(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】油圧嵌め用ハブの圧力供給機構
(51)【国際特許分類】
F16D 1/06 20060101AFI20221031BHJP
F16B 4/00 20060101ALI20221031BHJP
F16D 3/78 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
F16D1/06 200
F16B4/00 C
F16D3/78
(21)【出願番号】P 2018157314
(22)【出願日】2018-08-24
【審査請求日】2021-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【氏名又は名称】桐山 大
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】橋本 広行
(72)【発明者】
【氏名】古川 泰成
(72)【発明者】
【氏名】徳永 雄一郎
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-097067(JP,A)
【文献】実開昭58-024530(JP,U)
【文献】実開昭52-024180(JP,U)
【文献】特開2017-096357(JP,A)
【文献】特開平06-213240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 1/06-1/097
F16D 3/50-3/79
F16B 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着部材と前記装着部材の外周側に油圧嵌めするハブとの間に圧油を供給する圧力供給機構であって、
前記装着部材の外周面に開口する圧力供給口を設け、
前記ハブの内周面に圧力導入溝を設け、
周方向に分割された複数の前記圧力導入溝による溝形成領域が
前記圧力供給口の軸方向
両側に
分かれて配置されて
おり、
前記圧力供給口が位置する前記溝形成領域の間に、一方の側の前記溝形成領域の前記圧力導入溝と他方の側の前記溝形成領域の前記圧力導入溝とが非連通となる溝非形成領域が設けられている、
ことを特徴とする油圧嵌め用ハブの圧力供給機構。
【請求項2】
請求項1記載の圧力供給機構において、
前記圧力導入溝は、等配状に配置された複数の溝よりなることを特徴とする油圧嵌め用ハブの圧力供給機構。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の圧力供給機構において、
前記ハブは、ダイアフラムを介してセンターチューブに連結されるダイアフラムカップリング用ハブとして用いられることを特徴とする油圧嵌め用ハブの圧力供給機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装着部材と前記装着部材の外周側に油圧嵌めするハブとの間に圧油を供給する油圧嵌め用ハブの圧力供給機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から例えば
図6に示すダイアフラムカップリング1が知られており、このダイアフラムカップリング1は、ハブ11からダイアフラム31を介してセンターチューブ41に連なる、或いは反対にセンターチューブ41からダイアフラム31を介してハブ11に連なる回転トルク伝達経路を備えている。
【0003】
ハブ11は、円筒状を呈するハブ本体12を備え、このハブ本体12の軸方向一方の端部にダイアフラム31を保持するためのフランジ部13が一体に設けられている。
【0004】
また、ハブ11は、その内周側に挿入する出力軸または入力軸等の装着部材51に連結される。
【0005】
装着部材51とハブ11との連結は、いわゆる油圧嵌めにより行われる。
【0006】
すなわち油圧嵌めは、装着部材51とハブ11とを油圧を利用して嵌合するもので、装着部材51とハブ11とを嵌合するとき、またはハブ11から装着部材51を引き抜くときに、装着部材51とハブ11との嵌合面に圧油を供給してハブ11を拡径させることにより、嵌合および引き抜きを可能としている。
【0007】
