(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】腹膜透析治療の治療継続時間の予測方法
(51)【国際特許分類】
A61M 1/28 20060101AFI20221031BHJP
【FI】
A61M1/28 130
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020076467
(22)【出願日】2020-04-23
(62)【分割の表示】P 2017504241の分割
【原出願日】2015-03-31
【審査請求日】2020-05-14
(31)【優先権主張番号】102014005122.6
(32)【優先日】2014-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】597075904
【氏名又は名称】フレゼニウス メディカル ケア ドイッチェランド ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100170634
【氏名又は名称】山本 航介
(72)【発明者】
【氏名】グリースマン エーリク
(72)【発明者】
【氏名】ブダ マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフ クラウス
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0006171(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0029937(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0004589(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0071815(US,A1)
【文献】特開2014-023939(JP,A)
【文献】特開2013-240647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透析装置により実施される、腹膜透析治療の治療継続時間の予測方法であって、
前記治療継続時間の予測は、理想的治療継続時間に基づいて行われ、
前記理想的治療継続時間は、1つ以上の遅延値だけ増加され、
前記遅延値は、1つ以上の患者固有のパラメータに依存し、
前記患者固有のパラメータは、カテーテルパフォーマンスにより構成され、
前記カテーテルパフォーマンスは、注入継続時間と、排出継続時間と、最終注入継続時間のうちの少なくとも1つの予測時に計算に使用され、
前記予測時間が許容範囲内である場合に、滞留時間の調整は行われず、前記滞留時間は変更されない、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記理想的治療継続時間は、初期排出の理想的継続時間と、理想的サイクル継続時間にサイクル数を乗じたものと、最終注入の理想的継続時間とを含む
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1において
前記カテーテルパフォーマンスは、理想的注入継続時間と、理想的排出継続時間と、最終注入の理想的継続時間のうちの少なくとも1つの、絶対的又は相対的増加のかたちで計算に使用される、
ことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1において、
前記カテーテルパフォーマンスは、ユーザによって設定可能である
ことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項3において、
前記絶対的又は相対的増加は、ユーザによって設定可能である
ことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項において、
初期排出が圧力制御された方法で実行されるとともに、前記初期排出の継続時間は装置により予め設定されるか、又は、
前記初期排出は液量制御された方法で行われるとともに、前記初期排出の継続時間は初期排出量と排出流速から決定され、
ことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6において、
前記初期排出は液量制御された方法で行われるとともに、前記初期排出の継続時間は初期排出量と排出流速から決定され、この方法で決定された値が、カテーテルパフォーマンスを説明するために、増加される、
ことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項において、
初期排出量は、初期排出の実効継続時間と実効排出流速とから決定される
ことを特徴する方法。
【請求項9】
請求項8において、
前記実効継続時間は、遅延時間に加えて予め設定された継続時間であり、及び/又は
前記実効排出流速は、前記予め設定された排出流速と、カテーテルパフォーマンスを説明する値とから決定される
