(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】発毛促進、脱毛防止又はキューティクル改善用組成物及び創傷治癒剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/185 20060101AFI20221031BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20221031BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20221031BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20221031BHJP
A61Q 7/00 20060101ALI20221031BHJP
A61K 131/00 20060101ALN20221031BHJP
【FI】
A61K36/185
A61K8/9789
A61P17/00
A61P17/14
A61Q7/00
A61K131:00
(21)【出願番号】P 2018156186
(22)【出願日】2018-08-23
【審査請求日】2021-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000251130
【氏名又は名称】林兼産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 隆司
(72)【発明者】
【氏名】山田 道生
(72)【発明者】
【氏名】竹下 祥子
(72)【発明者】
【氏名】上村 知広
【審査官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0021857(US,A1)
【文献】特開2017-141217(JP,A)
【文献】特開2003-063976(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105233255(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/185
A61K 8/9789
A61P 17/00
A61P 17/14
A61Q 7/00
A61K 131/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トウビシ果皮抽出
物を有効成分とする、発毛促進、脱毛防止又はキューティクル改善用組成物であって、該抽出物の抽出溶媒が、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、及び2-プロパノールからなる群から選択される少なくとも1種である、組成物
(但し、フジ茎、ナツメグ、石榴皮、トウビシ(Trapa bispinosa)、ヨクイニン、バイキセイ及びレイシの抽出物を含有する、生理活性を有する組成物を除く)。
【請求項2】
トウビシ果皮抽出物からなる、発毛促進、脱毛防止又はキューティクル改善剤であって、該抽出物の抽出溶媒が、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、及び2-プロパノールからなる群から選択される少なくとも1種である、剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発毛促進、脱毛防止又はキューティクル改善用組成物及び創傷治癒剤に関する。
【背景技術】
【0002】
終末糖化産物(Advanced Glycation Endproduct、AGEs)は、糖化タンパク質、メイラード反応産物等とも呼ばれ、グルコースなどの還元糖とタンパク質のアミノ基との非酵素的な反応により生成する種々の構造を有するタンパク質誘導体である。AGEsは、細胞外マトリックスタンパク質、膜タンパク質及び細胞内タンパク質の糖化修飾に起因するこれらのタンパク質の機能及びそれに依存する細胞機能の破綻、又はAGEsをリガンドとするレセプターが引き起こす細胞応答の結果として、種々の病変の発症及び増悪に関与している。
【0003】
例えば、AGEsレセプターの1つであるRAGEによってAGEsが認識されると、細胞内NADPHオキシダーゼによる細胞内酸化ストレス物質の産生が亢進し、これが上皮細胞における遺伝子発現を変化させることにより、種々の糖尿病性血管障害が発症すると考えられている。
【0004】
