(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】抗PCSK9抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20221031BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20221031BHJP
C07K 16/40 20060101ALI20221031BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20221031BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20221031BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20221031BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221031BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20221031BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20221031BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20221031BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221031BHJP
A61K 31/40 20060101ALI20221031BHJP
A61K 31/405 20060101ALI20221031BHJP
A61K 31/366 20060101ALI20221031BHJP
A61K 31/47 20060101ALI20221031BHJP
A61K 31/22 20060101ALI20221031BHJP
A61K 31/505 20060101ALI20221031BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C07K16/40
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P3/06
A61P43/00 121
A61K31/40
A61K31/405
A61K31/366
A61K31/47
A61K31/22
A61K31/505
G01N33/53 D
(21)【出願番号】P 2019534112
(86)(22)【出願日】2017-12-22
(86)【国際出願番号】 CN2017118050
(87)【国際公開番号】W WO2018113781
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-09-25
(31)【優先権主張番号】201611210645.3
(32)【優先日】2016-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】518049935
【氏名又は名称】イノベント バイオロジックス (スウツォウ) カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】アンディー、ツン
(72)【発明者】
【氏名】エリック、クラウランド
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン、ピー.ベルク
(72)【発明者】
【氏名】シャオニウ、ミャオ
(72)【発明者】
【氏名】ミン、チャン
(72)【発明者】
【氏名】ナドタカーン、ボーランド
(72)【発明者】
【氏名】シャオリン、リウ
(72)【発明者】
【氏名】デチャオ、ユー
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-536384(JP,A)
【文献】特表2012-511913(JP,A)
【文献】特表2012-504388(JP,A)
【文献】ALKINDI, M. et al.,Monoclonal Antibodies for the Treatment of Hypercholesterolemia: Targeting PCSK9,Canadian Journal of Cardiology,Vol. 32, No. 12,P. 552-1560,https://doi.org/10.1016/j.cjca.2016.04.013
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントであって、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、
(1)前記重鎖可変領域HCVRが配列番号23のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、かつ前記軽鎖可変領域LCVRが配列番号24のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる、
(2)前記重鎖可変領域HCVRが配列番号25のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、かつ前記軽鎖可変領域LCVRが配列番号24のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる、
(3)前記重鎖可変領域HCVRが配列番号26のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、かつ前記軽鎖可変領域LCVRが配列番号24のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる、
(4)前記重鎖可変領域HCVRが配列番号27のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、かつ前記軽鎖可変領域LCVRが配列番号24のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる、
(5)前記重鎖可変領域HCVRが配列番号28のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、かつ前記軽鎖可変領域LCVRが配列番号24のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる、
(6)前記重鎖可変領域HCVRが配列番号29のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、かつ前記軽鎖可変領域LCVRが配列番号24のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる、
(7)前記重鎖可変領域HCVRが配列番号30のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、かつ前記軽鎖可変領域LCVRが配列番号24のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる、
(8)前記重鎖可変領域HCVRが配列番号31のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、かつ前記軽鎖可変領域LCVRが配列番号24のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる、
(9)前記重鎖可変領域HCVRが配列番号32のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、かつ前記軽鎖可変領域LCVRが配列番号24のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる、または、
(10)前記重鎖可変領域HCVRが配列番号33のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、かつ前記軽鎖可変領域LCVRが配列番号24のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる、
前記抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項2】
重鎖および/または軽鎖を含み、前記重鎖が配列番号34、36、37、38、39、40、41、42、43および44から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、かつ/または前記軽鎖が配列番号35のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる、請求項
1に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項3】
抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントであって、重鎖および軽鎖を含み、
(1)前記重鎖が配列番号34のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖が配列番号35のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる、
(2)前記重鎖が配列番号36のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖が配列番号35のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる、
(3)前記重鎖が配列番号37のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖が配列番号35のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる、
(4)前記重鎖が配列番号38のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖が配列番号35のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる、
(5)前記重鎖が配列番号39のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖が配列番号35のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる、
(6)前記重鎖が配列番号40のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖が配列番号35のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる、
(7)前記重鎖が配列番号41のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖が配列番号35のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる、
(8)前記重鎖が配列番号42のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖が配列番号35のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる、
(9)前記重鎖が配列番号43のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖が配列番号35のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる、または、
(10)前記重鎖が配列番号44のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖が配列番号35のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる、
前記抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントであって、配列番号53のヒトPCSK9のアミノ酸配列の残基Y78、T86、H87およびR104によって形成される領域を含むPCSK9のエピトープに結合する、前記抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項5】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項6】
前記抗体がヒト化抗体またはヒト抗体である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項7】
前記抗原結合フラグメントが、Fab、Fab’-SH、Fv、scFvまたは(Fab’)2フラグメントから選択されるフラグメントである、請求項1~
6のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメント。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントをコードする、単離された核酸。
【請求項9】
請求項
8に記載の核酸を含むベクターであって、好ましくは発現ベクターである、前記ベクター。
【請求項10】
請求項
8に記載の核酸または請求項
9に記載のベクターを含む宿主細胞であって、好ましくは原核生物または真核生物であり、より好ましくは酵母細胞、哺乳動物細胞、または抗体もしくはその抗原結合フラグメントを調製するのに適した他の細胞から選択される、前記宿主細胞。
【請求項11】
抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントを調製する方法であって、請求項1~
7のいずれか一項に記載された抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントをコードする核酸の発現に適した条件下で、請求項
10に記載の宿主細胞を培養することを含み、任意に前記抗体またはその抗原結合フラグメントを単離することを含み、任意に宿主細胞から抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントを回収することをさらに含む、前記方法。
【請求項12】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントを含む、医薬組成物。
【請求項13】
対象におけるコレステロールレベルを低下させるため、または対象におけるコレステロール関連疾患を治療するため、または対象におけるPCSK9とLDLRとの結合を阻害するために使用される、請求項1~
7のいずれか一項に記載の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントを含む医薬組成物であって、好ましくは前記コレステロールがLDL-コレステロール、より好ましくは血清LDL-コレステロールであり、または、好ましくは前記コレステロール関連疾患が高コレステロール血症または高脂血症である、前記医薬組成物。
【請求項14】
前記医薬組成物が薬学的に許容可能な担体をさらに含む、請求項
12または
13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記医薬組成物がスタチンをさらに含み、好ましくは該スタチンがアトルバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、メバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチンおよびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項
12または
13に記載の医薬組成物。
【請求項16】
対象におけるコレステロールレベルを低下させるため、または対象におけるコレステロール関連疾患を治療するため、または対象におけるPCSK9とLDLRとの結合を阻害するための医薬の製造
における、請求項1~
7のいずれか一項に記載の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントの使用であって、好ましくは前記コレステロールがLDL-コレステロール、より好ましくは血清LDL-コレステロールであり、または、好ましくは前記コレステロール関連疾患が高コレステロール血症または高脂血症である、前記使用。
【請求項17】
前記抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントが第2の医薬と組み合わせて投与され、好ましくは前記第2の医薬がLDLRタンパク質のレベルを増加させるか、または前記第2の医薬がLDL-コレステロールのレベルを低下させ、より好ましくは前記第2の医薬がスタチンを含み、最も好ましくは前記スタチンがアトルバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、メバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチンおよびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項
16に記載の使用。
【請求項18】
試料中のPCSK9タンパク質を検出する方法であって、
(a)試料と請求項1~
7のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合フラグメントとを接触させること、および
(b)前記抗体またはその抗原結合フラグメントとPCSK9タンパク質との複合体の形成を検出すること
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)(以下、PCSK9と称する)に特異的に結合する新規抗体および抗体フラグメント、ならびに該抗体または抗体フラグメントを含む組成物に関する。さらに、本発明は、前記抗体またはその抗体フラグメントをコードする核酸、それを含む宿主細胞、および関連する用途に関する。さらに、本発明は、これらの抗体および抗体フラグメントの治療的および診断的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
血清コレステロール値の上昇は、心血管イベントを引き起こす重要な危険因子である。現在、コレステロール低下療法の基本はスタチンであり、これはアテローム性動脈硬化性心血疾患の一次および二次予防において重要な役割を果たしている。しかしながら、現在の脂質低下療法は臨床的ニーズを満たしていない。
【0003】
スタチンにより心疾患による死亡を減らすことができるが、スタチン療法には一定の制限がある。第一に、スタチンは低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)のレベルを40~55%までしか減少させることができず、スタチンの用量を2倍にしても、LDL-Cのレベルをさらに約6%しか減少させることができない。
【0004】
多数のサンプルを用いた研究により、スタチン/組み合わせでは、LDL-Cの治療の目的が達成されないことが示された。L-TAP2(脂質治療評価プロジェクト2)による研究では、アメリカ、ヨーロッパおよびアジアの9カ国からの9955人の高脂血症患者が、安定した脂質低下療法を受けた(それらの75%がスタチン療法を受けた)。LDL-Cによって正常まで低下する全体的な割合は47~84%である(Waters DD et al, Lipid Treatment Assessment Project (L-TAP) 2: a multinational survey to evaluate the proportion of patients achieving Low Density Lipoprotein cholesterol goals. Circulation. 120(1): 28-34, 2009)。複数のスタチンの広範な臨床分析では、スタチンは一次および二次予防として心血管イベントの減少に役割を果たすが、全体で3分の1のイベントが減少するに止まり、特に、高リスク群では27%のイベントが減少するに過ぎなかった(Libby P., The forgotten majority: unfinished business in cardiovascular risk reduction. Journal of the American College of Cardiology. 46(7):1225-1228, 2005)。
【0005】
現在、異なるメカニズムを介した様々なコレステロール低下薬が市販されているか、または研究中であり、その中でも、PCSK9に対する抗体は、その優れた安全性および有効性のために広く関心が寄せられている。
【0006】
PCSK9はプロタンパク質転換酵素のファミリーに属するセリンプロテアーゼである。げっ歯類およびヒトでは、PCSK9は主に肝臓で発現し、次に小腸および腎臓で発現される。まず、72kDaのPCSK9前駆体タンパク質が粗面小胞体で合成される。前駆体タンパク質は、30アミノ酸のN末端シグナルペプチド、リーダーペプチド(31~152)、触媒領域(153~425)、およびC末端システイン/ヒスチジンリッチドメイン(CHRD)(426~692)を含む。(Duff CJ., et al., Antibody-mediated disruption of the interaction between PCSK-9 and the Low Density Lipoprotein receptor. The Biochemical Journal. 419(3):577-584, 2009、Lambert G., et al., Molecular basis of PCSK-9 function. Atherosclerosis. 203(1):1-7, 2009)。Gln152位で自己触媒された後、前駆体タンパク質は14kDaのリーダーペプチドフラグメントおよび63kDaの成熟機能性タンパク質(触媒構造およびC末端ドメインを含む)に切断され、これらは非共有結合的に強く結合して複合体を形成する。リーダーペプチドは成熟タンパク質の分子シャペロンとして作用し、その後、複合体は小胞体を離れてゴルジ体に到達し、ゴルジ体においてチロシン硫酸化、アセチル化および一連の翻訳後修飾を経て細胞から血液循環中に分泌される。
