(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】プリプレグの製造方法及びプリプレグ
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20221031BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
C08J5/24 CEZ
C08J5/24 CFC
C08L63/00 A
(21)【出願番号】P 2019142841
(22)【出願日】2019-08-02
【審査請求日】2022-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】松本 隆之
(72)【発明者】
【氏名】福田 欣弘
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/076070(WO,A1)
【文献】特開2019-99987(JP,A)
【文献】特開2003-80607(JP,A)
【文献】特開2005-313607(JP,A)
【文献】特開2013-166854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B11/16,15/08-15/14
C08J5/04-5/10,5/24
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維と、前記強化繊維の繊維間に含浸された、(A)ベンゾオキサジン樹脂、(B)エポキシ樹脂、及び、(C)分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する硬化剤を含有する樹脂組成物と、を含む強化繊維層と、
前記強化繊維層の少なくとも一方の表面上に設けられた、ポリアミド繊維を含む布と、前記ポリアミド繊維の繊維間に含浸された、前記(A)成分、前記(B)成分、及び、前記(C)成分を含有する樹脂組成物と、を含む表面繊維層と、
を備えるプリプレグの製造方法であって、
前記強化繊維を含む強化繊維基材の少なくとも一方の表面上に、前記布を配置する配置工程と、
前記配置工程の前又は後、或いは前記配置工程と同時に、前記(A)成分、前記(B)成分、及び、前記(C)成分を含有する樹脂組成物を前記強化繊維基材に供給し、前記強化繊維の繊維間に樹脂組成物を含浸させる含浸工程と、
を備え、
前記ポリアミド繊維が、第1のポリアミド樹脂と、融点が前記第1のポリアミド樹脂の融点よりも7~50℃高い第2のポリアミド樹脂とを含む、プリプレグの製造方法。
【請求項2】
前記強化繊維基材の少なくとも一方の表面上に、前記(A)成分、前記(B)成分、及び、前記(C)成分を含有する樹脂組成物を前記ポリアミド繊維の繊維間に含浸させた前記布を配置することで、前記配置工程と前記含浸工程とを同時に行う、請求項1に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項3】
前記ポリアミド繊維が、前記第2のポリアミド樹脂を含む芯部と、前記芯部を被覆する前記第1のポリアミド樹脂を含む鞘部と、を備えた芯鞘構造の繊維を含む、請求項1又は2に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項4】
前記ポリアミド繊維において、前記第1のポリアミド樹脂と前記第2のポリアミド樹脂との含有割合が、質量比で、前記第1のポリアミド樹脂:前記第2のポリアミド樹脂=70:30~30:70の範囲である、請求項1~3のいずれか一項に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項5】
前記布が、編布、織布及び不織布からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1~4のいずれか一項に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項6】
前記布の最大開口面積が0.2~3mm
2である、請求項1~5のいずれか一項に記載のプリプレグの製造方法。
【請求項7】
強化繊維と、前記強化繊維の繊維間に含浸された、(A)ベンゾオキサジン樹脂、(B)エポキシ樹脂、及び、(C)分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する硬化剤を含有する樹脂組成物と、を含む強化繊維層と、
前記強化繊維層の少なくとも一方の表面上に設けられた、ポリアミド繊維を含む布と、前記ポリアミド繊維の繊維間に含浸された、前記(A)成分、前記(B)成分、及び、前記(C)成分を含有する樹脂組成物と、を含む表面繊維層と、
を備え、
前記ポリアミド繊維が、第1のポリアミド樹脂と、融点が前記第1のポリアミド樹脂の融点よりも7~50℃高い第2のポリアミド樹脂とを含む、プリプレグ。
【請求項8】
前記ポリアミド繊維が、前記第2のポリアミド樹脂を含む芯部と、前記芯部を被覆する前記第1のポリアミド樹脂を含む鞘部と、を備えた芯鞘構造の繊維を含む、請求項7に記載のプリプレグ。
【請求項9】
前記ポリアミド繊維において、前記第1のポリアミド樹脂と前記第2のポリアミド樹脂との含有割合が、質量比で、前記第1のポリアミド樹脂:前記第2のポリアミド樹脂=70:30~30:70の範囲である、請求項7又は8に記載のプリプレグ。
【請求項10】
前記布が、編布、織布及び不織布からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項7~9のいずれか一項に記載のプリプレグ。
【請求項11】
前記布の最大開口面積が0.2~3mm
2である、請求項7~10のいずれか一項に記載のプリプレグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグの製造方法及びプリプレグに関する。本発明は、特には、航空機用途、船舶用途、自動車用途、スポーツ用途、その他一般産業用途の繊維強化複合材料を得るために利用されるプリプレグの製造方法及びプリプレグに関する。
【背景技術】
【0002】
各種繊維とマトリックス樹脂からなるプリプレグを複数積層して得られる繊維強化複合材料は、その優れた力学物性から、航空機、船舶、自動車、スポーツ用品やその他一般産業用途などに広く使われている。近年、その使用実績を積むに従い、繊維強化複合材料の適用範囲はますます拡がっている。
【0003】
このような繊維強化複合材料として、ベンゾオキサジン樹脂を利用したものが、例えば、特許文献1及び2に提案されている。ベンゾオキサジン樹脂は、優れた耐湿性及び耐熱性を有するが、靱性に劣る問題があり、エポキシ樹脂や各種樹脂微粒子等を配合してその欠点を補う工夫がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-16121号公報
【文献】特開2010-13636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、航空機用途の繊維強化複合材料は更なる軽量化が望まれている。材料の軽量化のためには、特に、航空機用途で必要とされる力学特性の中でも衝撃後圧縮強度(以下、CAI強度という場合もある)を高次元で達成することが必要である。加えて、繊維強化複合材料には、CAI強度のばらつきが少ないことが求められている。これは、繊維強化複合材料のCAI強度のばらつきが大きいと、衝撃付与時にCAI強度が相対的に低い箇所に応力が集中し、局所的に損傷が生じたり、CAI強度が相対的に低い箇所を起点として損傷が広がるといった問題が起こるおそれがあるためである。また、複数の繊維強化複合材料を製造した際に、それぞれの繊維強化複合材料間でCAI強度のばらつきが大きいと、要求されるCAI強度の規格値を満たさない不良品が発生しやすくなると共に、規格値を満たしていたとしても、同じ用途にCAI強度がばらついている複数の繊維強化複合材料を用いた場合に、得られる目的物の品質が安定しないという問題が生じる。そのため、繊維強化複合材料には、優れたCAI強度を有するだけでなく、CAI強度のばらつきが少ないことも求められている。しかし、上記特許文献に具体的に記載された例では、必ずしも優れたCAI強度とCAI強度のばらつきの低減とが同時に高次元で達成されているとはいえない。
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、優れた耐湿性及び耐熱性を有するベンゾオキサジン樹脂を利用しつつ、優れたCAI強度とCAI強度のばらつきの低減とを同時に高次元で達成された繊維強化複合材料を得ることができるプリプレグの製造方法、並びに、プリプレグを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、強化繊維と、強化繊維の繊維間に含浸された、(A)ベンゾオキサジン樹脂、(B)エポキシ樹脂、及び、(C)分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する硬化剤を含有する樹脂組成物と、を含む強化繊維層と、強化繊維層の少なくとも一方の表面上に設けられた、ポリアミド繊維を含む布と、ポリアミド繊維の繊維間に含浸された、(A)成分、(B)成分、及び、(C)成分を含有する樹脂組成物と、を含む表面繊維層と、を備えるプリプレグの製造方法であって、強化繊維を含む強化繊維基材の少なくとも一方の表面上に、布を配置する配置工程と、配置工程の前又は後、或いは配置工程と同時に、(A)成分、(B)成分、及び、(C)成分を含有する樹脂組成物を強化繊維基材に供給し、強化繊維の繊維間に樹脂組成物を含浸させる含浸工程と、を備え、ポリアミド繊維が、第1のポリアミド樹脂と、融点が第1のポリアミド樹脂の融点よりも7~50℃高い第2のポリアミド樹脂とを含む、プリプレグの製造方法を提供する。
【0008】
本発明の製造方法により得られたプリプレグを複数積層し、加圧下で加熱することにより、繊維強化複合材料を得ることができる。該繊維強化複合材料は、優れた耐湿性及び耐熱性を有するベンゾオキサジン樹脂を利用しつつ、優れたCAI強度とCAI強度のばらつきの低減とを同時に高次元で達成することができる。該繊維強化複合材料は、上記の優れた物性によって材料の軽量化及び薄型化を図ることができる。更に、該繊維強化複合材料は、ILSS及び層間破壊靭性を高次元で達成し、衝撃付与後の損傷面積を減少させ、かつ、これらのばらつきの低減を図ることができる。
【0009】
本発明はまた、強化繊維と、強化繊維の繊維間に含浸された、(A)ベンゾオキサジン樹脂、(B)エポキシ樹脂、及び、(C)分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する硬化剤を含有する樹脂組成物と、を含む強化繊維層と、強化繊維層の少なくとも一方の表面上に設けられた、ポリアミド繊維を含む布と、ポリアミド繊維の繊維間に含浸された、(A)成分、(B)成分、及び、(C)成分を含有する樹脂組成物と、を含む表面繊維層と、を備え、ポリアミド繊維が、第1のポリアミド樹脂と、融点が第1のポリアミド樹脂の融点よりも7~50℃高い第2のポリアミド樹脂とを含む、プリプレグを提供する。
【0010】
