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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】水中油型乳化物
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/005 20060101AFI20221031BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20221031BHJP
【FI】
A23D7/005
A23L27/00 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018102477
(22)【出願日】2018-05-29
(65)【公開番号】P2019205378
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174702
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 拓
(72)【発明者】
【氏名】泉 秀明
(72)【発明者】
【氏名】登坂 友美
(72)【発明者】
【氏名】太田 千晶
(72)【発明者】
【氏名】金子 翔
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103845228(CN,A)
【文献】特開平10-004938(JP,A)
【文献】特開平04-091750(JP,A)
【文献】Journal of food science, 2005年, Vol.70, No.9, pp.E505-509
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A23L
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(A)と(B)とのトランスグルタミナーゼ処理物を含有し、油脂含有量が10~50質量%である水中油型乳化物。
(A) 重量平均分子量が1000より大きく、50000以下であるコラーゲンペプチド
(B) (A)以外であって、タンパク質およびペプチドから選ばれる少なくとも1種
【請求項2】
前記(B)成分が、乳タンパク質もしくはその分解物を含む、請求項1に記載の水中油型乳化物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水中油型乳化物を配合した、飲食品。
【請求項4】
前記飲食品が調味料である、請求項3に記載の飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品に使用される水中油型乳化物に関する。
【背景技術】
【0002】
水中油型乳化物は、調味料などの各種の飲食品に配合され、風味、コク、まろやかさ、白濁感のような色調などを付与する。
【0003】
調味料などの飲食品は、酸性である場合や食塩を含む場合があり、このような飲食品に水中油型乳化物を配合すると、酸や食塩の作用によって乳化が不安定になり、凝集物や分離が生じ易くなる。流通前の殺菌工程やその後において飲食品に熱が加えられた場合、凝集物や分離の発生は促進され得る。
【0004】
従来、タンパク質をトランスグルタミナーゼで処理すると、分子内および分子間に架橋結合が形成され、食品の接着などの物性変化を起こすことが知られている。例えば、特許文献1には、トランスグルタミナーゼを添加混合して得られる改質タンパク質系素材が提案されている。実際に水中油型乳化物を作製した例としては、ビタミンAパルミテートを酸ゼラチン水溶液中に乳化させた後、カゼイン溶液とトランスグルタミナーゼを添加してカプセル化物を得たことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平4-91750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、分子量の大きいゼラチンを使用してトランスグルタミナーゼで処理すると粘度が高くなってしまい、製造時からその後に飲食品に添加して使用するまでの取り扱いが煩雑になり、ハンドリング性に問題があった。