【0007】
分泌PCSK9は、主に肝細胞の原形質膜表面の低密度リポタンパク質受容体(LDLR)の分解に関与する。PCSK9の触媒領域は、LDLR構造中の上皮成長因子様反復相同ドメインA(EGF-A)に結合することができ、クラスリンによる被覆後に肝細胞に取り込まれるLDLR/PCSK9複合体を形成することができるLDLR結合部位を含む。肝細胞のエンドソームでは、酸性環境であること、すなわちpH値が低下することから、LDLRとPCSK9との間の相互作用が、より安定な複合体を形成するように増強され、それによりLDLRの立体配置の変化が阻害され、LDLRの解離および再生が妨げられ、LDLR/PCSK9複合体のリソソームへの輸送、タンパク質分解を介した分解が促進される(Lambert G., et al., Molecular basis of PCSK9 function. Atherosclerosis. 203(1):1-7, 2009、George M, et al., Looking into the crystal ball-upcoming drugs for dyslipidemia. Journal of Cardiovascular Pharmacology and Therapeutics. 20(1):11-20, 2016)。PCSK9は、低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)のクリアランス経路を阻害することによってin vivoで作用する。LDL-CとLDLRとが結合し、その後に取り込まれると、結合したPCSK9は、LDLR/LDL-C複合体からLDLRが脱離するのを防ぎ、LDLRが細胞表面に再利用されないように複合体をリソソームに輸送して分解させ、これにより肝細胞表面のLDLRの量が減少する(Lambert G., et al., Molecular basis of PCSK-9 function. Atherosclerosis. 203(1): 1-7, 2009)。さらに、ゴルジ体内の未熟なPCSK9は、細胞内LDLRに直接結合し、次いでリソソームに入り分解され得、これによりLDLRが肝細胞表面で発現するのを阻害する(Lambert G., et al., Molecular basis of PCSK-9 function. Atherosclerosis. 203 (1): 1-7, 2009、Zhang Y., et al., Dysregulation of the Low Density Lipoprotein receptor pathway is involved in lipid disorder-mediated organ injury. International Journal of Biological Sciences. 12(5): 569-579, 2016)。従って、PCSK9は、細胞表面および細胞内経路を介してLDLRに直接作用し、肝細胞表面でのLDLRの発現を減少させ、肝細胞によるLDL-Cの再取り込みを減少させ、LDL-Cクリアランスの減少および血液循環における持続的なLDL-Cレベルの上昇をもたらす。PCSK9を阻害することにより、血漿PCSK9とLDLRとの結合が遮断され、それによりLDLRの取り込みおよび分解が阻害され、細胞表面でのLDLR発現のレベルおよび量が上昇し、血中脂肪を低下させるという直接的な効果を達成するために、LDLRによるLDL-C再取り込みが増加し、最終的には血液循環におけるLDL-Cレベルが低下する。
【0008】
PCSK9は、超低密度リポタンパク質受容体(VLDLR)、アポリポタンパク質E受容体2(apoER2)およびLDLR関連タンパク質1(LDLR)を含むLDLRファミリーの他のメンバーの分解を促進する(Lambert G., et al., Molecular basis of PCSK-9 function. Atherosclerosis. 203(1): 1-7, 2009)。PCSK9はVLDLRおよびapoER2のEGF-Aドメインにも結合するが、分解経路は異なり、そのような分解の生理学的意義はこれまで明らかにされていない(Burke AC., et al. PCSK-9: regulation and target for drug Development for dyslipidemia. Annual Review of Pharmacology and Toxicology. 13(3), 2016)。さらに、最近の研究により、スカベンジャー受容体CD36もPCSK9と相互作用することができ、循環中のコレステロールの恒常性維持に加えて、PCSK9がトリグリセリドの代謝において役割を果たし得ることが示唆されている(Burke AC., et al. PCSK-9: regulation and Target for drug development for dyslipidemia. Annual Review of Pharmacology and Toxicology. 13(3), 2016)。要約すると、PCSK9は、in vivoでの脂質サイクルおよび代謝と密接に関連している。
【0009】
ヒト遺伝学に関する研究により、LDL-Cのレベルと冠動脈性心疾患の発生の制御におけるPCSK9の役割を支持する強力な証拠が提供されている。ヒトについての研究により、PCSK9遺伝子における機能獲得型突然変異がLDL-Cの血清レベルの上昇および早期の冠動脈性心疾患と関連することが確認され(Abifadel M., et al., Mutations in PCSK-9 cause autosomal dominant hypercholesterolemia. Nature Genetics. 34(2):154 -156, 2003)、一方で、機能喪失型突然変異がLDL-Cの血清レベルの低下と関連していることが確認された(Cohen JC., et al, Sequence variations in PCSK-9, low LDL, and protection against coronary heart disease. New England Journal of Medicine 54(12): 1264-1272, 2006)。15年間の前向きコホート研究(ARIC研究)において、PCSK9ナンセンス突然変異を有する個体は、有意に低いLDK-Cレベルおよび冠動脈性心疾患リスクを示した(Cohen JC., et al., Sequence variations in PCSK-9, low LDL, and protection against coronary heart disease. New England Journal of Medicine. 54(12): 1264-1272, 2006)。この研究には3,363人の黒人被験者が含まれ、そのうちの2.6%がPCSK9142XまたはPCSK9679Xナンセンス変異を有していた。突然変異を有さない被験者と比較して、LDL-Cのレベルは28%低下し、冠動脈性心疾患のリスクは88%低下した(Cohen JC., et al., Sequence variations in PCSK-9, low LDL, and protection against coronary heart disease. New England Journal of Medicine. 54(12): 1264-1272, 2006)。この研究には9,524人の白人被験者が含まれ、そのうちの3.2%がPCSK946Lナンセンス変異を有していた。LDL-Cのレベルは15%低下し、冠動脈性心疾患のリスクは47%低下した(Cohen JC., et al., Sequence variations in PCSK-9, low LDL, and protection against coronary heart disease. New England Journal of Medicine. 54(12): 1264-1272, 2006)。さらに、複雑なヘテロ接合型不活性化変異であるPCSK9を有する女性においては、PCSK9は血漿中で検出されず、LDL-Cの血清レベルは非常に低かったが(14mg/dl)、全体的な健康状態は良好で、妊娠可能であった(Zhao Z., et al., Molecular characterization of loss of function mutations in PCSK-9 and identification of a compound heterozygote. American Journal of Human Genetics. 79(3): 514-523, 2006.)。
【0010】
さらに、in vivoでの動物実験により、PCSK9の作用の根本的なメカニズムが明らかになった。マウスにおけるPCSK9の血清レベルの上昇により、肝細胞におけるLDLRタンパク質の減少および総コレステロールの血清レベルの上昇がもたらされた(Lagace TA., et al, Secreted PCSK-9 decreases the number of LDL receptors in hepatocytes and in livers of parabiotic mice. Journal of Clinical Investigation 116(11): 2995-3005, 2006)。対照的に、PCSK9ノックアウトマウスによって、肝細胞におけるLDLRタンパク質のレベルの上昇が示され(一方、LDLRメッセンジャーRNAのレベルは変化しなかった)、対応する総コレステロールの血清レベルは約50%減少した(Rashid S., et al., Decreased plasma cholesterol and hypersensitivity to statin in mice lacking PCSK-9. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America. 102(15): 5374-5379, 2005)。
【0011】
このように、低密度リポタンパク質(LDL)の調節においてPCSK9が役割を果たすことを示す実質的な証拠が存在する;PCSK9の発現または上方制御は、LDLコレステロールの血漿レベルの上昇と関連している;PCSK9発現の阻害または欠損は、LDLコレステロールの血漿レベルの低下と関連している;LDLコレステロールのレベルの低下は、冠動脈性心疾患に対する防御を付与することが見出されているPCSK9配列の変化と関連している(Cohen, 2006 N. Engl. J. Med. 354: 1264-1272)。
【0012】
臨床試験において、LDLコレステロールのレベルの低下が、冠動脈イベントの悪性度に直接関連することが見出された(Law et al., 2003 BMJ 326: 1423-1427)。さらに、LDLコレステロールの血漿レベルの中程度の寿命の低下が、冠動脈イベントの発生の実質的な減少と関連することが見出された(Cohen, 2006 N. Engl. J. Med. 354: 1264-1272)。これらは、非脂質関連心血管危険因子に高罹患している集団においても同様である。従って、LDLコレステロールのレベルの管理と制御は非常に有益である。
【0013】
この理由により、コレステロールレベルを調節し、PCSK9の活性を遮断または阻害または中和するために使用され得る他の分子の同定は、多大な利益を有するであろう。PCSK9抗体、およびLDL-Cの血漿レベルの低下に対するそれらの効果は、当該分野において公知である。そのようなPCSK9抗体およびその使用は、例えば、US2009/0246192、US2009/0142352、US2010/0166768およびWO2010/029513に開示されている。
【0014】
これまでのところ、既知のPCSK9モノクローナル抗体であるアリロクマブ(Sanofi/Regeneron社製、商品名PRALUENT)およびエボロクマブ(Amgen社製、商品名REPATHA)は、様々な種類の原発性高コレステロール血症において顕著な有効性を示し、スタチンによる制御が不十分な高コレステロール血症および家族性高コレステロール血症(ヘテロ接合型およびホモ接合型家族性高コレステロール血症を含み、それぞれHeFHおよびHoFHと呼ばれる)における使用、および冠動脈硬化性心疾患の患者に対する使用について、2015年に米国のFDAにより承認された。
【0015】
代替的なPCSK9抗体が依然として必要とされている。特に、信頼性の高い細胞株に由来する、安定性が高く、かつ高効率でLDL-Cのレベルを低下させることができる、PCSK9との高い親和性を有するPCSK9抗体が必要とされている。より具体的には、高効率でLDL-Cのレベルを低下させることができ、長い持続期間(例えば、LDL-Cのレベルの持続的阻害)を提供することができる代替的なPCSK9抗体が必要とされている。そのような抗体はまた、好ましくは、開発、調製または処方に好適な良好な物理化学的特性を有する。
【発明の概要】
【0016】
本発明は、一つには、PCSK9に対する様々な抗体に基づくものである。PCSK9は、重要かつ有利な治療標的として提示されている。また、本発明によれば、PCSK9の発現および/または活性に関連する病的状態の治療および診断のための抗体が提供される。従って、本発明によれば、抗PCSK9抗体、ならびに抗PCSK9抗体に関連する組成物、キット、方法および使用が提供される。
【0017】
いくつかの実施形態において、PCSK9またはそのフラグメント(好ましくはヒトPCSK9タンパク質)に結合する抗PCSK9抗体または抗体フラグメント(好ましくは抗原結合フラグメント)が提供される。
【0018】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは重鎖可変領域(HCVR)を含み、前記HCVRは相補性決定領域(CDR)HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、HCDR1は配列番号1、7、8、9、10、11、12、13および20からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR2は配列番号2、14、15、16、17および21からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR3は配列番号3、18、19および22からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0019】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記LCVRは相補性決定領域(CDR)LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、LCDR1は配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR2は配列番号5のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR3は配列番号6のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%相同性または100%相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0020】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記HCVRは相補性決定領域(CDR)HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、前記LCVRはCDR LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、HCDR1は配列番号1、7、8、9、10、11、12、13および20からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR2は配列番号2、14、15、16、17および21からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR3は配列番号3、18、19および22からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR1は配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR2は配列番号5のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR3は配列番号6のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0021】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは重鎖可変領域(HCVR)を含み、前記HCVRは相補性決定領域(CDR)HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、HCDR1は配列番号1、7、8、9、10、11、12、13および20からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR2は配列番号2、14、15、16、17および21からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR3は配列番号3、18、19および22からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0022】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記LCVRは相補性決定領域(CDR)LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、LCDR1は配列番号4のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR2は配列番号5のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR3は配列番号6のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0023】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記HCVRは相補性決定領域(CDR)HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、前記LCVRはCDR LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、HCDR1は配列番号1、7、8、9、10、11、12、13および20からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR2は配列番号2、14、15、16、17および21からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR3は配列番号3、18、19および22からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR1は配列番号4のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR2は配列番号5のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR3は配列番号6のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0024】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記HCVRは相補性決定領域(CDR)HCDR1、HCDR2を含み、前記LCVRはCDR LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、HCDR1は配列番号20のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR2は配列番号21のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR3は配列番号22のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR1は配列番号4のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR2は配列番号5のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR3は配列番号6のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0025】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記HCVRは相補性決定領域(CDR)HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、前記LCVRはCDR LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、HCDR1は配列番号1のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR2は配列番号2のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR3は配列番号3のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR1は配列番号4のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR2は配列番号5のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR3は配列番号6のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0026】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記HCVRは相補性決定領域(CDR)HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、前記LCVRはCDR LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、HCDR1は配列番号1のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR2は、配列番号2のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR3は配列番号18のアミノ酸配列からなり、LCDR1は配列番号4のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR2は配列番号5のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR3は配列番号6のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0027】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記HCVRは相補性決定領域(CDR)HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、前記LCVRはCDR LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、HCDR1は配列番号1のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR2は配列番号14のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR3は配列番号19のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR1は配列番号4のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR2は配列番号5のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR3は配列番号6のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0028】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記HCVRは相補性決定領域(CDR)HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、前記LCVRはCDR LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、HCDR1は配列番号7のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR2は配列番号15のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR3は配列番号18のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR1は配列番号4のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR2は配列番号5のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR3は配列番号6のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0029】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記HCVRは相補性決定領域(CDR)HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、前記LCVRはCDR LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、HCDR1は配列番号8のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR2は配列番号16のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR3は配列番号19のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR1は配列番号4のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR2は配列番号5のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR3は配列番号6のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0030】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記HCVRは相補性決定領域(CDR)HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、前記LCVRはCDR LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、HCDR1は配列番号9のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR2は配列番号17のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR3は配列番号19のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR1は配列番号4のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR2は配列番号5のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR3は配列番号6のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0031】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記HCVRは相補性決定領域(CDR)HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、前記LCVRはCDR LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、HCDR1は配列番号10のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR2は配列番号17のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR3は配列番号19のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR1は配列番号4のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR2は配列番号5のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR3は配列番号6のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0032】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記HCVRは相補性決定領域(CDR)HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、前記LCVRはCDR LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、HCDR1は配列番号11のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR2は配列番号17のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR3は配列番号18のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR1は配列番号4のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR2は配列番号5のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR3は配列番号6のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0033】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記HCVRは相補性決定領域(CDR)HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、前記LCVRはCDR LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、HCDR1は配列番号12のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR2は配列番号17のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR3は配列番号18のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR1は配列番号4のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR2は配列番号5のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR3は配列番号6のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0034】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記HCVRは相補性決定領域(CDR)HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、前記LCVRはCDR LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、HCDR1は配列番号13のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR2は配列番号17のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR3は配列番号18のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR1は配列番号4のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR2は配列番号5のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR3は配列番号6のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0035】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号23、25、26、27、28、29、30、31、32および33からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる重鎖可変領域HCVRを含む。
【0036】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号24のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる軽鎖可変領域LCVRを含む。
【0037】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記重鎖可変領域HCVRは配列番号23、25、26、27、28、29、30、31、32および33からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖可変領域LCVRは配列番号24のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0038】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号23、25、26、27、28、29、30、31、32および33からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる重鎖可変領域HCVRを含む。
【0039】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、配列番号24のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる軽鎖可変領域LCVRを含む。
【0040】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記重鎖可変領域HCVRは配列番号23、25、26、27、28、29、30、31、32および33からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖可変領域LCVRは配列番号24のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0041】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記重鎖可変領域HCVRは配列番号23のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖可変領域LCVRは配列番号24のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0042】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記重鎖可変領域HCVRは配列番号25のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖可変領域LCVRは配列番号24のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0043】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記重鎖可変領域HCVRは配列番号26のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖可変領域LCVRは配列番号24のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0044】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記重鎖可変領域HCVRは配列番号27のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖可変領域LCVRは配列番号24のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0045】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記重鎖可変領域HCVRは配列番号28のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖可変領域LCVRは配列番号24のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0046】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記重鎖可変領域HCVRは配列番号29のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖可変領域LCVRは配列番号24のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0047】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記重鎖可変領域HCVRは配列番号30のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖可変領域LCVRは配列番号24のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0048】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記重鎖可変領域HCVRは配列番号31のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖可変領域LCVRは配列番号24のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0049】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記重鎖可変領域HCVRは配列番号32のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖可変領域LCVRは配列番号24のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0050】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記重鎖可変領域HCVRは配列番号33のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖可変領域LCVRは配列番号24のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0051】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは重鎖を含み、該重鎖は配列番号34、36、37、38、39、40、41、42、43および44からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0052】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは軽鎖を含み、該軽鎖は配列番号35のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0053】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは重鎖および軽鎖を含み、前記重鎖は配列番号34、36、37、38、39、40、41、42、43および44からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖は配列番号35のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0054】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは重鎖を含み、該重鎖は配列番号34、36、37、38、39、40、41、42、43および44からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0055】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは軽鎖を含み、該軽鎖は配列番号35のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0056】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは重鎖および軽鎖を含み、前記重鎖は配列番号34、36、37、38、39、40、41、42、43および44からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖は配列番号35のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0057】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは重鎖および軽鎖を含み、前記重鎖は配列番号34のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖は配列番号35のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0058】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは重鎖および軽鎖を含み、前記重鎖は配列番号36のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖は配列番号35のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0059】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは重鎖および軽鎖を含み、前記重鎖は配列番号37のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖は配列番号35のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0060】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは重鎖および軽鎖を含み、前記重鎖は配列番号38のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖は配列番号35のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0061】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは重鎖および軽鎖を含み、前記重鎖は配列番号39のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖は配列番号35のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0062】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは重鎖および軽鎖を含み、前記重鎖は配列番号40のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖は配列番号35のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0063】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは重鎖および軽鎖を含み、前記重鎖は配列番号41のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖は配列番号35のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0064】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは重鎖および軽鎖を含み、前記重鎖は配列番号42のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖は配列番号35のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0065】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは重鎖および軽鎖を含み、前記重鎖は配列番号43のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖は配列番号35のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0066】
