(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-28
(45)【発行日】2022-11-08
(54)【発明の名称】心腔内除細動カテーテル
(51)【国際特許分類】
A61N 1/39 20060101AFI20221031BHJP
【FI】
A61N1/39
(21)【出願番号】P 2021506806
(86)(22)【出願日】2019-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2019010909
(87)【国際公開番号】W WO2020188642
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】594170727
【氏名又は名称】日本ライフライン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 卓也
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-063708(JP,A)
【文献】特開2012-050673(JP,A)
【文献】特開2011-206268(JP,A)
【文献】特表2009-531084(JP,A)
【文献】特許第4338530(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側チューブと基端側チューブとからなる絶縁性のチューブ部材と、前記チューブ部材の基端に接続されたハンドルと、前記チューブ部材の前記先端側チューブに装着された複数のリング状電極からなる第1電極群と、前記第1電極群から基端側に離間して前記先端側チューブに装着された複数のリング状電極からなる第2電極群とを備えてなり、前記第1電極群と前記第2電極群とに互いに異なる極性の電圧を印加することにより心腔内において除細動を行うカテーテルであって、
下記の第1シャフト部分~第5シャフト部分の各々について、支点間距離を70mmとし、その中間点に曲げ荷重をかけて撓み量を10mmとする3点曲げ試験を行ったときに、前記シャフト部分の各々について測定された曲げ荷重L1~L5において、L1<L2<L3<L4<L5の関係が成立することを特徴とする心腔内除細動カテーテル。
(記)
・第1シャフト部分:カテーテルシャフトの先端から前記第1電極群の基端位置までのシャフト部分
・第2シャフト部分:前記第1電極群の基端位置から前記第2電極群の先端位置までのシャフト部分
・第3シャフト部分:前記第2電極群の先端位置から当該第2電極群の基端位置までのシャフト部分
・第4シャフト部分:前記第2電極群の基端位置から前記先端側チューブの基端位置までのシャフト部分
・第5シャフト部分:前記基端側チューブからなるシャフト部分
【請求項2】
前記第1シャフト部分の曲げ荷重L1の値が120gf以下であり、
前記第4シャフト部分の曲げ荷重L4の値が350gf以上であることを特徴とする請求項1に記載の心腔内除細動カテーテル。
【請求項3】
前記第1シャフト部分を構成する前記先端側チューブの表面硬度をH1、前記第2シャフト部分を構成する前記先端側チューブの表面硬度をH2とするとき、H2とH1との差が16D~35Dであることを特徴とする請求項1または2に記載の心腔内除細動カテーテル。
【請求項4】
前記第3シャフト部分を構成する前記先端側チューブの表面硬度をH3、前記第4シャフト部分を構成する前記先端側チューブの表面硬度をH4とするとき、H4とH3との差が2D~16Dであることを特徴とする請求項3に記載の心腔内除細動カテーテル。
【請求項5】
前記第1電極群が冠状静脈洞内に位置し、前記第2電極群が右心房内に位置するように心腔内に配置されることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の心腔内除細動カテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心腔内に挿入されて、心房細動を除去する心腔内除細動カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓カテーテル術中に心房細動が起った場合には電気的除細動を行う必要がある。
