(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】車両用サイドドアのサッシュフレーム
(51)【国際特許分類】
B60J 5/04 20060101AFI20221031BHJP
B60J 5/00 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
B60J5/04 W
B60J5/00 P
(21)【出願番号】P 2018209550
(22)【出願日】2018-11-07
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100109058
【氏名又は名称】村松 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】大久保 安剛
(72)【発明者】
【氏名】赤崎 圭輔
(72)【発明者】
【氏名】殿井 雅之
(72)【発明者】
【氏名】小林 拓史
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-164879(JP,A)
【文献】実開昭57-116514(JP,U)
【文献】特開平11-105627(JP,A)
【文献】特開昭58-050271(JP,A)
【文献】実開昭58-157818(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 5/04
B60J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用サイドドアの上部を構成するサッシュ部のサッシュフレームであって、
インナパネルと、
前記インナパネルの車幅方向外側に配置され、前記インナパネルとともに閉断面を形成するアウタパネルと、
前記サッシュ部における少なくとも一部の領域に配置され、前記インナパネルと前記アウタパネルの間に介在するとともに前記インナパネル及び前記アウタパネルの一方又は両方に接合された補強部材と、を備え、
前記サッシュ部に対して前記車幅方向外側への外力が作用するときの中立面と前記閉断面とが交わる線を中立軸とし、前記閉断面において前記中立軸に直交する方向である直交方向における前記閉断面の最大寸法をサッシュ幅とするとき、
前記補強部材の少なくとも一部は、前記中立軸から前記直交方向に前記サッシュ幅の1/4の寸法以上離れた離隔領域に配置され、
前記サッシュ部は、前記車両用サイドドアの下部を構成するドア本体部の後側上端部から上方に延びる縦フレーム部と、前記ドア本体部の前側上端部から前記縦フレーム部の上端部まで延びるルーフサイドフレーム部と、を含み、
前記ルーフサイドフレーム部における下端部と上端部との間の部位であって前記サッシュ部に対して前記外力が作用するときの曲げモーメントの向きが反転する部位を反転部位とするとき、
前記補強部材は、前記反転部位よりも前記ルーフサイドフレーム部の前記下端部に近い領域であって前記反転部位よりも前記曲げモーメントが大きい下部領域と、前記反転部位よりも前記ルーフサイドフレーム部の前記上端部に近い領域であって前記反転部位よりも前記曲げモーメントが大きい上部領域とに配置されている、サッシュフレーム。
【請求項2】
前記閉断面において、前記補強部材のうちの前記離隔領域に配置された部分の断面積は、前記補強部材のうちの前記離隔領域以外の領域に配置された部分の断面積よりも大きい、請求項1に記載のサッシュフレーム。
【請求項3】
前記閉断面において、前記補強部材は、前記中立軸上以外の領域にのみ配置されている、請求項1又は2に記載のサッシュフレーム。
【請求項4】
前記閉断面において、前記補強部材の全体が前記離隔領域に配置されている、請求項1~3の何れか1項に記載のサッシュフレーム。
【請求項5】
前記補強部材は、前記反転部位以外の領域にのみ配置されている、請求項1~4の何れか1項に記載のサッシュフレーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用サイドドアの上部を構成するサッシュ部のサッシュフレームに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、車両用ドアフレーム構造を開示している。この特許文献1に開示されているような車両用サイドドアは、その下部を構成するドア本体部と、上部を構成するサッシュ部とを備える。当該車両用サイドドアは、インナパネルと、当該インナパネルの車幅方向外側に配置されたアウタパネルとによって構成されている。
【0003】
