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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】レーザ測長器
(51)【国際特許分類】
   G01S 17/34 20200101AFI20221101BHJP
   G01S 7/481 20060101ALI20221101BHJP
   G01S 7/497 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
G01S17/34
G01S7/481 A
G01S7/497
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018131171
(22)【出願日】2018-07-11
(65)【公開番号】P2020008475
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】清水 信貴
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 知之
(72)【発明者】
【氏名】森下 英三郎
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-330669(JP,A)
【文献】特開2001-332810(JP,A)
【文献】特開2007-147369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48- 7/51
G01S 17/00-17/95
G01C 3/06
G01B 11/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ素子と、
波長変調された変調レーザ光を前記レーザ素子から射出させる駆動制御部と、
前記レーザ素子から射出された前記変調レーザ光の一部を透過させるとともに、当該変調レーザ光が通る複数の界面のうち所定の一つの界面である反射面で前記変調レーザ光の一部を反射させる光学素子と、
前記光学素子を透過した前記変調レーザ光のうち測定対象物で反射して前記レーザ素子に戻入した光と前記レーザ素子内の前記変調レーザ光との干渉による第1のビート信号と、前記反射面で反射して前記レーザ素子に戻入した前記変調レーザ光と前記レーザ素子内の前記変調レーザ光との干渉による第2のビート信号と、が重畳した前記変調レーザ光を検出する検出部と、
前記検出部による検出結果から取得された前記第1のビート信号の周波数に基づいて、所定の基準位置から前記測定対象物までの距離を算出する距離算出部と、
を備え、
前記距離算出部は、前記検出部による検出結果から取得された前記第2のビート信号の周波数と、前記レーザ素子から前記反射面までの光学的距離と、に基づいて前記レーザ素子及び前記駆動制御部の少なくとも一方の特性変動に起因する誤差が補正された前記距離を算出し、
前記距離算出部は、前記第2のビート信号の周波数及び前記光学的距離に基づいて、前記誤差を生じさせ得る誤差因子の大きさを取得し、当該誤差因子の大きさに応じて補正された前記距離を算出することを特徴とするレーザ測長器。
【請求項2】
前記光学素子は、一対の界面を有し、当該一対の界面のうち一方にのみ、前記変調レーザ光の反射を抑制する反射防止層が設けられており、前記一対の界面の他方が前記反射面であることを特徴とする請求項1に記載のレーザ測長器。
【請求項3】
前記光学素子は、前記一対の界面のうち前記レーザ素子に近い第1面に前記反射防止層が設けられており、前記一対の界面のうち前記第1面とは反対側の第2面が前記反射面であることを特徴とする請求項2に記載のレーザ測長器。
【請求項4】
前記光学素子は、前記レーザ素子から射出された前記変調レーザ光の発散角を低減させるレンズであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のレーザ測長器。
【請求項5】
前記距離算出部は、前記変調レーザ光の変調周期のうち、前記変調レーザ光の波長が増大する増大期間、及び前記変調レーザ光の波長が減少する減少期間においてそれぞれ前記誤差因子の大きさを取得することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のレーザ測長器。
【請求項6】
