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特許7167019エリスロポエチン由来分子を含む局所適用のための美容用製剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】エリスロポエチン由来分子を含む局所適用のための美容用製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/64 20060101AFI20221031BHJP
   A61K 8/68 20060101ALI20221031BHJP
   A61K 8/55 20060101ALI20221031BHJP
   A61K 8/44 20060101ALI20221031BHJP
   A61K 8/46 20060101ALI20221031BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20221031BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20221031BHJP
   C07K 14/505 20060101ALN20221031BHJP
   C07K 7/00 20060101ALN20221031BHJP
【FI】
A61K8/64
A61K8/68
A61K8/55
A61K8/44
A61K8/46
A61Q19/00
A61Q19/08
C07K14/505
C07K7/00
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019524882
(86)(22)【出願日】2017-11-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-21
(86)【国際出願番号】 EP2017001289
(87)【国際公開番号】W WO2018086732
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-09-24
(31)【優先権主張番号】16002375.0
(32)【優先日】2016-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519164024
【氏名又は名称】エーエスシー・リジェニティー・リミテッド
【住所又は居所原語表記】Unit 2.02, 411-413 Oxford Street, W1C 2PE London,United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バッダー、アウグスティヌス
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-508471(JP,A)
【文献】国際公開第2012/003960(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102205114(CN,A)
【文献】特表2011-527560(JP,A)
【文献】国際公開第2015/174601(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0189674(US,A1)
【文献】特表2010-536745(JP,A)
【文献】特表2013-540766(JP,A)
【文献】特表2006-519263(JP,A)
【文献】Brines M.et al.,Nonerythropoetic, tissue-protective peptides derived from the tertiary structure of erythropoetin.,PNAS,2008年08月05日,vol. 105, no. 31,10925-10930
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
C07K 1/00-19/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)少なくとも1種の、10個から40個までのアミノ酸からなる単離組織保護ポリペプチド(tpP)
(ここで、前記組織保護ポリペプチドは、EPO受容体(EpoR)及び/又は共通β受容体(βcR)のアゴニストであり、CD90発現皮膚細胞を標的とし、造血/赤血球生成活性を誘発しない若しくは本質的に誘発せず、及びEPOペプチドバリアントであり、
ここにおいて、当該EPOペプチドバリアントが、
NEQLERALNTS(配列番号23);
NEQLERALNST(配列番号25);
QDQLERALNTS(配列番号27);
QDQLERALNST(配列番号29)、
からなる群から選択される1種のアミノ酸配列を含むか、またはその1種のアミノ酸配列である)、
(ii)脂質化合物、脂質化合物の組成物又は脂質構造
(ここで、前記組織保護ポリペプチド(tpP)は、イオン相互作用によって又は共有結合によって、前記脂質化合物又は前記脂質構造に連結又は結合しているか、或いはそれと混合されているか、又はミセル若しくはリポソーム構造を形成することによって、その中に内包されているか、若しくはカプセル化されている)、及び
(iii)血管系の弛緩を刺激し、及び/又は前記組織保護ポリペプチド(tpP)の前記CD90発現皮膚細胞への輸送を補助する、少なくとも1種の誘発剤
(ここで、前記誘発剤は、前記CD90発現皮膚細胞における窒素酸化物(NO)及び/又はアセチルコリンの生成を刺激する)
を含む、無傷の皮膚への局所適用のための美容用製剤又は組成物。
【請求項2】
前記脂質化合物又は前記脂質構造は、スフィンゴ脂質又はセラミド、或いはリン脂質又はホスファチジルコリンをベースとする、請求項1に記載の美容用製剤又は組成物。
【請求項3】
前記誘発剤は、アルギニン、フェニルアラニン、リシン、グルタミン、チロシン、トリプトファン、バリン、プロリン、シトルリン、クレアチン、タウリン及び上記アミノ酸のうちで2つ以上の同じ又は異なるアミノ酸を含むか、それからなるポリペプチドからなる群から選択される1種以上のアミノ酸又はアミノ酸誘導体を含む、請求項1又は2に記載の美容用製剤又は組成物。
【請求項4】
ビタミンB5及び/又はビタミンE及び/又はコリンを含む、請求項3に記載の美容用製剤又は組成物。
【請求項5】
前記誘発剤は、前記組織保護ポリペプチド(tpP)にN末端及び/又はC末端で共有結合によって結合して、それにより複合体分子を形成している、請求項1~4の何れか1項に記載の美容用製剤又は組成物。
【請求項6】
膚の若返り、自然な皮膚の輝き、しわの減少、皮膚のアンチエイジング、並びに乾燥した皮膚の回避及び改善に局所使用するための、請求項1~5の何れか1項に記載の美容用製剤又は組成物。
【請求項7】
NEQLERALNTS(配列番号23)
NEQLERALNST(配列番号25)
QDQLERALNTS(配列番号27)
QDQLERALNST(配列番号29)
から成る群から選択される1つの11-merのアミノ酸配列からなり、
EPO受容体(EpoR)及び/又は共通β受容体(βcR)に結合可能であり、
脂質構造と、CD90発現皮膚細胞における一酸化窒素(NO)及び/又はアセチルコリンの生成を刺激する誘発剤との組み合わせにおいて更に効果的である
単離ポリペプチド。
【請求項8】
皮膚の修復、皮膚の若返り、自然な皮膚の輝き、しわの減少、皮膚のアンチエイジング、並びに乾燥し、断裂した皮膚の回避及び改善を含む、皮膚の局所的な美容用の処置のための使用のための、請求項7に記載の単離ポリペプチド。
【請求項9】
(i)少なくとも1種の単離組織保護ポリペプチド(tpP)
(ここで、前記組織保護ポリペプチドは、EPO受容体(EpoR)及び/又は共通β受容体(βcR)のアゴニストであり、CD90発現皮膚細胞を標的とし、造血/赤血球生成活性を誘発しない若しくは本質的に誘発せず、及び一般的アミノ酸配列:
QLERALN X(配列番号33)
によって表される11-merの皮膚保護性EPOペプチドバリアントであり、
ここで、XはQまたはNであり、XはEまたはDであり、Xは互いに独立してS又はTであり、
ただし、QEQLERALNSS(配列番号21)は除く)、及び
(ii)脂質化合物、脂質化合物の組成物又はスフィンゴ脂質若しくはリン脂質に基づく脂質構造
(ここで、当該皮膚保護EPOペプチドバリアントは、イオン相互作用によって又は共有結合によって、前記脂質化合物、組成物、又は前記脂質構造に連結又は結合しているか、或いはそれと混合されているか、又はミセル若しくはリポソーム構造を形成することによって、その中に内包されているか、若しくはカプセル化されている)、及び
(iii)血管系の弛緩を刺激し、及び当該CD90発現皮膚細胞での窒素酸化物(NO)の形成を刺激する、少なくとも1種の誘発剤
(ここで、前記誘発剤は、コリン、ビタミンB5であるか、又はアルギニン、フェニルアラニン、シトルリン、及びこの群から選択される2以上の同じ又は異なるアミノ酸を含む若しくはそれらからなるペプチドから選択される1種以上のアミノ酸を含む、若しくはそれからなる、
ここで、当該EPOペプチドバリアント、前記誘発剤及び脂質化合物、組成物若しくは構造は、トランスポーター分子複合体を形成し、それが標的とされる前記CD90発現皮膚細胞の微小環境に対する当該組成物又は製剤のより近い近接をもたらし、それにより当該EPOペプチドバリアントに対する感受性をそれらに与え、それによってその当該組織保護効果を増強する)
を含む無傷の皮膚に対する局所適用のための美容用製剤又は組成物。
【請求項10】
前記皮膚保護性EPOペプチドバリアントが、N末端及び/又はC末端で共有結合によって当該誘発剤に結合しており、それによって複合体分子を形成している、請求項9に記載の美容用製剤又は組成物。
【請求項11】
膚の若返り、自然な皮膚の輝き、しわの減少、皮膚のアンチエイジング、並びに乾燥した皮膚の回避及び改善の局所使用のための請求項9に記載の美容用製剤又は組成物。
【請求項12】
少なくとも1種の単離組織保護ポリペプチド(tpP)
(前記組織保護ポリペプチドは、EPO受容体(EpoR)及び/又は共通β受容体(βcR)のアゴニストであり、CD90発現皮膚細胞を標的とし、造血/赤血球生成活性を誘発しない若しくは本質的に誘発せず、並びに、以下の一般アミノ酸配列:
LERAL X(配列番号31)(ここで、X、X、Xは互いに独立してQ又はNであり、XはE又はDであり、X、Xは互いに独立してS又はTである):
によって表わされる11merの皮膚保護性EPOペプチドバリアントである)
を含み、無傷の皮膚に対する当該EPOペプチドバリアント皮膚保護効果の増強に使用するための美容用製剤又は組成物であって、前記増強が、誘発剤及び脂質化合物若しくは脂質組成物若しくは脂質構造を提供して、当該EPOペプチドバリアント分子複合体を形成することによって達成され、前記EPOペプチドバリアントのCD90発現皮膚細胞の微小環境への輸送を補助し、前記細胞にEPOペプチドバリアントに対する感受性を与える、美容用製剤又は組成物であって、
前記誘発剤が、当該CD90発現皮膚細胞での血管系の弛緩の刺激と窒素酸化物(NO)の形成を刺激し、コリン、ビタミンB5であるか、又はアルギニン、フェニルアラニン、シトルリン、及びこの群から選択される2以上の同じ又は異なるアミノ酸を含む若しくはそれらからなるペプチドから選択される1種以上のアミノ酸を含む、若しくはそれからなる、
皮膚保護性の美容用製剤又は組成物。
【請求項13】
