(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用セパレータ
(51)【国際特許分類】
H01M 50/417 20210101AFI20221031BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20221031BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20221031BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20221031BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20221031BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20221031BHJP
H01M 50/431 20210101ALI20221031BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20221031BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20221031BHJP
H01M 50/406 20210101ALI20221031BHJP
H01M 50/437 20210101ALI20221031BHJP
【FI】
H01M50/417
H01M50/403 D
H01M50/451
H01M50/489
H01M10/0566
H01G11/52
H01M50/431
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/406
H01M50/403 A
H01M50/403 B
H01M50/403 Z
H01M50/437
(21)【出願番号】P 2021083370
(22)【出願日】2021-05-17
(62)【分割の表示】P 2020203644の分割
【原出願日】2019-10-11
【審査請求日】2021-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2018192964
(32)【優先日】2018-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018206944
(32)【優先日】2018-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019141639
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019141651
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】張 シュン
(72)【発明者】
【氏名】黒木 諒
(72)【発明者】
【氏名】福永 悠希
(72)【発明者】
【氏名】小林 博実
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-031047(JP,A)
【文献】特開2013-008690(JP,A)
【文献】特開2001-176484(JP,A)
【文献】特開平09-216964(JP,A)
【文献】特開平11-144700(JP,A)
【文献】国際公開第97/044839(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108198986(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
H01M 10/05-10/0587
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シラン変性ポリオレフィン及びポリエチレンを含む微多孔膜(ただし、架橋助剤を含む微多孔膜を除く)を含む蓄電デバイス用セパレータであって、前記微多孔膜の熱機械分析(TMA)により測定される融解破膜温度が180℃~220℃であり、
前記融解破膜温度は、定長モードを用いて、環境温度を25~250℃に亘って変化させ、荷重が完全開放される瞬間の温度であり、かつ前記蓄電デバイス用セパレータの膜厚が25μm以下である蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項2】
前記蓄電デバイス用セパレータの膜厚が、1.0μm以上22μm以下である、請求項1に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項3】
前記微多孔膜の膜厚が、1.0μm以上22μm以下である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項4】
前記微多孔膜のTMAにより測定される融解破膜温度が、207℃以上220℃以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項5】
前記蓄電デバイス用セパレータが、スカンジウム、バナジウム、銅、亜鉛、ジルコニウム、パラジウム、ガリウム、スズ、チタン、鉄、ニッケル又は鉛を原子換算の合計量で0.10ppm以上200ppm以下含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項6】
前記蓄電デバイス用セパレータが、亜鉛又はスズを原子換算の合計量で0.10ppm以上200ppm以下含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項7】
前記微多孔膜と、
前記微多孔膜の少なくとも一方の表面に配置された、無機粒子及び樹脂バインダを含む無機多孔質層と、
を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項8】
前記無機多孔質層中の前記無機粒子の含有量が、5質量%~99質量%である、請求項7に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項9】
前記微多孔膜中の前記シラン変性ポリオレフィンの含有量が、0.5質量%~40質量%である、請求項7又は8に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項10】
前記無機粒子が、アルミナ(Al
2O
3)、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素、シリコンカーバイド、水酸化酸化アルミニウム(AlO(OH))、タルク、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ藻土、ケイ砂、及びガラス繊維から成る群から選択される少なくとも1つである、請求項7~9のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項11】
前記樹脂バインダのガラス転移温度(Tg)が、-50℃~100℃である、請求項7~10のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項12】
以下の工程:
(1)シラン変性ポリオレフィン、ポリエチレン及び可塑剤を押出機でシート状に押出し、冷却固化させ、シート状成形体に加工するシート成形工程;
(2)前記シート状成形体を20倍以上250倍以下の面倍率で二軸延伸して、延伸物を形成する延伸工程;
(3)前記延伸物から前記可塑剤を抽出して、多孔体を形成する多孔体形成工程;
(4)前記多孔体を熱処理に供して、幅方向に延伸及び緩和を行って、熱処理多孔体を得る熱処理工程;
(5)前記熱処理多孔体を、水と有機物に両親媒性のある有機溶剤中に浸漬させ、前記熱処理多孔体の液体との親和性を増大させて、前記有機溶剤が内部に含浸された親和性処理多孔体を得る親和性処理工程;
(6)前記親和性処理多孔体を、有機金属含有触媒と水の混合物に接触させるか、又は塩基溶液若しくは酸溶液に浸漬させ、シラン脱水縮合反応を行って、オリゴシロキサン結合を形成して架橋処理多孔体を得る架橋処理工程;及び
(7)前記架橋処理多孔体を水洗して乾燥して、前記シラン変性ポリオレフィンを含む微多孔膜を得る水洗乾燥工程;
を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータの製造方法。
【請求項13】
以下の工程:
(1)シラン変性ポリオレフィン、ポリエチレン及び可塑剤を押出機でシート状に押出し、冷却固化させ、シート状成形体に加工するシート成形工程;
(2)前記シート状成形体を20倍以上250倍以下の面倍率で二軸延伸して、延伸物を形成する延伸工程;
(3)前記延伸物から前記可塑剤を抽出して、多孔体を形成する多孔体形成工程;
(4)前記多孔体を熱処理に供して、幅方向に延伸及び緩和を行って、熱処理多孔体を得る熱処理工程;
(5)前記熱処理多孔体を、水と有機物に両親媒性のある有機溶剤中に浸漬させ、前記熱処理多孔体の液体との親和性を増大させて、前記有機溶剤が内部に含浸された親和性処理多孔体を得る親和性処理工程;
(6)前記親和性処理多孔体を、有機金属含有触媒と水の混合物に接触させるか、又は塩基溶液若しくは酸溶液に浸漬させ、シラン脱水縮合反応を行って、オリゴシロキサン結合を形成して架橋処理多孔体を得る架橋処理工程;
(7)前記架橋処理多孔体を水洗して乾燥して、前記シラン変性ポリオレフィンを含む微多孔膜を得る水洗乾燥工程;及び
(8A)無機粒子と樹脂バインダを含む無機多孔質層を、前記微多孔膜の少なくとも一方の表面に形成する塗工工程;
を含む、請求項7~11のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータの製造方法。
【請求項14】
電極と、請求項1~11のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータと、非水電解液とを含む蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス用セパレータ及びその製造方法に関し、より詳細にはリチウムイオン電池用セパレータとして好適に使用される変性ポリオレフィン含有微多孔膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微多孔膜は、種々の物質の分離又は選択透過分離膜、及び隔離材等として広く用いられており、その用途例としては、精密ろ過膜、燃料電池用、コンデンサー用セパレータ、又は機能材を孔の中に充填させて新たな機能を発現させるための機能膜の母材、電池用セパレータ等が挙げられる。中でも、ポリオレフィン製微多孔膜は、ノート型パーソナルコンピュータ又は携帯電話、デジタルカメラ等に広く使用されているリチウムイオン電池用セパレータとして好適に使用されている。電池安全性を確保するために、セパレータには、シャットダウン機能の発動と破膜温度の向上の両立が求められている。例えば、特許文献1には、リチウムイオン電池用セパレータの必須成分であるポリオレフィン樹脂の高次物性が調整されたことが記述されている。また、特許文献2に示されるとおり、特定の結晶化度とゲル分率領域では、電池内部の短絡による発熱をシャットダウン機能で抑制する一方、電池セル内で部分的に高温部位が発生しても破膜しない(170℃以上でのブレイクダウン)性能を有することで、電池の安全性を確保できることが知られている。特許文献1,2について、より詳細には、ポリオレフィン製セパレータ内にシラン架橋部(ゲル化構造)を構築することで、高温破膜性を発現できることが実験的に分かってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-216964号公報
【文献】国際公開第97/44839号
【文献】特開平11-144700号公報
【文献】特開平11-172036号公報
【文献】特開2001-176484号公報
【文献】特開2000-319441号公報
【文献】特開2017-203145号公報
【文献】国際公開第2010/134585号
【文献】特開2016-072150号公報
【文献】特開2007-299612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、モバイルデバイス搭載用途又は車載用リチウムイオン二次電池の高出力化と高エネルギー密度化が進んでいる一方、電池セルの小型化と長期使用時の安定なサイクル放充電性能が求められている。そのため、使用されるセパレータとして薄膜(例えば15μm以下)で高品位(例えば、物性均一性があり、かつ樹脂凝集物がない)なものが必要とされている。さらに、上記の性能に加えて、電池安全性の水準についても、以前より厳格となっており、特許文献1,2にも記載されるように、シャットダウン機能と高温破膜性が求められており、安定生産が可能なセパレータ用樹脂組成物と製造方法の開発が期待されている。これに関連して、シャットダウン温度の水準として150℃より低いほど望ましく、また破膜温度の水準としては高温であるほど望ましい。
【0005】
例えば、特許文献3に記載の方法では、押出工程時に架橋触媒マスターバッチを用いることで、押出機内でシラン変性ポリエチレンの架橋反応を進行させるが、樹脂凝集物の発生も見られ、セパレータの物性均一性を低下させる。この方法に対して、特許文献4,5,6に記載の方法は、可塑剤抽出工程やシランゲル架橋工程を設けたり、樹脂膜のゲル分率を制御したり、未架橋の樹脂を熱水に通して成形してから脱水したりすることで対策している。また、特許文献7には、ポリオレフィン微多孔膜のゲル分率、貯蔵弾性率、熱機械分析(TMA)による最大収縮率、及び電子スピン共鳴法(ESR)により測定されるラジカル量を調整することによって、低熱収縮性、低流動性及び耐メルトダウン性に優れた耐熱性樹脂微多孔膜を提供することが提案されている。
【0006】
さらに、蓄電デバイス用セパレータについて、寸法安定性、シャットダウン機能の維持と破膜温度の向上の両立、寸法安定性などの観点から、ポリオレフィン製微多孔膜の少なくとも一方の表面に、焼成カオリン、ベーマイトなどの無機粒子と樹脂バインダとを含む無機多孔質層を配置することが提案されている(特許文献8,9)。また、例えば、シャットダウン特性を有するA層と、アラミド樹脂、及び無機材料を含むB層との厚みの比を所定の範囲内に調整したセパレータが提案されている(特許文献10)。
【0007】
しかしながら、特許文献4に示す方法はシラン架橋反応を十分に進行させることができず、高温耐破膜性を得ることが難しい。特許文献3,4に記載の可塑剤抽出工程では、スズ(II)系架橋触媒を使用するため、架橋反応を進行できるが、後に架橋触媒の残留が懸念されている。
【0008】
特許文献7に記載の耐熱性樹脂微多孔膜は、乾式で多孔化された膜に対して光重合性塗工液を塗工することにより得られるものにすぎない。また、特許文献7の実施例5では、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどの低分子量シランカップリング剤を多孔膜に添加するが、仮に低分子量シランカップリング剤を湿式多孔化法に用いると、低分子量シランカップリング剤は、多孔化のための可塑剤と反応又は結合し易いため、多孔膜の樹脂とは結合しないことが予想される。
【0009】
また、特許文献7に記載の皮膜層は、重合性官能基を有する化合物を樹脂製多孔膜に塗布した後、外部刺激によって架橋反応で形成されるため、皮膜層の塗布と同時に樹脂製多孔膜の一部分への侵液が予想され、架橋反応の進行後では、皮膜層と樹脂製多孔膜の界面付近には、それらの混合領域も形成されることが予測される。それによって、良好なTMA熱収縮性能を得られるが、樹脂製多孔膜の目詰まりによる電池サイクル特性の低下又は樹脂製多孔膜の融解現象に伴うFuse(シャットダウン)性能の低下が予測される。さらに、特許文献7に記載の方法により得られた複合微多孔膜には、少量のラジカル種化合物がESRで検出され、残存することにより、複合微多孔膜を電池へ組み込ませた際に、他の部材と、特に電解液とラジカル反応が進行し、電解液を分解する連鎖反応が予測され、著しく電池性能を悪化させると考えられる。
【0010】
さらに、特許文献3~7に記載されるようなセパレータを用いた電池は、サイクル特性が悪く、また長期使用時に、電池内で予期できない副反応を誘発し、電池安全性の低下が懸念される。また、シャットダウン機能と高温破膜性を得るために、上記に示すように、シラン架橋方法には問題があると同時に、シラングラフトポリオレフィンのみでは、セパレータにとって最も重要な多孔質体構造を構築することできないため、樹脂混合組成物の開発も欠かせない。
【0011】
さらに、特許文献1,2,7に記載の微多孔膜及びセパレータは、それらの表面に無機粒子と樹脂バインダとを含む無機多孔質層を配置することについての検討が乏しい。微多孔膜上に無機多孔質層を備える従来のセパレータは、蓄電デバイスの温度-抵抗曲線上では破膜温度が向上するように見える。しかしながら、実際には微多孔膜から樹脂が無機多孔質層中へ溶出することがあるので、セパレータ全体としての膜減り及びそれによる応力耐性の低下が予想される。したがって、特許文献8,9に記載の多層多孔膜は、ポリオレフィン製微多孔膜と無機多孔質層を備えるが、蓄電デバイス用セパレータとしての低温シャットダウン機能と高温破膜性の両立、又は蓄電デバイスのサイクル特性と電池釘刺安全性の向上について検討の余地がある。
【0012】
また、特許文献1,2,10に記載の蓄電デバイス用セパレータでは、その蓄電デバイスの性能の向上を図る観点で、未だ改良の余地があった。
【0013】
本発明は、上記問題点に鑑みて、シャットダウン機能と高温破膜性を両立し、蓄電デバイスの出力、サイクル特性及び/又は安全性を向上させることができるセパレータ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記問題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の樹脂組成を有する樹脂組成物を用いて、微多孔膜の高次構造を構築する工程を完了させた後、特定の条件下で架橋反応(ゲル化)を行うによって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
以下の工程:
(1)シラングラフト変性ポリオレフィン、ポリエチレン及び可塑剤を押し出し機にてシート状に押出し、冷却固化させ、シート状成形体に加工するシート成形工程;
(2)前記シート状成形体を20倍以上250倍以下の面倍率で二軸延伸して、延伸物を形成する延伸工程;
(3)前記延伸物から前記可塑剤を抽出して多孔体を形成する多孔体形成工程;
(4)前記多孔体を熱処理に供して、幅方向に延伸及び緩和を行って熱処理多孔体を得る熱処理工程;
(5)前記熱処理多孔体を、水と有機物に両親媒性のある有機溶剤中に浸漬させ、前記熱処理多孔体の液体との親和性を増大させて、前記有機溶剤が内部に含浸された親和性処理多孔体を得る親和性処理工程;
(6)前記親和性処理多孔体を、有機金属含有触媒と水の混合物に接触させるか、又は塩基溶液若しくは酸溶液に浸漬させ、シラン脱水縮合反応を行ってオリゴシロキサン結合を形成して、架橋処理多孔体を得る架橋処理工程;及び