また、近年、AGEsは、糖尿病性血管障害に加え、心筋梗塞、動脈硬化症等の心血管障害、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経症等の糖尿病合併症、骨粗鬆症等の骨代謝異常、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症等の神経変性疾患、アルコール依存症による脳障害及び肝障害、老化現象、インスリン抵抗性、腫瘍の増殖及び転移等にも関与していることが示唆されている。
【0005】
また、Nε-(carboxymethyl)lysine (CML)は生体内で最も多いAGEであり、加齢に伴い皮膚コラーゲンで増加することから、肌の老化(しわ、たるみなど)の主たる要因であると考えられている。
【0006】
このようなAGEsの形成を阻害するための物質として、例えば、ピンポンノキ属に属する植物、チャンチンモドキ属に属する植物、マンゴー属に属する植物、ウルシ属に属する植物、フクギ属に属する植物、クロモジ属に属する植物、イヌタデ属に属する植物、ギシギシ属に属する植物、ミズヒキ属に属する植物、アブラギリ属に属する植物、アカシア属に属する植物、ヒシ属に属する植物、エウゲニア属に属する植物、ナツフジ属に属する植物、ミズキ属に属する植物、ビンロウ属に属する植物、及びヤマモモ属に属する植物のエキスが優れたメイラード反応阻害作用を有することが報告されている(特許文献1)。
【0007】
また、ヒシ科に属する植物の果皮及び果実の一方又は双方の熱水抽出物より分離される化合物であって、ゲルろ過クロマトグラフィーにより測定された分子量が70~130及び290~380の範囲内にある化合物が、高い終末糖化産物生成阻害能を有することが報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-77123号公報
【文献】特開2015-209420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、ヒシ属に属する植物のエキスがAGEsの形成の阻害作用を有することは知られているが、ヒシ属に属する植物のエキスが、発毛及び脱毛防止作用などを有することは知られていない。
【0010】
本発明は、優れた発毛促進、脱毛防止及びキューティクル改善作用を奏する、発毛促進、脱毛防止又はキューティクル改善用組成物、並びに優れた創傷治癒効果を奏する創傷治癒剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、トウビシ果皮の熱水抽出物が、顕著に優れた発毛促進、脱毛防止及びキューティクル改善作用を示すという知見を得た。さらに、トウビシ果皮の熱水抽出物が、顕著に優れた創傷治癒効果を示すという知見も得た。
【0012】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の発毛促進、脱毛防止又はキューティクル改善用組成物及び創傷治癒剤を提供するものである。
【0013】
項1.ヒシ属に属する植物の抽出物を有効成分とする、発毛促進、脱毛防止又はキューティクル改善用組成物。
項2.ヒシ属に属する植物の果皮の抽出物を有効成分とする、項1に記載の組成物。
項3.前記ヒシ属に属する植物がトウビシである、項1又は2に記載の組成物。
項4.ヒシ属に属する植物の抽出物を有効成分とする創傷治癒剤。
項5.ヒシ属に属する植物の果皮の抽出物を有効成分とする、項4に記載の創傷治癒剤。
項6.前記ヒシ属に属する植物がトウビシである、項4又は5に記載の創傷治癒剤。
【発明の効果】
【0014】
ヒシ属に属する植物の抽出物は、顕著に優れた発毛促進、脱毛防止及びキューティクル改善作用を有するので、発毛促進、脱毛防止又はキューティクル改善用組成物の有効成分として有用である。さらに、ヒシ属に属する植物の抽出物は、顕著に優れた創傷治癒効果を有するので、創傷治癒剤の有効成分としても有用である。
【0015】
また、ヒシ属に属する植物の抽出物は、天然由来成分であるので安全性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】試験例1の毛包形成に対する影響を示す写真及びグラフである。(A, B) HE染色像、(C, D) DAPI染色像、(E, F)画像取得後、画像解析ソフトImage Jによって、2値化した像、(G)画像を2値化した後、毛包部の黒色密度を核の凝集量として評価したグラフ(n=5, データは平均値±標準誤差値で示した)。左列:ヒシエキス無し、右列:ヒシエキス有り
