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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】信号制御装置
(51)【国際特許分類】
   H03M 1/10 20060101AFI20221101BHJP
   H03M 1/12 20060101ALI20221101BHJP
   G01R 31/54 20200101ALI20221101BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
H03M1/10 C
H03M1/12 A
G01R31/54
B62D5/04
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018008051
(22)【出願日】2018-01-22
(65)【公開番号】P2019129335
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】滝 雅也
【審査官】工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-145410(JP,A)
【文献】特開2017-96824(JP,A)
【文献】特開2017-118179(JP,A)
【文献】特開2010-237079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R31/50-31/74
H03M1/10-1/64
B62D5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め定められた変動範囲内で電圧値が変動する入力信号(AN)が入力回路(15)から入力される一つ以上の信号入力端子(Tin)と、
一端が入力信号経路(41)を介して前記信号入力端子に接続され、他端が基準電位に接続されたサンプリング用コンデンサ(Csh)と、
充電用電源端(Ec)から第1接続点(J1)を経由して前記入力信号経路上の第2接続点(J2)に至る充電経路(Pc)、前記第2接続点から前記第1接続点を経由して基準電位端(Ed)に至る放電経路(Pd)、前記充電経路の導通又は遮断を切替可能であり、導通時に前記サンプリング用コンデンサに充電可能な充電スイッチ(SWc)、及び、前記放電経路の導通又は遮断を切替可能であり、導通時に前記サンプリング用コンデンサを放電可能な放電スイッチ(SWd)を含む充放電回路(42)と、
前記サンプリング用コンデンサにチャージされたアナログ電圧値をデジタル値にAD変換するAD変換回路(45)と、
前記充電スイッチ及び前記放電スイッチを操作するスイッチ制御回路(47)と、
前記充放電回路により前記サンプリング用コンデンサへの充電操作又は放電操作を行った上で前記AD変換回路によるAD変換を行い、得られたAD変換値についての診断結果に基づき前記充放電回路の異常を判定する異常判定部(33、48)と、
を備え、
前記異常判定部は、
前記充電スイッチもしくは前記充電経路の異常を診断する充電回路チェック、又は、
前記放電スイッチもしくは前記放電経路の異常を診断する放電回路チェック、の少なくとも一方を個別に実施し、
前記充電回路チェックを行う場合、前記充電スイッチをオンし前記放電スイッチをオフする充電操作をした状態でAD変換を行い、得られたAD変換値が下限閾値未満であるとき異常と診断する充電診断を1回以上行い、
前記放電回路チェックを行う場合、前記放電スイッチをオンし前記充電スイッチをオフする放電操作をした状態でAD変換を行い、得られたAD変換値が上限閾値を超えているとき異常と診断する放電診断を1回以上行う信号制御装置。
【請求項2】
前記異常判定部は、
前記充電回路チェックに引き続き前記放電回路チェックを行う処理、又は、
前記放電回路チェックに引き続き前記充電回路チェックを行う処理、の少なくとも一方を行う請求項に記載の信号制御装置。
【請求項3】
前記異常判定部は、前記AD変換回路に対して、
前記充電回路チェックの前に前記放電操作を行う処理、又は、
前記放電回路チェックの前に前記充電操作を行う処理、の少なくとも一方を行う請求項またはに記載の信号制御装置。
【請求項4】
前記異常判定部は、
前記充電回路チェックを行う場合において前記充電診断で異常と診断された場合、前記充電操作をした状態で再度AD変換を行った後、再度前記充電診断を行い、前記充電診断により異常と診断とされた回数が異常診断回数閾値に達した場合に異常と判定し、
前記放電回路チェックを行う場合において前記放電診断で異常と診断された場合、前記放電操作をした状態で再度AD変換を行った後、再度前記放電診断を行い、前記放電診断により異常と診断とされた回数が異常診断回数閾値に達した場合に異常と判定する請求項のいずれか一項に記載の信号制御装置。
