IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニヴェルシテ ピエール エ マリ キュリー パリ 6の特許一覧 ▶ センター ナショナル ド ラ ルシェルシュ サイエンティフィークの特許一覧

特許7166933プログラム細胞死を誘導するCD47のアゴニスト剤及びプログラム細胞死の欠陥と関連する疾患の治療におけるそれらの使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】プログラム細胞死を誘導するCD47のアゴニスト剤及びプログラム細胞死の欠陥と関連する疾患の治療におけるそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/64 20060101AFI20221031BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20221031BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20221031BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20221031BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20221031BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20221031BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20221031BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
C07K7/64 ZNA
C07K14/47
A61K38/08
A61K38/10
A61K38/16
A61P29/00
A61P37/04
A61P35/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018559280
(86)(22)【出願日】2017-05-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-04
(86)【国際出願番号】 EP2017061233
(87)【国際公開番号】W WO2017194634
(87)【国際公開日】2017-11-16
【審査請求日】2020-03-03
(31)【優先権主張番号】16305543.7
(32)【優先日】2016-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507416908
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カロヤン フィリップ
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-520178(JP,A)
【文献】CHAN L Y; ET AL,CYCLIC THROMBOSPONDIN-1 MIMETICS: GRAFTING OF A THROMBOSPONDIN SEQUENCE INTO CIRCULAR DISULFIDE-RICH FRAMEWORKS TO INHIBIT ENDOTHELIAL CELL MIGRATION,BIOSCIENCE REPORTS,米国,SPRINGER,2015年10月13日,VOL:35, NR:6,PAGE(S):E00270-1/12,http://dx.doi.org/10.1042/BSR20150210
【文献】WANG S; ET AL,DEVELOPMENT OF A PROSAPOSIN-DERIVED THERAPEUTIC CYCLIC PEPTIDE THAT TARGETS OVARIAN CANCER VIA THE TUMOR MICROENVIRONMENT,SCIENCE TRANSLATIONAL MEDICINE,AMERICAN ASSOCIATION FOR THE ADVANCEMENT OF SCIENC,2016年03月09日,VOL:8, NR:329,PAGE(S):329RA34-1/11,http://dx.doi.org/10.1126/scitranslmed.aad5653
【文献】ANA-CAROLINA MARTINEZ-TORRES; ET AL,CD47 AGONIST PEPTIDES INDUCE PROGRAMMED CELL DEATH IN REFRACTORY CHRONIC LYMPHOCYTIC LEUKEMIA B CELLS VIA PLCγ1 ACTIVATION: EVIDENCE FROM MICE AND HUMANS,PLOS MEDICINE,2015年03月03日,VOL:12, NR:3,PAGE(S):E1001796-1/37,http://dx.doi.org/10.1371/journal.pmed.1001796
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(Ia):
(式中、
は存在せず
はペプチド配列X-X-X-X-X-X-X-X-X-X10(配列番号2)を表し、6個~10個のアミノ酸を含み、ここで、
は存在しないか、又はセリンを指し、
は存在しないか、アルギニン又N-メチルアルギニンを指し、
はフェニルアラニンを指し、
はチロシン又はフェニルアラニンを指し、
はバリンを指し、
はバリンを指し、
はメチオニン、リシン又はノルロイシンを指し、
はトリプトファンを指し、
は存在しないか、又はリシンを指し、
10は存在しないか、又はグルタミンを指し、
はヘテロキラル配列D-Pro-L-Proであり、
は以下の配列:-X19-X14-X15-X20-X21-X16-X22-X23-X17-X18-(配列番号36)を含む6個~10個のアミノ酸のペプチド配列であり、ここで、
14は存在しないか、グリシン又はアラニンであり、
15はイソロイシン又はロイシンであり、
16はリシンであり、
17は存在しないか、アスパラギン又はリシンであり、
18は存在しないか、セリン又はグリシンであり
19は存在しないか、又はセリンであり、
20はセリン又はアラニンであり、
21はバリン又はアラニンであり、
22はバリンであり
23はバリンである)の単離環状ペプチド、又はその薬理学的に許容可能な塩であって、該単離環状ペプチドが偶数のアミノ酸を含み、前記単離環状ペプチドが14個~22個のアミノ酸を含む、単離環状ペプチド、又はその薬理学的に許容可能な塩。
【請求項2】
前記ペプチドがPKTD1(配列番号9)、PKTD3(配列番号10)、PKTD6(配列番号13)、PKTD7(配列番号14)、PKTD10(配列番号17)、PKTD10-1(配列番号18)、PKTD10-3(配列番号20)、PKTD10-4(配列番号21)、PKTD11(配列番号28)、PKTD12(配列番号29)、PKTD15(配列番号32)若しくはPKTD18(配列番号35)、PKD8(配列番号41)、PKD8FF(配列番号42)、PKD9(配列番号43)、PKD10(配列番号44)、PKD10FF(配列番号45)、PKD11(配列番号47)、PKD11RNMe(配列番号48)、PKD12(配列番号49)、PKD12RNMe(配列番号50)、PKTD10-RNMe(配列番号54)、PKTD10-X-RNMe(配列番号55)、PKTD10-3-X-RNMe(配列番号56)、PKTD11-RNMe(配列番号60)、PKTD11-X-RNMe(配列番号61)、及びその薬理学的に許容可能な塩からなる群において選択される、請求項1に記載の単離環状ペプチド。
【請求項3】
薬剤としての使用のための請求項1又は2に記載の単離環状ペプチド。
【請求項4】
CD47アゴニスト、特にPCDの欠陥と関連する疾患の治療におけるCD47アゴニストとしての使用のための請求項1又は2に記載の単離環状ペプチド。
【請求項5】
癌の治療における請求項に記載の使用のための請求項1又は2に記載の単離環状ペプチド。
【請求項6】
慢性炎症を含む免疫障害と関連する疾患の治療における請求項に記載の使用のための請求項1又は2に記載の単離環状ペプチド。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の一般式(Ia)の単離環状ペプチドと、薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TSP-1のC末端結合ドメインの環状ペプチド模倣体に関する。
【0002】
本発明は、CD47のアゴニストとしてのこれらの環状ペプチドの使用及びプログラム細胞死(PCD)を誘発するそれらの能力にも関する。
【0003】
本発明は、癌及び免疫障害(慢性炎症を含む)といったPCDの欠陥と関連する疾患の治療に使用され、少なくとも1つの本発明による環状ペプチドを含む医薬組成物にも関する。
【背景技術】
【0004】
1 - 疾患におけるPCDの役割
プログラム細胞死(PCD)は、構造の造形及び形態形成の推進、細胞数の調節、不要かつ潜在的に危険な細胞の排除といった、発生及び組織恒常性の調節において重要な役割を果たす
【0005】
このプロセスの調節異常(すなわち、PCDの過剰又は欠陥)は、発育障害及び免疫障害、神経変性、並びに癌を含む広範なヒト疾患と関連する。
【0006】
異常細胞がPCDを免れることができる機構を分子レベルで解明するために、ここ20年間で目覚ましい進歩が遂げられている。2つの経路、すなわち内因性経路及び外因性経路が正常細胞においてPCDを誘発し得る。どちらの経路も、多様なプログラム細胞死のタイプをもたらすタンパク質間相互作用(PPI)及び活性化のカスケードを伴う(図1及び図2を参照されたい)。抗細胞死タンパク質と細胞死促進タンパク質との相互作用の不均衡は細胞死恒常性の不全につながり、この不全により少なくとも癌及び免疫障害といったPCDの過剰又は欠陥を有する多くの疾患が生じるii
【0007】
2 - 癌及びPCDの欠陥
癌は、細胞分裂と細胞死との間の不均衡を特徴とする疾患であるiii
【0008】
癌細胞では、PCDの阻止は主に、抗細胞死タンパク質の過剰発現又は細胞死促進タンパク質の下方調節のいずれかをもたらす細胞遺伝学的異常によって引き起こされる。これまでに50000個を超える染色体異常(増加(gain)又は減少(loss))が報告されているiv。カスパーゼ依存性アポトーシス死経路に焦点が合わせられているが、非アポトーシス性PCDも腫瘍の発生及び進行に対する重要な障壁を形成することが知られている。自発的及び治療誘導性アポトーシスの制御要素としてのp53、c-Myc及びBcl-2のような主要癌関連タンパク質の同定につながる以前の画期的な発見と同様、腫瘍抑制因子の特性を有する多数のタンパク質及び腫瘍性タンパク質が、代替的な細胞死プログラムの主要調節因子として同定されている。非アポトーシス性PCDを調節する分子機構に関する新たなデータは、潜在的な治療結果を有するvi
【0009】
発癌は組織傷害に対する防御プロセスである炎症とも関連する(非特許文献1)。この自己防御戦略が開始すると、プロセスの効果的な収束(resolution)が大きく不必要な組織損傷を回避するために不可欠である。炎症を誘導する根本的事象が対処されず、恒常性が回復されない場合、炎症プロセスは慢性となり、血管新生、発癌及び例えば自己免疫疾患である多発性硬化症、クローン病、乾癬、潰瘍性大腸炎、関節炎及び喘息といった慢性炎症と関連する疾患につながるvii