好ましい実施形態において、本明細書において提供される抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは重鎖および軽鎖を含み、前記重鎖は配列番号44のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、前記軽鎖は配列番号35のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0067】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体には、抗PCSK9抗体のアミノ酸配列の変異体、および上記の任意の抗体と同じエピトープに結合する抗体も包含される。
【0068】
特定の実施形態において、PCSK9またはそのフラグメントに結合する抗体またはその抗体フラグメント(好ましくは抗原結合フラグメント)が提供され、前記抗体は、PCSK9のフラグメント内のエピトープに結合する。特定の実施形態において、PCSK9またはそのフラグメントに結合する抗体またはその抗体フラグメントが提供され、前記抗体は、配列番号53のヒトPCSK9のアミノ酸配列のアミノ酸75~93および100~110を含む、PCSK9のフラグメント内のエピトープに結合する。特定の実施形態において、本発明の抗体の機能的および/または構造的エピトープは、ヒトPCSK9の残基Y78を含む。特定の実施形態において、本発明の抗体の機能的および/または構造的エピトープは、ヒトPCSK9の残基T86を含む。特定の実施形態において、本発明の抗体の機能的および/または構造的エピトープは、ヒトPCSK9の残基H87を含む。特定の実施形態において、本発明の抗体の機能的および/または構造的エピトープは、ヒトPCSK9の残基Y78、T86およびH87を含む。特定の実施形態において、本発明の抗体の機能的および/または構造的エピトープは、ヒトPCSK9の残基R104を含む。特定の実施形態において、本発明の抗体の機能的および/または構造的エピトープは、ヒトPCSK9の残基Y78、T86、H87およびR104を含む。特定の実施形態において、前記機能的および/または構造的エピトープは、ヒトPCSK9の残基Y78、T86、H87およびR104から選択される1つまたは複数を含む。特定の実施形態において、前記機能的および/または構造的エピトープは、ヒトPCSK9のY78、T86、H87およびR104に隣接する1つまたは複数の残基を含む。特定の実施形態において、本発明の抗体の機能的および/または構造的エピトープは、(i)ヒトPCSK9のY78、T86およびH87からなる群から選択される少なくとも1つの残基、(ii)ヒトPCSK9のR104を含む。特定の実施形態において、前記機能的および/または構造的エピトープは、以下の残基の1つ、2つ、3つまたは全てを含む:ヒトPCSK9のY78、T86、H87およびR104。
【0069】
いくつかの実施形態において、抗PCSK9抗体はモノクローナル抗体である。いくつかの実施形態において、抗PCSK9抗体はヒト化されている。いくつかの実施形態において、抗PCSK9抗体はヒト抗体である。いくつかの実施形態において、抗PCSK9抗体のフレームワーク配列の少なくとも一部はヒトコンセンサスフレームワーク配列である。一つの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体には、その抗体フラグメント、好ましくはFab、Fab’-SH、Fv、scFvまたは(Fab’)2フラグメントからなる群から選択される抗体フラグメントがさらに包含される。
【0070】
一つの態様において、本発明によれば、上記抗PCSK9抗体またはそのフラグメントのいずれかをコードする核酸が提供される。一つの実施形態において、核酸を含むベクターが提供される。一つの実施形態において、前記ベクターは発現ベクターである。一つの実施形態において、前記ベクターを含む宿主細胞が提供される。一つの実施形態において、前記宿主細胞は真核生物である。別の実施形態において、前記宿主細胞は、酵母細胞、哺乳動物細胞、または抗体もしくはその抗原結合フラグメントの調製に適した他の細胞からなる群から選択される。別の実施形態において、前記宿主細胞は原核生物である。
【0071】
一つの実施形態において、本発明によれば、抗PCSK9抗体またはそのフラグメント(好ましくは抗原結合フラグメント)の製造方法が提供され、該方法は、抗体またはそのフラグメント(好ましくは抗原結合フラグメント)をコードする核酸の発現に適した条件下で、前記宿主細胞を培養することを含み、任意に前記抗体またはそのフラグメント(好ましくはその抗原結合フラグメント)を単離することを含む。特定の実施形態において、前記方法は、宿主細胞から抗PCSK9抗体またはそのフラグメント(好ましくはその抗原結合フラグメント)を回収することをさらに含む。
【0072】
いくつかの実施形態において、本発明によれば、本明細書に記載の抗PCSK9抗体またはそのフラグメント(好ましくはその抗原結合フラグメント)のいずれかを含む組成物が提供され、好ましくは該組成物は医薬組成物である。一つの実施形態において、前記組成物は薬学的に許容可能な担体をさらに含む。
【0073】
一つの態様において、本発明は、対象におけるPCSK9とLDL受容体(LDLR)との結合を阻害する方法に関し、該方法は、本明細書に記載の抗PCSK9抗体またはそのフラグメントのいずれかの有効量を前記対象に投与することを含む。本発明はさらに、対象におけるLDL受容体(LDLR)とPCSK9との結合を阻害するための組成物または医薬の調製における、本明細書に記載の抗PCSK9抗体またはそのフラグメントのいずれかの使用に関する。
【0074】
別の態様では、本発明は、対象におけるコレステロールレベルを低下させる方法に関し、該方法は、本明細書に記載の抗PCSK9抗体またはそのフラグメントのいずれかの有効量を前記対象に投与することを含む。一つの実施形態において、コレステロールは、LDLコレステロール、好ましくは血清コレステロールである。別の態様において、本発明は、対象におけるLDL-コレステロールレベルを低下させる方法に関し、該方法は、本明細書に記載の抗PCSK9抗体またはそのフラグメントのいずれかの有効量を前記対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、本発明は、対象におけるLDL-コレステロールの血清レベルを低下させる方法に関し、該方法は、本明細書に記載の抗PCSK9抗体またはそのフラグメントのいずれかの有効量を前記対象に投与することを含む。別の態様において、本発明はさらに、対象におけるコレステロールレベル(一つの実施形態において、LDL-コレステロールレベルまたは血清レベル)を低下させるための医薬の調製における、本明細書に記載の抗PCSK9抗体またはそのフラグメントのいずれかの使用に関する。
【0075】
別の態様において、本発明は、対象におけるLDL-コレステロールレベルの上昇に関連する状態を治療する方法に関し、該方法は、本明細書に記載の抗PCSK9抗体またはそのフラグメントのいずれかの有効量を前記対象に投与することを含む。本発明はさらに、対象におけるLDL-コレステロールレベルの上昇に関連する対象の状態を治療するための医薬の調製における、本明細書に記載されている抗PCSK9抗体またはそのフラグメントのいずれかの使用に関する。
【0076】
一つの態様において、本発明は、コレステロール関連疾患を治療する方法に関し、該方法は、本明細書に記載の抗PCSK9抗体またはそのフラグメントのいずれかの有効量を対象に投与することを含む。本発明はさらに、コレステロール関連疾患を治療するための医薬の調製における、本明細書に記載の抗PCSK9抗体またはそのフラグメントのいずれかの使用に関する。コレステロール関連疾患の例示的かつ非限定的な例を以下に示す。いくつかの実施形態において、コレステロール関連疾患は高コレステロール血症または高脂血症である。いくつかの実施形態において、本発明は、高コレステロール血症および/または高脂血症を治療する方法に関し、該方法は、本明細書に記載の抗PCSK9抗体またはそのフラグメントのいずれかの有効量を対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、本発明はさらに、高コレステロール血症および/または高脂血症を治療するための医薬の調製における、本明細書に記載の抗PCSK9抗体またはそのフラグメントのいずれかの使用に関する。
【0077】
一つの態様において、本発明は、PCSK9の活性を排除、阻害または低下させることによって改善、遅延、阻害または予防され得る任意の疾患または状態を治療する方法に関する。いくつかの実施形態において、スタチンによって治療または予防することができる疾患または状態もまた、本明細書に記載の抗PCSK9抗体またはそのフラグメントのいずれかで治療することができる。いくつかの実施形態において、コレステロール合成の阻害またはLDLR発現の増大によりもたらされ得る疾患または状態もまた、本明細書に記載の抗PCSK9抗体またはそのフラグメントのいずれかで治療することができる。
【0078】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の方法は、第2の医薬の有効量と組み合わせて対象に投与することをさらに含み、本明細書に記載の抗PCSK9抗体またはそのフラグメントが第1の医薬である。一つの実施形態において、第2の医薬はLDLRタンパク質のレベルを増加させる。別の実施形態において、第2の医薬はLDL-コレステロールのレベルを低下させる。別の実施形態において、第2の医薬はスタチンを含む。別の実施形態において、第2の医薬はスタチンである。いくつかの実施形態において、前記スタチンは、アトルバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、メバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチンおよびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。別の実施形態において、第2の医薬はHDLコレステロールのレベルを上昇させる。いくつかの実施形態において、対象または個体は哺乳動物、好ましくはヒトである。
【0079】
一つの態様において、本発明は、試料中のPCSK9タンパク質を検出する方法に関し、該方法は:(a)試料と本明細書に記載の抗PCSK9抗体またはそのフラグメントのいずれかとを接触させること;および(b)抗PCSK9抗体またはそのフラグメントとPCSK9タンパク質との複合体の形成を検出すること、を含む。一つの実施形態において、前記抗PCSK9抗体は検出が可能なように標識されている。
【0080】
本発明には、本明細書に記載の任意の実施形態の任意の組み合わせも包含される。本明細書に記載の任意の実施形態、またはそれらの任意の組み合わせは、本明細書に記載の本発明のいずれかのおよび全ての抗PCSK9抗体またはフラグメント、方法およびそれらの使用における使用に適している。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【
図1】
図1は、PCSK9とLDLRとの結合の遮断に関する、各抗PCSK9抗体の様々な濃度における能力を示す。
【
図2】
図2は、各抗PCSK9抗体が様々な濃度において、HepG2細胞がLDLRを回復する能力を高めることを示す。
【
図3】
図3は、LDLRの細胞内在化の減少に関する、各抗PCSK9抗体様々な濃度における能力を示す。
【
図4】
図4は、本発明の例示的な抗体のFRおよびCDRの配列情報を示す。
【
図5】
図5は、本発明の例示的な抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域の配列情報を示す。
【
図6】
図6は、抗PCSK9抗体/PCSK9-WT複合体のHM4 High Mass MALDI ToF分析を示す(抗PCSK9抗体=0.5μM;PCSK9-WT=4μM、合計体積=10μl;架橋:K200、インキュベーション時間180分)。
【
図7】
図7は、PCSK9-WTのトリプシン、キモトリプシン、Asp-N、エラスターゼおよびサーモリシンのペプチドを示す。配列の88.77%が同定されたペプチドによってカバーされていた。
【
図8】
図8は、PCSK9-WT抗体と抗PCSK9抗体との間の相互作用を示す。
【
図9】
図9は、ラットにおける抗PCSK-9抗体またはエボロクマブの皮下または静脈内投与後の時間に対して、投与前(D1投与前、ベースライン)と比較した場合の血清LDL-Cレベルの変化率(平均)%をプロットしたグラフである。
【
図10】
図10は、ラットにおける抗PCSK-9抗体またはエボロクマブの皮下または静脈内投与後の時間に対して、投与前(D1投与前、ベースライン)と比較した場合の血清%HDL-Cレベルの変化率(平均)%をプロットしたグラフである。
【
図11】
図11は、カニクイザルに対する抗PCSK-9抗体またはエボロクマブの投与後の時間に対して、投与前(D1投与前、ベースライン)と比較した場合の血清LDL-Cレベルの変化率(平均)%をプロットしたグラフである。
【
図12】
図12は、カニクイザルに対する抗PCSK-9抗体またはエボロクマブの投与後の時間に対して、投与前(D1投与前、ベースライン)と比較した場合の血清HDL-Cレベルの変化率(平均)%をプロットしたグラフである。
【
図13】
図13は、カニクイザルに対する抗PCSK-9抗体またはエボロクマブの投与後の時間に対して、投与前(D1投与前、ベースライン)と比較した場合の血清TCレベルの変化率(平均)%をプロットしたグラフである。
【発明の詳細な説明】
【0082】
定義
本発明を以下に詳細に説明する前に、本発明は、本明細書に記載の特定の方法論、溶液および試薬に限定されず、これらは変更され得ることを理解されたい。本明細書において使用される用語は、特定の実施形態を説明することを目的とするものであり、添付の特許請求の範囲によって制限される本発明の範囲のみに限定することを意図していないことも理解される。本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、他に定義されない限り、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0083】
本明細書を解釈する目的のために、以下の定義が使用され、単数形で使用される用語は複数形も含み得、適切ならばその逆も同様である。本明細書において使用される用語は、特定の実施形態を説明することを目的としており、限定的であることを意図していないことが理解される。
【0084】
「約」という用語は、数値に関して使用される場合、指定された数値よりも5%小さい下限と、指定された数値よりも5%大きい上限との間の範囲内の数値を包含することを意味する。
【0085】
「親和性」とは、分子(例えば、抗体)の単一の結合部位とその結合相手(例えば、抗原)との間の全ての非共有相互作用の合計の強度をいう。本明細書中で使用される場合、「結合親和性」とは、他に示されない限り、結合対のメンバー(例えば、抗体と抗原)の間の1:1相互作用を反映する固有の結合親和性をいう。相手Yに対する分子Xの親和性は、一般に、平衡解離定数(KD)によって表される。親和性は、当該技術分野において公知のものおよび本明細書において記載されているものを含む、当技術分野において公知の従来の方法によって測定することができる。
【0086】
用語「抗PCSK9抗体」、「抗PCSK9」、「PCSK9抗体」または「PCSK9に結合する抗体」とは、PCSK9を標的とする診断薬および/または治療薬として使用することができるような、十分な親和性をもってPCSK9タンパク質またはそのフラグメントに結合することができる抗体をいう。一つの実施形態において、抗PCSK9抗体は、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)により測定して、抗体のPCSK9への結合の約10%未満の程度で、無関係の非PCSK9タンパク質に結合する。いくつかの実施形態において、抗PCSK9抗体は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nMまたは≦0.001nM(例えば10-8M以下、例えば10-8M~10-13M、例えば10-9M~10-13M)の平衡解離定数(KD)を有する。
【0087】
本明細書中において使用される場合、「モノクローナル抗体」または「mAb」とは、例えば真核生物、原核生物またはファージクローンに由来する単一コピーまたはクローニングされた抗体をいうのに対し、それらの製造方法をいうものではない。モノクローナル抗体またはその抗原結合フラグメントは、例えば、ハイブリドーマ技術、組換え技術、ファージディスプレイ技術、CDRグラフティング等の合成技術、またはそのような技術もしくは当技術分野で公知の他の技術の組み合わせによって製造することができる。
【0088】
「抗体フラグメント」とは、完全な抗体以外の分子をいい、完全な抗体が結合する抗原に結合する完全な抗体の一部を含む。
【0089】
参照抗体(reference antibody)と「同じエピトープに結合する抗体」とは、競合アッセイにおいて参照抗体がその抗原に結合するのを50%以上遮断する抗体をいう。それに対し、参照抗体は、競合アッセイにおいて抗体がその抗原に結合するのを50%以上遮断する。
【0090】
当技術分野で公知の5つの主要なクラスの抗体:IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMがあり、これらの抗体のいくつかは、さらにサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2に分類できる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γおよびμと呼ばれる。
【0091】
本発明で使用される用語「細胞傷害剤」とは、細胞機能を阻害または抑制する、および/または細胞死もしくは細胞破壊を引き起こす物質をいう。
【0092】
用語「ダイアボディ」とは、2つの抗原結合部位を有する抗体フラグメントをいい、前記抗体フラグメントは、同じポリペプチド鎖(VH-VL)内の軽鎖可変ドメイン(VL)に連結された重鎖可変ドメイン(VH)を含む。ドメインは、同じ鎖上の2つのドメインを互いに対にするには短いリンカーを使用することによって、他方の鎖上の相補的ドメインと対になって2つの抗原結合部位を形成する。ダイアボディは、二価または二重特異性であり得る。ダイアボディは、例えば、EP404,097;WO1993/01161;Hudson et al, Nat. Med. 9: 129-134 (2003);およびHollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448 (1993)において、より完全に記載されている。
【0093】
「エフェクター機能」とは、抗体の同位体によって異なる、抗体のFc領域に起因し得る生物学的活性をいう。抗体エフェクターの機能の例としては、C1q結合および補体依存性細胞傷害(CDC);Fcレセプター結合;抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC);食作用;細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)の下方制御;およびB細胞活性化が挙げられる。
【0094】
「有効量」という用語とは、単回投与または複数回投与で患者に投与したときに、治療対象の患者に所望の効果をもたらす、本発明の抗体またはフラグメントの量または投与量をいう。有効量は、哺乳動物の種;その大きさ、年齢および一般的な健康状態;罹患している具体的な疾患;疾患の程度または重症度;個々の患者の反応;投与される具体的な抗体;投与形式;投与される製剤のバイオアベイラビリティー特性;選択される投与レジメン;および併用療法の使用等の様々な要素を考慮することにより、当業者である担当医によって容易に決定され得る。
