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特許7166957内視鏡システム、プロセッサ、キャリブレーション装置、内視鏡
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】内視鏡システム、プロセッサ、キャリブレーション装置、内視鏡
(51)【国際特許分類】
   A61B 1/00 20060101AFI20221031BHJP
   G02B 23/24 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
A61B1/00 735
A61B1/00 715
G02B23/24 B
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019034760
(22)【出願日】2019-02-27
(65)【公開番号】P2020137704
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下山 真雅
(72)【発明者】
【氏名】西原 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 翔
【審査官】湊 和也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/208308(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/015877(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/011857(WO,A1)
【文献】特開2013-123558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00- 1/32
G02B 23/24-23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡と、前記内視鏡が接続可能なプロセッサと、前記プロセッサにより読み出し可能なメモリと、を備える内視鏡システムであって、
前記内視鏡は、
被検体像を結像する撮像光学系と、
前記撮像光学系の結像状態を調整する可動部材と、
前記可動部材の位置または角度を検出し、検出信号を出力する位置/角度センサと、
前記検出信号を増幅して出力信号として出力する増幅回路と、を有し、
前記メモリは、前記位置/角度センサへ動作電流を供給するための配線の配線抵抗値の変化量に対する、前記出力信号の電圧に含まれるオフセット電圧の変化量の比に基づく出力誤差感度データと、前記出力誤差感度データを求めたキャリブレーション装置における、前記動作電流を供給するための配線の第1の配線抵抗値と、を記憶し、
前記プロセッサは、
前記位置/角度センサへ前記動作電流を供給する定電流回路と、
前記増幅回路からの前記出力信号を処理する信号処理回路と、
前記プロセッサにおける、前記動作電流を供給するための配線のプロセッサ配線抵抗値を記憶するプロセッサメモリと、を有し、
前記信号処理回路は、前記内視鏡と前記プロセッサとが接続されたときに、前記メモリから前記出力誤差感度データと前記第1の配線抵抗値とを読み出し、前記第1の配線抵抗値と前記プロセッサ配線抵抗値との差分に前記出力誤差感度データを乗算した値に基づいて、前記出力信号の誤差を補正することを特徴とする内視鏡システム。
【請求項2】
前記メモリは前記内視鏡が備える内視鏡メモリであり、前記信号処理回路は、前記内視鏡メモリから前記出力誤差感度データと前記第1の配線抵抗値とを読み出すことを特徴とする請求項1に記載の内視鏡システム。
【請求項3】
前記内視鏡は、内視鏡機種情報を記憶する内視鏡メモリをさらに有し、
前記メモリは、前記プロセッサメモリであり、
前記プロセッサメモリは、前記プロセッサ配線抵抗値を記憶すると共に、前記出力誤差感度データおよび前記第1の配線抵抗値のセットを、複数の内視鏡機種情報に応じて複数セット記憶し、
前記信号処理回路は、前記内視鏡と前記プロセッサとが接続されたときに、前記内視鏡メモリから前記内視鏡機種情報を読み出し、前記内視鏡機種情報に応じた前記出力誤差感度データおよび前記第1の配線抵抗値のセットを前記プロセッサメモリから読み出して、前記第1の配線抵抗値と前記プロセッサ配線抵抗値との差分に前記出力誤差感度データを乗算した値に基づいて、前記出力信号の誤差を補正することを特徴とする請求項1に記載の内視鏡システム。
【請求項4】
前記内視鏡システムは、
前記位置/角度センサへ前記動作電流を供給する第2の定電流回路と、
前記増幅回路からの前記出力信号を処理する第2の信号処理回路と、
前記キャリブレーション装置における、前記動作電流を供給するための前記第1の配線抵抗値の前記配線と、前記動作電流を供給するための、前記第1の配線抵抗値とは異なる第2の配線抵抗値の第2の配線と、を切り替える抵抗切替部と、
前記第1の配線抵抗値と前記第2の配線抵抗値とを記憶するキャリブレーションメモリと、
を有する前記キャリブレーション装置をさらに備え、
前記内視鏡と前記キャリブレーション装置とが接続されたときに、
前記抵抗切替部が前記第1の配線抵抗値の前記配線に切り替えて、前記第2の信号処理回路が前記増幅回路から第1の出力信号を取得し、
前記抵抗切替部が前記第2の配線抵抗値の前記第2の配線に切り替えて、前記第2の信号処理回路が前記増幅回路から第2の出力信号を取得し、
前記第2の信号処理回路が、前記第2の配線抵抗値から前記第1の配線抵抗値を減算した値に対する、前記第2の出力信号から前記第1の出力信号を減算した値の比に基づき、前記出力誤差感度データを求め、
前記第2の信号処理回路は、前記出力誤差感度データと、前記第1の配線抵抗値とを、前記内視鏡メモリに記憶させることを特徴とする請求項2に記載の内視鏡システム。
【請求項5】
前記プロセッサは、前記抵抗切替部をさらに備え、前記プロセッサ配線抵抗値の前記配線が前記第1の配線抵抗値の前記配線を兼ね、前記定電流回路が前記第2の定電流回路を兼ね、前記信号処理回路が第2の信号処理回路を兼ね、前記プロセッサメモリが前記キャリブレーションメモリを兼ねていて、
前記プロセッサは前記キャリブレーション装置の機能を備えることを特徴とする請求項4に記載の内視鏡システム。
【請求項6】
前記内視鏡は、前記可動部材に一体的に接続された磁石をさらに有し、
前記位置/角度センサは、前記磁石から入射される磁束密度に応じた前記検出信号を出力するホール素子を備えることを特徴とする請求項1に記載の内視鏡システム。
【請求項7】
前記増幅回路は、前記ホール素子から出力された前記検出信号を差動増幅する差動増幅回路を備えることを特徴とする請求項6に記載の内視鏡システム。
【請求項8】
前記内視鏡は、コイルと、前記磁石と、を有するボイスコイルモータを備え、
前記可動部材は、前記ボイスコイルモータにより、前記磁石と一体的に移動されることを特徴とする請求項6に記載の内視鏡システム。
【請求項9】
撮像光学系の結像状態を調整する可動部材の位置または角度を検出し、検出信号を出力する位置/角度センサと、前記検出信号を増幅して出力信号として出力する増幅回路と、を有する内視鏡が接続可能であり、前記位置/角度センサへ動作電流を供給するための配線の配線抵抗値の変化量に対する、前記出力信号の電圧に含まれるオフセット電圧の変化量の比に基づく出力誤差感度データと、前記出力誤差感度データを求めたキャリブレーション装置における、前記動作電流を供給するための配線の第1の配線抵抗値と、を記憶するメモリを読み出し可能なプロセッサであって、
前記位置/角度センサへ前記動作電流を供給する定電流回路と、
前記増幅回路からの前記出力信号を処理する信号処理回路と、
前記プロセッサにおける、前記動作電流を供給するための配線のプロセッサ配線抵抗値を記憶するプロセッサメモリと、を備え、
前記信号処理回路は、前記内視鏡が接続されたときに、前記メモリから前記出力誤差感度データと前記第1の配線抵抗値とを読み出し、前記第1の配線抵抗値と前記プロセッサ配線抵抗値との差分に前記出力誤差感度データを乗算した値に基づいて、前記出力信号の誤差を補正することを特徴とするプロセッサ。
【請求項10】
前記メモリは前記内視鏡が備える内視鏡メモリであり、前記信号処理回路は、前記内視鏡メモリから前記出力誤差感度データと前記第1の配線抵抗値とを読み出すことを特徴とする請求項9に記載のプロセッサ。
【請求項11】
前記プロセッサに接続される前記内視鏡は、内視鏡機種情報を記憶する内視鏡メモリをさらに有しており、
前記メモリは、前記プロセッサメモリであり、
前記プロセッサメモリは、前記プロセッサ配線抵抗値を記憶すると共に、前記出力誤差感度データおよび前記第1の配線抵抗値のセットを、複数の内視鏡機種情報に応じて複数セット記憶し、
