(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】油圧システム
(51)【国際特許分類】
F15B 11/08 20060101AFI20221031BHJP
F16K 31/06 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
F15B11/08 A
F16K31/06 310C
(21)【出願番号】P 2021046444
(22)【出願日】2021-03-19
【審査請求日】2022-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】岡村 潤
【審査官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-143334(JP,A)
【文献】国際公開第01/048386(WO,A1)
【文献】特開2021-004540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 11/08
F16K 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから吐出された圧油によって駆動される油圧アクチュエータと、
前記油圧ポンプから吐出される圧油の前記油圧アクチュエータに対する供給及び排出を制御する制御弁と、
前記制御弁を動作させるための制御圧力を生成する電磁弁と、
前記制御圧力の要求値である制御要求値を入力するための操作が行われる操作装置と、
前記制御要求値に応じて前記制御圧力の目標値である制御目標値を設定し、前記制御目標値によって前記電磁弁を駆動するコントローラとを備えた油圧システムにおいて、
前記コントローラは、前記電磁弁の駆動開始時点においては前記電磁弁の使用範囲における最大出力圧力となり、当該最大出力圧力となった後においては時間の経過とともに前記制御要求値に漸近するように、
前記最大出力圧力から前記制御要求値と前記最大出力圧力よりも小さい所定値とを差し引いた値を経過時間の増加とともに零に漸近させた第1の値と、前記所定値を経過時間の増加とともに前記第1の値よりも緩やかに零に漸近させた第2の値と、前記制御要求値とを加算した値を前記制御目標値として設定する
ことを特徴とする油圧システム。
【請求項2】
請求項1に記載の油圧システムにおいて、
前記コントローラは、経過時間の増加とともに前記制御目標値と前記制御要求値との差分が指数級数的に減少するように前記制御目標値を算出する
ことを特徴とする油圧システム。
【請求項3】
請求項1に記載の油圧システムにおいて、
前記コントローラは、
前記電磁弁の駆動停止時点から次回の駆動開始時点までの時間が所定時間未満の場合は、前記電磁弁の前回の駆動開始時点の時刻を起点として経過時間を計測し、
前記電磁弁の駆動停止時点から次回の駆動開始時点までの時間が前記所定時間以上の場合は、前記電磁弁の次回の駆動開始時点の時刻を起点として経過時間を計測する
ことを特徴とする油圧システム。
【請求項4】
請求項1に記載の油圧システムにおいて、
前記電磁弁は、前記コントローラから出力される電圧により制御される電磁アクチュエータと、前記電磁アクチュエータによって駆動される圧力制御弁とを有し、
前記コントローラは、前記制御目標値に基づいて前記電磁アクチュエータに流す電流の目標値である電流目標値を算出し、比例補償、微分補償、および積分補償の少なくとも1つを用いたフィードバック制御により、前記電磁アクチュエータに流れる電流を前記電流目標値に追従させる
ことを特徴とする油圧システム。
【請求項5】
請求項1に記載の油圧システムにおいて、
前記コントローラは、比例補償、微分補償、および積分補償の少なくとも1つを用いたフィードバック制御により、前記電磁弁から出力される制御圧力を前記制御目標値に追従させる
ことを特徴とする油圧システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械等の油圧回路に使用される電磁弁の制御装置に関わり、特に電磁弁の駆動開始時において電磁弁のソレノイドに過励磁電流を流したのちに、電磁弁の所要の動作を保持させるための電流を流す駆動方法を用いた制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、油圧ショベル等の建設機械に対して自動運転化の要望が高まっており、建設機械の電子制御化が進んでいる。建設機械の電子制御化の手法としては、電磁弁を用いたものがあり、例えば、油圧シリンダ、油圧モータ等の建設機械のメインのアクチュエータを制御するためのコントロールバルブを、電磁弁により制御された油圧力で操作する方法が知られている。
【0003】
一方で、建設機械の電子制御化に当たっては、建設機械による施工精度が重視されており、上記のような電子制御の手法に使用される電磁弁では、所定の精度で建設機械を運転するために油圧力を制御要求圧力にいち早く追従させることが必要となる。特に電磁弁の駆動開始時における油圧力応答のむだ時間は、コントロールバルブの操作に遅れを生じさせるため、建設機械の動作開始時点において目標動作からの乖離を生じ、施工精度悪化につながる。したがって、電磁弁の駆動開始時における油圧力立ち上がりのむだ時間の低減は建設機械の電子制御化にあたって重要な課題となる。
【0004】
電磁弁の駆動開始時のむだ時間を低減させるための手法として、電磁弁の駆動開始時にはソレノイドに過励磁電流を流すことで電磁弁を高速に開弁させ、開弁後は所要の油圧力を保持するために保持電流を流す方法が公知である。
【0005】
例えば、特許文献1では、ソレノイドに流す過励磁電流値と保持電流値および過励磁電流の供給時間を、電磁弁ユニットに設置された温度センサで測定される温度情報の関数として、あらかじめ電磁弁駆動制御装置内に記憶しておく方法を提案している。
【0006】
作動油をはじめとする電磁弁の作動流体の粘性には温度依存性があるため、電磁弁駆動時の応答も作動流体の温度に依存する。すなわち低温時においては作動流体の粘性が高くなり、その粘性抵抗によって電磁弁駆動開始時の弁体の運動が阻害されるため、むだ時間増大を招く。
【0007】
特許文献1によれば、低温時の過励磁電流値と過励磁電流の供給時間が高温時よりも大きく設定された関数を電磁弁駆動制御装置内に記憶しておき、これを基にソレノイドの供給電流を制御することで、ソレノイドは低温時において作動流体の粘性力に対抗しうる力を出力することができ、全温度範囲にわたって油圧力応答のむだ時間を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、建設機械に多く使用される電磁弁として電磁比例式圧力制御弁がある。電磁比例式圧力制御弁はソレノイドへの供給電流に比例して出力圧力を制御する機能を有した電磁弁であり、制御要求圧力に応じた電流を供給することで圧力制御を行う。そして、電磁比例式圧力制御弁は駆動開始時において常に同じ制御要求圧力にて駆動されるわけではなく、建設機械のその時々の要求動作速度に応じて駆動開始時の制御要求圧力の変化勾配が異なる。すなわち駆動開始時の制御要求電流もその時々に応じて変化勾配が異なる。
【0010】
特許文献1に示される電流制御方法を、上記の電磁比例式圧力制御弁の制御に適用する場合、電磁弁のソレノイドの制御目標電流値を、電磁弁駆動開始には温度に応じた所定時間だけ過励磁電流値に設定するとともに、その後は制御要求圧力に応じた制御要求電流値まで下げるように設定し、この制御目標電流値に沿って供給電流を制御することとなる。しかし、過励磁電流の供給時間を制御要求圧力値(制御要求電流値)の変化勾配によらず定めると、電磁比例式圧力制御弁の駆動開始時において、ある特定の制御要求圧力値(制御要求電流値)の時間変化勾配に対してはむだ時間低減効果を発揮するものの、それとは異なる制御要求圧力値(制御要求電流値)の時間変化勾配に対しては、過励磁時間の長さが過剰となり電磁比例式圧力制御弁の弁体が過剰に変位して出力圧力が制御要求圧力値を大きく上回る、あるいは過励磁時間の長さが過小となり電磁比例式圧力制御弁の弁体が十分に変位せずむだ時間低減効果が得られないといった問題を生ずる。
【0011】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、電磁弁の駆動開始時において、電磁弁から出力される制御圧力を制御要求値に速やかに追従させることが可能な油圧システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、油圧ポンプと、前記油圧ポンプから吐出された圧油によって駆動される油圧アクチュエータと、前記油圧ポンプから吐出される圧油の前記油圧アクチュエータに対する供給及び排出を制御する制御弁と、前記制御弁を動作させるための制御圧力を生成する電磁弁と、前記制御圧力の要求値である制御要求値を入力するための操作が行われる操作装置と、前記制御要求値に応じて前記制御圧力の目標値である制御目標値を設定し、前記制御目標値によって前記電磁弁を駆動するコントローラとを備えた油圧システムにおいて、前記コントローラは、前記電磁弁の駆動開始時点においては前記電磁弁の使用範囲における最大出力圧力となり、当該最大出力圧力となった後においては時間の経過とともに前記制御要求値に漸近するように、前記最大出力圧力から前記制御要求値と前記最大出力圧力よりも小さい所定値とを差し引いた値を経過時間の増加とともに零に漸近させた第1の値と、前記所定値を経過時間の増加とともに前記第1の値よりも緩やかに零に漸近させた第2の値と、前記制御要求値とを加算した値を前記制御目標値として設定するものとする。