前記距離算出部は、前記変調レーザ光の複数の変調周期のうち所定頻度の一部の変調周期において前記誤差因子の大きさを取得することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のレーザ測長器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ測長器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザ素子から射出されたレーザ光の測定対象物での反射光を検出し、その検出結果に基づいて測定対象物までの距離を算出するレーザ測長器がある。このようなレーザ測長器の一つとして、レーザ素子のセルフミキシング現象を利用したものが知られている。このレーザ測長器では、波長変調(周波数変調)された変調レーザ光がレーザ素子から射出され、当該射出された変調レーザ光のうち測定対象物で反射してレーザ素子に戻入した戻り光と、レーザ素子内の変調レーザ光との干渉により、レーザ素子から射出されるレーザ光にビート信号が重畳される(セルフミキシング現象)。このビート信号の周波数は、戻り光の往復距離に応じた値となるため、当該ビート信号の周波数に基づいて測定対象物までの距離を算出することができる。
【0003】
レーザ測長器では、レーザ素子の駆動電流の振幅や変調周波数、及び駆動電流の変調に対するレーザ素子の周波数変調効率といった、レーザ素子の駆動に係る特性(以下、レーザ駆動特性と記す)が、温度に応じて変動したり、経時的に変動したりする。これらのレーザ駆動特性が変動すると、当該変動に応じて上記のビート信号の周波数も変動するため、ビート信号の周波数に基づいて算出された距離には、レーザ駆動特性の変動に応じた誤差が含まれ得る。これに対し、予め定められた基準点で変調レーザ光の一部を反射させて、当該基準点で反射した戻り光との干渉によるビート信号の周波数が一定に保たれるようにレーザ素子の駆動条件をフィードバック制御することで、レーザ駆動特性の変動に起因する誤差の発生を抑制する技術がある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5354707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の技術では、レーザ素子の駆動電流の振幅や周波数をフィードバック制御するための回路が必要となって回路構成が複雑になり、装置の大型化やコスト上昇を招くというという課題がある。
【0006】
この発明の目的は、より簡易な構成で正確に距離を算出することができるレーザ測長器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載のレーザ測長器の発明は、
レーザ素子と、
波長変調された変調レーザ光を前記レーザ素子から射出させる駆動制御部と、
前記レーザ素子から射出された前記変調レーザ光の一部を透過させるとともに、当該変調レーザ光が通る複数の界面のうち所定の一つの界面である反射面で前記変調レーザ光の一部を反射させる光学素子と、
前記光学素子を透過した前記変調レーザ光のうち測定対象物で反射して前記レーザ素子に戻入した光と前記レーザ素子内の前記変調レーザ光との干渉による第1のビート信号と、前記反射面で反射して前記レーザ素子に戻入した前記変調レーザ光と前記レーザ素子内の前記変調レーザ光との干渉による第2のビート信号と、が重畳した前記変調レーザ光を検出する検出部と、
前記検出部による検出結果から取得された前記第1のビート信号の周波数に基づいて、所定の基準位置から前記測定対象物までの距離を算出する距離算出部と、
を備え、
前記距離算出部は、前記検出部による検出結果から取得された前記第2のビート信号の周波数と、前記レーザ素子から前記反射面までの光学的距離と、に基づいて前記レーザ素子及び前記駆動制御部の少なくとも一方の特性変動に起因する誤差が補正された前記距離を算出し、
前記距離算出部は、前記第2のビート信号の周波数及び前記光学的距離に基づいて、前記誤差を生じさせ得る誤差因子の大きさを取得し、当該誤差因子の大きさに応じて補正された前記距離を算出することを特徴としている。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のレーザ測長器において、
前記光学素子は、一対の界面を有し、当該一対の界面のうち一方にのみ、前記変調レーザ光の反射を抑制する反射防止層が設けられており、前記一対の界面の他方が前記反射面であることを特徴としている。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のレーザ測長器において、
前記光学素子は、前記一対の界面のうち前記レーザ素子に近い第1面に前記反射防止層が設けられており、前記一対の界面のうち前記第1面とは反対側の第2面が前記反射面であることを特徴としている。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載のレーザ測長器において、
前記光学素子は、前記レーザ素子から射出された前記変調レーザ光の発散角を低減させるレンズであることを特徴としている。
