(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】カーボンナノ構造体製造方法及びカーボンナノ構造体製造装置
(51)【国際特許分類】
C01B 32/16 20170101AFI20221031BHJP
C01B 32/18 20170101ALI20221031BHJP
B01J 23/745 20060101ALI20221031BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20221031BHJP
【FI】
C01B32/16
C01B32/18
B01J23/745 Z
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2019553692
(86)(22)【出願日】2018-06-29
(86)【国際出願番号】 JP2018024809
(87)【国際公開番号】W WO2019097756
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2017220387
(32)【優先日】2017-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】日方 威
(72)【発明者】
【氏名】大久保 総一郎
(72)【発明者】
【氏名】中井 龍資
(72)【発明者】
【氏名】藤田 淳一
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-183939(JP,A)
【文献】特開2012-056808(JP,A)
【文献】特表2002-542136(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0067871(US,A1)
【文献】国際公開第2016/017827(WO,A1)
【文献】特開2014-058432(JP,A)
【文献】LU, Y. et al.,Formation of bamboo-shape carbon nanotubes by controlled rapid decomposition of picric acid,Carbon,Vol.42, No.15,2004年09月18日,p.3199-3207,ISSN 0008-6223, 特にFig.7(b)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/16-32/18
B82Y 20/00-40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素含有ガスの流れの中で密着状態の複数の触媒粒子を離間することにより前記複数の触媒粒子間にカーボンナノチューブを成長させる成長工程と、
少なくとも1の前記触媒粒子を保持して前記炭素含有ガスの風圧により前記カーボンナノチューブを引き延ばす延伸工程とを備える、カーボンナノ構造体製造方法。
【請求項2】
前記成長工程で、前記炭素含有ガスの風圧により崩壊して前記複数の触媒粒子に分割される崩壊性触媒を前記炭素含有ガスの流れの中に配置し、
前記延伸工程で、前記炭素含有ガスの流れに沿って配置される基板により前記触媒粒子を捕捉する、請求項1に記載のカーボンナノ構造体製造方法。
【請求項3】
前記崩壊性触媒が金属箔である、請求項2に記載のカーボンナノ構造体製造方法。
【請求項4】
前記成長工程で、前記炭素含有ガスの流速を繰り返し変化させる請求項2又は請求項3に記載のカーボンナノ構造体製造方法。
【請求項5】
前記触媒粒子の平均径が、30nm以上1000μm以下である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のカーボンナノ構造体製造方法。
【請求項6】
加熱される管状の反応室と、
前記反応室の一方の端部から前記反応室内に炭素含有ガスを供給するガス供給機構と、
前記反応室内を流れる前記炭素含有ガス中に、複数の触媒粒子を接触状態で放出する触媒供給機構と、
前記反応室内に配置され、前記触媒粒子を捕捉する基板を保持する基板保持機構とを備え、
