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  • 特許-抗菌・抗ウイルス性樹脂組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】抗菌・抗ウイルス性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20221031BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20221031BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20221031BHJP
   A01N 33/12 20060101ALI20221031BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20221031BHJP
   A01N 59/06 20060101ALI20221031BHJP
   A01N 41/02 20060101ALI20221031BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20221031BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20221031BHJP
   C08K 3/20 20060101ALI20221031BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
C08L101/00
A01P1/00
A01P3/00
A01N33/12 101
A01N25/10
A01N59/06 Z
A01N41/02
C08K9/04
C08K5/42
C08K3/20
C08K3/36
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018130093
(22)【出願日】2018-07-09
(65)【公開番号】P2020007267
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】夏目 素美
(72)【発明者】
【氏名】竹内 英雄
(72)【発明者】
【氏名】掛樋 浩司
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-181423(JP,A)
【文献】特開2006-008943(JP,A)
【文献】特開平09-255843(JP,A)
【文献】特開平07-316009(JP,A)
【文献】特開2004-323706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、
メトサルフェート型4級アンモニウム塩からなる抗菌・抗ウイルス剤と、
消石灰若しくはコロイダルシリカである無機紛体と、を含み、
前記抗菌・抗ウイルス剤の含有量は3重量%以上、10重量%以下であり、
前記抗菌・抗ウイルス剤が前記無機紛体に担持されている、抗菌・抗ウイルス性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌・抗ウイルス性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌剤は銀や光触媒など多数存在しており、それを用いた抗菌性樹脂組成物は多数存在するが、樹脂に添加可能な抗ウイルス剤の種類は少ない。抗ウイルス剤として、4級アンモニウム塩が知られている(例えば、特許文献1参照)が、分解温度が約180℃であるため、ほとんどの樹脂の溶融温度に耐えられず、樹脂に添加できなかった。
【0003】
耐熱型の抗菌・抗ウイルス剤としては、可視光応答型光触媒(銅担持)、1価銅化合物、消石灰などが知られている(例えば、特許文献2参照)が、これらはいずれも紛体であるため、樹脂に添加しても表面近傍に存在する抗菌・抗ウイルス剤しか機能せず、抗菌・抗ウイルス剤が溶出、欠落などした場合は性能が維持されず、耐久性に課題があった。
【0004】
