(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】積層セラミックコンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20221031BHJP
【FI】
H01G4/30 513
H01G4/30 201C
H01G4/30 201D
H01G4/30 201N
H01G4/30 516
(21)【出願番号】P 2021050018
(22)【出願日】2021-03-24
(62)【分割の表示】P 2017078039の分割
【原出願日】2017-04-11
【審査請求日】2021-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】大野 亮
(72)【発明者】
【氏名】福岡 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】楠本 昌司
(72)【発明者】
【氏名】河野 明彦
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-059815(JP,A)
【文献】特開2014-123696(JP,A)
【文献】特開2014-204113(JP,A)
【文献】特開2013-187239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/00-4/224
H01G 4/255-4/40
H01G 13/00-13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に積層された複数のセラミック層と、前記複数のセラミック層の間に配置された複数の内部電極と、を有する容量形成部と、前記容量形成部を前記第1方向から覆うカバー部と、を有する積層部と、
前記第1方向に直交する第2方向から前記積層部を覆うサイドマージン部と、
前記カバー部と前記サイドマージン部とを接続し、肉薄に形成された稜部と、
を具備し、
前記複数の内部電極は、前記サイドマージン部に隣接する酸化領域を有し、
前記稜部の近傍に位置する前記酸化領域の前記第2方向の寸法は、前記第1方向の中央部に位置する前記酸化領域の前記第2方向の寸法よりも大き
く、かつ、前記複数のセラミック層の前記第1方向の平均寸法の2倍以上である
積層セラミックコンデンサ。
【請求項2】
請求項
1に記載の積層セラミックコンデンサであって、
前記稜部の近傍に位置する前記酸化領域の前記第2方向の寸法は、前記複数のセラミック層の前記第1方向の平均寸法の4倍以下である
積層セラミックコンデンサ。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の積層セラミックコンデンサであって、前記複数のセラミック層のそれぞれの前記第1方向の平均寸法が0.4μm以下である
積層セラミックコンデンサ。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか1項に記載の積層セラミックコンデンサであって、
前記複数の内部電極は、ニッケルを主成分とする
積層セラミックコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドマージン部が後付けされる積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサの製造方法において内部電極の周囲を保護するサイドマージン部を後付けする技術が知られている(特許文献1,2参照)。例えば、特許文献1に記載の技術では、側面に内部電極が露出した積層体を作製し、この積層体の側面にサイドマージン部が設けられる。
【0003】
サイドマージン部を後付けする技術を用いて製造された積層セラミックコンデンサでは、積層体の側面近傍において内部電極間のショートが発生しやすくなる。この点、特許文献1に記載の技術では、内部電極の先端に酸化領域を設けることにより、積層体の側面近傍における内部電極間のショートの発生が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-204113号公報
【文献】特開2014-143392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
積層セラミックコンデンサの更なる大容量化及び小型化のためには、内部電極間のセラミック層を更に薄くする必要がある。しかしながら、セラミック層を薄くするほど、内部電極間のショートが発生しやすくなる。したがって、セラミック層を薄くしても、内部電極間のショートの発生を抑制可能な技術が求められる。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、セラミック層の平均厚さを0.4μm以下にしても内部電極間のショートが発生しにくい積層セラミックコンデンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る積層セラミックコンデンサは、積層部と、サイドマージン部と、を具備する。