そのような除細動を心腔内において行うためのカテーテルとして、本出願人は、マルチルーメン構造を有する絶縁性のチューブ部材と、チューブ部材の基端に接続されたハンドルと、チューブ部材の先端部分に装着された複数のリング状電極からなる第1DC電極群と、第1DC電極群から基端側に離間してチューブ部材の先端部分に装着された複数のリング状電極からなる第2DC電極群と、第1DC電極群を構成する電極の各々に接続されたリード線からなる第1リード線群と、第2DC電極群を構成する電極の各々に接続されたリード線からなる第2リード線群と、チューブ部材の先端部分を撓ませてカテーテルの先端を偏向させるために、チューブ部材の中心軸から偏心して当該チューブ部材内に延在し、その後端が引っ張り操作可能である操作用ワイヤとを備えてなり、前記第1リード線群と前記第2リード線群と前記操作用ワイヤとが、前記チューブ部材の互いに異なるルーメンに延在しており、除細動を行うときには、前記第1DC電極群と、前記第2DC電極群とに、互いに異なる極性の電圧が印加される心腔内除細動カテーテルを提案している(下記特許文献1参照)。
【0003】
このような構成の心腔内除細動カテーテルの先端部分を上大静脈から右心房内に挿入し、更に、右心房の後下壁にある冠状静脈洞の開口(冠状静脈洞口)に挿入することにより、第1DC電極群が冠状静脈洞内に位置し、第2DC電極群が右心房内に位置するように配置した後、第1DC電極群と第2DC電極群とに、互いに異なる極性の電圧を印加する。これにより、心房細動を起こしている心臓に対して、除細動に必要かつ十分な電気エネルギーを与えることができる。
【0004】
また、最近では、心腔内除細動カテーテルの先端部分を下大静脈から右心房内に挿入し、挿入された先端部分によって右心房内でループを形成してから冠状静脈洞口に挿入する手技も行われている。このような手技(下大静脈からのアプローチ)によれば、心腔内除細動カテーテルを上大静脈から右心房内に挿入して冠状静脈洞口に挿入する手技(上大静脈からのアプローチ)と比較して侵襲性が低く、また、術後の美容の観点からも好ましいとされる。
【0005】
従来、心腔内除細動カテーテルにおいては、操作性を良好なものとするために、絶縁性のチューブ部材の硬度が先端側から基端側に向けて段階的に高くなるように構成されている(例えば、下記特許文献の段落[0027]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の心腔内除細動カテーテルにおける操作性は必ずしも良好であるとはいえない。
本発明は、このような事情に基いてなされたものであって、その目的は、操作性、特に
、第1電極群が装着されてなるカテーテルの先端部分を冠状静脈洞へ挿入する際の操作性に優れた心腔内除細動カテーテルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明者が鋭意検討を重ねたところ、除細動カテーテルにおいては、幅の広いリング状電極が密に配列されてなる電極群(第1電極群および第2電極群)がチューブ部材の先端部分に装着されているため、チューブ部材の硬度を先端側から基端側に向けて段階的に高くするだけでは操作性を向上させることができず、電極(群)が装着されたシャフトとしての剛性を先端側から基端側に向けて段階的に高くすることによりはじめて良好な操作性を発揮できることを見出し、かかる知見に基いて本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の心腔内除細動カテーテルは、先端側チューブと基端側チューブとからなる絶縁性のチューブ部材と、前記チューブ部材の基端に接続されたハンドルと、前記チューブ部材の前記先端側チューブに装着された複数のリング状電極からなる第1DC電極群と、前記第1DC電極群から基端側に離間して前記先端側チューブに装着された複数のリング状電極からなる第2DC電極群とを備えてなり、前記第1DC電極群と前記第2DC電極群とに互いに異なる極性の電圧を印加することにより心腔内において除細動を行うカテーテルであって、下記の第1シャフト部分~第5シャフト部分の各々について、支点間距離を70mmとし、その中間点に曲げ荷重をかけて撓み量を10mmとする3点曲げ試験を行ったときに、前記シャフト部分の各々について測定された曲げ荷重L1~L5において、L1<L2<L3<L4<L5の関係が成立することを特徴とする。
【0010】
・第1シャフト部分:カテーテルシャフトの先端から前記第1DC電極群の基端位置までのシャフト部分
・第2シャフト部分:前記第1DC電極群の基端位置から前記第2DC電極群の先端位置までのシャフト部分
・第3シャフト部分:前記第2DC電極群の先端位置から当該第2DC電極群の基端位置までのシャフト部分
・第4シャフト部分:前記第2DC電極群の基端位置から前記先端側チューブの基端位置までのシャフト部分
・第5シャフト部分:前記基端側チューブからなるシャフト部分
【0011】
このような構成の心腔内除細動カテーテルによれば、電極(群)が装着されたシャフトとしての曲げ剛性が、先端側から基端側に向けてを段階的に高くなっているので、優れた操作性を発揮することができる。
【0012】