【0012】
請求項に記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載のレーザ測長器において、
前記距離算出部は、前記変調レーザ光の変調周期のうち、前記変調レーザ光の波長が増大する増大期間、及び前記変調レーザ光の波長が減少する減少期間においてそれぞれ前記誤差因子の大きさを取得することを特徴としている。
【0013】
請求項に記載の発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載のレーザ測長器において、
前記距離算出部は、前記変調レーザ光の複数の変調周期のうち所定頻度の一部の変調周期において前記誤差因子の大きさを取得することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明に従うと、より簡易な構成で正確に距離を算出することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】レーザ測長器の概略構成を示す図である。
図2】レーザ素子の駆動電流の波形、及びフォトダイオードの出力の波形を示す図である。
図3】測定対象距離の算出動作に係るレーザ測長器の機能構成を示すブロック図である。
図4】測定対象距離の算出動作が行われるタイミングを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のレーザ測長器に係る実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態であるレーザ測長器1の概略構成を示す図である。
レーザ測長器1は、半導体レーザにより構成されたレーザ素子11と、フォトダイオード12(検出部)と、レンズ13(光学素子)と、これらのレーザ素子11、フォトダイオード12及びレンズ13を内部に収容する筐体10と、を備えている。
レーザ測長器1は、レーザ素子11から筐体10の外部に射出されたレーザ光の測定対象物90での反射光を検出し、当該検出結果に基づいて、所定の基準位置(ここでは、レーザ素子11におけるレーザ光の射出位置)から測定対象物90までの距離を算出する。
【0018】
レーザ素子11は、閾値電流以上の駆動電流が供給されることでレーザ光を射出面11aから射出する。レーザ素子11では、駆動電流の大きさに応じて、射出されるレーザ光の波長(周波数)及び出力パワーが変化する。これは、活性層内部のキャリア密度や温度が駆動電流の大きさに応じて変化することに起因する。
レーザ素子11には、後述するレーザ駆動部24から、図2(a)に示されるような三角波の駆動電流が入力される。これにより、レーザ素子11は、駆動電流の変調に応じて波長及び出力パワーが変調された変調レーザ光を射出する。詳しくは、レーザ素子11は、駆動電流の増大に応じて波長及び出力パワーが増大し、駆動電流の減少に応じて波長及び出力パワーが減少する変調レーザ光を射出する。レーザ素子11の変調周波数は、特には限られないが、本実施形態では1kHzとされている。
【0019】
本実施形態では、レーザ素子11としてVCSEL(垂直共振器面発光レーザ)が用いられている。VCSELでは、光の共振器が半導体基板の基板面に垂直な方向(射出面11aに垂直な方向)に形成され、共振器内で増幅、共振したレーザ光が基板面に垂直な方向に射出される。また、VCSELでは、駆動電流の変動に伴って発振周波数が不連続に遷移するモードホップが生じないため、駆動電流の増減に追随してレーザ光の波長を連続的に変調させることができる。
【0020】
フォトダイオード12は、入射した光の強度に応じた大きさの電流を出力する光検出素子である。フォトダイオード12の光の検出面12aの一部には、レーザ素子11の射出面11aとは反対側の面が固着されている。フォトダイオード12は、レーザ素子11から射出されレンズ13の表面などで反射された変調レーザ光を、検出面12aのうちレーザ素子11が固着されていない部分で受けて検出する。
【0021】
レンズ13は、レーザ素子11から射出された変調レーザ光の一部を屈折させつつ透過させることで、変調レーザ光の発散角を低減させて平行光とする光学素子である。レンズ13は、変調レーザ光が通過する一対の界面のうち、レーザ素子11に近い第1面13aが平面となっており、第1面13aとは反対側の第2面13bが凸面となっている。
【0022】
レンズ13の第1面13aには、変調レーザ光の反射を抑制する反射防止層131が設けられている。他方で、レンズ13の第2面13bには反射防止層131が設けられていない。このような構成により、レンズ13の第1面13aでは入射した変調レーザ光がほとんど反射せず、第2面13bにおいて変調レーザ光の一部が反射するようになっている。すなわち、本実施形態のレンズ13では、一対の界面のうち第2面13bが反射面を構成する。