メトサルフェート型4級アンモニウム塩は抗菌・抗ウイルス性を有し、その分解温度は240℃であるので、大半の汎用樹脂に添加することが可能である。この抗菌・抗ウイルス剤は液体状態で、樹脂に添加すると、その表面で高い抗菌・抗ウイルス性能を発揮する。また、この抗菌・抗ウイルス剤は、比較的低分子であるため、熱・光などの外的エネルギーを駆動力として、樹脂内を移動して樹脂表面へ移動(ブリーディング)しやすい。とくに、ベース樹脂との相溶性を考慮することによって、相溶性の低さを駆動力として、樹脂内部に埋没した機能材がブリードアウトし、長期にわたって機能性を発揮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-40167号公報
【文献】特許第3802272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、液体のメトサルフェート型4級アンモニウム塩は流動性が高く、樹脂との相性等によって発生する過剰なブリードは、機能材の過剰放出による機能性の短寿命化および抗菌・抗ウイルス性樹脂組成物の外観不良を引き起こす。
【0007】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、メトサルフェート型4級アンモニウム塩を抗菌・抗ウイルス剤として有する抗菌・抗ウイルス性樹脂組成物において、持続的な抗菌・抗ウイルス性と良好な外観との両立を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明は、樹脂(例えば、後述のベース樹脂2)と、メトサルフェート型4級アンモニウム塩からなる抗菌・抗ウイルス剤(例えば、後述の抗菌・抗ウイルス剤3)と、無機紛体(例えば、後述の無機紛体4)と、を含み、前記抗菌・抗ウイルス剤が前記無機紛体に担持されている、抗菌・抗ウイルス樹脂組成物(例えば、後述の抗菌・抗ウイルス性樹脂組成物1)を提供する。
【0009】
(2) (1)の発明において、前記無機粉体は、消石灰若しくはコロイダルシリカであることが好ましい。
【0010】
(3) (2)の発明において、前記粉体は、消石灰であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、メトサルフェート型4級アンモニウム塩を抗菌・抗ウイルス剤として有する抗菌・抗ウイルス性樹脂組成物において、持続的な抗菌・抗ウイルス性と良好な外観との両立が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の樹脂組成物における、抗菌・抗ウイルス剤のブリーディングを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0014】
本実施形態に係る抗菌・抗ウイルス性樹脂組成物1は、ベース樹脂2と、メトサルフェート型4級アンモニウム塩である抗菌・抗ウイルス剤3と、無機紛体4と、を含んで構成される。抗菌・抗ウイルス性樹脂組成物1は表面近傍に存在する抗菌・抗ウイルス剤3により、その表面で抗菌・抗ウイルス効果を発揮する。抗菌・抗ウイルス性樹脂組成物1には、本発明の効果を阻害しない範囲で他の原料を配合することができる。例えば、重合禁止剤、硬化剤、硬化促進剤、染料、可塑剤、紫外線吸収剤、揺変剤、充填剤、消泡剤、安定剤、レベリング剤等が挙げられる。
【0015】
ベース樹脂2は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂のいずれも用いることができ、溶融温度若しくは硬化温度が240℃以下である物が用いられる。これにより、メトサルフェート型4級アンモニウム塩が分解されることなく添加され、表面において抗菌・抗ウイルス性を発揮することができる。溶融温度若しくは硬化温度が240℃以下の樹脂としては、PP、ABS、PE、PS、PMMA、PVA、POM、PCまたは尿素樹脂などが挙げられる。
【0016】
さらにベース樹脂2としては、メトサルフェート型4級アンモニウム塩との相溶性が低いものが好ましく用いられる。これにより、樹脂内部において抗菌・抗ウイルス剤3のブリーディングが起こりやすくなり、表面における抗菌・抗ウイルス効果がより確実に、また持続的に発揮される。
【0017】
