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特許7166802部材、特に電子部材とガラス材料またはガラスセラミック材料との接合体
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  • 特許-部材、特に電子部材とガラス材料またはガラスセラミック材料との接合体 図1
  • 特許-部材、特に電子部材とガラス材料またはガラスセラミック材料との接合体 図2a
  • 特許-部材、特に電子部材とガラス材料またはガラスセラミック材料との接合体 図2b
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】部材、特に電子部材とガラス材料またはガラスセラミック材料との接合体
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/10 20060101AFI20221031BHJP
   B32B 17/06 20060101ALI20221031BHJP
   B32B 18/00 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
C03C27/10 E
B32B17/06
B32B18/00 B
【請求項の数】 11
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018117807
(22)【出願日】2018-06-21
(65)【公開番号】P2019006671
(43)【公開日】2019-01-17
【審査請求日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】10 2017 210 509.7
(32)【優先日】2017-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】10 2018 209 589.2
(32)【優先日】2018-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マティアス ヨッツ
(72)【発明者】
【氏名】マーテン ヴァルター
(72)【発明者】
【氏名】フローリアン レッシュ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ヴィーゲル
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-517805(JP,A)
【文献】特開2003-275953(JP,A)
【文献】特表2016-501809(JP,A)
【文献】特開2008-162861(JP,A)
【文献】国際公開第2016/047210(WO,A1)
【文献】特開2009-177034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/00 - 29/00
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材とガラス材料またはガラスセラミック材料との接合体であって
・前記部材は、第1の膨張係数αを有し、
・前記ガラス材料またはガラスセラミック材料は、第2の膨張係数αを有し、
・前記ガラス材料またはガラスセラミック材料は、厚みと、表面内の全体厚みムラ(TTV)と、局所厚みムラ(LTV)と、WARPとを有する表面を有し、
・前記部材とガラス材料またはガラスセラミック材料との接合体は、前記ガラス材料またはガラスセラミック材料内の残留応力を有する
接合体において、
・前記接合体は、幾何学的および材料物理学的適合度
KG=10×(α/α)×((1-(LTV/1.5))+(1-(TTV/7))+(1-(WARP/200)))
により特徴付けられ、常に
KG≧4であり、かつ
前記部材の前記第1の膨張係数α は、前記ガラス材料またはガラスセラミック材料の前記第2の膨張係数α よりも大きいかまたはこれと同一である
ことを特徴とする接合体。
【請求項2】
前記部材の前記第1の膨張係数αは、前記ガラス材料またはガラスセラミック材料の前記第2の膨張係数αの最大で3倍であることを特徴とする、請求項記載の接合体。
【請求項3】
前記ガラス材料またはガラスセラミック材料の前記表面内の全体厚みムラ(TTV)は、10μm未満であることを特徴とする、請求項1または2記載の接合体。
【請求項4】
前記ガラス材料またはガラスセラミック材料の前記局所厚みムラ(LTV)は、25mm以下の面積で、5μm未満であることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の接合体。
【請求項5】
直径6インチの接合部材に関して、前記ガラス材料またはガラスセラミック材料内のWARPは、300μm未満であることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の接合体。
