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  • 特許-フタレート化合物の水素化方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】フタレート化合物の水素化方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/303 20060101AFI20221031BHJP
   C07C 69/75 20060101ALI20221031BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20221031BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20221031BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20221031BHJP
【FI】
C07C67/303
C07C69/75 Z
C08K5/10
C08L101/00
C07B61/00 300
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020529167
(86)(22)【出願日】2018-11-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-06
(86)【国際出願番号】 KR2018013195
(87)【国際公開番号】W WO2019107771
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-11-02
(31)【優先権主張番号】10-2017-0161950
(32)【優先日】2017-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501014658
【氏名又は名称】ハンワ ソリューションズ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】HANWHA SOLUTIONS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヒョ・スク・キム
(72)【発明者】
【氏名】キ・テグ・ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ソン・ミン・パク
(72)【発明者】
【氏名】キョン・イル・イ
(72)【発明者】
【氏名】ヒェ・ウォン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ジェ・フン・ジュン
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-513477(JP,A)
【文献】特開2016-069587(JP,A)
【文献】特開2016-141729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C08K
C08L
C07B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を含む気相原料、およびフタレート化合物を含む液相原料を反応器に投入し、水素およびフタレート化合物を水素化触媒存在下で反応させる段階を含むフタレート化合物の水素化方法であって、
前記反応器に投入する水素の量は、フタレート化合物1モルに対して3~300モルであり、
前記液相原料のレイノルズ数は1~90であり、
前記反応後、分離された水素化反応生成物中のシス異性体の含有量が70%以上である、フタレート化合物の水素化方法。
【請求項2】
前記フタレート化合物はフタレート、テレフタレート、イソフタレートおよびこれらのカルボン酸化合物からなる群より選ばれる1種以上である、請求項1に記載のフタレート化合物の水素化方法。
【請求項3】
前記気相原料は反応器の上部または下部から供給され、前記液相原料は反応器の上部から供給される、請求項1または2に記載のフタレート化合物の水素化方法。
【請求項4】
前記水素化触媒の活性成分はルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)および白金(Pt)からなる群より選ばれる1種以上である、請求項1~のいずれか一項に記載のフタレート化合物の水素化方法。
【請求項5】
前記水素化触媒は、担体100重量%に対して触媒活性成分が3重量%以下である、請求項1~のいずれか一項に記載のフタレート化合物の水素化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2017年11月29日付の韓国特許出願第10-2017-0161950号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、フタレート化合物の水素化方法に関する。詳しくは、反応の立体選択性を高めて水素化反応生成物内のシス異性体の含有量を高めることができるフタレート化合物の水素化方法に関する。