レンズ13としては、例えばガラスからなるものを用いることができる。レンズ13がガラスからなる場合の第2面13bにおける光の反射率は、約4~5%である。
反射防止層131の材質は、特には限られないが、例えばフッ素を含有する樹脂などを用いることができる。
【0023】
筐体10は、光を透過させない材質、例えば金属や樹脂などにより構成され、測定対象物90からの反射光以外の光が内部に侵入しないように遮光するとともに、レーザ素子11、フォトダイオード12及びレンズ13を保護する。また、筐体10のうちレンズ13を透過した変調レーザ光が通る部分は、光透過性を有する部材(ガラスや樹脂等)により構成された透過窓となっている。
【0024】
次に、上記構成のレーザ測長器1による距離の測定動作について説明する。
レーザ測長器1では、レーザ素子11から射出されて測定対象物90で反射した変調レーザ光の一部がレーザ素子11内の光共振器に戻入し、この戻り光と、レーザ素子11の光共振器内で発振している変調レーザ光とが干渉する。ここで、上述のように、レーザ素子11ではレーザ光の波長が変調されて常に変化しており、戻り光及びレーザ素子11内の変調レーザ光の波長が共振条件を満たす波長であるときには光共振器における増幅効率が僅かに上がり、減衰条件を満たす波長であるときには増幅効率が僅かに下がる。変調レーザ光の波長の変化に応じて、戻り光と、レーザ素子11内の変調レーザ光とは、共振条件及び減衰条件を交互に繰り返し満たすため、レーザ素子11から射出される変調レーザ光の強度は、当該繰り返しの周期で増減する。すなわち、レーザ素子11からは、戻り光と内部の変調レーザ光との干渉によるビート信号が重畳した変調レーザ光が射出される。このように、戻り光との干渉によるビート信号が射出レーザ光に重畳する現象は、セルフミキシング現象と呼ばれる。
【0025】
このセルフミキシング現象の結果、フォトダイオード12による変調レーザ光の検出強度(フォトダイオード12の出力)は、図2(b)に示されるように、駆動電流の三角波に応じた出力の増減に加えて、駆動電流の変調周波数より高い周波数のビート信号が重畳されたものとなる。
変調レーザ光に重畳されるビート信号の周波数は、戻り光の往復距離、すなわちレーザ素子11から測定対象物90までの距離が長くなるに従って増大するため、ビート信号の周波数に基づいて、測定対象物90までの距離を算出することができる。
【0026】
詳しくは、測定対象物90で反射した戻り光との干渉によるビート信号(以下では、第1のビート信号とも記す)の周波数ftは、以下の式(1)を満たす。
L1+n・L2+L3=(c・ft)/(4・Im・fm・Ω) …(1)
ここで、L1、n、L2、L3、c、Im、fm、Ωは、それぞれ以下の値である。
L1:レーザ素子11からレンズ13の第1面13aまでの距離
n :レンズ13の屈折率
L2:レンズ13の光軸方向の厚さ
L3:レンズ13の第2面13bから測定対象物90までの距離
c :光速
Im:駆動電流の変調振幅
fm:駆動電流の変調周波数
Ω :駆動電流の変調に対するレーザ素子11の周波数変調効率を表す周波数変調係数
よって、上記の式(1)により、未知の距離L3を含む測定対象物90までの距離(以下では、測定対象距離Lmと記す)を取得することができる。本実施形態では、測定対象距離Lmは、レーザ素子11の射出面11aを基準位置とした距離L1+L2+L3である。ただし、これに限定されず、測定対象距離Lmは、射出面11aからの距離が既知である任意の基準位置からの距離とすることができる。例えば、レンズ13の第2面13bを基準位置として、距離L3を測定対象距離Lmとしても良い。
【0027】
また、本実施形態のレーザ測長器1では、レーザ素子11から射出された変調レーザ光の一部は、レンズ13の第2面13bにおいても反射してレーザ素子11に戻入する。このため、レンズ13の第2面13bからの戻り光との間でも干渉が生じ、レーザ素子11から射出される変調レーザ光には、当該干渉によるビート信号(以下では、第2のビート信号とも記す)も重畳される。
レンズ13の第2面13bで反射した戻り光との干渉による第2のビート信号の周波数frは、以下の式(2)を満たす。
L1+n・L2=(c・fr)/(4・Im・fm・Ω) …(2)
【0028】
上記の式(1)及び式(2)のうち、レーザ素子11の駆動に係る特性(レーザ駆動特性)であるIm、fm及びΩの値は、温度や印加電圧に応じて変動したり、経時的に変動したりする。すなわち、Im・fm・Ωは、測定対象距離Lmの算出結果に誤差を生じさせ得る誤差因子である。当該誤差因子のうち、レーザ素子11の周波数変調係数Ωは、特に大きく変動しやすい。