【請求項6】
前記部材は、シリコン、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、ガラス、セラミック、炭化ケイ素、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム、リン化インジウム、サファイアおよび石英の群から選択される1つの材料または複数の材料を含むことを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の接合体。
【請求項7】
前記ガラス材料は、
・ソーダ石灰ガラス、
・ホウケイ酸ガラス
・無アルカリアルミノホウケイ酸ガラス
であることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の接合体。
【請求項8】
前記ガラス材料は、板ガラスであることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の接合体。
【請求項9】
前記ガラスの厚みは、200μm未満であることを特徴とする、請求項記載の接合体。
【請求項10】
前記接合体は、前記ガラス材料またはガラスセラミック材料と前記部材とを接合するための接合材料を含むことを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項記載の接合体。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項記載の接合体の製造方法であって、以下:
・膨張係数αを有する部材と、膨張係数αを有するガラス材料またはガラスセラミック材料とを準備するステップと、
・前記ガラス材料またはガラスセラミック材料を矯正するステップと、
・前記部材の表面および/または前記ガラス材料もしくはガラスセラミック材料の表面を、接合材料の薄層で濡らすステップと、
・前記部材と前記ガラス材料またはガラスセラミック材料とを圧着して接合体を得るステップと
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材とガラス材料またはガラスセラミック材料との接合体であって、前記部材が、特に電子部材であり、好ましくは基板であり、特に電子基板であり、極めて好ましくはウェハーである接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
こうした接合体は、特にエレクトロニクス産業において使用されている。この産業分野では、部材、特にウェハー、例えばシリコンもしくはタンタル酸リチウムまたはそれ以外のベース材料で作製されたウェハーと、ガラス材料またはガラスセラミック材料とを接合して接合体とすることが一般に行われている。こうしたウェハー材料と、「キャップウェハー」としても使用可能であるガラス材料またはガラスセラミック材料との接合は、接着剤を用いて行われる。キャップウェハーは、その下にある接合体機能層のカバーとしての役割を果たす。この場合、この機能層は、ウェハーの形態で存在することもできる。こうして接合した後に、この接合体を個々の多数の部材に分割する。ガラス材料またはガラスセラミック材料とベース材料とを接合するためには、ガラス材料またはガラスセラミック材料、特にガラスウェハーは、相応する装置で吸着され、矯正される(glattziehen、引っ張ってもしくは延ばして滑らかにする)。その後、このガラス材料もしくはガラスセラミック材料またはこれらの材料で作製されたキャップウェハーを接着剤の薄層で濡らし、これを、ベース材料、特に部材ウェハーに圧着する。ベース材料に接着剤を付与し、このベース材料にキャップウェハーを圧着することも可能である。こうした接合の過程でガラス内に応力が生じ、接着過程によるこの応力は、ガラス内に長期間とどまり得る。もう1つの問題点は、部材が、温度差によって湾曲、特に撓みを生じる場合があることである。部材をガラス材料またはガラスセラミック材料と接合した後に、この接合体を分割する。この分割は、ダイシング法とも呼ばれる。ダイシング法によって、ウェハーをデバイスのサイズに分割する。例えば8インチ(20.32cm)のサイズのウェハーから2000以上の部材を得ることができる。この分割を、様々な分離法によって行うことができる。1つの可能性は、極めて高速に回転するディスクが存在し、かつ相応する切削によって個々のワークに分けるタイプの研削切断装置を用いた分離である。あるいは、レーザにより切断を実現することも可能である。この分割の際にガラス内に微小クラックが生じ、これによって部材の機能不良が生じ得る。
【0003】
従来技術によるこうした接合体のもう1つの欠点は、部材の材料の膨張係数αが、ガラス材料またはガラスセラミック材料の膨張係数αよりも低く選択されている点にある。従来技術では、部材の材料の膨張係数が、ガラス材料またはガラスセラミック材料の膨張係数をわずかにしか下回らないかまたはこれと同一である場合が多い。しかしこのことには、ガラス材料またはガラスセラミック材料の下面に引張応力が生じ、この引張応力によってこの接合体の機能不良が生じるという欠点がある。