【0007】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、耐熱性、耐酸性、耐塩性に優れ、ハンドリング性が良好な水中油型乳化物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ゼラチンを低分子化したコラーゲンペプチドの中でも、さらに特定分子量のコラーゲンペプチドを用いることで、ゲル化せず、ハンドリング性が良好で、耐熱性、耐酸性、耐塩性が向上した水中油型乳化物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の水中油型乳化物は、次の(A)と(B)とのトランスグルタミナーゼ処理物を含有することを特徴としている。
(A) 重量平均分子量が1000より大きいコラーゲンペプチド
(B) (A)以外であって、タンパク質およびペプチドから選ばれる少なくとも1種
【発明の効果】
【0010】
本発明の水中油型乳化物は、耐熱性、耐酸性、耐塩性に優れ、ハンドリング性が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明において、上記「(A)と(B)とのトランスグルタミナーゼ処理物」とは、(A)成分のコラーゲンペプチド、(B)成分のタンパク質およびペプチドから選ばれる少なくとも1種、およびトランスグルタミナーゼを含む組成物を、トランスグルタミナーゼが酵素活性を有する温度で処理したものである。好ましい態様において、当該組成物は、本発明の水中油型乳化物の製造工程において、(B)成分を配合した乳化液に、(A)成分およびトランスグルタミナーゼを添加し、あるいは(A)成分および(B)成分を配合した乳化液に、トランスグルタミナーゼを添加したものである。トランスグルタミナーゼは、乳化工程において乳化した乳化液や、乳化後に均質化した乳化液に添加してよいが、乳化後に均質化した乳化液にトランスグルタミナーゼを添加して酵素処理したものは、水中油型乳化物の安定性が良く、耐熱性、耐酸性、耐塩性も良好である。その他の態様としては、(A)成分、(B)成分、およびトランスグルタミナーゼを含む組成物を調製し、これをトランスグルタミナーゼが酵素活性を有する温度で処理して得られたものが挙げられる。この処理物を、水相に配合して、この水相と油相を混合して乳化し、水中油型乳化物とする。
【0013】
トランスグルタミナーゼ処理物は、(A)成分のコラーゲンペプチドと、(B)成分のタンパク質やペプチドがトランスグルタミナーゼの作用によって結合し高分子量化した架橋物を含んでいる。典型的な例において、SDS-PAGEによる分子量分布では、(A)成分のコラーゲンペプチド、(B)成分のタンパク質やペプチド、およびこれらの架橋物の各々に対応する領域が現れる。
【0014】
コラーゲンは、動物の真皮、靱帯、腱、骨、軟骨などを構成するタンパク質のひとつであり、本発明の水中油型乳化物においては、コラーゲンを多く含む任意の組織より採取したコラーゲン(その変性物であるゼラチンを含む。)をタンパク質分解酵素や、酸もしくは塩基触媒を用いて加水分解して得られるコラーゲンペプチドが使用される。
【0015】
(A)成分であるコラーゲンペプチドの重量平均分子量(Mw)は、1000より大きい。コラーゲンペプチドの重量平均分子量がこの範囲であると、ゲル化が抑制されハンドリング性が良く、かつ耐熱性、耐酸性、耐塩性を向上させることができる。この観点より、コラーゲンペプチドの重量平均分子量は、1100以上、1500以上、2000以上が順に好ましく、更に2800以上、3000以上、3500以上、4000以上が順に好ましく、更に4800以上、5000以上、6000以上が順に好ましく、更に9000以上、10000以上が順に好ましい。コラーゲンペプチドの重量平均分子量(Mw)の上限は特に限定されないが、例えば50000以下である。
【0016】
コラーゲンペプチドの重量平均分子量は、日本ゼラチン・コラーゲンペプチド工業組合の写真用ゼラチン試験法(PAGI法)第10版「20-2 平均分子量」に記載されている方法に従って算出することができる。PAGI法は、高速液体クロマトグラフィーを用いたゲル濾過法によってコラーゲンペプチドのクロマトグラムを求め、その分子量分布を推定する方法である。なお、市販のコラーゲンペプチドを使用する場合は、供給元から提供される製品情報に基づいて重量平均分子量(Mw)を判断することができる。
【0017】