本発明の心腔内除細動カテーテルにおいて、前記第1シャフト部分の曲げ荷重L1の値が120gf以下であり、前記第4シャフト部分の曲げ荷重L4の値が350gf以上であることが好ましい。
【0013】
曲げ荷重L1が120gf以下である第1シャフト部分は柔軟性を有し、冠状静脈洞への挿入性に特に優れている。
また、第4シャフト部分の曲げ荷重L4が350gf以上であることにより、第1シャフト部分から第4シャフト部分までの曲げ剛性の変化(増加)を明確に設定することができる。
【0014】
本発明の心腔内除細動カテーテルにおいて、前記第1シャフト部分を構成する前記先端側チューブの表面硬度をH1、前記第2シャフト部分を構成する前記先端側チューブの表面硬度をH2とするとき、H2とH1との差が16D~35Dであること、特に20D~
30Dであることが好ましい。
【0015】
H2とH1との硬度差が16D以上であることにより、電極群が装着されていない第2シャフト部分における曲げ剛性を、第1DC電極群が装着されてなる第1シャフト部分における曲げ剛性よりも確実に大きくすることができる。
また、この硬度差が35D以内であることにより、第2シャフト部分における曲げ剛性が過大となることを防止することができる。
この結果、操作性、特に、第1DC電極群が装着されてなる先端部分を、冠状静脈洞へ挿入する際の操作性の更なる向上を図ることができる。
【0016】
さらに、前記第3シャフト部分を構成する前記先端側チューブの表面硬度をH3、前記第4シャフト部分を構成する前記先端側チューブの表面硬度をH4とするとき、H4とH3との差が2D~16Dであること、特に5D~10Dであることが好ましい。
【0017】
H4とH3との硬度差が2D以上であることによって、電極群が装着されていない第4シャフト部分における曲げ剛性を、第2DC電極群が装着されてなる第3シャフト部分における曲げ剛性よりも確実に大きくすることができる。
また、この硬度差が16D以内であることにより、第4シャフト部分における曲げ剛性が過大となることを防止することができる。
この結果、操作性の更なる向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の心腔内除細動カテーテルは、操作性、特に、第1DC電極群が装着されているチューブ部分を冠状静脈洞へ挿入する際の操作性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る除細動カテーテルを示す平面図である。
【
図2】
図1に示した除細動カテーテルを構成するチューブ部材の横断面図(
図1のII-II断面図)である。
【
図3】
図1に示した除細動カテーテルを構成するチューブ部材の横断面図(
図1のIII-III断面図)である。
【
図4】本発明の除細動カテーテルおよび従来公知の除細動カテーテルについて実施した3点曲げ試験の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1~
図3に示すこの実施形態の除細動カテーテル100は、先端側チューブ11と基端側チューブ12とからなる絶縁性のチューブ部材10と、チューブ部材10の基端に接続された制御ハンドル20と、チューブ部材10の先端に固定された先端チップ35と、チューブ部材10の先端側チューブ11に装着された8個のリング状電極31からなる第1DC電極群31Gと、第1DC電極群31Gから基端側に離間して、先端側チューブ11に装着された8個のリング状電極32からなる第2DC電極群32Gと、第2DC電極群32Gの基端側において先端側チューブ11に装着された電位測定用の4個のリング状電極33と、第1DC電極群31Gを構成する電極31の各々に接続された8本のリード線41からなる第1リード線群41Gと、第2DC電極群32Gを構成する電極32の各々に接続された8本のリード線42からなる第2リード線群42Gと、電位測定用のリング状電極33の各々に接続された4本のリード線43と、チューブ部材10の先端部分を撓ませるために、チューブ部材10の中心軸から偏心してチューブ部材10内に延在し、その先端が先端チップ35に接続固定され、その後端が引っ張り操作可能である操作用ワイヤ70とを備えてなり、第1DC電極群31Gと第2DC電極群32Gとの間に互いに異なる極性の電圧を印加することにより心腔内において除細動を行うカテーテルであって