このため、第1のビート信号の周波数ftを用いて式(1)に基づいて算出された、距離L3を含む測定対象距離Lmには、Im、fm及びΩの変動に起因する誤差が含まれ得る。例えば、測定対象距離Lmが約50mmである場合に、レーザ測長器1の環境温度が1℃変化すると、式(1)に基づいて算出される測定対象距離Lmは、Im・fm・Ωの温度変動に起因して1mm程度(2%程度)変動し得る。
【0029】
そこで、本実施形態のレーザ測長器1では、第2のビート信号に係る式(2)に基づいて、温度変動や経時的変動を含んだIm・fm・Ωの距離測定時における値が取得され、当該取得結果を用いて補正された測定対象距離Lmが算出される。
【0030】
すなわち、式(2)を変形した下記式(2a)の右辺は、検出された第2のビート信号の周波数frと、製造時に既知であるレーザ素子11からレンズ13の第2面13bまでの光学的距離L1+n・L2で表されるため、式(2a)によれば、距離測定時におけるIm・fm・Ωの値、すなわち温度変動や経時的変動を含んだ値を取得することができる。
Im・fm・Ω=(c・fr)/{4(L1+n・L2)} …(2a)
そして、取得されたIm・fm・Ωを式(1)に代入することで、Im、fm及びΩの変動に起因する誤差が補正された距離L3を算出することができ、当該距離L3に基づいて測定対象距離Lmを算出することできる。
このように、本実施形態のレーザ測長器1では、第2のビート信号の周波数frと、レーザ素子11からレンズ13の第2面13bまでの既知の光学的距離L1+n・L2と、に基づいてレーザ駆動特性の変動に起因する誤差が補正された測定対象距離Lmを算出する。
【0031】
セルフミキシング現象により重畳されるビート信号の周波数が低すぎると、DCの周波数領域と近くなってビート信号のピーク周波数の検出精度が落ちるため、上記の方法を用いても測定対象距離Lmの真値からの誤差率が高くなる。特に、第2のビート信号の周波数frは、レンズ13がレーザ素子11の近傍に配置されることから小さくなりやすい。
そこで、本実施形態では、レンズ13の第1面13a及び第2面13bのうち、レーザ素子11から遠い第2面13bを反射面とすることで、戻り光の往復距離をできるだけ大きくし、第2のビート信号の周波数frが低くなり過ぎないようにしている。本実施形態の構成では、第2のビート信号の周波数frを6kHz以上とすることで、測定対象距離Lmの真値からの誤差率を±0.3%以内に抑えられることが確認されている。このため、レンズ13は、第2のビート信号の周波数frが6kHz以上となるような距離だけ第2面13bとレーザ素子11とが離隔する位置に配置されている。
【0032】
図3は、上述の補正された測定対象距離Lmの算出動作に係るレーザ測長器1の機能構成を示すブロック図である。
図3に示されるように、レーザ測長器1は、ホストI/F(インターフェース)20と、駆動波形信号生成部21と、DAコンバータ22と、ローパスフィルタ23と、レーザ駆動部24と、上述のレーザ素子11及びフォトダイオード12と、電流電圧変換部31と、復調部32と、増幅部33と、アンチエイリアスフィルタ34と、ADコンバータ35と、帯域選択フィルタ36と、FFT(高速フーリエ変換部)37と、距離算出部38などを備える。
【0033】
ホストI/F(インターフェース)20は、レーザ測長器1に接続されたホスト機器(パーソナルコンピュータやマイコン等のホストプロセッサー)との間で、SPIやI2Cといったシリアル通信などによりデータの送受信を行う。具体的には、ホストI/F20は、ホスト機器から、レーザ測長器1の動作の各種設定に係るデータや、距離測定動作の開始命令などを受信し、距離の測定結果などをホスト機器に送信する。
【0034】
駆動波形信号生成部21は、レーザ素子11を駆動する三角波のデジタル信号を生成する。
【0035】
DAコンバータ22は、駆動波形信号生成部21で生成された三角波信号をアナログ信号に変換する。
【0036】
ローパスフィルタ23は、DAコンバータ22のサンプリングによって生成されるアナログ信号から高周波成分を除去して三角波信号を抽出する。
【0037】
レーザ駆動部24は、ローパスフィルタ23により生成された三角波信号を電流信号に変換してレーザ素子11に供給することで、レーザ素子11を変調駆動する。
【0038】
レーザ素子11は、レーザ駆動部24から供給された三角波の電流信号に応じて変調レーザ光を射出する。当該変調レーザ光には、上述のとおり、測定対象物90で反射した戻り光との干渉による第1のビート信号、及びレンズ13の第2面13bで反射した戻り光との干渉による第2のビート信号が重畳されている。
【0039】
フォトダイオード12は、レーザ素子11から射出された変調レーザ光を検出し、当該変調レーザ光の強度に応じた大きさの検出電流を出力する。
