(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】4環性化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 401/04 20060101AFI20221031BHJP
【FI】
C07D401/04
(21)【出願番号】P 2020541220
(86)(22)【出願日】2019-09-03
(86)【国際出願番号】 JP2019034543
(87)【国際公開番号】W WO2020050241
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-07-22
(31)【優先権主張番号】P 2018165313
(32)【優先日】2018-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100139310
【氏名又は名称】吉光 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 宏希
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 朗
(72)【発明者】
【氏名】福田 弘志
(72)【発明者】
【氏名】濱 直人
【審査官】伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-126711(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0257667(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0247352(US,A1)
【文献】国際公開第2017/073706(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107033124(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物(1):
【化1】
で表される化合物、またはその薬学的に許容される塩を製造する方法であって、
前記方法は、式VIIIb
【化2】
[R
1aは、
4-(モルホリン-4-イル)ピペリジン-1-イル基を表し、R
2はエチル基を表す。]
で表される化合物を、ジクロロメタン、1,4-ジオキサン、2-メチルテトラヒドロフラン、2-ブタノン、tert-ブチルメチルエーテル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、またはアセトニトリルから選択される溶媒中、縮合剤で処理し、
式IXa:
【化3】
で表される化合物、またはその薬学的に許容される塩を製造する工程、
を含む、方法。
【請求項2】
前記方法が、
(1)工程1a:
式I:
【化4】
[式中、R
1aは
4-(モルホリン-4-イル)ピペリジン-1-イル基、ヨード基またはブロモ基を表し、R
2はエチルである。]
で表される化合物を酸の存在下で反応させて、式II:
【化5】
[式中、R
1a及びR
2は上記と同義であり、R
AはC
1-C
6アルキル基を表す。]
で表される化合物を製造する工程;
(2)工程1b:
式IIで表される化合物を塩基およびAcOR
Bと反応させて、式III:
【化6】
[式中、R
1a、R
2は上記と同義であり、R
BはC
1-C
6アルキル基を表す。]
で表される化合物を製造する工程;および
(3)工程2a:
式IIIで表される化合物を式IV:
【化7】
[式中、Xは脱離基を表す。]
で表される化合物と塩基とを反応させて、式V:
【化8】
[式中、R
1a、R
2及びR
Bは上記と同義である。]
で表される化合物を製造する工程;および、下記(4)または(5)のいずれかの工程:
(4)工程2b-c:
R
1aが
4-(モルホリン-4-イル)ピペリジン-1-イル基である式Vで表される化合物を還元剤と反応させて、
式VII:
【化9】
[式中、R
1
は4-(モルホリン-4-イル)ピペリジン-1-イル基を表し、R
2
及びR
B
は上記と同義である。]
で表される化合物を製造する工程;
(5)工程3:
R
1aがヨード基またはブロモ基である
式Vで表される化合物を還元剤と反応させて、式VI:
[式中、R
1a
はヨード基またはブロモ基を表し、R
2
及びR
B
は上記と同義である。]
で表される化合物を製造する工程;
当該式VIで表される化合物をパラジウム触媒存在下、4-(4-ピペリジニル
)モルホリンと反応させて、式VII:
【化10】
[式中、R
1は
4-(モルホリン-4-イル)ピペリジン-1-イル基を表し、R
2及びR
Bは上記と同義である。]
で表される化合物、またはその薬学的に許容される塩を製造する工程;ならびに、
(6)工程4:
式VIIで表される化合物を酸と反応させて、一般式VIII:
【化11】
[式中、R
1及びR
2は上記と同義である。]
で表される化合物を製造する工程;
をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記縮合剤がN,N’-ジイソプロピルカルボジイミドまたはクロロリン酸ジエチルである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記溶媒が、テトラヒドロフラン、アセトン、またはアセトニトリルから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
(1)における前記酸が、塩化アセチルである、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
(2)における前記塩基が、リチウムヘキサメチルジシラジドまたはナトリウムヘキサメチルジシラジドである、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
(2)における前記R
Bが、tert-ブチル基である請求項2に記載の方法。
【請求項8】
(3)における前記脱離基が、フルオロ基またはクロロ基である、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
(3)における前記塩基が、水酸化ナトリウム、リン酸カリウム、炭酸カリウム、または炭酸セシウムであり、反応溶媒がテトラヒドロフランである、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
(4)における前記還元剤が、ハイドロサルファイトナトリウムである、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
(5)における前記パラジウム触媒が、Π一アリルパラジウムクロリドダイマーと2’,6’-ジメトキシ-2-(ジシクロヘキシルホスフィノ)ビフェニル(S-Phos)の組み合わせ、
ジクロロ[1,3-ビス(2,6-ジ-3-ペンチルフェニル)イミダゾール-2-イリデン](3-クロロピリジル)パラジウム(II)(PEPPSI-IPent)、またはS-Phos-Pd(Crotyl)Clであり、前記工程3の反応をテトラヒドロフランと1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンの混合溶媒中で行う、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
(6)の前記酸が、トリメチルシリルクロリドおよび2,2,2-トリフルオロエタノールである、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
化合物(1)が塩酸塩である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
化合物(1)が塩酸塩であり、前記化合物(1)のほかに、式X:
【化13】
で表される化合物が、前記化合物(1)の塩酸塩の重量に対し0.08%以下で生成される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4環性化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Anaplastic Lymphoma Kinase (ALK)はインスリン受容体ファミリ-に属する受容体型チロシンキナーゼの一つであり(非特許文献1、非特許文献2)、ALKの異常を伴う疾患として、例えばがんおよびがん転移(非特許文献1、特許文献1)、うつ、認知機能障害(非特許文献2)等が知られており、ALK阻害剤はそれらの疾患の治療および予防薬として有用である。
ALK阻害作用を有する化合物として、化合物(1)(9-エチル-6,6-ジメチル-8-[4-(モルホリン-4-イル)ピペリジン-1-イル]-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カルボニトリル)が知られており、当該化合物(1)または、その薬学的に許容される塩等は、ALK異常を伴う疾患に有効な治療、および予防薬として有用であることが知られている(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4)。
【化1】
化合物(1)の製造方法としては、たとえば、特許文献1の製造方法IIIに示されるような方法が知られている。
