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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】車両用バッテリーケース
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/271 20210101AFI20221031BHJP
   H01M 50/224 20210101ALI20221031BHJP
   H01M 50/227 20210101ALI20221031BHJP
   H01M 50/231 20210101ALI20221031BHJP
   B60K 1/04 20190101ALI20221031BHJP
   B60L 50/50 20190101ALI20221031BHJP
【FI】
H01M50/271 B
H01M50/224
H01M50/227
H01M50/231
B60K1/04 Z
B60L50/50
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018127808
(22)【出願日】2018-07-04
(65)【公開番号】P2019016596
(43)【公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-04-23
(31)【優先権主張番号】P 2017132330
(32)【優先日】2017-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】植村 浩行
(72)【発明者】
【氏名】藤松 英靖
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-236037(JP,A)
【文献】特開2006-045385(JP,A)
【文献】特開2014-143042(JP,A)
【文献】特開2013-021311(JP,A)
【文献】特開2017-045743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/271
H01M 50/224
H01M 50/227
H01M 50/231
B60K 1/04
B60L 50/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリーを収納する、底部及び該底部の周縁を囲む壁部からなる収納空間を有する金属製のバッテリー受け部と、該バッテリー受け部の前記収納空間を覆うバッテリーカバーとを備え、
前記バッテリーカバーは、樹脂層とその片面に金属層が積層された積層体であり、前記バッテリー受け部を覆う天井部と、天井部の周縁を囲むカバー壁部とを備え、
前記バッテリーカバーの前記金属層は、前記樹脂層の外表面側に積層され
前記カバー壁部の外表面側の前記金属層が前記壁部の内表面に直接接するように前記バッテリー受け部と前記バッテリーカバーとが締結されていることを特徴とするバッテリーケース。
【請求項2】
バッテリーを収納する、底部及び該底部の周縁を囲む壁部からなる収納空間を有する金属製のバッテリー受け部と、該バッテリー受け部の前記収納空間を覆うバッテリーカバーとを備え、
前記バッテリーカバーは、樹脂層とその片面に金属層が積層された積層体であり、前記バッテリー受け部を覆う天井部と、該天井部の周縁を囲むカバー壁部とを備え、
前記バッテリーカバーの前記金属層は、前記樹脂層の内表面側に積層され、
前記カバー壁部の内表面側の前記金属層が前記壁部の外表面に直接接するように前記バッテリー受け部と前記バッテリーカバーとが締結されていることを特徴とするバッテリーケース。
【請求項3】
バッテリーを収納する、底部及び該底部の周縁を囲む壁部からなる収納空間を有する金属製のバッテリー受け部と、該バッテリー受け部の前記収納空間を覆うバッテリーカバーとを備え、
前記バッテリーカバーは、樹脂層とその片面に金属層が積層された積層体であり、前記バッテリー受け部を覆う天井部と、該天井部の周縁を囲むカバー壁部とを備え、
前記バッテリー受け部には、前記壁部の端部から外側に張り出したフランジ部が設けられ、
前記バッテリーカバーには、前記カバー壁部の端部から外側に張り出すとともに、前記樹脂層の上面に前記金属層が積層されたカバーフランジ部が設けられ、