ところで、自動車等の車両が走行する際、サイドドアのウィンドウガラス面に作用する負圧によりサッシュ部が車幅方向外側に吸い寄せられて僅かにたわみ変形することがある。特に車両の走行速度が速くなると、車体に対する車幅方向外側へのサッシュ部のたわみ変形量も大きくなる。通常、サイドドアと車体とはゴム製のシール部品などを介して密閉されているが、前記たわみ変形量が大きくなるとサイドドアと車体との間に隙間が形成され、これにより、風切り音が発生するという問題がある。この風切り音の発生を防ぐために、サッシュ部のサッシュフレームを構成するインナパネル又はアウタパネルの厚み(板厚)を大きくしてサッシュフレームの剛性を高めることが一般に行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、サイドドアがプレスドア構造(プレスタイプドア構造)を有する場合、インナパネル及びアウタパネルは、一枚のパネルをプレス成形することによってそれぞれ作製される。したがって、プレスドア構造のサイドドアにおいて、サッシュフレームの剛性向上のためにインナパネル又はアウタパネルの厚みを大きくする場合、インナパネルの全体の厚み又はアウタパネルの全体の厚みが大きくなる。このことは、サッシュフレームの剛性の向上に寄与しない部分の厚みも大きくすることになるため、車両の軽量化という観点では好ましくない。特に、インナパネルはサッシュ部のフレームを構成するだけでなくドア本体部のフレームも構成する大きな部材であるため、インナパネルの厚みを大きくすることは、インナパネルの重量が大きく増加して車両の重量が増加することにつながる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的は、サッシュ部を効果的に補強することにより車両の重量増加を抑制しつつ車両走行時の風切り音を抑制することができる車両用サイドドアのサッシュフレームを提供することである。
【0007】
(1)本発明は、車両用サイドドアの上部を構成するサッシュ部のサッシュフレームに関するものである。前記サッシュフレームは、インナパネルと、前記インナパネルの車幅方向外側に配置され、前記インナパネルとともに閉断面を形成するアウタパネルと、前記サッシュ部における少なくとも一部の領域に配置され、前記インナパネルと前記アウタパネルの間に介在するとともに前記インナパネル及び前記アウタパネルの一方又は両方に接合された補強部材と、を備える。前記サッシュ部に対して前記車幅方向外側への外力が作用するときの中立面と前記閉断面とが交わる線を中立軸とし、前記閉断面において前記中立軸に直交する方向である直交方向における前記閉断面の最大寸法をサッシュ幅とするとき、前記補強部材の少なくとも一部は、前記中立軸から前記直交方向に前記サッシュ幅の1/4の寸法以上離れた離隔領域に配置されている。前記サッシュ部は、前記車両用サイドドアの下部を構成するドア本体部の後側上端部から上方に延びる縦フレーム部と、前記ドア本体部の前側上端部から前記縦フレーム部の上端部まで延びるルーフサイドフレーム部と、を含み、前記ルーフサイドフレーム部における下端部と上端部との間の部位であって前記サッシュ部に対して前記外力が作用するときの曲げモーメントの向きが反転する部位を反転部位とするとき、前記補強部材は、前記反転部位よりも前記ルーフサイドフレーム部の前記下端部に近い領域であって前記反転部位よりも前記曲げモーメントが大きい下部領域と、前記反転部位よりも前記ルーフサイドフレーム部の前記上端部に近い領域であって前記反転部位よりも前記曲げモーメントが大きい上部領域とに配置されている。
【0008】
本発明のサッシュフレームでは、インナパネルとアウタパネルの間に補強部材を介在させることによりサッシュ部の剛性を向上させるので、車両用サイドドアがプレスドア構造を有する場合であっても、インナパネルの全体の厚み及びアウタパネルの全体の厚みを大きくする必要がない。そして、本発明では、補強部材の少なくとも一部がサッシュフレームの剛性を向上させる効果の大きい前記離隔領域に配置されるので、サッシュ部を効果的に補強することができる。これにより、車両の重量増加を抑制しつつサッシュフレームの剛性を高めて風切り音の発生を抑制することができる。また、前記ルーフサイドフレーム部における前記反転部位は、部分的に曲げモーメントがゼロになる部位であるため、補強部材による補強の必要性が低い部位である。その一方で、前記反転部位に対してルーフサイドフレーム部の長手方向の両側にある前記下部領域と前記上部領域は、前記反転部位よりも前記曲げモーメントが大きい領域であるため、補強部材による補強の必要性が高い領域である。本態様では、これらの下部領域と上部領域に前記補強部材を配置することで、サッシュ部を効果的に補強することができる。
【0009】