上記のような重量平均分子量を持つコラーゲンペプチドとしては、例えば、ニッピ社製「FCP」、「FCP-A-H」、新田ゼラチン社製「GBB-50SP」、ユニテックフーズ社製「F5000HD」、「P5000HD」などが商業的に入手可能である。
【0018】
コラーゲンペプチドの含有量は、特に限定されないが、耐熱性、耐酸性、耐塩性を向上させる観点から、水中油型乳化物全量に対して0.1~6質量%が好ましく、0.3~4質量%がより好ましく、0.5~2質量%が更に好ましく、1~1.5質量%が特に好ましい。
【0019】
本発明の水中油型乳化物において、(A)成分のコラーゲンペプチドと共に使用される、(B)成分のタンパク質もしくはペプチドとしては、特に限定されないが、例えば、乳タンパク質もしくはその分解物や、それ以外には、大豆タンパク質、小麦タンパク質、エンドウタンパク質、酵母タンパク質などのタンパク質もしくはその分解物などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
本発明の水中油型乳化物は、コラーゲンペプチドが、トランスグルタミナーゼとの反応性に富み、乳化にも直接関与しないことから、コラーゲンペプチドが(B)成分のタンパク質もしくはペプチドと共に架橋し、耐熱性、耐酸性、耐塩性を向上するのに適している。
【0021】
本発明の水中油型乳化物は、(B)成分として、乳タンパク質もしくはその分解物を含むことが好ましい。乳タンパク質とは牛乳などの乳由来タンパク質をいう。乳由来のタンパク質は、およそ80%がカゼインであり、残りの20%はホエイタンパク質が占めている。カゼインはαs1-カゼインが全カゼインの45~50%を占めていて、その他のカゼインとしてはαs2-カゼインとβ-カゼイン、κ-カゼインが挙げられる。ホエイタンパク質はβ-ラクトグロブリンが最も多く、α-ラクトグロブリン、免疫グロブリン、血清グロブリン等を含んでいる。本発明で用いる乳タンパク質もしくはその分解物は、これらの成分から構成されるカゼインナトリウム、カゼインカリウム、ホエイタンパク質、酸カゼイン、レンネットカゼイン、それらの分解物である乳ペプチド、ミルクプロテインコンセントレート、トータルミルクプロテイン、また、これらを含む全脂粉乳、脱脂粉乳、ホエイパウダー、バターミルクパウダーなどが挙げられる。これらの乳タンパク質の中でも、カゼイン由来の乳タンパク質を含むことが好ましく、カゼイン由来の乳タンパク質としては、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、酸カゼイン、カゼイン加水分解物などを含むことが好ましく、これらを組み合わせて使用してもよい。
【0022】
(B)成分の含有量は、特に限定されず、その種類にもよるが、乳化剤としての特性を発揮し、更に耐熱性、耐酸性、耐塩性を向上させる観点から、水中油型乳化物全量に対して0.1~6質量%が好ましく、0.3~4質量%がより好ましく、0.5~2質量%が更に好ましく、1~1.5質量%が特に好ましい。
【0023】
本発明において用いられるトランスグルタミナーゼ(Transglutaminase EC2.2.2.13)は、タンパク質およびペプチド鎖中のグルタミン残基のγ-カルボキシアミド基と、一級アミン間のアミノアシル転移反応を触媒する酵素である。トランスグルタミナーゼがアシル受容体としてタンパク質中のリジン残基のε-アミノ基に作用した場合、分子内および分子間にε-(γ-Glu)Lys架橋結合が形成される。この反応により、タンパク質分子が架橋重合化し、食品などの物性変化や接着などの現象を起こす。
【0024】
トランスグルタミナーゼとしては、製剤化された市販品を用いることができる。トランスグルタミナーゼ製剤としては、例えば、味の素(株)から販売されている「アクティバ」TGシリーズのアクティバKS-CT、アクティバTG-S、アクティバTG-S-NF、アクティバTG-Mコシキープなどが挙げられ、その中でもアクティバKS-CTが好適に用いられる。
【0025】
トランスグルタミナーゼは自然界に広く存在し、微生物由来、動物由来などがあり、哺乳類の肝臓や血液に分布するトランスグルタミナーゼのようなカルシウム依存性のもの、微生物由来のトランスグルタミナーゼのようなカルシウム非依存性のものがあるが、汎用性が高いカルシウム非依存性のものが好ましい。
【0026】