ことを特徴する方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項において、
透析液の患者体内での滞留時間の予測継続時間及び/又は治療の中断の予測継続時間として、予め設定された継続時間が使用され、及び/又は
通知メッセージの予測継続時間として、値0が仮定される
ことを特徴する方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項において、
予測された前記治療継続時間には、初期排出継続時間、注入継続時間、排出継続時間、患者体内での滞留時間、治療の中断の継続時間、通知メッセージの継続時間、及び、最終注入継続時間の、1つ又は複数の予測時間が含まれる
ことを特徴する方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項において、
実効注入流速及び/又は実効排出流速が決定され、
これらのデータを経時的に記録することにより傾向解析を行うために、カテーテルパフォーマンスの変化が決定される、
ことを特徴する方法。
【請求項13】
請求項12において
将来の治療の治療継続時間が、変化後のカテーテルパフォーマンスに基づき予測される、
ことを特徴する方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項において、
予測された前記治療継続時間は、上限閾値及び/又は下限閾値と比較され、
予測された前記治療継続時間が、前記上限閾値を超過する場合、又は、前記下限閾値を下回る場合には、ユーザに対して表示が提供される
ことを特徴する方法。
【請求項15】
少なくとも1つの理論装置又は制御装置と、
1つ以上の値を入力するための少なくとも1つの入力装置と、
少なくとも1つのプロセッサと
を備えた、腹膜透析を行うための透析装置であって、
前記プロセッサは、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法を実行するようプログラムされている
ことを特徴する透析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腹膜透析治療の治療継続時間の予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腹膜透析治療では、血液から有害物質を取り除くために、患者の腹腔に透析液が導入される。このために、操作可能に挿入されたカテーテルを利用して、無菌透析液が導入される。この透析液が、半透膜として機能する腹膜、すなわち、患者の腹膜を介して、血液から有害物質を受容する。さらに、透析液に含まれるグルコース及びそれに起因する浸透圧のせいで、患者からは水が失われる。腹腔内での一定の滞留時間の後、透析液は、再び上記カテーテルを通じて排出され、新しい透析液と交換される。
【0003】
従来技術からは、例えば、バッグシステムを利用して、患者自身が1日に約4~5回透析液を交換する、持続的携行型腹膜透析(continuous ambulatory peritoneal dialysis;CAPD)等の、各種の腹膜透析方法が知られている。自動腹膜透析においては、この方法はサイクラーと呼ばれる透析装置によって実施されるので、一晩中治療を行うことも可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
看護師と患者の両方にとってより安全性の高いプランニング(運搬サービス、装置使用時間、等)を行うため、腹膜透析治療の治療全体の継続時間を予測可能な、信頼できる方法があることが望ましい。したがって、本発明は、腹膜透析治療において見込まれる治療継続時間の予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、請求項1の特徴を有する方法によって、達成されるであろう。
【0006】
したがって、上記治療継続時間の予測は、理想的治療継続時間に基づいて行われるものとする。上記理想的治療継続時間は、1つ以上のパラメータに依存する1つ以上の遅延時間分だけ増加される。上記パラメータは、患者、方法、及び装置のうちの少なくとも1つに固有である。
【0007】
これらの遅延時間は、絶対的時間範囲であってもよく、相対的時間範囲であってもよい。例としては、導入時間又は排出時間のパーセンテージによる増加が挙げられる。
【0008】
したがって、本発明によれば、理想的治療継続時間が、最初に決定されることになる。例えば、腹膜透析治療に、初期排出ならびに、それぞれが注入と、腹腔内での滞留時間と、排出と、最終注入とを有する2つのサイクルが含まれると想定する。この場合、理想的治療継続時間は、初期排出継続時間と、1サイクルの継続時間に対して実施されるサイクル回数を乗じたものと、最終注入継続時間とを合計することにより決定される。この時間に基づき、本発明によれば、全体の治療継続時間を予測する目的で、割増分、つまり、治療継続時間の増加を引き起こす要因が遅延時間として考慮される。