前記フランジ部と前記カバーフランジ部とが積層された状態で、前記フランジ部の下面と前記カバーフランジ部の上面の前記金属層とを前記フランジ部と前記カバーフランジ部との外側から接続する導電性の締結補助具が装着されていることを特徴とするバッテリーケース。
【請求項4】
バッテリーを収納する、底部及び該底部の周縁を囲む壁部からなる収納空間を有する金属製のバッテリー受け部と、該バッテリー受け部の前記収納空間を覆うバッテリーカバーとを備え、
前記バッテリーカバーは、樹脂層とその片面に金属層が積層された積層体であり、前記バッテリー受け部を覆う天井部と、該天井部の周縁を囲むカバー壁部とを備え、
前記バッテリー受け部には、前記壁部の端部から外側に張り出したフランジ部が設けられ、
前記バッテリーカバーには、前記カバー壁部の端部から外側に張り出すとともに、前記樹脂層の上面に前記金属層が積層されたカバーフランジ部が設けられ、
前記フランジ部と前記カバーフランジ部とが積層された状態で、前記フランジ部の上面と前記カバーフランジ部の上面の前記金属層とを前記カバーフランジ部の外側から接続する導電性の締結補助具が装着されていることを特徴とするバッテリーケース。
【請求項5】
前記フランジ部と前記カバーフランジ部と前記締結補助具とは、それぞれ穴を有し、該穴に締結部材が挿入されることで締結されていることを特徴とする請求項3又は4に記載のバッテリーケース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用バッテリーケースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車やバイブリッドカーの車両においては、複数のバッテリーセルがパックとなったバッテリーパック等の多数のバッテリーがバッテリケースに収納され、搭載されている。電気自動車等では、電磁波が発生し、この発生した電磁波が、車体に装備される各種の電機部品に影響を与える懸念がある。このため、バッテリー又は付随する電気部品又はバッテリーケースの外部から発生する電磁波をシールドする目的で、バッテリーケースは金属製のものが採用されていた。しかし、金属製のバッテリーケースは所定の電磁波シールド性を確保できるものの、バッテリーケース自体の重量が重くなり、車両の軽量化を図ることが困難であり、また燃費効率の観点で改善が望まれていた。
【0003】
このため、特許文献1においては、ポリプロピレン樹脂に対し炭素繊維および難燃剤を配合してなる炭素繊維強化ポリプロピレン樹脂組成物を成形する車輌用バッテリーケースが提案されている。これによれば、成形加工性と軽量性も兼ね備えているものの未だ電磁波シールド性(特に磁界シールド)が十分であるとは言い難かった。
また、特許文献2には、軽量な車両用電磁波シールドカバーとして、樹脂製のカバー本体の一方の面に、導電金属層を1対の樹脂層で挟んだノイズ遮断シートを敷設したものが開示されている。
また、電気自動車の車載バッテリーのなかには、バッテリーおよびバッテリーケースを車体フロアから密閉し格納しているものもある。このようなバッテリーケースのなかには、アッパーケースとロアーケースとをそれぞれのフランジ部でボルトにより締結しているものもある。(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-62189号公報
【文献】特開2013-71702号公報
【文献】特開平8-186390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであって、加工時の形状自由度等の成形加工性と軽量性も良く、さらに電磁波シールド性(電界シールド性及び磁界シールド性)に優れた車両用バッテリーケースの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、バッテリーケースにおいて、バッテリーを収納する、底部及び該底部の周縁を囲む壁部からなる収納空間を有する金属製のバッテリー受け部と、該バッテリー受け部の前記収納空間全面を覆うバッテリーカバーとを備え、前記バッテリーカバーは、樹脂層とその片面に金属層が積層された積層体であり、前記バッテリー受け部を覆う天井部と、天井部の周縁を囲むカバー壁部とを備え、前記バッテリーカバーの金属層は、前記バッテリー受け部側に積層されるとともに前記バッテリー受け部の金属部分と接することを特徴とする。