上記積層部は、第1方向に積層された複数のセラミック層と、上記複数のセラミック層の間に配置された複数の内部電極と、上記第1方向を向いた主面と、上記主面から所定深さ以内の表層部と、上記表層部に上記第1方向に隣接する中央部と、を有する。
上記サイドマージン部は、上記第1方向に直交する第2方向から上記積層部を覆う。
上記複数のセラミック層のそれぞれの上記第1方向の平均寸法が0.4μm以下である。
上記複数の内部電極は、上記サイドマージン部に隣接する酸化領域を有する。
上記表層部における上記酸化領域の上記第2方向の寸法は、上記複数のセラミック層の上記第1方向の平均寸法の2倍以上である。
【0008】
この構成では、サイドマージン部に隣接する位置における内部電極間のショートが発生しやすい積層部の表層部において酸化領域の寸法を大きくする。これにより、セラミック層の平均厚さを0.4μm以下としても、内部電極間のショートの発生を抑制することができる。
【0009】
上記所定深さは、上記積層部の上記第1方向の寸法の10%として規定されてもよい。
この構成では、内部電極間のショートの発生をより効果的に抑制することができる。
【0010】
上記中央部では上記表層部よりも上記酸化領域の上記第2方向の寸法が小さくてもよい。
上記表層部における上記酸化領域の上記第2方向の寸法は、上記複数のセラミック層の上記第1方向の平均寸法の4倍以下であってもよい。
これらの構成では、酸化領域を小さく留めることにより、酸化領域を設けることによる容量の低下を小さく抑えることができ、また半田耐熱不良の発生を抑制することもできる。
【0011】
上記複数の内部電極は、ニッケルを主成分としていてもよい。
この構成では、内部電極における酸化領域の寸法を制御しやすいため、上記のような構成が得られやすい。
【発明の効果】
【0012】
セラミック層の平均厚さを0.4μm以下にしても内部電極間のショートが発生しにくい積層セラミックコンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの斜視図である。
【
図2】上記積層セラミックコンデンサの
図1のA-A'線に沿った断面図である。
【
図3】上記積層セラミックコンデンサの
図1のB-B'線に沿った断面図である。
【
図4】上記積層セラミックコンデンサの断面の微細組織を示す図である。
【
図5】上記積層セラミックコンデンサの
図3の領域Pを拡大して示す部分断面図である。
【
図6】上記積層セラミックコンデンサの製造方法を示すフローチャートである。
【
図7】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す平面図である。
【
図8】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す斜視図である。
【
図9】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す平面図である。
【
図10】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す斜視図である。
【
図11】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す部分断面図である。
【
図12】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す斜視図である。
【
図13】上記積層セラミックコンデンサの製造過程を示す部分断面図である。
【
図14】ショート率の評価結果を示すグラフである。
【
図15】半田耐熱不良率の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
図面には、適宜相互に直交するX軸、Y軸、及びZ軸が示されている。X軸、Y軸、及びZ軸は全図において共通である。
【0015】
[積層セラミックコンデンサ10の基本構成]
図1~3は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10を示す図である。
図1は、積層セラミックコンデンサ10の斜視図である。
図2は、積層セラミックコンデンサ10の
図1のA-A'線に沿った断面図である。
図3は、積層セラミックコンデンサ10の
図1のB-B'線に沿った断面図である。
【0016】
積層セラミックコンデンサ10は、セラミック素体11と、第1外部電極14と、第2外部電極15と、を具備する。セラミック素体11は、典型的には、X軸方向を向いた2つの端面と、Y軸方向を向いた2つの側面と、Z軸方向を向いた2つの主面と、を有する。セラミック素体11の各面を接続する稜部は面取りされている。
【0017】
なお、セラミック素体11の形状は、上記のものに限定されない。つまり、セラミック素体11は、
図1~3に示すような直方体形状でなくてもよい。例えば、セラミック素体11の各面は曲面であってもよく、セラミック素体11は全体として丸みを帯びた形状であってもよい。
【0018】
外部電極14,15は、セラミック素体11のX軸方向両端面を覆い、X軸方向両端面に接続する4つの面(2つの主面及び2つの側面)に延出している。これにより、外部電極14,15のいずれにおいても、X-Z平面に平行な断面及びX-Y平面に平行な断面の形状がU字状となっている。