(7)前記架橋処理多孔体を水洗して乾燥する水洗乾燥工程;
を含む蓄電デバイス用セパレータの製造方法。
[2]
前記シラングラフト変性ポリオレフィンと前記ポリエチレンの質量比(シラングラフト変性ポリオレフィンの質量/ポリエチレンの質量)が、0.05/0.95~0.40/0.60である、項目1に記載の蓄電デバイス用セパレータの製造方法。
[3]
前記蓄電デバイス用セパレータが、熱機械分析(TMA)により測定される融解破膜温度が180℃~220℃である微多孔膜を含む、項目1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータの製造方法。
[4]
前記架橋処理工程において、前記親和性処理多孔体を前記塩基溶液又は前記酸溶液に浸漬させる、項目1~3のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータの製造方法。
[5]
前記架橋処理工程において、前記親和性処理多孔体を前記塩基溶液に浸漬させる、項目4に記載の蓄電デバイス用セパレータの製造方法。
[6]
前記塩基溶液の温度が20℃~100℃であり、かつpHが8~14である、項目5に記載の蓄電デバイス用セパレータの製造方法。
[7]
前記架橋処理工程において、前記親和性処理多孔体を前記酸溶液に浸漬させる、項目4に記載の蓄電デバイス用セパレータの製造方法。
[8]
前記有機金属含有触媒の金属が、スカンジウム、バナジウム、銅、亜鉛、ジルコニウム、パラジウム、ガリウム、スズ、チタン、鉄、ニッケル及び鉛から成る群から選択される少なくとも1つである、項目1~7のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータの製造方法。
[9]
前記蓄電デバイス用セパレータ中のスカンジウム、バナジウム、銅、亜鉛、ジルコニウム、パラジウム、ガリウム、スズ、チタン、鉄、ニッケル又は鉛の含有量が、原子換算の合計量で0.10ppm以上200ppm以下である、項目1~8のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータの製造方法。
[10]
前記シラングラフト変性ポリオレフィンが、当該シラングラフト変性ポリオレフィンを架橋する脱水縮合触媒を前記シート成形工程前から含有するマスターバッチ樹脂ではない、項目1~9のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータの製造方法。
[11]
前記水洗乾燥工程において、前記架橋処理多孔体を、温度20~100℃及びpH6~8の水で洗浄して乾燥させる、項目1~10のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータの製造方法。
[12]
以下の工程;
正極と、項目1~11のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータの製造方法により得られる蓄電デバイス用セパレータと、負極とを積層し、かつ/又は捲回して、積層体又は捲回体を得る工程;
前記積層体又は捲回体を外装体に入れる工程;
前記外装体に電解液を注ぐ工程;及び
前記正極と前記負極にリード端子を接続する工程;
を含む蓄電デバイスの製造方法。
[13]
前記電解液が、LiPF6含有電解質又は他のフッ素(F)含有リチウム塩電解質を含む、項目12に記載の蓄電デバイスの製造方法。
[14]
シラン変性ポリオレフィン及びポリエチレンを含む微多孔膜を含む蓄電デバイス用セパレータであって、前記微多孔膜の熱機械分析(TMA)により測定される融解破膜温度が180℃~220℃である蓄電デバイス用セパレータ。
[15]
前記蓄電デバイス用セパレータが、スカンジウム、バナジウム、銅、亜鉛、ジルコニウム、パラジウム、ガリウム、スズ、チタン、鉄、ニッケル又は鉛を原子換算の合計量で0.10ppm以上200ppm以下含む、項目14に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[16]
前記蓄電デバイス用セパレータが、亜鉛又はスズを原子換算の合計量で0.10ppm以上200ppm以下含む、項目14又は15に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[17]
前記微多孔膜と、
前記微多孔膜の少なくとも一方の表面に配置された、無機粒子及び樹脂バインダを含む無機多孔質層と、
を含む、項目14~16のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[18]
前記無機多孔質層中の前記無機粒子の含有量が、5質量%~99質量%である、項目17に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[19]
前記微多孔膜中の前記シラン変性ポリオレフィンの含有量が、0.5質量%~40質量%である、項目17又は18に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[20]
前記無機粒子が、アルミナ(Al2O3)、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素、シリコンカーバイド、水酸化酸化アルミニウム(AlO(OH))、タルク、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ藻土、ケイ砂、及びガラス繊維から成る群から選択される少なくとも1つである、項目17~19のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[21]
前記樹脂バインダのガラス転移温度(Tg)が、-50℃~100℃である、項目17~20のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[22]
シラン変性ポリオレフィンを含み、架橋構造を有する第1多孔質層(A層)と、無機粒子を含む第2多孔質層(B層)とを備える蓄電デバイス用セパレータであって、
前記B層の厚み(TB)に対する前記A層の厚み(TA)の比(TA/TB)が0.22以上14以下である蓄電デバイス用セパレータ。
[23]
熱機械分析(TMA)により測定される、前記A層の破膜温度が180℃以上220℃以下である、項目22に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[24]
前記A層と前記B層との合計厚み(TA+TB)が3.0μm以上22μm以下である、項目22又は23に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[25]
前記B層における前記無機粒子の量が、前記B層の全量を基準として20質量%以上99.5%質量%以下である、項目22~24のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[26]
前記B層が樹脂バインダを含む、項目22~25のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[27]
前記A層が、前記シラン変性ポリオレフィンとは異なるポリオレフィンとして、更にポリエチレンを含む、項目22~26のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[28]
前記A層における前記シラン変性ポリオレフィンの量が、前記A層の全量を基準として3質量%以上である、項目22~27のいずれか一項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
[29]
10.0Mpa加圧下で電気抵抗に基づき測定される、シャットダウン温度が130℃~160℃かつメルトダウン温度が200℃以上である蓄電デバイス用セパレータ。
[30]
以下の工程:
(1)シラン変性ポリオレフィン、ポリエチレン及び可塑剤を押出機でシート状に押出し、冷却固化させ、シート状成形体に加工するシート成形工程;
(2)前記シート状成形体を20倍以上250倍以下の面倍率で二軸延伸して、延伸物を形成する延伸工程;
(3)前記延伸物から前記可塑剤を抽出して、多孔体を形成する多孔体形成工程;
(4)前記多孔体を熱処理に供して、幅方向に延伸及び緩和を行って、熱処理多孔体を得る熱処理工程;
(5)前記熱処理多孔体を、水と有機物に両親媒性のある有機溶剤中に浸漬させ、前記熱処理多孔体の液体との親和性を増大させて、前記有機溶剤が内部に含浸された親和性処理多孔体を得る親和性処理工程;
(6)前記親和性処理多孔体を、有機金属含有触媒と水の混合物に接触させるか、又は塩基溶液若しくは酸溶液に浸漬させ、シラン脱水縮合反応を行って、オリゴシロキサン結合を形成して架橋処理多孔体を得る架橋処理工程;
(7)前記架橋処理多孔体を水洗して乾燥して、前記シラン変性ポリオレフィンを含む微多孔膜を得る水洗乾燥工程;及び
(8A)無機粒子と樹脂バインダを含む無機多孔質層を、前記微多孔膜の少なくとも一方の表面に形成する塗工工程;
を含む、項目14~29のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータの製造方法。
[31]
電極と、項目14~29のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータと、非水電解液とを含む蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、蓄電デバイス用セパレータのシャットダウン機能と高温破膜性を両立して、蓄電デバイスの出力、サイクル特性及び/又は安全性を向上させることができ、かつ/又は蓄電デバイス用セパレータの製造プロセスにおいて未溶融樹脂凝集物の発生を抑制したり、高温高圧耐性を確保したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施例I-1で得られたセパレータのTMAグラフである。
【
図2】
図2は、実施例I-1で得られたセパレータを用いた電池の釘突刺安全試験時の発熱グラフである。
【
図3】
図3は、実施例I-1で得られたセパレータを用いた電池の釘突刺安全試験時の電圧低下グラフである。
【
図4】
図4は、ポリオレフィンを用いて得られるシラン変性ポリオレフィン原料1の
1H-NMRチャート(a)及び
13C-NMRチャート(b)である。
【
図5】
図5は、ポリオレフィンを用いて得られるシラン変性ポリオレフィン原料2の
1H-NMRチャート(a)及び
13C-NMRチャート(b)である。
【
図6】
図6は、
図4に示されるシラン変性ポリオレフィン原料1を用いて作製されたセパレータの架橋前状態の
1H-NMRチャート(a)及び
13C-NMRチャート(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を説明する。本発明は、下記の実施形態のみに限定されず、その要旨内の範囲で様々な変形が可能である。
【0018】
本明細書において、「~」とは、その両端の数値を上限値、及び下限値として含む意味である。また、本明細書において、数値範囲の上限値、及び下限値は、任意に組み合わせることができる。例えば、好ましい数値範囲の上限値と、より好ましい数値範囲の下限値とを組み合わせてよく、逆に、より好ましい数値範囲の上限値と、好ましい数値範囲の下限値とを組み合わせてよい。
【0019】
なお、本明細書において、「上」、及び「面に形成」とは、各部材の位置関係が「直上」であることを限定する意味ではない。例えば、「A層上に形成されるB層」、及び「A層の表面に形成されるB層」という表現は、A層とB層との間に、そのいずれにも該当しない任意の層が含まれる態様を除外しない。
【0020】
以下で説明される微多孔膜のみの特性については、蓄電デバイス用セパレータから微多孔膜以外の層(例えば無機多孔質層)を除いてから測定されることができる。
【0021】
<蓄電デバイス用セパレータ>
本発明の一態様は、蓄電デバイス用セパレータ(以下、単に「セパレータ」ともいう)である。セパレータは、絶縁性とイオン透過性が必要なため、一般的には、多孔体構造を有する絶縁材料である紙、ポリオレフィン製不織布又は樹脂製微多孔膜などを含む。特に、リチウムイオン電池においては、セパレータの耐酸化還元劣化及び緻密で均一な多孔体構造を構築できるポリオレフィン製微多孔膜が優れている。
ここで、微多孔膜とは、多孔体から成る膜(フィルム)をいい、その平均孔径は、10nm以上、500nm以下であることが好ましく、30nm以上、100nm以下であることがより好ましい。
セパレータが蓄電デバイスに含まれる場合には、蓄電デバイスからセパレータを取り出すことが可能である。
【0022】
<第一実施形態>
本発明の第一実施形態に係るセパレータは、熱機械分析(TMA)により測定される融解破膜温度が180℃~220℃である微多孔膜を含み、そして微多孔膜は、シラン変性ポリオレフィン及びシラン未変性ポリエチレンを含む。微多孔膜は、高温耐破膜性及び蓄電デバイスの安全性の観点から、その熱機械分析(TMA)測定時に、融解破膜温度が、180℃~220℃であり、180℃~200℃であることが好ましい。予期しない暴走反応によって蓄電デバイスが異常に発熱しても、セパレータのシャットダウン機能により、イオンの移動、また、それに伴う蓄電デバイス内又は蓄電デバイス外の放電が停止されることが期待されている。その後、冷媒により蓄電デバイス全体が冷却され、安全性が確保されることが期待されている。他方、微多孔膜の破膜温度が上記の数値範囲内にあると、蓄電デバイス全体が十分に冷却されない場合でも、また、万が一、超高温領域に達する場合でも、セパレータが融解破膜して両電極へ染込み、活物質をコーティングでき、それにより、更なる発熱を抑制し易くなる。微多孔膜の破膜温度は、実施例欄に記載の方法により測定でき、また、製造プロセスにおいて延伸温度及び/又は延伸倍率の変更等により制御可能である。
【0023】
第一実施形態に係るセパレータは、その製造プロセスの観点及び微多孔膜の非晶質部分を制御して安全性を確保するという観点から、スカンジウム、バナジウム、銅、亜鉛、ジルコニウム、パラジウム、ガリウム、スズ、チタン、鉄、ニッケル又は鉛の含有量が原子換算の合計量で0.10ppm以上200ppm以下の範囲内に制御されることが好ましく、亜鉛又はスズの含有量が原子換算の合計量で0.10ppm以上200ppm以下の範囲内に制御されることがより好ましく、1ppm以上150ppm以下の範囲内に制御されることがさらに好ましい。
【0024】
第一実施形態に係るセパレータは、比較的低温でのシャットダウン機能と比較的高温での破膜性を両立し、かつ蓄電デバイスのサイクル特性と安全性を向上させるという観点から、微多孔膜と;その微多孔膜の少なくとも一方の表面に配置された、無機粒子及び樹脂バインダを含む無機多孔質層とを含むことができる。セパレータは、微多孔膜を基材として使用して、その基材と無機塗工層を複合化した状態であることができる。
【0025】
<第二実施形態>
本発明の第二実施形態に係るセパレータは、シラン変性ポリオレフィンを含み、架橋構造を有する第1多孔質層(A層)と、無機粒子を含む第2多孔質層(B層)とを備える。A層、及びB層は、それぞれ、単層又は複数層である。B層は、A層の一方の面のみ又は両面に形成される。
蓄電デバイスの代表例であるLIBでは、リチウム(Li)イオンが正負極間を往復する。そこで、A層、及びB層を含むセパレータを正負極間に配することで、Liイオンを正負極間で比較的高速に移動させることを可能としながら、正負極間の接触を回避できる。
【0026】
(厚みの比)
A層は、架橋性を有する微多孔膜として機能し、B層は、微多孔膜上に形成される無機多孔質層として機能する。
ここで、B層の厚み(TB)に対するA層の厚み(TA)の比(TA/TB)は0.22以上14以下である。比(TA/TB)が0.22以上であれば、セパレータにおけるA層の存在割合を十分に確保でき、A層による機能を発揮させることができる。他方、比(TA/TB)が14以下であれば、セパレータにおけるB層の存在割合を十分に確保でき、B層による機能を発揮させることができる。
【0027】
A層、及びB層をそれぞれ特定の構造とし、更に、その比(TA/TB)を上記の範囲に設定することで、蓄電デバイスにおける、サイクル特性、及び安全性の向上を図ることができるセパレータを提供できる。このようなセパレータは、例えば、モバイルデバイス搭載用途又は車載用途のLIBの構成材料として好適に用いることができる。
上記の効果の観点から、比(TA/TB)は、好ましくは0.8以上、より好ましくは1.0以上である。他方、比(TA/TB)は、好ましくは5.5以下、より好ましくは3.2以下である。
【0028】
比(TA/TB)は、例えば、2.5未満、2.0以下又は1.0以下に設定してよい。この場合、A層の厚み(TA)が、B層の厚み(TB)に対して2.5倍未満、また、B層の厚み(TB)よりも小さくなり、A層の薄膜化、ひいては、セパレータの薄膜化を図り易くなる。
【0029】
A層とB層との合計厚み(TA+TB)は3.0μm以上22μm以下であることが好ましい。合計厚み(TA+TB)が3.0μm以上であれば、セパレータの膜強度が向上する傾向にある。他方、合計厚み(TA+TB)が22μm以下であれば、セパレータのイオン透過性が向上する傾向にある。
上記の効果の観点から、合計厚み(TA+TB)は、より好ましくは3.5μm以上、更に好ましくは4.0μm以上である。他方、合計厚み(TA+TB)は、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは18μm以下である。
【0030】
合計厚み(TA+TB)は、例えば、11μm未満、10μm以下又は8μm以下に設定してよい。このように薄膜化されたセパレータであっても、本発明の範囲内であれば、蓄電デバイスにおける、サイクル特性、及び安全性の向上を図ることができる。
【0031】
比(TA/TB)、及び合計厚み(TA+TB)のそれぞれは、実施例欄に記載の手法により測定でき、また、厚み(TA)、及び/又は厚み(TB)を調整することで制御できる。A層とB層とについては後述する。
【0032】
(シャットダウン温度、及びメルトダウン温度)
A層について、0.1Mpa以上10.0Mpa以下の加圧下(好ましくは10Mpa加圧下)で電気抵抗に基づき測定される、シャットダウン温度(ヒューズ温度と称される場合がある)が130℃~160℃且つメルトダウン温度(破膜温度と称される場合がある)が200℃以上であることが好ましい。
【0033】
上記のシャットダウン温度が130℃以上であれば、蓄電デバイスの通常反応時においてシャットダウン機能が不要に発揮されることを回避でき、その蓄電デバイスの十分な出力特性を確保できる。他方、上記のシャットダウン温度が160℃以下であれば、蓄電デバイスの異常反応時においてシャットダウン機能を好適に発揮させることができる。
加えて、上記のメルトダウン温度が200℃以上であれば、蓄電デバイスの異常反応時において超高温領域に達する前にその異常反応を停止でき、また、蓄電デバイスの異常反応時におけるセパレータの溶融破膜を防止できる。
【0034】