しかしながら、特許文献1の製造方法には、用いる溶媒の環境に対する影響、安全性、副生成物や位置異性体の生成等の種々の問題があり、さらなる改良製法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許4588121号
【文献】特許4918630号
【文献】特許5006987号
【文献】特許5859712号
【非特許文献】
【0004】
【文献】Nature,第448巻,第561-566頁,2007年
【文献】Neuropsychopharmacology,第33巻,第685-700頁,2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来方法より安全かつ容易に目的物を高収率で得ることを可能とする、工業的に好ましい製法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、下記の製造方法により、溶媒として高懸念物質の使用を回避し、より少ない労力で目的物を得る方法を見出した。
すなわち、本発明は次の通りである。
[1]化合物(1):
【化2】
で表される化合物、その薬学的に許容される塩、またはそれらの溶媒和物を製造する方法であって、
前記方法は、式VIIIb
【化3】
[R
1aは、脱離基または置換されていても良い6員飽和環状アミノ基を表し、R
2はC
1-C
6アルキル基を表す。]
で表される化合物を、ジクロロメタン、1,4-ジオキサン、2-メチルテトラヒドロフラン、2-ブタノン、tert-ブチルメチルエーテル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、またはアセトニトリルから選択される溶媒中、縮合剤で処理し、
式IXa:
【化4】
で表される化合物、その薬学的に許容される塩、またはそれらの溶媒和物を製造する工程、
を含む、方法。
[1-2]
前記方法において、式VIIIbが、6-シアノ-2-[1-[4-エチル-3-(4-モルホリノ-1-ピペリジル)フェニル]-1-メチル-エチル]-1H-インドール-3-カルボン酸であり、式IXaが9-エチル-6,6-ジメチル-8-[4-(モルホリン-4-イル)ピペリジン-1-イル]-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カルボニトリルである、[1]に記載の方法。
[2]
前記方法が、
(1)工程1a:
式I:
【化5】
[式中、R
1aは、脱離基または置換されていても良い6員飽和環状アミノ基を表し、R
2はC
1-C
6アルキル基を表す。]
で表される化合物を酸の存在下で反応させて、式II:
【化6】
[式中、R
1a及びR
2は上記と同義であり、R
AはC
1-C
6アルキル基を表す。]
で表される化合物を製造する工程;
(2)工程1b:
式IIで表される化合物を塩基およびAcOR
Bと反応させて、式III:
【化7】
[式中、R
1a、
R
2
は上記と同義であり、R
BはC
1-C
6アルキル基を表す。]
で表される化合物を製造する工程;
(3)工程2a:
式IIIで表される化合物を式IV:
【化8】
[式中、Xは脱離基を表す。]
で表される化合物と塩基とを反応させて、式V:
【化9】
[式中、R
1a、R
2及びR
Bは上記と同義である。]
で表される化合物を製造する工程;
(4)工程2b-c:
式Vで表される化合物を還元剤と反応させて、式VI:
【化10】
[式中、R
1a、R
2及びR
Bは上記と同義である。]
で表される化合物を製造する工程;
(5)工程3:
式VIで表される化合物をパラジウム触媒存在下、置換されていても良い6員飽和環状アミンと反応させて、式VII:
【化11】
[式中、R
1は置換されていても良い6員飽和環状アミノ基を表し、R
2及びR
Bは上記と同義である。]
で表される化合物、もしくはその薬学的に許容される塩、またはそれらいずれかの溶媒和物を製造する工程;または、
(6)工程4:
式VIIで表される化合物を酸と反応させて、一般式VIII:
【化12】
[式中、R
1及びR
2は上記と同義である。]
で表される化合物を製造する工程;
のいずれかをさらに含む[1]に記載の方法。
[2-1]
前記方法において、
式Iが2-(4-エチル-3-ヨード-フェニル)-2-メチル-プロパン酸であり、式IIがメチル 2-(4-エチル-3-ヨード-フェニル)-2-メチル-プロパノアートであり、式IIIがtert-ブチル 4-(4-エチル-3-ヨード-フェニル)-4-メチル-3-オキソ-ペンタノアートであり、式IVが4-フルオロ-3-ニトロベンゾニトリルであり、式Vがtert-ブチル 6-シアノ-2-[1-(4-エチル-3-ヨード-フェニル)-1-メチル-エチル]-1H-インドール-3-カルボキシラートであり、式VIがtert-ブチル 6-シアノ-2-[1-(4-エチル-3-ヨード-フェニル)-1-メチル-エチル]-1H-インドール-3-カルボキシラートであり、式VIIがtert-ブチル 6-シアノ-2-[1-[4-エチル-3-(4-モルホリノ-1-ピペリジル)フェニル]-1-メチル-エチル]-1H-インドール-3-カルボキシラートであり、式VIIIが6-シアノ-2-[1-[4-エチル-3-(4-モルホリノ-1-ピペリジル)フェニル]-1-メチル-エチル]-1H-インドール-3-カルボン酸である、[2]に記載の方法。
[3]
前記縮合剤がN,N’-ジイソプロピルカルボジイミドまたはクロロリン酸ジエチルである[1]に記載の方法。
[4]
前記溶媒が、テトラヒドロフラン、アセトン、またはアセトニトリルから選択される、[1]に記載の方法。
[5]
(1)における前記酸が、塩化アセチルである、[2]に記載の方法。
[6]
(2)における前記塩基が、リチウムヘキサメチルジシラジドまたはナトリウムヘキサメチルジシラジドである、[2]に記載の方法。
[7]
(2)における前記R
Bが、tert-ブチル基である[2]に記載の方法。
[8]
(3)における前記脱離基が、フルオロ基またはクロロ基である、[2]に記載の方法。
[9]
(3)における前記塩基が、水酸化ナトリウム、リン酸カリウム、炭酸カリウム、または炭酸セシウムであり、反応溶媒がテトラヒドロフランである、[2]に記載の方法。
[10]
(4)における前記還元剤が、ハイドロサルファイトナトリウムである、[2]に記載の方法。
[11]
(5)における前記パラジウム触媒が、Π一アリルパラジウムクロリドダイマーと2’,6’-ジメトキシ-2-(ジシクロヘキシルホスフィノ)ビフェニル(S-Phos)の組み合わせ、PEPPSI-IPent、またはS-Phos-Pd(Crotyl)Clであり、前記工程3の反応をテトラヒドロフランと1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンの混合溶媒中で行う、[2]に記載の方法。
[12]
(5)における置換されていても良い6員飽和環状アミンが式:
【化13】
で表され、R
1aがヨード基またはブロモ基である、[2]に記載の方法。
[13]
(6)の前記酸が、トリメチルシリルクロリドおよび2,2,2-トリフルオロエタノールである、[2]に記載の方法。
[14]
化合物(1)が塩酸塩である、[1]~[13]のいずれかに記載の方法。
[15]
化合物(1)が塩酸塩であり、前記化合物(1)のほかに、式X:
【化14】
で表される化合物が、前記化合物(1)の塩酸塩の重量に対し0.08%以下で生成される、[1]~[14]のいずれか一項に記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、化合物(1)、およびその薬学的に許容される塩、溶媒和物、または塩の溶媒和物の工業的製法に適した簡便かつ効率的かつ堅牢性の高い製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】化合物(VIa)の粉末X線回折の測定結果のグラフである。
【
図2】化合物(VIIa)の粉末X線回折の測定結果のグラフである。
【
図3】化合物(VIIa)の粉末X線回折の測定結果のグラフである。
【
図4】化合物(VIIa)の粉末X線回折の測定結果のグラフである。
【
図5】化合物(VIIIa)の粉末X線回折の測定結果のグラフである。
【
図6】化合物(VIIIa)の粉末X線回折の測定結果のグラフである。
【
図7】化合物(VIIIa)の粉末X線回折の測定結果のグラフである。
【
図8】化合物(1)の粉末X線回折の測定結果のグラフである。
【
図9】化合物(1)の粉末X線回折の測定結果のグラフである。
【
図10】化合物(1)の粉末X線回折の測定結果のグラフである。
【
図11】化合物(1)の粉末X線回折の測定結果のグラフである。
【
図12】化合物(1)の粉末X線回折の測定結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の製造方法を、以下に詳細に説明する。
各製造工程および実施例において汎用される略号、化学式に対応する試薬や溶媒の名称を以下に記す。
AcCl:塩化アセチル
AcOH:酢酸
BINAP:2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル
t-BuOK:tert-ブトキシカリウム
t-BuONa:tert-ブトキシナトリウム
t-Bu基:tert-ブチル基
t-Butyl X-Phos:2-ジ-tert-ブチルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル
CDI:カルボニルジイミダゾール
CPME:c-ペンチルメチルエーテル
