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特許7167411三次元造形用樹脂材料、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】三次元造形用樹脂材料、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20221101BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20221101BHJP
   B29C 64/118 20170101ALI20221101BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20221101BHJP
【FI】
C08G73/10
C08L79/08 B
B29C64/118
B33Y70/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018205382
(22)【出願日】2018-10-31
(65)【公開番号】P2020070355
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】竹原 明宣
(72)【発明者】
【氏名】植田 浩佑
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-529008(JP,A)
【文献】特開平11-049856(JP,A)
【文献】特開平10-109365(JP,A)
【文献】国際公開第2006/075654(WO,A1)
【文献】特開2013-107956(JP,A)
【文献】特開平03-047837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G73/00- 73/26
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
B29C64/00- 64/40
B33Y10/00- 99/00
B29D67/00- 73/34
B29D 1/00- 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上の構造単位を有し、前記2種以上の構造単位が下記構造単位(1)を持ち、300℃、30分の加熱条件で加熱した後の結晶化度が20%以下である熱可塑性ポリイミドを含む、熱溶解積層方式の三次元造形に使用するための、三次元造形用樹脂材料。
【化1】

【請求項2】
前記2種以上の構造単位が、前記構造単位(1)と、
下記構造単位(2)、下記構造単位(3)、及び下記構造単位(4)からなる群から選ばれる少なくとも一つの構造単位群Pと、
を持つ、請求項1に記載の三次元造形用樹脂材料。
【化2】


(構造単位(2)中、Rは脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、並びに芳香族が直接又は架橋員により連結された非縮合環式芳香族基からなる群より選ばれた2価の基を示す。ただし、前記構造単位(2)が前記構造単位(1)になる場合を除く。)
【化3】


(構造単位(3)中、Rは脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、並びに芳香族が直接又は架橋員により連結された非縮合環式芳香族基からなる群より選ばれた4価の基を示す。ただし、前記構造単位(3)が前記構造単位(1)になる場合を除く。)
【化4】


(構造単位(4)中、Rは脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、並びに芳香族が直接又は架橋員により連結された非縮合環式芳香族基からなる群より選ばれた2価の基を示し、Rは脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、並びに芳香族が直接又は架橋員により連結された非縮合環式芳香族基からなる群より選ばれた4価の基を示す。ただし、前記構造単位(4)が前記構造単位(1)~(3)のいずれになる場合も除く。)
【請求項3】
前記構造単位(1)の含有量が50モル%~90モル%であり、
前記構造単位群Pの含有量が10モル%~50モル%である、
請求項2に記載の三次元造形用樹脂材料。
【請求項4】
前記熱可塑性ポリイミド中、前記構造単位(3)及び前記構造単位(4)の少なくとも一方の構造単位の含有量が30モル%~50モル%である、請求項2又は請求項3に記載の三次元造形用樹脂材料。
【請求項5】
前記熱可塑性ポリイミド中、前記構造単位(2)及び前記構造単位(4)の少なくとも一方の構造単位の含有量が30モル%~50モル%である、請求項2又は請求項3に記載の三次元造形用樹脂材料。
【請求項6】
前記熱可塑性ポリイミドのガラス転移温度が200℃~265℃である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の三次元造形用樹脂材料。
【請求項7】
粒子形状、フィラメント形状、及びペレット形状のいずれかの形状である、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の三次元造形用樹脂材料。
【請求項8】
熱溶解積層方式の三次元造形に使用するための三次元造形用樹脂材料の製造方法であって、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルと、ピロメリット酸二無水物とを、下記ジアミン化合物(5)、及び下記テトラカルボン酸二無水物(6)の少なくとも一方の存在下で縮合反応させ、300℃、30分の加熱条件で加熱した後の結晶化度が20%以下である熱可塑性ポリイミドを得る工程を有する、
三次元造形用樹脂材料の製造方法。
【化5】


(ジアミン化合物(5)中、Rは脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、並びに芳香族が直接又は架橋員により連結された非縮合環式芳香族基からなる群より選ばれた2価の基である。ただし、ジアミン化合物(5)は、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルを除く。)
【化6】


(テトラカルボン酸二無水物(6)中、Rは脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、並びに芳香族が直接又は架橋員により連結された非縮合環式芳香族基からなる群より選ばれた4価の基を示す。ただし、テトラカルボン酸二無水物(6)は、ピロメリット酸二無水物を除く。)
【請求項9】
前記熱可塑性ポリイミドが非晶性熱可塑性ポリイミドであり、
前記ジアミン化合物(5)の存在量が、前記4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルに対して、10モル%~50モル%であり、
前記テトラカルボン酸二無水物(6)の存在量が、前記ピロメリット酸二無水物に対して、10モル%~50モル%である、
請求項8に記載の三次元造形用樹脂材料の製造方法。
【請求項10】
前記熱可塑性ポリイミドが結晶性熱可塑性ポリイミドであり、
前記ジアミン化合物(5)の存在量が、前記4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルに対して、10モル%~35モル%であり、
前記テトラカルボン酸二無水物(6)の存在量が、前記ピロメリット酸二無水物に対して、10モル%~35モル%である、
請求項8に記載の三次元造形用樹脂材料の製造方法。