(B)成分のタンパク質およびペプチドから選ばれる少なくとも1種と、(A)成分のコラーゲンペプチドとの質量比((B)成分の質量/(A)成分の質量)は、耐熱性、耐酸性、耐塩性を向上させる観点から、0.1~4が好ましく、0.3~3がより好ましく、0.5~2が更に好ましく、0.8~1.5が特に好ましい。
【0027】
(B)成分のタンパク質およびペプチドから選ばれる少なくとも1種に対するトランスグルタミナーゼの酵素活性(トランスグルタミナーゼの酵素活性/(B)成分1g)は、耐熱性、耐酸性、耐塩性を向上させる観点から、100~2500nkatが好ましく、300~2000nkatがより好ましく、500~1500nkatが更に好ましい。
【0028】
(B)成分のタンパク質およびペプチドから選ばれる少なくとも1種と、油脂との質量比((B)成分の質量/油脂の質量)は、耐熱性、耐酸性、耐塩性を向上させる観点から、0.01~0.3が好ましく、0.03~0.2がより好ましく、0.05~0.1が更に好ましい。
【0029】
本発明の水中油型乳化物に使用される油脂は特に限定されないが、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、菜種油、大豆油、綿実油、コーン油、ヒマワリ油、米油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、シア脂、サル脂、マンゴー油、イリッペ脂、カカオ脂、豚脂(ラード)、牛脂、乳脂、それらの分別油、加工油(硬化およびエステル交換反応のうち1つ以上の処理がなされたもの)などが挙げられる。これらの油脂は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、高度不飽和脂肪酸としてα-リノレン酸を含有するシソ油、エゴマ油、アマニ油や、高度不飽和脂肪酸としてEPAやDHAを含有する魚油、海藻油や、高度不飽和脂肪酸としてγ-リノレン酸を含有する月見草油、ボラージ油などの高度不飽和脂肪酸含有油脂を用いることができる。
【0030】
本発明の水中油型乳化物における油脂含有量は、特に限定されないが、10~50質量%が好ましく、20~40質量%がより好ましい。
【0031】
本発明の水中油型乳化物には、以上に説明した各成分に加えて、更に他の成分を配合することができる。このような他の成分としては、例えば、糖質、乳化剤、抗酸化剤、着色料、フレーバーなどが挙げられる。
【0032】
糖質としては、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノースなどの単糖類、ラクトース、スクロース、マルトース、トレハロースなどの二糖類、オリゴ糖、デキストリン、デンプンなどの多糖類、増粘多糖類、糖アルコールなどが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
デキストリンは、デンプンを化学的または酵素的方法により低分子化したデンプン部分加水分解物であり、市販品などを使用できる。デンプンの原料としては、コーン、キャッサバ、米、馬鈴薯、甘藷、小麦などを挙げることができる。デキストリンとして具体的には、水あめ、粉あめ、マルトデキストリン、サイクロデキストリン、焙焼デキストリン、分岐サイクロデキストリン、難消化性デキストリンなどが挙げられる。
【0034】
デンプンとしては、例えば、馬鈴薯デンプン、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦デンプン、米デンプン、甘藷デンプン、タピオカデンプン、緑豆デンプン、サゴデンプンなどの天然デンプン、および天然デンプンを原料とする加工デンプン、例えば、エーテル化処理したカルボキシメチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプンや、エステル化処理したリン酸デンプン、オクテニルコハク酸デンプン、酢酸デンプンや、湿熱処理デンプン、酸処理デンプン、架橋処理デンプン、α化処理デンプンなどが挙げられる。
【0035】
増粘多糖類としては、例えば、プルラン、アラビアガム、キサンタンガム、トラガントガム、ジェランガム、グァーガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、カラギーナン、寒天、LMペクチン、HMペクチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどが挙げられる。