CX-21:アリル[1,3-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)イミダゾール-2-イリデン]クロロパラジウム(II)
Dave Phos:2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’-(N,N-ジメチルアミノ)ビフェニル
DBU:1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン
DIC:N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド
DIPEA:N,N-ジイソプロピルエチルアミン
DMA:N,N-ジメチルアセトアミド
DME:1,2-ジメトキシエタン
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
DMI:1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン
DMSO:ジメチルスルホキシド
DPPF:1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン
EtOAc:酢酸エチル
EtOH:エタノール
c-Hexyl John Phos:(2-ビフェニル)ジシクロヘキシルホスフィン
John Phos:(2-ビフェニル)ジ-t-ブチルホスフィン
KHMDS:カリウムヘキサメチルジシラジド
LDA:リチウムジイソプロピルアミド
LiHMDS:リチウムヘキサメチルジシラジド
MeCN:アセトニトリル
MEK:2-ブタノン
MeOH:メタノール
2-MeTHF:2-メチルテトラヒドロフラン
MTBE:tert-ブチルメチルエーテル
NaHMDS:ナトリウムヘキサメチルジシラジド
NMP:N-メチルピロリドン
Pd2(dba)3:トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)
PEPPSI-IPent:ジクロロ[1,3-ビス(2,6-ジ-3-ペンチルフェニル)イミダゾール-2-イリデン](3-クロロピリジル)パラジウム(II)
S-Phos:2’,6’-ジメトキシ-2-(ジシクロヘキシルホスフィノ)ビフェニル
S-Phos-Pd(Crotyl)Cl:クロロ(クロチル)(2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシビフェニル)パラジウム(II)
T3P:プロピルホスホン酸無水物
TEA:トリエチルアミン
TFA:トリフルオロ酢酸
TFE:2,2,2-トリフルオロエタノール
THF:テトラヒドロフラン
TMSCl:トリメチルシリルクロリド
TMSI:トリメチルシリルヨージド
Xantophos :4,5’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-9,9’-ジメチルキサンテン
X-Phos:2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル
【0010】
本発明において、化合物(1)の「薬学的に許容される塩」としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、ホスホン酸塩、硫酸塩、または、メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩などのスルホン酸塩;酢酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、コハク酸塩、サリチル酸塩などのカルボン酸塩;ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩、ジアルキルアンモニウム塩、トリアルキルアンモニウム塩、テトラアルキルアンモニウム塩などのアンモニウム塩などが含まれる。
化合物(1)の溶媒和物、または化合物(1)の塩の溶媒和物は、水和物、非水和物のいずれであってもよく、非水和物としては、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール)、ジメチルホルムアミドなどとの溶媒和物が挙げられる。
「C1-C6アルキル基」とは、炭素数1~6の直鎖状および分枝鎖状の脂肪族炭化水素から任意の水素原子を1個除いて誘導される1価の基である。具体的にはメチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基などが挙げられる。好ましくはC1-C4アルキル基である。
本発明において用いられる「縮合剤」としては、ペプチド合成に使用される縮合剤や混合酸無水物化剤を用いることができ、ペプチド合成に使用される縮合剤としては、カルボニルジイミダゾール(CDI)、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、プロピルホスホン酸無水物(T3P)、混合酸無水物化剤としては、クロロリン酸ジエチル等のクロロリン酸ジアルキルなどが挙げられる。縮合剤は、DICやクロロリン酸ジエチルが好ましい。
「脱離基」とは置換反応において脱離して他の官能基に置き換わる基のことを指し、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基またはヨード基などのハロゲン基、およびトリフラート基、メシル基、トシル基等があげられる。好ましくは、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基またはヨード基である。
「6員飽和環状アミノ基」とは、具体的にはピペリジル基、ピペラジニル基、モルホリノ基、チオモルホリノ基等の窒素原子を介して結合する6員の飽和環状基が挙げられ、ピペリジル基が好ましい。
「6員飽和環状アミノ基」の置換基としては、4~10員ヘテロシクロアルキル基が挙げられる。4~10員ヘテロシクロアルキル基は、ヘテロ原子として窒素、酸素、硫黄原子を1~3個有する4~10員の飽和環を意味し、ピロリジニル基、イミダゾリジニル基、テトラヒドロフラニル基、ピペリジル基、ピペラジニル基、モルホリノ基、チオモルホリノ基等の一価基を意味する。好ましくはモルホリノ基である。また、4~10員ヘテロシクロアルキル基は、1以上の置換基をさらに有していても良く、当該置換基は、ハロゲン原子、C1-C6アルキル基、オキソ基、水酸基、または重水素などが挙げられる。また,「6員飽和環状アミノ基」の置換基は、ケタール基でもよく、ジメチルケタール基のような非環状ケタール基や、1,3-ジオキソラニル基や1,3-ジオキサニル基のような環状ケタール基が挙げられる。
「6員飽和環状アミン」とは、具体的にはピペリジン、ピペラジン、モルホリン、チオモルホリン等の窒素原子を介して結合する6員の飽和環状アミンが挙げられ、ピペリジンが好ましい。
「6員飽和環状アミン」の置換基としては、4~10員ヘテロシクロアルキル基が挙げられる。4~10員ヘテロシクロアルキル基は、ヘテロ原子として窒素、酸素、硫黄原子を1~3個有する4~10員の飽和環を意味し、ピロリジニル基、イミダゾリジニル基、テトラヒドロフラニル基、ピペリジル基、ピペラジニル基、モルホリノ基、チオモルホリノ基等の一価基を意味する。好ましくはモルホリノ基である。また、4~10員ヘテロシクロアルキル基は、1以上の置換基をさらに有していても良く、当該置換基は、ハロゲン原子、C1-C6アルキル基、オキソ基、水酸基、または重水素などが挙げられる。また,「6員飽和環状アミン」の置換基は、ケタール基でもよく、ジメチルケタール基のような非環状ケタール基や、1,3-ジオキソラニル基や1,3-ジオキサニル基のような環状ケタール基が挙げられる。
「酸」としては、塩化アセチル、蟻酸、酢酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、TFA、塩酸、硫酸、ピリジニウムp-トルエンスルホネート、TMSClなどを挙げることができ、好ましくは塩化アセチルまたはTMSClである。
「塩基」としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、水素化ナトリウム、LiHMDS、NaHMDS、LDA、リチウムジシクロヘキシルアミド、リチウム2,2,6,6-テトラメチルピロリジド、KHMDS、t-BuOK、t-BuONaなどを使用することができ、LiHMDSやNaHMDS、t-BuOK、DBUなどの強塩基試薬、もしくは水酸化ナトリウム、リン酸カリウム、炭酸カリウムまたは炭酸セシウムなどの無機塩試薬が好ましい。
「還元剤」としては、鉄、亜鉛、塩化チタン(III)、塩化スズ(II)、またはハイドロサルファイトナトリウムを用いることができ、好ましくはハイドロサルファイトナトリウムである。
「パラジウム触媒」としては、酢酸パラジウム、Pd2(dba)3、Π一アリルパラジウムクロリドダイマー、PdCl2(CH3CN)2、PdCl2(PPh3)2、トリアルキルプロアザホスファトラン、{P(t-Bu)3PdBr}2、PPh3、P(o-tol)3、BINAP、DPPF、P(t-Bu)3、Dave Phos、John Phos、c-Hexyl John Phos、S-Phos、X-Phos、t-Butyl X-Phos、PEPPSI-IPent、Xantphos、4,5-ビス[ビス(3,5-ビストリフルオロメチルフェニル)ホスファニル]-9,9-ジメチル-9H-キサンテン、1,3-ジアリルジヒドロイミダゾリウム塩、S-Phos-Pd(Crotyl)Clなどから選ばれるパラジウム源と配位子の組み合わせ、あるいはパラジウム-リガンド複合体が市販品であり入手が容易であり品質のばらつきが少ないので好ましく、さらに好ましくはΠ一アリルパラジウムクロリドダイマーとS-Phos、PEPPSI-IPentまたはS-Phos-Pd(Crotyl)Clである。
