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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】ヘルスモニタリングシステム
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/18 20060101AFI20221031BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
G05B19/18 W
G05B23/02 302Y
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018153453
(22)【出願日】2018-08-17
(65)【公開番号】P2020027563
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】591014835
【氏名又は名称】高松機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124419
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 敬也
(74)【代理人】
【識別番号】100162293
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷 久生
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直彦
(72)【発明者】
【氏名】高杉 敬吾
(72)【発明者】
【氏名】林 哲朗
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-010415(JP,A)
【文献】特開平04-291606(JP,A)
【文献】特開昭61-128128(JP,A)
【文献】特開平09-006432(JP,A)
【文献】特表2006-519709(JP,A)
【文献】特開2018-025450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18 - 19/46
G05B 23/02
B23Q 17/09
B23Q 17/12
G01H 1/00 - 17/00
G01M 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸ユニットを備えた工作機械においてデータ解析を行うことにより工作機械の主軸軸受を診断するヘルスモニタリングシステムであって、
主軸軸受から振動加速度データを収集し記憶する収集記憶手段と、
前記収集記憶手段により収集され記憶された前記振動加速度データから振動加速度の実効値の増加率、及び、振動加速度のピーク値の増加率を算出する算出手段と、
前記振動加速度の実効値の増加率、及び、振動加速度のピーク値の増加率を二次元平面上にプロットする視覚化手段と、
前記二次元平面を正常領域と異常領域に分離する分離手段を備えており、
前記振動加速度の実効値の増加率、及び、振動加速度のピーク値の増加率を前記二次元平面に随時プロットすることで、前記振動加速度の実効値の増加率、及び、振動加速度のピーク値の増加率の時系列変化を視覚的に捉えることができると共に、前記振動加速度の実効値の増加率、及び、振動加速度のピーク値の増加率が前記二次元平面上の前記異常領域に位置していることを根拠として工作機械の主軸軸受が潤滑不良状態であると診断することを特徴とするヘルスモニタリングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主軸ユニットを備えた工作機械のメンテナンス時期(ユニット交換を含む)を予測するためのヘルスモニタリングシステムに関する。さらに言えば、工作機械における振動等のデータを総合的に判断し、具体的には、パターン認識を用いて工作機械に共通な特徴空間を設定して、工作機械の故障を未然に予知するヘルスモニタリングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、工作機械は自動化され工場内で一括管理される傾向にあり、工作機械に異常が生じると、製品の生産や品質管理に大きな影響を与えてしまう。そのため、工作機械の故障により製造ラインが止まることの無いように、定期的なメンテナンスを行ってきた。工作機械の故障に対して単に部品を交換する程度であれば、製造ラインの復帰までに、そんなに時間は掛からないのであるが、工作機械の各部ユニットは、多種類の部品から構成され、かつ、高精度で微調整が必要であるため、ユニットを組み立てるための時間が必要であることが多く、かかる組み立て工程においては、長い時で1ヶ月程度も掛かってしまうこともある。最悪の場合、その間製造ラインが全く動かないという事態が生じることもあった。
