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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】吸音装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/12 20060101AFI20221031BHJP
【FI】
B62D25/12 L
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018183354
(22)【出願日】2018-09-28
(65)【公開番号】P2020050247
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】勝山 博之
(72)【発明者】
【氏名】新津 宏
(72)【発明者】
【氏名】藤野 弘章
(72)【発明者】
【氏名】吉川 公利
(72)【発明者】
【氏名】金崎 功祐
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-159739(JP,U)
【文献】特開2019-206947(JP,A)
【文献】特開2017-177966(JP,A)
【文献】実公昭56-41066(JP,Y2)
【文献】実開昭61-113020(JP,U)
【文献】特開2004-168133(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102004017362(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102015200423(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/10-25/12,
B60R 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のパワーユニットを収容する空間部の上部開口に設けられ第1の軸回りに車体に対して回動するフードの下部に設けられる吸音装置であって、
前記第1の軸に対してオフセットして配置された第2の軸回りに回動可能に前記車体に取り付けられる吸音部材と、
一方の端部が前記フードに回動可能に連結されかつ他方の端部が前記吸音部材に回動可能に連結されるリンク部と
を備え
前記吸音部材は、前記フードが閉状態であるときに、前記フードの下面との間に間隔を隔てて配置され、
前記吸音部材は下方に突出して形成された突出部を有し、
前記突出部は、前記フードの閉状態から開状態への回動と連動して、前記吸音部材からの突端部の突出量が小さくなる方向へ前記吸音部材に対して回動すること
特徴とする吸音装置。
【請求項2】
車両のパワーユニットを収容する空間部の上部開口に設けられ第1の軸回りに車体に対して回動するフードの下部に設けられる吸音装置であって、
前記第1の軸に対してオフセットして配置された第2の軸回りに回動可能に前記車体に取り付けられる吸音部材と、
一方の端部が前記フードに回動可能に連結されかつ他方の端部が前記吸音部材に回動可能に連結されるリンク部と
を備え、
前記吸音部材は、前記フードが閉状態であるときに、前記フードの下面との間に間隔を隔てて配置され、
前記吸音部材は、前記フードを開状態から閉状態へ移行させる際に、前記リンク側の端部が他部に対して前記パワーユニット側へ張り出すよう屈曲変形又は湾曲変形すること
を特徴とする吸音装置。
【請求項3】
前記吸音部材は、吸音性を有する材質が前記フード側の面部及び前記パワーユニット側の面部においてそれぞれ露出して配置されること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の吸音装置。
【請求項4】
前記フードが閉状態であるときに、前記吸音部材の上面と間隔を隔てて対向するよう前記フードの下面に取り付けられた副吸音部材を備えること
を特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の吸音装置。
【請求項5】
前記リンク部は、前記フードにおける前記車両の対歩行者衝突時に歩行者の頭部が衝突する領域から離間した箇所に配置されること
を特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の吸音装置。
【請求項6】
前記吸音部材は前記車両の衝突時に入力される荷重により前記車体と前記フードとの少なくとも一方から脱落可能に支持されること
