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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】中空糸膜の透過特性を決定する方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 65/10 20060101AFI20221031BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20221031BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20221031BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20221031BHJP
   A61M 1/18 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
B01D65/10
B01D63/02
B01D69/08
B01D69/02
A61M1/18 500
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019521783
(86)(22)【出願日】2017-10-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 EP2017076960
(87)【国際公開番号】W WO2018077782
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2020-10-20
(31)【優先権主張番号】102016012730.9
(32)【優先日】2016-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】597075904
【氏名又は名称】フレゼニウス メディカル ケア ドイッチェランド ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】グラウサム エルマー
(72)【発明者】
【氏名】フェール インゴ
【審査官】小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-532807(JP,A)
【文献】特開2011-16116(JP,A)
【文献】特開2015-150349(JP,A)
【文献】特開2016-68046(JP,A)
【文献】特開2003-220135(JP,A)
【文献】特開2016-83647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸膜の少なくとも1つの透過特性を決定する方法であって、
(a)第1の端部及び第2の端部を有する複数の中空糸膜を含む中空糸膜束(5)を設けるステップであって、前記中空糸膜束(5a)の前記第1の端部での前記中空糸膜のルーメンは、末端が開口され、前記中空糸膜束(5b)の前記第2の端部では末端が閉鎖されるように、前記中空糸膜束(5)を設けるステップと、
(b)第1の端部及び第2の端部を有して前記中空糸膜束を受けるハウジング(4)を設けるステップであって、前記第1の端部が少なくとも1つの液体入口(6)を有するように、前記ハウジング(4)を設けるステップと、
(c)前記中空糸膜の末端が開口した前記ルーメンを有する前記中空糸膜束の前記第1の端部は、前記ハウジングの前記第1の端部にて前記少なくとも1つの液体入口(6)に向かって配向されながら、前記中空糸膜束(5)を前記ハウジング(4)に導入するステップと、
(d)前記中空糸膜の透過特性を決定するステップと、を含み、
前記ステップ(b)において、
前記第1の端部及び前記第2の端部を有する前記ハウジング(4)は、前記中空糸膜束(5)を受けるために設けられ、前記ハウジングの前記第1の端部は少なくとも1つの液体入口(6)を有し、前記ハウジングの前記第2の端部は少なくとも1つの液体出口(8)を有し、
前記ステップ(c)において
前記中空糸膜束(5)は、前記ハウジング(4)に導入されて、前記中空糸膜の末端が開口されたルーメンを有する前記中空糸膜束の前記第1の端部(5a)は、前記少なくとも1つの液体入口(6)に向かって配向され、前記中空糸膜の末端が閉鎖されたルーメンを有する前記中空糸膜束の前記第2の端部(5b)は、前記少なくとも1つの液体出口(8)に向かって配向されるようになっており、
前記方法は更に、
(d)第1の試験液及び第2の試験液を供給するステップであって、少なくとも前記第1の試験液又は前記第2の試験液は、少なくとも1つの試験物質を含み、前記第2の試験液は前記第1の試験液と異なるようにする、前記第1の試験液及び前記第2の試験液を供給するステップステップと、
(e)前記第1の試験液を前記ハウジングの前記第1の端部にて前記少なくとも1つの液体入口(6)を通って前記ハウジング及び/又は前記中空糸膜束/中空糸膜の内部に送り込むことによって、前記ハウジング(4)及び/又は前記中空糸膜束を充填するステップと、
(f)前記ハウジング(4)の前記第1の端部にて少なくとも1つの液体入口(6)を通って前記ハウジング及び/又は前記中空糸膜束(5)の内部に前記第2の試験液を流入させるステップと、
(g)前記第2の試験液が少なくとも1つの液体入口(6)を通って前記ハウジング及び/又は前記中空糸膜束(5)に流入する間に、前記少なくとも1つの試験物質の濃度を前記ハウジングの1又は2以上の液体出口(8)にて測定するステップと、を含む、
方法。
【請求項2】
(h)少なくとも1つの液体入口(6)を通って前記ハウジング及び/又は前記中空糸膜束(5)への前記第2の試験液の流入中に前記ハウジング(4)の1又は2以上の液体出口(8)にて前記試験物質の濃度を繰り返し又は連続的に測定して、1又は2以上の液体出口(8)にて少なくとも1つの試験物質について時間依存の濃度軌跡を記録するステップと、
(i)数学関数をステップ(h)において記録された前記少なくとも1つの試験物質の濃度軌跡の少なくとも1つの部分に適合させるステップと、
(j)前記少なくとも1つの試験物質の前記濃度軌跡の前記少なくとも1つの部分における前記数学関数に関して特徴付ける第1のパラメータを決定するステップと、を更に含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(k)前記数学関数を特徴付ける前記第1のパラメータによって前記中空糸膜の透過特性に関して特徴付ける第2のパラメータを決定するステップを更に含む、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記中空糸膜の透過特性に関して特徴付ける前記第2のパラメータは、較正値によって前記数学関数を特徴付ける前記第1のパラメータから決定されるクリアランスである、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記数学関数は、
による線形回帰であるか、又は、
前記数学関数は、
による指数関数であるか、又は、
前記数学関数は、
によるシグモイド関数である、
請求項2ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記濃度軌跡の選択された部分における適合された前記数学関数の曲線勾配は、前記透過特性を評価及び決定するために得られる、
請求項2ないし5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記中空糸膜束(5)はポッティングされていない、
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの試験物質は、塩類から選択される、
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの液体出口での流量は、10ml/min~120ml/minの範囲にある、
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記ハウジング(4)内の前記中空糸膜束(5)は、少なくとも20%~80%未満の充填密度を有する、