【
図2】試験例1の脱毛試験の結果を示す走査型電子顕微鏡写真である。(A, B)ヒシエキス無し、(C, D)ヒシエキス有り
【
図3】試験例1の脱毛試験の結果を示すグラフである。脱毛テープに付着した毛の本数を示す(データは平均値±標準誤差値、
***P<0.001)。
【
図4】試験例2の発毛試験の結果を示す写真である。(上)抜毛後5日目のマウス、(下)抜毛後12日目のマウス、左列:水を経口投与、右列:ヒシエキスを経口投与
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
なお、本明細書において「含有する、含む(comprise)」とは、「本質的にからなる(essentially consist of)」という意味と、「のみからなる(consist of)」という意味をも包含する。
【0019】
本発明の発毛促進、脱毛防止又はキューティクル改善用組成物及び創傷治癒剤は、ヒシ属に属する植物の抽出物を有効成分とすることを特徴とする。
【0020】
ヒシ属に属する植物の抽出物
ヒシ属に属する植物としては、特に制限されず、例えば、ヒシ(Trapa japonica)、オニビシ(Trapa natans L. ver. Japonica)、ヒメビシ(Trapa incisa)、トウビシ(Trapa bispinosa Roxb.)、ツノナシビシ(Trapa acornis)、トラパ・ナタンス(Trapa natans)
などが挙げられる。中でも、トウビシが好ましい。
【0021】
ヒシ属に属する植物の抽出物の製造には、ヒシ属に属する植物の一部若しくは全体を使用することもできる。植物の一部としては、花、花穂、果皮、果実、果肉、茎、葉、枝、枝葉、幹、樹皮、根茎、根皮、根、種子、虫えい、心材、地上部、地下部などが挙げられ、これらを単独又は複数部位を組み合わせて使用することができる。抽出物の製造に使用する植物の部位としては、好ましくは果実及び果皮、特に好ましくは果皮である。また、抽出物の製造には、生の物、乾燥した物、切断又は粉砕された物などいずれの状態の植物も使用することができる。
【0022】
ヒシ属に属する植物の抽出物を製造する方法としては、特に制限されず、通常用いられる方法により行うことができる。そのような方法としては、例えば、ヒシ属に属する植物の各部位をそのまま又は適当な大きさに切断し、搾汁又は溶媒で抽出することにより行うことが挙げられる。抽出方法としては、熱水抽出が特に好ましい。そのような抽出溶媒としては水、有機溶媒又は含水有機溶媒を使用することができ、有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール等の炭素数1~5の低級アルコール、ジエチルエーテル等のエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、アセトン等のケトン類、酢酸、氷酢酸、プロピオン酸等の有機酸等が挙げられる。抽出溶媒としては、好ましくは、水、メタノール、エタノール及びこれらの任意の2種以上を任意の割合で混合した水性溶媒であり、特に好ましい抽出溶媒は、水、食品添加物として認められている有機溶媒であるエタノールと水とを任意の割合で混合した水性溶媒である。
【0023】
抽出溶媒の温度は、室温を超え抽出溶媒の沸点以下の任意の温度とすることができ、抽出効率、被抽出物の耐熱性、揮発性等を考慮して決定されることが望ましい。必要に応じて、抽出効率を向上させるために、加熱した抽出溶媒を用いることもできる。抽出時間としては、1時間~15日の範囲内が挙げられる。抽出溶媒として水及び水性溶媒を用いる場合には、抽出効率を向上させるために、必要に応じて、酸、塩基、塩等を適宜含ませることができる。抽出に用いる水のpHとしては、特に制限されず、生体への使用を考慮して中性付近が好ましく、pH4~9がより好ましく、pH6~8が更に好ましい。
【0024】
熱水抽出は任意の公知の方法により行うことができ、例えば、ヒシ属に属する植物を抽出溶媒中で所定時間混合後、ろ過、遠心分離、デカンテーション等により固形分と分離する方法、ソックスレー抽出法等の連続抽出法等の方法を用いることができる。
【0025】
ヒシ属に属する植物の溶媒抽出物は、そのままでも使用することができ、必要に応じて、限外濾過、分子篩クロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、透析法、これらの組合せなどによる精製を行うことができる。