を特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の吸音装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両においてパワーユニット収容部のフード下部に設けられる吸音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車等の自動車においては、車体の前部等にエンジン等のパワーユニットが収容されるエンジンルームが設けられる。
エンジンルームの上部開口は、ヒンジを用いて回動可能とされたフードによって閉塞される。
エンジンルームのフードに関する従来技術として、特許文献1には、フードの下面側にエンジン音の車外への透過を抑制するインシュレータ(吸音材)を設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実公平 1-172976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、車内及び車外の騒音をより抑制するため、エンジン等のパワーユニットの上部をフード下面と間隔を隔てて配置された吸音材によりカバーし、パワーユニットのいわゆるカプセル化を図ることが提案されている。
しかし、パワーユニットの上部に、例えば不織布などの吸音材を配置した場合、フードを開いた際にユーザの目につきやすい箇所であるため、意匠性を考慮して樹脂製のカバーを設けることが必要となる。
また、フードを開けた際に、ユーザが手をつくなどして破損しないよう耐久性を確保する必要もあるため、このようなカバーには相応の剛性を持たせる必要があり、重量、コストが増加する要因となる。
【0005】
一方、車両と歩行者とが衝突した場合の歩行者保護の観点からは、このような吸音材の樹脂製カバーは、フードが変形して当接した際に抗力を発生してしまうため、衝撃を吸収するためのストロークの確保が困難となる。
これに対し、歩行者保護性能を確保するためには、例えばフードをより高い位置に配置したり、衝突時にフードが上昇するいわゆるポップアップフードを採用することも考えられるが、前者は視界悪化等の要因となり、後者は装置構成が複雑でありコストも増大してしまう。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、簡素な構成により歩行者保護性能と吸音性能とを両立させた吸音装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1に係る発明は、車両のパワーユニットを収容する空間部の上部開口に設けられ第1の軸回りに車体に対して回動するフードの下部に設けられる吸音装置であって、前記第1の軸に対してオフセットして配置された第2の軸回りに回動可能に前記車体に取り付けられる吸音部材と、一方の端部が前記フードに回動可能に連結されかつ他方の端部が前記吸音部材に回動可能に連結されるリンク部とを備え、前記吸音部材は、前記フードが閉状態であるときに、前記フードの下面との間に間隔を隔てて配置され、前記吸音部材は下方に突出して形成された突出部を有し、前記突出部は、前記フードの閉状態から開状態への回動と連動して、前記吸音部材からの突端部の突出量が小さくなる方向へ前記吸音部材に対して回動することを特徴とする吸音装置である。
これによれば、吸音部材をフードとは異なる軸回りに回動可能とし、軸側とは反対側の端部を、リンク部を介してフードに連結することによって、フードが閉状態である場合には、フードの下面から間隔を隔てた状態で吸音部材を適切な位置に保持することができる。
これにより、フードが閉状態である車両の走行時には良好な吸音性を発揮することができる。
一方、フードを開状態とする場合には、フードの開動作と連動して吸音部材を回動させてパワーユニットを収容する空間部の上部開口から上方へ退避させることができる。
このため、吸音部材はユーザが手をついた場合の剛性や強度を考慮する必要がなく、例えば可撓性を有する不織布などの吸音材料をそのまま用いることが可能である。
このような吸音部材は、例えば樹脂製のカバーなどに対して軟質であり、車両の対歩行
者衝突時におけるフードの変形ストロークに影響を与えることがないため、歩行者保護性能と吸音性能とを、簡易かつ安価な構成により高い次元で両立することができる。
さらに、フードを開状態とした際に吸音部材が上方へ退避することにより、車両の整備性も確保することができる。
【0007】
また、吸音部材を透過してフードの下面で反射した騒音を再度吸音することが可能となり、騒音を低減することができる。
さらに、 パワーユニットを収容する空間部内における騒音の伝搬経路を遮るよう、吸音部材から下方に突出した突出部を挿入することにより、騒音減からの騒音の拡散を抑制し、騒音さらに低減することができる。