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの試験物質の濃度は、導電性測定のような電気化学法を使用するか、又は電流測定法、光度測定法、クロマトグラフィ法、又は生化学方法を使用して決定される、
請求項1ないし10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載の方法を実行する装置であって、
(a)少なくとも1つの液体を受けるための少なくとも1つのリザーバ(1)と、
(b)中空糸膜束(5)を受けるため、第1の端部と第2の端部とを有するハウジング(4)を含む測定チャンバであって、前記ハウジングの前記第1の端部は、少なくとも1つの液体入口(6)を有し、前記ハウジングの前記第2の端部は、少なくとも1つの液体出口(8)を有する、測定チャンバと、
(c)少なくとも第1の試験液及び/又は少なくとも第2の試験液を前記少なくとも1つのリザーバ(1)から前記ハウジング(4)の前記第1の端部上の前記少なくとも1つの液体入口(6)を通って前記ハウジング(4)に流入する、少なくとも1つの連通装置と、
(d)前記少なくとも1つの試験物質の濃度を前記ハウジング(4)の前記第2の端部での前記少なくとも1つの液体出口(8)で検出するための少なくとも1つの検出器と、を備えることを特徴とする装置の使用。
【請求項13】
中空糸膜フィルタモジュールを製造する方法であって、
(a)中空糸膜フィルタモジュールの製造向けの中空糸膜の少なくとも1又は2以上の透過特性についての少なくとも1つの値の範囲を定めるステップと、
(b)前記ステップ(a)において定められた前記値の範囲の前記少なくとも1又は2以上の透過特性を有する中空糸膜を製造するために1又は2以上の製造パラメータを選択するステップと、
(c)前記ステップ(b)において選択された1又は2以上の製造パラメータに従って紡糸プロセスによって中空糸膜を製造するステップと、
(d)得られた前記中空糸膜を中空糸膜束に結束するステップと、
(e)請求項1から11の何れか一項に記載の前記中空糸膜の1又は2以上の透過特性を決定する方法を実行するステップと、
(f)前記1又は2以上の透過特性が前記ステップ(a)において定められた前記少なくとも1つの値の範囲内にあることが確定されると、前記中空糸膜束を用いて前記フィルタモジュールを構築するステップと、を含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項14】
得られた前記中空糸膜の1又は2以上の透過特性が、前記ステップ(a)において定められた前記少なくとも1つの値の範囲内にないことが分かった場合に、前記ステップ(b)からの前記少なくとも1又は2以上の選択された製造パラメータを調整して、得られた前記中空糸膜の透過特性が、前記ステップ(a)において定められた前記少なくとも1つの値の範囲に戻るようにするステップによって特徴付けられる、
請求項13に記載の中空糸膜フィルタモジュールを製造する方法。
【請求項15】
前記紡糸プロセスは、少なくともポリスルホン及びポリビニルピロリドンを含む材料から成る中空糸膜の製造を含む、
請求項13または14に記載の中空糸膜フィルタモジュールを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜の透過特性を決定する方法に関する。より詳細には本発明は、中空糸膜のクリアランス、より詳細には拡散性クリアランスを定量化された透過特性から決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、更に、中空糸膜束における中空糸膜の透過特性を決定する方法を実行する装置及びその使用に関する。
【0003】
本発明は更に、所定の透過特性を有する中空糸膜から中空糸膜束を製造する方法に関する。
【0004】
中空糸膜は、液体の浄化において広く使用されている。より詳細には中空糸膜は、水処理、及び特に腎不全患者の透析における血液クレンジングのために医用生体工学で使用されている。このタイプの中空糸膜は、フィルタモジュールに中空糸膜束として組み付けられる。血液洗浄のためのこのようなフィルタモジュールは、大量生産規模で形成されているようになった。
【0005】
中空糸薄膜フィルタモジュールの作製及び透析用の中空糸膜の製造は、従来技術(Uhlenbusch-Korwer, Bonnie- Schorn, Grassmann, Vienken, “Understanding Membranes and Dialysers(膜と透析器の理解)” Publisher: Pabst Science Publishers, 2004)において知られている。
【0006】
血液クレンジングに使用される中空糸膜は、ポリスルホン(PSU)及びポリビニルピロリドン(PVP)からなることが多く、一般に、乾湿式紡糸プロセスで生成される。このタイプのプロセスにおいて、ポリマーPSU及びPVP及び溶媒を含有する紡糸液は、環状ダイを通って押し出されて、中空フィラメント(長繊維)を紡糸する。スパンフィラメントは、初めに空隙を通って垂直に導かれる。スパンフィラメントの押し出しと並行して、凝固媒体が、スパンフィラメントのルーメンに押し出され、その結果、凝固プロセスは、スパンフィラメントの内側で起こる。凝固は、スパンフィラメント内のゾル相及びゲル相を形成するために転相が伴う。スパンフィラメントは、空隙を通過した後、凝固浴槽に導入され、ここでスパンフィラメントの凝固が完了して、中空糸膜の固体構造体を形成する。次に、得られた中空糸膜は、複数のリンス浴槽及び乾燥ゾーンを通過する。得られた中空糸膜は、予め設定された紡糸条件に従って細孔構造が異なる。本明細書において「PSU」という用語は、例えば、ポリエーテルスルホン及びポリフェニルスルホン並びにこれらを含む共重合体を含めて、スルホン基を有する任意のポリマーの総称として理解されたい。
【0007】
一般に、生産プラントにおいて、複数の中空糸膜が同時に且つ並行して押し出されるので、生産プラントを通過した後に得られる中空糸膜の繊維は、フィラメントシート又は繊維束に結合でき、リールにより巻き取られる。
【0008】
中空糸膜を形成するプロセスは、生産施設において3シフト操業として実行される連続プロセスである。これに伴って、何らかの有意な程度までの製造不良を回避するために、得られた繊維の品質を監視する必要性が常にある。従って、得られた中空糸膜の特性が仕様通りであるかどうか、及び生産プロセスが予め設定された条件に従って進行しているかどうかをチェックするために、継続的に試験が行われる。
【0009】
プロセス条件に応じて、異なる透過特性を有する様々な中空糸膜を得ることができ、実施例は、高流束又は低流束中空糸膜である。対応する中空糸膜は、分離性が異なり、これにより、例えば、腎不全患者の透析において様々な治療法に有用である。中空糸膜の透過特性を定量的に示すために、従来では、例えば、DIN/EN/ISO 8637:2014に記載されるような試験方法で膜の分離特性を確定できる前に、最初に、得られた中空糸膜束をフィルタモジュールに組み付ける必要があった。
【0010】
フィルタモジュールを構築するためには、中空糸膜束は、フィルタハウジングに押し込まれて末端をポッティング(注封)する必要がある。繊維端部での中空糸膜束用のポッティング化合物は、硬化可能樹脂で、特にポリウレタンである。ポッティング及び硬化は、時間の掛かる作業である。フィルタモジュールの構築及びその後のプラント研究所内でのフィルタに関する分析には、数時間を要する可能性がある。その間も、中空糸膜は生産され続けている。極端な場合には、数時間後の分析結果により、得られた中空糸膜がもはや仕様通りではなく、そのため数時間の製造生成物を廃棄しなければならないことが示されることになる。
【0011】
対照的に、分析結果により、得られた中空糸膜が仕様を満たしていることが示された場合、製造された中空糸膜について対応する製造生成物を更に処理して、対応するフィルタモジュールにすることができる。
【0012】