【0036】
糖質の配合量は、特に限定されないが、水中油型乳化物全量に対して5~50質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましく、15~30質量%が更に好ましい。
【0037】
乳化剤は、食品用であれば特に限定されるものではなく、例えば、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、スフィンゴ脂質、植物ステロール類、トマト糖脂質、サポニンなどが挙げられる。乳化剤を配合する場合、通常は、油溶性乳化剤は油相に、水溶性乳化剤は水相に配合する。
【0038】
以下に、本発明の水中油型乳化物の製造方法の一例について説明する。
【0039】
本発明の水中油型乳化物は、乳化工程として、(B)成分のタンパク質およびペプチドから選ばれる少なくとも1種などを含む水相と、上記のような油脂を含む油相を混合し、ホモミキサーなどで攪拌後、均質化工程として、ホモジナイザーなどで均質化することにより、水中油型乳化物を得ることができる。(A)成分のコラーゲンペプチド及びトランスグルタミナーゼは、均質化後などに添加して酵素処理する。
【0040】
乳化工程では、各原材料を乳化機の撹拌槽に投入して撹拌混合し、その後の均質化工程では、圧力式ホモジナイザーなどを用いて均質化する。
【0041】
原材料の配合比は、特に限定されないが、例えば、油脂、(A)成分のコラーゲンペプチド、(B)成分のタンパク質およびペプチドから選ばれる少なくとも1種、およびその他水以外の原材料の合計量100質量%に対して水50~200質量%の範囲内にすることができる。
【0042】
配合手順は、特に限定されないが、例えば、(B)成分のタンパク質およびペプチドから選ばれる少なくとも1種、および糖質などの水相に配合する成分を水に室温で分散後、加熱下に攪拌し、あるいは当該成分を加熱した水に分散、攪拌して完全に溶解させた後、ホモミキサーで攪拌しながら、油脂を加熱溶解させたものを滴下して乳化することができる。
【0043】
得られた乳化液は、均質化工程において、圧力式ホモジナイザーに供給することによって油滴サイズが微細化される。例えば、市販の圧力式ホモジナイザーを用いて、10~250kgf/cmの程度の圧力をかけて均質化し、油滴サイズを微細化することができる。
【0044】
次に、均質化した乳化液に(A)成分のコラーゲンペプチド及びトランスグルタミナーゼを添加して酵素処理する。トランスグルタミナーゼは製剤として添加してもよい。酵素処理の条件は特に限定されないが、至適pH5~8の幅広い範囲で活性を示すことから、至適温度と反応時間の関係から導かれる反応量を考慮し、工業的なスケールでは、例えば50℃で1~2時間行うことができる。その後、トランスグルタミナーゼの失活処理を行う。失活処理は、トランスグルタミナーゼが失活する温度域と、温度に応じた失活時間を考慮し、例えば90℃で10~15分行うことができる。以上の酵素処理によって、水中油型乳化物に含まれる(A)成分のコラーゲンペプチドと、(B)成分のタンパク質やペプチドが架橋される。
【0045】
均質化処理を行った後の水中油型乳化物は、冷却される。冷却は、油脂の結晶性の制御等も考慮し、例えば、プレート式、チューブ式、掻き取り式等の熱交換器を用いて、短時間で1~7℃の温度範囲まで冷却することが好ましい。冷却後、例えば冷却温度にて1~2日程度エージングを行ってもよい。
【0046】
また、均質化の前後の工程として、加熱殺菌処理を行ってもよく、また均質化処理を行った後に加熱殺菌処理を行い、更にその後に均質化処理を行ってもよい。
【0047】
更に、上記の工程を経て得られた水中油型乳化物を乾燥粉末化して、粉末油脂を得ることもできる。水中油型乳化物を乾燥粉末化する方法としては、一般的に知られている噴霧乾燥法、真空凍結乾燥法、真空乾燥法などを用いることができる。噴霧乾燥の場合、例えば、水中油型乳化物を高圧ポンプで噴霧乾燥機の入口に供給し、高温熱風を吹き込み、噴霧乾燥機の槽内に上方から噴霧する。噴霧乾燥された粉末は槽内底部に堆積される。噴霧乾燥機としては、例えば、ロータリーアトマイザー方式やノズル方式で噴霧するスプレードライヤーを用いることができる。次に、噴霧乾燥された粉末を噴霧乾燥機の槽内から取り出した後、振動流動槽などにより搬送しながら冷風で冷却することによって、粉末油脂を製造することができる。粉末油脂は、水に添加すると元の水中油型乳化物となり、油滴が再分散した状態となる。
