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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】高分子アニオン伝導膜
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/40 20060101AFI20221031BHJP
   C07D 235/18 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
C08G65/40
C07D235/18 CSP
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020520125
(86)(22)【出願日】2018-10-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-24
(86)【国際出願番号】 EP2018078184
(87)【国際公開番号】W WO2019076860
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-05-21
(31)【優先権主張番号】17196802.7
(32)【優先日】2017-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オリバー コンラーディ
(72)【発明者】
【氏名】アルチョム マルユッシュ
(72)【発明者】
【氏名】ハラルド レーグル
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/117678(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C08G
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(Ia)または(Ib)で表される少なくとも1つの単位を含む化合物であって、
前記式中、R、R、R、およびRは、-Hであり
およびR11は、メチルであり、
およびR10は、同じまたは異なっており、
、R、およびRは、-Hであり、
前記化合物はポリマー化合物であり、ポリマーラジカルR およびR 10 は、式(IIa)および/または(IIb)および/または(IIIa)および/または(IIIb)で表される1つ以上の単位を有し、
前記式中、R 、R 、R 、R 、R 、R 、R 、R 、およびR 11 は、上記で定義したとおりであり、Lは、1~25であり、RxおよびRyは、同じまたは異なっており、Rx’およびRy’は、同じまたは異なっており、かつ、Rx、Ry、Rx’、およびRy’は、アルキル、フェニル、またはペルフルオロアルキルラジカルである
ことを特徴とする、化合物。
【請求項2】
前記化合物は、前記式(Ia)または(Ib)で表される少なくとも2つの単位を有するオリゴマーまたはポリマーであることを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
およびR10は、ポリマーラジカルであることを特徴とする、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
またはR10のラジカルのうち少なくとも1つは、酸素原子を介して前記環炭素原子に結合することを特徴とする、請求項1~3の少なくともいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
式(Ia)または(Ib)で表される少なくとも1つの単位を含む化合物であって、
前記式中、R 、R 、R 、およびR は、-Hであり、
およびR 11 は、メチルであり、
およびR 10 は、同じまたは異なっており、
、R 、およびR は、-Hであり、
前記化合物は、式(IVa)、(IVb)、(IVc)、(IVd)、(IVe)、または(IVf)で表される化合物であり、