上述したように、このタイプの中空糸膜フィルタモジュールは、腎不全患者の血液透析に使用される。腎不全患者の血液透析は、膜透過型の物質移動の原理に基づいている。血液透析において、血液は、中空糸膜に沿って流れ、他方、適切なタイプの透析液は、外面を流れる。血液と透析液は対向する方向に流れ、向流タイプの濾過作用を生じさせる。
【0013】
腎不全患者の血液治療における濾過条件に応じて、例えば、尿素、クレアチニン、β2-マイクログロブリン、インターロイキン-6、リン酸塩及び有害なタイプの血漿タンパク質などの好ましくない代謝産物が、膜壁を通って透過して透析液により吸収されることによって血液から除去される。同様に、透析液の溶存成分もまた、膜壁を通って血液側に透過することができる。透析液は、例えば、電解質(例えば、Na+、K+、Mg2+、Ca2+、C1)、ブドウ糖及び緩衝剤(例えばNaHCO3)を含有する含水生理溶液として提供される。
【0014】
血液透析又は血液洗浄に関して上記で概説した方式での膜透過型の物質移動は、原理的に、2通りの方法、すなわち、対流移動又は拡散移動によって行うことができる。
【0015】
対流移動においては、液体及び液体中に存在する物質は、膜透過圧力勾配に沿って膜を透過する。拡散移動においては、物質は、膜壁にわたる溶質の固有の分子運動及び濃度勾配によって膜を透過する。
【0016】
中空糸膜のタイプ及び/又は中空糸膜の細孔径並びに血液及び透析液の設定流量に応じて、濾過プロセスは、様々な方法で進めることができる。例えば、血液濾過又は血液透析濾過プロセスにおける血液治療が、比較的大きな細孔を有する中空糸膜及び/又は2つの液体-血液及び血液透析液-の流れについて高い流量を利用している場合、濾過の一部は、対流的に進むことになる。
【0017】
対照的に、血液治療が単純な透析の形態を取る場合、より小さい細孔を有する膜が使用され、物質移動は拡散移動である。これらの条件下では、浸透するのは、特に低分子量の物質であり、例として、尿素、電解質、クレアチニン及びリン酸塩である。
【0018】
更に、腎不全患者の血液から有害なタイプの血漿タンパク質を除去することは、対流タイプの物質移動が可能となる治療プロセスでのみ達成可能である。このタイプの血漿タンパク質は、いわゆる中間分子の範囲で生じる。中間分子範囲の良く知られているタンパク質は、β2ミクログロブリン又はインターロイキン6である。
【0019】
有害な代謝産物が血液クレンジングにおいて中空糸膜によって除去される程度は、クリアランスと呼ばれる。中空糸膜のクリアランスを決定する手順は、従来技術において知られている。例えば、DIN/EN/ISO 8637:2014規格には、クリアランスを定量化する標準化された方法が記載されている。
【0020】
中空糸膜の製造において、製造プロセスを監視することができるようにするために重要であるのは、中空糸膜の仕様、より詳細にはクリアランスに関する仕様、更により詳細には拡散性クリアランスの仕様である。
【0021】
従来技術では、国際公開第2013/034611号に記載されている、中空糸膜の透過関連の特性を決定する方法が開示されている。国際公開第2013/034611(A1)号の18頁には、中空糸膜束に対する透水率を決定する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【文献】独国特許公開第100 07 327号明細書
【文献】国際公開第2013/034611号公報
【非特許文献】
【0023】
【文献】Uhlenbusch-Korwer, Bonnie- Schorn, Grassmann, Vienken, “Understanding Membranes and Dialysers” Publisher: Pabst Science Publishers, 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
中空糸膜製造における品質管理の既存の方法は、改善の必要があることが明らかにされた。従って、本発明の目的は、中空糸膜の透過特性、詳細にはクリアランス、更により詳細には拡散性クリアランスを決定する簡素化された方法を提供することである。
【0025】
本発明の更なる目的は、中空糸膜束を試験して中空糸膜の拡散性クリアランスを決定する装置を提供することである。
【0026】
本発明の目的は更に、少なくとも1つの透過特性、より詳細にはクリアランス、更により詳細には拡散性クリアランスに関して、生成されることになる中空糸膜について生成前に定められた値の範囲の遵守を可能にするように製造プロセス内で中空糸膜を取得可能である、中空糸膜を生成する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の第1の態様において、意外にも、透過特性を決定することに関する上述の問題は、請求項1に記載の方法を提供することによって解決されることが分かった。請求項2から12では、第1の態様による本発明の好適な実施形態を記載している。
【0028】
更に、本発明の第2の態様において、記載した問題は、請求項13に記載の装置によって解決されることが分かった。
【0029】
更なる態様において、本発明は、請求項1から12に記載の方法によって請求項15から17に記載の中空糸膜フィルタモジュールを製造する方法を提供する。
【0030】
本明細書で膜の「透過特性」という用語は、膜壁を通る物質の透過に関係する膜透過タイプの物質移動の特徴を指す。膜の透過特性は、膜の細孔構造に関する情報を提供し、多孔質構造に関して膜を特徴付けることができる測定基準として解釈される。膜透過タイプの物質移動の結果として観測される任意の透過は、一般に更なる量との関連で考慮される。より詳細にはこの用語はまた、本明細書では、透過によって単位時間当たりで物質をどれだけ液体から分離できるかを意味すると理解されたい。物質の開始濃度に基づいて、この透過値は、クリアランスを示す。本明細書において、クリアランスは、膜を記述する透過特性と考えられる。
【0031】
中空糸膜フィルタモジュールを製造するために、従来技術による手順では、中空糸膜束は、フィルタモジュールのハウジングに押し込まれてハウジングにおいて注型用樹脂で末端がポッティングされる。プロセスにおいて、繊維間の末端の隙間は注型用樹脂で充填されているので、末端で液体が繊維間の隙間を貫通することができないようになる。最初に、中空糸膜のルーメンもまた、端部において閉鎖されている。中空糸膜のルーメンは、ポッティングしたカプセル化の一部を末端で分離することによって、再び露出される。透過特性、より詳細には限外濾過係数を本発明の方法によって決定するために、末端で中空糸膜束をカプセル化して中空糸膜フィルタモジュールを構築する必要がない。本発明において、中空糸膜束は、単に片側で末端が閉鎖され、測定のためにハウジングに導入される必要がある。対照的に、ポッティング樹脂に中空糸膜を埋設することは、本発明の方法においては不必要である。
【0032】
本明細書において、「押し込む」という用語は、中空糸膜束がハウジングに導入されるプロセスを意味すると理解されたい。中空糸膜束は、変形可能であり、このため、圧縮されている間にハウジングに導入することができるので、ハウジングの内部の束は、張力を受けた状態にあり、ハウジングの内面に力を作用させる。従って、「導入する」という用語はまた、圧縮された中空糸膜束がハウジングに導入されて、中空糸膜束は、張力によって拡張して、ハウジングの内部スペース全体を中空糸膜で実質的に充填するようになるプロセスを意味すると理解することができる。本明細書において、中空糸膜束が圧縮に起因して張力を受けている間にハウジングに中空糸膜束を導入して、中空糸膜がハウジングのスペースを実質的に充填するようにすることもまた、ハウジングへの中空糸膜束の「押し込み」と呼ばれる。
【0033】
複数の中空糸膜を組み合わせ手中空糸膜束にする行為によって、中空糸膜のパッケージが得られ、中空糸膜は、パッケージによって予め設定された充填密度で共にパッケージングされる。中空糸膜束は、中空糸膜束のようなパッケージにおいて抵抗力を生じさせる。その結果、中空糸膜束は、圧縮可能であり、圧縮に応じて復原力を提供する。圧縮された中空糸膜束は、弛緩状態に戻ろうとする。より詳細には復原力はまた、中空糸膜の形成中に中空糸膜上のエンボス加工された波紋と関連がある。中空糸膜及び中空糸膜束を形成する対応の方法は、従来技術、例えば、独国特許公開第100 07 327 A1号明細書から知られている。