前記反応室内での前記炭素含有ガスの流れの平均流速が0.05cm/sec以上であり、レイノルズ数が1000以下である、カーボンナノ構造体製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カーボンナノ構造体製造方法、カーボンナノ構造体及びカーボンナノ構造体製造装置に関する。本出願は、2017年11月15日に出願した日本特許出願である特願2017-220387号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
炭素原子がナノメートルレベル間隔で並列した線状のカーボンナノチューブやシート状のグラフェンといったカーボンナノ構造体が知られている。このようなカーボンナノ構造体は、例えば鉄などの微細触媒を加熱しつつ、炭素を含む原料ガスを供給することで触媒からカーボンナノ構造体を成長させる気相成長法により得られる(例えば特開2005-330175号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様に係るカーボンナノ構造体製造方法は、炭素含有ガスの流れの中で密着状態の複数の触媒粒子を離間することにより上記複数の触媒粒子間にカーボンナノチューブを成長させる成長工程と、少なくとも1の上記触媒粒子を保持して上記炭素含有ガスの風圧により上記カーボンナノチューブを引き延ばす延伸工程とを備える。
【0005】
また、本開示の別の態様に係るカーボンナノ構造体は、グラフェンから形成される管状のチューブ部と、グラフェンから形成され、上記チューブ部の端部から連続して拡径する円錐状のコーン部とを備える。
【0006】
また、本開示のさらに別の態様に係るカーボンナノ構造体製造装置は、加熱される管状の反応室と、上記反応室の一方の端部から上記反応室内に炭素含有ガスを供給するガス供給機構と、上記反応室内を流れる上記炭素含有ガス中に、複数の触媒粒子を接触状態で放出する触媒供給機構と、上記反応室内に配置され、上記触媒粒子を捕捉する基板を保持する基板保持機構とを備え、上記反応室内での上記炭素含有ガスの流れの平均流速が0.05cm/sec以上であり、レイノルズ数が1000以下である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態のカーボンナノ構造体を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本開示の一実施形態のカーボンナノ構造体製造装置を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本開示の一実施形態のカーボンナノ構造体製造方法における成長工程を示す模式図である。
【
図4】
図4は、本開示の一実施形態のカーボンナノ構造体製造方法における延伸工程を示す模式図である。
【
図5】
図5は、本開示のカーボンナノ構造体の試作例の電子顕微鏡写真である。
【
図6】
図6は、本開示のカーボンナノ構造体の
図5とは異なる試作例の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
上記公報に開示されるような従来の気相成長法では、成長速度が遅いため、製造効率が十分ではない。また、従来の気相成長法では、カーボンナノチューブの成長が不安定であるため、比較的短いカーボンナノチューブしか得られない。
【0009】
本開示は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、効率よく長いカーボンナノ構造体が得られるカーボンナノ構造体製造方法、カーボンナノ構造体及びカーボンナノ構造体製造装置を提供することを課題とする。
[本開示の効果]
本開示の一態様に係るカーボンナノ構造体製造方法、カーボンナノ構造体及びカーボンナノ構造体製造装置は、効率よく長いカーボンナノ構造体が得られる。
[本開示の実施形態の説明]
本開示の一態様に係るカーボンナノ構造体製造方法は、炭素含有ガスの流れの中で密着状態の複数の触媒粒子を離間することにより上記複数の触媒粒子間にカーボンナノチューブを成長させる成長工程と、少なくとも1の上記触媒粒子を保持して上記炭素含有ガスの風圧により上記カーボンナノチューブを引き延ばす延伸工程とを備える。
【0010】
