(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】化学機械研磨組成物、リンス組成物、化学機械研磨方法及びリンス方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20221031BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20221031BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20221031BHJP
B24B 1/00 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
C09K3/14 550C
C09K3/14 550Z
B24B37/00 H
B24B1/00 A
H01L21/304 647A
(21)【出願番号】P 2018133454
(22)【出願日】2018-07-13
【審査請求日】2021-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】512096724
【氏名又は名称】CMCマテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】増田 剛
(72)【発明者】
【氏名】北村 啓
(72)【発明者】
【氏名】松村 義之
(72)【発明者】
【氏名】並木 明久
【審査官】中田 剛史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/039390(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/031485(WO,A1)
【文献】特開2003-221600(JP,A)
【文献】特開2005-162780(JP,A)
【文献】特開2005-105068(JP,A)
【文献】特開2007-318072(JP,A)
【文献】特開2016-194004(JP,A)
【文献】特開2004-182773(JP,A)
【文献】特開2004-189943(JP,A)
【文献】特開2013-053182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C09K 3/14
B24B 37/00
B24B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨剤、
塩基性成分、
式(i)RO-(AO)
n
-Hで表され、式中、Rが分岐鎖のC
11~C
15アルキル基であ
り、Aはエチレン基、プロピレン基及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるアルキレン基であり、nはAOの平均付加モル数を表し、6~30の数であるポリオキシアルキレンアルキルエーテル、及び
水性キャリヤー
を含む、化学機械研磨組成物。
【請求項2】
研磨剤、
塩基性成分、
ポリオキシエチレンオキシプロピレン2-プロピルヘプチルエーテル、及びポリオキシエチレンイソトリデシルエーテルのうち少なくとも1種を含む
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、及び
水性キャリヤー
を含む、化学機械研磨組成物。
【請求項3】
前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとは異なる水溶性高分子をさらに含む、請求項
1又は2に記載の化学機械研磨組成物。
【請求項4】
前記水溶性高分子が、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール構造単位を含む重合体、アルキレン基及びポリアルキレンオキシド基がN原子に結合した3級アミンを含む繰り返し構造単位を少なくとも2個含むアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体、並びにそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項
3に記載の化学機械研磨組成物。
【請求項5】
前記水溶性高分子が、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール構造単位を含む重合体、並びにアルキレン基及びポリアルキレンオキシド基がN原子に結合した3級アミンを含む繰り返し構造単位を少なくとも2個含むアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体を含む、請求項
4に記載の化学機械研磨組成物。
【請求項6】
前記水溶性高分子がポリビニルアルコール構造単位を含む重合体である、請求項
4に記載の化学機械研磨組成物。
【請求項7】
式(i)RO-(AO)
n
-Hで表され、式中、Rが分岐鎖のC
11~C
15アルキル基であ
り、Aはエチレン基、プロピレン基及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるアルキレン基であり、nはAOの平均付加モル数を表し、6~30の数であるポリオキシアルキレンアルキルエーテル、及び
水性キャリヤー
を含む、リンス組成物。
【請求項8】
ポリオキシエチレンオキシプロピレン2-プロピルヘプチルエーテル、及びポリオキシエチレンイソトリデシルエーテルのうち少なくとも1種を含む
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、及び
水性キャリヤー
を含む、リンス組成物。
【請求項9】
前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとは異なる水溶性高分子をさらに含む、請求項
7又は8に記載のリンス組成物。
【請求項10】
前記水溶性高分子が、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール構造単位を含む重合体、アルキレン基及びポリアルキレンオキシド基がN原子に結合した3級アミンを含む繰り返し構造単位を少なくとも2個含むアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体、並びにそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項
9に記載のリンス組成物。
【請求項11】
前記水溶性高分子が、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール構造単位を含む重合体、並びにアルキレン基及びポリアルキレンオキシド基がN原子に結合した3級アミンを含む繰り返し構造単位を少なくとも2個含むアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体を含む、請求項
10に記載のリンス組成物。
【請求項12】
前記水溶性高分子がポリビニルアルコール構造単位を含む重合体である、請求項
10に記載のリンス組成物。
【請求項13】
基材を研磨パッド及び請求項1~
6のいずれか1項に記載の化学機械研磨組成物と接触させる工程、
前記基材に対して前記研磨パッドを前記化学機械研磨組成物をそれらの間に置いて動かす工程、並びに
前記基材の少なくとも一部をすり減らして前記基材を研磨する工程
を含む、基材の化学機械研磨方法。
【請求項14】
化学機械研磨後の基材を研磨パッド及び請求項
7~
12のいずれか1項に記載のリンス組成物と接触させる工程、並びに
前記基材に対して前記研磨パッドを前記リンス組成物をそれらの間に置いて動かす工程
を含む、基材のリンス方法。
【請求項15】
研磨剤、
塩基性成分、
式(i)RO-(AO)
n
-Hで表され、式中、Rは直鎖又は分岐鎖のC
1
~C
15
アルキル基であり、Aはエチレン基、プロピレン基及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるアルキレン基であり、nはAOの平均付加モル数を表し、2~30の数であるポリオキシアルキレンアルキルエーテル、
水性キャリヤー、並びに
アルキレン基及びポリアルキレンオキシド基がN原子に結合した3級アミンを含む繰り返し構造単位を少なくとも2個含むアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体を含む水溶性高分子
を含む、化学機械研磨組成物。
【請求項16】
式(i)RO-(AO)
n
-Hで表され、式中、Rは直鎖又は分岐鎖のC
1
~C
15
アルキル基であり、Aはエチレン基、プロピレン基及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるアルキレン基であり、nはAOの平均付加モル数を表し、2~30の数であるポリオキシアルキレンアルキルエーテル、
水性キャリヤー、並びに
アルキレン基及びポリアルキレンオキシド基がN原子に結合した3級アミンを含む繰り返し構造単位を少なくとも2個含むアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体を含む水溶性高分子
を含む、リンス組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学機械研磨組成物及びリンス組成物、並びにそれらを用いた基材の化学機械研磨方法及びリンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造に用いられるシリコンウェハは、その表面品質が厳密に要求されるものであり、このような表面品質を確保するために、従来から化学機械研磨(CMP)技術が利用されている。シリコンウェハのCMPにおいては、近年の需要増加、半導体デバイスの高性能化及び高集積化に伴い、生産性の向上に加えて、その表面品質の向上がますます強く求められている。とりわけ、コンピュータに使用される大規模集積回路(ULSI)等の高集積化及び高速化を実現するために、半導体デバイスのデザインルールの微細化が年々進んでいる。それに伴い、従来問題とされなかったナノレベルの表面欠陥を管理することの重要性が高まっている。
【0003】
シリコンウェハの表面欠陥の管理には一般的に表面欠陥検査装置が用いられる。当該表面欠陥検査装置によって検出される欠陥には、研磨工程及びリンス工程等で除去しきれなかったシリコンウェハ上の異物及び残渣が含まれる。このような表面欠陥検査装置としては、例えば、レーザ光などの光をシリコンウェハの表面に照射し、当該シリコンウェハの表面で発生した反射光又は散乱光を検出することにより、シリコンウェハの表面に存在する欠陥を検出するものが一般に知られている。
【0004】
一方で、シリコンウェハ表面にこのような強い光を照射すると、シリコンウェハ表面の粗さに起因する乱反射により曇りが見られることがある。この曇りはヘイズと呼ばれ、ヘイズはシリコンウェハの表面粗さと密接に関係していることから、当該表面粗さの尺度として用いることができる。近年、表面欠陥検査装置の急速な進歩により、表面欠陥をナノレベルまで観察できるようになったものの、シリコンウェハ表面にヘイズがあると、当該ヘイズにより生じる乱反射光がバックグラウンドノイズとなって表面欠陥検査装置による欠陥検出の妨げになることがある。このため、管理しようとする表面欠陥のサイズが小さくなるにつれ、より低い表面粗さを達成してヘイズレベルを低減する必要性が高まっている。