例えば、このような突出部を、エンジンのシリンダヘッド、排気系、高圧燃料システムや、電動車両の場合にはインバータ、モータ等の騒音減の表面と対向し、あるいは、これらの少なくとも一部を囲った壁状に形成することが可能である。
また、フードを開状態とした際の突出部の突出量を抑制することにより、車両の整備作業等の妨げとなることを防止し、利便性を向上することができる。
請求項2に係る発明は、車両のパワーユニットを収容する空間部の上部開口に設けられ第1の軸回りに車体に対して回動するフードの下部に設けられる吸音装置であって、前記第1の軸に対してオフセットして配置された第2の軸回りに回動可能に前記車体に取り付けられる吸音部材と、一方の端部が前記フードに回動可能に連結されかつ他方の端部が前記吸音部材に回動可能に連結されるリンク部とを備え、前記吸音部材は、前記フードが閉状態であるときに、前記フードの下面との間に間隔を隔てて配置され、前記吸音部材は、前記フードを開状態から閉状態へ移行させる際に、前記リンク側の端部が他部に対して前記パワーユニット側へ張り出すよう屈曲変形又は湾曲変形することを特徴とする吸音装置である。
これによれば、部品点数を増加させることなく吸音部材の一部をパワーユニットが収容される空間部内に入り込ませることにより、騒音低減効果を促進することができる。
【0008】
請求項3に係る発明は、前記吸音部材は、吸音性を有する材質が前記フード側の面部及び前記パワーユニット側の面部においてそれぞれ露出して配置されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の吸音装置である。
これによれば、フードの下面で反射した騒音を効果的に吸音し、騒音をさらに低減することができる。
なお、本明細書、特許請求の範囲等において、吸音性を有する材質とは、例えば不織布や多孔質体など微細な空間部を内部に有し、内部において音響エネルギを吸収、低減することが可能である材料一般を指すものとする。
【0009】
請求項4に係る発明は、前記フードが閉状態であるときに、前記吸音部材の上面と間隔を隔てて対向するよう前記フードの下面に取り付けられた副吸音部材を備えることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の吸音装置である。
これによれば、吸音部材を透過してフード側に到達した騒音を吸音することにより、騒音をよりいっそう低減することができる。
【0013】
請求項に係る発明は、前記リンク部は、前記フードにおける前記車両の対歩行者衝突時に歩行者の頭部が衝突する領域から離間した箇所に配置されることを特徴とする請求項
1から請求項までのいずれか1項に記載の吸音装置である。
これによれば、リンク部がフードの変形ストロークに影響を及ぼすことがなく、歩行者保護性能を確保することができる。
【0014】
請求項に係る発明は、前記吸音部材は前記車両の衝突時に入力される荷重により前記車体と前記フードとの少なくとも一方から脱落可能に支持されることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の吸音装置である。
これによれば、衝突時の車体変形に応じて吸音部材が車体等から脱落することにより、衝突時の車体変形に吸音部材が影響を与えることがなく、既存の車両に適用した場合であっても車両の衝突安全性に影響を与えることを防止できる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、簡素な構成により歩行者保護性能と吸音性能とを両立させた吸音装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明を適用した吸音装置の第1参考例を有する車両のエンジンルーム部の模式的断面図である。
図2】本発明を適用した吸音装置の第2参考例を有する車両のエンジンルーム部の模式的断面図である。
図3】本発明を適用した吸音装置の第1実施形態を有する車両のエンジンルーム部の模式的断面図である。
図4】本発明を適用した吸音装置の第2実施形態を有する車両のエンジンルーム部の模式的断面図である。
図5】本発明を適用した吸音装置の第3実施形態を有する車両のエンジンルーム部の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
第1参考例
以下、本発明を適用した吸音装置の第1参考例について説明する。
第1参考例の吸音装置は、例えば乗用車等の自動車のエンジンルーム上部開口を開閉するフードの下部に設けられるものである。
図1は、第1参考例の吸音装置を有する車両のエンジンルーム部の模式的断面部である。
図1は、エンジンルームの左側端部近傍において、車幅方向と直交する平面で切って見た断面を示している。(以下説明する図2乃至図5において同じ)