当該カーボンナノ構造体製造方法は、上記成長工程において気相成長法により触媒粒子間に形成されるカーボンナノチューブを、上記延伸工程においてカーボンナノチューブの成長点となる上記触媒粒子を保持して上記炭素含有ガスの風圧により塑性変形させて引き延ばすことによって、引き延ばし後の径が小さく長さが大きいチューブ部と、引き延ばし途中の円錐状のコーン部とを有するカーボンナノ構造体を形成することができる。このため、当該カーボンナノ構造体製造方法は、カーボンナノチューブが成長する速度よりも大きな速度で長さが大きいカーボンナノ構造体を形成することができる。従って、当該カーボンナノ構造体製造方法は、触媒反応が不安定となるまでの間に形成できるカーボンナノ構造体の長さが大きいので、効率よく長いカーボンナノ構造体を得ることができる。
【0011】
当該カーボンナノ構造体製造方法において、上記成長工程で、上記炭素含有ガスの風圧により崩壊して上記複数の触媒粒子に分割される崩壊性触媒を上記炭素含有ガスの流れの中に配置し、上記延伸工程で、上記炭素含有ガスの流れに沿って配置される基板により上記触媒粒子を捕捉してもよい。このように、上記成長工程で、上記崩壊性触媒を上記炭素含有ガスの流れの中に配置することで、容易に複数の触媒粒子を接触状態から離間させることができる。また、上記延伸工程で、上記のように配置される基板により上記触媒粒子を捕捉することによって、上記炭素含有ガスの流れを阻害せずに上記触媒を捕捉し、上記炭素含有ガスの風圧によって効率よくカーボンナノチューブを延伸することができる。
【0012】
当該カーボンナノ構造体製造方法において、上記崩壊性触媒が金属箔であってもよい。このように、上記崩壊性触媒が金属箔であることによって、上記炭素含有ガスの風圧により微細な触媒粒子に分離させることができるので、より効率よくカーボンナノ構造体を製造することができる。
【0013】
当該カーボンナノ構造体製造方法において、上記成長工程で、上記炭素含有ガスの流速を繰り返しに変化させてもよい。このように、上記成長工程で、上記炭素含有ガスの流速を繰り返しに変化させることで、上記崩壊性触媒をより確実に崩壊させてカーボンナノ構造体を効率よく製造することができる。
【0014】
当該カーボンナノ構造体製造方法において、上記触媒粒子の平均径が、30nm以上1000μm以下であってもよい。このように、上記触媒粒子の平均径を上記範囲内とすることによって、延伸可能なカーボンナノチューブを成長させることができるのでカーボンナノ構造体の製造効率を向上することができる。
【0015】
また、本開示の別の態様に係るカーボンナノ構造体は、グラフェンから形成される管状のチューブ部と、グラフェンから形成され、上記チューブ部の端部から連続して拡径する円錐状のコーン部とを備える。
【0016】
当該カーボンナノ構造体は、コーン部の大径部と同程度の径を有するカーボンナノチューブを成長させ、カーボンナノチューブの成長点から遠い側を順次長手方向に引き延ばして縮径することで形成することができる。つまり、当該カーボンナノ構造体は、カーボンナノチューブの成長速度よりも大きい速度で形成することができるので、比較的容易に長さを大きくすることができる。
【0017】
また、本開示のさらに別の態様に係るカーボンナノ構造体製造装置は、加熱される管状の反応室と、上記反応室の一方の端部から上記反応室内に炭素含有ガスを供給するガス供給機構と、上記反応室内を流れる上記炭素含有ガス中に、複数の触媒粒子を接触状態で放出する触媒供給機構と、上記反応室内に配置され、上記触媒粒子を捕捉する基板を保持する基板保持機構と、上記反応室内での上記炭素含有ガスの流れの平均流速が0.05cm/sec以上であり、レイノルズ数が1000以下である。
【0018】
当該カーボンナノ構造体製造装置は、上記ガス供給機構により上記反応室内に炭素含有ガスの流れを形成し、触媒供給機構により炭素含有ガスの流れの中に複数の触媒粒子を接触状態で放出することによって、複数の触媒粒子が離散する際に触媒粒子間にカーボンナノチューブを生成し、上記基板保持機構が保持する基板によりカーボンナノチューブを成長させている触媒粒子を捕捉して、炭素含有ガスの風圧により、カーボンナノチューブを引き延ばすことで、引き延ばし後の径が小さく長さが大きいチューブ部と、引き延ばし途中の円錐状のコーン部とを有するカーボンナノ構造体を形成することができる。
【0019】
ここで、「平均径」とは、顕微鏡画像における粒子の円相当径の平均値を意味する。
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態について図面を参照しつつ詳説する。
[カーボンナノ構造体]
図1に、本開示の一実施形態に係るカーボンナノ構造体Sを示す。当該カーボンナノ構造体Sは、グラフェンから形成される管状のチューブ部Tと、グラフェンから形成され、チューブ部Tの端部から連続して拡径する円錐状のコーン部Cとを備える。