【0011】
また、本発明の更なる態様は、一連の工程を含む化合物(1)を製造する工業的製法に関し、当該方法は、残留溶媒の制御に多大な労力を必要とせず、更に高収率で化合物(1)およびその合成中間体を得ることを可能とする。
化合物(I)から化合物(IX)に至る一連の製法の概要をスキーム2に示し、各工程ごとに以下に説明する。なお、これらは例示であり、本発明は、工程1~5のうちの一部を用い、それ以外は公知の方法を用いてもよく、明示された試薬や条件だけでなく、本発明の目的を達成可能な範囲で使用可能なものを用いてもよい。また、化合物(1)およびその合成中間体の合成に用いる原料は、市販されているものを用いても、必要に応じて常法により製造して用いても良い。製造に用いる試薬は、市販されているものを用いても、必要に応じて常法により用時調製して用いてもよい。製造に用いる溶媒は、特に水分、酸素または二酸化炭素などに対して不安定な化合物を扱う場合には、市販されている脱水溶媒や、脱気溶媒を用いてもよく、必要に応じて常法により脱水、脱気処理を行った溶媒を用いてもよい。溶媒は必要に応じて、複数の溶媒を混合して用いてもよい。化合物の製造に際して、水分、酸素または二酸化炭素などに対して不安定な化合物を扱う場合は、反応系内を不活性な雰囲気、具体的にはよく乾燥した不活性ガスで置換した反応系で製造を行うことで、効率よく目的の化学反応を進行させることができる。好ましい不活性ガスは窒素またはアルゴンが挙げられる。本発明の製法は、化合物の性質や反応性により、反応系の温度を変えて行ってもよい。反応の最適な温度は、液体窒素で冷却させた-100℃付近から溶媒の沸点付近の範囲内である。
【化16】
[式中、Xは脱離基を表し、R
1aは、脱離基または置換されていても良い6員飽和環状アミノ基を表し、R
1は、置換されていても良い6員飽和環状アミノ基を表し、R
2はC
1-C
6アルキル基を表
し、R
Bは
、C
1-C
6アルキル基を表す。]
【0012】
また、本発明の更なる態様は、一連の工程を含む化合物(1)を製造する工業的製法に関し、当該方法は、残留溶媒の制御に多大な労力を必要とせず、更に高収率で化合物(1)およびその合成中間体を得ることを可能とする。
化合物(I)から化合物(IX)に至る一連の製法の概要をスキーム2に示し、各工程ごとに以下に説明する。なお、これらは例示であり、本発明は、工程1~5のうちの一部を用い、それ以外は公知の方法を用いてもよく、明示された試薬や条件だけでなく、本発明の目的を達成可能な範囲で使用可能なものを用いてもよい。また、化合物(1)およびその合成中間体の合成に用いる原料は、市販されているものを用いても、必要に応じて常法により製造して用いても良い。製造に用いる試薬は、市販されているものを用いても、必要に応じて常法により用時調製して用いてもよい。製造に用いる溶媒は、特に水分、酸素または二酸化炭素などに対して不安定な化合物を扱う場合には、市販されている脱水溶媒や、脱気溶媒を用いてもよく、必要に応じて常法により脱水、脱気処理を行った溶媒を用いてもよい。溶媒は必要に応じて、複数の溶媒を混合して用いてもよい。化合物の製造に際して、水分、酸素または二酸化炭素などに対して不安定な化合物を扱う場合は、反応系内を不活性な雰囲気、具体的にはよく乾燥した不活性ガスで置換した反応系で製造を行うことで、効率よく目的の化学反応を進行させることができる。好ましい不活性ガスは窒素またはアルゴンが挙げられる。本発明の製法は、化合物の性質や反応性により、反応系の温度を変えて行ってもよい。反応の最適な温度は、液体窒素で冷却させた-100℃付近から溶媒の沸点付近の範囲内である。
【化16】
[式中、Xは脱離基を表し、R
1aは、脱離基または置換されていても良い6員飽和環状アミノ基を表し、R
1は、置換されていても良い6員飽和環状アミノ基を表し、R
2はC
1-C
6アルキル基を表し、R
AおよびR
Bは、それぞれC
1-C
6アルキル基を表す。]
【0013】
工程1aおよび1b
本工程は、カルボン酸(I)よりβ-ケトエステル(III)への変換の工程である。本工程において、原料化合物のカルボン酸(I)は溶媒中、0℃から溶媒沸点付近の反応温度で、活性化剤存在下、酸クロリド、活性エステル、またはアルキルエステルなどの活性化されたカルボン酸(II)に変換することができる。その後、活性化されたカルボン酸(II)は、AcORBのエノレートと-20℃から溶媒沸点付近の反応温度で縮合させることで、β-ケトエステル(III)を与えることができる。
カルボン酸(I)から酸クロリド(II、A=Cl)への変換反応(工程1a)は、活性化剤としてチオニルクロリド、オキサリルクロリド、またはオキシ塩化りんなどを用い、カルボン酸(I)に対応する酸クロリド(II、A=Cl)に変換する方法を用いることができる。この場合の活性化剤は基質に対して1当量から10当量を用いることができる。この反応に用いる溶媒は、トルエン、キシレン、THF、CPME、MTBE、DMSO、スルホラン、1,4-ジオキサンなどおよびそれらの混合物を用いることができる。この反応は-20℃から溶媒沸点付近の反応温度で行うことができ、一定時間(例えば0.1時間から24時間)、反応混合物を攪拌することによって行うことができる。
また、カルボン酸(I)から活性エステル(II、A=イミダゾリル基)への変換反応(工程1a)は、活性化剤としてCDIなどを用いて、カルボン酸(I)に対応する活性エステル(II、A=イミダゾリル基)に変換する方法を用いることができる。この場合の活性化剤は基質に対して1当量から10当量を用いることができる。この反応に用いる溶媒は、トルエン、キシレン、THF、CPME、MTBE、DMSO、スルホラン、1,4-ジオキサンなどおよびそれらの混合物を用いることができる。この反応は、-20℃から溶媒沸点付近の反応温度で行うことができ、一定時間(例えば0.1時間から24時間)、反応混合物を攪拌することによって行うことができる。活性エステルの製造にはCDI以外に縮合剤を用いることができ、ここで得られた縮合剤に対応する活性エステルは、同様にβ-ケトエステル(III)の製造に用いることができる。
また、カルボン酸(I)からアルキルエステル(II、A=ORA、RAはC1-C6の直鎖または分岐アルキル基をあらわす)への変換反応(工程1a)は、塩化水素ガス、または塩化アセチルとアルコール(RAOH)の組み合わせを用いて、カルボン酸(I)に対応するアルキルエステル(II、A=ORA)に変換する方法を用いてもよい。この反応に用いる塩化水素ガス、または塩化アセチルは、基質に対して0.1当量から10当量を用いることができ、好ましくは2当量から5当量である。この反応に用いる溶媒は、アルコール(RAOH)を用いることができる。この反応は、-20℃から溶媒沸点付近の反応温度で行うことができ、好ましくは0℃から50℃である。この反応は、一定時間(例えば0.1時間から24時間、好ましくは1時間から4時間)、反応混合物を攪拌することによって行うことができる。
カルボン酸(I)から活性化されたカルボン酸(II)への変換反応は、好ましくはチオニルクロリドによって得られる酸クロリド(II、A=Cl)を用いる方法、CDIによって得られる活性エステル(II、A=イミダゾリル基)を用いる方法、または塩化アセチルとアルコールの組み合わせによって得られるアルキルエステル(II、A=ORA)を用いる方法である。
活性化されたカルボン酸(II)は単離精製を行っても、単離精製を行わずに連続的に次の反応に用いても良い。
活性化されたカルボン酸(II)からβ-ケトエステル(III)への変換反応(工程1b)に用いるAcORB(RBは、C1-C6の直鎖または分岐アルキル基をあらわす)のエノレートは、基質である活性化されたカルボン酸(II)に対して1当量から5当量を用いることができ、好ましくは1当量から2当量である。AcORBのエノレートの生成方法としてはLiHMDSやNaHMDS、t-BuOK、DBUなどの強塩基試薬を用いることが出来る。これら強塩基試薬は、基質である活性化されたカルボン酸(II)に対して2当量から5当量を用いることができ、好ましくは、2当量から4当量である。この反応に用いる溶媒はトルエン、キシレン、THF、CPME、MTBE、DMSO、スルホラン、1,4-ジオキサンなどおよびそれらの混合物を挙げることができ、好ましくはTHFである。AcORBは、好ましくは酢酸tert-ブチルである。この反応は、-40℃から溶媒沸点付近でおこなうことがで、好ましくは-10℃から25℃である。この反応は、一定時間、例えば0.1時間から24時間、好ましくは0.1時間から2時間、反応混合物を攪拌することによって行うことができる。
【0014】
工程2a
本工程は、脱離基(X)を持つ芳香族ニトロ化合物(IV)にβ-ケトエステル(III)を、塩基の存在下-10℃から溶媒沸点付近の反応温度で作用させる芳香族求核置換反応によって、式Vで表される化合物に変換する方法(例えばJournal of Heterocyclic Chemistry, 2009, 46(2), 172―177, またはOrganic Process Research & Development, 2014, 18(1), 89―102)である。