【0019】
セラミック素体11は、積層部16と、サイドマージン部17と、を有する。サイドマージン部17は、積層部16のY軸方向を向いた両側面の全領域をそれぞれ覆っている。また、セラミック素体11は、必要に応じて、積層部16とサイドマージン部17とを接合するための接合部を有していてもよい。
【0020】
積層部16は、容量形成部19と、カバー部20と、を有する。カバー部20は、容量形成部19のZ軸方向上下面をそれぞれ覆っている。容量形成部19は、複数のセラミック層21と、複数の第1内部電極12と、複数の第2内部電極13と、を有する。カバー部20には、内部電極12,13が設けられていない。
【0021】
内部電極12,13は、Z軸方向に積層された複数のセラミック層21の間に、Z軸方向に沿って交互に配置されている。第1内部電極12は、第1外部電極14に接続され、第2外部電極15から離間している。第2内部電極13は、第2外部電極15に接続され、第1外部電極14から離間している。
【0022】
内部電極12,13は、典型的にはニッケル(Ni)を主成分として構成され、積層セラミックコンデンサ10の内部電極として機能する。なお、内部電極12,13は、ニッケル以外に、銅(Cu)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)の少なくとも1つを主成分としていてもよい。
【0023】
このように、セラミック素体11では、容量形成部19における外部電極14,15が設けられたX軸方向両端面以外の面がサイドマージン部17及びカバー部20によって覆われている。サイドマージン部17及びカバー部20は、主に、容量形成部19の周囲を保護し、内部電極12,13の絶縁性を確保する機能を有する。
【0024】
容量形成部19における内部電極12,13間のセラミック層21は、誘電体セラミックスによって形成されている。積層セラミックコンデンサ10では、容量形成部19における容量を大きくするために、セラミック層21を構成する誘電体セラミックスとして高誘電率のものが用いられる。
【0025】
より具体的に、積層セラミックコンデンサ10では、セラミック層21を構成する高誘電率の誘電体セラミックスとして、チタン酸バリウム(BaTiO3)系材料の多結晶体、つまりバリウム(Ba)及びチタン(Ti)を含むペロブスカイト構造の多結晶体を用いる。これにより、積層セラミックコンデンサ10では大容量が得られる。
【0026】
なお、セラミック層21は、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)系、チタン酸カルシウム(CaTiO3)系、チタン酸マグネシウム(MgTiO3)系、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)系、チタン酸ジルコン酸カルシウム(Ca(Zr,Ti)O3)系、ジルコン酸バリウム(BaZrO3)系、酸化チタン(TiO2)系などで構成してもよい。
【0027】
サイドマージン部17及びカバー部20も、誘電体セラミックスによって形成されている。サイドマージン部17及びカバー部20を形成する材料は、絶縁性セラミックスであればよいが、セラミック層21と同様の誘電体セラミックスを用いることによりセラミック素体11における内部応力が抑制される。
【0028】
上記の構成により、積層セラミックコンデンサ10では、第1外部電極14と第2外部電極15との間に電圧が印加されると、第1内部電極12と第2内部電極13との間の複数のセラミック層21に電圧が加わる。これにより、積層セラミックコンデンサ10では、第1外部電極14と第2外部電極15との間の電圧に応じた電荷が蓄えられる。
【0029】
なお、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10の基本構成は、
図1~3に示す構成に限定されず、適宜変更可能である。例えば、内部電極12,13の枚数やセラミック層21の厚さは、積層セラミックコンデンサ10に求められるサイズや性能に応じて、適宜決定可能である。
【0030】
[積層セラミックコンデンサ10の詳細構成]
積層セラミックコンデンサ10では、積層部16を構成するセラミック層21が非常に薄く、具体的にセラミック層21のZ軸方向の平均寸法である平均厚さT(
図5参照)が0.4μm以下である。積層セラミックコンデンサ10では、セラミック層21を薄くすることにより、大容量化や小型化や薄型化に有利になる。
【0031】
セラミック層21の平均厚さTは、セラミック層21の複数箇所において測定された厚さの平均値として求めることができる。セラミック層21の厚さを測定する位置や数は任意に決定可能である。以下、
図4を参照しながら、セラミック層21の平均厚さTの測定方法の一例について説明する。
【0032】
図4は、走査型電子顕微鏡によって12.6μm×8.35μmの視野で観察したセラミック素体11の断面の微細組織を示す図である。この視野内の6層のセラミック層21について、2μmの等間隔の矢印で示された5箇所の厚さを測定する。そして、得られた30箇所の厚さの平均値を平均厚さTとすることができる。