【請求項11】
前記ジアミン化合物(5)が、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルであり、
前記4,4’-ジアミノジフェニルエーテルの存在量が、前記4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルに対して10モル%~15モル%であり、
さらに、前記4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル及び前記4,4’-ジアミノジフェニルエーテルの全ジアミン成分の合計1モルに対して、無水フタル酸を0.001モル~1.0モルで存在させて縮合反応を行う、
請求項8に記載の三次元造形用樹脂材料の製造方法。
【請求項12】
前記2種以上の構造単位が、前記構造単位(1)と、前記構造単位(2)、前記構造単位(3)、及び前記構造単位(4)からなる群から選ばれる少なくとも一つの構造単位群Pと、のみからなり、
前記構造単位(2)及び前記構造単位(4)中、R は脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、下記構造式(A)で表される基及び下記構造式(C)で表される基からなる群より選ばれた2価の基を示す、請求項2に記載の三次元造形用樹脂材料。
【化7】



(式(A)及び(C)中、X 11 及びX 12 はそれぞれ独立して、直接結合、O、CO、SO、SO 、C 、C(CH )、又はC(CF )を示す。また、R 11 、R 12 、R 13 及びR 14 はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、又はハロゲン原子を示す。)
【請求項13】
前記ジアミン化合物として4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルとジアミン化合物(5)のみを使用し、
前記ジアミン化合物(5)中、R は脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、下記構造式(A)で表される基及び下記構造式(C)で表される基からなる群より選ばれた2価の基である、請求項8に記載の三次元造形用樹脂材料の製造方法。
【化8】



(式(A)及び(C)中、X 11 及びX 12 は、それぞれ、直接結合、O、CO、SO、SO 、C 、C(CH )、又はC(CF )を示す。また、R 11 、R 12 、R 13 、R 14 はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、またはハロゲン原子を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、三次元造形用樹脂材料、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、三次元造形装置(いわゆる3Dプリンター)が開発されて、様々な分野で利用されつつある。3Dプリンターによって三次元造形物を得る方式は、多様な方式が提案されている。例えば、溶融した熱可塑性樹脂を溶解ヘッドから押し出して積層造形させる熱溶解積層方式(FDM:Fused Deposition Modeling)、樹脂粉末材料にエネルギー源を照射して溶融結合して積層造形させる粉末床溶融結合方式(PBF:Part Bed Fusion)、粉末材料に、接着剤樹脂をノズルから噴射して接着固化し積層造形させるインクジェット粉末積層方式等が挙げられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、3Dプリンターに適用される樹脂材料として、樹脂粒子を有する立体造形用樹脂粉末が開示されている。このような樹脂粒子は、結晶性を有する熱可塑性樹脂組成物を含むことが挙げられている。また、結晶性を有する熱可塑性樹脂組成物として、ポリイミドが挙げられている。
【0004】
一方、熱可塑性樹脂としては、多種多様な樹脂が提案されている。例えば、特許文献2には、成形加工性に優れるポリイミドが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-111304号公報
【文献】特開平03-047837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱可塑性樹脂を含む三次元造形物用材料を用いて、3Dプリンターにより三次元造形物を製造する場合、例えば、樹脂材料を溶融した後に固化させる。三次元造形物に耐熱性を持たせようとするとき、三次元造形物用材料に含ませる熱可塑性樹脂は、例えば、熱可塑性ポリイミドが有用である。熱可塑性ポリイミドを用いることにより、熱溶融が可能であり、耐熱性を有する三次元造形物が得られる。
【0007】
しかしながら、熱可塑性ポリイミドの融点Tmが高すぎると、三次元造形物を製造するときの溶融温度が高温になる。そのため、汎用的な3Dプリンターでは、熱可塑性ポリイミドを溶融させるための加熱能力が不足する。加熱能力が不足すると、熱可塑性ポリイミドの溶融が不十分となり、3Dプリンターに詰まり(例えば、シリンジの詰まり)が発生してしまう。したがって、熱可塑性ポリイミドを3Dプリンター用の樹脂材料として適用する場合、3Dプリンターに詰まりを発生させないためには、加熱能力を増強させた3Dプリンターを用いざるを得なかった。
【0008】
このため、耐熱性に優れた熱可塑性ポリイミドを利用して、三次元造形物を得る場合、加熱能力を増強させた3Dプリンターのみならず、汎用的な3Dプリンターに適用した場合であっても、3Dプリンターに詰まりを発生させないことが要求される。
【0009】
本開示の目的は、3Dプリンターの詰まりの発生が抑制される三次元造形用樹脂材料、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
【0011】
<1>
2種以上の構造単位を有し、前記2種以上の構造単位が下記構造単位(1)を持ち、300℃、30分の加熱条件で加熱した後の結晶化度が20%以下である熱可塑性ポリイミドを含む、三次元造形用樹脂材料。
【0012】
【化1】
【0013】
<2>
前記2種以上の構造単位が、前記構造単位(1)と、
下記構造単位(2)、下記構造単位(3)、及び下記構造単位(4)からなる群から選ばれる少なくとも一つの構造単位群Pと、
を持つ、<1>に記載の三次元造形用樹脂材料。
【0014】
【化2】
【0015】
(構造単位(2)中、Rは脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、並びに芳香族が直接又は架橋員により連結された非縮合環式芳香族基からなる群より選ばれた2価の基を示す。ただし、前記構造単位(2)が前記構造単位(1)になる場合を除く。)
【0016】
【化3】
【0017】
(構造単位(3)中、Rは脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、並びに芳香族が直接又は架橋員により連結された非縮合環式芳香族基からなる群より選ばれた4価の基を示す。ただし、前記構造単位(3)が前記構造単位(1)になる場合を除く。)
【0018】
【化4】
【0019】
(構造単位(4)中、Rは脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、並びに芳香族が直接又は架橋員により連結された非縮合環式芳香族基からなる群より選ばれた2価の基を示し、Rは脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、並びに芳香族が直接又は架橋員により連結された非縮合環式芳香族基からなる群より選ばれた4価の基を示す。ただし、前記構造単位(4)が前記構造単位(1)~(3)のいずれになる場合も除く。)
