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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】垂直共振器型発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/183 20060101AFI20221031BHJP
【FI】
H01S5/183
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018196394
(22)【出願日】2018-10-18
(65)【公開番号】P2020064994
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉本 大
(72)【発明者】
【氏名】小林 静一郎
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-197426(JP,A)
【文献】特表2012-517705(JP,A)
【文献】特開2011-205006(JP,A)
【文献】特許第6369613(JP,B1)
【文献】特開2000-196189(JP,A)
【文献】特開2003-163373(JP,A)
【文献】米国特許第6751245(US,B1)
【文献】国際公開第2018/083877(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/180450(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/018017(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された第1の多層膜反射鏡と、
前記第1の多層膜反射鏡上に形成され、第1の導電型を有する第1の半導体層と、
前記第1の半導体層上に形成された発光層と、
前記発光層上に形成され、前記第1の半導体層とは反対の第2の導電型を有し、上面に低抵抗領域と前記低抵抗領域の外側において前記低抵抗領域から前記発光層に向かって窪みかつ前記第2の導電型の不純物が不活性化されることで前記低抵抗領域よりも高い電気抵抗を有する高抵抗領域とを有する第2の半導体層と、
前記低抵抗領域及び前記高抵抗領域に接触して前記第2の半導体層の前記上面上に形成された透光電極層と、
前記透光電極層上に形成され、前記第1の多層膜反射鏡との間で共振器を構成する第2の多層膜反射鏡と、を有することを特徴とする垂直共振器型発光素子。
【請求項2】
前記共振器は、前記低抵抗領域に対応して前記第1及び第2の多層膜反射鏡間に延びる中央領域と、前記中央領域の外側において前記高抵抗領域に対応して設けられた外側領域と、を有し、
前記外側領域は、前記中央領域よりも低い等価屈折率を有することを特徴とする請求項1に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項3】
前記第2の半導体層は、前記上面の前記低抵抗領域の内側において前記低抵抗領域から前記発光層に向かって窪みかつ前記第2の導電型の不純物が不活性化されることで前記低抵抗領域よりも高い電気抵抗を有する高抵抗領域を有することを特徴とする請求項1に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項4】
前記共振器は、前記低抵抗領域に対応して前記第1及び第2の多層膜反射鏡間に延びる環状領域と、前記環状領域の内側において前記高抵抗領域に対応して設けられた内側領域と、前記環状領域の外側において前記高抵抗領域に対応して設けられた外側領域と、を有し、
前記内側領域及び前記外側領域は、前記環状領域よりも低い等価屈折率を有することを特徴とする請求項3に記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項5】
前記高抵抗領域は、1.5~12nmの範囲内の深さで前記低抵抗領域から前記発光層に向かって窪んでいることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の垂直共振器型発光素子。
【請求項6】