前記信号処理回路は、前記内視鏡と前記プロセッサとが接続されたときに、前記内視鏡メモリから前記内視鏡機種情報を読み出し、前記内視鏡機種情報に応じた前記出力誤差感度データおよび前記第1の配線抵抗値のセットを前記プロセッサメモリから読み出して、前記第1の配線抵抗値と前記プロセッサ配線抵抗値との差分に前記出力誤差感度データを乗算した値に基づいて、前記出力信号の誤差を補正することを特徴とする請求項9に記載のプロセッサ。
【請求項12】
前記プロセッサ配線抵抗値の配線と、前記動作電流を供給するための、前記プロセッサ配線抵抗値とは異なる第2のプロセッサ配線抵抗値の第2の配線と、を切り替える抵抗切替部をさらに備え、
前記プロセッサメモリは、前記プロセッサ配線抵抗値を記憶すると共に、前記第2のプロセッサ配線抵抗値を記憶し、
前記内視鏡と前記プロセッサとが接続されたときに、
前記抵抗切替部が前記プロセッサ配線抵抗値の前記配線に切り替えて、前記信号処理回路が前記増幅回路から第1の出力信号を取得し、
前記抵抗切替部が前記第2のプロセッサ配線抵抗値の前記第2の配線に切り替えて、前記信号処理回路が前記増幅回路から第2の出力信号を取得し、
前記信号処理回路が、前記第2のプロセッサ配線抵抗値から前記プロセッサ配線抵抗値を減算した値に対する、前記第2の出力信号から前記第1の出力信号を減算した値の比に基づき、前記出力誤差感度データを求め、
前記信号処理回路は、前記出力誤差感度データを前記内視鏡メモリに記憶させると共に、前記プロセッサ配線抵抗値を前記第1の配線抵抗値として前記内視鏡メモリに記憶させるものであり、
前記キャリブレーション装置の機能を備えることを特徴とする請求項10に記載のプロセッサ。
【請求項13】
撮像光学系の結像状態を調整する可動部材の位置または角度を検出し、検出信号を出力する位置/角度センサと、前記検出信号を増幅して出力信号として出力する増幅回路と、内視鏡メモリと、を有する内視鏡を接続可能なキャリブレーション装置であって、
前記位置/角度センサへ動作電流を供給する定電流回路と、
前記増幅回路からの前記出力信号を処理する信号処理回路と、
前記キャリブレーション装置における、前記動作電流を供給するための第1の配線抵抗値の配線と、前記動作電流を供給するための、前記第1の配線抵抗値とは異なる第2の配線抵抗値の第2の配線と、を切り替える抵抗切替部と、
前記第1の配線抵抗値と前記第2の配線抵抗値とを記憶するキャリブレーションメモリと、を備え、
前記内視鏡と前記キャリブレーション装置とが接続されたときに、
前記抵抗切替部が前記第1の配線抵抗値の前記配線に切り替えて、前記信号処理回路が前記増幅回路から第1の出力信号を取得し、
前記抵抗切替部が前記第2の配線抵抗値の前記第2の配線に切り替えて、前記信号処理回路が前記増幅回路から第2の出力信号を取得し、
前記信号処理回路が、前記第2の配線抵抗値から前記第1の配線抵抗値を減算した値に対する、前記第2の出力信号から前記第1の出力信号を減算した値の比に基づき、出力誤差感度データを求め、
前記信号処理回路は、前記出力誤差感度データと、前記第1の配線抵抗値とを、前記内視鏡メモリに記憶させることを特徴とするキャリブレーション装置。
【請求項14】
プロセッサと接続可能な内視鏡であって、
被検体像を結像する撮像光学系と、
前記撮像光学系の結像状態を調整する可動部材と、
前記可動部材の位置または角度を検出し、検出信号を出力する位置/角度センサと、
前記検出信号を増幅して出力信号として出力する増幅回路と、
前記位置/角度センサへ動作電流を供給するための配線の配線抵抗値の変化量に対する、前記出力信号の電圧に含まれるオフセット電圧の変化量の比に基づく出力誤差感度データと、前記出力誤差感度データを求めたキャリブレーション装置における、前記動作電流を供給するための配線の第1の配線抵抗値と、を記憶する内視鏡メモリと、を有し、
前記内視鏡と前記プロセッサとが接続されたときに、前記プロセッサに前記出力信号の誤差を補正させるために、前記内視鏡メモリから前記出力誤差感度データと前記第1の配線抵抗値とを前記プロセッサへ送信することを特徴とする内視鏡。
【請求項15】
前記可動部材に一体的に接続された磁石をさらに有し、
前記位置/角度センサは、前記磁石から入射される磁束密度に応じた前記検出信号を出力するホール素子を備えることを特徴とする請求項14に記載の内視鏡。
【請求項16】
前記増幅回路は、前記ホール素子から出力された前記検出信号を差動増幅する差動増幅回路を備えることを特徴とする請求項15に記載の内視鏡。
【請求項17】
コイルと、前記磁石と、を有するボイスコイルモータを備え、
前記可動部材は、前記ボイスコイルモータにより、前記磁石と一体的に移動されることを特徴とする請求項15に記載の内視鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡の撮像光学系に含まれる可動部材の位置を検出可能な内視鏡システム、プロセッサ、キャリブレーション装置、内視鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡システムは、例えば、被検体を観察するための内視鏡と、内視鏡を制御するためのプロセッサと、を備えている。このような内視鏡システムにおいて、被検体を観察するための撮像光学系の結像状態(例えば、フォーカス位置、ズーム位置、絞り口径)を調節可能とする構成が提案されている。具体的には、撮像光学系内に、アクチュエータにより移動可能な可動レンズ、光学絞りなどの可動部材を設ける構成である。
【0003】
可動部材を目標位置または目標角度に正確に移動するためには、可動部材の位置または角度を検出する必要がある。こうした位置/角度検出用のセンサ(位置/角度センサ)の一例が、ホール素子である。ホール素子は、入射される磁束密度の大きさに応じた電位差(ホール電圧)を発生して検出信号として出力するものである。このホール素子で可動部材の位置を検出するには、例えば、可動部材に磁石を一体的に接続し、固定部にホール素子を配置すればよい(または、可動部材にホール素子を一体的に接続し、固定部に磁石を配置しても構わない)。
【0004】
ところで、ホール素子の検出信号にはオフセット電圧があることが知られている。オフセット電圧は、磁束密度の変化に依らないために、オフセット電圧を含む検出信号をそのまま位置検出に用いると、検出位置に誤差が生じる。このために、オフセット電圧を補正して、より正確に位置を検出することが行われている。
【0005】
例えば、特開2008-96213号公報には、切替回路により制御用の電流源からオフセット検出用の電流源に切り替えることで、ホール素子の各端子にオフセット検出用の電流を流してホール素子の電気特性(例えば、ホール素子の4つの端子間の抵抗値)を求め、求めた電気特性に基づいてホール素子の不平衡電圧を補正する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-96213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで内視鏡は細径化および軽量化が求められるために、ホール素子などの位置/角度センサの検出信号から可動部材の位置/角度を求める信号処理回路は、内視鏡に接続されるプロセッサ側に配置される。これに対して撮像光学系は、内視鏡の先端部に配置されており、位置/角度センサも内視鏡の先端部に配置されることになる。従って、位置/角度センサの検出信号、および位置/角度センサへの給電信号の戻り信号は、内視鏡の先端部から細長の内視鏡内を伝送され、さらに内視鏡の基端側から延出されたケーブル内を伝送され、さらにプロセッサ内の配線を経由してプロセッサ内の信号処理回路やグランドに到達する。このように、位置/角度センサからプロセッサ内の信号処理回路およびグランドまでの配線は比較的長いために、配線自体の電気抵抗が無視し得ないものとなる。このような配線抵抗は、位置/角度センサによる位置/角度検出結果に影響を与え、特に、給電信号の戻り信号に係る、位置/角度センサからグランドまでの配線抵抗は、オフセット電圧に影響を与える。このために、配線抵抗を考慮に入れていないオフセット電圧を含む検出信号に基づき位置/角度を算出すると、算出結果に誤差が生じてしまう。
【0008】
また、内視鏡とプロセッサとの組み合わせは1通りではなく、例えば、ある内視鏡に対して複数種類のプロセッサが接続可能であり、また、複数の内視鏡があるプロセッサに接続可能であるといった組み合わせが生じる。この場合、組み合わせに応じて配線抵抗の値が変化するために、配線抵抗の値に応じた補正を行わなければ、検出される位置/角度が正確ではなくなってしまう。
【0009】
さらに、配線抵抗がオフセット電圧に与える影響の大きさは、位置/角度センサの出力を増幅する増幅器(例えば差動増幅器)のバラつきにも依存する。
【0010】
上記特開2008-96213号公報の技術は、ホール素子がもつ不平衡電圧を補正することはできるが、配線抵抗の相違と差動増幅器のバラつきとに応じて生じるオフセット電圧の誤差を補正することはできない。