【0048】
本発明の水中油型乳化物は、耐熱性、耐酸性、耐塩性に優れ、粘度が低く、製造時からその後に飲食品に添加して使用するまでの取り扱いが容易でハンドリング性が良く、乳化も安定である点から、各種の飲食品に配合して用いることができる。飲食品としては、特に限定されないが、例えば、調味料に好適に用いることができる。調味料としては、例えば、醤油、穀物酢、マヨネーズ、ドレッシング、カレー・シチュー用ルー、たれ、麺つゆ、鍋料理用つゆ、マスタード、デミグラスソース、ホワイトソース、トマトソース、タルタルソース、オランデーズソースなどが挙げられる。
【0049】
飲食品は、高温での殺菌が必要とされる場合やその後において飲食品に熱が加えられる場合があり、熱に曝されても凝集物や分離が生じにくい耐熱性が求められる。例えば、常温でかつ長期間の消費期限が要求される場合には、高温での殺菌が必要とされ、レトルト殺菌等のように高温での殺菌処理を行う場合がある。更に、酸性である場合や食塩を含む場合があり、このような飲食品に水中油型乳化物を配合すると、酸や食塩の作用によって乳化が不安定になり、凝集物や分離が生じ易くなる。流通前の殺菌工程やその後において飲食品に熱が加えられた場合、凝集物や分離の発生は促進され得る。本発明の水中油型乳化物は、耐熱性、耐酸性、耐塩性に優れていることから、こうした飲食品に好適に用いることができる。
【0050】
本発明の水中油型乳化物は、調味料の他、例えば、ゼリー、ムースなどの冷菓、コーヒー、乳飲料、スポーツ飲料等の酸性飲料、スープなどに用いることができる。
【実施例
【0051】
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)水中油型乳化物の作製
水中油型乳化物の作製に使用した原料を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
<製法1>
表2~表4に記載の油脂を60℃に加熱し、油相とした。表2~表4に記載の量の水(約20℃)に、表2~表4に記載の(B)、糖質を添加し60℃に加熱し、水相とした。水相と油相を混合し、圧力式ホモジナイザーを用いて150kgf/cmの圧力で均質化した後、アクティバKS-CT(味の素(株)製)(実施例1~21、比較例2、4、7)、コラーゲンペプチド(実施例1~21、比較例5~7)もしくはゼラチン(比較例3、4)を添加し、50℃で1時間酵素処理を行った。酵素処理後、90℃で15分間失活処理を行い、乳化液として水中油型乳化物を得た。
【0054】
また、上記において得られた乳化液を、ノズル式スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し、水分が約1質量%の粉末油脂を得た(噴霧乾燥条件:入口温度180℃)。
<製法2>
表2~表4に記載の油脂を60℃に加熱し、油相とした。表2~表4に記載の量の水(約20℃)に、表2~表4に記載の(A)、(B)、ゼラチン、糖質、アクティバKS-CT(味の素(株)製)(実施例1~21、比較例2、4、7)を添加し60℃に加熱し、水相とした。水相と油相を混合し、圧力式ホモジナイザーを用いて150kgf/cmの圧力で均質化し、50℃で1時間酵素処理を行った。酵素処理後、90℃で15分間失活処理を行い、乳化液として水中油型乳化物を得た。
【0055】
また、上記において得られた乳化液を、ノズル式スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し、水分が約1質量%の粉末油脂を得た(噴霧乾燥条件:入口温度180℃)。
(2)評価
上記において得られた水中油型乳化物について、以下の試験及び評価を行った。
[性状]
上記において作製した水中油型乳化物を入れた容器を傾けた際の、水中油型乳化物の挙動を以下の評価基準に従って目視で評価した。なお、本評価において×とした試験品については、以降の試験及び評価は行わなかったため、「-」と記入した。
評価基準
○:流動性があり、ハンドリング性が良い
×:傾けても流れ出さず、ハンドリング性が悪い
[水中油型乳化物のメディアン径]
