(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
E02F 9/20 20060101AFI20221031BHJP
F15B 11/08 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
E02F9/20 N
F15B11/08 A
(21)【出願番号】P 2021046477
(22)【出願日】2021-03-19
【審査請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】福地 亮平
(72)【発明者】
【氏名】小高 克明
(72)【発明者】
【氏名】金濱 充彦
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 輝樹
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-043078(JP,A)
【文献】特開2005-299676(JP,A)
【文献】特開平09-195805(JP,A)
【文献】特開2003-154504(JP,A)
【文献】特開2002-030910(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20
F15B 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンによって駆動される第1ポンプ及び第2ポンプと、
前記第1ポンプから供給される作動油によって駆動される油圧アクチュエータと、
前記油圧アクチュエータを操作するための操作装置と、
前記第1ポンプから前記油圧アクチュエータに供給される作動油の流れを制御する制御弁と、
前記操作装置の操作に応じて駆動され、前記第2ポンプから供給される作動油の圧力を減圧し、前記制御弁を操作するためのパイロット圧を生成する電磁弁と、
前記電磁弁を制御する制御装置と、
オン操作を経て前記エンジン
の始動操作が可能なエンジン操作部と、
前記エンジンの回転速度を検出する回転速度センサと、を備えた作業機械において、
前記制御装置は、
前記回転速度センサの検出結果に基づいて前記エンジンが停止状態であることが判定され、
かつ、前記エンジン操作部により始動操作されない状態で前記エンジン操作部がオン操作され
、かつ、前記操作装置が操作されていることが判定されていることを含む電流印加条件が成立しているか否かを判定し、
前記電流印加条件が成立していると判定した場合に、前記電磁弁に駆動電流を印加して前記電磁弁を駆動する、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械において、
前記制御装置は、
前記電流印加条件が成立していると判定し、前記電磁弁に駆動電流を印加している状態において、前記エンジンが動作状態であると判定すると、前記電磁弁への駆動電流の印加を停止する、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項3】
請求項1に記載の作業機械において、
前記電磁弁は、全閉位置と全開位置との間でストロークする弁体を有し、
前記制御装置は、
前記電流印加条件が成立していると判定した場合に、予め定められた所定時間の間、
前記電磁弁に駆動電流を印加し、前記弁体をフルストロークの位置まで移動させ、前記弁体をフルストロークの位置で保持させる、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項4】
請求項1に記載の作業機械において、
前記制御装置は、
前記電流印加条件が成立していると判定した場合に、複数回繰り返し前記電磁弁に駆動電流を印加する、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項5】
請求項1に記載の作業機械において、
前記電磁弁に供給される作動油の温度を検出する温度センサを備え、
前記制御装置は、
前記温度センサで検出された作動油の温度が低いほど、前記電磁弁へ印加する駆動電流を大きくする、あるいは、前記電磁弁へ駆動電流を印加する時間を長くする、
ことを特徴とする作業機械。
【請求項6】
請求項1に記載の作業機械において、
前記制御装置は、前記電流印加条件が成立していると判定した場合に、前記操作装置の操作量に関わらず、予め定められた駆動電流と時間の関係に基づき、前記電磁弁に駆動電流を印加して前記電磁弁を駆動する、
ことを特徴とする作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプールと弁本体との間で生じるシルティングを抑制した油圧ショベル等の作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
制御電流指令に応じてスプールを弁本体に対して摺動させ、スプールの移動位置に応じた圧油を出力する電磁弁と、電磁弁から出力される圧油に応じて作動する制御対象機器とを備えた装置において、圧油に混入した異物がスプールと弁本体との間に溜まる現象であるシルティングを防止する技術が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の技術には、制御対象機器が作動しない範囲内での電磁弁への電流指令である時間幅と電流値との対応関係を予め設定しておき、予め設定した対応関係に基づいて、シルティング防止用電流指令を電磁弁に与える内容が示されている。さらに、油圧シリンダ、油圧ポンプ、油圧モータなどの油圧アクチュエータを制御対象として、これら油圧アクチュエータが作動しない範囲でシルティング防止処理を行う内容が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、エンジン動作中に、油圧アクチュエータが作動しない範囲でシルティング防止処理を行うため、電磁弁のスプールの移動量を大きくすることに制約がある。このため、特許文献1に記載の技術では、電磁弁のスプールとスプールを摺動自在に保持する保持部材との間の異物を十分に取り除くことができないおそれがある。その結果、電磁弁が異物の噛みこみにより固着し、油圧アクチュエータの誤作動を招くおそれがある。なお、異物を十分に取り除くために、特許文献1に記載の技術において、電磁弁のスプールの移動量を大きくしてしまうと、異物を取り除くための電磁弁の動作が油圧アクチュエータの動作に影響を与えてしまうおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、油圧アクチュエータの動作に影響を及ぼすことなく、電磁弁内の異物をより効果的に取り除くことができる作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様による作業機械は、エンジンと、前記エンジンによって駆動される第1ポンプ及び第2ポンプと、前記第1ポンプから供給される作動油によって駆動される油圧アクチュエータと、前記油圧アクチュエータを操作するための操作装置と、前記第1ポンプから前記油圧アクチュエータに供給される作動油の流れを制御する制御弁と、前記操作装置の操作に応じて駆動され、前記第2ポンプから供給される作動油の圧力を減圧し、前記制御弁を操作するためのパイロット圧を生成する電磁弁と、前記電磁弁を制御する制御装置と、オン操作を経て前記エンジンの始動操作が可能なエンジン操作部と、前記エンジンの回転速度を検出する回転速度センサと、を備える。前記制御装置は、前記回転速度センサの検出結果に基づいて前記エンジンが停止状態であることが判定され、かつ、前記エンジン操作部により始動操作されない状態で前記エンジン操作部がオン操作され、かつ、前記操作装置が操作されていることが判定されていることを含む電流印加条件が成立しているか否かを判定し、前記電流印加条件が成立していると判定した場合に、前記電磁弁に駆動電流を印加して前記電磁弁を駆動する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、油圧アクチュエータの動作に影響を及ぼすことなく、電磁弁内の異物をより効果的に取り除くことができる作業機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る油圧ショベルの側面図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る油圧ショベルが備える油圧システムについて示す図である。
【
図3】
図3は、運転コントローラのハードウェア構成図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係る運転コントローラの機能ブロック図である。
【
図5】
図5は、エンジンの状態と、イグニッションスイッチの操作位置と、電流印加フラグのオンオフ状態とを関係を示す表である。
【
図6A】
図6Aは、第1実施形態に係る運転コントローラから電磁比例弁のソレノイドに供給される制御電流のタイムチャートである。
【
図6B】
図6Bは、第1実施形態の変形例1に係る運転コントローラから電磁比例弁のソレノイドに供給される制御電流のタイムチャートである。
【
図6C】
図6Cは、第1実施形態の変形例2に係る運転コントローラから電磁比例弁のソレノイドに供給される制御電流のタイムチャートである。
【
図7】
図7は、第2実施形態に係る運転コントローラの機能ブロック図である。
【
図8】
図8は、制御電流特性Ic1について示す図である。
【
図9】
図9は、第3実施形態に係る運転コントローラの機能ブロック図である。
【
図10】
図10は、制御電流特性Ic2について示す図である。
【
図11】
図11は、第4実施形態に係る運転コントローラの機能ブロック図である。
【
図13】