本発明のプリプレグによれば、得られたプリプレグを複数積層し、加圧下で加熱することにより、優れた耐湿性及び耐熱性を有するベンゾオキサジン樹脂を利用しつつ、優れたCAI強度とCAI強度のばらつきの低減とを同時に高次元で達成された繊維強化複合材料を得ることができる。該繊維強化複合材料は、上記の優れた物性によって材料の軽量化及び薄型化を図ることができる。更に、該繊維強化複合材料は、ILSS及び層間破壊靭性を高次元で達成し、衝撃付与後の損傷面積を減少させ、かつ、これらのばらつきの低減を図ることができる。
【0011】
上記プリプレグの製造方法によって得られたプリプレグを複数積層し、加圧下で加熱することにより、CAI強度とCAI強度のばらつきの低減とを同時に高次元で達成された繊維強化複合材料を得ることができることについて、発明者らは以下のように考えている。すなわち、ポリアミド樹脂としてポリアミド繊維を含む布を用いることで、ポリアミド樹脂としてポリアミド樹脂粒子を用いた場合と比較して、ポリアミド樹脂がプリプレグの面内に均一に分布する。ポリアミド樹脂が局在的に密集することが無いために、ポリアミド樹脂が強化繊維層に対して均一に入り込み、その結果、CAI強度のばらつきの低減を高次元で達成した繊維強化複合材料を得ることができると考えられる。
【0012】
ポリアミド繊維の融解温度は、ベンゾオキサジン樹脂の硬化剤であるフェノール性水酸基を有する化合物の存在により低下する。そして、ポリアミド繊維の融解温度が低くなり過ぎると、プリプレグを用いて繊維強化複合材料を作製する際の熱硬化樹脂の硬化時にポリアミド繊維が過度に融解しやすくなることで、融解したポリアミド繊維が強化繊維層に過度に入り込みやすくなる。これに対し、上記特定の2種のポリアミド樹脂を含むポリアミド繊維を用いることにより、上記樹脂組成物を硬化させる温度条件において、一方のポリアミド樹脂が流動しにくい状態で他方のポリアミド樹脂を適度に融解させることができ、その結果、繊維層間に接着性及びはく離抵抗に優れた樹脂硬化層が形成されると考えられる。
【0013】
また、ポリアミド樹脂としてポリアミド繊維を含む布を用いた場合には、ポリアミド樹脂としてポリアミド樹脂粒子を用いた場合と比較して、繊維強化複合材料の更なる軽量化及び薄型化を図ることができる。これは、ポリアミド樹脂粒子を使用する場合、その粒径により、ホットメルト法でプリプレグを製造する際に使用する樹脂フィルムの膜厚が制限を受けるためである。
【0014】
また、ポリアミド樹脂としてポリアミド繊維を含む布を用いた場合には、ポリアミド樹脂としてポリアミド樹脂粒子を用いた場合と比較して、ILSS及び層間破壊靭性が一層向上した繊維強化複合材料が得られる。この理由について、発明者らは、ポリアミド繊維を含む布を用いた場合には、層間せん断時及び層間破壊時にポリアミド繊維を切断する必要があるためであると考えている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、優れた耐湿性及び耐熱性を有するベンゾオキサジン樹脂を利用しつつ、優れたCAI強度とCAI強度のばらつきの低減とを同時に高次元で達成された繊維強化複合材料を得ることができるプリプレグの製造方法、並びに、プリプレグを提供することができる。
【0016】
本発明の製造方法により得られたプリプレグ及び本発明のプリプレグを複数積層し、加圧下で加熱することにより得られた繊維強化複合材料は、航空機用途、船舶用途、自動車用途、スポーツ用途、その他一般産業用途に好適に利用でき、特に、航空機用途に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係るプリプレグについて説明するための模式断面図である。
【
図2】本発明に係る繊維強化複合材料の製造方法における硬化プロファイルの一例を示す模式図である。
【
図3】本発明に係る繊維強化複合材料について説明するための模式断面図である。
【
図6】実施例1、実施例2及び比較例5において得られた繊維強化複合材料の表面の写真である。
【
図7】実施例1、実施例2及び比較例5において得られた繊維強化複合材料の断面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下本発明について詳細に説明する。
【0019】
本明細書において、ポリアミド樹脂の融点とは、示差熱量計(DSC)を用いて、25℃から10℃/分の速度で昇温し、得られた吸熱ピークのトップの温度を測定することで求められた値である。また、表面繊維層を構成する組成中で測定されるポリアミド樹脂の融解温度とは、ポリアミド樹脂を含む表面繊維層を構成する組成物を、示差熱量計(DSC)を用いて、25℃から10℃/分の速度で昇温し、得られた吸熱ピークのトップの温度を指す。
【0020】
図1は、本発明に係るプリプレグについて説明するための模式断面図である。
図1に示されるプリプレグ10は、強化繊維1と、強化繊維1の繊維間に含浸された樹脂組成物2と、を含む強化繊維層3と、強化繊維層3の表面上に設けられた、ポリアミド繊維を含む布4及び樹脂組成物5を含有する表面繊維層6とを備える。プリプレグ10の表面繊維層6においては、ポリアミド繊維を含む布4が樹脂組成物5の層内に含まれている。
図1に示されるプリプレグ10においては、強化繊維層3の両方の表面上に表面繊維層6が設けられているが、強化繊維層3の一方の表面上にのみ表面繊維層6が設けられていてもよい。
図1に示されるプリプレグ10においては、ポリアミド繊維を含む布4の全部が樹脂組成物5の層内に含まれているが、ポリアミド繊維を含む布4の一部が樹脂組成物5の層内に含まれていてもよい。
【0021】
本実施形態に係るプリプレグ10における強化繊維層3は、(A)ベンゾオキサジン樹脂、(B)エポキシ樹脂、及び、(C)分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する硬化剤を含有する樹脂組成物2を含む。
【0022】
本実施形態に係るプリプレグ10における表面繊維層6は、(A)ベンゾオキサジン樹脂、(B)エポキシ樹脂、及び、(C)分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する硬化剤を含有する樹脂組成物5を含む。
【0023】
本発明で用いる(A)ベンゾオキサジン樹脂(以下、(A)成分という場合もある)としては、下記一般式(A-1)で表されるベンゾオキサジン環を有する化合物が挙げられる。
【0024】
【化1】
[式(A-1)中、R
5は、炭素数1~12の鎖状アルキル基、炭素数3~8の環状アルキル基、炭素数6~14のアリール基、又は炭素数1~12の鎖状アルキル基若しくはハロゲンで置換されたアリール基を示す。結合手には水素原子が結合されていてもよい。]
【0025】
炭素数1~12の鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基が挙げられる。炭素数3~8の環状アルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。炭素数6~14のアリール基としては、例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、フェナントリル基、ビフェニル基が挙げられる。炭素数1~12の鎖状アルキル基若しくはハロゲンで置換されたアリール基としては、例えば、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、キシリル基、o-エチルフェニル基、m-エチルフェニル基、p-エチルフェニル基、o-t-ブチルフェニル基、m-t-ブチルフェニル基、p-t-ブチルフェニル基、o-クロロフェニル基、o-ブロモフェニル基が挙げられる。
【0026】
R5としては、上記例示の中でも、良好な取り扱い性を与えることから、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、o-メチルフェニル基であってよい。
【0027】
また、下記一般式(A-2)で表されるベンゾオキサジン環を有する化合物が挙げられる。
【0028】
【化2】
[式(A-2)中、Lは、アルキレン基又はアリーレン基を示す。]
【0029】
(A)成分のベンゾオキサジン樹脂としては、例えば、以下の式で表されるモノマー、該モノマーが数分子重合したオリゴマー、以下の式で表されるモノマーの少なくとも1種と、これらモノマーとは異なる構造を有するベンゾオキサジン環を有する化合物との反応物が好ましく挙げられる。
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
(A)成分は、ベンゾオキサジン環が開環重合することにより、フェノール樹脂と同様の骨格をつくるために、難燃性に優れる。また、その緻密な構造から、低吸水率や高弾性率といった優れた機械特性が得られる。
【0035】
(A)成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
本発明で用いる(B)エポキシ樹脂(以下、(B)成分という場合もある)は、組成物の粘度をコントロールし、また、組成物の硬化性を高める成分として配合される。(B)成分としては、例えば、アミン類、フェノール類、カルボン酸、分子内不飽和炭素等の化合物を前駆体とするエポキシ樹脂であってよい。
【0037】
アミン類を前駆体とするエポキシ樹脂としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、キシレンジアミンのグリシジル化合物、トリグリシジルアミノフェノールや、グリシジルアニリンのそれぞれの位置異性体やアルキル基やハロゲンでの置換体が挙げられる。以下、市販品を例示する場合、液状のものには、後述の動的粘弾性測定装置により得られる25℃における複素粘弾性率η*を粘度として記載している。
【0038】
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンの市販品としては、例えば、「スミエポキシ」(登録商標。以下同じ)ELM434(住友化学(株)製)、「アラルダイト」(登録商標、以下同じ)MY720、「アラルダイト」MY721、「アラルダイト」MY9512、「アラルダイト」MY9612、「アラルダイト」MY9634、「アラルダイト」MY9663(以上ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)、「jER」(登録商標、以下同じ)604(三菱化学(株)製)が挙げられる。
【0039】
トリグリシジルアミノフェノールの市販品としては、例えば、「jER」630(粘度:750mPa・s)(三菱化学(株)製)、「アラルダイト」MY0500(粘度:3500mPa・s)、MY0510(粘度:600mPa・s)(以上ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)、ELM100(粘度:16000mPa・s)(住友化学製)が挙げられる。
【0040】
グリシジルアニリン類の市販品としては、例えば、GAN(粘度:120mPa・s)、GOT(粘度:60mPa・s)(以上日本化薬(株)製)が挙げられる。
【0041】