【0013】
以上のように構成した本発明によれば、電磁弁の駆動開始時点の制御目標値が制御要求値によらず、電磁弁の使用範囲における最大出力圧力に設定されるため、電磁弁の駆動開始時点から制御圧力が立ち上がるまでの遅れ時間が短縮される。また、電磁弁の駆動開始時点からの時間の経過とともに制御目標値が制御要求値に漸近するため、制御圧力が立ち上がった後は制御圧力は制御要求値に漸近する。これにより、電磁弁の駆動開始時において、電磁弁から出力される制御圧力を制御要求値に速やかに追従させることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電磁弁の駆動開始時において、電磁弁から出力される制御圧力を制御要求値に速やかに追従させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1の実施例による電磁弁制御装置の回路図である。
【
図2】本発明の第1の実施例による電磁比例式減圧弁の部分断面図である。
【
図3】本発明の第1の実施例による油圧システムの機能ブロック図である
【
図4】本発明の第1の実施例による制御要求値と制御目標値の時刻歴波形である。
【
図5】本発明の第1の実施例による制御目標値決定部における処理を表すフローチャートである。
【
図6】本発明の第1の実施例による制御要求値、制御目標値、および電磁比例式減圧弁から出力される制御圧力の時刻歴波形を示す図である。
【
図7】本発明の第2の実施例による制御要求値と制御目標値の時刻歴波形を示す図である。
【
図8】本発明の第3の実施例による制御要求値と制御目標値の時刻歴波形である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態による油圧システムを油圧ショベルに搭載した場合を例に挙げ、図面に従って詳細に説明する。なお、各図中、同等の要素には同一の符号を付し、重複した説明は適宜省略する。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明の第1の実施例による油圧システム100の回路図である。
図1において、油圧ポンプ1はタンク2と共にメインの油圧源を構成している。油圧ポンプ1は、例えば大型油圧ショベルの原動機(図示せず)によって回転駆動され、タンク2内から吸込んだ作動油を高圧の圧油として吐出する。
【0018】
作業用の油圧シリンダ3は油圧アクチュエータの代表例を示している。この油圧シリンダ3は、例えば油圧ショベルの作業装置に設けられるブームシリンダ、アームシリンダまたはバケットシリンダ(いずれも図示せず)等を構成する。油圧シリンダ3は、チューブ3A、ピストン3Bおよびロッド3C等により構成されている。
【0019】
油圧シリンダ3は、チューブ3A内がピストン3Bにより2つの油室3D,3Eに画成され、ピストン3Bには、ロッド3Cの基端側が固着されている。ロッド3Cの先端側は、チューブ3A外に突出し、油圧ポンプ1からチューブ3A内の油室3D,3Eに給排される圧油により伸長、縮小される。なお、油圧アクチュエータは、油圧シリンダ3に限らず、例えば油圧ショベルの旋回用または走行用の油圧モータであってもよい。
【0020】
方向制御弁4は油圧シリンダ3用のコントロールバルブで、油圧ポンプ1、タンク2と油圧シリンダ3との間に設けられている。この方向制御弁4は、例えば6ポート3位置の油圧パイロット式方向制御弁からなり、左、右両側には油圧パイロット部4A,4Bが設けられている。方向制御弁4の油圧パイロット部4A,4Bは、後述の電磁比例式減圧弁11A,11Bに制御圧管路5A,5Bを介して接続されている。
【0021】
方向制御弁4は、電磁比例式減圧弁11A,11Bから油圧パイロット部4A,4Bに制御圧力pA,pBが供給されることにより、中立位置(N)から切り換え位置(L)、(R)のいずれかに切り換えられる。これにより、油圧シリンダ3の油室3D,3Eには、油圧ポンプ1からの圧油が一対の主管路6A,6Bを介して給排され、油圧シリンダ3のロッド3Cは、チューブ3Aから伸縮(駆動)される。このとき、油圧シリンダ3の油室3D,3Eに給排される圧油の流量は、方向制御弁4の変位量(すなわち、後述する操作レバー10Aの傾転操作量に基づく操作信号、または後述のコントローラ30内に予め記憶された油圧ショベルによる施工面の設計情報)に対応して可変に制御される。
【0022】
パイロットポンプ7はタンク2と共にパイロット油圧源を構成している。このパイロットポンプ7は、前記原動機によりメインの油圧ポンプ1と一緒に回転駆動される。パイロットポンプ7の吐出側には、タンク2との間に低圧リリーフ弁8が設けられている。この低圧リリーフ弁8は、パイロットポンプ7の吐出圧力を予め決められたリリーフ設定圧以下に抑えるものである。パイロットポンプ7により発生されるパイロット圧力は、後述の一次圧管路16を介して、電磁比例式減圧弁11Aのポンプポート14aと電磁比例式減圧弁11Bのポンプポート14bとにそれぞれ供給される。
【0023】
メインの油圧ポンプ1には、その吐出管路1Aとタンク2との間に高圧リリーフ弁9が設けられている。この高圧リリーフ弁9は、油圧ポンプ1に過剰圧が発生するのを防ぐため、油圧ポンプ1の吐出圧力を予め決められたリリーフ設定圧以下に抑える。このリリーフ設定圧は、低圧リリーフ弁8よりも十分に高い圧力に設定されている。
【0024】
操作レバー装置10は電気式操作装置であり、油圧シリンダ3の動きを遠隔操作する電気レバー装置として構成されている。この操作レバー装置10は、油圧ショベルのオペレータにより手動で傾転操作される操作レバー10Aを有している。操作レバー装置10は、操作レバー10Aの操作方向と操作量とに対応した操作信号をコントローラ30を介して電磁比例式減圧弁11A,11Bにそれぞれ出力する。
【0025】
ここで、操作レバー装置10は、油圧ショベルの運転室を構成するキャブ(図示せず)内に設けられている。一方、電磁比例式減圧弁11A,11Bは、前記キャブから大きく離間した位置(例えば、方向制御弁4に近い位置)に配置される。即ち、操作レバー装置10は電気式操作装置であるため、電磁比例式減圧弁11A,11Bとの間を電気配線(信号線)で接続すればよく、両者間の距離は、必要に応じて数メートル以上に延ばすことができる。なお、パイロット油圧配管を用いる場合(即ち、電気レバー装置ではなく、減圧弁型のパイロット操作弁を用いる場合)は、例えば1メートル以内の配管長さに制約するのが一般的である。
【0026】
電磁比例式減圧弁11A,11Bは、操作レバー装置10からの操作信号またはコントローラ30内に予め記憶された施工面の設計情報に応じて、コントローラ30により制御された電流に比例した制御圧力を制御圧管路5A,5Bに供給する。方向制御弁4は、このときの制御圧が油圧パイロット部4A,4Bに供給されることにより、中立位置(N)から切り換え位置(L)、(R)のいずれかに切り換えられる。このため、油圧シリンダ3の油室3D,3Eには、油圧ポンプ1からの圧油が一対の主管路6A,6Bを介して給排され、油圧シリンダ3のロッド3Cは伸縮動作(駆動)される。このように、油圧シリンダ3の伸縮動作は、操作レバー装置10からの操作信号またはコントローラ30内に予め記憶された施工面の設計情報に応じて、電磁比例式減圧弁11A,11Bと方向制御弁4を介して遠隔操作される。
【0027】
一次圧管路16は、その基端側がパイロットポンプ7の吐出側に接続され、先端側は、電磁比例式減圧弁11A,11Bのポンプポート14に接続されている。これにより、ポンプポート14には、パイロットポンプ7から吐出されるパイロット圧力が電磁比例式減圧弁11A,11B用の一次圧として供給される。ドレン管路17は、電磁比例式減圧弁11A,11Bのドレンポート15をタンク2に常時接続している。
【0028】
コントローラ30では、電磁比例式減圧弁11A,11Bに印加する電圧をパルス幅変調することで、電磁比例式減圧弁11A,11Bに流れる電流値が制御される。この詳細については後述する。
【0029】
次に、電磁比例式減圧弁11A,11Bの具体的構成について、
図2を参照して説明する。なお、電磁比例式減圧弁11A,11Bは、実質的に同様な構成を有しているので、以下の説明では、電磁比例式減圧弁11Aを例に挙げて説明し、電磁比例式減圧弁11Bの説明を省略するものとする。