図13は、第5実施形態に係る運転コントローラの機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照して、本発明の実施形態に係る作業機械について説明する。本実施形態では、作業機械がクローラ式の油圧ショベルである例について説明する。作業機械は、作業現場において、土木作業、建設作業、解体作業、浚渫作業等の作業を行う。
【0011】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る油圧ショベル100の側面図である。
図1に示すように、油圧ショベル100は、機体105と、機体105に取り付けられる作業装置104と、を備える。機体105は、クローラ式の走行体102と、走行体102上に旋回可能に設けられた旋回体103と、を有する。走行体102は、左右一対のクローラを走行モータ102Aによって駆動することにより走行する。旋回体103は、旋回モータ103Aを有する旋回装置を介して走行体102に連結され、旋回モータ103Aによって駆動されて走行体102に対して回動する(旋回する)。
【0012】
旋回体103は、オペレータが搭乗する運転室118と、原動機であるエンジン191及びエンジン191により駆動される油圧ポンプ等の油圧機器が収容されるエンジン室119と、を備える。エンジン室119には、エンジン191を始動させるためのスターターモータ196(
図2参照)、及び、各種装置に電力を供給するバッテリ197が設けられる。バッテリ197は、例えば、蓄電素子としてのリチウムイオン二次電池を複数備えた蓄電装置である。
【0013】
運転室118内には、エンジン191を始動させたり、停止させたりするための操作が可能なエンジン操作部であるイグニッションスイッチ188(
図2参照)と、作業装置104、旋回体103及び走行体102の油圧アクチュエータ(111A,112A,113A,103A,102A)を操作するための電気式の操作装置が設けられている。また、運転室118内には、油圧ショベル100の基本的な動作を制御する制御装置である車体制御コントローラ120(
図2参照)と、エンジン191の回転速度(回転数)を制御する制御装置であるエンジンコントローラ190(
図2参照)と、エンジン191の始動、停止等を制御する制御装置である運転コントローラ150(
図2参照)と、が設けられる。
【0014】
図2に示すように、運転コントローラ150、車体制御コントローラ120及びエンジンコントローラ190は、CAN(Controller Area Network)と呼ばれる車載ネットワーク109を介して相互に通信可能に接続されている。なお、車載ネットワーク109は、CAN以外の通信規格、例えば、Ethernet(登録商標)を用いてもよい。
【0015】
図1に示すように、運転室118内には、油圧ショベル100の稼働状態を表す画像を表示する表示装置115と、表示装置115等を操作するための入力装置116と、が設けられている。表示装置115は、液晶ディスプレイ装置、有機ELディスプレイ装置等であり、入力装置116は、複数のスイッチ及び操作スティック等を有する。なお、入力装置116は、表示装置115のディスプレイ上に形成されるタッチセンサであってもよい。つまり、油圧ショベル100は、表示装置115及び入力装置116として機能するタッチパネルモニタを備えていてもよい。
【0016】
作業装置104は、旋回体103に取り付けられる多関節型の作業装置であって、複数の油圧アクチュエータ、及び複数の油圧アクチュエータにより駆動される複数の被駆動部材(フロント部材)を有する。作業装置104は、3つの被駆動部材(ブーム111、アーム112及びバケット113)が直列的に連結された構成である。ブーム111は、その基端部が旋回体103の前部に、ブームピンを介して回動可能に連結される。アーム112は、その基端部がブーム111の先端部に、アームピンを介して回動可能に連結される。バケット113は、アーム112の先端部に、バケットピンを介して回動可能に連結される。
【0017】
ブーム111は、油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)であるブームシリンダ111Aの伸縮動作によって回転駆動される。アーム112は、油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)であるアームシリンダ112Aの伸縮動作によって回転駆動される。バケット113は、油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)であるバケットシリンダ113Aの伸縮動作によって回転駆動される。油圧ショベル100は、作業装置104を動作させることにより、土砂の掘削作業、均し作業、地面を締め固める転圧作業等を行うことができる。
【0018】
図2は、第1実施形態に係る油圧ショベル100が備える油圧システム(油圧駆動回路)106について示す図である。なお、以下では、油圧ショベル100に搭載される走行モータ(油圧モータ)102A、旋回モータ(油圧モータ)103A、ブームシリンダ(油圧シリンダ)111A、アームシリンダ(油圧シリンダ)112A及びバケットシリンダ(油圧シリンダ)113Aを総称して油圧アクチュエータとも記す。油圧ショベル100は、複数の油圧アクチュエータを有しているが、
図2では、作業装置104の被駆動部材を駆動するための油圧シリンダ110(例えば、ブームシリンダ111A)を代表して図示している。また、油圧アクチュエータを操作する電気式の操作装置180、並びに操作装置180の操作に応じて駆動される電磁比例弁140A,140B及び方向制御弁(流量制御弁ともいう)130は、複数の油圧アクチュエータごとに設けられるが、
図2では、代表して、一つの油圧アクチュエータを制御するための構成のみを図示している。
【0019】
油圧システム106は、第1ポンプであるメインポンプ135及び第2ポンプであるパイロットポンプ136と、メインポンプ135から供給される作動流体としての作動油によって駆動される油圧シリンダ110と、メインポンプ135から油圧シリンダ110に供給される作動油の流れを制御する制御弁である方向制御弁130と、パイロットポンプ136から供給される作動油の圧力を減圧し、方向制御弁130を操作するためのパイロット圧(以下、指令パイロット圧とも記す)を生成する電磁比例弁140A,140Bと、作動油を貯留するタンク107と、を備える。方向制御弁130は、電磁比例弁140Aからの指令パイロット圧が導かれる受圧部131Aと、電磁比例弁140Bからの指令パイロット圧が導かれる受圧部131Bとを有する。以下では、受圧部131A,131Bは、総称して受圧部131とも記す。また、電磁比例弁140A,140Bは、総称して電磁比例弁140とも記す。
【0020】
メインポンプ135及びパイロットポンプ136は、エンジン191に接続され、エンジン191によって駆動され、タンク107から吸い上げた作動油を吐出する。メインポンプ135は可変容量型の油圧ポンプであり、パイロットポンプ136は固定容量型の油圧ポンプである。エンジン191は、油圧ショベル100の動力源であり、例えば、ディーゼルエンジン等の内燃機関により構成される。エンジン191の回転速度は、ピックアップセンサ等の回転速度センサ192により検出される。
【0021】
電磁比例弁140は、
図4において模式的に示すように、弁体としてのスプール142と、スプール142を摺動自在に保持する保持部材であるスリーブ143と、スプール142に推力を与えるソレノイド146と、ソレノイド146による推力に抗した付勢力をスプール142に与える付勢部材であるばね145と、を有する周知の電磁比例パイロット減圧弁である。
【0022】
スリーブ143は、バルブブロック144の孔に固定される。スリーブ143及びバルブブロック144には、Tポート、Aポート及びPポートが形成されている。Pポートはパイロットポンプ136に接続され、Tポートはタンク107に接続され、Aポートは方向制御弁130の受圧部131に接続される。
【0023】
スプール142は、PポートとAポートとの連通を遮断し、AポートとTポートとを連通する全閉位置と、AポートとTポートとの連通を遮断し、PポートとAポートとを連通させる開口面積が最大となる全開位置との間でストロークする。なお、
図4では、スプール142の位置に応じて、各ポート間を連通させるためにスプール142及びスリーブ143、バルブブロック144に形成される溝、切り欠き、孔等の図示は省略している。
【0024】
図2に示すように、電磁比例弁140は、パイロット油圧源であるパイロットポンプ136の吐出圧(パイロット一次圧)を減圧することにより、指令パイロット圧(パイロット二次圧)を生成する。電磁比例弁140で生成された指令パイロット圧は、方向制御弁130の受圧部131へ導かれる。電磁比例弁140は、運転コントローラ150または車体制御コントローラ120からの信号に基づいて制御される。
【0025】
操作装置180は、操作者による操作に応じて、作業装置104、旋回体103及び走行体102の動作を指示するものであり、傾動操作可能な操作レバー(操作部材)182と、操作レバー182の操作量(操作角)に応じた操作信号を運転コントローラ150に出力する操作センサ181と、を有する。
【0026】
車体制御コントローラ120は、運転コントローラ150から車載ネットワーク109を介して操作信号を取得する。なお、車体制御コントローラ120は、操作センサ181から直接操作信号を取得してもよい。車体制御コントローラ120は、操作センサ181の検出結果に基づいて電磁比例弁140を制御する。なお、車体制御コントローラ120は、運転コントローラ150を介して電磁比例弁140を制御してもよいし、直接電磁比例弁140に制御電流を出力して電磁比例弁140を制御してもよい。
