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特許7167305鋼板表面コーティング用組成物及びそれを用いて表面がコーティングされた鋼板
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  • 特許-鋼板表面コーティング用組成物及びそれを用いて表面がコーティングされた鋼板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】鋼板表面コーティング用組成物及びそれを用いて表面がコーティングされた鋼板
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20221031BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20221031BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20221031BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20221031BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20221031BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20221031BHJP
   C09D 4/06 20060101ALI20221031BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20221031BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20221031BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D5/08
C09D7/61
C09D7/63
C09D7/65
C09D7/20
C09D4/06
C23C26/00 A
B32B15/08 Q
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021505885
(86)(22)【出願日】2019-08-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-02
(86)【国際出願番号】 KR2019009839
(87)【国際公開番号】W WO2020032557
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-04-02
(31)【優先権主張番号】10-2018-0092319
(32)【優先日】2018-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(73)【特許権者】
【識別番号】513243815
【氏名又は名称】ノル コイル コーティングズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 チャン-フン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ドン-ユン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 ウォン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】ユン、 ヒ-ジャ
(72)【発明者】
【氏名】コ、 ジェ-ドク
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-536895(JP,A)
【文献】特開2018-020486(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0034123(KR,A)
【文献】特開2012-036396(JP,A)
【文献】特開2002-036427(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2007-0068526(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D,C23C,B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形分重量で、コロイドシリカ30~50重量%と、
シラン40~60重量%と、
モノマー5~15重量%と、
有機樹脂0.1~5.0重量%と、
酸度調整剤0.01~1.00重量%と、
長期耐食性向上剤10.60重量%と、を含有し、
前記長期耐食性向上剤はセリウム(IIIニトレートを含む化合物であり、