基板と、前記基板上に形成された第1の多層膜反射鏡と、前記第1の多層膜反射鏡上に形成され、第1の導電型を有する第1の半導体層と、前記第1の半導体層上に形成された発光層と、前記発光層上に形成され、前記第1の半導体層とは反対の第2の導電型を有し、上面に低抵抗領域と前記低抵抗領域の外側において前記低抵抗領域から前記発光層に向かって窪みかつ前記第2の導電型の不純物が不活性化されることで前記低抵抗領域よりも高い電気抵抗を有する高抵抗領域とを有する第2の半導体層と、前記低抵抗領域及び前記高抵抗領域に接触して前記第2の半導体層の前記上面上に形成された透光電極層と、前記透光電極層上に形成され、前記第1の多層膜反射鏡との間で共振器を構成する第2の多層膜反射鏡と、を有する垂直共振器型発光素子の製造方法であって、
前記不純物が不活性化される前記高抵抗領域は、前記第2の半導体層の表面の一部を除去し、イオン注入を行う工程によって形成されるか、または、前記第2の半導体層の表面の一部にアッシング処理を行う工程によって形成されることを特徴とする、垂直共振器型発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直共振器型面発光レーザなどの垂直共振器型発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
垂直共振器型面発光レーザ(以下、単に面発光レーザと称する)は、基板上に積層された多層膜からなる反射鏡を有し、当該基板の表面に垂直な方向に沿って光を出射する半導体レーザである。例えば、特許文献1には、窒化物半導体を用いた面発光レーザが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5707742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、面発光レーザなどの垂直共振器型発光素子においては、発光パターンが安定していること、例えば遠視野像が安定していることが好ましい。このためには、例えば、垂直共振器型発光素子内には、所望の横モードの光を生成できる共振器が構成されていることが好ましい。例えば、単一横モードのレーザ光を生成することで、単峰性な高出力のレーザ光の遠視野像を得ることができる。
【0005】
また、面発光レーザなどにおいては、高品質であることが好ましい。例えば、早期の劣化が少ないこと、また、種々の環境で使用される場合、例えば高温での動作時においても安定した出力を行うことが可能であることが好ましい。また、発光素子は、一般的に、単純な構成を有し、容易にかつ低コストで作製できることが好ましい。
【0006】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、安定した横モードの光を出射することが可能であり、単純な構成で高品質な垂直共振器型発光素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による垂直共振器型発光素子は、基板と、基板上に形成された第1の多層膜反射鏡と、第1の多層膜反射鏡上に形成され、第1の導電型を有する第1の半導体層と、第1の半導体層上に形成された発光層と、発光層上に形成され、第1の半導体層とは反対の第2の導電型を有し、上面に低抵抗領域と低抵抗領域の外側において低抵抗領域から発光層に向かって窪みかつ第2の導電型の不純物が不活性化されることで低抵抗領域よりも高い電気抵抗を有する高抵抗領域とを有する第2の半導体層と、低抵抗領域及び高抵抗領域に接触して第2の半導体層の上面上に形成された透光電極層と、透光電極層上に形成され、第1の多層膜反射鏡との間で共振器を構成する第2の多層膜反射鏡と、を有することを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1に係る面発光レーザの断面図である。
図2】実施例1に係る面発光レーザの模式的な上面図である。
図3】実施例1に係る面発光レーザ内の共振器の構成を模式的に示す図である。
図4】実施例1に係る面発光レーザ内の電流経路を模式的に示す図である。
図5】実施例1に係る面発光レーザから出射される光を模式的に示す図である。
図6】比較例に係る面発光レーザの断面図である。
図7】実施例1及び比較例に係る面発光レーザにおけるp型半導体層のエッチング深さと形成される屈折率段差との関係を示す図である。
図8】実施例1に係る面発光レーザから出射された光の遠視野像の実測例を示す図である。