【0095】
本発明における使用に適した「抗体およびその抗原結合フラグメント」としては、限定されないが、ポリクローナル、モノクローナル、一価、二重特異性、ヘテロ接合、多重特異的、組換え、異種、ヘテロ接合、キメラ、ヒト化(特に、CDRでグラフト化)、脱免疫化またはヒト抗体、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fab発現ライブラリーによって産生されるフラグメント、Fd、Fv、ジスルフィド結合Fv(dsFv)、一本鎖抗体(例えば、scFv)、ダイアボディまたはテトラボディ(Holliger P. et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 (14), 6444-6448)、ナノボディ(単一ドメイン抗体とも呼ばれる)、抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば、本発明の抗体に対する抗Id抗体を含む)、および上記のいずれかのエピトープ結合フラグメントが挙げられる。
【0096】
「Fab」フラグメントは、重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインを含み、また軽鎖の定常ドメインおよび重鎖の第一定常ドメイン(CH1)も含む。Fab’フラグメントは、重鎖CH1ドメインのカルボキシル末端に、抗体ヒンジ領域に由来する1つ以上のシステインを含むいくつかの残基が付加されている点でFabフラグメントと異なる。Fab’-SHは、定常ドメイン内のシステイン残基が遊離チオール基を有するFab’についての本明細書中の名称である。F(ab’)2抗体フラグメントは、元々、Fab’フラグメント間にヒンジシステインを有する一対のFab’フラグメントとして生成された。抗体フラグメントの他の化学的結合もまた公知である。
【0097】
用語「Fc領域」は、本明細書において、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用され、Fc領域は定常領域の少なくとも一部を含む。この用語には、天然のFc領域配列およびFc領域変異体が含まれる。特定の実施形態において、ヒトIgG重鎖Fc領域は、Cys226またはPro230から重鎖のカルボニル末端まで延びる。しかしながら、Fc領域のC末端リジン(Lys447)は存在してもよく、存在しなくてもよい。特に明記しない限り、Fc領域または定常領域のアミノ酸残基は、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National. Institutes of Health, Bethesda, MD, 1991に記載されているように、EUインデックスとも呼ばれるEU番号付けシステムに従って番号付けされる。
【0098】
「フレームワーク」または「FR」とは、超可変領域(HVR)(例えば、相補性決定領域)の残基以外の可変ドメイン残基をいう。可変ドメインのFRは、典型的には4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3およびFR4からなる。従って、HVRおよびFR配列は、一般に、重鎖可変ドメイン(VH)(または軽鎖可変ドメイン(VL))の以下の配列に現れる:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
【0099】
用語「全長抗体」、「完全な抗体」および「全体抗体」は、本明細書において、天然の抗体構造と実質的に類似の構造を有する抗体または本明細書に定義されるFc領域を含む重鎖を有する抗体を指すのに互換的に使用される。
【0100】
「Fv」は、抗原結合部位全体を含む最小の抗体フラグメントである。一つの実施形態において、二本鎖Fv種は、1つの重鎖可変ドメインと1つの軽鎖可変ドメインとが強固にかつ非共有結合的に会合している二量体からなる。一本鎖Fv(scFv)種では、二本鎖Fv種と同じように軽鎖と重鎖とが「二量体」構造に会合できるように、一つの重鎖可変ドメインと一つの軽鎖可変ドメインとが柔軟なペプチドリンカーによって共有結合している。この構成において、各可変ドメイン内の3つのHVRは互いに相互作用して、VH-VL二量体の表面に位置する抗原結合部位を規定する。すなわち、6つのHVRが抗体に抗原結合特異性を付与する。しかしながら、単一の可変ドメイン(または、抗原に特異的な3つのHVRのみを含むFvの半分)でさえも、親和性は完全な結合部位よりも低いが、抗原を認識して結合する能力を有する。scFvの概説については、例えば、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, Vol. 113, Rosenburg and Moore eds. (Springer-Verlag, New York, 1994), pp. 269-315を参照されたい。
【0101】
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」および「宿主細胞培養物」は互換的に使用され、そのような細胞の後代を含む、外来核酸が導入されている細胞を指す。宿主細胞としては、「形質転換体」および「形質転換細胞」が挙げられ、これらは継代の数にかかわらず一次形質転換細胞およびそれに由来する後代が含まれる。後代は、親細胞と核酸含有量において完全に同一ではないかもしれず、突然変異を含むかもしれない。最初に形質転換された細胞においてスクリーニングまたは選択されたものと同じ機能または生物学的活性を有する変異後代が本明細書に含まれる。
【0102】
「ヒト抗体」は、ヒトもしくはヒト細胞によって産生されるか、またはヒト抗体レパートリーまたは他のヒト抗体コード配列を利用する非ヒト供給源に由来する抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有するものである。ヒト抗体のこの定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を特に除外する。
【0103】
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVLまたはVHフレームワーク配列の選択において最も一般的に存在するアミノ酸残基を表すフレームワークである。一般に、ヒト免疫グロブリンVLまたはVH配列の選択は、可変ドメイン配列のサブタイプからのものである。一般に、配列のサブタイプは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, NIH Publication 91-3242, Bethesda MD (1991), vols. 1-3において定義されている。一つの実施形態において、VLについてのサブタイプは、上述のKabat et al.に定義されているようなサブタイプκIである。いくつかの実施形態において、VHについてのサブタイプは、上述のKabat et al.に定義されているようなサブタイプIIIである。
【0104】
「ヒト化」抗体とは、非ヒトHVR由来のアミノ酸残基およびヒトFR由来のアミノ酸残基を含むキメラ抗体をいう。特定の実施形態において、ヒト化抗体は、実質的に全ての少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインを含み、全てまたは実質的に全てのHVR(例えば、CDR)は非ヒト抗体のものに対応し、全てまたは実質的に全てのFRはヒト抗体のものに対応する。ヒト化抗体は、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部を含んでいてもよい。抗体の「ヒト化形態」、例えば、非ヒト抗体とは、ヒト化された抗体をいう。
【0105】
本明細書において使用される用語「高コレステロール血症」とは、コレステロールレベルが所望のレベルを超えて上昇している状態をいう。いくつかの実施形態において、LDLコレステロールのレベルは、所望のレベルを超えて上昇する。いくつかの実施形態において、LDLコレステロールの血清レベルは、所望のレベルを超えて上昇する。
【0106】
「免疫複合体」は、1種以上の異種分子に結合した抗体であり、異種分子は、限定されないが、細胞傷害剤を含む。
【0107】
「個体」または「対象」には哺乳動物が含まれる。哺乳動物としては、限定されないが、家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌおよびウマ)、霊長類(例えば、ヒトおよびサル等の非ヒト霊長類)、ウサギおよびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)が挙げられる。特定の実施形態において、個体または対象はヒトである。
【0108】
「単離された抗体」は、自然環境の構成要素から分離されたものである。いくつかの実施形態において、抗体は、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)またはクロマトグラフィー(例えば、イオン交換または逆相HPLC))によって決定される、95%または99%を超える純度まで精製される。抗体純度の評価方法の概説については、例えば、Flatman et al., J. Chromatogr. B 848:79-87 (2007)を参照されたい。
【0109】
「単離された核酸」とは、自然環境の構成要素から分離された核酸分子をいう。単離された核酸としては、通常その核酸分子を含む細胞に含まれる核酸分子を含むが、その核酸分子は、染色体の外側またはその天然の染色体位置とは異なる染色体位置に存在する。
【0110】
「抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントをコードする単離された核酸」とは、抗体またはその抗原結合フラグメントの重鎖および軽鎖をコードする1つ以上の核酸分子をいい、単一のベクターまたは別々のベクターに含まれる核酸、および宿主細胞内の1つ以上の位置に存在する核酸を包含する。
【0111】
参照ポリペプチド配列に関する「パーセント(%)のアミノ酸配列相同性」は、必要であれば配列のアラインメントおよびギャップの挿入を行って最大のパーセントの配列相同性を達成した後に、いかなる保存的置換も配列相同性の一部としてみなさずに、参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。アミノ酸の配列相同性のパーセントを決定するためのアラインメントは、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGNまたはMEGALIGN(DNASTAR)ソフトウェア等の公的に入手可能なコンピューターソフトウェアを用いて、当技術分野において様々な方法で達成することができる。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要とされる任意のアルゴリズムを含む、配列のアラインメントのための適切なパラメータを決定することができる。
【0112】
本願において配列相同性のパーセンテージに言及する場合、これらのパーセンテージは、他に特に示されない限り、より長い配列の全長に対して計算される。より長い配列の全長に対する計算は、核酸配列およびポリペプチド配列の両方に適用される。
【0113】
用語「医薬組成物」とは、その中に含まれる活性成分の生物学的活性が有効であり得るような形態であり、製剤が投与される対象に対して許容できない毒性の追加の成分を含まない製剤をいう。
【0114】
用語「薬学的に許容可能な担体」とは、治療薬と同時に投与される希釈剤、アジュバント(例えば、フロイントアジュバント(完全および不完全))、賦形剤またはビヒクルをいう。
【0115】
特に明記しない限り、本明細書で使用される「プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシンタイプ9(PCSK9)」、「PCSK9」または「NARC-1」とは、特に明記しない限り、霊長類(例えば、ヒト)等の哺乳動物、げっ歯類(例えば、マウスおよびラット)を含む任意の脊椎動物起源に由来する任意の天然PCSK9をいう。この用語には、「全長」未処理PCSK9、および細胞内プロセシングを介して産生された任意の形態のPCSK9またはその任意のフラグメントを包含される。この用語には、天然に存在するPCSK9変異体、例えばスプライス変異体または対立遺伝子変異体も包含される。
【0116】
本明細書において使用される場合、PCSK9の「PCSK9活性」または「生物学的活性」という用語には、PCSK9の任意の生物学的効果が包含される。いくつかの実施形態において、PCSK9活性は、PCSK9が基質または受容体と相互作用または結合する能力が包含される。いくつかの実施形態において、PCSK9の生物学的活性は、PCSK9がLDL受容体(LDLR)に結合する能力である。いくつかの実施形態において、PCSK9は、LDLRに結合して、LDLRが関与する反応を触媒する。いくつかの実施形態において、PCSK9活性には、LDLRの利用可能性を低減または減少させるPCSK9の能力が包含される。いくつかの実施形態において、PCSK9の生物学的活性には、対象におけるLDLの量を増加させるPCSK9の能力が包含される。いくつかの実施形態において、PCSK9の生物学的活性には、対象においてLDLに結合するのに利用可能なLDLRの量を減少させるPCSK9の能力が包含される。いくつかの実施形態において、PCSK9の生物学的活性には、LDLに結合するのに利用可能なLDLRの量を低減させるPCSK9の能力が包含される。いくつかの実施形態において、PCSK9の生物学的活性には、PCSK9シグナル伝達から生じる任意の生物学的活性が包含される。
【0117】
本明細書において使用される場合、「治療する」とは、既存の症状、状態、障害または疾患の進行または重症度を遅らせる、中断させる、阻害する、寛解させる、停止させる、低減させる、または逆行させることを指す。
【0118】
用語「可変領域」または「可変ドメイン」とは、抗体と抗原との結合に関与する抗体の重鎖または軽鎖のドメインをいう。天然抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメインは一般に類似の構造を有し、各ドメインは4つの保存されたフレームワーク領域(FR)および3つの相補性決定領域を含む(例えば、Kindt et al. Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., page 91 (2007)を参照のこと)。抗原結合特異性を付与するためには、単一のVHまたはVLドメインで十分であり得る。さらに、特定の抗原に結合する抗体は、抗原に結合する抗体からVHまたはVLドメインを用いてそれぞれ単離され、相補的VLまたはVHドメインのライブラリーをスクリーニングすることができる。例えば、Portolano et al., J. Immunol. 150:880-887 (1993); Clarkson et al., Nature 352:624-628 (1991)を参照されたい。
【0119】
本明細書において使用される用語「ベクター」とは、それが結合している別の核酸を増殖させることができる核酸分子をいう。この用語には、自己複製核酸構造としてのベクター、およびそれが導入されている宿主細胞のゲノムに組み込まれているベクターが含まれる。特定のベクターは、動作可能なように連結された核酸の発現を制御することができる。そのようなベクターは、本明細書において「発現ベクター」と呼ばれる。
【0120】
用語「コレステロール関連疾患」には、高コレステロール血症、高脂血症、心臓病、メタボリックシンドローム、糖尿病、冠動脈性心疾患、卒中、心血管疾患、アルツハイマー病および一般的な脂質異常症(例えば、総血清コレステロールレベルの上昇、LDLレベルの上昇、トリグリセリドレベルの上昇、VLDLレベルの上昇および/またはHDLレベルの低下を示す)からなる群から選択される1つ以上が包含される。抗PCSK9抗体(単独または1つ以上の他の薬物との組み合わせ)により治療することができる一次および二次脂質異常症の非限定的ないくつかの例としては、メタボリックシンドローム、糖尿病、家族性高脂血症、家族性高トリグリセリド血症、ヘテロ接合型高コレステロール血症、ホモ接合型高コレステロール血症、家族性欠損型アポリポタンパク質B-100を含む家族性高コレステロール血症;多遺伝子性高コレステロール血症;残余物除去疾患(remnant removal disease)、肝リパーゼ欠乏症;食あたり、甲状腺機能低下症、薬物(エストロゲンおよびプロゲステロン療法、β遮断薬およびチアジド系利尿薬を含む)のいずれかに続く脂質異常症;ネフローゼ症候群、慢性腎不全、クッシング症候群、原発性胆汁性肝硬変、グリコーゲン蓄積症、肝癌、胆汁鬱滞、末端肥大症、インスリノーマ、孤立性成長ホルモン欠乏症およびアルコール性高トリグリセリド血症が挙げられる。
【0121】
本発明の抗体
本発明の一つの態様において、抗PCSK9抗体およびその抗原結合フラグメントが本明細書において提供される。いくつかの実施形態において、抗PCSK9抗体は、PCSK9活性を阻害または遮断する。特定の実施形態において、本明細書において提供される抗体は、約1μM以下、約100nM以下、約10nM以下、約1nM以下、約0.1nM以下、約0.01nM以下または約0.001nM以下(例えば、10-8M以下、例えば、10-8M~10-13M、例えば、10-9M~10-13M)の平衡解離定数(KD)を有する。
【0122】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは重鎖可変領域(HCVR)を含み、前記HCVRは相補性決定領域(CDR)HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、HCDR1は配列番号1、7、8、9、10、11、12、13および20からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR2は配列番号2、14、15、16、17および21からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、HCDR3は配列番号3、18、19および22からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。特定の実施形態において、抗PCSK9抗体のHCVRのCDR(例えば、参照配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するCDR)のアミノ酸配列は、対応する参照配列と比較して1つ以上の置換(例えば、保存的置換)、挿入または欠失を含むが、そのようなCDRを含む抗PCSK9抗体は、PCSK9に対する結合能を有する。
【0123】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記LCVRは相補性決定領域(CDR)LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、LCDR1は配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR2は配列番号5のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、LCDR3は配列番号6のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。特定の実施形態において、抗PCSK9抗体のLCVRのCDR(例えば、参照配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するCDR)のアミノ酸配列は、対応する参照配列と比較して1つ以上の置換(例えば、保存的置換)、挿入または欠失を含むが、そのようなCDRを含む抗PCSK9抗体は、PCSK9に対する結合能を有する。
【0124】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは重鎖可変領域(HCVR)を含み、前記重鎖可変領域HCVRは配列番号23、25、26、27、28、29、30、31、32および33からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからな。いくつかの実施形態において、抗PCSK抗体の重鎖可変領域HCVRは、配列番号23、25、26、27、28、29、30、31、32および33からなる群から選択されるアミノ酸配列と比較して1つ以上の置換(例えば、保存的置換)、挿入または欠失を有するアミノ酸配列を含み、そのようなHCVRを含む抗PCSK9抗体は、PCSK9に対する結合能を有する。
【0125】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは軽鎖可変領域(LCVR)を含み、前記軽鎖可変領域LCVRは配列番号24のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。いくつかの実施形態において、抗PCSK抗体の軽鎖可変領域LCVRは、配列番号24のアミノ酸配列と比較して1つ以上の置換(例えば、保存的置換)、挿入または欠失を有するアミノ酸配列を含み、そのようなLCVRを含む抗PCSK9抗体は、PCSK9に対する結合能を有する。
【0126】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは重鎖を含み、前記重鎖は配列番号34、36、37、38、39、40、41、42、43および44からなる群から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。いくつかの実施形態において、抗PCSK抗体の重鎖は、配列番号34、36、37、38、39、40、41、42、43および44からなる群から選択されるアミノ酸配列と比較して1つ以上の置換(例えば、保存的置換)、挿入または欠失を有するアミノ酸配列を含み、そのような重鎖を含む抗PCSK9抗体は、PCSK9に対する結合能を有する。