前記式中、R、R、R、R、R、R、R、およびRは、上記で定義したとおりであり、Lは、1~25、L’は、2~25、であり、Mは、1~500であることを特徴とする、
化合物
【請求項6】
式(Ia)または(Ib)で表される少なくとも1つの単位を含む化合物であって、
前記式中、R 、R 、R 、およびR は、-Hであり、
およびR 11 は、メチルであり、
およびR 10 は、同じまたは異なっており、
、R 、およびR は、-Hであり、
前記化合物は、式(Va)または(Vb)で表される化合物であり、
前記式中、R、R、R、R、R、R、R、R、およびR11は、上記で定義したとおりであり、RxおよびRyは、同じまたは異なっており、かつ、-CHまたは-CFであり、Aは5~500であり、Bは5~500であり、Cは1~500であり、Dは0~1000であり、添え字A、B、C、およびDによって示される前記単位は、前記化合物中でブロック状またはランダムに分布していてもよいことを特徴とする、
化合物
【請求項7】
式(Ia)または(Ib)で表される少なくとも1つの単位を含む化合物であって、
前記式中、R 、R 、R 、およびR は、-Hであり、
およびR 11 は、メチルであり、
およびR 10 は、同じまたは異なっており、
、R 、およびR は、-Hであり、
前記化合物は、式(VIa)~式(VId)で表される化合物であり、
(VIa)
(VIb)
(VIc)
(VId)
前記式中、R、R、R、R、R、R、R、R、およびR11は、上記で定義したとおりであり、Lは、1~25であり、RxおよびRyは、同じまたは異なっており、かつ、-CHまたは-CFであり、mは、1~500、nは、1~500であり、Nは、1~500であり、添え字m、n、およびNによって示される前記単位は、前記化合物中でブロック状またはランダムに分布していてもよいことを特徴とする、
化合物
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の化合物を調製する方法であって、式(X)で表される化合物であって、
前記式中、R~R上記で定義したとおりである化合物を、式(XI)で表される化合物であって、
前記式中、R~R10上記で定義したとおりであり、RおよびR10は-Fである化合物と、反応させて、化合物(XII)を得、
前記式(XII)で表される化合物を、メチル化試薬またはトリフルオロメチル化試薬と反応させて、前記式(Ia)で表される化合物であって、前記式中、Rは、アルキルまたはペルフルオロアルキルラジカルであり、RおよびR10は-Fである、化合物を得ることを特徴とする、
ステップを含む、方法。
【請求項9】
前記式(Ia)で表される化合物をシランと反応させて、前記式(Ia)で表される化合物であって、前記式中、R10またはRは、-OHであり、以下、式(Ia’)で表される化合物と称する化合物を得る方法ステップを含むことを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記式(Ia)で表される化合物を前記式(Ia’)で表される少なくとも1つの化合物と反応させて、式(Ia’’)
(Ia’’)
で表されるオリゴマーを得る方法ステップを含むことを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記式(Ia)で表される化合物または前記式(Ia’’)で表される化合物をジオールと反応させる方法ステップを含むことを特徴とする、請求項8~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1で定義したとおりの前記式(Ia)で表される化合物または請求項11に定義したとおりの前記式(Ia’’)で表される化合物の前記反応生成物を、ジオール、すなわち、式(XIII)で表される化合物であって、
前記式中、RxおよびRyは、同じまたは異なっており、かつ、アルキルまたはペルフルオロアルキルラジカルである化合物と、ジフルオロ化合物、または式(XIV)で表される化合物であって、
前記式中、Rx’およびRy’は、同じまたは異なっており、かつ、アルキルまたはペルフルオロアルキルラジカルである化合物と反応させる、方法ステップを含むことを特徴とする、
請求項8~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
請求項10に記載の前記方法ステップにおいて得た前記製品を、アルキル化試薬と反応させることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
アニオン伝導膜を製造するための、アニオン伝導膜としての請求項1~のいずれか1項に記載のポリマーの使用。
【請求項15】
電気化学法において使用する成分を製造するための、または、アニオン伝導膜としての、請求項1~のいずれか1項に記載のポリマーの使用。
【請求項16】
請求項1~のいずれか1項に記載のポリマーを含むことを特徴とする、電解槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのイミダゾールおよび/またはイミダゾリウム構造単位を有する化合物、特に高分子化合物、特にアニオン伝導膜として、前記化合物を調製する方法、および前記化合物を使用する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
高分子イオン伝導膜は、以前より公知である。国際公開第2005/045978A2号、米国特許第2009325030A1号、および米国特許第20040121210A1号に記載されている膜は、高フッ素化ポリマー主鎖を基礎としている。
【0003】
欧州特許第2224523B1号および米国特許第20140014519-A1号では、ビニル基を有する各種モノマーであって、そのうちの少なくとも1つはハロゲン基(塩素族)を有する各種モノマーの混合物を多孔質フィルムに含侵させ、多孔質フィルムの各表面をポリエステルフィルムで被覆し、その後、熱重合を行うことによって、アニオン伝導膜を製造する。上記のようにして得た材料を、その後、トリメチルアミンまたはヨウ化メチルを用いて処理し、その後、NaOHで処理する。欧州特許第2296210A1号では、トリメチルアミンを用いた処理の後、NaCOを用いた処理を行う。
【0004】
欧州特許第2606954A1号では、ポリスルホンをクロロメチル化した後にトリメチルアミンを用いた処理を行って得たポリマーを含有するポリマー溶液を硬化することによって、アニオン伝導膜を得る。
先行技術は、以下の式(Ia)および(Ib)に相当する分子および/または分子単位が存在する様々なポリマーも開示している。
【0005】
【化1】
【0006】
国際公開第2013/149328号は、式(Ib)で表される単位が存在するポリマーについて記載しており、前記式中、
、R、R、およびRは、同じまたは異なっており、かつ、-H、任意の所望の基、またはポリマーラジカルであり、
およびR11は、同じまたは異なっており、かつ、メチル、トリフルオロメチル、アルキル、ペルフルオロアルキル、ヘテロアルキル、アリール、アラルキル、もしくは、ポリマーラジカルであるか、または基ではなく、
およびR10は、同じまたは異なっており、かつ、メチル、トリフルオロメチル、アルキル、ペルフルオロアルキル、ヘテロアルキル、アルコキシ、ペルフルオロアルコキシ、ハロゲン、アリール、ヘテロアリール、またはポリマーラジカルであり、
、R、およびRは、同じまたは異なっており、かつ、-H、任意の所望の基、またはポリマーラジカルである。
【0007】
特定の実施形態では、RおよびRのラジカル、Rのラジカル、Rのラジカル、またはRおよびR11のラジカルを介して、単位(Ib)がポリマーに組み込まれているポリマーについて記載する。実施例において、記載される単位(Ia)また単位(Ib)は、2-フェニルベンズイミダゾール、2-メシチルベンズイミダゾール、1、3-ジメチル-2-メシチルベンズイミダゾリウム、1,3-ジメチル-2-フェニルベンズイミダゾリウム、ポリ(2,2’-(m-フェニル)-5,5’-ジベンズイミダゾール)、ポリ(2,2’-(m-フェニル)-5,5’-ビス(N,N’-ジメチルベンズイミダゾリウム)ヨージド)、ポリ(2,2’-(m-メスチル)-5,5’-ジベンズイミダゾール)、およびポリ(2,2’-(m-メスチル)-5,5’-ビス(N,N’-ジメチルベンズイミダゾリウム)ヨージド)である。
欧州特許第0126231B1号には、式(Ia)または(Ib)で表される単位が存在している分子またはポリマーが記載されており、前記式中、
、R、R、およびRは、-Hであり、
およびR11は、同じまたは異なっており、かつ、-H、1~10個の炭素原子を有するヒドロカルビルラジカル、または2~10個の炭素原子を有するカルボキシアルキルラジカル、好ましくは、メチル、エチル、ベンジル、またはカルボキシメチルラジカルであり、
は、ビニルラジカルまたはポリマーラジカルであり、
、R、R、およびR10は、同じまたは異なっており、かつ、-Hまたは1~4個の炭素原子を有するヒドロカルビル基、好ましくは、-H、メチル、またはエチルラジカルである。
【0008】
米国特許第3817749号には、式(Ia)で表される分子が記載されており、前記式中、R、R、R、R、R、R、R、およびRは、-Hであり、RおよびR10は、ClまたはBrである。アセチレンと反応させ、その後、重合させた分子を、感光性ポリマーとして用いる。
【0009】
国際公開第2017/117678号、および、これに対応するSteven Holdcroftによる出版物には、式(Ib)で表される単位を有するイオン伝導膜における、ポリマーおよびその使用が記載されている。前記式中、R10およびRは、フェニルラジカルである。記載されたポリマーとして、ポリ(4,4’’-[2’-(1-メチル-1H-ベンズイミダゾール-2-イル)-m-テルフェニレン])、およびポリ(4,4’’-[2’-(1,3-ジメチル-1H-ベンズイミダゾリウム-2-イル)-m-テルフェニレン])ヨウジドが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】欧州特許第2224523B1号
【文献】米国特許第20140014519-A1号
【文献】米国特許第20040121210A1号
【文献】欧州特許第2224523B1号
【文献】米国特許第20140014519-A1号
【文献】欧州特許第2296210A1号
【文献】欧州特許第2606954A1号
【文献】国際公開第2013/149328号
【文献】欧州特許第0126231B1号
【文献】米国特許第3817749号
【文献】国際公開第2017/117678号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が取り組んだ課題は、アニオン伝導ポリマーとして好適な、またはアニオン伝導ポリマーを製造するための、別の化合物を提供するというものであった。
【0012】
驚くべきことに、前記課題は、特許請求の範囲による化合物によって解決することが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、特許請求の範囲の対象であり、かつ、以下に述べるとおりの化合物を、本発明は提供する。
【0014】
同様に、本発明は、アニオン伝導膜としてのそのような化合物を調製する方法および使用する方法、ならびに前記膜そのものも提供する。
【0015】
本発明によるポリマーは、簡潔な方法で調製することができるという利点を有する。
【0016】
前記ポリマーから製造する前記膜には、高い機械的安定度と、高い寸法安定性を兼ね備えた低い膨張特性とを有するという利点がある。さらに、前記膜は、非常に高いアニオン伝導率を示す。
【0017】
本発明による、化合物、方法、および使用を、以下に例示するが、本発明は、これらの例示的実施形態に限定されるものではない。化合物の範囲、一般式、またはクラスを以下において特定する場合、それらは、明示的に言及される化合物の対応する範囲またはグループのみならず、個々の値(範囲)または化合物を除外して得ることができる化合物の全ての部分範囲およびサブグループをも包含するよう意図されている。本明細書の文脈に文献が引用される場合、前記文献の内容は、特に言及されるものについては、本発明の開示内容部分を十分に形成するものとする。以下に定義するパーセントは、別段の定めがないかぎり、重量パーセントである。以下に平均値が記載されている場合、別段の定めがないかぎり、数的平均である。たとえば粘性等、材料の性質が以下に言及される場合、別段の定めがないかぎり、25℃における材料の特性である。化学式(実験式)を本発明において用いる場合、特定の指数は、絶対数だけでなく平均値であってもよい。
本発明は、化合物、好ましくはオリゴマーまたはポリマー、より好ましくは式(Ia)または(Ib)で表される少なくとも1つの単位を含むポリマーを提供する。
【0018】
【化2】
【0019】
前記化合物は、前記式中、R、R、R、およびRは、同じまたは異なっており、かつ、-Hまたは任意の所望の基、好ましくは-Hであり、
およびR11は、同じまたは異なっており、かつ、アルキルまたはペルフルオロアルキル、好ましくはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル、またはトリフルオロメチルラジカル、より好ましくはメチルラジカルであり、
およびR10は、同じまたは異なっており、かつ、オリゴマーまたはポリマーラジカルであり、RおよびR10は、好ましくはポリマーラジカルであり、
、R、およびRは、同じまたは異なっており、かつ、-Hまたは任意の所望の基であり、好ましくは、-Hである、ことを特徴とする。
【0020】
特に好ましいポリマーは、上記で定義したように、式(Ia)または(Ib)で表される少なくとも1つの単位を有する。前記式中、RおよびR10ラジカルのうち少なくとも1つが、酸素原子を介して環炭素原子に結合しているオリゴマーまたはポリマーラジカルである(RまたはR10は、-OR16であり、R16は、オリゴマーまたはポリマーラジカル、好ましくはポリマーラジカルである)。
【0021】
本発明の化合物は、式(Ia)または(Ib)、好ましくは式(Ia)で表される少なくとも2つの単位を有するオリゴマーまたはポリマーであることが好ましい。本発明による特に好ましい化合物は、ブロックコポリマーである。
【0022】