【0011】
加えて、上記特開2008-96213号公報の技術では、制御用の電流源とオフセット検出用の電流源との2つの電流源が必要になるだけでなく、ホール素子の各端子に電流を流すための複雑な切替回路が必要になる。内視鏡は、上述したように細径化および軽量化が求められるために、ホール素子以外の複雑な回路や配線を挿入部内に収めることは好ましくない。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、位置/角度センサへの給電経路が長く、配線抵抗が無視し得ない場合にも、可動部材の位置/角度を高い精度で検出することができる内視鏡システム、プロセッサ、キャリブレーション装置、内視鏡を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様による内視鏡システムは、内視鏡と、前記内視鏡が接続可能なプロセッサと、前記プロセッサにより読み出し可能なメモリと、を備える内視鏡システムであって、前記内視鏡は、被検体像を結像する撮像光学系と、前記撮像光学系の結像状態を調整する可動部材と、前記可動部材の位置または角度を検出し、検出信号を出力する位置/角度センサと、前記検出信号を増幅して出力信号として出力する増幅回路と、を有し、前記メモリは、前記位置/角度センサへ動作電流を供給するための配線の配線抵抗値の変化量に対する、前記出力信号の電圧に含まれるオフセット電圧の変化量の比に基づく出力誤差感度データと、前記出力誤差感度データを求めたキャリブレーション装置における、前記動作電流を供給するための配線の第1の配線抵抗値と、を記憶し、前記プロセッサは、前記位置/角度センサへ前記動作電流を供給する定電流回路と、前記増幅回路からの前記出力信号を処理する信号処理回路と、前記プロセッサにおける、前記動作電流を供給するための配線のプロセッサ配線抵抗値を記憶するプロセッサメモリと、を有し、前記信号処理回路は、前記内視鏡と前記プロセッサとが接続されたときに、前記メモリから前記出力誤差感度データと前記第1の配線抵抗値とを読み出し、前記第1の配線抵抗値と前記プロセッサ配線抵抗値との差分に前記出力誤差感度データを乗算した値に基づいて、前記出力信号の誤差を補正する。
【0014】
本発明の他の態様によるプロセッサは、撮像光学系の結像状態を調整する可動部材の位置または角度を検出し、検出信号を出力する位置/角度センサと、前記検出信号を増幅して出力信号として出力する増幅回路と、を有する内視鏡が接続可能であり、前記位置/角度センサへ動作電流を供給するための配線の配線抵抗値の変化量に対する、前記出力信号の電圧に含まれるオフセット電圧の変化量の比に基づく出力誤差感度データと、前記出力誤差感度データを求めたキャリブレーション装置における、前記動作電流を供給するための配線の第1の配線抵抗値と、を記憶するメモリを読み出し可能なプロセッサであって、前記位置/角度センサへ前記動作電流を供給する定電流回路と、前記増幅回路からの前記出力信号を処理する信号処理回路と、前記プロセッサにおける、前記動作電流を供給するための配線のプロセッサ配線抵抗値を記憶するプロセッサメモリと、を備え、前記信号処理回路は、前記内視鏡が接続されたときに、前記メモリから前記出力誤差感度データと前記第1の配線抵抗値とを読み出し、前記第1の配線抵抗値と前記プロセッサ配線抵抗値との差分に前記出力誤差感度データを乗算した値に基づいて、前記出力信号の誤差を補正する。
【0015】
本発明の他の態様によるキャリブレーション装置は、撮像光学系の結像状態を調整する可動部材の位置または角度を検出し、検出信号を出力する位置/角度センサと、前記検出信号を増幅して出力信号として出力する増幅回路と、内視鏡メモリと、を有する内視鏡を接続可能なキャリブレーション装置であって、前記位置/角度センサへ動作電流を供給する定電流回路と、前記増幅回路からの前記出力信号を処理する信号処理回路と、前記キャリブレーション装置における、前記動作電流を供給するための第1の配線抵抗値の配線と、前記動作電流を供給するための、前記第1の配線抵抗値とは異なる第2の配線抵抗値の第2の配線と、を切り替える抵抗切替部と、前記第1の配線抵抗値と前記第2の配線抵抗値とを記憶するキャリブレーションメモリと、を備え、前記内視鏡と前記キャリブレーション装置とが接続されたときに、前記抵抗切替部が前記第1の配線抵抗値の前記配線に切り替えて、前記信号処理回路が前記増幅回路から第1の出力信号を取得し、前記抵抗切替部が前記第2の配線抵抗値の前記第2の配線に切り替えて、前記信号処理回路が前記増幅回路から第2の出力信号を取得し、前記信号処理回路が、前記第2の配線抵抗値から前記第1の配線抵抗値を減算した値に対する、前記第2の出力信号から前記第1の出力信号を減算した値の比に基づき、出力誤差感度データを求め、前記信号処理回路は、前記出力誤差感度データと、前記第1の配線抵抗値とを、前記内視鏡メモリに記憶させる。
【0016】
本発明の他の態様による内視鏡は、プロセッサと接続可能な内視鏡であって、被検体像を結像する撮像光学系と、前記撮像光学系の結像状態を調整する可動部材と、前記可動部材の位置または角度を検出し、検出信号を出力する位置/角度センサと、前記検出信号を増幅して出力信号として出力する増幅回路と、前記位置/角度センサへ動作電流を供給するための配線の配線抵抗値の変化量に対する、前記出力信号の電圧に含まれるオフセット電圧の変化量の比に基づく出力誤差感度データと、前記出力誤差感度データを求めたキャリブレーション装置における、前記動作電流を供給するための配線の第1の配線抵抗値と、を記憶する内視鏡メモリと、を有し、前記内視鏡と前記プロセッサとが接続されたときに、前記プロセッサに前記出力信号の誤差を補正させるために、前記内視鏡メモリから前記出力誤差感度データと前記第1の配線抵抗値とを前記プロセッサへ送信する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の内視鏡システム、プロセッサ、キャリブレーション装置、内視鏡によれば、位置/角度センサへの給電経路が長く、配線抵抗が無視し得ない場合にも、可動部材の位置/角度を高い精度で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態1において、配線の抵抗値に応じてホール素子の出力電圧におけるオフセット電圧が変化する原理を説明するための図。
図2】上記実施形態1において、接地抵抗値RGNDとオフセット電圧Voffとの関係を示す線図。
図3】上記実施形態1におけるオフセット電圧感度Δの例を示す線図。
図4】上記実施形態1における、内視鏡とプロセッサとが着脱可能に接続された内視鏡システムの構成例を示すブロック図。
図5】上記実施形態1の内視鏡システムにおける、オフセット電圧感度推定の処理を示すフローチャート。
図6】上記実施形態1の内視鏡システムにおける、オフセット電圧補正の処理を示すフローチャート。
図7】上記実施形態1における抵抗切替部の変形例を示す図。
図8】上記実施形態1において、内視鏡の機種情報に応じて、オフセット電圧感度および配線抵抗値のセットをプロセッサメモリに記憶する変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
[実施形態1]
【0020】
図1から図8は本発明の実施形態1を示したものであり、図1は配線の抵抗値に応じてホール素子11Aの出力電圧におけるオフセット電圧が変化する原理を説明するための図である。
【0021】
図1に示す内視鏡システムは、内視鏡1と、内視鏡1が接続可能なプロセッサ2とを備えており、内視鏡1側のコネクタ1aがプロセッサ2側のコネクタ受け2aに着脱可能に接続されている。
【0022】
そして、図1においては、キャリブレーション装置が、プロセッサ2を兼ねている例を図示している。ここに、キャリブレーション装置は、検出結果として得られる電圧Voutの出力信号(以下では適宜、出力信号Voutという)を補正するためのデータ(後述する、オフセット電圧感度Δと第1の配線抵抗値RPGND)を求めるための装置である。なお、出力信号Voutは、内視鏡1により、可動部材(例えば、後述する図4に示す可動レンズ14a)の位置または角度を検出した結果として得られる。
【0023】
ただし、キャリブレーション装置は、プロセッサ2を兼ねる必要はなく、つまり一般的なプロセッサ2が備えているような撮像信号を信号処理する機能等を備えていない専用のキャリブレーション装置であっても構わない。
【0024】
図1においては、可動部材の位置または角度を検出し、検出信号を出力する位置/角度センサ11が、ホール素子11Aを備える例を示している。
【0025】