(2)前記サッシュフレームにおける前記閉断面において、前記補強部材のうちの前記離隔領域に配置された部分の断面積は、前記補強部材のうちの前記離隔領域以外の領域に配置された部分の断面積よりも大きくなっているのが好ましい。
【0010】
この態様では、サッシュフレームの剛性を向上させる効果の大きな前記離隔領域に補強部材の半分を超える部分が配置されているので、サッシュ部をより効果的に補強することができる。
【0011】
(3)前記サッシュフレームにおける前記閉断面において、前記補強部材は、前記中立軸上以外の領域にのみ配置されているのが好ましい。
【0012】
この態様では、補強部材は、サッシュフレームの剛性を向上させる効果の小さい前記中立軸上の領域以外の領域に配置されているので、剛性向上効果の小さい領域に補強部材を配置することに起因する剛性向上効率の低下を抑制できる。
【0013】
(4)前記サッシュフレームにおける前記閉断面において、前記補強部材の全体が前記離隔領域に配置されているのがより好ましい。
【0014】
この態様では、サッシュフレームの剛性を向上させる効果の大きな前記離隔領域に補強部材の全体が配置されるので、サッシュ部をさらに効果的に補強することができる。
【0019】
(5)前記サッシュフレームにおいて、前記補強部材は、前記反転部位以外の領域にのみ配置されていてもよい。
【0020】
この態様では、補強部材による補強の必要性が低い前記反転部位に前記補強部材を配置せず、補強部材による補強の必要性が高い下部領域と上部領域に前記補強部材を配置することで、サッシュ部をより重点的に補強することができる。これにより、補強部材による補強の必要性が低い前記反転部位に前記補強部材を配置することに起因する剛性向上効率の低下を抑制できる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明によれば、サッシュ部を効果的に補強することにより車両の重量増加を抑制しつつ車両走行時の風切り音を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態に係るサッシュフレームを備えた車両用サイドドアを内側から見たときの側面図である。
【
図3】
図1のIII-III線における断面図である。
【
図4】中立軸からの距離と補強部材による剛性向上効果との関係を説明するための概略図である。
【
図5】中立軸からの距離と補強部材による剛性向上効果との関係を説明するための概略図である。
【
図6】中立軸からの距離と補強部材による剛性向上効果との関係を示すグラフである。
【
図7】サッシュ部において補強するのが好ましい領域を示す側面図である。
【
図8】サッシュフレームの縦フレーム部とルーフサイドフレーム部におけるモーメント分布を示す概略図である。
【
図9】
図8に示すサッシュフレームの構造を模式的に記載した図である。
【
図10】
図8に示すサッシュフレームの縦フレーム部の支持状態とモーメント分布を示す模式図である。
【
図11】
図8に示すサッシュフレームのルーフサイドフレーム部の支持状態とモーメント分布を示す模式図である。
【
図12】(A)~(D)は、実施形態に係るサッシュフレームの変形例を示す断面図である。
【
図13】(A)~(C)は、実施形態に係るサッシュフレームの変形例を示す断面図である。
【
図14】(A)~(C)は、実施形態に係るサッシュフレームの変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[車両用サイドドア]
本発明の実施形態に係るサッシュフレームを備えた車両用サイドドアについて、図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1は、本発明の実施形態に係るサッシュフレーム4を備えた車両用サイドドア1(以下、サイドドア1という。)を内側から見たときの側面図である。
図2は、
図1のII-II線における断面図である。
図3は、
図1のIII-III線における断面図である。
【0025】
サイドドア1は、その前端部1Fにおいて図略のヒンジによって上下方向の軸を中心に図略の車体に対して開閉可能に取り付けられる。サイドドア1の後端部1Rには、前記車体のドア開口部に設けられた係合部に係合可能な図略のドアロック装置が設けられ、サイドドア1が車体のドア開口部を閉じた状態でサイドドア1がロックされる。
【0026】
サイドドア1が車体のドア開口部を閉じた状態では、サイドドア1の前後方向(
図1では左右方向)は、車両が前進後退する方向と一致し、サイドドア1の厚み方向は、車両の車幅方向と一致する。また、サイドドア1が車体のドア開口部を閉じた状態では、サイドドア1におけるサッシュフレーム4の外側(