【0009】
実際に行われた治療と処方との間における時間の違いの規模は、通常、患者の特徴とカテーテルの特性にそれぞれ依存する。したがって、予測された流速が達成されないことが想定される。別の違いは、患者の除水量により、予測された排出量が増加することに起因する。圧力制御排出については、排出量が予め設定されないので、排出量を決定するために、患者の体内にある量が推定される。
【0010】
本発明の好ましい実施形態では、上記理想的治療継続時間には、初期排出の理想的継続時間と、理想的サイクル継続時間にサイクル数を乗じたものと、最終注入の理想的継続時間とが含まれる。圧力制御排出の場合、初期排出の理想的継続時間は、例えば、5分といった具体的値を有すると想定される。圧力制御排出の場合、具体的排出量が予め設定されることはないが、任意の量が腹腔から排出可能である限り、患者から透析液が除去される。
【0011】
上記理想的サイクル継続時間は、好ましくは、理想的注入継続時間と、理想的滞留時間と、理想的排出継続時間とを含む。理想的注入継続時間は、注入量と注入流速からの商(Quotient)として決定されてもよい。滞留時間は、予め設定されてもよい。理想的排出継続時間は、設定された排出量と排出流速との商から決定されてもよい。
【0012】
本発明の好ましい実施形態では、カテーテルの時間依存の動作状態を説明するために、カテーテルパフォーマンスによって患者固有のパラメータが構成され、これにより、理想的治療継続時間に関係して遅延が生じ得る。注入中のカテーテルパフォーマンスの患者個人に対する依存がより小さいとしても、カテーテルパフォーマンスは患者固有のパラメータの1つとみなされる。なぜなら、大まかに言えば、カテーテルは患者の一要素であるからである。
【0013】
好ましくは、注入継続時間と、排出継続時間と、最終注入継続時間のうちの少なくとも1つの予測のために、上記カテーテルパフォーマンスが考慮されるものとする。
【0014】
上記カテーテルパフォーマンスは、理想的注入継続時間と、理想的排出継続時間と、最終注入の理想的継続時間のうちの少なくとも1つにおける、絶対的又は相対的増加のかたちで考慮される。例えば、上記理想的注入継続時間が4分(注入量:1000ml、注入流速:250ml/分)であると仮定すると、例えば、カテーテルパフォーマンスは110%を乗じたうえで考慮され、予測注入継続時間は264秒となる。
【0015】
排出継続時間ならびに最終注入継続時間に関しては、対応する手法が考慮される。初期排出継続時間について固定の時間範囲が仮定されない場合、すなわち、初期排出が液量制御により実行される場合は、上記理想的時間範囲の増加も考慮される。
【0016】
カテーテルパフォーマンスと、特に絶対的又は相対的増加とは、ユーザがこれらの値を設定できるように、変更可能であってもよい。このため、段階によって異なる値を仮定することも想定できる。したがって、例えば、注入の相対的遅延が10%であってもよく、一方、排出の相対的遅延は50%であってもよい。規定の値が指定され、それが後に必要に応じてユーザにより変更可能であると理解されたい。
【0017】
理想的注入流速に到達しなかったことに起因する注入遅延については、患者に対する依存はより小さいので、この注入遅延を装置による変更ができないものとしてもよい。つまり、ユーザによる変更ができないものとし、例えば上述の10%のように、経験値により固定的に設定されるものとしてもよい。
【0018】
本発明の目的によると、上記遅延に関連する少数のパラメータだけを、ユーザによって変更可能としてもよく、あるいは、これらのパラメータのすべてをユーザによって変更可能又は変更不可能としてもよい。後者の場合、すべての遅延値が装置において固定的に設定されてもよい。
【0019】
上述の通り、上記初期排出が、圧力制御された方法で実行され、上記初期排出継続時間が装置により予め設定されるか、ユーザによって設定可能としてもよい。したがって、例えば、上記初期排出として5分という値が指定される。
【0020】
本発明はさらに、上記初期排出が液量制御された方法で実行され、上記初期排出継続時間が、(予測された)初期排出量と排出流速から決定される場合にも関する。上記初期排出の継続時間は、カテーテルパフォーマンスを説明する絶対的遅延値又は相対的遅延値の分だけ増加されてもよい。
【0021】
上記方法固有のパラメータは、例えば、注入中の絶対的遅延又は相対的遅延であってもよく、及び/又は、排出中の遅延であってもよい。これらの値も、予め固定的に設定されていても、あるいは、ユーザにより変更可能であってもよい。例えば、1回の排出あたり1分の遅延、及び、1回の注入あたり2分の遅延を設定可能であることを考慮してもよい。したがって、これらの方法関連の遅延は、通過した液量には依存しない。
【0022】
例えば、理想的注入継続時間として、4分の時間範囲が仮定されると、カテーテルパフォーマンスは、例えば10%分増加される。方法関連の遅延を例えば120秒と仮定すると、注入継続時間は384秒になる(=240s×110%+120s)。