フェノールを前駆体とするグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ジフェニルフルオレン型エポキシ樹脂やそれぞれの各種異性体やアルキル基、ハロゲン置換体が挙げられる。また、フェノールを前駆体とするエポキシ樹脂をウレタンやイソシアネートで変性したエポキシ樹脂も、このタイプに含まれる。
【0042】
液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、「jER」825(粘度:5000mPa・s)、「jER」826(粘度:8000mPa・s)、「jER」827(粘度:10000mPa・s)、「jER」828(粘度:13000mPa・s)、(以上三菱化学(株)製)、「エピクロン」(登録商標、以下同じ)850(粘度:13000mPa・s)(DIC(株)製)、「エポトート」(登録商標、以下同じ)YD-128(粘度:13000mPa・s)(新日鐵化学(株)製)、DER-331(粘度:13000mPa・s)、DER-332(粘度:5000mPa・s)(ダウケミカル社製)が挙げられる。固形若しくは半固形のビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、「jER」834、「jER」1001、「jER」1002、「jER」1003、「jER」1004、「jER」1004AF、「jER」1007、「jER」1009(以上三菱化学(株)製)が挙げられる。
【0043】
液状のビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、「jER」806(粘度:2000mPa・s)、「jER」807(粘度:3500mPa・s)、「jER」1750(粘度:1300mPa・s)、「jER」(以上三菱化学(株)製)、「エピクロン」830(粘度:3500mPa・s)(DIC(株)製)、「エポトート」YD-170(粘度:3500mPa・s)、「エポトート」YD-175(粘度:3500mPa・s)、(以上、新日鐵化学(株)製)が挙げられる。固形のビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、4004P、「jER」4007P、「jER」4009P(以上三菱化学(株)製)、「エポトート」YDF2001、「エポトート」YDF2004(以上新日鐵化学(株)製)が挙げられる。
【0044】
ビスフェノールS型エポキシ樹脂としては、例えば、EXA-1515(DIC(株)製)が挙げられる。
【0045】
ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、「jER」YX4000H、「jER」YX4000、「jER」YL6616(以上、三菱化学(株)製)、NC-3000(日本化薬(株)製)が挙げられる。
【0046】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、「jER」152、「jER」154(以上三菱化学(株)製)、「エピクロン」N-740、「エピクロン」N-770、「エピクロン」N-775(以上、DIC(株)製)が挙げられる。
【0047】
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、「エピクロン」N-660、「エピクロン」N-665、「エピクロン」N-670、「エピクロン」N-673、「エピクロン」N-695(以上、DIC(株)製)、EOCN-1020、EOCN-102S、EOCN-104S(以上、日本化薬(株)製)が挙げられる。
【0048】
レゾルシノール型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、「デナコール」(登録商標、以下同じ)EX-201(粘度:250mPa・s)(ナガセケムテックス(株)製)が挙げられる。
【0049】
ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂の市販品としては、例えば、「エピクロン」HP4032(DIC(株)製)、NC-7000、NC-7300(以上、日本化薬(株)製)が挙げられる。
【0050】
トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、TMH-574(住友化学(株)製)が挙げられる。
【0051】
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、「エピクロン」HP7200、「エピクロン」HP7200L、「エピクロン」HP7200H(以上、DIC(株)製)、「Tactix」(登録商標)558(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)、XD-1000-1L、XD-1000-2L(以上、日本化薬(株)製)が挙げられる。
【0052】
ウレタン及びイソシアネート変性エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、オキサゾリドン環を有するAER4152(旭化成イーマテリアルズ(株)製)が挙げられる。
【0053】
カルボン酸を前駆体とするエポキシ樹脂としては、例えば、フタル酸のグリシジル化合物や、ヘキサヒドロフタル酸、ダイマー酸のグリシジル化合物やそれぞれの各種異性体が挙げられる。
【0054】
フタル酸ジグリシジルエステルの市販品としては、例えば、「エポミック」(登録商標、以下同じ)R508(粘度:4000mPa・s)(三井化学(株)製)、「デナコール」EX-721(粘度:980mPa・s)(ナガセケムテックス(株)製)が挙げられる。
【0055】
ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステルの市販品としては、例えば、「エポミック」R540(粘度:350mPa・s)(三井化学(株)製)、AK-601(粘度:300mPa・s)(日本化薬(株)製)が挙げられる。
【0056】
ダイマー酸ジグリシジルエステルの市販品としては、例えば、「jER」871(粘度:650mPa・s)(三菱化学(株)製)、「エポトート」YD-171(粘度:650mPa・s)(新日鐵化学(株)製)が挙げられる。
【0057】
分子内不飽和炭素を前駆体とするエポキシ樹脂としては、例えば、脂環式エポキシ樹脂が挙げられる。脂環式エポキシ樹脂としては、(3’,4’-エポキシシクロヘキサン)メチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、(3’,4’-エポキシシクロヘキサン)オクチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、1-メチル-4-(2-メチルオキシラニル)-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタンが挙げられる。
【0058】
(3’,4’-エポキシシクロヘキサン)メチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートの市販品としては、例えば、「セロキサイド」(登録商標、以下同じ)2021P(粘度:250mPa・s)(ダイセル化学工業(株)製)、CY179(粘度:400mPa・s)(ハンツマン・アドバンスドマテリアルズ社製)、(3’,4’-エポキシシクロヘキサン)オクチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートの市販品としては、例えば、「セロキサイド」2081(粘度:100mPa・s)(ダイセル化学工業(株)製)、1-メチル-4-(2-メチルオキシラニル)-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタンの市販品としては、例えば、「セロキサイド」3000(粘度:20mPa・s)(ダイセル化学工業(株)製)が挙げられる。
【0059】
本実施形態においては、タックやドレープ性の観点から、25℃で液状のエポキシ樹脂を配合することができる。25℃で液状のエポキシ樹脂の25℃における粘度は、低ければ低いほどタックやドレープ性の観点から好ましい。具体的には、エポキシ樹脂の市販品として得られる下限である5mPa・s以上20000mPa・s以下であってよく、5mPa・s以上15000mPa・s以下であってよい。25℃における粘度が20000mPa・sを超えると、タックやドレープ性が低下することがある。
【0060】
一方、耐熱性の観点から、25℃で固形のエポキシ樹脂を配合することができる。25℃で固形のエポキシ樹脂としては、芳香族含有量の高いエポキシ樹脂であってよく、例えば、ビフェニル骨格をもつエポキシ樹脂や、ナフタレン骨格をもつエポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0061】
(B)成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0062】
本発明で用いる(C)分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する硬化剤(以下、(C)成分という場合もある)としては、ビスフェノール類等の多官能フェノールが挙げられ、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、チオジフェノール、下記一般式(C-1)で表されるビスフェノール類が挙げられる。
【0063】
【化7】
[式(C-1)中、R
1、R
2、R
3及びR
4は水素原子又は炭化水素基を示し、R
1、R
2、R
3又はR
4が炭化水素基である場合、それらは炭素数1~4の直鎖若しくは分岐のアルキル基である、又は、隣り合うR
1及びR
2若しくは隣り合うR
3及びR
4が結合して炭素数6~10の置換若しくは無置換の芳香環又は炭素数6~10の置換若しくは無置換の脂環構造を形成しており、xは、0又は1を示す。]
【0064】
上記一般式(C-1)で表される硬化剤としては、例えば、下記式で表される化合物が挙げられる。
【0065】
【0066】
本実施形態においては、樹脂硬化物のガラス転移温度を十分高める観点から、(C)成分は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、チオビスフェノール(以下、TDPという場合もある)、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン(以下、BPFという場合もある)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(以下、BPCという場合もある)であってよい。
【0067】
(C)成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
本実施形態においては、上記(C)成分以外の硬化剤を併用することができる。併用できる硬化剤としては、例えば、N,N-ジメチルアニリンを代表とする第3級芳香族アミン、トリエチルアミン等の第3級脂肪族アミン、イミダゾール誘導体、ピリジン誘導体等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0069】
本実施形態に係るプリプレグの表面繊維層は、ポリアミド繊維を含む布を含有する。