【0026】
ろ過により不溶分等を除去する場合には、必要に応じて、不純物を除去するために活性炭、ベントナイト、セライト等の吸着剤やろ過助剤を添加することもできる。特に抽出液の状態で用いる場合には、メンブレンフィルター等による除菌ろ過を併せて行うことが好ましい。
【0027】
ヒシ属に属する植物の溶媒抽出物としては、回収された抽出液(必要に応じて更に精製されたものも含む)、当該抽出液を濃縮した濃縮液、凍結乾燥、スプレードライ等により当該抽出液の溶媒が除去された固形物などが含まれる。ここで、抽出液の濃縮、凍結乾燥及びスプレードライは、常法に従って行うことができる。
【0028】
発毛促進、脱毛防止又はキューティクル改善用組成物
本発明の発毛促進、脱毛防止又はキューティクル改善用組成物は、ヒシ属に属する植物の抽出物により発毛促進、脱毛防止及びキューティクル改善作用を発揮するため、発毛促進、脱毛防止又はキューティクル改善用外用剤、発毛促進、脱毛防止又はキューティクル改善用経口剤、頭髪用化粧料、飲食品、発毛促進、脱毛防止又はキューティクル改善作用を付与する添加剤等として、好適に使用することができる。本発明において、発毛には、育毛及び養毛の概念が含まれているものとする。
【0029】
発毛促進、脱毛防止又はキューティクル改善用外用剤を調製する場合、ヒシ属に属する植物の抽出物を、公知の成分とともに、トニック、ローション、軟膏などの形態に調製して、外用の製剤にすることが可能である。
【0030】
発毛促進、脱毛防止又はキューティクル改善用外用剤には、発毛促進、脱毛防止又はキューティクル改善用外用剤に使用される公知の添加剤、例えば、抗菌剤、清涼剤、サリチル酸、亜鉛及びその誘導体、乳酸及びそのアルキルエステル、油分、酸化防止剤、界面活性剤、香料、紫外線吸収剤、色素、エタノール、水、保湿剤、増粘剤、可溶化剤などから選択される1種又は2種以上を配合することができる。
【0031】
発毛促進、脱毛防止又はキューティクル改善用外用剤中に含まれるヒシ属に属する植物の抽出物の割合は、特に制限されず、例えば、0.01~99質量%の濃度を挙げることができる。
【0032】
発毛促進、脱毛防止又はキューティクル改善用経口剤として調製する場合、ヒシ属に属する植物の抽出物を、医薬品において許容される無毒性の担体、希釈剤又は賦形剤とともに、タブレット(素錠、糖衣錠、発泡錠、フィルムコート錠、チュアブル錠、トローチ剤などを含む)、カプセル剤、丸剤、粉末剤(散剤)、液剤、シロップ、ペースト、細粒剤、顆粒剤、懸濁液、乳濁液などの形態に調製して、経口用の製剤にすることが可能である。
【0033】
発毛促進、脱毛防止又はキューティクル改善用経口剤中に含まれるヒシ属に属する植物の抽出物の割合は、特に制限されず、例えば、0.01~99質量%の濃度を挙げることができる。
【0034】
発毛促進、脱毛防止又はキューティクル改善用経口剤の投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状などの種々の条件に応じて適宜決定することができる。
【0035】
頭髪用化粧料の剤型は、水溶液系、可溶化系、乳化系、油液系、粉末系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水-油2層系、水-油-粉末3層系等の幅広い剤型を採り得る。
【0036】
頭髪用化粧料の用途も任意であり、例えば、シャンプー、リンス、ヘアートリートメント、ヘアーコンディショナー、整髪料、ヘアートニック、染毛剤、ヘアーマニキュア、ポマード、ヘアーリキッド、ヘアースプレー、ヘアークリーム等が挙げられる。
【0037】
頭髪用化粧料には、頭髪用化粧料に使用される公知の添加剤、例えば、油性成分、保湿剤、増粘剤、抗酸化剤、殺菌剤、防腐剤、紫外線吸収剤、色素、香料、溶剤、pH調整剤、血行促進剤などから選択される1種又は2種以上を配合することができる。
【0038】
頭髪用化粧料中に含まれるヒシ属に属する植物の抽出物の割合は、特に制限されず、例えば、0.01~99質量%の濃度を挙げることができる。
【0039】