上記において作製した水中油型乳化物と、これをpH4に調整した水中油型乳化物について、島津製作所製:SALD-2300湿式レーザー回折装置により測定し、粒子径分布の中央値としてメディアン径を求めた。表2~表4において、pH4調整時の水中油型乳化物のメディアン径が、その上欄の水中油型乳化物のメディアン径に比べて大きい程、油滴が凝集して酸に対する安定性が悪いことを示している。
評価基準
◎:pH4調整後に分離せず、比率が10未満
○:pH4調整後に分離せず、比率が10以上25未満
△:pH4調整後に分離せず、比率が25以上
×:pH4調整後二層に分離
[水中油型乳化物の耐酸・耐熱性]
85℃に調温した酸水溶液に水中油型乳化物を加え、最終的なpHを4.0に調整し、以下の評価基準に従って目視で評価した。また、水中油型乳化物を噴霧乾燥して得た粉末油脂を再溶解させた再溶解液についても同様の基準で評価した。
評価基準
◎:凝集物が見られない
○:やや凝集物が見られる
△:凝集物が見られる
×:二層に分離、乳化破壊が確認される
[穀物酢へ添加した水中油型乳化物の耐酸・耐熱性]
80℃に調温した穀物酢に水中油型乳化物を加え、15分保持後、以下の評価基準に従って目視で評価した。
評価基準
◎:凝集物が見られない
○:やや凝集物が見られる
△:凝集物が見られる
×:二層に分離、乳化破壊が確認される
[水中油型乳化物の耐塩・耐熱性]
85℃に調温した食塩水に水中油型乳化物を加え、最終的な塩濃度を20%に調整し、以下の評価基準に従って目視で評価した。また、水中油型乳化物を噴霧乾燥して得た粉末油脂を再溶解させた再溶解液についても同様の基準で評価した。
評価基準
◎:凝集物が見られない
○:やや凝集物が見られる
△:凝集物が見られる
×:二層に分離、乳化破壊を確認
[濃口醤油へ添加した水中油型乳化物の耐塩・耐熱性]
80℃に調温した濃口醤油に水中油型乳化物を加え、15分保持後、以下の評価基準に従って目視で評価した。
評価基準
◎:凝集物が見られない
○:やや凝集物が見られる
△:凝集物が見られる
×:二層に分離、乳化破壊を確認
上記の評価結果を表2~表4に示す。同表の各評価において、△、○、◎は発明の課題解決において基準を満たし、○、◎は課題解決上より望ましい基準として示している。
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
【表4】
【0059】
表2~表4に示したように、実施例1~21の水中油型乳化物は、重量平均分子量(Mw)が1000より大きいコラーゲンペプチドと乳タンパク質が配合され、トランスグルタミナーゼ処理されている。実施例1~21の水中油型乳化物は、トランスグルタミナーゼ量の少ないものに一部に凝集物が見られたものの(実施例8、9)、耐熱性、耐酸性、耐塩性を有し、乳化も安定していた。また低粘度でハンドリング性の良いものであった。
【0060】
なかでも、実施例11~14、16は、重量平均分子量(Mw)10000のコラーゲンペプチドの配合量が1.00質量%以上であり、かつ、乳タンパク質の配合量が1.25質量%以上であり、いずれの試験においても凝集物が見られず(評価:◎)、特に耐熱性、耐酸性、耐塩性に優れていることが確認された。
【0061】
一方、比較例1は、乳タンパク質を含むが、コラーゲンペプチドを含まず、トランスグルタミナーゼ処理されていない。この場合、いずれの試験においても凝集物が生じ、耐酸・耐熱性、耐塩・耐熱性を確保できない。比較例2は、乳タンパク質を含み、トランスグルタミナーゼ処理されているが、コラーゲンペプチドを含まない。この場合、耐酸・耐熱性を確保することが難しい。比較例3は、乳タンパク質およびゼラチンを含むが、コラーゲンペプチドを含まず、トランスグルタミナーゼ処理されていない。また、比較例4は、乳タンパク質およびゼラチンを含み、トランスグルタミナーゼ処理されているが、コラーゲンペプチドを含まない。この場合、ゲル化が生じ、ハンドリング性が悪くなる。比較例5、6は、乳タンパク質およびコラーゲンペプチドを含むが、トランスグルタミナーゼ処理されていない。この場合、いずれの試験においても凝集物が生じ、耐酸・耐熱性、耐塩・耐熱性が得られない。比較例7は、乳タンパク質およびコラーゲンペプチドを含み、トランスグルタミナーゼ処理されているが、コラーゲンペプチドの重量平均分子量(Mw)が1000である。この場合、耐酸・耐熱性を確保することが難しい。