図9】実施例1及び比較例に係る面発光レーザにおける駆動時間と光出力との関係を示す図である。
図10】実施例1の変形例に係る面発光レーザの断面図である。
図11】実施例2に係る面発光レーザの断面図である。
図12】実施例2に係る面発光レーザの模式的な上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。また、以下の実施例においては、本発明が面発光レーザ(半導体レーザ)として実施される場合について説明する。しかし、本発明は、面発光レーザに限定されず、垂直共振器型発光ダイオードなど、種々の垂直共振器型発光素子に適用することができる。
【実施例1】
【0010】
図1は、実施例1に係る垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser、以下、面発光レーザと称する)の断面図である。また、図2は、面発光レーザ10の模式的な上面図である。図1は、図2のV-V線に沿った断面図である。図1及び図2を用いて、面発光レーザ10の構成について説明する。
【0011】
面発光レーザ10は、基板11と、基板11上に形成された第1の多層膜反射鏡(以下、単に第1の反射鏡と称する)12と、を有する。本実施例においては、第1の反射鏡12は、基板11上に形成され、第1の半導体膜(以下、高屈折率半導体膜と称する)H1と高屈折率半導体膜H1よりも低い屈折率を有する第2の半導体膜(以下、低屈折率半導体膜と称する)L1とが交互に積層された構造を有する。
【0012】
すなわち、本実施例においては、第1の反射鏡12は、半導体多層膜反射鏡であり、半導体材料からなる分布ブラッグ反射器(DBR:Distributed Bragg Reflector)を構成する。
【0013】
また、本実施例においては、基板11は、GaNの組成を有する。また、基板11は、第1の反射鏡12の結晶成長に用いられる成長用基板である。また、第1の反射鏡12における高屈折率半導体層H1はGaNの組成を有し、低屈折率半導体層L1はAlInNの組成を有する。なお、本実施例においては、基板11と第1の反射鏡12との間にはGaNの組成を有するバッファ層(図示せず)が設けられている。
【0014】
面発光レーザ10は、第1の反射鏡12上に形成され、発光層14を含む発光構造層EMを有する。本実施例においては、発光構造層EMは、窒化物系半導体からなる複数の半導体層を含む。発光構造層EMは、第1の反射鏡12上に形成されたn型半導体層(第1の半導体層)13と、n型半導体層13上に形成された発光層(活性層)14と、発光層14上に形成されたp型半導体層(第2の半導体層)15と、を有する。
【0015】
本実施例においては、n型半導体層13は、GaNの組成を有し、Siをn型不純物として含む。発光層14は、InGaNの組成を有する井戸層及びGaNの組成を有する障壁層を含む量子井戸構造を有する。また、p型半導体層15は、GaN系の組成を有し、Mgをp型不純物として含む。
【0016】
なお、発光構造層EMの構成はこれに限定されない。例えば、n型半導体層13は、互いに組成が異なる複数のn型の半導体層を有していてもよい。また、p型半導体層15は、互いに組成が異なる複数のp型の半導体層を有していてもよい。
【0017】
例えば、p型半導体層15は、発光層14との界面に、発光層14に注入された電子のp型半導体層15へのオーバーフローを防止する電子ブロック層(図示せず)として、例えばAlGaN層を有していてもよい。また、p型半導体層15は、電極とのオーミックコンタクトを形成するためのコンタクト層(図示せず)を有していてもよい。この場合、例えば、p型半導体層15は、当該電子ブロック層及びコンタクト層間に、クラッド層としてのGaN層を有していればよい。
【0018】
また、本実施例においては、p型半導体層15は、上面15Uに第1の領域15A及び第2の領域15Bを有する。第2の領域15Bは、第1の領域15Aの外側に設けられ、第1の領域15Aから発光層14に向かって窪んでいる。また、第2の領域15Bには、p型不純物が不活性化された不活性化領域15Cが設けられている。本実施例においては、図2に示すように、第1の領域15Aは、第2の領域15Bから円柱状に突出している。
【0019】