前記有機樹脂は、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸、アクリル酸とメタクリル酸の共重合体、エチレンと(メタ)アクリル酸の共重合体、エチレンと(メタ)アクリレートの共重合体、エチレンと酢酸ビニルの共重合体、ポリウレタン、アミノ変性フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、及びエポキシ樹脂からなる群から選択される1つ以上のものである、鋼板表面コーティング用組成物。
【請求項2】
前記コロイドシリカの粒子サイズは5nm~50nmである、請求項1に記載の鋼板表面コーティング用組成物。
【請求項3】
前記シランは、3個以上のアルコキシ基を含む、請求項1に記載の鋼板表面コーティング用組成物。
【請求項4】
前記シランは、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、2-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、2-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、2-アミノプロピルトリエトキシシラン、2-ウレイドアルキルトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリエトキシフェニルシラン、及びトリメトキシフェニルシランからなる群から選択される1つ以上のものである、請求項3に記載の鋼板表面コーティング用組成物。
【請求項5】
前記モノマーは、アクリル酸グレイシャル(glacial)、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert-ブチルアクリレート、tert-ブチルメタクリレート、ブタンジオールモノアクリレート、ラウリルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、及びジヒドロジシクロペンタジエニルアクリレートからなる群から選択される1つ以上のものである、請求項1に記載の鋼板表面コーティング用組成物。
【請求項6】
前記酸度調整剤は、酢酸、ギ酸、乳酸、グルコン酸、硫酸、硝酸、塩酸、及びフッ化水素酸からなる群から選択される1つ以上のものである、請求項1に記載の鋼板表面コーティング用組成物。
【請求項7】
溶剤をさらに含み、前記溶剤は、溶剤を含む組成物の全重量に対して1~15重量%含まれる、請求項1からの何れか一項に記載の鋼板表面コーティング用組成物。
【請求項8】
前記溶剤は、メタノール、エタノール、2-プロパノール、2-メトキシプロパノール、及び2-ブトキシエタノールからなる群から選択される1つ以上のものである、請求項に記載の鋼板表面コーティング用組成物。
【請求項9】
請求項1からの何れか一項に記載の鋼板表面コーティング用組成物により表面にコーティング層が形成された、表面コーティング鋼板。
【請求項10】
前記コーティング層の厚さは0.1~50μmである、請求項に記載の表面コーティング鋼板。
【請求項11】
70℃の硫酸50vol%の水溶液に6時間浸漬させた後の鋼板の腐食減量が15mg/cm・hr未満である、請求項に記載の表面コーティング鋼板。
【請求項12】
60℃の硫酸16.9vol%及び塩酸0.35vol%の混合水溶液に6時間浸漬させた後の鋼板の腐食減量が3mg/cm・hr未満である、請求項に記載の表面コーティング鋼板。
【請求項13】
70℃の硫酸50vol%の水溶液に96時間浸漬させた後に、試験片の最も薄い厚さが初期厚さの25%以上である、請求項に記載の表面コーティング鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸耐食性の向上のための鋼板表面コーティング用組成物、それを用いて表面がコーティングされた鋼板、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、硫黄などが含まれた燃料を燃焼させる時に発生する硫黄酸化物、窒素酸化物などが露点以下の温度で大気中の水分と接触して構造物の表面に付着して進行する露点腐食を低減させるコーティング組成物、及び上記組成物がコーティングされた鋼板に関する。
【0003】
硫黄酸化物や窒素酸化物などが水分と接触すると、硫酸、硝酸などの強酸になるが、火力発電所の熱交換器、ダクト(Duct)などの設備は、かかる強酸による腐食環境に露出しやすく、構造物の表面で腐食反応が進行する。
【0004】
このような露点腐食を防止するために、従来は、高価のステンレス鋼またはホーロー鋼板を用いたり、相対的に低価であり、かつ露点腐食に対する抵抗性が大きい耐硫酸鋼などを適用していた。
【0005】
しかし、ホーロー鋼板を除いた殆どの素材は、表面に別のコーティング層を設けずに用いられるため、表面で進行する露点腐食を防止することができていない。
【0006】