請求項12に記載の使用のための皮膚保護性の美容用製剤又は組成物であって、前記脂質化合物又は脂質組成物若しくは脂質構造は、イオン相互作用又は共有結合によって前記皮膚保護性EPOペプチドバリアントに連結しているか又は結合しているか、或いはそれと混合されているか、或いはミセル又はリポソーム構造を形成することによってその中に内包されているか、若しくはカプセル化されている、皮膚保護性の美容用製剤又は組成物。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の使用のための皮膚保護性の美容用製剤又は組成物であって、前記皮膚保護性EPOペプチドバリアントが、N末端及び/又はC末端で共有結合により当該誘発剤に結合しており、それによって複合体分子を形成している美容用製剤又は組成物。
【請求項15】
請求項12~14の何れか1項に記載の使用のための皮膚保護性の美容用製剤又は組成物であって、前記誘発剤が、2又は3分子のL-アルギニンからなるペプチド、又は2又は3分子のL-シトルリンからなるペプチドである美容用製剤又は組成物。
【請求項16】
請求項12~15の何れか1項に記載の使用のための皮膚保護性の美容用製剤又は組成物であって、当該EPOペプチドバリアントが、以下の11merのアミノ酸配列:
NEQLERALNTS(配列番号23)
NEQLERALNST(配列番号25)
QDQLERALNTS(配列番号27)
QDQLERALNST(配列番号29)及び
QEQLERALNSS(配列番号21)
からなる群から選択される美容用製剤又は組成物。
【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、ヒトの皮膚の美容的処置のために設計された美容用製剤及び新規のペプチド関連物質に関する。より詳細には、本発明は、CD90陽性組織細胞を標的とし、エリスロポエチン(EPO)の部分的な配列に対応するか又は由来するが、造血作用を実質的に誘発せず、しかしながら組織再生及び保護効果を誘発するペプチドに関する。
【0002】
特に、本発明は、脂質構造、及び血管系の弛緩を誘発し、標的皮膚細胞へのポリペプチド物質の経皮輸送を促進する薬剤と機能的な関係にあるEPO由来組織保護ペプチドを開示する。
【発明の背景】
【0003】
分化抗原群(Cluster Differentiation)90(CD90)は、細胞接着分子であり、25~35KDaの分子量を有する免疫グロブリンスーパーファミリーの最も小さなメンバーである。CD90は、胸腺細胞分化抗原-1(Thy-1)としても知られ、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)モチーフを介して細胞表面に固定された糖タンパク質である。ヒトにおいて、CD90は、間葉系幹細胞(MSC)、造血幹細胞(HSC)及びケラチノサイト幹細胞(KSC)を含む幹細胞で発現し、線維芽細胞、ニューロン及び活性化内皮細胞のような非リンパ組織上では様々なレベルで発現する。ケラチノサイトは、表皮、即ち皮膚の最外層における主な細胞種を構成し、そこに見られる細胞の90%を成す。これらの皮膚の基底層に見られるケラチノサイトは、「基底細胞」又は「基底ケラチノサイト」と呼ばれる。
【0004】
CD90発現皮膚細胞は、成長因子、サイトカイン及び細胞外マトリックス成分を合成し、放出することによって、炎症及び創傷治癒に機能し、損傷した皮膚組織を修復するのを助ける。例えば、単球CD90リガンドは、炎症の間に活性化された内皮細胞上のCD90に結合し、炎症、組織損傷及び感染部位へ免疫細胞の遊走を集中させる。
【0005】
エリスロポエチン(EPO)は、低酸素に応答した赤血球産生の調節因子として最初に同定された多面的サイトカイン糖タンパク質である。成熟したヒトの165アミノ酸長EPOタンパク質配列は、配列番号1、
APPRLICDSRVLERYLLEAKEAENITTGCAEHCSLNENITVPDTKVNFYAWKRMEVGQQAVEVWQGLALLSEAVLRGQALLVNSSQPWEPLQLHVDKAVSGLRSLTTLLRALGAQKEAISPPDAASAAPLRTITADTFRKLFRVYSNFLRGKLKLYTGEACRTGDR(配列番号1)
によって表され、4つのαヘリックスからなり、コンパクトな球状構造を形成している。ヒトリコンビナントエリスロポエチン(哺乳動物細胞で発現される)は、3つのN結合型及び1つのO結合型オリゴ糖鎖を含み、それらは併せて糖タンパク質の総分子量の約40%を構成する。N結合型グリコシル化は、位置24、38及び83に位置するアスパラギン残基(Asn)で起こり、一方、O結合型グリコシル化は位置126に位置するセリン残基(Ser)で起こる。
【0006】
古典的な当初の理解によれば、EPOは、EPO受容体分子を二量体化することによって造血を誘発し、それが、EPO受容体関連ヤヌスチロシンキナーゼ2(Jak2)及びStat5等の二次シグナル伝達分子の活性化を引き起こす(Brines and Cerami, Nat Rev Neurosci, 2005;6:484-94)。リコンビナントEPOは様々な原因の貧血の治療に広く使用されている。
【0007】
EPOは組織保護特性も示す。中枢神経系において、EPO及びEPO受容体は、ニューロン、グリア細胞及び脳血管系内皮によって発現される。EPOは、インビトロで、並びに外傷、卒中、虚血、炎症及びてんかん発作に関連するニューロン損傷の動物モデルにおいて、神経栄養性及び神経保護性であることが示された。EPOの有益な効果は、脳卒中、統合失調症及び進行性多発性硬化症の臨床試験でも証明されている。EPOは、アポトーシスを防止することにより直接的にと、及び炎症過程を調節し、神経形成及び血管形成を刺激することにより間接的にとの、両方でニューロンを保護する(Wang et al., Stroke 2004;35:1732-7)。
【0008】
エリスロポエチンの細胞保護効果のいくつかは、標準的なエリスロポエチン受容体及び共通β受容体であるβcRを含むヘテロ二量体へのそれの結合によって媒介されることが示されている(Brines et al., Proc Natl Acad Sci USA 2004;101:14 907-14 912)。興味深いことに、カルバミル化エリスロポエチンはこれらのヘテロ受容体に結合して組織保護効果を発揮するが、一方で古典的なエリスロポエチン受容体には結合せず、赤血球生成を刺激しない。βcRは赤血球生成には必要ではない。非造血細胞によって発現されるEpoRと組み合わされたβcRが組織保護受容体を構成し、故に組織保護ヘテロ受容体を作り出すと考えられる。
【0009】
皮膚及び他の組織におけるEPOの組織再生及び創傷治癒促進効果は、全身的適用形態によって及び局所的適用形態によっても、インビボ及びインビトロで何度も実証された(例えば、Giri et al, Drug Design, Development and Therapy 2015:9;Gunter et al., J Transplant Ste Cell Biol 2(1):4, 2015;Hamed et al., Wound Rep Reg (2014) 22 23-33;WO2004/001023;WO2005/063965;WO2009/083203)。
【0010】
しかしながら、皮膚欠損及び損傷の再生に関しては、EPO及びそのアナログが皮膚に浸透しないために、これらのポリペプチドの、欠損し又は損傷した皮膚創傷へのそれらの化合物の直接的な適用への有用性を制限する幾らつの問題が明らかとなってきている。静脈内、皮下又は筋肉内注射による適用でない限り、タンパク質エリスロポエチン又はアナログは、体内に入ることができない。
【0011】
EPO単独の皮膚への局所適用は、それ自体が皮膚浸透性を欠くために失敗するであろう。これは、当該分子の適用可能性を厳しく制限する。これらの場合でも、全身適用が再生の能力をそもそも有するのか、むしろ従来の血球の増殖及び成熟を補助し、局所的な無傷の皮膚又は組織再生を補助しないのかどうかは物議を醸している。300ユニットのEPO/kg体重を用いた皮下注射でさえ、皮膚の再生を誘発することができなかったことが報告されている。
【0012】
加えて、創傷は、数分間の間にEPOを不活性化することで知られるプロテイナーゼに富み、そのため、急速なタンパク質分解に起因するEPOの短い半減期のために、EPOは創傷修復を促進するために局所的に適用されるには制限された能力を有する。当分野で知られたEPO断片、或いはバリアント又は誘導体についても同じことが言える。これらのEPO誘導体又は断片又はバリアントの幾つかは、組織保護に有効であることが知られている(例えば、EP2933264、EP2371855、WO2007/019545を参照のこと)。
【0013】
これらのEPO由来のポリペプチドの制限された利用可能性は、特に、皮膚の最も表面の領域が比較的無傷である、加齢した皮膚、瘢痕が豊富な組織に存在する皮膚の状態、更には神経皮膚炎又は皮膚炎のような炎症状態の場面においてはジレンマである。EPO及びそのアナログの美容活性でさえ達成できないであろう。
【0014】
本発明の目的は、EPO及びEPO断片、アナログ、ミメティック、バリアント及び誘導体の、影響の勾配及び時間様式ではなく、近接した幾何学的距離での皮膚細胞への適用可能性を確立し、改善することである。
【0015】
従って、上記制限を克服するために、組織保護特性を示し、且つ、例えば、皮膚の加齢、並びに病理学的事象に基づく皮膚細胞への外的及び内的の要因によって引き起こされる皮膚の損傷をなくす又は軽減するための皮膚細胞の生理学的及び生物学的機能を誘発し、及び実行する皮膚組織中のコンピテント細胞を効率的に標的とすることができる新規の化学物質の開発が必要である。
【発明の概要】
【0016】
この目的は、赤血球生成活性が無く、皮膚組織中のCD90陽性細胞及び他のコンピテント細胞を標的とすることができる皮膚組織保護EPOアナログ又はバリアントを含む新規の化学物質を提供することによって達成される。これらの新規の化学物質は、皮膚細胞の局所的な微小環境において機能的に有効であるように正確に調製されており、皮膚への局所的な美容的投与によって投与され得る。
【0017】
本発明の第1の側面において、
(i)40個以下且つ7個以上、好ましくは10~40個、より好ましくは10~30個のアミノ酸からなる組織保護ポリペプチド(tpP)
(ここで、組織保護ペプチドは、
-エリスロポエチン(EPO)ペプチド断片、EPOペプチドバリアント、EPOアナログ又はEPOミメティックに由来するペプチド、或いはEpoR及び/又はβcRとの結合に関与するアミノ酸残基からなるペプチドのような、EPO受容体(EpoR)及び/又は共通β受容体(βcR)のアゴニストであり、
-CD90発現皮膚細胞を標的とし、
-造血/赤血球生成活性を誘発しない若しくは本質的に誘発しない)、
(ii)脂質化合物又は脂質構造、好ましくは、少なくともスフィンゴ脂質及び/又はリン脂質、例えば、セラミド又はホスファチジルコリン
(ここで、組織保護ポリペプチド(tpP)は、混合によって、イオン相互作用、共有結合によって、脂質化合物又は脂質構造と連結しているか又は結合しているか、或いはミセル又はリポソーム構造を形成することによってその中に内包されているか、若しくはカプセル化されている)
を含む、皮膚に局所投与する美容用製剤又は組成物が提供される。
【0018】