【0023】
上記初期排出が圧力制御排出として規定されている場合、この初期排出の量は1つの未知数となる。この圧力制御排出の間、カテーテルを通じて排液する量がなくなるまで、患者から透析液が除去される。この仮定に基づくとともに、フィード流速(feed rate)が分かっていれば、初期排出の具体的な継続時間が、例えば5分と推定される、そして、この具体的な継続時間中に通過可能な、理論的な液量が決定され得る。このように、初期排出の実効継続時間及び実効排出流速から、初期排出量が決定され得る。
【0024】
このようにして、例えば1分といった何らかの手順上の遅延等の予め設定された任意の時間から、初期排出継続時間を決定可能である。
【0025】
上記予め設定された排出流速、及びカテーテルパフォーマンスを説明する値から、実効排出流速を決定することも考慮されてよい。このカテーテルパフォーマンスを説明する値は、例えば、パーセンテージ割増分(prozentualen Zuschlages)のかたちで決定される。
【0026】
この方法で決定された初期排出量は、患者体内にある透析液の量を経時的に表すグラフの作成に使用され得る。
【0027】
さらに、患者体内における透析液の予測滞留時間及び/又は治療の中断の予測継続時間について、上記予め設定された継続時間が使用される。例えば、滞留時間が60分の値に予め設定されると、この値が予測のためにも使用され得る。なぜなら、滞留時間の延長は想定されていないからである。同様に、治療の中断にも、同じことが当てはまる。
【0028】
通知メッセージ(Benachrichtigung)の予測継続時間については、値0が仮定され得る。なぜなら、通知メッセージは治療継続時間に考慮されないからである。
【0029】
本発明の好ましい実施形態によれば、予測治療継続時間は以下の予測時間を含み、以下の示された継続時間又は段階は、治療の経過によって、それぞれ、まったく実行されなくてもよく、ちょうど1回又は複数回実行されてもよい。具体的に、上記の予測治療継続時間には、初期排出継続時間、注入継続時間、排出継続時間、患者体内での滞留時間、最終排出継続時間、治療の中断の継続時間、及び、通知メッセージの継続時間の予測時間が含まれる。後者については、値0が仮定されるのが好ましく、患者体内での滞留時間と治療時間の中断とについては、好ましくは予め設定された、つまり、既知の値が使用される。
【0030】
本発明のさらなる実施形態のいずれにおいても、実効注入流速及び/又は実効排出流速が決定されるものとする。これらのデータを経時的に記録すること(documentation)により傾向解析を行う目的で、カテーテルパフォーマンスの変化が決定される。患者体内の治療用液体の量が経時的にグラフ化されると、そのグラフの傾きが注入流速又は排出流速をそれぞれ表す。延長された時間に亘って記録が行われると、上記流速が変化したかどうか、したがって、カテーテルパフォーマンスが変化したかどうかを予測することができる。
【0031】
できるだけ実際的な評価値を与え得るために、将来の治療の治療継続時間を、変化後のカテーテルパフォーマンスに基づくものとしてもよい。したがって、例えば、カテーテルパフォーマンスが低下したことが示された場合には、排出遅延の率を150%に設定する代わりに、むしろ160%に設定することを考慮してもよい。
【0032】
予測治療継続時間は、上限閾値及び/又は下限閾値と比較され、上記予測治療継続時間が、上限閾値を超過する場合、又は、下限閾値を下回る場合には、ユーザに対して表示が提供されることが考慮されてもよい。このようにして、実際的な仕様の下で予定の治療を行うべきか、1つ以上のパラメータの修正が必要かどうかが決定されてもよい。
【0033】
本発明のさらなる実施形態では、予測治療継続時間中に、治療の滞留時間が変更されるか、又は、そのままにされるものとする。したがって、治療の実施途中で、滞留時間、つまり、透析液が腹腔内にある時間範囲が、場合によっては短縮され得る。例えば、合計治療継続時間として、具体的な時間が設定され、予測治療継続時間がこの設定時間を超過する場合には、(1回又は複数回の)滞留時間を短縮し、上記予め設定された時間に合うようにする。つまり、修正後の滞留時間を使用した予測が、上記予め設定された時間に正確に又は概ね相当するようにする。ここで、概ね相当するとは、予測が許容範囲内にあることも含む。
【0034】
一方、予測継続時間が許容範囲内にある場合、又は、許容値に相当する場合、滞留時間の調整は不要であり、治療を予定通りに行い得る。
【0035】
本発明は、さらに、腹膜透析を行うための透析装置に関する。上記透析装置は、少なくとも1つの理論装置又は制御装置と、1つ以上の値を入力するための少なくとも1つの入力装置と、少なくとも1つのプロセッサとを備える。上記プロセッサは、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法を実行するようプログラムされている。さらに、上記透析装置は、例えば、許容範囲の任意の閾値等を確実に記憶するための、又は、注入途中の遅延等について上記透析装置により予め設定された値のような設定済みの値を保存するための、少なくとも1つのメモリを有することが好ましい。また、上記メモリは、ユーザが入力したデータを保存し得る。