図2では上方、
図3では左方)は、車両の車幅方向外側と一致し、サイドドア1におけるサッシュフレーム4の内側(
図2では下方、
図3では右方)は、車両の車幅方向内側と一致する。
【0027】
図1に示すように、サイドドア1は、当該サイドドア1の下部を構成するドア本体部2と、サイドドア1の上部を構成するサッシュ部3とを備える。サッシュ部3は、ドア本体部2の上に一体に形成されている。サッシュ部3とドア本体部2の上縁21は、ウィンドウ開口部5を形成している。ウィンドウ開口部5は、昇降装置(不図示)により上下に昇降されるウィンドウガラス6によって開閉される。
【0028】
図1~
図3に示すように、サッシュ部3は、インナパネル10と、インナパネル10の車幅方向外側に配置されるアウタパネル20と、補強部材30と、を備える。
【0029】
本実施形態では、サイドドア1は、プレスドア構造(プレスタイプドア構造)を有している。サッシュ部3のインナパネル10及びアウタパネル20は、一枚のパネルをプレス成形することによってそれぞれ作製される。サッシュ部3のインナパネル10とドア本体部2のインナパネル11とは一枚のパネルをプレス成形することによって作製されたものであってもよく、別々のパネルをプレス成形することによって作製されたものであってもよい。同様に、サッシュ部3のアウタパネル20とドア本体部2のアウタパネル(不図示)とは一枚のパネルをプレス成形することによって作製されたものであってもよく、別々のパネルをプレス成形することによって作製されたものであってもよい。
【0030】
サッシュ部3は、ドア本体部2の後側上端部2Bから上方に延びる縦フレーム部31(Bピラー部)と、ドア本体部2の前側上端部2Aから縦フレーム部31の上端部31Bまで延びるルーフサイドフレーム部32と、を含む。縦フレーム部31の下端部31Aは、ドア本体部2の後側上端部2Bに接続されている。ルーフサイドフレーム部32の下端部32Aは、ドア本体部2の前側上端部2Aに接続されている。縦フレーム部31の上端部31Bは、ルーフサイドフレーム部32の上端部31Bと接続されている。
【0031】
なお、縦フレーム部31の下端部31Aは、
図1に示すドア本体部2の上縁21を後方に延長した直線Lと縦フレーム部31が交わる位置にあり、ルーフサイドフレーム部32の下端部32Aは、ドア本体部2の上縁21を前方に延長した直線Lとルーフサイドフレーム部32が交わる位置にある。
【0032】
図2及び
図3に示すように、サッシュフレーム4におけるインナパネル10とアウタパネル20は、縁部分同士が接合部4Wにおいて接合されることによって閉断面を形成している。インナパネル10とアウタパネル20を接合する方法は特に限定されないが、溶接(例えばレーザー溶接など)などの手段を採用することができる。
【0033】
本実施形態では、
図1に示すサッシュ部3のサッシュフレーム4が有する閉断面と、ドア本体部2が有する閉断面は、例えば二点鎖線CSで囲まれた部位に連続して形成されている。具体的に、サッシュフレーム4における縦フレーム部31は、その下端部31Aから上端部31Bまで連続する閉断面を有しており、各部位における閉断面の形状は、例えば
図2に示す閉断面の形状と同様である。サッシュフレーム4におけるルーフサイドフレーム部32は、その下端部32Aから上端部32Bまで連続する閉断面を有しており、各部位における閉断面の形状は、例えば
図3に示す閉断面の形状と同様である。
【0034】
以下の説明において、サッシュ部3に対して車幅方向外側への外力が作用するときの中立面と
図2及び
図3に示すような閉断面とが交わる線を中立軸NAとし、
図2及び
図3に示すように前記閉断面において当該中立軸NAに直交する方向である直交方向における前記閉断面の最大寸法をサッシュ幅Dとする。前記中立面は、サッシュ部3に対して車幅方向外側の外力が作用したときに、サッシュフレーム4において伸縮がゼロ(圧縮力及び引張力がゼロ)となる仮想の面である。本実施形態では、当該中立面は、サッシュフレーム4に沿って延びている。前記中立軸NAは、前記中立面とサッシュフレーム4の横断面(閉断面)とが交わる線(例えば
図2及び
図3に示す直線NA)である。
【0035】
ここで、サッシュ部3に対して車幅方向外側へ作用する外力の一例として、車両の走行時にサイドドア1のウィンドウガラス6に作用する負圧に起因する外力を挙げることができる。ウィンドウガラス6に車幅方向外側に負圧が作用すると、サッシュ部3のサッシュフレーム4は、ウィンドウガラス6とともに車幅方向外側に吸い寄せられる。なお、本実施形態では、外力の作用する向きである車幅方向外側は、必ずしも水平方向に平行な方向だけに限定されるものではなく、サッシュフレーム4が車体に対して外側(例えば右サイドドアの場合、右側)にたわみ変形するような外力の向きであればよい。