、カテーテルシャフトの先端から第1DC電極群31Gの基端位置までの第1シャフト部分101、第1DC電極群31Gの基端位置から第2DC電極群32Gの先端位置までの第2シャフト部分102、第2DC電極群32Gの先端位置から基端位置までの第3シャフト部分103、第2DC電極群32Gの基端位置から先端側チューブ11の基端位置までの第4シャフト部分104、基端側チューブ12からなる第5シャフト部分105の各々について、支点間距離を70mmとし、その中間点に曲げ荷重をかけて撓み量を10mmとする3点曲げ試験を行ったときに、第1シャフト部分101、第2シャフト部分102、第3シャフト部分103、第4シャフト部分104および第5シャフト部分105の各々について測定された曲げ荷重L1、L2、L3、L4およびL5において、L1<L2<L3<L4<L5の関係が成立する除細動カテーテルである。
【0021】
この実施形態の除細動カテーテル100は、チューブ部材10と、制御ハンドル20と、先端チップ35と、第1DC電極群31Gと、第2DC電極群32Gと、電位測定用の電極33と、第1リード線群41Gと、第2リード線群42Gと、リード線43と、操作用ワイヤ70とを備えている。
【0022】
除細動カテーテル100を構成するチューブ部材10は、先端側チューブ11と基端側チューブ12とからなり、マルチルーメン構造を有する絶縁性のチューブ部材である。
チューブ部材10(先端側チューブ11および基端側チューブ12)の外径は、例えば1.7~2.4mmとされ、好適な一例を示せば2.0mmである。
【0023】
チューブ部材10の有効長としては、例えば600~1100mmとされ、好適な一例を示せば650mmである。
先端側チューブ11の長さとしては、例えば150~300mmとされ、好適な一例を示せば239mmである。
基端側チューブ12の長さとしては、例えば300~950mmとされ、好適な一例を示せば411mmである。
【0024】
図2に示すように、チューブ部材10を構成する先端側チューブ11は、インナー部116と、このインナー部116を被覆するアウター部117とを備えてなる。
図3に示すように、チューブ部材10を構成する基端側チューブ12は、インナー部126と、このインナー部126を被覆するアウター部127と、このアウター部127に埋設された編組128とを備えてなる。
【0025】
先端側チューブ11のインナー部116およびアウター部117、基端側チューブ12のインナー部126およびアウター部127の各々を構成する樹脂としては、ポリエーテルブロックアミド(PEBAX)、ナイロンなどの熱可塑性ポリアミド系エラストマーを挙げることができる。
基端側チューブ12を構成する編組128としては、ステンレスなどの金属材料、PEEKなどの樹脂材料を挙げることができる。
【0026】
先端側チューブ11のインナー部116および基端側チューブ12のインナー部126を構成する樹脂の硬度は25D~74Dであることが好ましく、好適な一例を示せば63Dである。インナー部116の硬度とインナー部126の硬度は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0027】
図2および
図3に示したように、チューブ部材10(先端側チューブ11および基端側チューブ12)には、4個のルーメン106~109が、それぞれ、フッ素系樹脂からなるルーメンチューブ19によって区画されることにより形成されている。
ルーメンチューブ19を構成するフッ素系樹脂としては、パーフルオロアルキルビニル
エーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などを挙げることができる。
【0028】
先端側チューブ11のアウター部117および基端側チューブ12のアウター部127を構成する樹脂の硬度(チューブ部材10の表面硬度)は、先端側から基端側に向けて段階的に硬度が高くなっている。
【0029】
ここに、アウター部117およびアウター部127を構成する樹脂の硬度変化の一例を示せば、除細動カテーテル100のシャフトを、カテーテルシャフトの先端から第1DC電極群31G(最基端にある電極31)の基端位置までの第1シャフト部分101と、第1DC電極群31Gの基端位置から第2DC電極群32G(最先端にある電極32)の先端位置までの第2シャフト部分102と、第2DC電極群32Gの先端位置から当該第2DC電極群32G(最基端にある電極32)の基端位置までの第3シャフト部分103と、第2DC電極群32Gの基端位置から先端側チューブ11の基端位置(基端側チューブ12の先端位置)までの第4シャフト部分104と、基端側チューブ12からなる(当該基端側チューブ12の先端位置からストレインリリーフ24までの)第5シャフト部分105とに分けたとき、第1シャフト部分101におけるアウター部117を構成する樹脂の硬度(H1)が40D、第2シャフト部分102におけるアウター部117を構成する樹脂の硬度(H2)が63D、第3シャフト部分103におけるアウター部117を構成する樹脂の硬度(H3)が63D、第4シャフト部分104におけるアウター部117を構成する樹脂の硬度(H4)が72D、第5シャフト部分105におけるアウター部127を構成する樹脂の硬度(H5)が74Dである。