本発明の好ましい実施形態においては、本美容用製剤又は組成物は、血管系の弛緩を誘発し、及び/又は組織保護ポリペプチドの受容細胞への輸送を促進する薬剤を追加で含む。例えば、誘発剤は、CD90発現皮膚細胞における一酸化窒素(NO)及び/又はアセチルコリンの生成を刺激する。誘発剤は、共有結合によって本発明に従う組織保護ポリペプチドと直接結合し得、故に以下でより詳細に説明する複合体分子を生成し得る。
【0019】
前記組織保護ポリペプチド、及び任意に誘発剤と組み合わされる脂質構造、並びに関係する本発明に従う化合物は、この理論に縛られるものではないが、単一成分の特性のみを有するものではなく、特定の特性を有するトランスポーター分子複合体の一種を形成することが見いだされた。この本発明に従う製剤中の脂質-ペプチド-誘発剤分子-複合体は、明らかに、本分野の標準的な美容用ベースの製剤よりも、各皮膚細胞、例えば、CD90陽性皮膚細胞の微小環境内に、各有効化合物をはるかによく輸送する。
【0020】
更に、誘発剤と組み合わされた組織保護ポリペプチド(tpP)は、本発明の脂質製剤中で、それが存在しない同じ製剤におけるよりも、組織保護及び抗炎症に関してより効果的であることを示すことができた(約2~3倍)。従って、好ましくはスフィンゴ脂質又はリン脂質構造と組み合わされた誘発剤は、この状況において陽性の増強された効果を誘発し、また本発明に従う組織保護ポリペプチドの用量の低減を可能にする。本発明に従うポリペプチドによって引き起こされる望ましくない副作用は最小限に抑えることができる。
【0021】
既に前述したように、この製剤又は組成物中の組織保護ポリペプチド(tpP)は、規定した誘発/弛緩剤と、好ましくはこのポリペプチドのN末端及び/又はC末端において共有結合により結合され、それにより増強された組織保護効果を示す複合体分子を形成する。共有結合により提供される誘発/血管系弛緩剤とのこのような近接において、組織保護ポリペプチド(tpP)は、組織保護ポリペプチド(tpP)と誘発/血管系弛緩剤とが共有結合により一緒に結合されていることが無い製剤と比較して、少なくとも5~50%、好ましくは10~35%、更により効果的である。
【0022】
脂質、ポリペプチド及び誘発剤で構成される本発明の製剤(これらの成分は混合物として使用可能である)は既に非常に効果的であるが、前記成分、好ましくは本発明に従うポリペプチド及び誘発剤を一緒に共有結合させるか、又は少なくともイオン相互作用で結合させる場合、皮膚保護効果を更に高めることが可能である。
【0023】
本発明の美容用製剤又は組成物中の脂質化合物又は脂質構造は、混合によって、或いはイオン相互作用又はファンデルワールス力によって組織保護ポリペプチド(tpP)に結合している。好ましい実施形態において、脂質化合物は結果としてミセル又はリポソーム構造のような単層又は二重層を形成し、その中に組織保護ポリペプチドが内包されているか、又はカプセル化されている。
【0024】
本発明に従う組織保護ペプチドの脂質環境のための基材が、例えば、ホスファチジルコリンのようなリン脂質化合物、又はセラミドのようなスフィンゴ脂質化合物によって提供され得る。しかしながら、他の脂質化合物又は構造が適切である。脂質成分は、血管の弛緩、組織再生/修復及び経皮浸透を促進又は増強させる。
【0025】
幾つかの場合において、共有結合による脂質化合物又は脂質構造の組織保護ポリペプチドへの結合は好都合であり得、それにより各標的細胞へのより近い近接を提供する。
【0026】
本発明に従う誘発/血管系弛緩剤は、好ましくはL-アルギニン、L-フェニルアラニン、L-シトルリン等のようなL型のアミノ酸を含む。同じ又は異なるアミノ酸の、2、3又は4個のアミノ酸ユニットからなるポリペプチドが効果を強め得ることが見いだされた。
【0027】
好ましい実施形態において、本発明のこの美容用製剤中の誘発剤は、アルギニン、フェニルアラニン、リシン、グルタミン、チロシン、トリプトファン、バリン、プロリン、シトルリン、クレアチン、タウリンからなる群から選択される、1種以上のアミノ酸又はアミノ酸誘導体、及び規定した通りのアミノ酸のうち2つ以上の同じ又は異なるアミノ酸を含むか又はそれらからなるポリペプチドからなる群から選択される。
【0028】
2つ以上のユニットを含む具体的なアミノ酸物質は、例えば:
-アルギニン又は1~3個のアルギニン分子からなるペプチド、
-シトルリン又は1~3個のシトルリン分子からなるペプチド、
-少なくとも1つのL-アルギニン及び1つのシトルリン分子からなるペプチド、
-コリン及び/又はビタミンB5、及び/又はビタミンE、及び
-少なくとも1つのアルギニン分子及び/又は少なくとも1つのL-シトルリンに共有結合したコリン及び/又はビタミンB5、及び/又はビタミンEからなる化合物、
-フェニルアラニン、リシン、グルタミン、チロシン、トリプトファン、バリン、クレアチン、又は1~3個の前記各アミノ酸からなるポリペプチド、及び
-規定した通りのアミノ酸のうち2つ以上の異なるアミノ酸を含むポリペプチド
である。
【0029】
原則として、上記及び下記に規定した本発明に従う全ての組織保護ポリペプチドは、本発明に従う美容用製剤において用いるのに適している。
【0030】
1つの実施形態において、本発明に従う組織保護ポリペプチドは、7~40個のアミノ酸残基からなる。特に、それは7~30個又は11~15このアミノ酸残基からなる。好ましい本発明の組織保護ポリペプチドは、7、8、9、10、11、12、13、14又は15個のアミノ酸残基を含む。
【0031】
例えば、製剤及び組成物並びに複合体分子中の、本発明に従う下記の組織保護ポリペプチドは、次の知られたアミノ酸配列:
5’-QQAVEVWQGLALLSEAVLRGQALLV-3’(配列番号3)
5’-RYLLEAKEAENITTGC-3’(配列番号5)
5’-APPRLICDSRVLERYLLEAKEAE-3’(配列番号7)
5’-FRKLFRVYSNFLRGKLKLYTGEACRTGDR-3’(配列番号9)
5’-MEVGQQAVEVWQGLALLSEAVLR-3’(配列番号11)
5’-TYSCHFGPLTWVCKPQGG-3’(配列番号13)
5’-KLKLYTGEACRTGDR-3’(配列番号15)
5’-WEHVNAIQEARRLL-3’(配列番号17)
5’-HADRELEKIGA-3’(配列番号19)
又はその断片
を含む。
【0032】
ポリペプチド、配列番号:3、5及び7は、ヒトEPO配列(配列番号1)の断片である。他のペプチドは、EPO及びEPORの境界である、らせん構造/面に由来するか、又は合成若しくは異なる天然のモチーフを含むか、或いは全長のリガンドの望ましくない可能性のある造血効果をほとんど持たないか又は持たない、タイプIサイトカイン受容体リガンドの断片とコンセンサス配列を共有する(例えば、WO2009/094172)。
【0033】
本発明に従う美容用製剤は、原則的には全長のEPO配列と同様に働くことに言及しておくべきである。しかしながら、開示されたポリペプチドの使用は、様々な理由からより有利である。
【0034】
更なる実施形態において、本発明に従う美容用製剤、及び複合体分子は、40個以下、好ましくは20個以下7個以上、特に、7、8、9、10、11、12、13、14又は15個のアミノ酸残基からなる各組織保護ポリペプチドを含み、エリスロポエチン受容体(EpoR)及び/又は共通β受容体(βcR)に結合することができ、好ましくは5つのアミノ酸残基LERALのコア配列を含む。
【0035】
好ましい実施形態において、組織保護ポリペプチド(tpP)は、11merアミノ酸配列QEQLERALNSS(配列番号21)のバリアントを含むか又はそれからなり、前記アミノ酸配列の1~4個のアミノ酸残基、好ましくは2、3又は4個のアミノ酸残基は、保存性又は非保存性のアミノ酸残基置換基で置き換えられている。
【0036】
特に、本発明は、コア配列LERALを含み、各変異によって配列番号2の配列に由来し、配列式:
LERAL X(配列番号31)
(式中、
、X、Xは、互いに独立にQ又はNであり、
は、E又はDであり、及び
、Xは、互いに独立にS又はTである)
によって表される一般アミノ酸配列を含むか又はそれからなる単離ポリペプチドを提供し、前記ポリペプチドは、皮膚保護活性を有し、造血又は赤血球生成活性を誘発しない若しくは本質的に誘発しない。
【0037】
コア配列LERAL、及びコア配列の左及び右の各配列トリプレット(X)及び(X)中に1つのアミノ酸置換を有するバリアントが好ましく、それは、それらが優れた、更に向上した皮膚組織保護活性を誘発するためである。
【0038】
本発明の他の好ましい実施形態において、この配列(配列番号31)の組織保護ポリペプチド(tpP)バリアントは、11merの一般アミノ酸配列を含むか又はそれからなり、それは、7つのアミノ酸のコア配列を有し、次の一般配列式:
QLERALN X(配列番号33)
(式中、X、X、X、Xは、先に規定したとおりの意味を有する)
によって表される。
【0039】
これらのポリペプチドは、本発明に従う美容用製剤を用いた局所的な美容的な皮膚の処置において優れた有効性を示し、皮膚によく適合することが見いだされた。
【0040】
ポリペプチドQEQLERALNSS(配列番号21、「ペプチド0」)(一般配列式配列番号31に該当する)は、例えば、EP2371855から、非経口的に適用される治療的用途において組織保護効果を示す化合物として知られている。
【0041】
この一般式に該当する以下の単離ポリペプチドは、本出願の発明者によってよく調査された。
NEQLERALNTS (配列番号23) (「ペプチド2」)
NEQLERALNST (配列番号25) (「ペプチド1」)
QDQLERALNTS (配列番号27) (「ペプチド4」)
QDQLERALNST (配列番号29) (「ペプチド3」)。
【0042】
これらの4つのアミノ酸配列を含むか又はこれらからなるポリペプチドは、最も有利であり、本発明の好ましい実施形態を代表する。それらは、皮膚の美容的処置において、参照の既知の「ペプチド0」と比較して、ニキビ、シワ又は皮膚断裂、及びアンチエイジングにまでも、明確に高い効果を示す。
【0043】
本発明の他の好ましい実施形態において、各組織保護ポリペプチド(tpP)バリアントは、7merのアミノ酸配列:
LERAL X(配列番号35)
(式中、X、Xは、先に規定したとおりの意味を有する)
によって表される7個のアミノ酸からなる。
【0044】
本発明の他の好ましい実施形態において、各組織保護ポリペプチド(tpP)バリアントは、7merのアミノ酸配列:
LERAL X(配列番号37)
(式中、X、X、X、Xは、先に規定したとおりの意味を有する)
によって表される9個のアミノ酸からなる。
【0045】
好ましい本発明の美容用製剤は、先に規定したポリペプチド配列の少なくとも1種を、好ましくは、少なくとも1種の誘発/血管系弛緩剤及び/又は脂質化合物若しくは脂質構造と一緒に含む。
【0046】
製剤又は組成物に替えて、本発明は、美容的使用に適切な複合体分子を提供する。
【0047】
従って、本発明の1つの側面においては、少なくとも組織保護ポリペプチド(tpP)と誘発/血管系弛緩剤との間で共有結合により形成された複合体分子が提供される。
【0048】
第2の側面においては、少なくとも組織保護ポリペプチド(tpP)と脂質化合物又は脂質構造との間で共有結合により形成された複合体分子が提供される。
【0049】
最後に、少なくとも組織保護ポリペプチド(tpP)と、誘発/血管系弛緩剤と、脂質化合物又は脂質構造との間で共有結合により形成された複合体分子が提供され、これらの各代替物においては、複合体分子の成分が、上記、下記及び特許請求の範囲に規定したとおりに適用される。