【0003】
製造ラインが全く動かないという事態を生じないようにする対策として、工作機械の異常を予知するための、例えば、振動や温度等のデータ等を見ながら、人が異常と判断する閾値(しきい値)を定義する等による主軸軸受の寿命計算等から一定の交換目安時間を設定することで、工作機械の部品(ユニットを含む)の交換時期を予測していた。しかしながら、工作機械毎に閾値が異なるため、工作機械毎にデータを取得し、解析する必要があった。このため、同じような解析作業を工作機械毎に行わなくてはならず、手間暇が掛かり、運用が困難になっており好ましい状態では無かった。
【0004】
一方において、工作機械の主軸周りの振動や温度等のデータを取り、解析することで工作機械の異常発生の予兆を捉えることができるのであれば、工作機械の故障によるトラブルを未然に防ぐことができる。即ち、故障が予知される部品(或いはユニット)を故障が発生する前に交換しておくことができれば、工作機械の突発的な故障も無くなり製造ラインのダウンタイムを発生させることも無い。
【0005】
特許文献1には、詳細な加工診断や機械診断に必要な機械情報を好適に取得する(特許文献1:課題)ことを課題として、「NC装置10は、主軸負荷や各送り軸の負荷・指令値等の機械情報を任意の時刻毎に機械動作指令部14から取得する時系列記録部13Aと、プログラム名や工具番号及びオペレータ操作によるオーバーライド値等のイベント情報を、変更時に当該変更時刻と共に機械情報指令部14より取得するイベント記録部13Bとからなる機械情報取得部13と、機械情報の時系列データとイベントデータとを対応させて出力する機械情報切り抜き部18及びモニタ19とを備えている(特許文献1:解決手段)」工作機械の情報取得装置(特許文献1:発明の名称)が開示されている。即ち、工作機械の加工性を診断(加工具合をチェック)するシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-33346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に係る「工作機械の情報取得装置(特許文献1:発明の名称)」は、工作機械の時系列データとイベントデータとをそれぞれ個別に取得することで、例えば、どの時刻までプログラム、工具、操作盤のスイッチ操作、ワーク、オペレータ情報に変化が無かったか、どの時刻まで機械制御が行われていたのかが分かる負荷などの時系列データを得ることができるので、詳細な加工診断や機械診断に必要な機械情報を好適に取得することができるのであるが、所詮、個々の工作機械毎に診断するシステムであって、工作機械毎にデータを取得し、分析する必要があった。そのため同じ作業を工作機械毎に行わなくてはならず、手間暇が掛かり好ましく無い。
【0008】
本発明の目的は、パターン認識を用いて各工作機械間に共通な特徴空間を設定して異常分析を行うことによる工作機械のメンテナンス時期(ユニット交換を含む)を予測することができるヘルスモニタリングシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載された発明は、主軸ユニットを備えた工作機械においてデータ解析を行うことにより工作機械の主軸軸受を診断するヘルスモニタリングシステムであって、
主軸軸受から振動加速度データを収集し記憶する収集記憶手段と、
前記収集記憶手段により収集され記憶された前記振動加速度データから振動加速度の実効値の増加率、及び、振動加速度のピーク値の増加率を算出する算出手段と、
前記振動加速度の実効値の増加率、及び、振動加速度のピーク値の増加率を二次元平面上にプロットする視覚化手段と、
前記二次元平面を正常領域と異常領域に分離する分離手段を備えており、
