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  • 特許-電極塗工材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】電極塗工材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20221031BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20221031BHJP
   B01F 23/53 20220101ALI20221031BHJP
   B01F 35/222 20220101ALI20221031BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20221031BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
H01M4/139
B01F23/53
B01F35/222
H01G11/86
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020181437
(22)【出願日】2020-10-29
(65)【公開番号】P2022072145
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2021-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大工原 秀吾
【審査官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-252999(JP,A)
【文献】特開2013-114747(JP,A)
【文献】特開2014-041782(JP,A)
【文献】特表2016-524307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空または多孔質の電極原料粒子を混練溶媒とともにミキサーで混練する際の前記ミキサーの駆動トルクについて,前記電極原料粒子の中空構造または多孔構造を圧壊しない上限値を定める上限トルク決定工程と,
前記上限トルク決定工程で決定した上限値以下の駆動トルクで前記ミキサーを駆動することで,前記電極原料粒子を前記混練溶媒と混合した湿潤体である電極塗工材を得る混練工程とを有し,
前記上限トルク決定工程では,
前記電極原料粒子が加圧により圧壊するときの圧壊力の測定値に基づく圧壊強度もしくは前記電極原料粒子のメーカーによる圧壊強度の公称値に基づく混練時の擦れ合い力Fと,
混練時に剪断応力を受ける領域の体積Vと,
混練時に剪断応力を受ける領域内の前記電極原料粒子の個数Nとにより,
T = F×N×V
で定められるTを駆動トルクの上限値とする電極塗工材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電極塗工材の製造方法であって,前記混練工程では,
前記ミキサーの駆動トルクを測定することと,
測定される駆動トルクの値が前記上限値以下となるように混練速度を調整することとを行う電極塗工材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示技術は,電極塗工材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から,電池の電極活物質その他の電極原料の粒子を溶媒と混合して,集電体の表面に塗工するための塗工材とすることが行われている。特許文献1に開示されている技術もその例である。同文献の技術では,スラリー温度および「ひずみ速度」を管理しながら混練を行うようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-073363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術による電極塗工材の製造には,次のような問題点があった。高出力用途の電池向けの場合には,原料粒子として中空構造または多孔構造(以下,まとめて「中空多孔構造」という。)のものを用いることがある。中空多孔構造の原料粒子を溶媒とともに混練すると,原料粒子の中空多孔構造が破壊されることがある。これでは高出力用途への対応ができない。特許文献1のようにスラリー温度および「ひずみ速度」を管理しながら混練しても,中空多孔構造の破壊は防止できない。