第1の領域15Aは、例えば、p型半導体層15の上面15Uに円形状の領域を残してドライエッチングを行うことで、形成することができる。p型半導体層15などの不純物を含む半導体は、ドライエッチングを行うことによって、その表面が粗面化される。これによって、エッチングされた部分におけるp型の不純物が不活性化され、不活性化領域15Cが形成される。
【0020】
従って、第2の領域15Bは、第1の領域15Aよりも高い電気抵抗を有する高抵抗領域HRとして機能する。一方、エッチングが行われていない領域、すなわち不活性化領域15Cが設けられていない領域である第1の領域15Aは、低抵抗領域LRとして機能する。また、第2の領域15Bにおいては、ドライエッチングによって、p型半導体層15が部分的に除去される。従って、第2の領域15Bは、第1の領域15Aから発光層14側に窪んでいる。
【0021】
換言すれば、p型半導体層15は、上面15Uに低抵抗領域LRと低抵抗領域LRの外側において低抵抗領域LRから発光層14に向かって窪みかつp型不純物が不活性化されることで低抵抗領域LRよりも高い電気抵抗を有する高抵抗領域HRとを有する。
【0022】
p型半導体層15は、発光構造層EMに注入される電流経路を狭窄する電流狭窄層として機能する。p型半導体層15の第1の領域15Aは、発光層14に電流が注入される電流注入領域として機能する。一方、p型半導体層15の第2の領域15Bは、発光層14への電流の注入が抑制される非電流注入領域として機能する。
【0023】
面発光レーザ10は、p型半導体層15の第1及び第2の領域15A及び15Bに接触してp型半導体層15の上面15Uに形成された透光電極層16を有する。透光電極層16は、発光層14から放出された光に対して透光性を有する導電性の膜である。例えば、透光電極層16は、ITO又はIZOなどの金属酸化膜からなる。
【0024】
面発光レーザ10は、透光電極層16上に形成された絶縁層17を有する。例えば、絶縁層17は、Ta25、Nb25、ZrO2、TiO2、HfO2などの金属酸化物からなる。また、絶縁層17は、発光層14から放出された光に対して透光性を有する。
【0025】
面発光レーザ10は、絶縁層17上に形成された第2の多層膜反射鏡(以下、単に第2の反射鏡と称する)18を有する。第2の反射鏡18は、発光構造層EMを介して第1の反射膜12に対向する位置に配置されている。第2の反射鏡18は、第1の反射鏡12との間で、発光構造層EMに垂直な方向(基板11に垂直な方向)を共振器長方向とする共振器OCを構成する。
【0026】
また、本実施例においては、図2に示すように、第2の反射鏡18は、円柱状の形状を有する。従って、本実施例においては、面発光レーザ10は、円柱状の共振器OCを有する。
【0027】
本実施例においては、第2の反射鏡18は、第1の誘電体膜(以下、高屈折率誘電体膜と称する)H2と高屈折率誘電体膜H2よりも低い屈折率を有する第2の誘電体膜(以下、低屈折率誘電体膜と称する)L2とが交互に積層された構造を有する。
【0028】
すなわち、本実施例においては、第2の反射鏡18は、誘電体多層膜反射鏡であり、誘電体材料からなる分布ブラッグ反射器(DBR:Distributed Bragg Reflector)を構成する。本実施例においては、高屈折率誘電体膜H2はTa25層からなり、低屈折率誘電体膜L2はAl23層からなる。
【0029】
発光構造層EMにおけるp型半導体層15の低抵抗領域LR及び高抵抗領域HRは、第1の反射鏡12と第2の反射鏡18との間の領域に設けられている。すなわち、本実施例においては、共振器OCは、p型半導体層15の低抵抗領域LRに対応して第1及び第2の反射鏡12及び18間に延びる中央領域R1と、中央領域R1の外側において高抵抗領域HRに対応して設けられた外側領域R2とを有する。
【0030】
また、本実施例においては、p型半導体層15の第1の領域15A(低抵抗領域LR)における層厚は、p型半導体層15の第2の領域15B(高抵抗領域HR)における層厚よりも厚い(大きい)。従って、共振器OC内における外側領域R2は中央領域R1よりも低い等価屈折率を有する。すなわち、中央領域R1は高屈折率領域として機能し、外側領域R2は中央領域R1よりも低い屈折率を有する低屈折率領域として機能する。また、本実施例においては、中央領域R1は、円柱状の形状を有し、外側領域R2の各々は、円筒状の形状を有する。
【0031】