【0036】
本実施形態では、サッシュ部3に対して車幅方向外側へ作用する外力に起因する風切り音の発生を抑制するために、サッシュフレーム4は1つ又は複数の補強部材30を備えている。
【0037】
[補強部材]
補強部材30は、サッシュフレーム4の剛性を向上させることにより、サッシュ部3に上述した外力が作用したときにサッシュフレーム4の車体に対するたわみ変形量を小さくするために設けられている。補強部材30は、サッシュ部3における少なくとも一部の領域に配置されている。補強部材30は、インナパネル10とアウタパネル20との間に介在し、インナパネル10及びアウタパネル20の長手方向に沿って延びる形状を有する。
【0038】
補強部材30は、インナパネル10及びアウタパネル20の一方又は両方に接合されることにより、インナパネル10及びアウタパネル20と一体化されている。補強部材30をインナパネル10及びアウタパネル20の一方又は両方と接合する方法は特に限定されないが、溶接(例えばレーザー溶接など)などの手段を採用することができる。
【0039】
図2及び
図3に示す本実施形態では、サッシュフレーム4は、複数の補強部材30を備え、少なくとも一つの補強部材30が縦フレーム部31に設けられ、少なくとも一つの補強部材30がルーフサイドフレーム部32に設けられている。各補強部材30は縦フレーム部31の長手方向又はルーフサイドフレーム部32の長手方向に沿って延びる板状の部材である。各補強部材30は、その幅方向の両端の接合部30Wにおいてインナパネル10の内面に接合されている。
【0040】
本実施形態では、補強部材30の少なくとも一部は、以下に説明する離隔領域に配置されている。前記離隔領域は、サッシュフレーム4における閉断面(例えば
図2及び
図3に示す閉断面)において、当該閉断面において中立軸NAから当該中立軸NAに直交する方向である直交方向に前記サッシュ幅Dの1/4の寸法(すなわちD/4)以上離れた領域である。このような離隔領域に補強部材30の少なくとも一部が配置されることにより、サッシュ部3を効果的に補強することができるので、車両の重量増加を抑制しつつサッシュフレーム4の剛性を高めて風切り音の発生を抑制することができる。
図2及び
図3に示す具体例では、補強部材30のうち、インナパネル10に対する接合部30W以外のすべての部分が前記離隔領域に配置されており、しかも、補強部材30は、中立軸NA上の領域には配置されていない。このような配置の場合、サッシュ部3をより効果的に補強することができる。
【0041】
なお、サッシュフレーム4が例えば鋼板によって形成されている場合には、アルミニウム合金板の板厚と鋼板の板厚とを同等とすれば、比較的剛性が高い(ヤング率が高い)ため、上述したような風切り音の問題は生じにくい。一方、サッシュフレーム4が例えばアルミニウム合金によって形成されている場合には、鋼板に比べて剛性が低い(ヤング率が低い)ため、風切り音の問題が生じやすい。本実施形態では、サッシュフレーム4がアルミニウム合金によって形成されているため、補強部材30によってサッシュ部3を効果的に補強することにより車両の重量増加を抑制しつつ車両走行時の風切り音を抑制することができる。
【0042】
以下、補強部材30が前記離隔領域に配置されることによりサッシュ部3を効果的に補強できる理由について説明する。
【0043】
図4及び
図5は、中立軸NAからの距離と補強部材30による剛性向上効果との関係を説明するための概略図である。
図4は、サッシュフレーム4の横断面が矩形の閉断面を有する場合を示したものであり、
図5は、サッシュフレーム4の横断面がひし形の閉断面を有する場合を示したものである。
【0044】
図4及び
図5に示す閉断面において、サッシュ部3(サッシュフレーム4)に対して作用する外力の向きである前記車幅方向外側がy軸の方向に平行であり、サッシュフレーム4の閉断面における中立軸NAがx軸の方向に平行であるとする。かかる場合、断面二次モーメントI
xは、断面の微小面積要素dAと、微小面積要素のx軸からの距離yを用いて、次式(1)によって表される。
【0045】
Ix=∫y2dA・・・(1)
したがって、車両の重量増加を抑制しつつサッシュ部3を効果的に補強するという観点では、サッシュフレーム4における閉断面において、補強部材30は、中立軸NAからの距離yが大きくなる位置(中立軸NAからできるだけ離れた位置)に配置されるのが好ましい。
【0046】
図6は、