【0027】
電磁比例弁140Aによって生成された指令パイロット圧が、中立位置(N)に位置している方向制御弁130の受圧部131Aに作用すると、方向制御弁130が一方に駆動して、方向制御弁130が中立位置(N)から第1位置(P1)に切り換えられる。これにより、メインポンプ135から吐出された圧油が油圧シリンダ110(例えば、ブームシリンダ111A)のボトム室110bに導かれるとともにロッド室110rからタンク107に作動油が排出され、油圧シリンダ110(例えば、ブームシリンダ111A)が伸長する。その結果、被駆動部材(例えば、ブーム111)が第1の方向(上方向)に回動する。
【0028】
電磁比例弁140Bによって生成された指令パイロット圧が、中立位置(N)に位置している方向制御弁130の受圧部131Bに作用すると、方向制御弁130が他方に駆動して、方向制御弁130が中立位置(N)から第2位置(P2)に切り換えられる。これにより、メインポンプ135から吐出された圧油が油圧シリンダ110(例えば、ブームシリンダ111A)のロッド室110rに導かれるとともにボトム室110bからタンク107に作動油が排出され、油圧シリンダ110(例えば、ブームシリンダ111A)が収縮する。その結果、被駆動部材(例えば、ブーム111)が第2の方向(下方向)に回動する。
【0029】
このように、メインポンプ135から吐出された作動油は、方向制御弁130を通じて油圧シリンダ110に供給され、油圧シリンダ110が駆動される。なお、図示しないが、メインポンプ135から吐出された作動油は、方向制御弁130を通じて旋回モータ103A及び走行モータ102Aに供給され、旋回体103及び走行体102のそれぞれが駆動される。
【0030】
ゲートロックレバー装置185は、ゲートロックレバー187と、ゲートロックレバー187の操作位置を検出して運転コントローラ150に出力する操作位置センサ186と、を有する。パイロットポンプ136と電磁比例弁140との間のパイロットラインには、ゲートロックレバー187の操作位置に応じて、パイロットラインを連通する連通位置と、パイロットラインの連通を遮断する遮断位置との間で切り換えられる電磁切換弁(以下、ロック弁と記す)141が設けられている。
【0031】
ゲートロックレバー187がロック解除位置(下げ位置)に操作されると、運転コントローラ150からロック弁141に連通信号を出力する。これにより、ロック弁141が連通位置に切り換えられる。このため、ゲートロックレバー187がロック解除位置にある状態では、操作レバー182の操作量に応じた指令パイロット圧が電磁比例弁140によって生成され、操作された操作レバー182に対応する油圧アクチュエータが動作する。つまり、ゲートロックレバー187がロック解除位置(下げ位置)に操作されると、操作装置180によるアクチュエータの動作が可能な状態となる。
【0032】
ゲートロックレバー187がロック位置(上げ位置)に操作されると、運転コントローラ150からロック弁141に遮断信号を出力する。これにより、ロック弁141が遮断位置に切り換えられる。このため、パイロットポンプ136から電磁比例弁140へのパイロット一次圧の供給が遮断され、操作レバー182による操作が無効化される。つまり、ゲートロックレバー187がロック位置(上げ位置)に操作されると、操作装置180によるアクチュエータの動作が不能な状態となる。
【0033】
タンク107には、電磁比例弁140に供給される作動油の温度を検出する温度センサ189が取り付けられている。なお、温度センサ189の設置場所は、タンク107に限られない。例えば、温度センサ189は、パイロットポンプ136と電磁比例弁140とを接続するパイロットライン上に設けてもよい。
【0034】
運転コントローラ150は、エンジン191の始動、停止の制御の他、イグニッションスイッチ188の操作位置及びエンジン191の状態に基づいて、電磁比例弁140を制御する。
図3は、運転コントローラ150のハードウェア構成図である。
図3に示すように、運転コントローラ150は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサ151、所謂RAM(Random Access Memory)と呼ばれる揮発性メモリ152、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ等の不揮発性メモリ153、入力インタフェース154、出力インタフェース155、及び、その他の周辺回路を備えたコンピュータで構成される。なお、運転コントローラ150は、1つのコンピュータで構成してもよいし、複数のコンピュータで構成してもよい。
【0035】
不揮発性メモリ153には、各種演算が実行可能なプログラムが格納されている。すなわち、不揮発性メモリ153は、本実施形態の機能を実現するプログラムを読み取り可能な記憶媒体である。プロセッサ151は、不揮発性メモリ153に記憶されたプログラムを揮発性メモリ152に展開して演算実行する処理装置であって、プログラムに従って入力インタフェース154、揮発性メモリ152及び不揮発性メモリ153から取り入れた信号に対して所定の演算処理を行う。
【0036】
入力インタフェース154は、入力された信号をプロセッサ151で演算可能なデータに変換する。また、出力インタフェース155は、プロセッサ151での演算結果に応じた出力用の信号を生成し、その信号を電磁比例弁140等の装置に出力する。
【0037】
図示しないが、車体制御コントローラ120及びエンジンコントローラ190は、運転コントローラ150と同様、プロセッサ、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース及びその他の周辺回路を備えたコンピュータで構成される。
【0038】
車体制御コントローラ120は、操作センサ181からの操作信号に基づいて、油圧アクチュエータの動作を制御する。車体制御コントローラ120は、操作センサ181からの操作信号をレバー操作量に変換する。レバー操作量は、例えばレバー中立のときには0[%]、フルレバー(最大操作)のときには100[%]となる値で表される。車体制御コントローラ120は、レバー操作量に基づいて電磁比例弁140の要求パイロット圧を演算する。
【0039】
車体制御コントローラ120は、要求パイロット圧をそれに対応する電磁比例弁140の制御電流値に変換し、電磁比例弁140のソレノイド146に制御電流を出力して電磁比例弁140を駆動する。電磁比例弁140で生成される指令パイロット圧は、制御電流値が増加するほど大きくなる。本実施形態では、メインポンプ135及びパイロットポンプ136がエンジン191により駆動されている状態のときに、オペレータによって操作装置180が操作されると、操作装置180の操作方向及び操作量に応じて油圧アクチュエータが動作する。
【0040】
エンジンコントローラ190は、燃料噴射装置により、エンジン191のシリンダ内に噴射する燃料の噴射量を調整してエンジン191の回転速度を制御する。車体制御コントローラ120には、エンジン191の目標回転速度を設定するエンジン回転数設定装置としてのエンジンコントロールダイヤル198が接続されている。車体制御コントローラ120は、運転室118内に設けられるエンジンコントロールダイヤル198の操作信号に基づいて、エンジン191の目標回転速度を演算し、エンジンコントローラ190に出力する。
【0041】
エンジンコントローラ190には、エンジン191の回転速度を検出する回転速度センサ192が信号線(不図示)により接続される。エンジンコントローラ190は、回転速度センサ192で検出されたエンジン191の実回転速度が、車体制御コントローラ120から入力された目標回転速度となるように燃料噴射装置を制御する。
【0042】
運転コントローラ150には、イグニッションスイッチ188が接続されており、イグニッションスイッチ188の操作位置が運転コントローラ150によって検出される。運転コントローラ150は、イグニッションスイッチ188の操作位置に基づいて、車体制御コントローラ120及びエンジンコントローラ190の起動及び停止を制御する。また、運転コントローラ150は、イグニッションスイッチ188の操作位置に基づいて、エンジン191の始動及び停止を制御する。
【0043】
イグニッションスイッチ188は、バッテリ197(
図1参照)からエンジンコントローラ190への電力の供給を遮断するオフ操作、バッテリ197からエンジンコントローラ190へ電力を供給するオン操作、及びスターターモータ196によりエンジン191を駆動するスタート操作(始動操作)が可能である。オン操作は、エンジン191の始動の前提となるエンジンコントローラ190への電力を供給するための操作であり、エンジン191を始動させるための操作の一つである。本実施形態に係るイグニッションスイッチ188は、エンジンキーをキーシリンダの鍵穴に差し込んで、各操作位置へ回動操作が可能なエンジンキースイッチである。
【0044】
運転コントローラ150とバッテリ197とは、通常、閉成状態となる常閉型のリレーにより接続されている。運転コントローラ150には、スターターリレー193、ACCリレー194及びIGリレー195が接続されている。
【0045】
イグニッションスイッチ188は、オフ位置(停止位置)、ACC位置、オン位置(運転位置)、スタート位置(始動位置)の4つの操作位置を有している。運転コントローラ150は、イグニッションスイッチ188の操作位置に応じて、各種リレー193,194,195の開閉を制御する。
【0046】