【0010】
3 - 免疫障害、自己免疫疾患及びPCDの欠陥
自己免疫疾患の共通の特徴は、自己抗原に対する免疫寛容の変化及び自己抗体の生成である。免疫恒常性及び免疫寛容の維持は、アポトーシスに強く依存する。多数の証拠が、免疫細胞のアポトーシスの欠損が自己免疫疾患につながるという考えを支持している。Fasシグナル伝達経路に欠損を有するLpr及びgldマウスは、リンパ節症及び脾腫を発症し、ヒト全身性エリテマトーデス(SLE)に似た疾患を発症する多数の自己抗体を産生し、自己反応性T細胞及びB細胞の制御における外因性アポトーシス経路の重要な役割、またアポトーシスの変化が自己免疫疾患の病因に強く寄与し得るということが明らかに実証されるviii。ヒトでは、Fasシグナル伝達経路の欠陥が非悪性リンパ球増殖及び自己免疫を特徴とする自己免疫性リンパ増殖症候群(ALPS)につながり、悪性腫瘍の発生率が増大した。これらの患者の70%が生殖細胞ヘテロ接合FAS突然変異を保有し、残りが体細胞FAS突然変異又はFASリガンド、カスパーゼ10及びカスパーゼ8の突然変異を有する。大抵の場合、突然変異は、野生型タンパク質の機能も阻害するドミナントネガティブとして機能するix
【0011】
外因性経路の欠陥は免疫系において大きな役割を果たすようであるが、内因性経路も関与し、その変化が自己免疫疾患の病因に寄与し得ることが明らかになりつつある。一例として、Bim KOマウスはリンパ系細胞及び骨髄性細胞が蓄積し、自己免疫疾患を発症することが示されているxi。自己免疫疾患を有する患者におけるBH3 onlyタンパク質の突然変異は記載されていないが、Bimレベルの低下がALPSを有する患者において報告され、bcl2ファミリーの生存促進性メンバーの過剰発現がSLEにおいて報告されているxii
【0012】
これらの要因を考慮すると、PCDの欠陥及び望ましくない細胞増殖とより特異的に関連する疾患においてプログラム細胞死を誘発することが可能な非常に効率的な成分を同定することが極めて重要である。
【0013】
4 - 現行の技術水準
PCD調節に関与するタンパク質の結晶構造のX線解析(resolution)により、タンパク質間相互作用(PPI)を標的とし、PCDを回復させる多くの小分子が設計された。幾つかの重要な例は、p53-MDM2複合体を標的とするNutlinxiii、Navitoclaxxiv、BCl-2ファミリーの抗アポトーシスタンパク質を標的とするBH3模倣体、又はSMAC/XIAP相互作用の阻害因子xvである。p53-MDM2複合体の場合、MDM2と相互作用することが可能なp53 3D構造の多くのペプチド及びペプチド模倣体もPPIの攪乱物質(disrupters)として設計され、in vitroで大きな成果を挙げている。しかしながら、ペプチド及び模倣体は通常低い細胞透過性を示すため、かかるペプチドがin vivoで同様のp53-MDM2撹乱活性を示すか否かを見極めることに現在興味が持たれているxvi。注目すべきは、予後不良と関連する、よく見られる細胞遺伝学的変化であるTP53欠失の場合に、小分子及びペプチドアプローチがどちらも依然としてPCDの誘発に効果がないことであるxvii。何よりも、ここ数年のヒトタンパク質間インタラクトームネットワークの解読が、必然的にPCD回避を可能にし、疾患の進行を戻す代償機構の活性化を生じる、単一経路と相互作用するように設計された治療剤の限界を浮き彫りにしているxviii。仮にそうだとしても、膜透過性の問題に対応するために細胞外標的を扱うことによるペプチドアプローチがより妥当である。さらに、代償機構を克服するために、シグナル伝達経路の上流に位置し、PCDを不可逆的に誘発することが可能な標的を扱うことがより効率的であり得る。
【0014】
上述のように、PCDの欠陥及び望ましくない細胞増殖とより特異的に関連する疾患においてプログラム細胞死を誘発することが可能な非常に効率的な成分を同定することが極めて重要である。この目的は、本発明者らにより驚くべきことにTSP-1環状アゴニストペプチドが癌細胞のPCDを高効率で誘発することが実証されたことから、本発明によって達成される。
【0015】
5 - トロンボスポンジン及びTSP-1
TSP-1は、Lawler and alにより1978年に活性化血小板中で初めて単離され、糖タンパク質として説明された450kDのマトリックス細胞タンパク質である。1994年及び1996年には、GaoらがTSP-1をCD47の内在性リガンドとして説明しているxx、xxi。TSP-1は、5つの異なるメンバーから構成される多ドメインカルシウム結合糖タンパク質のファミリーに属する。
【0016】
TSP-1は、細胞間及び細胞-細胞外マトリックス相互作用を媒介する、異なる細胞膜受容体又は細胞外マトリックスに結合する幾つかのドメインを有する。TSP-1はN末端球状ドメイン、3つのジスルフィド連結鎖(タイプI(プロパージン様リピート)、タイプII(上皮成長因子様)及びタイプIII(カルシウム結合)リピート)及びC末端球状ドメインを含有する。N末端ドメインは低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質、ヘパリン及び幾つかのインテグリンと相互作用する。タイプIリピート又はトロンボスポンジン構造相同性リピート(TSR)はCD36、V型コラーゲン、フィブロネクチン及びへパラン硫酸プロテオグリカンを結合する。タイプIIIリピートは、TSP-1 411上のRGDモチーフを介してβ3インテグリンに結合するカルシウム結合ドメインである。最後に、TSP-1のC末端ドメインはCD47に結合する(Gao and Frazierを参照されたい)。
【0017】
TSP-1のC末端細胞結合ドメイン(CBD)から合成された重複ペプチドを用いて、Gao and FrazierはVVMモチーフを含有する2つの相同細胞結合配列を見出し、この部位がTSP-1/CD47結合に不可欠であることを見出したxxii。この発見により、ペプチド7N3(1102-FIRVVMYEGKK-1112)及び4N1(1016-RFYVVMWK-1024)中のものを含むVVMモチーフを有するTSP-1の配列に対応する短ペプチドの開発がもたらされた。4N1Kペプチド(K-RFYVVMWK-K)が後に、CD47結合に影響を与えることなく4N1の溶解性を改善するために開発された。
【0018】
6 - TSP1/CD47相互作用
CD47へのTSP-1の結合は細胞の移動及び接着、細胞増殖又はアポトーシスを含む幾つかの基本的な細胞機能に影響を与え、血管新生及び炎症の調節において役割を果たすxxiii
【0019】
これまで、TSP-1/CD47複合体はX線構造によって解析されていない。分子モデリング研究は、Floquet et al.によって達成された(Floquet et al.の図面に従って描かれた図3を参照されたい)xxiv。この研究では、4N1配列はTSP1の疎水性ポケットに隠され、CD47とのあらゆる相互作用が妨げられると説明される。しかしながら、4N1配列がCD47及びリン脂質二重層にごく接近する場合、疎水性クレフト(cleft)が開き、4N1認識が可能となる。
【0020】
CD47/TSP-1ライゲーションの生物学的影響は非常に膨大であり、細胞型、他の分子との会合、立体配座、細胞表面上での分布、会合様式及びこれらの項目が生じる特定の状況によって決まる。
【0021】
これらの役割は生物の恒常性の調節において重要であり、TSP1/CD47相互作用が広範な機能を果たす。これらの中でも、潜在的な治療利益の1つは細胞死を誘導する能力であり、本明細書では癌細胞により例証される。
【0022】
CD47媒介プログラム細胞死
過去数年に行われた精力的な研究により、幾つかのCD47モノクローナル抗体(mAb)及びTSP-1のC末端ドメインが種々の細胞型においてCD47媒介PCDを誘導し得ることが実証されている。重要なことには、SIRP-α可溶性Fc融合タンパク質はCD47依存性細胞死を誘導しないにも関わらずxxv、或る報告ではビーズの表面上に結合したSIRP-α及びγが2つの腫瘍細胞株においてCD47媒介PCDを誘導し得ることが述べられているxxvi。注目すべきことに、CD47がその細胞外IgVドメインを介してFasと会合し、Fas媒介アポトーシスの増大が生じることも見出されているxxvii
【0023】
CD47媒介PCDを説明する最初の研究は1999年に行われ、CD47会合が初代慢性リンパ球性白血病細胞xxviii、急性T細胞白血病由来細胞株(Jurkat)及び活性化T細胞xxixにおいて細胞死を誘導し得ることが見出された。しかしながら、このプロセスは、どちらのグループもPCD誘導をCD47の刺激によってではあるが、異なる誘導物質を用いて見出したことから非常に複雑であることが見出された。Mateoらが被覆B6H12 mAb、TSP-1及び4N1KペプチドをPCDの誘導に使用した一方で、Pettersenらは可溶性抗CD47 mAbのみを使用し、Ad22及び1F7(B6H12でも2D3でもない)mAbがJurkat細胞において細胞死を誘導することを見出した。さらに、どちらのグループも可溶性B6H12が細胞死を誘導することができないことを見出した。このデータによりCD47会合様式と細胞死誘導との間の複合調節の重要性が示された。これらの結果に続いて、他の細胞型におけるCD47媒介PCD誘導の評定が急速に行われた。これらの評定には、可溶性又は被覆形態で使用される種々の抗CD47 mAb、TSP1、TSP1 C末端由来ペプチド(4N1及び4N1K)及び組み換えタンパク質(T3C1)が含まれていた。
【0024】
癌細胞におけるCD47媒介PCD
CD47媒介細胞死誘導は急性リンパ芽球性白血病細胞(CCRF-CEM細胞株)xxx、乳房腫瘍細胞(MCF-7細胞株)xxxi、多発性骨髄腫細胞(KPMM2細胞株)xxxii、急性前骨髄球性白血病細胞(NB4及びATRA-難治性NB4-LR1細胞株)xxxiii、及び組織球性リンパ腫細胞(U937細胞株)xxxivといった多数の腫瘍細胞において観察された。さらに、急性T細胞白血病細胞(jurkat)xxxv、xxxvi、xxxvii、及び初代CLL細胞において行われた研究が強化されたxxxviii、xxxix、xl、xli
【0025】
CD47媒介PCDに関する殆どの情報は癌細胞、主としてJurkat及びCLL細胞によるものである。癌細胞におけるCD47媒介PCDの主な特徴は、1)迅速なプロセス;2)カスパーゼ非依存性;3)アポトーシス促進性タンパク質(シトクロムC、AIF、Smac/Diablo、Omi/Htra2、エンドヌクレアーゼG(EndoG))の放出を伴わないミトコンドリア膜脱分極;4)活性酸素種(ROS)産生;5)ホスファチジルセリン曝露;6)原形質膜透過化;7)DNA断片化及びクロマチン凝縮の非存在である。
【0026】
腫瘍細胞を排除するための標的としてのCD47
CD47は、多数のタイプの癌において過剰発現されることが示されている。さらに、CD47は免疫系回避、移動、接着、増殖及び細胞死において多数の役割を有するため、CD47を図4に示されるような多数の形態:食作用、抗腫瘍適応免疫応答の刺激、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、CD47依存性細胞機能の阻害及びCD47媒介PCD誘導における、癌療法の主要標的として利用することができる。