【背景技術】
【0003】
フタレート(phthalate)系化合物は、プラスチック、特にポリ塩化ビニル(PVC)の可塑剤として広く使われる物質である。例えば電機電子製品、医薬品、ペンキ顔料、潤滑剤、バインダー、界面活性剤、接着剤、タイル、食品容器、包装材など、実にその使用用途が非常に多様である。
【0004】
しかし、いくつかのフタレート化合物が環境汚染および人間の内分泌系障害問題を招くことがある物質として知られることにより、ヨーロッパ、米国など先進国を中心に使用規制が強化されている。特に、フタレート系可塑剤のうち、ジ(2-エチルヘキシル)フタレート(di(2-ethylhexyl)phthalate、DEHP))、ブチルベンジルフタレート(butyl benzyl phthalate、BBP)、ジ-n-ブチルフタレート(di-n-butyl phthalate、DBP)などの一部製品は、社会的にヒトのホルモン作用を妨害または混乱させる内分泌攪乱物質(endocrine disrupter)として環境ホルモンと疑われていて、これを規制する動きがある。
【0005】
そこで、従来の可塑剤と同等な性能を示しながら環境ホルモン論争から自由な環境にやさしい可塑剤を開発するための努力がなされており、その一つとしてフタレート化合物に含まれているベンゼン環を水素化した(hydrogenation)化合物を用いる方案がある。
【0006】
ベンゼン環などの芳香族化合物の水素化反応は、ルテニウムなどの遷移金属を活性成分として支持体(担体)に含む触媒を用いる方法が知られている。一例として、韓国特許第1556340号には、フタレート化合物を水素化触媒およびアルコール存在下で水素と反応させる水素化方法を提示し、前記方法による場合、触媒性能および寿命が向上することを開示している。
【0007】
前記水素化反応により製造される生成物は、シス(cis)およびトランス(trans)異性体の混合物として得られる。この時、シス異性体の含有量が高いほどPVC樹脂に対する優れた可塑化効率、速い吸収速度、固形化後の高い製品透明度を示し、長期間使用しても製品表面への浸出の発生が少なくて、プラスチック可塑剤として優れた特性を有する。
【0008】
したがって、優れた品質の可塑剤を得るためには、シス異性体の含有量が高く示すように立体選択性(stereoselectivity)が向上したフタレート化合物の水素化方法が必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】韓国特許第1556340号、「フタレート化合物の水素化方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記問題を解決するために案出されたものであって、本発明の目的は、水素化反応生成物中のシス異性体の含有量が高く示すフタレート化合物の水素化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明は、
水素を含む気相原料;およびフタレート化合物を含む液相原料を反応器に投入して、水素およびフタレート化合物を水素化触媒存在下で反応させる段階を含むフタレート化合物の水素化方法であって、
前記液相原料のレイノルズ数は、1~100であり、
前記反応後、分離された水素化反応生成物中のシス異性体の含有量が70%以上である、フタレート化合物の水素化方法を提供する。
【0012】
前記反応器に投入される水素の量は、フタレート化合物1モルに対して3~300モルでありうる。
【0013】
前記フタレート化合物は、フタレート、テレフタレート、イソフタレートおよびこれらのカルボン酸化合物からなる群より選ばれる1種以上でありうる。
【0014】
前記気相原料は反応器の上部または下部から供給され、前記液相原料は反応器の上部から供給され得る。
【0015】
前記水素化触媒の活性成分は、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)および白金(Pt)からなる群より選ばれる1種以上でありうる。
【0016】
前記水素化触媒は、担体100重量%に対して触媒活性成分が3重量%以下でありうる。
【0017】
また、本発明は、前記方法によって製造された、水素化されたフタレートあるいはテレフタレート化合物を提供する。
【0018】
前記水素化されたフタレートあるいはテレフタレート化合物は可塑剤として使用することができる。
【0019】