前記振動加速度の実効値の増加率、及び、振動加速度のピーク値の増加率を前記二次元平面に随時プロットすることで、前記振動加速度の実効値の増加率、及び、振動加速度のピーク値の増加率の時系列変化を視覚的に捉えることができると共に、前記振動加速度の実効値の増加率、及び、振動加速度のピーク値の増加率が前記二次元平面上の前記異常領域に位置していることを根拠として工作機械の主軸軸受が潤滑不良状態であると診断するヘルスモニタリングシステムであることを特徴とするものである。尚、振動加速度とは、単位時間当たりの速度変化量を示すものである。振動加速度の実効値とは、単位時間当たりの信号の平均値のことであり、信号の2乗値の平均の平方根(root mean square)のことである。振動加速度のピーク値とは、単位時間当たりの信号の最大値のことである。但し、本発明においてはノイズの影響を考慮して、ピーク値は、最大値の上位1%を平均した値を採用している。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るヘルスモニタリングシステムは、主軸ユニットを備えた工作機械においてデータ解析を行うことにより工作機械の主軸軸受の異常を診断する異常判定システムである。主軸軸受から振動加速度データを収集し記憶する収集記憶手段と、記憶収集手段により収集され記憶された振動加速度データから所定の特徴量を算出する算出手段と、所定の特徴量を空間上にプロットすることにより特徴空間へと展開する視覚化手段と、特徴空間を正常領域と異常領域に分離する分離手段を備えている。
【0013】
所定の特徴量を特徴空間に随時プロットすることで、所定の特徴量の時系列変化を視覚的に捉えることができると共に、所定の特徴量が特徴空間上の異常領域に位置していることを根拠として工作機械の主軸軸受が潤滑不良状態にあると判定することができる。さらに、主軸軸受が潤滑不良状態になる前に、所定の特徴量が特徴空間上の異常領域に近づいていることを根拠として工作機械の主軸軸受が潤滑不良状態に向かっていると判定することができる。
【0014】
要するに、特徴量の特徴空間上での挙動から工作機械の主軸軸受が潤滑不良状態にあると判定することができるので、従来のように、工作機械毎に閾値を設定して、(工作機械の診断の都度)測定データを検出し、解析することで、その工作機械のメンテナンスの時期を予想する必要もなく、高価な市販の異常診断装置を購入する必要もなくなった。
【0015】
ヘルスモニタリングシステムに採用される所定の特徴量の一つは、振動加速度の実効値の増加率であり、もう一つのヘルスモニタリングシステムに採用される所定の特徴量は振動加速度のピーク値の増加率である。これらの特徴量は全ての工作機械に共通する値であるので、工作機械毎に独自の閾値(異常値と正常値の境界値)を設定して評価する必要が無くなった。さらに言えば、従来からあった高価な異常診断装置を使用すること無く、工作機械の主軸ユニットの異常を診断し、予知することができるようになったことでコスト的にもメリットがある。
【0016】
さらに、所定の特徴量を特徴空間上に随時プロットしマッピングすることで、特徴量の時系列変化を視覚的に捉えることができると共に、特徴量が特徴空間上の異常領域に位置していることを根拠として、工作機械の主軸軸受が潤滑不良状態にあると判定することができる。
【0017】
ヘルスモニタリングシステムは前段階として、工作機械の主軸軸受の品質に影響する所定の特徴量を、予め、工作機械の振動加速度データを時系列的に収集し、振動加速度データから多数の特徴量を算出し、主軸状態の確認を目視または軸受診断装置にて行い、工作機械の主軸の状態と多数の特徴量との因果関係を見極めることにより決定しているので、所定の特徴量を算出し、特徴空間による視覚化、サポートベクターマシン(空間の領域分け)というテクニックを利用して、視覚的に主軸の現在の状態や時刻歴を把握できるようになったため、現時点で主軸軸受の状態が十分正常な状態、或いは、潤滑不良状態に向かっている状態なのかも視覚的に把握することができるようになった。
【0018】
尚、本発明に係るヘルスモニタリングシステムに採用される特徴量は、種々の統計量を候補とすることができるが、時間領域に関する統計量として、波形率、波高率、歪み度、尖り度等があり、周波数領域に関する統計量として、周波数波形率、周波数波高率、正規化平均周波数、等価帯域、周波数工程比、安定指数等が挙げられる。しかしながら、これら以外の統計量が採用されても良い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係るヘルスモニタリングシステムに必要な特徴空間を作成する手順を説明するための図である。