【0004】
従来技術によるこうした接合体のもう1つの欠点は、ガラス材料またガラスセラミック材料の接着剤側表面の表面凹凸に基づき、接着剤の比較的薄い層を全面的に適用することができず、かつ接着剤で濡れていないガラス表面に引張応力が生じ、この引張応力によってこの接合体の応力腐食割れや長期にわたる機能不良が生じる点にある。
【0005】
欧州特許第2912681号明細書(EP 2912681B1)からは、SiC半導体ウェハーの製造方法が公知であり、このウェハーは、0.1~1.5μmの局所厚みムラ(LTV)および0.01~0.3μmのSFQR値(Site Front-Side Least Squares Focal Plane Range)を有する。欧州特許第2912681号明細書から公知のSiC半導体ウェハーと、基板との接合および接合体の構造は、欧州特許第2912681号明細書には記載されていない。
【0006】
独国特許出願公開第3931213号明細書(DE 3931213A1)には、両表面の粗さが低い半導体の平坦度の干渉測定のための方法および装置が記載されている。
【0007】
さらに、電子用途のための超薄ガラスの使用は、
SCHOTT:“Ultra-Thin Glass for Electronics Application”, 2015年11月版, パンフレット,
www.schott.com/advanced_optics/english/download/index.html
および
SCHOTT:“AF 32 Thin Glass”, 2013年5月, パンフレット,
www.schott.com/advanced_optics/english/download/index.html/
から公知である。
【0008】
上記の文献から公知の薄板ガラスの接合体における使用の場合に、接着剤が、部材を接合体中に固定するためには十分ではないことは不利であった。さらに引張応力が接合体内に生じており、この引張応力によって、接合体において使用されたガラスの破壊が生じ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】欧州特許第2912681号明細書
【文献】独国特許出願公開第3931213号明細書
【非特許文献】
【0010】
【文献】SCHOTT:“Ultra-Thin Glass for Electronics Application”, 2015年11月版, www.schott.com/advanced_optics/english/download/index.html
【文献】SCHOTT:“AF 32 Thin Glass”, 2013年5月, www.schott.com/advanced_optics/english/download/index.html/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって本発明の課題は、こうした従来技術の欠点を回避するとともに特に高寿命であることを特徴とする接合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題は本発明によれば、接合体が適合度KGにより特徴付けられ、前記適合度KGに関して
KG=10×(α/α)×((1-(LTV/1.5))+(1-(TTV/7))+(1-(WARP/200)))
が成り立ち、ここで、常に
KG≧4であり、特にKG≧15であり、好ましくはKG≧30である
ことにより解決される。
【0013】
ここで、LTV、TTVおよびWARPは、ガラス基板の特異的なパラメーターである。この場合、TTVは、ガラス基板内の全体厚みムラ(Dickenunterschied)であり、LTVは、ある面積での表面品質に特徴的である局所厚みムラ(Dickenschwankung)であり、かつWARPは、ガラス基板の変形(Verbiegung)である。WARPの原因は、製造に起因するガラス内の残留応力である。したがって、適合度はガラス特性により実質的に決定される。
【0014】
こうした適合度を特徴とする接合体は、驚くべきことに、従来の接合体よりも高寿命であり、かつ材料の適合性が高い。さらにこうした接合体は、ガラス内の残留応力がわずかであり、かつ表面品質が高い。さらにこれらの接合体は、接着剤により部材のガラス基板への密着性が最適化されることを特徴とし、ここで、接着剤の厚みは10μmにしかすぎないことが多い。創意に富む選択により、接着剤のできるだけ一様な厚みと、接着剤の全面的な適用とが保証され、それにより、接着剤厚みがごくわずかな場合でも確実に密着性を可能にする。大幅に一様な厚みならびに接着剤の全面的な適用に基づき、製造プロセスにおける接着剤の一様でない収縮は回避される。これにより、接着接合の剥離の原因となり得る引張応力のガラスへの伝達が許容できないほど不均質にはならない。
【0015】