【0127】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは軽鎖を含み、前記軽鎖は配列番号35のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の相同性または100%の相同性を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。いくつかの実施形態において、抗PCSK抗体の軽鎖は、配列番号35のアミノ酸配列と比較して1つ以上の置換(例えば、保存的置換)、挿入または欠失を有するアミノ酸配列を含み、そのような軽鎖を含む抗PCSK9抗体は、PCSK9に対する結合力を有する。
【0128】
好ましい実施形態において、置換、挿入または欠失はCDRの外側(例えば、FR内)において生じる。本発明の抗PCSK9抗体は、軽鎖可変領域、重鎖可変領域、軽鎖または重鎖に対する翻訳後修飾を含んでいてもよい。
【0129】
いくつかの実施形態において、置換は保存的置換である。保存的置換とは、1つのアミノ酸が同じクラス内の別のアミノ酸によって置き換えられること、例えば、1つの酸性アミノ酸が別の酸性アミノ酸によって置き換えられること、1つの塩基性アミノ酸が別の塩基性アミノ酸によって置き換えられること、または1つの中性アミノ酸が別の中性アミノ酸によって置き換えられることを意味する。例示的な置換が、以下の表Aに示される。
【0130】
【0131】
特定の実施形態において、本明細書において提供される抗体は、抗体がグリコシル化される程度を増加または減少させるように改変される。抗体へのグリコシル化部位の付加または欠失は、1つ以上のグリコシル化部位が作出または除去されるようにアミノ酸配列を改変することによって簡便に達成され得る。いくつかの用途において、望ましくないグリコシル化部位を除去する改変は有用であり得、または、例えば、抗体依存性細胞傷害(ADCC)機能を増強するためにフコースモジュールを除去する改変が有用であり得る(Shield et al. (2002) JBC 277: 26733を参照のこと)。他の用途において、補体依存性細胞傷害(CDC)を変更するためにガラクトシル化の改変が行われ得る。
【0132】
特定の実施形態において、本明細書において提供される抗体のFc領域に1つ以上のアミノ酸改変を導入し、それによって、例えば異常な血管新生および/または血管透過性もしくは漏出を伴う疾患または状態の治療において抗体の効率を高めるようにFc領域変異体を生成する。Fc領域変異体は、1つ以上のアミノ酸位置にアミノ酸改変(例えば、置換)を含むヒトFc領域配列(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4のFc領域)を含み得る。
【0133】
特定の実施形態において、抗体の1つ以上の残基がシステイン残基で置換されているシステイン操作抗体、例えば「チオMAb」を作製することが望ましい。
【0134】
特定の実施形態において、本明細書において提供される抗体は、当技術分野において公知で容易に利用可能なさらなる非タンパク質部分を含むようにさらに改変されていてもよい。抗体の誘導体化に適した部分としては、特に限定されないが、水溶性ポリマーが挙げられる。水溶性ポリマーの非限定的な例としては、特に限定されないが、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマーまたはランダムコポリマーのいずれか)、およびグルカンまたはポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えば、グリセロール)、ポリビニルアルコール、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0135】
いくつかの実施形態において、本発明には、抗PCSK9抗体のフラグメントが包含される。抗体フラグメントの例としては、特に限定されないが、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2、ダイアボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子(例えば、scFv);および抗体フラグメントによって形成される多重特異性抗体が挙げられる。抗体のパパイン消化によって産生される2つの同一の抗原結合フラグメントは「Fab」フラグメントと呼ばれ、それぞれが単一の抗原結合部位および残りの「Fc」フラグメントを有する。その名称は、結晶化しやすい能力を反映している。F(ab’)2フラグメントはペプシン処理によって産生され、2つの抗原結合部位を有し、抗原を架橋することができる。
【0136】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体はヒト化抗体である。Almagro & Franssonにおいて概説されているように、抗体をヒト化するための様々な方法が当業者に知られており、その内容全体は参照により本明細書に組み込まれる(Almagro JC and Fransson J (2008) Frontiers in Bioscience 13: 1619-1633)。Almagro & Franssonは、理論的アプローチと経験的アプローチとを区別している。理論的アプローチは、少数の操作された抗体変異体を作製し、それらの結合特性または他の任意の目的の特性を評価することを特徴とする。設計された変異体が予想される結果を達成しない場合には、新しい回(round)の設計および結合アッセイが開始される。理論的アプローチとしては、CDR移植、表面の再加工(resurfacing)、超ヒト化、ヒトストリングコンテンツ最適化(human string content optimization)が挙げられる。一方、経験的アプローチは、ヒト化変異体の大きなライブラリーを作製し、濃縮技術またはハイスループットスクリーニングを使用することによって最適クローンを選択することに基づく。結果として、経験的アプローチは、多数の抗体変異体を探索することができる信頼できる選択および/またはスクリーニングシステムに依存している。ファージディスプレイおよびリボソームディスプレイ等のin vitroディスプレイ技術は、これらの要件を満たし、当業者に公知である。経験的アプローチとしては、FRライブラリ、ガイド付き選択(guided selection)、フレームワークシャッフリングおよびヒューマニアリング(humaneering)が挙げられる。
【0137】
いくつかの実施形態において、本発明の抗PCSK9抗体はヒト抗体である。ヒト抗体は、当技術分野で公知の種々の技術を用いて調製され得る。ヒト抗体は一般に、van Dijk and van de Winkel, Curr. Opin. Pharmacol 5: 368-74 (2001)およびLonberg, Curr. Opin. Immunol 20: 450-459 (2008)に記載されている。
【0138】
本発明の抗体は、所望の活性を有する抗体についてコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることによって単離することができる。例えば、ファージディスプレイライブラリーを作製し、所望の結合特性を有する抗体について、そのようなライブラリーをスクリーニングするための種々の方法が当技術分野において公知である。そのような方法は、例えば、Hoogenboom et al. in Methods in Molecular Biology 178:1-37 (O’Brien et al., ed., Human Press, Totowa, NJ, 2001)において概説されており、また、例えば、McCafferty et al., Nature 348:552-554; Clackson et al., Nature 352: 624-628 (1991);Marks et al., J. Mol. Biol. 222: 581-597 (1992);Marks and Bradbury, in Methods in Molecular Biology 248:161-175 (Lo, ed., Human Press, Totowa, NJ, 2003);Sidhu et al., J. Mol. Biol. 338(2): 299-310 (2004);Lee et al., J. Mol. Biol. 340(5): 1073-1093 (2004);Fellouse, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101(34): 12467-12472 (2004);およびLee et al., J. Immunol. Methods 284(1-2): 119-132(2004)において記載されている。
【0139】
いくつかの実施形態において、本発明には、細胞傷害剤または免疫抑制剤等の治療用部分に結合した抗PCSK9モノクローナル抗体(「免疫複合体」)も包含される。細胞傷害剤としては、細胞に有害なあらゆる薬剤が包含される。免疫複合体を形成するのに適した細胞傷害剤(例えば、化学療法剤)の例は当技術分野において公知であり、例えばWO05/103081を参照されたい。例えば、細胞傷害剤としては、特に限定されないが、放射性同位元素(例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212およびLuの放射性同位元素);化学療法剤または薬物(例えば、メトトレキサート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシンまたは他のインターカレート剤);成長阻害剤;核酸加水分解酵素等の酵素およびそのフラグメント;抗生物質細菌;真菌、植物または動物由来の小分子毒素または酵素活性毒素等の毒素、それらのフラグメントおよび/または変異体、ならびに種々の公知の抗腫瘍剤または抗癌剤が挙げられる。
【0140】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体は、単一特異性、二重特異性または多重特異性であり得る。多重特異性モノクローナル抗体は、標的ポリペプチドの種々のエピトープに対して特異的であり得るか、または複数の標的ポリペプチドに対して特異的な抗原結合ドメインを含み得る。例えば、Tutt et al. (1991) J. Immunol. 147: 60-69を参照されたい。抗PCSK9モノクローナル抗体は、他のペプチドまたはタンパク質等の他の機能性分子に連結されてもよく、または同時発現されてもよい。例えば、抗体またはそのフラグメントは、他の抗体または抗体フラグメント等の1つ以上の他の分子に(例えば、化学結合、遺伝子融合、非共有結合等により、または別の方法で)機能的に連結されて、二重特異性抗体または第二またはそれ以上の結合特異性を有する多特異性抗体を生じ得る。
【0141】
いくつかの実施形態において、本発明の抗体は、ヒトPCSK9タンパク質に結合する。
【0142】
本発明の核酸およびそれを含む宿主細胞
一つの態様において、本発明によれば、上記の抗PCSK9抗体またはそのフラグメントのいずれかをコードする核酸が提供される。核酸は、抗体の軽鎖可変領域および/または重鎖可変領域を含むアミノ酸配列、または抗体の軽鎖および/または重鎖を含むアミノ酸配列をコードし得る。
【0143】
一つの実施形態において、核酸を含む1つ以上のベクターが提供される。一つの実施形態において、ベクターは発現ベクターである。
【0144】
一つの実施形態において、前記ベクターを含む宿主細胞が提供される。抗体をコードするベクターのクローニングまたは発現に適した宿主細胞としては、本明細書において記載される原核細胞または真核細胞が挙げられる。例えば、抗体は、特にグリコシル化およびFcエフェクター機能が必要とされない場合、細菌中で産生され得る。細菌における抗体フラグメントおよびポリペプチドの発現については、例えば、US5,648,237、5,789,199および5,840,523を参照されたい。また、E.coliにおける抗体フラグメントの発現について記載されているCharlton, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ, 2003, pp. 245-254も参照されたい。発現後、抗体は可溶性画分において細菌細胞ペーストから単離され、さらに精製することができる。
【0145】
一つの実施形態において、前記宿主細胞は真核生物である。別の実施形態において、宿主細胞は、酵母細胞、哺乳動物細胞、または抗体もしくはその抗原結合フラグメントの調製における使用に適した他の細胞からなる群から選択される。例えば、糸状菌または酵母菌等の真核微生物は、真菌株および酵母株を含む抗体をコードするベクターに適したクローニングまたは発現宿主であり、そのグリコシル化経路が「ヒト化」され、部分的または完全なヒトグリコシル化パターンを有する抗体の産生をもたらす。Gerngross, Nat. Biotech. 22: 1409-1414 (2004)およびLi et al, Nat. Biotech. 24: 210-215 (2006)を参照されたい。グリコシル化抗体の発現に適した宿主細胞もまた、多細胞生物(無脊椎動物および脊椎動物)に由来する。脊椎動物細胞も、宿主として使用することができる。例えば、懸濁増殖に適するように操作されている哺乳動物細胞株を使用することができる。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40で形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7);ヒト胎児腎臓株(例えば、Graham et al, J. Gen Virol. 36:59 (1977)等に記載されているような293または293細胞)等である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株としては、DHFR-CHO細胞を含むチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(Urlaub et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77: 216 (1980));Y0、NS0、Sp2/0等の骨髄腫細胞株が挙げられる。抗体を産生するのに適した特定の哺乳動物宿主細胞株の概説については、例えば、Yazaki and Wu, Methods in Molecular Biology, Vol. 248 (B.K.C. Lo, ed., Humana Press, Totowa, NJ), pp. 255-268 (2003)を参照されたい。
【0146】
一つの実施形態において、抗PCSK9抗体を調製する方法が提供され、該方法は、抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を、上記のように抗体を発現させるのに適した条件下で培養すること、および抗体を宿主細胞(または宿主細胞培養培地)から回収することを任意に含む。抗PCSK9抗体の組換え産生のために、抗体(上記の抗体等)をコードする核酸が単離され、宿主細胞におけるさらなるクローニングおよび/または発現のために1つ以上のベクターに挿入される。そのような核酸は、従来の手順を使用して(例えば、抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)容易に単離され配列決定される。
【0147】
医薬組成物および医薬製剤
本発明には、抗PCSK9抗体を含む組成物(医薬組成物または医薬製剤を含む)および抗PCSK9抗体をコードするポリヌクレオチドを含む組成物も包含される。特定の実施形態において、組成物は、PCSK9に結合する1つ以上の抗体、またはPCSK9に結合する1つ以上の抗体をコードする1つ以上のポリヌクレオチドを含む。これらの組成物はまた、緩衝剤を含む、当技術分野において公知の薬学的賦形剤等の適切な薬学的に許容可能な担体を含み得る。
【0148】
本発明における使用に適した薬学的に許容可能な担体は、水、およびピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油等の石油、動物、植物または合成由来のものを含む油等の滅菌液体であり得る。医薬組成物を静脈内投与する場合、水が好ましい担体である。生理食塩水ならびにデキストロースおよびグリセロール水溶液も液体担体として使用することができ、特に注射用溶液として使用することができる。適切な医薬賦形剤としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセリン、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセリン、プロピレン、グリコール、水、エタノール等が挙げられる。賦形剤およびその使用については、“Handbook of Pharmaceutical Excipients”, Fifth Edition, R. C. Rowe, P. J. Seskey and S. C. Owen, Pharmaceutical Press, London, Chicagoも参照されたい。所望により、前記組成物は、少量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤も含み得る。これらの組成物は、液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、徐放性製剤等の形態であり得る。経口製剤は、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリン等の標準的な担体を含み得る。
【0149】
本発明の抗PCSK9抗体を含む医薬製剤は、所望の純度を有する本発明の抗PCSK9抗体と1種以上の任意の医薬担体とを混合することによって(Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th Ed., Osol, A., ed. (1980))、好ましくは凍結乾燥調製物または水溶液の形態で調製することができる。
【0150】
例示的な凍結乾燥抗体製剤は、US6,267,958に記載されている。水性抗体製剤としては、US6,171,586およびWO2006/044908に記載されているものが挙げられ、後者としてはヒスチジン-酢酸緩衝液が挙げられる。
【0151】
本発明の医薬組成物または製剤はまた、治療対象の特定の適応症に必要とされる複数の活性成分、好ましくは互いの相補的活性に悪影響を及ぼさない活性成分を含み得る。例えば、スタチンをさらに提供することが好ましい。活性成分は、意図される用途に有効な量で組み合わせて適切に存在する。
【0152】
徐放性製剤を調製することができる。徐放性製剤の適切な例としては、抗体を含む固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスが挙げられ、前記マトリックスはフィルムまたはマイクロカプセル等の造形品の形態である。
【0153】
治療方法および抗体の使用
一つの態様において、本発明は、対象におけるPCSK9とLDL受容体(LDLR)との結合を阻害する方法に関し、該方法は、本明細書に記載の抗PCSK9抗体またはそのフラグメントのいずれかの有効量を対象に投与することを含む。別の態様において、本発明は、対象におけるコレステロールレベルを低下させる方法に関し、該方法は、本明細書に記載の抗PCSK9抗体またはそのフラグメントのいずれかの有効量を対象に投与することを含む。一つの実施形態において、コレステロールはLDL-コレステロールである。別の態様において、本発明は、対象におけるLDL-コレステロールレベルを低下させる方法に関し、該方法は、本明細書に記載の抗PCSK9抗体またはそのフラグメントのいずれかの有効量を対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、本発明は、対象におけるLDL-コレステロールの血清レベルを低下させる方法に関し、該方法は、本明細書に記載の抗PCSK9抗体またはそのフラグメントのいずれかの有効量を対象に投与することを含む。別の態様において、本発明は、対象におけるLDL-コレステロールレベルの上昇に関連する状態を治療する方法に関し、該方法は、本明細書に記載の抗PCSK9抗体またはそのフラグメントのいずれかの有効量を対象に投与することを含む。一つの態様において、本発明は、コレステロール関連疾患を治療する方法に関し、該方法は、本明細書に記載の抗PCSK9抗体またはそのフラグメントのいずれかの有効量を対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、本発明は、高コレステロール血症および/または高脂血症を治療する方法に関し、該方法は、本明細書に記載の抗PCSK9抗体またはそのフラグメントのいずれかの有効量を対象に投与することを含む。一つの態様において、本発明は、PCSK9の活性を排除、阻害または低下させることによって改善、遅延、阻害または予防され得る任意の疾患または状態を治療する方法に関する。いくつかの実施形態において、スタチンによって治療または予防することができる疾患または状態もまた、本明細書に記載の抗PCSK9抗体またはそのフラグメントのいずれかで治療することができる。いくつかの実施形態において、コレステロール合成の阻害またはLDLR発現の増大によりもたらされ得る疾患または状態もまた、本明細書に記載の抗PCSK9抗体またはそのフラグメントのいずれかで治療することができる。好ましくは、前記対象はヒトである。
【0154】
別の態様において、本発明によれば、上記のような関連する疾患または状態の治療のための医薬の製造または調製における抗PCSK9抗体の使用が提供される。
【0155】
特定の実施形態において、本発明のPCSK9に対する抗体または抗体フラグメントは、高コレステロール血症、高脂血症、心血管疾患の発症、および/または任意のコレステロール関連疾患の発症を予防または軽減するために予防的に投与され得る。特定の実施形態において、本発明のPCSK9に対する抗体または抗体フラグメントを投与して、既存の高コレステロール血症および/または高脂血症を治療することができる。いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体フラグメントは、状態および/またはその状態に関連する症状の発症を遅らせるであろう。