図2】ヘルスモニタリングシステムのシステムの概要を説明するための図である。
図3】ヘルスモニタリングシステムの流れ図である。
図4】特徴空間を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<準備段階としての特徴空間を作成するための工程>
本発明に係るヘルスモニタリングシステム10を説明する前に、本発明に係るヘルスモニタリングシステム10を構築するための準備段階として行った特徴空間を作成するための予備試験について説明する。要するに、主軸ユニットを備えた工作機械において、主軸軸受の品質に関わる各種の測定データ(温度、振動、電流、音、変位、制御波形、AE波等)と主軸軸受の不具合との関連性を調査することにより、特定の不具合(本発明においては主軸軸受の潤滑不良)における特有の特徴量(所定の特徴量)から、特定の不具合(本発明においては主軸軸受の潤滑不良)における特有の特徴空間を作成するための予備試験について説明する。
【0021】
図1は、本発明に係るヘルスモニタリングシステム10に必要な特徴空間を作成する手順を説明するための図である。ヘルスモニタリングシステム10は、予め、工作機械における特定の不具合(本発明においては主軸軸受の潤滑不良)における特有の特徴量(所定の特徴量)を多数の特徴量の中から予備試験の結果を基に抽出し、所定の特徴量における正常領域と異常領域に分割された特徴空間を作成する。即ち、主軸軸受の潤滑不良の判断に有効な所定の特徴量を予備試験結果から抽出しておき、該所定の特徴量を使って主軸軸受の潤滑不良の判断に特有の特徴空間を事前に作成しておくことが大きな特徴になっている。
【0022】
工作機械の中でも重要なパーツである主軸軸受の故障要因として考えられる潤滑不良が発生する際、振動加速度(当然のことながら、振動加速度以外の測定データにおける潤滑不良との因果関係も検証し、最終的に振動加速度の測定データを抽出した訳であるが、これらの経緯については詳細を記載しない)の測定データが時系列的にどのような挙動を示すのかを検証するために、主軸軸受を作動させながら主軸軸受に故意に潤滑不良を生じさせるような処置を施しつつ、主軸軸受の潤滑不良を意図的に発生させ、正常な状態から潤滑不良による不具合発生までの振動加速度の測定データを時系列的に収集した。
【0023】
主軸軸受が潤滑不良か否かの判断は、目視、或いは、数値的な判断が可能な軸受診断装置(市販)を用いて行った。予め、工作機械の振動加速度データを時系列的に収集し、該振動加速度データから多数の特徴量を算出し、主軸状態の確認を目視または軸受診断装置にて行い、工作機械の主軸の状態と多数の特徴量との因果関係(特徴量が時系列的に変化することで主軸軸受の潤滑不良状態の度合いの挙動)を見極めることにより、主軸軸受の診断(異常判定)に有効な所定の特徴量を決定した。決定した所定の特徴量から正常領域と異常領域に分割された特徴空間を作成し準備した。尚、各種の測定データとして、時間領域に関する統計量として、波形率、波高率、歪み度、尖り度等があり、周波数領域に関する統計量として、周波数波形率、周波数波高率、正規化平均周波数、等価帯域、周波数工程比、安定指数等が挙げられる。
【0024】
(特徴量に関する測定データの中から)振動加速度の測定データと軸受の潤滑不良との相関関係を調査するための予備実験を行った結果、振動加速度の測定データから振動加速度の実効値の増加率の(時系列的)変化、及び振動加速度のピーク値の増加率の(時系列的)変化が、主軸軸受の潤滑不良と高い相関を有していることが明らかになった。この結果を基に本発明に係るヘルスモニタリングシステム10においても、特徴量として振動加速度の測定データから振動加速度の実効値の増加率、及び振動加速度のピーク値の増加率を抽出し、これらの特徴量によりサポートベクターマシンを用いて特徴空間(正常領域と異常領域に分割:図4参照)を作成した。(振動加速度の実効値の増加率が250%以上、かつ、振動加速度のピーク値の増加率が250%以上になった際、工作機械の主軸軸受が潤滑不良であると判定することができることが予備試験により判明した(図4において特徴空間に表示している)。
