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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】印刷物及び容器
(51)【国際特許分類】
   B32B 33/00 20060101AFI20221101BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20221101BHJP
   B65D 5/42 20060101ALI20221101BHJP
   B65D 5/62 20060101ALI20221101BHJP
   C08J 7/046 20200101ALI20221101BHJP
【FI】
B32B33/00
B32B27/00 H
B65D5/42 C
B65D5/42 F
B65D5/62 B
C08J7/046
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2015096021
(22)【出願日】2015-05-08
(65)【公開番号】P2016210094
(43)【公開日】2016-12-15
【審査請求日】2018-03-27
【審判番号】
【審判請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆光
(72)【発明者】
【氏名】吉川 智隆
(72)【発明者】
【氏名】尾上 輝昭
(72)【発明者】
【氏名】井浦 文
【合議体】
【審判長】芦原 康裕
【審判官】内田 博之
【審判官】一ノ瀬 覚
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-162787(JP,A)
【文献】特開2015-9867(JP,A)
【文献】特表2006-504590(JP,A)
【文献】特表2005-537193(JP,A)
【文献】特開平6-262886(JP,A)
【文献】特開2004-352775(JP,A)
【文献】特開2007-160648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00, B65D5/00-5/76, B01D39/00-41/04, B41F16/00-19/08, B41M1/00-3/18, 7/00-9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1領域と第2領域とを備え、
前記第1領域は、少なくとも、基材、ハードコート層、及び光沢印刷層が順に積層され、
前記第2領域は、少なくとも、基材、及び光沢印刷層が順に積層され、かつ、前記基材と前記光沢印刷層との間には、ハードコート層が積層されてなく、
前記第2領域は、前記基材の平面方向から、前記第1領域に対して、少なくとも部分的に突出するように、雄型と雌型とで基材及び光沢印刷層を挟み、加圧することにより形成された第3領域を含み、
前記光沢印刷層は、下記(A)及び(B)を満たす、印刷物。
(A)光沢印刷層の表面のJIS Z8741:1997の60度における鏡面光沢度が150%以上
(B)光沢印刷層中に金属鱗片を含む
【請求項2】
第1領域と第2領域とを備え、
前記第1領域は、少なくとも、基材、ハードコート層、及び光沢印刷層が順に積層され、
前記第2領域は、少なくとも、基材、及び光沢印刷層が順に積層され、かつ、前記基材と前記光沢印刷層との間には、ハードコート層が積層されてなく、
前記第2領域は、折り曲げ線又は折り曲げ予定線である第4領域を含み、
前記光沢印刷層は、下記(A)及び(B)を満たす、印刷物。
(A)光沢印刷層の表面のJIS Z8741:1997の60度における鏡面光沢度が150%以上
(B)光沢印刷層中に金属鱗片を含む
【請求項3】
前記第2領域の幅が、0.8~104mmである、請求項1又は2に記載の印刷物。
【請求項4】
前記第2領域と、前記第3領域とが重なっている重複領域を、前記基材の平面方向から見た場合において、前記重複領域の幅は、前記第2領域の幅の16~100%である、請求項1に記載の印刷物。
【請求項5】
前記第2領域と、前記第4領域とが重なっている重複領域を、前記基材の平面方向から見た場合において、前記重複領域の幅は、前記第2領域の幅の16~100%である、請求項2に記載の印刷物。
【請求項6】
さらに、前記光沢印刷層の表面に積層された絵柄層を有する、請求項1からのいずれか1項に記載の印刷物。
【請求項7】
さらに、最表面に表面保護層を有する、請求項1からのいずれか1項に記載の印刷物。
【請求項8】
前記光沢印刷層の厚みが0.15~1.50μmである、請求項1からのいずれか1項に記載の印刷物。
【請求項9】
前記光沢印刷層により絵柄が形成されてなる、請求項1からのいずれか1項に記載の印刷物。
【請求項10】
前記ハードコート層が電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物層である、請求項1からのいずれか1項に記載の印刷物。
【請求項11】
前記基材が紙基材である、請求項1から10のいずれか1項に記載の印刷物。
【請求項12】
前記第1領域は、部分的に突出する領域、及び、折り曲げ線又は折り曲げ予定線である領域を含まない、請求項1~11のいずれか1項に記載の印刷物。
【請求項13】
前記ハードコート層の表面のJIS Z8741:1997の60度における鏡面光沢度が85%以上である、請求項1~12のいずれか1項に記載の印刷物。
【請求項14】
前記光沢印刷層中における金属鱗片の偏在領域の厚みの割合[(金属鱗片の偏在領域の厚み/光沢印刷層3の全厚み)]が10~60%である請求項1~13のいずれか1項に記載の印刷物。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に記載の印刷物を用いてなる容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷物及び容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種の印刷物では、その意匠性を向上させるために、金属光沢を付与することが求められる場合がある。
特許文献1には、紙基材上に、結着樹脂及び金属薄膜細片を含む金属光沢層領域を有する光沢印刷層を形成してなる紙容器が開示されている。
しかし、特許文献1の紙容器では、紙基材の表面の凹凸の影響を受けて光沢印刷層の表面が凹凸となり、紙容器の金属光沢感が十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-2322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基材の表面の凹凸の影響を無くすため、基材と光沢印刷層との間に平滑化層を形成する手段が考えられる。
しかし、そのような手段で得られた印刷物を折り曲げた際に、折り曲げた位置において、光沢印刷層等が基材から剥がれたり、光沢印刷層等にひびが生じたりする場合があった。特に、印刷物を略180度に折り曲げて搬送する際は、そのひびは顕著に生じる場合があった。