本発明による化合物は、ポリマー化合物であることが好ましく、前記ポリマー化合物において、ポリマーラジカルRおよびR10は、式(IIa)および/または(IIb)および/または(IIIa)および/または(IIIb)および/または(IIIc)および/または(IIId)であり、
【0023】
【化3】
【0024】
【化4】
【0025】
前記式中、R、R、R、R、R、R、R、R、およびR11は、上記で定義したとおりであり、Lは、1~25、好ましくは1~15、より好ましくは1~9であり、RxおよびRyは、同じまたは異なっており、Rx’およびRy’は、同じまたは異なっており、かつ、Rx、Ry、Rx’、およびRy’は、アルキル、フェニル、またはペルフルオロアルキルラジカルであり、好ましくは-CHまたは-CFである。
本発明による好ましい化合物は、式(IVa)、(IVb)、(IVc)、(IVd)、(IVe)、および(IVf)で表される化合物であり、
【0026】
【化5】
【0027】
【化6】
【0028】
【化7】
【0029】
前記式中、R、R、R、R、R、R、R、およびRは、上記で定義したとおりであり、Lは、1~25、好ましくは1~15、より好ましくは1~9であり、L’は、2~25、好ましくは2~15、より好ましくは3~9であり、Mは1~500である。
本発明による特に好ましい化合物は、式(Va)および(Vb)で表される化合物であり、
【0030】
【化8】
【0031】
前記式中、R、R、R、R、R、R、R、R、およびR11は、上記で定義したとおりであり、RxおよびRyは、同じまたは異なっており、かつ、-CHまたは-CFであり、Aは5~500であり、Bは5~500であり、Cは1~500であり、Dは0~1000であり、添え字A、B、C、およびDによって示される単位は、化合物中でブロック状またはランダムに分布していてもよい。
【0032】
非常に特に好ましい化合物は、式(VIa)~式(VId)で表される化合物であり、
【0033】
【化9】
【0034】
前記式中、R、R、R、R、R、R、R、R、およびR11は、上記で定義したとおりであり、Lは、1~25、好ましくは3~15、より好ましくは3~9であり、RxおよびRyは、同じまたは異なっており、かつ、-CHまたは-CFであり、mは1~500であり、nは、1~500、好ましくは5~50であり、Nは1~500であり、添え字m、n、およびNによって示される単位は、化合物中でブロック状またはランダムに分布していてもよい。
【0035】
本発明による化合物は、たとえば、以下に記載する方法によって得ることができる。
【0036】
上述した本発明の化合物を調製するための本発明の方法は、ステップ(1)を含むことを特徴とする。ステップ(1)では、式(X)で表される化合物であって、
【0037】
【化10】
【0038】
前記式中、R~Rは上記で定義したとおりである化合物を、式(XI)で表される化合物であって、
【0039】
【化11】
【0040】
前記式中、R~R10は上記で定義したとおりであり、RおよびR10は-Fであるという条件である化合物と反応させて、化合物(XII)を得、
【0041】
【化12】
【0042】
式(XII)で表される化合物を、メチル化試薬またはトリフルオロメチル化試薬と反応させて、上記で定義したとおりの式(Ia)で表される化合物を得る。前記式中、Rは、アルキルまたはペルフルオロアルキルラジカル、好ましくは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル、またはトリフルオロメチルラジカル、より好ましくはメチルラジカルであり、RおよびR10は、-Fである。
【0043】
ステップ(1)の実施において、好ましくは、まず、加熱可能な反応器に、40℃~80℃、好ましくは55℃~65℃の温度で、ポリリン酸およびメタンスルホン酸を充填し、そして、撹拌しながら、かつ、好ましくは反応混合物を90℃~130℃、好ましくは105℃~115℃に加熱しながら、この混合物に式(X)で表される化合物を添加する。好ましくは前記混合物を一旦均質化しておき、式(XI)で表される化合物を、好ましくは同様に撹拌しながら、添加する。有機溶媒、好ましくはo-キシレンを前記反応混合物に添加することが好ましく、その後、3時間以内に、反応混合物の温度を140℃~170℃、好ましくは150℃~160℃に上昇させ、その後、この温度で、好ましくは30~60時間、より好ましくは35~45時間、静置する。その後、65℃~95℃、好ましくは75℃~85℃に冷却する。前記温度に到達し次第、水を添加することが好ましい。特定の温度範囲内に温度が留まるようにして、前記添加を行うことが好ましい。全量の水、好ましくは、反応器中の反応混合物の100容量%~500容量%の水を添加した後、反応器の内容物を、10℃~30℃、好ましくは15℃~25℃、より好ましくは20℃に冷却することが好ましい。好ましくは1~5時間、より好ましくは1.5~2.5時間撹拌した後、得られた反応混合物に対して、固体を液体から分離するための分離方法を実施することが好ましい。除去した固体を水と一緒に撹拌することが好ましく、そして、好ましくは、温度が30℃~60℃、好ましくは40℃~50℃になるように冷却しながら、反応混合物のpHが好ましくは10に到達するまで、アルカリ、好ましくはNaOHを添加する。さらに撹拌した後、固体を再び混合物から分離し、水で洗浄し、乾燥させる。式(XII)で表される化合物が得られる。
【0044】
式(Ia)で表される化合物であって、前記式中、RおよびR10は-Fであり、Rは、同じまたは異なっており、かつ、アルキルまたはペルフルオロアルキル、好ましくは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル、またはトリフルオロメチルラジカル、好ましくはメチルまたはトリフルオロメチルラジカルであり、より好ましくはメチルラジカルである化合物を得るために、式(XII)で表される化合物を、たとえば反応器内で、アルキル化試薬、好ましくは炭酸ジメチル、KCO、およびジメチルアセトアミド(dimethylethanamide:DMAc)と接触させ、その後、好ましくは撹拌しながら、90℃~130℃の温度に加熱することによって、反応させることができる。前記反応を10~25時間、好ましくは15~20時間かけて実施することが好ましい。反応混合物に水を添加し、水の添加の後、好ましくは0.5~2時間撹拌し続けることによって反応を終了させると有利でありうる。式(Ia)で表される化合物であって、前記式中、Rはメチルである化合物が得られる。
【0045】
本発明による方法は、方法ステップ(2)を含むことが好ましい。方法ステップ(2)では、上記で定義したとおりの式(Ia)で表される化合物であって、前記式中、RおよびR10は-Fであり、Rは、アルキルまたはペルフルオロアルキル、好ましくは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル、またはトリフルオロメチルラジカルである、化合物を、シラン、好ましくは(CHSiOと反応させ、その後、KOHまたはNaOHで加水分解して、式(Ia)で表される化合物であって、前記式中、R10またはRは-OHであり、以下、式(Ia’)で表される化合物と称する化合物を得る。
【0046】
本発明による方法が方法ステップ(3)を含むと有利でありうる。方法ステップ(3)では、式(Ia)で表される化合物であって、前記式中、R~RおよびR~Rは上記で定義したとおりであり、RおよびR10はフッ素である化合物を、式(Ia’)で表される少なくとも1つの化合物であって、前記式中、R~RおよびR~Rは、式(Ia)に対して定義したとおりである化合物と反応させて、式(Ia’’)で表されるオリゴマーであって、式中、R~RおよびR~Rは、式(Ia)に対して定義したとおりであり、L’は2~25、好ましくは2~15、より好ましくは2~9であるオリゴマーを得る。
【0047】
【化13】
【0048】
本発明による方法は方法ステップ(4)を含むことが好ましい。方法ステップ(4)では、上記で定義したとおりの式(Ia)または(Ia’’)で表される化合物を、ジオール、好ましくはヒドロキノンと反応させる。
【0049】
方法ステップ(4)における反応を、以下に記載するように、反応器で行うことが好ましい。反応器において、式(Ia)または(Ia’’)で表される化合物、KCO、ヒドロキノンを、DMAcで洗浄する。不活性ガス雰囲気、好ましくは窒素雰囲気下で、好ましくは撹拌しながら、前記混合物を沸騰するまで加熱することが好ましい。反応器の頭部において、形成した全てのメタノールおよび/または水が除去される。
【0050】
本発明による方法は方法ステップ(5)を含むことが好ましい。方法ステップ(5)では、ジオール、好ましくはヒドロキノンと、上記で定義したとおりの式(Ia)または(Ia’’)で表される化合物との反応生成物を、式(XIII)で表される化合物と反応させる。
【0051】
【化14】
前記式中、RxおよびRyは、同じまたは異なっており、かつ、アルキルまたはペルフルオロアルキル、好ましくはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル、またはトリフルオロメチルラジカル、より好ましくは-CHまたは-CFであり、および、ジフルオロ化合物、好ましくは4,4’-ジフルオロベンゾフェノンまたは式(XIV)で表される化合物である。
【0052】
【化15】
【0053】
前記式中、Rx’およびRy’は、同じまたは異なっており、かつ、アルキルまたはペルフルオロアルキル、好ましくはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル、またはトリフルオロメチルラジカル、より好ましくは-CHまたは-CFである。
【0054】
方法ステップ(5)を以下のように実施することが好ましい。室温で、4,4’-ジフルオロベンゾフェノン(4,4'-difluorobenzophenone:DFBP)、および式(XIII)で表される化合物、好ましくはビスフェノールAを、ステップ(4)で得た反応混合物に添加する。このとき、任意で溶剤、好ましくはDMAcを添加し、また、任意でKCOを添加する。この反応混合物を沸騰するまで加熱し、反応中、特に反応開始時に生成した反応水を排出しながら、10~30時間、好ましくは12~25時間、反応混合物を沸騰状態に維持する。
【0055】
冷却すると、前記ポリマーを水から析出させることができる。たとえばUltraturraxを用いて、析出したポリマーを粉砕し、その後、水で1回または2回以上洗浄(浸出)し、その後、任意でエタノールで洗浄(浸出)すると有利となりうる。高温かつ減圧下、好ましくは125℃~160℃かつ若干の減圧(500未満mbar、好ましくは約200mbarの減圧)下でポリマーを洗浄した後、ポリマーを乾燥させると有利である。
【0056】
方法ステップ(5)で得られた製品を、その後の方法ステップ(6)において、アルキル化試薬、好ましくはメチル化試薬と反応させることが好ましい。方法ステップ(6)を以下のように実施することが好ましい。方法ステップ(5)で得たポリマーを、30℃~70℃、好ましくは45℃~55℃の温度で、好ましくは静かに撹拌しながら、溶剤、たとえばN,N-ジメチルアセトアミドに溶解させる。得られた溶液を冷却した後、20℃~40℃、好ましくは、25℃~35℃の温度にし、撹拌しながら、たとえばシリンジによって、ヨードメタンを滴下する。好ましくは撹拌し続けて、好ましくは0.25~5時間、より好ましくは1.5~2.5時間経過した後、余剰ヨードメタンを排出するために、真空ポンプを用いて、500未満mbar、好ましくは約200mbarに減圧する。
【0057】
本発明による好ましい方法は、好ましくまたはより好ましく用いた前記方法ステップのうち、1つ以上、好ましくは方法ステップ(1)~(6)全てを含む方法である。
【0058】
本発明による上記ポリマー化合物は、たとえば、アニオン伝導膜を製造するために、または、電気化学法、好ましくは電気分解、電気透析、および燃料電池技術から選択される電気化学法において使用される成分を製造するために、アニオン伝導膜として使用することができる。
【0059】
したがって、本発明による膜および電解槽は、本発明による、化合物、オリゴマー、またはポリマー、好ましくはポリマーを含むことを特徴とする。
【0060】
(本発明による)膜、特にアニオン伝導膜を製造するために、方法ステップ(6)で得た溶液を直接使用することが可能である。前記膜を、まず、以下のように製造することが好ましい。所望の量のポリマー溶液をシリンジなどで採取し、予熱したガラス板、好ましくは30℃~40℃に予熱したガラス板に、好ましくは(溶解していないポリマー粒子を除去するための)ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene:PTFE)フィルタを介して塗布する。ガラス板の被覆には、好ましくは350μmのギャップを有する塗工バーを、1~50mm/s、好ましくは2~5mm/sの速度でガラス板を横切るようにして自動的に引くことが好ましい。塗布されたウェット層を、少なくとも10時間、好ましくは10~12時間、不活性ガス、好ましくは窒素下で、予備乾燥することが好ましい。予備乾燥は、室温または高温で行うことができる。好ましくは室温で、予備乾燥を行う。予備乾燥後、減圧下、好ましくは200mbarabs未満、好ましくは100mbarabs以下の圧力で、かつ、25℃超、好ましくは40℃~80℃の範囲、より好ましくは55℃~65℃の温度で乾燥させることが好ましい。
【0061】
アニオン伝導膜を製造するために、このようにして製造した膜に、たとえば0.5MのKOHまたはKCl溶液で、(水性)処理を施すことができる。このために、前記膜を、繰り返し、好ましくは3回、毎回1時間、60℃で適切な溶液に入れて、その後、未使用の溶液に室温で一晩保存する。このように処理した膜を、その後、脱イオン水で洗浄し、繰り返し、好ましくは3回、毎回1時間、60℃で適切な、未使用の脱イオン水に入れて、その後、未使用の脱イオン水に室温で保存すると、有利でありうる。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下に提示する実施例は、本発明について例示するが、本発明は、本明細書および請求項全体からその適用範囲が明白であり、実施例に詳述する実施形態に制限されることは意図されない。