すなわち、シャットダウン温度とメルトダウン温度とが上記の条件を満たすことで、耐熱性、孔閉塞特性(シャットダウン機能)、溶融破膜特性(メルトダウン機能)に優れた蓄電デバイスを提供できるセパレータを実現でき、且つ、そのセパレータ自体においても、機械的特性、イオン透過性等を確保できる。よって、シャットダウン温度とメルトダウン温度とが上記の条件を満たすセパレータを備えることで、蓄電デバイスは、サイクル特性、及び安全性の向上を図ることができる。
上記の効果の観点から、シャットダウン温度は、好ましくは130℃超、より好ましくは135℃以上、更に好ましくは136℃以上である。他方、シャットダウン温度は、好ましくは150℃以下、より好ましくは148℃以下、更に好ましくは146℃以下である。
同様に、上記の効果の観点から、メルトダウン温度は、好ましくは175℃以上、より好ましくは178℃以上、更に好ましくは180℃以上である。他方、メルトダウン温度は、好ましくは230℃以下、より好ましくは225℃以下、更に好ましくは220℃以下である。
なお、メルトダウン温度については、200℃を超えた範囲で正確に測定ができなくなる場合であっても、その温度が200℃以上である限り、上記の「メルトダウン温度が200℃以上」の要件を満たす。
【0035】
本明細書における、「シャットダウン温度」と「メルトダウン温度」は、上記の加圧下で、電気抵抗に基づき測定したときに得られる値を意味する。すなわち、正極、セパレータ、及び負極を含む積層体に対して上記の圧力を加えながら、その積層体の温度を上昇させ、これに伴い上昇する交流抵抗(電極間の交流抵抗)に基づいて、シャットダウン温度とメルトダウン温度が導出される。第二実施形態では、交流抵抗が初めて所定の基準値(例えば、1000Ω)を超えたときの温度をシャットダウン温度とし、その後に更に加熱を続けて上記の基準値を超えていた交流抵抗が上記の基準値(例えば、1000Ω)以下に下がったときの温度をメルトダウン温度と設定している。
積層体の加圧には、油圧ジャッキを用いることができるが、これに限られず、油圧ジャッキ以外の既知の加圧手段を用いてよい。また、積層体の加熱には、アルミヒーターを用いることができるが、これに限られず、アルミヒーター以外の既知の加熱手段を用いてよい。
上記のシャットダウン温度とメルトダウン温度は、実施例欄に記載の手法により測定でき、また、A層における、構成又は製造方法を調整することで制御できる。
【0036】
(150℃での熱収縮率)
A層において、その架橋構造の形成後における150℃での熱収縮率(T2)は、架橋構造の形成前における150℃での熱収縮率(T1)の0.02倍以上0.91倍以下であることが好ましい。言い換えれば、架橋構造の形成前における150℃での熱収縮率(T1)に対する、架橋構造の形成後における150℃での熱収縮率(T2)の比(T2/T1)が、0.02以上0.91以下であることが好ましい。ここでの熱収縮率としては、A層の機械方向(MD)の熱収縮率と、A層の幅方向(TD)の熱収縮率とのうち、大きい方の値を用いる。
A層が、シラン変性ポリオレフィンによる架橋構造を形成可能であるからこそ、その架橋前後での熱収縮率の変化に着目できるようになる。
【0037】
比(T2/T1)が0.02以上であれば、短絡の発生を有効に抑制でき、これにより、蓄電デバイス全体の温度上昇、及びそれに伴い生じ得る発煙、更には発火を確実に防止できる。他方、比(T2/T1)が0.91以下であれば、A層での架橋反応を十分に進行させることができたと判断できる。つまり、比(T2/T1)が上記の範囲内であれば、蓄電デバイスにおける、サイクル特性、及び安全性の向上を図ることができる、蓄電デバイス用セパレータを提供することができる。
従って、上記の効果の観点から、比(T2/T1)は、好ましくは0.03以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.07以上である。他方、比(T2/T1)は、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.5以下、更に好ましくは0.4以下である。
【0038】
なお、架橋構造の形成前における150℃での熱収縮率(T1)は、70%以下が好ましく、60%以下がより好ましい。
また、架橋構造の形成後における150℃での熱収縮率(T2)は、60%以下が好ましく、50%以下がより好ましい。架橋構造の形成により、架橋構造の形成前と比べて上記の熱収縮率が減少する傾向にあるため、熱収縮率(T2)は、一般に、熱収縮率(T1)よりも小さい値である。
【0039】
150℃での熱収縮率は、実施例欄に記載の手法により測定でき、また、A層における、構成又は製造方法を調整することで制御できる。
【0040】
第一及び第二実施形態に係るセパレータは、互換可能であるか、又は互いに組み合わせることができる。第一及び第二の実施形態に係るセパレータは、所望により、微多孔膜及び無機多孔質層以外の層を含んでよい。第一及び第二実施形態に係るセパレータの構成要素について以下に説明する。
【0041】
[微多孔膜]
微多孔膜は、ポリオレフィン又は変性ポリオレフィンで形成されることができる。
【0042】
微多孔膜は、シラン変性ポリオレフィンを含み、所望により、その他のポリオレフィンも含んでよい。微多孔膜は、シラン変性ポリオレフィンのシラン架橋性のために、セパレータの製造プロセスにおいて架橋反応を行うことが可能となる。
【0043】
微多孔膜に含まれるポリオレフィンとしては、特に限定されないが、例えば、エチレン若しくはプロピレンのホモ重合体、又はエチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、及びノルボルネンから成る群より選ばれる少なくとも2つのモノマーから形成される共重合体などが挙げられる。これらの中でも、孔が閉塞せずに、より高温で熱固定(「HS」と略記することがある)が行えるという観点から、高密度ポリエチレン(ホモポリマー)、又は低密度ポリエチレンが好ましく、高密度ポリエチレン(ホモポリマー)がより好ましい。なお、ポリオレフィンは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0044】
微多孔膜は、耐酸化還元劣化及び緻密で均一な多孔体構造の観点から、原料として、シラン変性ポリオレフィンと超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)の両方を用いて製造されることが好ましい。一般に、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)の重量平均分子量は、1,000,000以上であることが知られている。より好ましくは、微多孔膜又はセパレータの製造において、シラン変性ポリオレフィンとUHMWPEの重量比(シラン変性ポリオレフィン重量/UHMWPE重量)が、0.05/0.95~0.40/0.60である。
【0045】
微多孔膜中に含まれるポリオレフィンの含有量は、50重量%以上100重量%以下が好ましく、70重量%以上100重量%以下が好ましく、80重量%以上100重量%以下が好ましい。また、微多孔膜は、重量平均分子量が100,000以上1,000,000未満のポリオレフィンを含む(ポリオレフィン全体に対して、好ましくは40重量%以上、より好ましくは80重量%以上の割合で含む)ことが好ましい。ポリオレフィンの重量平均分子量は、より好ましくは120,000以上、950,000未満、さらに好ましくは130,000以上、930,000未満である。重量平均分子量が100,000以上、1,000,000未満のポリオレフィンを用いることにより、蓄電デバイスの加熱試験等において早期にポリマーの収縮の緩和が起き、特に加熱安全性試験において安全性を保ち易い傾向にある。微多孔膜の重量平均分子量を1,000,000未満に調整することで、メルトフラクチャーと呼ばれる押出時の成形不良(膜模様)を抑制することができる。他方、微多孔膜の重量平均分子量を100,000以上に調整することで、微多孔膜をコア(巻芯)に捲回した時の凹みの転写を抑制することができる。
【0046】
微多孔膜は、無機多孔質層の除去時かつ未架橋処理時での粘度平均分子量は、セパレータのロール搬送中において、摩擦せん断によるポリマー粉が発生しないという視点からは、好ましくは100,000以上1,200,000以下であり、より好ましくは150,000以上800,000以下である。
【0047】
微多孔膜の膜厚は、好ましくは1.0μm以上であり、より好ましくは2.0μm以上であり、さらに好ましくは3.0μm以上、4.0μm以上、又は4.5μm以上である。微多孔膜の膜厚が1.0μm以上であることにより、膜強度がより向上する傾向にある。また、微多孔膜の膜厚は、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは80μm以下、22μm以下又は19μm以下である。微多孔膜の膜厚が500μm以下であることにより、イオン透過性がより向上する傾向にある。微多孔膜の膜厚は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0048】
[第1多孔質層(A層)]
A層は、シラン変性ポリオレフィンを含み、架橋構造を有する。A層は、酸化還元に対する耐劣化性を確保し、また、緻密で均一な多孔体構造を確保する観点から、該シラン変性ポリオレフィンとは異なるポリオレフィンとして、更にポリエチレンを含むことが好ましい。なお、A層は、シラン変性ポリオレフィン、及びポリエチレン以外の成分を含んでよい。
【0049】
A層においてシラン変性ポリオレフィンを構成するポリオレフィンとしては、エチレン又はプロピレンのホモポリマー;エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、及びノルボルネンから成る群から選択される少なくとも2種のモノマーから形成されるコポリマー等が挙げられる。中でも、ポリオレフィンとしては、孔の閉塞を回避しながらより高温で熱固定を可能にする観点から、エチレンのホモポリマー(ポリエチレン)が好ましく、高密度ポリエチレン、及び/又は低密度ポリエチレンがより好ましく、高密度ポリエチレンが更に好ましい。ポリオレフィンは、1種単独を用いて又は2種以上を併用してよい。
【0050】
A層は、本発明による効果が過度に阻害されない範囲内で、シラン変性ポリオレフィン、及びポリエチレンのいずれにも該当しないポリマー(他のポリマー)を含んでよい。
A層の全体の重量平均分子量は、好ましくは100,000以上1,200,000以下、より好ましくは150,000以上800,000以下である。
【0051】
(A層の厚み)
A層の厚み(TA)は、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、更に好ましくは3μm以上である。厚み(TA)が1μm以上であれば、膜強度がより向上する傾向にある。他方、厚み(TA)は、好ましくは500μm以下、より好ましくは100μm以下、更に好ましくは80μm以下である。厚み(TA)が500μm以下であれば、イオン透過性がより向上する傾向にある。なお、厚み(TA)は、例えば、1.00μm以上、2.00μm以上又は3.00μm以上に設定してよい。
【0052】
セパレータがLIB用セパレータである場合、厚み(TA)は、好ましくは22μm未満、より好ましくは21μm以下、更に好ましくは20.5μm以下である。セパレータがLIB用セパレータである場合、厚み(TA)の上限を、13μm未満又は8.5μm以下に設定してよい。厚み(TA)が25μm以下であれば、透過性がより向上する傾向にある。なお、厚み(TA)は、例えば、22.00μm未満、21.00μm以下、20.00μm以下、13.00μm未満又は8.50以下に設定してよい。厚み(TA)の下限は、上記と同様でよい。
厚み(TA)は、実施例欄に記載の方法により測定でき、また、A層の延伸倍率の変更等により制御できる。
【0053】
A層が単層の場合、そのA層の厚みが、厚み(TA)として扱われる。A層が複数層の場合、その複数層のA層の合計厚みが、厚み(TA)として扱われる。
【0054】
熱機械分析(TMA)により測定される、A層の破膜温度は、180℃以上220℃以下であることが好ましい。予期しない暴走反応によって蓄電デバイスが異常に発熱しても、セパレータのシャットダウン機能により、Liイオンの移動、また、それに伴う蓄電デバイス内又は蓄電デバイス外の放電が停止されることが期待されている。その後、冷媒により蓄電デバイス全体が冷却され、安全性が確保されることが期待されている。他方、A層の破膜温度が上記の範囲内にあることで、蓄電デバイス全体が十分に冷却されない場合でも、また、万が一、超高温領域に達する場合でも、セパレータが融解破膜して両電極へ染込むことで、活物質をコーティングでき、これにより、更なる発熱を抑制し易くなる。
A層の破膜温度は、実施例欄に記載の方法により測定でき、また、A層の延伸温度、及び/又は延伸倍率の変更等により制御可能である。
【0055】
[微多孔膜又はA層の気孔率]
微多孔膜又はA層の気孔率としては、好ましくは20%以上、より好ましくは25%以上、更に好ましくは28%以上、30%以上、32%以上又は35%以上である。気孔率が20%以上であれば、Liイオンの急速な移動に対する追従性がより向上する傾向にある。他方、気孔率は、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、更に好ましくは60%以下である。気孔率が90%以下であれば、膜強度がより向上し、自己放電がより抑制される傾向にある。気孔率は、実施例欄に記載の方法により測定でき、また、製造プロセスにおいて延伸温度及び/又は延伸倍率の変更等により制御可能である。
【0056】
[微多孔膜又はA層の透気度]
微多孔膜又はA層の透気度としては、好ましくは1秒/100cm3以上、より好ましくは50秒/100cm3以上、更に好ましくは55秒/100cm3以上、よりさらに好ましくは70秒以上、90秒以上、又は110秒以上である。透気度が1秒/100cm3以上であれば、膜厚と気孔率と平均孔径のバランスがより向上する傾向にある。他方、透気度は、好ましくは400秒/100cm3以下、より好ましくは300秒以下/100cm3、更に好ましくは270秒/100cm3以下である。透気度が400秒/100cm3以下であれば、イオン透過性がより向上する傾向にある。透気度は、実施例欄に記載の方法により測定でき、また、製造プロセスにおいて延伸温度、及び/又は延伸倍率の変更等により制御可能である。
【0057】
[微多孔膜又はA層の突刺強度]
微多孔膜又はA層の突刺強度としては、好ましくは200gf/20μm以上、より好ましくは300gf/20μm以上である。突刺強度が200gf/20μm以上であれば、セパレータと電極との積層体を捲回するとき、活物質等が仮に脱落したとしても、その脱落した活物質等による破膜を抑制し易くなる。また、充放電に伴う電極の膨張収縮によって短絡する可能性を低減し易くなる。他方、突刺強度は、好ましくは4000gf/20μm以下、より好ましくは3800gf/20μm以下である。突刺強度が3500gf/20μm以下であれば、加熱時に熱収縮を低減し易くなる。突刺強度は、実施例欄に記載の方法により測定でき、また、製造プロセスにおいて延伸温度、及び/又は延伸倍率の変更等により制御可能である。
【0058】
[微多孔膜又はA層の引張強度]
微多孔膜又はA層の引張強度は、MD(膜又はA層の長手方向、機械方向又は流れ方向)及びTD(MDと直交する方向、膜又はA層の幅方向)の両方向において、それぞれ、好ましくは1000kgf/cm2以上であり、より好ましくは1050kgf/cm2以上であり、さらに好ましくは1100kgf/cm2以上である。引張強度が1000kgf/cm2以上であることにより、スリット又は蓄電デバイス捲回時での破断がより抑制されるか、蓄電デバイス内の異物等による短絡がより抑制される傾向にある。他方、微多孔膜又はA層の引張強度は、好ましくは5000kgf/cm2以下であり、より好ましくは4500kgf/cm2以下であり、さらに好ましくは4000kgf/cm2以下である。引張強度が5000kgf/cm2以下であると、加熱試験時に微多孔膜又はA層が早期に緩和して収縮力が弱まり、結果として安全性が高まる傾向にある。
【0059】
[微多孔膜又はA層の引張弾性率]
微多孔膜又はA層の引張弾性率は、MD及びTDの両方向において、それぞれ、好ましくは120N/cm以下であり、より好ましくは100N/cm以下であり、さらに好ましくは90N/cm以下である。120N/cm以下の引張弾性率は、リチウムイオン二次電池用セパレータとしては極度に配向していないことを示しており、加熱試験等において、例えばポリエチレンなどの閉塞剤が溶融し収縮する際に、早期にポリエチレンなどが応力緩和を起こし、これによって電池内でのセパレータの収縮が抑えられ、電極同士の短絡を防ぎ易くなる傾向にある(すなわち、セパレータの、加熱時の安全性を向上し得る)。このような低引張弾性率は、微多孔膜又はA層を形成するポリオレフィン中に重量平均分子量が500,000以下のポリエチレンを含むことによって達成し易い。他方、引張弾性率の下限値は、好ましくは10N/cm以上であり、より好ましくは30N/cm以上であり、さらに好ましくは50N/cm以上である。引張弾性率は、製造プロセスにおいて延伸の程度を調整したり、必要に応じて延伸後に緩和を行ったりすることにより適宜調整することができる。
【0060】
<シラン変性ポリオレフィン>
シラン変性ポリオレフィンは、主鎖がポリオレフィンであり、その主鎖にアルコキシシリル基をグラフトする構造で構成されている。シラン変性ポリオレフィンは、シラン非変性ポリオレフィンの主鎖に、アルコキシシリル基をグラフトすることで得ることができる。
アルコキシシリル基は、水による加水分解反応を経てシラノール基へ変換され、架橋反応を起こし、シロキサン結合を形成すると推定されている(下記式参照;T1構造、T2構造、及びT3構造の割合は任意である)。アルコキシシリル基に置換したアルコキシドとしては、メトキシド、エトキシド、ブトキシド等が挙げられる。下記式中、Rとしては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル等が挙げられる。
【化1】
【0061】
主鎖とグラフトとの間は、共有結合で繋がれている。かかる共有結合を形成する構造としては、アルキル、エーテル、グリコール、エステル等が挙げられる。シラン変性ポリポリオレフィンは、架橋反応を行う前の段階では、シラノールユニットが主鎖エチレンユニットに対して2%以下の変性量である。
【0062】
好ましいシラングラフト変性ポリオレフィンは、密度が0.90~0.96g/cm3、且つ190℃でのメルトフローレート(MFR)が0.2~5g/分である。
【0063】
シラン変性ポリオレフィンの量は、本発明による効果が良好に奏される観点から、微多孔膜又はA層の全量を基準として、好ましくは0.5質量%以上又は3質量%以上、より好ましくは4質量%以上、更に好ましくは5質量%以上又は6質量%以上である。シラン変性ポリオレフィンの量は、蓄電デバイスのサイクル性及び安全性の観点から、微多孔膜の全量を基準として、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは38質量%以下である。また、シラン変性ポリオレフィンの量は、A層の全量を基準として、30質量%以上又は50質量%以上にしてよく、更には、100質量%にしてよい。