示した適合度を実現する接合体は、多数のガラス品質からのWARP、TTV、LTVおよび膨張係数に関しての創意に富む選択である。
【0016】
部材(部材ウェハー)およびガラス基板(ガラスウェハー)の双方の膨張係数と、ガラス基板のLTV、TTVおよびWARPとの、驚くべきことに見出された相互作用は創意に富むものであって、この相互作用は予測できない結果を生じる。これらの接合体は、表面品質が高くて応力がわずかであり、かつガラス基板への部材の密着性が良好であることを特徴とする。
【0017】
ボンディングまたは接合プロセスの際に生じる応力に基づくガラス内の破壊を防止するために、従来技術とは対照的に、部材(部材ウェハー)の膨張係数αがガラス材料またはガラスセラミック材料(ガラスウェハー)の膨張係数αよりも常に高い場合に好ましい。αがαよりも高い場合、引張応力がガラス材料またはガラスセラミック材料の接着剤側に固定され、ここで、接着剤厚みが均質で全面的な接着が、ガラス材料またはガラスセラミック材料内の割れ発生または割れ伝播を阻止する。接合体内の応力ゼロ線の移動により、引張応力は明らかに低下しており、そのためガラス寿命が延びる。こうした選択では、ガラスの接着剤側と向かい合う側に存在する圧縮応力は、寿命を縮めるように作用しない。しかし、こうした選択には上限がある。例えば、部材の膨張係数αがガラス材料またはガラスセラミック材料の膨張係数αの3倍を上回ることのないように留意しなければならない。なぜならば、膨張係数αがこれよりも大きくなると、温度変化が生じた場合に、部材のサイズが、ガラス材料またはガラスセラミック材料のサイズよりも極めて大幅に変化してしまうためである。その場合、これによってガラス材料またはガラスセラミック材料の接着側に高すぎる引張応力が生じ、この引張応力により、接着剤が補強するにもかかわらず接着接合の機能不良を生じる。部材の第1の膨張係数αは、ガラス材料またはガラスセラミック材料の第2の膨張係数αの最大で3倍である。
【0018】
引張応力が、ガラス材料の第2の膨張係数に比べて部材ウェハーのより小さい膨張係数に基づき、ガラスの接着剤側と向かい合う側に生じる場合には、極めて早期にガラス材料の機能不良が生じることになる。
【0019】
接着剤が表面を完全に濡らす場合に特に好ましい。完全に濡れた場合、接合体内の引張応力が減少し、その結果、応力腐食割れが回避される。さらに、接着剤によって水は割れ目から遠ざけられ、これによって応力腐食割れの速度が低下するか、あるいはさらには応力腐食割れが完全に回避される。
【0020】
特に好ましい一実施形態では、ガラス材料またはガラスセラミック材料の表面内の全体厚みムラ(TTV)が10μm未満であり、好ましくは7μm未満であることが保証される。こうした値とすることで、部材とガラス材料またはガラスセラミック材料との適合性が高くなる。このことは、部材とガラスセラミック材料とを接合するための接着層の厚みが通常は10μm未満であることに起因し得る。接着層は、厚みが10μm未満と薄いため、2つの層の間でこれよりも大きな凹凸を相殺することは不可能である。
【0021】
TTV(Total Thickness Variation)は、部材の下方のガラス基板の厚みが一様でないことを記載し、例えば、小さなうねりまたはこぶが接合箇所で生じ得る。この差を、接着剤が相殺しなければならず、相応して一様でない厚みにならなければならない。10μm未満の厚みを有する極めて薄い接着層のために、ガラス基板のTTVができるだけ小さいことが有利であり、部材(部材ウェハー)と、ガラス(ガラスウェハー)との高い適合性を生じる。TTVは通常は10μm、8μm、7μm、6μm、5μm、4μm、3μm、2μm未満である。
【0022】
もう1つのさらなる実施形態では、ガラス材料またはガラスセラミック材料の25mm以下の面積での局所厚みムラ(LTV)によって特徴付けられる表面品質が、5μm未満であり、好ましくは2μm未満であることが規定されている。なぜならば、こうした表面品質によって、ガラス材料またはガラスセラミック材料を接合するための接合材料、特に接着剤の密着性が特に良好になるためである。このLTVが大きすぎると、表面粗さによって接合材料、特に接着剤の密着性が低下する。なぜならば、層厚の変化を接着剤によって相殺することは不可能であるためである。LTVは、表面粗さの「エッジ急峻度(Flankensteilheit)」を特徴付け、これは角度比が不都合な場合、接着剤の密着性が低下する。LTVは通常は5μm以下、2μm以下、1.0μm以下、0.8μm以下、0.6μm以下、0.5μm以下、0.4μm以下、0.3μm以下、0.2μm以下、0.1μm以下である。
【0023】