そこで、本発明では、強酸に対する抵抗性が高いコーティングを構造物の表面に適用することで、耐食性を向上させ、製品の寿命を増加させようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】韓国特許第10-1417295号公報
【文献】韓国特許第10-1560902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の先行技術文献は何れも、鋼板自体の成分を調整することで強酸に対する耐食性を向上させようとしている。
【0009】
しかし、本発明は、鋼板の表面コーティングにより硫酸または塩酸などの強酸に対する耐食性を向上させようとし、鋼板の局所腐食を改善し、長期耐食性を向上させようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態によると、固形分重量で、コロイドシリカ30~50重量%と、シラン40~60重量%と、モノマー5~15重量%と、有機樹脂0.1~5.0重量%と、酸度調整剤0.01~1.00重量%と、長期耐食性向上剤0.01~12重量%と、を含有し、上記長期耐食性向上剤はセリウム(Ce)を含む化合物である、鋼板表面コーティング用組成物を提供する。
【0011】
上記コロイドシリカの粒子サイズは5nm~50nmであることができる。
【0012】
上記シランは、3個以上のアルコキシ基を含むことができ、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、2-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、2-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、2-アミノプロピルトリエトキシシラン、2-ウレイドアルキルトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリエトキシフェニルシラン、及びトリメトキシフェニルシランからなる群から選択される1つ以上のものであってよい。
【0013】
上記モノマーは、アクリル酸グレイシャル(glacial)、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert-ブチルアクリレート、tert-ブチルメタクリレート、ブタンジオールモノアクリレート、ラウリルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、及びジヒドロジシクロペンタジエニルアクリレートからなる群から選択される1つ以上のものであってよい。
【0014】
上記有機樹脂は、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸、アクリル酸とメタクリル酸の共重合体、エチレンと(メタ)アクリル酸の共重合体、エチレンと(メタ)アクリレートの共重合体、エチレンと酢酸ビニルの共重合体、ポリウレタン、アミノ変性フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、及びエポキシ樹脂からなる群から選択される1つ以上のものであってよい。
【0015】
上記酸度調整剤は、酢酸、ギ酸、乳酸、グルコン酸、硫酸、硝酸、塩酸、及びフッ化水素酸からなる群から選択される1つ以上のものであってよい。
【0016】
上記長期耐食性向上剤は、セリウム(III)ニトレート、ヒドロニウムセリウムニトレートヒドレート、セリウムニトレートヘキサヒドレート、セリウム(IV)ニトレート、ジポタシウムジアクアペンタニトラトセレート、ジポタシウムヘキサニトラトセレート、トリポタシウムジセリウムニトレート、ジアンモニウムジアクアペンタニトラトセレートジヒドレート、ジルビジウムジアクアペンタニトラトセレートジヒドレート、ジセシウムジアクアペンタニトラトセレートジヒドレート、ジタリウムジアクアペンタニトラトセレートジヒドレート、ビス4-(4H-1,2,4-トリアゾール4イル)イミノメチルピリジニウムジアクアペンタニトラトセレート、1,10-フェナントロリン-H-ジアクアペンタニトラトセレート、ヒドロニウムセリウムニトレートヒドレート、セリックマグネシウムニトレート、セリックジンクニトレート、セリックニッケルニトレート、セリックコバルトニトレート、及びセリックマンガンニトレートからなる群から選択される1つ以上のものであってよい。
【0017】
上記組成物は溶剤をさらに含み、上記溶剤は、溶剤を含む組成物の全重量に対して1~15重量%含まれ、メタノール、エタノール、2-プロパノール、2-メトキシプロパノール、及び2-ブトキシエタノールからなる群から選択される1つ以上のものであってよい。
【0018】
本発明の他の実施形態によると、鋼板表面コーティング用組成物により表面にコーティング層が形成された表面コーティング鋼板を提供する。
【0019】
上記コーティング層の厚さは0.1~50μmであってよい。