【0034】
本明細書において、「試験液」という用語は、透過特性に関して膜を試験することができる液体を意味すると理解されたい。このような試験液は、例えば、水溶液又は純水であるが、より詳細には血漿又は血液とすることができる。試験液又は少なくともその一部は、膜透過特性である。本明細書において「膜透過特性」という用語は、試験液又はその一部が中空糸膜のルーメンから膜壁を通って及び中空糸膜の外側周囲に透過することができることを意味すると理解されたい。
【0035】
本明細書において、「試験物質」という用語は、試験液の構成部分である物質を意味すると理解されたい。より詳細には試験物質は、試験液、例えば、塩類又は水溶性化合物の溶存成分を構成することができる。
【0036】
本発明の第1の態様において、意外にも、上述の問題は、中空糸膜の透過特性を決定する新規の方法によって解決されることが分かった。
【0037】
本発明の様態で中空糸膜の少なくとも1つの透過特性、より詳細にはクリアランスを決定する方法は、
(a)第1の端部及び第2の端部を有する複数の中空糸膜を含む中空糸膜束を設けるステップであって、中空糸膜束の第1の端部での中空糸膜のルーメンは、末端が開口され、より詳細には透液性であり、中空糸膜束の第2の端部では末端が閉鎖され、より詳細には液密であるように、中空糸膜束を設けるステップと、
(b)第1の端部及び第2の端部を有して中空糸膜束を受けるハウジングを設けるステップであって、第1の端部が少なくとも1つの液体入口を有するように、ハウジングを設けるステップと、
(c)中空糸膜の末端が開口したルーメンを有する中空糸膜束の第1の端部は、ハウジングの第1の端部にて少なくとも1つの液体入口に向かって配向されながら、中空糸膜束をハウジングに導入するステップと、
(d)中空糸膜の透過特性を決定するステップと、
を含む。
【0038】
指定された方法のステップによって、最初に中空糸膜フィルタモジュールを中空糸膜束から形成する必要がなく、中空糸膜の透過特性を決定できることが明らかになった。従って、重試験フィルタモジュールを煩雑に形成する必要はない。中空糸膜の透過特性は、中空糸膜束を最初にポッティングすることなく決定される。
【0039】
1つの実施形態において、本発明の方法は、
(a)第1の端部及び第2の端部を有する複数の中空糸膜を含む中空糸膜束を設けるステップであって、中空糸膜束の第1の端部での中空糸膜のルーメンの開口部は、末端が開口しており、より詳細には液密であり、中空糸膜束の第2の端部では末端が閉鎖され、より詳細には液密であるように、中空糸膜束を設けるステップと、
(b)第1の端部及び第2の端部を有して中空糸膜束を受けるハウジングを設けるステップであって、ハウジングの第1の端部が少なくとも1つの液体入口を有し、ハウジングの第2の端部が少なくとも1つの液体出口を有するように、ハウジングを設けるステップと、
(c)中空糸膜の末端が開口したルーメンを有する中空糸膜束の第1の端部が、少なくとも1つの液体入口に向かって配向され、中空糸膜の末端が閉鎖されたルーメンを有する中空糸膜束の第2の端部が、少なくとも1つの液体出口に向かって配向されながら、中空糸膜束をハウジングに導入するステップと、
(d)第1の試験液及び第2の試験液を供給するステップであって、少なくとも第1の又は第2の試験液は、少なくとも1つの試験物質を含み、第2の試験液は第1の試験液と異なり、より詳細には少なくとも1つの試験物質の少なくとも濃度が異なるようにする、第1の試験液及び第2の試験液を供給するステップと、
(e)第1の試験液をハウジングの第1の端部にて少なくとも1つの液体入口を通ってハウジング及び/又は中空糸膜束の内部に送り込むことによって、ハウジング及び/又は中空糸膜束を充填するステップと、
(f)ハウジングの第1の端部にて少なくとも1つの液体入口を通ってハウジング及び/又は中空糸膜束/中空糸膜の内部に第2の試験液を流入させるステップと、
(g)第2の試験液が少なくとも1つの液体入口を通ってハウジング及び/又は中空糸膜束に流入する間に、少なくとも1つの試験物質の濃度をハウジングの1又は2以上の液体出口にて測定するステップと、
を含む。
【0040】
本発明の方法は、中空糸膜のクリアランス、より詳細には拡散性クリアランスは、迅速且つ確実に決定することができるという利点を有する。これは、特に中空糸膜を製造するプロセスにおいて、得られたクリアランス値を参照して即座に製造プロセスを制御できるという利点を有する。結果として、重大な製造不良が回避可能である。
【0041】
更なる実施形態において、本発明の方法は、以下のステップ、すなわち、
(a)第1の端部及び第2の端部を有する複数の中空糸膜を含む中空糸膜束を設けるステップであって、中空糸膜束の第1の端部での中空糸膜のルーメンの開口部は、末端が開口しており、より詳細には液密であり、中空糸膜束の第2の端部では末端が閉鎖され、より詳細には液密であるように、中空糸膜束を設けるステップと、
(b)第1の端部及び第2の端部を有して中空糸膜束を受けるハウジングを設けるステップであって、ハウジングの第1の端部が少なくとも1つの液体入口を有し、ハウジングの第2の端部が少なくとも1つの液体出口を有するように、ハウジングを設けるステップと、
(c)中空糸膜の末端が開口したルーメンを有する中空糸膜束の第1の端部が、少なくとも1つの液体入口に向かって配向され、中空糸膜の末端が閉鎖されたルーメンを有する中空糸膜束の第2の端部が、少なくとも1つの液体出口に向かって配向されながら、中空糸膜束をハウジングに導入するステップと、
(d)第1の試験液及び第2の試験液を供給するステップであって、少なくとも第1の又は第2の試験液は試験物質を含み、第2の試験液は第1の試験液と異なり、より詳細には少なくとも1つの試験物質の少なくとも濃度が異なるようにする、第1の試験液及び第2の試験液を供給するステップと、
(e)第1の試験液をハウジングの第1の端部にて少なくとも1つの液体入口を通ってハウジング及び/又は中空糸膜束/中空糸膜の内部に送り込むことによって、ハウジング及び/又は中空糸膜束を充填するステップと、
(f)ハウジングの第1の端部にて少なくとも1つの液体入口を通ってハウジング及び/又は中空糸膜束の内部に第2の試験液を流入させるステップと、
(g)第2の試験液が少なくとも1つの液体入口を通ってハウジング及び/又は中空糸膜束に流入する間に、少なくとも1つの試験物質の濃度をハウジングの1又は2以上の液体出口にて測定するステップと、
から成る。
【0042】
本発明による方法の第1のステップは、第1の端部及び第2の端部を有する複数の中空糸膜を含む中空糸膜束を設けるステップを含み、中空糸膜束の第1の端部での中空糸膜のルーメンの開口部は、末端が開口しており、より詳細には透液性であり、中空糸膜束の第2の端部では末端が閉鎖され、より詳細には液密である。
【0043】
本明細書における「中空糸膜束」という用語は、複数の中空糸膜から形成された束を意味すると理解されたい。「中空糸膜」は毛細管構造を有する。より詳細には中空糸膜は、多孔質材料から成り且つ本質的に円形の直径を有する中空フィラメントの形状の膜である。透析に提供することできるこのような中空糸膜の肉厚は、膜材料に応じて、10~100μmの範囲とすることができる。このタイプの中空糸膜のルーメン直径は、一般に、150μm~250μm、特に180μm~220μmであり、繊維長は、150μm~300mm、特に250mm~300mmの範囲にある。液体は、中空糸膜の中空内部を通って流れることができる。より詳細には中空糸膜は、中空糸膜の外面から中空内部、又は中空内部から外面への物質の膜透過に依存する分離プロセスのために設けられる。このタイプの中空糸膜は、通常、血液の治療処置で利用される。
【0044】
