前に比べて0.15以上増加する条件下で行われ、より好ましくは0.20以上増加する条件下、さらに好ましくは0.25以上増加する条件下で行われることが望ましいものと考えられた。さらに、製造される発酵アルコール飲料におけるリナロールの濃度が110ppb以下となることが望ましいものと考えられた。
【0061】
実施例2:ホップ香気付与剤の製造およびこれを含む発酵アルコール飲料の官能評価
本実施例では、実施例1で確認された効果と同様の効果を発酵アルコール飲料に付与すると考えられる香味付与剤を製造し、これをビールテイスト発酵アルコール飲料(発泡酒)に添加して、官能評価を行った。
【0062】
(1)ホップ香気付与剤の製造
ホップ香気付与剤は、生酵母を使用する方法により次の通り作製した。蒸留水1Lあたりにスクロース67gを溶解させた砂糖水を作製し、煮沸して温殺菌した後、氷水で冷却した。その砂糖水に所定の前処理(詳細は下記参照)をしたホップを添加し、そこにさらにビール酵母を添加し、1週間の主発酵を行なった。主発酵の終わったサンプルから酵母を除去したうえで、70℃の加温下で減圧蒸留を行い、揮発せずに残った成分を合成吸着剤(ダイヤイオンHP2MG、三菱ケミカル製)で回収・濃縮したものをホップ香気付与剤とした。
【0063】
ホップの前処理は次の通り行った。ホップの使用量は、最終的に製造されるホップ香気付与剤に対する未加工ホップの質量として20g/Lとし、添加量の10倍量の蒸留水をホップに加えた後、65℃で10分間、恒温水槽で処理し、直ちに氷水中で15℃まで冷却した。
【0064】
(2)ホップ香気付与剤を添加した試飲サンプルの評価
ホップ香気付与剤をビールテイスト発酵アルコール飲料(発泡酒)に添加した試飲サンプルの官能評価を行った。ホップ香気付与剤は製品1Lあたりにホップ2gの濃度になるよう添加した。ホップ香気付与剤の製造に用いたホップ品種とともに、結果を表7に示す。
【0065】
【表7】
【0066】
試験1は、ホップ香気付与剤を添加していないビール類市販品自体であるが、味の厚みが薄く、好ましくない香味を有していた。試験6~10は、それぞれブラボー種、シトラ種、ギャラクシー種、ヘルスブルッカー種、ネルソンソーヴィン種の品種から調製したホップ香気付与剤をビール類市販品に添加した試験品であり、ホップ香気はほとんど感じないものの、非常に厚みのある味わいとなり、より好ましい香味を有していた。試験2~5は、それぞれカスケード種、IBUKI種、トラディション種、ザーツ種の品種から調製したホップ香気付与剤をビール類市販品に添加した試験品であり、ホップ香気はほとんど感じられないものの、試験6~10と比較すると味の厚みの増加幅が小さく、やや好ましい香味を有していた。
【0067】
この結果から、ブラボー種、シトラ種、ギャラクシー種、ヘルスブルッカー種、ネルソンソーヴィン種を用いたホップ香気付与剤を添加すると、ホップ香気を著しく増強させることなく味の厚みを付与する効果が高いことが明らかとなった。
【0068】
実施例3:ホップ品種ごとの香気成分の分析
実施例2で明らかとなったホップ品種ごとの効果の差の原因を調査するため、ホップ品種ごとに含まれる香気成分を分析した。具体的には、各種ホップをジクロロメタンに懸濁し30分間振盪させたものを濾過し、ジクロロメタン中に溶出した画分をGC/MSで分析し、レトロネーザル香気成分/オルソネーザル香気成分の比を算出した。結果を、実施例2における官能評価結果とともに表8に示す。
【0069】
【表8】
【0070】
表8の結果から、味の厚みを増加させる効果のあった、ブラボー種、シトラ種、ギャラクシー種、ヘルスブルッカー種、ネルソンソーヴィン種はレトロネーザル香気成分がより多く含まれており、オルソネーザル香気成分に対するレトロネーザル香気成分の比率は0.76~0.80となった。一方、味の厚み付与に関する効果の低かったカスケード種、IBUKI種、トラディション種、ザーツ種ではレトロネーザル香気成分の比率は0.45~0.54と低い結果となった。
【0071】
以上の結果から、ホップ懸濁液を空気でバブリングしたものを添加する方法とレトロネーザル香気成分を特異的に残存させた香気付与剤を添加する方法のいずれにおいても、用いるホップ品種はオルソネーザル香気成分に対するレトロネーザル香気成分の比率が0.55以上のものが好ましいと考えられた。