抗菌・抗ウイルス剤3は、メトサルフェート型4級アンモニウム塩を用いる。抗菌・抗ウイルス剤3は、ベース樹脂2に添加されて射出成形又は押出成形されるため、その分解温度はベース樹脂2の溶融温度(成形温度)よりも高いことが求められる。メトサルフェート型4級アンモニウム塩の分解温度は約240℃と、他の4級アンモニウム塩よりも高いため、溶融温度若しくは硬化温度が240℃以下である樹脂に添加して、抗菌・抗ウイルス性を付与することができる。更に、4級アンモニウム塩は、比較的低分子であるため、熱・光などの外的エネルギーを駆動力として、樹脂内を移動して樹脂表面へ移動(ブリーディング)しやすい。さらに、4級アンモニウム塩は水溶性であるため、樹脂内に侵入・脱離する水分に溶解することで移動しやすくなり、樹脂表面へ移動しやすい。
【0018】
抗菌・抗ウイルス剤3は、大腸菌や黄色ブドウ球菌等の菌に対して抗菌作用を有するとともに、エンベロープ型ウイルスや非エンベロープ型ウイルスに対して抗菌・抗ウイルス作用を有する。
なお、上記の抗ウイルス性については、エンベロープ型ウイルスとしてA型インフルエンザウイルスを、非エンベロープ型ウイルスとしてネコカリシウイルスを対象に、TCID50法によりウイルス感染価を測定することで、抗ウイルス性の評価が可能である。
【0019】
メトサルフェート型4級アンモニウム塩は下記の式(1)で表され、下記の式(2)で表される塩化物型4級アンモニウム塩とは、アニオンが塩化物イオンでなくメトサルフェートイオンである点において、構造が異なる。塩化物型4級アンモニウム塩の分解温度が180℃であるのに対し、メトサルフェート型4級アンモニウム塩の分解温度は240℃であり、この差は上記のアニオンの違いによりイオン結合の強さが異なることに起因するものと推定される。
【0020】
【化1】
化学式(1)
【0021】
【化2】
化学式(2)
【0022】
無機紛体4は、液体の抗菌・抗ウイルス剤3を担持することができる。抗菌・抗ウイルス剤3を担持した無機紛体4をベース樹脂2に添加することで、抗菌・抗ウイルス剤3を直接ベース樹脂2に添加した際に比べ、樹脂内への抗菌・抗ウイルス剤添加量を増やし、また過剰ブリードを制御できるため外観不良の発生が抑制できる。さらに、抗菌・抗ウイルス剤3が粉体から徐放されることで、ベース樹脂2表面の抗菌・抗ウイルス効果の持続性が向上する(図1参照)。
【0023】
無機粉体4の選定にあたり、種々の紛体状の物質に対し、抗菌・抗ウイルス剤の担持可能量を測定した。担持可能量の測定は、次の試験により行った。結果を表1に示す。また、抗菌・抗ウイルス剤担持無機紛体を用いて、さらに抗菌・抗ウイルス性樹脂組成物1を作製した。表2は、様々な無機紛体4を用いて製造した抗菌・抗ウイルス性樹脂組成物1の質量10000g中の組成を示す表である。
【0024】
【表1】
【表2】
【0025】
<粉体担持可能量測定試験>
80℃乾燥機内で24時間保持し、吸着水を除去した所定量の紛体を、PE製ディスポップに取り、抗菌・抗ウイルス剤としてジデシルジメチルアンモニウムメトサルフェート(リポカード210-MSPG ライオンスペシャリティーケミカルズ)を少量添加し、スパチュラで良く撹拌した。外観を確認して紛体状であればさらに抗菌・抗ウイルス剤を添加し、撹拌操作を続けた。混合体が粘性を持ち始めるまで続け、紛体状を保つ、最大の抗菌・抗ウイルス剤添加量を記録した。
さらに紛体と混合した後、抗菌・抗ウイルス剤が変質していない事を確認するため、4級アンモニウム塩と接触すると青色を呈色するBPB溶液を滴下し、色を確認した。青色を示せば、抗菌・抗ウイルス剤の機能は維持していると判断した。なお、抗菌・抗ウイルス剤を添加しない紛体にもBPB溶液を滴下し、その色と比較することで、紛体による呈色への影響を考慮した。
【0026】
表1の結果から、無機紛体4としては、担持可能量の多い消石灰やコロイダルシリカなどが好ましく用いられる。特に、粉体に消石灰を用いた場合には、消石灰自体が備える抗菌・抗ウイルス性を発揮できるため、ベース樹脂2表面における抗菌・抗ウイルス効果が増幅される。
【0027】