【0064】
微多孔膜又はA層中の架橋構造は、酸、塩基、又は膨潤によって形成されることが好ましい。
すなわち、シラン変性ポリオレフィンを含む被処理物を、塩基(塩基溶液)又は酸(酸溶液)に浸漬させ、シラン脱水縮合反応を行ってオリゴシロキサン結合を形成した架橋構造が、微多孔膜又はA層中の架橋構造であることが好ましい。この場合の架橋構造は、微多孔膜、A層又はセパレータの製造プロセスにおいて架橋反応を積極的に促進させて得られる架橋構造である。
【0065】
(ポリエチレン)
本明細書において、シラン変性ポリオレフィンに加えて更に含有可能なポリエチレン(微多孔膜又はA層中、シラン変性ポリオレフィンとは異なるポリオレフィンとして更に含まれるポリエチレン)は、その重量平均分子量が100,000以上10,000,000以下のホモエチレン重合高分子、アルカンユニットを含まれるコポリマー共重合高分子であるポリエチレンを意味する。
【0066】
微多孔膜又はA層が、シラン変性ポリオレフィンとは異なるポリオレフィンとして更にポリエチレンを含む場合、その含有量は、シラン変性ポリオレフィンとポリエチレンの合計量を基準として、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上である。ポリエチレンの含有量が20質量%以上であれば、酸化還元に対する耐劣化性を確保し易くなり、また、緻密で均一な多孔体構造を確保できる傾向にある。
他方、ポリエチレンの含有量は、好ましくは97質量%以下、より好ましくは96質量%以下、更に好ましくは95質量%以下である。ポリエチレンの含有量が97質量%以下であれば、微多孔膜又はA層におけるシラン変性ポリオレフィンの含有量を確保できる。
【0067】
(セパレータに含まれるシラン変性ポリオレフィンの検出方法)
セパレータに含まれるシラン変性ポリオレフィンが架橋した状態では、有機溶剤に対して、不溶であるか、又は溶解度が不足するため、セパレータから直接的にシラン変性ポリオレフィンの含有を測定することが困難な場合がある。その場合、サンプルの前処理として、副反応が起こらないオルトギ酸メチルを用いて、シロキサン結合をメトキシシラノールへ分解した後、溶液NMR測定を行うことによって、セパレータに含まれるシラン変性ポリオレフィンを検出することができる。前処理の実験は、特許第3529854号公報及び特許第3529858号公報を参照して行われることができる。
【0068】
具体的には、セパレータ製造に用いる原料としてのシラン変性ポリオレフィンの1H又は13CのNMRの同定を、セパレータに含まれるシラン変性ポリオレフィンの検出方法に活用することができる。1H及び13CのNMRの測定手法の一例を以下に説明する。
【0069】
(1HのNMR測定)
試料をo-ジクロロベンゼン-d4に140℃で溶解し、プロトン共鳴周波数が600MHzの1H-NMRスペクトルを得る。1H-NMRの測定条件は、下記のとおりである。
装置:Bruker社製 AVANCE NEO 600
試料管直径:5mmφ
溶媒:o-ジクロロベンゼン-d4
測定温度:130℃
パルス角:30°
パルス待ち時間:1sec
積算回数:1000回以上
試料濃度:1 wt/vol%
【0070】
(13CのNMR測定)
試料をo-ジクロロベンゼン-d4に140℃で溶解し、13C-NMRスペクトルを得る。13C-NMRの測定条件は下記のとおりである。
装置:Bruker社製 AVANCE NEO 600
試料管直径:5mmφ
溶媒:o-ジクロロベンゼン-d4
測定温度:130℃
パルス角:30°
パルス待ち時間:5sec
積算回数:10000回以上
試料濃度:10 wt/vol%
【0071】
図4及び5は、2種類のポリオレフィンを用いたシラン変性ポリオレフィン原料1及び2の
1H及び
13C-NMRチャートであり、かつ原料1及び2は、それぞれのメルトインデックス(MI)、C
3グラフト量、C
4グラフト量、及び/又はシラノール変性量が異なる。
【0072】
図4の
1H及び
13C-NMR測定条件は以下のとおりである。
(
1H-NMR測定条件)
装置: Bruker Avance NEO 600
観測核:
1H
観測周波数: 600MHz
パルスプログラム: zg30
パルス待ち時間: 1sec
積算回数: 1024回
測定温度: 130℃
化学シフト基準: 7.219ppm(o-DCBz)
溶媒: o-dichlorobenzene-d4
試料濃度: 1wt/vol%
試料管: 5mmφ
(
13C-NMR測定条件)
装置: Bruker Avance NEO 600
観測核:
13C
観測周波数: 150.91MHz
パルスプログラム: zgpg30
パルス待ち時間: 5sec
積算回数: 24000回、又は12800回
測定温度: 130℃
化学シフト基準: 132.39ppm(o-DCBz)
溶媒: o-dichlorobenzene-d4
試料濃度: 10wt/vol%
試料管: 5mmφ
【0073】
図5の
1H及び
13C-NMR測定条件は以下のとおりである。
(
1H-NMR測定条件)
装置: Bruker Avance NEO 600
観測核:
1H
観測周波数: 600MHz
パルスプログラム: zg30
パルス待ち時間: 1sec
積算回数: 1024回
測定温度: 130℃
化学シフト基準: 7.219ppm(o-DCBz)
溶媒: o-dichlorobenzene-d4
試料濃度: 1wt/vol%
試料管: 5mmφ
(
13C-NMR測定条件)
装置: Bruker Avance NEO 600
観測核:
13C
観測周波数: 150.91MHz
パルスプログラム: zgpg30
パルス待ち時間: 5sec
積算回数: 12800回
測定温度: 130℃
化学シフト基準: 132.39ppm(o-DCBz)
溶媒: o-dichlorobenzene-d4
試料濃度: 10wt/vol%
試料管: 5mmφ
【0074】
図6は、
図4に示されるシラン変性ポリオレフィン原料1を用いて作製されたセパレータの架橋前状態の
1H及び
13C-NMRチャートである。
図6の
1H及び
13C-NMR測定条件は以下のとおりである。
(
1H-NMR測定条件)
装置: Bruker Avance NEO 600
観測核:
1H
観測周波数: 600MHz
パルスプログラム: zg30
パルス待ち時間: 1sec
積算回数: 1024回
測定温度: 130℃
化学シフト基準: 7.219ppm(o-DCBz)
溶媒: o-dichlorobenzene-d4
試料濃度: 1wt/vol%
試料管: 5mmφ
(
13C-NMR測定条件)
装置: Bruker Avance NEO 600
観測核:
13C
観測周波数: 150.91MHz
パルスプログラム: zgpg30
パルス待ち時間: 5 sec
積算回数: 24000回、又は12800回
測定温度: 130℃
化学シフト基準: 132.39 ppm(o-DCBz)
溶媒: o-dichlorobenzene-d4
試料濃度: 10wt/vol%
試料管: 5mmφ
【0075】
また、架橋状態のセパレータについては、上記で説明された前処理の後に、
図6と同様なNMRにより測定可能である(図示せず)。
【0076】
図4~6に示されるとおり、
1H及び/又は
13CのNMR測定により、ポリオレフィン原料においては、シラン変性ポリオレフィン中のシランユニット変性量、ポリオレフィンのアルキル基変性量などを確認することができ、そしてセパレータ中では、シラン変性ポリオレフィンの含有の同定(-CH
2-Si:
1H,0.69ppm,t;
13C,6.11ppm,s)が可能である。
【0077】
[微多孔膜と無機多孔質層との組み合わせ]
シラン変性ポリオレフィンを含む微多孔膜と無機多孔質層との組み合わせが、150℃より低温でのシャットダウン機能と比較的高温での破膜性を両立し、かつ蓄電デバイスのサイクル特性と電池釘刺安全性を向上させる傾向にある。微多孔膜中のシラン変性ポリオレフィンは、シラン架橋性のため、シラン架橋が起こると微多孔膜中の樹脂の粘度を高めることがあるので、セパレータを含む蓄電デバイスの異常高温時に、複数の電極間に圧縮力が加わると、架橋した高粘度の樹脂が無機層へ流れ込み難く(すなわち、一体化し難く)、電極間のクリアランスを十分に確保でき、電池ショートを抑制できることが推測される。
【0078】
[無機多孔質層]
無機多孔質層は、無機粒子及び樹脂バインダを含む層であり、所望により、無機粒子をバインダ樹脂中に分散させる分散剤をさらに含んでよい。
【0079】
無機多孔質層の厚さは、セパレータのイオン透過性及び蓄電デバイスの充放電容量又はサイクル安定性の観点から、0.5μm~10μm、0.5μm~7μm、0.5μm~5μm、又は0.5μm~4μmであることが好ましい。無機多孔質層の厚さは実施例に記載の方法により決定されることができる。
【0080】
[第2多孔質層(B層)]
B層は、無機粒子を含む。B層は、樹脂バインダを更に含むことができる。B層が無機粒子及び樹脂バインダを含む場合には、B層は、上記で説明された無機多孔質層であることができる。なお、B層は、無機粒子、及び樹脂バインダ以外の成分を含んでよい。
【0081】
(B層の厚み)
B層の厚み(TB)は、好ましくは0.2μm以上、より好ましくは0.5μm以上である。厚み(TB)が0.5μm以上であれば、機械強度がより向上する傾向にある。他方、厚み(TB)は、好ましくは22μm未満、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは15μm以下である。厚み(TB)が30μm以下であれば、蓄電デバイスにおけるセパレータの占有体積が減るため、その蓄電デバイスの高容量化の点において有利となる傾向がある。また、セパレータの透気度の過度な上昇を防止する観点からも好ましい。なお、厚み(TB)は、例えば、0.50μm以上、0.80μm以上又は1.00μm以上に設定してよく、また、22.00μm未満、20.00μm以下又は15.00μm以下に設定してよい。
厚み(TB)は、実施例欄に記載の方法により測定でき、また、B層を形成するための塗工液(スラリー)の塗工量の変更等により制御できる。
【0082】
B層が単層の場合、そのB層の厚みが、上記の「厚み(TB)」として扱われる。B層が単層の場合、その複数層のB層の合計厚みが、上記の「厚み(TB)」として扱われる。
また、B層が、A層の一方面と他方面の両面に配される場合、その一方面に配されるB層と、その他方面に配されるB層と合計厚みが、上記の「厚み(TB)」として扱われる。
【0083】
(無機粒子)
無機粒子としては、例えば、アルミナ(Al2O3)、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、及び酸化鉄等の無機酸化物(酸化物系セラミックス);窒化ケイ素、窒化チタン、及び窒化ホウ素等の無機窒化物(窒化物系セラミックス);シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム(AlO(OH))、チタン酸カリウム、タルク、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、及びケイ砂等のセラミックス;並びにガラス繊維が挙げられる。これらは1種単独を用いて又は2種以上を併用してよい。
【0084】
無機粒子の量は、無機多孔質層又はB層の全量を基準として、耐熱性を確保する観点から、好ましくは5質量%以上又は20質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。無機粒子の量は、無機多孔質層又はB層の全量を基準として、50質量%以上、80質量%超え又は85質量%以上に設定してよい。他方、無機粒子の量は、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99.5質量%以下又は99質量%以下である。
なお、無機粒子の量は、例えば、20.00質量%以上、30.00質量%以上、50.00質量%以上、80.00質量%超え又は85.00質量%以上に設定してよく、他方、99.90質量%以下又は99.50質量%に設定してよい。
【0085】
無機粒子の形状としては、板状、鱗片状、針状、柱状、球状、多面体状、紡錘状、及び塊状(ブロック状)が挙げられる。これらの形状を有する無機粒子を複数組み合わせて用いてよい。
【0086】
無機粒子の数平均粒子径は、例えば、0.01μm以上、0.1μm以上又は0.3μm以上であり、0.5μm以上あることが好ましい。他方、この数平均粒子径は、例えば、10.0μm以下、9.0μm以下又は6.0μm以下であり、2.5μm以下であることが好ましく、2.0μm以下であることがより好ましく、1.5μm以下であることが更に好ましい。無機粒子の数平均粒径を上記範囲内に調整することは、短絡時の安全性を向上させるという観点から好ましい。無機粒子の数平均粒子径を調整する方法としては、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等の適宜の粉砕装置を用い、無機粒子を粉砕する方法が挙げられる。
【0087】
無機粒子の粒度分布については、最小粒径が、0.02μm以上であることが好ましく、0.05μm以上がより好ましく、0.1μm以上がさらに好ましい。最大粒径は、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、7μm以下が更に好ましい。また、最大粒径/平均粒径の比率は、50以下が好ましく、30以下がより好ましく、20以下が更に好ましい。無機粒子の粒度分布を上記範囲内に調整することは、高温での熱収縮を抑制する観点から好ましい。また、最大粒径と最小粒径の間に複数の粒径ピークを有してもよい。なお、無機粒子の粒度分布を調整する方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル等を用いて無機フィラーを粉砕し、所望の粒度分布に調整する方法、複数の粒径分布を有する複数のフィラーを調製した後に、それらをブレンドする方法等を挙げることができる。
【0088】
(樹脂バインダ)
樹脂バインダは、無機粒子同士を結着させる樹脂を含む。樹脂バインダのガラス転移温度(Tg)は、セパレータの製造プロセス、又は蓄電デバイスの製造プロセス若しくは充放電プロセスにおいて、無機粒子との結着性及び無機多孔質層又はB層の安定性を確保するという観点から、好ましくは-50℃~100℃、より好ましくは-35℃~95℃である。
【0089】
ガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)で得られるDSC曲線から決定される。具体的には、DSC曲線における低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の変曲点における接線との交点の温度を、ガラス転移温度として採用することができる。より詳細には、実施例に記載の方法に準じて決定すればよい。また、「ガラス転移」はDSCにおいて試験片であるポリマーの状態変化に伴う熱量変化が吸熱側に生じたものを指す。このような熱量変化はDSC曲線において階段状変化の形状として観測される。「階段状変化」とは、DSC曲線において、曲線がそれまでの低温側のベースラインから離れ新たな高温側のベースラインに移行するまでの部分を示す。なお、階段状変化とピークとが組み合わされたものも階段状変化に含まれることとする。更に、「変曲点」とは、階段状変化部分のDSC曲線の勾配が最大になるような点を示す。また、階段状変化部分において、上側を発熱側とした場合に、上に凸の曲線が下に凸の曲線に変わる点と表現することもできる。「ピーク」とは、DSC曲線において、曲線が低温側のベースラインから離れてから再度同じベースラインに戻るまでの部分を示す。「ベースライン」とは、試験片に転移及び反応を生じない温度領域のDSC曲線を示す。
【0090】
樹脂バインダとしては、例えば、以下の1)~7)が挙げられる。これらは、1種単独を用いて又は2種以上を併用してよい。
1)ポリオレフィン:例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンラバー、及びこれらの変性体;
2)共役ジエン系重合体:例えば、スチレン-ブタジエン共重合体、及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、及びその水素化物;
3)アクリル系重合体:例えば、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、及びアクリロニトリル-アクリル酸エステル共重合体;
4)ポリビニルアルコール系樹脂:例えば、ポリビニルアルコール、及びポリ酢酸ビニル;
5)含フッ素樹脂:例えば、PVdF、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、及びエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体;
6)セルロース誘導体:例えば、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロース;並びに
7)融点、及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂あるいは融点を有しないが分解温度が200℃以上のポリマー:例えば、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミドl、ポリアミドイミド、ポリアミド、及びポリエステル。
【0091】
これらの種類の樹脂バインダは、所望の単量体を原料として公知の乳化重合又は溶液重合等の製造方法に沿って得ることができる。重合において、重合温度、重合時の圧力、単量体の添加方法、使用する添加剤(重合開始剤、分子量調整剤、及びpH調整剤等)は限定されない。
【0092】
樹脂バインダの量は、無機多孔質層又はB層の全量を基準として、例えば、0.5質量%以上又は1.0質量%以上であり、他方、例えば、50質量%以下又は30質量%以下である。また、上記のとおり、B層については樹脂バインダが任意成分のため、B層に含まれる樹脂バインダの量は、B層の全量を基準として、20質量%未満、15質量%以下又は0質量%にしてよい。B層に含まれる樹脂バインダの量が減れば、その分、B層に上記の無機粒子を含有せしめる余地を増やすことができる。
【0093】
(分散剤)
分散剤は、無機多孔質層又はB層を形成するためのスラリー中で無機粒子表面に吸着し、静電反発などにより無機粒子を安定化させるものであり、例えば、ポリカルボン酸塩、スルホン酸塩、ポリオキシエーテル、界面活性剤などでよい。無機多孔質層又はB層には、上記した成分以外にも、その効果の範囲内において、通常、水系塗料等に添加配合される他の成分を更に含有してもよい。このような他の成分としては、特に限定されず、例えば、増粘剤、成膜助剤、可塑剤、架橋剤、凍結防止剤、消泡剤、染料、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤等が挙げられる。これらの他の成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0094】