【0020】
当該カーボンナノ構造体Sは、チューブ部Tの両端にコーン部Cが接続され、両端のコーン部Cの大径側の端部にさらに触媒粒子Pに接続された状態で形成される。また、当該カーボンナノ構造体Sは、端部に接続された触媒粒子Pの反対側にさらに別のカーボンナノ構造体Sが接続された状態で形成される場合もある。
【0021】
当該カーボンナノ構造体Sは、触媒粒子Pが除去されたものであってもよく、途中で切断されてチューブ部Tの一端にコーン部Cが存在しないものであってもよい。
【0022】
また、当該カーボンナノ構造体Sは、単層のグラフェンから形成されてもよく、多層のグラフェンから形成されてもよい。つまり、チューブ部T及びコーン部Cは、それぞれ複数の層を有してもよい。
【0023】
当該カーボンナノ構造体Sにおいて、チューブ部Tの平均外径の下限としては、0.4nmが好ましく、1.0nmがより好ましい。一方、チューブ部Tの平均外径の上限としては、50nmが好ましく、10nmがより好ましい。チューブ部Tの平均外径が上記下限に満たない場合、製造が容易でなくなるおそれがある。逆に、チューブ部Tの平均外径が上記上限を超える場合、チューブ部Tの長さを大きくすることが困難となるおそれがある。
【0024】
当該カーボンナノ構造体Sにおいて、コーン部Cのチューブ部Tと反対側の端部の平均外径は、気相成長法により触媒粒子P上で成長するカーボンナノチューブの外径となる。コーン部Cのチューブ部Tと反対側の端部の平均外径の下限としては、20nmが好ましく、30nmがより好ましい。一方、コーン部Cのチューブ部Tと反対側の端部の平均外径の上限としては、500nmが好ましく、300nmがより好ましい。コーン部Cのチューブ部Tと反対側の端部の平均外径が上記下限に満たない場合、チューブ部Tの外径との差が小さいため、チューブ部Tの長さを大きくすることが困難となるおそれがある。逆に、コーン部Cのチューブ部Tと反対側の端部の平均外径が上記上限を超える場合、触媒粒子P上で成長するカーボンナノチューブの剛性が大きくなることで、チューブ部Tを形成することが困難となるおそれや、チューブ部Tの長さを大きくすることが困難となるおそれがある。
[カーボンナノ構造体製造装置]
図1のカーボンナノ構造体Sは、
図2に示すカーボンナノ構造体製造装置によって製造することができる。なお、
図2のカーボンナノ構造体製造装置は、それ自体が本開示の一実施形態である。
【0025】
当該カーボンナノ構造体製造装置は、管状の反応室1と、反応室1の中に反応室1の一方の端部から炭素含有ガスを供給するガス供給機構2と、反応室1内を流れる炭素含有ガス中に、複数の触媒粒子Pを接触状態で放出する触媒供給機構3と、反応室1内に配置され、触媒粒子Pを捕捉する基板Bを保持する基板保持機構4とを備える。
<反応室>
反応室1は、触媒供給機構3よりも上流側の助走区間5において炭素含有ガスの流れを層流化し、触媒供給機構3よりも下流側の形成区間6において層流化した炭素含有ガスを用いてカーボンナノ構造体を形成する。
【0026】
また、反応室1は、ヒーター7が付設されている。つまり、反応室1は、ヒーター7によって加熱される。
【0027】
反応室1の形成区間6における内部温度としては、800℃以上1200℃以下が好ましい。このような温度を維持するために、ガス供給機構2から反応室1に加熱した炭素含有ガスを供給してもよく、助走区間5において炭素含有ガスを加熱してもよい。
<ガス供給機構>
ガス供給機構2は、反応室1に炭素含有ガスを供給するために、ガスボンベ8と流量調節弁9とを有する構成とすることができる。
【0028】
ガス供給機構2から供給される炭素含有ガスとしては、炭化水素ガス等の還元性を有するガスが用いられる。このような炭素含有ガスとしては、例えばアセチレンと窒素又はアルゴンとの混合ガス、メタン等を用いることができる。
【0029】
ガス供給機構2から供給される炭素含有ガスの反応室1内での平均流速の下限としては、0.05cm/secであり、0.10cm/secが好ましく、0.20cm/secがより好ましい。一方、反応室1内での平均流速の上限としては、10.0cm/secが好ましく、0.5cm/secがより好ましい。炭素含有ガスの反応室1内での平均流速が上記下限に満たない場合、風圧が不足して触媒粒子P間に形成されるカーボンナノチューブを引き延ばすことができないおそれがある。逆に、炭素含有ガスの反応室1内での平均流速が上記上限を超える場合、カーボンナノチューブを触媒粒子Pから剥離してカーボンナノチューブの成長を停止させることでカーボンナノ構造体の形成を阻害するおそれがある。