面発光レーザ10は、発光構造層EMに電流を印加する第1及び第2の電極E1及びE2を有する。第1の電極E1は、n型半導体層13上に形成されている。また、第2の電極E2は、透光電極層16上に形成されている。
【0032】
第1及び第2の電極E1及びE2間に電圧が印加されると、発光構造層EMの発光層14から光が放出される。発光層14から放出された光は、第1及び第2の反射鏡12及び18間において反射を繰り返し、共振状態に至る(レーザ発振を行う)。
【0033】
また、本実施例においては、第1の反射鏡12は、第2の反射鏡18よりもわずかに低い反射率を有する。従って、第1及び第2の反射鏡12及び18間で共振した光は、その一部が第1の反射鏡12及び基板11を透過し、外部に取出される。このようにして、面発光レーザ10は、基板11に及び発光構造層EMに垂直な方向に光を出射する。
【0034】
なお、p型半導体層15の第1の領域15Aは、発光層14における発光中心を画定し、共振器OCの中心軸CAを画定する。共振器CAの中心軸CAは、第1の領域15Aの中心を通り、p型半導体層15(発光構造層EM)に垂直な方向に沿って延びる。本実施例においては、p型半導体層15の第1の領域15Aの中心は、第2の領域15Bの中心に対応する位置に配置されている。
【0035】
ここで、面発光レーザ10における各層の例示的な構成について説明する。本実施例においては、第1の反射鏡12は、44ペアのGaN層及びAlInN層からなる。n型半導体層13は、650nmの層厚を有する。発光層14は、4nmのInGaN層及び5nmのGaN層が3回積層された多重量子井戸構造の活性層からなる。第2の反射鏡18は、10ペアのTa25層及びAl23層からなる。
【0036】
また、p型半導体層15は、第1の領域15Aにおいて50nmの層厚を有する。p型半導体層15は、第2の領域15Bにおいて40nmの層厚を有する。第1の領域15Aは、6μmの幅(外径)を有する。
【0037】
図3は、面発光レーザ10の共振器OCの光学的な特性を模式的に示す図である。図3は、図1と同様の断面図であるが、ハッチングを省略している。本実施例においては、上記したように、p型半導体層15の第1の領域15A(低抵抗領域LR)における層厚は、p型半導体層15の第2の領域15B(高抵抗領域HR)における層厚よりも大きい。また、第1及び第2の反射鏡12及び18間の他の各層の層厚は一定である。
【0038】
従って、共振器OC内における中央領域R1の等価屈折率n1は、外側領域R2の等価屈折率n2よりも高い。また、中央領域R1における第1及び第2の反射鏡12及び19間の光学距離OL1は、外側領域R2の光学距離OL2よりも大きい。すなわち、中央領域R1における等価的な共振器長は、外側領域R2における等価的な共振器長よりも長い。
【0039】
図4は、面発光レーザ10の共振器OC内(発光構造層EM内)における電気的な特性を模式的に示す図である。図4は、発光構造層EM内を流れる電流CRの経路を模式的に示す図である。図4は、図1と同様の断面図であるが、ハッチングを省略している。本実施例においては、第1の領域15Aに対応する中央領域R1が低抵抗領域LRとして機能し、第2の領域15Bに対応する外側領域R2は高抵抗領域HRとして機能する。
【0040】
従って、図4に示すように、中央領域R1においてのみ発光層14に電流CRが注入され、外側領域R2においては発光層14にほとんど電流が注入されない。すなわち、中央領域R1において光が生成される(利得が生ずる)一方で、外側領域R2においては光が生成されない。
【0041】
図5は、面発光レーザ10から出射される光を模式的に示す図である。本実施例においては、面発光レーザ10内の定在波は、第1の反射鏡12から外部に取り出される。ここで、当該面発光レーザ10内で共振した光は、図5に示すように、中央領域R1に収束しつつ外部に取り出される。なお、図5には、面発光レーザ10から出射されるレーザ光LBのビーム外縁を破線で模式的に示している。
【0042】
具体的には、まず、本実施例においては、本実施例においては、外側領域R2における共振器OC(レーザ媒質)の等価屈折率n2は、中央領域R1における共振器OCの等価屈折率n1よりも小さい。
【0043】
これによって、共振器OC内の定在波が中央領域R1から外側に発散(放射)することによる光損失が抑制される。すなわち、中央領域R1に多くの光が留まり、またその状態でレーザ光LBが外部に取り出される。従って、多くの光が共振器OCの中心軸CAの近傍に集中し、高出力なレーザ光LBを生成及び出射することができる。