【0005】
特許文献1では、アルカリ成分およびコロイダルシリカを含む研磨液中に、炭素長鎖構造を有し、側鎖としてヒドロキシ低級アルコキシ基を有する鎖状炭化水素系高分子を含有するものであることを特徴とする研磨液が記載されている。また、特許文献1では、上記の研磨液は、うねりやヘイズの改善作用に優れており、しかも研磨速度も実用レベルを維持できるので、特に2次研磨用研磨液として極めて有用であると記載されている。
【0006】
特許文献2では、(A)HO-(EO)a-(PO)b-(EO)c-H(式中、EOはオキシエチレン基を示すとともにPOはオキシプロピレン基を示し、a、b及びcは1以上の整数を示す。)の一般式で示されるブロック型ポリエーテル、(B)二酸化ケイ素、(C)塩基性化合物、(D)ヒドロキシエチルセルロース及びポリビニルアルコールから選ばれる少なくとも一種並びに(E)水の各成分を含有する研磨用組成物が記載されている。また、特許文献2では、このような研磨用組成物によれば、シリコンウェハに対する研磨速度を向上させるとともにヘイズレベル及びCOPを改善することができると記載されている。
【0007】
特許文献3では、分子量が1,000以上100,000未満でかつHLB値が17以上のノニオン活性剤、塩基性化合物及び水を含有することを特徴とする研磨用組成物が記載されている。また、特許文献3では、上記の研磨用組成物によれば、研磨後の半導体基板表面のヘイズを低減することが可能であるのに加えて、同表面へのパーティクルの付着も抑えることが可能であると記載されている。
【0008】
特許文献4では、水と、塩基性化合物と、ポリオキシエチレン付加物からなるノニオン性界面活性剤とを含むシリコンウェハ用研磨用組成物であって、前記ポリオキシエチレン付加物のHLB値が8~15であり、前記ポリオキシエチレン付加物の重量平均分子量が1400以下であり、前記ポリオキシエチレン付加物のオキシエチレン平均付加モル数が13以下であり、研磨用組成物中の前記ポリオキシエチレン付加物の含有量が0.00001~0.1質量%であることを特徴とする研磨用組成物が記載されている。また、特許文献4では、上記の研磨用組成物によれば、シリコンウェハの研磨またはリンスにより生じるシリコンウェハ表面の荒れを抑制してヘイズを低減することができ、この結果、微細な欠陥の評価とそれに基づく製品管理が容易となることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平11-140427号公報
【文献】特開2005-85858号公報
【文献】特開2011-181765号公報
【文献】国際公開第2012/039390号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一般的に、化学機械研磨操作を実施すると、研磨で使用されたスラリーや、それに含まれる研磨剤、さらには研磨により生じた削りかすなどが研磨パッドに付着又は堆積する。これらの異物及び/又は残渣が研磨パッド上に残ったままであると、次の化学機械研磨操作の際にシリコンウェハ等の基材表面に欠陥を生じさせる原因となり得る。このため、一般的には、各研磨工程の前にパッドコンディショニング等を実施することによってこれらの異物及び/又は残渣が研磨パッドから取り除かれる。
【0011】
しかしながら、例えば、ヘイズを低減するために及び/又は他の目的のために研磨組成物中に含まれる添加成分が研磨パッドに付着しやすい性質を有し、それが研磨の際に研磨パッド上に付着してしまうと、当該付着した添加成分は上記のパッドコンディショニングによっても完全に除去することができない場合がある。このような場合には、シリコンウェハ等の基材の研磨を繰り返していくうちに、研磨パッド上に当該添加成分が次第に蓄積されてしまうことになる。蓄積された添加成分は、それ自体が研磨の際に基材表面に欠陥を生じさせる要因になり得るだけでなく、基材表面の濡れ性を低下させる要因にもなり得る。基材表面の濡れ性が低下すると、研磨により生じた削りかすや他の異物が基材に付着しやすくなり、その結果として、基材表面に欠陥を引き起こす要因となり得る。したがって、研磨工程の際に使用される研磨組成物や、研磨工程後のリンス工程において使用されるリンス組成物中に含まれる添加成分は、単に基材表面のヘイズ等を低減することができるだけでなく、基材表面の濡れ性に対しても不利に影響しないことが極めて重要となる。
【0012】
特許文献1~4では、基材表面のヘイズを低減することができる添加成分について記載されているものの、これらの添加成分が基材表面の濡れ性に及ぼす影響については何ら十分な検討はなされていない。
【0013】
そこで、本発明は、基材表面のヘイズを低減することができるとともに、基材表面の濡れ性を維持することができる化学機械研磨組成物及びリンス組成物、並びにそれらを用いた基材の化学機械研磨方法及びリンス方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成する本発明は下記のとおりである。
(1)研磨剤、
塩基性成分、
式(i)RO-(AO)n-Hで表され、式中、Rは直鎖又は分岐鎖のC1~C15アルキル基であり、Aはエチレン基、プロピレン基及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるアルキレン基であり、nはAOの平均付加モル数を表し、2~30の数であるポリオキシアルキレンアルキルエーテル、及び
水性キャリヤー
を含む、化学機械研磨組成物。
(2)Rが直鎖又は分岐鎖のC1~C13アルキル基である、上記(1)に記載の化学機械研磨組成物。
(3)Rが分岐鎖のC11~C15アルキル基である、上記(1)に記載の化学機械研磨組成物。
(4)前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが、ポリオキシエチレンオキシプロピレン2-プロピルヘプチルエーテル、及びポリオキシエチレンイソトリデシルエーテルのうち少なくとも1種を含む、上記(1)に記載の化学機械研磨組成物。
(5)前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとは異なる水溶性高分子をさらに含む、上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の化学機械研磨組成物。
(6)前記水溶性高分子が、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール構造単位を含む重合体、アルキレン基及びポリアルキレンオキシド基がN原子に結合した3級アミンを含む繰り返し構造単位を少なくとも2個含むアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体、並びにそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種を含む、上記(5)に記載の化学機械研磨組成物。
(7)前記水溶性高分子が、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール構造単位を含む重合体、並びにアルキレン基及びポリアルキレンオキシド基がN原子に結合した3級アミンを含む繰り返し構造単位を少なくとも2個含むアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体を含む、上記(6)に記載の化学機械研磨組成物。
(8)前記水溶性高分子がポリビニルアルコール構造単位を含む重合体である、上記(6)に記載の化学機械研磨組成物。
(9)式(i)RO-(AO)n-Hで表され、式中、Rは直鎖又は分岐鎖のC1~C15アルキル基であり、Aはエチレン基、プロピレン基及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるアルキレン基であり、nはAOの平均付加モル数を表し、2~30の数であるポリオキシアルキレンアルキルエーテル、及び
水性キャリヤー
を含む、リンス組成物。
(10)Rが直鎖又は分岐鎖のC1~C13アルキル基である、上記(9)に記載のリンス組成物。
(11)Rが分岐鎖のC11~C15アルキル基である、上記(9)に記載のリンス組成物。
(12)前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが、ポリオキシエチレンオキシプロピレン2-プロピルヘプチルエーテル、及びポリオキシエチレンイソトリデシルエーテルのうち少なくとも1種を含む、上記(9)に記載のリンス組成物。
(13)前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとは異なる水溶性高分子をさらに含む、上記(9)~(12)のいずれか1項に記載のリンス組成物。
(14)前記水溶性高分子が、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール構造単位を含む重合体、アルキレン基及びポリアルキレンオキシド基がN原子に結合した3級アミンを含む繰り返し構造単位を少なくとも2個含むアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体、並びにそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種を含む、上記(13)に記載のリンス組成物。
(15)前記水溶性高分子が、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール構造単位を含む重合体、並びにアルキレン基及びポリアルキレンオキシド基がN原子に結合した3級アミンを含む繰り返し構造単位を少なくとも2個含むアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体を含む、上記(14)に記載のリンス組成物。
(16)前記水溶性高分子がポリビニルアルコール構造単位を含む重合体である、上記(14)に記載のリンス組成物。
(17)基材を研磨パッド及び上記(1)~(8)のいずれか1項に記載の化学機械研磨組成物と接触させる工程、
前記基材に対して前記研磨パッドを前記化学機械研磨組成物をそれらの間に置いて動かす工程、並びに
前記基材の少なくとも一部をすり減らして前記基材を研磨する工程
を含む、基材の化学機械研磨方法。
(18)化学機械研磨後の基材を研磨パッド及び上記(9)~(16)のいずれか1項に記載のリンス組成物と接触させる工程、並びに
前記基材に対して前記研磨パッドを前記リンス組成物をそれらの間に置いて動かす工程