【0005】
本発明は、金属蒸着の手段を用いることなく、高い金属光沢を有する印刷物及び容器において、凸部を設けたり折り曲げたりした場合であっても外観に優れた印刷物及び容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、精鋭研究した結果、平滑化層としてハードコート層を用いた場合、以下に示す原因によって、印刷物に凸部を設けたり折り曲げたりした際に、ハードコート層や光沢印刷層等が基材から剥がれたり、ハードコート層や光沢印刷層等にひびが生じたりする結果、外観不良が発生することを突き止めた。
【0007】
(基材の平面方向の剥離)
すなわち、基材と光沢印刷層との間にハードコート層を形成する手段で得られた印刷物を、例えば、基材が内側になるように折り曲げ予定位置で折り曲げると、折り曲がった位置において基材、ハードコート層及び光沢印刷層は互いに略同じ曲げ力を受けることになるが、ハードコート層は基材や光沢印刷層より固いことから、ハードコート層の弾性変形が基材や光沢印刷層の弾性変形に追従しきれないことがある。この場合、ハードコート層が基材から離れようとする力が生じると共にハードコート層が光沢印刷層を押し上げようとする力が生じるので、光沢印刷層やハードコート層が基材から剥がれていた。
【0008】
(ハードコート層の曲げによるひび割れ)
また、基材を内側となるように印刷物を折り曲げると、印刷物の表面となる光沢印刷層は印刷物の曲げに伴って強制的に曲げられることから、光沢印刷層より曲げ中心側にあるハードコート層は、光沢印刷層の曲げに強制的に追従させられて、曲げられる。この場合、ハードコート層は基材や光沢印刷層より固いことから、ハードコート層は、基材や光沢印刷層より弾性変形しにくく、やがて弾性変形の限界を超えてしまい、ハードコート層にひび割れが生じていた。
【0009】
(ハードコート層の引っ張りによるひび割れ)
また、基材が厚い印刷物の場合、印刷物を、基材が内側になるように折り曲げ予定位置で折り曲げると、基材の外側の表面の半径が大きくなり、曲げられた表面の円周方向の長さが長くなるところ、基材に積層されたハードコート層もその円周方向に引き延ばされる。この場合、ハードコート層は、円周方向に大きな引っ張り力を受け、やがて弾性変形の限界を超えてしまい、ハードコート層にひび割れが発生する場合があった。そして、このひび割れは、基材が厚くなるほど生じやすいという傾向がある。
特に、複数の印刷物を搬送する際に、各印刷物を折り曲げ箇所で略180度に折り曲げ、その折り曲げた複数の印刷物を積み上げ、さらに積み上げた方向において圧縮させた状態で搬送用容器に収容すると、折り曲げた位置に大きな曲げ力が生じていた。
なお、基材が外側になるように、基材を折り曲げ位置で折り曲げても、同様であった。
【0010】
上記目的を達成するために、本発明者らは、さらに、精鋭研究した結果、基材と光沢印刷層との間において、折り曲げる予定位置にハードコート層を有しないようにすればよいことを見出した。
本発明は、以下の[1]から[13]の印刷物、該印刷物を用いてなる容器を提供する。
【0011】
[1]第1領域と第2領域とを備え、
前記第1領域は、少なくとも、基材、ハードコート層、及び光沢印刷層が順に積層され、
前記第2領域は、少なくとも、基材、及び光沢印刷層が順に積層され、かつ、前記基材と前記光沢印刷層との間には、ハードコート層が積層されていない、印刷物。
【0012】
[2]前記第2領域は、前記基材の平面方向において、前記第1領域に対して、少なくとも部分的に突出する第3領域を含む、[1]に記載の印刷物。
【0013】
[3]前記第2領域は、折り曲げ線又は折り曲げ予定線である第4領域を含む、[1]又は[2]に記載の印刷物。
【0014】
[4]前記第2領域の幅が、0.8~104mmである、[1]から[3]のいずれかに記載の印刷物。
【0015】
[5]前記第2領域と、前記第3領域又は前記第4領域とが重なっている重複領域を、前記基材の平面方向から見た場合において、前記重複領域の幅は、いずれも、前記第2領域の幅の16~100%である、[2]又は[3]に記載の印刷物。
【0016】
[6]前記光沢印刷層は金属鱗片を含む、[1]から[5]のいずれかに記載の印刷物。
【0017】
[7]さらに、前記光沢印刷層の表面に積層された絵柄層を有する、[1]から[6]のいずれかに記載の印刷物。
【0018】
[8]さらに、最表面に表面保護層を有する、[1]から[7]のいずれかに記載の印刷物。
【0019】
[9]前記光沢印刷層の厚みが0.15~1.50μmである、[1]から[8]のいずれかに記載の印刷物。
【0020】
[10]前記光沢印刷層により絵柄が形成されてなる、[1]から[9]のいずれかに記載の印刷物。
【0021】
[11]前記ハードコート層が電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物層である、[1]から[10]のいずれかに記載の印刷物。
【0022】
[12]前記基材が紙基材である、[1]から[11]のいずれかに記載の印刷物。
【0023】
[13][1]から[12]のいずれかに記載の印刷物を用いてなる容器。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、基材と光沢印刷層との間に形成されたハードコート層を有さない第2領域を備えるので、第2領域において凸部を設けたり折り曲げたりすれば、曲げ力の殆どが第2領域に作用し、第1領域には殆ど作用しない。このため、曲げ力はハードコート層には殆ど作用しないので、光沢印刷層やハードコート層が基材から剥がれにくく、また、光沢印刷層やハードコート層にひび割れが生じにくくすることができる。このため、高い金属光沢を有する印刷物及び容器において、凸部や凹部を設けたり折り曲げたりした場合であっても外観に優れた印刷物及び容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係る印刷物の一実施形態を示す概略平面図である。
図2図1に示す印刷物のA-A概略断面斜視図である。
図3図1に示す印刷物のB-B概略断面斜視図である。
図4図1に示す印刷物の層構成を示す図である。
図5図1に示す印刷物において折り曲げ線で折り曲げたときの折り曲げ箇所近傍の概略部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[印刷物]
図1から図5を参照して、本発明に係る印刷物100の実施の形態の説明をする。
図4(a)及び図4(b)に示すように、印刷物100は第1領域aと第2領域bとを備える。図4(a)に示すように、第1領域aは、少なくとも、基材1と、基材1上に有する光沢印刷層3と、基材1と光沢印刷層3との間に形成されたハードコート層2とを有する。また、図4(b)に示すように、第2領域bは、少なくとも、基材1と、基材1上に有する光沢印刷層3とを有し、かつ、基材1と光沢印刷層3との間にはハードコート層2を有さない。印刷物100は、光沢印刷層3の上に絵柄層4又は表面保護層5を含んでいてもよいし、絵柄層4の上にさらに表面保護層5を含んでいてもよい。印刷物100の基材1側を裏面100aとし、それとは反対側を表面100bとする。