【0156】
特定の実施形態において、本明細書に記載の方法および使用は、特に限定されないが、アトルバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、メバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチンを含むスタチンまたはそれらの任意の組み合わせ、例えば、VYTORIN(登録商標)、ADVICOR(登録商標)またはSIMCOR(登録商標)等の追加の治療薬の少なくとも1つの有効量を個体に投与することをさらに含む。特定の実施形態において、前記追加の治療薬は、アテローム性動脈硬化症および/または心血管疾患を予防および/または治療するために使用される。特定の実施形態において、前記追加の治療薬は、心血管イベントの再発の危険性を低減するために使用される。特定の実施形態において、前記追加の治療薬は、対象におけるHDLコレステロールレベルを上昇させるために使用される。
【0157】
上記の併用療法としては、同時投与(2種以上の治療薬が同一または別々の製剤に含まれる)および別個投与が挙げられ、本発明の抗PCSK9抗体の投与は、前記追加の治療薬/アジュバントの投与の前、同時および/または投与の後に行われる。
【0158】
本発明の抗体(および任意の追加の治療薬)は、非経口、肺内および鼻腔内を含む任意の適切な手段によって投与することができ、局所治療に望まれる場合には、病巣内投与によって投与することができる。非経口注入としては、筋肉内投与、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与または皮下投与が挙げられる。投与は任意の適切な経路、例えば、投与が短期間または長期間のいずれであるかにある程度応じて、静脈内または皮下注射等の注射を介して行われ得る。特に限定されないが、単回投与または様々な時点にわたる複数回投与、ボーラス投与およびパルス注入を含む様々な投与の時間経過が、本明細書において意図される。
【0159】
疾患の予防または治療に関し、本発明の抗体の適切な投与量(単独でまたは1種以上の他の追加の治療薬と組み合わせて使用される場合)は、治療対象の疾患の種類、抗体の種類、疾患の重症度および経過、抗体が予防目的または治療目的のために投与されるのかどうか、これまでの治療法、患者の病歴および抗体に対する反応、ならびに主治医の裁量による。抗体は、一回でまたは一連の治療にわたって患者に適切に投与される。抗体の例示的な投与量の範囲としては、3~30mg/kgが挙げられる。
【0160】
診断および検出のための方法および組成物
特定の実施形態において、本明細書において提供される任意の抗PCSK9抗体またはその抗原結合フラグメントは、生物学的試料中のPCSK9の存在の検出に使用することができる。本明細書において使用される用語「検出」には、定量的または定性的な検出が包含される。特定の実施形態において、生物学的試料は、血液、血清または生物由来の他の液体試料である。特定の実施形態において、生物学的試料は細胞または組織を含む。
【0161】
一つの実施形態において、診断方法または検出方法において使用される抗PCSK9抗体が提供される。別の態様において、生物学的試料中のPCSK9の存在を検出する方法が提供される。特定の実施形態において、前記方法は、生物学的試料中のPCSK9タンパク質の存在を検出することを含む。特定の実施形態において、PCSK9はヒトPCSK9である。特定の実施形態において、前記方法は、抗PCSK9抗体とPCSK9との結合が可能である条件下で、生体試料と本明細書に記載の抗PCSK9抗体とを接触させること、および抗PCSK9抗体とPCSK9との間に複合体が形成されるかどうかを検出することを含む。前記方法は、in vitroまたはin vivoの方法であり得る。一つの実施形態において、抗PCSK9抗体は、抗PCSK9抗体による治療に適した対象を選択するために使用され、例えば、PCSK9またはLDL-コレステロールは患者を選択するためのバイオマーカーである。
【0162】
一つの実施形態において、本発明の抗体は、高コレステロール血症および/または高脂血症等のコレステロール関連疾患の診断に使用することができる。
【0163】
特定の実施形態において、標識された抗PCSK9抗体が提供される。標識としては、特に限定されないが、直接的に検出される標識または部分(蛍光標識、発色団標識、電子密度標識、化学発光標識および放射性標識等)、および酵素またはリガンド等の酵素反応または分子間相互作用により間接的に検出される部分が挙げられる。例示的な標識としては、特に限定されないが、放射性同位元素32P、14C、125I、3Hおよび131I、希土類キレートまたはフルオレセインおよびその誘導体等のフルオロフォア、ローダミンおよびその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロン、ルシフェラーゼ、例えばホタルルシフェラーゼおよび細菌ルシフェラーゼ(US4,737,456)、フルオレセイン、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HR)、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、溶解酵素、炭水化物オキシダーゼ、例えばグルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼおよびグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、ウリカーゼおよびキサンチンオキシダーゼ等の複素環式オキシダーゼ、およびHR、ラクトペルオキシダーゼまたはミクロペルオキシダーゼ等の染料前駆体を酸化するために過酸化水素を使用する酵素、ビオチン/アフィニティー、スピン標識、ファージ標識、安定フリーラジカル等が挙げられる。
【0164】
本発明を、以下の実施例によってさらに説明するが、これらの実施例は例示を目的とするものとして理解されるべきであり、限定を目的とするものではなく、当業者によって様々な改変がなされ得る。
【実施例】
【0165】
実施例1:親抗体を決定するための抗PCSK9抗体のスクリーニング
抗原のビオチン標識
Pierce社から入手可能なスクシンイミジルスルホネートビオチン標識キットを、製造業者の指示に従って使用することによって、PCSK9抗原(配列番号53)をビオチンで標識した。FITC標識ヤギ抗ヒト免疫グロブリンF(ab’)κ鎖抗体(LC-FITC)をSouthern Biotech社から購入し、ポリエチレンアビジン(SA-PE)をSigma社から購入し、ストレプトアビジン-633(SA-633)をMolecular Probes社から購入した。ストレプトマイシンビーズおよび細胞性免疫磁気ビーズ分離カラムは、Miltenyi LS社から購入した。
【0166】
予備スクリーニング
8つの合成酵母ベースの抗体提示ライブラリー(Adimab社から入手可能)を、既存の方法(Xu et al., 2013;WO2009036379;WO2010105256;W02012009568)に従って増幅し、各ライブラリーの多様性(diversity)を最大1×109とした。つまり、最初の2回のスクリーニングをMiltenyi社製のMACSシステムを用いた磁気活性化細胞選別を使用することによって実施した。まず、各ライブラリーからの酵母細胞(~1×1010細胞/ライブラリー)を、上記のように調製された100nMビオチン標識PCSK9抗原を含むFACS洗浄緩衝液(0.1%ウシ血清アルブミンを含有するリン酸緩衝液)中で、15分間室温でインキュベートした。予め冷却した50mlのFACS洗浄緩衝液で1回洗浄し、次いで、細胞を40mlの同じ洗浄緩衝液に再懸濁し、500μlのストレプトマイシンビーズを添加し、4℃で5分間インキュベートした。1000rpmで5分間遠心分離した後、上清を捨て、細胞を5mlのFACS洗浄緩衝液に再懸濁し、細胞溶液をMiltenyi LSカラムに充填した。充填が完了した後、FACS洗浄緩衝液でカラムを3回、1回につき3mlで洗浄した。Miltenyi LSカラムを磁場から外し、5mlの増殖培地で溶出し、溶出した酵母細胞を集めて37℃で一晩増殖させた。
【0167】
次の選別回は、フローサイトメーターを用いて行われた:MACSシステムでスクリーニングすることにより得られた約1×108個の酵母細胞をFACS緩衝液で3回洗浄し、低濃度のビオチン(100~1nM)で標識したPCSK9抗原またはPCSK9-Fc融合抗原中で、室温でインキュベートした。培地を捨て、細胞をFACS洗浄緩衝液で2回洗浄した。次いで、細胞をLC-FITC(1:100希釈)と混合し、SA-633(1:500希釈)またはEA-PE(1:50希釈)試薬と混合し、4℃で15分間インキュベートした。予冷したFACS洗浄緩衝液で2回溶出し、0.4mlの緩衝液に再懸濁した後、細胞をフィルター付き分離チューブに移した。細胞を、FACS ARIA(BD Biosciences社製)を用いて選別した。
【0168】
次に、数回のスクリーニングを行い、競合リガンドを得、非特異的バインダー(例えば、CHO細胞の膜タンパク質)を除去した。最終回の選別の後、収集した酵母細胞をプレーティングし、37℃で一晩インキュベートし、目的の単一クローンを選択した。得られた抗体の可変領域を、サンガー法により配列決定した。固有の可変領域配列を有する合計約310個の抗体が得られ、次いで一つずつ同定された。
【0169】
これらの抗PCSK9抗体タンパク質は、酵母発現およびProtein Aアフィニティークロマトグラフィーによる精製によって得られた。
【0170】
抗体の産生と精製
スクリーニングにより得られた抗PCSK9抗体を発現する酵母細胞を振盪し、30℃で48時間誘導して抗PCSK9抗体を発現させた。誘導終了後、1300rpmで10分間遠心分離することにより酵母細胞を除去し、上清を回収した。上清中に存在する抗PCSK9抗体を、Protein Aを用いて精製し、酢酸溶液によりpH2.0で溶出し、抗PCSK9抗体を回収した。対応するFabフラグメントを得るために、抗体をパパインで消化し、KappaSelect(GE Life Medical Group社製)を用いて精製した。
【0171】
抗PCSK9抗体をコードする遺伝子DNAを、当技術分野における従来の方法に従って、抗PCSK9抗体を発現する上記酵母細胞から取得し、該遺伝子DNAを、従来の方法に従って新たな発現ベクター(pCDNA3.1)にクローニングした。
【0172】
目的の抗体の遺伝子を含む上記発現ベクターおよびトランスフェクション試薬Lipofectamine TM2000(Invitrogen社から購入)を、製造業者によって提供されたプロトコルに従って、培養ヒト腎臓芽細胞293細胞に一時的にトランスフェクトし、培地を捨て、新しい培地を用いて細胞を4×106/mlに希釈した。細胞を5%CO2下、37℃で7日間培養し、48時間毎に新しい培地を添加し、7日後に13,000rpmで20分間遠心分離した。上清を回収し、Protein Aで精製して、>95%の純度の抗体を得た。
【0173】
ForteBio KDアッセイ(バイオフィルム層干渉法)
既存の方法(Estep, P et al, High throughput solution Based measurement of antibody-antigen affinity and epitope binning. MAbs, 2013. 5(2): p. 270-8)に従って、ForteBio Affinity Assayを実施した。つまり、センサーをアッセイ緩衝液中で、30分間オフラインで平衡化し、次いで、60秒間オンラインで試験してベースラインを確立した。上記のようにして得られた精製抗体をAHQセンサーにオンラインで充填した。次いで、センサーを、100nMのPCSK9抗原に5分間入れた後、センサーをアッセイ緩衝液に移して5分間解離させた。動力学的分析を、1:1結合モデルを用いて行った。
【0174】
MSD-SET動的検出
平衡親和性の検出は、これまでに記載されている(Estep et al. 2013)。上記のようにして得られたビオチン標識PCSK9抗原(b-PCSK9)を、最終濃度10~100pMの0.1%IgG不含BSAを含有するリン酸緩衝食塩水(PBSF)に添加した。上記で得られた抗PCSK9 FabまたはmAbを3~5倍連続希釈し、5~100nMの濃度のFabまたはmAb溶液を得た。抗体(20nMリン酸緩衝食塩水で希釈)をMSD-ECLプレート上に4℃で一晩または室温で30分間コーティングした。3%BSAを添加し、700rpmで30分間室温でブロックし、次いで洗浄緩衝液(PBSF+0.05%Tween20)で3回洗浄した。試料をプレートに添加し、振盪機に入れ、700rpmで150秒間室温でインキュベートした後、1回洗浄した。250ng/mlのスルホタグ標識ストレプトアビジン(PBSF中に希釈)を添加し、室温で3分間インキュベートした。緩衝液で3回洗浄した後、プレートに結合した抗原をMsd Sector Imager 2400 Reader Deviceを用いて測定した。未結合抗原のパーセンテージを、抗体滴定法により得た。抗原への抗PCSK9 FabまたはmAbの結合が薬物動態学の二次方程式に従うことが見出された。
【0175】
結合エピトープのOctet Red384の同定
結合エピトープの同定は、標準的なサンドイッチ型の相互作用的遮断アッセイを用いて行われた。標的特異的対照IgGをAHQセンサー上に固定化し、センサー上の利用可能なFc結合部位を、無関係のヒトIgG1抗体でブロックした。センサーを100nMの標的抗原PCSK9溶液に120秒間入れ、次いで、上記のように調製した第2の100nMの抗PCSK9抗体またはリガンド溶液に入れた。データは、ForteBio Data Analysis Software 7.0(ForteBio社製)によって読み取り、処理を行った。抗原が抗体に結合した後に二次抗体またはリガンドにも結合することができるならば、未結合エピトープ(非競合)の存在を意味し、そうでなければ、エピトープが遮断された(競合またはリガンド遮断)ことを意味する。
【0176】
上記のスクリーニングおよび同定を通して、本発明者らは、PCSK9とLDLRとの結合を遮断することができ、ヒトおよびマウスの両方のPCSK9に結合することができるいくつかの抗体を得た。より高い親和性を有する抗PCSK9抗体を得るために、本発明者らは、以下の方法により抗体ADI-02396を最適化した。
【0177】
実施例2:抗PCSK9抗体の親和性最適化
VHmutスクリーニング
この方法では、従来のミスマッチPCRによって、抗体の重鎖領域に突然変異を導入した。PCRプロセスの間、1μMの高度に変異した塩基アナログdPTPおよび8-オキソ-dGTPを使用することにより、塩基ミスマッチの可能性を約0.01bpに増大させた。
【0178】
得られたミスマッチPCR産物を、相同組換えにより重鎖定常領域を含むベクターに組み込んだ。このようにして、本発明者らは、PCSK9抗原の力価、非標識抗原の競合、および親抗体との競合を含むスクリーニング圧力下で、1×107のライブラリーキャパシティを有する二次ライブラリーを得た。FACS法によって、3回のスクリーニングのスクリーニングが達成された。
【0179】
CDRH1/CDRH2スクリーニング
VHmut法により得られた後代抗体のCDRH3遺伝子を、1×108の多様性を有するCDRH1/CDRH2遺伝子ライブラリーに組み込み、3回のスクリーニングに供した。1回目ではMACS法が使用され、2回目および3回目ではFACS法が使用された。抗体-抗原コンジュゲートを親和性圧力にかけて、最も高い親和性を有する抗体を選択した。
【0180】
1回目の最適化:第1段階では、この抗PCSK9抗体とヒト-マウス交差活性およびリガンド競合(ADI-02396(「親」抗体と称される))との親和性を増大させた。すなわち、変異を親抗体に導入して(「ミスマッチPCR」アプローチを用いて)、酵母ベースの抗体提示の二次ライブラリーを確立した。より高い親和性を有する抗体のその後の濃縮のために、最終的に約1×107サイズの二次ライブラリーを作製した。スクリーニング圧には、PCSK9抗原の力価、非標識抗原の競合、および親抗体との競合が含まれた。FACS技術はまた、標的集団をスクリーニングするためにも使用された(具体的な手順については、Chao et al. Nature Protocols, 2006を参照のこと)。2~3回の濃縮後、得られた酵母をプレーティングして単一クローンを得た。この操作の後、親和性が改善された合計3つの後代、ADI-09111、ADI-09112およびADI-09113が得られた。これら3つの抗体のKDの範囲は、ForteBio Octetによって決定されるように、1~10nMであった。2回目の親和性最適化のために、2つの後代抗体、ADI-09112およびADI-09113を使用した。
【0181】
2回目の親和性最適化:第2段階では、ヒト-マウス交差活性およびリガンド競合を有する2つの抗PCSK9 mAb、ADI-09112およびADI-09113(「親」抗体と称される)の親和性を増大させた。すなわち、酵母ベースの抗体提示の二次ライブラリーを各親抗体について再度作成した。親抗体のCDR-H3および軽鎖(LC)を既存の酵母ライブラリーに存在する遺伝子のCDR-H1およびCDR-H2と組み合わせた(「H1/H2」最適化と称される)。その後のより高い親和性を有する抗体の濃縮のために、最終的に約1×108サイズの5つのライブラリーを作製した。スクリーニング方法は最初の回のスクリーニングと同じであった。2~3回の濃縮後、酵母をプレーティングして単一クローンを得た。この操作の後、親和性が改善された後代抗体が得られ、そのうちのADI-10085、ADI-10086およびADI-10087はADI-09912のCDR-H1およびCDR-H2領域の変異体であり、ADI-10088、ADI-10089およびADI-10090はVH領域ADI-09113の変異体である。抗体の関連配列情報については、表B~Dを参照されたい。これらの抗体のヒトPCSK9に対する親和性は10倍増大し、KDの範囲は、ForteBio法およびMSD-SETアッセイにより測定したところ、4~17pMから200pMであった(表1、表2)。いくつかの抗体は、対照抗体よりも約10倍高い親和性を有する。抗体の数は、前臨床開発のための抗体の他の機能を同定することによってさらに制限され得る。
【0182】
本願において言及される各抗PCSK-9抗体の配列情報および番号付けは、以下の表B~Dに示される。
【0183】
【0184】
【0185】
【0186】
【0187】
【0188】
実施例3:抗PCSK-9抗体がPCLSK-9のLDLRへの結合を阻害するアッセイ
実施例1に記載のPCSK9タンパク質をPBS溶液(リン酸緩衝溶液)で400nmol/Lに希釈し、作業溶液として使用した。実施例2で得られた抗PCSK9抗体(ADI-10085、ADI-10086、ADI-10087、ADI-10088、ADI-10089およびADI-10090)を、PBS溶液でそれぞれ1000nmol/L、100nmol/L、10nmol/L、1nmol/Lおよび0.1nmol/Lの濃度に希釈した。様々な濃度の対照抗体(アリロクマブ、エボロクマブ、ボコシズマブおよびロデルシズマブ)の溶液を同じ方法により調製した。PCSK9作業溶液を、等容量の各勾配希釈抗PCSK9抗体試料または対照試料と混合した。LDLを過剰発現しているCHO細胞(CHO-LDLR)をPBS溶液に再懸濁、計数し、細胞濃度をPBS溶液で4×106細胞/mlに調整し、96ウェルU字型細胞培養プレートに1ウェル当たり2.0×105細胞となるように播種し、50μlの細胞培養培地を各ウェルに添加し、PCSK9および抗PCSK9抗体の混合物50μlを添加し、200gで、5分間室温で遠心分離し、上清を捨てた。抗His-FITC(R&D Systems社製)をPBS溶液で終濃度2.5μg/mlに1:200の比率で希釈し、次いで96ウェルプレートに100μl/ウェルとなるように添加し、氷浴中で30分間インキュベートした。室温で5分間、200gで遠心分離し、上清を静かに捨て、各ウェルに150μlのPBS溶液を添加し、室温で5分間、200gで遠心分離し、上清を穏やかに捨て、この手順を3回繰り返した。80μl/ウェルのPBS溶液を各ウェルに添加し、細胞を数回ピペッティングすることにより再懸濁した。細胞の蛍光シグナル値をフローサイトメトリーにより測定した。
【0189】
この実験で検出された蛍光シグナルを、以下の表3に示す。
【0190】
【0191】
表3の生データをGraphPad Prism 6ソフトウェアで分析し、
図1を得た。
【0192】
この実験結果から、抗PCSK9抗体が、対照抗体と比較して、PCSK9とLDLRとの結合を遮断するのに相当する能力を有することが示された。
【0193】
実施例4:細胞のLDL-c取り込みアッセイ
凍結保存したチューブ内のHepG2細胞を液体窒素貯蔵タンクから取り出し、37℃の水浴で急速に解凍した。細胞懸濁液を15mlの遠心分離チューブに移し、4mlの増殖培地(90%DMEM+10%FBS、DMEMおよびFBSの両方ともGibco社から購入)を室温でゆっくりと添加し、室温で5分間、1000r/分で遠心分離し、次いで、細胞ペレットを新鮮な増殖培地に再懸濁し、培養フラスコに移し、5%CO2下、37℃で培養した。対数増殖期のHepG2細胞をPBS溶液で2回洗浄し、1mlの0.25%トリプシン(Gibco社から購入)を添加し、3分間消化し、6mlの増殖培地を添加して細胞を再懸濁し、反応を終結させた。HepG2細胞を増殖培地で0.8×106細胞/mlに調整し、黒色の透明底部を有するポリ-D-リジン被覆96ウェル細胞培養プレート(Nunc社から購入)に、1ウェルあたり100μLとなるように播種し、37℃、5%CO2で6~7時間インキュベートした。増殖培地を捨て、100μl/ウェルとなるようにアッセイ培地(DMEM+5%FBS)に交換し、インキュベーター中で、37℃、5%CO2で一晩インキュベートした。抗体試料(ADI-10085、ADI-10087、ADI-10088、ADI-10089)を、それぞれ66.7nmol/Lとなるようにアッセイ培地で希釈した。次いで、出発濃度が66.7nmol/Lの試料を使用して、4倍の勾配希釈を行った。陽性対照抗体(アリロクマブ、エボロクマブおよびロデルシズマブ)および陰性対照(LDL、PCSK9+LDLおよびIgG)を同じ操作に供した。得られた各濃度勾配の試料60μlを、等容量60μlの66.7nmol/LのPCSK9と別々に混合して、各混合物を得た。120μlのアッセイ培地をブランク対照として使用した。96ウェルプレート中の液体を吸引して捨て、50μlの上記混合物およびブランク対照試料を別々に各ウェルに添加し、インキュベーター中で、37℃、5%CO2で1時間インキュベートした。プレートを取り出し、アッセイ培地で希釈した6μg/mlのBODIPY(life technologies社から購入)で標識した50μlのLDL溶液を各ウェルに添加し、プレートを37℃、5%CO2で4時間インキュベートした。培地を捨て、プレートを1ウェル当たり100μlのPBS溶液で洗浄した。2回洗浄した後、PBS溶液を捨て、次いで、100μlのPBS溶液を各ウェルに再び添加した。Spectra Max I3プレートリーダーを用いて蛍光値を読み取った。