もう1つのさらなる実施形態では、例えば直径6インチ(15.24cm)の接合部材、例えばキャップウェハーに関して、ガラス材料またはガラスセラミックのWARPが300μm未満であり、好ましくは200μm未満であることが規定されている。WARPは、ガラス基板内の製造プロセスからの残留応力に基づくガラスウェハー/ガラスセラミックウェハーの変形を呼ぶ。ガラス材料またはガラスセラミック材料は、各ボンディングプロセスで矯正されるため、この矯正の過程で、WARPに応じて、この材料内に付加的な応力が生じ、そこに残るため、部材と、ガラス材料またはガラスセラミック材料との接合体は、ガラス材料またはガラスセラミック材料内の残留応力(WARP)を有する。接合体内の接着剤面でのこうした応力を最小限に抑えるためには、ガラス材料またはガラスセラミック材料内のWARPが≦300μmの値を上回らず、好ましくは≦200μmの値を上回らず、特に≦150μm、≦120μm、≦100μm、≦80μm、≦60μm、≦40μm、≦20μmの値を上回らないことが必要である。驚くべきことに、WARPが小さい場合、ガラス基板表面からの接着剤層の剥離および/またはガラス基板との接着に基づき生じる高すぎる応力が、本発明による適合度の条件に従う場合に回避される。
【0024】
部材、特に電子部材、好ましくはウェハーの材料としては、シリコンまたはタンタル酸リチウムが使用される。それ以外の材料は、ニオブ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、ガラス、セラミック、炭化ケイ素、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム、リン化インジウム、サファイア、石英である。
【0025】
ガラス材料としては、好ましくはソーダ石灰ガラスまたはホウケイ酸ガラス、あるいは無アルカリガラス、無アルカリアルミノホウケイ酸ガラスまたはアルミノケイ酸ガラス、Schott AG社(マインツ所在)製のB270ガラス、D263ガラス、AS87ガラス、MEMpaxガラスまたはAF32ガラスが使用される。
【0026】
以下に、上記ガラスのガラス組成範囲を示す。
【0027】
MEMpaxと呼ばれるガラスの組成は、以下の組成(単位:質量%)により例示的に示される:
組成 (質量%)
SiO 63~85
Al 0~10
5~20
LiO+NaO+KO 2~14
MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 0~12
TiO+ZrO 0~5
0~2
【0028】
場合により、着色酸化物、例えばNd、Fe、CoO、NiO、V、MnO、TiO、CuO、CeO、Crを添加してよく、0~2質量%のAs、Sb、SnO、SO、Cl、Fおよび/またはCeOを清澄剤として添加してよく、かつ組成全体の全量は100質量%である。
【0029】
D263と呼ばれるガラスの組成は、以下の組成(単位:質量%)により例示的に示される:
組成 (質量%)
SiO 60~84
Al 0~10
3~18
LiO+NaO+KO 5~20
MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 0~15
TiO+ZrO 0~4
0~2
【0030】
場合により、着色酸化物、例えばNd、Fe、CoO、NiO、V、MnO、TiO、CuO、CeO、Crを添加してよく、0~2質量%のAs、Sb、SnO、SO、Cl、Fおよび/またはCeOを清澄剤として添加してよく、かつ組成全体の全量は100質量%である。
【0031】
AF32と呼ばれるガラスの組成は、以下の組成(単位:質量%)により例示的に示される:
組成 (質量%)
SiO 58~65
Al 14~25
6~10.5
MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 8~18
ZnO 0~2
【0032】
場合により、着色酸化物、例えばNd、Fe、CoO、NiO、V、MnO、TiO、CuO、CeO、Crを添加してよく、0~2質量%のAs、Sb、SnO、SO、Cl、Fおよび/またはCeOを清澄剤として添加してよく、かつ組成全体の全量は100質量%である。
【0033】
B270と呼ばれるガラスの組成は、以下の組成(単位:質量%)により例示的に示される:
組成 (質量%)
SiO 50~81
Al 0~5
0~5
LiO+NaO+KO 5~28
MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 5~25
TiO+ZrO 0~6
0~2
【0034】
場合により、着色酸化物、例えばNd、Fe、CoO、NiO、V、MnO、TiO、CuO、CeO、Crを添加してよく、0~2質量%のAs、Sb、SnO、SO、Cl、Fおよび/またはCeOを清澄剤として添加してよく、かつ組成全体の全量は100質量%である。
【0035】
AS87と呼ばれるガラスの組成は、以下の組成(単位:質量%)により例示的に示される:
組成 (質量%)
SiO 52~66
0~8
Al 15~25
MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 0~6
ZrO 0~2.5
LiO+NaO+KO 4~30
TiO+CeO 0~2.5