この反応に用いる塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、水素化ナトリウム、LiHMDS、NaHMDS、LDA、リチウムジシクロヘキシルアミド、リチウム2,2,6,6-テトラメチルピロリジド、KHMDS、t-BuOK、t-BuONaなどを使用することができ、好ましくは水酸化ナトリウム、t-BuOK、t-BuONa、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、炭酸カリウム、または炭酸セシウムである。塩基は適当な溶媒に溶解した溶液を用いてもよい。塩基は基質のβ-ケトエステル(III)に対して1当量から10当量を用いることができ、好ましくは2当量から7当量である。
この反応に用いる溶媒は、トルエン、キシレン、MeCN、THF、2-メチルテトラヒドロフラン、CPME、MTBE、DMSO、スルホラン、1,4-ジオキサン、アセトン、2-ブタノン、または水などおよびそれらの組み合わせを挙げることができ、好ましくはTHF、水およびそれらの組み合わせである。この反応は、-10℃から溶媒沸点付近の反応温度で行うことができ、好ましくは、0℃から25℃である。この反応は、一定時間(例えば0.1時間から24時間、好ましくは2時間から8時間)、反応混合物を攪拌することによって行うことができる。芳香族ニトロ化合物(IV)の脱離基(X)としてはフルオロ基、クロロ基、ブロモ基またはヨード基などのハロゲン基、およびトリフラート基、メシル基、トシル基等を用いることができ、好ましくはフルオロ基、またはクロロ基である。芳香族ニトロ化合物(IV)は、基質のβ-ケトエステル(III)に対して1当量から3当量を用いることができる。
また、化合物が溶解しない溶媒の組み合わせで反応を行う場合、相間移動触媒を使用することもでき、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等を用いることができる。相間移動触媒は、基質に対して0.01当量から0.99当量用いることができ、好ましくは0.1当量から0.4当量である。
【0015】
工程2b-c
本工程は、ニトロ基の還元に次いでインドール環の形成をおこなう還元的環化工程である。本反応は式Vで表される化合物に、還元剤を0℃から溶媒沸点付近の反応温度で作用させてニトロ基の還元を行うことで実施可能である。反応に用いる還元剤は、鉄(Synthesis, 2008, (18), 2943-2952)、亜鉛(Tetrahedron, 2008, 64(40), 9607-9618)、塩化チタン(III)(Organic&Biomolecular Chemistry, 2005, 3(2), 213-215)、塩化スズ(II)(Journal of Organic Chemistry, 1993, 58(19), 5209-5220)、ハイドロサルファイトナトリウム(Gazzetta Chimica Italiana, 1991, 121(11), 499-504)などが挙げられ、最も好ましい還元剤は、ハイドロサルファイトナトリウムである。還元剤は、基質である式Vで表される化合物に対して1当量から20当量を用いることができ、好ましくは2当量から6当量である。この反応に用いる溶媒は、メタノールやエタノールなどの短鎖アルキルアルコール、THF、または水などおよびそれらの組み合わせであり、これら有機溶媒と水の混合比率は1:5から1:0.2である。この反応は0℃から溶媒沸点付近の反応温度で行うことができ、好ましくは10℃から35℃である。この反応は、一定時間(例えば0.1時間から24時間、好ましくは1時間から5時間)、反応混合物を攪拌することによって行うことができる。
また、接触還元反応などによるニトロ基の還元に用いられる条件(Synlett, 2008, (17), 2689-2691)を使用することができる。
【0016】
工程3
本工程は、脱離基(R1a)を有する式VIで表される化合物を用いたアリール-窒素原子結合反応であり、例えば、Buchwaldらの方法(Organic synthesis,78,23; Coll. Vol.10:423)に準じて行うことができる。この反応は式VIで表される化合物や試薬類に対して不活性である適当な溶媒中、R1に相当する置換されていても良い6員飽和環状アミンと塩基の存在下、0℃から溶媒沸点付近の反応温度で行うことができ、好ましくは、5℃から55℃である。なお、脱離基(R1a)をR1に変換する反応は、当該工程3のほか、工程1、工程2、工程4、工程5あるいは、脱離基(R1a)を有する化合物(IXa)から化合物(1)に至る最終段階で、反応に悪影響を与えない範囲で行ってもよい。式VIで表される化合物中の脱離基(R1a)は、ハロゲン基、またはトリフラート基などが使用可能であり、好ましくはブロモ基またはヨード基である。この反応に用いられる塩基は、例えばt-BuONa、t-BuOK、LiHMDS、NaHMDS、KHMDS、DBU、リン酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムなどを用いることができる。塩基は、基質に対して1当量から5当量を用いることができる。塩基は適当な溶媒に溶解した溶液を用いてもよい。この反応に用いられる溶媒は、例えばトルエン、n-ヘキサン、EtOAc、DMI、DMSO、THF、1,4-ジオキサンなどおよびそれらの混合物を用いることができる。本工程は触媒および配位子を用いて行うことも可能であり、触媒および配位子(あるいは触媒と配位子の複合体)は、例えば、酢酸パラジウム、Pd2(dba)3、Π一アリルパラジウムクロリドダイマー、PdCl2(CH3CN)2、PdCl2(PPh3)2、トリアルキルプロアザホスファトラン、{P(t-Bu)3PdBr}2、PPh3、P(o-tol)3、BINAP、DPPF、P(t-Bu)3、Dave Phos、John Phos、c-Hexyl John Phos、S-Phos、X-Phos、t-Butyl X-Phos、Xantphos、4,5-ビス[ビス(3,5-ビストリフルオロメチルフェニル)ホスファニル]-9,9-ジメチル-9H-キサンテン、1,3-ジアリルジヒドロイミダゾリウム塩などを用いることができる。触媒および配位子は、基質に対して0.001当量から0.99当量を用いることができ、好ましくは、0.003当量から0.1当量、さらに好ましくは、0.003当量から0.05当量である。脱離基(R1a)は、ハロゲン基が好ましく、さらに好ましくはブロモ基またはヨード基である。この反応で用いる置換されていても良い6員飽和環状アミンは、好ましくは4-(4-ピペリジル)モルホリン、ピペリジン-4-オン、またはピペリジン-4-オンのケタール体である。置換されていても良い6員飽和環状アミンは、基質に対して1当量から5当量、さらに好ましくは1当量から3当量用いることができる。この反応は、0℃から溶媒沸点付近の反応温度で行うことができ、好ましくは、5℃から40℃である。この反応は、上記に示した温度の範囲内で一定時間(例えば0.1時間から24時間、好ましくは0.5時間から2時間)、反応混合物を攪拌することによって行うことができる。
なお、本工程においては、式VIIで表される化合物の塩とするのが好ましい。式VIIで表される化合物の塩は、式VIIで表される化合物のフリー体を、所定の塩、好ましくは、薬学的に許容される塩に対応する医薬品の製造に使用可能な酸または塩基とを接触させることにより製造することができる。好ましくは式VIIで表される化合物の塩酸塩である。
【0017】
工程4
本工程は、式VIIで表される化合物のエステル保護基(RB)の脱保護工程により、式VIIIで表される化合物へ変換させる反応で、RBは前述と同義である。エステル保護基(RB)は、例えばC1-C6アルキル基などを用いることができるが、好ましくはtert-ブチル基である。これらの脱保護は例えば、「Greene and Wuts, “Protective Groups in Organic Sythesis”(第5版、John Wiley & Sons 2014年)」に記載の方法を挙げることができ、これらを反応条件に応じて適宜用いればよい。エステル保護基(RB)がtert-ブチル基の場合、脱保護試薬は、例えばTMSI、TMSCl、BF3・OEt2などを用いることができる。脱保護試薬は、基質に対して1当量から10当量を用いることができ、好ましくは、1.5当量から3当量である。この反応で用いる溶媒は、トルエン、キシレン、ジエチルエーテル、THF、CPME、MTBE、DMSO、スルホラン、1,4-ジオキサン、2,2,2-トリフルオロエタノールなどおよびこれらの混合物を挙げることができ、好ましくはTHF、または2,2,2-トリフルオロエタノール、およびこれらの混合物である。この反応は、-20℃から溶媒沸点付近の反応温度で行うことができ、好ましくは、0℃から35℃である。この反応は、上記に示した温度の範囲内で一定時間(例えば0.1時間から24時間、好ましくは1時間から8時間)、反応混合物を攪拌することによって行うことができる。
工程5は、先に説明したスキーム1の工程である。
化合物(1)の塩酸塩は、化合物(1)と塩化水素を接触させることにより製造できる。
化合物(1)を適当な溶媒に溶解させ、塩化水素を添加して化合物(1)の塩酸塩の溶液を調整する。ついで、必要に応じてこの溶液に別の貧溶媒を加えることで、化合物(1)の塩酸塩を晶析させて、化合物(1)の塩酸塩を製造することができる。また、化合物(1)の溶液と塩化水素を混合することで、化合物(1)の塩酸塩を析出させて、化合物(1)の塩酸塩を製造することができる。