また、無機粉体4としては、抗菌・抗ウイルス剤3の担持可能量が多い無機粉体4を用いることが好ましい。抗菌・抗ウイルス剤3を抗菌・抗ウイルス剤担持無機紛体としてベース樹脂2に添加する場合、同質量の抗菌・抗ウイルス性樹脂組成物1あたりに一定の質量比で抗菌・抗ウイルス剤3を含有させるためには、抗菌・抗ウイルス剤3の担持可能量が多い無機粉体4を用いれば、無機紛体4の含有量が少量で済む。これにより、ベース樹脂の質量比が大きくなる(表2参照)結果、無機紛体4が抗菌・抗ウイルス性樹脂組成物1の強度に与える影響が小さくなり、所望の抗菌・抗ウイルス性樹脂組成物1の強度が得やすくなる。
【0028】
さらに、メトサルフェート型4級アンモニウム塩を無機紛体4に担持させると、メトサルフェート型4級アンモニウム塩の分解温度である240℃以上の溶融温度の樹脂への添加時においても完全には分解されず、成型品において抗菌・抗ウイルス性を発揮できる。粉体担持により、樹脂への溶融混練時における熱影響が緩和され、耐熱性が得られるものと推測される。
【0029】
表3は、メトサルフェート型4級アンモニウム塩の無機紛体担持体における、400℃での重量減少量を担持紛体ごとに示す表である。400℃の高温環境下においても、粉体担持されたメトサルフェート型4級アンモニウム塩は完全には分解されていないことがわかる。
【0030】
【表3】
【0031】
次に、本発明の抗菌・抗ウイルス性樹脂組成物1の製造方法について説明する。
【0032】
まず、無機紛体4に抗菌・抗ウイルス剤3を担持させる。抗菌・抗ウイルス剤3は、メトサルフェート型4級アンモニウム塩と水及びプロピレングリコールを含む、液体状態で無機紛体4に添加される。無機紛体4を撹拌しながら抗菌・抗ウイルス剤3を所定の添加量になるまで少量ずつ添加したのち、乾燥機中に保持し、溶媒を除去する。
【0033】
抗菌・抗ウイルス性樹脂組成物1の製造方法としては、ペレタイズ法、直接添加法、マスターバッチ法などの製法が挙げられる。
【0034】
ペレタイズ法では、ベース樹脂2、抗菌・抗ウイルス剤3および無機紛体4を、混練機を用いて混練し、目的の抗菌・抗ウイルス性樹脂組成物1のペレットを作製する。混練時には、ベース樹脂2の温度を溶融温度まで上昇させ、ベース樹脂2を溶融させる。溶融したベース樹脂2に、あらかじめ抗菌・抗ウイルス剤3を担持させた無機紛体4を添加してよく混練し、均一になったところでペレット状に成型する。抗菌・抗ウイルス剤3が溶媒として含むプロピレングリコールが蒸発するため、低流量ポンプにて抜気しながら投入する。このペレットを用いて、目的の形状へと成型して部材を製造する。
【0035】
直接添加法では、ベース樹脂2を射出成型する際に、抗菌・抗ウイルス剤3を添加した無機紛体4を直接添加することで、目的の形状へと成型された抗菌・抗ウイルス性樹脂組成物1を得ることができる。あらかじめ混合した抗菌・抗ウイルス剤3およびベース樹脂2を射出成型機に投入することで、抗菌・抗ウイルス性樹脂組成物1を得ることができる。射出成型時の温度はペレタイズ法と同様、ベース樹脂2の溶融温度である。
【0036】
マスターバッチ法では、ペレタイズ法において抗菌・抗ウイルス剤3の含有比が大きいペレットを作製し、さらに樹脂と合わせて射出成型機へ投入することで、目的の組成の抗菌・抗ウイルス性樹脂組成物1が得られる。
【0037】
下記に示す実施例および比較例は、上記の各製法にて作製した例であるが、本発明の効果は上記の製法にかかわらず同様に発揮される。
【実施例
【0038】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお実施例の詳細な配合比は、評価結果とともに表4~7に後述する。
【0039】
<実施例/参考例P1~P13、比較例P1~P2 PP樹脂 無機粉体比較>
抗菌・抗ウイルス剤は、ジデシルジメチルアンモニウムメトサルフェート(リポカード210-MSPG ライオンスペシャリティーケミカルズ)を用いた。紛体は表に示すものを用い、混合比は、上限値の80wt%を目安とした。紛体に少量ずつ抗菌・抗ウイルス剤を添加し、ヘラと手で大まかに混ぜたあと、攪拌機を用いて混合した。これを狙いの抗菌・抗ウイルス剤添加量になるまで繰り返した。抗菌・抗ウイルス剤に20wt%含まれる溶媒(水5wt%、プロピレングリコール15wt%)を除去するため、ステンレス製バットに平らに撒き、80℃乾燥機で24時間保持した。
【0040】