【0005】
本開示技術は,前記した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,原料粒子の中空多孔構造を破壊することなく原料粒子を混練溶媒と混練して湿潤体とすることができる電極塗工材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示技術の一態様における電極塗工材の製造方法は,中空または多孔質の電極原料粒子を混練溶媒とともにミキサーで混練する際のミキサーの駆動トルクについて,電極原料粒子の中空構造または多孔構造を圧壊しない上限値を定める上限トルク決定工程と,上限トルク決定工程で決定した上限値以下の駆動トルクでミキサーを駆動することで,電極原料粒子を混練溶媒と混合した湿潤体である電極塗工材を得る混練工程とを有する。ここで上限トルク決定工程では,電極原料粒子が加圧により圧壊するときの圧壊力の測定値に基づく圧壊強度もしくは前記電極原料粒子のメーカーによる圧壊強度の公称値に基づく混練時の擦れ合い力Fと,混練時に剪断応力を受ける領域の体積Vと,混練時に剪断応力を受ける領域内の電極原料粒子の個数Nとにより, T = F×N×V で定められるTを駆動トルクの上限値とする。
【0007】
上記態様における電極塗工材の製造方法では,混練工程の際に,上限トルク決定工程で決定した上限値を超えない範囲内の駆動トルクでミキサーを駆動するので,電極原料粒子の中空多孔構造を維持したまま湿潤体である電極塗工材を得ることができる。この電極塗工材を用いて塗工工程を行った電極板,およびその電極板を用いて構成した電池も,本開示技術に係る電極塗工材の製造方法により製造されたものに含まれる。
【0008】
上記態様における電極塗工材の製造方法の混練工程ではさらに,ミキサーの駆動トルクを測定することと,測定される駆動トルクの値が上限値以下となるように混練速度を調整することとを行うことが望ましい。これにより,混練中に混練抵抗の変動があったとしても駆動トルクをその上限値以下に維持することができる。
【発明の効果】
【0009】
本開示技術によれば,原料粒子の中空多孔構造を破壊することなく原料粒子を混練溶媒と混練して湿潤体とすることができる電極塗工材の製造方法が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】電極板の製造プロセスの概要を示す模式図である。
図2】混練工程で使用する混練装置の機能ブロック図である。
図3】ミキサー内の電極原料粒子および混練羽根の状況を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下,本開示技術を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,図1に示す手順による電極板の製造のうちの「混練」の部分に本開示技術を適用したものである。混練の工程では,電極原料粒子を混練溶媒とともに混練して湿潤体を得る。この湿潤体が,その後の塗工工程で塗工材として使用される。本形態では,電極原料粒子として,活物質および添加材の粒子を用いる。添加材としては導電材,結着剤,増粘剤等が挙げられる。活物質の粒子としては,中空のもの,または多孔質のものを用いる。混練溶媒としては水または有機溶剤が用いられる。
【0012】
本形態における混練工程では,図2に示す機能構成の混練装置を用いる。これは,ミキサー1と制御回路2とを有するものである。制御回路2は,ミキサー1の駆動モータ3の駆動トルクを測定しつつその回転速度を制御するものである。トルク測定の方法は,電力値,電流値等のモニタリングによるもの,駆動伝達系統の歪み測定によるもの等,何でもよい。ミキサー1の種類は,プラネタリーミキサー,二軸混練機,3本ロールミルなど特に限定はない。
【0013】
本形態における混練工程では,制御回路2により,駆動モータ3の駆動トルクを一定の範囲内に維持するように,その回転速度を調節する。駆動トルクに着目するのは,電極原料粒子の中空構造または多孔構造を破壊しないためである。そのため,混練工程に先立ち上限トルク決定工程を行う。
【0014】