【0027】
7 - TSP-1 CBD模倣体、及びPCDを誘導し、PCDの欠陥と関連する疾患を治療するためのそれらの使用
特許文献1では、TSP-1のC末端ドメインを模倣する可溶性デカペプチドである4N1Kが、CD47とのライゲーションによりB慢性リンパ球性白血病(CLL)初代細胞においてカスパーゼ非依存性PCDを誘導することが実証されている。PCDを誘導するために固定化する必要がある抗CD47 mAbとは対照的に、カスパーゼ非依存性PCDを誘導するために可溶性4N1Kペプチドをプラスチック上にコーティングする必要がないことが更に実証された。陰性対照ペプチド4NGG(2個のアミノ酸で突然変異した4N1K)がPCDを誘導することができないことが見出され、4N1K PCD誘導の特異性が示された。さらに、4N1K及びその誘導体PKHB1によるCD47ライゲーションにより、健常Bリンパ球又は静止正常B細胞ではなく白血病B細胞がCLL患者から特異的に排除され、これがカスパーゼ依存性PCDよりも良好な死を誘導する手段であることが発見された(この形態の死は、17p13又はI 1q22-q23上の欠失:ATM/TP53不活性化を有する薬物不応性の個体に由来するCLL細胞であっても効果的である)。in vivoマウス研究から、白血病細胞でのPCDの誘導におけるこのペプチド戦略の特異性が完全に確認された。したがって、本発明は、癌の治療に使用されるアミノ酸配列:KRFYVVMWKを含む可溶性ペプチド又はその機能保存的変異体に関する。
【0028】
しかしながら、特許文献1により癌の治療に使用されるペプチド配列を特異的に同定することが可能となったにも関わらず、特許文献1に記載されるペプチドは、それらの効力が非常に遅く、PCDを誘発するために高いペプチド濃度(特許文献1に記載の最も強力なペプチドについて200μM前後)を必要とすることから、治療目的で使用することはできない。そのため、癌及び慢性炎症を含む免疫障害といったPCDの欠陥と関連する疾患に特異的に、CD47ライゲーション特性を高い親和性及び高いPCD誘発の効力で示す、より強力な化合物を同定することが依然として必要である。
【0029】
本発明は、高い親和性(ナノモーラー範囲内)及びPCD誘発の効力(マイクロM範囲内)を有するTSP-1 C末端結合ドメインの環状模倣体の設計によりこの最初の要求に応えるものである。驚くべきことに、本発明者らにより、これらの環状ペプチドが特許文献1に記載のペプチドよりも100倍~1000倍強力であることが観察された(図6及び図7を参照されたい)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【文献】国際公開第2013/182650号
【非特許文献】
【0031】
【文献】Zenaida Lopez-Dee, Kenneth Pidcock, and Linda S. Gutierrez in "Thrombospondin-1: Multiple Path to inflammation, Mediators of Inflammation, Volume 2011, Article ID 296069, 10 pages doi:l0.1155/2011/296069
【発明の概要】
【0032】
本発明者らは今回、β-シート番号7又はβ-シート番号7及び8又はβ-シート番号6及び7(β-シートのナンバリングはEMBO Journal (2004) 23, 1223-1233に従う)に関与する配列を含むTSP-1のC末端ドメインに由来する新たな環状ペプチドを調製した。
【0033】
驚くべきことに、これらの環状ペプチドは癌細胞株のアポトーシスを高効率で誘導することが可能である。
【0034】
CD47を標的とする既知の直鎖ペプチドとは対照的に、これらの環状ペプチドは高い結合親和性を有し(これまでに記載されている最良の直鎖ペプチドであるPKT16のマイクロモーラー範囲の親和性と比較してナノモーラー範囲のKdを有する;実施例の第3部を参照されたい)、より低濃度でアポトーシスの誘導に効率的である(最良の直鎖誘導体PKT16の100マイクロMと比較して1マイクロM;実施例の第2部を参照されたい)。
【0035】
このため、本発明は、TSP-1のC末端ドメインに由来する単離環状ペプチド又はその生物学的に活性な誘導体を提供する。本発明は、癌及び免疫障害といったPCDの欠陥と関連する疾患を治療するCD47のアゴニストとしての該環状ペプチドの使用にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1-2】PCDが複合ネットワークであり、高度に調節されたプロセスであることを示す、異なるタイプのPCDをもたらす密接に関連する2つの経路を示す図である。
図3A】TSP-1が、生物学的機能に関与する各ドメイン:ヘパリン結合ドメイン(HBD)、ヴォンヴィレブランドCドメイン(vWCD)、3つのタイプ1プロパージンリピート、3つのタイプ2EGF様リピート、7つのタイプ3カルシウム結合リピート及びC末端CBDを含む多ドメインタンパク質であることを示す図である。ドメインの一部は、細胞外マトリックスの構成要素又は膜受容体と相互作用する(矢印)。インテグリン(RGD)及びCD47(RFYVVMWK)へのTSP-1ライゲーションに関与する重要なアミノ酸配列を示す。
図3B】CD47及び4N1の相互作用を示す図である。TSP-1 C末端ドメインのオープン構造(MRMS=2Å)を、CD47受容体の細胞外部分の相同性モデルに対するタンパク質間ドッキング実験に用いた。2つの推定TSP-1:CD47相互作用領域(それぞれ(1)及び(2))が分子モデリングによって提案された(Floquet et al, 2008を参照されたい)xlii
図4】CD47が癌細胞を排除するために標的として使用されることを示す図である。モノクローナル抗体(mAb)を用いたCD47の治療標的化は、複数の機構を介して癌細胞の排除を誘導することができる。1)マクロファージによる腫瘍細胞の食作用取込み:遮断抗CD47 mAb、遮断抗SIRPα mAb又は組み換えSIRPαタンパク質(二価Fc融合タンパク質として示す)を用いてCD47-SIRPα相互作用を阻害することによる。2)抗CD47抗体は抗腫瘍適応免疫応答を刺激し、DCによる腫瘍細胞の食作用取込み,並びにCD4及びCD8 T細胞へのその後の抗原提示をもたらすことができる。3)NK細胞媒介ADCC及びCDC誘導並びに腫瘍細胞排除:抗CD47抗体は、抗体Fc依存性機構を介して腫瘍細胞を排除することができる。4)CD47の機能遮断は、腫瘍細胞におけるその作用の幾つかを遮断することによって腫瘍減少を促進することもできる。5)最後に、CD47刺激は、直接細胞死誘導を誘導することができる。xliiiの修正。
図5-6】MSTによって測定された結合曲線を示す図である。測定方法は、「熱拡散(thermophoresis)」と称される効果である温度勾配に沿った分子の有向運動に基づく。局所温度差ΔTは、ソレー係数S:chot/ccold=exp(-SΔT)によって定量化される分子濃度の局所変化(枯渇又は濃縮)をもたらす。Jurkat又はMec-1細胞膜調製物を、他の部分に記載されるNanotemper NT-647標識化キットを用いて標識するxliv。標識した調製物をPBSで溶出し、4℃で保管する。各ペプチドのストック溶液をDMSO(5mM)中で調製した後、PBSで希釈する。MSTによって評価したペプチドについては、NT.115標識膜の濃度を一定に維持し、リガンド(ペプチド)の濃度を変化させた。短時間のインキュベーション後にサンプルをMST premiumガラス毛細管に充填し、Monolith NT.115-picoを用いてMST分析を行った。図5:TSP-1のC末端結合ドメインに由来する直鎖ペプチドであるPKT16((D)Lys-(N-Me)Arg-Phe-Tyr-Val-Val-Nle-Trp-Lys-(D)Lys)について観察されたMST曲線。Kd=1600nM。図6A図6H:TSP-1のC末端結合ドメインのPKTD1、PKTD10、PKTD10-1、PKTD10-3、PKTD10-4、PKTD10-5、PKTD10-8(表I中の構造及び配列を参照されたい)の環状ペプチド類似体について観察されたMST曲線。Kd(それぞれ1.9nM及び49nM)。例えば、PKT16とPKTD1又はPKTD10とのKd比は、これらの環状類似体(すなわち、PKTD1又はPKTD10)がCD47ライゲーションにおいてはるかに効率的であるという事実を強調する。これまでに開発された直鎖ペプチド類似体のかかる親和性は達成されたことがない。
図7A-F】5つの細胞株(MCF-7、ヒト乳癌細胞;HCT-116、ヒト結腸癌細胞;BxPC3、ヒト膵癌細胞;A549、ヒト肺癌細胞)について細胞毒性アッセイ及び細胞数の直接計数により評価した、幾つかの本発明の環状ペプチド(PKTD1、PKTD7、PKTD10、PKTD11、PKTD16、PKD10及びPKD10-FF)の直鎖類似体(PKT16)と比較した腫瘍細胞の生存能力に対する効果の結果を示す図である。注目すべきは、直鎖類似体PKT16がこれらの癌細胞株に対して100マイクロMで有効ではなく、TSP-1のC末端結合ドメインのβストランド6及び7、又は7及び8を伴うヘアピンを模倣するように設計された環状類似体(例えば、特にPKTD1、PKTD7、PKTD9、PKTD10、PKTD10-X-NMe、PKTD11、PKTD11-NMe、PKTD18、PKD8及びPKD10等)がこれらの癌細胞株に対する細胞死の誘導において効率的であることである。重要なことには、4N1配列(ペプチドPKC1)の環化が細胞死の誘導において効力を有しない環状類似体をもたらすため、βストランド番号7(TSP-1の4N1結合エピトープ)の単純環化はペプチド有効性の改善に十分でない。
【発明を実施するための形態】
【0037】
単離環状ペプチド
本発明は、一般式(I):
【化1】
(式中、
は存在しない(nothing)か、又は配列YAGFVF(配列番号1)のTSP-1のβ-ストランド番号6に由来する6個~10個のアミノ酸を含むペプチド配列であり、
は存在しないか、又はヘテロキラル配列D-Pro-L-Pro(p-Pとも表記される;pはD-プロリンであり、PはL-プロリンである)、若しくは該ヘテロキラル配列を模倣するか若しくはβターンを模倣することが可能な2個のアミノ酸若しくはアミノ酸の類似体の任意の配列であり、該配列のアミノ酸又はアミノ酸の類似体の例はニペコチン酸、イソニペコチン酸、ピペリジンカルボン酸、シラプロリン、チオプロリン及びその任意の他の置換誘導体(フルオロ、メチル、ブロモ等)、シュードプロリン、置換プロリン、N-メチルアミノ酸、シクロプロピルアミノ酸(Karoyan et al. Target in heterocyclic system, 2004、及びKaroyan et al. ChemBioChem (2011), 12(7), 1039-1042、及びLarregola et al. Journal of Peptide Science (2011), 17(9), 632-643を参照されたい)、又はビアリールアミノ酸鋳型であるが、但し、Bが存在しない場合にZは存在せず、好ましい実施形態では、ZはD-Pro-L-Proであり、