ここで、基材1のうち、第1領域aにある部分を第1基材部分11とし、第2領域bにある部分を第2基材部分12としている。以下の例では、第1基材部分11と第2基材部分12とが同一である例について説明するが、第1基材部分11と第2基材部分12とが不同であってもよい。また、光沢印刷層3のうち、第1領域aにある部分を第1光沢印刷層部分31とし、第2領域bにある部分を第2光沢印刷層部分32としている。以下の例では、第1光沢印刷層部分31と第2光沢印刷層部分32とが同一である例について説明するが、第1光沢印刷層部分31と第2光沢印刷層部分32とが不同であってもよい。
【0027】
印刷物100は、例えば、容器、マルチパック、カード、及びPOP広告などの用途に用いることができる。
図1に示すように、容器のブランクとなる印刷物100は、第1パネルP1~第5パネルP5と、フラップFと、糊代片Nとで構成されている。
印刷物100には、印刷物100の一端から他端に亘って延びる折り曲げ線50が形成されている。印刷物100において、折り曲げ線50の数は、2以上として説明するが、1つであってもよい。折り曲げ線50は、実線でもよいし、点線や破線などの断続線であってもよい。
【0028】
つまり、第1領域aは、少なくとも、第1基材部分11、ハードコート層2、及び第1光沢印刷層部分31が順に積層されている部分を含む領域である。第2領域bは、少なくとも、第2基材部分12、及び第2光沢印刷層部分32が順に積層され、かつ、第2基材部分12と第2光沢印刷層部分32との間にはハードコート層2は積層されていない。
【0029】
図1及び図3に示すように、第2領域bは、基材1の平面方向において、第1領域aに対して、少なくとも部分的に突出する第3領域cを含んでいてもよい。第3領域cは、図3に示すような裏面100aから表面100bに向かって少なくとも部分的に突出するエンボスや、図示しないが、表面100bからに裏面100a向かって少なくとも部分的に突出するデボスとすることができる。ここで、少なくとも部分的に突出するとは、基材1の平面方向において、第2領域bの基材1の少なくとも一部が基準面である第1領域aの基材1と重ならない位置に存在することを意味している。エンボスやデボスは、雄型と雌型とで印刷物100を挟み、加圧することにより形成される。
【0030】
第2領域bが第3領域cを含む場合、第2領域bすなわち第2基材部分12が変形し、第1基材部分11は殆ど変形しないので、ハードコート層2は第2基材部分12を覆わないように基材1の第1基材部分11の表面に積層されているところ、第1基材部分11に積層されたハードコート層2は殆ど変形しない。このため、印刷物100に第3領域cを形成した際に生じる引張り力はハードコート層2には殆ど作用しないので、ハードコート層2や光沢印刷層3には殆どひびは発生しない。つまり、印刷物100に第3領域cを形成した際におけるハードコート層2や光沢印刷層3のひびの発生が抑制されているため、ひびの発生を原因としたトラブルを生じることを防止できる。このため、外観に優れた印刷物100を提供することができる。
【0031】
例えば、糊代片N及びフラップFを除く第1~第5パネルP1~P5に第2領域bを形成し、第2領域bの中に第3領域cを形成してもよい。
第3領域cの突出高さh2は、例えば、0.08~0.2mmとすることができ、第3領域cの幅w3は、例えば、1~100mmとすることができ、第3領域cが形成される第2領域bの幅w1は、例えば、1~104mmとすることができる。この場合、第3領域cと第2領域bと間の間隔は0~2mmとすることができる。また、第2領域bと第3領域cとが重なっている重複領域を基材1の平面方向から見た場合において、重複領域の幅は、例えば、第2領域の幅の20~100%とすることができる。
【0032】
第3領域cの数は、1つの第2領域bの中に、1つであってもよいし、複数であってもよい。また、第2領域bが複数あり、複数の第2領域bにある全部の第3領域cの数が複数であってもよい。
また、図1及び図2に示すように、第2領域bは、折り曲げ線50又は折り曲げ予定線である第4領域dを含んでいてもよい。ここで、折り曲げ線50とは、印刷物100を折り曲げやすくするために、雄型と雌型とで印刷物100を挟み、加圧することにより形成されるものであり、例えば、図2に示すように、表面100bから裏面100aに向かって突出するように形成することができる。つまり、平板状態の印刷物100における折り曲げ線50は、第3領域cと同様、基材1の平面方向において、第2領域bの基材1の一部が基準面である第1領域aの基材1と重ならない位置に存在することになる。
【0033】
第2領域bが折り曲げ線50を含む場合、第2領域bすなわち第2基材部分12が変形し、第1基材部分11は、殆ど変形しないので、ハードコート層2は第2基材部分12を覆わないように基材1の第1基材部分11の表面に積層されているところ、第1基材部分11に積層されたハードコート層2は殆ど変形しない。このため、印刷物100に折り曲げ線50を形成した際に生じる引張り力は、ハードコート層2には殆ど作用しないので、ハードコート層2や光沢印刷層3には殆どひびは発生しない。つまり、印刷物100に折り曲げ線50を形成した際におけるハードコート層2や光沢印刷層3のひびの発生が抑制されているため、ひびの発生を原因としたトラブルを生じることを防止できる。このため、外観に優れた印刷物100を提供することができる。
【0034】
第4領域dの突出高さh1は、例えば、0.08~0.2mmとすることができ、第4領域dの幅w2は、例えば、0.8~2mmとすることができ、第4領域dが形成される第2領域bの幅w1は、例えば、0.8~6mmとすることができる。この場合、第4領域dと第2領域bとの間の間隔は0~2mmとすることができる。また、第2領域bと第4領域dとが重なっている重複領域を、基材1の平面方向から見た場合において、重複領域の幅は、例えば、第2領域bの幅w1の16~100%とすることができる。
第4領域で折り曲げた際の印刷物100の折り曲げ角度θは、45~180°とすることができる。特に、折り曲げ角度θを90~180°とした場合は、ハードコート層にひび割れが発生しやすいため、折り曲げ角度θが90~180°の場合に本発明の効果はよく発揮される。ここで、折り曲げ角度θは、折り曲げ線50を挟んで位置する一方のパネルの表面(印刷物100の表面100b)と、他方のパネルの表面(印刷物100の表面100b)とが為す角度である。
【0035】
[基材]
基材1は、例えば、シート状の基材である。
基材1の材料は、従来の印刷物等に用いられている材料であれば特に限定されないが、具体的には、上質紙、中質紙、コート紙、合成紙、含浸紙、ラミネート紙、印刷用塗布紙、記録用塗布紙等の紙基材、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリカーボネートフィルム等のプラスチックフィルム、又はこれらの複合体等が用いられる。