【0020】
上記鋼板は、70℃の硫酸50vol%の水溶液に6時間浸漬させた後の腐食減量が15mg/cm・hr未満であり、60℃の硫酸16.9vol%及び塩酸0.35vol%の混合水溶液に6時間浸漬させた後の腐食減量が3mg/cm・hr未満であってよい。
【0021】
上記鋼板は、70℃の硫酸50vol%の水溶液に96時間浸漬させた後、試験片の最も薄い厚さが初期厚さの25%以上であってよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一実施形態による鋼板表面コーティング用組成物中の各成分の含量の範囲を特定することで、上記組成物を鋼板にコーティングした際に塗膜密着性が向上し、硫酸耐食性、複合耐食性が改善される効果がある。
【0023】
また、上記鋼板表面コーティング用組成物は、長期耐食性向上剤を含むことで、表面がコーティングされた鋼板が強酸に長時間露出した場合にも、残存鋼板の厚さの均一性が維持され、長期耐食性に優れる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】長期耐食性評価において、局所腐食により縁が剥落した鋼板の試験片(左)及び良好な試験片(右)を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は様々な他の形態に変形可能であり、本発明の範囲が以下で説明する実施形態に限定されるものではない。
【0026】
本発明は、鋼板の表面にコーティングすることができる鋼板表面コーティング用組成物に関する。上記表面コーティング用組成物は、コロイドシリカ、シラン、モノマー、有機樹脂、酸度調整剤、長期耐食性向上剤を含む。
【0027】
本発明の鋼板表面コーティング用組成物において、ナノ粒子のコロイドシリカは、粒子サイズが5~50nmであることが好ましい。上記シリカの粒子サイズが5nm未満である場合には、シリカの表面積が大きすぎて、シリカと反応するシランの量が相対的に不足するようになり、シリカの表面が十分に改質されず、結果的に酸耐食性が低下する。一方、シリカの粒子サイズが50nmを超える場合には、シリカ間の空隙率(porosity)が高くて酸耐食性が低下するという問題がある。
【0028】
上記コロイドシリカは、シランとゾル-ゲル(sol-gel)反応により中間体を形成し、上記中間体とモノマーが反応して主樹脂が合成されることになり、これに有機樹脂を添加することで有機・無機混合樹脂が形成される。
【0029】
本発明の鋼板表面コーティング用組成物において、コロイドシリカは、鋼板表面コーティング用組成物に対して30~50重量%含まれることができる。上記コロイドシリカの含量が30重量%未満である場合には、シランと十分に結合されず、硬度が減少するため、酸耐食性を確保できなくなり得る。コロイドシリカの含量が50重量%を超える場合には、シランと結合されなかったシリカが残存して塗膜の形成が低下し、これにより、酸耐食性を確保できなくなるおそれがある。
【0030】
本発明の鋼板表面コーティング用組成物において、シランの種類は特に制限されないが、アルコキシ基を3個以上有し、加水分解後に安定化するシランであることが好ましい。
【0031】
上記シランは、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ-イソプロポキシシラン、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、2-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、2-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、2-アミノプロピルトリエトキシシラン、2-ウレイドアルキルトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリエトキシフェニルシラン、及びトリメトキシフェニルシランからなる群から選択される1つ以上のものを含むことができる。
【0032】
また、上記シランは、鋼板表面コーティング用組成物に対して40~60重量%含まれることができる。上記シランの含量が40重量%未満である場合には、コロイドシリカと十分な結合を形成することができないため塗膜の形成が低下し、これにより、酸耐食性を確保できなくなる可能性がある。シランの含量が60重量%を超える場合には、熱分解による有機ガスが排出されることがあり、多量のシラノールが残存して塗膜密着性が低下し、これにより、酸耐食性を確保できなくなるおそれがある。
【0033】