スターターリレー193は、エンジン191を始動させるスターターモータ196に対して、バッテリ197からの電力を供給または遮断するためのリレーである。スターターリレー193がオンされると、すなわちスターターリレー193が閉状態になると、バッテリ197からスターターモータ196に電力が供給されてスターターモータ196が動作し、スターターモータ196によってエンジン191が駆動される。すなわち、スターターモータ196によるエンジン191のクランキングが行われる。スターターリレー193がオフされると、すなわちスターターリレー193が開状態になると、バッテリ197からスターターモータ196への電力の供給が遮断される。
【0047】
ACCリレー194は、ラジオ(不図示)、オーディオ(不図示)、表示装置115及びそれらの装置の制御を行うアクセサリコントローラ(不図示)などのアクセサリ(ACC)系の装置に対して、バッテリ197からの電力を供給または遮断するためのリレーである。ACCリレー194がオンされると、すなわちACCリレー194が閉状態になると、バッテリ197からアクセサリ系の装置に電力が供給される。ACCリレー194がオフされると、すなわちACCリレー194が開状態になると、バッテリ197からアクセサリ系の装置への電力の供給が遮断される。
【0048】
IGリレー195は、エア・コンディショナー(不図示)、車体制御コントローラ120及びエンジンコントローラ190などのイグニッション(IG)系の装置に対して、バッテリ197からの電力を供給または遮断するためのリレーである。IGリレー195がオンされると、すなわちIGリレー195が閉状態になると、バッテリ197からイグニッション系の装置に電力が供給される。IGリレー195がオフされると、すなわちIGリレー195が開状態になると、バッテリ197からイグニッション系の装置への電力の供給が遮断される。
【0049】
ところで、
図2に示す油圧システム106では、作動油中に金属片、塵等の異物が含まれている。異物を取り除くために、油圧システム106にはフィルタ(不図示)が設けられているが、フィルタの開口面積よりも小さい異物は、フィルタで取り除くことができず、油圧システム106の各油圧機器に流れ込む。電磁比例弁140に異物が流入し、スプール142とスリーブ143との間の隙間に異物が蓄積する現象(シルティング)が発生すると、スプール142の動作が異物により制限される固着現象(バルブスティック)が発生することがある。
【0050】
そこで、本実施形態に係る運転コントローラ150は、エンジン191を始動させるための操作として油圧ショベル100を起動させるためのオン操作が行われた場合に、エンジン191の始動前の停止状態のときに電磁比例弁140を駆動させることにより、車体挙動に影響を及ぼさずに電磁比例弁140に対する異物の蓄積を防止する。以下、運転コントローラ150による電磁比例弁140の固着現象を防止するための制御(以下、固着防止制御とも記す)の機能について詳しく説明する。
【0051】
図4は、第1実施形態に係る運転コントローラ150の機能ブロック図である。
図4に示すように、運転コントローラ150は、不揮発性メモリ153に記憶されているプログラムを実行することにより、エンジン状態判定部161、スイッチ操作判定部162、電流印加条件判定部163、電磁弁制御部164、及びリレー制御部165として機能する。
【0052】
エンジン状態判定部161は、回転速度センサ192の検出結果に基づいてエンジン191が停止状態であるか動作状態であるかを判定する。エンジン状態判定部161は、回転速度センサ192で検出されたエンジン191の回転速度Nが、速度閾値N0以下の場合、エンジン191は停止状態であると判定する。エンジン状態判定部161は、回転速度センサ192で検出されたエンジン191の回転速度Nが、速度閾値N1以上の場合、エンジン191は動作状態であると判定する。
【0053】
速度閾値N0は、エンジン191が停止状態であるか否かを判定するための閾値であり、予め運転コントローラ150の不揮発性メモリ153(
図3参照)に記憶されている。速度閾値N0は、例えば、エンジンコントロールダイヤル198(
図2参照)で設定可能な最小回転速度よりも小さい値であって、0(ゼロ)以上の値(例えば、0~数rpm)が設定される。
【0054】
速度閾値N1は、エンジン191が動作状態であるか否かを判定するための閾値であり、予め運転コントローラ150の不揮発性メモリ153(
図3参照)に記憶されている。本実施形態において、エンジン191が動作状態であるとは、スターターモータ196のクランキングによりエンジン191の始動が完了した後の状態であって、エンジンコントローラ190によりエンジン191の動作が制御されている状態のことを指す。速度閾値N1は、例えば、エンジンコントロールダイヤル198(
図2参照)で設定可能な最小回転速度以下の値であって、スターターモータ196によるクランキング最大速度よりも大きい値が設定される。
【0055】
スイッチ操作判定部162は、イグニッションスイッチ188が、オフ位置、ACC位置、オン位置及びスタート位置のいずれに操作されているかを判定する。なお、イグニッションスイッチ188をオフ位置に操作することは、イグニッションスイッチ188によりオフ操作を行うことと同義である。イグニッションスイッチ188をACC位置に操作することは、イグニッションスイッチ188によりACC操作を行うことと同義である。イグニッションスイッチ188をオン位置に操作することは、イグニッションスイッチ188によりオン操作を行うことと同義であるが、このオン位置には2パターン有り、後述するスタート位置に操作した後(クランキング操作された後)にオン位置に操作される場合と、スタート位置への操作を経ないでオン位置に操作される場合とがある。イグニッションスイッチ188をスタート位置に操作することは、イグニッションスイッチ188によりスタート操作(始動操作)を行うことと同義である。つまり、スイッチ操作判定部162は、イグニッションスイッチ188により、オフ操作が行われたか否か、ACC操作が行われたか否か、オン操作が行われたか否か、及び、スタート操作が行われたか否かを判定する。
【0056】
リレー制御部165は、スイッチ操作判定部162でイグニッションスイッチ188の操作位置がACC位置にあると判定されると、ACCリレー194をオンさせるための指令をACCリレー194に出力する。リレー制御部165は、スイッチ操作判定部162でイグニッションスイッチ188の操作位置がオン位置にあると判定されると、IGリレー195をオンさせるための指令をIGリレー195に出力する。
【0057】
リレー制御部165は、スイッチ操作判定部162でイグニッションスイッチ188の操作位置がスタート位置にあると判定されると、スターターリレー193をオンさせるための指令をスターターリレー193に出力する。スターターリレー193をオンさせるための指令は、エンジンコントローラ190にも出力され、エンジンコントローラ190によって燃料噴射装置を用いたエンジン191の始動制御が開始される。
【0058】
リレー制御部165は、スイッチ操作判定部162でイグニッションスイッチ188の操作位置がオン位置にあると判定されると、スターターリレー193をオフさせるための指令をスターターリレー193に出力する。リレー制御部165は、スイッチ操作判定部162でイグニッションスイッチ188の操作位置がACC位置にあると判定されると、IGリレー195をオフさせるための指令をIGリレー195に出力する。リレー制御部165は、スイッチ操作判定部162でイグニッションスイッチ188の操作位置がオフ位置にあると判定されると、ACCリレー194をオフさせるための指令をACCリレー194に出力する。
【0059】
なお、図示しないが、エンジン191が動作状態であるときに、イグニッションスイッチ188の操作位置がオン位置からACC位置に操作されたことがスイッチ操作判定部162で判定されると、リレー制御部165は、エンジン停止指令をエンジンコントローラ190に出力する。これにより、エンジンコントローラ190による燃料噴射装置を用いたエンジン191の制御が終了し、エンジン191が停止する。
【0060】
電流印加条件判定部163は、後述する電流印加フラグがオフに設定されている場合に、電流印加条件が成立しているか否かを判定する。電流印加条件は、以下の条件1及び条件2が共に満たされている場合に成立し、条件1及び条件2の少なくともいずれかが満たされていない場合には成立しない。
(条件1)イグニッションスイッチ188によりスタート位置への操作を経ないでオン位置へのオン操作が行われたこと
(条件2)エンジン191が停止状態であること
本実施形態では、条件1は、イグニッションスイッチ188の操作位置がオン位置に操作された場合に満たされ、条件2は、エンジン191の回転速度が速度閾値N0以下である場合に満たされる。
【0061】
電流印加条件判定部163は、エンジン状態判定部161によりエンジン191が停止状態であると判定され、かつ、スイッチ操作判定部162によりイグニッションスイッチ188の操作位置がオン位置に操作されたと判定されると、電流印加条件が成立したと判定する。電流印加条件判定部163は、電流印加条件が成立したと判定すると、電流印加フラグをオンに設定する。
【0062】
電流印加条件判定部163は、エンジン状態判定部161によりエンジン191が停止状態でないと判定されている場合には、電流印加条件は成立していないと判定する。また、電流印加条件判定部163は、スイッチ操作判定部162によりイグニッションスイッチ188の操作位置がオン位置以外の操作位置に操作されていると判定されている場合には、電流印加条件は成立していないと判定する。電流印加条件判定部163は、電流印加条件が成立していないと判定した場合には、電流印加フラグをオフのままに維持する。