化合物(1)を溶解させるのに適した溶媒として、アセトン、2-ブタノン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、酢酸、水、あるいはこれらから選ばれる混合溶媒を用いることができる。好ましくは2-ブタノン、酢酸、および水の混合溶媒である。
塩化水素の添加方法として、塩化水素ガスを添加する方法、塩化水素を溶解させた塩酸溶液を添加する方法が挙げられる。塩化水素を溶解させた塩酸溶液として、塩酸水溶液、塩酸メタノール溶液、塩酸エタノール溶液、塩酸酢酸エチル溶液、および塩酸テトラヒドロフラン溶液などが挙げられる。好ましくは、塩酸エタノール溶液である。
化合物(1)の塩酸塩を晶析させるために添加する貧溶媒として、ヘキサン、ヘプタン、石油エーテル、エタノール、水などが例示される。
また、化合物(1)を溶解させた溶液に塩化水素を溶解させた塩酸溶液を添加することにより化合物(1)の塩酸塩を製造することや、塩化水素を溶解させた塩酸溶液に化合物(1)を溶解させた溶液を添加することにより化合物(1)の塩酸塩を製造することもできる。さらに、化合物(1)を溶解させた溶液中の不溶物を除去後、化合物(1)の塩酸塩の製造に用いることもできる。不溶物の除去方法は、濾過、または遠心分離が挙げられるがこれらの方法に限定されない。
化合物(1)の塩酸塩は、無水物であってもよく、水和物などの溶媒和物を形成していてもよい。ここでいう「溶媒和」とは、溶液中で溶質分子あるいはイオンがそれに近接している分子を強く引き付け、一つの分子集団をつくる現象をいい、例えば溶媒が水であれば水和といい、水和により得られた物質を水和物という。溶媒和物は水和物、非水和物のいずれであってもよい。非水和物としては、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール)、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシドなどが含まれた溶媒和物が存在する。
より具体的な製造法は、特許4588121号、特許4918630号、特開2012-126711に記載されている。
【0018】
本発明により、従来方法における種々の問題点を解決できる。
具体的には、以下の点において、本願発明の製法は特に有用である。
(1)特許文献1において好ましい還元剤として記載されているハイドロサルファイトナトリウム(工程2b-c)を用いた還元反応では、原薬まで残存する副生成物である不純物(X)が同時に生成するため、原薬の安全性担保の必要上、残存量のコントロールが必須であり、多大な労力が必要であった。
不純物(X)は、化合物(1)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、またはそれらの溶媒和物、またはそれらの医薬組成物に薬学的に許容可能な不純物として、化合物(1)(塩または溶媒和物である場合には、化合物(1)の塩または溶媒和物)の重量に対して最大0.15%まで許容されることが規定されているが、これに対し、本願発明の製法では、通常約0.08%以下、具体的には0.001%から約0.08%の範囲、好ましくは約0.001%から約0.08%の範囲、好ましくは約0.001%から約0.05%の範囲の量に抑えることができる。なお、化合物(X)は、規定される割合の範囲内において医薬組成物としての薬理学的な特性に影響を与えるものではない。また、不純物(X)は、本願発明の製法により化合物(1)が製造されたことを示す明確な特徴(フィンガープリント)となりうる。
【化17】
(2)特許文献1の工程5で示されたフリーデル・クラフツ型反応は、反応中に副生する化合物(1)の位置異性体である不純物(Y)により生成物収率が低下するため、工業的に実施する場合に生産性の低下の原因となっていた。
【化18】
本願発明では、フリーデル・クラフツ型反応の反応活性剤としてペプチド合成に使用される縮合剤を用いることにより、収率の低下要因となっていた不純物(Y)の生成を大きく低下させることが可能となった。
(3)特許文献1において好ましい溶媒として記載されているDMEや、DMF、DMA等のアミド系溶媒は、近年になって発がん性、催奇形性等の懸念があることが報告され、欧州の化学物質規制規則であるREACH規則において、高懸念物質(Substance of very concern:SVHC)として定義され、その取扱いについて制限をうける可能性がある。
さらに、ICHQ3C(医薬品の残留溶媒ガイドライン)では、DMEや、DMF、DMA等のアミド系溶媒の原薬への残留許容量が厳しく規制されている。実生産技術では、残留溶媒量を規制量以下に収めるための残留溶媒の制御に多大な労力を要している。
これに対し、本願発明の製法は、高懸念物質(SVHC)を用いない製法であり、残留溶媒の制御がより容易である。
(4)特許文献1において好ましい触媒系として記載されているPd-カルベン錯体を用いた触媒反応(工程3)では、反応系に含まれる水分またはアルコール含量が反応性に大きく悪影響を及ぼす。反応の再現性を保つために、反応系に含まれる水分またはアルコールの含有量コントロールに多大な労力を必要としていた。これに対し、本願発明の製法は、反応系に含まれる水分またはアルコール含量の影響を受けにくい触媒反応であり、再現性の高い触媒反応、すなわち、堅牢性の高い反応である。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらはそれぞれ一例であり、本発明はこれらの限定されるものではない。
HPLC純度は、Waters製H-Classシステム、Allianceシステムあるいは島津製作所製LC-10システムを使用して分析を行った。カラムについては、Waters製 X-Bridge(BEH 4.6mmID×150mmもしくはBEH 4.6mmID×50mm)、Sunfire(4.6mmID×150mmもしくは4.6mmID×50mm)などの汎用されているカラムを使用して測定した。各化合物の検出は、フォトダイオードアレイ検出器を用いて実施したが、質量分析計、蒸発光散乱検出等の他の手法を用いてもよい。残留溶媒は、島津製作所製GC2010を使用して内部標準法で分析を行った。水分量は、三菱ケミカルアナリテック製水分測定装置(CA-200)を用いて、カールフィッシャー法(電解法)を用いて測定した。NMRは、核磁気共鳴装置 JNM-ECP-500(JEOL製)を用いて測定した。粉末X線回折分析は、X線回析装置Empyrean(PANalytical製)を用いて測定した。
各工程の生成物は以下の分析法で分析し、評価した。
【表1】
粉末X線回折分析は以下の条件で取得した。
対陰極:Cu、 管電圧:45kV、 管電流:40mA
走査方式:連続、 ステップ幅:0.0262606°
走査軸:2θ、 ステップあたりのサンプリング時間:5.100秒
走査範囲:3~25°
【0020】
実施例1
tert-ブチル 4-(4-エチル-3-ヨード-フェニル)-4-メチル-3-オキソ-ペンタノアート(IIIa)の合成方法
(1)tert-ブチル 4-(4-エチル-3-ヨード-フェニル)-4-メチル-3-オキソ-ペンタノアート(IIIa)の合成[工程1]
【化19】
窒素気流下、2-(4-エチル-3-ヨード-フェニル)-2-メチル-プロパン酸(Ia、80g、251mmol)をメタノール(240ml)に溶解した。反応液の内温を-3℃に冷却し、この反応液に塩化アセチル(79g、1.01mol)を、反応液の内温が20℃を超えないように添加した。添加終了後、反応液を内温40℃に加温し、2時間撹拌した。得られた溶液を160mlまで濃縮し、MTBE(400ml)と食塩水(10wt%、320ml)を加え、有機層を分離した。得られた有機層は、さらに炭酸水素ナトリウム水溶液(5wt%、320ml)で洗浄した。得られた有機層を160mlまで濃縮し、THF(400ml)を添加し再度160mlまで濃縮し、メチル 2-(4-エチル-3-ヨード-フェニル)-2-メチル-プロパノアート(IIa)の粗生成物の濃縮物を得た。
得られた濃縮物にTHF(80ml)を添加し、反応液の内温を-6℃まで冷却した。LiHMDS(THF溶液、1.3mol/L、464ml)を反応液の内温が5℃を超えないように添加し、続いて反応液を-3℃に昇温した。この溶液に酢酸tert-ブチル(32g、277mmol)を反応液の内温が15℃を超えないように添加し、同温で1時間撹拌した。
得られた反応液に6mol/L塩酸(210ml、1.3mol)を、反応液の内温が20℃を超えないように添加し、30分撹拌後、静置し水層を排出した。得られた有機層をさらに炭酸水素ナトリウム水溶液(5wt%、160ml)で洗浄し、160mlまで濃縮した。得られた濃縮物にTHF(400ml)を添加し、160mlまで濃縮し、IIIaの粗生成物の濃縮物を得た。得られた濃縮物をそのまま次の工程に用いた。
HPLC純度:99.13%
【0021】
(2)tert-ブチル 6-シアノ-2-[1-(4-エチル-3-ヨード-フェニル)-1-メチル-エチル]-1H-インドール-3-カルボキシラート(VIa)の合成[工程2]
【化20】