はペプチド配列X-X-X-X-X-X-X-X-X-X10(配列番号2)を表し、(配列RFYVVMWK(配列番号3)の)TSP-1のβ-ストランド番号7に由来し、ここで、
は存在しないか、又はセリン、若しくはグリシン若しくはアラニン若しくはトレオニンといったアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸を指し、
は存在しないか、又はアルギニン、若しくはホモアルギニン、リシン、オルニチン、フェニルアラニン、ナフチルアラニン、N-メチルアルギニン若しくはホモフェニルアラニン、若しくはオルト位、メタ位若しくはパラ位の任意の他の環置換類似体といったアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸を指し、例えばアルギニンについては、誘導体はグアニド官能基及び/又は1つ若しくは2つ以上のアミン官能基を伴う任意の他の側鎖を含み、
はフェニルアラニン、又はナフチルアラニン、ホモフェニルアラニン、若しくはパラ-フルオロ-フェニルアラニン、パラ-アミノ-フェニルアラニン若しくはパラ-ニトロ-フェニルアラニンといったオルト位、メタ位若しくはパラ位の任意の他の環置換類似体を含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸;チロシン、又は芳香族側鎖を有する任意のアミノ酸を指し、
はチロシン、又は芳香族側鎖を有する任意のアミノ酸、フェニルアラニン、又はナフチルアラニン、ホモフェニルアラニン、若しくはパラ-フルオロ-フェニルアラニン、パラ-アミノ-フェニルアラニン若しくはパラ-ニトロ-フェニルアラニンといったオルト位、メタ位若しくはパラ位の任意の他の環置換類似体を含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸を指し、
はバリン、又はロイシン、イソロイシン、テルロイシン、メチオニンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸を指し、
はバリン、又はロイシン、イソロイシン、テルロイシン、メチオニンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸を指し、
はメチオニン若しくはリシン、又はバリン、メチオニン、ノルロイシン、ロイシン若しくはイソロイシン若しくはテルロイシンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸を指し、
はトリプトファン、チロシン、フェニルアラニン、ナフチル-アラニン、パラ-フルオロ-フェニルアラニン、パラ-アミノ-フェニルアラニン、パラ-ニトロ-フェニルアラニン、D-プロリノ-トリプトファン又はD-プロリノ-ホモトリプトファンを指し、
は存在しないか、又はリシン、若しくはアルギニン、ホモアルギニン、オルニチン、フェニルアラニン、ナフチルアラニン、N-メチルアルギニン若しくはホモフェニルアラニン、若しくはオルト位、メタ位若しくはパラ位の任意の他の環置換類似体、若しくはヒスチジンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸を指し、
10は存在しないか、又はグルタミン若しくはアラニン、若しくはアスパラギンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸を指し、
は存在しないか、又はヘテロキラル配列D-Pro-L-Pro(p-Pとも表記される)、若しくは該ヘテロキラル配列を模倣するか若しくはβターンを模倣することが可能な2個のアミノ酸若しくはアミノ酸の類似体の任意の配列であり、該配列のアミノ酸又はアミノ酸の類似体の例はニペコチン酸、イソニペコチン酸、ピペリジンカルボン酸、シラプロリン、チオプロリン及びその任意の他の置換誘導体(フルオロ、メチル、ブロモ等)、シュードプロリン、置換プロリン、N-メチルアミノ酸、シクロプロピルアミノ酸(Karoyan et al. Target in heterocyclic system, 2004、及びKaroyan. et al ChemBioChem (2011), 12(7), 1039-1042、及びLarregola et al. Journal of Peptide Science (2011), 17(9), 632-643)、又はビアリールアミノ酸鋳型であるが、但し、Bが存在しない場合にZは存在せず、好ましい実施形態では、ZはD-Pro-L-Proであり、
はB又はBを表し、
は存在しないか、又は(配列GLSVKVVNS(配列番号4)の)TSP-1のβ-ストランド番号8に由来する6個~10個のアミノ酸を含むペプチド配列であるが、
但し、BがTSP-1のβ-ストランド番号6に由来する6個~10個のアミノ酸残基を含むペプチド配列である場合にBは存在せず、BがB又はB(すなわち、ペプチド配列)である場合にBは存在しない)の単離環状ペプチド、又はその薬理学的に許容可能な塩若しくは生物学的に活性な誘導体であって、該単離環状ペプチドが8個~26個のアミノ酸、好ましくは14個~22個のアミノ酸を含み、他の実施形態によると、単離環状ペプチドが18個~22個のアミノ酸を含む、単離環状ペプチド、又はその薬理学的に許容可能な塩若しくは生物学的に活性な誘導体に関する。
【0038】
明示的に言及される場合を除き、全てのアミノ酸は、区別なく(indifferently)(D)配置又は(L)配置である。
【0039】
このため、本発明は式B-Z-B、B-B、B-Z-B、B-B、B-B(各々のBは同一又は異なる)、B-Z-B(各々のBは同一又は異なる)及びBの環状ペプチドを包含する。
【0040】
一実施形態では、Bは以下の配列:YAGFVFG(配列番号5)を含む。
【0041】
別の実施形態では、Bは以下の配列:-X11-Y-A-G-F-V-F-G-X12-X13-(配列番号6)を含み、ここで、
11は存在しないか、又はアスパラギン酸、若しくはグルタミン酸を含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸であり、
12は存在しないか、又はチロシン、若しくは芳香族側鎖を有する任意のアミノ酸であり、
13は存在しないか、又はセリン、若しくはグリシンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸である。
【0042】
一実施形態では、Bは以下の配列:-X19-X14-X15-X20-X21-X16-X22-X23-X17-X18-(配列番号36)を含み、好ましくは、Bは以下の配列-X19-X14-X15-S-V-X16-V-V-X17-X18-を含み、ここで、
14は存在しないか、又はグリシン若しくはアラニン、若しくはセリンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸であり、
15はイソロイシン若しくはロイシン若しくはアラニン、又はテルロイシン、バリン、メチオニンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸であり、
16はリシン若しくはアラニン、若しくはアルギニン、ホモアルギニン、リシン、オルニチン、フェニルアラニン、ナフチルアラニン、N-メチルアルギニン若しくはホモフェニルアラニン、若しくは任意の他の環置換類似体(オルト、メタ、パラ)、ヒスチジンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸、又はメチオニン、若しくはリン、ロイシン、イソロイシン、テルロイシンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸であり、
17は存在しないか、又はアスパラギン若しくはアラニン、若しくはグルタミン若しくはリシンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸、又はアルギニン、ホモアルギニン、リシン、オルニチン、フェニルアラニン、ナフチルアラニン、N-メチルアルギニン若しくはホモフェニルアラニン、若しくは任意の他の環置換類似体(オルト、メタ、パラ)、ヒスチジンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸であり、
18は存在しないか、セリン若しくはグリシン、又は同様の特性を有する任意のアミノ酸であり、
19は存在しないか、又はセリン又はアラニン又は同様の特性を有する任意のアミノ酸であり、
20はセリン若しくはアラニン、又はロイシン、イソロイシン、テルロイシンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸であり、
21はバリン若しくはアラニン、又はロイシン、イソロイシン、テルロイシンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸であり、
22はバリン若しくはアラニン、又はロイシン、イソロイシン、テルロイシンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸であり、
23はバリン若しくはアラニン、又はロイシン、イソロイシン、テルロイシンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸である。
【0043】
本発明の一般式(I)の単離環状ペプチドは、TSP-1のC末端ドメインのβ-シート番号7の少なくとも一部、β-シート番号7及び8の少なくとも一部、又はβ-シート番号6及び7の少なくとも一部を更に含むが、このドメインが本発明の環状ペプチドと同じ生物活性を有しないことから、TSP-1のC末端ドメインの完全配列とすることはできない(Kosfeld MD, Frazier WA (1993) Identification of a new cell adhesion motif in two homologous peptides from the COOH-terminal cell binding domain of human thrombospondin. J Biol Chem 268: 8806-8814に記載される)。
【0044】
具体的な実施形態によると、本発明は、一般式(Ia):
【化2】
(式中、
は存在しないか、又はヘテロキラル配列D-Pro-L-Pro(p-Pとも表記される;pはD-プロリンであり、PはL-プロリンである)、若しくは該ヘテロキラル配列を模倣するか若しくはβターンを模倣することが可能な2個のアミノ酸若しくはアミノ酸の類似体の任意の配列であり、該配列のアミノ酸又はアミノ酸の類似体の例はニペコチン酸、イソニペコチン酸、ピペリジンカルボン酸、シラプロリン、チオプロリン及びその任意の他の置換誘導体(フルオロ、メチル、ブロモ等)、シュードプロリン、置換プロリン、N-メチルアミノ酸、シクロプロピルアミノ酸(Karoyan et al. Target in heterocyclic system, 2004、及びKaroyan et al. ChemBioChem (2011), 12(7), 1039-1042、及びLarregola et al. Journal of Peptide Science (2011), 17(9), 632-643を参照されたい)、又はビアリールアミノ酸鋳型であり、好ましい実施形態では、ZはD-Pro-L-Proであり、