【0030】
電磁比例式減圧弁11Aは、例えば電磁比例ソレノイドにより構成された電磁アクチュエータ20と、該電磁アクチュエータ20によりプッシュロッド20Cを介して切換制御される電磁作動式の圧力制御弁21とを含んで構成されている。電磁アクチュエータ20は、その外殻をなすアクチュエータケース20Aと、該アクチュエータケース20Aに一体に設けられ、コントローラ30(
図1参照)に信号線等を介して接続されるコネクタ部20Bと、前記アクチュエータケース20A内に変位可能に設けられたプッシュロッド20Cと、前記アクチュエータケース20A内に設けられプッシュロッド20Cを軸方向(
図2中の矢示A方向または矢示B方向)に駆動するソレノイド(図示せず)とを含んで構成されている。
【0031】
図2に示すように、電磁アクチュエータ20には、コントローラ30からの制御電流がコネクタ部20Bを介して入力され、このときの電流値に比例してアクチュエータケース20Aからプッシュロッド20Cが
図2の矢示A方向に伸長するように駆動される。プッシュロッド20Cは、後述のパイロットスプール24から前記ソレノイドの電磁力を上回る負荷(矢示B方向の力)を受けると、前記矢示A方向とは逆向き(即ち、矢示B方向)に変位できる構成である。
【0032】
すなわち、電磁アクチュエータ20のプッシュロッド20Cは、アクチュエータケース20A内に設けられたソレノイド側のスプリング(図示せず)により、後述の戻しばね26よりも小さな力でパイロットスプール24側(矢示A方向)に常に付勢されている。このため、前記ソレノイド側のスプリングが弾性的に撓み変形することにより、プッシュロッド20Cは前記負荷で矢示B方向に変位可能となっている。また、コントローラ30からの供給電流値が零となったときには、電磁アクチュエータ20のプッシュロッド20Cは、
図2に示す最縮小位置に戻される。
【0033】
電磁比例式減圧弁11Aの圧力制御弁21は、その外殻をなすハウジング12の電磁弁カートリッジ挿入穴13内に嵌合して設けられ、電磁アクチュエータ20のプッシュロッド20Cに対して同軸となるように配置されたスリーブ22と、該スリーブ22の内周側に形成された段付穴23内に挿嵌して設けられたパイロットスプール24とを含んで構成されている。
【0034】
圧力制御弁21のスリーブ22は、軸方向一側の外周に電磁アクチュエータ20のアクチュエータケース20Aの他側開口が螺合して取付けられている。これにより、電磁比例式減圧弁11Aは、電磁アクチュエータ20、圧力制御弁21のスリーブ22、パイロットスプール24および戻しばね26がサブアッシー化された状態で予備組立てされるカートリッジ構造となっている。この状態で、スリーブ22は、パイロットスプール24および戻しばね26と一緒にハウジング12の電磁弁カートリッジ挿入穴13内に軸方向一側から他側に向けて押込むように取付けられる。これにより、スリーブ22は、軸方向他側の端面が電磁弁カートリッジ挿入穴13の底部側に後述の仕切板27およびばね部材28を介して当接されている。換言すると、電磁アクチュエータ20のアクチュエータケース20Aは、ハウジング12の電磁弁カートリッジ挿入穴13およびスリーブ22のばね収容穴部23Aを軸方向一側から閉塞するようにハウジング12に固定して設けられている。
【0035】
スリーブ22には、段付穴23内と連通する径方向の油穴22A,22B,22Cが軸方向に互いに離間して設けられている。このうち、スリーブ22の軸方向一側寄りに位置する油穴22Aは、ハウジング12のポンプポート14に常時連通している。軸方向中間に位置する油穴22Bは、制御圧管路5Aと常時連通している。スリーブ22の軸方向他側寄りに位置する油穴22Cは、ドレンポート15に常時連通している。これらの油穴22A,22B,22C間は、スリーブ22の外周側でOリング等により互いにシールされている。
【0036】
スリーブ22の内周側に形成された段付穴23は、その軸方向一側(開口端側)に位置するばね収容穴部23Aと、該ばね収容穴部23Aよりも小径に形成された摺動穴部23B~23Eとを含んで構成されている。段付穴23のばね収容穴部23Aは、段付穴23の摺動穴部23B~23Eのうち最も軸方向一側寄りに位置する摺動穴部23Bよりも大きな内径を有する拡径穴として形成されている。ばね収容穴部23Aの端部(軸方向一側の端部)は、ハウジング12の一側でアクチュエータケース20Aの他側開口内に連通(開口)する開口端となっている。
【0037】
段付穴23は、スリーブ22の内周側に形成されたスプール摺動穴であり、パイロットスプール24が挿嵌される複数の摺動穴部23B,23C,23D,23Eを有している。これらの摺動穴部23B,23C,23D,23Eは、スリーブ22の軸方向一側から他側に向けて内径寸法が段階的に小さくなるように形成される。このうち、摺動穴部23B,23Cは、互いに同一の径で形成してもよく、摺動穴部23D,23Eよりも大径であればよい。摺動穴部23D,23Eは、摺動穴部23B,23Cよりも小径であれば互いに同一径に形成してもよい。
【0038】
パイロットスプール24は、スリーブ22の段付穴23内へと軸方向に挿嵌されている。この状態で、パイロットスプール24は、軸方向一側の閉塞端となるボス部24Aが電磁アクチュエータ20のプッシュロッド20Cと常時当接するように取付けられている。パイロットスプール24は、プッシュロッド20Cがアクチュエータケース20Aから
図2中の矢示A方向に伸長または矢示B方向へと縮小するに伴って、段付穴23内を軸方向に移動(摺動変位)する。
【0039】
パイロットスプール24には、その外周側に4つのランド24B,24C,24D,24Eが軸方向に互いに離間して設けられている。このうち、ボス部24A側(最も軸方向一側寄り)に位置する一側のランド24Bは、パイロットスプール24の先端側(最も軸方向他側)に位置する他側のランド24Eよりも大径に形成されている。一側のランド24Bと他側のランド24Eとの間に位置する中間ランド24C,24Dは、環状の鍔部として形成され、その外径寸法は、一方の中間ランド24Cが他方の中間ランド24Dよりも大径に形成されている。一側のランド24Bと大径側の中間ランド24Cとは、互いに同一径に形成してもよい。また、小径側の中間ランド24Dと他側のランド24Eも同一径に形成してもよい。
【0040】
パイロットスプール24をスリーブ22(段付穴23)内に挿嵌した状態で、一側のランド24Bは摺動穴部23B内を軸方向に摺動変位し、他側のランド24Eは摺動穴部23E内を摺動変位するように配置される。中間ランド24C,24Dのうち大径側の中間ランド24Cは、摺動穴部23C内を摺動変位するように配置されている。一方、小径側の中間ランド24Dは、油穴22Bを摺動穴部23Dに連通させる位置に配置されている。大径側の中間ランド24Cが摺動穴部23Cから油穴22Bの位置まで移動(進出)すると、摺動穴部23C(ポンプポート14)が油穴22Bを介して制御圧管路5Aと連通される。このときに、小径側の中間ランド24Dは、摺動穴部23D内に摺動可能に挿嵌された状態となり、油穴22B(制御圧管路5A)をドレンポート15(摺動穴部23D)に対して遮断する。
【0041】
このように、大径側の中間ランド24Cは、ポンプポート14と制御圧管路5Aとの間を遮断、連通するためにパイロットスプール24に設けられたランドである。一方、小径側の中間ランド24Dは、制御圧管路5Aとドレンポート15との間を連通、遮断するためにパイロットスプール24に設けられたランドである。
【0042】
すなわち、パイロットスプール24は、大径側の中間ランド24Cがスリーブ22の摺動穴部23C内に配置(摺接)されている状態では、油穴22A,22B間(ポンプポート14と制御圧管路5Aとの間)を遮断している。しかし、パイロットスプール24が軸方向他側(
図2中の矢示A方向)に移動して、大径側の中間ランド24Cが摺動穴部23Cから油穴22Bの位置に進出したときには、油穴22A,22B間(ポンプポート14と制御圧管路5Aとの間)が連通される。このため、
図1に示す一次圧管路16(ポンプポート14)から供給される作動油は、スリーブ22とパイロットスプール24との間の空間を流れて、油穴22Bから制御圧管路5Aを介して方向制御弁4の油圧パイロット部4Aへと導入される。
【0043】
このとき、小径側の中間ランド24Dは、スリーブ22の摺動穴部23D内に挿入(摺接)され、油穴22B,22C間(制御圧管路5Aとドレンポート15との間)を遮断する。このため、制御圧管路5Aからドレンポート15に向けて作動油が流通することはない。しかし、パイロットスプール24が軸方向一側(
図2中の矢示B方向)に戻されて、小径側の中間ランド24Dが摺動穴部23Dから油穴22Bの位置に達したとき(即ち、
図2に示す状態)では、油穴22B,22C間(制御圧管路5Aとドレンポート15との間)が連通される。このため、方向制御弁4の油圧パイロット部4Aに供給されていた作動油は、制御圧管路5Aを介して油穴22Bに流通し、スリーブ22とパイロットスプール24との間の空間を流れて、ドレンポート15からドレン管路43(