ペレタイズ法にて、ベース樹脂としてPP樹脂:ノバテックMA3UD(日本ポリプロ)を用い、樹脂組成物中の抗菌・抗ウイルス剤含有量が5wt%となるようフィーダーの送り量を制御し、混練機により、抗菌・抗ウイルス剤を担持させた紛体を各樹脂に練り込み、ペレットを作製した。混練条件はスクリュー径φ25mm、L/D=41、8区分とし、混練温度は樹脂の溶融温度を考慮して設定した。
【0041】
得られたペレットを用い、射出成形機(ROBOSHOT S-2000i100B FANUC)で縦横150mm×150mm、厚さ3mmの樹脂組成物の成形品を作製した。シリンダ温度は200℃とした。
【0042】
<実施例/参考例A1~A13、比較例A1~A2 ABS樹脂 無機粉体比較>
実施例/参考例P1~P13、比較例P1~P2において、ベース樹脂にABS樹脂を用いて樹脂組成物を作製した。
【0043】
<実施例/参考例P14~P19 添加量比較 PP樹脂>
実施例P5およびP9において、抗菌・抗ウイルス剤の添加量を変更して樹脂組成物を作製した。
【0044】
<実施例/参考例A14~A19 添加量比較 ABS樹脂>
実施例A5およびA9において、抗菌・抗ウイルス剤の添加量を変更して樹脂組成物を作製した。
【0045】
<実施例PA1、比較例PA1 溶融温度比較 PA66樹脂>
実施例P9において、ベース樹脂にPA66樹脂を用いて樹脂組成物を作製した(実施例PA1)。また、実施例PA1において、粉体を使用せずに樹脂組成物を作製した(比較例PA1)。各例において、混練温度はPA66樹脂の溶融温度である270℃に設定した。
【0046】
上記の成形品に対し、抗ウイルス試験、抗菌試験、耐水試験および外観の目視を行い、抗菌・抗ウイルス性能とその持続性、および外観を評価した。試験結果を後述の表4~7に示す。
[試験]
【0047】
<抗ウイルス試験>
樹脂の抗ウイルス性について、JIS Z 2801を参考に、エンベロープ型ウイルスとしてA型インフルエンザウイルスを、非エンベロープ型ウイルスとしてネコカリシウイルスを用いて、接触時間を24時間として抗ウイルス性の評価試験を行った。感染価対数減少値にて、2.0以上を効果ありとして判定した。なお、エンベロープ型ウイルスおよび非エンベロープ型ウイルスのいずれかに対して有効であれば抗ウイルス性を示すものとした。両ウイルスに対して有効であることが特に好ましいが、一方のみに対して有効である場合であっても、抗ウイルス性樹脂組成物としての有用性は失われないためである。
【0048】
<抗菌試験>
樹脂の抗菌性について、JIS Z 2801に準拠して抗菌性の評価試験を行った。抗菌活性値にて、2.0以上を効果ありとして判定した。
【0049】
<耐水試験>
試験片の表面積25cmに対し、超純水50mlとして16時間水中に浸漬した後に上述の抗菌・抗ウイルス試験を行い、水浸漬後の樹脂表面の抗菌・抗ウイルス性について評価した。
【0050】
<外観目視>
成型品の外観を目視し、外観について過剰ブリードによる液染みの有無を評価した。(○:異常なし、×:液染みあり)
【0051】
上記の試験結果を、下記の表4~7に示す。
【0052】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【0053】
抗菌・抗ウイルス性能について、製造後、耐水試験を行う前の初期状態の樹脂組成物について、抗菌試験及び抗ウイルス試験を行った。
【0054】
<実施例/参考例P1~P13、比較例P1~P2 PP樹脂>
PP樹脂を用いた場合において、樹脂組成物中の抗菌・抗ウイルス剤含有量が5wt%であるもの(実施例/参考例P2、P5、P6、P8、P9、P11および比較例P1)については、いずれも初期状態で良好な抗菌・抗ウイルス性を示した。
【0055】
<実施例/参考例A1~A13、比較例A1~A2 ABS樹脂>
ABS樹脂を用いた場合においても、樹脂組成物中の抗菌・抗ウイルス剤含有量が5wt%であるもの(実施例実施例A2、A5、A6、A8、A9、A11および比較例A1)については、いずれも初期状態で良好な抗菌・抗ウイルス性を示した。
【0056】
<実施例/参考例P14~P19、A14~A19 抗菌・抗ウイルス剤添加量比較>