【0050】
既に前述したように、そのような複合体分子を含む美容用製剤中のミセル又はリポソーム、或いは他の単層又は二重層構造のような脂質環境は、皮膚細胞、好ましくはコンピテント標的指向細胞、好ましくは皮膚組織のCD90+細胞への、前記組織保護ペプチド、任意にそれに結合した第2の細胞活性剤の浸透を促進することが可能である。複合体分子の脂質成分は、血管の弛緩、組織再生/修復、並びに経皮輸送及び浸透も促進又は増強する。
【0051】
他の側面において、複合体分子は、少なくとも組織保護ポリペプチド(tpP)と誘発/血管系弛緩剤との間で共有結合により形成され、ここで前記組織保護ポリペプチド(tpP)は、上記又は特許請求の範囲に示すアミノ配列によって表されるポリペプチドの一つであり、誘発剤は、前記細胞における一酸化窒素及び/又はアセチルコリン生成を直接又は間接的に刺激し得る。この複合体分子において、前記組織保護ポリペプチドは、前記誘発/血管系弛緩剤と、好ましくは共有結合によって結合している。
【0052】
本発明の好ましい実施形態において、規定した組織保護ポリペプチド(tpP)と規定した誘発剤との間で共有結合したこの複合体分子は、イオン相互作用又はファンデルワールス力によってホスファチジルコリン又はセラミドのような脂質化合物に結合又は連結しているか、又はミセル又はリポソーム構造中に内包されている。
【0053】
好ましい実施形態において、この本発明の複合体分子中の誘発/血管系弛緩剤は、
-L-アルギニン、又は1~3個のL-アルギニン分子からなるペプチド、
-L-シトルリン、又は1~3個のL-シトルリン分子からなるペプチド、
-少なくとも1つのL-アルギニン及び1つのL-シトルリン分子からなるペプチド、
-コリン及び/又はビタミンB5、及び
-少なくとも1つのL-アルギニン分子及び/又は少なくとも1つのL-シトルリン分子と共有結合するコリン及び/又はビタミンB5からなる化合物
-フェニルアラニン、リシン、グルタミン、チロシン、トリプトファン、バリン、クレアチン、又は1~3個の前記各アミノ酸からなるポリペプチド、及び
-規定した通りのアミノ酸のうちで2つ以上の異なるアミノ酸を含むポリペプチド
からなる群から選択される。
【0054】
本発明に従う複合体分子は、下記構造:
【0055】
【化1】
【0056】
(式中、
Pは、組織保護ポリペプチド(tpP)、好ましくは本明細書に規定したアミノ酸配列の何れかのポリペプチドを表し、
Aは、1種以上の同じ又は異なる誘発剤を表し、
好ましくは、Aは、L-アルギニン、L-シトルリン、コリン、ビタミンB5を表し、
Lは、1種以上の同じ又は異なる脂質成分又は構造を表し、
-は、共有結合を表し、
【0057】
【化2】
【0058】
は、イオン相互作用又はファンデルワールス力に起因するものを表し、
n、n’は、整数0、1、2、3、4、5~10を表し、
m、m’は、整数0及び1を表し、
ここで、少なくともn若しくはn’又はm若しくはm’=1である)
によって表され得る。
【0059】
本発明に従う複合体分子の好ましい実施形態は、以下の群:
P-アルギニン
P-アルギニン-アルギニン
P-アルギニン-アルギニン-アルギニン
アルギニン-P-アルギニン
アルギニン-アルギニン-P-アルギニン-アルギニン
P-コリン
P-アルギニン-コリン-ビタミンB5
P-コリン-ビタミンB5
P-アルギニン-アルギニン-コリン
P-アルギニン-アルギニン-コリン-ビタミンB5
P-シトルリン
P-シトルリン-シトルリン
P-アルギニン-アルギニン-シトルリン
P-アルギニン-アルギニン-シトルリン-シトルリン
アルギニン-アルギニン-P-アルギニン-アルギニン-コリン
アルギニン-アルギニン-P-アルギニン-アルギニン-コリン-ビタミンB5
シトルリン-アルギニン-P-アルギニン-シトルリン、
シトルリン-シトルリン-アルギニン-アルギニン-P-アルギニン-アルギニン-シトルリン-シトルリン、シトルリン-シトルリン-アルギニン-アルギニン-P-アルギニン-アルギニン-シトルリン-シトルリン-ビタミンB5
から選択され得、Pは、本明細書に規定した各組織保護ポリペプチドを表し、「-」は共有結合を表す。
【0060】
特に、Pは、アミノ酸配列:
QEQLERALNSS (配列番号21) (「ペプチド0」)
NEQLERALNST (配列番号25) (「ペプチド1」)
NEQLERALNTS (配列番号23) (「ペプチド2」)
QDQLERALNST (配列番号29) (「ペプチド3」)
QDQLERALNTS (配列番号27) (「ペプチド4」)
によって表されるポリペプチドの1つを意味する。
【0061】
すでに先に概説したように、特定のアミノ酸配列を含む、上記及び特許請求の範囲に規定した組織保護ポリペプチド(tpP)は、上記及び特許請求の範囲に規定した誘発剤と結合し、本発明の複合体分子を形成する。
【0062】
本発明に従う好ましい複合体分子は、
QEQLERALNSS-R (配列番号21)
NEQLERALNTS-R (配列番号23)
NEQLERALNST-R (配列番号25)
QDQLERALNTS-R (配列番号27)
QDQLERALNST-R (配列番号29)
R-QEQLERALNSS-R (配列番号21)
R-NEQLERALNTS-R (配列番号23)
R-NEQLERALNST-R (配列番号25)
R-QDQLERALNTS-R (配列番号27)
R-QDQLERALNST-R (配列番号29)
R-QEQLERALNSS (配列番号21)
R-NEQLERALNTS (配列番号23)
R-NEQLERALNST (配列番号25)
R-QDQLERALNTS (配列番号27)
R-QDQLERALNST (配列番号29)であり、
式中、Rは、誘発/血管系弛緩剤であり、好ましくは(L-アルギニン)、(L-シトルリン)、コリン及びビタミンB5からなる群から選択され、n、mは、互いに独立に、1、2及び3である。
【0063】
本発明の概要は、以下のようにまとめることができる:
・本明細書に規定した組織保護ポリペプチド、複合体分子及び製剤は、表皮層を介して能動的に、被補助的に又は受動的に浸透する。
・皮膚の1つ以上の領域において制御された標的能力又は滞留選好性があり、皮膚の特定の細胞に対する制御された標的化が達成される。
・組織保護ポリペプチド、複合体分子及び製剤は、著しく減少したタンパク質分解の比率を有し、皮膚によく許容される。
・組織保護ポリペプチド、複合体分子及び製剤は、皮膚における標的にその機能を発揮することができる。
・皮膚のエイジング又はニキビ或いはUV放射による皮膚刺激に対する美容効果が見られる。
・保護分子である本発明の組織保護ポリペプチド、複合体分子及び製剤を用いると、癌発症の危険性が反対に変換される。
・現在の教示に反して組織修復及び組織再生を達成する複合体相互作用誘発成分が、生成され、多因果的な相互作用、及び相互作用する能力に基づいている。
・好ましくはセラミド及び/又はホスファチジルコリン、或いは類似のスフィンゴ脂質又はリン脂質に基づく本発明に従う脂質組成物は、標準的な美容用脂質組成物と比較して、ポリペプチド単体、及び上記全ての規定した誘発/血管系弛緩剤との組合せの皮膚の修復、皮膚の再生及び皮膚の若返りを有意に補助する。
【0064】
本発明の新規に合成したポリペプチド(「ペプチド1~4」)は、配列番号21で表される既知のポリペプチド(「ペプチド0」)と比較して、少なくとも幾つかの生理的及び物理的性質に関して増強された効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0065】
図1
図2
図3
図4
図5
【発明を実施するための形態】
【0066】
本発明の詳細な説明
本明細書で用いられる用語「ペプチド複合体」は、組織保護ペプチドと脂質化合物及び/又は誘発剤との間の何れかの種類の結合を意味する。一般に、結合は共有結合であり、好ましくはペプチドと誘発剤との間の結合である。しかしながら、脂質化合物もまた、共有結合を介して本発明に従うペプチドと結合し得る。本明細書で用いられる用語ペプチド複合体は、より強いイオン又はファンデルワールス相互作用に基づく2つの成分間の結合も含む。後者はミセル及びリポソームのような、単層又は二重層の脂質構造の(自己)生成を好む。この用語は、広い表現で、ファンデルワールス結合(イオン相互作用)によって互いに結合する、ペプチド及び他の機能的に異なる分子、例えば、脂質化合物及び/又は誘発剤によって形成される機能的に有効な構造を含む。一般に、ペプチド構造内の何れかの機能的に活性な基(例えば、-OH、-NH2)は、本分野でよく知られた方法に従って、脂質化合物又は誘発/血管系弛緩剤の機能的に活性な基との共有結合による結合に用いられ得る。好ましくは、ペプチドのN末端及び/又はC末端或いはその近隣にある各基が、結合に用いられる。
【0067】
本明細書で用いられる用語「組織保護ペプチド」は、細胞の損傷、及び内的及び外的要因によって引き起こされる細胞の加齢に対する保護効果を標的組織に対して誘発するペプチドを意味する。保護効果は、組織の欠損が防止される時又は細胞の本来の無傷な状態が取り戻される時に現れる。
【0068】
用語「誘発剤」又は「誘発/血管系弛緩剤」は、血管系の弛緩を刺激し、及び/又は組織保護ポリペプチド(tpP)のCD90発現皮膚細胞への輸送を補助する薬剤を意味し、本発明に従うと、選択されたアミノ酸、好ましくはそのL型のもの、及び特定のビタミンを含む。
【0069】
本明細書で用いられる用語「EPOバリアント/アナログ/断片/ミメティック」は、天然のヒトエリスロポエチンと比較してより短い、及び/又は異なるアミノ酸配列を有するペプチドを意味し、EPO受容体(EpoR)及び共通β受容体(cβR)と結合するか又は相互作用し、これらの受容体は、ヘテロ受容体を形成する。このようなペプチドは、組織保護又は組織再生効果を誘発し、造血効果を全く又は有意に誘発しない。
【0070】
用語「造血活性/効果」は、赤血球、リンパ系球及び骨髄性細胞のような血液細胞成分の何れかの有意な増加を意味する。更に、造血活性は、単離ペプチド又はペプチドアナログが、血管作動性作用(例えば、血管収縮)、血小板の過活動化、凝固促進作用、並びに血小板又はエリスロポエチン依存性細胞の増殖又は生成の刺激から選択される活性を有するかどうかをいう。
【0071】
本明細書で用いられるホスファチジルコリン(PC)は、頭部基としてコリンを組み込んだリン脂質の一種である。より具体的には、それはコリン頭部基及び種々の脂肪酸を含むグリセロリン酸から構成される。一般に、一つは、飽和脂肪酸(例えば、パルミチン酸又はヘキサデカン酸、HC-(CH14-COOH;又はヘプタデカン酸、HC-(CH15-COOH)であり、他は不飽和脂肪酸(例えば、レシチン中におけるオレイン酸、又は9Z-オクタデセン酸)である。PCは、生体膜の主成分であり、卵黄又はダイズのような種々の容易に入手可能な材料源から簡単に得ることができる。ホスファチジルコリンは摂取サプリメントとして用いられてきたが、それは局所的皮膚用クリームの成分としても含まれ、滑らかな皮膚を生じさせ、皮膚の水分レベルを増加させ、皮膚及び毛髪を整え、皮膚の再生を補助し、コリン及びリノール酸の両方を供給することができる。
【0072】