ホール素子11Aは、入射される磁束密度の大きさに応じた検出信号を出力する磁気センサである。すなわち、ホール素子11Aに印加したホール駆動電流(定電流I)に対して、電流方向に垂直な方向に磁場をかけると、キャリア(電子、正孔など)が、電流方向(I方向)と磁場方向(B方向)との両方に垂直な方向(I×B方向とする)のローレンツ力を受ける。これにより、ホール素子11AのI×B方向の両端面におけるキャリアの分布密度に差異が生じ、電圧(ホール電圧)が表れる。このホール電圧に応じた信号を検出することで、ホール素子11Aに入射される磁束密度の大きさを測定することができる。
【0026】
内視鏡1は、例えばホール素子11Aを備える位置/角度センサ11と、位置/角度センサ11の検出信号を増幅して出力信号Voutとして出力する増幅回路12と、を備えている。プロセッサ2は、位置/角度センサ11へ動作電流(具体的には、ホール素子11Aに定電流I)を供給する定電流回路21と、増幅回路12からの出力信号Voutを処理する信号処理回路22と、増幅回路12に基準電圧Vrefの信号を供給する基準電圧回路23と、位置/角度センサ11からの定電流Iの戻り経路における、プロセッサ2内の配線抵抗を切り替える抵抗切替部24と、を備えている。
【0027】
定電流回路21からの定電流Iは、配線抵抗Rを経てホール素子11Aに入力される。ここに、ホール素子11Aの回路構成は様々にモデル化されるために、図1に示しているのはホール素子11Aの1つのモデル化例である。
【0028】
なお以下では、ある抵抗に関して、抵抗自体と、抵抗の抵抗値とを、同一の符号により表すこととする。従って例えば、抵抗Rということがある一方、抵抗値Rということもある。同様に、電流と、電流値とを同一の符号により表すこととする。
【0029】
定電流Iの、ホール素子11Aへの入力電圧をVhin、ホール素子11Aからの出力電圧をVhoutとする。また、ホール素子11A内における定電流Iの入力側の抵抗値をRh1、出力側の抵抗値をRh3とする。ホール素子11Aから出力された定電流Iは、内視鏡1内の配線抵抗RSGNDと、プロセッサ2内の例えば第1の配線抵抗RPGNDと、を経てグランドGNDに接続される。
【0030】
プロセッサ2には抵抗切替部24が設けられており、スイッチSWによりプロセッサ2内の配線抵抗を、可動部材の位置/角度検出用の第1の配線抵抗RPGND(ここに、グランドGNDに接続される、プロセッサ(P)内の抵抗Rであるために、「RPGND」と記載している)からキャリブレーション用の第2の配線抵抗R′PGND(ここに、第1の配線抵抗RPGNDとは抵抗値が異なる、同一のプロセッサ(P)内における抵抗であるために、抵抗を示す「R」にプライム「′」を付している)に、またはその逆に切り替えることができるようになっている。
【0031】
この抵抗切替部24のスイッチSWとしては、電気的に切り替えることができる構成であることが好ましく、例えば、CMOSスイッチ、リレースイッチなどを用いることができる。ただし、抵抗切替部24のスイッチSWが機械的な切替スイッチであることを妨げるものではない。そして、抵抗切替部24の抵抗の切り替えは、自動切り替えとしてユーザの負担を軽減することが好ましいが、手動切り替えであっても構わない。
【0032】
ホール素子11A内で発生するホール電圧の内の、一方の側の電圧をVh-、他方の側の電圧をVh+とする。電圧Vh-の検出信号は、ホール素子11A内の抵抗Rh2を経て増幅回路12へ接続される。また、電圧Vh+の検出信号は、ホール素子11A内の抵抗Rh4を経て増幅回路12へ接続される。
【0033】
増幅回路12は、例えば、OPアンプなどで構成される差動増幅器12aと、抵抗R,R,R,Rと、を含む差動増幅回路12A(図4参照)を備えている。
【0034】
ホール素子11Aで発生した電圧Vh-の検出信号は、上述したホール素子11A内の抵抗Rh2を経た後に、増幅回路12内の抵抗Rを経て、差動増幅器12aの-入力端子に入力される。
【0035】
ホール素子11Aで発生した電圧Vh+の検出信号は、上述したホール素子11A内の抵抗Rh4を経た後に、増幅回路12内の抵抗Rを経て、差動増幅器12aの+入力端子に入力される。
【0036】
差動増幅器12aの+入力端子は、増幅回路12内の抵抗Rと、配線抵抗Rとを経由して、基準電圧回路23に接続されている。ここに、配線抵抗Rを経て基準電圧回路23から増幅回路12に供給される信号の電圧(抵抗Rと配線抵抗Rとの間の電圧)が基準電圧Vrefである。
【0037】
差動増幅器12aの-入力端子は、抵抗Rを経由して差動増幅器12aの出力端子に接続されている。
【0038】
差動増幅器12aの出力端子は、配線抵抗Rを経て、プロセッサ2の信号処理回路22に接続されている。ここに、増幅回路12の出力端子から出力される信号の電圧をVoutとする。
【0039】
このような構成により、差動増幅回路12Aとして構成された増幅回路12は、ホール素子11Aにおいて発生したホール電圧の検出信号を差動増幅するようになっている。
【0040】
増幅回路12の出力端子から出力される信号の電圧Voutには、ホール素子11Aに入射される磁束密度の変化に依らないオフセット電圧が含まれている。このオフセット電圧が配線抵抗値に応じて変化する原理と、配線抵抗値に応じたオフセット電圧の変化を補正するためのデータを取得する方法とを、図1を参照して説明する。
【0041】
まず、増幅回路12からの出力電圧Voutは、ホール素子11Aで発生する電圧Vh+,Vh-を用いて、次の数式1により算出される。
[数1]
【0042】
ここに、k、R′、およびkの中に表れるR′は、次の数式2にまとめて示す値である。
[数2]
【0043】
また、Rh2=Rh4、Rh1=Rh3としたときにホール素子11Aで発生する電圧Vh+,Vh-は、ホール素子11Aの検出感度α(mV/(mA・mT))、磁束密度B(mT)、定電流I、ホール素子11Aへの定電流Iの入力電圧Vhin、およびホール素子11Aからの定電流Iの出力電圧Vhoutを用いて、次の数式3および数式4に示すように表現される。
[数3]
[数4]
【0044】
上述した数式1~4に示すように与えられる出力電圧Voutにおいて、本実施形態において着目するオフセット電圧Voffは、次の数式5に示すものであるとする(出力電圧Voutにおける、磁束密度Bに依存しないオフセット電圧部分は他にもある(例えば、k・Vrefなど)が、本実施形態では数式5に示すオフセット電圧Voffに着目するものとする)。
[数5]
【0045】
オフセット電圧Voffは、ホール素子11Aからの定電流Iの出力電圧Vhoutに依存するが、Vhoutは、数式6に示す接地抵抗値RGND(内視鏡1側の配線抵抗値RSGNDとプロセッサ2側の配線抵抗値RPGNDとを加算した値)に依存し、数式7に示すように与えられる。
[数6]
[数7]
【0046】
ここに、数式7における2番目の等式では、一般的に、グランドレベルVGNDを0(V)としてよいことを用いている。
【0047】
数式5に数式7を代入すると、数式8に示すようになる。
[数8]
【0048】
数式7に示したように、電圧Vhoutは、RGND=0(Ω)である場合にはグランドレベルVGNDと等しくなるが、RGND≠0(Ω)である場合はグランドレベルVGNDよりもI・RGNDだけ高くなる。
【0049】
そして、内視鏡システムにおいては、内視鏡1の先端部に配置されたホール素子11Aからプロセッサ2のグランドGNDまでの配線長が比較的長いために、RGND≒0(Ω)と扱うことは適切でない。
【0050】
さらに、RGND=RSGND+RPGNDであるために、内視鏡1とプロセッサ2との組み合わせに応じて接地抵抗値RGNDが変化すると、電圧Vhoutが変化し、ひいてはオフセット電圧Voffも変化することになる。
【0051】
このような観点から、内視鏡1とプロセッサ2との組み合わせに応じて、オフセット電圧Voffを適切に補正するためのデータ、ひいては、増幅回路12により増幅されたホール素子11Aの出力電圧Voutを補正するためのデータを取得する方法を説明する。
【0052】
図2は、接地抵抗値RGNDとオフセット電圧Voffとの関係を示す線図である。
【0053】
オフセット電圧Voffは、数式8に示したように、接地抵抗値RGNDに比例して増加する。ただし、差動アンプの抵抗R~Rにバラつき(例えば、内視鏡1の個体毎のバラつき)があると、数式2に示したような関係から、kの値もバラつくことになる。これにより(1-k)の値がバラつくと、接地抵抗値RGNDの変化量に対するオフセット電圧Voffの変化量の傾きが、例えば内視鏡1の個体毎に異なることになる。
【0054】
具体的に、kがある値k0よりも小さい(k<k0)と、(1-k)>(1-k0)となるために、(k=k0)のときよりも(k<k0)のときの方が、接地抵抗値RGNDの変化量に対するオフセット電圧Voffの変化量の傾きが大きくなる(図2の1点鎖線参照)。一方、kがある値k0よりも大きい(k0<k)と、(1-k0)>(1-k)となるために、(k=k0)のときよりも(k0<k)のときの方が、前述した傾きが小さくなる(図2の点線参照)。