【0033】
積層セラミックコンデンサ10の製造方法では、積層部16の側面に、サイドマージン部17が後付けされる。この製造方法を用いることにより、積層部16の側面近傍における内部電極12,13間のショートが発生しやすくなる。この詳細については、「積層セラミックコンデンサ10の製造方法」の項目で説明する
【0034】
積層セラミックコンデンサ10では、上記のとおりセラミック層21が非常に薄いため、Z軸方向に隣接する内部電極12,13間の距離が近くなる。このため、積層セラミックコンデンサ10では、セラミック層21が非常に薄い構成によって、積層部16の側面近傍における内部電極12,13間のショートが更に発生しやすくなる。
【0035】
これに対し、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ10は、サイドマージン部17を後付けする製造方法を用い、かつセラミック層21を非常に薄くしても、積層部16の側面近傍における内部電極12,13間のショートの発生を抑制可能な構成を有する。以下、この構成の詳細について説明する。
【0036】
図5は、積層セラミックコンデンサ10の
図3の一点鎖線で囲んだ領域Pを拡大して示す部分断面図である。内部電極12,13は、積層部16の側面近傍にあるY軸方向の端部に、導電性を有さない酸化領域12a,13aを有する。酸化領域12a,13aは、内部電極12,13を構成する金属材料を含む酸化物で構成されている。
【0037】
したがって、積層セラミックコンデンサ10では、隣接する酸化領域12a,13aが接触していても、内部電極12,13が導通しない。このため、積層セラミックコンデンサ10では、積層部16の側面近傍における内部電極12,13間のショートの発生を効果的に抑制することができる。
【0038】
ここで、積層部16をZ軸方向に3つの部分に分けて考えるものとする。つまり、
図3に示すように、積層部16が、Z軸方向を向いた両主面から所定深さ以内の2つの表層部16aと、2つの表層部16a間に配置された中央部16bと、から構成されているものと考える。
【0039】
図3には、積層部16のZ軸方向の寸法Eと、表層部16aのZ軸方向の寸法E1と、中央部16bのZ軸方向の寸法E2と、が示されている。積層部16の寸法Eは、表層部16a及び中央部16bの寸法E1,E2の合計である。つまり、E=E1+E2+E1の等式が成り立っている。
【0040】
各表層部16aの寸法E1は、任意に決定可能だが、積層部16の寸法Eの10%として規定することが好ましい。なお、
図3では、説明の便宜上、積層部16における各寸法E1,E2の比率が正しく示されておらず、つまり表層部16aの寸法E1が中央部16bの寸法E2に対して大きく示されている。
【0041】
セラミック層21の平均厚さTが通常程度(例えば1μm程度)の場合、酸化領域12a,13aのY軸方向の寸法Da,Dbがセラミック層21の平均厚さTと同程度とされる。ところが、これと同様の設計でセラミック層21の平均厚さTを0.4μm以下にすると、表層部16aにおいて内部電極12,13間のショートが発生しやすいことが確認された。
【0042】
したがって、セラミック層21の平均厚さTが0.4μm以下の構成では、セラミック層21の平均厚さTが通常程度の構成とは異なる設計が必要である。この点、本発明では、表層部16aにおける酸化領域12a,13aのY軸方向の寸法Daを大きくすることが有効であることを見出している。
【0043】
より具体的に、
図5に示すとおり、積層セラミックコンデンサ10では、表層部16aにおける酸化領域12a,13aのY軸方向の寸法Daを、セラミック層21の平均厚さTの2倍以上としている。これにより、セラミック層21の平均厚さTが0.4μm以下の構成において、表層部16aにおける内部電極12,13間のショートが発生しにくくなる。
【0044】
この一方で、酸化領域12a,13aは電極として機能しないため、酸化領域12a,13aが大きいほど積層セラミックコンデンサ10の容量が小さくなる。このため、表層部16aにおける酸化領域12a,13aの寸法Daは、内部電極12,13間のショートの発生を抑制可能な範囲内において小さく留めることが好ましい。
【0045】
また、酸化領域12a,13aは、焼成時に内部電極12,13のY軸方向の端部を酸化させることによって形成される。焼成時における酸化領域12a,13aの形成には、体積膨張が伴う。このため、酸化領域12a,13aの寸法Daが大きいほど、セラミック素体11における内部応力が大きくなる。
【0046】
積層セラミックコンデンサ10では、セラミック素体11の内部応力が大きいほど、半田付けされる際の耐熱不良(半田耐熱不良)が発生しやすくなり、つまり実装時にクラックが発生しやすくなる。この観点からも、表層部16aにおける酸化領域12a,13aの寸法Daは小さく留めることが好ましい。
【0047】