はペプチド配列X-X-X-X-X-X-X-X-X-X10(配列番号2)を表し、(配列RFYVVMWK(配列番号3)の)TSP-1のβ-ストランド番号7に由来し、6個~10個のアミノ酸を含み、ここで、
は存在しないか、又はセリン、若しくはグリシン若しくはアラニン若しくはトレオニンといったアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸を指し、
は存在しないか、又はアルギニン、若しくはホモアルギニン、リシン、オルニチン、フェニルアラニン、ナフチルアラニン、N-メチルアルギニン(RNMe)若しくはホモフェニルアラニン、若しくはオルト位、メタ位若しくはパラ位の任意の他の環置換類似体といったアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸を指し、例えばアルギニンについては、誘導体はグアニド官能基及び/又は1つ若しくは2つ以上のアミン官能基を伴う任意の他の側鎖を含み、
はフェニルアラニン、又はナフチルアラニン、ホモフェニルアラニン、若しくはパラ-フルオロ-フェニルアラニン、パラ-アミノ-フェニルアラニン若しくはパラ-ニトロ-フェニルアラニンといったオルト位、メタ位若しくはパラ位の任意の他の環置換類似体を含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸;チロシン、又は芳香族側鎖を有する任意のアミノ酸を指し、
はチロシン、又は芳香族側鎖を有する任意のアミノ酸、フェニルアラニン、又はナフチルアラニン、ホモフェニルアラニン、若しくはパラ-フルオロ-フェニルアラニン、パラ-アミノ-フェニルアラニン若しくはパラ-ニトロ-フェニルアラニンといったオルト位、メタ位若しくはパラ位の任意の他の環置換類似体を含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸を指し、
はバリン、又はロイシン、イソロイシン、テルロイシン、メチオニンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸を指し、
はバリン、又はロイシン、イソロイシン、テルロイシン、メチオニンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸を指し、
はメチオニン若しくはリシン、又はバリン、メチオニン、ノルロイシン、ロイシン若しくはイソロイシン若しくはテルロイシンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸を指し、
はトリプトファン、チロシン、フェニルアラニン、ナフチル-アラニン、パラ-フルオロ-フェニルアラニン、パラ-アミノ-フェニルアラニン、パラ-ニトロ-フェニルアラニン、D-プロリノ-トリプトファン又はD-プロリノ-ホモトリプトファンを指し、
は存在しないか、又はリシン、若しくはアルギニン、ホモアルギニン、オルニチン、フェニルアラニン、ナフチルアラニン、N-メチルアルギニン若しくはホモフェニルアラニン、若しくはオルト位、メタ位若しくはパラ位の任意の他の環置換類似体、若しくはヒスチジンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸を指し、
10は存在しないか、又はグルタミン、若しくはアスパラギンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸を指し、X10はアラニンを指していてもよく、
好ましくは、Xが存在しない場合にXは存在せず、及び/又はXが存在しない場合にX10は存在せず、
好ましくは、Bは少なくとも6アミノ酸-X-X-X-X-X-X-を含み、より好ましくは、Bは少なくともペプチドフラグメント-F-Y-V-V-M-W-(配列番号37)を含み、
は存在しないか、又はヘテロキラル配列D-Pro-L-Pro(p-Pとも表記される;pはD-プロリンであり、PはL-プロリンである)、若しくは該ヘテロキラル配列を模倣するか若しくはβターンを模倣することが可能な2個のアミノ酸若しくはアミノ酸の類似体の任意の配列であり、該配列のアミノ酸又はアミノ酸の類似体の例はニペコチン酸、イソニペコチン酸、ピペリジンカルボン酸、シラプロリン、チオプロリン及びその任意の他の置換誘導体(フルオロ、メチル、ブロモ等)、シュードプロリン、置換プロリン、N-メチルアミノ酸、シクロプロピルアミノ酸(Karoyan et al. Target in heterocyclic system, 2004、及びKaroyan et al. ChemBioChem (2011), 12(7), 1039-1042、及びLarregola et al. Journal of Peptide Science (2011), 17(9), 632-643を参照されたい)、又はビアリールアミノ酸鋳型であり、好ましい実施形態では、ZはD-Pro-L-Proであり、
はB又はBを表し、
は(配列GLSVKVVNS(配列番号4)の)TSP-1のβ-ストランド番号8に由来する6個~10個のアミノ酸を含むペプチド配列であり、Bは以下の配列:-X19-X14-X15-X20-X21-X16-X22-X23-X17-X18-(配列番号36)を含み、好ましくは、Bは以下の配列:-X19-X14-X15-S-V-X16-V-V-X17-X18-を含み、ここで、
14は存在しないか、又はグリシン若しくはアラニン、若しくはセリンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸であり、
15はイソロイシン若しくはロイシン若しくはアラニン、又はテルロイシン、バリン、メチオニンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸であり、
16はリシン若しくはアラニン、若しくはアルギニン、ホモアルギニン、ホモリシン、オルニチン、フェニルアラニン、ナフチルアラニン、N-メチルアルギニン(RNMe)若しくはホモフェニルアラニン、又は任意の他の環置換類似体(オルト、メタ、パラ)、ヒスチジンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸、又はメチオニン、若しくはバリン、ロイシン、イソロイシン、テルロイシンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸であり、
17は存在しないか、アスパラギン若しくはアラニン、若しくはグルタミン若しくはリシンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸、又はアルギニン、ホモアルギニン、ホモリシン、オルニチン、フェニルアラニン、ナフチルアラニン、N-メチルアルギニン(RNMe)若しくはホモフェニルアラニン、若しくは任意の他の環置換類似体(オルト、メタ、パラ)、ヒスチジンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸であり、
18は存在しないか、セリン若しくはグリシン、又は同様の特性を有する任意のアミノ酸であり、
19は存在しないか、セリン若しくはアラニン、又は同様の特性を有する任意のアミノ酸であり、
20はセリン若しくはアラニン、又はロイシン、イソロイシン、テルロイシンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸であり、
21はバリン若しくはアラニン、又はロイシン、イソロイシン、テルロイシンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸であり、
22はバリン若しくはアラニン、又はロイシン、イソロイシン、テルロイシンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸であり、
23はバリン若しくはアラニン、又はロイシン、イソロイシン、テルロイシンを含むアミノ酸と同様の特性を有する任意のアミノ酸であり、
好ましくは、X14が存在しない場合にX19は存在せず、及び/又はX17が存在しない場合にX18は存在せず、
好ましくは、Bは少なくとも6アミノ酸-X15-S-V-X16-V-V-を含み、より好ましくは、Bは少なくともペプチドフラグメント-L-S-V-K-V-V(配列番号38)を含む)の単離環状ペプチド、又はその薬理学的に許容可能な塩若しくは生物学的に活性な誘導体であって、該単離環状ペプチドが偶数のアミノ酸を含み(すなわち、B及びBが同数のアミノ酸を有し、どちらも6、7、8、9又は10アミノ酸のフラグメントからなる)、該単離環状ペプチドが8個~26個のアミノ酸、好ましくは12個~22個のアミノ酸を含み、より好ましくは、本発明の単離環状ペプチドが12、14、16、18、20又は22アミノ酸からなる、単離環状ペプチド、又はその薬理学的に許容可能な塩若しくは生物学的に活性な誘導体に関する。
【0045】
このため、本発明は式B-B、Z-B-B、B-Z-B、B-B(各々のBは同一又は異なる)及びB-Z-B(各々のBは同一又は異なる)の環状ペプチドを包含する。
【0046】
好ましい実施形態では、B及びBは、下記に示すようにBのXがBのX16に面し、BのXがBのX15に面するように配置される:
【化3】
【0047】
特定の実施形態によると、Z及びZはどちらも存在しなくてもよく、Zが2アミノ酸からなる場合にZは存在せず、Zが2アミノ酸からなる場合にZは存在しない。
【0048】
遊離塩基又は薬理学的に許容可能な塩としての本発明の環状ペプチドの溶液を調製することができる。
【0049】
本発明によるそのペプチドは、中性形態又は塩形態の組成物に配合することができる。薬学的に許容可能な塩としては、酸付加塩(ペプチドの遊離アミノ基と形成される)、及び例えば塩酸若しくはリン酸といった無機酸、又は酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸といた有機酸と形成されるものが挙げられる。遊離カルボキシル基と形成される塩は、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム又は水酸化第二鉄といった無機塩基、及びイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカイン等のような有機塩基に由来していてもよい。
【0050】
本発明による単離環状ペプチドの例は、表Iに記載される通りである。
【0051】
【表1】
【0052】
本発明の環状ペプチドの合成
本発明の環状ペプチドは、実験の部に記載のように調製される。
【0053】
簡潔に述べると、本発明の環状ペプチドは、直鎖ペプチドをもたらし、これを次いで環化する混合固相/溶液相手順を用いて合成される。環化としては、S-S架橋、チオエーテル架橋、C-C結合、C-N、エステル結合、炭素-ヘテロ原子結合、O-O、N-N、スキャフォールドを用いた環化等が挙げられる。
【0054】
本発明の環状ペプチドの生物学的に活性な誘導体
本明細書で使用される場合、「生物学的に活性な誘導体」という用語は、それが指すペプチドの機能変異体を含む。より具体的には、本発明において、誘導体は「一般式(I)の環状ペプチドの生物学的に活性な誘導体」を指し、親ペプチドの生物活性及び特異性を保持する変異体である。このため、本発明においては、上記「生物学的に活性な誘導体」はCD47のアゴニストであり、PCDを誘発し、癌及び免疫障害といったPCDの欠陥と関連する疾患を治療することが可能である。