工程1で得られたtert-ブチル 4-(4-エチル-3-ヨード-フェニル)-4-メチル-3-オキソ-ペンタノアート(IIIa)のTHF溶液(約160ml)と4-フルオロ-3-ニトロベンゾニトリル(IVa、54.3g、327mmol)を混合し、さらにTHF(742ml)を添加し、反応液の内温を5℃に冷却した。この反応液に8mol/L水酸化ナトリウム水溶液(210ml、1680mmol)を、反応液の内温が15℃を超えないように添加し、同温で4時間撹拌した。反応液に6mol/L塩酸(293ml、1758mmol)を加えて、反応液の内温を25℃に昇温した後、水層を排出した。得られた有機層にハイドロサルファイトナトリウム(253.9g、1260mmol)を加え、水(1000ml)を30分かけて滴下した。滴下終了後、反応液を内温25℃にて3時間撹拌し、MTBE(314ml)を添加後、水層を排出した。得られた有機層に、1mol/L塩酸(126ml、126mmol)を加えて25℃にて1時間撹拌後、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(293ml、293mmol)を加えて、撹拌後水層を排出した。得られた有機層を0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液(419ml、209.5mmol)で洗浄した。洗浄後の有機層を約160mlまで濃縮し、エタノール(314ml)を加えて再度160mlまで濃縮する作業を2回繰り返した。得られた濃縮混合物にエタノール(1000ml)を加え、反応液の内温を60℃まで昇温することで溶解させ、水(115ml)を15分かけて添加し、次いでWO2010143664に記載の製造法で得られた化合物VIa(524mg)を種晶として添加した。結晶の析出を確認し、1時間同温で撹拌した。同温にてスラリーに水(230ml)を2時間かけて滴下後、反応液の内温を20℃まで4時間かけて冷却した。冷却後1時間撹拌し、濾過により湿性末を取得後、エタノール、水の混合溶媒(エタノール:水=10:3、計520ml)で湿性末を洗浄した。湿性末を減圧下外温50℃にて乾燥を行い、tert-ブチル 6-シアノ-2-[1-(4-エチル-3-ヨード-フェニル)-1-メチル-エチル]-1H-インドール-3-カルボキシラート(VIa)を95.96g(収率74.2%)で得た。
HPLC純度:99.52%
粉末X線回折分析:化合物(VIa)は、
図1に示されるようなパターンを示した。
【0022】
(3)tert-ブチル 6-シアノ-2-[1-[4-エチル-3-(4-モルホリノ-1-ピペリジル)フェニル]-1-メチル-エチル]-1H-インドール-3-カルボキシラート 塩酸塩(VIIa 塩酸塩)の製造[工程3]
【化21】
窒素雰囲気下、Π一アリルパラジウムクロリドダイマー(0.453g、2.48mmol)とS-Phos(1.02g、2.48mmol)をTHF(275ml)に溶解し、反応容器内の窒素置換を行った。得られた混合物に工程2で得られたtert-ブチル 6-シアノ-2-[1-(4-エチル-3-ヨード-フェニル)-1-メチル-エチル]-1H-インドール-3-カルボキシラート(VIa、85g、165mmol)、4-(4-ピペリジニル
)モルホリン(33.8g、198mmol)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(149ml)を加え、再度反応容器内を窒素置換した。混合物を内温0℃に冷却し、NaHMDS(40%THF溶液、280ml、545mmol)を反応液の内温が20℃を超えないように添加した。添加終了後、反応液の内温を25℃に設定し、1時間撹拌した。酢酸イソプロピル(340ml)、塩化アンモニウム水溶液(15%、255g)を加え、反応液の内温を50℃に加温して、同温にて1時間撹拌した。水層を排出し、得られた有機層を外温50℃にて減圧下、有機層が約210mlに達するまで濃縮した。酢酸イソプロピル(340ml)を加えて同温にて減圧下約210mlになるまで濃縮後、残渣をアセトン(255ml)に溶解した。溶液を、1μm目開きのろ紙にて濾過を行い、得られた濾液にアセトン(935ml)を加え、溶液の内温を35℃に昇温後、ピリジン塩酸塩(21g、182mmol)のエタノール溶液(21.3ml)とアセトン(42.5ml)の混合溶液を1時間かけて滴下し、目的物を結晶化させた。得られたスラリーを1時間かけて内温-4℃まで冷却し、濾過により湿性末を取得後、アセトン(425ml)で洗浄した。湿性末を減圧下外温40℃にて乾燥を行い、tert-ブチル 6-シアノ-2-[1-[4-エチル-3-(4-モルホリノ-1-ピペリジル)フェニル]-1-メチル-エチル]-1H-インドール-3-カルボキシラート 塩酸塩(VIIa 塩酸塩、97.1gを得た。(収率:91%)
HPLC純度:99.13%
アセトン含量:7.8%
粉末X線回折分析:化合物(VIIa)は
図2、
図3、
図4に示されるようなパターンを示す。
【0023】
実施例2
試薬・溶媒種による反応選択性・反応率の比較
表1に示す溶媒および触媒の組合せを用いて、実施例1に記載した方法を実施し、目的物(化合物VIIa)と不純物(Z)の収量を測定した。
試薬・溶媒種による反応選択性・反応率の比較を表1に示す。
なお、不純物(Z)は、脱離基であるヨード基が水素原子で置き換わった以下に示す化合物である。
【化22】
【0024】
【表2】
以上の結果から、高懸念物質であるDMEに替えて、THF単独もしくはDMIとの混合溶媒および所定の触媒を用いることでDMEと同等以上の選択性で目的物を得られることがわかった。
【0025】
実施例3
(1)6-シアノ-2-[1-[4-エチル-3-(4-モルホリノ-1-ピペリジル)フェニル]-1-メチル-エチル]-1H-インドール-3-カルボン酸(VIIIa)の製造[工程4]
A.結晶洗浄法としてアセトンと水の混合物を使用する合成法
【化23】
窒素雰囲気下、tert-ブチル 6-シアノ-2-[1-[4-エチル-3-(4-モルホリノ-1-ピペリジル)フェニル]-1-メチル-エチル]-1H-インドール-3-カルボキシラート 塩酸塩(VIIa、80g、135mmol)をTFE(400ml)に懸濁し、反応液を内温25℃にて撹拌した。トリメチルシリルクロライド(24.9g、229mmol)を、反応液の内温が30℃を超えないように添加し、同温で2時間撹拌した。反応液の内温を8℃に冷却し、アセトン(320ml)を、反応液の内温が12℃を超えないように添加した。得られた溶液に1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(241ml)を、反応液の内温が8℃を超えないように添加し、結晶析出後、反応液に10%リン酸水素二カリウム水溶液(80g)を追加し、同温で一時間半撹拌した。得られた固体を濾過により湿性末として取得後、湿性末をアセトン、水の混合溶液(アセトン:水=1:1、計320ml)で洗浄した。湿性末を減圧下外温50℃で乾燥を行い、6-シアノ-2-[1-[4-エチル-3-(4-モルホリノ-1-ピペリジル)フェニル]-1-メチル-エチル]-1H-インドール-3-カルボン酸(VIIIa、64.138g)を得た(収率91%)
HPLC純度;99.71%
TFE含量:1.7%
アセトン含量:1.3%
水分量:0.4%
B.結晶洗浄法として水とアセトンを使用する合成法
窒素雰囲気下、tert-ブチル 6-シアノ-2-[1-[4-エチル-3-(4-モルホリノ-1-ピペリジル)フェニル]-1-メチル-エチル]-1H-インドール-3-カルボキシラート 塩酸塩(VIIa、20g、34mmol)をTFE(100ml)に懸濁させ、反応液を内温25℃にて撹拌した。トリメチルシリルクロライド(6.2g、57mmol)を、反応液の内温が30℃を超えないように添加し、同温で3時間撹拌した。反応液の内温を8℃に冷却し、アセトン(80ml)を、反応液の内温が12℃を超えないように添加した。得られた溶液に1mol/L水酸化ナトリウム水溶液(61ml)を、反応液の内温が12℃を超えないように添加し、結晶析出後、反応液に10%リン酸水素二カリウム水溶液(20g)を追加し、同温で一時間半撹拌した。得られた固体を濾過により湿性末として取得後、湿性末を水(80ml)で洗浄し、さらにアセトン(80ml)で洗浄した。湿性末を減圧下外温50℃で乾燥を行い、6-シアノ-2-[1-[4-エチル-3-(4-モルホリノ-1-ピペリジル)フェニル]-1-メチル-エチル]-1H-インドール-3-カルボン酸(VIIIa、15.8g)を得た(収率93%)
HPLC純度;99.76%
TFE含量:1.6%
アセトン含量:2.3%
水分量:0.4%
粉末X線回折分析:化合物(VIIIa)は、
図5、
図6、
図7に示されるようなパターンを示す。
【0026】
(2)9-エチル-6,6-ジメチル-8-[4-(モルホリン-4-イル)ピペリジン-1-イル]-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カルボニトリル(1)の製造[工程5]
A.N,N’-ジイソプロピルカルボジイミドを用いた製造方法
【化24】
窒素雰囲気下、6-シアノ-2-[1-[4-エチル-3-(4-モルホリノ-1-ピペリジル)フェニル]-1-メチル-エチル]-1H-インドール-3-カルボン酸(VIIIa、50g、100mmol)をアセトン(500ml)に懸濁し、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(25.2g、200mmol)、ジイソプロピルエチルアミン(12.9g、100mmol)を加え、反応液の内温を55℃以上に昇温した。同温で4時間撹拌後、反応液の内温を40℃に冷却した。この段階で析出した結晶は
図8に示すパターンを示した。反応液にメタノール(450ml)を30分かけて滴下後、同温にて30分間撹拌した。この段階で析出した結晶は