このため、装着部材51の外周面にテーパー面54が設けられるとともに対応してハブ11の内周面にテーパー面14が設けられている。また装着部材51の内部に圧油の供給路55が設けられ、供給路55は装着部材51の外周面に開口している。したがって供給路55から装着部材51とハブ11との嵌合面に圧油を供給すると(矢印A)、ハブ11が油圧で拡径するので、装着部材51とハブ11とを嵌合することが可能とされ、またハブ11から装着部材51を引き抜くことが可能とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら上記油圧嵌め構造によると、嵌合面とされる装着部材51の外周面およびハブ11の内周面が共にテーパー状の平滑面とされているため、供給路55から供給される圧油が嵌合面の端部まで届かず、嵌合面の全長に亙って圧力が均一に作用しないことがある。したがってこの場合、嵌合面にいわゆる軸ズレが発生し、軸ズレに伴ってカジリが発生する。したがって従来はこの軸ズレを修正すべくハンマー叩き等による調整作業を追加で行っており、油圧嵌め作業に多大の手間がかかっている。また、嵌合面の全長に亙って圧力を均一に作用させるべく高圧を供給しようとするとこの場合には、油圧供給設備側の負担増大を招くことになる。
【0010】
本発明は以上の点に鑑みて、嵌合面の全長に亙って圧力を均一に作用させることができる油圧嵌め用ハブの圧力供給機構を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の油圧嵌め用ハブの圧力供給機構は、装着部材と前記装着部材の外周側に油圧嵌めするハブとの間に圧油を供給する圧力供給機構であって、前記装着部材の外周面に開口する圧力供給口を設け、前記ハブの内周面に圧力導入溝を設け、周方向に分割された複数の前記圧力導入溝による溝形成領域が前記圧力供給口の軸方向両側に分かれて配置されており、前記圧力供給口が位置する前記溝形成領域の間に、一方の側の前記溝形成領域の前記圧力導入溝と他方の側の前記溝形成領域の前記圧力導入溝とが非連通となる溝非形成領域が設けられている、ことを特徴とする。
【0012】
また、実施の態様として、上記記載の圧力供給機構において、前記圧力導入溝は、等配状に配置された複数の溝よりなることを特徴とする。
【0015】
また、実施の態様として、上記記載の圧力供給機構において、前記ハブは、ダイアフラムを介してセンターチューブに連結されるダイアフラムカップリング用ハブとして用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、嵌合面とされるハブの内周面に圧力導入溝が設けられているため、この圧力導入溝を伝って嵌合面の端部まで圧油が行き渡る。したがって嵌合面の全長に亙って圧力を均一に作用させることができ、よって軸ズレやこれに伴うカジリが発生するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施の形態に係る圧力供給機構を備える油圧嵌め用ハブを装着部材に油圧嵌めした状態の断面図
【
図6】従来例に係る油圧嵌め用ハブを備えるダイアフラムカップリングの断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に示すように、ハブ11は、円筒状を呈するハブ本体12を備え、このハブ本体12の軸方向一方(図では左方)の端部にフランジ部13が一体に設けられている。ハブ11は例えば、ダイアフラム31(
図6)を介してセンターチューブ41(
図6)に連結されるダイアフラムカップリング用のハブとして用いられる。
【0019】
ハブ11は、その内周側に挿入する出力軸または入力軸等の装着部材51に連結される。ハブ11および装着部材51は何れも金属製の部品である。
【0020】
装着部材51とハブ11との連結は、油圧嵌めにより行われる。
【0021】
油圧嵌めは、装着部材51とハブ11とを油圧を利用して嵌合するものであって、すなわち装着部材51とハブ11とを嵌合するとき、またはハブ11から装着部材51を引き抜くときに、装着部材51とハブ11との嵌合面に圧油を供給してハブ11を拡径させることにより、嵌合および引き抜きを可能としている。
【0022】
このため、装着部材51の外周面に、軸方向一方(フランジ側)から軸方向他方(図では右方、反フランジ側))へかけて外径寸法が徐々に拡大する向きのテーパー面54が設けられるとともに、対応してハブ11の内周面に、軸方向一方から軸方向他方へかけて内径寸法が徐々に拡大する向きのテーパー面14が設けられている。また装着部材51の内部に圧油の供給路55が設けられ、供給路55は装着部材51の外周面に開口して圧力供給口56とされている。したがってこの圧力供給口56から装着部材51とハブ11との嵌合面に圧油が供給されると(矢印A)、このときハブ11が油圧で拡径するので、装着部材51とハブ11とを嵌合することが可能とされ、またハブ11から装着部材51を引き抜くことが可能とされる。装着部材51はその外周面にテーパー面54が設けられているので、テーパー軸と称されることがある。