【請求項5】
前記異常判定部は、
前記充電回路チェックを行う場合において、1回以上の前記充電診断の結果に基づき、前記充電回路チェックの結果が異常と仮判定された場合、前記充電回路チェックを再度実施し、前記充電回路チェックにより異常と仮判定された回数が異常判定回数閾値に達した場合に異常と判定し、
前記放電回路チェックを行う場合において、1回以上の前記放電診断の結果に基づき、前記放電回路チェックの結果が異常と仮判定された場合、前記放電回路チェックを再度実施し、前記放電回路チェックにより異常と仮判定された回数が異常判定回数閾値に達した場合に異常と判定する請求項1~4のいずれか一項に記載の信号制御装置。
【請求項6】
前記異常判定部は、
前記充電回路チェック及び前記放電回路チェックの両方を一連の処理として実施し、
前記充電回路チェック又は前記放電回路チェックの少なくとも一方の結果が異常と仮判定された場合、一連の前記充電回路チェック及び前記放電回路チェックを再度実施し、前記充電回路チェック又は前記放電回路チェックにより異常と仮判定された回数が異常判定回数閾値に達した場合に異常と判定する請求項のいずれか一項に記載の信号制御装置。
【請求項7】
予め定められた変動範囲内で電圧値が変動する入力信号(AN)が入力回路(15)から入力される一つ以上の信号入力端子(Tin)と、
一端が入力信号経路(41)を介して前記信号入力端子に接続され、他端が基準電位に接続されたサンプリング用コンデンサ(Csh)と、
充電用電源端(Ec)から第1接続点(J1)を経由して前記入力信号経路上の第2接続点(J2)に至る充電経路(Pc)、前記第2接続点から前記第1接続点を経由して基準電位端(Ed)に至る放電経路(Pd)、前記充電経路の導通又は遮断を切替可能であり、導通時に前記サンプリング用コンデンサに充電可能な充電スイッチ(SWc)、及び、前記放電経路の導通又は遮断を切替可能であり、導通時に前記サンプリング用コンデンサを放電可能な放電スイッチ(SWd)を含む充放電回路(42)と、
前記サンプリング用コンデンサにチャージされたアナログ電圧値をデジタル値にAD変換するAD変換回路(45)と、
前記充電スイッチ及び前記放電スイッチを操作するスイッチ制御回路(47)と、
前記充放電回路により前記サンプリング用コンデンサへの充電操作又は放電操作を行った上で前記AD変換回路によるAD変換を行い、得られたAD変換値についての診断結果に基づき前記充放電回路の異常を判定する異常判定部(33、48)と、
を備え、
前記異常判定部は、
前記充電スイッチもしくは前記充電経路の異常、及び、前記放電スイッチもしくは前記放電経路の異常を同時に診断する充放電回路同時チェックを実施し、
前記充放電回路同時チェックにおいて、
前記充電スイッチ及び前記放電スイッチを共にオンした状態でAD変換を行い、得られたAD変換値が規定範囲外にあるとき、前記充放電回路が異常と診断する充放電同時診断を1回以上行う信号制御装置。
【請求項8】
前記AD変換回路によるAD変換結果のうち少なくとも一部のAD変換値を用いて所定の制御演算を実行する制御演算部(31)をさらに備え、
前記制御演算部は、
複数の前記信号入力端子に対応する複数の前記充放電回路のうちいずれか一つ以上が異常と判定された場合、異常と判断された前記充放電回路に対応するAD変換値の使用を停止し、正常と判断された前記充放電回路に対応するAD変換値のみを用いて制御演算を実行する請求項1~のいずれか一項に記載の信号制御装置。
【請求項9】
予め定められた変動範囲内で電圧値が変動する入力信号(AN)が入力回路(15)から入力される一つ以上の信号入力端子(Tin)と、
一端が入力信号経路(41)を介して前記信号入力端子に接続され、他端が基準電位に接続されたサンプリング用コンデンサ(Csh)と、
充電用電源端(Ec)から第1接続点(J1)を経由して前記入力信号経路上の第2接続点(J2)に至る充電経路(Pc)、前記第2接続点から前記第1接続点を経由して基準電位端(Ed)に至る放電経路(Pd)、前記充電経路の導通又は遮断を切替可能であり、導通時に前記サンプリング用コンデンサに充電可能な充電スイッチ(SWc)、及び、前記放電経路の導通又は遮断を切替可能であり、導通時に前記サンプリング用コンデンサを放電可能な放電スイッチ(SWd)を含む充放電回路(42)と、
前記サンプリング用コンデンサにチャージされたアナログ電圧値をデジタル値にAD変換するAD変換回路(45)と、
前記充電スイッチ及び前記放電スイッチを操作するスイッチ制御回路(47)と、
