(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】鋼材の防食器具、および鋼管杭の防食方法
(51)【国際特許分類】
E02D 31/06 20060101AFI20221031BHJP
E02B 1/00 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
E02D31/06 D
E02B1/00 301B
(21)【出願番号】P 2020113152
(22)【出願日】2020-06-30
【審査請求日】2021-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 勇司
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-152603(JP,A)
【文献】特開2006-125050(JP,A)
【文献】特開昭62-258022(JP,A)
【文献】特開昭61-112613(JP,A)
【文献】特開2011-184957(JP,A)
【文献】特開昭55-142810(JP,A)
【文献】実開平02-120541(JP,U)
【文献】特公昭49-008777(JP,B1)
【文献】特開昭55-065371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 31/06
E02B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底に打設され天端が海水面より上に露出している鋼管杭の一部を覆う防食器具であって、
前記鋼管杭と接合される接合部と、
前記鋼管杭の少なくとも飛沫帯に晒される部分を覆い、前記接合部により前記鋼管杭に取り付けられた状態において、L. W. L.より最大波高の半分以上低い位置において海水と通じる第1の開口部と、
側面に設けられたH. W. L.より高い位置において大気と通じる第2の開口部とを有
する容器部と、
前記第2の開口部を開閉する開閉部と
を備え
、
前記接合部が前記容器部の上端部と前記鋼管杭を水密に接合する、
鋼材の防食器具。
【請求項2】
前記容器部は、前記開閉部により前記第2の開口部が閉鎖された状態で、前記容器部の内周面と前記鋼管杭の外周面の間の空間に、前記容器部の外側の海水面より高い水位の海水を保持する
請求項1に記載の防食器具。
【請求項3】
前記接合部は前記接合部で前記鋼管杭に溶接される鋼製である
請求項1又は2に記載の防食器具。
【請求項4】
前記容器部はプラスチック製であり、
前記接合部はシール材を有する
請求項1又は2に記載の防食器具。
【請求項5】
前記容器部は透明な強化プラスチック製である
請求項4に記載の防食器具。
【請求項6】
海底に打設され天端が海水面より上に露出している鋼管杭に、L. W. L.より最大波高の半分以上低い位置において海水と通じる第1の開口部と、H. W. L.より高い位置において大気と通じる第2の開口部とを有する容器部を備える防食器具を接合部により接合し、前記容器部で前記鋼管杭の少なくとも飛沫帯に晒される部分を覆う状態に設置するステップと、
前記第2の開口部から前記容器部内の空気を吸い出し、前記容器部の内周面と前記鋼管杭の外周面の間の空間に、前記容器部の外側の海水面より高い水位まで揚水するステップと、
前記容器部の内周面と前記鋼管杭の外周面の間の空間内の水位が前記容器部の外側の海水面より高い状態において前記第2の開口部を閉鎖するステップと
を備える鋼管杭の防食方法。
【請求項7】
前記接合部は鋼製であり、
前記設置するステップは、前記接合部を前記鋼管杭に溶接するステップを含む
請求項6に記載の防食方法。
【請求項8】
前記容器部は強化プラスチック製であり、
前記設置するステップは、前記接合部が有するシール材で前記鋼管杭をシールするステップを含む
請求項6に記載の防食方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材の防食器具、および鋼管杭の防食方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海底に打設され、海上の構築物を支持する鋼管杭は、何ら対策が施されなければ、飛沫帯と呼ばれる海水飛沫に晒される部分において容易に腐食が進む。そのような腐食を低減させるための技術として、例えば特許文献1がある。
【0003】