図1参照)へと戻っていく。
【0044】
ここで、大径側の中間ランド24Cの軸方向一側の端面は、一側のランド24Bの軸方向他側の端面と受圧面積が等しい。従って、大径側の中間ランド24Cには、矢示B方向の油圧力が発生する。一方、小径側の中間ランド24Dの軸方向他側の端面は、他側のランド24Eの軸方向一側の端面と受圧面積が等しい。従って、小径側の中間ランド24Cには、矢示A方向の油圧力が発生する。このため、大径側の中間ランド24Cと小径側の中間ランド24Dとは、油穴22Bを介して制御圧管路5A内の圧力を受圧するときに受圧面積差が生じる。すなわち、中間ランド24C,24D間には、スリーブ22内での制御圧力に対する受圧面積差が生じる。これにより、パイロットスプール24は、大径側の中間ランド24Cと小径側の中間ランド24Dの受圧面積差分の油圧力(押圧力)を、プッシュロッド20Cに対抗する向き(矢示B方向)の荷重として受ける。
【0045】
また、パイロットスプール24には、その軸方向他側の端面からボス部24Aに向けて軸方向に延びる有底の軸穴24Fが設けられている。この軸穴24Fの開口端(後述のダンピング室29側の端部)側には、筒状のオリフィス25が設けられ、軸穴24Fは、オリフィス25を介してダンピング室29と常時連通している。さらに、パイロットスプール24には、軸穴24Fの径方向外側に延びる油路24G,24Hが形成されている。これらの油路24G,24Hは、軸穴24F内をスリーブ22のばね収容穴部23A内と油穴22C内とに常時連通させている。
【0046】
スリーブ22のばね収容穴部23A内には、ドレンポート15から油路24H、軸穴24Fおよび油路24Gを介して低圧状態の作動油が導かれる。この作動油は、パイロットスプール24のボス部24A外周側からプッシュロッド20Cの周囲に沿って電磁アクチュエータ20のアクチュエータケース20A内へと導かれ、アクチュエータケース20Aの内部を潤滑状態に保ち、前記ソレノイド等を冷却する機能を有している。
【0047】
戻しばね26は、パイロットスプール24を軸方向一側に向けて常時付勢する付勢部材である。戻しばね26は、スリーブ22(段付穴23)のばね収容穴部23Aとパイロットスプール24のボス部24Aとの間に縮装状態で配設されている。
図2に示すように、パイロットスプール24は、戻しばね26の付勢力によって、電磁アクチュエータ20のプッシュロッド20C側に常に押圧された状態で、スリーブ22(ばね収容穴部23A)内に収容されている。なお、電磁アクチュエータ20のプッシュロッド20Cは、アクチュエータケース20A内に設けられた図示しない前記スプリングによって、戻しばね26よりも小さな力でパイロットスプール24側に付勢されている。
【0048】
仕切板27は、電磁弁カートリッジ挿入穴13の底部側でスリーブ22の軸方向他側端面を閉塞している。電磁弁カートリッジ挿入穴13の底部と仕切板27との間には、例えば波形ワッシャ等からなるばね部材28が設けられ、このばね部材28は、仕切板27をスリーブ22の他側端面に押付けた状態に保持している。仕切板27は、パイロットスプール24の軸方向他側にダンピング室29を形成している。
【0049】
ダンピング室29は、パイロットスプール24を挟んで電磁アクチュエータ20とは反対側に配置され、スリーブ22の内壁面(摺動穴部23E)と仕切板27とにより囲まれた円形の空間である。ダンピング室29は、パイロットスプール24の軸穴24Fにオリフィス25を介して常時連通している。このため、パイロットスプール24がスリーブ22内を軸方向他側(
図2中の矢示A方向)に移動するときには、ダンピング室29内の作動油がオリフィス25を介して軸穴24F内に排出される。オリフィス25は、このときの排出油の流れを絞ることにより、パイロットスプール24の急な動きを抑えて移動速度が緩やかになるように調整する。即ち、パイロットスプール24の動き(移動速度)は、オリフィス25の絞り径に応じて調整される。
【0050】
次にコントローラ30の具体的構成について
図3を参照して説明する。また以下の説明では電磁比例式減圧弁11Aへの供給電流を制御する場合を例に挙げる。電磁比例式減圧弁11Bについてもコントローラ30内で電磁比例式減圧弁11Aの制御と同様の処理を経ることで、電流を制御することができる。
【0051】
コントローラ30は、本発明の実施の第1の実施形態による制御装置であり、制御要求値演算部31、制御目標値決定部32、制御目標値変換部33、施工面設計情報記憶領域34、電流フィードバック制御部35をそれぞれ備えて構成される。
【0052】
制御要求値演算部31では操作レバー装置10の操作信号と後述の施工面設計情報記憶領域34に予め記憶された施工面の設計情報を基に、電磁比例式減圧弁11Aの制御量である制御圧力の制御要求値pRを演算し出力される。
【0053】
また、制御要求値演算部31では油圧ショベルの運転方法に応じて制御要求値pRの演算内容を選択する構成とすることもできる。例えば、操作レバー装置10によって油圧ショベルを手動運転する場合は、操作レバー10Aの操作量に比例した制御要求値pRを出力されるようにすることができる。また油圧ショベルを自動運転する場合は、施工面の設計情報(施工面の幅、高さ、傾斜など)に対し、施工時の油圧ショベルの作業装置の軌道を計算し、これに追従するようにブームシリンダ、アームシリンダまたはバケットシリンダの伸縮量を出力するための方向制御弁4への制御圧力を演算し制御要求値pRとして出力されるようにすることができる。
【0054】
制御目標値決定部32では、制御要求値演算部31から出力された制御要求値pRに対し補正をかけ、電磁比例式減圧弁11Aの制御圧力の制御目標値pTが出力される。制御目標値決定部32での詳細な処理の流れは後述する。
【0055】
制御目標値変換部33では、入力された制御目標値pTが電磁比例式減圧弁11Aの制御目標電流値ITに変換されて出力される。電磁比例式減圧弁11Aへの入力電流とそれに対して出力される制御圧力の関係が予め取得され、例えば数値表としてコントローラ30内に記憶されており、制御目標値変換部33ではこの電流と制御圧力の関係を参照して制御目標値pTから制御目標電流値ITへの変換が行われる。なお、本実施例においては、制御目標値pTとして、電磁比例式減圧弁11Aの使用範囲における最大出力圧力pmaxを超える値が制御目標値変換部33に入力された場合、制御目標値変換部33は制御目標値pTをpmaxに置き換え、pmaxに対応した駆動最大電流値Imaxを出力するものとしている。また、制御目標値pTが電磁比例式減圧弁11Aの非駆動相当値p0未満であった場合は、制御目標値pTをp0に置き換え、p0に対応した非駆動相当電流値I0を出力する。ここで非駆動相当電流値I0は電磁アクチュエータ20による電磁力が戻しばね26の付勢力を上回らない電流値として設定しておく。
【0056】
施工面設計情報記憶領域34では、施工面の設計情報(施工面の幅、高さ、傾斜など)が予め記憶されており、制御要求値演算部31における制御要求値pRの演算の際にこの施工面の設計情報が参照される。施工面設計情報記憶領域34への情報の書き込みは、例えば油圧ショベルの運転室を構成するキャブ(図示せず)内に設けられた制御盤(図示せず)を介して行われる構成としてもよく、また、油圧ショベルに外部との通信機器(図示せず)を設け、有線または無線通信により、外部サーバーから施工面設計情報を取得して書き込みが行われる構成としてもよい。
【0057】
電流フィードバック制御部35において、電流検出器35Cでは電磁比例式減圧弁11Aの電磁アクチュエータ20に流れる実際の電流(実電流)IAが取得されるとともに、実電流IAのA/D変換が行われ、実電流がアナログ値IAからディジタル値IAfへと変換される。A/D変換に当たっては必要に応じてノイズ除去等のためにA/D変換後の値にディジタルフィルタをかけ平滑化し、これを実電流のディジタル値IAfとしてもよい。そして制御目標電流値ITと実電流IAfの偏差(IT―IAf)が計算され、その計算結果はPID補償器35Aに入力される。
【0058】
PID補償器35Aでは制御目標電流値ITと実電流値IAfの偏差(IT―IAf)が小さくなるようように補償がなされ、Duty比として出力される。
PWM駆動装置35Bでは、PID補償器35Aから出力されたDuty比に応じて電磁アクチュエータ20に印加される駆動電圧VCのパルス幅変調がなされる。そして電磁アクチュエータ20には、駆動電圧VC、電気抵抗およびインダクタなどに応じた実電流IAが流れる。
【0059】
すなわち、電流フィードバック制御部35では、実電流IAを制御量、制御目標電流値ITを目標値、駆動電圧VCのパルス幅変調におけるDuty比を操作量としたフィードバック制御が行われる。
【0060】
ここで制御目標値決定部32での制御要求値pRに対する補正計算の内容と詳細な処理の流れとを説明する。