前記充放電回路により前記サンプリング用コンデンサへの充電操作又は放電操作を行った上で前記AD変換回路によるAD変換を行い、得られたAD変換値についての診断結果に基づき前記充放電回路の異常を判定する異常判定部(33、48)と、
前記AD変換回路によるAD変換結果のうち少なくとも一部のAD変換値を用いて所定の制御演算を実行する制御演算部(31)と、
を備え、
前記制御演算部は、
複数の前記信号入力端子に対応する複数の前記充放電回路のうちいずれか一つ以上が異常と判定された場合、異常と判断された前記充放電回路に対応するAD変換値の使用を停止し、正常と判断された前記充放電回路に対応するAD変換値のみを用いて制御演算を実行する信号制御装置。
【請求項10】
前記第2接続点(J2)よりも前記信号入力端子側で前記入力信号経路を遮断可能な入力遮断スイッチ(SWin)をさらに備え、
前記異常判定部は、前記入力遮断スイッチを遮断した状態で、前記充放電回路の異常を判定する請求項1~9のいずれか一項に記載の信号制御装置。
【請求項11】
運転者の操舵トルクをアシストモータ(8)の出力トルクによって補助する電動パワーステアリングシステム(90)に適用され、
前記入力信号は、操舵トルク信号、及び、前記アシストモータの出力制御に用いられるフィードバック信号を含む請求項1~10のいずれか一項に記載の信号制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力信号をAD変換して制御演算を行う信号制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、センサから入力されたアナログ信号をAD変換し制御演算に用いる信号制御装置において、信号入力端子のオープン異常や入力信号の伝達経路の断線異常等の端子異常を検出する技術が知られている。
【0003】
例えば特許文献1に開示された信号制御装置は、AD変換器内に、サンプリング用コンデンサを充電又は放電可能な充放電回路が設けられる。この信号制御装置は、充放電回路とサンプリング用コンデンサとを導通させた状態で行う「充放電用AD変換」と、充放電回路とサンプリング用コンデンサとを遮断した状態で行う「入力用AD変換」とを互いに異なるタイミングで実行する。そして、この信号制御装置は、入力回路とサンプリング用コンデンサとが導通している状態で、充放電回路とサンプリング用コンデンサとの接続又は非接続をAD変換毎に切り替えることで、端子異常を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-96824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の信号制御装置は、AD変換器が正しく動作することを常に確認しながら、入力用AD変換で得られた正しいAD変換値を用いた制御演算を行うことが可能である。しかし、何らかの要因で充放電回路自体に異常が生じると、正しく充放電が行えず、検出すべき端子異常を見逃すおそれがある。
【0006】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、AD変換器の端子異常を検出する前提として、充放電回路の機能に異常が無いことを確認可能な信号制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の信号制御装置は、一つ以上の信号入力端子(Tin)、サンプリング用コンデンサ(Csh)、充放電回路(42)、AD変換回路(45)、スイッチ制御回路(47)、及び異常判定部(33、48)を備える。信号入力端子は、予め定められた変動範囲内で電圧値が変動する入力信号(AN)が入力回路(15)から入力される。サンプリング用コンデンサは、一端が入力信号経路(41)を介して信号入力端子に接続され、他端が基準電位に接続されている。
【0008】
充放電回路は、充電経路(Pc)、放電経路(Pd)、充電スイッチ(SWc)及び放電スイッチ(SWd)を含む。充電経路は、充電用電源端(Ec)から第1接続点(J1)を経由して入力信号経路上の第2接続点(J2)に至る。放電経路は、第2接続点から第1接続点を経由して基準電位端(Ed)に至る。充電スイッチは、充電経路の導通又は遮断を切替可能であり、導通時にサンプリング用コンデンサに充電可能である。放電スイッチは、放電経路の導通又は遮断を切替可能であり、導通時にサンプリング用コンデンサを放電可能である。
【0009】
AD変換回路は、サンプリング用コンデンサにチャージされたアナログ電圧値をデジタル変換する。スイッチ制御回路は、充電スイッチ及び放電スイッチを操作する。
【0010】