特許文献1には、プラスチック製の防食施工型枠を、鋼管杭の最大海面位置と最小海面位置とを含む範囲を被覆するように配置し、鋼管杭と防食施工型枠との間にポリマーセメントモルタルなどの充填材を充填することで、鋼管杭の腐食を低減する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の発明による場合、現場において充填材を充填する作業を要し、手間と費用がかかる。
【0006】
上述の背景に鑑み、本発明は、従来技術と比較し、手間と費用が低減される防食手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明は、海底に打設され天端が海水面より上に露出している鋼管杭の一部を覆う防食器具であって、前記鋼管杭と接合される接合部と、前記鋼管杭の少なくとも飛沫帯に晒される部分を覆い、前記接合部により前記鋼管杭に取り付けられた状態において、L. W. L.より最大波高の半分以上低い位置において海水と通じる第1の開口部と、側面に設けられたH. W. L.より高い位置において大気と通じる第2の開口部とを有する容器部と、前記第2の開口部を開閉する開閉部とを備え、前記接合部が前記容器部の上端部と前記鋼管杭を水密に接合する、鋼材の防食器具を第1の態様として提供する。
第1の態様の鋼材の防食器具によれば、手間と費用が低減された、メインテナンス性に優れた鋼管杭の防食を実現できる。
【0008】
第1の態様の防食器具において、前記容器部は、前記開閉部により前記第2の開口部が閉鎖された状態で、前記容器部の内周面と前記鋼管杭の外周面の間の空間に、前記容器部の外側の海水面より高い水位の海水を保持する、という構成が第2の態様として採用されてもよい。
第2の態様の防食器具によれば、鋼管杭の容器部に覆われた部分を一定の海水で満たすことにより、防食を実現できる。
【0009】
第1又は第2の態様の防食器具において、前記接合部は前記接合部で前記鋼管杭に溶接される鋼製である、という構成が第3の態様として採用されてもよい。
第3の態様の防食器具によれば、溶接により鋼管杭と防食器具との接合を行うことにより、容器部内の密閉性を高めることができる。
【0010】
第1又は第2の態様の防食器具において、前記容器部はプラスチック製であり、前記接合部はシール材を有する、という構成が第4の態様として採用されてもよい。
第4の態様の防食器具によれば、容易に鋼管杭と防食器具との接合を行うことができる。
【0011】
第4の態様の防食器具において、前記容器部は透明な強化プラスチック製である、という構成が第5の態様として採用されてもよい。
第5の態様の防食器具によれば、透明な容器部を介して、海水が満たされた状態、鋼管杭の腐食状態等を視認することができる。
【0012】
また、本発明は、海底に打設され天端が海水面より上に露出している鋼管杭に、L. W. L.より最大波高の半分以上低い位置において海水と通じる第1の開口部と、H. W. L.より高い位置において大気と通じる第2の開口部とを有する容器部を備える防食器具を接合部により接合し、前記容器部で前記鋼管杭の少なくとも飛沫帯に晒される部分を覆う状態に設置するステップと、前記第2の開口部から前記容器部内の空気を吸い出し、前記容器部の内周面と前記鋼管杭の外周面の間の空間に、前記容器部の外側の海水面より高い水位まで揚水するステップと、前記容器部の内周面と前記鋼管杭の外周面の間の空間内の水位が前記容器部の外側の海水面より高い状態において前記第2の開口部を閉鎖するステップとを備える鋼管杭の防食方法を第6の態様として提供する。
第6の態様の鋼管杭の防食方法によれば、手間と費用が低減された、メインテナンス性に優れた鋼管杭の防食を実現できる。
【0013】
第6の態様の鋼管杭の防食方法において、前記接合部は鋼製であり、前記設置するステップは、前記接合部を前記鋼管杭に溶接するステップを含む、という構成が第7の態様として採用されてもよい。
第7の態様の鋼管杭の防食方法によれば、溶接により鋼管杭と防食器具との接合を行い、容器部内に密閉空間を作ることができる。
【0014】
第7の態様の鋼管杭の防食方法において、前記容器部は強化プラスチック製であり、前記設置するステップは、前記接合部が有するシール材で前記鋼管杭をシールするステップを含む、という構成が第8の態様として採用されてもよい。
第8の態様の鋼管杭の防食方法によれば、容易に鋼管杭と防食器具との接合を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態に係る防食器具を鋼管杭に取り付けた状態を示した図。
【
図2】一実施形態に係る防食器具の構成を示した図。(a)は上面図、(b)は正面図、(c)は底面図。
【
図3】一実施形態に係る防食器具の断面を示した図。