【0061】
まず制御目標値決定部32における補正計算の内容を、
図4を参照して説明する。
図4は制御要求値pR(実線で表示)と、制御目標値決定部32によって出力される制御目標値pT(破線で表示)の時刻歴波形をそれぞれ模式的に表したものである。
【0062】
制御目標値決定部32では制御要求値pRが電磁比例式減圧弁11Aの非駆動相当値p0(例えばpR=p0=0MPa)から駆動相当値(例えばpR>p0=0MPa)へと切り換わったか否かを判定し、制御要求値pRが非駆動相当値から駆動相当値に切り換わった時点から制御要求値pRに補正をかけ、電磁比例式減圧弁11Aの制御圧力の制御目標値pTを出力する。
図4においては制御要求値pRは、時刻t0において非駆動相当値p0から上昇を始め、制御目標値決定部32ではこの時点から制御要求値pRに対する補正が開始される。時刻t0を駆動開始時刻として、この駆動開始時刻からの経過時間をτとする(すなわちτ=t-t0)。このとき本発明における実施例では補正の計算式として例えば式(1)を用いている。
【0063】
【0064】
式(1)においてpmaxは電磁比例式減圧弁11Aの使用範囲における最大出力圧力、Kは正の所定値である。また関数exp(x)はネイピア数を指数の底とし、xを指数とした指数関数を表す。
【0065】
式(1)の右辺第1項には指数関数exp(-K・τ)が含まれており、その指数は駆動開始時刻からの経過時間τと定数値の積で表されている。したがって、駆動開始時刻である時刻t0(すなわちτ=0)において、式(1)により制御目標値pTを計算すると、指数関数の出力値は1となり、pT=pmaxと計算される。すなわち、駆動開始時刻である時刻t0においては
図4に示されるように、制御目標値pTが電磁比例式減圧弁11Aの使用範囲における最大出力圧力pmaxに設定される。
【0066】
一方、指数関数exp(-K・τ)は、底がexp(-K)、指数がτである。またKは正数としていることから、exp(-K)は1より小さな値である。したがって、駆動開始時点からの経過時間τの増加とともに指数関数exp(-K・τ)は零に漸近してゆく。すなわち式(1)の右辺第1項と右辺第2項は駆動開始からの時間の経過とともに零に漸近してゆくので、制御目標値pTは
図4に示されるように、制御要求値pRに漸近してゆく。
【0067】
制御目標値pTの制御要求値pRへの漸近の度合いは所定値Kによって調整が可能である。所定値Kは例えば、いくつかの制御要求値pRの変化勾配に対して、後述のコントローラ30による制御圧力のむだ時間の低減効果を鑑みて調整しておくのがよい。またいくつかの作動油温度に対して、先の所定値Kの調整を実施しておき、これを温度の関数としてコントローラ30に記憶させ、電磁比例式減圧弁11A,11B近傍に設けたの作動油温計(図示せず)による計測値に応じて所定値Kを変化させてもよい。
【0068】
以上により、制御目標値決定部32では制御要求値pRに対して制御目標値pTが、駆動開始時点では電磁比例式減圧弁11Aの使用範囲における最大出力圧力pmaxとなるように補正され、その後、時間の経過とともに制御目標値pTが制御要求値pRに漸近していくように補正される。
【0069】
次に制御目標値決定部32での処理の流れを、
図5を参照して説明する。制御目標値決定部32では、
図5におけるステップS1において制御要求値pRを取得し、その後ステップS2において制御要求値pRが電磁比例式減圧弁11Aの非駆動相当値p0以下であるか否かが判定される。ステップS2における判定がYESであった場合はステップS3に、判定NOであった場合はステップS5に、その後の処理が分岐する。
【0070】
ステップS2における判定がYESであった場合、すなわち、制御要求値pRが電磁比例式減圧弁11Aを非駆動とする要求値であった場合は、ステップS3において制御目標値pTが非駆動相当値p0に設定される。そしてステップS4において制御要求値pRが非駆動相当値p0以下の状態の継続時間、すなわち駆動停止要求の継続時間TIがカウントアップされる。そして最後にステップS5にて駆動開始からの経過時間τがカウントアップされ、制御目標値決定部32からは制御目標値pT(=p0)が出力される。
【0071】
一方、ステップS2における判定がNOであった場合、すなわち、制御要求値pRが電磁比例式減圧弁11Aを駆動する要求値であった場合は、ステップS6において駆動停止要求の継続時間TIが所定時間TC以上か否かが判定される。所定時間TCは零より大きな所定値で、例えば、電磁比例式減圧弁11Aに最大駆動電流Imaxが供給されている状態(すなわち制御圧力はpmax)で、駆動電圧を零に落とした瞬間から制御圧力がpmaxから零に落ちきるまでの時間として設定される。
【0072】
ステップS6における判定がYESであった場合は、ステップS7にてτが零に設定される。またステップS6における判定がNOであった場合は、ステップS7の処理は実行されずステップS8の処理に移行する。ステップS8においては式(1)により制御目標値pTが計算され、ステップS9において駆動停止要求の継続時間TIが零に設定される。そして最後にステップS5にて駆動開始からの経過時間τがカウントアップされ、制御目標値決定部32からは制御目標値pTが出力される。
【0073】
以上の処理はコントローラ30にプログラムとして書き込まれており、
図3に示す制御要求値演算部31から電流フィードバック制御部35までの処理を含めて、コントローラ30に設定された一定の制御サンプル時間毎に実行される。
【0074】
本実施の形態による制御装置は上記の構成を有するもので、次に、油圧ショベルに搭載指される油圧システム100が備える電磁比例式減圧弁11A,11Bの電流制御に対して、コントローラ30を適用した場合の動作について説明する。なお電磁比例式減圧弁11A,11B実質的に同様な構成を有しており、供給される電流値が同じであれば、それぞれ同様の動作となるため、ここでは電磁比例式減圧弁11Aを制御する際の動作を例に説明する。
【0075】
以下ではまず、電磁比例式減圧弁11Aへの制御電流供給時および供給停止時の動作から説明する。
【0076】
まず、
図1に示す操作レバー10Aが中立位置にあり、操作レバー装置10から操作信号が零であるなどで、コントローラ30から電磁アクチュエータ20に電流が供給されない状態では、パイロットスプール24は、戻しばね26により電磁アクチュエータ20のプッシュロッド20C側に付勢されている。このため、パイロットスプール24の中間ランド24Cは、ポンプポート14を制御圧管路5Aから遮断し、制御圧管路5A(すなわち、方向制御弁4の油圧パイロット部4A)は、ドレンポート15に対して連通した状態にある。
【0077】
次に、オペレータが操作レバー10Aを傾転操作して操作レバー装置10から操作信号が送られるなどして、コントローラ30からコネクタ部20Bを介して電磁アクチュエータ20に制御電流が供給されると、電磁アクチュエータ20はアクチュエータケース20A内の前記ソレノイドが励磁され、可動鉄心がソレノイドコイル(いずれも図示せず)を流れる電流値に応じた電磁力を受ける。この電磁力は、前記可動鉄心からプッシュロッド20Cを介してパイロットスプール24を矢示A方向に押圧する力として伝達される。この押圧力(電磁力)が戻しばね26による付勢力を上回ると、パイロットスプール24はダンピング室29側へ移動(摺動変位)する。
【0078】
これにより、パイロットスプール24は、大径側の中間ランド24Cが摺動穴部23Cから油穴22Bの位置に進出し、油穴22A,22B間(ポンプポート14と制御圧管路5Aとの間)を連通させる。このとき、小径側の中間ランド24Dは、スリーブ22の摺動穴部23D内へと摺動変位(進出)し、油穴22B,22C間(制御圧管路5Aとドレンポート15との間)を遮断する。
【0079】
このため、一次圧管路16からポンプポート14に供給される作動油は、油穴22Aを介してスリーブ22とパイロットスプール24との間の空間へと流れ、油穴22Bから制御圧管路5Aを介して方向制御弁4の油圧パイロット部4A内へと導入される。これにより、方向制御弁4の油圧パイロット部4Aには、電磁比例式減圧弁11Aから制御圧管路5Aを介して作動油が供給され、油圧パイロット部4A内の制御圧力PAが上昇する。
【0080】
ここで、パイロットスプール24の中間ランド24Cは、中間ランド24Dよりも大径に形成されているため、中間ランド24C,24D間にはスリーブ22内で制御圧力に対する受圧面積差が生じる。この結果、前述の如く、パイロットスプール24は、大径側の中間ランド24Cと小径側の中間ランド24Dの受圧面積差分の油圧力(押圧力)を、プッシュロッド20Cに対抗する向き(矢示B方向)の荷重として受ける。
【0081】
このとき、前記受圧面積差による矢示B方向の荷重(油圧力)と戻しばね26の付勢力との和が、プッシュロッド20Cによる矢示A方向の押圧力(電磁力)よりも小さい間は、パイロットスプール24はダンピング室29側へと矢示A方向に更に移動する。これにより、ポンプポート14と制御圧管路5Aとの間の開口量が増加し、制御圧管路5Aにはポンプポート14から作動油が更に供給され、制御圧力が上昇する。