異常判定部は、充放電回路によりサンプリング用コンデンサへの充電操作又は放電操作を行った上でAD変換回路によるAD変換を行う。そして異常判定部は、得られたAD変換値についての診断結果に基づき充放電回路の異常を判定する。本発明により、充放電回路の機能に異常が無いことを予め確認することで、充放電回路が正しく動作しない状態で特許文献1による端子異常の検出を行うことを防止することができる。
【0011】
本発明の一態様では、異常判定部は、「充電スイッチもしくは充電経路の異常を診断する充電回路チェック」、又は、「放電スイッチもしくは放電経路の異常を診断する放電回路チェック」、の少なくとも一方を個別に実施する。
【0012】
異常判定部は、充電回路チェックを行う場合、「充電スイッチをオンし放電スイッチをオフする充電操作」をした状態でAD変換を行い、「得られたAD変換値が規定範囲内にあるか下限閾値以上であるとき正常と診断し、それ以外のとき異常と診断する充電診断」を1回以上行う。また、異常判定部は、放電回路チェックを行う場合、「放電スイッチをオンし充電スイッチをオフする放電操作」をした状態でAD変換を行い、「得られたAD変換値が規定範囲内にあるか上限閾値以下であるとき正常と診断し、それ以外のとき異常と診断する放電診断」を1回以上行う。
【0013】
この場合、異常判定部は「充電回路チェックに引き続き放電回路チェックを行う処理」、又は、「放電回路チェックに引き続き充電回路チェックを行う処理」の少なくとも一方を行うことが好ましい。これにより、充電回路チェック前の放電操作、又は、放電回路チェック前の充電操作を省略し、両方のチェックを効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】各実施形態による信号制御装置が適用される電動パワーステアリング装置の概略構成図。
図2】第1、第2実施形態の信号制御装置の構成図。
図3】第1実施形態の信号制御装置のAD変換器の構成図。
図4】充電スイッチが正常な場合のAD変換値を説明する図。
図5】充電スイッチが断線故障した場合のAD変換値を説明する図。
図6】充放電回路の故障モード及び故障検出方法を示す表。
図7】充電回路チェックのフローチャート。
図8】放電回路チェックのフローチャート。
図9】充放電スイッチ操作とAD変換とが連動する場合のフローチャート。
図10】充電回路チェック及び放電回路チェックを組み合わせた異常判定処理のフローチャート。
図11】充電回路チェック又は放電回路チェックで異常と仮判定された場合、個別のチェックを繰り返す異常判定処理のフローチャート。
図12】充電回路チェック又は放電回路チェックで異常と仮判定された場合、一連のチェックを繰り返す異常判定処理のフローチャート。
図13】充放電回路の異常が判定された場合の制御演算処理のフローチャート。
図14】第2実施形態の信号制御装置のAD変換器の構成図。
図15】第2実施形態における図10に対応するフローチャート。
図16】第3実施形態の信号制御装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、信号制御装置の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。複数の実施形態において実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。また、第1~第3実施形態を包括して「本実施形態」という。最初に図1を参照し、各実施形態の信号制御装置が共通に適用される電動パワーステアリングシステムの概略構成を説明する。電動パワーステアリングシステム90は、運転者の操舵トルクを、アシストモータ8の出力トルクによって補助するシステムである。なお、図1に示す電動パワーステアリングシステム90はコラムアシスト式であるが、ラックアシスト式の電動パワーステアリングシステムにも同様に適用可能である。
【0016】
ステアリングシステム99は、ハンドル91、ステアリングシャフト92、ピニオンギア96、ラック軸97、車輪98、及び電動パワーステアリングシステム90等を含む。ハンドル91にはステアリングシャフト92が接続されている。ステアリングシャフト92の先端に設けられたピニオンギア96は、ラック軸97に噛み合っている。ラック軸97の両端には、タイロッド等を介して一対の車輪98が設けられる。運転者がハンドル91を回転させると、ハンドル91に接続されたステアリングシャフト92が回転する。ステアリングシャフト92の回転運動は、ピニオンギア96によりラック軸97の直線運動に変換され、ラック軸97の変位量に応じた角度に一対の車輪98が操舵される。
【0017】
電動パワーステアリングシステム90は、アシストモータ8、ECU10、トルクセンサ93及び減速ギア94等を含む。アシストモータ8は、例えば三相交流ブラシレスモータである。アシストモータ8の回転角θは、図示しない回転角センサによって検出される。トルクセンサ93は、ステアリングシャフト92の途中に設けられ、操舵トルクTsを検出する。