【0044】
また、本実施例においては、等価屈折率の差を設けることで共振器OC内の光閉じ込め構造が形成されている。従って、強度の低下を伴うことなくほぼ全ての光がレーザ光LBとなる。従って、高効率で高出力なレーザ光LBを生成及び出射することができる。
【0045】
次に、本実施例においては、低抵抗領域LR、すなわち発光層14に対する電流注入領域を中央領域R1のみに制限している。すなわち、外側領域R2には電流が注入されず、この非電流注入領域を囲むように電流注入領域が設けられている。これによって、レーザ光LBの横モードを安定させることができる。従って、例えば単峰性のレーザ光LBを出射することができる。
【0046】
図6は、比較例1に係る面発光レーザ100の断面図である。面発光レーザ100は、第2の領域15B上に絶縁層101を有する点を除いては、面発光レーザ10と同様の構成を有する。面発光レーザ100は、第2の領域15Bにおいては、p型半導体層15は絶縁層101に接している。p型半導体層15は、第1の領域15Aにおいて透光電極層16に接している。また、絶縁層101は、SiO2からなる。
【0047】
図7は、面発光レーザ10と面発光レーザ100との間のp型半導体層15の上面15Uにおけるエッチング深さ、すなわち第1及び第2の領域15A及び15B間のp型半導体層15に垂直な方向の距離(面発光レーザ10においては深さD1であり、面発光レーザ100においては深さD2に対応する、それぞれ図1及び図6を参照)と、両者の中央領域R1及び外側領域R2間の等価屈折率の差を中央領域R1の等価屈折率で割った値である屈折率段差Δn(面発光レーザ10においては(n1-n2)/n1の値であり、面発光レーザ100においては(n11-n21)/n11の値に対応する、それぞれ図1及び図6を参照)との関係を示す図である。
【0048】
なお、図7においては、面発光レーザ10及び100の両方で共振器長(それぞれ光学距離OL1及びOL11に対応する、図1及び図6を参照)を、発光層14から放出された光(すなわちレーザ光LB)の波長の5倍又は10倍になるように設定した場合におけるシミュレーション結果である。
【0049】
図7に示すように、例えば、3×10-3の屈折率段差Δnを得ようとすると、面発光レーザ100においては約22nmの深さD2だけ第2の領域15Bが第1の領域15Aから低くなるようにp型半導体層15をエッチングする必要がある。一方、面発光レーザ10においては、約5nmの深さD1だけエッチングするのみで、3×10-3の屈折率段差Δnを得ることができることがわかる。また、その他の全範囲において、面発光レーザ10におけるエッチング深さD1を小さくしても十分な屈折率段差を形成することができることがわかる。
【0050】
すなわち、面発光レーザ10においては、例えば面発光レーザ100のようにp型半導体層15を部分的に除去した上で絶縁層101を形成することで共振器OC内に屈折率段差を形成する場合に比べ、p型半導体層15をわずかに除去するのみで十分な屈折率段差を共振器OC内に形成することができる。
【0051】
従って、まず絶縁層101を形成する工程が不要となるため、面発光レーザ10の製造工程が単純なものとなる。次に、p型半導体層15を除去する量(例えばエッチング量やエッチング時間)が大幅に減少する。従って、面発光レーザ10の製造時間が短くなる。
【0052】
なお、透光電極層16は第1及び第2の領域15A及び15B上に形成されるため、例えば透光電極層16から第2の反射鏡18の各層においては、中央領域R1及び外側領域R2の境界で段差が生ずる。しかし、上記したようにこの段差はわずか(例えば10nm以下)である。従って、この各層の段差により生じ得るレーザ光LBの散乱損失がほとんど無視できる。
【0053】
具体的には、例えばレーザ光LBの波長が445nmであり、中央領域R1における共振器OCの等価屈折率n1が2.43の場合、この第1及び第2の領域15A及び15B間の段差高さ(エッチング深さ)D1は、例えば、9.2nm以下であることが好ましく、また、4.7nm以下であることがさらに好ましい。この高さ範囲の段差は、レーザ光LBに対して不感となるからである。本実施例においては、絶縁層101を不要にすることで、このエッチング深さD1の範囲を実現しつつ、所望の屈折率段差を形成することができる。