【0025】
<ヘルスモニタリングシステムの概要>
以下、本発明に係るヘルスモニタリングシステム10の一実施形態について、図2図4に基づいて詳細に説明する。
【0026】
図2は、本発明に係るヘルスモニタリングシステム10のシステムの概要を説明するための図である。ヘルスモニタリングシステム10は、工作機械の不具合に関連する独自の特徴量(本発明においては、主軸軸受の軸受異常における振動加速度の実効値の増加率、振動加速度のピーク値の増加率)を算出するとともに、パターン認識を用いて特徴量における特徴空間を設定してデータ解析を行うことにより、工作機械の潤滑不良を診断する。要するに、ヘルスモニタリングシステム10は、工作機械の主軸軸受が正常な状態か否かを診断する異常判定システムである。
【0027】
図2に記載したように、ヘルスモニタリングシステム10は、工作機械の主軸ユニットの主要部である旋削主軸に取り付けた振動加速度センサから検出された振動加速度の測定データを収集し記憶する収集記憶手段20(具体的には、振動加速度センサをパソコン等の情報処理端末とデータのやり取りができるようにする)と、収集記憶手段20により記憶された振動加速度の測定データ(時系列)から、演算により特徴量(振動加速度の実効値の増加率、振動加速度のピーク値の増加率)を算出する算出手段30(具体的には、振動加速度センサからパソコン等の情報処理端末に取り込んだデータを所定の数式に当てはめて計算する)を備えている。
【0028】
そして、本発明の大きなポイントである算出手段30により算出された特徴量(振動加速度の実効値の増加率、振動加速度のピーク値の増加率)を二次元特徴空間に展開するために、二次元空間上にプロットする視覚化手段40(工作機械の状態をマッピングする)と、視覚化手段40によりマッピングされた特徴空間を正常領域と異常領域に分離する分離手段50を備えている。特徴量を特徴空間上に随時プロットしマッピングすることで、特徴量の挙動を時系列的、かつ、視覚的に捉えることができると共に、特徴量が特徴空間上の異常領域に位置していることを根拠として、工作機械の主軸軸受が潤滑不良状態にある、或いは、所定の特徴量が特徴空間上の異常領域に近づいていることを根拠として工作機械の主軸軸受が潤滑不良状態に向かっていると判定することができることに特徴がある。
【0029】
<ヘルスモニタリングシステムの流れ>
本発明に係るヘルスモニタリングシステム10の一実施形態として、主軸軸受の潤滑不良を判断する際の流れについて説明する。図3は、本発明に係るヘルスモニタリングシステム10の流れ図である。
【0030】
ヘルスモニタリングシステム10においては、工作機械の主軸軸受に生じた振動加速度の測定データから抽出された特徴量を特徴空間に展開することにより、工作機械の主軸軸受の状態(具体的には潤滑不良)を視覚化することに特徴がある。ヘルスモニタリングシステム10では、振動加速度の時系列的測定データから、振動加速度の実効値の増加率と振動加速度のピーク値の増加率を算出し、数値変動を基に主軸軸受が潤滑不良状態にあるのか否かを診断する。
【0031】
先ず、工作機械の主軸ユニットの主要部である旋削主軸から振動加速度をサンプリングレート10キロヘルツ(毎秒10000回の割合で)で時系列的に採取する。採取した測定データを収集記憶手段20により収集し記憶する(図3:振動加速度データの収集)。
【0032】
次に、主軸軸受の潤滑不良であるか否かを把握するための特徴量である振動加速度の実効値の増加率と振動加速度のピーク値の増加率を算出手段30により算出する(図3:特徴量算出)。尚、特徴量を算出するとは、収集記憶手段20により記憶された測定データから主軸軸受の潤滑不良の診断に必要な特徴量を計算により算出する処理のことである。ヘルスモニタリングシステム10においては、振動加速度の測定データから診断に必要な特徴量(振動加速度の実効値の増加率と振動加速度のピーク値の増加率)をコンピュータ等の演算処理装置を用いて算出するプロセスである。
【0033】
先行予備試験の結果から、振動加速度から抽出すべき主軸軸受の潤滑不良状態を診断することができる特徴量は、振動加速度の実効値の増加率、及び振動加速度のピーク値の増加率であることが解っている。さらに、振動加速度の実効値の増加率が250%以上、かつ、振動加速度のピーク値の増加率が250%以上になった際、工作機械の主軸軸受が潤滑不良であると判定することができることが解っている(図4において特徴空間に表示している)。