【0055】
好ましくは、所与の一般式(I)の環状ペプチドの或る生物学的に活性な誘導体のPCDを誘発する能力及び抗増殖効果は、従来の増殖法によりin vitroで評定される該所与の一般式(I)の環状ペプチドの、特に細胞増殖を阻害する抗増殖効果の少なくとも約70%、好ましくは80%~90%、より好ましくは90%~99%、更により好ましくは100%である必要がある。
【0056】
また、生物学的に活性な誘導体は、従来の細胞実験によりin vitroで評定される、細胞増殖に対して一般式(I)の環状ペプチドと同じ特異性を有するのが好ましい。
【0057】
上記生物学的に活性な誘導体はペプチドの対立遺伝子変異体、又はペプチドのペプチド模倣変異体のいずれかであり得る。
【0058】
「ペプチドの対立遺伝子変異体」は、1つ以上のアミノ酸が他のアミノ酸に置き換えられている又は抑制されていることを除いて、或る一般式(I)の環状ペプチドと同じアミノ酸配列を有し、最終ペプチドは一般式(I)の親環状ペプチドの生物活性及び特異性を保持する。好ましくは、かかる対立遺伝子変異体は、一般式(I)の親環状ペプチドと比較して少なくとも50%、好ましくは70%、好ましくは80%、より好ましくは90%、更により好ましくは95%の同一性を有する。
【0059】
本明細書で使用される場合、2つのアミノ酸配列間の「同一性のパーセンテージ」は、最良アラインメント(最適アラインメント)後に得られる比較対象の2つの配列間で同一のアミノ酸残基のパーセンテージを意味し、このパーセンテージは純粋に統計的なものであり、2つの配列間の差はそれらの長さ全体にわたって無作為に分布している。2つのアミノ酸配列間の配列比較は、例えばウェブサイトhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/gorf/bl2.htmlで利用可能なBLASTプログラムを用いて行うことができ、使用されるパラメーターはデフォルトで与えられるものである(特に、パラメーター「オープンギャップペナルティ(open gap penalty)」:5及び「伸長ギャップペナルティ(extension gap penalty)」:2について、選択されるマトリックスは、例えばプログラムにより提案される「BLOSUM 62」マトリックスであり、比較対象の2つの配列間のパーセンテージ同一性はプログラムにより直接算出される)。
【0060】
保存的置換の例としては、イソロイシン、バリン、ロイシン又はメチオニンといった或る非極性(疎水性)残基の別の非極性(疎水性)残基への置換、例えばアルギニンとリシンとの間、グルタミンとアスパラギンとの間、グリシンとセリンとの間の或る極性(親水性)残基の別の極性(親水性)残基への置換、リシン、アルギニン又はヒスチジンといった或る塩基性残基の別の塩基性残基への置換、又はアスパラギン酸又はグルタミン酸といった或る酸性残基の別の酸性残基への置換が挙げられる。
【0061】
一般式(I)の環状ペプチドの生物学的に活性な誘導体は、好ましくはその生物活性である、少なくとも1つ以上の対象の特性を含む親ペプチドの幾つかの特性を模倣する有機分子であるペプチド模倣変異体であってもよい。
【0062】
好ましいペプチド模倣体は、好ましくは非天然アミノ酸、Lアミノ酸の代わりのDアミノ酸、立体配座的拘束(conformational restraints)、等配電子置換(isosteric replacement)又は他の修飾を用いた本発明による環状ペプチドの構造修飾によって得られる。
【0063】
他の好ましい修飾としては、限定されるものではないが、1つ以上のアミド結合が非アミド結合に置き換えられるもの、及び/又は1つ以上のアミノ酸側鎖が異なる化学部分に置き換えられるもの、又は1つ以上の側鎖が保護基によって保護されるもの、及び/又は剛性及び/又は結合親和性を増大するために二重結合及び/又は環化及び/又は立体特異性をアミノ鎖に導入するものが挙げられる。
【0064】
更に他の好ましい修飾としては、一般式(I)の親環状ペプチドと比較した酵素分解に対する耐性の強化、バイオアベイラビリティ、より一般には薬物動態特性の改善を意図したものが挙げられる。
【0065】
かかるペプチド模倣体の例としては、遊離アミノ基がアミン塩酸塩、p-トルエンスルホニル基、カルボベンゾキシ基、t-ブチルオキシカルボニル基、クロロアセチル基又はホルミル基を形成するように誘導体化された分子が挙げられる。遊離カルボキシル基は塩、メチルエステル及びエチルエステル、又は他のタイプのエステル若しくはヒドラジドを形成するように誘導体化することができる。遊離ヒドロキシル基は、O-アシル又はO-アルキル誘導体を形成するように誘導体化することができる。ヒスチジンのイミダゾール窒素は、N-im-ベンジルヒスチジンを形成するように誘導体化することができる。化学誘導体には、20個の標準アミノ酸の1つ以上の天然に存在するアミノ酸誘導体を含有するペプチドも含まれる。例えば、プロリンを4-ヒドロキシプロリンで置換することができ、リシンを5-ヒドロキシリシンで置換することができ、ヒスチジンを3-メチルヒスチジンで置換することができ、セリンをホモセリンで置換することができ、リシンをオルニチンで置換することができる。「保存的置換」という用語には、ペプチド又はタンパク質の二次構造を制御及び安定化することを目的とした非天然アミノ酸の使用も含まれる。これらの非天然アミノ酸は、本明細書で下記に説明するようなプロリノアミノ酸、β-アミノ酸、N-メチルアミノ酸、シクロプロピルアミノ酸、α,α-置換アミノ酸といった化学修飾アミノ酸である。これらの非天然アミノ酸はフッ素化、塩素化、臭素化又はヨウ素化された修飾アミノ酸も含み得る。
【0066】
修飾の他の例としては、例えば脂質又は炭水化物とのコンジュゲーションが挙げられる。
【0067】
これらの変更の全てが当該技術分野で既知である。このため、一般式(I)の環状ペプチドのペプチド配列を考慮して、当業者は、かかるペプチドと同様の又はそれより優れた生物学的特徴を有するペプチド模倣体を設計及び作製することが可能である。
【0068】
一般式(I)の環状ペプチドの好ましいペプチド模倣変異体は、少なくとも該一般式(I)の環状ペプチドの生物活性及び特異性を保持する。
【0069】
一般式(I)の環状ペプチドの生物学的に活性な誘導体は、当該技術分野で認識されている技法を用いて好都合に合成することができる。
【0070】
本発明の環状ペプチド及び/又はその生物学的に活性な誘導体の治療的使用
本発明は、薬剤としてのその使用のための一般式(I)の単離環状ペプチド又はその生物学的に活性な誘導体を提供する。
【0071】
本発明は、プログラム細胞死(PCD)を誘発するアゴニスト剤、CD47を活性化する作用物質及びCD47のアゴニスト剤として使用される一般式(I)の単離環状ペプチド又はその生物学的に活性な誘導体も提供する。より具体的には、一般式(I)の単離環状ペプチド又はその生物学的に活性な誘導体は、TSP1とCD47との相互作用が関与する疾患の治療、特にPCDの欠陥と関連する疾患の治療に有用である。アポトーシスが関与する疾患の例は、Favoloro et al (Role of apoptosis in disease, AGING, May 2012, vol.4, NO.5, pp.330-349)に記載されており、疾患における細胞死の重要性は、RA Knight and G Melino (Cell death in disease: from 2010 onwards, Cell Death and Disease (2011) 2, e202; doi:10.1038/cddis.2011.89)にも記載されている。発癌は組織傷害に対する防御プロセスである炎症とも関連し、炎症プロセスの変調におけるTSP-1の役割の例及びその収束は、非特許文献1に与えられる。この自己防御戦略が開始すると、プロセスの効果的な収束が大きく不必要な組織損傷を回避するために不可欠である。炎症を誘導する根本的事象が対処されず、恒常性が回復されない場合、炎症プロセスは慢性となり、血管新生、発癌及び例えば多発性硬化症、クローン病、乾癬、潰瘍性大腸炎、関節炎及び喘息といった慢性炎症(非特許文献1を参照されたい)を含む免疫障害と関連する疾患(Favoloro et al.を参照されたい)につながる。
【0072】
特定の実施形態では、一般式(I)の単離環状ペプチド又はその生物学的に活性な誘導体は副腎皮質癌、肛門癌、胆管癌、多発性骨髄腫、膀胱癌、骨癌、脳及び中枢神経系の癌、乳癌、キャッスルマン病、子宮頸癌、大腸癌、子宮内膜癌、食道癌、胆嚢癌、消化管カルチノイド腫瘍、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、カポジ肉腫、腎癌、喉頭及び下咽頭の癌、白血病、肝癌、肺癌、中皮腫、形質細胞腫、鼻腔及び副鼻腔の癌、鼻咽腔癌、神経芽細胞腫、口腔及び口腔咽頭の癌、卵巣癌、膵癌、陰茎癌、下垂体癌、前立腺癌、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺癌、皮膚癌、黒色腫、胃癌、精巣癌、胸腺癌、甲状腺癌、膣癌、外陰癌及び子宮癌からなる群から選択される癌の治療に有用であり得る。
【0073】
別の特定の実施形態では、一般式(I)の単離環状ペプチド又はその生物学的に活性な誘導体は多発性硬化症、クローン病、乾癬、潰瘍性大腸炎、関節炎及び喘息からなる群から選択される免疫疾患を含む慢性炎症と関連する疾患の治療に有用であり得る。
【0074】
別の実施形態では、本発明は、少なくとも一般式(I)の単離環状ペプチド又はその生物学的に活性な誘導体を含む医薬組成物を、それを必要とする被験体に有効量投与することによって癌及び慢性炎症と関連する疾患を治療処置する方法に関する。
【0075】
本発明の環状ペプチド及び/又はその生物学的に活性な誘導体を含む医薬組成物
本発明は、一般式(I)の単離環状ペプチド又はその生物学的に活性な誘導体と、薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物にも関する。
【0076】
本発明の特定の実施形態では、本発明の医薬組成物に組み込まれる一般式(I)の単離環状ペプチドは、PKTD1(配列番号9)、PKTD3(配列番号10)、PKTD4(配列番号11)、PKTD5(配列番号12)、PKTD6(配列番号13)、PKTD7(配列番号14)、PKTD8(配列番号15)、PKTD9(配列番号16)、PKTD10(配列番号17)、PKTD10-1(配列番号18)、PKTD10-2(配列番号19)、PKTD10-3(配列番号20)、PKTD10-4(配列番号21)、PKTD10-5(配列番号22)、PKTD10-6(配列番号23)、PKTD10-7(配列番号24)、PKTD10-8(配列番号25)、PKTD10-9(配列番号26)、PKTD11(配列番号28)、PKTD12(配列番号29)、PKTD14(配列番号31)、PKTD15(配列番号32)、PKTD16(配列番号33)、PKTD17(配列番号34)及びPKTD18(配列番号35)、PKPH12(配列番号39)、PKPH12P(配列番号40)、PKD8(配列番号41)、PKD8FF(配列番号42)、PKD9(配列番号43)、PKD10(配列番号44)、PKD10FF(配列番号45)、PKTDi4(配列番号46)、PKD11(配列番号47)、PKD11RNMe(配列番号48)、PKD12(配列番号49)、PKD12RNMe(配列番号50)、PKTDi3(配列番号51)、PKTDi5(配列番号52)、PKTDi2(配列番号53)、PKTD10-RNMe(配列番号54)、PKTD10-X-RNMe(配列番号55)、PKTD10-3-X-RNMe(配列番号56)、PKTDi1(配列番号57)、PKTD11Q(配列番号58)、PKTD11S(配列番号59)、PKTD11-RNMe(配列番号60)、PKTD11-X-RNMe(配列番号61)、又はその薬理学的に許容可能な塩若しくはその生物学的に活性な誘導体からなる群において選択される。