【0036】
場合により、着色酸化物、例えばNd、Fe、CoO、NiO、V、MnO、CuO、Crを添加してよく、0~2質量%のAs、Sb、SnO、SO、Cl、Fおよび/またはCeOを清澄剤として添加してよく、かつ組成全体の全量は100質量%である。
【0037】
板ガラスまたはガラスセラミック板の形態のガラス材料は、好ましくは700μm未満の厚みを有し、好ましくは600~700μmの範囲の厚みを有する。薄板ガラスであって、特に300μm以下の範囲、好ましくは150μm以下、100μm以下、70μm以下の範囲、特に50μm以下、30μm以下の範囲の厚みを有するものが特に好ましい。
【0038】
接合材料として、特に接着剤材料として、本発明による接合体では例えばUV線硬化性の接着剤が使用される。このUV硬化性は、必要不可欠というわけではない。陽極接合やその他の硬化性接着剤などによって接合体を製造することも可能である。
【0039】
ガラスもしくはガラスセラミックおよび/または部材自体が、構造や孔を含むこともできる。こうした形態によって、ガラス貫通ビアが可能となる。こうしたガラス貫通ビアまたはガラスセラミック貫通ビアによって、部材全体の実装密度を低下させることができる。
【0040】
部材自体だけではなく、本発明は、かかる部材の製造方法をも提供する。かかる方法においてまず、第1の膨張係数αを有する部材と、第2の膨張係数αを有するガラス材料またはガラスセラミック材料とを準備する。その後、このガラス材料またはガラスセラミック材料は、例えば吸着によって、矯正される。こうしてガラス材料またはガラスセラミック材料が矯正された後、このガラス材料またはガラスセラミック材料と部材とをそれぞれ、接合材料、特に接着剤の薄層で濡らす。こうして接合材料、特に接着剤を適用した後、このガラス材料またはガラスセラミック材料をこの部材、例えばシリコンウェハーに圧着することによって、本発明による接合体が得られる。全面的にかつ均一に適用された厚みの薄い接着層が、ガラス基板面ならびに部材面に密着しているおよび/またはこれらを濡らす場合に特に好ましい。本発明によれば、このことは、ガラス特性またはガラスセラミック特性により実質的に決定される、示した適合度KGに従う場合に保証されている。この接合体を製造した後、これを例えばダイシング法で分割することができる。
【0041】
本発明による接合体は、特に、受動素子や能動素子において使用され、例えば集積光学系、光パラメトリック発振器、電気光学Qスイッチ、センサ、周波数変換器、周波数フィルタでおよび弾性表面波を用いる用途で使用される。
【0042】
本発明を、以下の図面および実施例をもとに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】応力腐食割れを招く従来技術による接合体を示す図。
図2a】本発明による接合体を示す図。
図2b】本発明による接合体を示す図。
【0044】
接合体のガラス材料として、従来技術による最薄ガラスまたはガラスウェハーを使用する場合、市場で入手可能なガラスでは、
・200μmのWARP
・15μmのTTV
・0.6μmのLTV
である。
【0045】
用語WARP、TTVおよびLTVの定義に関して、例えばSumitomo Electricのウェブサイト
http://global-sei.com/sc/products_e/inp/flat.html
に記載されているような、慣用の定義が参照される。
【0046】
TTV(Total Thickness Variation)はそれによれば、その面を基準とした基板の表面での高さの最高値と高さの最低値の差であると理解される。
【0047】
LTVは、基板表面の1つのサイト内の最高点と最低点との差である。
【0048】
WARPはそれによれば、基板の参照される中央面から上方の最高点と下方の最低点との差である。
【0049】
ニオブ酸リチウムの圧電基板の12×10-6 1/Kのαおよび無アルカリアルミノホウケイ酸ガラスAF32の3.2×10-6 1/Kのαでは、適合度KGは次の通りである:
KG=-20.357
【0050】
その適合度は、明らかに4よりも低い。したがって、従来技術によるガラスは、安定な接合体の形成に適していない。
【0051】
160μmのWARPおよび12μmのTTVを有する相応するガラスでさえ、なお3.4のKGを招き、安定な接合体のためには除外される。
【0052】
以下に、本発明による実施例を考察する。
【0053】
また、第1の実施例において、部材の材料として、例示的な一実施形態では、約12×10-6 1/Kのαを有するニオブ酸リチウムを使用する。ガラス材料としては、例えばSCHOTT AG社(55120マインツ市ハッテンベルグ通り10所在)製のLTV、TTVおよびWARPの相応して選択された特性を有する特殊ガラスB270を使用する。このガラス材料B270は、改良された高透明度のソーダ石灰ガラスである。B270の膨張係数は、α=9.4×10-6 1/Kである。このガラスB270は、選択された実施例におけるTTV=5μmの全体厚みムラTTVを有する。このガラスの局所厚みムラLTVは、LTV=0.6μmである。選択された実施例の使用したガラスのWARPは、130μmである。ニオブ酸リチウムとB270ガラスとを組み合わせたこの実施例では、