飲食品としては哺乳動物(ヒトを含む)が摂取できるあらゆる飲食品が含まれ、例えば、乳製品;発酵食品(ヨーグルト、チーズ等);飲料類(コーヒー、ジュース、ココア、茶飲料、スポーツドリンク、栄養ドリンクのような清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、乳酸菌入り飲料、ヨーグルト飲料、炭酸飲料、日本酒、洋酒、果実酒のような酒等);スプレッド類(カスタードクリーム等);ペースト類(フルーツペースト等);洋菓子類(チョコレート、ドーナツ、パイ、シュークリーム、ガム、グミ、ゼリー、キャンデー、クッキー、ケーキ、プリン、ビスケット等);氷菓類(アイスクリーム、アイスキャンデー、シャーベット等);食品類(カレー、牛丼、雑炊、味噌汁、スープ、ミートソース、パスタ、漬物、ジャム、ハム、ソーセージ、ベーコン等);調味料類(ドレッシング、ふりかけ、旨味調味料、スープの素、味噌、醤油、ソース、ケチャップ、オイスターソース等)などが挙げられる。
【0040】
飲食品の製法も特に限定されず、適宜公知の方法に従うことができる。
【0041】
飲食品としては、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、保健用食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品なども挙げられる。サプリメントとして使用する際の投与単位形態については特に限定されず適宜選択でき、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、液剤、散剤等が挙げられる。
【0042】
飲食品には、必要に応じて、賦形剤、ビタミン類、ミネラル類、フラボノイド類、キノン類、ポリフェノール類、アミノ酸、核酸、必須脂肪酸、清涼剤、結合剤、甘味料、崩壊剤、滑沢剤、着色料、香料、安定化剤、防腐剤、徐放調整剤、界面活性剤、光沢剤、溶解剤、湿潤剤等を配合することができる。
【0043】
飲食品に含まれるヒシ属に属する植物の抽出物は、例えば、0.01~99質量%の濃度を挙げることができる。
【0044】
飲食品の摂取量は、摂取者の体重、年齢、性別、症状などの種々の条件に応じて適宜設定することができる。
【0045】
創傷治癒剤
本発明の創傷治癒剤は、ヒシ属に属する植物の抽出物により創傷治癒効果を発揮するため、創傷治癒用外用剤、創傷治癒用経口剤、皮膚用化粧料、飲食品、創傷治癒効果を付与する添加剤等として、好適に使用することができる。
【0046】
創傷治癒用外用剤を調製する場合、ヒシ属に属する植物の抽出物を、公知の成分とともに、クリーム、ジェル、ローション、軟膏などの形態に調製して、外用の製剤にすることが可能である。
【0047】
創傷治癒用外用剤には、創傷治癒用外用剤に使用される公知の添加剤、例えば、抗菌剤、油分、界面活性剤、香料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色素、エタノール、水、保湿剤、増粘剤、可溶化剤などから選択される1種又は2種以上を配合することができる。
【0048】
創傷治癒用外用剤中に含まれるヒシ属に属する植物の抽出物の割合は、特に制限されず、例えば、0.01~99質量%の濃度を挙げることができる。
【0049】
創傷治癒用経口剤として調製する場合、ヒシ属に属する植物の抽出物を、医薬品において許容される無毒性の担体、希釈剤又は賦形剤とともに、タブレット(素錠、糖衣錠、発泡錠、フィルムコート錠、チュアブル錠、トローチ剤などを含む)、カプセル剤、丸剤、粉末剤(散剤)、液剤、シロップ、ペースト、細粒剤、顆粒剤、懸濁液、乳濁液などの形態に調製して、経口用の製剤にすることが可能である。
【0050】
創傷治癒用経口剤中に含まれるヒシ属に属する植物の抽出物の割合は、特に制限されず、例えば、0.01~99質量%の濃度を挙げることができる。
【0051】
創傷治癒用経口剤の投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状などの種々の条件に応じて適宜決定することができる。
【0052】
皮膚用化粧料の剤型は、水溶液系、可溶化系、乳化系、油液系、粉末系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水-油2層系、水-油-粉末3層系等の幅広い剤型を採り得る。
【0053】
皮膚用化粧料の用途も任意であり、例えば、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、エッセンス、美容液、パック、マスク、洗顔料、マッサージ用剤、クレンジング用剤、アフターシェーブローション、プレシェーブローション、シェービングクリーム、ボディソープ、石けん等が挙げられる。
【0054】