【0020】
<3>
前記構造単位(1)の含有量が50モル%~90モル%であり、
前記構造単位群Pの含有量が10モル%~50モル%である、
<2>に記載の三次元造形用樹脂材料。
【0021】
<4>
前記熱可塑性ポリイミド中、前記構造単位(3)及び前記構造単位(4)の少なくとも一方の構造単位の含有量が30モル%~50モル%である、<2>又は<3>に記載の三次元造形用樹脂材料。
【0022】
<5>
前記熱可塑性ポリイミド中、前記構造単位(2)及び前記構造単位(4)の少なくとも一方の構造単位の含有量が30モル%~50モル%である、<2>又は<3>に記載の三次元造形用樹脂材料。
【0023】
<6>
前記熱可塑性ポリイミドのガラス転移温度が200℃~265℃である、<1>~<5>のいずれか1項に記載の三次元造形用樹脂材料。
【0024】
<7>
粒子形状、フィラメント形状、及びペレット形状のいずれかの形状である、<1>~<6>のいずれか1項に記載の三次元造形用樹脂材料。
【0025】
<8>
4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルと、ピロメリット酸二無水物とを、下記ジアミン化合物(5)、及び下記テトラカルボン酸二無水物(6)の少なくとも一方の存在下で縮合反応させ、300℃、30分の加熱条件で加熱した後の結晶化度が20%以下である熱可塑性ポリイミドを得る工程を有する、
三次元造形用樹脂材料の製造方法。
【0026】
【化5】
【0027】
(ジアミン化合物(5)中、Rは脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、並びに芳香族が直接又は架橋員により連結された非縮合環式芳香族基からなる群より選ばれた2価の基である。ただし、ジアミン化合物(5)は、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルを除く。)
【0028】
【化6】
【0029】
(テトラカルボン酸二無水物(6)中、Rは脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、並びに芳香族が直接又は架橋員により連結された非縮合環式芳香族基からなる群より選ばれた4価の基を示す。ただし、テトラカルボン酸二無水物(6)は、ピロメリット酸二無水物を除く。)
【0030】
<9>
前記熱可塑性ポリイミドが非晶性熱可塑性ポリイミドであり、
前記ジアミン化合物(5)の存在量が、前記4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルに対して、10モル%~50モル%であり、
前記テトラカルボン酸二無水物(6)の存在量が、前記ピロメリット酸二無水物に対して、10モル%~50モル%である、
<8>に記載の三次元造形用樹脂材料の製造方法。
【0031】
<10>
前記熱可塑性ポリイミドが結晶性熱可塑性ポリイミドであり、
前記ジアミン化合物(5)の存在量が、前記4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルに対して、10モル%~35モル%であり、
前記テトラカルボン酸二無水物(6)の存在量が、前記ピロメリット酸二無水物に対して、10モル%~35モル%である、
<8>に記載の三次元造形用樹脂材料の製造方法。
【0032】
<11>
前記ジアミン化合物(5)が、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルであり、
前記4,4’-ジアミノジフェニルエーテルの存在量が、前記4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルに対して10モル%~15モル%であり、
さらに、前記4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル及び前記4,4’-ジアミノジフェニルエーテルの全ジアミン成分の合計1モルに対して、無水フタル酸を0.001モル~1.0モルで存在させて縮合反応を行う、
<8>に記載の三次元造形用樹脂材料の製造方法。
【発明の効果】
【0033】
本開示によれば、3Dプリンターの詰まりの発生が抑制される三次元造形用樹脂材料、及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本開示に係る三次元造形用熱可塑性ポリイミド樹脂組成物の実施形態の一例について詳細に説明する。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本開示において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0035】
<三次元造形用樹脂材料、及びその製造方法>
本開示に係る三次元造形用樹脂材料は、2種以上の構造単位を有する熱可塑性ポリイミドを含む。この2種以上の構造単位は、構造単位(1)を持つ。この熱可塑性ポリイミドは、300℃、30分の加熱条件で加熱した後の結晶化度が20%以下である。
本開示において、300℃、30分の加熱条件で加熱した後の結晶化度が5%以下の熱可塑性ポリイミドを非晶性とする。また、結晶化度が5%を超える熱可塑性ポリイミドを結晶性とする。
【0036】
本開示に係る三次元造形用樹脂材料の製造方法は、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルと、ピロメリット酸二無水物とを縮合反応させて熱可塑性ポリイミドを得る工程を有する。この工程では、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル及びピロメリット酸二無水物以外に、ジアミン化合物(5)、及びテトラカルボン酸二無水物(6)の少なくとも一方の存在下で縮合反応させる。この工程によって得られた熱可塑性ポリイミドは、300℃、30分の加熱条件で加熱した後の結晶化度が20%以下である。
【0037】
例えば、融点Tmが380℃を超える熱可塑性ポリイミドを用いて、3Dプリンターで三次元造形物を得る場合、加工温度は400℃以上となる。汎用的な3Dプリンターでは、加熱能力の低いため、融点Tmが高い熱可塑性ポリイミドを溶融させる能力に劣る。そのため、汎用的な3Dプリンターで熱可塑性ポリイミドを熱溶融させるには、熱可塑性ポリイミドの結晶化度を低下させること、又は非晶性とすることが有効であると考えられる。ただし、非晶性であっても、非熱可塑性のポリイミドでは、熱流動しないので、3Dプリンターでの使用に適さない。
【0038】
そこで、熱可塑性ポリイミドを低結晶性又は非晶性とすることを検討した。その結果、熱可塑性ポリイミドを、300℃、30分の加熱条件で加熱した後の結晶化度として、20%以下(0%を含む)とすることで、3Dプリンターの詰まりの発生が抑制される。それにより、汎用的な3Dプリンターでも使用が可能となることを見出した。
【0039】
また、300℃、30分の加熱条件で加熱した後の結晶化度として、20%以下(0%を含む)の熱可塑性ポリイミドを得る方法を検討した。その結果、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルと、ピロメリット酸二無水物とを縮合反応させるにあたり、副原料として、これら以外のジアミン成分及びテトラカルボン酸無水物の少なくとも一方の成分を共存させて、縮合反応することで、上記の結晶化度を満たす熱可塑性ポリイミドが得られた。これにより、3Dプリンターの詰まりの発生が抑制される三次元造形用樹脂材料が得られることを見出した。