を含む、基材のリンス方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、式(i)RO-(AO)n-Hで表され、式中、Rは直鎖又は分岐鎖のC1~C15アルキル基であり、Aはエチレン基、プロピレン基及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるアルキレン基であり、nはAOの平均付加モル数を表し、2~30の数であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルを使用することで、当該ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを使用しない場合と比較して基材表面のヘイズを低減することができ、さらには、当該ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含む化学機械研磨組成物を用いて長時間にわたって基材の研磨操作を行った場合でも、当該ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含まない化学機械研磨組成物の場合と同じ高いレベルにおいて基材表面の濡れ性を維持することができる。したがって、このようなポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含む本発明の化学機械研磨組成物によれば、基材表面のヘイズを低減することで表面欠陥検査装置による欠陥検出の際のバックグラウンドノイズを低減することができるため、当該表面欠陥検査装置を用いた微小な表面欠陥、例えばナノレベルの表面欠陥の検出及び管理を容易にすることができる。加えて、本発明の化学機械研磨組成物によれば、基材表面の濡れ性の低下に起因する表面欠陥の発生を確実に排除することが可能となり、ひいては研磨パッドの寿命を向上させることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】研磨組成物1~17を用いてシリコンウェハを研磨した後のシリコンウェハ表面のヘイズ改善率(%)を示す。
【
図2】本発明に係るポリオキシアルキレンアルキルエーテルとそれとは異なる水溶性高分子であるアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体との組み合わせの効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<化学機械研磨組成物>
本発明の化学機械研磨組成物は、
研磨剤、
塩基性成分、
式(i)RO-(AO)n-Hで表され、式中、Rは直鎖又は分岐鎖のC1~C15アルキル基であり、Aはエチレン基、プロピレン基及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるアルキレン基であり、nはAOの平均付加モル数を表し、2~30の数であるポリオキシアルキレンアルキルエーテル、及び
水性キャリヤー
を含むことを特徴としている。
【0018】
一般的に、シリコンウェハ等の基材の化学機械研磨において用いられる研磨パッドは、各研磨工程の間にパッドコンディショニング等を実施しながら、複数の基材の化学機械研磨操作において繰り返し使用されるものである。しかしながら、先に述べたとおり、例えば、ヘイズを低減するために及び/又は他の目的のために研磨組成物中に含まれる添加成分が研磨の際に研磨パッド上に付着し、このようなパッドコンディショニングによっても完全に除去することができない場合がある。このような場合には、基材の研磨を繰り返していくうちに研磨パッド上に当該添加成分が次第に蓄積されて、基材表面の濡れ性を低下させる要因となり得る。基材表面の濡れ性の低下は、削りかすや他の異物の基材への付着を招き、基材表面に欠陥を引き起こす要因となり得る。したがって、研磨工程の際に使用される研磨組成物や、研磨工程後のリンス工程において使用されるリンス組成物中に含まれる添加成分は、単に基材表面のヘイズ等を低減することができるだけでなく、基材表面の濡れ性に対しても不利に影響しないことが極めて重要となる。
【0019】
そこで、本発明者らは、基材表面のヘイズを低減しつつ、基材表面の濡れ性に対しても不利に影響しない化学機械研磨組成物中の添加成分について検討した。その結果、本発明者らは、添加成分として、式(i)RO-(AO)n-Hで表され、式中、Rは直鎖又は分岐鎖のC1~C15アルキル基であり、Aはエチレン基、プロピレン基及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるアルキレン基であり、nはAOの平均付加モル数を表し、2~30の数であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルを使用することで、当該ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを使用しない場合と比較して基材表面のヘイズを低減することができること、さらには、当該ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含む化学機械研磨組成物を用いて長時間にわたって基材の研磨操作を行った場合でも、当該ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含まない化学機械研磨組成物の場合と同じ高いレベルにおいて基材表面の濡れ性を維持することができることを見出した。
【0020】
したがって、このようなポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含む本発明の化学機械研磨組成物によれば、基材表面のヘイズを低減することで表面欠陥検査装置による欠陥検出の際のバックグラウンドノイズを低減することができるため、当該表面欠陥検査装置を用いた微小な表面欠陥、例えばナノレベルの表面欠陥の検出及び管理を容易にすることができる。加えて、本発明の化学機械研磨組成物によれば、上記ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等の添加成分が研磨パッド中に蓄積することによって生じ得る基材表面の濡れ性の低下を顕著に又は完全に防ぐことができるため、このような基材表面の濡れ性の低下に起因する表面欠陥の発生を確実に排除することが可能となり、ひいては研磨パッドの寿命を向上させることも可能となる。さらに、本発明によれば、上記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、化学機械研磨組成物だけでなく、リンス組成物において使用した場合においても同様の効果を達成することが可能である。
【0021】
[研磨剤]
本発明における研磨剤は、シリコンウェハ等の半導体基材の化学機械研磨において当業者に公知の任意の適切な研磨剤であってよい。特に限定されないが、研磨剤は、例えば、アルミナ(例えば、α-アルミナ、γ-アルミナ、δ-アルミナ、及びヒュームドアルミナ)、シリカ(例えば、コロイダルシリカ、沈殿シリカ、ヒュームドシリカ)、セリア、チタニア、ジルコニア、ゲルマニア、マグネシア、それらの共形成された製品、及びそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される研磨剤であってよい。好ましくは、研磨剤は、アルミナ、シリカ、セリア、ジルコニア及びそれらの組み合わせからなる群より選択され、より好ましくは、シリカ、特にはコロイダルシリカ又はセリアであり、最も好ましくはコロイダルシリカである。
【0022】
本発明においては、研磨剤は、任意の適切な粒子サイズを有することができる。特に限定されないが、例えば、研磨剤は、0.01μm以上、0.015μm以上、0.02μm以上、又は0.025μm以上であり、かつ3μm以下、1.5μm以下、0.8μm以下、0.5μm以下、又は0.1μm以下の平均一次粒子サイズを有することができる。基材の研磨速度を向上させるという観点からは、研磨剤は、好ましくは0.01~1.5μm、より好ましくは0.01~0.5μm、最も好ましくは0.01~0.1μmの平均一次粒子サイズを有する。さらに、一次粒子が凝集して二次粒子を形成している場合には、研磨速度を向上させるという観点及び被研磨物である基材の表面粗さを低減させるという観点から、研磨剤は、好ましくは0.02~3μm、より好ましくは0.02~1.0μm、最も好ましくは0.02~0.2μmの平均二次粒子サイズを有する。研磨剤の平均一次粒子サイズは、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)により観察して画像解析を行うことにより求めることができる。また、平均二次粒子サイズは、レーザ光散乱法を用いて体積平均粒子サイズとして測定することができる。
【0023】
研磨剤は、水性キャリヤーとその中に溶解又は懸濁している全成分の質量に基づいて、例えば、0.01質量%以上、0.02質量%以上、0.05質量%以上、又は0.1質量%以上であり、かつ20質量%以下、15質量%以下、12質量%以下、又は10質量%以下の量で化学機械研磨組成物中に存在してよい。研磨剤は、好ましくは0.01~20質量%、より好ましくは0.05~15質量%、最も好ましくは0.1~10質量%の量で化学機械研磨組成物中に存在してよい。
【0024】
[塩基性成分]
本発明における塩基性成分は、シリコンウェハ等の半導体基材の表面に化学的に作用して研磨剤による機械研磨を助けることができる任意の成分であってよい。特に限定されないが、塩基性成分は、例えば、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、及びそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される化合物であってよい。好ましくは、塩基性成分は、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸ナトリウムからなる群より選択される。より好ましくは、塩基性成分は、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、又は水酸化テトラエチルアンモニウムであり、最も好ましくはアンモニアである。
【0025】
塩基性成分は、水性キャリヤーとその中に溶解又は懸濁している全成分の質量に基づいて、例えば、0.001質量%以上、0.002質量%以上、0.005質量%以上、又は0.01質量%以上であり、かつ2.0質量%以下、1.5質量%以下、1.2質量%以下、又は1.0質量%以下の量で化学機械研磨組成物中に存在してよい。塩基性成分は、好ましくは0.001~2.0質量%、より好ましくは0.005~1.5質量%、最も好ましくは0.01~1.0質量%の量で化学機械研磨組成物中に存在してよい。
【0026】
[ポリオキシアルキレンアルキルエーテル]