また、本発明は、前記可塑剤;およびエチレン酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリブタジエン、シリコン、熱可塑性エラストマーまたはこれらの共重合体の中から選ばれた樹脂;を含む樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のフタレート化合物の水素化方法によれば、水素化反応の立体選択性が増加して生成物中のシス異性体の含有量が高く示し、これにより、水素化反応生成物の可塑剤としての品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の水素化方法に使われる水素化反応装置を簡略化して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は多様な変換を加えることができ、様々な実施例を有することができるため、特定実施例を例示して詳細に説明する。しかし、これは本発明を特定の実施形態に対して限定しようとするものではなく、本発明の思想および技術範囲に含まれるすべての変換、均等物乃至代替物を含むものとして理解しなければならない。本発明を説明するにあたり関連する公知技術に対する具体的な説明が本発明の要旨を曖昧にすると判断される場合、その詳細な説明を省略する。
【0023】
また、以下で使われる第1、第2などのように、序数を含む用語は多様な構成要素を説明するのに使われることができるが、前記構成要素は前記用語によって限定されない。前記用語は一つの構成要素を他の構成要素と区別する目的でのみ使われる。例えば、本発明の権利範囲を逸脱せず、第1構成要素を第2構成要素と命名することができ、同様に第2構成要素も第1構成要素と命名することができる。
【0024】
単数の表現は文脈上明白に異なる意味を示さない限り、複数の表現を含む。本出願で、「含む」または「有する」などの用語は、明細書上に記載された特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであり、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、動作、構成要素、部品または、これらを組み合わせたものなどの存在または、付加可能性をあらかじめ排除しないものとして理解されるべきである。
【0025】
以下、図面を参照して本発明のフタレート化合物の水素化方法を詳細に説明する。
本発明の好ましい一実施形態によれば、水素を含む気相原料;およびフタレート化合物を含む液相原料を反応器に投入して、水素およびフタレート化合物を水素化触媒存在下で反応させる段階を含むフタレート化合物の水素化方法であって、
前記液相原料のレイノルズ数は、1~100であり、
前記反応後、分離された水素化反応生成物中のシス異性体の含有量が70%以上である、フタレート化合物の水素化方法が提供される。
【0026】
本発明では液相原料のレイノルズ数を特定の数値範囲内に制御して運転することによって、フタレート化合物の水素化反応の立体選択性を高める。すなわち、本発明によれば、水素化反応生成物中のシス異性体の含有量が70%以上に高く示し、このような水素化反応生成物は、PVC樹脂に対する優れた可塑化効率、速い吸収速度、固形化後の製品の透明度を示し、長期間使用しても製品表面への浸出の発生が少なくて、プラスチック可塑剤として優れた特性を示す。したがって、本発明は、高品質の可塑剤の生産に活用され得る。
【0027】
本発明の水素化方法の反応対象物は、フタレート化合物であり、水素化反応(hydrogenation)により前記フタレート化合物のベンゼン環に水素が添加され、これに相応するシクロヘキサンジカルボキシレート化合物に転換される反応である。
【0028】
前記フタレート化合物は、フタレート(phthalate)、テレフタレート(terephthalate)、イソフタレート(isophthalate)、およびこれに相応するカルボン酸化合物(carboxylic acid)のうち選ばれる1種以上でありうる。
【0029】
まず、前記フタレート化合物は、下記のような化学式1で表される。
【化1】
【0030】
前記化学式1において、RおよびR’は、それぞれ独立して相異するかまたは同一であり、水素、炭素数1~20、好ましくは炭素数4~20、より好ましくは炭素数5~20、さらに好ましくは炭素数5~10の直鎖または分枝鎖アルキル基である。
【0031】
前記フタレート化合物の具体的な例としては、ジブチルフタレート(DBP;dibutyl phthalate)、ジヘキシルフタレート(DHP;dihexyl phthalate)、ジオクチルフタレート(DOP;dioctyl phthalate)、ジ-n-オクチルフタレート(DnOP;di-n-octyl phthalate)、ジイソノニルフタレート(diisononyl phthalate)、またはジイソデシルフタレート(DIDP;diisodecyl phthalate)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの化合物は、単独でまたは混合して使用することができる。
【0032】
前記テレフタレート化合物は、下記のような化学式2で表される。
【化2】
【0033】
前記化学式2において、RおよびR’は、それぞれ独立して相異するかまたは同一であり、水素、炭素数1~20、好ましくは炭素数4~20、より好ましくは炭素数5~20、さらに好ましくは炭素数5~10の直鎖または分枝鎖アルキル基である。
【0034】