(添加剤)
微多孔膜、無機多孔質層、A層、及び/又はB層は、必要により、既知の添加剤を含むことができる。添加剤としては、例えば、有機金属含有触媒(脱水縮合触媒);可塑剤;フェノール系、リン系、及びイオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;増粘剤;成膜助剤;架橋剤;凍結防止剤;消泡剤;防腐剤;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;防曇剤;染料;着色顔料が挙げられる。
また、B層は、架橋剤を含んでよい。かかる架橋剤は、上記の無機粒子と反応性を有する作用基を含んでよい。
【0095】
<セパレータの物性>
セパレータが比較的高容量のリチウムイオン二次電池に使用される場合、セパレータ全体の膜厚は、好ましくは25μm以下であり、より好ましくは22μm以下又は20μm以下であり、さらに好ましくは18μm以下であり、特に好ましくは16μm以下である。セパレータの膜厚が25μm以下であることにより、イオン透過性がより向上する傾向にある。セパレータ全体の膜厚の下限値は、例えば、1.0μm以上、3.0μm以上、4.0μm以上、6.0μm以上、又は7.5μm以上でよい。
【0096】
セパレータの透気度は、50秒/100cm3~400秒/100cm3であることが好ましく、より好ましくは75秒/100cm3~275秒/100cm3、さらに好ましくは100秒/100cm3~200秒/100cm3である。セパレータは、50秒/100cm3以上の透気度であれば適度な機械強度を有し、400秒/100cm3の透気度であれば透過性の観点から電池特性が向上するので好ましい。
【0097】
<蓄電デバイス>
上記で説明されたセパレータは、蓄電デバイスにおいて使用されることができる。蓄電デバイスは、複数の電極間に配置された第一の実施形態に係るセパレータと、電解液とを備える。電極は、例えば、正極、負極などであり、セパレータは、正負極間に配置されることが好ましい。蓄電デバイスとしては、具体的には、リチウム電池、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、ナトリウム二次電池、ナトリウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池、マグネシウムイオン二次電池、カルシウム二次電池、カルシウムイオン二次電池、アルミニウム二次電池、アルミニウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、レドックスフロー電池、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池、亜鉛空気電池などが挙げられる。これらの中でも、実用性の観点から、リチウム電池、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、又はリチウムイオンキャパシタが好ましく、リチウム電池又はリチウムイオン二次電池がより好ましい。
【0098】
<リチウムイオン二次電池>
リチウムイオン二次電池は、正極として、コバルト酸リチウム、リチウムコバルト複合酸化物等のリチウム遷移金属酸化物、負極として、グラファイト、黒鉛等の炭素材料、そして電解液としてLiPF6等のリチウム塩を含む有機溶媒を使用した蓄電池である。セパレータの製造方法について上記で説明された電解液をリチウムイオン二次電池にも使用してよい。リチウムイオン二次電池の充電・放電の時には、イオン化したリチウムが電極間を往復する。また、電極間の接触を抑制しながら、前記イオン化したリチウムが、電極間の移動を比較的高速に行う必要があるため、電極間にセパレータが配置される。
【0099】
<蓄電デバイス用セパレータの製造方法>
本発明の別の態様は、蓄電デバイス用セパレータの製造方法である。セパレータの製造方法は、例えば、微多孔膜又はA層の製造工程と、所望により、微多孔膜への無機多孔質層の製造工程、又はA層へのB層の製造工程とを含むことができる。セパレータの製造方法において使用される材料は、特に言及されない限り、第一又は第二実施形態において説明されたものでよい。
【0100】
<第三実施形態>
第三実施形態に係る微多孔膜の製造方法は、以下の工程:
(1)シート成形工程;
(2)延伸工程;
(3)多孔体形成工程;
(4)熱処理工程;
(5)親和性処理工程;
(6)架橋処理工程;及び
(7)水洗乾燥工程
を含む。工程(1)~(7)を行うことにより、上記で説明されたA層を形成することもできる。所望により、第三実施形態に係る微多孔膜の製造方法は、シート成形工程(1)前の混錬工程、及び/又は水洗乾燥工程(7)後の捲回工程を含んでよい。
【0101】
セパレータの製造方法は、所望により、工程(1)~(7)に加えて、以下の工程:
(8A)シラン架橋された微多孔膜への無機多孔質層の塗工工程;
を含むことができる。工程(1)~(7)によりシラン架橋が施された微多孔膜に対して工程(8A)で無機多孔質層の塗工を行うため、セパレータ製造プロセスにおいて微多孔膜への塗工性と微多孔膜の濡れ性が向上する傾向にある。
【0102】
〔混練工程〕
混練工程は、シラングラフト変性ポリオレフィンと、その他のポリオレフィンとを混練して混練物を得る工程である。混錬工程中に、ポリエチレンをシラングラフト変性ポリオレフィンと併用することが好ましい。シラングラフト変性ポリオレフィン、シラン未変性ポリエチレン、及びそれら以外のポリオレフィンは、第一実施形態について説明されたものでよい。所望により、混錬工程中に、シラングラフト変性ポリオレフィンと可塑剤とを混錬してよい。
【0103】
また、混錬工程では、重量平均分子量が1,000,000未満のポリオレフィンを含む(ポリオレフィン全体に対し、好ましくは40質量%以上、より好ましくは80質量%以上の割合で含む)ポリオレフィン組成物を用いることが好ましい。重量平均分子量が1,000,000未満のポリオレフィンを用いることにより、蓄電デバイスの加熱試験等において早期にポリマーの収縮の緩和が起き、特に加熱安全性試験において安全性を保ち易い傾向にある。なお、重量平均分子量が1,000,000未満のポリオレフィンを用いる場合を、1,000,000以上のポリオレフィンを用いる場合と比較すると、得られる微多孔膜の厚み方向の弾性率が小さくなる傾向にあるため、比較的にコアの凹凸が転写され易い微多孔膜が得られる。
【0104】
混練工程において用いられるポリオレフィン組成物には、脱水縮合触媒、可塑剤、ステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、着色顔料等の公知の添加剤を含有させてよい。
【0105】
(脱水縮合触媒)
アルゴキシリル基は水による加水分解反応を経て、シロキサン結合を形成する。しかしながら、その反応速度が遅いため、多くの場合は、有機金属含有触媒を用いて縮合反応を促進できる。有機金属含有触媒の金属は、例えば、スカンジウム、バナジウム、銅、亜鉛、ジルコニウム、パラジウム、ガリウム、スズ、チタン、鉄、ニッケル及び鉛から成る群から選択される少なくとも1つでよい。有機金属含有触媒は特にジ-ブチルスズ-ジ-ラウレート、ジ-ブチルスズ-ジ-アセテート、ジ-ブチルスズ-ジ-オクトエートなどとして挙げられ、Weijら(F. W. van. der. Weij: Macromol. Chem., 181, 2541, 1980.)によって提唱された反応機構で反応速度を圧倒的に促進できることが知られているが、近年では、有機スズによる環境、人体への健康被害を避けるために、銅又はチタンのキレート錯体のルイス機能を利用して、有機塩基と組み合わせることによって、有機スズ錯体と同様にアルコキシシリル基同士のシロキサン結合を形成する反応を促進できることが知られている。
【0106】
(マスターバッチ樹脂)
脱水縮合触媒はアルコキシシリル基含有樹脂のシロキサン結合形成反応の触媒としても機能することが知られている。本明細書では、押出機を用いた樹脂混練工程を有する連続プロセスで脱水縮合触媒(又は有機金属含有触媒)をアルコキシシリル基含有樹脂又は他の混練樹脂へ事前に添加し、コンパウンドした物をマスターバッチ樹脂と呼ぶ。
【0107】
(可塑剤)
可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、沸点以下の温度でポリオレフィンと均一な溶液を形成し得る有機化合物が挙げられる。より具体的には、デカリン、キシレン、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、デシルアルコール、ノニルアルコール、ジフェニルエーテル、n-デカン、n-ドデカン、パラフィン油等が挙げられる。これらの中でも、パラフィン油、ジオクチルフタレートが好ましい。可塑剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0108】
可塑剤の割合は、ポリオレフィンの合計質量に対して、得られる微多孔膜の気孔率の観点から20質量%以上が好ましく、溶融混練時の粘度の観点から90質量%以下が好ましい。
【0109】
〔シート成形工程(押出工程)〕
シート成形工程は、得られた混練物、又はシラングラフト変性ポリオレフィンとポリエチレンと可塑剤の混合物を押出し、冷却固化させ、シート状に成型加工してシートを得る工程である。シート成形の方法としては、特に限定されないが、例えば、溶融混練し押出された溶融物を、圧縮冷却により固化させる方法が挙げられる。冷却方法としては、(i)冷風、冷却水等の冷却媒体に直接接触させる方法;(ii)冷媒で冷却したロール又はプレス機に接触させる方法等が挙げられ、方法(ii)は膜厚制御性が優れる点で好ましい。
【0110】
セパレータ中の樹脂凝集物又は内部最大発熱速度の観点から、シート成形工程ではシラングラフト変性ポリオレフィンとポリエチレンの重量比(シラングラフト変性ポリオレフィン重量/ポリエチレン重量)が、0.05/0.95~0.40/0.60であることが好ましく、より好ましくは0.06/0.94~0.38/0.62である。
【0111】
〔延伸工程〕
延伸工程は、得られたシートから、必要に応じて可塑剤や無機材を抽出し、更にシートを一軸以上の方向へ延伸する工程である。シートの延伸方法としては、ロール延伸機によるMD一軸延伸、テンターによるTD一軸延伸、ロール延伸機とテンター、或いはテンターとテンターとの組み合わせによる逐次二軸延伸、同時二軸テンターやインフレーション成形による同時二軸延伸等が挙げられる。より均一な膜を得るという観点からは、同時二軸延伸であることが好ましい。
トータルの面倍率は、膜厚の均一性、引張伸度と気孔率と平均孔径のバランスの観点から、好ましくは8倍以上であり、より好ましくは15倍以上であり、さらに好ましくは20倍以上又は30倍以上である。トータルの面倍率が8倍以上であることにより、高強度で厚み分布が良好のものが得られ易くなる傾向にある。また、この面倍率は、破断防止などの観点から、250倍以下でよい。
【0112】
〔多孔体形成工程(抽出工程)〕
多孔体形成工程は、延伸工程後の延伸物から可塑剤を抽出して、延伸物を多孔化する工程である。
可塑剤の抽出方法としては、特に限定されないが、例えば、延伸物を抽出溶媒に浸漬する方法、延伸物に抽出溶媒をシャワーする方法等が挙げられる。抽出溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィンに対して貧溶媒であり、且つ、可塑剤や無機材に対しては良溶媒であり、沸点がポリオレフィンの融点よりも低いものが好ましい。このような抽出溶媒としては、特に限定されないが、例えば、n-ヘキサンやシクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレンや1,1,1-トリクロロエタン、フルオロカーボン系等ハロゲン化炭化水素類;エタノールやイソプロパノール等のアルコール類;アセトンや2-ブタノン等のケトン類;アルカリ水等が挙げられる。抽出溶媒は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0113】
〔熱処理工程〕
熱処理工程は、延伸工程の後、さらに必要に応じてシートから可塑剤を抽出し、更に熱処理を行い、微多孔膜を得る工程である。
熱処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、テンターやロール延伸機を利用して、延伸及び緩和操作等を行う熱固定方法が挙げられる。緩和操作とは、膜の機械方向(MD)及び/又は幅方向(TD)へ、所定の温度及び緩和率で行う縮小操作のことをいう。緩和率とは、緩和操作後の膜のMD寸法を操作前の膜のMD寸法で除した値、又は緩和操作後のTD寸法を操作前の膜のTD寸法で除した値、又はMDとTD双方を緩和した場合は、MDの緩和率とTDの緩和率を乗じた値のことである。
本実施の形態では、親和性処理工程と架橋処理工程に適した熱処理多孔体を得るという観点から、多孔体のTDに延伸及び緩和を行うことが好ましい。
【0114】
〔親和性処理工程〕
親和性処理工程は、水とポリオレフィン間の濡れ性を向上するため、熱処理工程で得られた微多孔膜を、水と有機物に両親媒性のある有機溶媒に浸漬する工程である。本実施の形態では、親和性処理された多孔体の内部には両親媒性有機溶媒が配置されるため、液体との親和性を増大し、例えば架橋処理工程の際に、架橋反応を促進する材料又は触媒との親和性も増大することがある。
使用される有機溶媒は、特に限定されないが、例えば、アルコール類、アセトン、炭酸エチレン、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。また、浸漬する方法は、熱処理多孔体を有機溶媒に浸漬させる方法、熱処理多孔体に有機溶媒をシャワーする方法等が挙げられる。
【0115】
〔架橋処理工程〕
架橋処理工程は、前記親和性処理工程で得られた微多孔膜内に含まれているアルコキシシリル基をシロキサン結合へ反応(架橋反応)させる工程である。
本実施の形態では、親和性処理多孔体を、有機金属含有触媒と水の混合物に接触させるか、又は塩基溶液若しくは酸溶液に浸漬させ、シラン脱水縮合反応を行ってオリゴシロキサン結合を形成する。
熱水用パイプなどの一般的な成形品ではSn系触媒を押出工程時に押出機に投入するのに対して、蓄電デバイス用セパレータの製造プロセスではシート成形工程中の押出機内でシラン架橋が促進されると、ゲル化部分が生産不良を招き、かつ後工程である延伸工程においてシラン架橋ポリオレフィンの延伸が困難になる。したがって、本実施の形態では、延伸工程、熱処理工程及び親和性処理工程の後に、シラン架橋処理を行って、シラン架橋部によってセパレータの耐熱性、形状維持性及び耐破膜性を確保する。
【0116】
有機金属含有触媒の金属は、例えば、スカンジウム、バナジウム、銅、亜鉛、ジルコニウム、パラジウム、ガリウム、スズ、チタン、鉄、ニッケル及び鉛から成る群から選択される少なくとも1つでよく、中でもスズ、亜鉛、又はパラジウムが好ましく、スズ又は亜鉛がより好ましい。触媒として使用可能な有機スズ錯体は、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクトエート、酢酸第一スズ、カプリル酸第一スズなどでよい。
塩基溶液は、pHが7を超え、例えば、水酸化アルカリ金属類、水酸化アルカリ土類金属類、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属のリン酸塩、アンモニア、アミン化合物などを含んでよい。これらの中でも、蓄電デバイスの安全性とシラン架橋性の観点から、水酸化アルカリ金属類又は水酸化アルカリ土類金属類が好ましく、水酸化アルカリ金属類がより好ましく、水酸化ナトリウムがさらに好ましい。
酸溶液は、pHが7未満であり、例えば、無機酸、有機酸などを含んでよい。好ましい酸は、塩酸、硫酸、カルボン酸類、又はリン酸類である。
【0117】
架橋処理工程は、蓄電デバイス破壊時の熱暴走反応を抑制して安全性を向上させるという観点から、親和性処理多孔体を塩基溶液又は酸溶液に浸漬させることにより行われることが好ましい。
【0118】
親和性処理多孔体を塩基溶液に浸漬させる場合には、安全性をさらに向上させるという観点から、塩基溶液の温度が20℃~100℃であることが好ましく、かつ/又は塩基溶液のpHが8~14であることが好ましい。pH調整に使用する試薬は、特に限定されていないが、水酸化アルカリ金属類、水酸化アルカリ土類金属類などあげられる。同様の観点から、アルカリ水溶液は、エチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ピリジンなどのアミン化合物を含まないことが好ましい。
【0119】
親和性処理多孔体を酸溶液に浸漬させる場合には、理論に拘束されることを望まないが、酸は、シラン架橋ポリオレフィンのSi-O結合を切断するというよりも、シラン架橋ポリオレフィンのSi-O結合の形成を触媒的に促進するように働くことが推察される。
【0120】
親和性処理多孔体を有機金属含有触媒と水との混合物に接触させる場合には、微多孔膜の非晶質部分を制御して安全性を確保するという観点から、最終的に得られる微多孔膜のスカンジウム、バナジウム、銅、亜鉛、ジルコニウム、パラジウム、ガリウム、スズ、チタン、鉄、ニッケル又は鉛の含有量が、原子換算の合計量で0.10ppm以上200ppm以下の範囲内になるように調整することが好ましく、微多孔膜の亜鉛又はスズの含有量が原子換算の合計量で0.10ppm以上200ppm以下の範囲内になるように調整することがより好ましい。微多孔膜のスカンジウム、バナジウム、銅、亜鉛、ジルコニウム、パラジウム、ガリウム、スズ、チタン、鉄、ニッケル又は鉛の含有量は、例えば、後述される水洗乾燥工程などにより調整されることができる。このような限定した範囲の含金属量により、多孔膜の架橋構造の分解を抑制し、安全性を確保すると同時に、電池サイクル特性が良い性能を示すことが分かった。過剰に金属が蓄電デバイス用セパレータに含まれた場合では、溶出イオンが正極内へ侵入し、Liを貯蔵する金属クラスタの構造を変化させ、正極全体に電気的な欠陥点を生み、サイクル性能を悪化させることが本発明者により明らかになった。
【0121】
〔水洗乾燥工程〕
水洗乾燥工程は前記架橋処理工程で得られた微多孔膜を水洗し、乾燥させる工程である。水洗乾燥工程の好ましい条件は、水温が20~100℃であり、かつ/又は洗浄水のpHが6~8である。例えば、20~100℃の温度で微多孔膜内をpH6~8の水へ置換した後に、乾燥することができる。乾燥方法は、特に限定されないが、加熱ロールでの搬送、熱風の吹きつけ、又は赤外線ヒータを用いた加熱乾燥などが挙げられる。
【0122】
〔無機多孔質層の塗工工程〕
無機多孔質層の塗工工程(8A)は、無機粒子と樹脂バインダを含む無機多孔質層を、上記で得られた微多孔膜の少なくとも一方の表面に形成する工程である。無機多孔質層の塗工工程(8A)は、シラングラフト変性ポリオレフィンのシラン架橋反応後に行われることができる。
【0123】