【0070】
本発明で用いる布としては、特に制限されないが、例えば、編布、織布及び不織布からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよく、伸縮性がありプリプレグを製造する際にシワとなりにくく、ポリアミド樹脂の密度が均一であり、得られる繊維強化複合材料の各種物性(CAI強度、ILSS、層間破壊靭性及び損傷面積)の変動率を一層低減できることから、編布であってよい。
【0071】
布が編布である場合、その編布は、緯編シングルニット(平編等)、緯編ダブルニット(リブ編等)、経編(トリコット、ラッセル、ミラーズ)等であってよく、生産性及び編布の薄型化を図ることができる観点から、緯編シングルニットであってよい。
【0072】
布の目付(単位面積当たりの質量)の下限値は、特に制限されないが、3g/m2以上であってよく、3.5g/m2以上であってよい。布の目付の上限値は、特に制限されないが、15g/m2以下であってよく、8g/m2以下であってよい。布の目付の下限値が3g/m2以上であれば、布の生産効率が向上し、且つ、プリプレグを製造する際の取り扱い性にも優れる。布の目付の上限値が15g/m2以下であれば、得られる繊維強化複合材料の各種物性(CAI強度、ILSS、層間破壊靭性及び損傷面積)が一層向上する。
【0073】
布の最大開口面積の下限値は、特に制限されないが、0.2mm2以上であってよく、0.3mm2以上であってよい。布の最大開口面積の上限値は、特に制限されないが、3mm2以下であってよく、1.5mm2以下であってよい。布の最大開口面積の下限値が0.2mm2以上であれば、樹脂組成物の布に対する含浸性が一層向上する。布の開口率の上限値が3mm2以下であれば、得られる繊維強化複合材料の衝撃付与時の損傷面積を低減させ、CAI強度を一層高次元で達成できる。布の最大開口面積は、光学顕微鏡の7×5mm視野内で観察される布の最も大きい開口部の面積とした。
【0074】
布の平均開口面積の下限値は、特に制限されないが、0.05mm2以上であってよく、0.1mm2以上であってよい。布の平均開口面積の上限値は、特に制限されないが、1.5mm2以下であってよく、0.8mm2以下であってよい。布の平均開口面積の下限値は、樹脂組成物の布に対する含浸性が向上する観点から0.05mm2以上であってよい。布の平均開口面積の上限値は、得られる繊維強化複合材料のCAI強度の向上及びそのばらつきの低減の観点から1.5mm2以下であってよい。布の平均開口面積は、光学顕微鏡の7×5mm視野内で観察される布の任意の開口部10点の面積の平均値とした。
【0075】
布の長手方向(たて方向)の伸び率の下限値は、特に制限されないが、5%以上であってよく、10%以上であってよい。布の長手方向の伸び率の下限値が5%以上であれば、プリプレグを製造する際にシワとなりにくく、シワ等の欠点のないプリプレグを得ることができる。布の長手方向の伸び率の上限値は100%以下であってよい。布の一方向の伸び率は、JIS L1096 A法(カットストリップ法)により測定される値を意味する。プリプレグの製造時においては、布の長手方向(MD方向)と、プリプレグの長手方向(MD方向)とを合わせてよい。
【0076】
ポリアミド繊維の繊維径の下限値は、特に制限されないが、例えば、10μm以上であってよく、20μm以上であってよく、30μm以上であってよい。ポリアミド繊維の繊維径の上限値は、特に制限されないが、60μm以下であってよく、50μm以下であってよく、40μm以下であってよい。ポリアミド繊維の繊維径の下限値は、布の強度及び取り扱い性の観点から10μm以上であってよい。ポリアミド繊維の繊維径の上限値は、繊維強化複合材料の一層の軽量化及び薄型化を図ることができる観点から、60μm以下であってよい。ここで、繊維径は、布に含まれる繊維を光学顕微鏡により観察し、測定した値を意味する。
【0077】
本発明で用いるポリアミド繊維としては、例えば、脂肪族アミノ酸、脂肪族ラクタム或いは脂肪族ジアミンと脂肪族カルボン酸を出発原料としたアミド結合を有する重合体又は共重合体が挙げられる。
【0078】
脂肪族アミノ酸としては、例えば、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等が挙げられる。
【0079】
脂肪族ラクタムとしては、例えば、カプロラクタム、ラウロラクタム、オクタラクタム、ウンデカンラクタム等が挙げられる。
【0080】
脂肪族ジアミンとしては、例えば、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミン、2,4-ジメチルオクタメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、3,8-ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン等が挙げられる。
【0081】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられる。
【0082】
本実施形態で用いるポリアミド繊維に含まれるポリアミド樹脂としては、例えば、カプロラクタムの重合体、ラウロラクタムの重合体、カプロラクタム及びラウロラクタムの共重合体、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン6/12)、ポリデカメチレンセバカミド(ナイロン10/10)、ポリデカメチレンドデカミド(ナイロン10/12)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン11/6)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンPACM12)、ポリビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンジメチルPACM12)、並びに、これらの共重合体等を用いることができる。
【0083】
本発明で用いられるポリアミド繊維を含む布は、ポリアミド繊維が、第1のポリアミド樹脂と、融点が第1のポリアミド樹脂の融点よりも7~50℃高い第2のポリアミド樹脂とを含む。本発明で用いられる第1のポリアミド樹脂及び第2のポリアミド樹脂としては、例えば、上述したポリアミド樹脂として例示したものと同様のものを用いることができる。本発明で用いられるポリアミド繊維を含む布は、形態を安定化させるため、第1のポリアミド樹脂の融点以上、第2のポリアミド樹脂の融点以下の温度で熱処理を行うことができる。本発明で用いられるポリアミド繊維を含む布は、上記の熱処理により第1のポリアミド樹脂の一部が溶融した布であってよい。
【0084】
ポリアミド繊維の構造としては、特に制限されないが、単一のポリアミド樹脂からなる単繊維、並びに、2種以上のポリアミド樹脂が含まれる複合繊維が挙げられる。前述した熱処理により第1のポリアミド樹脂を適度に融解させることで、布の形態を安定化し、その結果、得られる強化複合材料のCAI強度のばらつきを低減させることができることから、ポリアミド繊維の構造は、複合繊維であってよい。
【0085】
複合繊維としては、芯鞘構造を有する繊維、コンジュゲート繊維等が挙げられる。これらの中でも、布の作製時に、熱処理により第1のポリアミド樹脂を適度に融解させることで、布の形態を安定化し、その結果、得られる強化複合材料のCAI強度のばらつきを低減させることができることから、芯鞘構造を有する繊維であってよい。
【0086】
ポリアミド繊維の構造が芯鞘構造である場合には、布の作製時に、熱処理により第1のポリアミド樹脂を適度に融解させることで、布の形態を安定化し、その結果、繊維強化複合材料のCAI強度のばらつきを低減させることができること、及び、繊維強化複合材料の作製時に第1のポリアミド樹脂を適度に融解させ、第2のポリアミド樹脂が融解して強化繊維層に入り込むことを適度に抑制することから、第2のポリアミド樹脂を含む芯部と、芯部を被覆する第1のポリアミド樹脂を含む鞘部と、を備えた芯鞘構造であってよい。
【0087】
ポリアミド繊維における第1のポリアミド樹脂と第2のポリアミド樹脂との含有割合は、質量比で、繊維強化複合材料の作製時に第1のポリアミド樹脂を適度に融解させ、第2のポリアミド樹脂が融解して強化繊維層に入り込むことを適度に抑制する観点から、第1のポリアミド樹脂:第2のポリアミド樹脂=70:30~30:70の範囲であってよく、60:40~40:60の範囲であってよい。
【0088】
第2のポリアミド樹脂の融点m2は、第1のポリアミド樹脂の融点m1よりも7~50℃高い。第2のポリアミド樹脂の融点m2と、第1のポリアミド樹脂の融点m1との融点差(m2-m1)の下限値は、7℃以上であり、10℃以上であってよく、13℃以上であってよく、15℃以上であってよい。(m2-m1)の下限値が7℃以上であれば、布の作製時に熱処理を行う際に、温度範囲が広がるために安定して熱処理を実施することができる。融点差(m2-m1)の上限値は、50℃以下であり、40℃以下であってよい。融点差(m2-m1)の上限値が50℃以下であれば、繊維強化複合材料の作製時に第2のポリアミド樹脂の融解を適度に促進することができる。
【0089】
樹脂組成物5中での第1のポリアミド樹脂の融解温度M1は、繊維強化複合材料の作製時に第1のポリアミド樹脂の融解を促進することができるため、表面繊維層6中の樹脂組成物5の硬化温度よりも5℃以上低くてよく、10℃以上低くてよい。
【0090】
樹脂組成物5中での第2のポリアミド樹脂の融解温度M2は、繊維強化複合材料の作製時に第2のポリアミド樹脂が融解して強化繊維層に完全に入り込むことを適度に抑制することができるため、表面繊維層6中の樹脂組成物5の硬化温度よりも1℃以上高くてよく、5℃以上高くてよい。
【0091】
第1のポリアミド樹脂及び第2のポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド12樹脂、カプロラクタムとラウロラクタムとを共重合させた共重合体からなるポリアミド樹脂及びポリアミド1010樹脂等を用いることができる。
【0092】
本明細書においてポリアミド6樹脂とは、カプロラクタムを開環重合したポリアミド樹脂を指す。
【0093】
本明細書においてポリアミド12樹脂とは、ラウロラクタムを開環重合したポリアミド樹脂を指す。
【0094】
上記カプロラクタムとラウロラクタムとを共重合させた共重合体は、ポリアミド6/12等と呼ばれるものである。上記共重合体は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。
【0095】
本明細書においてポリアミド1010樹脂とはセバシン酸とデカメチレンジアミンとを重縮合したポリアミド樹脂を指す。
【0096】
本実施形態で用いる第1のポリアミド樹脂としては、繊維強化複合材料の作製時にポリアミド樹脂を適度に融解させる観点から、ポリアミド12樹脂であってよい。
【0097】
第1のポリアミド樹脂としてカプロラクタムとラウロラクタムとを共重合させた共重合体からなるポリアミド樹脂を用いる場合には、カプロラクタムとラウロラクタムとの共重合比(モル比)が、1:9~3:7の範囲内であってよく、1:9~25:75の範囲内であってよく、1:9~2:8の範囲内であってよい。共重合比を上記範囲内とすることにより、ポリアミド樹脂の融点及び樹脂組成物中でのポリアミド樹脂の融解温度を適度な範囲に調整することができ、衝撃付与後の損傷面積を一層減少させることで、CAI強度が一層向上する。