【0077】
本発明の目的上、好適な薬学的に許容可能な担体としては、水、塩溶液(例えば、NaCl)、アルコール、アラビアゴム、植物油、ベンジルアルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、ラクトース、アミロース又はデンプンといった炭水化物、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、粘性パラフィン、香油、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース及びポリビニルピロリドン、限定されるものではないが、リン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロール-脂肪酸エステル等のような脂質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0078】
本発明の医薬組成物は滅菌し、必要に応じて、活性化合物と有害に反応しない助剤、例えば潤滑剤、保存料、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を与える塩、緩衝剤、着色物質、香味物質及び/又は芳香物質等と混合することができる。本発明の医薬組成物は、必要に応じて少量の湿潤剤若しくは乳化剤、又はpH緩衝剤を含有していてもよい。
【0079】
本発明の医薬組成物は溶液、懸濁液、エマルション、滅菌凍結乾燥配合物を含む錠剤、丸薬、カプセル、持続放出配合物又は粉末とすることができる。経口配合物は医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム等のような標準担体を含み得る。幾つかの適切な精密配合物が、例えばRemington, The Science and Practice of Pharmacy, 19th edition, 1995, Mack Publishing Companyに記載されている。
【0080】
本発明の医薬組成物は、個体への静脈内投与に適した組成物として日常手順に従って配合することができる。通例、静脈内投与用の組成物は、滅菌等張水性緩衝液中の溶液又は注射前に再構成される滅菌凍結乾燥配合物であり、かかる注射は静脈内、筋肉内、皮下、髄腔内とすることができ、かかる医薬組成物は、鼻送達及び/又は肺送達により吸入してもよい。好ましい実施形態では、本発明の医薬組成物は注射、例えば腫瘍内注射による投与に特化した液体組成物である。該腫瘍内注射は、例えば定位脳手術を用いることによって達成することができる。この投与は、腫瘍を除去することを意図した外科手術の前又は後に行うことができる。第1の場合では、組成物は腫瘍の成長を阻害し、腫瘍細胞の播種及び被験体に対する劇的な症状の発生を回避することを可能とし、第2の場合では、外科手術中に除去されなかった全ての腫瘍細胞を破壊するために組成物を使用することができる。
【0081】
一般式(I)の単離環状ペプチドの効果的な用量は、例えば選ばれる投与方法、治療対象の個体の体重、年齢、性別及び感受性といった多数のパラメーターに応じて(in function of)変化する。その結果として、最適な用量が専門医により適切なパラメーターに応じて個別に決定される必要がある。本明細書で以下に提示する初回動物研究からヒトにおける予想活性用量を予測するために、Rocchetti et al (2007)に記載されるfc及びC値を用いることもできる。
【0082】
以下の実施例では、一般式(I)の環状ペプチドの高い特異性及び治療効率を説明する。しかしながら、実施例は、特に本発明のアミノ酸配列の性質及びそれを使用する実験条件に関して限定的なものではない。
【実施例
【0083】
1. 本発明の環状ペプチドの合成及び特性化
一般的方法:
全ての市販の化学物質及び溶媒は試薬グレードであり、他に規定のない限り更に精製することなく使用した。水性媒体中での反応を除く全ての反応を、防湿のための標準技法を用いて行った。全ての反応を、炉乾ガラス製品内においてアルゴン又は窒素下で無水溶媒及び標準シリンジ法を用いて行った。保護アミノ酸誘導体、HATU、HBTU、HFIP、シュードプロリンジペプチド及び2-CTC樹脂は、Iris Biotech(マルクトレドヴィッツ、ドイツ)から購入した。DIPEA、NMP、ピペリジン溶液、DMF、IPA、TFA、PyBOPはSigma-Aldrichから入手した。プレロード2-CTC樹脂、Dmb-アミノ酸、PyOxim及びOxyma Pureは、Merck Novabiochemからのものとした。
【0084】
固相ペプチド合成を、ポリエチレン多孔性ディスクを底部に装着し、適切なピストンで閉じたポリプロピレンTorviqシリンジ内で行った。溶媒及び可溶性試薬を往復運動により除去した。Fmoc基の除去を、ピペリジン/DMF(20%、v/v)(1×1分、1×10分)を用いて行った。脱保護工程、カップリング工程及び最終脱保護工程の間の洗浄はNMP(3×1分)、IPA(3×1分)及びNMP(3×1分)を用いて行った。ペプチド合成変換及び洗浄を20℃で行った。支持カップリング反応を、古典的カイザーテスト(Sigma-Aldrichからの直接調製された溶液キット)によってモニタリングした。化合物の分子量を、ChemBioDraw(商標) Ultra 12を用いて算出した。全ての最終生成物が、他に指示のない限り95%を超える純度であった(分析用逆相LCMSによって決定される)。分析データを表IIに与える。
【0085】
以下の5つの方法をLC-MS分析のために行った:
方法A:分析用HPLCを、X-Select CSH C18 XPカラム(2.5μm 30×4.6mm id)で、水中の0.1%ギ酸(溶媒A)及びアセトニトリル中の0.1%ギ酸(溶媒B)により、以下の溶出勾配:0分~3.20分:5%→100%のB、3.20分~4分100%のBを1.8ml/分の流量、40℃で用いて溶出させて行った。質量スペクトル(MS)を、WatersのZQ質量分析計でエレクトロスプレー陽イオン化(MH分子イオンをもたらすES+)又はエレクトロスプレー陰イオン化((M-H)分子イオンをもたらすES-)モードを用いて記録した。コーン電圧は20Vとした。
方法B:分析用HPLCを、X-Select CSH C18 XPカラム(2.5μm 30×4.6mm id)で、水中の0.1%ギ酸(溶媒A)及びアセトニトリル中の0.1%ギ酸(溶媒B)により、以下の溶出勾配:0分~10分:40%→100%のB、10分~11分100%のBを1.8ml/分の流量、40℃で用いて溶出させて行った。質量スペクトル(MS)を、WatersのZQ質量分析計でエレクトロスプレー陽イオン化(MH分子イオンをもたらすES+)又はエレクトロスプレー陰イオン化((M-H)分子イオンをもたらすES-)モードを用いて記録した。コーン電圧は20Vとした。
方法C:分析用HPLCを、X-Select CSH C18 XPカラム(2.5μm 30×4.6mm id)で、水中の0.1%ギ酸(溶媒A)及びアセトニトリル中の0.1%ギ酸(溶媒B)により、以下の溶出勾配:0分~3.20分:0%→50%のB、3.20分~4分100%のBを1.8ml/分の流量、40℃で用いて溶出させて行った。質量スペクトル(MS)を、WatersのZQ質量分析計でエレクトロスプレー陽イオン化(MH分子イオンをもたらすES+)又はエレクトロスプレー陰イオン化((M-H)分子イオンをもたらすES-)モードを用いて記録した。コーン電圧は20Vとした。
方法D:分析用HPLCを、X-Select CSH C18 XPカラム(2.5μm 30×4.6mm id)で、水中の0.1%ギ酸(溶媒A)及びアセトニトリル中の0.1%ギ酸(溶媒B)により、以下の溶出勾配:0分~6分:0%→50%のB、6分~7分100%のBを1.8ml/分の流量、40℃で用いて溶出させて行った。質量スペクトル(MS)を、WatersのZQ質量分析計でエレクトロスプレー陽イオン化(MH分子イオンをもたらすES+)又はエレクトロスプレー陰イオン化((M-H)分子イオンをもたらすES-)モードを用いて記録した。コーン電圧は20Vとした。
方法E:分析用HPLCを、X-Select CSH C18 XPカラム(2.5μm 30×4.6mm id)で、水中の0.1%ギ酸(溶媒A)及びアセトニトリル中の0.1%ギ酸(溶媒B)により、以下の溶出勾配:0分~3分:5%→100%のB、3分~4分100%のBを1.8ml/分の流量、40℃で用いて溶出させて行った。高分解能質量スペクトル(MS)を、WatersのLCT質量分析計でエレクトロスプレー陽イオン化(MH分子イオンをもたらすES+ve)又はエレクトロスプレー陰イオン化((M-H)分子イオンをもたらすES-ve)モードを用いて記録した。
【0086】
精製をBreezeソフトウェアに接続したWatersの半分取HPLCシステム又はChromeleonソフトウェアに接続したDionexの半分取HPLCシステムのいずれかで、AITによるC18半分取カラムを用い、溶離液Aとして0.1%TFAを含有するHO及び溶離液Bとして0.1%TFAを含有するCHCNを5mL/分の流量で用いて逆相HPLCによって行った。UV検出を220nm及び280nmで行った。精製勾配は、関心領域において1分当たりおよそ1%の溶液Bの傾斜が得られるように選んだ。
【0087】
環状ペプチド合成:
環状ペプチドは混合固相/溶液相手順を用いて合成した。典型的な支持合成は、先に記載されるように報告される(Peptidomimetic Antibiotics Target Outer-Membrane Biogenesis in Pseudomonas aeruginosa, Nityakalyani Srinivas et al. published 19 February 2010, Science 327, 1010 (2010)を参照されたい)。2-クロロトリチルクロリド樹脂を予め無水CHCl中で2時間膨潤させた。Fmoc-Aa-OH(0.32mmol)をCHCl(4mL)中のジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、4当量)の存在下で2-CTC樹脂(400mg、充填=1.6mmol/g)にカップリングした。樹脂上の未反応の部位をCHCl/MeOH/DIPEA(7:2:1)の混合物、続いてMeOHで洗浄することによってキャッピングした。N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中の20%ピペリジンを用いてFmoc基を除去した後、鎖伸長を標準Fmoc保護アミノ酸(Bachem、スイス)により、Fmoc脱保護のために20%ピペリジン/DMF、活性化のために2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート/1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HBTU/HOBt)、塩基としてDIPEA及び溶媒としてN-メチル-2-ピロリジノン(NMP)を用いて行った。直鎖ペプチド鎖の集合が完了した後、付加的なMeOH洗浄を、樹脂を収縮させる最終洗浄工程(1×1分、1×15分)のために行った。