図9に示すパターンを示した。水(200ml)を30分かけて懸濁液へ添加し、さらに同温にて1時間撹拌を行った。この段階で析出した結晶は
図10に示すパターンを示した。生じた結晶を濾過により湿性末として取得後、メタノール、水の混合溶液(メタノール:水=12:5、計425ml)で洗浄した。この段階で得られた湿性末は
図11に示すパターンを示した。湿性末を減圧下外温50℃で乾燥を行い、9-エチル-6,6-ジメチル-8-[4-(モルホリン-4-イル)ピペリジン-1-イル]-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カルボニトリル(化合物(1)、42.734g)を得た。(収率:89%)
HPLC純度:99.85%
水分量:3.7%
粉末X線回折分析:上記手法にて得られる化合物(1)は、
図12に示されるようなパターンを示す。
【0027】
B.クロロリン酸ジエチルを用いた製法(1)
窒素雰囲気下、6-シアノ-2-[1-[4-エチル-3-(4-モルホリノ-1-ピペリジル)フェニル]-1-メチル-エチル]-1H-インドール-3-カルボン酸(VIIIa、1.0g、2.0mmol)をTHF(20ml)に懸濁し、クロロリン酸ジエチル(1.155ml、8.0mmol)、ジイソプロピルエチルアミン(2.4ml、14.0mmol)を加え、反応液の内温を68℃に昇温した。同温で反応液を2時間撹拌し、反応液の内温を40℃に冷却した。得られた反応液にメタノール(7.5ml)を添加後、反応液の内温を35℃に冷却した。水(12.5ml)を1時間かけて懸濁液へ添加し、反応液の内温を30℃にて1時間撹拌を行った・得られた固体を濾過により湿性末として取得後、メタノール、水の混合溶液(メタノール:水=5:8.7、計13.7ml)で洗浄した。湿性末を減圧下50℃で乾燥を行い、9-エチル-6,6-ジメチル-8-[4-(モルホリン-4-イル)ピペリジン-1-イル]-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カルボニトリル(化合物(1)、0.7225g)を得た。(収率:75%)
HPLC純度:99.87%
水分量:3.8%
【0028】
C.クロロリン酸ジエチルを用いた製法(2)
窒素雰囲気下、6-シアノ-2-[1-[4-エチル-3-(4-モルホリノ-1-ピペリジル)フェニル]-1-メチル-エチル]-1H-インドール-3-カルボン酸(VIIIa、1.0g、2.0mmol)をアセトニトリル(20ml)に懸濁し、クロロリン酸ジエチル(1.15ml、8.0mmol)、ジイソプロピルエチルアミン(2.4ml、14.0mmol)を加え、反応液の内温を69℃に昇温した。反応液を同温で2時間撹拌し、反応液の内温を40℃に冷却後、メタノール(7.5ml)を添加後、反応液の内温を35℃に冷却した。得られた懸濁液に、水(12.5ml)を1時間かけて添加し、内温30℃にて1時間撹拌した。得られた固体を濾過により湿性末として取得後、メタノール、水の混合溶液(メタノール:水=5:8.7、計13.7ml)で洗浄した。湿性末を減圧下50℃で乾燥を行い、9-エチル-6,6-ジメチル-8-[4-(モルホリン-4-イル)ピペリジン-1-イル]-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カルボニトリル(化合物(1)、0.8107g)を得た。(収率:84%)
HPLC純度:99.5%
水分量:3.8%
D.無水酢酸を用いた製法(1)
窒素雰囲気下、6-シアノ-2-[1-[4-エチル-3-(4-モルホリノ-1-ピペリジル)フェニル]-1-メチル-エチル]-1H-インドール-3-カルボン酸(VIIIa、1.0g、2.0mmol)を2―メチルテトラヒドロフラン(15ml)に懸濁し、無水酢酸(0.75ml、8.0mmol)、ジイソプロピルエチルアミン(2.4ml、14.0mmol)を加え、反応液の内温を80℃に昇温した。反応液を同温で6時間撹拌し、反応液の内温を40℃に冷却後、メタノール(4.5ml)を添加後、反応液の内温を35℃に冷却した。得られた懸濁液に、水(4.5ml)を0.5時間かけて添加し、内温10℃以下にて1時間撹拌した。得られた固体を濾過により湿性末として取得後、メタノール、水の混合溶液(メタノール:水=5:8.7,計13.7ml)で洗浄した。湿性末を減圧下40℃で乾燥を行い、9-エチル-6,6-ジメチル-8-[4-(モルホリン-4-イル)ピペリジン-1-イル]-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カルボニトリル(化合物(1)、0.673g)を得た。(収率:70%)
HPLC純度:99.77%
E.無水酢酸を用いた製法(2)
Dで用いた2-メチルテトラヒドロフランに替えて,溶媒としてN,N-ジメチルアセトアミドを用い,同様の操作を行い,化合物(1)を得た。(収率:85%)
HPLC純度:99.8%
【0029】
実施例4
試薬・溶媒種による環化反応の選択性・収率の比較
表2に示す試薬および溶媒の組合せを用いて、実施例3に記載した方法を実施し、目的物(化合物(1))と不純物(Y)の生成比を測定した。目的物(化合物(1))と不純物(Y)の生成比(環化反応の選択性)は、島津製作所製LC-10システムを用い、Sunfire(4.6mmID×50mm)カラムによる反応混合物のHPLC分析のピーク面積をもとに算出した。HPLC分析は0.05%トリフルオロ酢酸水溶液(A)と0.05%トリフルオロ酢酸のアセトニトリル溶液(B)を用いた直線的グラジエント法(表3,流速1ml/分)を用いて行い、230nmでの吸収ピーク面積を使用して計算した。各化合物の保持時間は目的物(化合物(1))が約6.8分、不純物(Y)が約3.8分であった。
試薬・溶媒種による環化反応の選択性・収率の比較を表2に示す。
なお、不純物(Y)は、目的物(化合物(1))とは異なる置換位置でフリーデル・クラフツ型反応により環化した下記化合物である。
【化25】
【0030】
【0031】
以上の結果から、目的物の選択性については、無水酢酸に替えて、クロロリン酸ジエチルやN,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)を用いることにより、反応選択性が大きく向上することがわかった。また、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミドとアセトンを組み合わせて使用することで目的物の収率が大きく向上することがわかった。
【0032】
【表4】
A率:0.05%トリフルオロ酢酸水溶液の総流量に対する割合
B率:0.05%トリフルオロ酢酸のアセトニトリル溶液の総流量に対する割合
【0033】
実施例5
9-エチル-6,6-ジメチル-8-[4-(モルホリン-4-イル)ピペリジン-1-イル]-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カルボニトリル 塩酸塩(化合物(1)の塩酸塩)の製造[工程6]
窒素雰囲気下、9-エチル-6,6-ジメチル-8-[4-(モルホリン-4-イル)ピペリジン-1-イル]-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カルボニトリル(化合物(1)、35g、72.5mmol)に、2-ブタノン(350ml)、水(122.5ml)、および酢酸(105ml)を加え、外温35℃にて溶解した。この溶液を、内温60℃に加熱した2mol/L塩酸(70ml)とエタノール(350ml)の混合液へ、混合液温度を60℃に保ちながら滴下した。さらに、2-ブタノン(70ml)、水(24.5ml)、および酢酸(21ml)の混合溶媒を、混合液温度を60℃に保ちながら滴下した。反応液を同温で1時間撹拌した後、反応液の内温20℃まで2時間かけて冷却した。反応液を30分撹拌後、生じた固体を濾取し、得られた湿性末をエタノール(350ml)で洗浄した。湿性末を減圧下外温40℃で乾燥を行い、9-エチル-6,6-ジメチル-8-[4-(モルホリン-4-イル)ピペリジン-1-イル]-11-オキソ-6,11-ジヒドロ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-3-カルボニトリル 塩酸塩(化合物(1)塩酸塩、31.15g)を得た(収率:82.8%)。
HPLC純度:99.95%
【0034】
化合物(1)塩酸塩を化合物Iaから製造する過程で生成する不純物(X)
3-シアノ-9-エチル-6,6-ジメチル-8-(4-モルホリノ-1-ピペリジル)-11-オキソ-5H-ベンゾ[b]カルバゾール-2-スルホン酸
【化26】
1H NMR(500 MHz, ジメチルスルホキシド―d
6) δ 1.28(3H,t,J=7.2Hz),1.53-1.69(2H,m)1.75(6H,s),1.92(2H,d,J=11.5 Hz),2.28-2.39(1H,m),2.50-2.82(8H,m),3.22(2H,d, J=11.5 Hz), 3.57-3.64(4H,m), 7.33(1H,s), 7.86 (1H,s),8.04(1H,s),8.70(1H,s),12.65 (1H,brs)
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明により、環境負荷・作業者の健康に懸念のある溶媒を使用することなく、また、不純物のコントロールを容易にすることにより、医薬品の製造においてより堅牢性・持続性の高いプロセスで構成された、高収率な化合物(1)の製造方法が提供される。