【0098】
本実施形態で用いる第2のポリアミド樹脂としては、繊維強化複合材料の作製時に第2のポリアミド樹脂が融解して強化繊維層に入り込むことを適度に抑制する観点から、ポリアミド1010樹脂であってよい。
【0099】
第2のポリアミド樹脂としてカプロラクタムとラウロラクタムとを共重合させた共重合体からなるポリアミド樹脂を用いる場合には、カプロラクタムとラウロラクタムとの共重合比(モル比)が、9:1~7:3の範囲内であってよく、9:1~75:25の範囲内であってよく、9:1~8:2の範囲内であってよい。共重合比を上記範囲内とすることにより、ポリアミド樹脂の融点及び樹脂組成物中でのポリアミド樹脂の融解温度を適度な範囲に調整することができ、衝撃付与後の損傷面積を一層減少させることで、CAI強度が一層向上する。
【0100】
本実施形態で用いる第1のポリアミド樹脂及び第2のポリアミド樹脂の組み合わせとしては、布の作製時の熱処理の際に、第1のポリアミド樹脂を融解させてポリアミド繊維同士を融着させることにより布を安定化させ、得られる強化複合材料のCAI強度のばらつきを低減させることができる観点、及び繊維強化複合材料の作製時に第1のポリアミド樹脂を適度に融解させ、第2のポリアミド樹脂が融解して強化繊維層に入り込むことを適度に抑制する観点から、第1のポリアミド樹脂としてポリアミド12樹脂及び第2のポリアミド樹脂としてポリアミド1010樹脂の組み合わせであってよい。
【0101】
本実施形態で用いる布は、ポリアミド繊維以外の繊維を含んでいてもよい。このような繊維としては、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂及びポリエーテルエーテルケトン樹脂等が挙げられる。
【0102】
本実施形態において、樹脂組成物2における(A)成分及び(B)成分の含有割合は、(A)成分と(B)成分との合計を100質量部としたときに、(A)成分の含有割合の下限値が65質量部以上であること、即ち、(B)成分の含有割合の上限値が35質量部以下であってよい。(A)成分の含有割合が65質量部以上であれば、即ち、(B)成分の含有割合が35質量部以下である場合には、得られる繊維強化複合体の弾性率及び耐水性が一層向上する傾向にあり、また樹脂硬化物のガラス転移温度が一層上昇する傾向にある。(A)成分及び(B)成分の含有割合は、(A)成分と(B)成分との合計を100質量部としたときに、(A)成分の含有割合の上限値が78質量部以上であること、即ち、(B)成分の含有割合の下限値が22質量部以下であってよい。
【0103】
また、樹脂組成物2における(C)成分の含有量の下限値は、(A)成分と(B)成分との合計を100質量部としたときに、5質量部以上であってよく、7質量部以上であってよい。(C)成分の含有量の下限値が5質量部以上であれば、樹脂組成物の硬化時に強固な架橋構造が形成され、その結果、硬化物のガラス転移温度等の機械物性が一層向上する傾向にある。同様の観点から、樹脂組成物2における(C)成分の含有量の上限値は、(A)成分と(B)成分との合計を100質量部としたときに、20質量部以下であってよく、15質量部以下であってよい。
【0104】
本実施形態において、表面繊維層6における(A)成分及び(B)成分の含有割合は、(A)成分と(B)成分との合計を100質量部としたときに、(A)成分の含有割合の下限値が65質量部以上、即ち、(B)成分の含有割合の上限値が35質量部以下であってよい。(A)成分の含有割合が65質量部以上、即ち、(B)成分の含有割合が35質量部以下である場合には、得られる繊維強化複合体の弾性率及び耐水性が一層向上する傾向にあり、また樹脂硬化物のガラス転移温度が一層上昇する傾向にある。表面繊維層6における(A)成分及び(B)成分の含有割合は、(A)成分と(B)成分との合計を100質量部としたときに、(A)成分の含有割合の上限値が78質量部以下、即ち、(B)成分の含有割合の下限値が22質量部以上であってよい。
【0105】
また、表面繊維層6における(C)成分の含有量の下限値は、(A)成分と(B)成分との合計を100質量部としたときに、5質量部以上であってよく、7質量部以上であってよい。(C)成分の含有量が5質量部以上であれあれば、繊維強化複合材料におけるCAI強度及び曲げ弾性率を一層向上することができる。表面繊維層6における(C)成分の含有量の上限値は、(A)成分と(B)成分との合計を100質量部としたときに、20質量部以下であってよく、15質量部以下であってよい。(C)成分の含有量が20質量部以下であれば、硬化物のガラス転移温度等の機械物性を一層向上させることができる傾向にある。
【0106】
表面繊維層6におけるポリアミド繊維の含有量の下限値は、(A)成分と(B)成分との合計を100質量部としたときに、15質量部以上であってよく、25質量部以上であってよい。ポリアミド繊維の含有量が15質量部以上であれば、繊維強化複合材料におけるCAI強度、ILSS及び層間破壊靭性が一層向上し、衝撃付与後の損傷面積を一層減少させることができる。表面繊維層6におけるポリアミド繊維の含有量の上限値は、(A)成分と(B)成分との合計を100質量部としたときに、45質量部以下であってよく、40質量部以下であってよい。ポリアミド繊維の含有量が45質量部以下であれば、曲げ弾性率が一層向上する傾向にある。本実施形態においては、第1のポリアミド樹脂及び第2のポリアミド樹脂の合計含有量が、上記範囲であってよい。
【0107】
本実施形態のプリプレグにおける表面繊維層6とはプリプレグ表面から強化繊維層の強化繊維までの間を指し、表面繊維層におけるポリアミド繊維の上記含有量は、例えば、プリプレグ表面から強化繊維層の強化繊維までの間に検出される(A)成分、(B)成分及び(C)成分の含有量に基づき算出することができる。
【0108】
本実施形態のプリプレグにおいて、表面繊維層及び強化繊維層には、その物性を損なわない範囲で、例えば、(D)靭性向上剤などのその他の成分を配合することができる。(D)靭性向上剤としては、フェノキシ樹脂「YP-70」、「YP-50」、「FX-316」(以上、登録商標、新日鐵住金化学株式会社製)、ポリエーテルスルフォン「スミカエクセルPES」(以上、登録商標、住友化学株式会社製)が挙げられる。
【0109】
更に他の成分としては、ナノカーボンや難燃剤、離型剤等を配合することができる。ナノカーボンとしては、例えば、カーボンナノチューブ、フラーレンやそれぞれの誘導体が挙げられる。難燃剤としては、例えば、赤燐、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホルフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、レゾルシノールビスフェニルホスフェート、ビスフェノールAビスジフェニルホスフェート等のリン酸エステルや、ホウ酸エステル等が挙げられる。離型剤としては、例えば、シリコンオイル、ステアリン酸エステル、カルナウバワックス等が挙げられる。
【0110】
本発明でいう強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維等を使用することができる。これらの繊維を2種以上混合して用いてもよい。より軽量で、より耐久性の高い成形品を得るために、炭素繊維又は黒鉛繊維を用いてよく、炭素繊維を用いてよい。
【0111】
本発明で用いる炭素繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維のいずれも使用可能である。
【0112】
本発明においては、用途に応じてあらゆる種類の炭素繊維又は黒鉛繊維を用いることが可能である。耐衝撃性に優れ、高い剛性及び機械強度を有する複合材料が得られることから、炭素繊維又は黒鉛繊維のストランド引張試験における引張弾性率は、150~650GPaであってよく、200~550GPaでであってよく、230~500GPaであってよい。なお、ストランド引張試験とは、束状の炭素繊維又は黒鉛繊維にエポキシ樹脂を含浸させ、130℃の温度で35分間硬化させた後、JIS R7608(2007)に基づいて行う試験をいう。
【0113】
本発明の強化繊維の目付の下限値は、特に制限されないが、繊維強化複合材料を成形する際に、プリプレグの積層枚数を少なくでき、作業性を向上できるため、75g/m2以上であってよく、100g/m2以上であってよい。強化繊維の目付の上限値は、繊維強化複合材料を成形する際に、積層設計の自由度が増加することから、300g/m2以下であってよく、200g/m2以下であってよい。
【0114】
本発明のプリプレグにおいて強化繊維の形態は特に限定されるものではなく、例えば、一方向に引き揃えた長繊維、トウ、織物、マット、ニット、組み紐、10mm未満の長さにチョップした短繊維等を用いることができる。ここで、長繊維とは実質的に10mm以上連続な単繊維若しくは繊維束である。短繊維とは10mm未満の長さに切断された繊維束である。比強度、比弾性率が高いことを要求される用途には、本実施形態のプリプレグのように強化繊維基材が単一方向に引き揃えられた配列が最も適しているが、取り扱いの容易なクロス(織物)状の配列も適用可能である。
【0115】
本実施形態のプリプレグは、単位面積あたりの強化繊維量の下限値が25g/m2以上であってよい。強化繊維量が25g/m2未満では、繊維強化複合材料を成形する際に所定の厚みを得るために積層枚数を多くする必要があり、作業が繁雑となることがある。単位面積あたりの強化繊維量の上限値は、3000g/m2以下であってよい。強化繊維量が3000g/m2を超えると、プリプレグのドレープ性が悪くなる傾向にある。なお、プリプレグが平面若しくは単純な局面であれば、強化繊維量は3000g/m2を超えてもよい。
【0116】
本実施形態のプリプレグにおける強化繊維の含有率の下限値は、30質量%以上であってよく、35質量%以上であってよく、40質量%以上であってよい。含有率が30質量%以上であれば、比強度と比弾性率に優れる繊維強化複合材料の利点が一層得られ、繊維強化複合材料の成形の際、硬化時の発熱量が大きくなり過ぎない。本実施形態のプリプレグにおける強化繊維の含有率の上限値は、90質量%以下であってよく、85質量%以下であってよく、80質量%以下であってよい。含有率が90質量%以下であれば、樹脂の含浸が一層良好となり、得られる繊維強化複合材料のボイドは一層低減される傾向にある。
【0117】
本実施形態のプリプレグにおける、(A)成分、(B)成分、(C)成分及びポリアミド繊維の合計質量に占めるポリアミド繊維の質量の割合の下限値は、特に制限されないが、5質量%以上であってよく、8質量%以上であってよい。ポリアミド繊維の質量の割合の下限値は、繊維強化複合材料における衝撃付与後の損傷面積の低減ならびにCAI強度向上の観点から5質量%以上であってよい。本実施形態のプリプレグにおける、(A)成分、(B)成分、(C)成分及びポリアミド繊維の合計質量に占めるポリアミド繊維の質量の割合の上限値は、特に制限されないが、30質量%以下であってよく、20質量%以下であってよい。ポリアミド繊維の質量の割合が30質量%以下であると、繊維強化複合材料における曲げ弾性率が向上(特に高温における)する。