【0055】
そこで、内視鏡1の個体毎に、オフセット電圧感度Δを推定する。ここに、オフセット電圧感度Δは、位置/角度センサ11へ動作電流を供給するための配線の配線抵抗値の変化量に対する、出力信号の電圧Voutに含まれるオフセット電圧Voffの変化量の比を示す出力誤差感度データである。このためにまず、ホール素子11Aの出力が一定になるようにする。
【0056】
具体的に、後述する図4に示すようなプロセッサ2のドライバ回路28からアクチュエータ13へ電流を流すことで可動レンズ14aを移動して、可動レンズ14aが可動域の端(メカニカル端部)に当て付く状態を維持する。これにより、ホール素子11Aに対する磁石13aの位置が一定となって、ホール素子11Aに入射される磁束密度Bが一定に維持される。
【0057】
なお、ホール素子11Aの出力を一定に保つには、可動レンズ14aを可動域の端に当て付ける方法を用いる以外に、例えば、ホール素子11Aに入射される磁束密度を0(mT)とする方法(例えば、磁気シールドを用いる、または磁石13aを取り付ける前に(もしくは取り外して)測定する、などの方法)を用いても構わない。
【0058】
そして、磁束密度Bを一定に維持した状態で、プロセッサ2内の配線抵抗を抵抗切替部24により検出用の第1の配線抵抗RPGNDに切り替えて増幅回路12からの第1の出力電圧Vout(RPGND)を信号処理回路22が取得し、さらにプロセッサ2内の配線抵抗を抵抗切替部24によりキャリブレーション用の第2の配線抵抗R′PGNDに切り替えて増幅回路12からの第2の出力電圧Vout(R′PGND)を信号処理回路22が取得する。
【0059】
なお、増幅回路12と信号処理回路22との間には配線抵抗Rが存在するが、微小な電流で出力電圧Voutを取得することで配線抵抗Rによる電圧低下を無視し得るか、または、配線抵抗Rが既知であって増幅回路12からの電流値も取得することで、信号処理回路22が出力電圧Voutを正確に算出できるものとする。
【0060】
磁束密度Bを一定に維持した条件の下では、数式1に示した出力電圧Voutにおける磁束密度Bに依存する項は、配線抵抗がRPGNDであるときとR′PGNDであるときの何れも等しい。このために、出力電圧の差分{Vout(R′PGND)-Vout(RPGND)}は、磁束密度Bに依存する項が打ち消され、さらに出力電圧Voutにおけるプロセッサ2内の配線抵抗RPGND,R′PGNDに依存しない項(例えば、k・Vrefなど)も打ち消されて、次の数式9に示すように、オフセット電圧Voffの差分{Voff(R′PGND)-Voff(RPGND)}に等しくなる。
[数9]
【0061】
従って、オフセット電圧Voffの差分は、出力電圧Voutの差分として求めればよい。こうして求めたオフセット電圧Voffの差分を用いれば、配線抵抗値RPGNDの変化量に対するオフセット電圧Voffの変化量(つまり、傾き)を示すオフセット電圧感度Δを、次の数式10に示すように算出することができる。ここに、図3はオフセット電圧感度Δの例を示す線図である。
[数10]
【0062】
なお、プロセッサ2内の配線抵抗RPGND,R′PGNDは、所定の精度の抵抗値のものをそれぞれ用いるか、または直接測定することにより抵抗値が得られているか、もしくは定電流回路21の定電流Iの値と測定電圧とから推定されているか、等で既知であるものとする。そして、配線抵抗値RPGND,R′PGNDが、キャリブレーションメモリを兼ねたプロセッサメモリ26(図4参照)に予め記憶されているものとする。
【0063】
こうして算出したオフセット電圧感度Δ(出力誤差感度データ)と、測定に用いた配線抵抗値(RPGNDとR′PGNDとの何れでも構わないが、ここでは例えばRPGND)とを、プロセッサ2により読み出し可能なメモリ、ここでは例えば内視鏡メモリ16(図4参照)に保存しておく。
【0064】
次に、オフセット電圧感度Δと配線抵抗値RPGNDとを用いて、位置または角度を検出して得られる出力電圧Voutを補正する方法を説明する。
【0065】
オフセット電圧感度Δを測定したキャリブレーション装置であるプロセッサ2とは異なる第2のプロセッサ2に、内視鏡1を接続する場合を考える。このときには、内視鏡1側の配線抵抗値はRSGNDのままであるが、プロセッサ2側の配線抵抗値がキャリブレーション装置における配線抵抗値RPGNDから、第2のプロセッサ2のプロセッサ配線抵抗値RP′GNDに変化する(ここに、グランドGNDに接続される、第2のプロセッサ2内の抵抗Rであるために、プロセッサ2を示す「P」にプライム「′」を付している)。
【0066】
プロセッサ配線抵抗値RP′GNDは、一般に、図1に示した第1の配線抵抗値RPGNDとは異なる(さらに、第2の配線抵抗値R′PGNDとも異なる)ために、同一の位置にある可動レンズ14aをホール素子11Aで測定したとしても、図3に示したように、第2のプロセッサ2が受ける内視鏡1の出力電圧Voutは、キャリブレーション装置であるプロセッサ2が受ける出力電圧Voutとは異なる。
【0067】
そして、キャリブレーション装置であるプロセッサ2が受ける出力電圧Voutを基準とすると、第2のプロセッサ2が受ける出力電圧Voutのずれは、プロセッサ配線抵抗値RP′GNDと第1の配線抵抗値RPGNDとの差分にオフセット電圧感度Δを乗算したものとなる。従って、第2のプロセッサ2が受ける出力電圧Voutを、キャリブレーション装置が受ける出力電圧Voutに合わせて補正した出力電圧Vcorrectionは、次の数式11に示すように算出される。
[数11]
【0068】
次に、より具体的な内視鏡システムの構成例について、図4を参照して説明する。図4は、内視鏡1とプロセッサ2とが着脱可能に接続された内視鏡システムの構成例を示すブロック図である。なお、内視鏡システムにおける撮像信号の処理、照明光の供給などは、一般的な内視鏡システムと同様であるために図示および説明を省略し、主に、可動部材の位置/角度検出に関連する構成を図4に示して説明する。
【0069】
まず、内視鏡1の内視鏡メモリ16には、別途のキャリブレーション装置により求められたオフセット電圧感度Δおよび第1の配線抵抗値RPGNDが既に記憶されているものとする。そして、このような内視鏡1を、オフセット電圧感度Δを求めたキャリブレーション装置とは異なる第2のプロセッサ2に接続して、第2のプロセッサ2が受ける出力電圧Voutを補正する例について、図4を参照して説明する。
【0070】
なお、図4に示す第2のプロセッサ2も、図1のプロセッサ2に示したようなキャリブレーション装置の機能を備える例となっているが、出力電圧Voutを補正するだけであれば、キャリブレーション装置の機能を備えていない第2のプロセッサ2でも構わない(この場合には、抵抗切替部24を備えていなくても構わない)。
【0071】
図4に示す内視鏡システムは、内視鏡1と、内視鏡1とは別体に構成されたプロセッサ2(上述した第2のプロセッサ2)とが、コネクタ1aおよびコネクタ受け2aにより着脱可能に接続されて構成されている。
【0072】
内視鏡1は、上述したホール素子11A、および増幅回路12の具体例としての差動増幅回路12Aを備えると共に、アクチュエータ13、撮像光学系14、撮像素子15、内視鏡メモリ16、およびユーザ操作部17を備えている。
【0073】
撮像光学系14は、被検体の光学像(被検体像)を撮像素子15の撮像面に結像する。撮像光学系14は可動レンズ14aを備えており、可動レンズ14aは、撮像光学系14の光軸の方向に移動可能な光学素子である。可動レンズ14aが光軸の方向に移動すると、撮像光学系14の結像状態が調整され、例えばフォーカス位置(または、ズーム位置でも構わない)が変更される。従って、可動レンズ14aは、例えばフォーカスレンズ(またはズームレンズ)として機能する。なお、ここでは撮像光学系14の結像状態を調整する可動部材として可動レンズ14aを例に挙げているが、レンズに限定されるものではなく、光学フィルタ、光学絞り、プリズム、ミラーなどのその他の光学素子であっても構わない。
【0074】
撮像素子15は、撮像面に複数の画素が配列されており、撮像光学系14により結像された被検体像を各画素で光電変換することにより、複数の画素信号で構成される撮像信号を生成する。なお、撮像光学系14および撮像素子15を含んで撮像系が構成されている。ここでは内視鏡システムが電子内視鏡システムである例を説明するが、これに限定されるものではなく、撮像光学系14の結像状態を調整可能な光学内視鏡システムであっても構わない。また、内視鏡システムは、医療用、工業用、学術等のその他用の、何れ用であっても構わない。
【0075】