中空糸膜の材料は、ポリマー、好ましくは、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルピロリドン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリエチレンエーテル、セルロース、再生セルロース、セルロースアセテート、又はこれらの混合物から選択することができる。特に好ましいのは、疎水性ポリマー材料(例えば、ポリスルホン又はポリエーテルスルホン)及び親水性ポリマー材料(例えば、ポリビニルピロリドン)を含む、より詳細にはこれらから成る中空糸膜である。中空糸膜は、中空糸膜の内部と中空糸膜の周囲との間の物質移動を可能にするように設計された複数の細孔を有する。「ルーメン」は、中空糸膜の中空内部に与えられた名前である。本発明において使用される中空糸膜束は、ポッティングされていない、すなわち、中空糸膜束の端部は、プラスチック基質でポッティングされていない。
【0045】
本明細書において、「ルーメン」という用語は、中空糸膜の内部に延びる一貫したキャビティを意味すると理解されたい。中空糸膜のルーメンは、多孔質膜壁により囲まれているので、ルーメンの内部を通って送られる液体は、中空糸膜に沿って膜壁と物質移動によって接触し、物質の膜透過が観測可能である。繊維端部でのルーメンへの開口部は、流体、より詳細には液体が繊維内部を流れることができるアクセスポイントを構成する。ルーメンは、例えば、加熱によって末端が閉鎖可能であり、より詳細にはルーメンは、中空糸膜の特定の端部が流体密、より詳細には液密であるように閉鎖可能である。
【0046】
複数の中空糸膜を組み合わせて中空糸膜束にする行為によって、個々の中空糸膜間に、液体及び/又はガスを同様にダクトで送ることができる隙間が作り出される。中空糸膜束は、好ましくは、中空糸膜の数が少なくとも50~20000に及ぶ。中空糸膜束の典型的な直径は、15mm~50mmの範囲にある。本発明の方法において利用される中空糸膜束は、ポッティングされておらず、すなわち、中空糸膜束の端部は、注型用樹脂でポッティングされていない。
【0047】
中空糸膜束は、第1の端部及び第2の端部を有し、第1の端部は、第2の端部と異なる。中空糸膜束の第1の端部は、開口した中空糸膜を有する。より詳細には中空糸膜束の第1の端部での中空糸膜のルーメンの開口部は、末端が開口している。その結果として、液体及び/又はガスは、ルーメンから周囲に流出し、又は周囲からルーメンに流入することができる。
【0048】
本発明の方法による透過特性の決定は、透過特性、より詳細にはクリアランスを定量化されることになる複数の中空糸膜から成る中空糸膜束から進める。中空糸膜束は、従来技術による製造プロセスから得られ、更に中空糸膜フィルタモジュールの製造に使用される。本方法の第1のステップにおいて、中空糸膜束における中空糸膜のルーメンの開口部は、一方の端部で閉鎖される。中空糸膜束の一方の端部で中空糸膜を閉鎖する手順は、従来技術において知られている。中空糸膜は、加熱によって、例えば、熱放射又は熱接触を介して、又はワックス又はプラスチックを充填することによって、或いはレーザー放射を介して閉鎖可能である。本発明において、アルミ箔との熱接触を含む方法が好ましい。この関連における閉鎖されたとは、繊維端部が液密であるので、液体が繊維端部を介して繊維のルーメンに流入又は流出することができないことを意味すると理解されたい。
【0049】
次に、第2の端部で末端が閉鎖される中空糸膜を有する中空糸膜束及び第1の端部にて末端が開口した中空糸膜は、細長い、好ましくは垂直に直立したハウジングに押し込められる。本明細書において「ハウジング」という用語は、複数の中空糸膜を受けるために設けられた中空体を意味すると理解されたい。複数の中空糸膜から成る中空糸膜束がハウジングに導入されると、これによって、中空糸膜間に、及びハウジングの内壁と中空糸膜の外面との間にスペースがハウジング内に形成され、ここを通って液体が流動することができる。好適なハウジングは、細長い形状を有することができるので、ハウジングの1つの寸法は、第2及び第3の寸法よりも長く、ハウジングの長手軸線の周りに回転可能である。設けられたハウジングの長手形状に従って、ハウジングは、垂直に及び水平の好ましい配向で使用可能である。
【0050】
1つの好ましい形状において、このようなハウジングは、円筒形、例えば、スリーブ形態である。対応するスリーブ状ハウジングは、少なくとも一方の端部で開口することができるので、中空糸膜束は、スリーブに導入することができる。ハウジングは、その後、閉鎖することができ、又は対応するエンドキャップ又はコネクタと結合することができる。中空糸膜束のハウジングとして有用な対応するスリーブは、透析装置の作製から従来技術において知られている。対応するハウジングは、好ましくは、撓み剛性のプラスチック材料(例えば、ポリカーボネート、ポリプロピレン又はポリオキシメチレン、又は、金属、例えば、アルミニウム又はステンレス鋼)から成る。
【0051】
ハウジングに押し込まれた中空糸膜束の充填密度は、好ましくは、20~80%の範囲、更に好ましくは50~65%未満の範囲にある。細長ハウジングは、第1の端部及び第2の端部を有し、ハウジングは更に、第1の端部に液体入口と、第2の端部に液体出口とを有する。ハウジング内の中空糸膜束の配置は、末端が開口した中空糸膜が、液体入口に向かって配向され、末端が閉鎖された中空糸膜が、液体出口に向かって配向されるようになっている。
【0052】
更なるステップは、第1の試験液及び第2の試験液を供給するステップを含み、これらのうち少なくとも第1の試験液は、試験物質を含有する。ハウジングは、第1の試験液で充填される。充填は、あらゆる空気が中空糸膜の細孔、中空糸膜間のスペース及び中空糸膜のルーメンから変位されてハウジングから洗い流されることによって行われる。第1の試験液は、充填ステップ中に中空糸膜束の全体を洗浄するので、中空糸膜束は、第1の試験液によって完全に囲まれる。
【0053】
ハウジングが満たされていることに起因して、第1の試験液の過剰分は、ハウジングの液体出口にて溢れ出るように想定されている。流入試験液の容積流量は、好ましくは、中空糸膜束が存在するハウジングの容積が30秒~5分の間に一度交換されるように設定される。より詳細には試験液を20~150ml/minの容積流量で流入させることが想定されている。
【0054】
次に、第1の試験液の流入を終了し、第2の試験液の流入を開始する。第2の試験液は、第1の試験液と少なくとも試験物質の濃度が異なる。第2の試験液は、好ましくは、蒸留水から成る。第2の試験液の流入中、好適な測定手段を使用して、ハウジングの液体出口での試験物質の濃度を測定する。測定手段は、試験物質に関して濃度依存の信号を送出する検出器とすることができる。このタイプの検出器は、例えば、導電性検出器又は光度検出器とすることができる。更なる検出器が当該技術分野で周知である。
【0055】
第2の試験液は、何らかの他の濃度の試験物質を含有するか、又は含有しないので、ハウジングの液体出口での流出液体中の試験物質について測定された濃度は、第1の試験液中の試験物質の濃度とは一般に異なることになる。好ましくは、試験物質は、第1の試験液中の濃度よりも低い濃度で第2の試験液中に存在するか、又は存在しないので、ハウジングの液体出口で観測可能な濃度は、第2の液体について流入時間の増大と共に低い濃度を示すことになる。
【0056】
後者の場合は、1つには、中空糸膜の隙間容積は、流入する更なる液体によって試験液が洗い流されるので、液体出口にて試験物質の観測可能な濃度の減少が生じる。これによって、片側にある中空糸隙間と反対側の孔スペース及び中空糸膜のルーメン側との間で試験物質の濃度勾配が生成される。経時的に、試験物質は、濃度勾配に従って(上記濃度勾配を取り除くために)膜壁を透過し、第2の試験液の流れによって液体出口に向けて洗浄されることになる。
【0057】
測定手段によって定量化された濃度、より詳細には液体出口での試験物質の濃度の定量化された軌跡は、中空糸膜束内の試験した中空糸膜の透過挙動の特徴であることが明らかにされる。従って、例えば、中空糸膜の製造プロセス中の中空糸膜透過特性の変化の仕方から、製造プロセス及び/又は得られた中空糸膜の品質に関して推論することが可能である。
【0058】