【0082】
一方、前記受圧面積差による矢示B方向の荷重と戻しばね26の付勢力との和が、プッシュロッド20Cによる矢示A方向の押圧力よりも大きくなると、パイロットスプール24は電磁アクチュエータ20側へと矢示B方向に押戻される。これにより、パイロットスプール24は、大径側の中間ランド24Cが摺動穴部23C内へと摺動し、ポンプポート14と制御圧管路5Aとを遮断する。小径側の中間ランド24Dは、スリーブ22の摺動穴部23D内から油穴22Bの位置まで戻り、制御圧管路5Aをドレンポート15に連通させる。このため、方向制御弁4の油圧パイロット部4A内の作動油は制御圧管路5Aを介してドレンポート15へと排出され、制御圧力は低下される。
【0083】
このように、パイロットスプール24は、スリーブ22内を軸方向(矢示A、B方向)に往復動するような動作を繰返し、方向制御弁4の油圧パイロット部4A内には作動油の流入、排出が繰り返される。この結果、パイロットスプール24に付加されるプッシュロッド20Cの押圧力(電磁力)、戻しばね26の付勢力および前記受圧面積差による矢示B方向の荷重(油圧力)が釣合うように、方向制御弁4の油圧パイロット部4A内の制御圧力が調整される。換言すれば、プッシュロッド20Cによる矢示A方向の押圧力は、電磁アクチュエータ20への供給電流の値によって調整されるので、方向制御弁4の油圧パイロット部4A内の制御圧力は、結果として電磁アクチュエータ20への供給電流の値によって可変に制御されることになる。
【0084】
なお、このように方向制御弁4の油圧パイロット部4A内の制御圧力を調整する過程で、ダンピング室29にはパイロットスプール24の移動(軸方向変位)により容積変動が生じる。このとき、ダンピング室29の容積変動に伴って、オリフィス25内を作動油が流れるので、オリフィス25は流動抵抗を発生させ、急な容積変動を抑えるようにダンピング作用を発揮する。このように、オリフィス25およびダンピング室29を設けることにより、パイロットスプール24の急激な軸方向変位を抑制でき、振動を緩和することができるので、制御圧力を安定させることができる。
【0085】
一方、オペレータが操作レバー10A(
図1参照)を中立位置に戻すなどして、コントローラ30から電磁アクチュエータ20への制御電流の供給を停止した場合に、電磁アクチュエータ20は前記ソレノイドが消磁され、プッシュロッド20Cが矢示B方向へと初期状態(待機位置)まで戻される。このため、パイロットスプール24は、戻しばね26の付勢力により電磁アクチュエータ20側へと押し戻される。これにより、ポンプポート14は、制御圧管路5Aに対して遮断され、制御圧管路5Aは、ドレンポート15に連通した状態となる。このため、方向制御弁4の油圧パイロット部4A内の作動油は、制御圧管路5Aを介してドレンポート15へと排出され、制御圧力は、制御電流の停止に伴ってタンク圧まで低下する。
【0086】
次にコントローラ30の動作について説明する。コントローラ30では、まず制御要求値演算部31に操作レバー装置10からの操作信号が入力される。制御要求値演算部31はこの操作信号と施工面設計情報記憶領域34に予め記憶された施工面の設計情報を基に制御要求値pRを計算し出力する。
【0087】
制御要求値演算部31から出力された制御要求値pRは、制御目標値決定部32に入力されて補正がかけられる。そして制御目標値決定部32はその補正結果を制御目標値pTとして出力する。この補正処理の動作の詳細については後述する。
【0088】
制御目標値決定部32から出力された制御目標値pTは、制御目標値変換部33において、コントローラ30内に予め数値表として記憶された電磁比例式減圧弁11Aの電流と制御圧力の関係に沿って、制御目標電流値ITに変換されて出力される。
【0089】
そして電流フィードバック制御部35において、制御目標電流値ITを目標値、電磁アクチュエータ20に流れる実電流IAを制御量、駆動電圧VCのパルス幅変調におけるDuty比を操作量としたフィードバック制御が行われる。電磁アクチュエータ20は実電流IAに応じた電磁力Factによって圧力制御弁21を駆動する。
【0090】
以下では
図6に示した制御要求値pR(破線で表示)の入力を例に、制御目標値pT(一点鎖線で表示)が出力されるまでの制御目標値決定部32内での詳細な処理の流れおよび動作と、制御目標値決定部32内の処理を含んだコントローラ30によって制御される電磁比例式減圧弁11Aの動作を説明する。
【0091】
まず
図6において時刻t0~t1で区切られる区間SEC1に着目すると、制御要求値pRは非駆動相当値p0(0MPa)である。このため、制御目標値決定部32では
図5のステップS2の判定において、YESが選択され、区間SEC1では、
図5のS1、ステップS2,S3,S4,S5の処理が一連して制御サンプル時間毎に順次繰り返し実行される。したがって、区間SEC1では、制御目標値決定部32から制御目標値pTとして、非駆動相当値p0が出力され続ける。このため、制御目標値変換部33では非駆動相当値p0に対応した非駆動相当電流値I0(例えばI0=0A)が出力され続ける。
【0092】
そして電流フィードバック制御部35による電流制御により、実電流IAは非駆動相当電流値I0を維持するよう制御される。非駆動相当電流値I0は、電磁アクチュエータ20の電磁力Factが戻しばね26の付勢力を上回らない電流値として設定されているため、実電流IAが非駆動相当電流値I0に維持され続けることにより、パイロットスプール24の中間ランド24Cは、ポンプポート14を制御圧管路5Aから遮断し、制御圧管路5A(すなわち、方向制御弁4の油圧パイロット部4A)は、ドレンポート15に対して連通した状態が維持される。したがって電磁比例式減圧弁11Aの制御圧力pAは
図6の実線で示されるように非駆動相当値p0(0MPa)を出力する。
【0093】
また区間SEC1では、
図5のステップS4の処理の繰り返しによって、制御要求値pRが非駆動相当値p0以下となる停止要求継続時間TIがTI1として積算される。ここでは、後の説明の都合上、TI1は所定時間TCに対し、TI1≧TCを満たしているものとする。
【0094】
次に
図6において時刻t1~t2で区切られる区間SEC2に着目すると、時刻t1以降から制御要求値pRが非駆動相当値p0を上回る。したがって制御目標値決定部32では
図5のステップS2の判定において、NOが選択され、ステップS6の処理に移行する。さらにステップS6では継続時間TIと所定時間TCとの大小関係の判定がなされる。
【0095】
時刻t1においては、TI=TI1であり、前述の通りTI1≧TCであるので、
図5のステップS6ではYESが選択され、ステップS7の処理に移行する。ステップS7では駆動開始時刻からの経過時間τが零に設定される。したがって、時刻t1が駆動開始時刻となる。ステップS8では式(1)によって制御目標値pTが計算される。時刻t1においては駆動開始時刻からの経過時間τは零であるので、式(1)ではpT=pmaxと計算される。そしてステップS9において停止要求継続時間TIは零に設定され、最後にステップS5において駆動開始時刻t1からの経過時間τが制御サンプル時間分だけカウントアップされる。
【0096】
制御サンプル時間が経過し、時刻t1より後の時刻では、ステップS2で再びNOが選択され、再びステップS6の処理に移行する。ここで時刻t1におけるステップS9の処理において停止要求継続時間TIが零に設定さているため、時刻t1より後の時刻ではステップS6でNOが選択され、ステップS7の処理は実行されずにステップS8に移行する。そしてその後は時刻t1と同様にステップS8,S9,S5の処理が順次実行される。
【0097】
すなわち、
図6の区間SEC2では、時刻t1において
図5のステップS1,S2,S6,S7,S8,S9,S5の処理が一連して実行され、時刻t1より後の時刻では、ステップS1,S2,S6,S8,S9,S5の処理が一連して制御サンプル時間毎に繰り返される。
【0098】
この動作により、時刻t1ではpT=pmaxが出力されるので、制御目標値変換部33からは制御目標電流値ITとして、最大駆動電流値Imaxが出力される。電流フィードバック部はこれを目標値として電磁アクチュエータ20の実電流IAを制御する。すなわち、電磁アクチュエータ20は駆動開始時刻t1において、使用範囲内で出力しうる最大の電磁力で圧力制御弁21のパイロットスプール24を押圧するよう制御される。
【0099】
また、時刻t1より後の時刻では駆動開始時刻t1からの経過時間τの値が増大してゆき、式(1)の計算に基づいて、制御目標値pTは制御要求値pRに漸近してゆく。したがって、時刻t1以後では、制御目標電流値ITは最大駆動電流値Imaxから制御要求値pRに対応した電流値に漸近してゆく。
【0100】