【0007】
請求項2の発明は、バッテリーケースにおいて、バッテリーを収納する、底部及び該底部の周縁を囲む壁部からなる収納空間を有する金属製のバッテリー受け部と、該バッテリー受け部の前記収納空間を覆うバッテリーカバーとを備え、前記バッテリーカバーは、樹脂層とその片面に金属層が積層された積層体であり、前記バッテリー受け部を覆う天井部と、天井部の周縁を囲むカバー壁部とを備え、前記バッテリーカバーの金属層は、前記バッテリー受け部側に積層されるとともに前記バッテリー受け部と締結補助具を介して接して締結されていることを特徴とする。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記バッテリーカバーの金属層は、金属溶射により溶射されたものであることを特徴とする。
【0009】
請求項4の発明は、請求項2または請求項3の発明において、前記バッテリーカバーの樹脂層がバッテリー受け部の金属部分に接するように配置され、バッテリーカバーの端部とバッテリー受け部の端部を重ねた状態で導電性を有する締結補助具が装着され、該バッテリーカバーの端部と該バッテリー受け部の端部と該締結補助具にはそれぞれ穴を有しており、当該穴に締結部材を挿入して締結することを特徴とする。
【0010】
請求項5の発明は、請求項2または請求項3において、前記バッテリーカバーの端部に導電性を有する締結補助具が装着され、該締結補助具がバッテリーカバーの端部を挟んでバッテリー受け部に接するようにバッテリーカバーとバッテリー受け部とが配置され、該バッテリーカバーの端部と該バッテリー受け部と該締結補助具には、それぞれ穴を有しており、当該穴に締結部材を挿入して締結することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、成形加工性(形状自由度)と軽量性も良いバッテリーカバーを提供することができ、さらにバッテリー受け部と組合せてバッテリーケース全体としても軽量化と電磁波シールド性(電界シールド性及び磁界シールド性)を高めることができ、燃費効率にも貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のバッテリーカバーとバッテリー受け部と組合されたバッテリーケース全体の斜視図である。
図2】本発明のバッテリー受け部とバッテリーカバーとの接続締結部付近の断面概略図である。
図3】本発明の別の態様のバッテリー受け部とバッテリーカバーとの接続締結部付近の断面概略図である。
図4】本発明の別の態様のバッテリー受け部とバッテリーカバーとが接続締結されたバッテリーカバーの断面概略図である。
図5】本発明の別の態様におけるバッテリー受け部のフランジ部とバッテリーカバーのフランジ部との締結された部分の断面拡大図である。
図6】本発明の別の態様におけるバッテリー受け部のフランジ部とバッテリーカバーのフランジ部との締結された部分の断面拡大図である。
図7】本発明のバッテリーカバーの各種物性を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を図1図7を用いて説明する。本実施形態に係る電気自動車80は、車両本体85の底部12又は後方部に複数のバッテリーがパックとなったバッテリーパック(各図において省略)を載せたバッテリー受け部10とそのバッテリー受け部と嵌合しえるバッテリーカバー20とからなるバッテリーケース5を備えている。バッテリーケース内には、バッテリーパックを車両の前後方向、左右方向に複数個ずつ並べて配置されている。各バッテリーには、複数のバッテリーセルを接続して端子をつけたものであり、バッテリーパックは、複数のバッテリー、センサー及び電気部品が備えられている。
【0014】
バッテリーケース5は、図1に示すように複数のバッテリー(バッテリーパック)を収納可能なバッテリー受け部10と、バッテリー受け部の上面側に設けられ、バッテリー受け部を覆い嵌合可能なバッテリーカバー20とを備える。
【0015】
バッテリー受け部10は、複数のバッテリーを載せる底部12と該底部の周縁につながり該底部の周囲を囲む壁部14を有しており、バッテリー受け部の上面側に設けられたバッテリーカバー20との間に空間が形成され、該空間(バッテリー収納空間7)にバッテリーが収納される。バッテリー受け部10は、複数のバッテリーを収納可能なように剛性の高い金属製により構成される。