基材1の厚みは特に限定されないが、紙基材の場合は、通常は坪量150~550g/m程度であり、プラスチックフィルム基材の場合は、通常は9~50μm程度である。
上述の従来の印刷物では、凸部が設けられたり折り曲げられたりする箇所にハードコート層が積層されているので、印刷物に凸部を設けたり印刷物を曲げたりする際に生じるハードコート層の引っ張り力は基材1の厚みが厚くなるほど大きくなり、その引張り力によるハードコート層のひびは顕著に発生する。しかし、本発明は、第2領域にはハードコート層2が積層されていないので、基材1の厚みが厚くても、ハードコート層2にはひび割れは生じにくいという効果を有する。換言すると、従来の印刷物は基材が厚くなるほどハードコート層にひびが発生し易いが、本発明の印刷物は基材が厚くなってもハードコート層にはひびが発生しにくいことから、本発明の効果は基材1の厚みが厚いほど発揮される。基材1が紙基材の場合、坪量が215~550g/mであると本発明の効果はよく発揮され、坪量が270~550g/mであると本発明の効果はさらによく発揮される。また、基材1がプラスチックフィルムの場合、その厚みが12~50μmであると本発明の効果はよく発揮される。
【0036】
[ハードコート層]
ハードコート層2は、第1領域aにおける基材1の表面(第1基材部分11の表面)には積層されているが、第2領域bにおける基材1の表面(第2基材部分12の表面)には積層されていない。このため、印刷物100を第2領域bで折り曲げる際には、基材1の第1基材部分11に積層されたハードコート層2は殆ど折り曲がらない。
【0037】
ハードコート層2が第1領域aにあることにより、すなわち、基材1と光沢印刷層3との間にハードコート層2を介在させることにより、光沢印刷層3の金属光沢を良好にしやすくできる。この理由は以下のように考えられる。なお、ハードコート層2は、第2領域bにおける基材1の表面(第2基材部分12の表面)を殆ど覆わないところ、第2領域bの面積は第1領域aの面積に対して非常に小さいので、ハードコート層2は基材1の表面を殆ど覆うことになる。そして、光沢印刷層3の金属光沢を良好にすることは、印刷物100の金属光沢を良好にすることにつながる。
上述した基材1の表面は、基材1の種類により、程度の違いはあるが、荒れている。例えば、紙は繊維に起因してその表面が荒れている。このように表面が荒れた基材1に光沢印刷層3を形成した場合、光沢印刷層3の表面も荒れてしまい、金属光沢を良好にすることができないが、ハードコート層2により基材1の表面の荒れを緩和することにより、光沢印刷層3の表面が荒れることを抑制して、金属光沢を良好にできると考えられる。
また、基材1の表面に傷がついた場合、傷の凹凸が光沢印刷層3の表面に反映されることにより、光沢印刷層3の金属光沢が低下してしまう。しかし、基材1及びハードコート層2からなる基体の表面には傷がつきにくいため、光沢印刷層3の表面に傷による凹凸が反映されることを抑制し、光沢印刷層3の金属光沢を良好にできると考えられる。
また、ハードコート層2は光沢印刷層用インキの溶剤を浸透しにくい。このため、ハードコート層2上に光沢印刷層用インキを塗布し、乾燥する際に、溶剤は、光沢印刷層3の下方に流れにくい。その一方で、溶剤は、乾燥過程で溶剤が揮発する際に、光沢印刷層3の上方に流れやすくなる。そして、溶剤の流れと共に金属鱗片が光沢印刷層3の上方に浮かび上がり、光沢印刷層3の上部に金属鱗片が偏在化され、光沢印刷層3の金属光沢を良好にできると考えられる。
【0038】
ハードコート層2の表面(ハードコート層2の基材1とは反対側の表面)は平滑化されていることが好ましい。ハードコート層2の表面が荒れている場合、ハードコート層2の表面積が増え、光沢印刷層3を形成する際に溶剤が浸透しやすくなる。一方、ハードコート層2の表面が平滑化されていると、ハードコート層2に溶剤が浸透しにくいため、光沢印刷層3の上部に金属鱗片を偏在化させやすくなり、光沢印刷層3の金属光沢を良好にできる。また、ハードコート層2の表面が荒れている場合、ハードコート層2の凹凸が光沢印刷層3にも反映され、光沢印刷層3の表面も荒れてしまう。一方、ハードコート層2の表面が平滑化されていると、光沢印刷層3の表面も平滑化され、光沢印刷層3の金属光沢を良好にできる。
【0039】
ハードコート層2の表面の平滑化の指標としては、JIS Z8741:1997の鏡面光沢度や、JIS B0601:2001の算術平均粗さRaが挙げられる。
ハードコート層2の表面のJIS Z8741:1997の60度における鏡面光沢度は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
【0040】
ハードコート層の具体例は、電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物層(以下、「硬化物層」と称する場合がある。)、クレーコート層等が挙げられ、平滑性、傷つき防止性及び浸透防止性をより良好にする観点から、電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物層であることが好ましい。ハードコート層は、平滑性、傷つき防止性及び浸透防止性をより良好にする観点から、電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物層であることが好ましい。
さらに、ハードコート層2を電離放射線硬化性樹脂組成物から形成する場合、電離放射線の照射によりハードコート層2を瞬時に硬化することができるため、ハードコート層2の形成過程で、ハードコート層2の表面形状が基材1の高周波成分の凹凸に追従されることを抑制できる。言い換えると、ハードコート層2を電離放射線硬化性樹脂組成物から形成する場合、ハードコート層2により基材1の高周波成分の凹凸を緩和できる。その一方、ハードコート層2が硬化するまでの間(乾燥過程の間)に、ハードコート層2の表面形状は基材1の低周波成分の凹凸に適度に追従する。つまり、ハードコート層2を電離放射線硬化性樹脂組成物から形成する場合、ハードコート層2の表面を、高周波成分の凹凸を抑制しつつ、適度な低周波成分の凹凸を有する形状とすることができ、上述した効果(ハードコート層2への溶剤の浸透抑制、基材1の風合いの維持等)を発揮しやすくできる。
【0041】
[硬化物層]
硬化物層を形成するための電離放射線硬化性樹脂組成物は、電離放射線硬化性官能基を有する化合物(以下、「電離放射線硬化性化合物」ともいう)を含む組成物である。電離放射線硬化性官能基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等のエチレン性不飽和結合基、及びエポキシ基、オキセタニル基等が挙げられる。電離放射線硬化性化合物(紫外線硬化の場合、「紫外線硬化性化合物」と称する場合もある。)としては、エチレン性不飽和結合基を有する化合物が好ましく、エチレン性不飽和結合基を2つ以上有する化合物がより好ましく、中でも、エチレン性不飽和結合基を2つ以上有する、多官能性(メタ)アクリレート系化合物がさらに好ましい。多官能性(メタ)アクリレート系化合物としては、モノマー及びオリゴマーのいずれも用いることができるが、高い架橋密度により、傷つき防止性及び浸透防止性をより良好にする観点から、モノマーが好適である。