【
図4】一実施形態に係る容器部の側面開口部とバルブを示した図。
【
図5】一実施形態に係る防食器具を鋼管杭に取り付けるための構成を示した図。(a)は防食器具の容器部に対してシール部材が取り付けられる様子を示した図、(b)は鋼管杭に対して防食器具の容器部が取り付けられる様子を示した図、(c)は鋼管杭に防食器具が取り付けられた状態を示した図。
【
図6】一実施形態に係る鋼管杭の防食方法における、防食処理を施す工程を示したフローチャート。
【
図7】一実施形態に係る鋼管杭の防食方法における、鋼管杭が海底に打設された状態を示した図。
【
図8】一実施形態に係る鋼管杭の防食方法における、鋼管杭の上部に防食器具が被せられて接合された状態を示した図。
【
図9】一実施形態に係る鋼管杭の防食方法における、鋼管杭に対して支保工を設置した状態を示した図。
【
図10】一実施形態に係る鋼管杭の防食方法における、鋼管杭に上部コンクリートを構築した状態を示した図。
【
図11】一実施形態に係る鋼管杭の防食方法における、鋼管杭に電気防食陽極を取り付けた状態を示した図。
【
図12】一実施形態に係る鋼管杭の防食方法における、防食器具の容器部内の海水を揚水する処理を説明するため断面図。(a)は揚水を開始する前の状態を示した図、(b)はポンプが作動して容器部内の空気が吸い出されている状態を示した図、(c)は容器部内の海水面が上昇した状態を示した図。
【
図13】一変形例に係る防食器具を鋼管杭に取り付けた状態を示した図。
【
図14】一変形例に係る鋼管杭の防食方法における、鋼管杭に対して支保工を設置した状態を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[実施形態]
以下に本発明の一実施形態に係る鋼管杭1に用いる防食器具2を説明する。
図1は、鋼管杭1に防食器具2が取り付けられた状態を示した図である。
【0017】
鋼管杭1は、円柱形状の鋼材であり、海底SBに打設され、上部が海面H. W. L. (Hight Water Level、朔望平均満潮面)より上に露出している。
【0018】
防食器具2は、円柱形状の容器であり、鋼管杭1の上部の外周面を覆うような状態で取り付けられている。防食器具2は、容器部21、接合部であるシール材22、開閉部であるバルブ23とから構成されている。容器部21は、円筒形状であり、図中の上側に上側開口部211、下側(海底SB側)に下側開口部212(第1の開口部の一例)を有し、さらに、円柱形状の側面に設けられたバルブ23の横に側面開口部213(第2の開口部の一例)を有する。
【0019】
容器部21の下部側の下端位置は、海面L. W. L. (Low Water Level、朔望平均干潮面)よりも、最大波高(図中のWH)の半分以上低い位置となるように設置する。容器部21の上端位置は、鋼管杭1の海面L. W. L.と海面H. W. L.との間の干満帯に晒される部分を覆い、さらに、干満帯の上側の、波が鋼管杭1に衝突し砕けた海水飛沫を浴びる飛沫帯に晒される部分を覆うように設置する。
【0020】
図2は、防食器具2の構成を示した図である。
図2(a)は上面図、
図2(b)は正面図、
図2(c)は底面図である。
【0021】
防食器具2の容器部21は、透明な円筒形状の強化プラスチックにより構成される。容器部21は、上端側に上側開口部211が形成されており、下端側に下側開口部212が形成されている。すなわち、容器部21は、上端側、下端側ともに開放された状態となっている。容器部21の円筒形状の側面には、バルブ23が取り付けられている。バルブ23は、
図1に示したように、海面H. W. L.よりも上方に位置し、さらに飛沫帯より上方に位置することがより望ましい。
【0022】
図3は、
図2(a)におけるA-A断面を示した図である。防食器具2の容器部21の側面には、側面開口部213が形成されている。側面開口部213は、容器部21の内周面から外周面へと貫通する穴として形成されている。そして、側面開口部213の外周側にはバルブ23が取り付けられる。バルブ23は、側面開口部213を外側に対して開放したり、閉じたりするために用いられる。シール材22は、容器部21の上側開口部211の内周に沿って配置される。
【0023】
図4は、
図3の断面図のうち、バルブ23と側面開口部213の付近を拡大して示した図である。容器部21に形成された側面開口部213には、側面開口部213を覆うようにバルブ23が設けられている。バルブ23は、側面開口部213への海水の流れを制御するために側面開口部213の外側を開閉する。
【0024】