【0016】
バッテリーケース5の上部に配置されるバッテリーカバー20は、天井部22と該天井部の周縁につながり該天井部の周囲を囲むカバー壁部24とを備える。
またバッテリーカバー20は、樹脂層26とその表面に金属層28が積層された積層体で構成される。具体的には、例えば図2のように、樹脂層の上表面側に金属層が積層された積層体で構成されるもの、すなわち、バッテリーケース5の上部側が金属層であるバッテリーカバーが挙げられる。また、別の態様としては、例えば図3のように、樹脂層26の下表面側に金属層が積層された積層体で構成されるものも挙げられ、この場合、バッテリーケース5の上部側が樹脂層であるバッテリーカバーが挙げられる。これらの金属層は、金属溶射により溶射されたものが好ましい。
【0017】
バッテリー受け部10とバッテリーカバー20とは、例えば、バッテリー受け部10の端部に穴を数個あけ、また、バッテリーカバーの端部にも穴を数個あけ、両端部の穴の部分に締結部材を挿入して、締結される。締結部材としては、ボルト、ナットのほか、クリップ等が挙げられる。なお、図1では、締結部材を省略して図示している。
【0018】
バッテリー受け部10とバッテリーカバー20とが直接接する態様としては、以下が挙げられる。
図2には、バッテリー受け部10とバッテリーカバー20とが接する部分の断面概略図を示す。このように、バッテリーケース5の上部側が金属層28であるバッテリーカバーのカバー壁部24の金属層側(外側)が、金属製のバッテリー受け部10の壁部14の内側に接するように締結部材であるボルト61とナット62で締結するというシンプルな構成で、バッテリー受け部とバッテリーカバーの金属層が直接接して導通可能とすることができる。
【0019】
また、図3に示すようにバッテリーケース5の上部側が樹脂層26であり下側、すなわちバッテリーケース5の内部側が金属層28であるバッテリーカバーのカバー壁部24の金属層側(内側)が、金属製のバッテリー受け部10の壁部14の外側に接するように締結部材であるボルト61とナット62で締結するというシンプルな構成で、バッテリー受け部とバッテリーカバーの金属層が直接接することができる。
【0020】
バッテリー受け部10とバッテリーカバー20とが締結補助具30を介して接する態様としては、以下が挙げられる。なお、締結補助具は導電性を有し、金属製が好ましく、金属製のクリップ・座金等が挙げられる。これにより、バッテリー受け部10とバッテリーカバー20の金属層とをより確実に接することができ、導通させることができる。
【0021】
図4には、フランジ部を設けたバッテリー受け部10とフランジ部を設けたバッテリーカバー20とが接続締結された断面図を示す。バッテリーカバーのカバー壁部24の端部は断面L字状にフランジ部を構成し、バッテリー受け部10の壁部14の端部にL字状にフランジ部を構成することにより、バッテリー受け部とバッテリーカバーとが締結できる。締結部材として金属製のボルト61、ナット62を用いれば、バッテリーカバーの上面の金属層28が金属製の締結部材であるボルト、ナットを介して、金属製のバッテリー受け部と導通する。さらに、締結補助具30である金属製の座金をボルト・ナットと接するようにバッテリー受け部及びバッテリーカバーとの間に挟むと、バッテリーカバーの金属層と金属製のバッテリー受け部との導通をより確実にすることができる。
【0022】
図5は、別態様のバッテリー受け部10のフランジ部とバッテリーカバー20のフランジ部との締結された部分の拡大図である。図5に示すように、バッテリーカバーの端部の樹脂層26がバッテリー受け部10の端部に接するように配置され、バッテリーカバーの端部とバッテリー受け部の端部を重ねた状態で導電性を有する締結補助具30が装着されている。該締結補助具は断面略コの字状の金属製のクリップである。該バッテリーカバーの端部と該バッテリー受け部の端部と該締結補助具にはそれぞれ穴を有しており、当該穴に締結部材を挿入して締結することにより、バッテリー受け部とバッテリーカバーとが締結補助具を介してより確実に接し導通している。
【0023】