このため、表層部16aにおける酸化領域12a,13aの寸法Daは、セラミック層21の平均厚さTの4倍以下に留めることが好ましい。これにより、積層セラミックコンデンサ10では、大きい容量を確保できるとともに、実装時における半田耐熱不良の発生を抑制することができる。
【0048】
なお、カバー部20に隣接する最外層の内部電極12,13は、焼成時にカバー部20を介して供給される酸素によってほぼ全体が酸化し、もはや電極として機能しなくなることがある。このような場合には、最外層の内部電極12,13が消滅したものとみなし、最外層を除く内部電極12,13の酸化領域12a,13aのみを考慮するものとする。
【0049】
また、表層部16aよりも内部電極12,13間のショートが発生しにくい中央部16bでは、酸化領域12a,13aのY軸方向の寸法Dbがセラミック層21の平均厚さTの2倍未満であってもよい。これにより、積層セラミックコンデンサ10における容量の低下及び半田耐熱不良の発生を抑制することができる。
【0050】
更に、酸化領域12a,13aのサイドマージン部17側の端部は、製造過程(後述の切断工程(ステップS03)や焼成工程(ステップS04)など)においてY軸方向に±0.1μm程度ずれることがある。この場合、酸化領域12a,13aの寸法Da,Dbは、このずれた位置を基準として測定される。
【0051】
[積層セラミックコンデンサ10の製造方法]
図6は、積層セラミックコンデンサ10の製造方法を示すフローチャートである。
図7~13は、積層セラミックコンデンサ10の製造過程を示す図である。以下、積層セラミックコンデンサ10の製造方法について、
図6に沿って、
図7~13を適宜参照しながら説明する。
【0052】
(ステップS01:セラミックシート準備)
ステップS01では、容量形成部19を形成するための第1セラミックシート101及び第2セラミックシート102と、カバー部20を形成するための第3セラミックシート103と、を準備する。セラミックシート101,102,103は、誘電体セラミックスを主成分とする未焼成の誘電体グリーンシートとして構成される。
【0053】
セラミックシート101,102,103は、例えば、ロールコーターやドクターブレードなどを用いてシート状に成形される。セラミックシート101,102の厚さは、焼成後の容量形成部19におけるセラミック層21の平均厚さTが0.4μm以下となるように調整される。セラミックシート103の厚さは適宜調整可能である。
【0054】
図7は、セラミックシート101,102,103の平面図である。この段階では、セラミックシート101,102,103が、個片化されていない大判のシートとして構成される。
図7には、各積層セラミックコンデンサ10ごとに個片化する際の切断線Lx,Lyが示されている。切断線LxはX軸に平行であり、切断線LyはY軸に平行である。
【0055】
図7に示すように、第1セラミックシート101には第1内部電極12に対応する未焼成の第1内部電極112が形成され、第2セラミックシート102には第2内部電極13に対応する未焼成の第2内部電極113が形成されている。なお、カバー部20に対応する第3セラミックシート103には内部電極が形成されていない。
【0056】
内部電極112,113は、任意の導電性ペーストをセラミックシート101,102に塗布することによって形成することができる。導電性ペーストの塗布方法は、公知の技術から任意に選択可能である。例えば、導電性ペーストの塗布には、スクリーン印刷法やグラビア印刷法を用いることができる。
【0057】
内部電極112,113には、切断線Lyに沿ったX軸方向の隙間が、切断線Ly1本置きに形成されている。第1内部電極112の隙間と第2内部電極113の隙間とはX軸方向に互い違いに配置されている。つまり、第1内部電極112の隙間を通る切断線Lyと第2内部電極113の隙間を通る切断線Lyとが交互に並んでいる。
【0058】
(ステップS02:積層)
ステップS02では、ステップS01で準備したセラミックシート101,102,103を、
図8に示すように積層することにより積層シート104を作製する。積層シート104では、容量形成部19に対応する第1セラミックシート101及び第2セラミックシート102がZ軸方向に交互に積層されている。
【0059】
また、積層シート104では、交互に積層されたセラミックシート101,102のZ軸方向上下面にカバー部20に対応する第3セラミックシート103が積層される。なお、
図8に示す例では、第3セラミックシート103がそれぞれ3枚ずつ積層されているが、第3セラミックシート103の枚数は適宜変更可能である。
【0060】
積層シート104は、セラミックシート101,102,103を圧着することにより一体化される。セラミックシート101,102,103の圧着には、例えば、静水圧加圧や一軸加圧などを用いることが好ましい。これにより、積層シート104を高密度化することが可能である。
【0061】
(ステップS03:切断)
ステップS03では、ステップS02で得られた積層シート104を、
図9に示すように切断線Lx,Lyに沿って切断することにより、未焼成の積層チップ116を作製する。積層チップ116は、焼成後の積層部16に対応する。積層シート104の切断には、例えば、押し切り刃や回転刃などを用いることができる。