【0088】
直鎖ペプチドをHFIP/CHClカクテル(1:4、v/v)で各15分間、2回処理することによって樹脂から切断した。反応混合物を濾過し、樹脂をCHCl及びMeOHで順次すすいだ。濾液をプールし、溶媒を続いて減圧下で蒸発させた。最後に、粗直鎖ペプチドを、乾燥氷冷EtOを用いて3回沈殿させ、遠心分離(3×5分、7800rpm)後に回収し、乾燥させた(窒素流下)。後者の系が、切断工程中のカルボン酸の使用が不要となるために、溶液中で環化される完全に保護されたフラグメントの切断に特に好適である。
【0089】
環化のために、得られる直鎖ペプチド(1当量)をDMF(1mg/mL濃度)に溶解し、PyBOP(2当量)及びHOBt(2当量)を溶液に添加した。DIPEA(1%(v/v))を添加することによってpHを8に調整し、混合物をLC-MS分析により反応の完了が示されるまで(2時間~20時間)撹拌した。溶媒を減圧下で除去した。過剰なカップリング剤を除去するために、粗ペプチドをCHCl又はMe-THF(50mL)に再溶解し、有機層を飽和NaHCO(2×20mL)及びブライン(2×20mL)で抽出し、NaSOで乾燥させた後、真空下で蒸発させた。蒸発後にTFA/HO/TIS最終脱保護カクテル(95/2.5/2.5、20mL)を円滑に添加した。得られる混合物を3時間撹拌した後、乾燥氷冷EtO(3×30mL)を用いて3回沈殿させ、遠心分離(3×5分、7800rpm)後に回収し、乾燥させた(窒素流下)。
【0090】
得られる粗環状ペプチドを0.1%(v/v)TFA水溶液に溶解した。精製を逆相HPLC Prep C18カラムで、水中の0.1%TFA(溶媒A)及びアセトニトリル中の0.1%TFA(溶媒B)により、以下の溶出勾配:30分で15%→35%のBを14ml/分の流量、20℃で用いて溶出させて行った。精製によるペプチド画分を分析用LC-MS(方法C又はD)によって分析し、それらの純度に応じてプールし、Bioblock ScientificによるAlpha 2/4凍結乾燥機で凍結乾燥して、予想される大環状ペプチド(mg、μmol)を白色の粉末として全収率7%で得た。
【0091】
【表2】
【0092】
2. 本発明による環状ペプチドのin vitro活性
腫瘍細胞の増殖に対する幾つかの本発明の環状ペプチドの効果を、5つの細胞株(MCF-7、ヒト乳癌細胞;HCT-116、ヒト結腸癌細胞;BxPC3、ヒト膵癌細胞及びA549;ヒト肺癌細胞)に対して細胞毒性アッセイ、及び細胞数を直接計数することによって評価した。
【0093】
2.1. 材料
一般式(I)の環状ペプチド、PKTD1、PKTD7、PKTD9、PKTD10、PKTD10-3、PKTD10-RNMe、PKTD10-X-RNMe、PKTD10-4、PKTD11、PKTD11RNMe、PKTD12、PKTD16、PKTD18、PKD8、PKD10及びPKD10-FFを実験の部に記載のように合成した。
【0094】
これらの環状ペプチドをDMSOに以下の濃度:0μM、5μM、10μM、25μM、50μM及び100μMで溶解した。
【0095】
PKC1は、TSP-1のβ-ストランド番号7(配列番号8)のフラグメントのみを含む環状ペプチドであり、その構造は以下の通りである:
【化4】
【0096】
直鎖PKT16ペプチド((D)Lys-(N-Me)Arg-Phe-Tyr-Val-Val-Nle-Trp-Lys-(D)Lys)を陽性対照として使用した。
【0097】
化合物CTGG(4NGGとも呼ばれる、配列KRFYGGMWKKの直鎖ペプチド)を陰性対照として使用した。
【0098】
これらのアッセイに使用される培養培地は以下の通りである:EMEM=MCF-7及びWi38については10%SVF;RPMI 1640=HCT-116及びBxPC3については10%SVF、及びF-12K=A549については10%SVF。
【0099】
2.2. 方法
2.2.1. 細胞生存能力及び増殖の分析
500個の細胞を96ウェルプレートに播種し、37℃で24時間インキュベートし、異なる濃度の環状ペプチド及び対照によって2時間処理した。
【0100】
2.2.2. フローサイトメトリーによる細胞死分析
起こり得るアポトーシスプロセスを検出するために、細胞を35mmディッシュに播種し、各試験環状ペプチドを含有する培地中で2時間、手順A又はBに従って培養した。
【0101】
手順A:エトポシド(40nM)を、アポトーシスを誘導する陽性対照として使用した。次いで、細胞をトリプシン処理し、冷PBSで洗浄し、アネキシンバッファー中のアネキシンV-FrrC(BD Pharmingen)により室温で15分間染色した。最後に、細胞を50μg/mLヨウ化プロピジウム(Sigma)で対比染色し、FACSCaliburフローサイトメーターを用いて分析した。各細胞型についての実験を3回繰り返した。1サンプル当たり20000イベントを各実験で分析した。
【0102】
手順B:ペプチドをHCT-116細胞上で2時間インキュベートした。Superkiller Trail(ALX-201-115-C010)を陽性アポトーシス促進性対照として使用した。細胞を、BIOLEGENDによる7-AAD(BLE640922)を用いるFITCアネキシンVアポトーシス検出キットを用いて細胞蛍光測定法によって分析した。
【0103】
2.3. 結果
これらのアッセイの結果を、図7A図7F及び下記表III~表VIに提示する。
【0104】
【表3】
【0105】
【表4】
【0106】
【表5】
【0107】
【表6】
【0108】
試験した全ての環状ペプチドPKTD1、PKTD7、PKTD9、PKTD10、PKTD10-3、PKTD10-RNMe、PKTD10-X-RNMe、PKTD10-4、PKTD11、PKTD11RNMe、PKTD12、PKTD16、PKTD18、PKD10及びPKD10-FFが、全ての細胞株において用量依存的な生存能力の減少(10μMから50μMのペプチド濃度において2時間で20%から80%のPCD誘導)を示す。この活性は、今回試験した濃度では有効でない(PCDを誘導する有効性は100μMで観察されない)陽性対照(PKT16)よりも有意に高い。
【0109】
環状ペプチドPKC1は、使用したいずれの濃度でもPCDの誘発において有効性を示さない(12.5μM~50μM、同じ結果が観察される)。この結果から、TSP-1のβストランド6及び7又は7及び8を伴う環状ヘアピン構造の重要性が実証され、TSP-1の4N1 CD47結合エピトープの単純な環化がその効力の改善に十分でないという事実が強調される。
【0110】
環状ペプチドPKD10は、低用量(25μM)で2時間のインキュベーション後に極めて顕著な細胞生存能力の減少を誘導する(図7F)。
【0111】
このため、これらの結果により、動物又はヒトのいずれかにおける本発明の環状ペプチドを腫瘍及び免疫疾患(慢性炎症と関連する疾患を含む)といったPCDの欠陥と関連する疾患の治療に対して非常に有望なツールとみなすことが可能となる。腫瘍サイズの低減におけるその治療効率に加えて、これらの環状ペプチドは、通常は細胞毒性薬と関連する強い毒性を示さない。したがって、腫瘍を患う患者の治療のための将来の治療剤として具体化される。
【0112】
3. 結合実験
結合親和性測定。Jurkat及び/又はMEC-1細胞からの膜調製物に対するペプチド、ここではPKT16、PKTD1、PKTD10、PKTD10-1、PKTD10-3、PKTD10-5、PKDT10-7及びPKTD10-8の結合親和性を、Monolith NT115-picoシステム(Nanotemper Technologies、ミュンヘン、ドイツ)でのマイクロスケール熱泳動(Microscale Thermophoresis)xlvによって測定した。
【0113】
MSTによって測定された結合曲線。測定方法は、「熱拡散」と称される効果である温度勾配に沿った分子の有向運動に基づく。局所温度差ΔTは、ソレー係数S:chot/ccold=exp(-SΔT)によって定量化される分子濃度の局所変化(枯渇又は濃縮)をもたらす。MEC-1又はJurkat膜調製物を、他の部分に記載されるNanotemper NT-647標識化キットを用いて標識するxlvi。標識した調製物をPBSで溶出し、4℃で保管する。各ペプチドのストック溶液をDMSO(5mM)中で調製した後、PBSで希釈する。MSTによって評価したペプチドについては、NT.115標識膜の濃度を一定に維持し、リガンド(ペプチド)の濃度を変化させた。短時間のインキュベーション後にサンプルをMST premiumガラス毛細管に充填し、Monolith NT.115-picoを用いてMST分析を行った。図5:TSP-1のC末端結合ドメインに由来する直鎖ペプチドであるPKT16((D)Lys-(N-Me)Arg-Phe-Tyr-Val-Val-Nle-Trp-Lys-(D)Lys)について観察されたMST曲線。Kd=1600nM。図6A図6H:TSP-1のC末端結合ドメインのPKTD1、PKTD10、PKTD10-1、PKTD10-3、PKTD10-4、PKTD10-5、PKTD10-7、PKTD10-8(表II中を参照されたい)の全ての環状ペプチド類似体について観察されたMST曲線。Kd(0.1nM~505nM)。Kd比は、これらの環状類似体が全て、CD47ライゲーションにおいてβ-ストランド7から設計した直鎖類似体よりもはるかに効率的であるという事実を強調する。これらの環状ペプチドのKdは、2.8nM~50nMに含まれる。この値は、腫瘍細胞及びそれらの調製物に応じて非常に多様である。
【0114】
4. 安定性アッセイ
タンパク質分解安定性研究を、先に記載されるようなプロテアーゼ(トリプシン、キモトリプシン及びプロテイナーゼK等)との又はヒト血清中でのペプチドインキュベーションによって行った(Karoyan et al. J. Med. Chem. 2016を参照されたい)。これらの条件では、PKD8、PKD9又はPKD10といったペプチドは、プロテアーゼに対して完全に安定しているようであり、PKC1はPKD10の直鎖類似体、すなわちL-PKD10のように2時間足らずでトリプシンによって分解される。環化は代謝安定性(PKC1)の改善にも薬理学的プロファイル(PKC1)の改善にも十分ではないが、TSP-1のC末端結合ドメインの安定したヘアピン模倣体の開発は、薬理学的特性及びプログラム細胞死を誘導する能力が改善された(少なくともPKD8、PKD10、PKD10-FF)安定した(少なくともPKD8、PKD9及びPKD10)類似体をもたらした。
【0115】
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G
図6H
図7A1
図7A2
図7B1
図7B2
図7C1
図7C2
図7D1
図7D2
図7E1
図7E2
図7F
【配列表】
0007166933000001.app