なお、電離放射線とは、電磁波及び荷電粒子線のうち、分子を重合あるいは架橋し得るエネルギー量子を有するものを意味し、通常、紫外線(UV)又は電子線(EB)が用いられるが、その他、X線、γ線等の電磁波、α線、イオン線等の荷電粒子線も使用可能である。
【0042】
多官能性(メタ)アクリレートモノマーのうち、2官能(メタ)アクリレート系モノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAテトラエトキシジアクリレート、ビスフェノールAテトラプロポキシジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート等が挙げられる。
3官能以上の(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸変性トリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、(メタ)アクリレート系モノマーは、分子骨格の一部を変性しているものでもよく、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、カプロラクトン、イソシアヌル酸、アルキル、環状アルキル、芳香族、ビスフェノール等による変性がなされたものも使用することができる。
多官能性(メタ)アクリレートモノマーの官能基数は、2~6が好ましく、2~3がより好ましい。
【0043】
また、多官能性(メタ)アクリレート系オリゴマーとしては、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート等のアクリレート系重合体等が挙げられる。
ウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、多価アルコール及び有機ジイソシアネートとヒドロキシ(メタ)アクリレートとの反応によって得られる。
また、好ましいエポキシ(メタ)アクリレートは、3官能以上の芳香族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂等と(メタ)アクリル酸とを反応させて得られる(メタ)アクリレート、2官能以上の芳香族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂等と多塩基酸と(メタ)アクリル酸とを反応させて得られる(メタ)アクリレート、及び2官能以上の芳香族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂等とフェノール類と(メタ)アクリル酸とを反応させて得られる(メタ)アクリレートである。
電離放射線硬化性化合物は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。電離放射線硬化性化合物中には、多官能性(メタ)アクリレートモノマーを50質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましい。
【0044】
電離放射線硬化性化合物が紫外線硬化性化合物である場合には、電離放射線硬化性組成物(紫外線効果性樹脂組成物)は、光重合開始剤や光重合促進剤等の添加剤を含むことが好ましい。
光重合開始剤としては、アセトフェノン、ベンゾフェノン、α-ヒドロキシアルキルフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾイン、ベンジルメチルケタール、ベンゾイルベンゾエート、α-アシルオキシムエステル、チオキサンソン類等から選ばれる1種以上が挙げられる。
また、光重合促進剤は、硬化時の空気による重合阻害を軽減させ硬化速度を速めることができるものであり、例えば、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、p-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル等から選ばれる1種以上が挙げられる。
電離放射線硬化性樹脂組成物中には、光安定剤、酸化防止剤、レベリング剤等の添加剤を含有していてもよい。
なお、電離放射線硬化性樹脂組成物中には、電離放射線硬化性化合物以外の樹脂成分(熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂)を含有してもよい。ただし、上述した効果を達成しやすくするために、電離放射線硬化性樹脂組成物の全樹脂成分に占める電離放射線化性化合物の割合が90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることがさらに好ましい。
【0045】
硬化物層の厚みは、基材の平滑化及び傷つき防止の観点から、2μm以上であることが好ましい。なお、硬化物層が厚すぎる場合、加工性が低下することから、硬化物層の厚みは、3~20μmであることがより好ましく、4~10μmであることがさらに好ましく、5~7μmであることがよりさらに好ましい。
【0046】
硬化物層は、電離放射線硬化性樹脂組成物、及び必要に応じて添加する溶剤を含む硬化物層用インキを、基材上に塗布し、乾燥させ、電離放射線照射することにより形成できる。なお、硬化物層用インキ中に溶剤を含まない場合は、乾燥は不要である。
【0047】
[クレーコート層]
クレー層は、クレー及びバインダー樹脂等を含む。
クレーとしては、一般的に、クレー、粘土と呼ばれるものであれば、特に限定することなく用いることができ、さらに、カオリン、タルク、ベントナイト、スメクタイト、バーミキュライト、雲母、緑泥石、木節粘土、ガイロメ粘土、ハロイサイト、マイカ等を用いることができる。
【0048】
クレーコート層は、クレーの他に、炭酸カルシウム、二酸化チタン、非晶質シリカ、発泡性硫酸バリウム、サチンホワイト等の顔料を含むことが好ましい。顔料として炭酸カルシウムや二酸化チタンを用いることにより、クレーコート層の表面の平滑性を向上しやすくできる。さらに、炭酸カルシウムは安価であるため、好適に用いられる。
【0049】
バインダー樹脂としては、ラテックス系のバインダー樹脂(例えば、スチレンブタジエンラテックス、アクリル系ラテックス酢酸ビニル系ラテックス)、水溶性のバインダー樹脂(例えば、デンプン(変性デンプン、酸化デンプン、ヒドロキシエチルエーテル化デンプン、リン酸エステル化デンプン)、ポリビニルアルコール、カゼイン等)が挙げられる。
【0050】
クレーコート層中における、クレー:顔料:バインダー樹脂の質量比は、1~20:50~90:10~30であることが好ましい。