【0034】
図4に記載したように、主軸軸受の潤滑不良状態を判定することができる特徴量(振動加速度の実効値の増加率、振動加速度のピーク値の増加率)から、二次元空間である特徴空間(縦軸:振動加速度のピーク値の増加率、横軸:振動加速度の実効値の増加率)を作成する。特徴空間の作成のプロセスは、特徴量を二次元平面にプロットし、分離手段50であるサポートベクターマシン(SVM)を用いて境界線を定め、主軸軸受の潤滑性に関する正常領域と異常領域に分離することにより作成する。
【0035】
実際にサポートベクターマシン(SVM)を用いて作成した境界線が太線(太線内が異常領域)にて記載されているが(図4参照)、システム運用上、境界をデフォルメ(特徴を誇張、強調して簡略化した表現方法とすること)された領域にすることもできる(図4:斜線部参照)。ヘルスモニタリングシステム10は、特徴量を特徴空間上にリアルタイムでプロットしてモニタリングを行うことにより、時間軸を考慮した主軸軸受の潤滑不良に関する性能の挙動を視覚的に観察することができつつ、主軸軸受が潤滑不良状態であるか否かを診断することができる。
【0036】
尚、本明細書において、サポートベクターマシンとは(教師あり学習による)パターン認識手法の一つであり、未学習のデータに対しても高い識別性能を発揮する特徴空間の判別方法である。「マージン最大化」という手法を特徴としており、現在知られている方法としては、最も優秀なパターン識別能力を持つとされている。
【0037】
<ヘルスモニタリングシステムの効果>
本発明に係るヘルスモニタリングシステム10では特徴空間、特徴量、サポートベクターマシン(空間の領域分け)というテクニックを利用して、視覚的に主軸の現在の状態や時刻歴を把握できる点、即ち、現時点で主軸軸受の状態が正常なのか、或いは潤滑不良状態なのか、潤滑不良状態に向かっているのか等を視覚的に把握できる点が大きな特徴となっている。即ち、主軸軸受の特徴量を、特徴空間上にリアルタイムでプロットすることによりモニタリングを行うことにより、時間軸を考慮した主軸軸受の潤滑不良における性能の挙動を観察することができる。
【0038】
従来は、工作機械毎に不具合との関連性に関するデータを取得し、分析する必要があった。即ち、同じ作業を工作機械毎に行わなくてはならず、手間暇が掛かり好ましく無かった。ヘルスモニタリングシステム10は、振動加速度の実効値の増加率と振動加速度のピーク値の増加率を使用しているので、工作機械毎に特徴量を求める必要は無く、一般的な工作機械に(汎用性を有しつつ)適用することができるという利点がある。
【0039】
ヘルスモニタリングシステム10は、工作機械に関する振動加速度のデータを取り、波高率、及び歪み度の数値から主軸軸受の潤滑不良を予測し、判断することができる。さらに、ヘルスモニタリングシステム10は、主軸軸受の旋削時の特徴量(波高率、及び歪み度)を、特徴空間上にリアルタイムでプロットすることによりモニタリングを行うことにより、時間軸を考慮した主軸軸受の潤滑不良における性能の挙動を観察することができるので、工作機械の故障によるトラブルを未然に防ぐことができる。従って、事前に故障が予知される部品(或いはユニット)を交換しておくことで、故障が無くなり製造ラインを止めることも無くなった。
【0040】
<ヘルスモニタリングシステムの変更例>
本発明に係るヘルスモニタリングシステムは、上記した各実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、収集記憶手段、算出手段、視覚化手段、分離手段等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係るヘルスモニタリングシステムは、上記の如く優れた効果を奏するものであるので、工作機械の部品(含むユニット)等の故障を予知するためのモニタリングシステムとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0042】
10・・ヘルスモニタリングシステム
20・・収集記憶手段
30・・算出手段
40・・視覚化手段
50・・分離手段
図1
図2
図3
図4