前記テレフタレート化合物の具体的な例としては、ジブチルテレフタレート(DBTP;dibutyl terephthalate)、ジオクチルテレフタレート(DOTP;dioctyl terephthalate)、ジイソノニルテレフタレート(DINTP;diisononyl terephthalate)、またはジイソデシルテレフタレート(DIDTP;diisodecyl terephthalate)があるが、これらに限定されるものではない。これらの化合物は、単独でまたは混合して使用することができる。
【0035】
前記イソフタレート化合物は、下記のような化学式3で表される。
【化3】
【0036】
前記化学式3において、RおよびR’は、それぞれ独立して相異するかまたは同一であり、水素、炭素数1~20、好ましくは炭素数4~20、より好ましくは炭素数5~20、さらに好ましくは炭素数5~10の直鎖または分枝鎖アルキル基である。
【0037】
前記イソフタレート化合物の具体的な例としては、ジブチルイソフタレート(DBIP;dibutyl isophthalalate)、ジオクチルイソフタレート(DOIP;dioctyl isophthalate)、ジイソノニルイソフタレート(DINIP;diisononyl isophthalate)、またはジイソデシルイソフタレート(DIDIP;diisodecyl isophthalate)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの化合物は、単独でまたは混合して使用することができる。
【0038】
好ましくは、前記フタレート化合物としてジオクチルテレフタレート(dioctyl terephthalate,DOTP)を使用することができる。
【0039】
前記フタレート化合物の純度は約99%以上、好ましくは約99.5%以上、より好ましくは約98%以上でありうるが、これに限定されるものではなく、商業的に利用可能なすべての品質および純度のフタレート化合物を使用することができる。
【0040】
フタレート化合物の水素化工程は液相または気相で行われるが、本発明において、前記フタレート化合物は液相原料に、水素は気相原料に含まれて水素化触媒が充填された反応器内に投入される。
【0041】
本発明において、反応器に投入される液相原料のレイノルズ数は1~100である。
レイノルズ数(Reynold’s number、NRE)は、流体の「慣性による力」と「粘性による力」の比であり、下記数式1で表される。
【0042】
【数1】
μ:粘度 ρ:密度 u:軸方向の線速度 D:流路の直径
【0043】
流体の流れにおいて粘性による力が大きいほど流体の原子が流れ方向にそれぞれ平行する移動状態にある流れである層流を形成し、慣性による力が大きいほど流体の原子が流れ方向に対してランダムに動く乱流を形成する。レイノルズ数は、管内の流れ状態が層流か乱流かを判定する時に使われる値であって、レイノルズ数が約2000以下であると層流、2000を超えると乱流と判定する。すなわち、流体のレイノルズ数が低いほど流れが乱れず一定であることを意味する。
【0044】
本発明のフタレート化合物の水素化方法において、前記液相原料のレイノルズ数は1以上、または5以上、または10以上、または20以上であり、かつ100以下、または90以下、または80以下、または50以下、または30以下でありうる。
【0045】
前記液相原料のレイノルズ数が1未満に低すぎる場合、軸方向の線速度が小さすぎるか粘性が大きすぎて液状分散(distribution)が正常に行われず、100を超えて高すぎる場合、無作為に動く乱流性が強くなりながら安定したトリクル(trickle)流動形成から抜け出して反応性が低下する。このような観点から、前記液相原料のレイノルズ数の範囲は上述した範囲が好ましい。
【0046】
本発明者らは、フタレート化合物の水素化反応工程で生成物中のシス異性体の含有量を高めるための方法を研究中、液相原料のレイノルズ数が反応の立体選択性に影響を与えることを見出した。すなわち、液相原料のレイノルズ数が低いほどシス異性体の含有量は高く示したが、これは触媒表面で原料の流れが良くなり、フタレート化合物のベンゼン環に水素添加が同時に起こる比率が高くなるためであると考えられる。
【0047】
本発明において反応器に投入される気相原料および液相原料の温度および圧力条件は特に限定されないが、一般に投入される原料は、水素化反応条件と同じ圧力を有し、温度条件の場合、水素化反応条件と同じ温度を有することが好ましく、状況に応じて反応器内の発熱程度を制御するために水素化反応条件より低い温度で反応器に投入することができる。
【0048】
本発明において、反応器に投入される液相原料のレイノルズ数を調整する方法は特に限定されない。例えば、温度や触媒サイズあるいは反応器の直径と断面積を通過する液相原料の量などで液相原料のレイノルズ数を調整することができる。本発明の一実施形態では、触媒サイズを指定した後に反応器の直径と流量などを変更してレイノルズ数を調整することができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0049】