【0030】
ガス供給機構2から供給される炭素含有ガスの反応室1内での流れのレイノルズ数の下限としては、0.01が好ましく、0.05がより好ましい。一方、上記レイノルズ数の上限としては1000であり、100が好ましく、10がより好ましい。上記レイノルズ数が上記下限未満とすると、設計が過度に制約されるため、当該カーボンナノ構造体製造装置が不必要に高価となるおそれや、カーボンナノ構造体の製造効率が不必要に低下するおそれがある。上記レイノルズ数が上記上限を超える場合、炭素含有ガスの流れが乱れて触媒粒子間のカーボンナノチューブの生成及びカーボンナノチューブの延伸を阻害するおそれがある。
【0031】
ガス供給機構2は、反応室1に炭素含有ガスの供給量を繰り返し変化させられることが好ましい。これによって、反応室1における炭素含有ガスの流速が増減し、一体化している複数の触媒粒子Pの離間を促進することにより、得られるカーボンナノ構造体の数を増大することができる。
<触媒供給機構>
触媒供給機構3は、炭素含有ガスの風圧により崩壊して複数の触媒粒子Pに分割される崩壊性触媒Dを炭素含有ガスの流れの中に保持する機構とすることができる。触媒供給機構3は、例えば帯状、棒状等の長尺に形成される崩壊性触媒Dを保持し、反応室1内に徐々に送り込むものであってもよい。このように、崩壊性触媒Dを用いることで、炭素含有ガスの流れの中で高温且つ接触状態の複数の触媒粒子Pを形成することができる。このため、複数の触媒間にカーボンナノチューブを確実に成長させることができる。
【0032】
崩壊性触媒Dとしては、微細な触媒粒子Pを形成しやすい金属箔が好適に用いられる。崩壊性触媒Dの材質としては、例えば鉄、ニッケル等を挙げることができ、中でも崩壊性及び触媒作用に優れる高純度鉄が特に好ましい。高純度鉄は、反応室1内で高温に熱せられ、炭素含有ガスに晒されることによって、浸炭により表面に鉄カーバイド(Fe3C)を形成し、表面から崩壊し易くなることで、順次触媒粒子Pを放出することができると考えられる。この場合、形成される触媒粒子Pの主成分としては、鉄カーバイド又は酸化鉄(Fe2O3)となる。
【0033】
最終的に基板Bで捕捉される触媒粒子Pの平均径の下限としては、30nmが好ましく、40nmがより好ましく、50nmがさらに好ましい。一方、基板Bで捕捉される触媒粒子Pの平均径の上限としては、1000μmが好ましく、100μmがより好ましく、10μmがさらに好ましい。基板Bで捕捉される触媒粒子Pの平均径が上記下限に満たない場合、触媒粒子Pにより形成されるカーボンナノファイバーの径が小さく、延伸率が小さくなることで、カーボンナノ構造体Sのチューブ部Tを十分に長くすることができないおそれがある。逆に、基板Bで捕捉される触媒粒子Pの平均径が上記上限を超える場合、触媒粒子Pにより形成されるカーボンナノファイバーを延伸することが困難となるおそれがある。
【0034】
崩壊性触媒Dとして用いられる金属箔の平均厚さの下限としては、1μmが好ましく、20μmがより好ましい。一方、崩壊性触媒Dとして用いられる金属箔の平均厚さの上限としては、500μmが好ましく、200μmがより好ましい。崩壊性触媒Dとして用いられる金属箔の平均厚さが上記下限に満たない場合、金属箔が破断して炭素含有ガスに吹き飛ばされるおそれがある。逆に、崩壊性触媒Dとして用いられる金属箔の平均厚さが上記上限を超える場合、崩壊速度が小さくなり、カーボンナノ構造体の形成効率が小さくなるおそれがある。
<基板保持機構>
基板保持機構4は、触媒供給機構3による触媒供給位置の下方に、炭素含有ガスの流れ方向に沿って下流側に延びるよう基板Bを保持する。基板Bは、炭素含有ガスの流れの中での触媒粒子Pの落下速度を考慮して、触媒粒子が落下し得る範囲に広く延在するよう保持されることが好ましい。
【0035】
この基板保持機構4は、触媒供給機構3から放出される触媒粒子Pを、基板Bによって捕捉し、炭素含有ガスの流れに抗して同じ位置に保持する。これにより、基板Bに保持されている触媒粒子Pから延びるカーボンナノチューブや、カーボンナノチューブの反対側の端部の触媒粒子Pに炭素含有ガスの風圧が作用することで、基板Bに保持されている触媒粒子Pから延びるカーボンナノチューブが引っ張られ、塑性変形して縮径しつつ長手方向に延伸される。