バルブ23は、容器部21の側面開口部213が形成された位置の外周側に円筒形状の突出管231と、突出管231内に設けられる円形の開閉弁232と、開閉弁232が回転するための回転軸となる弁軸233と、弁軸233を回転させるためのハンドル234とから構成されている。開閉弁232は、弁軸233を中心にして回転可能であり、
図4に示すような円形面が紙面に垂直方向となっている位置では、突出管231内を海水が流れるのを止めることができる。開閉弁232の円形面が紙面の垂直方向に対して傾きを持つ位置では、開閉弁232の外周と突出管231の内周面との間に隙間ができ、海水が流れる状態となる。
【0025】
ハンドル234は、弁軸233と結合されており、ハンドル234を回転させることにより、弁軸233、開閉弁232を回転させることができる。作業者は、ハンドル234を回転操作することにより、開閉弁232を回転させることができ、開閉弁232の位置を、海水の流れを止める位置(以下、閉状態という)と、海水が流れる状態にする位置(以下、開状態という)とを切り換えることができる。
【0026】
突出管231の側面開口部213との反対側は、開口しており、開閉弁232が開状態の位置であるときは、海水は、容器部21の内周側から側面開口部213を介して突出管231から外側へ流れ出ることができる。なお、開閉弁232が閉状態となっているときには、突出管231の外側開口にゴム製等の閉塞用キャップを設置しても良い。
【0027】
図5は、防食器具2を構成するシール材22が容器部21に取り付けられ、さらに、防食器具2が鋼管杭1に取り付けられた状態を示した図である。
図5(a)は、容器部21に対してシール材22が取り付けられる様子を示した図である。作業者は、ドーナツ形状のシール材22の外周側に水密封止を行うための塗材であるシーラーを塗る。そして、シール材22を容器部21の上側開口部211に嵌め込み、シール材22を上側開口部211の内周面に接着させる。
【0028】
図5(b)は、鋼管杭1に対して、シール材22が取り付けられた容器部21が取り付けられる様子を示した図である。作業者は、シール材22の内周側にシーラーを塗る。そして、鋼管杭1の天端から容器部21を被せ、適切な位置でシール材22を鋼管杭1の外周面に接着させる。このようにして、防食器具2の容器部21が鋼管杭1に取り付けられる。この際に、シール材22は、鋼管杭1と容器部21を接合する接合部としての役割を果たす。
【0029】
図5(c)は、鋼管杭1に防食器具2が取り付けられた状態を示した図である。シール材22を鋼管杭1に接着させる位置は、シール材22が取り付けられた容器部21の上側開口部211を鋼管杭1の天端が上方へ突き抜け、鋼管杭1が容器部21を貫通した位置である。シール材22は、鋼管杭1が海底SBに打設された状態における海面H. W. L.より高い位置に取り付けられ、飛沫帯より高い位置に取り付けられることがより望ましい。
【0030】
図6は、本実施形態に係る防食器具2を鋼管杭1に取り付けて、防食処理を施す工程を示したフローチャートである。
図7乃至
図11は、防食処理を施す工程を説明するための図である。
【0031】
まず、鋼管杭1を海底SBに打設して設置する(ステップS601)。
図7は、海底SBに打設された複数の鋼管杭1を示している。続いて、作業者は、防食器具2の容器部21にシール材22を取り付ける(ステップS602)。作業者は、シール材22の外周側にシーラーを塗り、容器部21の上側開口部211の内周面にシール材22を取り付けて接着させる。
【0032】
続いて、作業者は、鋼管杭1の上部に防食器具2を設置する(ステップS603)。シール材22の内周側にシーラーを塗り、防食器具2を鋼管杭1に天端側から被せ、鋼管杭1に天端が防食器具2の容器部21の上側開口部211を突き抜ける状態とする。そして、シール材22の内周側が鋼管杭1の外周面に接触し、シーラーによって接合される状態とする。以上のようにして、防食器具2は、シール材22を介して鋼管杭1に接合される。
図8は、複数の鋼管杭1の上部の各々に防食器具2が被せられて接合された状態を示している。
【0033】
続いて、作業者は、鋼管杭1の上部に支保工3を設置する(ステップS604)。
図9は、複数の鋼管杭1に対して支保工3を設置した状態を示している。支保工3は、上部工コンクリートを打設する際に使用する型枠を支持するための仮設構造物である。続いて、作業者は、支保工3上に型枠を設置し(ステップS605)、上部工コンクリート4を打設する(ステップS606)。続いて、作業者は、型枠を取り外す(ステップS607)。