【0118】
次に、本実施形態に係るプリプレグを製造する方法について説明する。本実施形態に係るプリプレグを製造する方法は、強化繊維1を含む強化繊維基材の少なくとも一方の表面上に、布4を配置する配置工程と、配置工程の前又は後、或いは配置工程と同時に、樹脂組成物を強化繊維基材に供給し、強化繊維1の繊維間に樹脂組成物を含浸させる含浸工程と、を備える。
【0119】
本実施形態に係るプリプレグを製造する方法が、配置工程の前に含浸工程を備える場合、強化繊維1を一方向に引き揃えた強化繊維基材を用意し、強化繊維基材に対して上記(A)~(C)成分を含む樹脂組成物を含浸し、その後、強化繊維基材の少なくとも一方の表面上に、布4を配置することにより、プリプレグ10が得られる。
【0120】
本実施形態に係るプリプレグを製造する方法が、配置工程と同時に含浸工程を備える場合、そのような態様としては、強化繊維1を一方向に引き揃えた強化繊維基材を用意し、強化繊維基材の少なくとも一方の表面上に布4を配置すると同時に、布4の強化繊維基材と接する面とは反対の面から布4を介して強化繊維基材に対して樹脂組成物を含浸する態様、強化繊維1を一方向に引き揃えた強化繊維基材を用意し、強化繊維基材の少なくとも一方の表面上から樹脂組成物を含浸すると同時に、強化繊維基材における樹脂組成物を含浸した表面上に布4を配置する態様、強化繊維1を一方向に引き揃えた強化繊維基材を用意し、予め布4に樹脂組成物を含浸させた後、樹脂組成物が含浸された布4を強化繊維基材の少なくとも一方の表面上に配置する態様等が挙げられる。得られるプリプレグが、プリプレグを積層した際の層間の粘着性に優れるため、強化繊維基材の少なくとも一方の表面上に布4を配置すると同時に、布4の強化繊維基材と接する面とは反対の面から布4を介して強化繊維基材に対して樹脂組成物を含浸してよい。
【0121】
本実施形態に係るプリプレグを製造する方法が、配置工程の後に含浸工程を備える場合、強化繊維1を一方向に引き揃えた強化繊維基材を用意し、強化繊維基材の少なくとも一方の表面上に、布4を配置し、その後、強化繊維基材に対して上記(A)~(C)成分を含む樹脂組成物を含浸することにより、プリプレグ10が得られる。以上の配置工程及び含浸工程を経て得られたプリプレグ10は、強化繊維基材及び布4に樹脂組成物が含浸されたものとなる。
【0122】
強化繊維基材に含浸する各樹脂組成物は、上記(A)~(C)成分及び必要に応じて他の成分を混練することにより調製できる。
【0123】
樹脂組成物の混練方法は、特に限定されず、例えば、ニーダーやプラネタリーミキサー、2軸押出機などが用いられる。また、樹脂組成物が粒子を含む場合には、粒子の分散性の点から、予めホモミキサー、3本ロール、ボールミル、ビーズミル及び超音波などで、粒子を液状の樹脂成分に拡散させてよい。更に、マトリックス樹脂との混合時や、粒子の予備拡散時等には、必要に応じて加熱・冷却、加圧・減圧してもよい。保存安定性の観点から、混練後は、速やかに冷蔵・冷凍庫で保管してよい。
【0124】
樹脂組成物の粘度は、前駆体フィルム製造の観点から、50℃において、10~20000Pa・sであってよく、10~10000Pa・sであってよく、50~6000Pa・sであってよい。10Pa・s未満では、樹脂組成物のタックが高くなり、塗布困難となることがある。また、20000Pa・sを超えると、半固形化し塗布が困難となる。
【0125】
樹脂組成物を含浸させる方法としては、樹脂組成物をメチルエチルケトン、メタノール等の溶媒に溶解して低粘度化し、含浸させるウェット法、加熱により低粘度化し、含浸させるホットメルト法(ドライ法)等を挙げることができる。
【0126】
ウェット法は、強化繊維を樹脂組成物の溶液に浸漬した後、引き上げ、オーブン等を用いて溶媒を蒸発させる方法である。ホットメルト法は、加熱により低粘度化した樹脂組成物を直接強化繊維に含浸させる方法、又は一旦樹脂組成物を離型紙等の上にコーティングしてフィルムを作製しておき、次いで強化繊維の両側又は片側から上記フィルムを重ね、加熱加圧することにより強化繊維に樹脂を含浸させる方法である。ホットメルト法は、プリプレグ中に残留する溶媒が実質上皆無となるため好ましい。
【0127】
本実施形態に係るプリプレグは、積層後、積層物に圧力を付与しながら樹脂を加熱硬化させる方法等により、繊維強化複合材料とすることができる。ここで熱及び圧力を付与する方法には、例えば、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法が挙げられる。ラッピングテープ法は、マンドレル等の芯金にプリプレグを捲回して、繊維強化複合材料製の管状体を成形する方法であり、ゴルフシャフト、釣り竿等の棒状体を作製する際に好適な方法である。より具体的には、マンドレルにプリプレグを捲回し、プリプレグの固定及び圧力付与のため、プリプレグの外側に熱可塑性フィルムからなるラッピングテープを捲回し、オーブン中で樹脂を加熱硬化させた後、芯金を抜き取って管状体を得る方法である。
【0128】
内圧成型法は、熱可塑性樹脂製のチューブ等の内圧付与体にプリプレグを捲回したプリフォームを金型中にセットし、次いで内圧付与体に高圧の気体を導入して圧力を付与すると同時に金型を加熱せしめ、成形する方法である。この方法は、ゴルフシャフト、バッド、テニスやバドミントン等のラケットの如き複雑な形状物を成形する際に好ましく用いられる。
【0129】
図2は、硬化プロファイルの一例を示す模式図である。
図2中、M
1は、表面繊維層を中での第1のポリアミド樹脂の融解温度(℃)を示し、M
2は、表面繊維層中での第2のポリアミド樹脂の融解温度(℃)を示す。
図2に示される硬化プロファイルは、上述したプリプレグを複数積層した積層体を、所定の硬化温度CP(℃)まで所定の昇温速度で昇温し(
図2中のラインa)、所定の硬化温度CP(℃)で所定時間(T
4-T
3)保持することにより樹脂硬化し(
図2中のラインb)、その後、降温する工程が示されている。
【0130】
上記硬化温度CP(℃)は、上記(A)成分~(C)成分を含む樹脂組成物2が十分硬化されるように、(C)成分の種類や(A)成分及び(B)成分の配合割合等に応じて適宜設定される。
【0131】
硬化温度CP(℃)としては、例えば、140~200℃の間の温度を設定することができ、生産性及びポリアミドの融解状態の制御の観点から、160~195℃の間の温度を設定してよい。なお、硬化温度とは、プリプレグの温度を指す。
【0132】
本実施形態において、第1のポリアミド樹脂を適度に融解させる観点から、CPは、M1℃より1~100℃高い温度であってよく、M1℃より5~70℃高い温度であってよく、M1℃より5~60℃高い温度であってよく、M1℃より7~60℃高い温度であってよく、M1℃より7~50℃高い温度であってよく、M1℃より10~50℃高い温度であってよい。
【0133】
また、十分な樹脂硬化を行いつつ、第2のポリアミド樹脂が融解して強化繊維層に入り込むことを適度に抑制する観点から、CPは、M2℃より10℃高い温度を上限としてもよく、M2℃に対して-20~10℃の範囲の温度であってよく、M2℃に対して-10~10℃の範囲の温度であってよい。
【0134】
本実施形態においては、硬化温度CP(℃)を指標として、上記の条件を満たすように第1のポリアミド樹脂及び第2のポリアミド樹脂を選択してもよい。この場合も、上述した第1のポリアミド樹脂及び第2のポリアミド樹脂の関係を満たしてよい。一方、融解温度M1及びM2℃を指標として、M1<CP<M2となる温度で、一次硬化を行った後、更に、硬化を十分進めるために、M2より高い温度で二次硬化を行うこともできる。
【0135】
上記硬化温度CP(℃)に至るまでの昇温速度は、0.1~5.0℃/分であってよく、0.3~3.0℃/分であってよい。M1(℃)未満までの昇温温度とM1(℃)~CP(℃)までの昇温速度は異なっていてもよいが、本実施形態においては、少なくともM1~CPまでの間が上記範囲内であってよい。
【0136】
また、上記硬化温度CP(℃)がM2℃よりも高温である場合には、M1℃未満までの昇温速度、M1(℃)~M2(℃)までの昇温速度、及び、M2(℃)~CP(℃)までの昇温速度は異なっていてもよい。
【0137】
本実施形態においては、M1(℃)未満までの昇温速度は、0.1~10.0℃/分であってよく、0.1~5.0℃/分であってよく、0.3~3.0℃/分であってよい。M1(℃)~M2(℃)までの昇温速度は、0.1~5.0℃/分であってよく、0.3~3.0℃/分であってよい。M2(℃)~CP(℃)までの昇温速度は、0.1~5.0℃/分であってよく、0.3~3.0℃/分であってよい。
【0138】
加熱時の圧力は、0.2~1.0MPaであってよく、0.3~0.8MPaであってよい。
【0139】
加熱後、-0.3~-3.0℃/分の速度で降温することができる。
【0140】
こうして繊維強化複合材料が得られる。
【0141】
図3は、本発明に係る繊維強化複合材料について説明するための模式断面図である。
図3に示される繊維強化複合材料100は、強化繊維1と、樹脂硬化物8と、ポリアミド繊維を含む布4とを含んでなる。繊維強化複合材料100は、上述した本実施形態の製造方法、すなわちプリプレグ10を複数積層し、加圧下で加熱することにより得ることができる。なお、
図3にはポリアミド繊維を含む布4がプリプレグの表面繊維層におけるものと同様に示されているが、それらは加圧、加熱によって融解し、流動や繊維同士の結合により変形したものになる。
【0142】
また、本実施形態の方法により得られる繊維強化複合材料は、強化繊維基材に直接、樹脂組成物を含浸させ硬化させることによっても得ることができる。例えば、強化繊維基材及び強化繊維基材の表面上に配置された布を型内に配置し、その後、上記(A)~(C)成分を含む樹脂組成物を流し込み含浸させ硬化させる方法や、強化繊維基材、ポリアミド繊維を含む布、及び上記(A)~(C)成分を含む樹脂組成物からなるフィルムを積層し、該積層体を加熱・加圧する方法によっても製造できる。上記フィルムは、予め離型紙や離型フィルム上に所定量の樹脂組成物を均一な厚みで塗布して得ることができる。強化繊維基材としては、一方向に引き揃えた長繊維、二方向織物、不織布、マット、ニット、組み紐などが挙げられる。また、ここでの積層は、単に強化繊維基材を重ね合わせる場合のみならず、各種型やコア材に貼り付けてプリフォームする場合も含む。コア材としては、フォームコアやハニカムコアなどを用いてよい。フォームコアとしては、ウレタンやポリイミドを用いてよい。ハニカムコアとしてはアルミコアやガラスコア、アラミドコアを用いてよい。
【0143】
本実施形態の方法により得られる繊維強化複合材料は、ASTM D7136及びD7137に従い測定した衝撃後圧縮強度(CAI強度)が250MPa以上であってよく、300MPa以上であってよい。
【0144】
本実施形態の方法により得られる繊維強化複合材料は、ASTM D5528に従い測定したモードI層間破壊靱性値(G1c)が400J/m2以上であってよく、450J/m2以上であってよい。
【0145】