図3に,ミキサー1(混練羽根5を有する形式のものである場合)内の電極原料粒子4および混練羽根5の状況を示す。ミキサー1内で被混練物は,混練羽根5とハウジング6とに挟まれ,混練羽根5の移動により剪断応力を受ける。この剪断応力は,電極原料粒子4の中空構造または多孔構造を破壊しようとする要因である。剪断応力により個々の電極原料粒子4に掛かる応力を擦れ合い力という。
【0015】
ミキサー1内で個々の電極原料粒子4が受ける擦れ合い力Fは,次式で表される。
F = τ/N …………(1)
τ:混練羽根5とハウジング6とに挟まれた領域の被混練物に掛かる剪断応力
N:同領域内の電極原料粒子4の個数
【0016】
上記で「」の個数は,混練羽根5とハウジング6との最近接領域(図3中の領域A)内に存在する電極原料粒子4の個数である。混練時の剪断応力はこの領域内の被混練物に掛かるからである。
【0017】
(1)式中の被混練物に掛かる剪断応力τは,次式で表される。
τ = T/V …………(2)
T:駆動モータ3の駆動トルク
V:剪断応力を受ける領域(領域A)の体積
【0018】
(1)式および(2)式から,擦れ合い力Fを次式で表すことができる。
F = T/(N×V) …………(3)
【0019】
駆動トルクTについては次式が成り立つ。
T = μ×u×S …………(4)
μ:被混練物の粘度
u:混練羽根5の先端のハウジング6に対する相対速度
S:剪断応力を受ける領域(領域A)を図3中で上方から見た面積
【0020】
(3)式および(4)式から,擦れ合い力Fを次式で表すことができる。
F = (μ×u)/(N×h) …………(5)
h:混練羽根5の先端とハウジング6との間のクリアランス(=V/S)
【0021】
(5)式では,擦れ合い力Fが,被混練物の粘度μと,混練羽根5の相対速度uと,剪断応力を受ける電極原料粒子4の個数Nと,混練羽根5のクリアランスhとで表されている。これらはいずれも,既知値,または測定,算出が可能な値である。粘度μは適当な粘度計で測定できる。相対速度uは,駆動モータ3の回転速度と混練羽根5の最大径から算出できる。個数Nは,被混練物において電極原料粒子4が占める体積と,1個の電極原料粒子4の体積の比から算出できる。原料の粒径は画像解析または適当な粒度計で測定可能であり,原料メーカーによる公称値があればそれでもよい。体積Vは,ミキサー1のクリアランスhと図3中の奥行き方向の寸法と混練羽根5の先端部の厚さから算出できる。クリアランスh等はミキサー1の仕様による既知値である。
【0022】
本形態の混練工程で駆動トルクを一定の範囲内に維持するのは,個々の電極原料粒子4の中空多孔構造を破壊しないためである。中空多孔構造である電極原料粒子4に掛かる擦れ合い力Fが過大となると,中空多孔構造が破壊されてしまう(これを「圧壊」という。)からである。中空多孔構造の破壊されにくさの指標を圧壊強度(次元は圧力と同じ)という。混練時の擦れ合い力Fは,圧壊強度に基づく上限値以下でなければならない。
【0023】
電極原料粒子4が加圧により圧壊するときの圧壊力は,ナノシーズ社製の微小粒子圧壊力測定装置「NS-A100型」を用いて測定することができる。圧壊力を測定すればそれに基づき圧壊強度を算出することができる。原料粒子メーカーによる圧壊強度の公称値がある場合にはそれでもよい。圧壊強度が分かれば,擦れ合い力Fの上限を定めることができる。
【0024】
擦れ合い力Fの上限が圧壊強度により定まれば,上記(3)式に基づく次式により,駆動トルクTの上限を定めることができる。
T = F×N×V …………(6)
【0025】
よって本形態では,駆動モータ3の駆動トルクTを上記の上限トルク決定工程のようにして定められる上限値以下にするようにして混練工程を実施する。混練工程中に駆動トルクTの測定を行い,測定される駆動トルクTが上記上限値を上回っていた場合には,駆動モータ3の回転速度を下げることで駆動トルクTを下げる。これにより,駆動トルクTを上限値以下に抑える。
【0026】
混練を続けていると,被混練物の粘度μが低下することで,測定される駆動トルクTが低下する場合がある。この場合には,混練の効率低下防止のため,回転速度を上げてもよい。駆動トルクTの下限値を設定してもよい。測定される駆動トルクTが下限値を下回っていた場合に回転速度を上げるのである。ただし当然,回転速度を上げる場合でも,駆動トルクTが上記上限値を超えない範囲内とする。このような制御を行うことで,被混練物を均一に分散させるために必要な混練力を掛けつつ,電極原料粒子4を圧壊させることもない適正な応力を与え続けることができる。