図4に示す矩形閉断面の場合の補強部材30による剛性向上効果と、
図5に示すひし形閉断面の場合の補強部材30による剛性向上効果とを示すグラフである。
図4及び
図5は、中立軸NAが閉断面のサッシュ幅Dの中央に位置し、中立軸NAから閉断面の最外縁4Eまでの距離(中立軸NAに直交する方向の距離)がD/2となる場合を例示している。そして、
図6のx軸は、前記距離D/2に対する距離y(中立軸NAから補強部材30までの距離y)の割合(%)を示している。また、式(1)で表される断面二次モーメントI
xを補強部材30の断面積で割った値、すなわち補強部材30の単位面積あたりの断面二次モーメント(ΔI
x/ΔA)は、前記距離yが前記距離D/2のときに最大値となる。そして、
図6のy軸は、前記最大値に対する単位面積あたりの断面二次モーメント(ΔI
x/ΔA)の割合(%)を示している。すなわち、
図6は、補強部材30の中立軸NAからの距離yに対する剛性向上効果を示している。
【0047】
図6に示されているように、補強部材30による剛性向上効果(最大値に対する割合)は、サッシュフレーム4における閉断面の形状が矩形の場合とひし形の場合とで等しい。
図6に示されているように、補強部材30による剛性向上効果は、補強部材30の中立軸NAからの距離yが大きくなるほど大きい。これらの特徴は、矩形及びひし形以外の任意の閉断面(例えば
図2や
図3に示す閉断面)についても同様である。
【0048】
図6に示すように、補強部材30は、閉断面においてサッシュフレーム4の剛性向上効果が大きい領域、具体的には、前記最大値に対する単位面積あたりの断面二次モーメントの割合が25%以上となる離隔領域に配置される。前記最大値に対する単位面積あたりの断面二次モーメントの割合が25%となる補強部材30の位置は、前記距離D/2(中立軸NAから閉断面の最外縁4Eまでの距離)の50%に相当する距離D/4だけ中立軸NAから離れた位置である。したがって、当該離隔領域は、中立軸NAから距離D/4以上離れた領域となる。
【0049】
以上のことから、本実施形態では、サッシュフレーム4の閉断面において、補強部材30を配置することによって断面二次モーメントが大きくなる効果が高い前記離隔領域に補強部材30を優先的に配置してサッシュフレーム4を補強する。
【0050】
なお、
図6に示すように、補強部材30は、閉断面においてサッシュフレーム4の剛性向上効果がさらに大きい領域、具体的には、前記最大値に対する単位面積あたりの断面二次モーメントの割合が50%以上となる領域に配置されるのがより好ましく、当該割合が75%以上となる領域に配置されるのがさらに好ましい。
【0051】
また、
図2及び
図3に示すように、補強部材30とインナパネル10との間には隙間Gが設けられている。補強部材30は、当該補強部材30と中立軸NAとの前記直交方向の距離が大きくなる位置に配置されることが好ましいが、部品同士の接触(
図2及び
図3の場合には、補強部材30とインナパネル10との接触)に起因する異音の発生を防止するという観点では、前記隙間Gが設けられていてもよい。
【0052】
次に、サッシュフレーム4の長手方向における補強部材30の好ましい配置について説明する。
【0053】
図7は、サッシュ部3において補強するのが好ましい領域を示す側面図である。補強部材30は、
図7に示す縦フレーム部31の下部領域A11及びルーフサイドフレーム部32の下部領域A21の少なくとも一方に配置されるのが好ましい。また、補強部材30は、前記下部領域A11及び前記下部領域A21の両方に配置されるのがより好ましい。また、補強部材30は、前記下部領域A11及び前記下部領域A21の少なくとも一方と、
図7に示すルーフサイドフレーム部32の上部領域A22とに配置されるのがさらに好ましい。以下、その理由について具体的に説明する。
【0054】
図8は、サッシュ部3の縦フレーム部31とルーフサイドフレーム部32におけるモーメント分布を示す概略図である。
図9は、
図8に示すサッシュフレーム4の構造を模式的に記載した図である。
【0055】
図8に示す本実施形態では、サッシュ部3の縦フレーム部31とルーフサイドフレーム部32を比較すると、ルーフサイドフレーム部32の剛性よりも縦フレーム部31の剛性が高い。そして、縦フレーム部31の上端部31Bとルーフサイドフレーム部32の上端部32Bが接続される部分を支持点(回転支点)と考える。かかる場合、縦フレーム部31は、ルーフサイドフレーム部32による支持の影響が小さいので、
図9に示すように縦フレーム部31の下端部31Aにおいてドア本体部2の後側上端部2Bに固定される片持ち梁(等分布荷重の片持ち梁)の状態にあると考えることができる。一方、ルーフサイドフレーム部32は、縦フレーム部31による支持の影響が比較的大きいので、