【0030】
なお、アウター部117およびアウター部127を構成する樹脂の硬度変化は、H1<H2≦H3<H4<H5の関係が成立し、かつ、後述するL1<L2<L3<L4<L5の関係を成立させることができるのであれば、上記の例に限定されるものではない。
また、隣り合うシャフト部分の境界領域では、硬度が傾斜的に変化していてもよい。
【0031】
硬度(H2)と硬度(H1)との差は16D~35Dであることが好ましく、特に20D~30Dであることが好ましい。
この硬度差が16D以上であることにより、電極群が装着されていない第2シャフト部分102の曲げ剛性を、第1DC電極群31Gが装着されてなる第1シャフト部分101の曲げ剛性よりも確実に大きくすることができる。
また、この硬度差が35D以内であることにより、第2シャフト部分102の曲げ剛性が過大となることを防止することができる。
【0032】
硬度(H4)と硬度(H3)との差は2D~16Dであることが好ましく、特に5D~10Dであることが好ましい。
この差が2D以上であることにより、電極群が装着されていない第4シャフト部分104の曲げ剛性を、第2DC電極群32Gが装着された第3シャフト部分103の曲げ剛性よりも確実に大きくすることができる。
また、この硬度差が16D以内であることにより、第4シャフト部分104の曲げ剛性が過大となることを防止することができる。
【0033】
細動カテーテル100の第1シャフト部分101の長さは、例えば40~70mmとされ、好適な一例を示せば52mmである。
第2シャフト部分102の長さは、例えば40~100mmとされ、好適な一例を示せば72mmである。
第3シャフト部分103の長さは、例えば40~72mmとされ、好適な一例を示せば50mmである。
第4シャフト部分104の長さは、例えば50~80mmとされ、好適な一例を示せば65mmである。
第5シャフト部分105の長さは、例えば300~950mmとされ、好適な一例を示せば411mmである。
【0034】
図1に示すように、除細動カテーテル100を構成する制御ハンドル20は、ハンドル本体21と、回転操作部25と、ストレインリリーフ24とを有している。
【0035】
回転操作部25を
図1の矢印A1で示す方向に回転させることにより、後述する操作用ワイヤ70の後端を引っ張ることができる。
【0036】
チューブ部材10を構成する先端側チューブ11(第1シャフト部分101の構成部分)には、第1DC電極群31Gが装着されている。
また、先端側チューブ11(第3シャフト部分103の構成部分)には、第2DC電極群32Gが装着されている。
【0037】
本発明において、「電極群」とは、同一の極を構成し(同一の極性を有し)、または、同一の目的を持って、狭い間隔(例えば5mm以下)で装着された複数の電極の集合体をいう。
【0038】
第1DC電極群は、チューブ部材の先端部分において、同一の極(-極または+極)を構成する複数の電極が狭い間隔で装着されてなる。ここに、第1DC電極群を構成する電極の個数は、電極の幅や配置間隔によっても異なるが、例えば4~13個とされ、好ましくは8~10個とされる。
【0039】
本実施形態において、第1DC電極群31Gは8個のリング状電極31から構成されている。第1DC電極群31Gを構成する電極31はリード線(
図2および
図3に示す第1リード線群41Gを構成するリード線41)および制御ハンドル20の基端部に内蔵されたコネクタを介して、直流電源装置における同一の極の端子に接続されている。
【0040】
ここに、電極31の幅(軸方向の長さ)は、2~5mmであることが好ましく、好適な一例を示せば4mmである。
電極31の幅が狭過ぎると、電圧印加時の発熱量が過大となって、周辺組織に損傷を与える虞がある。一方、電極31の幅が広過ぎると、チューブ部材10における第1DC電極群31Gが装着された部分の可撓性・柔軟性が損なわれたり、後述するように電極31を電位を測定するために使用した場合、電位情報の検出感度が低下したりすることがある。
電極31の装着間隔(隣り合う電極の離間距離)は、1~5mmであることが好ましく、好適な一例を示せば2mmである。
心腔内除細動カテーテル100の使用時(心腔内に配置されるとき)において、第1DC電極群31Gは冠状静脈洞(CS)内に位置する。
【0041】
第2DC電極群は、第1DC電極群の装着位置から基端側に離間したチューブ部材の先端部分において、第1DC電極群とは逆の極(+極または-極)を構成する複数の電極が狭い間隔で装着されてなる。ここに、第2DC電極群を構成する電極の個数は、電極の幅や配置間隔によっても異なるが、例えば4~13個とされ、好ましくは8~10個とされる。