【0027】
上限値以下の駆動トルクで混練工程を行うことにより,電極原料粒子4の中空多孔構造を維持したままの湿潤体,つまり電極塗工材を得ることができる。この塗工材を用いることで,電極原料粒子4の中空多孔構造が維持されている電極板,電池を得ることができる。このような電極板,電池は,高出力用途に適したものである。
【実施例
【0028】
以下に実施例を説明する。本実施例では,リチウムイオン電池の正極用電極板を製造する場合を取り扱う。本実施例で使用した材料は,以下の通りである。
活物質:三元系複合リチウム金属酸化物
導電材:アセチレンブラック,カーボンナノチューブ
結着剤:ポリフッ化ビニリデン
増粘剤:使用せず
混練溶媒:N-メチル-2-ピロリドン
【0029】
固形成分の配合比は,重量%で次の通りとした。
活物質粒子 :93.62
アセチレンブラック : 3.92
カーボンナノチューブ: 0.98
ポリフッ化ビニリデン: 1.48
【0030】
上記の固形成分と混練溶媒とを,固形分比率80重量%で混合し,被混練物とした。混練はロールミルで行った。
【0031】
活物質粒子の圧壊強度の測定結果を表1に示す。ここでは,中空構造のものと多孔質のものとを2種類ずつ,計4種類を対象とした。測定は前述の微小粒子圧壊力測定装置を用いて圧壊時の圧壊力を測定し,これに基づき算出することで行った。表1中には,粒子径(直径)の測定値と,圧壊強度に基づく上限トルク値も合わせて載せている。
【0032】
【表1】
【0033】
上記の圧壊力の測定についてさらに詳細に説明する。当該測定は,上記測定装置により,通常の実験室環境下にて以下のようにして行った。
・ステージ上にサンプルの粉末を自由落下により散布する。
・ステージ上に散布したサンプルに圧壊針を押し付ける。
・押し付け力の波形チャートを記録する。
・波形チャート上で,押し付け力のピーク値とベースライン(押付開始前のレベル)との差を圧壊力G[N]とする。
【0034】
上記のように測定した圧壊力Gを,JIS Z 8844:2019に基づく次式に当てはめて圧壊強度P[Pa]を算出した。
P = (2.8×G)/(π×D2) …………(7)
【0035】
(7)式で「D」は押しつぶしの対象となった粒子の直径[m]である。(7)式の計算に使用した直径Dは,次のようにして求めたものである。
・圧壊針とステージに挟まれた粒子の画像を撮像した。
・上記画像を画像解析ソフト「WinROOF」で解析し,1粒子ごとに粒子径を測定した。
【0036】
表1中の「中空材1」のサンプルの10個の粒子について上記の測定をした結果を表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
表1中の「中空材1」の粒子径および圧壊強度は,表2中の「平均」の粒子径および圧壊強度である。表1中の「圧壊強度」の標準偏差は2.96[MPa]であった。表1中の「中空材2」,「多孔質材1」,「多孔質材2」の欄のデータも,それぞれのサンプルに対して同じ測定を行った結果に基づくものである。
【0039】
上記のようにして求めた圧壊強度が,前出の(6)式における擦れ合い力Fの上限値となる。あとは個数Nが決まれば駆動トルクTの上限も決まる。個数Nは,次式で求められる。
N = {V×(π/sqrt(18))}/{(π×D3)/6} …………(8)
【0040】
(8)式の右辺の分子は,剪断応力を受ける領域の体積Vのうち,電極原料粒子4が占める体積である。これは,当該領域内で球形の粒子が最密に充填されていると仮定しての幾何学上の理論式によるものである。当該領域は混練羽根5の移動による加圧を受けているからである。したがって被混練物全体の配合比率からの計算値よりも高い値となる。体積Vは前述のようにミキサー1の仕様による既知値である。
【0041】
(8)式の右辺の分母は,1個の電極原料粒子4(直径D)の体積である。直径Dとしては表1中の「粒子径」を用いることができる。(8)式は次のように解ける。表1中の「粒子径」は,この(9)式により求めたものである。
N = 1.41×(V/D3) …………(9)
【0042】
表1の4種の活物質粒子に対して,上記の配合条件で実際に混練を行い,圧壊が生じるか否かを検査した。ミキサー1の種類としてはロールミルを用いた。混練時の駆動トルクは,30,60,90[N・m]の3水準とした。塗工後の電極層を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して,圧壊が生じているかいないかを判定した。結果を表3に示す。