また、別の態様としては図6に示すように、バッテリーカバー20の端部に導電性を有する締結補助具30が装着され、該締結補助具がバッテリーカバーの端部を挟んでバッテリー受け部10に接するようにバッテリーカバーとバッテリー受け部とが配置される。該バッテリーカバーの端部と該バッテリー受け部と該締結補助具には、それぞれ穴を有しており、当該穴に締結部材を挿入して締結することにより、バッテリー受け部とバッテリーカバーとが締結補助具を介してより確実に接し導通している。
【0024】
上記のように、バッテリーカバー20の金属層28と金属製のバッテリー受け部10とが、直接又は導電性を有する締結補助具を介して接することで、バッテリー受け部から車体本体に電気的に接続し、アースを取ることができる。
【0025】
バッテリーカバー20の樹脂層26は、射出成形可能な熱可塑性樹脂が好ましく、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合合成樹脂)等がある。熱可塑性樹脂であれば、軽量化を実現でき、射出成形により容易に成形加工することができ、生産性が向上する。本実施例ではポリプロピレン及びABSを射出成型した。
【0026】
バッテリーカバー20の金属層28は、亜鉛、アルミ、銅、これらの金属の合金等が好ましい。また、バッテリーカバーの金属層の厚みは、30~120μm、より好ましくは40~100μmが好ましい。金属皮膜は、目付として100~500g/mが好ましく、100~350g/m、100~320g/mがより好ましい。熱可塑性樹脂層26の上に金属の溶融粒子を吹き付けて被膜を形成する溶射、化学反応を誘起させて金属物質を堆積する化学的蒸着、その他スパッタリングや物理的蒸着による方法により、金属皮膜を形成することができる。
【0027】
バッテリーカバー20は、射出成型した基材である熱可塑性樹脂層26をブラスト処理し、その基材表面の上に、金属溶射により金属皮膜を形成する。幅広い面積に金属層28を形成するのには、金属溶射が好ましい。金属溶射は、燃焼ガスを熱源とするフレーム式溶射、高速フレーム式溶射、爆発溶射や電気を熱源とするアーク式溶射、プラズマ溶射、RFプラズマ溶射、線爆溶射等を用いることができる。なかでもアーク溶射は、金属層の被膜形成速度が速く、金属皮膜の目付量を精度高く制御できる点で好ましい。アーク溶射は、二本の線状の金属の溶射材料間に高温で強い光を伴うアークを発生させ,その熱によって生じた溶融部分を圧縮ガス(メイン吐出ガス)のジェット気流によって微細化し、素地に吹き付けて皮膜を形成する溶射である。さらに、アークによる溶融金属の外周を、サブ圧縮空気の吐出により囲むように溶融金属を微粒化して、吹き付けるという(低温)アーク溶射が、樹脂層26の変形・反り防止の点で更に好ましい。このアーク溶射により樹脂基材の上に金属層28が積層された成形品ができる。金属層は、金属溶射により液滴状の溶融金属粒子が吹き付けられて偏平状に変形し、微細な気穴と重なりあって堆積する。
【実施例
【0028】
実施例及び比較例について説明する。まず、バッテリーカバー20の樹脂製基材を成形する。図7の表に示す樹脂の種類にて、各実施例及び各比較例のバッテリーカバー20の基材である樹脂層26を加熱溶融させて金型内に射出注入し、冷却・固化することで、射出成形した。バッテリーカバー20は天井部22とその周縁部でつながるカバー壁部24とからなり、上記カバーは、その内部に収納するバッテリー及びその電気部品等の形状にあわせてわずかに凹凸を有し、その凹凸以外の部分は、略平坦な形状をしている。この平坦部分を一般部と呼び、一般部の厚みは約2mmであった。
【0029】
次に、バッテリーカバーの基材に粒状熱硬化性プラスチック研磨剤(粒子径400~500μ)を0.6MPaの圧力で噴射してブラスト処理を行い、この樹脂基材26の粗面側に金属溶射する。金属溶射は、金属溶射装置を使用し、メイン吐出空気圧力0.4MPa、サブ吐出空気圧力0.45MPa、ワイヤー供給速度は4.7m/min、ワイヤー径1.6mmの亜鉛線を用いアーク照射を行った。溶射電圧は22V、電流を80A~150Aで、金属皮膜を形成した。金属溶射量として、一般部における目付量を表1に示す。
【0030】
成形加工性、電磁波シールド性、重量等については、以下のようにの評価した。
(成形加工性)