アクチュエータ13は、可動レンズ14aを光軸方向に移動するものであり、例えば、コイルと磁石とを有し、電磁力によって駆動力を発生させるボイスコイルモータ(VCM:Voice Coil Motor)として構成されている(ただし、ボイスコイルモータに限定されるものではない)。
【0076】
また、磁石13aは、永久磁石等で構成されていて、可動部材である可動レンズ14aと光軸方向に一体的に移動するように接続されている。磁石13aが発生する磁場は、ホール素子11Aが、磁石13aと一体的に移動する可動レンズ14aの位置(または、上述したように可動部材(例えば光学絞りなど)の角度であっても構わないが、以下では主として位置を例に挙げて説明する)を検出するために用いられる。ここに、アクチュエータ13として例えばボイスコイルモータを用いる場合には、磁石13aはボイスコイルモータの一部を兼ねることができる(内視鏡先端部の小型化を達成する観点からは、この構成を採用するとよい)。
【0077】
具体的に、例えば、可動レンズ14aを保持する可動枠などの可動部には磁石13aが固定されており、可動枠を光軸方向に移動可能に保持する固定枠などの固定部にはアクチュエータ13のコイルが取り付けられている。そして、磁石13aが発生する磁界中にあるコイルに電流を印加することにより、コイルにローレンツ力が発生し、固定枠が固定されているために、ローレンツ力の反作用により可動部が光軸方向に移動する。
【0078】
なお、ここではムービングマグネット型のボイスコイルモータを説明したが、ムービングコイル型のボイスコイルモータであっても構わない。
【0079】
ホール素子11Aは、磁石13aに対向するように固定部側に固定して配置されており、可動レンズ14aの光軸方向の位置を検出して検出信号を出力する位置/角度センサである。
【0080】
差動増幅回路12Aは、ホール素子11Aから出力されたアナログの検出信号を増幅するものである。なお、ここでは増幅回路12として差動増幅回路12Aを例に挙げているが、これに限定されるものではない。
【0081】
内視鏡メモリ16は、書込可能な不揮発性のメモリ回路(内視鏡メモリ回路)である。キャリブレーション装置と接続されてキャリブレーションが行われた内視鏡1の内視鏡メモリ16には、上述したように、出力誤差感度データであるオフセット電圧感度Δ、およびオフセット電圧感度Δを求めたキャリブレーション装置における、動作電流を供給するための配線の第1の配線抵抗値RPGNDが記憶されている。
【0082】
また、内視鏡メモリ16には、内視鏡1に係る内視鏡機種情報(型番や製造番号など)、その他の内視鏡1に関連する各種の情報などがさらに記憶されている。
【0083】
ユーザ操作部17は、上述したように、撮像光学系14の結像状態(フォーカス位置、ズーム位置など)を調整するための操作デバイスである。すなわち、ユーザがユーザ操作部17を操作することにより、可動レンズ14aの目標位置を示す指示信号がユーザ操作部17からプロセッサ2側へ送信される。一例を挙げれば、ユーザ操作部17により、可動レンズ14aの目標位置を、遠点フォーカス位置と近点フォーカス位置との何れにするかが設定される(ただし、遠点と近点との2点フォーカスに限定されるものではなく、連続的にフォーカス位置(または、ズーム位置)を変更するようにしても構わないことは勿論である)。
【0084】
なお、ここでは、ユーザ操作部17からの設定による手動フォーカスを説明したが、これに限定されるものではなく、撮像素子15から得られた撮像信号に基づくオートフォーカス等を行っても構わない。なお、ユーザ操作部17は、撮像に関連する操作、および内視鏡システムに対するその他の操作を行う際にも用いられるが、ここでは説明を省略する。
【0085】
上述したように、内視鏡1のコネクタ1aは、プロセッサ2のコネクタ受け2aと、機構的および電気的に着脱可能に接続される。内視鏡1とプロセッサ2とが接続されたときに、コネクタ1aおよびコネクタ受け2aを経由して送受信する信号は、例えば以下のようになっている。
【0086】
内視鏡1は、アクチュエータ13への駆動信号と、差動増幅回路12Aへの基準電圧Vrefの信号と、ホール素子11Aへの定電流Iの信号とを、プロセッサ2から受信する。また、内視鏡1は、ユーザ操作部17からの指示信号と、差動増幅回路12Aからの出力信号Voutと、ホール素子11Aからの定電流Iの戻り信号と、内視鏡メモリ16のデータとを、プロセッサ2へ送信する。
【0087】
プロセッサ2は、内視鏡1から撮像信号を取得して、信号処理を行い映像信号を生成し、映像信号をモニタ等へ出力して内視鏡画像を表示させる。
【0088】
プロセッサ2は、撮像光学系14の駆動に関連する構成として、定電流回路21と、位置検出信号補正部22Aと、基準電圧回路23と、抵抗切替部24と、ADC25と、プロセッサメモリ26と、駆動制御部27と、ドライバ回路28と、を備えている。
【0089】
ドライバ回路28は、駆動制御部27の制御に基づいて、アクチュエータ13へ駆動信号を出力し、アクチュエータ13を駆動する。具体的に、ドライバ回路28が、所定の電流値の駆動信号をアクチュエータ13のコイルへ印加することで、可動レンズ14aおよび磁石13aを含む可動部が電磁力で移動される。
【0090】
ADC25は、ホール素子11Aから出力され差動増幅回路12Aにより増幅されたアナログの出力信号Voutを、デジタル信号Vout(LSB)に変換するアナログ・デジタル・コンバータ(A/D変換器)である。
【0091】
定電流回路21は、ホール素子11Aに、一定の電流値Iの電流(ホール素子11Aへのバイアス電流)を供給する。
【0092】
基準電圧回路23は、差動増幅回路12Aに、基準電圧Vrefの信号を供給する。
【0093】
抵抗切替部24は、プロセッサ2がオフセット電圧感度Δを測定するキャリブレーション装置の機能を備える場合に設けられ、図1に示したように、プロセッサ2内の第1の配線抵抗RPGNDの配線と、第1の配線抵抗値RPGNDとは異なる第2の配線抵抗値R′PGNDの第2の配線と、を切り替える。
【0094】
プロセッサメモリ26は、書込可能な不揮発性のメモリ回路(プロセッサメモリ回路)である。プロセッサメモリ26には、可動レンズ14aの位置/角度を検出する際に用いるプロセッサ配線抵抗値RP′GNDが記憶されている。
【0095】
また、プロセッサ2がキャリブレーション装置の機能を備えていて、抵抗切替部24を備えている場合には、第2の配線抵抗値R′P′GNDもキャリブレーションメモリを兼ねたプロセッサメモリ26に記憶されている。このときには、定電流回路21が第2の定電流回路を兼ね、信号処理回路22が第2の信号処理回路を兼ねる。
【0096】
さらに、プロセッサメモリ26には、プロセッサ2に係るプロセッサ機種情報(型番や製造番号など)、プロセッサ2において実行される処理プログラム、プロセッサ2内で使用される各種のパラメータ、ユーザにより内視鏡システムに対して設定された設定値、その他のプロセッサ2に関連する各種の情報などが記憶されている。
【0097】
位置検出信号補正部22Aは、図1に示した信号処理回路22に対応する回路であり、内視鏡1の増幅回路12からの出力電圧Voutの信号を入力する。さらに、位置検出信号補正部22Aは、内視鏡メモリ16からオフセット電圧感度Δおよび第1の配線抵抗値RPGND(オフセット電圧感度Δを測定したキャリブレーション装置における第1の配線抵抗値)を入力すると共に、プロセッサメモリ26からこのプロセッサ2に係るプロセッサ配線抵抗値RP′GNDを入力する。
【0098】
そして、位置検出信号補正部22Aは、各入力値に基づいて、数式11に示したような演算を行うことにより、補正された出力電圧Vcorrectionを算出する。その後、位置検出信号補正部22Aは、出力電圧Vcorrectionに基づいて、検出対象が位置である場合には位置検出信号を生成し、駆動制御部27へ出力する。
【0099】
なお、ここでは位置検出を行う場合を想定して「位置検出信号補正部」の名称を用いたが、角度検出を行う場合には「角度検出信号補正部」の名称を用いてもよいし、位置および角度を所望に検出する場合には「位置/角度検出信号補正部」などの名称を用いればよい。
【0100】
駆動制御部27は、例えばCPUなどの演算処理回路を含んで構成され、位置検出信号補正部22Aからの位置検出信号が示す可動レンズ14aの位置が、ユーザ操作部17からの指示信号が示す目標位置に一致するように、ドライバ回路28を制御する制御回路である。
【0101】
具体的に、駆動制御部27は、検出信号が示す可動レンズ14aの現在の位置と、ユーザ操作部17からの指示信号が示す可動レンズ14aの目標位置と、の差分が0になるような(つまり、可動レンズ14aの位置が目標位置になるような)電流値の電流がドライバ回路28から出力されるように、ドライバ回路28へ制御信号を出力してフィードバック制御するようになっている。
【0102】