本発明の鋼板表面コーティング用組成物において、モノマーは、鋼板のコーティング時における塗膜形成及び架橋反応に寄与するものであって、モノマーの種類は特に制限されないが、アクリル酸グレイシャル(glacial)、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert-ブチルアクリレート、tert-ブチルメタクリレート、ブタンジオールモノアクリレート、ラウリルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、及びジヒドロジシクロペンタジエニルアクリレートからなる群から選択される1つ以上のものが好ましい。
【0034】
上記モノマーは、鋼板表面コーティング用組成物に対して5~15重量%含まれることができる。上記モノマーの含量が5重量%未満である場合には、シリカ及び合成シラン重合体と十分な結合が形成されないため塗膜の形成が低下し、これにより、酸耐食性を確保できなくなる可能性がある。モノマーの含量が15重量%を超える場合には、反応しなかった残存モノマーにより耐水性及び酸耐食性が低下するという問題が発生する。
【0035】
本発明の鋼板表面コーティング用組成物において、有機樹脂は、鋼板との付着性を増大させ、乾燥性を向上させるために用いられる。上記有機樹脂の種類は特に制限されないが、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸、アクリル酸とメタクリル酸の共重合体、エチレンと(メタ)アクリル酸の共重合体、エチレンと(メタ)アクリレートの共重合体、エチレンと酢酸ビニルの共重合体、ポリウレタン、アミノ変性フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、及びエポキシ樹脂からなる群から選択される1つ以上のものであることができる。
【0036】
上記有機樹脂は、鋼板表面コーティング用組成物に対して0.1~5.0重量%含まれることができる。有機樹脂の含量が0.1重量%未満である場合には、鋼板のコーティング時における付着性が低下し、乾燥しにくいため酸耐食性が確保されないおそれがある。有機樹脂の含量が5.0重量%を超える場合には、耐水性が低下し、塗膜剥離現象が発生し得る。
【0037】
本発明の鋼板表面コーティング用組成物において、酸度調整剤は、シランの加水分解を促進し、安定性を向上させるためのものである。上記酸度調整剤の種類は特に制限されないが、酢酸、ギ酸、乳酸、グルコン酸などの有機酸、硫酸、硝酸、塩酸、フッ化水素酸などの無機酸、及び上記有機酸と無機酸の混合物からなる群から選択される1つ以上のものであってよい。
【0038】
上記酸度調整剤は、鋼板表面コーティング用組成物に対して0.01~1.00重量%含まれることができる。酸度調整剤の含量が0.01重量%未満である場合には、加水分解にかかる時間が増加し、全体組成物の溶液安定性が低下する可能性がある。上記酸度調整剤の含量が1.00重量%を超える場合には、酸度調整剤により鋼板の腐食が発生するおそれがあり、シリコン樹脂の分子量を制御することが困難になり得る。
【0039】
本発明の鋼板表面コーティング用組成物において、長期耐食性向上剤は、鋼板のコーティング後に発生する局所腐食を改善し、残存鋼板の厚さの均一性を向上させる役割を果たす。上記長期耐食性向上剤の種類は特に制限されないが、セリウムを含む化合物であることが好ましい。この際、セリウムは、鋼板のコーティング層で、可溶性の3価と不溶性の4価が共存することができ、上記鋼板が硫酸または塩酸などの強酸と接触すると、3価のセリウムが移動して4価のセリウムに転移し、強酸に露出した部分に被膜を形成することで、酸に対する長期耐食性が向上する。
【0040】
上記セリウムを含む化合物は、セリウム(III)ニトレート、ヒドロニウムセリウムニトレートヒドレート、セリウムニトレートヘキサヒドレート、セリウム(IV)ニトレート、ジポタシウムジアクアペンタニトラトセレート、ジポタシウムヘキサニトラトセレート、トリポタシウムジセリウムニトレート、ジアンモニウムジアクアペンタニトラトセレートジヒドレート、ジルビジウムジアクアペンタニトラトセレートジヒドレート、ジセシウムジアクアペンタニトラトセレートジヒドレート、ジタリウムジアクアペンタニトラトセレートジヒドレート、ビス4-(4H-1,2,4-トリアゾール4イル)イミノメチルピリジニウムジアクアペンタニトラトセレート、1,10-フェナントロリン-H-ジアクアペンタニトラトセレート、ヒドロニウムセリウムニトレートヒドレート、セリックマグネシウムニトレート、セリックジンクニトレート、セリックニッケルニトレート、セリックコバルトニトレート、セリックマンガンニトレートなどからなる群から選択される1つ以上のものであってよい。
【0041】
上記長期耐食性向上剤は、鋼板表面コーティング用組成物に対して0.01~12重量%含まれることができる。長期耐食性向上剤の含量が0.01重量%未満である場合には、長期耐食性の向上効果が微小であって鋼板の一部がすり減るおそれがあり、上記含量が12重量%を超える場合には、長期耐食性の向上効果が微小であり、溶液安定性が低下し得る。
【0042】