成形加工性は、基材の樹脂成形時に引けや成形不良があるものは×、また、金属溶射後、樹脂層が変形・歪があるものは×とし、樹脂成型時の樹脂基材の成形不良がなく、かつ、金属溶射後も樹脂層が変形も歪もないものを○とした。
【0031】
(電磁波シールド性)
金属溶射後のバッテリーカバー20成形品の天井部22から、100mm×100mmの試験片を切り出し、試験片の重量を測定し、1m当たりの重量(g)及び溶射金属の塗布目付(g/m)を求めた。さらに、溶射後の試験片をKEC法に準拠して近傍電界10MHz~1GHzの領域における電磁波シールド性(電界シールド・磁界シールド)を測定し、100MHzにおける電界シールド及び磁界シールドの値を表1に示す。
電界シールド、磁界シールド共に、0db以下から-30db未満を×、-30db以下から-40db未満を△(許容範囲内)、-40db以下から-100db未満を○、で評価した。1m当たりの重量は、5000g以上を×、4000g以上~5000g未満を△、3000g以上~4000g未満を○、2000g以上~3000g未満を◎、と評価した。なお、磁界シールドについては、樹脂を主材とした軽量化材料で高いレベルを実現することが難しいため、-30db以下から-40db未満は△で許容範囲内である。
【0032】
(総合評価)
成形加工性、電界シールド、磁界シールド、1m当たりの重量のいずれかの項目において×があるものは、総合判定で×と評価し、成形加工性、電界シールド、磁界シールド、1m当たりの重量のいずれかの項目において×がなく△があるものは、総合判定で△と評価し、成形加工性、電界シールド、磁界シールド、1m当たりの重量のいずれの項目においても×及び△のないものは、総合判定で○と評価する。
【0033】
実施例1では、樹脂としてABSを用いて、金型内に射出成形し、一般部の厚みが2mmのバッテリーカバー20の基材を得た。バッテリーカバーの天井部20の上面側及びカバー壁部24の外表面側をブラスト処理した。このブラスト処理面に対して亜鉛線を用いアーク照射を行った。金属溶射後の天井部20から試験片を切り出し、樹脂基材26の上に金属層28が積層されているのを確認した。溶射金属の目付は72g/mであり、1m当たりの重量は2192gであった。基材の樹脂成形時に引けや成形不良がなく、また、金属溶射後、樹脂層26が変形・歪もなく○であった。100MHzにおける電界シールドは-61db(○)であり、100MHzにおける磁界シールドは-31db(△)であり許容できる。成形加工性、電界シールド、1m当たりの重量のいずれの項目においても○であったが、磁界シールドが△であり、総合判定は△であった。
【0034】
実施例2では、溶射金属の目付を95g/mとした以外は、実施例1と同じにして樹脂基材の上に金属層を溶射により積層した。樹脂層26の上に金属層が積層された成形品の1m当たりの重量は2215gであり、基材の樹脂成形時に引けや成形不良がなく、かつ、金属溶射後も樹脂層が変形も歪もなく○であった。100MHzにおける電界シールドは-68db(○)であったが、100MHzにおける磁界シールドは-37db(△)であり許容できる。成形加工性、電界シールド、1m当たりの重量の項目は○であったが、磁界シールドが△であり、総合判定は△であった。
【0035】
実施例3では、溶射金属の目付を100g/mとした以外は、実施例1と同じにして樹脂基材の上に金属層28を溶射により積層した。樹脂層26の上に金属層が積層された成形品の1m当たりの重量は2220gであり、基材の樹脂成形時に引けや成形不良がなく、かつ、金属溶射後も樹脂層が変形も歪もなく○であった。100MHzにおける電界シールドは-72db(○)であり、100MHzにおける磁界シールドは-41db(○)であった。成形加工性、電界シールド、磁界シールド、1m当たりの重量のいずれの項目においても○であり、総合判定は○であった。
【0036】
実施例4では、溶射金属の目付を120g/mとした以外は、実施例1と同じにして樹脂基材の上に金属層28を溶射により積層した。樹脂層26の上に金属層が積層された成形品の1m当たりの重量は2240gであり、基材の樹脂成形時に引けや成形不良がなく、かつ、金属溶射後も樹脂層が変形も歪もなく○であった。100MHzにおける電界シールドは-78db(○)であり、100MHzにおける磁界シールドは-44db(○)であった。成形加工性、電界シールド、磁界シールド、1m当たりの重量のいずれの項目においても○であり、総合判定は○であった。