【0062】
より詳細に、積層シート104は、保持部材Cによって保持された状態で、切断線Lx,Lyに沿って切断される。これにより、積層シート104が個片化され、積層チップ116が得られる。このとき、保持部材Cは切断されておらず、各積層チップ116は保持部材Cによって接続されている。
【0063】
図10は、ステップS03で得られる積層チップ116の斜視図である。積層チップ116には、容量形成部119及びカバー部120が形成されている。積層チップ116では、切断面である両側面に内部電極112,113が露出している。内部電極112,113の間にはセラミック層121が形成されている。
【0064】
図11は、ステップS03の過程を例示する積層シート104の部分断面図である。
図11に示す例では、押し切り刃Bを用いることにより、切断線Lx,Lyに沿って積層シート104を切断する。
図11は、積層シート104を押し切り刃Bで切断している途中の状態を示している。
【0065】
より詳細に、
図11に示す例では、切断線Lx,Lyに沿って配置した押し切り刃Bに押圧力を加えることにより、押し切り刃Bの先端を積層シート104のZ軸方向上面から保持部材Cに到達するまで移動させる。これにより、積層シート104が切断されて、各積層チップ116ごとに切り分けられる。
【0066】
押し切り刃Bの先端が積層シート104のZ軸方向上面から保持部材Cに到達する過程において、積層シート104の切断面には押し切り刃BからZ軸方向下方への力が加わる。これにより、積層シート104の切断面近傍には、Z軸方向下側への変形が生じる。この変形は、積層シート104のZ軸方向上側の領域ほど生じやすい。
【0067】
このため、個片化された積層チップ116の内部電極112,113には、側面近傍においてZ軸方向下側に向けて湾曲する変形が発生する。この内部電極112,113の変形は、Z軸方向上側の表層部116aで生じやすく、中央部116b及びZ軸方向下側の表層部116aではほとんど生じない。
【0068】
したがって、Z軸方向上側の表層部116aでは、側面近傍において内部電極112,113が接触しやすい。しかし、本ステップで内部電極112,113が接触したとしても、後述のステップS05(焼成)において適切な酸化領域12a,13aが形成されるため、焼成後の内部電極12,13にはショートが発生しない。
【0069】
(ステップS04:サイドマージン部形成)
ステップS04では、ステップS03で得られた積層チップ116における内部電極112,113が露出した側面に未焼成のサイドマージン部117を設けることにより、
図12に示す未焼成のセラミック素体111を作製する。サイドマージン部117は、セラミックシートやセラミックスラリーから形成される。
【0070】
ステップS04では、ステップS03における積層チップ116の切断面である両側面にサイドマージン部117が設けられる。このため、ステップS04では、予め保持部材Cから積層チップ116を剥がし、積層チップ116の向きを90度回転させておくことが好ましい。
【0071】
サイドマージン部117は、例えば、セラミックシートを積層チップ116の側面に貼り付けることにより形成することができる。また、サイドマージン部117は、積層チップ116の側面を、例えば塗布やディップなどによってセラミックスラリーでコーティングすることにより形成することもできる。
【0072】
本ステップの前の積層チップ116では、側面において内部電極112,113が接続されていることがある。例えば、内部電極112,113は、積層チップ116の側面に付着した導電性の異物を介して接続していることがある。また、内部電極112,113は、ステップS03(切断)で切断面において展延して直接接触していることもある。
【0073】
このような場合、積層チップ116の側面において内部電極112,113が接続した状態でサイドマージン部117が設けられる。しかし、本ステップで内部電極112,113が接続していても、後述のステップS05(焼成)において適切な酸化領域12a,13aが形成されるため、焼成後の内部電極12,13にはショートが発生しない。
【0074】
(ステップS05:焼成)
ステップS05では、ステップS04で得られた未焼成のセラミック素体111を焼結させることにより、
図1~3に示す積層セラミックコンデンサ10のセラミック素体11を作製する。つまり、ステップS05により、積層チップ116が積層部16になり、サイドマージン部117がサイドマージン部17になる。
【0075】
ステップS05における焼成温度は、セラミック素体111の焼結温度に基づいて決定可能である。例えば、誘電体セラミックスとしてチタン酸バリウム系材料を用いる場合には、焼成温度を1000~1300℃程度とすることができる。また、焼成は、例えば、還元雰囲気下、又は低酸素分圧雰囲気下において行うことができる。
【0076】
焼成時には、積層チップ116とサイドマージン部117とで焼結挙動が異なるため、サイドマージン部117から積層チップ116の側面に応力が加わる。この応力は、特にZ軸方向上下の表層部116aに集中する。このため、表層部116aに配置された内部電極112,113が側面近傍において変形する場合がある。