クレーコート層中には、顔料分散剤、消泡剤、発泡防止剤、粘度調整剤、潤滑剤、耐水化剤、保水剤、色材、印刷適性改良剤等の添加剤を含有していてもよい。
【0051】
クレーコート層の厚みは、基材の平滑化、傷つき防止及び加工性のバランスの観点から、5~40μmであることが好ましく、10~30μmであることがより好ましく、15~25μmであることがさらに好ましい。
【0052】
クレーコート層は、クレーコート層を構成する材料を溶媒に希釈したクレーコート層用インキを、基材上に塗布し、乾燥させることにより形成できる。
【0053】
[光沢印刷層]
光沢印刷層3は、例えば、第1領域aにあるハードコート層2の表面と、第2領域bにある基材1の表面(第2基材部分12の表面)とに積層されている層である。
光沢印刷層3は、光沢印刷層用インキを印刷することにより形成される。このように光沢を付与する層を蒸着ではなく印刷により形成することにより、コストを低減すると共に、カールの発生を抑制できる。光沢印刷層3は、金属鱗片を偏在化する観点から、ハードコート層2上に形成することが好ましく、ハードコート層2に接して形成することがより好ましい。
また、光沢印刷層3は、基材1の表面(第2基材部分12の表面)又はハードコート層2上の一部の面に、所望のパターンで形成して、文字、数字、図形、記号、風景、人物、動物、キャラクター等の絵柄を形成してもよいし、これらの全部の面に形成してもよい。
【0054】
[金属鱗片]
光沢印刷層3中には金属鱗片や金属粒子を含むことが好ましい。特に、金属鱗片を用いることにより、光沢印刷層3の金属光沢を良好にすることができる。
【0055】
また、金属鱗片は、光沢印刷層3の上部(光沢印刷層3のハードコート層2とは反対側)に偏在化してなることが好ましい。金属鱗片が光沢印刷層3の上部に偏在化することにより、金属光沢を良好にすると共に、光沢印刷層3と基材1又はハードコート層2との密着性を向上することができる。
【0056】
金属鱗片は、光沢印刷層3を形成する過程で、光沢印刷層3の上部に偏在化できる。より詳しくは、光沢印刷層3の加熱乾燥過程で、光沢印刷層用インキの溶剤が揮発する際に、光沢印刷層用インキの溶剤が上方に向って流れる。そして、光沢印刷層用インキの溶剤の流れと共に金属鱗片が浮かび上がり、光沢印刷層3の上部に金属鱗片が偏在すると考えられる。特に、光沢印刷層3の下層に光沢印刷層用インキの溶剤が浸透しにくいハードコート層2を位置させることにより、光沢印刷層用インキの溶剤が下方に向う流れを抑制でき、光沢印刷層用インキの溶剤が殆ど上方に向って流れるため、光沢印刷層3の上部に金属鱗片を偏在させやすくできる。また、ハードコート層2を電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物層とした際に、金属鱗片の偏在をより顕著にできると考えられる。
【0057】
金属鱗片の偏在の程度は、印刷物100の断面を電子顕微鏡で撮像し、撮像した写真の光沢印刷層3内の濃度差により確認できる。より詳しくは、金属鱗片の偏在箇所は電子の反射が顕著であるため白く観察され、金属鱗片を実質的に含有しない箇所はグレー調に観察される。
光沢印刷層3中における金属鱗片の偏在領域の厚みの割合[(金属鱗片の偏在領域の厚み/光沢印刷層3の全厚み)]は、金属光沢と密着性のバランスの観点から、10~60%であることが好ましく、20~50%であることがより好ましく、25~45%であることがさらに好ましい。
【0058】
金属鱗片は、以下の金属鱗片の条件を満たすことが好ましい。
(金属鱗片の条件)金属鱗片の平均厚み/金属鱗片の平均長さ≦0.010
[金属鱗片の平均厚み/金属鱗片の平均長さ]を0.010以下とすることにより、光沢印刷層用インキを塗布した時点で、光沢印刷層3の水平方向(光沢印刷層3の厚み方向と直交する方向)に対して金属鱗片が傾きにくくなる。このため、光沢印刷の乾燥過程で光沢印刷層用インキの溶剤が光沢印刷層3の上方に流れる際に、金属鱗片が光沢印刷層用インキの溶剤の流れの力を受けやすくなり、光沢印刷層3の上部に金属鱗片が偏在化しやすくなると共に、金属鱗片が平行に配列しやすくなるため、金属光沢を良好にしやすくできる。また、金属鱗片が傾くことによる弊害は、金属鱗片の含有量の増加に併せて増加するが、金属鱗片の条件を満たす場合、金属鱗片が傾きにくいことから金属鱗片の含有量を多くすることができ、金属光沢を良好にしやすくできる。
なお、金属鱗片の平均長さに対して金属鱗片の平均厚みが薄くなり過ぎると、取り扱い性が困難となったり、十分な金属光沢が発現できなかったりする可能性がある。
このため、金属鱗片の条件は、0.001≦金属鱗片の平均厚み/金属鱗片の平均長さ≦0.010を満たすことが好ましく、0.002≦金属鱗片の平均厚み/金属鱗片の平均長さ≦0.008を満たすことがより好ましく、0.002≦金属鱗片の平均厚み/金属鱗片の平均長さ≦0.005を満たすことがさらに好ましい。
【0059】
また、光沢印刷層用インキを塗布した時点で、光沢印刷層3の水平方向に対して金属鱗片が傾くことをより抑制し、また、光沢印刷層3の表面から金属鱗片が突出することを抑制する観点から、金属鱗片の平均長さと、光沢印刷層3の厚みとが以下の金属鱗片の平均長さの条件を満たすことが好ましい。
(金属鱗片の平均長さの条件)10≦金属鱗片の平均長さ/光沢印刷層3の厚み
なお、[金属鱗片の平均長さ/光沢印刷層3の厚み]が大きすぎると、光沢印刷層3の表面から金属鱗片が突出する場合があることから、金属鱗片の平均長さの条件は、15≦金属鱗片の平均長さ/光沢印刷層3の厚み≦60を満たすことがより好ましく、25≦金属鱗片の平均長さ/光沢印刷層3の厚み≦50を満たすことがさらに好ましい。
【0060】
金属鱗片の材質としては、アルミニウム、金、銀、真鍮、チタン、クロム、ニッケル、ニッケルクロム、ステンレス等の金属や合金が挙げられる。
金属鱗片は、例えば、前記金属や合金をプラスチックフィルム上に真空蒸着してなる金属薄膜をプラスチックフィルムから剥離させ、剥離した金属薄膜を粉砕し、攪拌することにより得ることができる。
【0061】
金属鱗片の平均長さは、金属鱗片の分散適性、偏在及び配列の観点から、5.0~30μmであることが好ましく、8.0~20μmであることがより好ましい。
また、金属鱗片の平均厚みは、金属鱗片の偏在及び配列の観点から、0.10μm以下であることが好ましく、0.080μm以下であることがより好ましく、0.060μm以下であることがさらに好ましい。また、金属鱗片の平均厚みは、取り扱い性及び高い光沢の観点から、0.010μm以上であることが好ましく、0.020μm以上であることがより好ましい。
【0062】
金属鱗片の平均長さ及び平均厚みは、100個の金属鱗片の平均値とする。なお、個々の金属鱗片の長さ及び厚みは、平滑な基材上に金属鱗片を散布した状態で、レーザ干渉式の三次元形状解析装置を用いることにより測定できる。個々の金属鱗片の長さは、任意の方向において個々の金属鱗片を平面から観察した際の最大径を意味し、個々の金属鱗片の厚みは、個々の金属鱗片を断面方向から観察した際の最大厚みを意味する。なお、任意の方向において個々の金属鱗片を平面から観察した際の最大径とは、個々の金属鱗片の最大径を測定する方向を統一する主旨である。例えば、三次元形状解析装置の測定結果を画像処理した画面上のX軸方向を任意の方向(測定方向)とした場合、X軸と平行な方向で最大径を測定するものとする。仮にX軸と平行ではない方向に最大径が存在したとしても、それを最大径とはみなさない。