図9に示すようにルーフサイドフレーム部32の下端部32Aにおいてドア本体部2の前側上端部2Aに固定されるとともにルーフサイドフレーム部32の上端部32Bにおいてピン支持される梁(等分布荷重の一端固定、他端ピン支持の支持梁)の状態にあると考えることができる。
【0056】
図10は、
図8に示すサッシュフレーム4の縦フレーム部31の支持状態とモーメント分布を示す模式図である。縦フレーム部31は、
図9を参照して説明したように等分布荷重の片持ち梁の状態にあると考えた場合、縦フレーム部31に作用する曲げモーメントMは、
図10に示すような分布になる。すなわち、
図10に示すように、曲げモーメントMは、縦フレーム部31の下端部31Aにおいて最も大きくなり、縦フレーム部31の上端部31Bに向かうにつれて小さくなる。
【0057】
したがって、縦フレーム部31には、その下端部31A付近に補強部材30が配置されるのが好ましい。具体的には、縦フレーム部31の下端部31Aから上端部31Bまでの高さを縦フレーム高さとするとき、補強部材30は、縦フレーム部31の下端部31Aから縦フレーム高さの1/5の寸法だけ上方の位置までの根元領域に配置されるのが好ましい。
図7に示す具体例では、補強部材30は、縦フレーム部31の根元領域の一部又は全部を含む下部領域A11に設けられている。
【0058】
図11は、
図8に示すサッシュフレーム4のルーフサイドフレーム部32の支持状態とモーメント分布を示す模式図である。ルーフサイドフレーム部32は、
図9を参照して説明したように等分布荷重の一端固定、他端ピン支持の支持梁の状態にあると考えた場合、ルーフサイドフレーム部32に作用する曲げモーメントMは、
図11に示すような分布になる。
【0059】
すなわち、
図11に示すように、曲げモーメントMは、ルーフサイドフレーム部32の下端部32Aにおいて大きな値となり、ルーフサイドフレーム部32の上端部32Bに向かうにつれて小さくなり、下端部32Aと上端部32Bとの間の部位(反転部位RA)においてゼロとなる。曲げモーメントMは、この反転部位RAにおいて向きが反転し、ルーフサイドフレーム部32の上端部32Bに向かうにつれて大きくなり、反転部位RAと上端部32Bとの間の領域で極大値をとる。そして、曲げモーメントMは、当該極大値の領域からルーフサイドフレーム部32の上端部32Bに向かうにつれて小さくなる。
【0060】
ルーフサイドフレーム部32では、
図11に示すようなモーメント分布に従って、反転部位RAよりもルーフサイドフレーム部32の下端部32Aに近い下部領域A21(
図7参照)と、反転部位RAよりもルーフサイドフレーム部32の上端部32Bに近い上部領域A22(
図7参照)とに大きな曲げモーメントMが作用する。下部領域A21におけるモーメントの方向と上部領域A22におけるモーメントの方向は互いに逆向きである。
【0061】
以上のような特性を有するルーフサイドフレーム部32には、その下端部32A付近に補強部材30が配置されるのが好ましい。具体的には、ルーフサイドフレーム部32の下端部32Aから上端部32Bまでの高さをルーフサイド高さとするとき、補強部材30は、ルーフサイドフレーム部32の下端部32Aからルーフサイド高さの1/5の寸法だけ上方の位置までの根元領域に配置されるのが好ましい。
【0062】
また、ルーフサイドフレーム部32では、反転部位RAに基づいて、次のように補強部材30を配置してもよい。
図7に示すように、補強部材30は、反転部位RAよりもルーフサイドフレーム部32の下端部32Aに近い領域であって反転部位RAよりも曲げモーメントMが大きい下部領域A21と、反転部位RAよりもルーフサイドフレーム部32の上端部32Bに近い領域であって反転部位RAよりも曲げモーメントMが大きい上部領域A22とに配置されてもよい。当該下部領域A21は、前記根元領域の一部又は全部を含む領域である。
【0063】
[変形例]
本発明は、以上説明した実施形態に限定されない。本発明は、例えば次のような形態を含む。
【0064】
図12(A)~
図12(D)及び
図13(A)~
図13(C)は、実施形態に係るサッシュフレーム4の変形例をそれぞれ示す断面図である。なお、
図12(A)~(D)及び
図13(A)~(C)に示す変形例は、補強部材30の少なくとも一部が前記離隔領域に配置されている点で共通している。
【0065】
図12(A)に示すように、サッシュフレーム4の閉断面において、補強部材30のうちの離隔領域に配置された部分の断面積が、補強部材30のうちの離隔領域以外の領域に配置された部分の断面積よりも小さくてもよい。