【0043】
表3では,「駆動トルク」の欄の一部のものを太斜体字で示している。これは,対応する材種における表1中の「上限トルク」を上回っているものである。つまり,混練の実施により電極原料粒子4に圧壊強度を超える擦れ合い力Fが掛かると予想されるものである。これに対して表3中の通常フォントの「駆動トルク」は,「上限トルク」以下のものである。つまり,混練中でも電極原料粒子4に掛かる擦れ合い力Fが圧壊強度に達することはないと予想されるものである。
【0044】
【表3】
【0045】
表3では,駆動トルクが上限トルク以下であるものはすべて「圧壊」が「なし」になっており,駆動トルクが上限トルクを超えているものはすべて「圧壊」が「あり」になっている。これより,駆動トルクと圧壊の有無の関係は明らかである。「評価」の欄は,圧壊なしのものを「良」とし,圧壊ありものを「否」としている。
【0046】
表3の「備考」の欄は,塗工後の電極層における電極原料粒子4の凝集塊の有無の評価結果である。SEM観察により20μm以上の大きさの凝集塊が見られたものを空欄とし,そのような凝集塊がなかったものを「※」としている。凝集塊があったということは,混練の程度が不十分であったということである。「中空材1」,「中空材2」のものでは,「評価」が「良」であるもののうち「駆動トルク」が高めのものでは凝集塊がなく,低めのものでは凝集塊が観察されている。
【0047】
表3では,「多孔質材1」,「多孔質材2」にはすべて凝集塊が見られたことになっている。しかしこのことは,多孔質の電極原料粒子4に対しては本形態の製造方法を適用できない,ということを意味するものではない。表1中の「多孔質材1」,「多孔質材2」の「上限トルク」は30[N・m]よりもかなり高いので,圧壊を起こさずかつ凝集塊を解消させることができるトルク値を見つけることは可能だからである。
【0048】
駆動トルクを上げることなく凝集塊を解消させることも可能である。例えば,ミキサー1の種類によっては,混練時間を延長することで,駆動トルクを上げることなく凝集塊を解消させることができるものもある。電極原料粒子4を混合,混練に供する前に凝集塊を解消する処理を別途行っておくこともできる。この場合には,混練により凝集塊を解消させるということを考慮する必要がない。これらのいずれかの手段により,多孔質の電極原料粒子4に対しても本形態の製造方法を適用することができる。
【0049】
上限トルクの決定に当たっては,前述の微小粒子圧壊力測定装置による圧壊力を測定を必ずしなければならないという訳ではない。表3に示したように,駆動トルクを変更しつつ混練を試行して結果物を判定することのみで上限トルクを決定してもよい。
【0050】
決定した上限トルクは一般的に,同一の製造ロット内の同一の原料に対して有効である。同一の仕様の原料であっても製造ロットが異なると電極原料粒子4の圧壊強度が異なることがありうる。そのため,電極原料粒子4の製造ロットごとに改めて上限トルク決定工程を行うことが望ましい。
【0051】
以上詳細に説明したように本実施の形態によれば,電極原料粒子4の中空多孔構造を圧壊しない上限トルクを定め,ミキサーの駆動トルクが上限トルクを超えないようにしつつ混練工程を行うようにしている。これにより,電極原料粒子4の中空多孔構造を破壊することなく原料粒子を混練溶媒と混練して湿潤体とすることができる電極塗工材の製造方法が実現されている。上限トルクは,個々の電極原料粒子4が圧壊しない上限擦れ合い力である圧壊強度([Pa])と,混練の剪断応力を受ける領域内の電極原料粒子4の個数と,混練の剪断応力を受ける領域の体積との積で求めることができる。
【0052】
本実施の形態および実施例は単なる例示にすぎず,本開示技術を何ら限定するものではない。したがって本開示技術は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば適用対象は,リチウムイオン電池の正極に限られない。同電池の正極でもよいし,リチウムイオン電池以外の電池の正負の電極でもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 ミキサー
2 制御回路
3 駆動モータ
4 電極原料粒子
5 混練羽根
6 ハウジング
図1
図2
図3