実施例
実施例1:2-(2’6’-ジフルオロフェニル)ベンゾイミダゾール(DFP-BI)の合成
【0063】
温度調整した油浴槽と、機械撹拌システムと、窒素注入口と、冷却器としての長い上昇ガラス管とを備えた3lの反応器に、1600gのポリリン酸を移して、前記油浴槽を120℃に加熱した。次に、632gの2,6-ジフルオロ安息香酸(2,6-difluorobenzoic acid:DFBA)を徐々に撹拌した。432gのo-フェニレンジアミンを、前記混合物に投入して、1時間、撹拌した。油浴槽の温度を、125℃で1日間、135℃で1日間、145℃で3日間、かつ、150℃で1日間、維持した。反応器のより冷たい表面上の長い針で昇華した前記DFBAを、より冷たい場所で蒸発かつ凝結した数ミリリットルのテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran:THF)を添加することによって、繰り返し洗浄して反応混合物を得た。反応混合物を冷却し、約80℃で、全容量3lの水で徐々に希釈した。これにより、この溶液から、2-(2’6’-ジフルオロフェニル)ベンゾイミダゾール(2-(2',6'-difluorophenyl)benzimidazole:DFP-BI)のリン酸二水素塩を析出させた。この析出物を、吸引濾過し、毎回2リットルの水で2回スラリー化し、吸引濾過した。まだ湿っている濾過ケークを、1.5lの水に250gのNaOHの溶液でスラリー化し、前記リン酸二水素塩からDFP-BIを遊離させた。1時間撹拌した後、混合物を吸引濾過した。濾過ケークを2lの水でスラリー化し、水酸化アンモニウム溶液を用いてpHを9にした。純水を用いて、上記精製を繰り返した。吸引濾過した濾過ケークを、120℃、30mbarで一晩乾燥させた。粗収量:淡いピンク色の製品810g。これは理論収量の88%である。
【0064】
THFから再結晶することにより、前記製品を精製することができる。このように精製した製品をHおよび13CのNMRで検査した結果、2-(2’,6’-ジフルオロフェニル)ベンゾイミダゾールであると明瞭に確認された。