中空糸膜の生産ラインから取られた中空糸膜の透過挙動を決定するために、本発明の方法では、従来は通常であったように、製造ラインから取られた中空糸膜から形成された中空糸膜束から個々の試験フィルタモジュールを製造する必要はない。従って、試験フィルタモジュールを煩雑に準備する必要はない。本明細書において、試験される中空糸膜束は、単に片側を閉鎖する必要があり、すぐに使用できる試験フィルタモジュールを準備するのに必要とされる全ての更なるステップが省略される。
【0059】
これに関連して、試験フィルタモジュールは、透析装置の構造に似たフィルタモジュールを指すと理解されたいが、専ら、製造された中空糸膜束の透過特性を決定するのに使用され、その後処分される。試験フィルタモジュールを準備するために、フィルタを作製する全ての通常のステップを実行する必要がある。すなわち、中空糸膜束は、フィルタモジュールのハウジングに押し込まれて、ハウジングにおいて注型用樹脂で末端がポッティングされるので、これは不利である。
【0060】
第1の態様による本発明の更なる効果は、中空糸膜が短期間で、すなわち形成されてから数分以内で透過特性について試験可能であることにある。完全な試験フィルタモジュールを構築することが必要である従来技術による試験手順は、少なくとも3時間の期間を要する。この期間中に製造される可能性がある多量の廃棄物は、本発明の方法を用いることによって回避することができる。
【0061】
本発明の第1の態様の1つの実施形態において、得られた測定結果の好適な評価によって、クリアランス、より詳細には試験物質による拡散性クリアランスを決定することができることが分かった。クリアランス、より詳細には拡散性クリアランスは、中空糸膜の特徴的な透過特性であると考えられる。従って、中空糸膜の製造において、定量化されたクリアランス及び定量化された拡散性クリアランスは、定められたプロセスパラメータに従って製造プロセスが稼動中であるか、又は製造プロセスがおそらくプロセスパラメータの命令にわずかに違反しているかについての測定基準としての役割を果たす。
【0062】
クリアランス、より詳細には拡散性クリアランスを決定するために、上述したように、ハウジングへの第2の試験液の流入中にハウジングの1又は2以上の液体出口で繰り返し又は連続的に試験物質の濃度を時間の関数として測定する。得られた測定値又は測定値軌跡は、液体出口での試験物質の濃度軌跡を記録するために使用される。好ましくは、第2の試験液は、試験物質を含まないか、又は第1の試験液より低い濃度で試験物質を含むので、濃度の記録された軌跡は、経時的に試験物質の濃度の減少を表す。意外にも、クリアランス、より詳細には拡散性クリアランスは、濃度の記録された軌跡の特徴曲線パラメータを介して定量化できることが分かった。
【0063】
特徴曲線パラメータを定量化するために、1つのステップは、数学関数を濃度の定量化された軌跡の曲線の少なくとも一部に適合させるステップを含む。有用な数学関数としては、例えば、既知のフィッティング関数が挙げられる。
【0064】
最も簡単な事例では、直線は、濃度の定量化された軌跡のほぼ線形部分に適合可能である。他の好適なフィッティング関数は、指数関数又はシグモイド関数を構成することができる。
【0065】
更なるステップは、適合された数学関数の少なくとも1つの特徴パラメータを決定するステップを含む。これは、例えば、数学関数の濃度軌跡の検査された部分の勾配とすることができる。
【0066】
本発明の第1の態様の実施形態において、定量化された特徴パラメータは、透過特性、より正確にいえば、クリアランス、より詳細には拡散性クリアランスを直接的に表す第2のパラメータを決定するのに使用することができることが、更に分かった。
【0067】
このために、以前に定量化された較正値を使用して、曲線パラメータの定量化された特性値に、クリアランス、より詳細には拡散性クリアランスの特定の値を割り当てた。以前に決定された較正値は、表の形にすることができ、クリアランス、より詳細には拡散性クリアランスは、適合された数学関数の特徴パラメータから決定可能である。以前に定量化された較正値は、例えば、数学的なフィッティング関数を記述する第1のパラメータをクリアランス、より詳細には拡散性クリアランスに関係づけることを可能にするために較正関数又は較正曲線を確立するのに使用することができる。
【0068】
較正曲線は、好ましくは、クリアランス値が既知の手順を使用して決定した中空糸膜を使用して確立される。クリアランスは、例えば、DIN/EN/ISO規格8637:2014に示される手順によって、試験される中空糸膜のポッティングされた中空糸膜束を収容する試験フィルタモジュールに関して決定することができる。次いで、本発明の方法を使用して、同じ中空糸膜束が測定される。試験物質について定量化された濃度軌跡を使用して、例えば、試験フィルタモジュールの既知のクリアランス値と相関付けられる特徴的な勾配値を定量化する。複数のこのような評価及び相関関係は、中空糸膜について細孔構成が異なる中空糸膜束に対して実施される。その後、複数のこれらの相関関係を使用して較正曲線を確立する。明白な相関関係の曲線軌跡が、既知のクリアランス値と評価した曲線パラメータ値との間で確立できることが確かめられた。
【0069】
第1の態様による本発明の更なる実施形態において、本発明によって定量化されたクリアランス、より詳細には拡散性クリアランスの評価及びひいては正確度は、適切な曲線適合関数を試験物質の濃度の定量化された減少する軌跡に数学関数として適合させることによって改善できることが分かった。
【0070】
試験物質の濃度における減少する軌跡が複数の部分において大部分が線形である場合、式1は、迅速な評価のための数学関数として有用である。

1は、式1による直線の切片に関係する。
2は、直線の勾配に関係する。
【0071】
代替の応用において、本発明の方法における試験物質の濃度の減少する軌跡を式2に従って数学的指数関数と適合させることが有利とすることができる。
【0072】
更なる代替の応用において、本発明の方法における試験物質の濃度の減少する軌跡を式3に従って数学的シグモイド関数と適合させることが有利とすることができる。
1は、曲線の開始点に関係する。
2は、変曲点までのx軸部分を示す。
3は、変曲点での勾配を決定する
【0073】
本発明の方法において式1~3の何れかに従って濃度軌跡を評価するために、対応する較正曲線はまた、式1~3の何れかに従って同様に評価する必要がある。また、未知のクリアランス値の中空糸膜束を評価するために得られた特徴曲線パラメータは、対応する較正曲線の決定で使用するのと同じである。
【0074】
本発明の第1の態様の更なる実施形態において、クリアランス値を決定するために、評価に有利であるのは、特に数学関数のある点での勾配、例えば、試験物質の濃度の減少する軌跡に適合されるシグモイド数学関数の変曲点であることが明らかになった。
【0075】
試験液の試験物質は、有利には、流出液体の濃度が容易に検出可能であり且つ試験した透過特性を表すことができる物質である。より詳細には、ナトリウム、クレアチニン、リン酸塩又はビタミンB12は、中空糸膜の拡散性クリアランスの決定に有利であることが分かった。これらの物質は、低分子量であり、従って、固有の分子運動によって拡散タイプの物質移動を表すので特に好ましい。
【0076】
本発明の第1の態様による更なる実施形態において、試験液中の試験物質の濃度は、良好な検出感度を確保するように選ばれる。本発明の第1の態様による更なる実施形態では、NaClは、測定装置のハウジングの液体出口にて導電性測定によって再現可能な試験結果を確かめることができるように、30~100g/l、更に好ましくは70~90g/lの濃度で試験物質として使用するようにされる。
【0077】
更に、ビタミンB12が極めて良好な光度検出感度を有するので、ビタミンB12は試験物質として極めて有効であることが明らかになった。ビタミンB12の方が、NaClと比較すると分子量が高いため、試験した中空糸膜の細孔径分布に関する何らかの情報が付加的に取得可能である。従って、本発明の第1の態様による更なる実施形態では、ビタミンB12を100~3000mg/l、好ましくは200~2000mg/l、好ましくは400~600mg/lの濃度で試験物質として使用する。