本明細書で用いられるセラミドは、スフィンゴ脂質の一般的な分類に属し、皮膚、特に角質層の表皮の上層の主成分である。表皮におけるその位置及び機能に従って、多くの種類のセラミドが存在する。用語セラミドは、スフィンガニン、4-ヒドロキシ-スフィンガニン又はフィトスフィンゴシンのようなスフィンゴシンファミリーからなる単脂質を含み、それらはそのアミン官能基を介して脂肪酸又は脂肪酸誘導体と結合している。皮膚の角質細胞間結合物の脂質、特にセラミドは、ラメラ二重層又はラメラに配置され、バリア全体を維持する目的のため、またその保護、抗浸透又は抗刺激の役割等を維持するために角質層の結合に関わっている。
【0073】
本明細書で用いられるリポソームは、大部分の水相から水性の内部画分を隔離する脂質二重層からなる。本明細書で用いられるミセルは、脂肪酸コア及び極性表面、又は表面に脂肪酸を有する極性コア(逆ミセル)を有する閉じた脂質単層である。
【0074】
驚くべきことに、無傷の皮膚を介した制御された浸透及び皮膚中での持続性が、本発明のEPOペプチドをホスファチジルコリン及びセラミドに結合させたときに見いだされた。これらは、本発明に従うエリスロポエチン又はEPOペプチドにイオン(ファンデルワールス)相互作用及びミセル形成によって結合する場合に、皮膚中のEPOアナログの脂質層持続性を向上させる脂質構造である。これらの組み合わせは、脂質構造及び皮膚の層の中への局所吸収を生じさせるが、より深い領域への吸収は許容しない。ホスファチジルコリン、レシチン及びセラミドの組み合わせられた存在は、エリスロポエチン及びそのペプチドアナログにこの親油性の物理化学的性質を付加し、それは、タンパク質エリスロポエチンの無傷の皮膚層への利用可能性の欠如のために、それ以外の場合では無傷の皮膚内で存在しないであろう無性の皮膚への作用様式の発生を可能にし、同時に、非特異的勾配に基づく分布を可能にするというよりはむしろその皮膚の領域を標的とする。
【0075】
本発明の組成物は、ラメラ構造を形成する脂質成分を含み、最大40%~50%以上の濃度でも毒性のないホスファチジルコリン、レシチン、セラミド及びトリグリセリドを含む。セラミド及び/又はホスファチジルコリンは、本発明に従う脂質組成物の好ましい成分(5~70%)である。
【0076】
本発明のポリペプチド複合体は、皮膚の1つ以上の領域における制御された標的能力又は滞留選好性、並びに皮膚の特定の細胞に対する制御された標的化を提供する。また、これらの層内での持続及び細胞膜への結合も可能である。
【0077】
これは、通常100~400ユニットkg/(体重)からkg(体重)あたり5~12ユニットまで、又は1ユニット/kg(体重)未満までも使われるEPO由来ペプチドの量を減らすことを許容し、約100cmの特定の皮膚の領域を標的とする。
【0078】
治療範囲は、体重のkgあたり0.1~0.5ユニットにまで低減するが、kg(体重)の40ユニットまで安全に拡張することができる。従って、理想的な範囲は、適用の通常の形態の0.1%パーセント以下である。これは、EPO及びそのアナログの薬剤安全性及び副作用の低減に有意に貢献している。
【0079】
本明細書で用いられる用語「ペプチド複合体/複合体分子」は、組織保護ペプチドと脂質化合物及び/又は誘発剤との間の何れかの種類の結合を意味する。一般に、結合は共有結合であり、好ましくはペプチドと誘発剤との間の結合である。しかしながら、脂質化合物もまた、共有結合を介して本発明に従うペプチドと結合し得る。本明細書で用いられる用語ペプチド複合体は、より強いイオン又はファンデルワールス相互作用に基づく2つの成分間の結合も含む。後者はミセル及びリポソームのような、単層又は二重層の脂質構造の(自己)生成を好む。この用語は、広い表現で、ファンデルワールス結合(イオン相互作用)によって互いに結合する、ペプチド及び他の機能的に異なる分子、例えば、脂質化合物及び/又は誘発剤によって形成される機能的に有効な構造を含む。一般に、ペプチド構造内の何れかの機能的に活性な基(例えば、-OH、-NH2)は、本分野でよく知られる方法に従って、脂質化合物又は誘発剤の機能的に活性な基との共有結合による結合に用いられ得る。好ましくは、ペプチドのN末端及び/又はC末端或いはその近隣にある各基が、結合に用いられる。
【0080】
本明細書で用いられる用語「組織保護ペプチド」は、細胞の損傷、及び内的及び外的要因によって引き起こされる細胞の加齢に対する保護効果を標的組織に対して誘発するペプチドを意味する。保護効果は、組織の欠損が防止される時又は細胞の本来の無傷な状態が取り戻される時に現れる。
【0081】
本明細書で用いられる用語「EPOバリアント/アナログ/断片/ミメティック」は、天然のヒトエリスロポエチンと比較してより短い、及び/又は異なるアミノ酸配列を有するペプチドを意味し、EPO受容体(EpoR)及び共通β受容体(cβR)と結合するか又は相互作用し、これらの受容体は、ヘテロ受容体を形成する。このようなペプチドは、組織保護又は組織再生効果を誘発し、造血効果を全く又は有意に誘発しない。
【0082】
また、組織保護及び再生分子として、EPOの組織特異的効果及びそれ故のそれの所望の組織再生活性を達成することは、本発明に従うと、標的領域に到達する能力が関連するだけでなく、EPO及びそのアナログから化学的又は構造的に独立しているか、又は少なくとも異なるアジュバント又はコシグナルの単一又は複数の混合物である、いわゆる「バイスタンダー」が関連する。
【0083】
単一分子単独としてのEPOの使用の、無傷の及び又は開放した(創傷の)皮膚への用途においてでさえ、失敗又は機能の制限をもたらしているのは、この唯一原因の欠如である。これらの制限を、異なる分子への結合状態(単一の個体又はその多量体)において、タンデムの、3倍の、4倍の又はこの比率の更なる倍数としてのエリスロポエチン及び/又はそのアナログの新しい処方を作り出すことによって克服することが本発明の目的である。これらの分子は、可逆的若しくは不可逆的に化学的に結合するか、又はミセル法若しくはカプセル化形態において用いられるかのどちらかであるか、或いはEPOはキャリア分子、ナノ又はマイクロ構造に可逆的又は不可逆的に結合する。
【0084】
分解への抵抗性、無傷の皮膚及び特定の標的組織への制御可能な動的利用可能性を生じさせ、従来は不可能であった未知の作用又は活性を解放するだけでなく、一方で同時に特異性及び使用の安全性を増加させるという多くの利点がある。この方法論(使用方法)又は新規の複合化学成分は、皮膚だけでなく、専門性及び選択された戦略に依存してヒト又は動物の体内のより深層の異種の内的標的にも適用可能である。
【0085】
本発明の組織保護ペプチド複合体を含むエリスロポエチン構造と組み合わされるビタミンは、イオン結合を受け、カスケード活性を誘発するのに関連する。EPO又はそのアナログの組織保護特性は、組織修復の直接的な標的化が不可能である場合、効果的になり得ない。特に加齢した皮膚又は解放された創傷でさえ、EPO単独では活性を示すことはできない。
【0086】
従って、本発明に従うペプチド複合体のビタミンAとの組み合わせは、神経の再生を補助し、ビタミンB1~6との組合せは栄養に関する再生を補助し、ビタミンCとの組み合わせはニューロンの発芽及び創傷の閉塞を補助し、ビタミン12との組み合わせは抗炎症活性を補助する。
【0087】
これらの全ての活性は、イエス又はノーの応答を誘発する。これは、これらの分子の組み合わせでの存在がトリガーをイエスに変え、要素の一つは単独ではそれ自身によってこの効果を達成できず、これは細胞標的を「ノー」応答にしたままにすることを意味する。
【0088】
従って、本発明に従うと、局所的な美容的適用において皮膚保護効果を向上させるために、上記及び特許請求の範囲で規定した組織保護ペプチドをビタミンA、B1~6、B12及びCのようなビタミンと組み合わせることが好ましい。
【0089】
好ましい用途は、つやのある皮膚の促進及び血管の弛緩による皮膚の修復の加速を含む。これは、各皮膚細胞における一酸化窒素の利用能を引き起こす種々の薬剤によって達成され得る。
【0090】
一酸化窒素は、L-アルギニン、酸素及びNADPHから、種々の一酸化窒素シンターゼ(NOS)酵素によって内因的に生合成される。血管内皮は一酸化窒素を周囲の平滑筋を弛緩させるための信号に用い、故に血管拡張をもたらし、血流を増加させる。反対に、L-アルギニンは、代謝されて一酸化窒素を放出する。一酸化窒素(NO)は、グアニル酸シクラーゼを刺激し続けてcGMPを産生する。cGMPは、血管壁中の筋細胞の弛緩を誘発する。これは、ペプチド構造を維持することにより標的とされるCD90+細胞の位置でもある。
【0091】
構造に、皮膚を浸透し、皮膚の血管領域に到達することを許容するのはホスファチジルコリン及びセラミド複合体である。
【0092】
この目的のために、L-アルギニンは本発明の組織特異的ペプチドに結合し得、並びに/或いは本特許出願に開示したペプチド複合体を得るためにホスファチジルコリン及び/又はセラミドとミセル又はリポソーム構造において混合され得る。前記ペプチド複合体に加えて、本発明の美容用製剤に遊離L-アルギニン及び他のアミノ酸を加えることも好ましい。
【0093】
驚くべきことに、前記脂質化合物、好ましくはセラミド及びホスファチジルコリン(レシチン)と混合されるアルギニン、並びにL-フェニルアラニン、L-リシン、L-トリプトファン、L-プロリン、L-グルタミンのような他のアミノ酸は、特定の皮膚細胞の微小環境、ここではCD90陽性皮膚細胞と近接して影響を及ぼし、それらを本発明に従う組織保護ポリペプチドのような標的分子に対して敏感にすることが見いだされた。興味深いことに、本発明に従う脂質製剤は、CD90細胞標的ペプチド無しで単独で既に、皮膚美容用に用いられる通常の脂質組成に対して組織保護性である(通常の脂質組成物の使用に依存するのと同じ状況下で、通常の脂質組成物に対して5~15%の改善)。しかしながら、本発明に従う組織保護ポリペプチドとの組み合わせにおいては、この効果は、前記組織保護ペプチド無しの本発明の脂質組成物に対して10%まで、また美容的処置において通常提供される、各組織保護ポリペプチド無しの通常の脂質組成物と比較して25%まで更に向上する。これらの製剤混合物の効果は、本発明に従う複合体分子で達成され得るものに匹敵し、ここで、組織保護ポリペプチドは、共有結合によりL-アルギニンのような各アミノ酸分子等の誘発剤と結合している。従って、本発明に従う複合体分子は、それらが通常の美容用製品において用いられる脂質組成物と一緒に製剤化された場合、複合体分子の二つの各成分の混合物に対して利点のみを提供し、それに対して、本発明によって開示される脂質化合物/組成物が用いられた場合、複合体分子の使用はしばしば過剰であり、複合体分子の成分の混合物によって置き換えることもできる。
【0094】
この領域においては、血管は、より局所的に利用可能なcGMPを提供することにより、局所的に存在するホスホジエステラーゼに対して拮抗して作用する。この好ましい微小環境は、皮膚により栄養を与えるために誘導される。しかしながら、本発明の2重の効果は、改善された血管系栄養素及び酸素供給並びに廃棄物除去のために、補完的微小環境因子が局所領域により良好に到達することができることによる、局所的CD90+組織修復活性の劇的な増加である。
【0095】
既に述べたように、本発明の各ペプチド及びペプチド複合体のようなEPO及びEPOアナログの皮膚組織標的化における効果は、ホスファチジルコリン又はセラミドのような脂質構造に結合されるか内包される場合、有意に向上する。グルコース等のような糖分子が本発明に従う製剤に提供される場合、同様の効果が見られ得る。
【0096】