実施例2:MeDFP-BIへのDFP-BIのメチル化
【0065】
装置は、機械撹拌機と、窒素ブランケット手段と、温度調整されたアルミニウム加熱ブロックと、ラシヒリングで充填された、長さ35cm、直径2cmのランダム充填のカラムとを備えた1lの4口フラスコを備えたものであった。還流比が調節可能であり、かつ、凝縮液を排出できる冷却器を、カラムの頭部に配置した。
【0066】
(THFから再結晶した)34.50gの実施例1のDFP-BI、75gのDMAcに溶解させた26.1gの炭酸ジメチル、および10.35gの擦り砕いたKCOを室温で添加し、得られた混合物を、加熱ブロック温度95℃で1時間、100℃で15時間、125℃でさらに1時間、反応させた。次に、ブロック温度を閉ループ制御下で100℃に調節し、9.0mlの水を添加し、混合物をさらに1時間撹拌して、余剰炭酸ジメチルを分解した。

実施例3:MeDFP-BIのオリゴマー化
【0067】
実施例2の混合物を、室温まで冷却し、13.8gのKCO(擦り砕き、400℃で乾燥させた)および17.60gのヒドロキノンを50gのDMAcで前記装置に流し込み、装置を20分間窒素で満たし、その後、閉ループ制御下で加熱ブロック温度を225℃に調整することによって、撹拌しながら混合物を沸騰するまで加熱した。カラムの頭部で、まずメタノール、次に水という順序で排出した。反応で生じた水は、カラムを介して連続して除去した。18時間後、20gのDMAcに10.3gのKCOが溶解しているスラリーを添加し、混合物を、さらに5時間、沸騰させて反応させた。