【0036】
本発明の好ましい実施形態では、上記透析装置が、患者体内の透析液の時間経過を決定するよう構成された、少なくとも1つの装置を備えるものとされる。この時間経過は、その後、印刷されてもよく、ユーザに見えるように表示されてもよい。
【0037】
また、上記透析装置が、(注入中の)液量の増加の傾き及び/又は(排出中の)液量の減少の傾きを決定するよう構成され、且つ、時間的に離間した複数の傾き同士を比較する手段を備えることが考慮されてもよい。その後、この比較から、カテーテルパフォーマンスの変化に起因して傾きの変化があったかどうかを推定してもよい。この場合、透析装置により規定の値が変更されてもよく、あるいは、ユーザに対しカテーテルパフォーマンスの値が示唆されてもよい。
【0038】
上記の透析装置に係る記載は、本発明の方法にも当てはまる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】
図1には、患者に適用された透析液量の予測による時間経過及び当該患者に適用された透析液量の実際の時間経過を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明のさらなる詳細と利点を、図面に示した一例を用いて詳述する。
【0041】
以下に説明する例によれは、次のパラメータを有する規定が与えられる:
・2回のサイクルの実施
・圧力制御された初期排出
・1回あたり60分の滞留時間
・1回あたり1000mlの注入
・1250mlの最終注入
・250ml/分の注入流速
・200ml/分の排出流速
【0042】
理想的治療継続時間、すなわち、方法又は患者に関連する遅延、又は、その他の遅延のいずれもが発生しない治療継続時間は以下の通りである:
初期の理想的排出継続時間を5分とする
Δtoutflow,initial,ideal=5分
この値は、調節可能であってもよいし、装置により予め設定されてもよい。
【0043】
理想的注入継続時間は、患者に適用される液量を上記予め設定された注入流速又は上記調節された注入流速で割って得られる商(Quotient)から得られる:
Δtinflow,ideal=Vinflow/Qinflow=1000ml/250ml/分=4分
【0044】
理想的排出継続時間は、除去される透析液量を上記予め設定された又は調節された排出流速で割って得られる商から得られる。除去される液量と適用される液量とが等しいと考えられる場合は、次式が成り立つ:
Δtoutflow,ideal=Voutflow/Qoutflow=1000ml/200ml/分=5分
【0045】
1回のサイクルには、1回の注入、1回の滞留時間、及び、1回の排出が含まれる。理想的サイクル継続時間Δtcycle,idealは、次の通りである。
Δtcycle,ideal=Δtinflow,ideal+Δtdwell
time,ideal+Δtoutflow,ideal=4分+60分+5分=69分
【0046】
最終注入の理想的継続時間は、最終注入量(1250ml)と注入流速(250ml/分)の商から得られる。
Δtinflow,final,ideal=Vinflow/Qinflow=1250ml/250ml/分=5分
【0047】
これから、治療全体の継続時間Δtoverall,idealが、次式により得られる。
Δtoverall,ideal=Δtoutflow,initial,ideal+2×Δtcycle,ideal+Δtinflow,final,ideal=5分+2×69分+5分=148分
【0048】
したがって、この例における治療全体の理想的継続時間は148分である。方法関連の遅延(中断、あるいは注入中又は排出中の遅延等)がなく、且つ、非方法関連の遅延(患者関連の遅延、あるいは、使用された装置関連の遅延)がない場合に、この治療継続時間が得られる。
【0049】
ここで方法関連遅延と患者関連遅延とを考慮すると、同じ治療過程(2サイクル)についての、治療全体の予測継続時間は、次式の通りである:
Δtoverall,estimated=Δtoutflow,initial+2×Δtcycle+Δtinflow,final
【0050】
一方、初期排出継続時間については、5分の時間範囲が仮定される。
【0051】
また、サイクル継続時間Δtcycleは、Δtinflow+Δtdwell
time+Δtoutflowから求められる。
【0052】
注入については、120秒の方法関連の遅延値Δtinflow,delayを仮定する。注入については、注入に関するカテーテルパフォーマンスの低下に起因して、110%を乗じた遅延値がさらに仮定される。つまり、注入継続時間は、カテーテルの特徴に起因して、カテーテルの当該特徴が存在しない理想的状態よりも10%長い。注入中の遅延に関連するカテーテルパラメータFΔtinflowを特定する場合は、注入継続時間について、次式が成り立つ:
Δtinflow=Vinflow/Qinflow×FΔtinflow+Δtinflow,delay=1000ml/250ml/分×110/100+120秒=264秒+120秒=384秒=6分24秒
FΔtinflowの値は、装置によって110%に予め設定されてもよい。基本的には、この値がユーザによって設定され得ることも考慮される。
【0053】
排出時のカテーテル起因の遅延値FΔtoutflow、及び60秒の方法関連の遅延値Δtoutflow,delayがある場合の、排出継続時間Δtoutflowについては、次式が得られる:
Δtoutflow=Voutflow/Qoutflow×FΔtoutflow+Δtoutflow,delay=1000ml/200ml/分×150/100+60秒=510秒=8分30秒
【0054】
最終注入継続時間について、値FΔtinflowが110%であり、遅延値Δtinflow,delayが120秒であると再び仮定すると、次式が得られる。
Δtinflow,final=Vinflow/Qinflow×FΔtinflow=1250ml/250ml/分×110/100+120秒=450秒=7分
【0055】
Δtinflow,delay及びΔtoutflow,delayの値は、患者の圧力の記録や注入中のバッグの交換等の方法関連の遅延に起因するものであってもよい。
【0056】
FΔtinflow及びFΔtoutflowの値は、例えば、最小値(100%)と最大値(200%)との間で変化してもよい。両方の値について、例えば、130%の規定値がそれぞれ設定又は示唆され得る。
【0057】
この結果、60秒の仮定滞留時間についてのサイクル継続時間は、次式の通りである:
Δtcycle=384秒+3600秒+510秒=4494秒=74分54秒
2回のサイクルでは、治療全体の継続時間は次式により求められる:
Δtoverall,estimated=Δtoutflow,initial+2×Δtcycle+Δtinflow,final=300s+2×4494秒+450秒=9708秒=161分48秒≒162分
【0058】
FΔtoutflowの値を編集可能、すなわち、ユーザにより変更可能とみなす場合には、様々なFΔtoutflowの値についての、排出継続時間と治療全体の予測継続時間が次の表の通りとなる。
【0059】
【0060】
1回以上の中断の時間範囲Δtbreak及び/又は通知メッセージの時間範囲Δtmessageをさらに考慮する場合には、それに応じて、予測サイクル継続時間ならびに全体の予測継続時間が延長される。これにより、中断の予測継続時間を、中断の指定された継続時間に整合させ得る。このことは、透析液の患者体内での滞留時間にも当てはまる。通知メッセージの継続時間については、値0を仮定してもよい。
【0061】
上述の通り、初期排出量Voutflow,initialを、圧力制御初期排出について予測してもよい。この予測は、以下の関係を利用して、実施することができる:
Voutflow,initial=Δtoutflow,initial,eff×Qoutflow,initial,eff
【0062】
実効排出流速Qoutflow,initial,effは、次式により、指定された排出流速Qoutflow,initial,specifiedから、次式の通り得られる:
Qoutflow,initial,eff=Qoutflow,initial,specified/FΔtoutflow
【0063】
実効排出継続時間Δtoutflow,initial,effは、次式により得られる:
Δtoutflow,initial,eff=Δtoutflow,initial,specified+Δtoutflow,delay
【0064】
FΔtoutflow及びΔtoutflow,initial,specifiedについては、例えば、110%と5分とを値として使用できる。
【0065】
この関係によって、初期排出量Voutflow,initialを決定できる。
【0066】
図1に示す経過Aは、本発明の方法により予測された過程である。過程A’は、患者体内での透析液量の実際の時間的経過を示す。符号Pは印刷イベントを示す。
【0067】
図1からわかるように、点線で示された経過Aは、決定された初期排出量から始まり、規定の時間である5分に亘って延びている。
【0068】
注入段階に続いて、患者体内滞留時間が開始される。その後、液量が0になるまでの排出段階が続く。
図1からわかるように、注入段階、滞留段階、及び排出段階は、引き続き繰り返される。
【0069】
線Bは、患者体内における透析液の最大許容量を表し、線Cは、患者体内に残留可能な最大液量を表している。
【0070】
領域Dは、治療中に除去された除水量を表す。この除水量の決定には、初期排出段階は考慮されないことになる。
【0071】