【0077】
このような場合、焼成中に内部電極112,113同士が接触することがある。しかし、内部電極112,113が接触したとしても、以下に説明するように内部電極112,113に酸化領域12a,13aが形成されるため、焼成後の内部電極12,13にはショートが発生しない。
【0078】
図13は、焼成の過程を示すセラミック素体111の部分断面図である。セラミック素体111の焼成時には、セラミック素体111の外部から内部電極112,113のY軸方向の端部に酸素が供給される。これにより、内部電極112,113を構成する金属材料を含む酸化物が生成され、酸化領域12a,13aが形成される。
【0079】
酸化領域12a,13aは、焼成中にY軸方向の中央部に向けて成長する。つまり、焼成中における酸化領域12a,13aの成長量を調整することにより、酸化領域12a,13aの寸法Da,Dbを制御することができる。酸化領域12a,13aの寸法Da,Dbの制御には様々な方法を利用することができる。
【0080】
例えば、サイドマージン部117の厚さによって、酸化領域12a,13aの寸法Da,Dbを制御することができる。この方法では、サイドマージン部117の厚さを調整することによって、サイドマージン部117を介して外部から内部電極112,113のY軸方向の端部に供給される酸素の量を制御する。
【0081】
つまり、サイドマージン部117を薄くするほど、酸素の供給量が多くなるため、酸化領域12a,13aの寸法Da,Dbを大きくすることができる。反対に、サイドマージン部117を厚くするほど、酸素の供給量が少なくなるため、酸化領域12a,13aの寸法Da,Dbを小さくすることができる。
【0082】
また、サイドマージン部117の組成によって、酸化領域12a,13aの寸法Da,Dbを制御することもできる。例えば、ニッケルを主成分とする導電性ペーストで内部電極112,113を形成する場合には、サイドマージン部117におけるマグネシウム(Mg)の含有量を調整することができる。
【0083】
サイドマージン部117にマグネシウムが含まれる構成では、焼成時に、サイドマージン部117に含まれるマグネシウムが内部電極112,113のY軸方向の端部に供給される。これにより、内部電極112,113のY軸方向の端部では、ニッケルがマグネシウム及び酸素を取り込みながら酸化領域12a,13aが形成される。
【0084】
したがって、サイドマージン部117におけるマグネシウムの含有量を多くするほど、マグネシウムの供給量が多くなるため、酸化領域12a,13aの寸法Da,Dbを大きくすることができる。反対に、サイドマージン部117におけるマグネシウムの含有量を少なくするほど、マグネシウムの供給量が少なくなるため、酸化領域12a,13aの寸法Da,Dbを小さくすることができる。
【0085】
また、中央部16bに配置された酸化領域12a,13aの寸法Dbを小さく留めつつ、表層部16aに配置された酸化領域12a,13aの寸法Daのみを大きくするためには、例えば、カバー部120を薄くすることや、セラミック素体111を面取りすることや、カバー部120におけるマグネシウムの含有量を多くすることが有効である。
【0086】
つまり、カバー部120を薄くすることによって、カバー部120を介して外部から内部電極112,113に供給される酸素の量が多くなる。カバー部120を介して内部電極112,113に供給される酸素は、表層部116aには到達しやすいものの、中央部116bには到達しにくい。
【0087】
したがって、カバー部120を薄くすることによって、表層部116aに配置された内部電極112,113のY軸方向の端部に選択的に酸素を供給することができる。これにより、表層部16aに配置された酸化領域12a,13aの寸法Daのみを大きくすることができる。
【0088】
また、バレル研磨などにより焼成前のセラミック素体111を面取りすることによって、カバー部120とサイドマージン部117とが接続する稜部を肉薄にすることができる。これによっても、表層部116aに配置された内部電極112,113のY軸方向の端部への酸素の供給量を多くすることができる。
【0089】
更に、カバー部120におけるマグネシウムの含有量を多くすることによって、カバー部から内部電極112,113に供給されるマグネシウムの量が多くなる。カバー部120から供給されるマグネシウムは、表層部116aには到達しやすいものの、中央部116bには到達しにくい。
【0090】
したがって、カバー部120におけるマグネシウムの含有量を多くすることによって、表層部116aに配置された内部電極112,113のY軸方向の端部に選択的にマグネシウムを供給することができる。したがって、表層部16aに配置された酸化領域12a,13aの寸法Daのみを大きくすることができる。
【0091】
以上のような方法により、酸化領域12a,13aの寸法Da,Dbを様々に制御可能である。したがって、