【0078】
流入する第2の試験液の容積流量は、中空糸膜のタイプによっては、本発明の方法にとって重要である場合がある。
【0079】
中空糸膜の細孔構成によっては、拡散性クリアランスを決定するために膜を通る対流タイプの物質移動を最小限に抑えることが有利である。従って、本発明の第1の態様による更なる実施形態において、試験装置の液体出口での容積流量が10~120ml/min、好ましくは、40~100ml/min、好ましくは、60~80ml/minの範囲にある場合に測定の正確度が確保されることが分かった。
【0080】
膜透過圧力差は更にまた、流れ条件下にある測定装置のハウジング内の中空糸膜の充填密度によって影響を受ける。本発明の第1の態様による更なる実施形態において、中空糸膜の数が50~20000である中空糸膜束は、試験装置のハウジング内の充填密度が20~80%の範囲にあることを条件として、成功裏に試験可能である。80%を下回る充填密度では、試験方法の流れ状態に有意な膜透過圧力差がないことが分かった。これによって、膜壁全体にわたる対流タイプの物質移動が回避又は低減され、これは、特に拡散性クリアランスの決定に重要である。
【0081】
第2の態様において、本発明は、本発明の第1の態様による実施形態のうちの少なくとも1つによる方法を実行する装置を提供する。
【0082】
従って、本装置は、
・少なくとも1つの液体、より詳細には第1の試験液及び/又は第2の試験液を受けるための少なくとも1つのリザーバと、
・中空糸膜束を受けるため第1の端部及び第2の端部を有するハウジングを含む測定チャンバであって、ハウジングの第1の端部は、少なくとも1つの液体入口を有し、ハウジングの第2の端部は、少なくとも1つの液体出口を有する、測定チャンバと、
・少なくとも第1の試験液及び/又は少なくとも第2の試験液を少なくとも1つのリザーバからハウジングの第1の端部上の少なくとも1つの液体入口を通ってハウジングに流入する、少なくとも1つの連通装置、より詳細にはポンプ圧送手段(及び液体連通部)と、
・少なくとも1つの試験物質の濃度をハウジングの第2の端部での少なくとも1つの液体出口で検出する検出器と、
から成る。
第3の態様において、本発明は、本発明の第1の態様による方法を実行する本発明の第2の態様による装置の使用に関する。
【0083】
第4の態様において、本発明は、中空糸膜フィルタモジュールの製造に関し、本発明の第1の態様による方法は、所定の透過特性を有する中空糸膜を製造するために使用される。
【0084】
本方法は、
(a)中空糸膜フィルタモジュールの製造向けの中空糸膜の少なくとも1又は2以上の透過特性についての少なくとも1つの値の範囲を定めるステップと、
(b)ステップ(a)において定められた値の範囲の少なくとも1又は2以上の透過特性を有する中空糸膜を製造するために1又は2以上の製造パラメータを選択するステップと、
(c)ステップ(b)において選択された1又は2以上の製造パラメータに従って紡糸プロセスによって中空糸膜を製造するステップと、
(d)得られた中空糸膜を中空糸膜束に結束するステップと、
(e)本発明の第1の態様の実施形態に従って中空糸膜の1又は2以上の透過特性、より詳細にはクリアランスを決定する方法を実行するステップと、
(f)1又は2以上の透過特性がステップ(a)において定められた少なくとも1つの値の範囲内にあることが確定されると、中空糸膜束を用いてフィルタモジュールを構築するステップと、
を含む。
【0085】
製造方法の第1のステップは、中空糸膜の製造の透過特性値の範囲を定めるステップを含む。このタイプの値の範囲は、例えば、特定の試験物質、例えば、NaClのクリアランスについての特定の範囲とすることができる。値の範囲は、例えば、拡散性NaClクリアランスによって、透析における特定の治療法に有用な中空糸膜を正確に製造するために予め定められる。
【0086】
更なるステップは、透過特性に対して達成される値の範囲を使用して、対応する中空糸膜を製造することができるようにするために、少なくとも1つの製造パラメータ、より詳細には複数の製造パラメータを決定するステップを含む。製造パラメータは、中空糸膜を製造するために紡糸プロセスに影響を与えるパラメータに関する。製造パラメータとしては、例えば、紡糸液の組成、内部凝集剤の組成、紡糸液が通って押し出される環状ダイの温度、押し出し速度、又は、空隙の大きさが挙げられる。中空糸膜の透過特性に影響を与える複数の製造パラメータは、従来技術において記載されている。その後、定められた製造パラメータに従って及び紡糸プロセスによって製造された中空糸膜は、結束されて、中空糸膜フィルタモジュールの更なる製造のために中空糸膜束の形で供給される。
【0087】
その後、代表的な数のこれらの中空糸膜束を本発明が提供する方法を使用して試験して、本発明の第1の態様の実施形態による1又は2以上の透過特性を決定する。これによって、1又は2以上の透過特性が以前に定められた値の範囲内にあるかどうかを確定することができる。より詳細には、特定の中空糸膜束の製造された中空糸膜が、例えば、クリアランスに関して以前に定められた値の範囲内にあるか否かについて、このようにして確定することが可能である。
【0088】
本発明の第1の態様による方法は、製造された中空糸膜の透過特性を決定するための迅速な方法を提供するので、本発明の上記の方法を使用して、製造プロセスの迅速な制御を行うことができる。より詳細には、製造される中空糸膜は、以前に定められたクリアランス値の範囲の遵守について試験して、例えば、中空糸膜フィルタモジュールの構築に使用するのに中空糸膜を認めることができるかどうかを確認することができる。
【0089】
製造プロセスは、製造された中空糸膜の特性を以前に定められた値の範囲内に、又はかろうじて範囲内に維持することができない場合、製造パラメータに関して適切な推論を行うことができる。その後、製造パラメータは、得られた中空糸膜の特性が定められた値の範囲を遵守しているように調整することができる。このようにして調整された製造プロセスは、製造された中空糸膜が中空糸膜フィルタモジュールの構築に使用可能であると決定可能になるまで、ステップ(a)~(d)を繰り返す。
【0090】
上記の製造方法は、膜材料ポリスルホン及びポリビニルピロリドンに基づいて製造される中空糸膜の製造に極めて有用である。このような中空糸膜の形成に使用される紡糸液は、典型的には、極性非プロトン性溶媒中で溶解したポリスルホン(PSU)及びポリビニルピロリドン(PVP)を含有する。好適な溶媒の実施例としては、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド及びジメチルアセトアミドが挙げられる。ポリスルホン/ポリビニルピロリドン紡糸液のバッチは、製品の中空糸膜の透過特性、より詳細には拡散性クリアランスを正確に維持することが特に難しいことが明らかにされていたが、これらは、製造パラメータの変動に対して極めて敏感に反応することに起因している。本発明のこの製造方法では、PSU/PVP中空糸膜の形成に特に有利であることが分かっており、これは、この方法が、製造パラメータの変化によって生じる逸脱を極めて短時間内に検出することができ、これに応じて製造プロセスを調整することを検出することができるからである。
【図面の簡単な説明】
【0091】
図1】中空糸膜束に関する中空糸膜の透過特性を決定する装置を示す。
図2】特定の試料について実施例2において定量化した濃度を時間に対してプロットした図である。
図3】定量化したC3値に対するクリアランス値をプロットした図である。
図4】中空糸膜束F1について記録された濃度軌跡及び適合された数学関数を示す。
図5】中空糸膜束F1について記録された濃度軌跡及び適合された数学関数を示す。
図6】中空糸膜束F1について記録された濃度軌跡及び適合された数学関数を示す。
図7】中空糸膜F1~F4からの定量化されたC3の値に基づいて生成されたまっすぐな較正ラインを示す。
【発明を実施するための形態】
【0092】
(実施例1)-中空糸膜の透過特性を決定する装置
図1は、中空糸膜束に関する中空糸膜の透過特性を決定する装置を示す。