【0040】
電流電圧変換部31は、フォトダイオード12から出力された検出電流を電圧信号に変換する。電流電圧変換部31により生成された電圧信号には、三角波信号に、第1のビート信号及び第2のビート信号が重畳されている。
【0041】
復調部32は、電流電圧変換部31によって生成された電圧信号から三角波信号成分を除去して、三角波信号に重畳されている第1のビート信号及び第2のビート信号を含む電圧信号(以下、混合ビート信号と記す)を抽出する。
【0042】
増幅部33は、復調部32により生成された混合ビート信号が所望の電圧範囲に収まるように混合ビート信号を増幅する。
【0043】
アンチエイリアスフィルタ34は、後段のADコンバータ35によるサンプリングにおいて折り返し(エイリアス)信号が生じるのを防ぐために、混合ビート信号のうちサンプリング周波数の1/2以上の周波数成分を減衰させる。
【0044】
ADコンバータ35は、アンチエイリアスフィルタ34を通過した混合ビート信号を所定のサンプリング周波数でサンプリングしてデジタル信号に変換する。
【0045】
帯域選択フィルタ36は、生成された混合ビート信号のデジタル信号から、後段のFFT37において周波数解析を行う帯域の成分を抽出する。
【0046】
FFT(高速フーリエ変換部)37は、混合ビート信号を周波数解析して、第1のビート信号の周波数ft、及び第2のビート信号の周波数frを検出する。
【0047】
距離算出部38は、検出された第1のビート信号の周波数ft、第2のビート信号の周波数fr、及び光学的距離L1+n・L2に基づいて、式(1)及び式(2)を用いた上述したアルゴリズムに従って、Im・fm・Ωの変動に起因する誤差が補正された測定対象距離Lmを算出する。
【0048】
図3に示される構成要素のうち、駆動波形信号生成部21、DAコンバータ22、ローパスフィルタ23及びレーザ駆動部24が、レーザ素子11を駆動して変調レーザ光を射出させる駆動制御部2を構成する。また、当該駆動制御部2及びレーザ素子11の特性が、上述したレーザ駆動特性に相当する。したがって、本実施形態のレーザ測長器1は、駆動制御部2及びレーザ素子11の少なくとも一方の特性変動に起因する誤差が補正された測定対象距離Lmを算出するものである。
【0049】
図4は、測定対象距離Lmの算出動作が行われるタイミングを説明する図である。
図4では、レーザ素子11の波長の変調周期Tのうち、駆動電流の増大に応じて変調レーザ光の波長が増大する期間を増大期間A(A1、A2、…)、駆動電流の減少に応じて変調レーザ光の波長が減少する期間を減少期間B(B1、B2、…)としている。
【0050】
本実施形態のレーザ測長器1では、図4(a)に示される、連続する複数の変調周期Tの各々における増大期間A及び減少期間B(すなわち、増大期間A1、A2、…An及び減少期間B1、B2、…Bn)において、それぞれ第2のビート信号の周波数frが取得されて誤差因子である係数Im・fm・Ωが算出され、得られたIm・fm・Ωに基づいて測定対象距離Lmが算出される。
レーザ測長器1と測定対象物90とが相対移動している場合には、増大期間Aで算出された測定対象距離Lm、及び減少期間Bで算出された測定対象距離Lmには、それぞれドップラー効果による逆方向の速度成分が含まれる。よって、増大期間A及び減少期間Bにおいてそれぞれ算出された測定対象距離Lmの平均値を算出することで、ドップラー効果による速度成分を相殺することができ、相対移動する測定対象物90の距離をより正確に算出することができる。
また、連続する複数の変調周期Tの各々において測定対象距離Lmを逐次算出することで、測定対象物90との相対移動をリアルタイムに検出したり、温度変動が大きい場合に、温度変動による誤差がより正確に補正された測定対象距離Lmを取得したりすることができる。
【0051】
なお、駆動特性の経時的な変動が小さい場合などでは、図4(b)に示されるように、複数の変調周期Tのうち所定頻度の一部の変調周期Tにおいて、第2のビート信号の周波数frを求め、補正に用いる係数Im・fm・Ωを算出しても良い。
また、図4(c)に示されるように、変調周期Tのうち増大期間Aのみ(又は減少期間Bのみ)において第2のビート信号の周波数frを求め、補正に用いる係数Im・fm・Ωを算出しても良い。
【0052】