また、図4に示すような、キャリブレーション装置の機能を備えるプロセッサ2が、キャリブレーションモードに手動または自動で設定されたときには、図1図3を参照して説明したような、オフセット電圧感度Δを測定して、測定したオフセット電圧感度Δおよび第1の配線抵抗値を兼ねたプロセッサ配線抵抗値RP′GNDを内視鏡メモリ16に記憶させる処理を行う。ここに、キャリブレーションモードに自動で設定されるのは、例えば、プロセッサ2に接続された内視鏡1の内視鏡メモリ16に、オフセット電圧感度Δおよび第1の配線抵抗値RPGNDがまだ記憶されていない場合などである。また、手動によるキャリブレーションモードの設定は、ユーザ操作部17の操作、またはプロセッサ2に設けられている図示しないプロセッサ操作部の操作により行われる。
【0103】
図5は、内視鏡システムにおける、オフセット電圧感度推定の処理を示すフローチャートである。この図5に示す処理は、単体のキャリブレーション装置、またはキャリブレーション装置の機能を備えるプロセッサ2において、キャリブレーションモードに設定することにより行われる(ここでは、プロセッサ2において実行される例を説明する)。
【0104】
図示しないメイン処理からこの処理に入ると、抵抗切替部24が、定電流Iの戻り信号の配線を、第1の配線抵抗値RPGNDの配線に切り替える(ステップS1)。
【0105】
また、駆動制御部27がドライバ回路28を制御してアクチュエータ13を駆動することにより、可動レンズ14aを含む可動部を可動域の端(メカニカル端部)に当て付けさせる(ステップS2)。
【0106】
具体的に、ドライバ回路28からアクチュエータ13のコイルに電流を印加して、アクチュエータ13をオープン制御し、可動域の端に当て付くまで可動部を移動させる。これにより、可動レンズ14aを含む可動部は一定の位置に維持され、磁石13aからホール素子11Aに入射する磁束密度が一定に保たれた状態となり、ホール素子11Aおよび差動増幅回路12Aからの出力電圧Voutが(配線抵抗値を変化させたときの変化分を除いて)基本的に一定になる。
【0107】
差動増幅回路12Aからの、配線抵抗値RPGNDに対応した第1の出力電圧Vout(RPGND)を、ADC25によりA/D変換する。そして、デジタル化された出力電圧Vout(RPGND)を位置検出信号補正部22Aが取得して、位置検出信号補正部22A内のバッファメモリに一時的に記憶する(ステップS3)。
【0108】
次に、抵抗切替部24が、定電流Iの戻り信号の配線を、第2の配線抵抗値R′PGNDの第2の配線に切り替える(ステップS4)。
【0109】
差動増幅回路12Aからの、配線抵抗値R′PGNDに対応した第2の出力電圧Vout(R′PGND)を、ADC25によりA/D変換する。そして、デジタル化された出力電圧Vout(R′PGND)を位置検出信号補正部22Aが取得して、位置検出信号補正部22A内のバッファメモリに一時的に記憶する(ステップS5)。
【0110】
位置検出信号補正部22Aが、プロセッサメモリ26から配線抵抗値RPGNDおよび配線抵抗値R′PGNDを取得して、バッファメモリに記憶した出力電圧Vout(RPGND)および出力電圧Vout(R′PGND)を用いて、数式10に示したようにオフセット電圧感度Δを算出する(ステップS6)。
【0111】
位置検出信号補正部22Aが、算出したオフセット電圧感度Δと、第1の配線抵抗値RPGNDとを、内視鏡メモリ16に記憶させる(ステップS7)。
【0112】
こうして、ステップS7の処理を行ったら、図示しないメイン処理へリターンする。
【0113】
図6は、内視鏡システムにおける、オフセット電圧補正の処理を示すフローチャートである。この図6に示す処理は、キャリブレーションが行われた内視鏡1、つまり、オフセット電圧感度Δおよび第1の配線抵抗値RPGNDが内視鏡メモリ16に記憶されている内視鏡1が、プロセッサ2に接続されて、可動レンズ14aの位置を検出する動作を行っている間に、位置検出信号補正部22Aが位置検出信号を駆動制御部27へ出力する毎に実行される。
【0114】
図示しないメイン処理からこの処理に入ると、位置検出信号補正部22Aが、内視鏡メモリ16から、オフセット電圧感度Δと第1の配線抵抗値RPGNDとを読み出す(ステップS11)。
【0115】
さらに、位置検出信号補正部22Aが、プロセッサメモリ26からプロセッサ配線抵抗値RP′GNDを読み出す(ステップS12)。
【0116】
そして、位置検出信号補正部22Aが、オフセット電圧感度Δと、第1の配線抵抗値RPGNDと、プロセッサ配線抵抗値RP′GNDと、ADC25から入力したデジタルの出力電圧Voutとに基づき、上述した数式11を用いて、補正された出力電圧Vcorrectionを算出する(ステップS13)。
【0117】
こうして、ステップS13の処理を行ったら、図示しないメイン処理へリターンする。
【0118】
なお、図1には、第1の配線抵抗RPGNDと第2の配線抵抗R′PGNDとの2つが抵抗切替部24に設けられている例を説明したが、抵抗値が異なる3つ以上の抵抗を設けても構わない(すなわち、抵抗切替部24内には、抵抗値が異なる抵抗を少なくとも2つ設ければよい)。ここに図7は、抵抗切替部24の変形例を示す図である。
【0119】
図7に示す例では、抵抗切替部24に、第1の配線抵抗RPGNDと、第1の配線抵抗RPGNDとは抵抗値が異なる第2の配線抵抗R′PGNDと、第1の配線抵抗RPGNDおよび第2の配線抵抗R′PGNDの何れとも抵抗値が異なる第3の配線抵抗R″PGNDとが、スイッチSWにより切り替え可能に設けられている。
【0120】
このような構成の抵抗切替部24を用いる第1の方法は、内視鏡1とプロセッサ2との組み合わせに応じて、3つの配線抵抗の内の適切な2つを選択する方法である。図3に示したような傾きを示すオフセット電圧感度Δは、測定する2点間の値がある程度離れていないと精度を確保することができないために、内視鏡1とプロセッサ2との組み合わせに応じて適切な2つの配線抵抗を選択するとよい。
【0121】
具体的に、ある機種の内視鏡1に対しては第1の配線抵抗RPGNDと第2の配線抵抗R′PGNDとを用いて上述したようにオフセット電圧感度Δを求め、他の機種の内視鏡1に対しては第1の配線抵抗RPGNDと第3の配線抵抗R″PGNDとを用いて上述したようにオフセット電圧感度Δを求める、等を行えばよい。
【0122】
また、抵抗切替部24を用いる第2の方法は、3つ以上の配線抵抗を用いて図3に示すグラフにおける3つ以上のプロット点を求め、3つ以上のプロット点から最適なオフセット電圧感度Δを求める方法である。
【0123】
一般に、抵抗値が異なる抵抗の数を多くすればオフセット電圧感度Δの精度が高くなるために、抵抗切替部24内に幾つの抵抗を設けて、それぞれの抵抗の抵抗値をどのように設定するかは、オフセット電圧感度Δとしてどのような精度の値が必要であるかに応じて適切に決めればよい。
【0124】
なお、抵抗切替部24として1つの可変抵抗を用いる構成を採用することも可能であるが、高い精度で抵抗値が既知であることが必要であるために、図1図7に示したような、固定された抵抗値の抵抗を複数設ける方が好ましい。
【0125】
ところで、上述では、オフセット電圧感度Δおよび配線抵抗値RPGNDを記憶させるプロセッサ2により読み出し可能なメモリとして、内視鏡メモリ16を例に挙げたが、これに限定されるものではなく、プロセッサメモリ26としても構わない。
【0126】
図8は、内視鏡1の機種情報に応じて、オフセット電圧感度Δおよび配線抵抗値RPGNDのセットをプロセッサメモリ26に記憶する変形例を示す図である。
【0127】
この変形例における内視鏡システムの構成は、図4に示したものと同様である。
【0128】
ただし、内視鏡メモリ16は内視鏡機種情報(型番や製造番号など)を記憶しているが、オフセット電圧感度Δおよび配線抵抗値RPGNDは記憶している必要がない。
【0129】
また、プロセッサメモリ26は、図8に示すように、プロセッサ2に接続可能な全ての機種の内視鏡1に対するオフセット電圧感度Δおよび第1の配線抵抗値RPGNDのセットが、内視鏡機種情報毎に複数セット記憶されている。
【0130】
具体的に、プロセッサメモリ26には、機種1に対応するオフセット電圧感度Δ1および配線抵抗値RP1GNDのセットが記憶され、機種2に対応するオフセット電圧感度Δ2および配線抵抗値RP2GNDのセットが記憶され、機種3に対応するオフセット電圧感度Δ3および配線抵抗値RP3GNDのセットが記憶される、等である。
【0131】
ここに、内視鏡1の機種が同一であれば個体が異なってもオフセット電圧感度Δおよび配線抵抗値RPGNDがほぼ同一になることを想定しており、プロセッサメモリ26に記憶するオフセット電圧感度Δおよび配線抵抗値RPGNDは、機種毎の代表値となっている。
【0132】