本発明の鋼板表面コーティング用組成物は溶剤を含むことができ、上記溶剤は、シランの水に対する相溶性と加水分解性、組成物の金属表面に対する濡れ(wetting)性、乾燥速度などを調節する役割を果たす。上記溶剤の種類は特に制限されないが、好ましくは、メタノール、エタノール、2-プロパノール、2-メトキシプロパノール、2-ブトキシエタノールなどからなる群から選択される1つ以上のものを含むことができる。
【0043】
上記溶剤は、鋼板表面コーティング用組成物に対して1~15重量%含まれることができる。上記溶剤の含量が1重量%未満である場合には、相溶性が低下して組成物の貯蔵性が低下し、コーティング後の酸耐食性を確保できなくなる可能性がある。溶剤の含量が15重量%を超える場合には、溶液の粘度が低くなりすぎて安定性が低下し、コーティング後の酸耐食性を確保できなくなるおそれがある。
【0044】
本発明において、鋼板表面コーティング用組成物をコーティング液として鋼板をコーティングすることで、酸耐食性が向上した鋼板を製造することができる。表面がコーティングされた鋼板は、上記鋼板表面コーティング用組成物に鋼板を浸漬させる段階と、150~420℃のオーブンで乾燥及び硬化させる段階と、により製造される。上記組成物が適用されたコーティング層の厚さは0.1~50μmであることが好ましい。上記厚さが0.1μm未満である場合には、コーティング層の厚さが薄いため、硫酸などの強酸に露出した際に腐食しやすいという問題があり、50μmを超える場合には、塗膜密着性が低下し、これにより、加工後に硫酸耐食性が低下するため好ましくない。
【実施例
【0045】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。下記実施例は、本発明の理解のためのものに過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0046】
1.実施例1~4及び比較例1~10
本発明の鋼板表面コーティング用組成物の製造方法は次のとおりである。先ず、コロイドシリカLudox HSA(固形分30%、粒子サイズ12nm、W.R.Grace&Co.-Conn.)に、テトラエトキシシラン、溶剤であるエタノール、酸度調整剤である酢酸、及び長期耐食性向上剤であるセリウム(III)ニトレートをそれぞれ添加した後、温度が約50℃を超えないように冷却させながら約5時間撹拌した。この際、シランが加水分解され、コロイドシリカは、シランにより表面改質が起こる。十分に反応させた後、モノマーであるエチルアクリレートと有機樹脂であるポリ(メタ)アクリル酸をそれぞれ添加し、さらに約24時間反応させた。
【0047】
下記表1に示す組成で製造された鋼板表面コーティング用組成物に鋼板を浸漬させてから取り出した後、約250℃のオーブンに入れて乾燥及び硬化させることで、表面がコーティングされた鋼板を製造した。このように表面がコーティングされた鋼板の硫酸腐食条件における腐食特性を調べるために、70℃に維持される硫酸50vol%の水溶液に鋼板試験片を6時間浸漬させた後、試験片の腐食減量を測定した。また、硫酸-塩酸複合腐食条件における腐食特性を調べるために、60℃に維持される硫酸16.9vol%+塩酸0.35vol%の混合水溶液に鋼板試験片を6時間浸漬させた後、試験片の腐食減量を測定した。
【0048】
【表1】
【0049】
2.比較例11
長期耐食性向上剤として三酸化バナジウムを使用したことを除き、実施例3と同様の方法により鋼板表面コーティング用組成物を製造した。
【0050】
上記で製造された鋼板表面コーティング用組成物に鋼板を浸漬させてから取り出した後、約250℃のオーブンに入れて乾燥及び硬化させることで、表面がコーティングされた鋼板を製造した。このように表面がコーティングされた鋼板の硫酸腐食条件における腐食特性を調べるために、70℃に維持される硫酸50vol%の水溶液に鋼板試験片を6時間浸漬させた後、試験片の腐食減量を測定した。また、硫酸-塩酸複合腐食条件における腐食特性を調べるために、60℃に維持される硫酸16.9vol%+塩酸0.35vol%の混合水溶液に鋼板試験片を6時間浸漬させた後、試験片の腐食減量を測定した。
【0051】
実施例及び比較例で製造された鋼板表面コーティング用組成物、及び表面がコーティングされた鋼板に対して、下記提示された方法によりその物性を測定した。
【0052】
(1)硫酸耐食性
上記実施例及び比較例で製造された表面がコーティングされた鋼板を直径38mmのサイズに裁断して試験片を製造した後、70℃に維持される硫酸50vol%の水溶液に6時間浸漬させてから試験片の腐食減量を測定した。
【0053】
<硫酸耐食性の評価基準>
○:15mg/cm・hr未満
△:15mg/cm・hr以上65mg/cm・hr未満
×:65mg/cm・hr以上
【0054】
(2)複合耐食性
上記実施例及び比較例で製造された表面がコーティングされた鋼板を直径38mmのサイズに裁断して試験片を製造した後、60℃に維持される硫酸16.9vol%+塩酸0.35vol%の混合水溶液に6時間浸漬させてから試験片の腐食減量を測定した。