延長された期間に亘る傾向解析を行えば、カテーテルの特性が経時的に変化するか否か及びどのように変化するかが予測できる。最も効果的な排出流速と最も効果的な注入流速とは、過程A’の傾きに相当する。傾きが0の場合には、排出も注入も行われていないことになる。これは、例えば、滞留段階か、治療の中断か、方法関連のダウンタイムである。
【0072】
好ましくは、各治療が記録されることになる。記録されたレポートには、注入と排出とについての平均実効流速、つまり、平均実効注入流速及び平均実効排出流速が含まれていてもよい。これらは、治療全体について決定される。
【0073】
任意の液量が有効に身体の内外にそれぞれ移送されたとき、つまりポンプが作動している時間には、上記の決定された値は、上記流速だけを説明する。上記の実効流速は、さらに、すべての段階について記録されてもよい。上述の通り、複数の実効流速を複数の異なる時間に比較することにより、カテーテルの動作を推測可能である。
[項1]
腹膜透析治療の治療継続時間の予測方法であって、
前記治療継続時間の予測は、理想的治療継続時間に基づいて行われ、
前記理想的治療継続時間は、1つ以上の遅延値だけ増加され、
前記遅延値は、1つ以上の装置固有のパラメータ、及び/又は、1つ以上の患者固有のパラメータ、及び/又は、1つ以上の方法固有のパラメータに依存する
ことを特徴とする方法。
[項2]
項1において、
前記理想的治療継続時間は、初期排出の理想的継続時間と、理想的サイクル継続時間にサイクル数を乗じたものと、最終注入の理想的継続時間とを含む
ことを特徴とする方法。
[項3]
項1又は2において、
前記患者固有のパラメータの1つは、カテーテルパフォーマンスにより構成される
ことを特徴する方法。
[項4]
項3において、
前記カテーテルパフォーマンスは、注入継続時間と、排出継続時間と、最終注入継続時間のうちの少なくとも1つの予測時に考慮され、
好ましくは、前記カテーテルパフォーマンスは、理想的注入継続時間と、理想的排出継続時間と、最終注入の理想的継続時間のうちの少なくとも1つの、絶対的又は相対的増加のかたちで考慮される
ことを特徴する方法。
[項5]
項4において、
前記カテーテルパフォーマンスと、特に前記絶対的又は相対的増加とは、ユーザによって設定可能である
ことを特徴とする方法。
[項6]
項1~5のいずれか一項において、
前記初期排出は圧力制御された方法で実行されるとともに、前記初期排出の継続時間は装置により予め設定されるか、又は、
前記初期排出は液量制御された方法で行われるとともに、前記初期排出の継続時間は初期排出量と排出流速から決定され、
好ましくは、この方法で決定された値が、前記カテーテルパフォーマンスを説明するために、増加される
ことを特徴とする方法。
[項7]
項1~6のいずれか一項において、
前記方法固有のパラメータは、注入中及び/又は排出中の、絶対的又は相対的遅延である
ことを特徴とする方法。
[項8]
項1~7のいずれか一項において、
前記初期排出量は、前記初期排出の実効継続時間と実効排出流速とから決定される
ことを特徴する方法。
[項9]
項8において、
前記実効継続時間は、遅延時間に加えて予め設定された継続時間であり、及び/又は
前記実効排出流速は、前記予め設定された排出流速と、前記カテーテルパフォーマンスを説明する値とから決定される
ことを特徴する方法。
[項10]
項1~9のいずれか一項において、
透析液の患者体内での滞留時間の予測継続時間及び/又は治療の中断の予測継続時間として、予め設定された継続時間が使用され、及び/又は
通知メッセージの予測継続時間として、値0が仮定される
ことを特徴する方法。
[項11]
項1~10のいずれか一項において、
予測治療継続時間には、初期排出継続時間、注入継続時間、排出継続時間、患者体内での滞留時間、治療の中断の継続時間、通知メッセージの継続時間、及び、最終注入継続時間の、1つ又は複数の予測時間が含まれる
ことを特徴する方法。
[項12]
項1~11のいずれか一項において、
実効注入流速及び/又は実効排出流速が決定され、
これらのデータを経時的に記録することにより傾向解析を行うために、カテーテルパフォーマンスの変化が決定され、
好ましくは、将来の治療の治療継続時間が、変化後のカテーテルパフォーマンスに基づき予測される
ことを特徴する方法。
[項13]
項1~12のいずれか一項において、
前記治療の滞留時間は、前記予測治療継続時間に依存して変更されるか、又は、変更されない
ことを特徴する方法。
[項14]
項1~13のいずれか一項において、
前記予測治療継続時間は、上限閾値及び/又は下限閾値と比較され、
前記予測治療継続時間が、前記上限閾値を超過する場合、又は、前記下限閾値を下回る場合には、ユーザに対して表示が提供される
ことを特徴する方法。
[項15]
少なくとも1つの理論装置又は制御装置と、
1つ以上の値を入力するための少なくとも1つの入力装置と、
少なくとも1つのプロセッサと
を備えた、腹膜透析を行うための透析装置であって、
前記プロセッサは、項1~14のいずれか一項に記載の方法を実行するようプログラムされている
ことを特徴する透析装置。