したがって、本実施の形態の制御装置によれば、パイロットスプール24は電磁アクチュエータ20による駆動開始時において、使用範囲内での最大の駆動加速度でダンピング室29側へ変位するため、大径側の中間ランド24Cは摺動穴部23Cから油穴22Bの位置に進出し、油穴22A,22B間(ポンプポート14と制御圧管路5Aとの間)を連通させるとともに、小径側の中間ランド24Dは、スリーブ22の摺動穴部23D内へと摺動変位(進出)し、油穴22B,22C間(制御圧管路5Aとドレンポート15との間)を遮断するまでの時間が短縮され、制御圧力の上昇時のむだ時間が低減される。
【0101】
また、本実施例による油圧システム100によれば、制御目標電流値ITは制御要求値pRに対応した電流値に漸近してゆくので、パイロットスプール24が過剰に変位することが抑えられ(ポンプポート14と制御圧管路5Aとの間が過剰に開口することが抑えられ)、制御圧力が発生し始めた後は、制御要求値pRに対し大きく上回ることなく制御圧力pAを制御要求値pRに追従させることができる。
【0102】
次に
図6において時刻t2~t3で区切られる区間SEC3に着目すると、制御要求値pRは非駆動相当値p0である。このため、制御目標値決定部32は区間SEC1と同様の動作によって、制御目標値pTとして、非駆動相当値p0が出力され続ける。また制御要求値pRが非駆動相当値p0以下となる停止要求継続時間TIがTI2として積算される。ここでは、後の説明の都合上、区間SEC2での制御圧力pAが区間SEC3で非駆動相当値p0まで下がりきる前に、次の区間SEC4を迎えるものとし、TI2は所定時間TCに対し、TI2<TCを満たしているものとする。
【0103】
図6において時刻t3~t4で区切られる区間SEC4に着目すると、時刻t3以降から再び制御要求値pRが非駆動相当値p0を上回る。したがって区間SEC2と同様に、制御目標値決定部32では
図5のステップS2の判定において、NOが選択され、ステップS6の処理に移行する。そしてステップS6で継続時間TIと所定時間TCとの大小関係の判定がなされる。
【0104】
しかし、時刻t3では、TI=TI2であり、前述の通りTI2<TCであるので、ステップS6では区間SEC2の場合とは異なり、NOが選択され、ステップS7の処理は実行されずにステップS8へ移行し、ステップS8,S9,S5の処理が順次実行される。すなわち時刻t3が駆動開始時刻に設定しなおされることはなく、駆動開始時刻は前回設定された時刻t1のまま処理が進むこととなり、駆動開始時刻からの経過時間τも時刻t1を起点としたままカウントアップが進められることとなる。このため、時刻t3ではステップS8の式(1)による制御目標値pTの計算において、指数関数exp(-K・τ)が零に漸近した状態が維持されるので、
図6に示されるように時刻t3では制御目標値pTはpT=pmaxとはならず、制御要求値pRに漸近した値として出力される。そして、制御サンプル時間が経過し、時刻t3より後の時刻でもTI=0<TCが成立しているため、時刻t3と同じ処理が実行され、制御目標値pTは制御要求値pRに漸近した値として出力される。
【0105】
すなわち、区間SEC2の制御要求値pRの降下から区間SEC4における駆動開始時にかけて、区間SEC3での停止要求継続時間TI2が所定時間TC未満であった場合は、制御目標値決定部32による補正はなされず、制御要求値pRが制御目標値pTとして設定される。
【0106】
ところで、電磁比例式減圧弁11Aでは、先述の通り、パイロットスプール24の大径側の中間ランド24Cと小径側の中間ランド24Dとが、それぞれ、ポンプポート14と制御圧管路5Aとの間、および制御圧管路5Aとドレンポート15との間を連通・閉鎖させるように、パイロットスプール24が往復運動することで圧力制御がなされる。すなわち圧力制御中はパイロットスプール24はこの連通・閉鎖がなされる位置の近傍で往復運動を繰り返している。またパイロットスプール24はその運動特性上、コントローラ30での制御要求値pRの出力に対し、変位の遅れを生ずる。
【0107】
したがって、制御要求値pRが非駆動相当値p0に下がり切った状態であっても、パイロットスプール24の運動の遅れにより、パイロットスプール24は連通・閉鎖がなされる位置にとどまり、電磁比例式減圧弁11Aは圧力制御の動作を継続している場合がある。
【0108】
この状態から制御要求値pRを再度上昇させる際、区間SEC1における駆動開始時と同様に、制御目標値pTをpmaxに設定すると、パイロットスプール24は連通・閉鎖がなされる位置近傍において電磁アクチュエータ20の最大の電磁力を受けるため、パイロットスプール24はダンピング室29側へ過剰に変位し、ポンプポート14と制御圧管路5Aとの間を過剰に開口させてしまう。その結果、制御圧力pAは制御要求値pRから大幅に上回ってしまう。
【0109】
これに対し、本実施の形態の制御装置では、区間SEC4での時刻t3での動作のように、制御圧力pAが十分に下がり切らない時間、すなわち、パイロットスプール24が連通・閉鎖がなされる位置近傍から、
図2に示すような非駆動状態まで戻り切らない時間内で、制御要求値pRが駆動相当値となった場合は、制御目標値決定部32において制御目標値pTをpmaxに設定せず、制御要求値pRをそのまま出力するので、電磁比例式減圧弁11Aの制御圧力pAが制御要求値pRから大幅に乖離することを防ぐことができる。
【0110】
<まとめ>
本実施例では、油圧ポンプ1と、油圧ポンプ1から吐出された圧油によって駆動される油圧アクチュエータ3と、油圧ポンプ1から吐出される圧油の油圧アクチュエータ3に対する供給及び排出を制御する制御弁4と、制御弁4を動作させるための制御圧力pA(pB)を生成する電磁弁11A(11B)と、制御圧力pA(pB)の要求値である制御要求値pRを入力するための操作が行われる操作装置10と、制御要求値pRに応じて制御圧力pA(pB)の目標値である制御目標値pTを設定し、制御目標値pTによって電磁弁11A(11B)を駆動するコントローラ30とを備えた油圧システム100において、コントローラ30は、電磁弁11A(11B)の駆動開始時点においては電磁弁11A(11B)の使用範囲における最大出力圧力pmaxとなり、最大出力圧力pmaxとなった後においては時間の経過とともに制御要求値pRに漸近するように、制御目標値pTを設定する。
【0111】
以上のように構成した本実施例によれば、電磁弁11A(11B)の駆動開始時点の制御目標値pTが制御要求値pRによらず、電磁弁11A(11B)の使用範囲における最大出力圧力pmaxに設定される。これにより、電磁弁11A(11B)の駆動開始直後に電磁弁11A(11B)の弁体が開弁位置まで高速に変位するため、電磁弁11A(11B)の駆動開始時点から制御圧力pA(pB)が上昇し始めるまでの遅れ時間を短縮することができる。また、制御圧力pA(pB)が上昇し始めた後は、電磁弁11A(11B)の駆動開始時点からの経過の経過とともに制御目標値pTが制御要求値pRに漸近するため、制御圧力pA(pB)が制御要求値pRを大きく上回ることを防ぐことができる。これにより、電磁弁11A(11B)の駆動開始時において、電磁弁11A(11B)から出力される制御圧力pA(pB)を制御要求値pRに速やかに追従させることが可能となる。なお、本実施例では制御目標値pTを制御要求値pRに漸近させるために指数関数を用いているが、その他の関数(例えば、双曲関数)を用いても良い。
【0112】
また、コントローラ30は、経過時間τの増加とともに制御目標値pTと制御要求値pRとの差分が指数級数的に減少するように制御目標値pTを算出する。これにより、コントローラ30へ実装する制御目標値pTの計算式を簡易な指数関数で定義することが可能となる。また、制御目標値pTの制御要求値pRへの漸近の度合いを指数関数の底の値の変更のみによって行うことが可能となる。
【0113】
また、コントローラ30は、電磁弁11A(11B)の駆動停止時点から次回の駆動開始時点までの時間が所定時間TC未満の場合は、電磁弁11A(11B)の前回の駆動開始時点の時刻を起点として経過時間τを計測し、電磁弁11A(11B)の駆動停止時点から次回の駆動開始時点までの時間が所定時間TC以上の場合は、電磁弁11A(11B)の次回の駆動開始時点の時刻を起点として経過時間τを計測する。これにより、制御圧力pA(pB)が十分に下がり切らない時間、すなわち、パイロットスプール24が連通・閉鎖がなされる位置近傍から、
図2に示すような非駆動位置まで戻り切らない時間内で、制御要求値pRが駆動相当値となった場合は、制御目標値決定部32において制御目標値pTをpmaxに設定せず、制御要求値pRをそのまま出力するので、電磁弁11A(11B)の制御圧力pA(pB)が制御要求値pRから大幅に乖離することを防ぐことができる。
【0114】