以上のように、本実施形態のレーザ測長器1は、レーザ素子11と、波長変調された変調レーザ光をレーザ素子11により射出させる駆動制御部2と、レーザ素子11から射出された変調レーザ光の一部を透過させるとともに、当該変調レーザ光が通る複数の界面のうち所定の一つの界面である第2面13b(反射面)で前記変調レーザ光の一部を反射させる光学素子としてのレンズ13と、レンズ13を透過した変調レーザ光のうち測定対象物90で反射してレーザ素子11に戻入した光とレーザ素子11内の変調レーザ光との干渉による第1のビート信号と、レンズ13の第2面13bで反射してレーザ素子11に戻入した変調レーザ光とレーザ素子11内の変調レーザ光との干渉による第2のビート信号と、が重畳した変調レーザ光を検出するフォトダイオード12と、フォトダイオード12による検出結果から取得された第1のビート信号の周波数ftに基づいて、所定の基準位置から測定対象物90までの測定対象距離Lmを算出する距離算出部38と、を備え、距離算出部38は、フォトダイオード12による検出結果から取得された第2のビート信号の周波数frと、レーザ素子11からレンズ13の第2面13bまでの光学的距離L1+n・L2と、に基づいてレーザ素子11及び駆動制御部2の少なくとも一方の特性変動に起因する誤差が補正された測定対象距離Lmを算出する。
このような構成によれば、セルフミキシング現象により重畳される第1のビート信号及び第2のビート信号の検出結果を用いることで、レーザ素子11の駆動に係るレーザ駆動特性(Im、fm及びΩ)の温度変動や経時的変動に起因する誤差が補正された、正確な測定対象距離Lmを算出することができる。
また、レンズ13などの、レーザ測長器1に元々備えられている部材を光学素子として用いて第2のビート信号を生じさせることができるため、補正を行うために別個の光学素子を追加する必要がない。よって、補正のための部品の増加によるレーザ測長器1のコスト上昇や大型化を招くことなく正確な距離測定を実現することができる。
また、測定対象物90との距離測定に用いられる第1のビート信号と、測定対象距離Lmの補正に用いられる第2のビート信号とを同時に検出することができるため、測定対象距離Lmの誤差の補正を、距離測定のタイミングでリアルタイムに行うことができる。よって、レーザ駆動特性の温度等による時間変化が大きい場合においても、正確に補正された測定対象距離Lmを算出することができる。
また、所定の基準点からの戻り光との干渉によるビート信号の周波数が一定となるようにレーザ素子11の駆動条件をフィードバック制御する従来の技術と比較して、フィードバック制御のための回路や処理が不要となるため、レーザ測長器1の構成の簡素化、小型化及び低コスト化を実現することができる。また、上記従来の技術では、駆動電流がフィードバック制御されるまでに一定の応答時間が必要なため、応答のずれに起因する誤差が生じ得るのに対し、本実施形態によれば、同時に検出された第1のビート信号及び第2のビート信号に基づいて補正された測定対象距離Lmを算出できるため、レーザ駆動特性の時間変化に正確に追随した補正を行うことができる。
このように、上記実施形態の構成によれば、より簡易な構成で正確に距離を算出することができる
【0053】
また、レンズ13は、一対の界面を有し、当該一対の界面の一方である第1面13aにのみ、変調レーザ光の反射を抑制する反射防止層131が設けられており、他方の面である第2面13bが反射面とされている。これにより、第1面13a及び第2面13bで変調レーザ光を反射させ得る光透過性のレンズ13において、単一の反射面で変調レーザ光を反射させることができる。この結果、複数の反射面がある場合に比べて第2のビート信号の周波数frに係るスペクトラムが孤立し、その線幅を低減させて、周波数frの検出精度を向上させることができ、より正確に補正された測定対象距離Lmを算出することができる。
【0054】
また、レンズ13は、一対の界面のうちレーザ素子11に近い第1面13aに反射防止層131が設けられており、第1面13aとは反対側の第2面13bが反射面とされている。これにより、第2のビート信号を生じさせる戻り光の往復距離をできるだけ大きくすることができる。よって、第2のビート信号の周波数frが低くなり過ぎて周波数frの検出精度が低下する不具合の発生を抑制することができる。
【0055】
また、レーザ素子11から射出された変調レーザ光の発散角を低減させるレンズ13が上記光学素子とされているため、第2のビート信号を生じさせるために別個の光学素子を追加する必要がない。よって、部品の増加によるレーザ測長器1のコスト上昇や大型化を招くことなく正確な距離測定を行うことができる。
【0056】
また、距離算出部38は、第2のビート信号の周波数fr及び光学的距離L1+n・L2に基づいて、測定対象距離Lmの算出結果に誤差を生じさせ得る誤差因子であるIm・fm・Ωの大きさ(又は変動量)を取得し、Im・fm・Ωの大きさ(又は変動量)に応じて補正された測定対象距離Lmを算出する。これにより、誤差因子に起因する誤差が正確に補正された測定対象距離Lmを算出することができる。
【0057】