実施例4:重合
【0068】
実施例3の混合物を、室温まで冷却し、32.70gの4,4’-ジフルオロベンゾフェノン(DFBP)、31.92gのビスフェノールA(bisphenol A:BPA)、10.3gのKCO、および130gのDMAcを添加し、特に最初にカラムの頭部で反応水を排出しながら、さらに20時間、混合物が沸騰した状態を維持した。その後、さらに3.45gのKCOを、既に粘着性を有する溶液に添加し、さらに3時間、混合物を沸点で維持した。

実施例5:ポリマーの後処理
【0069】
実施例4の反応混合物を冷却した後、反応混合物を2lの水に析出させ、析出したポリマーを、Ultraturraxを用いて粉砕し、水を用いて80℃で2回浸出した。最後に、500mlのエタノールを用いて60℃でポリマーを浸出した。ポリマーを吸引濾過し、その後、減圧下、150℃で乾燥させた。収量:ほぼ白色の製品106g。

実施例6:1-メチル-2-(2’,6’-ジフルオロフェニル)ベンゾイミダゾール(1-methyl-2-(2’,6'-difluorophenyl)benzimidazole:MeDFP-BI)の合成
【0070】
1500gのジメチルホルムアミド(dimethylformamide:DMF)、100gのKCO、および4.5molの炭酸ジメチル(dimethyl carbonate:DMC)を、内部温度による閉ループ制御下にある油浴槽と、機械撹拌システムと、窒素注入口と、還流凝縮器とを備えた3lの反応器に導入した。
【0071】
690gのDFP-BI(実施例1の粗生成物)を、400gと290gの2つのバッチに分割した。第1のバッチを反応器に導入した。まず、反応溶液を、閉ループ制御下で、30分間95℃に、さらに5時間100℃に調節した。反応溶液を冷却した後、第2のバッチを添加し、混合物を、閉ループ制御下で、30分間95℃に、さらに5時間100℃に、そして3時間125℃に調節した。
【0072】
室温まで冷却した後、反応溶液を、5lの水で撹拌した。この間、固形物が析出した。固形物を濾過し、水で洗浄し、減圧下、90℃で一晩乾燥させた。
粗収量:660g