【0037】
実施例5では、溶射金属の目付を150g/mとした以外は、実施例1と同じにして樹脂基材の上に金属層28を溶射により積層した。樹脂層26の上に金属層が積層された成形品の1m当たりの重量は2270gであり、基材の樹脂成形時に引けや成形不良がなく、かつ、金属溶射後も樹脂層が変形も歪もなく○であった。100MHzにおける電界シールドは-82db(○)であり、100MHzにおける磁界シールドは-49db(○)であった。成形加工性、電界シールド、磁界シールド、1m当たりの重量のいずれの項目においても○であり、総合判定は○であった。
【0038】
実施例6では、溶射金属の目付を270g/mとした以外は、実施例1と同じにして樹脂基材の上に金属層を溶射により積層した。樹脂層の上に金属層が積層された成形品の1m当たりの重量は2390gであり、基材の樹脂成形時に引けや成形不良がなく、かつ、金属溶射後も樹脂層が変形も歪もなく○であった。100MHzにおける電界シールドは-85db(○)であり、100MHzにおける磁界シールドは-59db(○)であった。成形加工性、電界シールド、磁界シールド、1m当たりの重量のいずれの項目においても○であり、総合判定は○であった。
【0039】
実施例7では、樹脂としてPP(ポリプロピレン)を用いて、金型内に射出成形し、一般部の厚みが2mmのバッテリーカバー20の基材を成形し、溶射金属の目付を320g/mとした以外は、実施例1と同じにして樹脂基材の上に金属層28を溶射により積層した。樹脂層26の上に金属層が積層された成形品の1m当たりの重量は2140gであり、基材の樹脂成形時に引けや成形不良がなく、かつ、金属溶射後も樹脂層が変形も歪もなく○であった。100MHzにおける電界シールドは-92db(○)であり、100MHzにおける磁界シールドは-80db(○)であった。成形加工性、電界シールド、磁界シールド、1m当たりの重量のいずれの項目においても○であり、総合判定は○であった。
【0040】
比較例1では、樹脂としてABS樹脂に金属であるステンレス繊維を1.8重量%混入させた金属繊維入り樹脂を用いて、金型内に射出成形し、一般部の厚みが2mmのバッテリーカバーの基材を得た。ブラスト処理および金属溶射は行わす、1m当たりの重量は2340gであった。基材の樹脂成形時に引けや成形不良がなく、また、金属溶射後、樹脂層が変形・歪もなく○であった。100MHzにおける電界シールドは-64db(○)であったが、100MHzにおける磁界シールドは-22db(×)であった。成形加工性、電界シールド、1m当たりの重量の項目は○であったが、磁界シールドが×であり、総合判定は×であった。
【0041】
比較例2では、0.7mmの厚みの鋼板を用いて、バッテリーカバーの基材を得た。ブラスト処理および金属溶射は行わず、1m当たりの重量は5495gであった。鋼板からバッテリーカバーを得るには、大型のプレス機と溶接ロボット等の大型設備が必要となる点で△と評価する。100MHzにおける電界シールドは-93db(○)であり、100MHzにおける磁界シールドは-81db(○)であった。成形加工性は△であり、電界シールド、磁界シールドが○であったが、1m当たりの重量の項目は×であり、総合判定は×であった。
【0042】
以上のように、電磁波シールド性は、KEC法(100MHz)で電界シールドと磁界シールドについて確認した。各実施例の電界シールド性は100MHzにおいて、-61db~-92dbであった。また磁界シールド性は100MHzにおいて、-31db~-80dbであった。これにより、本発明は電界シールドと磁界シールドの両方が優れ、電磁波シールド性が優れており、また成形加工性、1m当たりの重量(軽量化)にも優れている。
【符号の説明】
【0043】
5 バッテリーケース
7 バッテリー収納空間
10 バッテリー受け部
12 バッテリー受け部の底部
14 バッテリー受け部の壁部
20 バッテリーカバー
22 天井部
24 カバー壁部
26 樹脂層
28 金属層
30 締結補助具
61 締結部材(ボルト)
62 締結部材(ナット)
80 電気自動車
85 車両本体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7