図5に示す構成をはじめ、様々な構成の酸化領域12a,13aを形成することができる。なお、酸化領域12a,13aの寸法Da,Dbの制御方法は、上記に限定されない。
【0092】
(ステップS06:外部電極形成)
ステップS06では、ステップS05で得られたセラミック素体11に外部電極14,15を形成することにより、
図1~3に示す積層セラミックコンデンサ10を作製する。ステップS06では、例えば、セラミック素体11のX軸方向端面に、外部電極14,15を構成する下地膜、中間膜、及び表面膜を形成する。
【0093】
より詳細に、ステップS06では、まず、セラミック素体11のX軸方向両端面を覆うように未焼成の電極材料を塗布する。塗布された未焼成の電極材料を、例えば、還元雰囲気下、又は低酸素分圧雰囲気下において焼き付けを行うことにより、セラミック素体11に外部電極14,15の下地膜が形成される。
【0094】
そして、セラミック素体11に焼き付けられた外部電極14,15の下地膜の上に、外部電極14,15の中間膜が形成され、更に外部電極14,15の表面膜が形成される。外部電極14,15の中間膜及び下地膜の形成には、例えば、電解メッキなどのメッキ処理を用いることができる。
【0095】
なお、上記のステップS06における処理の一部を、ステップS05の前に行ってもよい。例えば、ステップS05の前に未焼成のセラミック素体111のX軸方向両端面に未焼成の電極材料を塗布してもよい。これにより、ステップS05において、未焼成のセラミック素体111の焼成と電極材料の焼き付けとを同時に行うことができる。
【0096】
[実施例及び比較例]
本実施形態の実施例及び比較例として、上記の製造方法に基づいて積層セラミックコンデンサ10のサンプルを作製した。このサンプルでは、X軸方向の寸法を1mmとし、Y軸方向及びZ軸方向の寸法を0.5mmとした。また、このサンプルでは、セラミック層21の平均厚さTを0.4μm以下とした。
【0097】
各サンプルでは、表層部16aにおける酸化領域12a,13aの寸法Daの、セラミック層21の平均厚さTに対する比率Da/Tを、0から6までの範囲内において様々に変化させた。なお、酸化領域12a,13aの比率Da/Tがゼロのサンプルでは、酸化領域12a,13aが形成されていない。
【0098】
まず、各サンプルのショート率の評価を行った。ショート率の評価は、LCRメータを用い、Osc(Oscillation level)が0.5Vであり、周波数が1kHzの電圧を印加する条件下で行った。各サンプルについて、200個の評価を行い、200個のうちショートが発生していたものの個数の割合をショート率とした。
【0099】
図14は、酸化領域12a,13aの比率Da/Tによるショート率の変化を示すグラフである。酸化領域12a,13aの比率Da/Tが2未満の領域では、ショート率が単調減少する傾向が見られた。一方、酸化領域12a,13aの比率Da/Tが2以上の領域では、ショート率がほぼ一定であった。
【0100】
また、酸化領域12a,13aの比率Da/Tが2以上の領域では、ショート率が10%程度以内に収まっている。この結果から、表層部16aにおける酸化領域12a,13aの寸法Daを、セラミック層21の平均厚さTの2倍以上とすることにより、ショート率の低い積層セラミックコンデンサ10が得られることがわかる。
【0101】
次に、各サンプルの半田耐熱不良率の評価を行った。半田耐熱不良率の評価では、各サンプルを基板に実装する際の条件を再現し、各サンプルを270℃の半田の溶湯に5秒間浸漬させた。各サンプルにいついて、200個評価を行い、200個のうちクラックが発生していたものの個数の割合を半田耐熱不良率とした。
【0102】
図15は、酸化領域12a,13aの比率Da/Tによる半田耐熱不良率の変化を示すグラフである。酸化領域12a,13aの比率Da/Tが4以下の領域では、半田耐熱不良が発生していない。一方、酸化領域12a,13aの比率Da/Tが4を超える領域では、半田耐熱不良が発生している。
【0103】
この結果から、酸化領域12a,13aの寸法Daが大きいサンプルでは、セラミック素体11における内部応力が大きく、クラックが発生しやすい状態となっていることがわかる。このため、表層部16aにおける酸化領域12a,13aの寸法Daは、セラミック層21の平均厚さTの4倍以下に留めることが好ましい。
【0104】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0105】
例えば、積層セラミックコンデンサ10では、容量形成部19がZ軸方向に複数に分割して設けられていてもよい。この場合、各容量形成部19において内部電極12,13がZ軸方向に沿って交互に配置されていればよく、容量形成部19が切り替わる部分において第1内部電極12又は第2内部電極13が連続して配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0106】
10…積層セラミックコンデンサ
11…セラミック素体
12,13…内部電極
12a,13a…酸化領域
14,15…外部電極
16…積層部
16a…表層部
16b…中央部
17…サイドマージン部
19…容量形成部
20…カバー部
21…セラミック層