また、電磁弁11A(11B)は、コントローラ30から出力される電圧により制御される電磁アクチュエータ20と、電磁アクチュエータ20によって駆動される圧力制御弁21とを有し、コントローラ30は、制御目標値pTに基づいて電磁アクチュエータ20に流す電流IA(IB)の目標値である電流目標値ITを算出し、比例補償、微分補償、および積分補償の少なくとも1つを用いたフィードバック制御により、電磁アクチュエータ20に流れる電流IA(IB)を電流目標値ITに追従させる。これにより、電磁アクチュエータ20の駆動精度を向上させることが可能となる。
【実施例2】
【0115】
本発明の第2の実施例による100について、
図7を参照して説明する。
図7は、本実施例による油圧システム100の機能ブロック図である。以下、第1の実施例(
図3参照)との相違点を中心に説明する。
【0116】
図7において、コントローラ30は、制御目標値変換部33(
図3参照)を省略し、電磁アクチュエータ20を流れる電流IA(IB)を検出する電流検出器35C(
図3参照)に代えて、圧力制御弁21から出力される制御圧力pA(pB)を検出する検出器35Dを備えている。第1の実施例によるコントローラ30(
図3参照)は、比例補償、微分補償、および積分補償の少なくとも1つを用いて、電磁アクチュエータ20に流れる電流IA(IA)をフィードバック制御するのに対し、本実施例によるコントローラ(
図7参照)は、電磁弁11A(11B)から出力される制御圧力pA(pB)をフィードバック制御する。
【0117】
<まとめ>
本実施例による油圧システム100が備えるコントローラ30は、比例補償、微分補償、および積分補償の少なくとも1つを用いたフィードバック制御により、電磁弁11A(11B)から出力される制御圧力pA(pB)を制御目標値pTに追従させる。
【0118】
以上のように構成した本実施例によれば、電磁弁11A(11B)から出力される制御圧力pA(pB)がフィードバック制御されるため、制御圧力pA(pB)の制御精度を向上させることが可能となる。
【実施例3】
【0119】
本発明の第3の実施例について、第1の実施例との相違点を中心に説明する。本実施例では、第1の実施例に対し、
図5に示すステップS8における制御目標値pTの計算内容のみが異なる。
【0120】
本実施例では
図5に示すステップS8において、次の式(2)によって制御目標値pTを計算する。
【0121】
【0122】
式(2)において、pcは最大出力圧力pmaxよりも小さく零以上の所定値、KA,KBはそれぞれ正の所定値である。また、KAは式(2)の右辺第1項が零に漸近する速度を表し、KBは式(2)の右辺第2項が零に漸近する速度を表しており、KAはKBよりも大きな値に設定されている。すなわち、式(2)の右辺第2項は、式(2)の右辺第1項よりも緩やかに零に漸近する。
【0123】
図7に制御要求値pR(実線で表示)と、式(2)によって計算される制御目標値pT(破線で表示)の時刻歴波形をそれぞれ示す。式(2)の右辺第1項と右辺第2項には指数関数(exp(-KA・τ)、およびexp(-KB・τ))が含まれており、その指数は駆動開始時点からの経過時間τと定数値の積で表されている。したがって、駆動開始時点である時刻t0(すなわちτ=0)において、式(2)により制御目標値pTを計算すると、指数関数の出力値は1となり、pT=pmaxと計算される。すなわち、駆動開始時点である時刻t0においては
図7に示されるように、制御目標値pTが電磁比例式減圧弁11Aの使用範囲における最大出力圧力pmaxに設定される。
【0124】
一方、式(2)の右辺第1項と右辺第2項に含まれる指数関数(exp(-KA・τ)、およびexp(-KB・τ))は、それぞれ底がexp(-KA)、exp(-KB)であり、いずれも指数はτである。またKA、KBはそれぞれ正数としていることから、底exp(-KA)、exp(-KB)はいずれも1より小さな値である。したがって、駆動開始時点からの経過時間τの増加とともに指数関数exp(-KA・τ)、およびexp(-KB・τ))はいずれも零に漸近してゆく。すなわち式(2)の右辺第1項と右辺第2項は駆動開始からの時間の経過とともに零に漸近してゆくので、
図7に示されるように制御目標値pT(破線で表示)は、制御要求値pR(実線で表示)に漸近してゆく。
【0125】
以上のように、制御目標値pTは制御要求値pRに漸近してゆくが、ここで式(2)の見方を変えると、右辺第1項が零に漸近してゆくことで、
図7に示すように、制御目標値pTは右辺第2項と制御要求値pRの和(一点鎖線で表示)に漸近してゆき、これと同時に右辺第2項が零に漸近してゆくことで、制御目標値pTは制御要求値pRに漸近してゆくものととらえられる。このため、式(2)による計算を用いることで、制御目標値pTは制御要求値pRに漸近させつつ、漸近の過程で式(1)に対し、大きめ制御目標値pTに設定することができる。
【0126】
これにより、本実施の形態では、例えば低温の環境化などのパイロットスプール24に作用する作動油による粘性抵抗が大きい状態で電磁比例式減圧弁11A,11Bを使用し続ける場合や、電磁比例式減圧弁11A,11Bによる圧力制御の安定性を重視し、オリフィス25の絞り径を小さく設定した結果、パイロットスプール24の運動が遅くなる場合などに、第1の実施形態に対してさらに良好なむだ時間の低減効果を得ることができる。
【0127】
また所定値pcを零に設定することで、式(2)は式(1)と同じ計算内容となり、第1の実施形態として扱うこともできる。
【0128】
<まとめ>
本実施例による油圧システム100が備えるコントローラ30は、最大出力圧力pmaxから制御要求値pRと最大出力圧力pmaxよりも小さい所定値pcとを差し引いた値を経過時間τの増加とともに零に漸近させた第1の値(式(2)の右辺第1項)と、所定値pcを経過時間τの増加とともに前記第1の値よりも緩やかに零に漸近させた第2の値(式(2)の右辺第2項)と、制御要求値pRとを加算した値を制御目標値pTとして設定する。
【0129】
以上のように構成した本実施例によれば、電磁弁11A(11B)の駆動開始時点の第1の値(式(2)の右辺第1項)と第2の値(式(2)の右辺第2項)との合計は、最大出力圧力pmaxから駆動開始時点の制御要求値pRを差し引いた値となり、電磁弁11A(11B)の制御目標値pTは第1の値と第2の値と駆動開始時点の制御要求値pRとの合計となる。そのため、電磁弁11A(11B)の駆動開始時点の制御目標値pTは、第1の実施例と同様に、制御要求値pRによらず一律に電磁弁11A(11B)の最大出力圧力pmaxに設定される。
【0130】
また、第1の値と第2の値はともに、電磁弁11A(11B)の駆動開始からの経過時間τの増加とともに零に漸近していくため、電磁弁11A(11B)の制御目標値pTは、第1の実施例と同様に経過時間τの増加とともに制御要求値pRに漸近する。ここで、第2の値が零に漸近する速度は第1の値が零に漸近する速度よりも小さいため、電磁弁11A(11B)の応答特性に応じて所定値pcを適切に設定することにより、制御目標値pTが制御要求値pRに漸近する速度が調整される。これにより、例えば低温の環境化などの弁体に作用する作動流体による粘性抵抗が大きい状態で電磁弁11A(11B)を使用し続ける場合や、電磁弁11A(11B)の弁体の運動特性上その変位が遅い場合などに、所定値pcを大きくし、制御目標値pTが制御要求値pRに漸近する速度を抑制することにより、第1の実施例よりも良好なむだ時間の低減効果を得ることができる。
【0131】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成の一部を加えることも可能であり、ある実施例の構成の一部を削除し、あるいは、他の実施例の一部と置き換えることも可能である。
【符号の説明】
【0132】
1…油圧ポンプ、1A…吐出管路、2…タンク、3…油圧シリンダ(油圧アクチュエータ)、3A…チューブ、3B…ピストン、3C…ロッド、3D,3E…油室、4…方向制御弁、4A,4B…油圧パイロット部、5A,5B…制御圧管路、6A,6B…主管路、7…パイロットポンプ、8…低圧リリーフ弁、9…高圧リリーフ弁、10…操作レバー装置(操作装置)、11A,11B…電磁比例式減圧弁(電磁弁)、12…ハウジング、13…電磁弁カートリッジ挿入穴、14…ポンプポート、15…ドレンポート、16…一次圧管路、17…ドレン管路、20…電磁アクチュエータ、21…圧力制御弁、22…スリーブ、22A,22B,22C…油穴、23…段付穴、23A…ばね収容穴部、23B,23C,23D,23E…摺動穴部、24…パイロットスプール、24A…ボス部、24B…ランド、24C,24D…中間ランド、24E…ランド、24F…軸穴、24G,24H…油路、25…オリフィス、27…仕切板、28…部材、29…ダンピング室、30…コントローラ、31…制御要求値演算部、32…制御目標値決定部、33…制御目標値変換部、34…施工面設計情報記憶領域、35…電流フィードバック制御部、35A…PID補償器、35B…PWM駆動装置、35C…電流検出器、43…ドレン管路、100…油圧システム。