【0018】
車両1は、エンジン10、エンジンルーム20、カウル部30、フロントウインドウガラス40、ストラットハウジング50、ラジエータアッパサポート60、ヘッドランプユニット70、フード80、吸音装置100等を有して構成されている。
【0019】
エンジン10は、車両1の走行用動力源(パワーユニット)である4ストローク直噴ガソリンエンジンである。
エンジンルーム20は、車体の一部に設けられ、エンジン10等のパワーユニットやその補機類が収容される空間部である。
エンジンルーム20は、例えば、乗員等が収容される空間部である車室(キャビン)の前方側に設けられる。
【0020】
カウル部30は、エンジンルーム20と車室前端部との隔壁であるバルク部の上部に設けられる部材であって、フロントウインドウガラス40の下端部や、図示しないワイパウォッシャ装置を保持する部分である。
カウル部30の車幅方向における両端部には、上下方向に延在する柱状部材であるAピラーや、後述するフロントサイドアッパフレーム等の各種構造部材が結合される。
カウル部30の近傍には、フード80を開閉可能に支持する図示しないヒンジの回転中心軸である軸A1(本発明にいう第1の軸)が配置されている。
フロントウインドウガラス40は、車室の上半部(グリーンハウス部)における前面部に設けられている。
フロントウインドウガラス40は、上端部が下端部に対して車両後方側となるように後傾して配置されている。
フロントウインドウガラス40の下端部は、カウル部30の上端部に沿って配置されている。
【0021】
ストラットハウジング50は、図示しないマクファーソンストラット式のフロントサスペンションのストラット上部が収容される部分である。
ストラットハウジング50は、エンジンルーム20の左右に設けられ車両前後方向に延在する図示しないフロントサイドフレームから上方に突出して設けられ、下方に開口したカップ状に形成されている。
ストラットは、ストラットハウジングの下部開口から挿入され、上端部に設けられたアッパマウントをストラットハウジング50の上面部に締結される。
ストラットハウジング50の後部は、直接、あるいは、図示しないリンホースメント(補強部材)等を介して、カウル部30に連結されている。
ストラットハウジング50の上端部における車幅方向外側の領域には、車両前後方向に伸びた構造部材である図示しないフロンドサイドアッパフレームが設けられる。
フロントサイドアッパフレームは、エンジンルーム20の上部開口の側縁部に沿って配置されている。
【0022】
ラジエータアッパサポート60は、エンジンルーム20の前端部付近における上部に設けられ、車幅方向に沿って延びた構造部材である。
ラジエータアッパサポート60は、図示しないラジエータコア、エアコンディショナ等の上端部を保持する部材である。
ラジエータアッパサポート60は、エンジンルーム20の上部開口の前縁部に沿って配置されている。
ラジエータアッパサポート60には、フード80が閉状態にあるときに、フード80の前端部を係止する図示しないラッチ機構が設けられている。
【0023】
ヘッドランプユニット70は、走行用配光(ハイビーム)用及びすれ違い配光(ロービーム)用の前照灯や、ポジションランプ、ターンシグナルランプ、デイタイムランニングランプ灯の車両前部に設けられる各種灯火類を、共通のハウジング内に収容してユニット化したものである。
ヘッドランプユニット70の上端部は、ラジエータアッパサポート60に支持されるとともに、閉状態にあるときのフード80の前端部と隣接して配置されている。
【0024】
フード80は、エンジンルーム20の上部開口に開閉可能に設けられた扉状体である。
フード80は、例えば軟鋼やアルミニウム系合金の板材をプレス成形して形成されたアウタパネル81、インナパネル82等を有して構成されている。
アウタパネル81は、フード80の上面部を構成する部分であって、フード80を閉状態としたときに車両外部に露出する意匠面を有する。
インナパネル82は、アウタパネル81の下面側に設けられ、アウタパネル81を補強する枠体状に形成されている。
【0025】
フード80は、その後端部付近に配置された図示しないヒンジによって、車幅方向に沿った軸A回りに、前端部が昇降する方向に回動(揺動)可能となっている。このヒンジは、車幅方向に離間して例えば一対が設けられる。
軸Aは、車幅方向から見たときに、カウル部30付近に配置されている。
フード80は、後端部に対して前端部がやや下がるよう傾斜し、前端部がラジエータアッパサポート60に係止され、エンジンルーム20の上部開口を閉塞する閉状態と、後端部に対して前端部が上昇するよう傾斜し、ユーザによるエンジンルーム20内へのアクセスを可能とする開状態との間で回動する。