また、距離算出部38は、変調レーザ光の変調周期Tのうち、変調レーザ光の波長が増大する増大期間A、及び変調レーザ光の波長が減少する減少期間Bにおいてそれぞれ誤差因子(Im・fm・Ω)の大きさ(又は変動量)を算出する。これらの誤差因子に基づいてそれぞれ算出された測定対象距離Lmによれば、ドップラー効果による速度成分を相殺することができ、相対移動する測定対象物90の距離をより正確に算出することができる。
【0058】
また、距離算出部38は、変調レーザ光の複数の変調周期Tのうち所定頻度の一部の変調周期Tにおいて誤差因子(Im・fm・Ω)の大きさ(又は変動量)を算出する。これにより、Im・fm・Ωの算出(したがって、測定対象距離Lmの算出)を行わない期間において、レーザ素子11を駆動させるための各部の動作や、フォトダイオード12による検出結果に基づいて測定対象距離Lmを算出するための各部の動作を停止させることができるため、レーザ測長器1の消費電力を低減させることができる。また、距離の測定のためにレーザ測長器1の外部に射出されるレーザの単位時間当たりの出力を低減させることができるため、より安全性を高めることができる。
【0059】
なお、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、上記実施形態では、光学素子としてのレンズ13の第1面13aに反射防止層131を設けて第2面13bを反射面とする例を挙げて説明したが、この構成に限定する趣旨ではない。すなわち、第2のビート信号の周波数frが所定の下限値以上となるようにレーザ素子11とレンズ13とを離隔させることができれば、第2面13bに反射防止層131を設けて第1面13aを反射面としても良い。
また、複数のレンズを用いて変調レーザ光の発散角を調整する構成において、当該複数のレンズが有する複数の界面のうちいずれか一つの界面(すなわち、いずれかのレンズの一方の界面)を反射面としても良い。
【0060】
また、本発明の光学素子は、レンズに限られない。例えば、筐体10の透過窓に設けられた光透過性を有する部材を光学素子として用い、当該部材の一方の界面を反射面としても良い。
【0061】
また、レーザ素子11から射出された変調レーザ光を光ファイバに導いて、光ファイバの他方側の端部から測定対象物90に変調レーザ光を射出する構成のレーザ測長器に本発明を適用しても良い。この場合には、例えば、変調レーザ光を光ファイバに導くレンズの一方の界面を反射面とすることで、当該反射面で反射した戻り光との干渉により第2のビート信号を生じさせて、上記実施形態と同様に補正された測定対象距離Lmを算出することができる。
【0062】
また、上記実施形態では、式(2)から算出されたIm・fm・Ωの値を式(1)に代入して距離L3を含む測定対象距離Lmを算出する例を挙げて説明したが、測定対象距離Lmの算出方法はこれに限られない。
例えば、式(1)に式(2a)を代入して得られた下記式(1a)を用いて距離L3を含む測定対象距離Lmを算出しても良い。
L1+n・L2+L3=ft(L1+n・L2)/fr …(1a)
また、式(2)に基づいて、Im・fm・Ωの理論値からのずれを表す補正係数を算出し、式(1)のIm・fm・Ωに対して当該補正係数を乗じることで、Im・fm・Ωの変動に起因する誤差が補正された測定対象距離Lmを算出しても良い。
【0063】
また、上記実施形態では、レーザ素子11としてVCSELを用いる例を挙げて説明したが、これに限られず、半導体基板に平行な方向に光共振器が形成され基板の端面からレーザ光を射出する端面発光レーザを用いても良い。この場合には、前方の端面からレンズ13に向けてレーザ光を射出するとともに、後方の端面から射出されたレーザ光をフォトダイオード12により検出する構成としても良い。これにより、フォトダイオード12に入射するレーザ光の強度を大きくしてビート信号の周波数の検出精度を向上させることができる。
【0064】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、本発明の範囲は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲とその均等の範囲を含む。
【符号の説明】
【0065】
1 レーザ測長器
2 駆動制御部
10 筐体
11 レーザ素子
11a 射出面
12 フォトダイオード(検出部)
12a 検出面
13 レンズ(光学素子)
13a 第1面
13b 第2面(反射面)
20 ホストI/F
21 駆動波形信号生成部
22 DAコンバータ
23 ローパスフィルタ
24 レーザ駆動部
31 電流電圧変換部
32 復調部
33 増幅部
34 アンチエイリアスフィルタ
35 ADコンバータ
36 帯域選択フィルタ
37 FFT
38 距離算出部
90 測定対象物
131 反射防止層
図1
図2
図3
図4