また、前記効果を確保するために反応器に投入される水素の量は、フタレート化合物1モルに対して3モル以上、または4モル以上、または7モル以上であり、かつ300モル以下、または100モル以下、または50モル以下、または30モル以下でありうる。水素の量がフタレート化合物1モルに対して3モル未満に少なすぎると当量比より少ない水準で反応性が低下し、300モルを超えて多すぎると反応器および後段の気相工程設備および計装などの大きさが過度に大きくなり、設備コストが増加できる。このような観点から、前記水素の量は、上述した範囲が好ましい。
【0050】
前記水素化触媒は、活性成分として遷移金属を含み得、好ましくはルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)および白金(Pt)からなる群より選ばれる1種以上を含み得る。
【0051】
このような水素化触媒は担体に担持させて使用することができ、この時、担体としては当業界で知られている担体を制限なく使用することができる。具体的には、ジルコニア(ZrO)、チタニア(TiO)、アルミナ(Al)、シリカ(SiO)などの担体を使用することができる。
【0052】
前記水素化触媒が担体に担持された場合、水素化触媒の活性成分の量は、担体100重量%に対して3重量%以下であることが好ましく、2重量%以下、または1重量%以下であり、かつ0.1重量%以上、または0.3重量%以上でありうる。万一、水素化触媒の量が担体100重量%に対して3重量%を超えると、触媒表面で反応が急激に進行し、この過程で副反応も増加して副生成物量が急増する問題が発生し得、0.1重量%未満の場合、触媒量が足りず水素化反応の収率が低下しうるので、上記の範囲が好ましい。
【0053】
本発明における水素化反応条件は、特に限定されるものではないが、一例として、反応圧力は50bar以上、または100bar以上、または130bar以上であり、かつ200bar以下、または180bar以下、または150bar以下でありうる。万一、反応圧力が50bar未満の場合、液相内の水素溶解度が少なすぎて反応性が低下する問題があり得、200barを超えると高圧による設備のサイズが増加して設備コストが増加する問題があり得るので、上記の範囲が好ましい。
【0054】
また、反応温度は100℃以上、または120℃以上、または130℃以上であり、かつ300℃以下、または250℃以下、または200℃以下でありうる。万一、反応温度が100℃未満であれば、低い温度によって反応性が低下する問題があり得、300℃を超えると分解などで副生成物が増加する問題があり得る。
【0055】
このような水素化反応によって、前記フタレート化合物の芳香族環が水素化され、これに相応するシクロヘキサンジカルボキシレート化合物に転換される。
【0056】
反応が終了した後、生成された液相の水素化反応生成物と、未反応の気相の原料を分離する。前記分離された気相の原料は水素化工程で再循環できる。また、回収された水素化反応生成物は、減圧および冷却過程を経て最終的に分離することができる。
【0057】
気相および液相原料のレイノルズ数を調整して反応に投入する本発明の水素化方法によれば、水素化反応の立体選択性が向上して生成物中のシス異性体の含有量が70%以上、より好ましくは80%以上に高く示す。このようにシス異性体の含有量が高くなることによって、本発明により製造される水素化反応生成物は、優れた可塑化効率および速い吸収速度を示し、固形化後の製品の透明度に優れ、長期間使用しても製品表面への浸出の発生が少なくて、プラスチック可塑剤として優れた特性を示す。
【0058】
図1は、本発明の水素化方法に使われる水素化反応装置を示す図である。
図1を参照すると、前記水素化反応装置は、熱交換器(a、b)、反応器cおよび気相-液相分離器dなどからなる。
【0059】
前記熱交換器(a、b)は、気相原料1および液相原料3を反応器cに投入する前に昇温させる役割を果たすものであって、必要に応じて省略可能である。
【0060】
前記熱交換器を経た気相原料2および液相原料4は、内部に水素化触媒が充填された管形態の反応器cに投入され、水素化反応が行われる。前記反応器は、反応熱を制御するために制熱用外部ジャケットをさらに含み得る。この時、前記気相原料2は、反応器の上部または下部から供給され得、液相原料4は反応器の上部から供給され得る。液相原料は、反応器上部から下部に重力によって触媒に乗って流れ、レイノルズ数によるトリクル(trickle)流れ性を示し、水素化反応性を効率的に進行する。
【0061】
前記反応器cから出てきた反応混合物5は、気相-液相分離器dに伝達され、ここで液相の反応生成物7と気相の未反応物6を分離する。分離された反応生成物7は回収されて追加の精製作業を経ることができ、気相の未反応物6は排出または再使用のために循環する。
【0062】
ただし、図1で各装置の位置は変更可能であり、必要に応じて図1に示していない他の装置を含むこともできるため、本発明の水素化方法は、図1に示す装置および工程順序に限定されるものではない。
【0063】