【0063】
電流印加条件判定部163は、電流印加フラグがオンに設定されている場合に、電流印加解除条件が成立しているか否かを判定する。電流印加条件判定部163は、エンジン状態判定部161によりエンジン191が動作状態であると判定されると、電流印加解除条件が成立したと判定する。電流印加条件判定部163は、スイッチ操作判定部162によりイグニッションスイッチ188の操作位置がACC位置あるいはオフ位置に操作されていると判定されると、電流印加解除条件が成立したと判定する。電流印加条件判定部163は、電流印加解除条件が成立したと判定すると、電流印加フラグをオフに設定する。
【0064】
電流印加条件判定部163は、エンジン状態判定部161によりエンジン191が動作状態でないと判定され、かつ、スイッチ操作判定部162によりイグニッションスイッチ188の操作位置がオン位置あるいはスタート位置に操作されていると判定されている場合には、電流印加解除条件は成立していないと判定する。電流印加条件判定部163は、電流印加解除条件が成立していないと判定した場合には、電流印加フラグをオンのままに維持する。
【0065】
電磁弁制御部164は、電流印加フラグがオフからオンに設定されると、電磁比例弁140に駆動電流を印加して電磁比例弁140を駆動する。電磁比例弁140に駆動電流を印加するとは、スプール142を駆動するため(すなわち、スプール142を全閉位置から移動させるため)に必要な制御電流Iを電磁比例弁140に供給することを意味する。
【0066】
本実施形態では、電磁弁制御部164は、予め定められた所定時間t0の間、電磁比例弁140に駆動電流を印加し、スプール142をフルストロークの位置(全開位置)まで移動させ、フルストロークの位置で保持させる。電磁弁制御部164は、所定時間t0経過後に電磁比例弁140への駆動電流の印加を停止する。なお、時間の計測は、運転コントローラ150のタイマ機能により行われる。
【0067】
電磁弁制御部164は、電磁比例弁140のスプール142を全閉位置から全開位置まで移動させるための最大電流Imaxを駆動電流として電磁比例弁140のソレノイド146に出力する。所定時間t0は、200msec~300msec程度の値が予め定められている。
【0068】
電磁弁制御部164は、電流印加フラグがオンからオフに設定されると、電磁比例弁140への駆動電流の印加を停止する。電磁比例弁140への駆動電流の印加を停止するとは、電磁比例弁140へ供給している制御電流Iを最小電流Iminにすることを意味する。最小電流Iminは、スプール142を全閉位置で維持させる程度の待機電流に相当する。
【0069】
以下、
図5及び
図6Aを参照して、本実施形態に係る油圧ショベル100において、エンジン191を始動させる際に行われる電磁比例弁140の固着防止制御の具体例について、オペレータのイグニッションスイッチ188の操作とともに説明する。
【0070】
図5は、エンジン191の状態と、イグニッションスイッチ188の操作位置と、電流印加フラグのオンオフ状態とを関係を示す表である。
図6Aは、第1実施形態に係る運転コントローラ150から電磁比例弁140のソレノイド146に供給される制御電流のタイムチャートである。
図6Aにおいて、横軸は経過時間tを表し、縦軸は電磁比例弁140に供給される制御電流Iの大きさを表している。
【0071】
オペレータが、運転室118に搭乗し、イグニッションスイッチ188をオフ位置からACC位置に操作すると、ACC系の装置に電力が供給される。これにより、油圧ショベル100の状態は、
図5のNo.1の状態からNo.2の状態に遷移する。No.1,No.2の状態では、電流印加フラグはオフに設定されている。
【0072】
オペレータが、エンジン191を始動させるための準備操作として、イグニッションスイッチ188をACC位置からオン位置に操作すると、エンジンコントローラ190を含むIG系の装置に電力が供給される。これにより、油圧ショベル100の状態は、
図5のNo2.の状態からNo.3の状態に遷移し、電流印加条件が成立する。その結果、電流印加フラグがオンに設定される。
【0073】
図6Aに示すように、電流印加フラグがオンに設定されると、運転コントローラ150は、電磁比例弁140のソレノイド146に供給する制御電流Iを最小電流Iminから最大電流Imaxに変化させる。これにより、電磁比例弁140のスプール142が全閉位置から全開位置へと移動する。電磁比例弁140のスプール142を一端から他端までフルストロークさせることができるので、電磁比例弁140内の異物を効果的に取り除くことができる。このときエンジン191は停止状態であり、パイロットポンプ136も停止している。このため、電磁比例弁140が駆動されたとしても方向制御弁130が動作することはない。
【0074】
電流印加フラグがオンに設定されてから所定時間t0が経過すると、運転コントローラ150は、電磁比例弁140のソレノイド146に供給する制御電流Iを最大電流Imaxから最小電流Iminに変化させる。これにより、電磁比例弁140のスプール142が全開位置から全閉位置へと移動する。
【0075】
オペレータが、イグニッションスイッチ188をオン位置からスタート位置に操作すると、スターターモータ196が駆動されるとともにエンジンコントローラ190によるエンジン191の始動制御が行われる。なお、エンジン191が始動されるまでの間のクランキング中は、油圧ショベル100の状態は
図5のNo.4の状態であるため、電流印加フラグはオンに維持されている。
【0076】
イグニッションスイッチ188がスタート位置に操作されてからエンジン191の始動が完了するまでには、数秒程度かかる。これに対して、電磁比例弁140への駆動電流の印加時間(所定時間)t0は、200~300msec程度である。このため、オペレータが、イグニッションスイッチ188をACC位置からオン位置を経由してスタート位置に操作する場合に、オン位置に操作されている時間が短い場合であっても電磁比例弁140のスプール142をフルストロークさせることができる。
【0077】
クランキング及びエンジンコントローラ190によるエンジン始動制御によりエンジン191の始動が完了すると、油圧ショベル100の状態は、
図5のNo.4の状態からNo.5の状態に遷移し、電流印加解除条件が成立する。その結果、電流印加フラグがオフに設定される。
【0078】
オペレータは、エンジン191の始動が完了したと判断すると、イグニッションスイッチ188をスタート位置からオン位置に戻す。なお、イグニッションスイッチ188から手を離すことで、イグニッションスイッチ188は、ばね(不図示)による付勢力によってスタート位置からオン位置に戻り、オン位置で維持される。これにより、油圧ショベル100の状態は、
図5のNo.5の状態からNo.6の状態に遷移する。
【0079】
オペレータは、操作装置180を操作することにより、作業装置104、旋回体103及び走行体102を動かし、掘削作業、積込作業等の作業を行う。オペレータは、作業を終えると、イグニッションスイッチ188をオフ位置まで操作する。イグニッションスイッチ188がACC位置を経由してオフ位置に操作されるため、運転コントローラ150は、エンジン停止指令をエンジンコントローラ190に出力する。これにより、エンジン191が停止し、油圧ショベル100の状態は、
図5のNo.6の状態からNo.2の状態を経由し、No.1の状態へと戻る。
【0080】
上述した実施形態によれば、次の作用効果を奏する。
【0081】
(1)本実施形態に係る油圧ショベル(作業機械)100は、エンジン191と、エンジン191によって駆動されるメインポンプ(第1ポンプ)135及びパイロットポンプ(第2ポンプ)136と、メインポンプ135から供給される作動油によって駆動される油圧アクチュエータ(油圧シリンダ110等)と、メインポンプ135から油圧アクチュエータ(油圧シリンダ110等)に供給される作動油の流れを制御する方向制御弁(制御弁)130と、パイロットポンプ136から供給される作動油の圧力を減圧し、方向制御弁130を操作するためのパイロット圧を生成する電磁比例弁(電磁弁)140と、電磁比例弁140を制御する運転コントローラ(制御装置)150と、エンジン191を始動させるための操作が可能なイグニッションスイッチ(エンジン操作部)188と、エンジン191の回転速度を検出する回転速度センサ192と、を備える。
【0082】
運転コントローラ150は、回転速度センサ192の検出結果に基づいてエンジン191が停止状態であることが判定され、イグニッションスイッチ188により始動操作されない状態でイグニッションスイッチ188がオン操作されていることを含む電流印加条件が成立しているか否かを判定する。運転コントローラ150は、電流印加条件が成立していると判定した場合に、電磁比例弁140に駆動電流を印加して電磁比例弁140を駆動する。
【0083】
この構成によれば、エンジン191が停止状態であるときに、電磁比例弁140を駆動させるので、電磁比例弁140の動作に起因して、油圧アクチュエータ(油圧シリンダ110等)が作動してしまうことを防止できる。したがって、電磁比例弁140のスプール(弁体)142の移動量を大きくとることができる。つまり、本実施形態によれば、油圧アクチュエータの動作に影響を及ぼすことなく、電磁比例弁140内の異物を効果的に取り除くことができる。その結果、電磁比例弁140の異物の噛みこみに起因する油圧アクチュエータの誤作動を防ぐことができる。
【0084】