塗工工程(8A)を行うことにより、上記で説明されたB層を形成することもできる。B層の形成方法としては、既知の製造方法を採用できる。A層とB層とを含む積層体を作製する手法としては、例えば、無機粒子を含有するスラリーをA層に塗工する方法、B層の原料と、A層の原料とを共押出法により積層して押し出す方法、A層とB層とを個別に作製した後にそれらを貼り合せる方法等が挙げられる。
【0124】
無機多孔質層は、例えば、無機粒子と、樹脂バインダと、水又は水系溶媒(例えば、水とアルコールとの混合物など)と、所望により分散剤とを含むスラリーを、微多孔膜の少なくとも一方の表面に塗工することにより形成されることができる。無機粒子、樹脂バインダ及び分散剤は、第一又は第二の実施形態について説明されたとおりでよい。
【0125】
スラリーに含まれる溶媒としては、無機粒子を均一且つ安定に分散又は溶解できるものが好ましい。かかる溶媒としては、例えば、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、水、エタノール、トルエン、熱キシレン、塩化メチレン、及びヘキサンが挙げられる。
【0126】
無機粒子含有スラリーの調製方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、コロイドミル、アトライター、ロールミル、高速インペラー分散、ディスパーザー、ホモジナイザー、高速衝撃ミル、超音波分散、撹拌羽根等による機械撹拌法などが挙げられる。
【0127】
無機粒子含有スラリーの塗工方法としては、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法などが挙げられる。
【0128】
かかる塗工膜から溶媒を除去する方法については、微多孔膜を構成する材料の融点以下の温度にて乾燥する方法、低温で減圧乾燥する方法等が挙げられる。また、デバイス特性に著しく影響を及ぼさない範囲内であれば、溶媒を一部残存させてよい。
【0129】
〔捲回/スリット工程〕
捲回工程は、得られた微多孔膜、又は無機多孔質層が塗工された微多孔膜を、必要に応じてスリットして、所定のコアへ捲回する工程である。
【0130】
上記で説明された各種の工程を含む方法により得られたセパレータは、蓄電デバイスに、特にリチウム電池又はリチウムイオン二次電池に利用されることができる。
【0131】
<蓄電デバイスの製造方法>
蓄電デバイスの製造方法は、以下の工程;
(ア)正極と、第三実施形態に係る方法により製造されたセパレータと、負極とを積層し、かつ/又は捲回して、積層体又は捲回体を得る工程;
(イ)積層体又は捲回体を外装体に入れる工程;
(ウ)外装体に電解液を注ぐ工程;及び
(エ)正極と前記負極にリード端子を接続する工程;
を含む。
【0132】
工程(ア)~(エ)は、第三実施形態に係る方法により製造された蓄電デバイス用セパレータを使用することを除いて、本技術分野において既知の方法により行われることができ、また工程(ア)~(エ)においては、本技術分野において既知の正極、負極、電解液及び外装体が使用されることができる。
【0133】
工程(ア)のために、幅10~500mm(好ましくは80~500mm)、長さ200~4000m(好ましくは1000~4000m)の縦長形状のセパレータを製造することができる。次いで、工程(ア)において、正極-セパレータ-負極-セパレータ又は負極-セパレータ-正極-セパレータの順で積層し、円又は扁平な渦巻状に捲回して捲回体を得ることができる。工程(イ)及び(ウ)では、その捲回体をデバイス缶(例えば電池缶)内に収納し、更に非水電解液を注入することにより、蓄電デバイスを製造することができる。また、電極、及びセパレータを折り畳んで捲回体としたものを、デバイス容器(例えばアルミニウム製のフィルム)に入れて非水電解液を注液する方法により、蓄電デバイスを製造することもできる。
【0134】
このとき、捲回体に対して、プレスを行うことができる。具体的には、セパレータと、集電体、及びその集電体の少なくとも片面に形成された活物質層を有する電極とを重ね合わせてプレスを行うことができる。
【0135】
プレス温度は、効果的に接着性を発現できる温度として、例えば20℃以上が好ましい。また、熱プレスによる、セパレータにおける孔の目詰まり又は熱収縮を抑える観点から、プレス温度は、微多孔膜に含まれる材料の融点よりも低いことが好ましく、120℃以下がより好ましい。プレス圧力は、セパレータにおける孔の目詰まりを抑える観点から、20MPa以下が好ましい。プレス時間については、ロールプレスを用いたときに1秒以下でもよく、数時間の面プレスでもよいが、生産性の観点から2時間以下が好ましい。
上記の製造工程を経ると、電極、及びセパレータから成る捲回体をプレス成形したときのプレスバックを抑制できる。従って、デバイス組立工程における歩留まり低下を抑制し、生産工程時間を短縮することができ、好ましい。
【0136】
工程(ウ)で使用される電解液は、LiPF6、LiBF4、LiN(SO2CF3)2、LiSO3CF3等のフッ素(F)含有リチウム塩、または、LiBC4O8(LiBOB)などの電解質を含んでよく、LiPF6含有電解質又は他のF含有電解質と、非水溶媒とを含むことが好ましい。
【実施例】
【0137】
実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の物性は以下の方法により測定した。
【0138】
<重量平均分子量(Mw)>
Waters社製 ALC/GPC 150C型(商標)を用い、標準ポリスチレンを以下の条件で測定して較正曲線を作成した。また、下記各ポリマーについても同様の条件でクロマトグラムを測定し、較正曲線に基づいて、下記方法により各ポリマーの重量平均分子量を算出した。
カラム :東ソー製 GMH6-HT(商標)2本+GMH6-HTL(商標)2本
移動相 :o-ジクロロベンゼン
検出器 :示差屈折計
流速 :1.0ml/min
カラム温度:140℃
試料濃度 :0.1wt%
(ポリエチレンの重量平均分子量)
得られた較正曲線における各分子量成分に0.43(ポリエチレンのQファクター/ポリスチレンのQファクター=17.7/41.3)を乗じることによりポリエチレン換算の分子量分布曲線を得て、重量平均分子量を算出した。
(樹脂組成物の重量平均分子量)
最も質量分率の大きいポリオレフィンのQファクター値を用い、その他はポリエチレンの場合と同様にして重量平均分子量を算出した。
【0139】
<粘度平均分子量(Mv)>
ASTM-D4020に基づき、デカリン溶媒における135℃での極限粘度[η]を求めた。ポリエチレンのMvを次式により算出した。
[η]=6.77×10-4Mv0.67
【0140】
<メルトマスフローレイト(MFR)(g/10min)>
東洋精機製メルトマスフローレイト測定機(メルトインデックサF-F01)を用いて、190℃及び加重2.16kgの条件下、10分間で押出された樹脂物の重量をMFR値として定めた。
【0141】
<ガラス転移温度の測定>
樹脂サンプルを含む水分散体(固形分=38~42重量%、pH=9.0)を、アルミ皿に適量取り、130℃の熱風乾燥機で30分間乾燥して乾燥皮膜を得た。その乾燥皮膜約17mgを測定用アルミ容器に充填し、DSC測定装置(島津製作所社製、型式名「DSC6220」)にて窒素雰囲気下におけるDSC曲線、及びDSC曲線を得た。測定条件は下記の通りとした。
1段目昇温プログラム:70℃スタート、毎分15℃の割合で昇温。110℃に到達後5分間維持。
2段目降温プログラム:110℃から毎分40℃の割合で降温。-50℃に到達後5分間維持。
3段目昇温プログラム:-50℃から毎分15℃の割合で130℃まで昇温。この3段目の昇温時にDSC、及びDDSCのデータを取得。
ベースライン(得られたDSC曲線におけるベースラインを高温側に延長した直線)と、変曲点(上に凸の曲線が下に凸の曲線に変わる点)における接線との交点をガラス転移温度(Tg)とした。
【0142】
<膜厚(μm)>
東洋精機製の微小測厚器、KBM(商標)用いて、室温23±2℃及び相対湿度60%で微多孔膜又はセパレータの膜厚を測定した。具体的には、TD方向全幅に亘って、ほぼ等間隔に5点の膜厚を測定し、それらの平均値を得た。無機多孔質層の厚さは、微多孔膜と無機多孔質層から成るセパレータの厚さから微多孔膜の厚さを減じることにより算出されることができる。
【0143】
<A層の厚み(TA)、及びB層の厚み(TB)>
東洋精機製の微小測厚器、KBM(商標)用いて、室温23±2℃、及び相対湿度60%でA層の厚み(TA)を測定した。具体的には、TDの全幅に亘って、ほぼ等間隔に5点の膜厚を測定し、それらの平均値を得た。また、同様の手法により、A層とB層とを含む積層体の厚みを得た。そして、得られた積層体の厚みから、A層の厚み(TA)を減算することで、B層の厚み(TB)を得た。
得られた積層体の厚みを、A層とB層との合計厚み(TA+TB)として扱った。また、厚み(TA)を厚み(TB)で除することで、厚みの比(TA/TB)を得た。
【0144】
<気孔率(%)>
(i)混合組成物の密度から算出
10cm×10cm角の試料を微多孔膜から切り取り、その体積(cm3)と質量(g)を求め、それらと密度(g/cm3)より、次式を用いて気孔率を計算した。なお、混合組成物の密度は、用いた原料の各々の密度と混合比より計算して求められる値を用いた。
気孔率(%)=(体積-質量/混合組成物の密度)/体積×100
【0145】
(ii)膜密度から算出
代替的には、体積と質量と膜密度(g/cm3)とから、微多孔膜の気孔率を次式により算出する。
気孔率(%)=(体積-質量/膜密度)/体積×100
なお、本開示において膜密度とは、JIS K7112(1999)に記載のD)密度勾配管法に従って測定した値をいう。
【0146】
(iii)A層の気孔率
10cm×10cm角の試料をA層から切り取り、その体積(cm3)と質量(g)を求め、それらと密度(g/cm3)から、次式を用いて気孔率を計算した。混合組成物の密度は、用いた原料の各々の密度と混合比より計算して求められる値を用いた。
気孔率(%)=(体積-質量/混合組成物の密度)/体積×100
【0147】
<透気度(sec/100cm3)>
JIS P-8117(2009年)に準拠し、東洋精器(株)製のガーレー式透気度
計、G-B2(商標)により試料又はA層の透気度を測定した。
【0148】
<A層の突刺強度>
カトーテック製のハンディー圧縮試験器KES-G5(型式名)を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーでA層を固定した。次に、固定されたA層の中央部に対して、先端の曲率半径0.5mmの針を用いて、突刺速度2mm/秒で、25℃雰囲気下において突刺試験を行うことにより、最大突刺荷重を測定した。その最大突刺加重を20μmの厚さ当たりに換算した値を突刺強度(gf/20μm)とした。熱可塑性ポリマーが基材の片面にしか存在しない場合は、熱可塑性ポリマーが存在する面から針を突刺することができる。
【0149】
<セパレータ中樹脂凝集物の定量化>
セパレータ中樹脂凝集物は、後述される実施例と比較例の製膜工程を経て得られたセパレータを透過型光学顕微鏡で観察したときに、縦100μm×横100μm以上の面積を有し、かつ光が透過しない領域として定義されるものである。透過型光学顕微鏡による観察において、セパレータ面積1000m2当たりの樹脂凝集物の個数を測定した。
【0150】
<TMA破膜温度>
島津製作所製TMA50(商標)の定長モードを用いて、環境温度を25~250℃に亘って変化させ、荷重が完全開放される瞬間の温度をTMA破膜温度と定める。
具体的には、MD方向を測定する際に、TD方向3mm、MD方向14mmの微多孔膜を採取し、専用プローブにMD方向の両端をチャックし、チャック間距離を10mmに初期1.0g荷重させ、試験片が搭載した炉を昇温し、荷重が0gに示した温度をTMA破膜温度とした。
TD方向を測定する際には、TD方向14mm、MD方向3mmの微多孔膜を採収し、専用プローブにTDの両端をチャックし、チャック間距離を10mmにセットして初期1.0g荷重させ、上記と同様な操作を行う。
【0151】
<A層の破膜温度>
島津製作所製TMA50(商標)の定長モードを用いて、環境温度を25~250℃に亘って変化させ、荷重が完全開放される瞬間の温度をTMA破膜温度(TMAにより測定される、A層の破膜温度)と定めた。
具体的には、A層からTD3mm、MD14mmを採取し、これを試料片(MDが長辺である試料片)とした。試料片のMDの両端を、チャック間距離が10mmになるように専用プローブにセットし、試料片に対して荷重1.0gをかけた。試験片を搭載した炉を昇温して、荷重が0gを示した温度を破膜温度(℃)とした。
なお、TDが長辺である試料片TDについて測定するときは、TD14mm、MD3mmにA層を採取してこれを試料片とし、専用プローブにTD両端をチャックし、チャック間距離を10mmにセットして初期1.0g荷重させ、上記と同様な操作を行う。
【0152】
<150℃での熱収縮率>
架橋構造の形成前における積層体(A層とB層とを含む積層体)からTD100mm、MD100mmを採取し、これを試料片とした。そして、試料片を150℃のオーブン中に1時間静置した。このとき、温風が試料片に直接あたらないよう、試料片を2枚の紙に挟んだ。試料片をオーブンから取り出し、冷却した後、試料片の面積を測定し、下記式にて、架橋構造の形成前における150℃での熱収縮率(T1)を算出した。
150℃での熱収縮率(%)=(10,000(mm2)-加熱後の試料片の面積(mm2))×100/10,000
また、架橋構造の形成後における積層体について、TD100mm、MD100mmを採取してこれを試料片とし、上記と同様な操作を行うことで、架橋構造の形成後における150℃での熱収縮率(T2)を算出した。
そして、熱収縮率(T2)を熱収縮率(T1)で除することで比(T2/T1)を得た。この比(T2/T1)の値は、架橋構造の形成前における150℃での熱収縮率(T1)に対する、架橋構造の形成後における150℃での熱収縮率(T2)の変化倍率に相当する。
【0153】
<電池破壊安全性試験1>
電池破壊安全性試験1は、4.5Vまで充電した電池に鉄釘を20mm/secの速度で打ち込み、貫通させて、内部短絡を起こす試験である。本試験は、内部短絡による電池の電圧低下の時間変化挙動および内部短絡による電池表面温度上昇挙動を測定することで、内部短絡時の現象を明らかにできる。また、内部短絡時にセパレータの不十分なシャットダウン機能や低温での破膜により、電池の急激な発熱が生じる場合があり、それに伴い、電解液が発火し、電池が発煙及び/又は爆発することがある。
【0154】
(電池破壊安全性試験1に用いられる電池の作製)
1a.正極の作製
正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物LiCoO2を92.2質量%、導電材としてリン片状グラファイトとアセチレンブラックをそれぞれ2.3質量%、及び樹脂バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)3.2質量%を採取し、これらをN-メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターで塗布し、130℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、正極の活物質塗布量は250g/m2、活物質嵩密度は3.00g/cm3になるように調整した。
【0155】
1b.負極の作製
負極活物質として人造グラファイト96.9質量%、及び樹脂バインダとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%とスチレン-ブタジエン共重合体ラテックス1.7質量%を精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗布し、120℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、負極の活物質塗布量は106g/m2、活物質嵩密度は1.35g/cm3になるように調整した。
【0156】
1c.非水電解液の調製
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF6を濃度1.0mol/Lとなるように溶解させて非水電解液を調製した。
【0157】
1d.電池組立
セパレータを横(TD)方向60mm、縦(MD)方向1000mmに切出し、セパレータに対して、九十九折し、正極と負極を交互にセパレータ間(正極12枚、負極13枚)に重ねる。なお、正極は30mm×50mm、負極は32mm×52mmの面積の物を使用した。この九十九折した積層体をラミ袋へ入れた後、上記c.で得られた非水電解液を注入して密閉した。室温にて1日放置した後、25℃雰囲気下、3mA(0.5C)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、到達後4.2Vを保持するようにして電流値を3mAから絞り始めるという方法で、合計6時間、電池作製後の最初の充電を行った。続いて、3mA(0.5C)の電流値で電池電圧3.0Vまで放電した。
【0158】
(最大発熱速度)
得られた電池へ鉄釘を貫通させた後、電池表面温度は熱電対を用いて、300秒間に亘って測定した温度変化グラフから、1sec当たりに昇温変化が最も大きかった時の速度を最大発熱速度と定めた。
【0159】
(電圧低下時間)
得られた電池へ鉄釘を貫通させた後、4.5Vから3Vまでの電圧低下に要した時間を電圧低下時間(3V低下時間)として定めた。
【0160】
<サイクル特性評価およびその電池の作製方法>
上記項目<電池破壊安全性試験1>に用いられる電池の作製方法の1a.~1c.と同じ方法に従って、ただし組立は下記1d-2.によりサイクル特性評価用電池を作製した。
【0161】
1d-2.電池組立
セパレータを直径18mm、正極及び負極を直径16mmの円形に切り出し、正極と負極の活物質面が対向するよう、正極、セパレータ、負極の順に重ね、蓋付きステンレス金属製容器に収納した。容器と蓋とは絶縁されており、容器は負極の銅箔と、蓋は正極のアルミニウム箔と接していた。この容器内に、上記項目<電池破壊安全性試験1>の1c.において得られた非水電解液を注入して密閉した。室温にて1日放置した後、25℃雰囲気下、3mA(0.5C)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、到達後4.2Vを保持するようにして電流値を3mAから絞り始めるという方法で、合計6時間、電池作製後の最初の充電を行った。続いて、3mA(0.5C)の電流値で電池電圧3.0Vまで放電した。
【0162】
得られた電池の充放電は、60℃雰囲気下で100サイクル実施した。充電は6.0mA(1.0C)の電流値で電池電圧4.2Vまで充電し、到達後4.2Vを保持するようにして電流値を6.0mAから絞り始めるという方法で、合計3時間充電した。放電は6.0mA(1.0C)の電流値で電池電圧3.0Vまで放電した。
【0163】
(サイクル特性評価1)
100サイクル目の放電容量と1サイクル目の放電容量から、容量維持率を算出した。容量維持率が高い場合、良好なサイクル特性を有するものと評価した。