これにより、分子は、分子上にバックパックのように配置され、そして皮膚を横切るか(糖)又は入り込んで体内に優先的に輸送される。これは、より少量での使用を許容し、脳又は筋のようなエネルギー消費組織並びに炎症部を標的とする。糖成分は、脳又は筋のような高代謝活性を有する組織へEPO及びそのアナログを輸送する。
【0097】
L-アルギニンは、最も代謝的に多用途なアミノ酸の一つである。その一酸化窒素の合成における役割に加え、L-アルギニンは、ポリアミン、プロリン、グルタミン酸、クレアチン、アグマチン及び尿素の合成のためにプリカーサーとして働く。幾つかのヒト及び実験動物での研究は、外因性のl-アルギニンの吸収は、通常の食事による消費よりも多い量で摂取されたときに多重の有利な薬理効果を有することを示唆している。このような効果は、血管又は心疾患のリスクの低減、勃起不全の低減、免疫反応の改善及び胃酸過多の抑制を含む。しかしながら、l-アルギニンへの近年の関心は、主にその重要なシグナル分子である一酸化窒素(NO)との密接な関係性に集中している。l-アルギニンは、NOの生合成における唯一の基質であり、神経伝達、血管弛緩、細胞毒性及び免疫を含むヒトの体内での多様な生理学的プロセスにおいて不可欠な役割を担っている。アルギニン、好ましくはL-アルギニンは、本発明に従うとペプチドの前側及び末尾に、また1個から最大、例えば10個まで又はそれ以上の分子のアルギニンの数、好ましくは1~3個として加えられる。
【0098】
クロリンは、アセチルコリンの合成のために用いられる。NOの他に、この分子は、平滑筋細胞の弛緩に関与する。従って、血管壁中のCD90+細胞への標的化が、アルギニンの組み合わされた効果を向上させる。ビタミンB5は、アセチルコリンを神経伝達物質とするためのコリンの代謝に必要である。従って、コリンの効果は、tをビタミンB5と組み合わせることにより向上し得る。ヨヒンビン(C2126)は、平滑血管細胞におけるアルファ2アドレナリン受容体を阻害し、従って、血管系の弛緩を引き起こす天然化合物である。ヨヒンビンは、ホスファチジルコリン、セラミド又は本発明に従う構造の脂質部分に添加され得る。
【0099】
本明細書に開示される本発明に従うポリペプチド複合体分子及び単離ポリペプチドは、好ましくはcmあたり0.001μgから9.999μgまでのEPO由来組織保護ペプチドの範囲で、より好ましくはcmあたり20ユニットから50ユニットまでの範囲で、しかしながら理想的にはcmあたり100ユニット以下で皮膚に適用される局所製剤で用いられ得る。より高い濃度では、関連する副作用として微小血管新生が誘発される。
【0100】
本発明に従うポリペプチドの合成:
本発明の組織保護ポリペプチドは、化学合成を含むもの、ポリペプチドを製造する細胞からの精製を含むものを包含する、通常の技術を用いて製造され得る。ポリペプチドの化学合成のための技術は、本分野においてよく知られている。(例えば、Vincent, Peptide and Protein Drug Delivery, New York, N.Y., Decker, 1990.を参照のこと)。細胞からのポリペプチドの精製のための技術は、下記に提供される例に記載される。追加の精製技術の例は、本分野においてよく知られている。(例えば、Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley, 1987-2002.を参照のこと)。細胞からポリペプチドを得ることは、ポリペプチドを産生する組換え核酸技術を用いて促進される。ポリペプチドを産生するための組換え核酸技術は、ポリペプチドをコードする組換え遺伝子を細胞内に導入するか、又は産生すること、及びポリペプチドを発現させることを含む。組換え遺伝子は、ポリペプチド発現の調節要素と共にポリペプチドをコードする核酸を含む。組換え遺伝子は、細胞ゲノム中に存在し得るか、又は発現ベクターの一部であり得る。細胞内での組換え遺伝子の発現は、発現ベクターの使用を通して促進される。好ましくは、組換え遺伝子に加えて発現ベクターはまた、宿主細胞における自律複製のための複製起点、選択可能なマーカー、限られた数の有用な制限酵素部位、及び高コピー数ための能力を含む。
【0101】
幾つかの本発明の組織保護ポリペプチドの耐性試験
パッチ試験を30人の被験者において暦上の35週間行った。次いで、30人の処置した被験者から22人は、暦上の39週間、同じ領域でこのパッチ試験を繰り返した。
【0102】
ペプチド0~4を含む本発明に従う同じ脂質組成物を繰り返し処置した22人の被験者に加え、追加の被験者(新規)がこの試験に加わった。本調査の目的は、最初の処置の2、3及び4週間後の試験物質対する二次的皮膚刺激アレルギー感作を検出することであった。試験物質は、皮膚に適用されるのと同じペプチドの濃度で適用した。パッチは、試験物質の被験者の皮膚への接触を局所的領域に限定し、閉塞性のある条件であるために曝露が過大になる。皮膚を24、48及び72時間で確認した。
【0103】
結論:ICDRG(国際接触皮膚炎研究班、International Contact Dermatitis Research Group)の国際的に認められたガイドラインに従うと、24h、48h及び72時間でのパッチ試験の実施の後、30人の被験者の何れにおいても試験領域において何れの皮膚疾患の証拠も検出されなかった。二次刺激を受けた22人の被験者でも同様である。製品の使用は、二次的な(繰り返される)刺激の影響によって、何れの望まれない皮膚反応も引き起こさないであろう。
【0104】
本発明に従う美容試験に用いられたポリペプチド:
合成ペプチド:
NEQLERALNTS (配列番号23) (「ペプチド2」)
NEQLERALNST (配列番号25) (「ペプチド1」)
QDQLERALNTS (配列番号27) (「ペプチド4」)
QDQLERALNST (配列番号29) (「ペプチド3」)
QEQLERALNSS (配列番号21) (「ペプチド0」)
EPO-断片:
QQAVEVWQGLALLSEAVLRGQALLV (配列番号3) (断片1)
RYLLEAKEAENITTGC (配列番号5) (断片2)
APPRLICDSRVLERYLLEAKEAE (配列番号7) (断片3)
及び全長EPO。
【0105】
美容用適用試験(一般):
盲検において、20人の使用者の45%のケースでしわの減少が改善し(56%)、領域内においてサーモグラフィック熱測定によって、血流が増加したことが証明され(35%増加)、従って血管系の若返りのための持続的な改善があった。用途の分野は、つやを増加させるスキンバーム、唇のつやを増加させる皮膚用の美容用製剤である。男性の健康の分野における勃起不全のための他の用途においては、クリームを陰茎の皮膚に局所的に適用し、血管系の修復及び血管系の流入を標的とする。
【0106】
そのような効果を強化するために、有意な量のアルギニン(10~100mg/g(製剤))を添加した。この組み合わせたアプローチの利点は、CD90+介在修復及び皮膚の審美性、若返りのためだけでなく、高い濃度では勃起不全における血管系の欠損の修復のための血管系供給効果である。
【0107】
本発明に従うと、効果を向上するために、ペプチド複合体を、皮膚における天然の一酸化窒素生成及び利用効率を増加させる天然由来化合物と組み合わせることもまた可能である。本発明に従う美容用製剤は、好ましくは、ビタミンC、D、E、A及びB12のようなビタミン、及び、例えば、ホウレンソウ、ビーツ、セロリ、ニンニク、ルッコラレタス、アイスバーグレタス、ニンジン、パセリ、キャベツ、ラディッシュ類、コラードグリーン、グレープシード抽出物等の天然の食糧材料源、テストステロンからエストロゲンへの変換を妨げる天然物質、プロシアニジンのグループに由来する化合物で富化させられ得る。従って、窒素の内皮排出量を200%増加させることができ、天然のつや、皮膚の若返り及び修復が有意に(コントロールを45%上回る)向上した。
【0108】
美容用製剤には、更なるアジュバント又は添加物が、本発明に従う組織保護ペプチド及びペプチド複合体の記載した効果を広幅化するか又は向上させるために添加され得る。そのような薬剤は、例えば:
・ピクノジェノール又はQ10(補酵素)
・チョウセンニンジン抽出物
・ケルセチン抽出物、それはフラボノイド、レスベラトロール、プロシアニジン、タンニン、茶カテキン、ゲニステインであり、皮膚の一酸化窒素レベルを増加させる。ピペリンは、レスベラトール(クロコショウ抽出物)を増強する。皮膚食品ケルセチン抽出物は、例えば、天然源としてのタマネギ、ニンニク、アサツキ、リンゴ、ブドウ及び赤ワイン、ナッツ並びにホウレンソウから得られる。サーモン、牧草で育てられた赤身肉、動物の臓器、卵黄は、合成のための代わりの原料である。
・ナイアシンは一酸化窒素シンターゼを増加させ、従って基本的なNOレベルを増加させる。
・カイエンペッパー(又は他の辛いチリ)からのアルカロイド抽出物。
・一酸化窒素を増やすための酸化防止剤が豊富なカフェインフリーのコーヒー抽出物。
・生のカカオは事実、他の多くのNOを上昇させる酸化防止剤と一緒に、ピクノジェノール及びグレープシード抽出物がする(プロトシアニジン)のと同じ一酸化窒素を上昇させる活性化合物を含む。
・イカリインは、ハーブ(イカリソウ、ホーニーゴートウィード)のフラボノイドである。ハーブは局所的に添加され、本発明に従い皮膚に直接影響を与えるテストステロン増強活性を可能にする。イカイリンは一酸化窒素生成を補助し、ホスホジエステラーゼ5(PDE-5)の穏やかな阻害剤である。
・オメガ-3’及びオメガ-6’脂肪酸は、抗炎症作用を補助する位置に添加されると、血流及び一酸化窒素レベルを増加させる。
【0109】
ペプチド送達製剤
本発明の製剤は、何れかのクリーム又はローションと組み合わせられる。この目的のために、従来のクリーム又はローション(最終99% 体積/体積)は、本発明の組織保護ポリペプチド、規定した1種以上の誘発/弛緩剤、及び本明細書に記載のスフィンゴ脂質又はリン脂質に基づく脂質化合物又は構造を含む組成物(0.5~3%、例えば、1%w/w)を含む組成物(「トリガーファクター複合体」と称する)と混合される。最終混合物における小さな画分であるため、トリガーファクター複合体は、クリーム又はローションの全体的な物理的性質、例えば、エマルジョン安定性又は保湿特性を変えない。
【0110】
トリガーファクター複合体は、以下の成分を濃度減少順で含む:水、エタノール、グリセロール、ビタミンE酢酸エステル、水素化レシチン、コレステロール、L-アルギニン、L-フェニルアラニン、L-リシン、L-アラニン-グルタミン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリン、L-プロリン、L-タウリン、セラミドNG、セラミドNP、オレイン酸、パルミチン酸、アスコルビン酸ナトリウム、フェノキシエタノール、からし油、EDTA、オリゴペプチド。
【0111】
例えば、トリガー複合体は、(表1)に示す成分からなる。
【0112】
【表1】
【0113】
本発明は、ローション(低い脂質含量)に基づくペプチド送達製剤及びクリーム(高い脂質含量)に基づく製剤を含む。クリームは皮膚の水分を保つのを補助するため、典型的には乾燥した皮膚に最適である。ローションは、脂っこさが少なく、皮膚中により容易に吸収され、通常の皮膚に最適である。しかしながら、本発明で提供される組織保護及び誘発/血管系弛緩剤との組み合わせにおいて、ローション及びクリームの両方が全ての皮膚の最適な改善のために最適化されている。その結果、組織保護ペプチド送達製剤は、クリームにもローションにも限定されるものではないが、皮膚のタイプに従って選択され得る。
【0114】