【0018】
「信号制御装置」としてのECU10は、マイコン20及びインバータ7等を含む。インバータ7は、マイコン20からの出力指令に基づいてバッテリ6の直流電力を交流電力に変換し、アシストモータ8に供給する。インバータ7から出力されるインバータ電流Iinvは、図示しない電流センサによって検出される。インバータ電流Iinv及び回転角θの情報は、マイコン20において、アシストモータ8の出力制御のためのフィードバック信号として用いられる。
【0019】
ECU10のマイコン20は、操舵トルクTs、インバータ電流Iinv、回転角θ、バッテリ電圧Vb等の情報が、基本的に、電圧値のアナログ信号として取得する。本実施形態では、個々の入力信号の種類を区別する必要はないため、各種のアナログ入力信号をまとめて、「AN1、AN2・・・ANN」と記す。例えば、フェールセーフの観点から各センサが冗長的に設けられる構成では、同種の信号が複数入力されてもよい。また、全てをアナログ信号として取得するのではなく、いくつかの入力についてはデジタル通信など別の手段で取得してもよい。
【0020】
ここで、3桁目の「1、2・・・N」は、N個の入力信号に順に付番したものである。以下、本明細書では、複数の入力信号に対応して複数設けられる他の構成要素の符号についても同様の表記を用いる。なお、各実施形態では、主にNが複数の場合を想定するが、N=1、すなわち、ECU10に入力される入力信号が一つの場合も想定可能である。
【0021】
マイコン20は、入力信号AN1、AN2・・・ANNに基づく制御演算により、アシストモータ8が出力するアシスト量を演算し、それに対応した駆動信号をインバータ7に出力する。これにより、アシストモータ8は、要求されるアシスト量に応じたトルクを出力するように通電が制御される。アシストモータ8が発生したアシストトルクは、減速ギア94を介してステアリングシャフト92に伝達される。なお、ECU10における各処理は、予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理であってもよく、専用の電子回路によるハードウェア処理であってもよい。また、ECU10とアシストモータ8とは一体に構成されてもよい。
【0022】
次に、ECU10のうち特にマイコン20、及びマイコン20内部のAD変換器の構成について、第1~第3実施形態の順に説明する。各実施形態の説明では、ECU10及びマイコン20の符号について、3桁目に実施形態の番号を付して区別する。例えば、第1実施形態のECUの符号を「101」とする。また、マイコン20内部のCPUについて包括符号を「30」、AD変換器について包括符号を「40」とした上で、同様に3桁目に実施形態の番号を付して区別する。
【0023】
(第1実施形態)
図2を参照し、第1実施形態のECU101及びマイコン201の構成について説明する。なお、以下のECUの構成説明では、インバータ7を省略する。マイコン201は、AD変換器401、CPU301、RAM27、DMAC28等を含み、これらの間で、バス29を介して情報を通信可能である。
【0024】
第1実施形態では、複数の入力信号AN1、AN2・・・ANNがマイコン201に入力される構成を前提とする。AD変換器401は、アナログマルチプレクサ43、AD変換回路45、及びAD変換結果格納レジスタ46等を含む。外部のセンサからECU101の入力回路15に入力された複数の入力信号AN1、AN2・・・ANNのうち、アナログマルチプレクサ43で択一的に選択された信号がAD変換回路45でAD変換される。AD変換回路45によるAD変換結果は、AD変換結果格納レジスタ46に格納される。AD変換器401の詳細な構成は、図3を参照して後述する。
【0025】
第1実施形態のCPU301は、制御演算部31、端子異常判定部32及び充放電回路異常判定部33を含む。制御演算部31は、AD変換器401のAD変換回路45によるAD変換結果のうち少なくとも一部のAD変換値を用いて所定の制御演算を実行する。電動パワーステアリングシステム90に適用される本実施形態では、制御演算部31は、操舵トルクTs、インバータ電流Iinv、モータ回転角θ、バッテリ電圧Vb等の入力信号AN1、AN2・・・ANNのAD変換値に基づいて、アシストモータ8のアシスト量を演算する。
【0026】
端子異常判定部32は、特許文献1に開示された構成であり、図3を参照しつつ概要を説明する。端子異常判定部32は、信号入力端子Tinのオープン故障、或いは、入力信号経路41の断線故障である「端子異常」を検出する。端子異常の検出にあたり、端子異常判定部32は、充放電回路42へ接続した状態での充放電用AD変換を実行する。端子異常判定部32は、端子異常を検出すると、制御演算部31に異常信号Sfを通知する。