(2)運転コントローラ150は、電流印加条件が成立していると判定し、電磁比例弁140に駆動電流を印加している状態において、エンジン191が動作状態であると判定すると、電磁比例弁140への駆動電流の印加を停止する。この構成によれば、固着防止制御における電磁比例弁140への駆動電流の印加中に、万一、エンジン191が始動した場合であっても、電磁比例弁140への駆動電流の印加が停止する。したがって、固着防止制御に起因する油圧アクチュエータの誤作動を防止することができる。
【0085】
(3)電磁比例弁140は、全閉位置と全開位置との間でストロークするスプール(弁体)142を有し、運転コントローラ150は、電流印加条件が成立していると判定した場合に、予め定められた所定時間t0の間、電磁比例弁140に駆動電流を印加し、スプール142をフルストロークの位置(全開位置)まで移動させ、スプール142をフルストロークの位置で保持させる。この構成によれば、電磁比例弁140への駆動電流の印加によりスプール142を全閉位置と全開位置との間の中間位置等の位置まで移動させる場合に比べて、効果的に異物を取り除くことができる。
【0086】
以上のとおり、本実施形態によれば、油圧アクチュエータの動作に影響を及ぼすことなく、電磁比例弁140内の異物をより効果的に取り除くことができる油圧ショベル100を提供することができる。
【0087】
<第1実施形態の変形例1>
第1実施形態では、運転コントローラ150は、電流印加条件が成立していると判定した場合に、1度だけ、電磁比例弁140に駆動電流を印加する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。運転コントローラ150は、電流印加条件が成立していると判定した場合に、複数回繰り返し電磁比例弁140に駆動電流を印加してもよい。
【0088】
図6Bは、
図6Aと同様の図であり、第1実施形態の変形例1に係る運転コントローラ150から電磁比例弁140のソレノイド146に供給される制御電流のタイムチャートである。
図6Bに示すように、電磁弁制御部164は、電流印加フラグがオフからオンに設定されると、駆動電流の印加と停止を1サイクルとした印加処理を複数サイクル(本変形例では3サイクル)実行する。1サイクルの印加処理において、電磁弁制御部164は、予め定められた第1時間t1だけ最大電流Imaxを電磁比例弁140に出力し、その後、予め定められた第2時間t2だけ最小電流Iminを電磁比例弁140に出力する。
【0089】
このような変形例によれば、1度だけ電磁比例弁140を駆動させる場合に比べて、異物を効果的に取り除くことができるので、電磁比例弁140の固着現象の発生頻度を低減できる。
【0090】
<第1実施形態の変形例2>
第1実施形態では、運転コントローラ150は、電流印加条件が成立していると判定した場合に、直ちに最大電流Imaxを電磁比例弁140に出力する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。運転コントローラ150は、電流印加条件が成立していると判定した場合に、時間の経過とともに徐々に制御電流Iの大きさを大きくしてもよい。
【0091】
図6Cは、
図6Aと同様の図であり、第1実施形態の変形例2に係る運転コントローラ150から電磁比例弁140のソレノイド146に供給される制御電流のタイムチャートである。
図6Cに示すように、電磁弁制御部164は、電流印加フラグがオフからオンに設定されると、時間の経過に応じて、制御電流Iを最小電流Iminから最大電流Imaxまで徐々に増加させる。このような変形例によれば、電磁比例弁140内に存在する異物の状態によっては、第1実施形態で説明した制御方法よりも、異物を効果的に取り除くことができる場合がある。
【0092】
<第1実施形態の変形例3>
第1実施形態では、電流印加条件判定部163は、条件1及び条件2が共に満たされた場合に、電流印加条件が成立していると判定する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。電流印加条件は、少なくとも、イグニッションスイッチ188によりオン操作が行われたこと、及び、エンジン191が停止状態であること、を含んでいればよい。
【0093】
本変形例において、電流印加条件は、上述した条件1、条件2及び以下の条件3が共に満たされた場合に成立し、条件1及び条件2、条件3の少なくともいずれかが満たされていない場合には成立しない。
(条件3)操作装置180が操作されていること
条件3は、操作装置180のレバー操作量Lが操作量閾値L0以上である場合に満たされる。
【0094】
操作量閾値L0は、操作装置180が操作されているか否かを判定するための閾値であり、予め運転コントローラ150の不揮発性メモリ153に記憶されている。電磁弁制御部164は、電流印加条件が成立したと判定すると、電流印加フラグをオンに設定する。
【0095】
このような変形例では、オペレータは、イグニッションスイッチ188をオフ位置からオン位置に操作し、さらに操作装置180を操作することにより、電磁比例弁140が駆動される。したがって、イグニッションスイッチ188をオフ位置からオン位置に操作した場合であっても操作装置180を操作しないことで、電磁比例弁140を駆動させないようにすることもできる。
【0096】
なお、本変形例において、運転コントローラ150は、所定の操作装置180が操作された場合に、複数の油圧アクチュエータに対応する全ての電磁比例弁140を駆動してもよいし、各操作装置180の操作方向に対応する電磁比例弁140のみを駆動してもよい。
【0097】
<第2実施形態>
図7及び
図8を参照して、第2実施形態に係る油圧ショベル100について説明する。なお、第1実施形態で説明した構成と同一もしくは相当する構成には同一の参照番号を付し、相違点を主に説明する。第2実施形態に係る運転コントローラ250は、電流印加条件が成立していると判定した場合に、操作装置180の操作量に応じた駆動電流を電磁比例弁140に印加する。以下、第2実施形態に係る運転コントローラ250の機能について詳しく説明する。
【0098】
図7は、第2実施形態に係る運転コントローラ250の機能ブロック図である。
図7に示すように、運転コントローラ250は、不揮発性メモリ153に記憶されているプログラムを実行することにより、エンジン状態判定部161、スイッチ操作判定部162、電流印加条件判定部163、電磁弁制御部264、リレー制御部165及び制御電流演算部266として機能する。
【0099】
制御電流演算部266は、操作センサ181からの操作信号をレバー操作量Lに変換する。レバー操作量Lは、例えばレバー中立のときには0[%]、フルレバー(最大操作)のときには100[%]となる値で表される。制御電流演算部266は、不揮発性メモリ153に記憶されている制御電流特性Ic(
図8参照)を参照し、操作センサ181で検出されたレバー操作量Lに基づいて、制御電流の目標値Itを演算する。
図8は、制御電流特性Ic1について示す図である。
図8に示す制御電流特性Ic1は、不揮発性メモリ153にテーブル形式で記憶されている。
【0100】
制御電流特性Ic1で定められるレバー操作量Lと制御電流の目標値Itの関係は以下のとおりである。レバー操作量Lが0[%]から所定操作量L1以下の範囲では、制御電流の目標値Itは最小電流Iminである。レバー操作量Lが所定操作量L1よりも大きく、最大操作量未満の範囲では、レバー操作量Lの増加に比例して所定電流I0まで制御電流の目標値Itが増加する。レバー操作量Lが最大操作量である100[%]のときには、制御電流の目標値Itは最大電流Imaxとなる。
【0101】
図7に示す電磁弁制御部264は、電流印加フラグがオフからオンに設定されると、制御電流演算部266で演算された目標値Itの制御電流Iを電磁比例弁140に印加する。
【0102】
なお、電流印加条件判定部163は、第1実施形態と同様、エンジン状態判定部161によりエンジン191が停止状態であると判定され、かつ、スイッチ操作判定部162によりイグニッションスイッチ188の操作位置がオン位置に操作されたと判定されると、電流印加条件が成立したと判定する。
【0103】
このような第2実施形態では、オペレータは、イグニッションスイッチ188をオフ位置からオン位置に操作し、さらに操作装置180を操作することにより、電磁比例弁140が駆動される。電磁比例弁140のスプール142は、操作装置180の操作量に応じて動作する。このため、例えば、オペレータが、操作装置180の操作レバー182を中立位置から最大操作量まで操作した後、中立位置に戻す動作を繰り返し実行すると、電磁比例弁140のスプール142が全閉位置と全開位置との間で繰り返し往復動する。また、オペレータが、操作装置180の操作レバー182を中立位置から最大操作量まで徐々に傾けると、電磁比例弁140のスプール142が全閉位置から全開位置に向かって徐々に移動する。
【0104】
このように、本第2実施形態に係る運転コントローラ250は、電流印加条件が成立していると判定した場合に、操作装置180の操作量に応じた駆動電流を電磁比例弁140に印加する。したがって、本第2実施形態によれば、操作装置180の操作に応じて電磁比例弁140のスプール142を動作させることができる。電磁比例弁140のスプール142に様々な動きをさせることができるので、異物をより効率よく取り除くことができる。
【0105】
なお、本第2実施形態において、運転コントローラ250は、所定の操作装置180が操作された場合に、複数の油圧アクチュエータに対応する全ての電磁比例弁140を駆動してもよいし、各操作装置180の操作方向に対応する電磁比例弁140のみを駆動してもよい。
【0106】
<第3実施形態>
図9及び