【0040】
このように、300℃、30分の加熱条件で加熱した後の結晶化度として、20%以下である特定の構造単位を有する熱可塑性ポリイミドは、3Dプリンターの詰まりの発生が抑制されるため、三次元造形用の樹脂材料として好適である。また、副原料を用いて製造される、300℃、30分の加熱条件で加熱した後の結晶化度が20%以下を示す熱可塑性ポリイミドは、同様の観点で、三次元造形用の樹脂材料の製造方法として好適である。
【0041】
本開示において、熱可塑性ポリイミドの結晶化度は、以下のようにして測定される。
測定対象となる熱可塑性ポリイミドの試験片を、オーブンに中で、300℃、30分間保持する。その後、熱可塑性ポリイミドの試験片を取り出して、X線回折法により、X線回拆装置(理学電機社製RAD-RVCシリーズ)を用いて測定する。結晶化度は、全ピーク面積(結晶成分のピーク面積+非晶成分のハローパターン面積)に対する結晶成分のピーク面積の比から算出する。
【0042】
結晶化度の上限は、20%未満であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。熱可塑性ポリイミドの結晶化度の上限が上記範囲であると、熱可塑性ポリイミドの熱溶融性が向上する。熱可塑性ポリイミドが結晶性を有する場合の結晶化度の下限は特に限定されず、例えば、5%超であってもよく、6%以上であってもよい。
【0043】
熱可塑性ポリイミドは、ガラス転移温度Tgが、200℃~265℃であることが好ましい。より好ましくは、220℃~261℃である。熱可塑性ポリイミドのガラス転移温度Tgがこの範囲であると、汎用的な3Dプリンターにも適用可能な観点で好適である。ガラス転移温度Tgは、DSC(示差走査型熱量計、島津DT-40シリーズ、DSC-
41M)により測定される。
【0044】
次に、熱可塑性ポリイミドについて詳細に説明する。
熱可塑性ポリイミドは、2種以上の構造単位を有し、2種以上の構造単位が、下記構造単位(1)を持つ。
【0045】
【化7】
【0046】
熱可塑性ポリイミドは、前記の構造単位(1)以外の構造単位として、下記構造単位(2)、下記構造単位(3)、及び下記構造単位(4)からなる群から選ばれる少なくとも一つの構造単位群Pを持つことが好ましい。構造単位群Pは、構造単位(2)及び構造単位(3)の少なくとも一方の構造単位を有していてもよい。また、構造単位群Pは、構造単位(2)、構造単位(3)、及び構造単位(4)の全ての構造単位を含んでいてもよい。例えば、構造単位群Pは、構造単位(2)のみ持つ態様;構造単位(3)のみ持つ態様;構造単位(2)、構造単位(3)、及び構造単位(4)を持つ態様が挙げられる。
【0047】
【化8】
【0048】
構造単位(2)中、Rは脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、並びに芳香族が直接又は架橋員により連結された非縮合環式芳香族基からなる群より選ばれた2価の基を示す。ただし、構造単位(2)が前記構造単位(1)になる場合を除く。
【0049】
【化9】
【0050】
構造単位(3)中、Rは脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、並びに芳香族が直接又は架橋員により連結された非縮合環式芳香族基からなる群より選ばれた4価の基を示す。ただし、構造単位(3)が構造単位(1)になる場合を除く。
【0051】
【化10】
【0052】
構造単位(4)中、Rは脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、並びに芳香族が直接又は架橋員により連結された非縮合環式芳香族基からなる群より選ばれた2価の基を示し、Rは脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、並びに芳香族が直接又は架橋員により連結された非縮合環式芳香族基からなる群より選ばれた4価の基を示す。ただし、構造単位(4)が前記構造単位(1)~(3)のいずれになる場合も除く。
【0053】
構造単位(2)~(4)中において、Rが示す2価の基は、後述するジアミン化合物(5)中におけるRが示す2価の基と同様である。Rが示す4価の基は、後述するテトラカルボン酸無水物(6)中におけるRが示す2価の基と同様である。
【0054】
熱可塑性ポリイミドは、3Dプリンターの詰まりの発生が抑制される観点で、構造単位(1)の含有量が50モル%~90モル%であり、構造単位群Pの含有量が、10モル%~50モル%であることが好ましい。構造単位群Pの含有量は、構造単位(2)、構造単位(3)、及び構造単位(4)の合計量である。
【0055】
熱可塑性ポリイミド中、構造単位(3)及び構造単位(4)の少なくとも一方の構造単位の含有量が30モル%~50モル%であってもよい。また、構造単位(2)及び構造単位(4)の少なくとも一方の構造単位の含有量が30モル%~50モル%であってもよい。
【0056】
本開示の三次元造形用樹脂材料の製造方法は、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルと、ピロメリット酸二無水物とを縮合反応させて熱可塑性ポリイミドを得る工程を有する。この工程では、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルを除く下記ジアミン化合物(5)、及びピロメリット酸二無水物を除く下記テトラカルボン酸二無水物(6)の少なくとも一方の存在下で縮合反応させる。この工程により得られた熱可塑性ポリイミドは、300℃、30分の加熱条件で加熱した後の結晶化度が20%以下を示す。
【0057】
本開示において、熱可塑性ポリイミドを得る工程は、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、及びピロメリット酸二無水物を主原料として用い、ジアミン化合物(5)、及びテトラカルボン酸二無水物(6)の少なくとも一方を副原料として用いて、縮合反応させる工程である。
【0058】
【化11】
【0059】
ジアミン化合物(5)中、Rは脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、並びに芳香族が直接又は架橋員により連結された非縮合環式芳香族基からなる群より選ばれた2価の基である。
【0060】
ジアミン化合物(5)としては、後述のジアミン化合物(7)(つまり、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル)を除く化合物が挙げられる。
【0061】
ジアミン化合物(5)中、Rが示す脂肪族基としては、例えば、炭素数1~8の直鎖状又は分枝状の2価の脂肪族炭化水素基が挙げられる。具体的には、炭素数1~8の直鎖状又は分枝状アルキレン基が挙げられる。
ジアミン化合物(5)中、Rが示す環式脂肪族基としては、炭素数3~10の環式の2価の脂肪族炭化水素基が挙げられる。具体的には、例えば、炭素数3~10のシクロアルキレン基等が挙げられる。
ジアミン化合物(5)中、Rが示す単環式芳香族基としては、炭素数6~20の2価の芳香族炭化水素基が挙げられる。具体的には、例えば、フェニレン基、アリーレン基、アラルキレン基等が挙げられる。炭素数6~20の2価の芳香族炭化水素基は、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。