NDSクリーム:NDSクリームは、クリームベース(99% 体積/体積)及びトリガーファクター複合体(1% 体積/体積)から構成される。
【0115】
クリームベース:クリームベースは、水、ヒマワリ種油、ペンチレングリコール、スクアレン、オクチルドデカノール、アルガニアスピノサ核油、エチルヘキシルステアレート、ペルセアグラチシマ(アボカド)油、トリベヘニン、ポリリシノール酸ポリグリセロール-3、ソルビタンオレエート、シアバター、ソルビトール、オエノテラビエンニス(イブニングプリムローズ)油、及びトコフェリルアセテートを含む。
【0116】
iARPローション:iARPローションは、ローションベース(99% 体積/体積)及びトリガーファクター複合体(1% 体積/体積)から構成される。
【0117】
ローションベース:ローションベースは、水、カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド、ペンチレングリコール、プロピレングリコール、水素化ホスファチジルコリン及びグリセリンを含む。
【0118】
セラソーム9041:セラソーム9041はリポイドGmbHから購入し、下記の表(表2)に従う成分を含む。
【0119】
【表2】
【0120】
PEPHA(登録商標)AGE:Pepha(登録商標)AGEは、Scenedesmus rubescens(淡水性緑藻)抽出物であり、DSMニュートリショナル・プロダクツGmbHから購入した。この抽出物は、コラーゲンIIIの増強させた生成を謳っており、日焼けによる皮膚損傷を軽減する。この抽出物は、アミノ酸、ビタミンB3、藻類の糖及び亜鉛を含む。
【0121】
有効性試験
本発明の製剤のヒトの皮膚の環境における有効性を評価するために、赤斑回復アッセイ及び美容皮膚改善アッセイを行った。
【0122】
美容皮膚改善アッセイ:
このアッセイにおいて、本発明の製剤の適用での美容的な顔面の皮膚の外観をモニターした。この目的のために、市販の最先端の顔面皮膚イメージング及びデータ分析プラットフォームである、キャンフィールドバイオビジア(登録商標)を用いた(https://www.canfieldsci.com/imaging-systems/visia-complexion-analysis/を参照のこと)。このプラットフォームは、i)高度に標準化され、ii)高度に再現可能な、iii)定量的な、iv)非侵襲的な、及びvi)被験者又はテスターの偏りのない皮膚品質分析の可能性を提供する。それは異なる角度から顔のいくつかの写真を記録し、吸収/反射スペクトルを記録する(図:キャンフィールドビジア(登録商標)顔面皮膚分析プラットフォームを参照のこと)。これらのデータを用いて、プラットフォームは「斑点」、「しわ」、「毛穴」、「滑らかさ」、「UV斑点」、及び「褐色斑点」(図:皮膚パラメータ1~3を参照のこと)を含む皮膚の質の幾つかのパラメータを定量する。備え付けのソフトウェアが、皮膚の特徴の基準の膨大なデータベースと比較することによって、全てのパラメータを標準化し、0%から100%までの範囲の値を返し、個人間の被験者の比較を可能にする。
【0123】
健康的な対象は、本発明の配合物又は対照を含む化粧品クリームを盲検的に受け取り、即ち、対象は受け取った化粧品クリームが何であるかを知らなかった。被験者は、一日一回、夕方にクリームを適用するように、そしてどれくらい適用するかについて指示された。被験者の皮膚の質を、適用開始前及び1ヶ月後(31±3日)に評価した。対照として、季節的及び生活様式の変化に伴う皮膚の質の変化を考慮するために、手の外面の質も同様にモニターした。化粧的処置及び内部対照のために顔の左側及び右側を使用するという仮定の選択肢は、主要な交絡因子としての被験者の追従性を排除するために使用されなかった。例えば、追従しない対象は、顔の半分の両方にクリームを単に適用すると決定すること、適用する半分及び対照の半分を誤って交換すること、又は他の化粧品を対照側に適用することを決定することができる。適用で誘発される、適用側ではあって対照側ではない皮膚品質の顕著な改善は、奇妙な全体的な顔の外観として現れ得、それによって対象がそのようなアッセイの指示に従わないことに対する強い動機付けを示す。それにもかかわらず、外面の手の表面の皮膚の質はどの被験者においても統計的に有意には変化せず、それによってアッセイ期間が全体的な皮膚の質の何れもの生活様式又は季節的な変化と相関しなかったことを示す。
【0124】
対照的に、本発明の製剤の適用は、対照と比較して統計的に有意に皮膚の質を改善した。データは、各被験者及びパラメータについて対(適用前、1ヶ月後)になっているため、差(1ヶ月後のパラメータ値-適用前のパラメータ値)は、被験者内正規化を可能にし、優れた被験者間比較性を可能にする。ビタミンBのプロビタミンであるデクスパンテノールは、化粧用スキンケアクリームと医療用スキンケア処置の両方に一般的に使用され、皮膚の組織保護効果も発揮する。従って、それをコントロール参照として選択した。しかしながら、本発明の高度なペプチド送達製剤は、斑点、しわ及び滑らかさのような測定された皮膚パラメータの改善において良好に作用した(図を参照のこと)。更に、本発明の組織保護ペプチド(NEQLERALNST、NEQLERALNTS、QDQLERALNST又はQDQLERALNTS)を含む製剤は、前述のQEQLERALNSSペプチドを含む製剤よりも更に良好に作用した。例えば、4つの新規の本発明の組織保護ペプチドの何れかを含む製剤は、QEQLERALNSSペプチドを含む製剤よりも、斑点を統計的に有意に大幅に減少させた。
【0125】
図1は、試験されたポリペプチド(ペプチド0、1、2、3及び4)の効果を示す。
【0126】
斑点及びしわのパラメータは、製剤適用の1ヶ月後に変化した。
【0127】
斑点及びしわの減少は、美容的利点である。バーは平均値変化及び平均値変化の標準偏差を表す。統計分析は、GraphPadPrism7において、one-wayANOVAを使用して行った。有意水準は、0.05()及び0.01(**)である。デクススパンテノール(最終5% 体積/体積)及びペプチドは、クリームによって送達した。
【0128】
図2:試験ポリペプチド(ペプチド0、1、2、3及び4)の有効性を示す。
【0129】
UV斑点、褐色斑点、毛穴及び滑らかさのパラメータは、製剤適用の1ヶ月後に変化した。
【0130】
UV斑点、褐色斑点又は毛穴の減少及び滑らかさの増加は、美容的利点である。バーは平均変化及び平均変化の標準偏差を表す。統計分析は、GraphPadPrism7でone-wayANOVAを用いて行った。有意水準は、0.05()、0.01(**)であった。デクススパンテノール(最終5% 体積/体積)及びペプチドをクリームによって送達した。
【0131】
紅斑の研究:
何れかの製剤によって発揮される組織保護の有効性を測定する他の手段は、一般的な日焼けのようなUVB光誘発紅斑からの皮膚回復の速度である。紅斑は、皮膚の修復過程に関連している局所的高血圧(表在性毛細血管における血流の促進)に起因する皮膚の発赤の増強を伴う皮膚刺激である。修復過程が速いほど、高血圧はより速く停止され、従って皮膚の発赤はより速く正常レベルまで低下する。従って、発赤は皮膚の損傷状態の代用として測定することができる。
【0132】
このアッセイにおいて、健康的な対象は、左腕の約1×1cmの皮膚領域に2倍の最小紅斑量(MED)を受けた。事前に、他の皮膚領域をWaldmannUV802L装置のUV6ランプ(280~360nm)によって放出される強度の増加するUV光にさらすことによって、各被験者について個別にMEDを決定した。
【0133】
2倍のMEDへの曝露直後に、各1×1cmの領域を20μlの製剤で処置するか、又は未処置のままにした。これらのアッセイで使用された製剤は、ローションによって送達されるデクスパンテノール(5%質量/質量)又は組織保護ペプチド(QEQLERALNSS、NEQLERALNST、NEQLERALNTS、QDQLERALNST、又はQDQLERALNTS)であった。ビタミンBのプロビタミンであるデクスパンテノールは、化粧用スキンケアクリームと医療用スキンケア治療の両方で一般的に使用されており、皮膚の組織保護効果も発揮する。従って、それを対照標準処置として選択した。
【0134】
2倍のMED曝露前及び6時間後に、コニカミノルタ社で製造された「クロマメーターCR-400」を用いて曝露領域の皮膚の発赤を分光測定した。曝露の6時間後のすべての対象におけるあらゆる領域の発赤を、曝露前の同じ領域の発赤に対して、測定された発赤値の除算によって正規化した。
【0135】
試験した全てのクリームは、未処置の皮膚と比較して、2倍のMED誘発皮膚発赤(紅斑)を制限した。組織保護ペプチドQEQLERALNSSと組み合わせた本発明のペプチド送達製剤は、デクスパンテノールよりも効率的に紅斑を制限した。更に、本発明の組織保護ペプチド(NEQLERALNST、NEQLERALNTS、QDQLERALNST又はQDQLERALNTS)を含む製剤は、前述のQEQLERALNSSペプチドを含む製剤よりも更に良好に機能した(図を参照のこと)。従って、新規のペプチドを含むこれらの製剤で処置した皮膚領域は、後で、より低い正規化皮膚発赤値を示した。
【0136】
図3は、6時間以内の曝露前後のUV光誘発紅斑からの皮膚回復の画像を示す。
【0137】
図4は、赤色光吸収として測定される炎症の観点からの6時間以内のUV光誘発紅斑からの回復を示す。
【0138】
赤色光吸収値は、UV光曝露前の同じ皮膚面積の値に対して、除算によって正規化した。1の正規化された赤色光吸収値は、UV光曝露前の皮膚状態を表す。正規化された赤色光吸収値の1に向かう減少は、皮膚保護及び回復の増強を表す。バーは平均変化及び平均変化の標準偏差を表す。統計分析は、one-wayANOVAを用いてGraphPadPrism7で行った。有意水準は、0.05()及び0.01(**)である。デクススパンテノール(最終5% 体積/体積)及びペプチドは、iARPローションによって送達した。
【0139】
ニキビ試験1
試験者は顔及び首に重症なニキビがある25歳の女性であった。彼女を本発明に従うポリペプチドを含まない、対照脂質(デクスパンテノール/パンテノール)に基づく標準的な化粧品製剤で1週間処置した。
【0140】
1週間後にニキビはわずかに減少した。
【0141】
次に、本発明に従う化粧品製剤を適用したが、これも本発明に従うポリペプチドを含まない。製剤は、デクスパンタノールの代わりにセラミド及びレシチン、並びにL-アルギニン等のアミノ酸を含んでいた。1週間後、当技術分野のパンテノール製剤に対して目に見える改善が観察された(図5、下の画像)。
【0142】
次に試験者を「ペプチド0」を含む本発明の製剤で処置した。3週目で、ニキビのわずかではあるが目に見える減少が観察された(図5、中央の画像)。その後、さらなる処置の間に更なる改善は検出されなかった。
【0143】
3週間後、試験者を同様の製剤で処置したが、これは参照ポリペプチド(「ペプチド0」)の代わりに「ペプチド4」を含んでいた。1週間後、有意な改善が見られた。8週間後、ニキビから完全に回復し、皮膚は完全に無傷な状態となった(図5、上の画像)。
【0144】
全体的な皮膚保護作用における相対的な美容的関連性
標準的な美容用脂質組成物<アルギニンを含まない本発明の脂質/アミノ酸組成物<アルギニンを含む本発明の脂質/アミノ酸組成物。
EPO<EPO断片1~3<ペプチド0、1<ペプチド3<ペプチド2<ペプチド4。
【0145】
ニキビ試験2