【0066】
図12(B)に示すように、サッシュフレーム4の閉断面において、2つの補強部材30のうち、一方の補強部材30がインナパネル10に接合され、他方の補強部材30がアウタパネル20に接合されていてもよい。
【0067】
図12(C)に示すように、サッシュフレーム4の閉断面において、2つの補強部材30のうち、一方の補強部材30がインナパネル10とアウタパネル20に接合され、他方の補強部材30もインナパネル10とアウタパネル20に接合されていてもよい。
【0068】
図12(D)に示すように、サッシュフレーム4の閉断面において、補強部材30が波状などの複雑な断面形状を有していてもよい。
【0069】
図13(A)に示すように、補強部材30がアウタパネル20のみに接合されていてもよい。また、補強部材30が空洞部30aを有する筒形状を有していてもよい。
【0070】
図13(B)に示すように、サッシュフレーム4の閉断面において、2つの補強部材30が設けられ、各補強部材30の全体が離隔領域に配置されていてもよい。
【0071】
図13(C)に示すように、サッシュフレーム4の閉断面において、2つの補強部材30が設けられ、各補強部材30は、縦フレーム部31又はルーフサイドフレーム部32の長手方向に沿って延びる補強部材本体部30aと、当該補強部材本体部30aに接合された1つ又は複数のリブ部30bとを有するものであってもよい。前記リブ部30bは、前記長手方向に交わる方向(例えば、前記長手方向に直交する方向)に平行な平板状の部分である。複数のリブ部30bが設けられる場合には、これらのリブ部30bは、前記長手方向に間隔をあけて配置される。
【0072】
図14(A)及び
図14(B)に示すように、サッシュフレーム4の閉断面において、2つの補強部材30が設けられ、各補強部材30は、中立軸NAに直交する方向の寸法である厚さが中立軸NAの方向において変化する部材である差厚断面部材によって構成されていてもよい。当該差厚断面部材は、例えば押し出し成形やダイキャストなどの成型方法を用いて形成することができる。
【0073】
図14(C)に示すように、サッシュフレーム4の閉断面において、2つの補強部材30が設けられ、各補強部材30は、中空の閉断面構造を有していてもよい。
【0074】
なお、
図12(B),(C)、
図13(B),(C)、
図14(A)~(C)に示すサッシュフレーム4の閉断面においては、2つの補強部材30が設けられているが、前記2つの補強部材30の一方を省略することもできる。
【0075】
前記実施形態において、
図8~
図11に示したような曲げモーメントの分布に応じて、以下のように補強部材30を配置してもよい。すなわち、曲げモーメントの分布に応じて、厚みの異なる複数の補強部材30が配置されてもよく、ヤング率の異なる複数の補強部材30が配置されてもよい。具体的には、例えば、縦フレーム部31やルーフサイドフレーム部32の前記根元領域の一部又は全部に配置する補強部材30の厚みを、前記根元領域以外の領域の一部又は全部に配置する補強部材30の厚みよりも大きくしてもよい。また、縦フレーム部31やルーフサイドフレーム部32の前記根元領域の一部又は全部に配置する補強部材30を構成する素材のヤング率を、前記根元領域以外の領域の一部又は全部に配置する補強部材30を構成する素材のヤング率よりも高くしてもよい。また、縦フレーム部31やルーフサイドフレーム部32の前記根元領域の一部又は全部に配置する補強部材30の剛性を、前記根元領域以外の領域の一部又は全部に配置する補強部材30の剛性よりも高くしてもよい。
【0076】
また、縦フレーム部31の上端部31B付近やルーフサイドフレーム部32の上端部32B付近には、補強部材30を省略してもよい。また、前記反転部位RAにおいては補強部材30を省略してもよい。
【0077】
また、前記実施形態では、サッシュフレーム4がアルミニウム合金によって形成されている場合を例示したが、サッシュフレーム4は、アルミニウム合金以外の材料によって形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 車両用サイドドア
2 ドア本体部
2A ドア本体部の前側上端部
2B ドア本体部の後側上端部
3 サッシュ部
4 サッシュフレーム
10 サッシュフレームのインナパネル
20 サッシュフレームのアウタパネル
30 補強部材
31 縦フレーム部
31A 縦フレーム部の下端部
31B 縦フレーム部の上端部
32 ルーフサイドフレーム部
32A ルーフサイドフレーム部の下端部
32B ルーフサイドフレーム部の上端部
D サッシュ幅
NA 中立軸
RA 反転部位