ジアミン化合物(5)中、Rが示す縮合多環式芳香族基としては、炭素数10~20の2価の縮合多環式芳香族炭化水素基が挙げられる。具体的には、例えば、ナフチレン基、アントラセニレン基等が挙げられる。炭素数10~20の2価の縮合多環式芳香族炭化水素基は、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。
【0062】
ジアミン化合物(5)中、Rが示す芳香族が直接又は架橋員により連結された非縮合環式芳香族基としては、炭素数6~20の芳香族基が直接又は架橋員により連結された2価の非縮合環式芳香族基が挙げられる。架橋員は、例えは、O、CO、SO、SO、C、C(CH)、又はC(CF)が挙げられる。また、炭素数6~20の芳香族基は、炭素数6~20の芳香族基どうしが、直接又は架橋員により連結されていてもよい。炭素数6~20の芳香族基どうしを連結する架橋員は、O、CO、SO、SO、C、C(CH)、又はC(CF)が挙げられる。フェニレン基は、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。
ジアミン化合物(5)中、Rが示す芳香族が直接又は架橋員により連結された非縮合環式芳香族基としては、例えば、下記構造式(A)~下記構造式(C)で表される基が挙げられる。
【0063】
【化12】
【0064】
構造式(A)及び(C)中、X11及びX12は、それぞれ、直接結合、O、CO、SO、SO、C、C(CH)、又はC(CF)を示す。また、R11、R12、R13、R14はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、またはハロゲン原子を示す。
【0065】
ジアミン化合物(5)中、Rが示す脂肪族基を有するジアミン化合物としては、例えば、具体的には、エチレンジアミン等が挙げられる。
【0066】
ジアミン化合物(5)中、Rが示す環式脂肪族基を有するジアミン化合物としては、例えば、具体的には、1,4-ジアミノシクロヘキサン等が挙げられる。
【0067】
ジアミン化合物(5)中、Rが示す単環式芳香族基を有するジアミン化合物としては、例えば、具体的には、m-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、m-アミノベンジルアミン、p-アミノベンジルアミンが挙げられる。
【0068】
ジアミン化合物(5)中、Rが示す縮合多環式芳香族基を有するジアミン化合物としては、例えば、具体的には、2,6-ジアミノナフタレン等が挙げられる。
【0069】
ジアミン化合物(5)中、Rが架橋員により連結された非縮合環式芳香族基であるジアミン化合物としては、例えば、次に示すジアミン化合物が挙げられる。
具体的には、ビス(3-アミノフェニル)エーテル、(3-アミノフェニル)(4-アミノフェニル)エーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、ビス(3-アミノフェニル)スルフィド、(3-アミノフェニル)(4-アミノフェニル)スルフィド、ビス(4-アミノフェニル)スルフィド、ビス(3-アミノフェニル)スルホキシド、(3-アミノフェニル)(4-アミノフェニル)スルホキシド、ビス(4-アミノフェニル)スルホキシド、ビス(3-アミノフェニル)スルホン、(3-アミノフェニル)(4-アミノフェニル)スルホン、ビス(4-アミノフェニル)スルホン、3,3′-ジアミノベンゾフェノン、3,4′-ジアミノベンゾフェノン、4,4′ジアミノベンゾフェノン、3,3′-ジアミノジフェニルメタン、3,4′-ジアミノジフェニルメタン、4,4′-ジアミノジフェニルメタン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、1,1-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エタン、1,1-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エタン、1,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エタン、1,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エタン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニルプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕ブタン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕ブタン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4-(3-フェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホキシド、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホキシド、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、1,4-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル〕ベンゼン、1,3-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル〕ベンゼン、4,4′-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)ベンゾイル〕ジフェニルエーテル、4,4′-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル〕ジフェニルエーテル、4,4′ビス〔4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ〕ベンゾフェノン、4,4′-ビス〔4-(4-アミノ-α,α-ジメチルベンジル)フェノキシ〕ジフェニルスルホン、ビス〔4-{4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル〕スルホン等である。
【0070】
ジアミン化合物(5)は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。ジアミン化合物(5)は、m-フェニレンジアミン、ビス(3-アミノフェニル)エーテル、(3-アミノフェニル)(4-アミノフェニル)エーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン等が好ましい。これらの中でも、芳香族が直接又は架橋員により連結された非縮合環式芳香族基であるジアミン化合物が好ましい。さらに好ましくは、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルである。
【0071】
【化13】
【0072】
テトラカルボン酸二無水物(6)中、Rは脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、並びに芳香族が直接又は架橋員により連結された非縮合環式芳香族基からなる群より選ばれた4価の基を示す。
【0073】
テトラカルボン酸二無水物(6)としては、後述のテトラカルボン酸二無水物(8)(つまり、ピロメリット酸二無水物)を除く化合物が挙げられる。
【0074】
テトラカルボン酸二無水物(6)中、Rが示す脂肪族基としては、炭素数2~8の直鎖状又は分枝状の4価の脂肪族炭化水素基が挙げられる。脂肪族炭化水素基は、不飽和脂肪族炭化水素基でもよく、飽和炭化水素基でもよい。