【0027】
充放電回路異常判定部33は、端子異常判定部32が端子異常を検出する前提として、充放電回路42の機能に異常が無いことを確認するため、制御演算部31が制御演算を行うタイミングとは異なるタイミングで充放電回路42の異常を検出する。充放電回路異常判定部33は、充放電回路42が異常を検出すると、制御演算部31に異常信号Scdfを通知する。本実施形態では、充放電回路42の異常検出が主題であるため、以下、充放電回路異常判定部33を単に「異常判定部33」という。異常判定部33は、内部に回数カウンタ331を有しており、後述する診断回数又は仮判定回数をカウントする。異常判定部33の詳細な構成、作用については後述する。
【0028】
RAM27は、CPU301による演算結果等を記憶する。DMAC(すなわち、Direct Memory Access Controller)28は、CPU301とは独立に動作し、AD変換結果格納レジスタ46に格納されたAD変換値をRAM27に転送する。なお、これらは本実施形態特有の作用効果に直接的な関係はないが、特許文献1に開示された構成であるため、参考として記載する。
【0029】
次に、第1実施形態のAD変換器401の構成について、図3を参照して説明する。第1実施形態のAD変換器401には、予め定められた変動範囲内で電圧値が変動する複数の入力信号AN1、AN2・・・ANNが入力される。これに応じて、各入力信号に対応する構成が複数組設けられる。図3では、複数の構成要素について、数字又は英文字の符号末尾に「1、2・・・N」を示す。共通する事項については、末尾の「1、2・・・N」を除いた符号を用いて包括的に記載する。また、各構成要素の語頭に、適宜「第N」の語を付して記す。
【0030】
ECU101において、AD変換器401の外部に設けられた入力回路151、152・・・15Nは、外部の各センサからの信号が外部入力端子141、142・・・14Nを介して入力される。入力抵抗Rin1、Rin2・・・RinNは、入力回路151、152・・・15NとAD変換器401の信号入力端子Tin1、Tin2・・・TinNとの間に接続される。
【0031】
入力側コンデンサCin1、Cin2・・・CinNは、AD変換器401の入力回路151、152・・・15N側において、信号入力端子Tin1、Tin2・・・TinNと基準電位との間に設けられており、入力電圧の変動を抑制する。ここで、入力側コンデンサCinの容量は、入力電圧の変動を好適に抑制するため、通常はAD変換器401内のサンプリング用コンデンサCshの容量よりも大きいことが好ましい。ただし、入力信号の特性によってはその限りではなく、入力側コンデンサCin自体を設けない構成としてもよい。
【0032】
AD変換器401は、信号入力端子Tin、サンプリング用コンデンサCsh、入力信号経路41、充放電回路42、アナログマルチプレクサ43、AD変換回路45、AD変換結果格納レジスタ46、及び、スイッチ制御回路47等を備える。入力信号経路41は、特許文献1の「伝達経路41」に相当する。信号入力端子Tin1、Tin2・・・TinNは、対応する入力回路151、152・・・15Nから入力信号AN1、AN2・・・ANNが入力される。入力信号AN1、AN2・・・ANNは、入力信号経路411、412・・・41N及びアナログマルチプレクサ43を経由してサンプリング用コンデンサCshに伝達される。また、各信号入力端子Tin1、Tin2・・・TinNと基準電位との間には、浮遊容量(又は寄生容量)Cfl1、Cfl2・・・CflNが生成される。
【0033】
サンプリング用コンデンサCshは、一端がアナログマルチプレクサ43及び入力信号経路41を介して信号入力端子Tinに接続され、他端が基準電位に接続されている。基準電位は典型的にはGND電位であるが、それに限らない。アナログマルチプレクサ43は、複数の信号入力端子Tinのうちいずれかの信号入力端子を択一的に選択し、サンプリング用コンデンサCshと接続する。AD変換回路45は、サンプリング用コンデンサCshにチャージされたアナログ電圧値をデジタル変換する。
【0034】
AD変換結果格納レジスタ46は、AD変換回路45によるAD変換結果を格納する。AD変換結果格納レジスタ46に格納されたAD変換結果は、バス29を介してRAM27やCPU301に転送される。
スイッチ制御回路47は、充放電回路42の充電スイッチSWc、放電スイッチSWd及びアナログマルチプレクサ43のスイッチを操作する。
【0035】