【0194】
蛍光値について得られた生データを以下の表4に列挙し、表4に開示されたデータをGraphPad Prism 6ソフトウェアを用いて分析およびプロットして
図2を得た。この実験結果から、抗PCSK9抗体(ADI-10085、ADI-10087、ADI-10088、ADI-10089)では、抗PCSK9抗体の非存在下の場合の蛍光値と比較して、HepG2細胞の場合に蛍光値が約2倍増強されることが分かった。これらのデータから、本願に開示されている抗PCSK9抗体のそれぞれによって、HepG2細胞がLDLRを回復し、PCSK9によって誘導されるLDK-cの取り込みの減少を阻害し、それによってHepG2細胞によるLDL-cの取り込みを増加させる能力が増大し得ることが示された。さらに、16.8nMおよび66.7nMの抗体の効果は、いずれも陽性対照抗体の効果よりも優れていた。
【0195】
【0196】
実施例5:LDLRの細胞内在化の分析
PCSK9は、LDLRに直接結合してLDLRの内在化を促進することができる。肝細胞に入った後、LDLRはリソソームに輸送されて分解され、それによって細胞表面に発現されるLDLRが減少し、LDL-cの血清レベルが増大する。抗PCSK9抗体は、PCSK9とLDLRとの結合を遮断し、それによってPCSK9がLDLRを消費する能力を低下させる。この実験において、CHO-LDLR細胞を抗PCSK9抗体およびPCSK9タンパク質溶液と共にインキュベートし、LDLRの蛍光値を上記のフローサイトメトリーによって検出した。抗PCSK9抗体の蛍光値を陽性対照抗体(エボロクマブ)の蛍光値と比較して、LDLRの細胞内在化に対する抗PCSK9抗体の生物学的活性を決定した。
【0197】
上記のPCSK9タンパク質を、RPMI1640細胞培養培地(Gibco社製)を用いて50μg/mlの濃度に調製した。1000nmの抗PCSK9抗体(ADI-10085およびADI-10087)60μlとPCSK9溶液(50μg/ml)とを均一に混合し、30分間インキュベートした。陽性抗体対照に対しても同じ処理を行った。CHO細胞およびCHO-LDLR細胞を、それぞれ室温で3分間、500gで遠心分離し、PBS溶液に再懸濁し、2×10
6細胞/mlの細胞密度に調整し、次いで、100μl/ウェルとなるように96ウェルU字型プレートに添加した。上記の混合試料を、100μl/ウェルとなるように前記培養プレートに4回ずつ添加し、均一にピペッティングし、次いで、4℃で4時間インキュベートした。その後、試料を200μlのPBS溶液で3回洗浄し、次いで、室温で3分間、500gで遠心分離した。5μlの抗LDLR-PE(Beijing Yiqiao Company製、カタログ番号20131-R301-P)を100μlのPBS溶液で希釈し、次いで、96ウェルU字型プレートに1ウェルあたり100μlとなるように添加し、暗所で30分間インキュベートした。細胞を200μlのPBS溶液で3回洗浄し、500gで3分間遠心分離し、細胞培養培地に再懸濁した。CHO-LDLR細胞の表面上のPE蛍光標識LDLRタンパク質の蛍光シグナルをフローサイトメトリーにより検出した。実験結果を表5に示す。表5の生データを、GraphPad Prism 6ソフトウェアを用いて分析して
図3を得た。
【0198】
表5の結果から分かるように、本願で得られた抗体は、LDLRの細胞内在化を効果的に阻害する。
【0199】
【0200】
実施例6:本発明の抗PCSK抗体によって認識されるエピトープ
特性解析を行う前に、本発明の抗PCSK抗体(この実施例ではADI-10087を使用した、以下、同じ抗体を使用した)の完全性、および抗原としてのヒトPCSK-9との凝集レベルを、CovalX HM4相互作用モジュール(CovalX AG製、スイス、チューリッヒ)を備えたUltrafelx III MALDI ToF ToF質量分析計(Bruker社製)を用いてそれぞれ検出した(実験方法および結果分析は、以下のセクションAに示される)。抗PCSK抗体とヒトPCSK9との間の非共有重合は検出されなかった。ヒトPCSK9(以下、PCSK9-WTと称する)は、59.983kDa(以下、PCSK9-WT還元(Reduced)と称する)および13.749kDaの2つのサブユニットの非共有結合によって形成される。
【0201】
A.抗体/抗原複合体の特性解析
1.材料および方法
1.1 装置
複合体の特性解析を行うために、CovalX HM4相互作用モジュールを備えたUltraflex III MALDI ToF ToF質量分析計(Bruker社製)を用いて分子量を測定した。
【0202】
CovalX相互作用モジュールには、2MDaまでの分子量の検出を最適化するように設計され、ナノモル級の感度を有する専用の検出システムが備わっている。
【0203】
1.2 試料調製
対照実験
抗体/抗原複合体を以下の濃度で調製した:
【表10】
【0204】
得られた抗体/抗原混合物1μlと、1μlのシナピン酸マトリックス過飽和溶液(10mg/ml、アセトニトリル/水(1:1、v/v)、TFA0.1%、K200 MALDIキットにより提供される)とを混合し、その1μlをMALDIプレート(SCOUT 384、AchorChip社製)にスポットした。室温で結晶化した後、プレートをMALDI ToF質量分析計に導入し、直ちに分析を行った。分析を3回繰り返して行った。
【0205】
架橋実験
対照実験用に調製した混合物(9μl左)を、CovalX社のK200 MALDI MS分析キットを用いて架橋に供した。9μlの抗体/抗原混合物と、1μlのK200 Sabilizer試薬(2mg/ml、CovalX AG製、チューリッヒ、スイス)と混合し、そして室温で180分間インキュベートした。その後、対照実験と同様に、試料をMALDI分析用に調製した。
【0206】
1.3 高質量MALDI質量分析
標準的な窒素レーザーイオン源を備え、0~2000kDaの異なる質量範囲に焦点を合わせることができるCovalX HM4相互作用モジュールを使用して、MALDI ToF質量分析を行った。
【0207】
使用されたパラメータは以下の通りであった:
質量分析計:
リニアおよび陽イオンモード
イオン源1:20kV
イオン源2:17kV
レンズ:12kV
パルスイオン抽出:400ns
HM4:
ゲイン電圧:3.14kV
加速電圧:20kV
【0208】
質量分析計を、使用する前に、インスリン、BSAおよびIgGを含むタンパク質のクラスターによる外部質量較正にかけた。各試料について、3点を分析した(スポットあたり300レーザーショット)。示されたスペクトログラムは、300回のレーザーショットの合計に対応する。MSデータは、CovalX Complex Tracker Analysisソフトウェアバージョン2.0を用いて分析した。
【0209】
2.結果
2.1 抗PCSK9抗体/PCSK9-WT
2.1.1 相互作用分析
対照実験
対照実験では、抗原PCSK9-WT還元および抗PCSK9抗体の両方が検出され、検出された分子量は、それぞれMH+=59.716kDaおよびMH+=146.769kDaであった(
図6、対照)。
【表11】
【0210】
架橋実験
架橋実験では、抗体/抗原複合体を架橋剤K200と180分間インキュベートし、分子量をMALDI ToFで測定した。架橋後、対照実験で検出された2つのピークに加えて、4つのさらなるピークが検出された:MH+=214.902kDa、MH+=229.111kDa、MH+=276.105kDaおよびMH+=290.815kDa(
図6、架橋)。
【0211】
Complex Trackerソフトウェアを使用して、対照と架橋のスペクトログラムを重ね合わせて、4つの非共有結合複合体を下記の構成で分解した(
図6、重ね合わせ):
【表12】
【0212】
3.抗体/抗原複合体の特性解析の結論
抗体/抗原複合体の特性解析により、抗原PCSK9-WT還元およびPCSK9-WTの両方が抗PCSK9抗体に結合できることが明らかになった。
【0213】
B.抗体/抗原複合体の分子界面の特性解析(分子界面)
抗PCSK9抗体と抗原PCSK9-WTとの間の結合エピトープの高分解能決定のために、抗体/抗原複合体を架橋剤DSS d0/d12とインキュベートし、続いてトリプシン、キモトリプシン、アスパラギン酸N-末端エンドヌクレアーゼ(Asp-N)、エラスターゼおよびサーモリシンをそれぞれ用いて酵素加水分解し、酵素加水分解後に得られた架橋ペプチドフラグメントを、高分解能質量分析(nLC-LTQ-Orbitrap MS/MS)と直列的に接続されたナノ液相クロマトグラフィーのオンラインシステムによって同定し、XQuestおよびStavroxソフトウェアを用いて分析した。
【0214】
抗原PCSK9-WT単独(抗PCSK9抗体を含まない)について、架橋の分析および配列の特性解析を行った(実験工程は、下記の抗体/抗原複合体についての架橋および分析と同じであった)。エンドヌクレアーゼ酵素加水分解および質量分析の結果に基づいて、PCSK9-WTの同定された配列網羅率は88.77%であった。異なるタンパク質エンドヌクレアーゼ酵素加水分解によって同定されたアミノ酸配列およびペプチドを
図7に示す。これらのペプチドおよび抗体/抗原複合体の実験結果を統合して、エピトープ同定の精度を改善するために分析を行った。
【0215】
1.材料および方法
1.1 装置
Ultimate 3000(Dionex社製)ナノ液相クロマトグラフィーシステムは、LTQ-Orbitrap XL質量分析計(Thermo Scientific社製)と直列的に接続された。
【0216】
1.2 試料調製
抗体/抗原複合体
最終濃度0.5μM/4μMの抗体/抗原混合物を得るために、5μLの抗体(濃度1μM)と5μLの抗原試料(濃度8μM)とを混合した。混合物を37℃で180分間インキュベートした。
【表13】
【0217】
架橋反応
1mgのDSS(d0)架橋剤(Thermo Scientific社製)と1mgの重水素化DSS(d12)架橋剤(CovalX AG製)とを混合し、1mlのDMFを添加して、2mg/mlのDSS d0/d12溶液を得た。予め調製した抗体/抗原混合物10μlと、調製した架橋剤DSS d0/d12溶液(2mg/ml)1μlとを混合して、架橋のために室温で180分間インキュベートした。
【0218】
還元/アルキル化
予め調製した架橋抗体/抗原複合体10μlと、40μlの重炭酸アンモニウム(25mM、pH8.3)とを混合し、2μlのDTT(500mM)を添加し、55℃で1時間インキュベートした。インキュベーション後、2μlのヨードアセトアミド(1M)を添加して、暗所にて室温で1時間インキュベートした。インキュベーション後、120μlのタンパク質分解緩衝液(各エンドヌクレアーゼ産物から入手可能)を添加した。
【0219】
トリプシンタンパク質分解
145μlの還元/アルキル化架橋抗体/抗原複合体と0.70μlのトリプシン(Roche Diagnostic社製)とを100:1(タンパク質:酵素、w/w)の比で混合し、37℃で一晩インキュベートした。
【0220】
キモトリプシンタンパク質分解
145μlの還元/アルキル化架橋抗体/抗原複合体と0.35μlのキモトリプシン(Roche Diagnostic社製)とを200:1(タンパク質:酵素、w/w)の比で混合し、25℃で一晩インキュベートした。
【0221】
Asp-Nタンパク質分解
145μlの還元/アルキル化架橋抗体/抗原複合体と0.35μlのAsp-N(Roche Diagnostic社製)とを200:1(タンパク質:酵素、w/w)の比で混合し、37℃で一晩インキュベートした。
【0222】
エラスターゼタンパク質分解
145μlの還元/アルキル化架橋抗体/抗原複合体と0.70μlのエラスターゼ(Roche Diagnostic社製)とを100:1(タンパク質:酵素、w/w)の比で混合し、37℃で一晩インキュベートした。
【0223】
サーモリシンタンパク質分解
145μlの還元/アルキル化架橋抗体/抗原複合体と1.40μlのサーモリシン(Roche Diagnostic社製)とを50:1(タンパク質:酵素、w/w)の比で混合し、70℃で一晩インキュベートした。
【0224】
一晩タンパク質分解した後、1%ギ酸を添加して反応を停止させた。
【0225】
nLC-LTQ-Orbitrap MS/MS分析
10μlのタンパク質分解ペプチド溶液を、TQ-Orbitrap XL(Thermo Scientific社製)と直列的にオンラインで接続されたナノ液相クロマトグラフィーシステム(Ultimate 3000、Dionex社製)に注入し、ペプチドフラグメントを同定した。液体クロマトグラフィーおよび質量分析のためのランニングパラメータは以下の通りとした。
【表14】
【表15】
【0226】
データ分析
架橋ペプチドフラグメントを、Xquestバージョン2.0およびStavrox 2.1ソフトウェアを使用することによって分析した。
【0227】
2.結果
2.1.1トリプシンタンパク質分解
抗PCSK9抗体と抗原PCSK9との間で架橋されたペプチドフラグメントは、DSS d0/d12によって架橋された抗体/抗原複合体をトリプシンでタンパク質分解した後、nLC-LTQ-Orbitrap MS/MS分析によって検出された。この架橋ペプチドフラグメントは、XquestまたはStavroxソフトウェアのいずれかを用いて検出可能であった。
【0228】
【0229】
2.1.2 キモトリプシンタンパク質分解
抗PCSK9抗体と抗原PCSK9との間で架橋された6つのペプチドフラグメントは、キモトリプシンを用いたDSS d0/d12によって架橋された抗体/抗原複合体のタンパク質分解の後、nLC-LTQ-Orbitrap MS/MS分析によって検出された。これらの架橋ペプチドフラグメントは、XquestまたはStavroxソフトウェアのいずれかを用いて検出可能であった。
【0230】
【0231】
2.1.3 Asp-Nタンパク質分解
抗PCSK9抗体と抗原PCSK9との間で架橋されたペプチドフラグメントは、DSS d0/d12によって架橋した抗体/抗原複合体をAsp-Nでタンパク質分解した後、nLC-LTQ-Orbitrap MS/MS分析によって検出されなかった。
【0232】
2.1.4 エラスターゼタンパク質分解
抗PCSK9抗体と抗原PCSK9との間で架橋されたペプチドフラグメントは、DSS d0/d12によって架橋された抗体/抗原複合体をエラスターゼでタンパク質分解した後、nLC-LTQ-Orbitrap MS/MS分析によって検出されなかった。
【0233】
2.1.5 サーモリシンタンパク質分解
抗PCSK9抗体と抗原PCSK9との間に架橋されたペプチドフラグメントは、DSS d0/d12によって架橋された抗体/抗原複合体をサーモリシンでタンパク質分解した後、nLC-LTQ-Orbitrap MS/MS分析によって検出されなかった。
【0234】
3.結論
本発明者らは、化学架橋およびnLC-LTQ-Orbitrap MS/MS分析によって、抗PCSK9抗体と抗原PSCK9との間の相互作用界面を特徴付けることができた。
【0235】
本発明者らの分析によって、モノクローナル抗体のエピトープが、以下のPSCK9アミノ酸部位のいくつかによって形成される領域を含むことが示された:48位(チロシン)(配列番号53に示されるヒトPCSK9のY78に対応する)、56位(トレオニン)(配列番号53に示されるヒトPCSK9のT86に対応する)、57位(ヒスチジン)(配列番号53に示されるヒトPCSK9のH87に対応する)および74位(アルギニン)(配列番号53に示されるヒトPCSK9のR104に対応する)。結果を
図8に示す。
【0236】
抗原PSCK9に結合することができる抗PCSK9抗体上の部位としては、該抗体の軽鎖の24位のアルギニン(相補性決定領域1)、26位のセリン(相補性決定領域1)、28位のセリン(相補性決定領域1)および96位のフェニルアラニン(相補性決定領域2)、ならびに重鎖の60位のチロシン(相補性決定領域2)および102位のセリン(相補性決定領域3)が挙げられる。
【0237】
実施例7:健康なSDラットの血中脂肪低下に対する抗PCSK9抗体の効果
試験対象の抗体(抗PCSK9抗体 ADI-10087)を、当技術分野の通常の方法に従ってSPFグレードのSDラットに投与した。雌ラットは、体重が約254~294gであり、約9~12週齢であり、雄ラットは、体重が約369~420gであり、約9~12週齢であった。各群に単回投与で投与した。投与レジメンを表6に示す。
【0238】
【0239】
各群の動物を、以下の時点で従来の方法に従って頸静脈採血に供した:投与0時間前(D1)、投与後72時間(D4)、投与後168時間(D8)、投与後336時間(D15)、投与後504時間(D22)、投与後672時間(D29)および投与後840時間(D36)。血液を、抗凝固剤を含まない試験管に回収し、凝固させるために氷上に置き、次いで5000rpm/分で、2~8℃で10分間遠心分離した。血清を回収し、LDL-CおよびHDL-CをHitachi-7060自動生化学分析装置で測定した。投与前(ベースライン)と比較した各時点でのLDL-CおよびHDL-Cの変化率(%LDL-Cおよび%HDL-C)を、血中脂肪の分析データに従って計算した。実験結果から、ラットに本発明の抗PCSK9抗体3~30mg/kgを単回皮下投与すると、LDL-CおよびHDL-Cの血清レベルが用量依存的に低下することが分かった(
図9および
図10)。例えば、投与後3日、7日、14日および21日では、ベースラインレベルと比較して有意に低下していた。さらに、ラットにエボロクマブ10mg/kgを単回皮下投与した後に、LDL-CおよびHDL-Cの血清レベルが有意に低下しないことも分かった。
【0240】
上記の方法は、本発明の他の抗体の測定にも適用可能である。
【0241】
実施例8:健康なカニクイザルの血中脂肪の減少に対する抗PCSK9抗体の効果
試験対象の抗体(抗PCSK9抗体 ADI-10087)を、当技術分野の通常の方法に従ってカニクイザルに投与した。雌動物は、体重が約2~4kgであり、約3~5歳であり、雄動物の体重は約3~5kgで、約3~5歳であった。投与レジメンを表7に示す。群1~5には単回投与で投与され、群6には週1回投与され、全体で4回投与された。
【0242】
【0243】
群1~5については、以下の時点で、従来の方法に従って薬物を投与した肢とは反対側の前肢または後肢の皮下静脈または鼠径大腿部動脈/鼠径部静脈から血液を採取した:投与前0時間、ならびに投与後24時間(D2)、投与後72時間(D4)、投与後120時間(D6)、投与後168時間(D8)、投与後336時間(D15)、投与後504時間(D22)、投与後672時間(D29)、投与後840時間(D36)、投与後1008時間(D43)、投与後1176時間(D50)および投与後1344時間(D57)。群6については、以下の時点で上記の方法に従って採血した:最初の投与前0時間、ならびに最初の投与後24時間(D2)、最初の投与後72時間(D4)、最初の投与後120時間(D6)、最初の投与後168時間(D8、2回目の投与前)、最初の投与後336時間後(D15、3回目の投与前)。また、最後の投与前0時間、最後の投与後24時間(D2)、最後の投与後72時間(D4)、最後の投与後120時間(D6)、最後の投与後168時間(D8)、最後の投与後336時間(D15)、最後の投与後504時間(D22)、最後の投与後672時間(D29)、最後の投与後840時間(D36)、最後の投与後1008時間(D43)、最後の投与後1176時間(D50)および1344時間(D57)に血液を採取した。
【0244】
全血を、凝固剤および分離ゲルを含む試験管に回収し、凝固させるために氷上に置き、次いで5000rpm/分で、2~8℃で10分間遠心分離した。採血終了後、総コレステロール(TC)、LDL-CおよびHDL-Cを測定した。投与前(ベースライン)と比較した各時点でのLDL-CおよびHDL-Cの変化率(%LDL-Cおよび%HDL-C)を、血中脂肪の分析データに従って計算した。実験結果から、カニクイザルに本発明の抗PCSK9抗体(ADI-10087)3、10、30mg/kgを単回皮下投与すると、LDL-C(
図11)およびTC(
図13)の血清レベルが有意に低下すること、有意な用量-効果関係が観察され、投与後3~28日においてベースラインレベルと比較して有意な低下が見られた。この結果から、本明細書に開示される抗体が、LDL-CおよびTCに関連する症状および/または状態を効果的に軽減するために使用することができ、例えば、血中脂肪を低下させるために使用することができることが示唆された。
【0245】
全体として、抗PCSK9抗体の投与は、カニクイザルのHDL-Cの血清レベルに有意に影響を及ぼさなかった(
図12)。
【0246】
しかしながら、驚くべきことに、本出願人は、カニクイザルに本出願の抗PCSK抗体およびエボロクマブをそれぞれ10mg/kg単回皮下投与した後、エボロクマブを投与した場合には、ベースラインレベルに対するLDL-Cの有意な低下が14日間しか持続せず、本出願の抗体の投与後21日より短かったことを見出した。すなわち、本出願の抗PCSK9抗体によるLDL-Cの有意な低下の持続時間は、エボロクマブよりも長かった。
【0247】
上記の方法は、本発明の他の抗体の測定にも適用可能である。
【配列表】