本発明の化学機械研磨組成物は、式(i)RO-(AO)n-Hで表され、式中、Rは直鎖又は分岐鎖のC1~C15アルキル基であり、Aはエチレン基、プロピレン基及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるアルキレン基であり、nはAOの平均付加モル数を表し、2~30の数であるポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含む。このようなポリオキシアルキレンアルキルエーテルを添加成分として含むことで、当該ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含まない場合と比較して基材表面のヘイズを低減することができ、さらには、当該ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等の添加成分が研磨パッド中に蓄積することによって生じ得る基材表面の濡れ性の低下を顕著に又は完全に防ぐことができる。したがって、当該ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含む本発明の化学機械研磨組成物によれば、基材表面の濡れ性の低下に起因する表面欠陥の発生を確実に排除することが可能となり、ひいては研磨パッドの寿命を向上させることも可能となる。
【0027】
式(i)中のR基の炭素数が16以上であっても、特定のポリオキシアルキレンアルキルエーテルについては、基材表面のヘイズを低減することは可能である。しかしながら、式(i)中のR基の炭素数が16以上になると、このようなポリオキシアルキレンアルキルエーテル、例えば、ポリオキシエチレンセチルエーテル又はポリオキシエチレンステアリルエーテルは研磨パッド中に蓄積されやすいため、各研磨工程の前に実施されるパッドコンディショニング等によっては完全に除去することができない。このため、基材の研磨を繰り返していくうちに研磨パッド上にポリオキシアルキレンアルキルエーテルが次第に蓄積されてしまう。蓄積されたポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、基材表面の濡れ性を低下させ、場合によってはそれ自体が研磨の際に基材表面に欠陥を生じさせる要因となる。また、基材表面の濡れ性が低下すると、研磨により生じた削りかすや他の異物が基材に付着しやすくなり、その結果として、基材表面に欠陥を引き起こす要因となり得る。
【0028】
したがって、本発明においては、式(i)中のRは直鎖又は分岐鎖のC1~C15アルキル基である必要があり、基材表面のヘイズの低減及び研磨パッド中へのポリオキシアルキレンアルキルエーテルの蓄積に起因する基材表面の濡れ性の低下をより確実に防ぐためには、Rは直鎖又は分岐鎖のC1~C13アルキル基であることが好ましい。また、本発明の別の好ましい態様においては、Rは分岐鎖のC11~C15アルキル基であってもよく、分岐鎖のC12~C14アルキル基であるか、又は分岐鎖のC13アルキル基(例えば、イソトリデシル基)であってもよい。
【0029】
式(i)中のAは、エチレン基とプロピレン基のいずれであってもよく、1つ又は複数のエチレン基と1つ又は複数のプロピレン基の任意の組み合わせであってもよい。本発明の特定の好ましい態様においては、Aはエチレン基であるか又はエチレン基とプロピレン基の組み合わせである。
【0030】
式(i)中のnはAOの平均付加モル数を表し、2~30の範囲内で適切に決定すればよい。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが研磨パッド中に蓄積されることによる基材表面の濡れ性の低下を改善するという観点からは、nはより大きな値であることが好ましく、例えば、5以上、6以上、8以上、10以上、11以上又は12以上であってよい。また、nは28以下であってもよく、例えば25以下又は23以下であってもよい。なお、本発明において、AOの平均付加モル数とは、1モルのポリオキシアルキレンアルキルエーテル中に含まれるオキシアルキレン単位のモル数の平均値を言うものである。
【0031】
上記のポリオキシアルキレンアルキルエーテルの具体例としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレンイソプロピルエーテル、ポリオキシエチレンイソブチルエーテル、ポリオキシエチレンsec-ブチルエーテル、ポリオキシエチレン-t-ブチルエーテル、ポリオキシエチレンイソペンチルエーテル、ポリオキシエチレンイソヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンヘプチルエーテル、ポリオキシエチレンイソヘプチルエーテル、ポリオキシエチレンイソオクチルエーテル、ポリオキシエチレンイソノニルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレン2-プロピルヘプチルエーテル、ポリオキシエチレンウンデシルエーテル、ポリオキシエチレンイソウンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンイソラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンイソトリデシルエーテル、ポリオキシエチレンテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレンイソテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレンペンタデシルエーテル、及びポリオキシエチレンイソペンタデシルエーテル等が挙げられる。
【0032】
好ましくは、上記のポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレン2-プロピルヘプチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、及びポリオキシエチレンイソトリデシルエーテルのうち少なくとも1種を含み、最も好ましくは、ポリオキシエチレンオキシプロピレン2-プロピルヘプチルエーテル、及びポリオキシエチレンイソトリデシルエーテルのうち少なくとも1種を含む。これらのポリオキシアルキレンアルキルエーテルは当業者に公知の任意の方法によって合成してもよいし又は商業的に入手することも可能である。
【0033】
(HLB値)
本発明において、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルのHLB値は、グリフィン法に従って算出され、より具体的には以下の式によって算出される。
HLB値=20×(親水部の式量の総和)/(分子量)
ここで、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの親水部は、ポリオキシアルキレンすなわち式(i)中の(AO)n部に相当することから、HLB値は、R基の炭素数とオキシアルキレン(AO)の平均付加モル数に依存して変化することが明らかである。しかしながら、本発明の効果、とりわけ基材表面の濡れ性の向上については、式(i)中のR基の炭素数が支配的なパラメータであり、このためHLB値によって基材表面の濡れ性が大きく左右されることはない。したがって、本発明に係るポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、任意の好適なHLB値を有することができる。一般的には、HLB値は12~18の範囲内において適宜決定すればよい。
【0034】
(分子量)
本発明において、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、任意の適切な分子量を有することができる。特に限定されないが、当該ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、約100~約2,000の平均分子量を有することができる。
【0035】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、水性キャリヤーとその中に溶解又は懸濁している全成分の質量に基づいて、例えば、0.01ppm以上、0.02ppm以上、0.05ppm以上、又は0.1ppm以上であり、かつ5000ppm以下、3000ppm以下、1000ppm以下、又は500ppm以下の量で化学機械研磨組成物中に存在してよい。ポリオキシアルキレンアルキルエーテルは、好ましくは0.1~5000ppm(0.00001~0.5質量%)、より好ましくは0.1~1000ppm(0.00001~0.1質量%)、最も好ましくは0.1~500ppm(0.00001~0.05質量%)の量で化学機械研磨組成物中に存在してよい。
【0036】
[水性キャリヤー]
水性キャリヤーは、当該水性キャリヤー中に溶解又は懸濁している全成分を研磨されるべき好適な基材表面に適用することを促進するのに用いられる。水性キャリヤーは、典型的には水のみから構成されてもよく、水と水溶性溶剤を含んでもよく、又はエマルジョンであってもよい。好ましい水溶性溶剤としては、アルコール、例えば、メタノール、エタノールなどが挙げられる。水性キャリヤーは、好ましくは水、より好ましくは脱イオン水である。
【0037】
本発明の化学機械研磨組成物は、任意の好適なpHを有することができ、具体的なpH値は研磨速度等を考慮して適宜決定すればよい。例えば、化学機械研磨組成物は、7~12のpHを有することができ、好ましくは8~12、より好ましくは8.5~12のpHを有する。pH値は、必要に応じてpH調整剤を添加することにより調整することができる。pH調整剤は、任意のアルカリ性物質であってよく、上記の塩基性成分と同じであっても又は異なっていてもよい。好ましくは、pH調整剤は、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸ナトリウムからなる群より選択される。より好ましくは、pH調整剤は、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、又は水酸化テトラエチルアンモニウムであり、最も好ましくはアンモニアである。
【0038】
[水溶性高分子]
本発明の化学機械研磨組成物は、任意選択で、上記のポリオキシアルキレンアルキルエーテルとは異なる水溶性高分子をさらに含んでもよい。このような水溶性高分子としては、特に限定されないが、例えば、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール構造単位を含む重合体、アルキレン基及びポリアルキレンオキシド基がN原子に結合した3級アミンを含む繰り返し構造単位を少なくとも2個含むアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体、並びにそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0039】
ヘイズの低減の観点からは、例えば、本発明に係るポリオキシアルキレンアルキルエーテルとともに上記のアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体を使用することで、添加成分としてそれぞれを単独で使用した場合と比較して、より高いヘイズの低減効果を達成することが可能となる。一般的には、添加成分にはその効果に飽和域があるため、含有量を増加させてもある含有量を境にそれに応じた効果が十分には得られなくなる。したがって、本発明に係るポリオキシアルキレンアルキルエーテルの含有量を単に増加させるだけでヘイズ値を大きく改善することは難しい。また、当該ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの含有量を多くしすぎると、それが研磨パッド上に蓄積する量も増えることになるため、濡れ性向上の観点からも好ましくない。