図10を参照して、第3実施形態に係る油圧ショベル100について説明する。なお、第1実施形態で説明した構成と同一もしくは相当する構成には同一の参照番号を付し、相違点を主に説明する。第3実施形態に係る運転コントローラ350は、温度センサ189で検出された作動油の温度が低いほど、電磁比例弁140へ印加する駆動電流を大きくする。以下、第3実施形態に係る運転コントローラ350の機能について詳しく説明する。
【0107】
図9は、第3実施形態に係る運転コントローラ350の機能ブロック図である。
図9に示すように、運転コントローラ350は、不揮発性メモリ153に記憶されているプログラムを実行することにより、エンジン状態判定部161、スイッチ操作判定部162、電流印加条件判定部163、電磁弁制御部364、リレー制御部165及び制御電流演算部366として機能する。
【0108】
制御電流演算部366は、不揮発性メモリ153に記憶されている制御電流特性Ic2(
図10参照)を参照し、温度センサ189で検出された作動油の温度Tに基づいて、制御電流の目標値Itを演算する。
図10は、制御電流特性Ic2について示す図である。
図10に示す制御電流特性Ic2は、不揮発性メモリ153にテーブル形式で記憶されている。
【0109】
制御電流特性Ic2で定められる作動油の温度Tと制御電流の目標値Itの関係は以下のとおりである。作動油の温度Tが第1温度T1以下の範囲では、制御電流の目標値Itは第1電流I1である。作動油の温度Tが第1温度T1よりも大きく、第2温度T2未満の範囲では、作動油の温度Tの増加に比例して制御電流の目標値Itが減少する。作動油の温度Tが第2温度T2以上の範囲では、制御電流の目標値Itは第2電流I2となる。
【0110】
第1温度T1と第2温度T2の大小関係はT1<T2であり、第1電流I1と第2電流I2の大小関係はI1>I2である。第1温度T1は、例えば、-20℃程度であり、第2温度T2は、例えば、20℃程度である。第1電流I1は、作動油の温度Tが第1温度T1である場合であって、所定時間t0だけ駆動電流を印加するときに、スプール142をフルストロークの位置まで移動させることのできる電流値である。第2電流I2は、作動油の温度Tが第2温度T2である場合であって、所定時間t0だけ駆動電流を印加するときに、スプール142をフルストロークの位置まで移動させることのできる電流値である。
【0111】
図9に示す電磁弁制御部364は、電流印加フラグがオフからオンに設定されると、所定時間t0の間、制御電流演算部366で演算された目標値Itの制御電流Iを電磁比例弁140に印加する。
【0112】
作動油は、その温度Tが低いほど、粘度が高くなる。作動油の粘度が高いと、低い場合に比べてスプール142の駆動に必要な力が大きくなる。このため、本第3実施形態に係る運転コントローラ350は、温度センサ189で検出された作動油の温度Tが低いほど、電磁比例弁140へ印加する駆動電流を大きくする。これにより、冬場など、作動油の温度Tが低い場合であっても、電磁比例弁140を全閉位置から全開位置まで移動させることができる。また、夏場など、作動油の温度Tが高い場合には、電磁比例弁140に供給する駆動電流を小さくすることにより、バッテリ197の充電率の低下を抑えることができる。
【0113】
<第4実施形態>
図11及び
図12を参照して、第4実施形態に係る油圧ショベル100について説明する。なお、第1実施形態で説明した構成と同一もしくは相当する構成には同一の参照番号を付し、相違点を主に説明する。第4実施形態に係る運転コントローラ450は、温度センサ189で検出された作動油の温度が低いほど、電磁比例弁140へ駆動電流を印加する時間を長くする。以下、第4実施形態に係る運転コントローラ450の機能について詳しく説明する。
【0114】
図11は、第4実施形態に係る運転コントローラ450の機能ブロック図である。
図11に示すように、運転コントローラ450は、不揮発性メモリ153に記憶されているプログラムを実行することにより、エンジン状態判定部161、スイッチ操作判定部162、電流印加条件判定部163、電磁弁制御部464、リレー制御部165及び印加時間演算部467として機能する。
【0115】
印加時間演算部467は、不揮発性メモリ153に記憶されている印加時間特性tc(
図12参照)を参照し、温度センサ189で検出された作動油の温度Tに基づいて、印加時間taを演算する。
図12は、印加時間特性tcについて示す図である。
図12に示す印加時間特性tcは、不揮発性メモリ153にテーブル形式で記憶されている。
【0116】
印加時間特性tcで定められる作動油の温度Tと印加時間taの関係は以下のとおりである。作動油の温度Tが第1温度T1以下の範囲では、印加時間taは第1時間t1である。作動油の温度Tが第1温度T1よりも大きく、第2温度T2未満の範囲では、作動油の温度Tの増加に比例して印加時間taが減少する。作動油の温度Tが第2温度T2以上の範囲では、印加時間taは第2時間t2となる。
【0117】
第1温度T1と第2温度T2の大小関係はT1<T2であり、第1時間t1と第2時間t2の大小関係はt1>t2である。第1温度T1は、例えば、-20℃程度であり、第2温度T2は、例えば、20℃程度である。第1時間t1は、作動油の温度Tが第1温度T1である場合であって、最大電流Imaxを電磁比例弁140に印加したときに、スプール142をフルストロークの位置まで移動させることのできる印加時間である。第2時間t2は、作動油の温度Tが第2温度T2である場合であって、最大電流Imaxを電磁比例弁140に印加したときに、スプール142をフルストロークの位置まで移動させることのできる印加時間である。
【0118】
図11に示す電磁弁制御部464は、電流印加フラグがオフからオンに設定されると、印加時間演算部467で演算された印加時間taの間、電磁比例弁140に最大電流Imaxを印加する。
【0119】
第3実施形態において説明したように、作動油は、その温度Tが低いほど、粘度が高くなる。作動油の粘度が高いと、低い場合に比べてスプール142の駆動に必要な力が大きくなる。このため、本第4実施形態に係る運転コントローラ450は、温度センサ189で検出された作動油の温度Tが低いほど、電磁比例弁140へ駆動電流を印加する時間を長くする。これにより、冬場など、作動油の温度Tが低い場合であっても、電磁比例弁140を全閉位置から全開位置まで移動させることができる。また、夏場など、作動油の温度Tが高い場合には、電磁比例弁140への駆動電流の印加時間を小さくすることにより、バッテリ197の充電率の低下を抑えることができる。
【0120】
<第5実施形態>
図13を参照して、第5実施形態に係る油圧ショベル100について説明する。なお、第1実施形態で説明した構成と同一もしくは相当する構成には同一の参照番号を付し、相違点を主に説明する。第5実施形態に係る運転コントローラ550は、電磁比例弁140に断線、短絡等の異常が発生しているか否かを監視し、異常が発生している場合には、その旨をオペレータに報知する。以下、第5実施形態に係る運転コントローラ550の機能について詳しく説明する。
【0121】
図13は、第5実施形態に係る運転コントローラ550の機能ブロック図である。
図13に示すように、運転コントローラ550は、不揮発性メモリ153に記憶されているプログラムを実行することにより、エンジン状態判定部161、スイッチ操作判定部162、電流印加条件判定部163、電磁弁制御部164、リレー制御部165、電磁弁監視部568及び表示制御部569として機能する。
【0122】
電磁弁監視部568は、電磁比例弁140からのフィードバック電流を監視する。電磁弁監視部568は、電磁比例弁140の制御電流のフィードバック値が第1電流閾値未満である場合、低電流異常が発生していると判定する。電磁弁監視部568は、電磁比例弁140の制御電流のフィードバック値が第2電流閾値以上である場合、高電流異常が発生していると判定する。電磁弁監視部568は、電磁比例弁140の制御電流のフィードバック値が第1電流閾値以上第2電流閾値未満である場合、正常であると判定する。
【0123】
第1電流閾値は、低電流異常が発生しているか否かを判定するための閾値であり、予め運転コントローラ150の不揮発性メモリ153に記憶されている。第2電流閾値は、高電流異常が発生しているか否かを判定するための閾値であり、予め運転コントローラ150の不揮発性メモリ153に記憶されている。
【0124】
表示制御部569は、電磁弁監視部568で高電流異常が発生していると判定されると、高電流異常が発生して電磁比例弁140の固着防止制御が正常に機能していないことを表すアイコン、メッセージ等の第1画像を生成し、表示装置115に出力する。表示装置115は、第1画像を表示画面に表示させ、オペレータに対して、高電流異常が発生して電磁比例弁140の固着防止制御が正常に機能していないことを報知する。
【0125】
表示制御部569は、電磁弁監視部568で低電流異常が発生していると判定されると、低電流異常が発生して電磁比例弁140の固着防止制御が正常に機能していないことを表すアイコン、メッセージ等の第2画像を生成し、表示装置115に出力する。表示装置115は、第2画像を表示画面に表示させ、オペレータに対して、低電流異常が発生して電磁比例弁140の固着防止制御が正常に機能していないことを報知する。
【0126】
油圧ショベル100において、長期間、エンジン191をかけない場合、電磁比例弁140のスプール142の油膜切れ、作動油の劣化等に起因して、エンジン191の始動時に固着現象が発生する場合がある。この場合、制御電流のフィードバック値が第2閾値以上になり、電磁弁監視部568は、高電流異常が発生していると判定する。
【0127】