皮膚用化粧料には、皮膚用化粧料に使用される公知の添加剤、例えば、油性成分、保湿剤、増粘剤、抗酸化剤、殺菌剤、防腐剤、紫外線吸収剤、色素、香料、溶剤、pH調整剤などから選択される1種又は2種以上を配合することができる。
【0055】
皮膚用化粧料中に含まれるヒシ属に属する植物の抽出物の割合は、特に制限されず、例えば、0.01~99質量%の濃度を挙げることができる。
【0056】
飲食品としては哺乳動物(ヒトを含む)が摂取できるあらゆる飲食品が含まれ、例えば、乳製品;発酵食品(ヨーグルト、チーズ等);飲料類(コーヒー、ジュース、ココア、茶飲料、スポーツドリンク、栄養ドリンクのような清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、乳酸菌入り飲料、ヨーグルト飲料、炭酸飲料、日本酒、洋酒、果実酒のような酒等);スプレッド類(カスタードクリーム等);ペースト類(フルーツペースト等);洋菓子類(チョコレート、ドーナツ、パイ、シュークリーム、ガム、グミ、ゼリー、キャンデー、クッキー、ケーキ、プリン、ビスケット等);氷菓類(アイスクリーム、アイスキャンデー、シャーベット等);食品類(カレー、牛丼、雑炊、味噌汁、スープ、ミートソース、パスタ、漬物、ジャム、ハム、ソーセージ、ベーコン等);調味料類(ドレッシング、ふりかけ、旨味調味料、スープの素、味噌、醤油、ソース、ケチャップ、オイスターソース等)などが挙げられる。
【0057】
飲食品の製法も特に限定されず、適宜公知の方法に従うことができる。
【0058】
飲食品としては、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、保健用食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品なども挙げられる。サプリメントとして使用する際の投与単位形態については特に限定されず適宜選択でき、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、液剤、散剤等が挙げられる。
【0059】
飲食品には、必要に応じて、賦形剤、ビタミン類、ミネラル類、フラボノイド類、キノン類、ポリフェノール類、アミノ酸、核酸、必須脂肪酸、清涼剤、結合剤、甘味料、崩壊剤、滑沢剤、着色料、香料、安定化剤、防腐剤、徐放調整剤、界面活性剤、光沢剤、溶解剤、湿潤剤等を配合することができる。
【0060】
飲食品に含まれるヒシ属に属する植物の抽出物は、例えば、0.01~99質量%の濃度を挙げることができる。
【0061】
飲食品の摂取量は、摂取者の体重、年齢、性別、症状などの種々の条件に応じて適宜設定することができる。
【0062】
なお、本発明における経口剤及び化粧料には、医薬部外品も包含される。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0064】
<材料と方法>
・ヒシエキス
林兼産業株式会社製のヒシエキス(トウビシ果皮熱水抽出物)を使用した。
【0065】
・CMLの調製
0.4 mmolグリオキシル酸、1.2 mmolシアノ水素化ホウ素ナトリウム、及び400 mgウシ血清アルブミン(bovine serum albumin; BSA)をそれぞれ8 mlのpH7.4のリン酸緩衝液に溶かし、37℃で24時間インキュベートした。PD-10カラム(GE Healthcare Ltd., Osaka, Japan)をスタンドに固定し、pH7.4リン酸緩衝液を2 ml流してカラムを共洗いした後、2.5 mlのCMLをカラムに通した。カラム精製した試料を、ナノドロップ2000 (Thermo Fisher Scientific Inc., Ltd. Tokyo, Japan)にてOD280の吸光度測定により、フラクションを精製した。さらに、Slide-A-Lyzer 10,000 MWCO (Thermo Fisher Scientific Inc., Ltd)を使用して透析によりCMLを精製した。
【0066】
・外用試験
8週齢、メスのC57BL/6マウスの背中の毛をセメダインバスコークN (セメダイン株式会社, Tokyo, Japan)を適量塗布し、24時間経過させ乾燥後に強制抜毛を行った。抜毛部位に27G×1/2注射針(NIPRO, Osaka, Japan)を用いて200 mg/ml CML 200μlを皮内に10か所程度注射した。2日後にマウスを安楽死させ、背部皮膚を摘出し試料とした。試料を4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液(Wako Pure Chemical Industries Ltd., Osaka, Japan)で組織固定を行い、パラフィン包埋を行い、5μmの薄切によりパラフィン切片を得た。