テトラカルボン酸二無水物(6)中、Rが示す環式脂肪族基としては、炭素数3~10の環式の4価の脂肪族炭化水素基が挙げられる。
テトラカルボン酸二無水物(6)中、Rが示す単環式芳香族基としては、炭素数6~20の4価の芳香族炭化水素基が挙げられる。炭素数6~20の4価の芳香族炭化水素基は、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。
テトラカルボン酸二無水物(6)中、Rが示す縮合多環式芳香族基としては、炭素数10~20の4価の縮合多環式芳香族炭化水素基が挙げられる。炭素数10~20の2価の縮合多環式芳香族炭化水素基は、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。
【0075】
テトラカルボン酸二無水物(6)中、Rが示す芳香族が直接又は架橋員により連結された非縮合環式芳香族基としては、炭素数6~20の芳香族基が、直接又は架橋員により連結された4価の非縮合環式芳香族基が挙げられる。架橋員は、例えは、O、CO、SO、SO、C、C(CH)、又はC(CF)が挙げられる。また、炭素数6~20の芳香族基は、炭素数6~20の芳香族基どうしが、直接又は架橋員により連結されていてもよい。炭素数6~20の芳香族基どうしを連結する架橋員は、O、CO、SO、SO、C、C(CH)、又はC(CF)が挙げられる。炭素数6~20の芳香族基は、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。
【0076】
テトラカルボン酸二無水物(6)中、Rが示す、脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、並びに芳香族が直接又は架橋員により連結された非縮合環式芳香族基からなる群より選ばれた4価の基としては、それぞれ、下記の構造式(D)~(L-2)で表される基が例示される。Rが示す脂肪族基及びRが示す環式脂肪族基は下記構造式(D)で表される基が挙げられる。Rが示す単環式芳香族基は下記構造式(E-1)~(E-2)で表される基が挙げられる。Rが示す縮合多環式芳香族基は下記構造式(F-1)~(I)で表される基が挙げられる。Rが示す芳香族が直接又は架橋員により連結された非縮合環式芳香族基は下記構造式(J-1)~(L-2)で表される基が挙げられる。
【0077】
【化14】
【0078】
構造式(D)が示すR21は炭素数2~8の直鎖状又は分枝状の4価の脂肪族炭化水素基であって、4価の不飽和脂肪族炭化水素基又は4価の飽和脂肪族炭化水素基、及び炭素数3~10の4価の環式脂肪族炭化水素基からなる群から選ばれる基を示す。構造式(K-1)が示すY21及び(K-2)が示すY22は、ぞれぞれ、O、CO、SO、SO、C、C(CH)、又はC(CF)を示す。
【0079】
テトラカルボン酸二無水物(6)中、Rが示す脂肪族基を有するテトラカルボン酸無水物としては、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0080】
テトラカルボン酸二無水物(6)中、Rが示す環式脂肪族基を有するテトラカルボン酸無水物としては、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0081】
テトラカルボン酸二無水物(6)中、Rが示す単環式芳香族基を有するテトラカルボン酸無水物としては、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0082】
テトラカルボン酸二無水物(6)中、Rが示す縮合多環式芳香族基を有するテトラカルボン酸無水物としては、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0083】
テトラカルボン酸二無水物(6)中、Rが示す芳香族が直接連結された非縮合環式芳香族基を有するテトラカルボン酸無水物としては、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2′,3,3′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0084】
テトラカルボン酸二無水物(6)中、Rが示す芳香族が架橋員により連結された非縮合環式芳香族基を有するテトラカルボン酸無水物としては、例えば、次に示すテトラカルボン酸無水物が挙げられる。
具体的には、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2′,3,3′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)1,1,1,3,3,3-ヘキサフロロプロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)1,1,1,3,3,3-ヘキサクロロプロパン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、4,4′-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4′-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物等である。
【0085】
テトラカルボン酸二無水物(6)は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。テトラカルボン酸二無水物(6)は、芳香族が直接又は架橋員により連結された非縮合環式芳香族基であるテトラカルボン酸二無水物が好ましい。中でも、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、4,4′-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物等が好ましい。さらに好ましくは、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物である。
【0086】
ここで、本開示において、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルは、下記ジアミン化合物(7)で表される。ピロメリット酸二無水物は、テトラカルボン酸二無水物(8)で表される。
【0087】
【化15】
【0088】
【化16】
【0089】
本開示において、熱可塑性ポリイミドを製造する方法としては、ジアミン化合物(7)及びテトラカルボン酸二無水物(8)を主原料として縮合反応させる。そして、縮合反応するとき、これらの主原料と、4,4′-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルを除くジアミン化合物(5)、及びピロメリット酸二無水物を除くテトラカルボン酸二無水物(6)の少なくとも一方を、副原料として共存させる。
【0090】
これにより、熱可塑性ポリイミドは、数種のイミド構造単位を生成する。数種のイミド構造単位は、4,4′-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルとジアミン化合物(5)との間、及びピロメリット酸二無水物とテトラカルボン酸二無水物(6)との間で生成する。このようなポリイミドの構造については特定困難であるが、数種のイミド構造単位が、4,4′-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルと、ピロメリット酸二無水物との反応によって形成される構造単位(1)に対して導入されると考えられる。
【0091】