このように、本第5実施形態に係る運転コントローラ550は、電磁比例弁140に異常が発生しているか否かを判定し、異常が発生している場合には、表示装置115を制御して、異常が発生し固着防止制御が機能していないことを表す画像を表示装置115の表示画面に表示させる。これにより、オペレータは、電磁比例弁140に電流を導く導線に断線、短絡、あるいは、油膜切れ、作動油の劣化に起因した固着現象の発生等の異常が発生したことにより、固着防止制御が機能していないことを知ることができる。このため、オペレータは、点検、修理等の異常を解消するための措置を適切にとることができる。したがって、電磁比例弁140の固着等に起因する油圧アクチュエータの誤作動を防ぐことができる。
【0128】
<第5実施形態の変形例>
第5実施形態では、表示装置115が、オペレータに対して、電磁比例弁140の異常を報知する報知装置として機能する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。報知装置は、音声によりオペレータに異常を報知するスピーカ等の音出力装置であってもよい。報知装置は、点灯、点滅等によりオペレータに異常を報知するLED等の発光素子を有する発光装置であってもよい。
【0129】
次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、上述の異なる実施形態で説明した構成同士を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせることも可能である。
【0130】
<変形例1>
上記実施形態では、エンジン操作部としてのイグニッションスイッチ188が、エンジンキースイッチである例について説明したが、本発明はこれに限定されない。イグニッションスイッチ188は、プッシュ式のものを採用してもよい。プッシュ式のイグニッションスイッチ188は、押し込み操作時間、押し込み回数に応じて操作状態が切り替えられる。例えば、イグニッションスイッチ188がオフ操作状態であるときに、イグニッションスイッチ188が長押し(例えば、500msec以上)されると、ACCリレー194、IGリレー195及びスターターリレー193がオンされ、エンジン191が始動される。スイッチ操作判定部162は、イグニッションスイッチ188が押し込まれると、オン操作が行われたと判定する。すなわち、スイッチ操作判定部162は、イグニッションスイッチ188によりエンジン191を始動させるための操作が行われたと判定する。
【0131】
また、イグニッションスイッチ188がオフ操作状態であるときに、イグニッションスイッチ188が短押し(例えば、500msec未満)されると、ACCリレー194がオンされACCオン状態となる。ACCオン状態であるときに、イグニッションスイッチ188が短押しされると、IGリレー195がオンされIGオン状態となる。IGオン状態であるときに、イグニッションスイッチ188が短押しされると、ACCリレー194及びIGリレー195がオフされる。スイッチ操作判定部162は、ACCオン状態であるときにイグニッションスイッチ188が押し込まれると、オン操作が行われたと判定する。
【0132】
<変形例2>
上記実施形態では、運転コントローラ150が固着防止制御を実行する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。車体制御コントローラ120及びエンジンコントローラ190が、運転コントローラ150の機能の一部を有していてもよい。例えば、エンジンコントローラ190は、回転速度センサ192の検出結果に基づいてエンジン191が停止状態であるか動作状態であるかを判定し、判定結果を車体制御コントローラ120に出力する。車体制御コントローラ120は、電力が投入され初期設定を行う際に、イグニッションスイッチ188がオン操作されたと判定し、エンジンコントローラ190からエンジン191が停止状態であることを表す判定結果を取得した場合に電流印加条件が成立したと判定する。車体制御コントローラ120は、電流印加条件が成立したと判定すると、電磁比例弁140に駆動電流を印加する。このように、固着防止制御は、複数のコントローラ(制御装置)120,190が協働して実行するようにしてもよい。
【0133】
<変形例3>
上記実施形態では、速度閾値N1が、エンジンコントロールダイヤル198(
図2参照)で設定可能な最小回転速度以下の値であって、スターターモータ196によるクランキング最大速度よりも大きい値が設定される例について説明したが、本発明はこれに限定されない。速度閾値N1は、速度閾値N0と同じ値としてもよい。この場合、クランキングが開始されると、電磁比例弁140への駆動電流の印加が停止するため、固着防止制御の車体挙動への影響を確実に防止することができる。
【0134】
<変形例4>
上記実施形態では、電磁比例弁140が常時閉(ノーマルクローズ)の構成である例について説明したが、本発明はこれに限定されない。電磁比例弁140は常時開(ノーマルオープン)の構成の場合にも本発明を適用することができる。
【0135】
<変形例5>
上記実施形態では、電磁比例弁(電磁弁)140の弁体がスプール142である例について説明したが、本発明はこれに限定されない。弁体としてのポペットを有する電磁弁に本発明を適用することもできる。
【0136】
<変形例6>
上記実施形態では、イグニッションスイッチ188によるスタート操作が行われると、エンジン191の始動制御が行われる例について説明したが、イグニッションスイッチ188によるスタート操作が行われたときにおいて、エンジン始動前提条件が成立している場合に限りエンジン191の始動制御を行うようにしてもよい。エンジン始動前提条件は、例えば、ゲートロックレバー装置185がロック位置に操作されているときに成立する。
【0137】
<変形例7>
上記実施形態では、操作装置180が、コントローラ120,150からの制御電流に応じて電磁比例弁140を制御して指令パイロット圧を生成する電気式の操作装置である例について説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明は、油圧パイロット式の操作装置に適用してもよい。油圧パイロット式の操作装置は、操作レバーによって直接駆動され、操作量に応じたパイロット操作圧を方向制御弁130に出力する減圧弁を有している。操作装置の減圧弁と方向制御弁130との間には、パイロット操作圧をさらに減圧可能な電磁比例弁が設けられることがある。また、操作装置の減圧弁で生成されるパイロット操作圧が導かれるパイロットラインに高圧選択弁を介して電磁比例弁が設けられることもある。この構成では、電磁比例弁で生成した指令パイロット圧と操作装置の減圧弁で生成されるパイロット操作圧の高い方が方向制御弁130に導かれる。これらの構成においても、電磁比例弁に対して固着防止制御を実行することにより、電磁比例弁の固着を防止することができる。
【0138】
<変形例8>
上記実施形態では、車体制御コントローラ120が、オペレータの操作装置180の操作量に応じて電磁比例弁140を駆動する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明は、自動運転制御に用いられる電磁比例弁140の固着防止制御にも適用することができる。この場合、例えば、車体制御コントローラ120は、予め定められた動作計画に応じて電磁比例弁140を駆動する。
【0139】
<変形例9>
上記実施形態では、運転コントローラ150が、イグニッションスイッチ188の操作位置に基づいて、各種リレー193,194,195のオンオフ制御を行う例について説明したが、本発明はこれに限定されない。各種リレー193,194,195は、イグニッションスイッチ188の回動操作に応じて機械的に開閉される構成としてもよい。
【0140】
<変形例10>
上記実施形態では、作業機械がクローラ式の油圧ショベル100である場合を例に説明したが、本発明はこれに限定されない。ホイール式の油圧ショベル、ホイールローダ、道路機械、クレーン、ダンプトラック等の種々の作業機械に本発明を適用することができる。
【0141】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0142】
100…油圧ショベル(作業機械)、102…走行体、102A…走行モータ(油圧アクチュエータ)、103…旋回体、103A…旋回モータ(油圧アクチュエータ)、104…作業装置、105…機体、107…タンク、110…油圧シリンダ(油圧アクチュエータ)、111…ブーム、111A…ブームシリンダ(油圧アクチュエータ)、112…アーム、112A…アームシリンダ(油圧アクチュエータ)、113…バケット、113A…バケットシリンダ(油圧アクチュエータ)、115…表示装置(報知装置)、120…車体制御コントローラ(制御装置)、130…方向制御弁(制御弁)、135…メインポンプ(第1ポンプ)、136…パイロットポンプ(第2ポンプ)、140…電磁比例弁(電磁弁)、142…スプール(弁体)、150…運転コントローラ(制御装置)、161…エンジン状態判定部、162…スイッチ操作判定部、163…電流印加条件判定部、164…電磁弁制御部、165…リレー制御部、180…操作装置、181…操作センサ、182…操作レバー(操作部材)、188…イグニッションスイッチ(エンジン操作部)、189…温度センサ、190…エンジンコントローラ(制御装置)、191…エンジン、192…回転速度センサ、193…スターターリレー、194…ACCリレー、195…IGリレー、196…スターターモータ、197…バッテリ、250…運転コントローラ(制御装置)、264…電磁弁制御部、266…制御電流演算部、350…運転コントローラ(制御装置)、364…電磁弁制御部、366…制御電流演算部、450…運転コントローラ(制御装置)、464…電磁弁制御部、467…印加時間演算部、550…運転コントローラ(制御装置)、568…電磁弁監視部、569…表示制御部