【0023】
上記構成の油圧嵌め構造では、嵌合面とされる装着部材51の外周面およびハブ11の内周面が共にテーパー状の平滑面とされているため、油圧供給口56から供給される圧油が嵌合面の端部まで届かず、よって嵌合面の全長に亙って圧力が均一に作用しないことがある。したがってこの場合、嵌合面にいわゆる軸ズレが発生し、軸ズレに伴ってカジリが発生することが懸念される。そこで当該実施の形態では、以下のような対策が施されている。
【0024】
すなわち
図2に示すように、一方の嵌合面とされるハブ11の内周面に圧力導入溝21が設けられており、この圧力導入溝21が、等配状に配置された複数の溝よりなるものとされている。
【0025】
圧力導入溝21は、軸方向に延びる直線状の溝とされている。
【0026】
また、圧力導入溝21は、ハブ11の内周面における軸方向一方の端部近傍から軸方向他方近傍にかけて設けられている。圧力導入溝21がハブ11の軸方向一方の端面15または他方の端面16に達しているとここから圧力が漏れる可能性があるため、圧力導入溝21はその両端部でそれぞれ先止まり状の溝とされている。したがってハブ11の内周面にはその軸方向中央部に圧力導入溝21が形成された溝形成領域17が設けられ、軸方向両端部にそれぞれ圧力導入溝21が形成されていない溝非形成領域18が設けられている。ハブ11の内周面における溝形成領域17の占有率すなわちハブ11の内周面の全長に対する圧力導入溝21の長さの比率は、2~98%の範囲内に設定される。
【0027】
圧力導入溝21の溝深さについては、溝深さが小さいと圧力を導入しにくいので、例えば100nm以上の大きさとする。
【0028】
上記構成の油圧嵌め構造では、嵌合面とされるハブ11の内周面に圧力導入溝21が設けられているため、この圧力導入溝21を伝って嵌合面の端部もしくは端部近傍まで圧油が行き渡る。したがって嵌合面の全長もしくは略全長に亙って圧力を均一に作用させることができ、よって軸ズレやこれに伴うカジリが発生するのを抑制することができる。
【0029】
尚、本発明において、圧力導入溝21の構成は圧力を導入することができればとくに限定されず、例えば以下のような構成であっても良い。
【0030】
図3の例では、圧力導入溝21が等配状に配置された複数の溝よりなるものとされ、軸方向に延びる直線状の溝とされている。
【0031】
また、圧力導入溝21が、装着部材51の外周面に開口する圧力供給口56(
図1)の軸方向両側にそれぞれ分かれて設けられている。したがってハブ11の内周面の軸方向中央部にも溝非形成領域18が設けられているので、ハブ11の内周面の軸方向一方の端部から他方の端部へかけて、溝非形成領域18、溝形成領域17、溝非形成領域18、溝形成領域17および溝非形成領域18の順で設けられている。
【0032】
図4の例では、圧力導入溝21が等配状に配置された複数の溝よりなるものとされ、斜めの方向に延びる直線状の溝とされている。したがって圧力導入溝21はその一方の端部21aと他方の端部21bが円周方向に変位して配置されている。
【0033】
また、圧力導入溝21が、装着部材51の外周面に開口する圧力供給口56(
図1)の軸方向両側にそれぞれ分かれて設けられている。したがってハブ11の内周面の軸方向中央部にも溝非形成領域18が設けられているので、ハブ11の内周面の一方の端部から他方の端部へかけて、溝非形成領域18、溝形成領域17、溝非形成領域18、溝形成領域17および溝非形成領域18の順で設けられている。
【0034】
図5の例では、圧力導入溝21が単数(1本)の溝よりなるものとされ、ネジ状の溝とされている。
【0035】
また、圧力導入溝21がハブ11の内周面における軸方向一方の端部近傍から軸方向他方近傍にかけて設けられている。ハブ11の内周面にはその軸方向中央部に油圧導入溝21が形成された溝形成領域17が設けられ、軸方向両端部にそれぞれ油圧導入溝21が形成されていない溝非形成領域18が設けられている。尚、図では溝21が単数であるが、多条ネジ構造を採用すれば、溝21が複数設けられることになる。
【符号の説明】
【0036】
1 ダイアフラムカップリング
11 ハブ
12 ハブ本体
13 フランジ部
14,54 テーパー面
15,16 端面
17 溝形成領域
18 溝非形成領域
21 圧力導入溝
21a,21b 溝端部
31 ダイアフラム
41 センターチューブ
51 装着部材
55 供給路
56 圧力供給口