【0040】
しかしながら、本発明の好ましい態様によれば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとともにアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体を加えることで、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル単独では達成できないヘイズの低減効果を得ることが可能となる。したがって、ヘイズの低減の観点からは、本発明の化学機械研磨組成物は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとは異なる水溶性高分子として、アルキレン基及びポリアルキレンオキシド基がN原子に結合した3級アミンを含む繰り返し構造単位を少なくとも2個含むアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体を含むことが好ましく、本発明の特定の好ましい態様では、当該水溶性高分子は、当該アルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体に加えて、さらにセルロース誘導体及びポリビニルアルコール構造単位を含む重合体を含む。特に、ポリビニルアルコール構造単位を含む重合体は、濡れ剤としても機能することができるため、当該ポリビニルアルコール構造単位を含む重合体を使用することで、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの添加による濡れ性の悪化を抑制する効果を達成することが可能である。
【0041】
何ら特定の理論に束縛されることを意図するものではないが、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、特にはポリオキシエチレンアルキルエーテル類は、高い界面活性能を有しており、そのため安定な研磨性能を示す濃度範囲が狭く、研磨剤流量、研磨パッドサイズ、並びに研磨パッドの種類(パッド材質、空孔径、溝パターン)等の様々な研磨条件に依存して、その濃度依存性も変動しやすいと考えられる。そこで、濃度依存性が比較的鈍感であり、豊富な量を添加することができるアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体、特にはEO基とPO基の両方を含むEO-PO型界面活性剤であるアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体を併せて添加することで、上記のような様々な研磨条件においても、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの濃度依存性を緩和して、ヘイズの安定性を維持することが可能になると考えられる。以下、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール構造単位を含む重合体、並びにアルキレン基及びポリアルキレンオキシド基がN原子に結合した3級アミンを含む繰り返し構造単位を少なくとも2個含むアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体のそれぞれについて詳しく説明する。
【0042】
(セルロース誘導体)
任意選択のセルロース誘導体は、本発明の化学機械研磨組成物において主として濡れ剤として作用する。このような濡れ剤は、シリコンウェハ等の基材の表面を親水性に維持するのに有効である。本発明においては、セルロース誘導体は、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びそれらの任意の組み合わせから選択することができ、好ましくはヒドロキシエチルセルロースである。セルロース誘導体は、50,000~2,000,000の平均分子量を有することができる。
【0043】
セルロース誘導体は、水性キャリヤーとその中に溶解又は懸濁している全成分の質量に基づいて、例えば、0.001質量%以上、0.002質量%以上、0.005質量%以上、又は0.01質量%以上であり、かつ2.0質量%以下、1.5質量%以下、1.2質量%以下、又は1.0質量%以下の量で化学機械研磨組成物中に存在してよい。セルロース誘導体は、好ましくは0.001~2.0質量%、より好ましくは0.005~1.5質量%、最も好ましくは0.01~1.0質量%の量で化学機械研磨組成物中に存在してよい。
【0044】
(ポリビニルアルコール構造単位を含む重合体)
化学機械研磨においては、基材と研磨組成物(スラリー)との間で機械的な相互作用を利用するため、スラリー中に含まれる研磨剤及び/又はスラリー中で凝集した他のパーティクルなどによって研磨の際にナノスクラッチやPID等の基材上の連続した表面欠陥が発生する場合がある。本発明においては、ナノスクラッチやPID等の基材上の連続した表面欠陥を低減するために、化学機械研磨組成物は、ポリビニルアルコール構造単位を含む重合体を含有することができる。
【0045】
ポリビニルアルコール構造単位を含む重合体はまた、濡れ剤として機能することもできる。したがって、本発明の化学機械研磨組成物において、基材表面を親水性に維持するために、セルロース誘導体に代えて又はそれに加えて、ポリビニルアルコール構造単位を含む重合体を使用してもよい。セルロース誘導体は、天然のセルロース由来であるため、品質の安定性を維持することが非常に難しいという問題がある。
【0046】
例えば、研磨組成物を実際の化学機械研磨において使用する場合には、欠陥の原因となり得る凝集粒子を研磨組成物から除去するために、プラテン(定盤)上に供給する前に研磨組成物を濾過することが一般的に行われている。しかしながら、研磨組成物中にセルロース誘導体が含まれていると、濾過操作においてセルロース誘導体によって濾過部材が目詰まりを起こすため、頻繁な濾過部材の洗浄や交換等が必要となる。一方、ポリビニルアルコール構造単位を含む重合体は合成化合物であるため、セルロース誘導体などと比べて品質の制御を比較的容易に行うことができる。したがって、セルロース誘導体に代えてポリビニルアルコール構造単位を含む重合体を使用することで、セルロース誘導体を使用する場合に生じる上記のような問題を比較的容易に解決することができる。この場合、本発明に係るポリオキシアルキレンアルキルエーテルとは異なる水溶性高分子は、ポリビニルアルコール構造単位を含む重合体のみから構成してもよい。
【0047】
ポリビニルアルコール構造単位を含む重合体としては、ポリビニルアルコール構造単位を含む任意の重合体であってよい。例えば、ポリビニルアルコール構造単位を含む重合体は、単にポリビニルアルコールであってもよく、又はポリビニルアルコールに加えて、ポリエチレングリコール等のポリアルキレンオキシドを含むものであってもよい。さらに、ポリビニルアルコール構造単位を含む重合体は、例えば、重合体の主鎖又は側鎖にポリビニルアルコール構造単位を含むものであってよく、さらに当該ポリビニルアルコール構造単位の一部がアシロキシ基で置換されたものであってもよい。重合体の主鎖にポリビニルアルコール構造単位を含む重合体としては、例えば、主鎖にポリビニルアルコール構造単位を含み、側鎖にポリアルキレンオキシド構造単位を含むポリビニルアルコール-ポリアルキレンオキシドグラフト共重合体が挙げられ、当該ポリアルキレンオキシド構造単位は、エチレンオキシド、プロピレンオキシド及びそれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1つを含むものであってよい。このような共重合体において、ポリビニルアルコール構造単位とポリアルキレンオキシド構造単位は、例えば、モル比で、95:5~60:40又は90:10~70:30の範囲において存在してもよい。
【0048】
このような共重合体の好ましい例としては、例えば、以下の式(ii):
【化1】
で表され、式中、Rは、水酸基、又はR’COO-で表されるアシロキシ基(式中、R’はC
1~C
8アルキル基である)(例えばCH
3COO-基等)であり、R
1は、水素原子、又はR”CO-で表されるアシル基(式中、R”はC
1~C
8アルキル基である)(例えばCH
3CO-基等)であり、aは1~10,000の整数であり、M1及びM2はそれぞれ0mol%超100mol%未満の実数であり、M1+M2=100mol%であるポリビニルアルコール-ポリエチレンオキシドグラフト共重合体が挙げられる。式(ii)の共重合体は、Rについて水酸基とアシロキシ基が混在した構造であってよく、より具体的にはアシロキシ基の一部が水酸基にケン化された構造であってよい。この場合のケン化度は、特に限定されないが、70~100%、80~100%、90~100%又は95~100%であってよい。M1及びM2の値は、主鎖を構成するポリビニルアルコール構造単位と側鎖を構成するポリエチレンオキシド構造単位の存在比に応じて適切に決定することができる。
【0049】
式(ii)のポリビニルアルコール-ポリエチレンオキシドグラフト共重合体のより具体的な例としては、以下の式(iii):
【化2】
で表され、式中、aは1~10,000の整数であり、M1及びM2はそれぞれ0mol%超100mol%未満の実数であり、M1+M2=100mol%であるポリビニルアルコール-ポリエチレンオキシドグラフト共重合体が挙げられる。式(iii)中の主鎖を構成するポリビニルアルコール構造単位の水酸基は、その一部がR’COO-で表されるアシロキシ基(式中、R’はC
1~C
8アルキル基である)で置換されていてもよく、同様に、式(iii)中の側鎖を構成するポリエチレンオキシド構造単位の末端水酸基は、その一部がR”CO-で表されるアシル基(式中、R”はC
1~C
8アルキル基である)で置換されていてもよい。
【0050】
一方、重合体の側鎖にポリビニルアルコール構造単位を含む重合体としては、例えば、主鎖にポリアルキレンオキシド構造単位を含み、側鎖にポリビニルアルコール構造単位を含むポリビニルアルコール-ポリアルキレンオキシドグラフト共重合体が挙げられ、当該ポリアルキレンオキシド構造単位は、エチレンオキシド、プロピレンオキシド及びそれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1つを含むものであってよい。このような共重合体において、ポリビニルアルコール構造単位とポリアルキレンオキシド構造単位は、例えば、モル比で、95:5~60:40又は90:10~70:30の範囲において存在してもよい。
【0051】
このような共重合体の好ましい例としては、例えば、以下の式(iv):
【化3】
で表され、式中、Rは、水酸基、又はR’COO-で表されるアシロキシ基(式中、R’はC
1~C
8アルキル基である)(例えばCH
3COO-基等)であり、R
2及びR
3はそれぞれ独立して直鎖又は分岐鎖のC
2~C