【0067】
パラフィンは組織観察のためにヘマトキシリン-エオジン(HE)染色を行い、封入剤としてSoftmount (Wako Pure Chemical Industries Ltd.)を用いた。HE染色画像はLeica実体顕微鏡システム(Leica microsystems, Tokyo, Japan)により取得した。また、パラフィン切片をDAPI染色し、取得画像をImage J softwareにより2値化して、毛球部の核の凝集を相対比として示した。
【0068】
ヒシエキスの効果を確認する際には、以下の組成のヒシエキスのエマルジョンを毎日1FTU外用塗布した。
配合量(質量%)
モノイソステアリン酸デカグリセリル 1.0
モノミリスチン酸デカグリセリル 1.0
グリセリン 3.0
流動パラフィン 5.0
H20 89.5
ヒシエキス 0.5
100
【0069】
脱毛試験では、上記と同様に、抜毛処理、CMLの皮内注射、ヒシエキスの外用塗布を行った。脱毛活性は、脱毛テープEpilat (Kracie, Tokyo, Japan)を使用し、Leica実体顕微鏡システム(Leica microsystems, Tokyo, Japan)により可視化した。また、試料は、Keyence VE-8800走査型電子顕微鏡(Keyence Co., Osaka, Japan)を使用して観察した。
【0070】
・飲用試験
8週齢、メスのC57BL/6マウスにストレプトゾトシンを投与後に、ヒシエキス2%を水に溶解した物又は水道水を自由引水させた。8週間後に背中の毛をセメダインバスコークNにより強制抜毛を行い、毛髪再生を観察した。
【0071】
・統計処理
有意差の検定はstudent's unpaired t-testを用いて行った。P<0.05の場合は有意に異なるものと判定した。
【0072】
<結果>
・試験例1(外用試験)
マウス背部皮内にCMLを注射しヒシエキスを外用塗布することで、皮膚におけるヒシエキスによる毛包形成への影響を調べた。背部の毛を強制脱毛することで毛包形成周期をリセットし、成長期に強制的に移行させることで、毛包の形成初期におけるヒシエキスの影響を組織学的に観察した。結果を
図1に示す。
【0073】
HE染色の結果、CMLによっては毛包がほとんど観察されなかったが、ヒシエキスの外用塗布により毛包形成が観察された(
図1A、B)。DAPIで核を染色したところ、CMLによっては毛包形成部位における核の凝集がわずかに観察されただけだったが、ヒシエキスの外用塗布により毛包形成部位に核の凝集が観察された(
図1C、D)。
【0074】
上記で得られた結果をもとに、画像解析ソフトImage Jを用いて、毛球部における核の凝集を定量した。Image JによってDAPI染色画像(
図1C、D)を2値化し(
図1E、F)、毛包の核の凝集に対する効果を数値化した。結果を
図1Gに示す。CMLによる毛球部の核(毛乳頭細胞)の凝集阻害作用に対して、ヒシエキスは改善効果を示した(
図1G)。
【0075】
抜毛後12日目に行った脱毛試験の結果を
図2に示す。
【0076】
脱毛した毛を電子顕微鏡で観察したところ、ヒシエキスの外用塗布により毛の質(キューティクル)が改善していることが観察された(
図2)。
【0077】
生じた発毛を、脱毛テープで毛包強度試験を行った。脱毛テープにより脱毛した毛の本数について、実体顕微鏡下、単位視野あたりの脱毛本数を測定した(
図3)。それぞれ6匹ずつ実施し、測定結果を統計学的に処理した結果、ヒシエキスを外用塗布した場合の脱毛した毛の本数は、コントロールに比べて有意に減少した。
【0078】
・試験例2(飲用試験)
マウスにストレプトゾトシンを投与したストレプトゾトシン誘発糖尿病モデルマウスにヒシエキスを自由引水させ、ヒシエキスの経口投与による効果を観察した。結果を
図4に示す。
【0079】
抜毛5日目及び12日目には、水を経口投与したマウスと比べて、ヒシエキスを経口投与したマウスにおいて、より多くの毛髪の再生が観察された(
図4)。また、抜毛の2日目に行われたバイオプシーの跡から、ヒシエキスは皮膚の再生にも効果があることが観察された(
図4)。