【0036】
このようなカーボンナノチューブの延伸の間も、触媒粒子P上では元の大きさの径を有するカーボンナノチューブが成長する。このため、当該カーボンナノ構造体製造装置は、管状のチューブ部Tと、チューブ部の端部から連続して拡径する円錐状のコーン部Cとを備えるカーボンナノ構造体Sを形成する。
【0037】
つまり、当該カーボンナノ構造体製造装置は、気相成長法により形成されるカーボンナノチューブをその形成と同時に炭素含有ガスの風圧で引き延ばすことによって、カーボンナノチューブの一部の6角形セルを5角形セルに組み替えて円錐状のコーン部Cを形成し、再度6角形セルに組み替えてより径が小さいカーボンナノチューブであるチューブ部Tを形成する。
【0038】
このように、当該カーボンナノ構造体製造装置は、触媒粒子P上で成長するカーボンナノチューブを引き延ばすため、触媒粒子P上でのカーボンナノチューブの成長速度に比して極めて大きな速度でチューブ部Tを形成することができるため、比較的短時間で長いカーボンナノ構造体Sを形成することができる。このため、触媒粒子P上で継続的にカーボンナノチューブを成長させられる条件を維持できる時間が短くても、十分に長いカーボンナノ構造体Sを形成することができる。
【0039】
また、当該カーボンナノ構造体製造装置では、炭素含有ガスの風圧により触媒粒子P上のカーボンナノチューブに張力を作用させることで、カーボンナノチューブの成長点における炭素原子の取り込みを促進すると考えられる。これによって、当該カーボンナノ構造体製造装置は、カーボンナノチューブの成長速度、ひいては得られるカーボンナノ構造体Sの長さの増大速度をより大きくすることができると考えられる。
【0040】
基板Bとしては、例えばシリコン基板、石英ガラス等の耐熱ガラス基板、アルミナ等のセラミックス基板などを用いることができる。また、基板保持機構4は、長尺の基板B又は複数の基板Bを炭素含有ガスの流れ方向に沿って移動させるよう構成されてもよい。このように、基板Bを移動させることによって、当該カーボンナノ構造体製造装置は、基板Bの表面が触媒粒子Pによって埋め尽くされることを防止して、カーボンナノ構造体Sを連続して製造することができる。
[カーボンナノ構造体製造方法]
また、カーボンナノ構造体Sは、本開示のさらなる実施形態に係るカーボンナノ構造体製造方法によって製造することができる。当該カーボンナノ構造体製造方法は、
図2のカーボンナノ構造体製造装置を用いて行うことができるが、
図2のカーボンナノ構造体製造装置を用いる方法に限定されない。
【0041】
当該カーボンナノ構造体製造方法は、炭素含有ガスの流れの中で密着状態の複数の触媒粒子Pを離間することにより複数の触媒粒子P間にカーボンナノチューブRを成長させる成長工程(
図3参照)と、少なくとも1の触媒粒子Pを保持して炭素含有ガスの風圧によりカーボンナノチューブRを引き延ばす延伸工程(
図4参照)とを備える。
【0042】
図2のカーボンナノ構造体製造装置について説明したように、上記成長工程では、炭素含有ガスの風圧により崩壊して上記複数の触媒粒子Pに分割される崩壊性触媒Dを炭素含有ガスの流れの中に配置してもよい。
【0043】
また、上記延伸工程では、炭素含有ガスの流れに沿って配置される基板Bにより触媒粒子Pを捕捉して保持してもよい。
【0044】
また、上記延伸工程では、カーボンナノチューブRの一方の端部の触媒粒子Pを保持(基板Bで捕捉)し、他方の端部の触媒粒子Pに炭素含有ガスの風圧を作用させることで、
図4に示すように、カーボンナノチューブRを効率よく引き延ばすことができる。また、上記延伸工程では、最終的にカーボンナノチューブRの両端の触媒粒子Pを保持することで、カーボンナノチューブR又はカーボンナノチューブRが引き延ばされたチューブ部Tに炭素含有ガスの風圧を作用させることカーボンナノチューブRを延伸してもよい。この場合、カーボンナノ構造体Sのチューブ部は、例えばU字状等の屈曲した形状を有するものとなる。
【0045】
当該カーボンナノ構造体製造方法におけるその他の条件は、
図2のカーボンナノ構造体製造装置について説明した条件と同様とすることができる。
<利点>