ジアミン化合物(5)及びテトラカルボン酸二無水物(6)の少なくとも一方の副原料の共存量によって、結晶性の低いポリイミド、又は非晶性ポリイミドが得られる。ここで、主原料とは、ポリイミドの合成に用いる原料のうち、50モル%以上の量で用いる原料を表す。
【0092】
本開示では、ジアミン化合物(5)は、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルに対して、10モル%~50モル%の存在下で縮合反応させることが好ましい。テトラカルボン酸二無水物(6)は、ピロメリット酸二無水物に対して、10モル%~50モル%の存在下で縮合反応させることが好ましい。これら副原料をこのような範囲で共存させることで、非晶性の熱可塑性ポリイミドが得られる。特に、副原料を35モル%を超えて共存させると、非晶性の熱可塑性ポリイミドが得られ易くなる。
【0093】
また、ジアミン化合物(5)は、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルに対して、10モル%~35モル%の存在下で縮合反応させることが好ましい。テトラカルボン酸二無水物(6)は、ピロメリット酸二無水物に対して、10モル%~35モル%の存在下で縮合反応させることが好ましい。これら副原料をこのような範囲で共存させることで、処理条件を選択することによって、目的とする結晶化速度に抑制することができ、低結晶性の熱可塑性ポリイミドが得られる。
【0094】
副原料を共存させる量が10モル%未満である場合、構造単位(1)を有する熱可塑性ポリイミドの結晶化速度が早くなるため、目的とする低結晶性又は非晶性の熱可塑性ポリイミドが得られにくくなる。
【0095】
熱可塑性ポリイミドの製造方法は、特に限定されない。熱可塑性ポリイミドの製造方法の一例としては、下記に示す(1)~(3)のいずれかの態様でポリアミド酸を得た後、イミド化させてもよい。ポリアミド酸を得るための反応は、有機溶媒中で反応させることが好ましい。
(1):4,4′-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、及びピロメリット酸二無水物と、ジアミン化合物(5)とを反応させてポリアミド酸を得る。
(2):4,4′-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、及びピロメリット酸二無水物と、テトラカルボン酸二無水物(6)を反応させてポリアミド酸を得る。
(3):4,4′-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、及びピロメリット酸二無水物と、ジアミン化合物(5)及びテトラカルボン酸二無水物(6)とを反応させてポリアミド酸を得る。
【0096】
この反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルメトキシアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチルカプロラクタム、1,2-ジメトキシエタンビス(2-メトキシエチル)エーテル、1,2-ビス(2-メトキシエトキシ)エタン、ビス{2-(2-メトキシエトキシ)エチル}エーテル、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、ピリジン、ピコリン、ジメチルスルホキドジメチルスルホン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルアミド、フェノール、クレゾール類(o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール)、クレゾール酸、p-クロロフェノール、アニソールなどが挙げられる。これらの有機溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0097】
反応温度は、200℃以下であってもよい。50℃以下であることが好ましい。反応圧力は特に限定されず、常圧(1気圧)であってもよい。反応時間は、有機溶媒の種類、反応温度により異なる。例えば、4時間~24時間でもよい。
【0098】
次に、得られたポリアミド酸を、100℃~400℃に加熱してイミド化してもよい。無水酢酸などのイミド化剤を用いて、イミド化してもよい。これにより、ポリアミド酸に対応する構造単位を有するポリイミドが得られる。
【0099】
熱可塑性ポリイミドの製造方法は、他の方法でもよい。他の方法の一例としては、4,4′-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、及びピロメリット酸二無水物の主原料と、ジアミン化合物(5)、及びテトラカルボン酸二無水物(6)の少なくとも一方の副原料とを、有機溶媒中に懸濁又は溶解させた後、加熱してもよい。これにより、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の生成、及びイミド化を行うことにより、熱可塑性ポリイミドが得られる。
【0100】
熱可塑性ポリイミドは、無水フタル酸を共存させてもよい。無水フタル酸を添加して反応させる方法としては、例えば、下記の方法が挙げられる。
(A):ピロメリット酸二無水物と、4,4′-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルと、ジアミン化合物(5)とを反応させた後に、無水フタル酸を添加して反応を続ける方法。
テトラカルボン酸二無水物(6)を用いる場合は、ピロメリット酸二無水物と、4,4′-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルと、ジアミン化合物(5)及びテトラカルボン酸二無水物(6)とを反応させた後、無水フタル酸を添加して反応を続ける方法。
(B):4,4′-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルと、ジアミン化合物(5)と、無水フタル酸とを加えて反応させた後、ピロメリット酸二無水物とを、さらに反応を続ける方法。
テトラカルボン酸二無水物(6)を用いる場合は、4,4′-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルと、ジアミン化合物(5)と、無水フタル酸とを加えて反応させた後、ピロメリット酸二無水物及びテトラカルボン酸二無水物(6)とを、さらに反応を続ける方法。
(C):ピロメリット酸二無水物と、4,4′-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルと、無水フタル酸と、ジアミン化合物(5)とを全て添加して反応させる方法。
テトラカルボン酸二無水物(6)を用いる場合は、ピロメリット酸二無水物と、4,4′-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルと、ジアミン化合物(5)及びテトラカルボン酸二無水物(6)とを全て添加して反応させる方法。
【0101】
さらに、4,4′-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルと、ピロメリット酸二無水物と、無水フタル酸とを、有機溶媒中に懸濁または溶解させた後、加熱してもよい。これにより、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の生成と、イミド化を行い、ポリイミドが得られる。
【0102】
熱可塑性ポリイミドは、上記の方法により得られる。これらの中でも、ジアミン化合物(5)として、4,4′-ジアミノジフェニルエーテルを使用することが好ましい。
【0103】