実施例7:1-メチル-2-(2’-ヒドロキシ-6’-フルオロフェニル)ベンゾイミダゾール(1-methyl-2-(2'-hydroxy-6'-fluorophenyl)benzimidazole:MeHyFP-BI)の合成
【0073】
装置は、機械撹拌機と、窒素ブランケット手段と、温度調整された油浴槽と、ラシヒリングで充填された、長さ35cm、直径2cmのランダム充填のカラムとを含む3lの反応器を備えたものであった。還流比が調節可能であり、かつ凝縮液を排出できる冷却器を、カラムの頭部に配置した。
【0074】
488gの実施例6のMeDFP-BI、300gのフレーク状のKOH、100gのヘキサメチルジシロキサン(hexamethyldisiloxane:HMDS)、および800gのスルフォランを室温で反応器に投入した。油浴槽を閉ループ制御下で105℃の温度に調節した。その後すぐに、溶液は発熱反応により活発に沸騰し始めた。その後すぐに、HMDSの蒸発量が減少し、そのため、油浴槽の温度が次第に上昇し、その結果、溶液は沸騰し続けた。
【0075】
7時間後、HMDSのうちのいくらかを、カラムの頭部で排出し、冷却した。温度が約70℃未満になると、反応溶液を1.5lの水で希釈した。前記溶液はわずかに濁っており、G3フリットを介して室温で濾過した。透明な濾液を酢酸で中和した。この間、MeHyFP-BIが析出し、吸引濾過し、水で洗浄した。濾過ケークを2.5lの水でスラリー化し、濃塩酸を用いておよそpH0まで酸性化した。80℃まで加熱すると、MeHyFP-BIは、塩酸塩として析出し、その溶液を加熱濾過した。冷却濾液から塩酸塩を白色結晶状に分離した。その後、吸引濾過した。濾液をアンモニア溶液で中和すると、MeHyFP-BIが析出した(留分2)。
【0076】
吸引濾過した塩酸塩を水でスラリー化し、同様に、MeHyFP-BIをアンモニア溶液で遊離させ、濾過した(留分1)。前記2つの留分を、減圧下、100℃で一晩乾燥させた。
留分1:431g。高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography:HPLC)により極めてクリーンであることを確認。
留分2:40.5g。淡いピンク色。恐らく不純物が含まれる。

実施例8:実施例6のMeDFP-BIおよびMeHyFP-BIの三量体形成によるマクロマーの生成
【0077】
0.0500mol(12.20g)のMeDFP-BI、0.1000mol(24.20g)のMeHyFP-BI、および0.1014mol(14.0g)のKCOを、機械撹拌機と、カラムヘッドを有するランダム充填のカラム(長さ35cm、直径2cm)と、温度調整したアルミニウム加熱ブロックと、70gのDMAcを加えての窒素パージ手段とを備えた500mlの3口フラスコに移し、30分間、窒素でパージした。次に、加熱ブロックを225℃に加熱すると、溶液が沸騰し始めた。生成した反応水を、カラムヘッドで連続して排出した。20時間後、加熱ブロックを室温まで冷却した。

実施例9:ヒドロキノンを用いた実施例7のマクロマーのオリゴマー化によるオリゴマー生成
【0078】
6.60gのヒドロキノン、8.40gのKCO、および25gのDMAcを、冷却した実施例8の反応混合物に窒素下で添加し、加熱ブロックを再度225℃に加熱した。生成した反応水を、カラムヘッドで連続して排出した。16時間後、反応溶液を室温まで冷却した。

実施例10:実施例9のオリゴマーの重合化によるブロックコポリマーの生成
【0079】
10.90gの4,4’-ジフルオロベンゾフェノン、全量13.44gの2,2’-(4’-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(BPA-6F)のうちの12.00g、8.40gのKCO、および70gのDMAcを、冷却した実施例9の反応混合物に窒素下で添加した。加熱ブロックを再度225℃に加熱した。生成した反応水を、カラムヘッドで連続して排出した。3時間の反応時間の後、1.00gのBPA-6F、1.00gのKCO、および10gのDMAcを添加し、加熱ブロックの温度を、閉ループ制御下で200℃に調節した。さらに3時間後、残り0.44gのBPA-6Fを添加し、加熱ブロックを閉ループ制御下で190℃に調節し、さらに3時間、前記温度で維持した。その後、混合物を室温まで冷却し、ポリマーを実施例5と同様に後処理した。

実施例11:ヨードメタンによるポリマーの四級化
【0080】
ポリマーを四級化するため、静かに撹拌しながら、15gの実施例10の製品を、フラスコ内の45gのN,N-ジメチルアセトアミドに50℃で溶解させ、ポリマーが完全に溶解するまで混合物を約1時間撹拌した。溶液を30℃に冷却した後、6.6gのヨードメタンを、シリンジで少しずつ滴下しながら添加し、その溶液をさらに2時間撹拌した。その後、消費されなかったヨードメタンを200mbarで真空ポンプにより排出し、30質量%のKOH水溶液で満たされ、かつ直列に配列した2つのガス洗浄瓶に、気相を流し、ヨードメタンを分解した。

実施例12:硫酸ジメチルによるポリマーの四級化
【0081】
フラスコ内の7gのDMFに、3.0gの実施例10の製品を撹拌しながら、50℃で溶解することによって、ポリマーを四級化した。溶液を25℃に冷却した後、1.1gの硫酸ジメチルを滴下し、生じた混合物を撹拌した。発熱反応は、最初、ゆっくりと始まり、反応混合物が45℃超まで温まると、前記反応は数分後にその温度で完了した。

実施例13:膜の製造
【0082】
実施例11に記載の四級化したポリマーの溶液を、膜の製造に直接使用した。所望の量のポリマー溶液をシリンジで採取し、(溶解していないポリマー粒子を除去するための)PTFEフィルタを介して、30℃に予熱したガラス板に直接塗布した。ガラス板を被覆するために、好ましくは350μmのギャップを有する塗工バーを使用し、5mm/sの速度でガラス板を横切るようにして自動的に引いた。塗布されたウェット層を、窒素下、室温で16時間予備乾燥させ、その後、減圧下、60℃で6時間乾燥させた。