【0042】
本実施形態において、第2DC電極群32Gは8個のリング状電極32から構成されている。第2DC電極群32Gを構成する電極32はリード線(
図3に示す第2リード線群
42Gを構成するリード線42)および制御ハンドル20の基端部に内蔵されたコネクタを介して、直流電源装置における同一の極の端子(第1DC電極群31Gが接続されているものとは逆の極の端子)に接続される。
【0043】
これにより、第1DC電極群31G(電極31)と、第2DC電極群32G(電極32)とに、互いに異なる極性の電圧が印加され、第1DC電極群31Gと、第2DC電極群32Gとは、互いに極性の異なる電極群(一方の電極群が-極のときに、他方の電極群は+極)となる。
【0044】
ここに、電極32の幅(軸方向の長さ)は、2~5mmであることが好ましく、好適な一例を示せば4mmである。
電極32の幅が狭過ぎると、電圧印加時の発熱量が過大となって、周辺組織に損傷を与える虞がある。一方、電極32の幅が広過ぎると、チューブ部材10における第2DC電極群32Gが装着された部分の可撓性・柔軟性が損なわれたり、後述するように電極32を電位を測定するために使用した場合、電位情報の検出感度が低下したりすることがある。
【0045】
電極32の装着間隔(隣り合う電極の離間距離)は、1~5mmであることが好ましく、好適な一例を示せば2mmである。
心腔内除細動カテーテル100の使用時(心腔内に配置されるとき)において、第2DC電極群32Gは右心房(RA)内に位置する。
【0046】
なお、第1DC電極群31Gおよび第2DC電極群を構成する電極は、電位を測定するために使用することもできる。
【0047】
第2DC電極群32Gの基端側における先端側チューブ11(第4シャフト部分104の構成部分)には電位測定用として4個の電極33が装着されている。
【0048】
第2DC電極群32Gの基端側に装着された電極33は、リード線(
図3に示すリード線43)および制御ハンドル20の基端部に内蔵されたコネクタを介して心電図計に接続される。
【0049】
ここに、電極33の幅(軸方向の長さ)は0.5~2.0mmであることが好ましく、好適な一例を示せば1.2mmである。
電極33の幅が広過ぎると、心電位の測定精度が低下したり、異常電位の発生部位の特定が困難となったりする。
【0050】
チューブ部材10の先端には、先端チップ35が装着されている。
この先端チップ35にはリード線は接続されておらず、本実施形態では先端チップ35を電極として使用していない。但し、リード線を接続させることにより、電極として使用することも可能である。先端チップ35の構成材料は、白金、ステンレスなどの金属材料、各種の樹脂材料など、特に限定されるものではない。
【0051】
第1DC電極群31Gを構成する電極31、第2DC電極群32Gを構成する電極32、電位測定用の電極33としては、X線に対する造影性を良好なものとするために、白金または白金系の合金からなることが好ましい。
【0052】
図2および
図3に示される第1リード線群41Gは、第1DC電極群31Gを構成する8個の電極31の各々に接続された8本のリード線41の集合体である。
第1リード線群41G(リード線41)により、第1DC電極群31Gを構成する8個
の電極31の各々を直流電源装置に電気的に接続することができる。
【0053】
第1DC電極群31Gを構成する8個の電極31は、それぞれ、異なるリード線41に接続される。リード線41の各々は、その先端において電極31の内周面に溶接されるとともに、チューブ部材10の管壁に形成された側孔から第1ルーメン106に進入する。第1ルーメン106に進入した8本のリード線41は、第1リード線群41Gとして、当該第1ルーメン106に延在して、制御ハンドル20の内部に進入する。
【0054】
図3に示される第2リード線群42Gは、第2DC電極群32Gを構成する8個の電極32の各々に接続された8本のリード線42の集合体である。
第2リード線群42G(リード線42)により、第2DC電極群32Gを構成する8個の電極32の各々を直流電源装置に電気的に接続することができる。
【0055】
第2DC電極群32Gを構成する8個の電極32は、それぞれ、異なるリード線42に接続される。リード線42の各々は、その先端において電極32の内周面に溶接されるとともに、チューブ部材10の管壁に形成された側孔から第2ルーメン107に進入する。第2ルーメン107に進入した8本のリード線42は、第2リード線群42Gとして、当該第2ルーメン107に延在して、制御ハンドル20の内部に進入する。
【0056】