図1乃至図4において、閉状態のフード80等を実線で示し、開状態を破線で示す。
図1においては、開状態と閉状態との中間状態も破線で示している。
また、フード80は、車両1が歩行者と衝突した場合に、歩行者の頭部等との衝突に応じて変形し、エネルギを吸収して傷害を軽減するエネルギ吸収部材としても機能する。
【0026】
フード80の下部に設けられる吸音装置100は、吸音部材110、リンク120、副吸音部材130等を有して構成されている。
吸音部材110は、例えば、不織布等の吸音性を有する材料によって、平坦なパネル状に形成されている。
例えば不織布は、吸音部材110の上面、下面にそれぞれ露出して配置されている。
吸音部材110は、一例として、単層の不織布によって構成することができる。
フード80を閉状態としたときに、吸音部材110の下面とエンジン10の上面との間には、空間部S1が形成され、吸音部材110の上面とフード80の下面との間には、空間部S2が形成される。
吸音部材110は可撓性を有し、例えば歩行者との衝突によりフード80が下方に凹むよう変形する際には、その変形を阻害しないようになっている。
吸音部材110は、例えば、エンジンルーム20の上部開口の主要部分を覆って設けられる構成としてもよいが、騒音源となる部品が特定可能である場合には、当該部品の上部等にのみ配置してもよい。
【0027】
吸音部材110の後端部は、ストラットハウジング50の上部付近に設けられた図示しないヒンジによって、車幅方向に沿った軸B回りに、前端部が昇降する方向に回動(揺動)可能となっている。このヒンジは、車幅方向に離間した例えば一対が設けられる。
軸Bは、軸Aに対して、下方でありかつ車両前方側に配置されている。
吸音部材110の前端部は、リンク120を介してフード80の下部に連結されている。
【0028】
リンク120は、フード80の下部と吸音部材110とを連結するシャフト状又はプレート状などの部材である。
リンク120の一方の端部121は、フード80の下部と、車幅方向に沿った軸周りに相対的に回動可能に連結されている。
リンク120の他方の端部122は、吸音部材110の前端部(軸B側とは反対側の端部)と、車幅方向に沿った軸周りに相対的に回動可能に連結されている。
リンク120は、例えば、車幅方向に離間して一対が設けられる。
【0029】
図1に示すように、フード80が閉状態にある場合には、リンク120の端部121は、端部122に対して、上方側でありかつ車両後方側に配置される。
すなわち、車幅方向から見たときに、吸音部材110とリンク120とは、屈曲した状態となっている。
一方、フード80が開状態にある場合には、リンク120と吸音部材110とは、車幅方向から見たときに略直線状に延びた状態となる。
リンク120は、軸Aと軸Bとのオフセットに起因するフード80側の端部121と、吸音部材110側の端部122との回動軌跡のずれを許容しつつ、吸音部材110とフード80とが連結され連動する状態を維持する機能を有する。
【0030】
なお、フード80を閉状態としたときにリンク120が存在する位置は、車両1が歩行者と衝突する際に、フード80に歩行者の頭部が衝突する領域Rを避けて配置するとよい。
【0031】
副吸音部材130は、例えば不織布等の吸音性を有する材料をパネル状に成形して構成され、フード80の下面部に貼付され固定されている。
【0032】
吸音部材110の軸B側の端部、リンク120の端部121,122の少なくとも一つは、車両1が衝突した際の車体変形に起因する入力を受けた際に、脱落するよう構成されている。
例えば、吸音部材110に対して前後方向に所定以上の張力が与えられた際に、吸音部材110の後端部が軸Bを有するヒンジから引き抜かれ、脱落する構成とすることができる。
【0033】
以上説明したように、第1参考例によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)吸音部材110をフード80の軸Aとは異なる軸B回りに回動可能とし、軸B側とは反対側の端部を、リンク120を介してフード80に連結することによって、フード80が閉状態である場合には、フード80の下面から間隔を隔てた状態で吸音部材110を適切な位置に保持することができる。
これにより、フード80が閉状態である車両1の走行時には良好な吸音性を発揮することができる。
一方、フード80を開状態とする場合には、フード80の開動作と連動して吸音部材110を回動させて、エンジンルーム20の上部開口から上方へ退避させることができる。
このため、吸音部材110はユーザが手をついた場合の剛性や強度を考慮する必要がなく、例えば可撓性を有する不織布などの吸音材料をそのまま用いることが可能である。