本実施形態の方法により得られる繊維強化複合材料は、Composite Materials Handbook 17-1に従い測定したモードII層間破壊靱性値(G2c)が1000J/m2以上であってよく、2100J/m2以上であってよい。
【0146】
本実施形態の方法により得られる繊維強化複合材料は、ASTM D2344に従い測定した層間せん断強度(ILSS)が90MPa以上であってよく、100MPa以上であってよい。
【0147】
本実施形態の方法により得られる繊維強化複合材料は、衝撃付与後の損傷面積が1500mm2未満であってよく、700mm2未満であってよい。衝撃付与後の損傷面積とは、超音波探傷を用いた非破壊検査により測定された値を意味する。
【0148】
本実施形態の方法により得られる繊維強化複合材料の各種物性(CAI強度、ILSS、層間破壊靭性値、及び衝撃付与後の損傷面積)の変動率は、CAI強度、ILSS、層間破壊靭性値、及び衝撃付与後の損傷面積をそれぞれ6回測定し、得られた6回の測定値の標準偏差を得られた6回の測定値の平均値で除したものである。
【0149】
本実施形態の方法により得られる繊維強化複合材料は、CAI強度の変動率が6.0%未満であってよく、4.0%未満であってよい。
【0150】
本実施形態の方法により得られる繊維強化複合材料は、G1cの変動率が6.0%未満であってよく、4.0%未満であってよい。
【0151】
本実施形態の方法により得られる繊維強化複合材料は、G2cの変動率が6.0%未満であってよく、4.0%未満であってよい。
【0152】
本実施形態の方法により得られる繊維強化複合材料は、ILSSの変動率が2.0%未満であってよく、1.0%未満であってよい。
【0153】
本実施形態の方法により得られる繊維強化複合材料は、衝撃付与後の損傷面積の変動率が8.0%未満であってよく、6.0%未満であってよい。
【0154】
上記物性を有する本実施形態の方法により得られる繊維強化複合材料は、鉄道車両、航空機、建築部材や、その他一般産業用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0155】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0156】
<ポリアミド繊維を含む布>
(実施例1~15、比較例2~4)
ポリアミド繊維を含む布として、表1~表3に示す布を用いた。ポリアミド繊維が芯鞘構造を備える場合、ポリアミド繊維は、第2のポリアミド樹脂からなる芯部と、芯部を被覆する第1のポリアミド樹脂からなる鞘部とを備える。用いた布が編布である場合、編布の編み方は丸編である。用いたポリアミド繊維が単繊維である場合、単繊維を撚り合わせて一本の撚糸にした上で、編布又は織布とした。なお、比較例3においては、第1のポリアミド樹脂と第2のポリアミド樹脂の融点が近く、熱処理を安定して実施することができなかったために、布を作製することができなかった。
【0157】
第1のポリアミド樹脂及び第2ポリアミド樹脂としては、以下の原料を用いた。
PA6:ポリアミド6樹脂
PA12:ポリアミド12樹脂
PA1010:ポリアミド1010樹脂
PA6/PA12(20/80):カプロラクタムとラウロラクタムとを20:80のモル比で共重合させたポリアミド6/12共重合体(ランダム共重合体)
PA6/PA12(80/20):カプロラクタムとラウロラクタムとを80:20のモル比で共重合させたポリアミド6/12共重合体(ランダム共重合体)
【0158】
図4は、実施例1にて用いた布の写真である。
図5は、実施例2にて用いた布の写真である。
【0159】
(比較例1)
ポリアミド繊維を含む布を用いなかった。
【0160】
(比較例5)
ポリアミド繊維を含む布の代わりに、後述するように樹脂組成物にポリアミド樹脂粒子を添加した。
【0161】
<樹脂組成物>
(実施例1~15、比較例1、2、4)
表1~3に示す割合で原料を加熱混合し、樹脂組成物を得た。ここで用いた原料は以下に示す通りである。
【0162】
(A)成分:ベンゾオキサジン樹脂
F-a:ビスフェノールF-アニリン型(F-a型ベンゾオキサジン、四国化成(株)製)
P-a:フェノール-アニリン型(P-a型ベンゾオキサジン、四国化成(株)製)
(B)成分:エポキシ樹脂
2021P:「セロキサイド」(登録商標)2021P(ダイセル化学工業(株)製)
(C)成分:硬化剤
BPF(9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、大阪ガスケミカル製)
(D)成分:靭性向上剤
YP70:フェノキシ樹脂(YP-70、新日鐵住金化学株式会社製)
【0163】
(比較例5)
表4に示す割合で原料を加熱混合し、粒子を含有しない第1の樹脂組成物(表中の「第1」の組成)と、粒子を含有する第2の樹脂組成物(表中の「第2」の組成)を得た。なお、実施例1~15、比較例1、2、4で用いた原料に加えて、以下に示す原料を用いた。
【0164】
ポリアミド樹脂粒子:
PA12樹脂粒子:ポリアミド12樹脂粒子(商品名:ベストジント 2159、平均粒子径10μm、ダイセルエボニック社製)
PA1010樹脂粒子:ポリアミド1010樹脂粒子(商品名:ベストジント 9158、平均粒子径20μm、ダイセルエボニック社製)
【0165】
<強化繊維>
(実施例1~15、比較例1、2、4、5)
強化繊維基材として引張弾性率が290GPaの炭素繊維を1方向に引き揃えた炭素繊維束を準備した。準備した強化繊維基材の目付を表1~4に示した。
【0166】
<プリプレグの製造>
(実施例1、3~7、9、10、13~15、比較例2、4、5)
得られた樹脂組成物を離型紙上に80℃で塗布し、単位面積当たりの質量が36g/m2である樹脂フィルムを得た。次いで、強化繊維基材の両方の表面上にポリアミド繊維を含む布を配置すると同時に、配置した布の上からそれぞれ樹脂フィルムをラミネートし、プリプレグを作製した。ラミネートの条件は、温度70℃、圧力0.2MPa、樹脂フィルム、強化繊維基材及びポリアミド繊維を送り出す速度を7m/分とした。
【0167】
(実施例2)
単位面積当たりの質量が36g/m2である樹脂フィルムに代えて、単位面積当たりの質量が28g/m2である樹脂フィルムを使用したこと以外は、実施例1と同様にしてプリプレグを得た。
【0168】
(実施例8、11、12)
単位面積当たりの質量が36g/m2である樹脂フィルムに代えて、単位面積当たりの質量が23g/m2である樹脂フィルムを使用したこと以外は、実施例1と同様にしてプリプレグを得た。
【0169】
(比較例1)
強化繊維基材の表面上にポリアミド繊維を含む布を配置しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてプリプレグを得た。
【0170】
(比較例5)
得られた第1及び第2の樹脂組成物をそれぞれ離型紙上に70~100℃で塗布し、18g/m2である第1の樹脂フィルム及び25g/m2の第2の樹脂フィルムを得た。得られた第1の樹脂フィルムを、強化繊維基材の上下から供給して繊維間に含浸し、炭素繊維層を形成した。第1の樹脂フィルムを繊維間に含浸する際の条件は、含浸温度70℃、圧力0.2MPa、強化繊維基材及び第1の樹脂フィルムを送り出す速度を3m/分とした。続いて、第2の樹脂フィルムを炭素繊維層の上下からラミネートして表面層を形成し、プリプレグを作製した。第2の樹脂フィルムを炭素繊維層の上下からラミネートする際の条件は、温度70℃、圧力0.2MPa、炭素繊維層及び第2の樹脂フィルムを送り出す速度を7m/分とした。
【0171】
得られたプリプレグにおける強化繊維の含有率を表1~表4に示した。
【0172】
得られたプリプレグにおける、(A)成分、(B)成分、(C)成分及びポリアミド繊維の合計質量に占めるポリアミド繊維の質量の割合を表1~表4に示した。表1~表4中においては、PA含有量との略称を用いている。
【0173】
<ポリアミド樹脂及びポリアミド樹脂粒子の融点の測定>
第1のポリアミド樹脂、第2のポリアミド樹脂、第1のポリアミド樹脂粒子、第2のポリアミド樹脂粒子を、示差熱量計(DSC)を用いて、25℃から10℃/分の速度で昇温し、得られた吸熱ピークのトップの温度をポリアミド樹脂及びポリアミド樹脂粒子の融点とした。ポリアミド12樹脂の融点は176℃であり、ポリアミド1010樹脂の融点は199℃あり、ポリアミド6樹脂の融点は225℃であり、カプロラクタムとラウロラクタムとを20:80のモル比で共重合させたポリアミド6/12共重合体(ランダム共重合体)からなる樹脂の融点は160℃であり、カプロラクタムとラウロラクタムとを80:20のモル比で共重合させたポリアミド6/12共重合体(ランダム共重合体)からなる樹脂の融点は194℃であり、ポリアミド12樹脂粒子の融点は176℃であり、ポリアミド1010樹脂粒子の融点は199℃であった。
【0174】
<表面繊維層中でのポリアミド樹脂の融解温度の測定>
第1のポリアミド樹脂及び第2のポリアミド樹脂を、示差熱量計(DSC)を用いて、表面繊維層中で25℃から10℃/分の速度で昇温し、得られた吸熱ピークのトップの温度を、表面繊維層中での第1のポリアミド樹脂の融解温度及び第2のポリアミド樹脂の融解温度を測定した。結果を表1~3に示す。
【0175】
<布の最大開口面積の測定>
光学顕微鏡の7×5mm視野内で観察される布の最も大きい開口部の面積を布の最大開口面積とした。結果を表1~3に示す。
【0176】
<布の平均開口面積の測定>
光学顕微鏡の7×5mm視野内で観察される布の任意の開口部10点の面積の平均値を布の平均開口面積とした。結果を表1~3に示す。
【0177】
<CAI強度の測定>
(実施例1、3~7、9、10、13~15、比較例1~4)
得られたプリプレグを、[+45°/0°/-45°/90°]4s構成で、擬似等方的に32プライ(層)積層し、オートクレーブにて、圧力0.6MPa、室温から2.0℃/分で185℃まで昇温した後、同温度で2時間加熱硬化し、繊維強化複合材料を得た。この繊維強化複合材料について、ASTM D7136及びD7137に従い、縦150mm×横100mmのサンプルを切り出し、サンプルの中心部に6.7J/mmの落錘衝撃を与え、CAI強度を求めた。上記と同様の測定をそれぞれ異なるサンプルを用いて6回実施し、6回の測定から求めたCAI強度の平均値を下記の評価基準に従って評価した。結果を表5~7に示す。評価がA又はBであるものを合格とした。
A:平均値が300MPa以上
B:平均値が250MPa以上300MPa未満
C:平均値が250MPa未満
【0178】
(実施例2)
プリプレグを[+45°/0°/-45°/90°]5s構成で、擬似等方的に40プライ(層)積層したこと以外は、実施例1と同様にして繊維強化複合材料を得て、CAI強度の測定を行った。
【0179】
(実施例8、11、12)
プリプレグを[+45°/0°/-45°/90°]7s構成で、擬似等方的に56プライ(層)積層したこと以外は、実施例1と同様にして繊維強化複合材料を得て、CAI強度の測定を行った。
【0180】
<CAI強度の変動率の算出>
上記方法で測定した6回のCAI強度の測定値から、CAI強度の変動率を求めた。変動率は、6回の測定から求められたCAI強度の標準偏差をCAI強度の平均値で除したものである。この変動率が大きいほど、得られた繊維強化複合材料のCAI強度のばらつきが大きいことを意味する。結果を表5~7に示す。CAI強度の変動率が6.0未満であるものを合格とした。