上記のように、第1リード線群41G(8本のリード線41)が第1ルーメン106に延在し、第2リード線群42G(8本のリード線42)が第2ルーメン107に延在していることにより、第1リード線群41Gと、第2リード線群42Gとを、チューブ部材内において絶縁隔離することができる。これにより、心腔内除細動に必要な電圧が印加されたときに、第1リード線群41G(第1DC電極群31G)と第2リード線群42G(第2DC電極群32G)との間で短絡が発生することを確実に防止することができる。
【0057】
図3に示される4本のリード線43は、それぞれ、電位測定用の4個の電極33に接続されている。
4本のリード線43は、それぞれの先端において電極33の内周面に溶接されるとともに、チューブ部材10の管壁に形成された側孔から第3ルーメン108に進入し、当該第3ルーメン108に延在して、制御ハンドル20の内部に進入する。リード線43により、電極33の各々を、心電図計に接続することができる。
【0058】
リード線41、リード線42およびリード線43は、何れも、ポリイミドなどの樹脂によって金属導線の外周面が被覆された樹脂被覆線からなる。ここに、被覆樹脂の膜厚としては2~30μm程度とされる。
【0059】
本実施形態の除細動カテーテル100は、チューブ部材10の先端部分を撓ませるための操作用ワイヤ70を備えている。
【0060】
操作用ワイヤ70は、ステンレスやNi-Ti系超弾性合金製で構成してあるが、必ずしも金属で構成する必要はなく、例えば、高強度の非導電性ワイヤなどで構成してもよい。
【0061】
図2および
図3に示すように、操作用ワイヤ70は、チューブ部材10の第4ルーメン109において管軸方向に移動可能に挿通されている。
操作用ワイヤ70の先端は、先端チップ35の内部空間に充填されたはんだにより先端チップ35に接続固定されている。
操作用ワイヤ70の後端は、制御ハンドル20の回転操作部25に接続固定されて、引っ張り操作可能となっている。
【0062】
回転操作部25を、
図1の矢印A1で示す方向に回転させることにより、操作用ワイヤ70の後端が引っ張られてチューブ部材10の先端部分を
図1の矢印Aで示す方向に撓ませることができる。
【0063】
本実施形態の除細動カテーテル100は、シャフトの曲げ剛性が、先端側から基端側に向けて段階的に高くなるように構成されている。
具体的には、除細動カテーテル100の第1シャフト部分101、第2シャフト部分102、第3シャフト部分103、第4シャフト部分104および第5シャフト部分105の各々について、支点間距離を70mmとし、その中間点に曲げ荷重をかけて撓み量を10mmとする3点曲げ試験を行ったときに、各々のシャフト部分について測定された曲げ荷重L1~L5において、L1<L2<L3<L4<L5の関係が成立する。
【0064】
このように、チューブ部材10の表面硬度(先端側チューブ11のアウター部117および基端側チューブ12のアウター部127を構成する樹脂の硬度)を、先端側から基端側に向けて段階的に高くするとともに、電極(群)が装着されたシャフトの曲げ剛性を、先端側から基端側に向けて段階的に高くすることにより、従来の除細動カテーテルと比較して、操作性を格段に向上させることができる。
【0065】
除細動カテーテル100において、上記3点曲げ試験による第1シャフト部分101の曲げ荷重L1の値は120gf以下であることが好ましい。
曲げ荷重L1が120gf以下である第1シャフト部分101は良好な可撓性・柔軟性を有し、冠状静脈洞への挿入性に特に優れている。
【0066】
また、上記3点曲げ試験による第4シャフト部分104の曲げ荷重L4の値は350gf以上であることが好ましい。
第4シャフト部分104の曲げ荷重L4の値が350gf以上であることにより、第1シャフト部分101から第4シャフト部分104までの曲げ剛性の変化(増加)を明確に設定することができる。
【0067】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の除細動カテーテルはこれらの実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
例えば、本発明の除細動カテーテルは、2本の操作用ワイヤを備えたバイディレクションタイプであってもよい。
また、本発明の除細動カテーテルを構成するチューブ部材は、シングルルーメン構造であってもよい。
【実施例】
【0068】
図1~
図3に示したような形態および下記に示すような仕様を有する本実施形態の除細動カテーテル100を製造した。
【0069】
(仕様)
・カテーテルシャフト(チューブ部材10)の有効長:650mm
・先端側チューブ11により構成されるシャフト部分の長さ:239mm
・基端側チューブ12により構成されるシャフト部分の長さ:411mm