充放電回路42は、サンプリング用コンデンサCshを積極的に充放電可能な回路であり、特許文献1では、充放電用AD変換のタイミングでサンプリング用コンデンサCshと接続される。図3には、第1充放電回路421の詳細構成を図示しているが、他の充放電回路422・・・42Nも同様の構成である。
【0036】
充放電回路42は、充電経路Pc、放電経路Pd、充電スイッチSWc及び放電スイッチSWdを含む。充電経路Pcは、破線で示すように、充電用電源端Ecから第1接続点J1を経由して入力信号経路41上の第2接続点J2に至る。放電経路Pdは、二点鎖線で示すように、第2接続点J2から第1接続点J1を経由して基準電位端Edに至る。充電用電源端Ecは充電用電源電圧Vcc(例えば5[V])が印加されている。基準電位端Edは、例えばGND電位となっており、この場合、基準電位端Edを「接地端」と言い換えてもよい。充電用電源端Ecと第1接続点J1との間は、充電経路Pc専用の部分であり、第1接続点J1と基準電位端Edとの間は、放電経路Pd専用の部分である。第1接続点J1と第2接続点J2との間は、充電経路Pc及び放電経路Pdに共用される部分である。
【0037】
充電スイッチSWcは、充電経路Pcの導通又は遮断を切替可能であり、導通時にサンプリング用コンデンサCshに充電可能である。また、充電スイッチSWcと直列に抵抗Rcが接続されている。放電スイッチSWdは、放電経路Pdの導通又は遮断を切替可能であり、導通時にサンプリング用コンデンサCshを放電可能である。また、放電スイッチSWdと直列に抵抗Rdが接続されている。
【0038】
充電スイッチSWcがオン、放電スイッチSWdがオフされたとき、充電用電源電圧Vccの電荷がサンプリング用コンデンサCshに充電される。この操作を「充電操作」という。また、放電スイッチSWdがオン、充電スイッチSWcがオフされたとき、サンプリング用コンデンサCshにチャージされた電荷が基準電位であるGNDに放電される。この操作を「放電操作」という。
【0039】
充電スイッチSWc及び放電スイッチSWdをいずれも接続しないとき、充放電回路42とサンプリング用コンデンサCshとは遮断される。このように、充放電スイッチSWc、SWdをオン/オフ操作することにより、充放電回路42とサンプリング用コンデンサCshとの導通又は遮断を切替可能であり、且つ、導通時にサンプリング用コンデンサCshを充電又は放電可能である。
【0040】
ここで、CPU301の異常判定部33の説明に戻る。異常判定部33は、充放電回路42によりサンプリング用コンデンサCshへの充電操作又は放電操作を行った上でAD変換回路45によるAD変換を行う。そして異常判定部33は、そのAD変換値についての診断結果に基づき充放電回路42の異常を判定する。
【0041】
次に、以上の構成による本実施形態の意義について説明する。例えば特許文献1の信号制御装置は、AD変換器が正しく動作することを常に確認しながら、入力用AD変換で得られた正しいAD変換値を用いた制御演算を行うことが可能である。しかし、何らかの要因で充放電回路42自体に異常が生じると、特許文献1の従来技術において正しく充放電が行えず、検出すべき端子異常を見逃すおそれがある。
【0042】
そこで本実施形態では、制御演算部31が制御演算を行うタイミングとは異なるタイミングで、充放電回路42によりサンプリング用コンデンサCshへの充電操作又は放電操作を行った上でAD変換回路45によるAD変換を行う。そして、そのAD変換値が正しい値であるか否かを評価することで、充放電回路42の異常を判定する。なお、制御演算を行うタイミングとは、サンプリング用コンデンサCshに入力信号ANがサンプリングされた状態でAD変換を行い、入力信号ANに応じた制御を実施するタイミングを指す。
【0043】
例えば充電スイッチSWcをオンし放電スイッチSWdをオフした状態、すなわち充電操作をした状態を図4に示す。充電スイッチSWcが正常である場合、太実線で示すように経路が接続される。入力回路151の電圧をVinとすると、第2接続点J2の電位理論値Vj2は式(1)で示される値となり、この値がAD変換される。
Vj2=Vin+(Vcc-Vin)×Rin/(Rin+Rc) ・・・(1)
【0044】
仮に、制御開始前には入力回路電圧Vinが必ずGNDレベル(すなわち約0「V」)となることがわかっていれば、式(1)に「Vin=0」を代入した式(2)の電位理論値Vj2が本来AD変換されるべき電圧値となる。
Vj2=Vcc×Rin/(Rin+Rc) ・・・(2)
【0045】
また、充電スイッチSWcにオープン故障が生じた状態を図5に示す。このとき、第2接続点J2には充電用電源電圧Vccに由来する電圧は印加されず、入力回路電圧Vinから入力抵抗Rinによる電圧降下分を差し引いた電圧が印加される。仮に入力回路電圧VinがGNDレベルであれば、AD変換値は0[V]に近い値となる。したがって、充電スイッチSWcが正常な場合のAD変換値と判別可能であるため、充電スイッチSWcのオープン故障を検出することができる。