このような吸音部材110は、例えば樹脂製のカバーなどに対して軟質であり、車両の対歩行者衝突時におけるフード80の変形ストロークに影響を与えることがないため、歩行者保護性能と吸音性能とを、簡易かつ安価な構成により高い次元で両立することができる。
さらに、フード80を開状態とした際に吸音部材110が上方へ退避することにより、車両1の整備性も良好とすることができる。
(2)フード80が閉状態であるときに、フード80と吸音部材110との間に空間部S2が設けられることにより、吸音部材110を透過してフード80の下面で反射した騒音を再度吸音することが可能となり、騒音を低減することができる。
(3)吸音部材110は吸音性を有する不織布が上面、下面に露出して構成されることにより、フード80の下面で反射した騒音を効果的に吸音し、騒音をさらに低減することができる。
(4)フード80の下面に副吸音部材130を設けたことにより、エンジン10側から吸音部材110を透過してフード80側に到達した騒音を吸音し、騒音をよりいっそう低減することができる。
(5)リンク120をフード80の下部における歩行者との衝突時に頭部と衝突する領域Rを避けて配置したことにより、リンク120がフード80の変形ストロークに影響を及ぼすことがなく、歩行者保護性能を確保することができる。
(6)衝突時の車体変形に応じて吸音部材110が車体等から脱落することにより、衝突時の車体変形に吸音部材110が影響を与えることがなく、既存の車両に適用した場合であっても車両の衝突安全性に影響を与えることを防止できる。
【0034】
第2参考例
次に、本発明を適用した吸音装置の第2参考例について説明する。
以下説明する各参考例、実施形態において、従前の参考例又は実施形態と共通する箇所には同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
図2は、第2参考例の吸音装置を有する車両のエンジンルーム部の模式的断面部である。
第2参考例の吸音装置は、吸音部材110の下面に以下説明する突出部111を設けたものである。
突出部111は、吸音性を有する材料によって、吸音部材110の下面から下方へ突出するフェンス状に形成されている。
フード80が閉状態であるときに、突出部111は、上下方向及び車幅方向に延在し、騒音源であるエンジン10の前面部と間隔を隔てて対向して配置されている。
なお、このような突出部111は、騒音源となる部品の前面部に限らず、側面部や後面部と対向して配置される構成としてもよい。
このような突出部111は、吸音部材110の本体部と一体に形成してもよく、また、別部品を取り付ける構成としてもよい。
以上説明した第2参考例においては、上述した第1参考例の効果と同様の効果に加えて、エンジン10の前面部と対向する位置に吸音性を有する材料からなる突出部111を配置したことにより、騒音の拡散を抑制して騒音をさらに低減することができる。
【0035】
第1実施形態
次に、本発明を適用した吸音装置の第1実施形態について説明する。
図3は、第1実施形態の吸音装置を有する車両のエンジンルーム部の模式的断面部である。
第1実施形態においては、車幅方向から見たときの吸音部材110の湾曲していない状態での長さ(軸Bから端部122までの距離)をL1、リンク120の長さ(端部121と端部122との間の距離)をL2、フード80が閉状態であるときの軸Bから端部121までの距離をL3としたときに、以下の式1の関係となるようにこれらを設定している。

L1-L2>L3 ・・・(式1)

その結果、フード80を閉状態とすると、吸音部材110には前後方向の圧縮荷重が与えられ、中間部において座屈して上方が凸となる湾曲変形を示す。
吸音部材110には、安定してこのような湾曲変形モードを得るため、予め座屈変形の起点となる弱部を設けたり、微少な湾曲を与えておく構成とすることができる。
これにより、吸音部材110の前部は、他部に対して下方に張り出した状態となり、エンジン10の前面部と対向するようエンジンルーム20の内部に挿入される。
以上説明した第1実施形態によれば、上述した第1,第2参考例の効果と同様の効果に加えて、部品点数を増加させることなく吸音部材110の前部をエンジンルーム20の内部に入り込ませることにより、騒音低減効果を促進することができる。
【0036】
第2実施形態
次に、本発明を適用した吸音装置の第2実施形態について説明する。
図4は、第2実施形態の吸音装置を有する車両のエンジンルーム部の模式的断面部である。
図4に示すように、第2実施形態においては、第1実施形態における吸音部材110の座屈箇所に相当する箇所に、車幅方向に沿って延在する軸部112を設け、軸部112に対する前部110fと後部110rとが、軸部112回りに相対回動可能としている。