【0054】
なお、この第2の領域15Bの深さD1は、例えば、レーザ光LBの波長を考慮して、中央領域R1の共振器長及び共振器OC内に形成する中央領域R1及び外側領域R2間の屈折率段差の好ましい範囲を決定し、これを満たすように調節すればよい。例えば、波長が445nmのレーザ光LBに対し、安定した単峰性の遠視野像を得ることを考慮すると、中央領域R1及び外側領域R2間に、1×10-3~4×10-3の範囲内の屈折率差が設けられていることが好ましい。この場合、例えば、第1の領域15Aの深さD1は、1.5~12nmの範囲内であることが好ましい。すなわち、高抵抗領域HRは、1.5~12nmの範囲内の深さで低抵抗領域LRから発光層14に向かって窪んでいることが好ましい。
【0055】
図8は、各駆動条件を調節した際の面発光レーザ10から出射されたレーザ光LBの遠視野像及びその特性を示す図である。図8は、第2の領域15Bの幅W1(低抵抗領域LRの幅であり、本実施例においては内径に対応する、図1を参照)を6μmとし、共振器長OL1をレーザ光LBのピーク波長λ(本実施例においては445nm)の10倍に設定し、中央領域R1及び外側領域R2間の屈折率段差Δnを1.5×10-3に設定した場合の測定結果である。
【0056】
図8に示すように、5mWを超える光出力を得るように駆動した場合でも、単峰性の遠視野像を得ることができており、また、その半値角は6°以下であった。すなわち、種々の駆動条件で動作させた場合であっても安定した単峰性のレーザ光LBを出射することが可能であることがわかる。このように、面発光レーザ10は、安定した横モードのレーザ光LBを出射することが可能であることがわかる。
【0057】
図9は、面発光レーザ10及び100における駆動時間と光出力との関係を示す図である。図9は、駆動開始時の光出力を1とした場合の面発光レーザ10及び100の駆動時間と光出力との関係を示す図である。
【0058】
図9に示すように、面発光レーザ10は、面発光レーザ100に比べて光出力の低下が抑えられていることがわかる。すなわち、面発光レーザ10は、面発光レーザ100に比べ、出力特性が安定しており、高品質であることがわかる。
【0059】
これは、面発光レーザ10が面発光レーザ100に設けられている絶縁層101を有しないことに起因すると考えられる。具体的には、絶縁層101を形成する場合、p型半導体層15(半導体ウェハ)に対してプラズマが照射されること、及びp型半導体層15に応力が生ずる。しかし、絶縁層101を形成しないことによって、p型半導体層15に与えるダメージがなくなる。従って、高品質な状態のp型半導体層15を維持した面発光レーザ10となり、出力特性が安定すると考えられる。
【0060】
このように、本実施例においては、面発光レーザ10は、p型半導体層15の上面15Uに不活性化領域15Cが設けられることで高抵抗領域HRとして機能する第2の領域15Bを有する。従って、高品質、高出力でかつ安定した横モードのレーザ光LBを出射することができる。
【0061】
なお、本実施例においては、高抵抗領域HR及び低抵抗領域LRがp型半導体層15に設けられる場合について説明した。しかし、高抵抗領域HR及び低抵抗領域LRはn型半導体層13に設けられていてもよい。
【0062】
また、本実施例においては、高抵抗領域HRがドライエッチングによって形成される場合について説明した。しかし、高抵抗領域HRの形成方法はドライエッチングに限定されない。例えば、p型半導体層15の第2の領域15Bは、p型半導体層15の表面をわずかに除去した上で、イオン注入を行うことで不活性化領域15Cを形成して形成されてもよい。また、アッシング処理が行われることで不活性化領域15Cが形成されていてもよい。
【0063】
図10は、本実施例の変形例に係る面発光レーザ10Aの断面図である。面発光レーザ10Aは、p型半導体層15の第1の領域15Aの外周部におけるp型半導体層15と透光電極層16との間に絶縁層19を有する点を除いては、面発光レーザ10と同様の構成を有する。
【0064】
本変形例においては、例えば、第2の電極E2の直下の領域を含むp型半導体層15の第2の領域15Bの外周部に絶縁層19が形成され、絶縁層19を埋め込むように透光電極層16が形成されている。
【0065】