図10は、支保工3上に上部工コンクリート4が構築された状態を示している。
【0034】
続いて、作業者は、防食器具2の容器部21内のバルブ23より空気を吸い出して、容器部21内に海水を揚水する処理を行う(ステップS608)。続いて、作業者は、鋼管杭1の防食器具2で覆われた部分の下方の海水に浸かった位置に電気防食陽極5を取り付ける処理を行う(ステップS609)。
図11は、複数の鋼管杭1の各々に電気防食陽極を取り付けた状態を示している。
【0035】
図12は、
図6のフローチャートにおけるステップS608の容器部21内の海水を揚水する処理を説明するための図である。
【0036】
図12(a)は、揚水を開始する前の状態を示している。バルブ23は開状態となっており、側面開口部213は開放された状態である。この場合、容器部21内の海水面は、容器部21の外側の海水面と同じ高さとなる。この状態で、作業者は、バルブ23の外側からポンプPを取り付ける。そして、作業者はポンプPを作動させる。
【0037】
図12(b)は、ポンプPが作動して、側面開口部213から容器部21内の空気が吸い出されている状態を示している。ここで、「容器部21内」とは、容器部21の内周面と鋼管杭1の外周面とシール材22とで囲まれた空間内を意味する。ポンプPにより、容器部21内の空気が吸い出されることにより、容器部21内は負圧がかけられた状態となり、容器部21内の海水面が上昇する。
【0038】
海水面が側面開口部213の位置まで上昇すると、側面開口部213から外部へと海水が流れ出す。この状態になったとき、作業者は、バルブ23のハンドル234を操作して、バルブ23を閉状態とする。そして、作業者は、ポンプPの作動を止める。そうすると、外部へと流れ出そうとしていた海水が逆流して、側面開口部213から容器部21内へと流れようとする。しかしながら、バルブ23の開閉弁232の働きにより、側面開口部213は閉鎖され、容器部21内には一定の負圧がかかった状態となり、逆流する海水は止められる。この状態で、作業者は、バルブ23からポンプPを外す。なお、容器部21内に負圧が生じた状態となっていることを確認できたら、突出管231の外側開口にゴム製等の閉塞用キャップを設置しても良い。
【0039】
その結果、容器部21内が、飛沫帯より高い位置まで常時海水で満たされることになる。
図12(c)は、容器部21内の海水面が側面開口部213の位置まで上昇した状態で、バルブ23が閉状態となっている状態を示している。
【0040】
以上説明したような実施形態によれば、以下のような効果が得られる。
(1)防食器具2により、鋼管杭1の干満帯、飛沫帯に対応する表面部分を覆い、それらの部分を常時海水で満たすことができる。その結果、干満帯、飛沫帯の部分に関しても、常に海面下にあって海水に浸されている部分と同様の環境下に置かれることになり、腐食の進行が低減される。また、電気防食が施される場合、その効果によりさらに腐食が抑えられる。なお、防食器具2の内周面と鋼管杭1の外周面との間の隙間は、少なくとも1mm以上であればよい。
【0041】
(2)防食器具2の容器部21が透明なプラスチック製であるので、ポンプPを用いて容器部21内に海水を揚水する際に、容器部21内に海水が満たされている様子が確認できる。また、施工後においても、海水が満たされている様子が確認でき、さらに、透明な容器部21を介して鋼管杭1の表面が視認できるため、施工後に鋼管杭1の腐食が生じていないことを、あるいは腐食が生じている場合は腐食の程度を確認することができる。
【0042】
(3)施工後に、容器部21に汚れが付着して、鋼管杭1が視認しにくくなった場合には、バルブ23を開状態にして容器部21内の海水を抜いた後に容器部21の内側と外側を洗浄することができる。そして、再度容器部21内の海水の揚水を行って、容器部21内を海水で満たした状態に回復することができる。
【0043】
(4)従来のように、鋼管杭の上部に重防食被覆を施した場合(鋼管杭の干満帯、飛沫帯に対応する部分をポリエチレンあるいはポリウレタン等で被覆した場合)と比べて、施工時に鋼管杭の打設の際の低止まり又は高止まりが生じた場合に、本実施形態には以下のような効果がある。
【0044】
低止まりが生じた場合、すなわち、鋼管杭の打設後に、所望の支持力が得られなかった場合であり、想定の打設深度よりも深い位置まで打設する場合、海面に対して鋼管杭の天端の高さが想定していた高さより低くなる。このため、鋼管杭の天端の上に継ぎ杭を溶接した後に、さらに工事現場で継ぎ杭した部分に重防食を施す必要が生じる。