すなわち、第2実施形態においては、吸音部材110は、軸部112を挟んで前部11
0f、後部110rの二分割となる構成を有する。
なお、軸部112には、吸音部材110が上方に凸となる屈曲を許容するとともに、下方に凸となる屈曲を禁止するよう、前部110fと後部110rとが相対回転可能な範囲を規制する図示しないストッパが設けられている。
以上説明した第2実施形態によれば、上述した第1実施形態の効果と同様の効果に加えて、安定的かつ再現性良く吸音部材110を屈曲変形させることができる。
【0037】
第3実施形態
次に、本発明を適用した吸音装置の第3実施形態について説明する。
図5は、第3実施形態の吸音装置を有する車両のエンジンルーム部の模式的断面部である。
第3実施形態においては、第2実施形態における突出部111が、フード80の開閉動作と連動して、吸音部材110に対して車幅方向に沿った軸回りに回動することを特徴とする。
図5に示すように、フード80が閉状態である場合には、突出部111は、第2実施形態と同様に、エンジン10の前面部と対向するよう配置されている。
この状態における突出部111の上端部(吸音部材110との接続部)には、軸111aが設けられている。
軸111aは、吸音部材110に対して突出部111を相対回動可能に支持するものであって、車幅方向に沿って配置されている。
第3実施形態においては、フード80が閉状態から開状態へ移行する際に、吸音部材110とリンク120との相対回動が、図示しない連動機構を介して突出部111に伝達され、突出部111の突端部(軸111a側とは反対側の端部・フード80の閉状態における下端部)が、フード80の前端部(軸Aとは反対側の端部)に近づくよう振り上げられる方向に、突出部111が吸音部材110に対して相対回動するよう構成されている。
突出部111は、フード80が全開状態であるときに、フード80の下面部とほぼ沿った角度まで回動する構成とすることができる。
これにより、フード80を開状態とした際の突出部111の突端部の吸音部材110からの突出量を、閉状態に対して小さくすることができる。
以上説明した第3実施形態によれば、上述した第2実施形態の効果と同様の効果に加えて、フード80が開状態であるときに、突出部111がフード80の下面に近づく方向に退避するため、車両の整備作業等の妨げとなることを防止し、利便性を向上することができる。
【0038】
(変形例)
本発明は、以上説明した各実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)車両及び吸音装置の構成は、上述した各実施形態に限定されず、適宜変更することが可能である。
例えば、各実施形態においては、パワーユニットはエンジンであったが、これに代えて、あるいは、これに加えて、電動モータやインバータを有する車両にも本発明は適用することが可能である。この場合、インバータ等が発生する騒音はエンジンの騒音に対して一般に高周波であることから、吸音部材が高音側で良好な特性を得られるよう材質、形状等をチューニングするとよい。
(2)各実施形態において、車両のフードは、後端部付近に設けられた軸(ヒンジ)回りに前端部が昇降する方向に回動するいわゆるアリゲータ式であったが、本発明は、フードの前方側に軸(ヒンジ)を有し、後端部が昇降する方向に回動する逆アリゲータ式のものにも適用することが可能である。
(3)各実施形態において、吸音部材は、例えば不織布により形成されているが、これに限らず、吸音性を有する他の材料を用いてもよい。
例えば、ウレタン等の発泡性の樹脂からなる多孔質体や、グラスウールなどの他の材料を用いることも可能である。
(4)第3実施形態においては、フードの開動作と連動して突出部の下端部がフードの突端側(ヒンジ側とは反対側)に近づく方向に回動する構成としているが、フードの開動作に応じて突出部の下端部がフードの基部側に近づくよう回動する構成としてもよい。
また、フードの開動作と連動して、突出部が車幅方向以外の任意の方向の軸回りに回動する構成としてもよい。また、フードの開閉動作と突出部の回動とを連動させる機構の構成も特に限定されない。
【符号の説明】
【0039】
1 車両 10 エンジン
20 エンジンルーム 30 カウル部
40 フロントウインドウガラス 50 ストラットハウジング
60 ラジエータアッパサポート 70 ヘッドランプユニット
80 フード 81 アウタパネル
82 インナパネル 100 吸音装置
110 吸音部材 110f 前部
110r 後部 111 突出部
111a 軸
112 軸部 120 リンク
121,122 端部 130 副吸音部材
A1 フードの回転中心軸 A2 吸音部材の回転中心軸
図1
図2
図3
図4
図5