【数1】
であり、したがってKG≧4であり、特にKG≧15である。
【0054】
こうした仕様を有するガラスB270では、驚くべきことに安定な接合体を生じる。
【0055】
ガラス材料B270の代わりに他のガラス材料を使用することもでき、例えばSchott AG社(55120マインツ市ハッテンベルグ通り10所在)製のガラスAF32を使用することもできる。
【0056】
AF32の膨張係数αは、3.2×10-6 1/Kである。ニオブ酸リチウム材料についての値およびパラメーターTTV、LTVおよびWARPが同一である場合、
【数2】
であり、したがってKG≧15、好ましくはKG≧30である。
【0057】
図1に、従来技術による接合体を示す。この従来技術による接合体1は部材3からなり、この部材3は、接着剤5によってガラス材料またはガラスセラミック材料7と接合されている。この接着剤5は、部材3とガラス7との間の中間層9として導入されている。部材3の熱膨張係数はαであり、ガラス基板またはガラスセラミック基板の熱膨張係数はαである。図1から明らかである通り、部材の材料の膨張係数αはガラス基板の膨張係数αよりも低く、これによって、接着剤で濡れていないガラス表面に引張応力が生じ、この引張応力によってこの接合体の応力腐食割れや長期にわたる機能不良が生じる。図1における例は、接着剤5が、ガラス材料またはガラスセラミック材料の表面に全面的に密着しておらず、部材の表面と同程度にわずかであることを明らかに示す。したがって、こうした接合体は安定ではない。
【0058】
図2aおよび図2bに、部材12、特に電子基板とガラス基板14とから構成される、本発明による接合体10を示す。部材12は、図示されている例では圧電基板である。この圧電基板は、入力構造体20を含み、この入力構造体20は、出力構造体としての役割も果たし得る。この圧電基板の材料として、ここでは熱膨張係数α=12×10-6 1/Kのニオブ酸リチウムを用いる。入力/出力構造体20の他に、この圧電基板は吸収体22をも有する。この圧電基板は、入力構造体20内のGHz電子信号を表面波に変換する働きをし、これによってコンパクトなフィルタ設計が可能となる。図2aには接合体の側面図を示すが、これに対して図2bは上面図である。基板上を伝播する表面波に、24を付してある。ガラス基板として、厚み0.3mmのAF32ガラスを使用することができる。このAF32ガラスは、Schott AG社(マインツ所在)製の無アルカリアルミノホウケイ酸薄板ガラスである。この無アルカリアルミノホウケイ酸ガラスAF32は、誘電特性に優れ、かつ熱膨張係数αが3.2×10-6 1/Kと低いことを特徴とする。表面粗さは、RMS<1nmであり、1MHzでの誘電率εは、5.1であり、屈折率nは、1.5099であり、かつ40℃/hでのアニーリング後の密度は、2.43g/cmである。
【0059】
図2aおよび図2bによる実施例の幾何学的および材料物理学的適合度
KG=10×(α/α)×((1-(LTV/1.5))+(1-(TTV/7))+(1-(WARP/200)))
は、全体厚みムラTTVの値が5μmであり、局所厚みムラLTVの値が0.6μmであり、WARPの値が130μmであり、かつ電子基板のαおよびガラス材料のαが上記の値である場合に、
KG=46.12
であり、これはKG=15およびKG=30を上回る。
【0060】
アルミノホウケイ酸ガラスAF32を使用する代わりに、改良されたソーダ石灰ガラス、例えばガラスB270を使用することもできる。
【0061】
図2aおよび2bによる本発明による実施例では、部材表面とガラス表面またはガラスセラミック表面との間に導入される接着剤層は、ムラなくかつ均質な厚みで、適合度KG>4に基づき表面で密着しており、図1に示された接着剤層とは対照的であり、図1に示された接着剤層は、引張応力と不都合な表面幾何学的形状とに基づき、完全に接着剤で濡れている表面を示さない。
【0062】
本発明によって初めて、従来技術の接合体よりも接合体が高寿命でかつこの材料の適合性が高いことを特徴とする接合体が示される。さらに本発明による接合体は、ガラス内の残留応力がわずかであり、かつ表面品質が高いことを特徴とする。
【0063】
さらに、ガラス表面ならびに部材表面での接合体において接着剤の良好な密着性が得られる。
【符号の説明】
【0064】
1 従来技術による接合体、 3 部材、 5 接着剤、 7 ガラス材料またはガラスセラミック材料、 9 中間層、 α 部材の熱膨張係数、 α ガラス基板またはガラスセラミック基板の熱膨張係数、
10 本発明による接合体、 12 部材、 14 ガラス基板、 20 入力/出力構造体、 22 吸収体、 24 表面波
図1
図2a
図2b