実施例14:膜のイオン交換
【0083】
実施例13で製造した膜をイオン交換した。つまり、ポリマーを四級化した結果として存在するヨウ化物イオンを塩化物または水酸化物イオンに交換した。このため、定寸に切断された膜サンプルを、3回、毎回1時間、60℃で、0.5MのKOH水溶液に入れ、その後、未使用の0.5MのKOH溶液に室温で一晩保存した。イオン交換の後、膜サンプルを脱イオン水で洗浄し、3回、毎回1時間、60℃で、未使用の脱イオン水に入れた。次に、膜サンプルを、未使用の脱イオン水に室温で一晩保存した。

実施例15:膜のイオン伝導率の測定
【0084】
標準的な4電極配置でのインピーダンス分光法(EIS)により、イオン交換膜サンプルの面方向、すなわち、2次元のイオン伝導率を測定した。2本の外部Ptワイヤをサンプルの下方に配置し、2本の中部ワイヤをサンプルの上方に配置するようにして、膜サンプルを市販のBT-112セル(Bekk Tech社製)に固定した。BT-112セルを2枚のPTFEシートの間に配置し、BT-112セルにDI水を充填した。DI水の温度を水槽を用いて制御し、前記セルを介してDE水を常時汲み上げた。広く用いられているR(RC)ランドルス型等価回路を用いてEISスペクトルをフィッティングすることにより、抵抗(Rmembrane)を算出した。膜サンプルのイオン伝導率(σ)は式(1)から求められる。
σ=L/(Rmembrane A) (1)
前記式中、Lは、Ptワイヤ間の距離(5mm)を表し、Aは、2本の外部Ptワイヤ間にある膜サンプルの面積を表す。

実施例16:膜の吸水率の測定
【0085】
イオン交換膜サンプル(試験対象の各膜ごとに3つのサンプル)を、25mbar、40℃で24時間、真空オーブンで乾燥させ、その後、デシケータで室温に冷却し、重量を測定した。吸水率を測定するため、24時間、25℃に調温した脱イオン水に膜サンプルを保存した。次に、各サンプルの重量を再測定した。このために、まだ付着している水を、濾紙を用いて膜から除去した。各測定を3回繰り返し、平均±標準偏差を算出した。吸水率(WA)は式(2)から算出される。
WA=(mwet-mdry)/mdry 100% (2)
前記式中、mwetは、膨張後のサンプルの質量を表し、mdryは、サンプルの乾燥質量を表す。

実施例17:膜の膨張特性の測定
【0086】
イオン交換膜サンプル(試験対象の各膜ごとに3つのサンプル)を、25mbar、40℃で24時間、真空オーブンで乾燥させ、その後、デシケータで室温まで冷却し、サンプル長、サンプル幅、およびサンプル厚等のパラメータを測定した。膨張特性を測定するため、24時間、25℃に調温した脱イオン水に膜サンプルを保存した。次に、サンプル長、サンプル率、およびサンプル厚等のパラメータを再測定した。このために、まだ付着している水を、濾紙を用いて膜から除去した。各測定を3回繰り返し、平均±標準偏差を算出した。長さ、幅、厚さの点での膨張特性(寸法安定性、DSと称する)は、式(3)から算出される。
DS=(xwet-xdry)/xdry 100% (3)
前記式中、xwetは、膨張後のサンプルの長さ、幅、または厚さを表し、xdryは、サンプルの乾燥長、乾燥幅、または乾燥厚を表す。

実施例18:膜の機械的耐久性の測定
【0087】
イオン交換膜サンプル(試験対象の各膜ごとに3つのサンプル)を、24時間、脱イオン水に保存した。サンプルを試験システム(水槽を備えたDMA8000)に設置する前に、各膜サンプルの幅および厚さを繰り返し測定した。測定の手順は以下のとおりである。互いに反対方向に静的プレストレスがかけられた2つの垂直クランプ間に、膜サンプルを設置する。サンプルに静的プレストレスをかけるために、前記設置の最中に、クランプ間の距離(自由行程長Iとも称する)を、約1mm短縮する。サンプルを、前記2つのクランプ間に固定し、その後、元の自由行程長を回復し、それによってサンプルが伸張する。サンプルが完全に水にとり囲まれるように、脱イオン水を含む加熱可能な水槽に試験装置全体を浸漬する。試験手順は、2K/minの適用加熱速度で室温(約23℃)から80℃までの温度範囲内で行われるサンプル分析を含む。この温度範囲内で、周波数1Hz、伸び率ε0.1%の正弦法で、連続ストレス下にサンプルを置く。伸び率(%)は式(4)から算出される。
ε=Δl/l (4)
前記式中、Δlは、サンプルの伸び(mm)を表し、lは、自由行程長を表す。自由行程長Iを10mmとし、εが0.1%の場合、伸びは0.01mmであることが分かる。力センサは、定義した伸び率に必要な張力を検出する。試験の結果を表1に示す。
【0088】
【表1】
説明
【0089】
・膜1を、実施例5に記載したポリマーから製造し、その後、四級化した。
・膜2を、実施例10に記載したポリマーから製造し、その後、四級化した。
・FAA3は、FUMATECH BWT社の市販のアニオン伝導膜である。
・ナフィオンN-115は、Chemours社(米国)の市販のカチオン伝導膜である。
・寸法安定度のデータは、膜厚の変化に基づく。
・イオン伝導率のデータは、60℃で測定した、OH形態の膜の伝導率に基づく。
・イオン伝導率のデータは、60℃で測定した、H形態の膜の伝導率に基づく。
・ナフィオン(H形態)以外の全ての膜の機械的耐久性について、60℃、OH形態で試験を行った。