当該カーボンナノ構造体製造方法及び当該カーボンナノ構造体製造装置は、気相成長法により触媒粒子間に形成されるカーボンナノチューブRを炭素含有ガスの風圧により引き延ばすことによって、チューブ部Tとコーン部Cとを有するカーボンナノ構造体Sを製造することができる。
【0046】
当該カーボンナノ構造体製造方法及び当該カーボンナノ構造体製造装置によって製造されるカーボンナノ構造体Sは、気相成長法により形成されるカーボンナノチューブRを延伸してチューブ部Tを形成するので、効率よく長いカーボンナノ構造体Sを得ることができる。
【0047】
カーボンナノ構造体Sは、上述のように、効率よく製造できると共に長尺化が容易であるため、多様な用途に用いることができる。
【0048】
カーボンナノ構造体Sは、端部に拡径するコーン部Cを有するため、チューブ部Tの内側に他の物質を充填することが比較的容易である。
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0049】
当該カーボンナノ構造体製造装置における触媒供給機構は、崩壊性触媒を用いず、最初から粒子状に形成された複数の触媒粒子を供給するものであってもよい。具体例として、触媒供給機構は、堆積状態の複数の触媒粒子を炭素含有ガス流れの中に暴露して表層の触媒粒子から順に吹き飛ばされるようにする機構であってもよい。
【実施例】
【0050】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
(試作例1)
加熱炉内に内径20mmの石英管を配設し、この石英管の中に、幅10mmの基板と、崩壊性触媒として厚さが50μmで1辺1cmの方形状の純鉄シート(純度4N)とを配置した。そして、石英管に100%のアルゴンガスを60cc/minの速度で供給しつつ、加熱炉内の温度を1000℃まで昇温した後、さらに上記アルゴンガスに加えてメタンガスを0から200cc/minの間で5秒から1分間で流速を変えながら15秒から1時間の条件で供給した。
【0051】
上記炭素含有ガスの供給により、純鉄シートが崩壊して触媒粒子が放出され、基板上に粒径30nmから300nmの触媒粒子が付着した。この基板上に付着した触媒粒子の一部の粒子間には、チューブ部と一対のコーン部とを備えるカーボンナノ構造体が、粒子間を架橋するように形成されていた(
図5及び
図6参照)。
【0052】
得られたカーボンナノ構造体を走査型電子顕微鏡で観察してその径を測定した結果、チューブ部の外径は3nmから30nmであり、コーン部の端部の外径は、30nmから300nmであった。また、チューブ部は多くが直線的に延び、その長さが最大30mm程度となっていた。
【0053】
さらに、得られたカーボンナノ構造体の構造をラマン分光分析及び透過型電子顕微鏡によって確認した。この結果、カーボンナノ構造体は、略全体が多層グラフェン層から形成されており、特にラマン分光分析において格子欠陥を示すピークが極めて小さいことが確認された。
(試作例2)
上記試作例1と同じ電気炉の石英管中に、触媒粒子として平均径10nmの鉄ナノ粒子を付着させた石英基板を配置し、試作例1と同じ条件でアルゴンガスを供給しつつ加熱してから炭素含有ガスを供給した。
【0054】
この結果、基板上には、外径が約10nmで、最大長さが300nmのカーボンナノチューブが形成された。得られたカーボンナノチューブは、屈曲しており、直線状のものは殆ど見当たらなかった。また、得られたカーボンナノチューブは、一方の端部にのみが触媒粒子に接続されていた。
【0055】
以上のように、炭素含有ガスの流れの中で密着状態の複数の触媒粒子を離間させた試作例1では、粒子間に形成されるカーボンナノチューブを引き延ばして、直線的に長く延びるカーボンナノ構造体を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係るカーボンナノ構造体製造方法及びカーボンナノ構造体製造装置は、従来のカーボンナノ構造体の製造方法及び製造装置に替えて利用することができる。また、本発明に係るカーボンナノ構造体は、特に長尺のカーボンナノチューブが求められる用途に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 反応室、2 ガス供給機構、3 触媒供給機構、4 基板保持機構、5 助走区間、6 形成区間、7 ヒーター、8 ガスボンベ、9 流量調節弁、C コーン部、D 崩壊性触媒、P 触媒粒子、R カーボンナノチューブ、S カーボンナノ構造体、T チューブ部。