3アルキレン基であり、bは2~10,000の整数であり、N1及びN2はそれぞれ0mol%超100mol%未満の実数であり、N1+N2=100mol%であるポリビニルアルコール-ポリエチレンオキシドグラフト共重合体が挙げられる。式(iv)の共重合体は、Rについて水酸基とアシロキシ基が混在した構造であってよく、より具体的にはアシロキシ基の一部が水酸基にケン化された構造であってよい。この場合のケン化度は、特に限定されないが、70~100%、80~100%、90~100%又は95~100%であってよい。N1とN2の値は、主鎖を構成するポリエチレンオキシド構造単位と側鎖を構成するポリビニルアルコール構造単位の存在比に応じて適切に決定することができる。
【0052】
式(iv)のポリビニルアルコール-ポリエチレンオキシドグラフト共重合体のより具体的な例としては、以下の式(v):
【化4】
で表され、式中、bは2~10,000の整数であり、N1及びN2はそれぞれ0mol%超100mol%未満の実数であり、N1+N2=100mol%であるポリビニルアルコール-ポリエチレンオキシドグラフト共重合体が挙げられる。式(v)中の側鎖を構成するポリビニルアルコール構造単位の水酸基は、その一部がR’COO-で表されるアシロキシ基(式中、R’はC
1~C
8アルキル基である)で置換されていてもよい。
【0053】
ポリビニルアルコール構造単位を含む重合体がポリビニルアルコールであるか、又はポリビニルアルコールとポリアルキレンオキシドの混合物である場合には、ポリビニルアルコール及びポリアルキレンオキシドは、例えば1,000~10,000,000の平均分子量を有することができる。一方、ポリビニルアルコール構造単位を含む重合体が上記のポリビニルアルコール-ポリエチレンオキシドグラフト共重合体である場合には、当該ポリビニルアルコール-ポリエチレンオキシドグラフト共重合体は、例えば、5,000~500,000、10,000~300,000、又は10,000~200,000の平均分子量を有することができる。
【0054】
ポリビニルアルコール構造単位を含む重合体は、水性キャリヤーとその中に溶解又は懸濁している全成分の質量に基づいて、例えば、0.1ppm以上、1ppm以上、2ppm以上、又は5ppm以上であり、かつ5000ppm以下、3000ppm以下、1000ppm以下、又は500ppm以下の量で化学機械研磨組成物中に存在してよい。ポリビニルアルコール構造単位を含む重合体は、好ましくは0.1~5000ppm(0.00001~0.5質量%)、より好ましくは1~1000ppm(0.0001~0.1質量%)、最も好ましくは2~500ppm(0.0002~0.05質量%)の量で化学機械研磨組成物中に存在してよい。
【0055】
(アルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体)
本発明の化学機械研磨組成物は、基材表面のヘイズをさらに低減するために、本発明に係るポリオキシアルキレンアルキルエーテルに加えて、アルキレン基及びポリアルキレンオキシド基がN原子に結合した3級アミンを含む繰り返し構造単位を少なくとも2個含むアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体をさらに含んでもよい。上記のとおり、本発明に係るポリオキシアルキレンアルキルエーテルとともに当該アルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体を使用することで、添加成分としてそれぞれを単独で使用した場合と比較して、より高いヘイズの低減効果を達成することが可能となる。
【0056】
上記のアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体は、特に限定されないが、例えば、以下の式(vi):
【化5】
で表され、式中、R
3は、直鎖又は分岐鎖のC
1~C
10アルキレン基であり、好ましくは直鎖又は分岐鎖のC
1~C
4アルキレン基、より好ましくはエチレン基であり、R
4はエチレン基、プロピレン基、ブチレン基及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるアルキレン基であり、xは2~1000、好ましくは2~20の整数であり、yは2~10000、好ましくは2~500の整数である。R
4は、好ましくはエチレン基及び/又はプロピレン基から選択される。R
4がエチレン基とプロピレン基の両方を含む場合には、エチレン基とプロピレン基は、モル比で、80:20~90:10であることが好ましい。
【0057】
上記のアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体は、9~10の溶解性パラメータ(SP)を有することが好ましい。本発明において、溶解性パラメータ(SP)とは、上田ら、塗料の研究、No.152、Oct.2010年、第41~46頁において記載されているFedorsの方法を使用して計算したものを言う。
【0058】
アルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体は、例えば、5,000~100,000又は10,000~80,000の平均分子量を有することができる。平均分子量が5,000未満の場合には、十分にヘイズを改善することができない。一方で、平均分子量が100,000を超える場合には、アルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体によって得られる効果、例えばヘイズ向上の効果に関する添加量依存性が大きくなりすぎるため好ましくない。
【0059】
アルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体は、水性キャリヤーとその中に溶解又は懸濁している全成分の質量に基づいて、例えば、1ppm以上、2ppm以上、5ppm以上、又は10ppm以上であり、かつ5000ppm以下、3000ppm以下、1000ppm以下、又は500ppm以下の量で化学機械研磨組成物中に存在してよい。アルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体は、好ましくは1~5000ppm(0.0001~0.5質量%)、より好ましくは2~1000ppm(0.0002~0.1質量%)、最も好ましくは5~1000ppm(0.0005~0.1質量%)の量で化学機械研磨組成物中に存在してよい。
【0060】
上記のアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体は、当業者に公知の任意の方法により製造することができる。例えば、アルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体は、分子内に2個以上の第1級アミノ基及び/又は第2級アミノ基を有し、かつN原子を4~100個を含むポリアミン化合物の活性水素に、アルキレンオキシドを付加重合させることにより製造することができる。より具体的には、当該ポリアミン化合物にアルカリ触媒下100~180℃及び1~10気圧でアルキレンオキシドを付加重合(グラフト重合)することにより製造することができる。ポリアミン化合物に対するアルキレンオキシドの付加重合の態様に特に制限はなく、2種以上のアルキレンオキシドが付加している場合、その形態はブロック状であってもランダム状であってもよい。
【0061】
主鎖構造を与えるポリアミン化合物としては、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミンなどのポリエチレンポリアミン、及びエチレンイミンの重合によって得られるポリエチレンイミンなどのポリアルキレンイミンなどを挙げることができる。これらの化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用して、ポリアミンの主鎖構造を形成してもよい。当該主鎖構造に付加させるアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、及びブチレンオキシドなどを挙げることができる。これらのアルキレンオキシドは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0062】
[他の添加剤]
本発明の化学機械研磨組成物は、任意選択で、他の水溶性添加剤をさらに含んでもよい。このような水溶性添加剤としては、例えば、ビニルモノマーを重合させて生成されるホモポリマー及びコポリマーを挙げることができる。このようなビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、クロロスチレン、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、オクチル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、アジピン酸ビニル、(メタ)アクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、ケイ皮酸ビニル、アクリロニトリル、リモネン、シクロヘキセン、2-ビニルピリジン、3-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、N-ビニルピロリドン、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルメチルアセトアミド、ビニルフラン、2-ビニルオキシテトラピラン、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、アミルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、ノニルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ヘキサデシルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、ブトキシエチルビニルエーテル、セチルビニルエーテル、フェノキシエチルビニルエーテル、アリルビニルエーテル、メタリルビニルエーテル、グリシジルビニルエーテル、2-クロロエチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、エチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、プロピレングリコールモノビニルエーテル、ポリプロピレングリコールモノビニルエーテル、1,3-ブチレングリコールモノビニルエーテル、テトラメチレングリコールモノビニルエーテル、ヘキサメチレングリコールモノビニルエーテル、ネオペンチルグリコールモノビニルエーテル、トリメチロールプロパンモノビニルエーテル、グリセリンモノビニルエーテル、ペンタエリスリトールモノビニルエーテル、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテルを挙げることができる。
【0063】