熱可塑性ポリイミドは、ジアミン化合物(5)が、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルであり、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルに対して、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを10モル%~15モル%で存在させることが好ましい。
さらに、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルに加えて、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル及び4,4’-ジアミノジフェニルエーテルの全ジアミン成分の合計1モルに対して、無水フタル酸を0.001モル~1.0モル存在させることが好ましい。
【0104】
4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルに対する割合として、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルの量が10モル%以上であると、3Dプリンターの詰まりが抑制される。15モル%以下であると、熱可塑性が確保される。
【0105】
無水フタル酸の量は、4,4′-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルと4,4′-ジアミノフェニルエーテルとの全ジアミン成分1モル当り0.001モル以上であると、高温時の熱安定性が優れる。1.0モル以下であると、機械的特性に優れる。好ましくは、0.01モル~0.5モルの割合である。
【0106】
本開示の三次元造形用樹脂材料は、3Dプリンターの詰まりを生じさせない範囲で、熱可塑性ポリイミドに加えて、他の熱可塑性樹脂を目的に応じて配合してもよい。他の熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、変性ポリフェニレンオキシド等が挙げられる。三次元造形用樹脂材料中に、他の熱可塑性樹脂は30質量%以下含まれていてもよい。
【0107】
本開示の三次元造形用樹脂材料は、3Dプリンターの詰まりを生じさせない範囲で、各種添加剤を用いてもよい。例えば、グラファイト、カーボランダム、ケイ石粉、二硫化モリブデン、フッ素樹脂などの耐摩耗性向上剤;ガラス繊維、カーボン繊維、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維、カーボンウイスカー、アスベスト、金属繊維、セラミック繊維などの補強材;三酸化アンチモン、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどの難燃性向上剤;クレー、マイカなどの電気的特性向上剤;シリカ、グラファイトなどの耐トラッキング向上剤;硫酸バリウム、シリカ、メタケイ酸カルシムウなどの耐酸性向上剤;鉄粉、亜鉛粉、アルミニウム粉、銅粉などの熱電導度向上剤が挙げられる。これら以外にも、例えば、ガラスビース、ガラス球、タルク、ケイ藻土、アルミナ、シラスバルン、水和アルミナ、金属酸化物、着色料などが挙げられる。
【0108】
本開示の三次元造形用樹脂材料は、熱可塑性ポリイミドを得る工程の他、目的とする形状に成形する工程を有していてもよい。三次元造形用樹脂材料の形状としては、特に限定されず、例えば、粒子形状(粉末状、球状、板状を含む)、フィラメント形状、及びペレット形状のいずれかの形状であってもよい。
【0109】
本開示の三次元造形用樹脂材料は、いずれの方式の3Dプリンターに好適に適用可能である。3Dプリンターのシリンジを詰まらせることが抑制される観点で、熱溶解積層方式の3Dプリンターへの適用がより好適である。
【実施例
【0110】
以下、実施例によって本開示を具体的に説明するが、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り「部」は「質量部」を表す。
【0111】
[ガラス転移温度Tg]
ガラス転移温度Tgは、各例で得られた熱可塑性ポリイミド樹脂の試料を、DSC(示差走査型熱量計、島津DT-40シリーズ、DSC-41M)により測定した。
【0112】
[結晶化度]
結晶化度は、各例で得られた熱可塑性ポリイミド樹脂の試料を、オーブン中に、300℃で、30分間保持する。その後、熱可塑性ポリイミドの試料を取り出して、X線回折法により、X線回拆装置(理学電機社製RAD-RVCシリーズ)を用いて測定した。結晶化度は、全ピーク面積(結晶成分のピーク面積+非晶成分のハローパターン面積)に対する結晶成分のピーク面積の比から算出した。
【0113】
<実施例1>
撹拌機、還流冷却器、水分離器及び窒素導入管を備えた容器に、4,4′-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル3.312kg(9.0モル)、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル0.2kg(1.0モル)、ピロメリット酸二無水物2.071kg(9.5モル)、無水フタル酸0.148kg(1.0モル)、及びクレゾール酸21.53kgを投入した。その後、窒素雰囲気下で撹拌しながら、145℃まで加温昇温した。この間、約350mlの水の留出が確認された。さらに145℃で4時間反応を行った。その後、室温まで冷却し、10.8kgのメチルエチルケトンを投入した。その後、濾別し、黄色のポリイミド粉を得た。このポリイミド粉をメチルエチルケトンで洗浄した後、180℃で24時間乾燥して、5.26kg(収率98%)のポリイミド粉(熱可塑性ポリイミド)を得た。高安式25mmΦ押出機を用いて、このポリイミド粉を400℃で押出し、ペレットを得た。
【0114】
<実施例2~4>
実施例1と同様な反応装置を用い、4,4′-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、及び4,4′-ジアミノジフェニルエーテルの量を変化させた。これ以外は、実施例1と同様にして、各実施例のポリイミド粉(熱可塑性ポリイミド)を得た。高安式25mmΦ押出機を用いて、このポリイミド粉を400℃で押出し、ペレットを得た。
【0115】
<比較例1>
実施例1と同様な反応装置に、4,4′-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル3.680kg(10モル)、ピロメリット酸二無水物2.071kg(9.5モル)、無水フタル酸0.148kg(1.0モル)、及びクレゾール酸21.53kgを投入した。これ以外は、実施例1と同様にして、黄色のポリイミド粉5.46kg(収率98.5%)を得た。高安式25mmΦ押出機を用いて、このポリイミド粉を400℃で押出し、ペレットを得た。
【0116】
【表1】
【0117】
表1中、ジアミン成分(A)欄の(A1)は、4,4′-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルを表す。
表1中、ジアミン成分(A)欄の(A2)は、4,4′-ジアミノジフェニルエーテルを表す。
表1中、テトラカルボン酸二無水物(B)欄の(B1)は、ピロメリット酸二無水物を表す。
【0118】
表1に示すように、各実施例における熱可塑性ポリイミド樹脂は、低結晶化度の熱可塑性ポリイミド、又は非晶性のポリイミドが得られた。したがって、このような熱可塑性ポリイミド樹脂を含む本開示の三次元造形用樹脂材料によれば、3Dプリンターのシリンジを詰まらせることが抑制されると考えられる。