【0164】
(サイクル特性評価2)
300サイクル目の放電容量と1サイクル目の放電容量から、容量維持率(%)を下記式に基づき算出した。容量維持率が高い場合、良好なサイクル特性を有するものと評価した。
評価結果(%)=(100×300サイクル後の保持容量/1サイクル目の放電容量)
【0165】
<ヒューズ/メルトダウン(F/MD)特性>
(i)0.5MPaの加圧と2℃/分の昇温速度
直径200mmの円形状に正極、セパレータ及び負極を切出し、重ね合わせて、得られた積層体に非水電解液を加え、全体に染みわたした。直径600mmの円形状アルミニウムヒーターの中心部に積層体を挟み、油圧ジャッキでアルミニウムヒーターを上下から0.5MPaに加圧し、測定の準備を完了とする。昇温速度を2℃/minの速度で、アルミニウムヒーターで前記積層体を加熱しながら、電極間の抵抗(Ω)を測定する。セパレータのヒューズともに電極間の抵抗が上昇し、抵抗が初めて1000Ωを超えた時の温度をシャットダウン温度とする。また、さらに加熱を続け、抵抗が1000Ω以下に下がる時の温度をメルトダウン温度(破膜温度)とする。
【0166】
(ii)10MPa最大加圧と15℃/分の昇温速度
直径200mmの円形状に正極、セパレータ、及び負極を切出し、重なり合わせて得られた積層体に、非水電解液を加え、全体に染みわたした。直径600mmの円形状アルミヒーターの中心部に積層体を挟み、油圧ジャッキでアルミヒーターを上下から圧力を10MPaまで加え、測定の準備を完了とした。昇温速度を15℃/分の速度で、アルミヒーターで積層体を加熱しながら、電極間の抵抗(Ω)を測定した。電極間の抵抗が上昇し、抵抗が初めて1000Ωを超えたときの温度をシャットダウン温度(℃)とした。また、更に加熱を続け、抵抗が1000Ω以下に下がったときの温度をメルトダウン温度(℃)とした。
【0167】
なお、(i)と(ii)のいずれの評価についても、上記項目<電池破壊安全性試験1>の「1a.正極の作製」により作製された正極のアルミニウム箔の裏に、導電性銀ペーストで抵抗測定用電線を接着させた。また、上記項目<電池破壊安全性試験1>の「1b.負極の作製」により作製された負極の銅箔の裏に、導電性銀ペーストで抵抗測定用電線を接着させた。さらに、上記項目<電池破壊安全性試験1>の「1c.非水電解液の調製」により調製された電解質含有電解液をF/MD特性試験にも使用した。
【0168】
<安全性試験(釘刺試験)2>
2a.正極の作製
正極活物質としてニッケル、マンガン、コバルト複合酸化物(NMC)(Ni:Mn:Co=1:1:1(元素比)、密度4.70g/cm3)90.4質量%、導電助材としてグラファイト粉末(KS6)(密度2.26g/cm3、数平均粒子径6.5μm)を1.6質量%、及びアセチレンブラック粉末(AB)(密度1.95g/cm3、数平均粒子径48nm)3.8質量%、並びに樹脂バインダとしてPVDF(密度1.75g/cm3)4.2質量%の比率で混合し、これらをNMP中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを、正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターを用いて塗工し、130℃において3分間乾燥した後、ロールプレス機を用いて圧縮成形することにより、正極を作製した。このとき、正極活物質塗工量は109g/m2であった。
【0169】
2b.負極の作製
負極活物質としてグラファイト粉末A(密度2.23g/cm3、数平均粒子径12.7μm)87.6質量%、及びグラファイト粉末B(密度2.27g/cm3、数平均粒子径6.5μm)9.7質量%、並びに樹脂バインダとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%(固形分換算)(固形分濃度1.83質量%水溶液)、及びジエンゴム系ラテックス1.7質量%(固形分換算)(固形分濃度40質量%水溶液)を精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗工し、120℃において3分間乾燥した後、ロールプレス機で圧縮成形することにより、負極を作製した。このとき、負極活物質塗工量は52g/m2であった。
【0170】
2c.非水電解液の調製
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF6を濃度1.0mol/Lとなるように溶解させ、非水電解液を調整した。
【0171】
2d.電池作製
上記2a~2cで得られた正極、負極、及び非水電解液、並びにセパレータ(実施例のセパレータ又は比較例のセパレータ)を用いて、電流値1A(0.3C)、終止電池電圧4.2Vの条件で3時間に亘って定電流定電圧(CCCV)充電したサイズ100mm×60mm、容量3Ahのラミネート型二次電池を作製した。
【0172】
2e.釘刺し評価
作製したラミネート型二次電池を、温調可能な防爆ブース内の鉄板上に静置した。ラミネート型二次電池の中央部に、防爆ブース内の温度を40℃に設定し、直径3.0mmの鉄製釘を、2mm/秒の速度で貫通させ、釘は貫通した状態で維持した。釘内部に、釘が貫通した後ラミネート電池内部の温度が測定できるように設置した熱電対の温度を測定し、発火の有無を評価した。
同様の手法により新たに作製したラミネート型二次電池を用いて評価を繰り返し、発火に至らなかった(発火なし)サンプル数を、下記式により%値で算出した。
評価結果(%)=(100×発火に至らなかったサンプル数/総サンプル数)
【0173】
<押出安定性>
押出工程時に被押出ポリオレフィン組成物の状態を観察して、以下の基準により評価した。
A(良好):押出機の電流値変動が、300秒の平均値において、±0.5A以内である。
B(不良):押出機の電流値変動が、300秒の平均値において、±0.5Aを超える。
【0174】
<金属含有量>
誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置を用いて試料中に含まれるSn原子、Zn原子、Ti原子、Cu原子、Fe原子、Ni原子などの質量割合を測定した。
【0175】
<実験グループI>
【0176】
[シラングラフト変性ポリオレフィンの製法]
シラングラフト変性ポリオレフィンに用いる原料ポリオレフィンは、粘度平均分子量(Mv)が10万以上かつ100万以下であり、重量平均分子量(Mw)が3万以上かつ92万以下、そして数平均分子量は1万以上かつ15万以下でよく、プロピレン又はブテン共重合αオレフィンでもよい。原料ポリエチレンを押出機で溶融混練しながら、有機過酸化物(ジ-t-ブチルパーオキサイド)を添加し、αオレフィンのポリマー鎖内でラジカルを発生させた後、トリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを注液し、付加反応により、αオレフィンポリマーへアルコキシシリル基を導入し、シラングラフト構造を形成させる。また、同時に系中のラジカル濃度を調整するために、酸化防止剤(ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-テトラ-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート])を適量添加し、αオレフィン内の鎖状連鎖反応(ゲル化)を抑制する。得られたシラングラフトポリオレフィン溶融樹脂を水中で冷却し、ペレット加工を行った後、80℃で2日加熱乾燥し、水分又は未反応のトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを除く。なお、未反応のトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランのペレット中の残留濃度は、10~1500ppm程度である。
上記の製法により得られたシラングラフト変性ポリエチレンを表1~3において「シラン変性ポリエチレン(B)」として示す。
【0177】
[製膜例I]
(シート成型工程)
重量平均分子量が2,000,000のホモポリマーのポリエチレン(ポリエチレン(A))79.2質量%に、粘度平均分子量20,000のポリオレフィンを原料とし、トリメトキシアルコキシド置換ビニルシランによって変性反応で得られるMFRが0.4g/分のシラングラフトポリエチレン(シラン変性ポリエチレン(B))19.8質量%(以上より(A)と(B)の樹脂組成はそれぞれ0.8および0.2)、酸化防止剤としてペンタエリスリチル-テトラキス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1質量%添加し、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、混合物を得た。得られた混合物を、二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーにより供給した。また、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-5m2/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
押出機内で混合物と流動パラフィンを溶融混練し、押し出されるポリオレフィン組成物中に占める流動パラフィン量比が質量70%となるように(即ち、ポリマー濃度が30質量%となるように)、フィーダー及びポンプを調整した。溶融混練条件は、設定温度230℃、スクリュー回転数240rpm、及び吐出量18kg/hであった。
続いて、溶融混練物を、T-ダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、原反膜厚1400μmのゲルシート(シート状成型体)を得た。
(延伸工程)
次に、ゲルシートを同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行い、延伸物を得た。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率6.0倍(即ち、7×6倍)、二軸延伸温度125℃とした。
(多孔体形成工程)
次に、延伸後のゲルシートをメチルエチルケトン槽に導き、メチルエチルケトン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後メチルエチルケトンを乾燥除去し、多孔体を得た。
(熱処理工程)
次に、熱固定(HS)を行なうべく多孔体をTDテンターに導き、熱固定温度125℃、延伸倍率1.8倍でHSを行い、その後、TD方向0.5倍の緩和操作(即ち、HS緩和率が0.5倍)を行った。
(親和性処理工程)
さらに、熱処理多孔体をエタノール浴中(親和性処理槽)に導き60秒間浸漬しつつ滞留し、熱処理多孔体の親和性処理を行い、親和性処理多孔体を得た。
(架橋処理工程)
さらに、親和性処理多孔体を25%苛性ソーダ水溶液中(架橋処理槽)に導き60秒間浸漬しつつ滞留し、親和性処理多孔体の架橋処理を行い、架橋処理多孔体を得た。
(水洗乾燥工程)
さらに、架橋処理多孔体を水中(水洗処理槽)に導き60秒間浸漬しつつ滞留し、架橋処理多孔体を水洗した。これを搬送式乾燥機へ導き、120℃で60秒間の条件で乾燥し微多孔膜を得た。
その後、得られた微多孔膜について、端部を裁断し、幅1,100mm、長さ5,000mのマザーロールとして巻き取った。
【0178】
[実施例I-1~I-11、比較例I-1~I-4]
表1~3に記載されるように、成分AとBの量比及び架橋方式・条件を変更したこと以外は、上記の製膜例Iと同様の操作を行って、表1~3に示す微多孔膜を得た。得られた微多孔膜について、上記評価方法に従って各種の評価を行って、評価結果も表1~3に示した。
実施例I-1で得られたセパレータについては、TMAグラフ(
図1)と、電池の釘突刺安全試験時の発熱グラフ(
図2)及び電圧低下グラフ(
図3)とを作成した。
【0179】
【0180】
【0181】
【0182】
表1~3中の用語「樹脂組成」はシラングラフト変性ポリオレフィンとポリエチレンの合計量に対する比率を示すものである。
【0183】
表1~3中の用語「方式」は、シラン架橋反応の方法を示し、それによって、アルカリ処理、酸処理、熱水処理、又は脱水縮合触媒による方式に分類される。
【0184】
表1~3中の用語「架橋反応のタイミング」は、シラン架橋反応が、上記で説明された(1)シート成形工程、(2)延伸工程、(3)多孔体形成工程、(4)熱処理工程、(5)親和性処理工程、(6)架橋処理工程、及び(7)水洗乾燥工程のいずれかで行われたことを示すものである。
なお、実施例I-4において25%苛性ソーダ水溶液に変えて10%塩酸溶液を用い、比較例I-2においては、製膜例における架橋処理工程において25%苛性ソーダ水溶液中への浸漬に替えて2.5kg/m2スチーム処理槽を用いて行った。さらに、比較例I-3、I-4においては表3中記載のタイミングにて架橋反応を行い、架橋処理工程は省略した。
なお、実施例I-11では、上記製造例に対して、水洗時間を60秒から10分に変更して金属イオン量を調節した。
【0185】
表1~3中の用語「試薬」は、比較例I-3、I-4を除き製膜例における架橋処理工程において用いる試薬を示す。
【0186】
表1~3中の用語「温度」は、架橋反応のタイミングに表記された行程中の温度を示す。
【0187】
表1~3中の用語「架橋処理槽のpH」、「水洗処理槽のpH」とは、各槽中のpHを示し、例えば「7~12」とは槽入り口付近から出口付近においてpHが幅を持って分布していることを示す。
【0188】
表1~3中の「シラン変性ポリエチレン(B)」は、密度が0.95g/cm3であり、かつ190℃でのメルトフローレート(MFR)が0.4g/分であるシラン変性ポリエチレンである。
【0189】
<実験グループII>
[シラングラフト変性ポリオレフィンの製法]
シラングラフト変性ポリオレフィンに用いる原料ポリオレフィンは、粘度平均分子量(Mv)が10万以上かつ100万以下であり、重量平均分子量(Mw)が3万以上かつ92万以下、数平均分子量は1万以上かつ15万以下でよく、プロピレン又はブテン共重合αオレフィンでもよい。原料ポリエチレンを押出機で溶融混練しながら、有機過酸化物(ジ-t-ブチルパーオキサイド)を添加し、αオレフィンのポリマー鎖内でラジカルを発生させた後、トリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを注液し、付加反応により、αオレフィンポリマーへアルコキシシリル基を導入し、シラングラフト構造を形成させる。また、同時に系中のラジカル濃度を調整するために、酸化防止剤(ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-テトラ-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート])を適量添加し、αオレフィン内の鎖状連鎖反応(ゲル化)を抑制する。得られたシラングラフトポリオレフィン溶融樹脂を水中で冷却し、ペレット加工を行った後、80℃で2日加熱乾燥し、水分又は未反応のトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを除く。なお、未反応のトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランのペレット中の残留濃度は、10~1500ppm程度である。
上記の製法により得られたシラングラフト変性ポリオレフィンを表1~3において「シラン変性ポリエチレン(B)」として用いる。なお、今回使用したシラングラフト変性ポリオレフィンは密度が0.94g/cm3であり、かつMFRが0.65g/分である。
【0190】
[製膜・塗工例II]
(微多孔膜の形成)
重量平均分子量が500,000のホモポリマーのポリエチレン(ポリエチレン(A))79.2重量%に、粘度平均分子量20,000のポリオレフィンを原料とし、トリメトキシアルコキシド置換ビニルシランによって変性反応で得られるMFR(190℃)が0.4g/分のシラングラフトポリエチレン(シラン変性ポリエチレン(B))19.8重量%(以上より(A)と(B)の樹脂組成は80%および20%)、酸化防止剤としてペンタエリスリチル-テトラキス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1重量%添加し、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、混合物を得た。得られた混合物を、二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーにより供給した。また、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-5m2/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
押出機内で混合物と流動パラフィンを溶融混練し、押し出されるポリオレフィン組成物中に占める流動パラフィン量比が重量70%となるように(即ち、ポリマー濃度が30重量%となるように)、フィーダー及びポンプを調整した。溶融混練条件は、設定温度220℃、スクリュー回転数240rpm、及び吐出量18kg/hであった。
続いて、溶融混練物を、T-ダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、原反膜厚1400μmのゲルシート(シート状成型体)を得た。
次に、シート状成型体を同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行なって、延伸物を得た。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率6.0倍(即ち、7×6倍)、二軸延伸温度125℃とした。
次に、延伸後のゲルシートをメチルエチルケトン槽に導き、メチルエチルケトン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後メチルエチルケトンを乾燥除去し、多孔体を得た。
次に、熱固定(HS)を行なうべく多孔体をTDテンターに導き、熱固定温度125℃、延伸倍率1.8倍でHSを行い、その後、TD方向0.5倍の緩和操作(即ち、HS緩和率が0.5倍)を行って微多孔膜を得た。
その後、得られた微多孔膜について、端部を裁断し、幅1,100mm、長さ5,000mの微多孔膜マザーロールとして巻き取った。
【0191】
(アクリルラテックスの製法)
樹脂バインダとして用いられるアクリルラテックスは以下の方法で製造される。
撹拌機、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取り付けた反応容器に、イオン交換水70.4質量部と、乳化剤として「アクアロンKH1025」(登録商標、第一工業製薬株式会社製25%水溶液)0.5質量部と、「アデカリアソープSR1025」(登録商標、株式会社ADEKA製25%水溶液)0.5質量部とを投入した。次いで、反応容器内部の温度を80℃に昇温し、80℃の温度を保ったまま、過硫酸アンモニウムの2%水溶液を7.5質量部添加し、初期混合物を得た。過硫酸アンモニウム水溶液を添加終了した5分後に、乳化液を滴下槽から反応容器に150分かけて滴下した。