【0093】
図示された装置は、サーモスタットによって25°Cに調整された蒸留水(1)温度のリザーバから成る。水槽は、第1の試験液を収容する更なる受容器(2)を保持する。試験液は、90g/lの濃度の試験物質NaCl及び500mg/lの濃度のビタミンB12の水溶液である。ポンプ(3)は、水又は第1の試験液を選択的に移送するために使用することができる。ポンピング圧送された流れは、Oリングを使用して封止されてスリーブ形のハウジング(4)の下端部に装着された密閉体に通じる。この場合のハウジング(4)は、中空糸膜束(5)が導入されたスリーブの形状を有する。密閉体は、液体がスリーブに侵入し、液体入口(6)としての機能を果たす4mmの中央穿孔を有する。
【0094】
中空糸膜束は、本発明の方法に従ってスリーブに押し込まれる。本発明の実施形態におけるスリーブは、330mmの全長を有して上端部で開口している。図1の本発明の実施形態において、この上端部は、54mmの内径を有する際には、スリーブの残りの部分よりも幾分幅広であり、内径は34mmである。中空糸膜束自体は、このより狭い領域に位置し、上縁部で終了する。幅が約1mmで高さが10mmの円環(7)が、本発明の実施形態において、試験液用の排水路を得るためにスリーブの外にフライス加工されている。円環から約2mm上方の地点には、試料採取用の液体出口(8)がある。
【0095】
(実施例2)-中空糸膜の透過特性を決定する方法
第1の試験液を調製するために、90gの塩化ナトリウム及び500mgのビタミンB12を一定の攪拌下で約500mlの蒸留水中に溶解させ、その溶液を、蒸留水で1リットルまで作り、温度を水槽中で25°Cに調整する。
【0096】
試験される繊維束を、約300℃でホットプレート上でアルミ箔を用いて片側(5b)で溶融閉鎖する。束が冷却した後、アルミ箔を剥離し、束を図1に示すようにスリーブ形ハウジング(4)に押し込む。蠕動ポンプを70ml/分の流量に設定し、最初にハウジング(4)を第1の試験液で充填する。中空糸膜束(5)の開口端(5a)は、ドリル孔(6)に隣接する。
【0097】
膜は、乾燥している限り通気性であるので、中空糸膜の隙間だけでなく中空糸膜のルーメン側及び細孔容積部が完全に第1の試験液で気泡なしで確実に充填されることを確保するように留意する。
【0098】
濃縮物が繊維束(5b)の閉鎖された側を完全に覆うとすぐに、蠕動ポンプ(3)は、第1の試験液のポンプ圧送から第2の試験液のポンプ圧送に切り替えられる。第2の試験液は、蒸留水である。その結果、蒸留水は、液体入口を通ってハウジングに流入する。出口スタブでは、第2の試験液の流入が始まり、10mlの試料を毎分採取する。代替的に、濃度測定はまた、連続的に行うこともできる。
【0099】
ビタミンB12濃度が、試料毎に光度計で決定される。それぞれの試料中のNaClの濃度は、導電性測定によって決定することができる。
【0100】
(実施例3)-透過特性の評価
特定の試料について実施例2において定量化した濃度が、図2により時間に対してプロットされている。本実施例において、液体出口での試験物質NaCl及びビタミンB12の濃度軌跡は、式3によりシグモイド関数によって適合される。

1は、曲線の開始点に関係する。
2は、変曲点までのx軸部分を示す。
3は、変曲点での勾配を決定する。
【0101】
シグモイド関数は、ソフトウェアプログラム、例えばScilabプログラム又はExcel 2010ソフトウェアプログラムを使用して、測定値に数学的に適合される。Excel 2010ソフトウェアプログラムにおいて、例えば、ソルバーと呼ばれるアドインを使用して、最小二乗の合計を最小限に抑えるようにパラメータC1~C3を最適化することができる。最適化方式として、「GRG非線形」ソリューションアプローチを使用すると、良好な結果をもたらすと判明されている。式3におけるC3について得られた値を、拡散性クリアランスの決定を優先して使用する。
【0102】
(実施例4)-一例としてビタミンB12クリアランスを使用した従来のクリアランス測定との比較
以下のクリアランス値を、従来技術、より詳細にはDIN/EN ISO 8637規格に記載されているような手順を使用して、商業的に入手可能な透析装置でビタミンB12について定量化した。
【0103】
表1
【0104】
試験した透析装置は、Fresenius Medical Care製透析装置であった。表1に記載した記号表示を有する透析装置における中空糸膜束を本発明の方法によって更に試験した。測定の定量化後の曲線を式3の機能で適合させた。適合式3から得られたC3値によって以下の結果が得られた。
【0105】
表2
【0106】
定量化したC3値に対するクリアランス値のプロットを図3に示す。プロットは、透析装置で測定したビタミンB12クリアランス値と本発明の方法によって定量化したC3値との高い相関を示す。相関は、好適な数学関数で適合させて、従って、更なる試験のために較正曲線又は関数として使用することができる。
【0107】
(実施例5)-評価に関する更なる可能性
ビタミンB12及び塩化ナトリウム用の4つの中空糸膜束F1~F4の測定曲線は、実施例1~4に記載されるように記録されている。最初に、中空糸膜のクリアランス値を既知の手順によって、例えば、DIN EN ISO 8637 2014規格の手順によって同じ中空糸膜を備える対応する透析装置で定量化した。
【0108】
表3
【0109】
次に、経時的な濃度軌跡曲線の曲線軌跡は、様々な機能と適合させることができる。様々なパラメータが、回帰又は最小二乗によって実質的に定量化される。これは、例えば、Excel 2010がプログラムを使用して行うことができる。線形回帰で十分とすることができることが明らかになった。
【0110】
実施例において、2分~6分の間で測定値を使用して、回帰を実行した。他のデータポイントを代わりに選択してもよい。重要なことは、未知の束についての較正曲線の確立と測定値決定との間で同じ手順を使用することである。
【0111】
代替的に、式2に従って式の指数関数を使用することが可能である。
【0112】
式1及び2の式は、係数A1、A2、B1及びB2が単に特定のソフトウェアプログラム、例えば、Excel 2010において対応する傾向ラインを追加することによって定量化可能であるという利点を有する。
【0113】
次に、較正関数は、これらの中空糸膜束について、透析装置において決定されていた以前に定量化したクリアランス値によって確立することができる。パラメータA2及びB2の使用が特に賢明であることが明らかになっている。
【0114】
より大きい時間スパンを評価するためには、シグモイド関数を使用することが賢明であることが分かる。シグモイド関数は、「S字」曲線を描き、実施例4に示すように、典型的には式3によって表すことができる。
【0115】
以下の較正パラメータは、透析装置F1~F4に従って中空糸膜束について式1~3に従って定量化した。図4~6は、中空糸膜束F1について記録された濃度軌跡及び適合された数学関数を示し、そこからパラメータA2、B2及びC3は、定量化されている。全体的に、表4に記載されたパラメータは、中空糸膜束F1~F4について定量化した。
【0116】
表4
【0117】
表3及び表4のクリアランス値を定量化された較正パラメータと組み合わせると、対応する較正関数を確立することができる。これらを使用して、実験条件及び評価条件が不変のままであることを条件として未知の中空糸膜のクリアランス値を決定することができる。試験した中空糸膜束F1~F4について、較正関数の生成に適しているのは、特に、図6によるシグモイド関数との測定された濃度軌跡の数学的な適合であることが明らかになる。図7は、中空糸膜F1~F4からの定量化されたC3の値に基づいて生成されたまっすぐな較正ラインを示す。
【符号の説明】
【0118】
1 蒸留水のリザーバ
2 試験液を収容する受容器
3 ポンプ
4 ハウジング
5 中空糸膜束
5a繊維束の開口端
5b繊維束の閉鎖端
6 液体入口
7 円環
8 液体出口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7