レーザ干渉式の三次元形状解析装置としては、例えば、株式会社キーエンス製の商品名「形状解析レーザ顕微鏡 VK-Xシリーズ」が挙げられる。
【0063】
[バインダー樹脂]
光沢印刷層3は、さらに、バインダー樹脂を含むことが好ましい。
バインダー樹脂としては、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂等の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂が挙げられる。また、バインダー樹脂として、上述した紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物を用いてもよい。
【0064】
バインダー樹脂と金属鱗片との配合比は、固形分質量比で55:45~30:70であることが好ましく、50:50~35:65であることがより好ましい。バインダー樹脂55に対して金属鱗片を45以上とすることにより、十分な金属光沢を得やすくなり、バインダー樹脂30に対して金属鱗片を70以下とすることにより、光沢印刷層3の印刷性、印刷物100の加工性を良好にしやすくできる。なお、本発明では、光沢印刷層3の下方にハードコート層を有することから、上記のように金属鱗片を多量に用いても、光沢印刷層3の上部に金属鱗片を偏在化させることができる。
【0065】
光沢印刷層3の厚みは、金属鱗片の偏在及び配列の観点、並びに隠蔽性の観点から、0.15~1.5μmであることが好ましく、0.20~1.0μmであることがより好ましいく、0.25~0.75μmであることがさらに好ましい。
なお、光沢印刷層3の厚みは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いて撮影した断面の画像から20箇所の厚みを測定し、20箇所の値の平均値から算出できる。測定する膜厚がμmオーダーの場合、SEMを用いることが好ましく、nmオーダーの場合、TEM又はSTEMを用いることが好ましい。SEMの場合、加速電圧は1kV~10kV、倍率は1000~7000倍とすることが好ましく、TEM又はSTEMの場合、加速電圧は10kV~30kV、倍率は5万~30万倍とすることが好ましい。
光沢印刷層3以外の層の厚みも上記と同様の手法で測定できる。
【0066】
光沢印刷層3には、光沢印刷層3を所望の色にするために、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック、酸化鉄、鉄黄、群青、メタリック顔料、パール顔料等の着色剤を含有させてもよい。
【0067】
光沢印刷層3の表面のJIS Z8741:1997の60度における鏡面光沢度は、150%以上であることが好ましく、200%以上であることがより好ましく、250%以上であることがさらに好ましい。光沢印刷層3の表面の鏡面光沢度の上限は500%程度である。光沢印刷層3の鏡面光沢度を前記範囲とすることにより、光沢印刷層3の金属光沢が良好となり、ひいては印刷物100の金属光沢を良好にすることができる。
【0068】
光沢印刷層3は、光沢印刷層3を形成する成分を溶剤で希釈してなる光沢印刷層用インキを、ハードコート層2及び基材1上に塗布、乾燥し、必要に応じて紫外線照射することにより形成できる。
光沢印刷層用インキは、金属鱗片の偏在及び乾燥効率の両立の観点から、全固形分100質量部に対して、溶剤を600~1100質量部含有することが好ましい。
ハードコート層2の樹脂組成により溶剤の浸透性が異なるため、好適な溶剤の種類は一概には言えないが、例えば、酢酸エチル、イソプロピルアルコール(IPA)、エタノール、酢酸ノルマルプロピル(NPAC)やこれらを混合したもの等を用いることができる。
【0069】
[絵柄層]
絵柄層4は、光沢印刷層3の表面に積層されている。すなわち、印刷物100は、印刷物100の意匠性を高めることを目的として、基材1と表面保護層5との間の任意の箇所に絵柄層4を有することが好ましい。例えば、絵柄層4は、光沢印刷層3上及び/又は基材1上の光沢印刷層3が形成されていない部分の任意の箇所に形成できる。
絵柄層4は印刷等で形成される。絵柄層4は、通常の黄色、赤色、青色、及び黒色のプロセスカラーによる多色印刷によって形成できるし、絵柄を構成する個々の色の版を用意して行う特色による多色印刷等によっても形成できる。絵柄層4の絵柄は、通常の印刷で用いられる絵柄(例えば、文字、数字、図形、記号、風景、人物、動物、キャラクター等)であれば、特に制限されることなく使用できる。
【0070】
絵柄層4の形成に用いられるインキとしては、バインダー樹脂に顔料、染料等の着色剤、体質顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤等を適宜混合したものが使用される。
バインダー樹脂としては特に制限はなく、例えば、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、塩素化ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アルキド系樹脂、石油系樹脂、ケトン樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、繊維素誘導体、ゴム系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、単独又は2種以上を混合して使用できる。
【0071】
絵柄層4の厚みは、絵柄層4の形態と、目的とする意匠性とを考慮して、0.1~20μm程度の範囲で適宜調整することができる。絵柄層4中には、本発明の効果を阻害しない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含有してもよい。
【0072】
[表面保護層]
印刷物100は、光沢印刷層3を有する側の最表面に表面保護層5を有する。最表面に表面保護層5を形成することにより、印刷物100の耐擦傷性及び耐候性を向上させることができる。このため、表面保護層5は、光沢印刷層3及び必要に応じて設ける絵柄層4の全領域を覆うように形成することが好ましい。また、さらに、ハードコート層2の全領域を覆うように表面保護層5を形成することがより好ましい。
【0073】
また、表面保護層5は、紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物層であることが好ましい。