ニキビを患っている5人をそれぞれ含む4つの試験群(「ペプチド、0、2、3及び4」に対応する)(合計20人の被験者)を本発明の製剤(トリガーファクター複合体を含む「iARP-ローション」)で1日2回、1週間処置した。試験者の関連のある皮膚領域には望ましくない病変又は病理学的病変でさえ観察されなかった。従って、すべてのローションサンプル製品(ペプチド0、2、3又は4を含む)の実用的な適用は、皮膚刺激又は感作効果によって引き起こされる望ましくない何れの皮膚反応も引き起こさなかったと結論付けることができる。しかしながら、同じ製剤を用いた様々なペプチドは、様々な効果をもたらす(表3及び4)。それらは、物理化学的影響(ペプチド4は製剤及び粘度を安定化させる)、又はペプチド0(何れの効果も示さない)と比較してペプチド3の改善された抗ヒスタミン特性の両方を有する。
【0146】
全体的な製品評価において、ペプチド2、3及び4はペプチド0と比較して優れていた。
【0147】
ペプチド2及び3は、改善された全体的な皮膚耐性適合性を優れているとして示した。
【0148】
ペプチド4は依然として良好と評価されたが、製品の安定性との組み合わせではペプチド0の120~140に対して200のスコアを得た(両方のスコアの合計)。
【0149】
本発明に従う製剤と組み合わせたペプチド2は、最高の製品総合スコアを達成した。
【0150】
全ての製剤は、ニキビに適用されたペプチド0ベースの製剤よりも20%優れていた。
【0151】
【表3】
【0152】
【表4】
【0153】
一般的観察:
本発明の製剤は、重要な成分を皮膚に輸送し、対照脂質(デクスパンテノール)よりも改善された機能的結果をもたらす相乗的組成物である。既知のEPOミメティックペプチドがそれらの構造において変更されて、以前のペプチドから知られているそれらの受容体結合活性を低下させる場合、安全性における大きな飛躍が達成される。これは、重要な栄養素及び血管拡張化合物(例えば、アルギニン及び本発明に従う他のもの)が詰まったCD90細胞微小環境を標的とするトランスポーター分子としてそれらを依然として使用することによって説明される。皮膚の内因性幹細胞周辺の領域(微小環境)に重要な栄養素と栄養素を持ち込むため。これはそれらの皮膚細胞が皮膚の修復及び皮膚の健康においてそれらの生理学的役割に従うことができることを確実にする。特に、セラミド等の脂質構造を含むように開発された製剤は、分子を皮膚に結合させ、皮膚外での利用可能性を防止する。
【0154】
また、一般に、発明に従う美容用製剤及び組成物における、及びアルギニンのようなア
ミノ酸を含み、且つセラミド/ホスファチジル由来の脂質に基づく上記の全ての製剤にお
ける、活性成分としての既知のEPO断片(1~3、上記参照のこと)及び全長ヒトEP
Oは、紅斑及びニキビの研究において明確な効果を示す。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
(i)少なくとも1種の、10個から40個までのアミノ酸からなる単離組織保護ポリペプチド(tpP)(ここで、前記組織保護ポリペプチドは、EPO受容体(EpoR)及び/又は共通β受容体(βcR)のアゴニストであり、CD90発現皮膚細胞を標的とし、及び造血/赤血球生成活性を誘発しない若しくは本質的に誘発しない)、
(ii)脂質化合物、脂質化合物の組成物又は脂質構造(ここで、前記組織保護ポリペプチド(tpP)は、イオン相互作用によって又は共有結合によって、前記脂質化合物又は前記脂質構造に連結又は結合しているか、或いはそれと混合されているか、又はミセル若しくはリポソーム構造を形成することによって、その中に内包されているか、若しくはカプセル化されている)、及び
(iii)血管系の弛緩を刺激し、及び/又は前記組織保護ポリペプチド(tpP)の前記CD90発現皮膚細胞への輸送を補助する、少なくとも1種の誘発剤
を含む、皮膚への局所適用のための美容用製剤又は組成物。
[2]
前記脂質化合物又は前記脂質構造は、セラミドのようなスフィンゴ脂質又はホスファチジルコリンのようなリン脂質をベースとする、[1]に記載の美容用製剤又は組成物。
[3]
前記誘発剤は、前記CD90発現皮膚細胞における窒素酸化物(NO)及び/又はアセチルコリンの生成を刺激する、[1]又は[2]に記載の美容用製剤又は組成物。
[4]
前記誘発剤は、アルギニン、フェニルアラニン、リシン、グルタミン、チロシン、トリプトファン、バリン、プロリン、シトルリン、クレアチン、タウリン及び上記アミノ酸のうちで2つ以上の同じ又は異なるアミノ酸を含むか、それからなるポリペプチドからなる群から選択される1種以上のアミノ酸又はアミノ酸誘導体を含む、[1]~[3]の何れか1つに記載の美容用製剤又は組成物。
[5]
ビタミンB5及び/又はビタミンE及び/又はコリンを含む、[4]
[6]
前記誘発剤は、前記組織保護ポリペプチド(tpP)にN末端及び/又はC末端で共有結合によって結合している、[1]~[5]の何れか1つに記載の美容用製剤又は組成物。
[7]
前記組織保護ポリペプチド(tpP)は、エリスロポエチン(EPO)ペプチド断片、EPOペプチドバリアント、EPOアナログ又はEPOミメティックに由来するペプチド、或いはEpoR及び/又はβcRとの結合に関与するアミノ酸残基からなるペプチドである、[1]~[6]の何れか1つに記載の美容用製剤又は組成物。
[8]
前記組織保護ポリペプチド(tpP)は、アミノ酸配列:
QEQLERALNSS (配列番号21)、又は
そのバリアント
を含むか又はそれからなり、
式中、前記アミノ酸配列の1つ又は2つのアミノ酸残基は、保存性又は非保存性のアミノ酸残基置換基によって置き換えられており、その結果のペプチド配列は、皮膚組織保護性である、[7]に記載の美容用製剤又は組成物。
[9]
前記組織保護ポリペプチド(tpP)は、式:
LERAL X (配列番号31)
のアミノ酸配列を含むか、その配列であり、
式中、
、X 、X は、互いに独立にQ又はNであり、
は、E又はDであり、及び
、X は、互いに独立にS又はTである、
[8]に記載の美容用製剤又は組成物。
[10]
前記組織保護ポリペプチド(tpP)は、
NEQLERALNTS (配列番号23)
NEQLERALNST (配列番号25)
QDQLERALNTS (配列番号27)
QDQLERALNST (配列番号29)
からなる群から選択されるアミノ酸配列の1つを含むか、又はその配列である、[8]又は[9]に記載の美容用製剤又は組成物。
[11]
(i)クリーム又はローションのベース組成物、及び(ii)前記組織保護ポリペプチド、スフィンゴ脂質及び/又はリン脂質、及びアルギニン、フェニルアラニン、リシン、グルタミン、チロシン、トリプトファン、バリン、プロリン、シトルリン、クレアチン、タウリンからなる群から選択される1つ以上の分子、上記のアミノ酸のうちで2つ以上の同じ又は異なるアミノ酸を含むか又はそれからなるポリペプチド、ビタミンB5、ビタミンE、コリンを含む組成物を含む組成物から構成される[1]~[10]の何れか1つに記載の美容用製剤又は組成物。
[12]
(a)10個から40個までのアミノ酸からなる皮膚組織保護ポリペプチド(tpP)(ここで、前記組織保護ポリペプチド(tpP)は、エリスロポエチン(EPO)ペプチド断片、EPOペプチドバリアント、EPOアナログ又はEPOミメティック由来のペプチド、或いは前記EpoR及び/又は前記βcRとの結合に関与するアミノ酸残基からなるペプチドであり、造血/赤血球生成活性を誘発しない若しくは本質的に誘発しない)、及び
(b)血管系の弛緩を刺激し、及び/又は前記組織保護ポリペプチド(tpP)の前記CD90発現皮膚細胞への輸送を補助する誘発剤(ここで、前記誘発剤は、アルギニン、フェニルアラニン、リシン、グルタミン、チロシン、トリプトファン、バリン、プロリン、シトルリン、クレアチン、タウリンからなる群から選択される1つ以上の分子、上記のアミノ酸のうちで2つ以上の同じ又は異なるアミノ酸を含むか、それからなるポリペプチド、ビタミンB5、ビタミンE、コリンからなる群から選択される)
を少なくとも含み、前記皮膚組織保護ポリペプチド(tpP)は、共有結合により、前記誘発剤と結合している、複合体分子。
[13]
前記組織保護ポリペプチド(tpP)は、アミノ酸配列:
5’-QEQLERALNSS-3’(配列番号3)、又は
そのバリアント
を含むか又はそれからなり、
式中、1つ又は2つのアミノ酸残基は、保存性又は非保存性のアミノ酸残基置換基によって置き換えられている、[12]に記載の複合体分子。
[14]
前記組織保護ポリペプチド(tpP)は、式:
LERAL X (配列番号31)
のアミノ酸配列を含むか、該配列であり、
式中、
、X 、X は、互いに独立にQ又はNであり、
は、E又はDであり、及び
、X は、互いに独立にS又はTである、
[13]に記載の複合体分子。
[15]
前記組織保護ポリペプチド(tpP)は、
NEQLERALNTS (配列番号23)
NEQLERALNST (配列番号25)
QDQLERALNTS (配列番号27)
QDQLERALNST (配列番号29)
からなる群から選択されるアミノ酸配列の1つを含むか、又は該配列である、[13]又[14]に記載の複合体分子。
[16]
脂質化合物、脂質化合物の組成物又は脂質構造を更に含み、前記複合体分子は、イオン相互作用によって又は共有結合によって、前記脂質化合物又は前記脂質構造と連結又は結合しているか、或いはそれと混合されているか、又はミセル若しくはリポソーム構造を形成することによって、その中に内包されているか、若しくはカプセル化されている、[12]~[15]の何れか1つに記載の複合体分子。
[17]
EPO受容体(EpoR)及び/又は共通β受容体(βcR)に結合可能な単離ポリペプチドであって、
式:
LERAL X (配列番号31)
(式中、
、X 、X は、互いに独立にQ又はNであり、
は、E又はDであり、及び
、X は、互いに独立にS又はTである)、
の11merのアミノ酸配列からなり、
アミノ酸配列QEQLERALNSS(配列番号21)は除外され、
前記ポリペプチドは、皮膚保護活性を有し、造血又は赤血球生成効果を誘発しない、又は本質的に誘発しない、
単離ポリペプチド。
[18]
はQであり、X はNである、
[17]に記載の単離ポリペプチド。
[19]
NEQLERALNTS (配列番号23)
NEQLERALNST (配列番号25)
QDQLERALNTS (配列番号27)
QDQLERALNST (配列番号29).
から選択される1つのアミノ酸配列からなる、
[18]に記載の単離ポリペプチド。
[20]
20個以下のアミノ酸からなる単離皮膚組織保護ポリペプチドであって、前記ポリペプチドは、[17]~[19]の何れか1つに記載のアミノ酸配列を含む、単離ポリペプチド。
[21]
7、8、9又は10個のアミノ酸残基からなり、配列LERALを含む、[17]~[19]の何れか1つに記載の単離ポリペプチドの皮膚組織保護断片。
[22]
皮膚の修復、皮膚の若返り、自然な皮膚の輝き、しわの減少、皮膚のアンチエイジング、並びに乾燥し、断裂した皮膚の回避及び改善を含む、皮膚の局所的な美容用の処置のための使用のための、[1]~[11]の何れか1つに記載の美容用製剤又は組成物、又は[12]~[16]の何れか1つに記載の複合体分子、又は[17]~[20]の何れか1つに記載の単離ポリペプチド。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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