このような場合でも、本実施形態によれば、継ぎ杭を溶接した後に、継ぎ杭の部分の上から防食器具2の容器部21を被せればよいので、継ぎ杭を施す以外に工程が増えることがない。
【0045】
また、高止まりが生じた場合、すなわち、鋼管杭の打設の際に、想定した深さまで鋼管杭を打ち込めなかった場合、海面に対して鋼管杭の天端の高さが想定していた高さより高くなる。このため、鋼管杭の上部を切断して高さを低くすることになる。この場合、重防食を施した部分が切断されてしまうため、切断した後の鋼管杭の上部の必要な範囲を満たすように、工事現場で重防食を施す必要が生じる。
このような場合でも、本実施形態によれば、切断された後の鋼管杭の天端の上から防食器具2の容器部21を被せればよいので、鋼管杭の上部の切断以外に工程が増えることがない。
【0046】
[変形例]
上述の実施形態は様々に変形され得る。以下に、それらの変形の例を示す。なお、以下に示す2以上の変形例が適宜組み合わされてもよい。
【0047】
(1)上述の実施形態においては、防食器具2の容器部21は、強化プラスチックを材料として構成されるものとしたが、鋼材で構成されるものとしてもよい。
図13は、変形例に係る防食器具250を鋼管杭1に取り付けた状態を示した図である。海底SBに打設された鋼管杭1は上述の実施形態と同様の部材である。防食器具250は、容器部251およびバルブ253とから構成されている。
【0048】
容器部251は、上述の実施形態の容器部21と同様の形状であるが、鋼材により構成されている。容器部251には、上述の実施形態の容器部21と同様に、上側開口部2511、下側開口部2512、および側面開口部2513が設けられている。バルブ253は、上述の実施形態とバルブ23と同様の部材である。上述の実施形態と同様に、容器部251の下部側の下端位置は、海面L. W. L.よりも最大波高の半分(WH/2)以上低い位置となるように設置される。
【0049】
打設された鋼管杭1に対して鋼管杭1の天端から下側開口部2512、上側開口部2511を介して防食器具250を嵌め込み、所定の位置で仮止めした後に、上側開口部2511の内周面と鋼管杭1の外周面とを溶接で剛接合することで、鋼材で構成された防食器具250を鋼管杭1に取り付けることができる。
【0050】
以上説明したような変形例によれば、以下のような効果が得られる。
図9~
図11に示したように、鋼管杭の上に上部工コンクリート4を打設するためには支保工3が必要となる。この変形例においては、防食器具250の容器部251が鋼製であるため、通常鋼管杭に溶接して設置する支保工を容器部251に溶接して設置することができる。
図14は、容器部251の外面にブラケット61を溶接し、そのブラケット61の上に鋼材62を載せることで支保工6を形成する例を示している。
図9と
図14を比較すると明らかなように、支保工を容器部251に溶接することで、支保工に要する鋼材の数量を少なくすることができる。
【0051】
(2)上述の実施形態においては、工事現場においてシール材22を防食器具2に取り付けた後で、鋼管杭1にシール材22と防食器具2の容器部21を接合するものとしたが、防食器具2の容器部21に予めシール材22を取り付けておいてもよい。この場合、シール材22の外周にシーラーを塗り、上側開口部211の内周面に接着しておく。そして、容器部21を設置する際に容器部21に取り付けられたシール材22の内周にシーラーを塗り、容器部21を鋼管杭1に貫通させ、シール材22の内周側と鋼管杭1の外周面とを接着させる。このようにすることにより、工事現場にて、鋼管杭1にシール材22を取り付ける作業が削減される。
【0052】
(3)上述の実施形態において、容器部21は一体となった形状のものとしたが、垂直方向に複数に分割し、各分割部材を溶接、ボルト等により一体化させるようにしてもよい。一体化した際に接合面に隙間が生じず側面開口部213から負圧をかけた際に圧が漏れ出なければ、容器部21を複数の部材から構成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…鋼管杭、2…防食器具、3…支保工、4…上部工コンクリート、5…電気防食陽極、6…支保工、21…容器部、22…シール材(接合部)、23…バルブ(開閉部)、61…ブラケット、62…鋼材、211…上側開口部、212…下側開口部、213…側面開口部、231…突出管、232…開閉弁、233…弁軸、234…ハンドル、250…防食器具、251…容器部、253…バルブ、2511…上側開口部、2512…下側開口部、2513…側面開口部、H. W. L. …朔望平均満潮面、L. W. L. …朔望平均干潮面、SB…海底。