表面保護層5を紫外線硬化性樹脂組成物から形成する場合、紫外線の照射により表面保護層を瞬時に硬化することができるため、表面保護層5の形成過程で、表面保護層5の表面形状が下層(例えば光沢印刷層3等)の高周波成分の凹凸に追従することを抑制できる。このため、表面保護層5は高周波成分の凹凸を極力少なくすることができ、光沢感を良好にできると共に、光沢印刷層3の金属光沢を維持できる。その一方、紫外線硬化性樹脂組成物に紫外線を照射するまでの間(紫外線硬化性樹脂組成物の硬化が始まるまでの間)に、表面保護層5の表面形状は下層(例えば光沢印刷層3等)の低周波成分の凹凸に適度に追従する。このため、表面保護層5には少量ながらも低周波成分の凹凸が維持されることになり、表面保護層5の表面が過度に平滑化されることにより、正反射方向の反射光が高くなり過ぎ、視認者に不快感を与えることを抑制できる。なお、前記効果をより達成しやすくするために、紫外線硬化性樹脂組成物は溶剤を含まないことが好ましい。
【0074】
表面保護層5を形成する紫外線硬化性樹脂組成物は、光沢印刷層3で例示した紫外線硬化性樹脂組成物と同様のものを用いることができる。
表面保護層5中には、耐候性を向上するために、紫外線吸収剤及び/又は光安定剤を含むことが好ましい。
なお、紫外線硬化性樹脂組成物中には、紫外線硬化性化合物以外の樹脂成分(熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂)を含有してもよい。ただし、上述した効果を達成しやすくするために、紫外線硬化性樹脂組成物の全樹脂成分に占める紫外線硬化性化合物の割合が90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることがさらに好ましい。
【0075】
表面保護層5の厚みは、0.5~5.0μmであることが好ましく、0.8~1.5μmであることがより好ましい。
【0076】
[容器]
本発明に係る容器は、上述した印刷物100を用いてなるものであり、例えば、図5に示すように、印刷物100の表面100bが外側になる容器となるように、折り曲げ線50で折り曲げることができる。第4領域dで折り曲げた際の容器の折り曲げ角度θは、45~180°とすることができる。特に、折り曲げ角度θを90~180°とした場合は、ハードコート層2にひび割れが発生しやすいため、折り曲げ角度θが90~180°の場合に本発明の効果はよく発揮される。
容器としては、特に制限されることなく、飲料容器、食品容器等が挙げられる。容器は、優れた光沢感があり、意匠性に優れるものである。
印刷物100を第2領域bに形成された折り曲げ線50で折り曲げても、基材1は、第2領域bすなわち第2基材部分12で折り曲がり、第1基材部分11では、殆ど折り曲がらないので、ハードコート層2は第2基材部分12を覆わないように基材1の第1基材部分11の表面に積層されているところ、第1基材部分11に積層されたハードコート層2は殆ど折り曲がらない。このため、印刷物100を折り曲げ線50で曲げた際に生じる引張り力は、ハードコート層2には殆ど作用しないので、ハードコート層2や光沢印刷層3には殆どひびは発生しない。つまり、印刷物100を折り曲げ線50で折り曲げた際におけるハードコート層2や光沢印刷層3のひびの発生が抑制されているため、ひびの発生を原因としたトラブルを生じることを防止できる。このため、外観に優れた容器を提供することができる。
【0077】
例えば、図1のブランクを用いて容器を製函する場合、第1パネルP1と連設される糊代片Nと第4パネルP4とを接合した後、第4領域dで180°となるように折り曲げて扁平状となる状態、いわゆるサック貼りの状態で製函メーカーに納入される場合に、本発明の効果はよく発揮される。
【実施例
【0078】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
【0079】
[実施例1]
(ハードコート層の形成)
基材1(坪量310g/mの片面カード紙)のコート面側に、第2領域bを除いて、下記処方のハードコート層用インキ1を乾燥後の厚みが6μmとなるように塗布、乾燥、紫外線照射して、ハードコート層2を形成した。この時のハードコート層2は電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物層である。
【0080】
(光沢印刷層の形成)
次いで、ハードコート層2の全面及び第2領域bから露出している基材1の表面に、下記処方の光沢印刷層用インキ2を乾燥後の厚みが0.50μmとなるように塗布、乾燥して、光沢印刷層3を形成した。光沢印刷層3のうち基材1の表面に形成された層以外の層の金属鱗片が実質的に存在しない領域の厚みは0.30μm、金属鱗片偏在領域の厚みは0.20μmであった。
【0081】
(絵柄層の形成)
次いで、光沢印刷層3上の任意の箇所に、オフセット印刷により紺色の絵柄層4を形成した。
【0082】
(表面保護層の形成)
次いで、絵柄層4及び光沢印刷層3の全面を覆うように、下記処方の表面保護層用インキ3を乾燥後の厚みが1.0μmとなるように塗布、紫外線照射して、表面保護層5(無溶剤型の紫外線硬化性樹脂組成物の硬化物層)を形成した。
【0083】
(第3領域及び第4領域の形成)
次いで、雄型と雌型とで印刷物100を挟み、加圧することにより第2領域bにエンボス(第3領域c)と折り曲げ線50(第4領域d)を形成すると共に、印刷物100を打抜くことにより、図1に示すブランク形状の印刷物100を得た。このとき、エンボスの突出高さh2は0.18mm、幅w3は30mm、エンボスを含む第2領域bの幅w1は32mm、折り曲げ線50の突出高さh1は0.14mm、幅w2は1.5mm、折り曲げ線50を含む第2領域bの幅w1は3.5mmであった。
【0084】
<ハードコート層用インキ1>
・電離放射線硬化性化合物 70部
(BASFジャパン株式会社製、商品名:Lumogen OVD Primer301)
(2官能アクリレートモノマーと3官能アクリレートモノマーとの混合物)
・溶剤(酢酸エチル) 30部
【0085】
<光沢印刷層用インキ2>
・バインダー樹脂(硝化綿) 4.8部
(DICグラフィックス株式会社製、商品名:XS-763メジュームNT-No.1)
・アルミニウム鱗片 7.2部
(平均長さ14μm、平均厚さ0.04μm)
・溶剤(酢酸エチル、IPA、エタノール、NPAC) 88部
【0086】
<表面保護層用インキ3(無溶剤型)>
・紫外線硬化性化合物 100部
(DICグラフィックス株式会社製、商品名:UV低臭コートニスS)
【0087】
得られた印刷物100を目視で確認したところ、第1領域a及び第2領域bにおいて、光沢印刷層の剥がれやひび割れは認められず、印刷物100の外観は良好であった。
【0088】
さらに、得られた印刷物100を、折り曲げ線50に従って折り曲げて容器を製函したところ第1領域a及び第2領域bにおいて、光沢印刷層の剥がれやひび割れは認められず、印刷物100の外観は良好であった。なお、このとき、第4領域の折り曲げ角度θは90°である。
【符号の説明】
【0089】
100:印刷物
1:基材
2:ハードコート層
3:光沢印刷層
4:絵柄層
5:表面保護層
a:第1領域
b:第2領域
c:第3領域
d:第4領域
図1
図2
図3
図4
図5