なお、上記乳化液は:ブチルアクリレート70質量部;メタクリル酸メチル29質量部;メタクリル酸1質量部;乳化剤として「アクアロンKH1025」(登録商標、第一工業製薬株式会社製25%水溶液)3質量部と「アデカリアソープSR1025」(登録商標、株式会社ADEKA製25%水溶液)3質量部;過硫酸アンモニウムの2%水溶液7.5質量部;及びイオン交換水52質量部の混合物を、ホモミキサーにより5分間混合させて調製した。
乳化液の滴下終了後、反応容器内部の温度を80℃に保ったまま90分間維持し、その後室温まで冷却した。得られたエマルジョンを、25%の水酸化アンモニウム水溶液でpH=8.0に調整し、少量の水を加えて固形分40%のアクリルラテックスを得た。得られたアクリルラテックスは数平均粒子径145nm、ガラス転移温度-23℃であった。
【0192】
(無機多孔質層の形成)
無機粒子として95重量部の水酸化酸化アルミニウム(平均粒径1.4μm)と、イオン性分散剤として0.4重量部(固形分換算)のポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468、固形分濃度40%)とを、100重量部の水に均一に分散させて分散液を調整した。得られた分散液を、ビーズミル(セル容積200cc、ジルコニア製ビーズ径0.1mm、充填量80%)にて解砕処理し、無機粒子の粒度分布を、D50=1.0μmに調整した。粒度分布を調整した分散液に、樹脂バインダとして4.6重量部(固形分換算)のアクリルラテックス(固形分濃度40%、平均粒径145nm、ガラス転移温度-23℃、構成モノマー:ブチルアクリレート、メタクリル酸メチル、メタクリル酸)を添加することによって無機粒子含有スラリーを作製した。
次に、上記微多孔膜マザーロールから微多孔膜を連続的に繰り出し、微多孔膜の片面に無機粒子含有スラリーをグラビアリバースコーターで塗工し、続いて60℃の乾燥機で乾燥させて水を除去し、巻き取って、セパレータのマザーロールを得た。
評価時には、マザーロールから巻き出したセパレータを必要に応じてスリットして、評価用セパレータとして使用した。
【0193】
[実施例II-1~II-2、比較例II-2]
表1~3に記載されるように、成分AとBの量比、無機層の有無又は組成、及び架橋方式・条件を変更したこと以外は、製膜・塗工例IIと同様の操作を行って、表1~3に示す微多孔膜を得た。
なお、実施例II-1では25%苛性ソーダ水溶液(温度80℃、pH8.5~14)中に、実施例II-2では10%塩酸水溶液(温度60℃、pH1~6.5)中に、それぞれ微多孔膜を導き60秒間浸漬しつつ滞留し、微多孔膜の架橋処理を行ってから、無機多孔質層を形成した。
【0194】
[比較例II-1]
重量平均分子量が500,000のホモポリマーのポリエチレン(ポリエチレン(A))79.2重量%に、粘度平均分子量20,000のポリオレフィンを原料とし、トリメトキシアルコキシド置換ビニルシランによって変性反応で得られるMFR(190℃)が0.4g/分のシラングラフトポリエチレン(シラン変性ポリエチレン(B))19.8重量%(以上より(A)と(B)の樹脂組成はそれぞれ80%および20%)、酸化防止剤としてペンタエリスリチル-テトラキス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1重量%添加し、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、混合物を得た。得られた混合物を、二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーにより供給した。また、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-5m2/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
押出機内で混合物と流動パラフィンを溶融混練し、押し出されるポリオレフィン組成物中に占める流動パラフィン量比が重量70%となるように(即ち、ポリマー濃度が30重量%となるように)、フィーダー及びポンプを調整した。溶融混練条件は、設定温度220℃、スクリュー回転数240rpm、及び吐出量18kg/hであった。
続いて、溶融混練物を、T-ダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、原反膜厚1400μmのゲルシート(シート状成型体)を得た。
次に、シート状成型体を同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行なって延伸物を得た。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率6.0倍(即ち、7×6倍)、二軸延伸温度125℃とした。
次に、延伸後のゲルシートをメチルエチルケトン槽に導き、メチルエチルケトン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後メチルエチルケトンを乾燥除去し、多孔体を得た。
次に、熱固定(HS)を行なうべく多孔体をTDテンターに導き、熱固定温度125℃、延伸倍率1.8倍でHSを行い、その後、TD方向0.5倍の緩和操作(即ち、HS緩和率が0.5倍)を行った。
比較例1では、熱処理多孔体をセパレータとして使用するために、得られた多孔体について、端部を裁断し、幅1,100mm、長さ5,000mのマザーロールとして巻き取った。
【0195】
さらに、上記で得られた熱処理多孔体をエタノール浴中(親和性処理槽)に導き、60秒間浸漬しつつ滞留し、熱処理多孔体の親和性処理を行なって親和性処理多孔体を得た。
さらに、25%苛性ソーダ水溶液(温度80℃、pH8.5~14)中に親和性処理多孔体を導き60秒間浸漬しつつ滞留し、親和性処理多孔体の架橋処理を行い、架橋処理多孔体を得た。
さらに、架橋処理多孔体を水中(水洗処理槽)に導き60秒間浸漬しつつ滞留し、架橋処理多孔体を水洗した。これを搬送式乾燥機へ導き、120℃で60秒間の条件下で乾燥して微多孔膜を得た。
その後、得られた微多孔膜について、端部を裁断し、幅1,100mm、長さ5,000mのマザーロールとして巻き取った。
【0196】
比較例II-1について、上記の評価時には、マザーロールから巻き出した微多孔膜を必要に応じてスリットして、評価用セパレータとして使用した。
【0197】
[評価結果]
実施例II-1~II-2及び比較例II-1~II-2で得られた微多孔膜及び電池について、上記評価方法に従って各種の評価を行って、評価結果も表4に示した。
【0198】
【0199】
<実験グループIII>
[実施例III-1]
<A層の作製>
(シラングラフト変性ポリオレフィンの作製)
粘度平均分子量100,000のポリエチレンを原料ポリエチレンとし、原料ポリエチレンを押出機で溶融混練しながら、有機過酸化物(ジ-t-ブチルパーオキサイド)を添加し、αオレフィンのポリマー鎖内でラジカルを発生させた後、トリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを注液し、付加反応により、αオレフィンポリマーへアルコキシシリル基を導入し、シラングラフト構造を形成させた。また、同時に反応系中のラジカル濃度を調整するために、酸化防止剤(ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-テトラ-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート])を適量添加し、αオレフィン内の鎖状連鎖反応(ゲル化)を抑制した。得られたシラングラフトポリオレフィン溶融樹脂を水中で冷却し、ペレット加工を行った後、80℃で2日加熱乾燥し、水分又は未反応のトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを除いた。なお、未反応のトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランのペレット中の残留濃度は、約1500ppm以下であった。
上記のようにトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを用いる変性反応によって、MFR(190℃)が0.4g/分のシラン変性ポリエチレンを得た。
【0200】
(A層の作製)
重量平均分子量700,000のホモポリマーのポリエチレン65質量%に、上記で得られたシラン変性ポリエチレン35質量%を合わせて樹脂配合物を形成し、その配合物へ酸化防止剤としてペンタエリスリチル-テトラキス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1質量%添加し、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、混合物を得た。得られた混合物を、二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーにより供給した。また、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-5m2/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
押出機内で混合物と流動パラフィンを溶融混練し、押し出されるポリオレフィン組成物中に占める流動パラフィン量比が質量70%となるように(即ち、ポリマー濃度が30質量%となるように)、フィーダー及びポンプを調整した。溶融混練条件は、設定温度220℃、スクリュー回転数240rpm、及び吐出量18kg/時間であった。続いて、溶融混練物を、T-ダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、原反膜厚1400μmのゲルシート(シート状成型体)を得た。
【0201】
次に、シート状成型体を同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行なって、延伸物を得た。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率6.0倍(即ち、7×6倍)、二軸延伸温度123℃とした。
次に、延伸後のゲルシートをジクロロメタン槽に導き、ジクロロメタン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後ジクロロメタンを乾燥除去し、多孔体を得た。
次に、熱固定(HS)を行なうべく多孔体をTDテンターに導き、熱固定及び緩和操作を行った。TDテンターに入力した熱固定条件は、熱固定温度132℃、延伸倍率2.1倍でHSを行い、その後、TD1.9倍まで緩和操作を行って微多孔膜を得た。
その後、得られた微多孔膜について、端部を裁断し、幅1,100mm、長さ5,000mのマザーロールとして巻き取った。
上記の評価時には、マザーロールから巻き出した微多孔膜を必要に応じてスリットして、評価用A層として使用した。
得られた評価用A層について膜厚、透気度、気孔率等を測定し、表5に示した。
【0202】
<B層の作製>
無機粒子として95質量部の水酸化酸化アルミニウム(平均粒径1.4μm)と、イオン性分散剤として0.4質量部(固形分換算)のポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468、固形分濃度40%)とを、100質量部の水に均一に分散させて分散液を調整した。得られた分散液を、ビーズミル(セル容積200cc、ジルコニア製ビーズ径0.1mm、充填量80%)にて解砕処理し、無機粒子の粒度分布を、D50=1.0μmに調整し、無機粒子含有スラリーを作製した。
次に、上記微多孔膜マザーロールから微多孔膜を連続的に繰り出し、微多孔膜の片面に無機粒子含有スラリーをグラビアリバースコーターで塗工し、続いて60℃の乾燥機で乾燥させて水を除去し、巻き取って、セパレータのマザーロールを得た。
評価時には、マザーロールから巻き出したセパレータを必要に応じてスリットして、評価用セパレータとして使用した。
【0203】
[実施例III-2~III-14、及び比較例III-1~III-2]
表5に記載される物性値を目標に、ホモポリマーのポリエチレンの重量平均分子量と、設定延伸条件と、熱固定条件と、緩和操作条件と、の少なくともいずれか1つの条件を変更した。また、表5に記載されるとおりにB層における構成を変更した。
これらの変更以外は、実施例III-1と同様の手法により、セパレータを作製し、得られたセパレータを用いて上記の評価を行った。評価結果を表5に示す。
【表5】
【0204】
<実験グループIV>
[実施例IV-1]
<A層の作製>
(シラングラフト変性ポリオレフィンの作製)
粘度平均分子量100,000のポリエチレンを原料ポリエチレンとし、原料ポリエチレンを押出機で溶融混練しながら、有機過酸化物(ジ-t-ブチルパーオキサイド)を添加し、αオレフィンのポリマー鎖内でラジカルを発生させた後、トリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを注液し、付加反応により、αオレフィンポリマーへアルコキシシリル基を導入し、シラングラフト構造を形成させた。また、同時に反応系中のラジカル濃度を調整するために、酸化防止剤(ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-テトラ-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート])を適量添加し、αオレフィン内の鎖状連鎖反応(ゲル化)を抑制した。得られたシラングラフトポリオレフィン溶融樹脂を水中で冷却し、ペレット加工を行った後、80℃で2日加熱乾燥し、水分又は未反応のトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを除いた。なお、未反応のトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランのペレット中の残留濃度は、約1500ppm以下であった。
上記のようにトリメトキシアルコキシド置換ビニルシランを用いる変性反応によって、MFR(190℃)が0.4g/分のシラン変性ポリエチレンを得た。
【0205】
(A層の作製)
重量平均分子量750,000のホモポリマーのポリエチレン65質量%に、上記で得られたシラン変性ポリエチレン35質量%を合わせて樹脂配合物を形成し、その配合物へ酸化防止剤としてペンタエリスリチル-テトラキス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を1質量%添加し、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、混合物を得た。得られた混合物を、二軸押出機へ窒素雰囲気下でフィーダーにより供給した。また、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-5m2/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
押出機内で混合物と流動パラフィンを溶融混練し、押し出されるポリオレフィン組成物中に占める流動パラフィン量比が質量70%となるように(即ち、ポリマー濃度が30質量%となるように)、フィーダー及びポンプを調整した。溶融混練条件は、設定温度220℃、スクリュー回転数240rpm、及び吐出量18kg/時間であった。続いて、溶融混練物を、T-ダイを経て表面温度25℃に制御された冷却ロール上に押出しキャストすることにより、原反膜厚1280μmのゲルシート(シート状成型体)を得た。
【0206】
次に、シート状成型体を同時二軸テンター延伸機に導き、二軸延伸を行なって、延伸物を得た。設定延伸条件は、MD倍率7.0倍、TD倍率6.5倍(即ち、7×6.5倍)、二軸延伸温度125℃とした。
次に、延伸後のゲルシートをジクロロメタン槽に導き、ジクロロメタン中に充分に浸漬して流動パラフィンを抽出除去し、その後ジクロロメタンを乾燥除去し、多孔体を得た。
次に、熱固定(HS)を行なうべく多孔体をTDテンターに導き、熱固定温度131℃、延伸倍率1.9倍でHSを行い、その後、TD1.7倍まで緩和操作を行って微多孔膜を得た。
その後、得られた微多孔膜について、端部を裁断し、幅1,100mm、長さ5,000mのマザーロールとして巻き取った。
上記の評価時には、マザーロールから巻き出した微多孔膜を必要に応じてスリットして、評価用A層として使用した。
得られた評価用A層について膜厚、透気度、気孔率等を測定し、表6に示した。
【0207】
<B層の作製>
無機粒子として95質量部の水酸化酸化アルミニウム(平均粒径1.4μm)と、イオン性分散剤として0.4質量部(固形分換算)のポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468、固形分濃度40%)とを、100質量部の水に均一に分散させて分散液を調整した。得られた分散液を、ビーズミル(セル容積200cc、ジルコニア製ビーズ径0.1mm、充填量80%)にて解砕処理し、無機粒子の粒度分布を、D50=1.0μmに調整し、無機粒子含有スラリーを作製した。
次に、上記微多孔膜マザーロールから微多孔膜を連続的に繰り出し、微多孔膜の片面に無機粒子含有スラリーをグラビアリバースコーターで塗工し、続いて60℃の乾燥機で乾燥させて水を除去し、巻き取って、セパレータのマザーロールを得た。
評価時には、マザーロールから巻き出したセパレータを必要に応じてスリットして、評価用セパレータとして使用した。
【0208】
[実施例IV-2~IV-3、及び比較例IV-1~IV-2]
表6に記載される物性値を目標に、ホモポリマーのポリエチレンの重量平均分子量と、設定延伸条件と、熱固定条件と、緩和操作条件と、の少なくともいずれか1つの条件を変更した。また、表6に記載されるとおりにB層における構成を変更した。
これらの変更以外は、実施例IV-1と同様の手法により、セパレータを作製し、得られたセパレータを用いて上記の評価を行った。評価結果を表6に示す。
【表6】
【0209】
<実験グループV>
特許文献5(特開2001-176484号公報)に示される実施例1~3及び比較例2~3と同様に多孔膜を形成し、それぞれ多孔膜V-1~V-5と表示した。多孔膜V-1~V-5について、特許文献5に記載の方法に従ってゲル分率(%)、耐熱温度(℃)及び針貫通強度(gf/25μm)を評価し、さらに本明細書の上記項目<TMA破膜温度>に従って荷重下TMA破膜温度を測定した。結果を表7に示す。
【0210】
【0211】
表7から下記の点が明らかである。
(a)特許文献5に記載の耐熱温度は、荷重の掛かっていない条件下の測定温度であるため、本発明の第一、第二及び第三実施形態で説明されたTMA破膜温度ではない。
(b)特許文献5の実施例1~3及び比較例2~3に示されるように温度90℃、湿度95%及び4時間の条件下で架橋処理された多孔膜V-1~V-5について、本明細書の上記項目<TMA破膜温度>の条件下でTMA破膜温度を測定すると、TMA破膜温度が180℃未満になる。