ただし、同一の型番の内視鏡1であっても、製造ロット毎にオフセット電圧感度Δおよび配線抵抗値RPGNDが異なることが考えられるために、型番だけでなく、製造番号から把握できる製造ロットを含めた情報を内視鏡機種情報とするとよい。
【0133】
さらに、プロセッサメモリ26には、プロセッサ2自体において可動部材の位置/角度検出に用いるプロセッサ配線抵抗値RP′GNDが記憶されている。
【0134】
加えて、プロセッサメモリ26には、内視鏡1の型番や製造番号などに応じて予め分かっているアクチュエータ13、ホール素子11A、差動増幅回路12Aなどの情報が、データベースとして記憶されている。
【0135】
そして、信号処理回路22は、内視鏡1とプロセッサ2とが接続されたときに、内視鏡メモリ16から内視鏡機種情報を読み出し、内視鏡機種情報に応じたオフセット電圧感度Δおよび第1の配線抵抗値RPGNDのセットをプロセッサメモリ26から読み出して、第1の配線抵抗値RPGNDとプロセッサ配線抵抗値RP′GNDとの差分にオフセット電圧感度Δを乗算した値に基づき、上述した数式11を用いて出力信号Voutの誤差を補正し、出力電圧Vcorrectionを算出する。
【0136】
この変形例では、内視鏡メモリ16に記憶する情報量が減る一方、プロセッサメモリ26に記憶する情報量が増えることになる。
【0137】
この図8を参照して説明したような変形例は、内視鏡メモリ16の記憶容量を増やすことができない場合や、プロセッサ2に接続可能な内視鏡1の機種が限定される場合などに適用するとよい。ただし、キャリブレーション装置の機能を備えるプロセッサ2の場合には、データベースに記録されていない機種の内視鏡1が接続されたときに、キャリブレーションを行ってオフセット電圧感度Δを算出し、プロセッサメモリ26のデータベースに、新たな内視鏡機種情報に応じたオフセット電圧感度Δおよび配線抵抗値RPGNDを追加すればよい。
【0138】
なお、上述では位置/角度センサ11としてホール素子11Aを例に挙げたが、これに限定されるものではなく、バイアス電流を与えて差動出力を検出するタイプのセンサを、位置/角度センサ11として広く適用することができる。こうしたセンサの具体例としては、MRセンサ(磁気抵抗素子)、光学式のPSD(位置検出デバイス:Position Sensing Device)等が挙げられる。さらには、位置/角度センサ11に代えて、ピエゾ抵抗効果を用いた圧力センサなどに本実施形態の出力電圧Voutを補正する技術を適用しても構わない。
【0139】
また、上述では、プロセッサ2により読み出し可能なメモリとして、内視鏡メモリ16およびプロセッサメモリ26を例に挙げたが、これらに限定されるものではなく、プロセッサ2が通信回線を経由して読み出し可能なメモリ、例えば院内ネットワークにおけるサーバのメモリ等であっても構わない。この場合には、複数機種のプロセッサがサーバにアクセスすることも考慮して、プロセッサ2の機種毎に図8に示したようなデータベースを作成しておくとよい。
【0140】
このような実施形態1によれば、位置検出信号補正部22Aが出力電圧Voutの誤差を補正して、補正した出力電圧Vcorrectionに基づく位置検出信号を出力するようにしたために、位置検出を高い精度で行うことができる。
【0141】
そして、駆動制御部27は、高い精度の位置検出信号に基づきドライバ回路28を経由してアクチュエータ13を駆動制御することができるために、可動レンズ14a等の可動部材を高い精度で目標位置に移動することができる。
【0142】
その結果、フォーカス位置、ズーム位置、絞り口径などを高い精度で設定することができ、撮像光学系14の結像性能を向上して、高画質の内視鏡画像を得ることができる。
【0143】
さらに、第1の配線抵抗値RPGNDとプロセッサ配線抵抗値RP′GNDとの差分にオフセット電圧感度Δを乗算した値に基づいて、出力電圧Voutの誤差を補正するようにしたために、高速な演算処理を低負荷で簡単に行うことができる。
【0144】
加えて、プロセッサメモリ26に、動作電流を供給するための配線のプロセッサ配線抵抗値RP′GNDを記憶するようにしたために、どのような機種の内視鏡1が接続されたかに依ることなく、プロセッサ2の個体に適応した出力電圧Voutの補正を行うことができる。
【0145】
こうして、任意の内視鏡1と任意のプロセッサ2とを組み合わせた場合でも、出力電圧Voutを適切に補正することが可能となる。
【0146】
また、出力電圧Voutを補正するのに必要なオフセット電圧感度Δおよび第1の配線抵抗値RPGNDを内視鏡メモリ16に記憶するようにした場合には、内視鏡1の個体毎に最適な補正を行うことが可能となる。
【0147】
一方、内視鏡メモリ16に内視鏡機種情報を記憶し、プロセッサメモリ26にオフセット電圧感度Δおよび第1の配線抵抗値RPGNDのセットを、複数の内視鏡機種情報に応じて複数セット記憶して、プロセッサ2に接続された内視鏡1の内視鏡機種情報に応じたオフセット電圧感度Δおよび第1の配線抵抗値RPGNDのセットをプロセッサメモリ26から読み出して出力電圧Voutの誤差を補正するようにした場合には、内視鏡メモリ16の記憶容量を削減することができ、内視鏡1の低価格化を図ることができる。
【0148】
そして、キャリブレーション装置が備える抵抗切替部24により第1の配線抵抗値RPGNDと第2の配線抵抗値R′PGNDとを切り替えてオフセット電圧感度Δを求めるようにしたために、キャリブレーションが未実行の内視鏡1のキャリブレーションを行うことができる。
【0149】
このとき、プロセッサ2がキャリブレーション装置の機能を備えるように構成すれば、内視鏡1がプロセッサ2に接続されたときに、必要に応じて適宜キャリブレーションを行うことができる。これにより、プロセッサ2と内視鏡1との組み合わせに応じた最適な出力電圧Voutの補正を行うことが可能となる。
【0150】
また、位置/角度センサ11としてホール素子11Aを用いて、可動部材に一体的に接続された磁石13aから入射される磁束密度を検出するようにした場合には、非接触での位置検出となるために、可動部材の移動を妨げることがない。
【0151】
そして、増幅回路12として差動増幅回路12Aを用いることにより、ホール素子11Aの出力に適した信号増幅を行うことができる。
【0152】
さらに、可動部材をボイスコイルモータにより移動する構成において、ボイスコイルモータの磁石13aからの磁束密度をホール素子11Aにより検出することで、磁石13aが駆動と検出とを兼ねることができ、構成を簡単にして内視鏡先端部の細径化に寄与することができる。
【0153】
なお、上述した各部の処理は、ハードウェアとして構成された1つ以上のプロセッサが行うようにしてもよい。例えば、各部は、それぞれが電子回路として構成されたプロセッサであっても構わないし、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路で構成されたプロセッサにおける各回路部であってもよい。または、1つ以上のCPUで構成されるプロセッサが、記録媒体に記録されたコンピュータプログラムを読み込んで実行することにより、各部としての機能を実行するようにしても構わない。
【0154】
また、上述では主として内視鏡システム、プロセッサ、キャリブレーション装置、内視鏡について説明したが、内視鏡システム、プロセッサ、キャリブレーション装置、内視鏡を上述したように作動させる作動方法であってもよいし、コンピュータに内視鏡システム、プロセッサ、キャリブレーション装置、内視鏡と同様の処理を行わせるためのコンピュータプログラム、該コンピュータプログラムを記録するコンピュータにより読み取り可能な一時的でない記録媒体、等であっても構わない。
【0155】
さらに、本発明は上述した実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明の態様を形成することができる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。このように、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々の変形や応用が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0156】
1…内視鏡
1a…コネクタ
2…プロセッサ
2a…コネクタ受け
11…位置/角度センサ
11A…ホール素子
12…増幅回路
12A…差動増幅回路
12a…差動増幅器
13…アクチュエータ
13a…磁石
14…撮像光学系
14a…可動レンズ
15…撮像素子
16…内視鏡メモリ
17…ユーザ操作部
21…定電流回路
22…信号処理回路
22A…位置検出信号補正部
23…基準電圧回路
24…抵抗切替部
25…ADC
26…プロセッサメモリ
27…駆動制御部
28…ドライバ回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8