・インナー部116および126の材質:PEBAX(硬度:63D)
・アウター部117および127の材質:PEBAX(硬度:後述のとおり)
・編組128の材質:ステンレス
【0070】
・第1シャフト部分101のアウター部117を構成する樹脂硬度(H1):40D
・第2シャフト部分102のアウター部117を構成する樹脂硬度(H2):63D
・第3シャフト部分103のアウター部117を構成する樹脂硬度(H3):63D
・第4シャフト部分104のアウター部117を構成する樹脂硬度(H4):72D
・第5シャフト部分105のアウター部127を構成する樹脂硬度(H5):74D
・硬度差(H2-H1):23D
・硬度差(H4-H3):9D
【0071】
・第1シャフト部分101の長さ:52mm
・第2シャフト部分102の長さ:72mm
・第3シャフト部分103の長さ:50mm
・第4シャフト部分104の長さ:65mm
・第5シャフト部分104の長さ:411mm
【0072】
・第1DC電極群31Gを構成する電極31の幅:4mm
・電極31の装着間隔:2mm
・第2DC電極群32Gを構成する電極32の幅:4mm
・電極32の装着間隔:2mm
・電極33の幅:1.2mm
【0073】
上記のような構成の除細動カテーテル100を2本準備し(実施例1および実施例2)、それぞれについて、3点曲げ試験を行うことにより、第1シャフト部分101~第5シャフト部分105の各々の曲げ荷重L1~L5を測定した。
【0074】
3点曲げ試験としては、2つの支持体を、両者の離間距離(支点間距離)が70mmとなるように配置し、曲げ荷重を測定すべきシャフト部分が、2つの支持体の中間点に位置するように当該支持体上にシャフトを載置した。次に、支持体上に載置させたシャフトに対して、支持体の中間点に相当する位置に、シャフトの軸方向に垂直な方向に曲げ荷重をかけて、垂直方向の変位である撓み量と、荷重計によって測定される曲げ荷重の大きさとの関係を求め、撓み量が10mmとなったときのシャフト(測定すべきシャフト部分)の曲げ荷重を測定した。ここに、試験は室温下で行い、撓み速度を50m/分とした。
なお、第1シャフト部分101および第3シャフト部分103については、それぞれ、電極群を構成するリング状電極上から曲げ荷重を掛けた。
【0075】
なお、本発明に規定する「3点曲げ試験」では、曲げ荷重を測定すべきシャフト部分が2つの支持体の中間点に位置していれば、2つの支持体上には、測定すべきシャフト部分に隣接するシャフト部分が位置していてもよい。
【0076】
一方、市販されている除細動カテーテルを3本準備し(比較例1~3)、上記と同様にして曲げ荷重L1~L5を測定した。
結果を下記表1および
図4に示す。
【0077】
【0078】
表1および
図4に示すように、実施例1~2の除細動カテーテル100は、先端側から基端側に向けてシャフトの曲げ剛性が段階的に高くなっている(L1<L2<L3<L4<L5の関係が成立している)。
そして、実施例1~2の除細動カテーテル100は、第1DC電極群31Gを冠状静脈洞内に配置し、第2DC電極群32Gを右心房内に配置する際の操作性に優れていた。
【0079】
これに対して、比較例1の除細動カテーテルでは、第2シャフト部分における曲げ剛性が第1シャフト部分の曲げ剛性より低く、第5シャフト部分における曲げ剛性が第4シャフト部分の曲げ剛性より低く、比較例2の除細動カテーテルでは、第3シャフト部分における曲げ剛性が第2シャフト部分の曲げ剛性より低く、比較例3の除細動カテーテルでは、第5シャフト部分における曲げ剛性が第4シャフト部分の曲げ剛性より低いものであった。
これらの比較例1~3の除細動カテーテルは、曲げ剛性が逆転しているシャフト部分間でキンクが生じやすく、操作性に劣るものであった。
【符号の説明】
【0080】
100 除細動カテーテル
10 チューブ部材
101 第1シャフト部分
102 第2シャフト部分
103 第3シャフト部分
104 第4シャフト部分
105 第5シャフト部分
106 第1ルーメン
107 第2ルーメン
108 第3ルーメン
109 第4ルーメン
11 先端側チューブ
116 先端側チューブのインナー部
117 先端側チューブのアウター部
12 基端側チューブ
126 基端側チューブのインナー部
127 基端側チューブのアウター部
128 編組
20 制御ハンドル
25 回転操作部
35 先端チップ
31G 第1DC電極群
31 第1DC電極群を構成するリング状電極
32G 第2DC電極群
32 第2DC電極群を構成するリング状電極
33 リング状電極
41G 第1リード線群
41 第1リード線群を構成するリード線
42G 第2リード線群
42 第2リード線群を構成するリード線
70 操作用ワイヤ