上述した本発明の水素化方法によれば、水素化反応の立体選択性が向上して生成物のシス異性体の含有量が70%以上である反応生成物を得ることができる。前記生成物は、優れた可塑化効率および速い吸収速度を示し、固形化後の製品の透明度に優れ、長期間使用しても製品表面への浸出の発生が少なくて、プラスチック可塑剤として優れた特性を示す。
【0064】
このように製造された水素化されたフタレートあるいはテレフタレート化合物は可塑剤として有用に使用することができる。具体的には、前記フタレートあるいはテレフタレート化合物を含む可塑剤は、安定剤、塗料、インク、液相発泡剤(Masterbatch類)、接着剤などの製品に使用することができる。
【0065】
本発明により製造される水素化されたフタレートあるいはテレフタレート化合物は純度に優れ、シス異性体の含有量が高くて、可塑剤としての品質に優れる。したがって、エチレン酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリブタジエン、シリコン、熱可塑性エラストマーまたはこれらの共重合体の中から選ばれた樹脂の可塑剤として好適に使用することができる。
【0066】
このように可塑剤として本発明によって製造されたフタレートあるいはテレフタレート化合物を含み、前記のような樹脂を含む樹脂組成物は多様な製品に使用することができる。一例として、食品包装用フィルム(例えば、ラップ)、工業用フィルム、コンパウンド、デコシート、デコタイル、軟質シート、硬質シート、電線およびケーブル、壁紙、発泡マット、レザー、床材、ターポリン、手袋、シーラント、冷蔵庫などのガスケット、ホース、医療機器、ジオグリッド、メッシュターポリン、玩具用品、文具用品、絶縁テープ、衣類コーティング剤、衣類または文具用等に使われるPVCラベル、瓶栓ライナー、工業用またはその他用途の栓、擬似餌、電子機器内部品(例えば、sleeve)、自動車内装材、接着剤、コーティング剤などの製造に使われるが、これに限定されるものではない。
【0067】
以下、発明の具体的な実施例により、発明の作用および効果をより詳細に説明する。ただし、このような実施例は発明の例示として提示されたものに過ぎず、これによって発明の権利範囲が定まるものではない。
【0068】
<実施例>
実施例1
液相原料として純度99%であるジオクチルテレフタレート(dioctyl terephthalate,DOTP)、気相原料として水素を反応器に注入し、反応圧力150bar、反応温度150℃で水素付加反応を行った。
この時、液相原料のレイノルズ数は17.1に設定して運転した。ここでレイノルズ数は、下記数式1から計算された値である。
【0069】
【数2】
μ:粘度 ρ:密度 uz:軸方向の線速度 Dp:触媒直径
【0070】
水素/DOTPモル比は10モル比で投入し、気相および液相原料は水素化反応条件と同様に投入した。
【0071】
反応器は単一管形態で、管内に触媒で満たされた部分の長さは総3mであり、外部ジャケットに反応温度と同じ熱媒油を循環させながら水素化反応を行った。
【0072】
反応器に使用された触媒は、ルテニウム(Ru)触媒であり、アルミナ担体100重量%に対してルテニウム含有量が0.5重量%で製造された触媒であり、シリンダー型の直径3mm、高さ3mmのサイズを使用した。
【0073】
実施例2
実施例1で、液相のレイノルズ数が4.9であることを除いては同様の水素化反応を行った。
【0074】
実施例3
実施例1で、液相のレイノルズ数が40.3であることを除いては同様の水素化反応を行った。
【0075】
比較例1
実施例1で、液相のレイノルズ数が110.2であることを除いては同様の水素化反応を行った。
【0076】
<実験例>
前記実施例1~3および比較例1の水素化反応の終了後、反応混合物から未反応の気相原料を分離して水素化反応生成物を得た。実施例および比較例それぞれに対して転換率、水素化反応生成物中のシス異性体の含有量を測定し、その結果を下記表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
前記表1を参照すると、本発明のレイノルズ数を満たして工程を行った実施例1~3は転換率が99%以上に高く、水素化反応生成物中のシス異性体の含有量が79%以上に非常に高く示したことを確認できた。しかし、液相原料のレイノルズ数が本発明の数値範囲を満足しないように設定して工程を行った場合、比較例1のように水素化反応生成物内のシス異性体の含有量が顕著に減ったことを確認することができた。
【0079】
前記結果から、フタレート化合物の水素化方法において反応器に投入される気相および液相原料のレイノルズ数を本発明の範囲とする場合、水素化反応の立体選択性を大きく向上させることができ、これにより、水素化反応生成物中のシス異性体の比率が顕著に高くなるので、可塑剤としての品質に優れた水素化反応生成物を製造できることを確認することができた。
【符号の説明】
【0080】
a,b:熱交換器
c:反応器
d:気相-液相分離器
1、2:気相原料
3、4:液相原料
5:反応混合物
6:気相の未反応物
7:液相の反応生成物
図1