本変形例においては、絶縁層19を部分的に形成することで、p型半導体層15へのダメージを最小限に抑えつつ、第2の領域15Bと透光電極層16との間を確実に絶縁することができる。従って、確実に第2の領域15Bを高抵抗化することができる。従って、第2の領域15Bにおける電流のリークなどによる利得低下を抑えることができる。従って、高品質、高出力でかつ安定した横モードのレーザ光LBを出射する面発光レーザ10Aとなる。
【0066】
このように、本実施例においては、面発光レーザ10は、基板11と、基板11上に形成された第1の反射鏡12と、第1の反射鏡12上に形成されたn型半導体層(第1の導電型を有する第1の半導体層)13と、n型半導体層13上に形成された発光層14と、発光層14上に形成され、n型半導体層13とは反対のp型の導電型(第2の導電型)を有し、上面15Uに低抵抗領域LRと低抵抗領域LRの外側において低抵抗領域LRから発光層14に向かって窪みかつp型の不純物が不活性化されることで低抵抗領域LRよりも高い電気抵抗を有する高抵抗領域HRとを有するp型半導体層(第2の半導体層)15と、低抵抗領域LR及び高抵抗領域HRに接触してp型半導体層15の上面15U上に形成された透光電極層16と、透光電極層16上に形成され、第1の反射鏡12との間で共振器OCを構成する第2の反射鏡18と、を有する。従って、安定した横モードの光を出射することが可能であり、単純な構成で高品質な面発光レーザ10(垂直共振器型発光素子)を提供することができる。
【実施例2】
【0067】
図11は、実施例2に係る面発光レーザ20の断面図である。また、図12は、面発光レーザ20の模式的な上面図である。面発光レーザ20は、発光構造層EM1の構成を除いては、面発光レーザ10と同様の構成を有する。
【0068】
本実施例においては、発光構造層EM1は、上面21Aにおける低抵抗領域LRの内側に高抵抗領域HRを有するp型半導体層21を有する。具体的には、p型半導体層21は、低抵抗領域LRが環状に設けられ、その内側と外側の両方に高抵抗領域HRを有する。
【0069】
本実施例においては、p型半導体層21は、上面21Uにおいて環状に設けられて低抵抗領域LRとして機能する第1の領域21Aと、第1の領域21Aの内側において第1の領域21Aから発光層14に向かって窪みかつ高抵抗領域HRとして機能する第2の領域21B1と、第1の領域21Aの外側において第1の領域21Aから発光層14に向かって窪みかつ高抵抗領域HRとして機能する第3の領域21B2と、を有する。
【0070】
例えば、p型半導体層21は、環状の領域を残してp型半導体層21の表面にドライエッチングを行うことによって、形成することができる。例えば、第1の領域21Aとしての当該環状の領域は、10.3μmの外径及び3.5μmの内径を有する。
【0071】
本実施例においては、共振器OC1は、第1の領域21Aに対応する環状領域R11と、第2の領域21B1に対応して環状領域R11の内側に設けられた内側領域R21と、第3の領域21B2に対応して環状領域R11の外側に設けられた外側領域R22と、を有する。また、内側領域R21及び外側領域R22は、環状領域R11よりも低い等価屈折率を有する。また、図12に示すように、内側領域R21は円柱状に形成され、環状領域R11及び外側領域R22は円筒状に形成されている。
【0072】
本実施例においては、電流は、環状領域R11のみに流れることとなる。内側領域R21を設けることによって、共振器OC1このように電流狭窄を行うことで、レーザ光LBの固有モード(スーパーモードとも称される)を安定させることができる。具体的には、例えば環状領域R11の幅(第1の領域21Aの幅であり、電流注入領域の幅に対応する)を調節することで、種々の固有モードのレーザ光LBを安定して生成することができる。
【0073】
このように、本実施例においては、p型半導体層21は、低抵抗領域LRの内側に不活性化領域21Cが形成された高抵抗領域HRを有する。従って、安定した横モードの光を出射することが可能であり、単純な構成で高品質な面発光レーザ20(垂直共振器型発光素子)を提供することができる。
【符号の説明】
【0074】
10、10A、20 面発光レーザ(垂直共振器型発光素子)
15、21 p型半導体層
15C、21C 不活性化領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12