【0181】
<損傷面積の測定>
超音波探傷を用いた非破壊検査により損傷面積を測定した。測定の際の衝撃エネルギーは、6.7J/m2とした。上記と同様の測定をそれぞれ異なるサンプルを用いて6回実施し、6回の測定から求められた損傷面積の平均値を下記の評価基準に従って評価した。結果を表5~7に示す。評価がA又はBであるものを合格とした。
A:平均値が700mm2未満
B:平均値が700mm2以上1500mm2未満
C:平均値が1500mm2以上
【0182】
<損傷面積の変動率の算出>
上記方法で測定した6回の損傷面積の測定値から、損傷面積の変動率を求めた。変動率は、6回の測定から求められた損傷面積の標準偏差を損傷面積の平均値で除したものである。この変動率が大きいほど、得られた繊維強化複合材料の損傷面積のばらつきが大きいことを意味する。結果を表5~7に示す。
【0183】
<モードI層間破壊靱性試験(G1c)の測定>
(実施例1、3~7、9、10、13~15、比較例1、2、4、5)
得られたプリプレグを炭素繊維の方向が同じ方向になるように揃えて26プライ積層し、中央層間(13層目と14層目の間)の一部の領域に、炭素繊維の方向と垂直な積層体側面に予亀裂が導入されるように、カプトンフィルム(1mil)(東レ・デュポン社製)をはさんだ。なお、1milは、1/1000インチで、25.3995μmを示す。これをオートクレーブにて、圧力0.6MPa、室温から1.0℃/分の昇温速度で185℃まで昇温した後、同温度で2時間加熱硬化し、繊維強化複合材料を得た。この繊維強化複合材料について、縦(繊維方向)254.0mm×横25.4mmのサンプルを切り出し、端部にヒンジを接着した試験片を得た。この試験片に対して、ASTM D5528に従い、負荷速度1.0mm/minで、ダブルカンチレバービーム試験を実施し、G1cを求めた。上記と同様の測定をそれぞれ異なるサンプルを用いて6回実施し、6回の測定から求められたG1cの平均値を下記の評価基準に従って評価した。結果を表5~7に示す。評価がA又はBであるものを合格とした。
A:平均値が450J/m2以上
B:平均値が400J/m2以上450J/m2未満
C:平均値が400J/m2未満
【0184】
(実施例2)
得られたプリプレグを炭素繊維の方向が同じ方向になるように揃えて34プライ積層し、中央層間(17層目と18層目の間)の一部の領域に、カプトンフィルムをはさんだ事以外は、実施例1と同様にしてモードI層間破壊靱性試験(G1c)の測定を行った。
【0185】
(実施例8、11、12)
得られたプリプレグを炭素繊維の方向が同じ方向になるように揃えて44プライ積層し、中央層間(22層目と23層目の間)の一部の領域に、カプトンフィルムをはさんだ事以外は、実施例1と同様にしてモードI層間破壊靱性試験(G1c)の測定を行った。
【0186】
<モードI層間破壊靱性試験(G1c)の変動率の算出>
上記方法で測定した6回のG1cの測定値から、G1cの変動率を求めた。変動率は、6回の測定から求められたG1cの標準偏差をG1cの平均値で除したものである。この変動率が大きいほど、得られた繊維強化複合材料のG1cのばらつきが大きいことを意味する。結果を表5~7に示す。
【0187】
<モードII層間破壊靱性試験(G2c)の測定>
(実施例1、3~7、9、10、13~15、比較例1、2、4、5)
得られたプリプレグを炭素繊維の方向が同じ方向になるように揃えて26プライ積層し、中央層間(13層目と14層目の間)の一部の領域に、炭素繊維の方向と垂直な積層体側面に予亀裂が導入されるように、カプトンフィルム(1mil)(東レ・デュポン社製)をはさんだ。なお、1milは、1/1000インチで、25.3995μmを示す。これをオートクレーブにて、圧力0.6MPa、室温から1.0℃/分の昇温速度で185℃まで昇温した後、同温度で2時間加熱硬化し、繊維強化複合材料を得た。この繊維強化複合材料について、縦(繊維方向)254.0mm×横25.4mmのサンプルを切り出し、試験片を得た。この試験片に対して、Composite Materials Handbook 17-1に従い、負荷速度1.0mm/minで端面切欠き曲げ試験を実施し、G2cを求めた。上記と同様の測定を異なるサンプルを用いて6回実施し、6回の測定から求められたG2cの平均値を下記の評価基準に従って評価した。結果を表5~7に示す。評価がA又はBであるものを合格とした。
A:平均値が2100J/m2以上
B:平均値が1000J/m2以上2100J/m2未満
C:平均値が1000J/m2未満
【0188】
(実施例2)
得られたプリプレグを炭素繊維の方向が同じ方向になるように揃えて34プライ積層し、中央層間(17層目と18層目の間)の一部の領域に、カプトンフィルムをはさんだ事以外は、実施例1と同様にしてモードII層間破壊靱性試験(G2c)の測定を行った。
【0189】
(実施例8、11、12)
得られたプリプレグを炭素繊維の方向が同じ方向になるように揃えて44プライ積層し、中央層間(22層目と23層目の間)の一部の領域に、カプトンフィルムをはさんだ事以外は、実施例1と同様にしてモードII層間破壊靱性試験(G2c)の測定を行った。
【0190】
<モードII層間破壊靱性試験(G2c)の変動率の算出>
上記方法で測定した6回のG2cの測定値から、G2cの変動率を求めた。変動率は、6回の測定から求められたG2cの標準偏差をG2cの平均値で除したものである。この変動率が大きいほど、得られた繊維強化複合材料のG2cのばらつきが大きいことを意味する。結果を表5~7に示す。
【0191】
<層間せん断強度(ILSS)の測定>
(実施例1、3~7、9、10、13~15、比較例1、2、4、5)
得られたプリプレグを炭素繊維の方向が同じ方向になるように揃えて26プライ積層し、これをオートクレーブにて、圧力0.6MPa、室温から1.0℃/分の昇温速度で185℃まで昇温した後、同温度で2時間加熱硬化し、繊維強化複合材料を得た。この繊維強化複合材料について、縦(繊維方向)24.0mm×横8.0mmのサンプルを切り出し、試験片を得た。この試験片に対して、ASTM D2344に従い、負荷速度1.0mm/分でショートビームせん断試験を実施し、層間せん断強度(ILSS)を測定した。上記と同様の測定を異なるサンプルを用いて6回実施し、6回の測定から求められたILSSの平均値を下記の評価基準に従って評価した。結果を表5~7に示す。評価がA又はBであるものを合格とした。
A:平均値が100MPa以上
B:平均値が90MPa以上100MPa未満
C:平均値が90MPa未満
【0192】
(実施例2)
得られたプリプレグを炭素繊維の方向が同じ方向になるように揃えて34プライ積層した事以外は、実施例1と同様にして層間せん断強度(ILSS)の測定を行った。
【0193】
(実施例8、11、12)
得られたプリプレグを炭素繊維の方向が同じ方向になるように揃えて44プライ積層した事以外は、実施例1と同様にして層間せん断強度(ILSS)の測定を行った。
【0194】
<層間せん断強度(ILSS)の変動率の算出>
上記方法で測定した6回のILSSの測定値から、ILSSの変動率を求めた。変動率は、6回の測定から求められたILSSの標準偏差をILSSの平均値で除したものである。この変動率が大きいほど、得られた繊維強化複合材料のILSSのばらつきが大きいことを意味する。結果を表5~7に示す。
【0195】
【0196】
【0197】
【0198】
【0199】
【0200】
【0201】
【0202】
表5及び表6に示される通り、表面繊維層が特定の2種類のポリアミド樹脂を含むポリアミド繊維を含む実施例1~15において得られた繊維強化複合材料は、CAI強度とCAI強度のばらつきの低減とが同時に高次元で達成されたことが確認された。更に、実施例1~15において得られた繊維強化複合材料は、ILSS及び層間破壊靭性を高次元で達成し、衝撃付与後の損傷面積を減少させ、かつ、これらのばらつきの低減を図ることができることが確認された。
【0203】
表5の実施例1と実施例2とを比較することで、強化繊維の目付を115g/m2とした場合であっても、強化繊維の目付を150g/m2とした場合と同様にCAI強度とCAI強度のばらつきの低減とが同時に高次元で達成されたことが確認された。更に、強化繊維の目付を115g/m2とした場合であっても、得られた繊維強化複合材料は、ILSS及び層間破壊靭性を高次元で達成し、衝撃付与後の損傷面積を減少させ、かつ、これらのばらつきの低減を図ることができることが確認された。
【0204】
表5の実施例1及び2と、表7の比較例5とを比較すると、ポリアミド繊維を含む布を用いた場合に、ポリアミド樹脂としてポリアミド樹脂粒子を用いた場合と比較してCAI強度の変動率が低減していることが確認された。このような結果が得られた理由について、発明者らは、ポリアミド繊維を含む布を用いた場合には、ポリアミド樹脂粒子を用いた場合と比較してポリアミド樹脂がプリプレグの面内に均一に分布するためであると考えている。
【0205】
表5の実施例1と、表7の比較例5とを比較すると、ポリアミド繊維を含む布を用いた場合に、ポリアミド樹脂としてポリアミド樹脂粒子を用いた場合と比較してG2c及びILSSが一層向上していることがわかる。このような結果が得られた理由について、発明者らは、ポリアミド繊維を含む布を用いた場合には、層間せん断時及び層間破壊時に繊維を切断する必要があるためであると考えている。
【0206】
図6は、実施例1、実施例2及び比較例5において得られた繊維強化複合材料の表面の写真である。実施例1及び2においては、ポリアミド樹脂としてポリアミド繊維を含む布を用いているため、表面に布に由来する模様が確認できる。スポーツ用品や自動車用途等においては、意匠性を付与するため、表面に高価な炭素繊維織物プリプレグを使用する場合があるが、本発明のプリプレグを使用することで、安価な一方向炭素繊維プリプレグでも意匠性を有する表面を得ることができる。
【0207】
図7は、実施例1、実施例2及び比較例5において得られた繊維強化複合材料の断面の写真である。比較例5において得られた繊維強化複合材料においては、
図7中のAによって示されているように、ポリアミド樹脂粒子が密集して強化繊維層に過剰に入り込んだ箇所がある一方、Bによって示されているように、局所的にポリアミド樹脂粒子が十分に存在せず、強化繊維層に十分に入り込まない箇所が生じる場合があった。そのようなポリアミド樹脂粒子が十分に存在しない箇所では、衝撃付与時に亀裂進展を抑制できず、損傷面積が大きくなるおそれがあり、これが損傷面積の変動率やひいてはCAI強度の変動率の上昇の原因となったと推測される。一方で、ポリアミド樹脂としてポリアミド繊維を含む布を用いている実施例1及び2では、ポリアミド樹脂がプリプレグの面内に均一に分布するため、損傷面積やCAI強度の変動率は低く抑えられている。
【符号の説明】
【0208】
1…強化繊維、2…樹脂組成物、3…強化繊維層、4…布、5…樹脂組成物、6…表面繊維層、8…樹脂硬化物、10…プリプレグ、100…繊維強化複合材料、A…ポリアミド樹脂粒子が密集して強化繊維層に過剰に入り込んだ箇所、B…ポリアミド樹脂粒子が十分に存在せず、強化繊維層に十分に入り込まない箇所。