抗菌・抗ウイルス剤の添加量を変化させて作製した樹脂組成物について、抗菌・抗ウイルス剤の含有量が3wt%以上であるものについては、いずれも初期状態で良好な抗菌・抗ウイルス性を示した。また、抗菌・抗ウイルス剤の含有量が1wt%のものの中では、無機紛体にコロイダルシリカを用いたものではいずれも抗菌・抗ウイルス効果を示さなかったのに対して、消石灰を用いた参考例P14にて抗菌・抗ウイルス性を、参考例A14にて抗ウイルス性を示した。これは、担持粉体である消石灰自体が持つ抗菌・抗ウイルス効果が発揮されたためである。さらに、PP樹脂とABS樹脂とでは、メトサルフェート型4級アンモニウム塩との相溶性が異なり、前者のほうが相溶性が低い。このため、前者においては樹脂組成物中のメトサルフェート型4級アンモニウム塩がブリーディングしやすく、表面に移行したメトサルフェート型4級アンモニウム塩が抗菌・抗ウイルス効果を発揮しやすい。
【0057】
<実施例PA1、比較例PA1 分解温度以上の温度条件>
混練温度を270℃に設定した実施例PA1においても、初期状態で良好な抗菌・抗ウイルス性を示した。メトサルフェート型4級アンモニウム塩の分解温度を上回る温度条件であるが、粉体への担持により熱影響が緩和されたものと推定される。
【0058】
抗菌・抗ウイルス性能の持続性について、耐水試験後の樹脂組成物について、抗菌試験及び抗ウイルス試験を行った。
【0059】
<実施例/参考例P1~P13、比較例P1~P2 PP樹脂>
PP樹脂を用いた場合において、樹脂組成物中の抗菌・抗ウイルス剤含有量が5wt%であるもの(実施例/参考例P2、P5、P6、P8、P9、P11および比較例P1)については、いずれも耐水試験後に良好な抗菌・抗ウイルス性を示した。
【0060】
<実施例/参考例A1~A13、比較例A1~A2 ABS樹脂>
ABS樹脂を用いた場合においても、樹脂組成物中の抗菌・抗ウイルス剤含有量が5wt%であるもの(実施例/参考例A2、A5、A6、A8、A9、A11)については、いずれも耐水試験後に良好な抗菌・抗ウイルス性を示した。
【0061】
また、樹脂組成物中に無機紛体を含んでいる実施例群において、初期状態と耐水試験後で抗菌試験および抗ウイルス試験の結果を比較すると、耐水試験後の抗菌・抗ウイルス性の減少が、樹脂組成物中に粉体を含んでいない比較例P1およびA1よりも抑えられている。これは、実施例群においては樹脂組成物内部で抗菌・抗ウイルス剤が粉体に担持されており、抗菌・抗ウイルス剤が徐放されたためと推定される。
【0062】
<実施例/参考例P14~P19、A14~A19 抗菌・抗ウイルス剤添加量比較>
抗菌・抗ウイルス剤の添加量を変化させて作製した樹脂組成物について、抗菌・抗ウイルス剤の含有量が3wt%以上であるものについては、耐水試験後にいずれも良好な抗菌・抗ウイルス性を示した。また、抗菌・抗ウイルス剤の含有量が1wt%のものは、初期状態では抗菌・抗ウイルス性能を示した一部のものも含めて、いずれも抗菌・抗ウイルス効果を示さなかった。これは、抗菌・抗ウイルス剤の添加量が少なかったために、耐水試験に伴い抗菌・抗ウイルス剤が溶出した結果、樹脂内部に残存している抗菌・抗ウイルス剤では十分な抗菌・抗ウイルス性能が発揮できなかったものと考えられる。
【0063】
<実施例PA1、比較例PA1 分解温度以上の温度条件>
実施例PA1においても、耐水試験後に良好な抗菌・抗ウイルス性を示した。
【0064】
上記耐水試験後に抗菌・抗ウイルス効果を発揮した樹脂組成物では、樹脂組成物中で抗菌・抗ウイルス剤が粉体に担持されていることで、抗菌・抗ウイルス剤が徐放されるため、抗菌・抗ウイルス剤を直接ベース樹脂に添加した際に比べて抗菌・抗ウイルス効果の持続性が向上していた。
【0065】
さらに、外観目視の結果、抗菌・抗ウイルス剤を担持した無機粉体を添加した全ての例において、過剰ブリードによる外観不良は見られなかった。粉体に担持された抗菌・抗ウイルス剤が徐放されることで過剰ブリードを抑えられ、抗菌・抗ウイルス性樹脂において、抗菌・抗ウイルス性能とその持続性、および良好な外観の両立が可能になった。
【符号の説明】
【0066】
1 …抗菌・抗ウイルス性樹脂組成物
2 …ベース樹脂
3 …抗菌・抗ウイルス剤
4 …無機紛体
図1