上記他の水溶性添加剤の具体例としては、例えば、ポリ-N-ビニルピロリドン、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリグリセリン、分子量が1,000~1,000,000のPEG/PEO、PEG-PPGブロック共重合体、アルキレンオキシドエチレンジアミン付加物(EO質量割合35%、PPG分子量4400、リバースタイプ)、ポリ-2-エチルオキサゾリン(平均分子量500,000)、ポリアクリル酸(平均分子量25,000)、ポリアクリル酸塩(平均分子量5,000)を挙げることができる。
【0064】
[リンス組成物]
本発明のリンス組成物は、
式(i)RO-(AO)n-Hで表され、式中、Rは直鎖又は分岐鎖のC1~C15アルキル基であり、Aはエチレン基、プロピレン基及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるアルキレン基であり、nはAOの平均付加モル数を表し、2~30の数であるポリオキシアルキレンアルキルエーテル、及び
水性キャリヤー
を含むことを特徴としている。
【0065】
化学機械研磨後の基材を、本発明のリンス組成物を用いて洗浄することで、研磨パッド上に残留している研磨剤等を除去するとともに、本発明の化学機械研磨組成物と同様の効果を達成することができ、より具体的には基材表面のヘイズを低減するとともに、基材表面の濡れ性を維持することができる。ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及び水性キャリヤーの詳細については、本発明の化学機械研磨組成物について先に説明したとおりである。
【0066】
また、本発明のリンス組成物は、任意選択で、上記のポリオキシアルキレンアルキルエーテルとは異なる水溶性高分子をさらに含んでもよい。このような水溶性高分子としては、特に限定されないが、例えば、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール構造単位を含む重合体、アルキレン基及びポリアルキレンオキシド基がN原子に結合した3級アミンを含む繰り返し構造単位を少なくとも2個含むアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体、並びにそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0067】
ヘイズの低減の観点からは、例えば、本発明に係るポリオキシアルキレンアルキルエーテルとともに上記のアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体を使用することで、添加成分としてそれぞれを単独で使用した場合と比較して、より高いヘイズの低減効果を達成することが可能となる。したがって、ヘイズの低減の観点からは、本発明のリンス組成物は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとは異なる水溶性高分子として、アルキレン基及びポリアルキレンオキシド基がN原子に結合した3級アミンを含む繰り返し構造単位を少なくとも2個含むアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体を含むことが好ましく、本発明の特定の好ましい態様では、当該水溶性高分子は、当該アルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体に加えて、さらにセルロース誘導体及びポリビニルアルコール構造単位を含む重合体を含む。また、本発明の化学機械研磨組成物について先に説明したのと同じ理由から、本発明のリンス組成物において用いられる上記の水溶性高分子は、ポリビニルアルコール構造単位を含む重合体のみから構成してもよい。
【0068】
本発明のリンス組成物において用いられるセルロース誘導体、ポリビニルアルコール構造単位を含む重合体、並びにアルキレン基及びポリアルキレンオキシド基がN原子に結合した3級アミンを含む繰り返し構造単位を少なくとも2個含むアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体の詳細については、本発明の化学機械研磨組成物について先に説明したとおりである。また、本発明のリンス組成物は、任意選択で、他の水溶性添加剤をさらに含んでもよい。当該他の水溶性添加剤の詳細についても同様に、本発明の化学機械研磨組成物について先に説明したとおりである。
【0069】
[基材の化学機械研磨方法]
本発明の基材の化学機械研磨方法は、
基材を研磨パッド及び上で説明した化学機械研磨組成物と接触させる工程、
前記基材に対して前記研磨パッドを前記化学機械研磨組成物をそれらの間に置いて動かす工程、並びに
前記基材の少なくとも一部をすり減らして前記基材を研磨する工程
を含むことを特徴としている。
【0070】
基材を化学機械研磨する本発明の方法は、化学機械研磨(CMP)装置とともに使用するのに特に適している。典型的には、この装置は、使用の際に動き、軌道、直線又は円運動から生じる速度を有するプラテンと、このプラテンと接触し、プラテンが動くとそれとともに動く研磨パッドと、研磨パッドの表面に対して接触し動くことにより研磨すべき基材を保持するキャリヤーとを含む。基材の研磨は、基材を研磨パッド及び本発明の化学機械研磨組成物と接触させることにより行われ、次いで研磨パッドを基材に対して動かして基材の少なくとも一部をすり減らして基材を研磨するようにする。
【0071】
基材は、任意の好適な研磨パッドとともに化学機械研磨組成物で平坦化又は研磨することができる。基材は、シリコン基材だけでなく、ポリシリコン膜、SiO2膜又は金属配線膜が形成されたシリコン基材、サファイア基材、SiC基材、GaAs基材、GaN基材、及びTSV形成用基材などであってもよい。好適な研磨パッドとしては、例えば、織及び不織の研磨パッドが挙げられる。さらに、好適な研磨パッドは、種々の密度、硬度、厚さ、圧縮性、圧縮に対する反発力、及び圧縮弾性率の任意の好適なポリマーを含むことができる。好適なポリマーとしては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、ナイロン、フッ化炭素、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリエーテル、ポリエチレン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリプロピレン、それらの共形成製品、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0072】
本発明の方法は、事前に化学機械研磨組成物のスラリーを調製しておき、当該スラリーを基材に供給しながら研磨パッドで研磨する方法に加え、希釈液及びスラリー原液を研磨パッド上に供給し、研磨パッド近傍で研磨用のスラリーを調製する方法においても実施することができる。
【0073】
[基材のリンス方法]
本発明の基材のリンス方法は、
化学機械研磨後の基材を研磨パッド及び上で説明したリンス組成物と接触させる工程、並びに
前記基材に対して前記研磨パッドを前記リンス組成物をそれらの間に置いて動かす工程
を含むことを特徴としている。
【0074】
化学機械研磨後の基材を、本発明のリンス組成物及び上記の方法を用いて洗浄することで、研磨パッド上に残留している研磨剤等を除去するとともに、本発明の化学機械研磨組成物と同様の効果を達成することができ、より具体的には基材表面のヘイズを低減するとともに、基材表面の濡れ性を維持することができる。当該方法において用いられるCMP装置、並びに基材及び研磨パッド等の詳細については、基材の化学機械研磨方法について先に説明したとおりである。
【0075】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0076】
以下の実施例では、本発明に係る種々の化学機械研磨組成物を調製し、それらを用いてシリコン基材を研磨したときの基材表面のヘイズ特性及び濡れ性について調べた。
【0077】
[例A:ヘイズ特性の評価]
[研磨組成物1~12(グループI)の調製]
水に、5質量%のコロイダルシリカ(平均一次粒子サイズ25nm)、0.2質量%のアンモニア、0.28質量%のヒドロキシエチルセルロース、0.01質量%の式(iii)を有するポリビニルアルコール-ポリエチレンオキシドグラフト共重合体(ポリビニルアルコール:ポリエチレンオキシド=80:20mol%、分子量:93,600、ケン化度:98.5%)、0.05質量%の式(vi)を有するアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体(R3:エチレン基、EO:PO=8:2、平均窒素数5個、分子量:46,000)、及び下表1の種々のポリオキシアルキレンアルキルエーテルを添加して、研磨組成物1~12を調製した。
【0078】
[研磨組成物13~15(グループII)の調製]
ポリビニルアルコール-ポリエチレンオキシドグラフト共重合体及びアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体を添加しなかったこと以外はグループIの場合と同様にして、研磨組成物13~15を調製した。
【0079】
[研磨組成物16及び17(グループIII)の調製]
ヒドロキシエチルセルロース及びアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体を添加しなかったこと以外はグループIの場合と同様にして、研磨組成物16及び17を調製した。なお、研磨組成物1~17は、約10~約10.4のpHを有していた。
【0080】
【0081】
[研磨操作]
まず、抵抗率0.1~100Ω・cm及び結晶方位<100>の12インチp型シリコンウェハ(シリコン基材)をフッ化水素酸(0.5%)を用いて23℃で2分間洗浄して自然酸化膜を除去し、次いで、得られたシリコンウェハを、上で調製した研磨組成物を純水で20倍希釈(質量比)したスラリーを用いて以下の条件下で化学機械研磨処理した。希釈後のスラリーのpHは約9.5~約9.9であった。
(1)CMP装置:12インチ片面研磨機、岡本機械製作所製SPP800S
(2)ウェハヘッド:テンプレート方式
(3)研磨パッド:フジボウ愛媛社製POLYPAS 27NX-PS
(4)定盤回転数:31rpm
(5)研磨ヘッド回転数:33rpm
(6)研磨圧:2.2psi=152g/cm2=15kPa
(7)スラリー供給量:500mL/分(かけ流し)
【0082】
研磨後、シリコンウェハを、SC-1(アンモニア(29質量%水溶液):過酸化水素(31質量%水溶液):純水=2:1:10(体積比)の溶液)を用いて23℃で20分間バッチ洗浄した。次に、シリコンウェハを芝浦メカトロニクス製SC-200Sにより、SC-1(アンモニア(29質量%水溶液):過酸化水素(31質量%水溶液):純水=1:4:20(体積比)の溶液)及びPVAブラシを用いて23℃でスクラブ洗浄し、次いで純水洗浄した。洗浄後のシリコンウェハ表面のヘイズは、KLA Tencor社製のSurfscan SP2を用いて、暗視野ワイド斜入射チャネル(DWO)で測定される値で評価した。その結果を