【0055】
<複合耐食性の評価基準>
○:3mg/cm・hr未満
△:3mg/cm・hr以上6mg/cm・hr未満
×:6mg/cm・hr以上
【0056】
(3)塗膜密着性
上記実施例及び比較例で製造された表面がコーティングされた鋼板を150cm×75cm(横×縦)のサイズに裁断して試験片を製造し、上記試験片の表面を、クロスカットガイド(cross cut guide)を用いて、横及び縦にそれぞれ100個のます目が形成されるように1mmの間隔で線を引き、上記100個のます目が形成された部分を、エリクセン(Erichsen)試験機を用いて6mmの高さに押し上げ、押し上げた部位に剥離テープ(NB-1、Ichiban社製)を付着した後に剥がしながら、エリクセン部分が剥離されるか否かを観察した。
【0057】
<塗膜密着性の評価基準>
○:表面の剥離がない場合
△:表面の剥離が100個のうち1個~3個である場合
×:表面の剥離が100個のうち3個を超えた場合
【0058】
(4)加工後の硫酸耐食性
上記実施例及び比較例で製造された表面がコーティングされた鋼板を直径38mmのサイズに裁断して試験片を製造し、上記試験片を、エリクセン(Erichsen)試験機を用いて6mmの高さに加工した後、70℃に維持される硫酸50vol%の水溶液に6時間浸漬させてから試験片の腐食減量を測定した。
【0059】
<加工後の硫酸耐食性の評価基準>
○:15mg/cm・hr未満
△:15 cm・hr以上65mg/cm・hr未満
×:65mg/cm・hr以上
【0060】
(5)長期耐食性(最小厚さ)
上記実施例及び比較例で製造された表面がコーティングされた鋼板を直径38mmのサイズに裁断して試験片を製造した後、70℃に維持される硫酸50vol%の水溶液に96時間浸漬させてから試験片の腐食減量を測定し、初期厚さに対する、腐食後の試験片の最も薄い厚さを測定して%で表示した。
【0061】
<長期耐食性の評価基準>
○:初期厚さに対して25%以上
△:初期厚さに対して8%以上25%未満
×:初期厚さに対して8%未満
【0062】
上記実施例1~4及び比較例1~10で製造された表面コーティング鋼板に対する物性測定結果を下記表2に記載した。
【0063】
【表2】
【0064】
上記表2に示されたように、本発明による実施例1~4は、硫酸耐食性、複合耐食性、及び塗膜密着性に非常に優れていることが分かる。また、コーティング及び乾燥過程であわ現象などの表面欠陥が発生しないため、非常に良好な表面品質を確保し、硫酸に長時間浸漬しても、残存鋼板の厚さの均一性が維持されたことが確認できる。
【0065】
しかし、比較例1の場合には、コロイドシリカが過量で添加され、シランとの反応後に多量のコロイドシリカが残留してコーティング層の形成を妨害したため、硫酸耐食性と複合耐食性が著しく低下し、塗膜密着性にも劣ることが分かる。
【0066】
また、比較例2の場合には、シランの含量が不足して、比較例1と同様にコロイドシリカの表面が十分に改質されず、これにより、多量の残留シリカがコーティング層の形成を妨害したため、硫酸耐食性と複合耐食性を低下させ、塗膜密着性にも劣ることが分かる。
【0067】
一方、比較例3は、酸度調整剤が過量で添加されてシランの加水分解が促進されるため、有・無機混合樹脂の分子量が過度に増加し、溶液のゲル化(gelation)が起こるか、コーティングをしても硫酸耐食性や複合耐食性が低下することが分かる。また、残留した酸度調整剤により、鋼板の腐食が進行するおそれもある。
【0068】
また、比較例4は、溶剤が含まれていないため、鋼板表面コーティング用組成物の製造過程でゲル化(gelation)が起こりやすく、鋼板コーティング後に硫酸耐食性と複合耐食性が低下することが分かる。
【0069】
比較例5と比較例6の場合にはそれぞれ、モノマーと有機樹脂が過量で添加されているが、このように無機成分に対して有機成分の含量が過量である場合、硫酸耐食性及び複合耐食性が低下することが分かる。
【0070】
比較例7は、シランの含量が過量で添加され、鋼板表面コーティング用組成物の製造過程で熱分解による有機ガスが排出されるおそれがあり、多量の残存シランにより、コーティング後に硫酸耐食性及び複合耐食性が低下することが分かる。
【0071】
比較例8は、コーティング層の厚さが不足して、硫酸耐食性、複合耐食性、加工後の硫酸耐食性及び長期耐食性に劣ることが分かる。
【0072】
比較例9は、長期耐食性向上剤が添加されなかったため、長期耐食性に劣ることが分かる。
【0073】
比較例10は、コーティング層の厚さが適正な厚さを超え、塗膜密着性と加工後の硫酸耐食性が低下することが分かる。
【0074】
比較例11は、長期耐食性向上剤として三酸化バナジウムを使用したため、4価のセリウム被膜を形成した実施例3と比較して長期耐食性に劣ることが分かる。
図1