図1に示す。
【0083】
図1は、研磨組成物1~17を用いてシリコンウェハを研磨した後のシリコンウェハ表面のヘイズ改善率(%)を示している。より具体的には、
図1は、グループI~IIIの各グループにおいてポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含まない研磨組成物(対照標準)によって得られたヘイズ値を100%とした場合の各研磨組成物に関するヘイズ値の相対的な割合をヘイズ改善率として示している。
図1から明らかなように、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含む研磨組成物1~17の全てにおいてヘイズ改善率が100%を大きく下回っており、それゆえポリオキシアルキレンアルキルエーテルを添加することで、当該ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを添加しない場合と比較してシリコンウェハ表面のヘイズが低減されていることがわかる。
【0084】
[例B:濡れ性の評価]
次に、上記の研磨組成物1~17に関し、当該研磨組成物中の添加成分が研磨パッド中に蓄積することによって生じる基材表面の濡れ性の低下について調べた。長時間にわたる基材の研磨操作を模擬するために、例Aで説明した研磨操作の間にパッドコンディショニングを行うことなしに連続して化学機械研磨を実施した場合の各研磨時間での基材表面の濡れ性を評価した。ブラシ等を用いたパットコンディショニングを行わずに研磨操作を継続することで、このようなパットコンディショニングを行う場合と比較して、研磨組成物中に含まれる添加成分等の蓄積を加速させることができるので、比較的短い時間によって長時間にわたる基材の研磨操作を模擬することが可能となる。その結果を下表2に示す。
【0085】
【0086】
表2中の「研磨後の基材表面の濡れ(%)」の項目における0分、30分及び55分は、それぞれ研磨開始時間を示している。例えば、0分のデータは、例Aにおいて説明した研磨操作により0分に研磨を開始して当該研磨が完了した後(すなわち表1に示す研磨後)の基材表面の濡れ性を示している。また、30分のデータは、30分間研磨した後、続けて研磨した後の基材表面の濡れ性を示している。55分のデータについても同様である。基材の濡れ性は、各時間に開始される研磨の完了後に目視観察にて基材表面の濡れている部分の割合を決定することにより評価した。基材表面の全面が濡れている場合(100%)を合格(〇)とし、基材表面の一部でも濡れていない部分がある場合(100%未満)は不合格(×)とした。さらに、表2では、同様に0分、30分及び55分の各時間に開始される研磨の完了後におけるヘイズ値についても評価している。具体的には、
図1の場合と同様に、グループI~IIIの各グループにおいてポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含まない研磨組成物(対照標準)によって得られたヘイズ値を100%とした場合の各研磨組成物に関するヘイズ値の相対的な割合を算出し、算出された値が125%未満の場合を合格(〇)とし、125%以上の場合を不合格(×)とした。
【0087】
表2を参照すると、式(i)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル中のR基の炭素数が15以下に該当する研磨組成物5~12、15及び17では、0分、30分及び55分の全ての時間において基材表面の濡れが100%であった。これとは対照的に、R基の炭素数が16以上に該当するポリオキシアルキレンアルキルエーテル、具体的にはポリオキシエチレンセチルエーテル及びポリオキシエチレンステアリルエーテルを用いた研磨組成物1~4、13、14及び16では、時間の経過とともに基材表面の濡れ性が低下した。なお、炭素数以外のパラメータ、とりわけ式(i)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテル中のAOの平均付加モル数に関連するEO数及びPO数、さらにはHLB値及び平均分子量については、基材表面の濡れ性との関係で明確な相関は認められなかった。
【0088】
ヘイズ値の評価については、濡れ性の評価が良好であった研磨組成物5~12、及び17では、0分、30分及び55分の全ての時間においてヘイズ値の評価が良好であった。一方で、濡れ性の評価が不合格であった研磨組成物については、研磨組成物3、4及び13におけるヘイズ値の評価は良好であったものの、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしてポリオキシエチレンステアリルエーテルを用いた研磨組成物1、2、14及び16では、当該ポリオキシエチレンステアリルエーテルを含まない研磨組成物(対照標準)と比較してヘイズ値の悪化が観察された。
【0089】
[欠陥の測定]
表1及び2のグループI及びIIの研磨組成物に関し、これらの研磨組成物を用いてシリコンウェハを研磨した場合のライトポイント欠陥(LPD)の形成について調べた。
【0090】
より具体的には、LPDは、ヘイズの測定の場合と同様に、洗浄後のシリコンウェハについて、KLA Tencor社製のSurfscan SP2を用いて、暗視野コンポジット斜入射チャネル(DCO)において測定されるLPDの値によって評価した。表2の試験における55分時の基材表面について、37nm以上のLPDが500個以下/シリコンウェハの場合を合格とした。その結果を下表3に示す。
【0091】
【0092】
表3を参照すると、濡れ性の評価が良好であった研磨組成物5~12及び15については、LPD数は比較的少なく、基材表面の濡れ性を高めることで基材の表面欠陥の発生を抑制することができた。一方で、濡れ性の評価が不合格であった研磨組成物については、研磨組成物3、4及び14のLPD数は比較的少なかったものの、研磨組成物1、2及び13では非常に多くの欠陥が検出され、濡れ性の評価との間である程度の相関が確認された。
【0093】
[例C:他の水溶性高分子の影響]
基材表面のヘイズの低減に関し、本発明に係るポリオキシアルキレンアルキルエーテルとそれとは異なる水溶性高分子、より具体的にはアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体との組み合わせの効果について調べた。
【0094】
[研磨組成物101(両方の添加剤を含まない)の調製]
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体を添加しなかったこと以外は例AのグループIの場合と同様にして、本発明に係るポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体を含まない研磨組成物101を調製した。
【0095】
[研磨組成物102(アミン重合体を含む)の調製]
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを添加しなかったこと以外は例AのグループIの場合と同様にして、本発明に係るポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含まないが、アルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体(R3:エチレン基、EO:PO=8:2、平均窒素数5個、分子量:46,000)を含む研磨組成物102を調製した。
【0096】
[研磨組成物103(ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含む)の調製]
アルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体を添加せず、50ppmのポリオキシエチレンイソトリデシルエーテル(R基の炭素数13及びEOの平均付加モル数8)を添加したこと以外は例AのグループIの場合と同様にして、アルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体を含まないが、本発明に係るポリオキシアルキレンアルキルエーテルを含む研磨組成物103を調製した。
【0097】
[研磨組成物104(両方の添加剤を含む)の調製]
50ppmのポリオキシエチレンイソトリデシルエーテル(R基の炭素数13及びEOの平均付加モル数8)を添加したこと以外は例AのグループIの場合と同様にして、本発明に係るポリオキシアルキレンアルキルエーテルとアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体(R3:エチレン基、EO:PO=8:2、平均窒素数5個、分子量:46,000)の両方を含む研磨組成物104を調製した。
【0098】
例Aの場合と同様にして、研磨組成物101~104を用いてシリコンウェハを化学機械研磨処理し、シリコンウェハ表面のヘイズを評価した。その結果を
図2に示す。
図2は、本発明に係るポリオキシアルキレンアルキルエーテルとそれとは異なる水溶性高分子であるアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体との組み合わせの効果を示すグラフである。
【0099】
図2を参照すると、研磨組成物104のようにポリオキシアルキレンアルキルエーテルとアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体の両方を含むことで、添加成分としてこれら両方を含まない研磨組成物101、さらには添加成分としてそれぞれを単独で含む研磨組成物102及び103の場合と比較して、より高いヘイズの低減効果を達成できることがわかる。一般的には、添加成分にはその効果に飽和域があるため、含有量を増加させてもある含有量を境にそれに応じた効果が十分には得られなくなる。したがって、本発明に係るポリオキシアルキレンアルキルエーテルの含有量を単に増加させるだけでヘイズ値を大きく改善することは難しい。また、当該ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの含有量を多くしすぎると、それが研磨パッド上に蓄積する量も増えることになるため、濡れ性向上の観点からも好ましくない。
【0100】
しかしながら、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとともにアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体を加えることで、
図2の研磨組成物104によって示されるように、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル単独では達成できないヘイズの低減効果を得ることが可能となる。したがって、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとアルキレンポリアルキレンオキシドアミン重合体の組み合わせを含む本発明の化学機械研磨組成物によれば、例Bで示した基材の濡れ性の効果に加え、ヘイズの低減についても極めて高い効果を達成することができる。