【0046】
図6に、充放電回路42の故障モード、故障例、故障検出方法、及びAD変換値の期待値を示す。ここで、故障検出方法は、図示のようにスイッチ操作した状態でAD変換を実施する。期待値は、「Vin≒0、Rin>>Rc」と仮定した値を示す。なお、図14に示す第2実施形態のように入力遮断スイッチSWinを設ける構成では、入力遮断スイッチSWinを遮断することで、理想的に「Vin=0、Rin=∞」の状態が実現される。入力遮断スイッチSWinを設けない場合、或いは、入力遮断スイッチSWinを接続した状態で故障検出する場合には、適宜、入力回路電圧Vin及び入力抵抗Rinと抵抗Rcとの分圧比を考慮して期待値を算出すればよい。
【0047】
続いて各チェックについて順に説明する。ここの説明では、「充電スイッチSWc」及び「放電スイッチSWd」を単に「SWc」、「SWd」と記す。また、「充電用電源電圧Vcc」を単に「Vcc」と記す。
【0048】
<No.1:故障モード「正しく充電できない」>
故障例はSWcのオフ固着等である。SWcをオン、SWdをオフした状態でAD変換を行う。正常であればAD変換値はVcc近傍値となる。
【0049】
<No.2:故障モード=「常に充電してしまう」>
故障例はSWcのオン固着等である。SWcをオフ、SWdをオンした状態でAD変換を行う。正常であればAD変換値はGND近傍値となる。
【0050】
<No.3:故障モード=「正しく放電できない」>
故障例はSWdのオフ固着等である。SWcをオフ、SWdをオンした状態でAD変換を行う。正常であればAD変換値はGND近傍値となる。
【0051】
<No.4:故障モード=「常に放電してしまう」>
故障例はSWdのオン固着等である。SWcをオン、SWdをオフした状態でAD変換を行う。正常であればAD変換値はVcc近傍値となる。
【0052】
<No.5:故障モード=「充放電特性の異常」>
故障例は、抵抗Rc、Rdの抵抗値が変わることである。SWcをオン、SWdをオンした状態でAD変換を行う。正常であればAD変換値は、式(3)に示す分圧値Vc-dの近傍値となる。
Vc-d=Vcc×Rd/(Rc+Rd) ・・・(3)
【0053】
<No.6:故障モード=「上記の組み合わせ」>
故障例は、SWc、SWd両方のオン固着等である。故障検出方法及び期待値は、上記の組み合わせによる。
【0054】
図6の故障例について、例えば「SWcのオフ固着等」には「抵抗Rcや充電経路Pcの配線の断線」等が含まれる。故障モードが同じであれば、図6の検出方法で検出可能である。図6に記載した6種類のチェックについては、全てを実施してもよいし、いずれかを選択して実施してもよい。
【0055】
なお、マイコン起動時には浮遊容量Cflやサンプリング用コンデンサCshにどのような電荷が保持されているかは不明である。多くの場合、GND近傍となっていることが多いが、そのような場合にNo.2のチェックを行うと、本来は放電できていないにもかかわらず、GND近傍値が得られることも考えられる。したがって、放電回路の故障検出を正しく行うには、予め充電操作をした上で放電動作を確認することが望ましい。その逆に、充電回路の故障検出を正しく行うには、予め放電操作をした上で充電動作を確認することが望ましい。
【0056】
また、例えばNo.1のチェックを実施すると、充電回路が正常であれば必然的にサンプリング用コンデンサCshに電荷がチャージされることとなる。したがって、No.1からNo.2の順にチェックを実施することで放電回路チェック前の充電を実現してもよい。同様に、No.3からNo.4の順にチェックを実施することで充電回路チェック前の放電を実現してもよい。さらに、一時的な異常と恒久的な異常とを区別するため、充電診断及び放電診断のそれぞれについて回数カウンタを設け、正常又は異常と診断された回数が閾値に達したときに正常又は異常と判定する構成としてもよい。
【0057】
次に、異常判定部33による異常判定処理の複数の実施例について、図7図12のフローチャートを参照して説明する。以下のフローチャートの説明で、記号「S」はステップを意味する。また、前述のステップと実質的に同一のステップには同一のステップ番号を付して説明を省略する。
【0058】
まず、図7に充電回路チェック、図8に放電回路チェックのフローチャートを個別に示す。例えば入力信号ANの種類によっては、充電回路チェック又は放電回路チェックの一方さえできれば十分な場合もある。充電回路チェックは図6のNo.1、4に対応し、放電回路チェックは図6のNo.2、3に対応する。図7及び図8の全体処理は、図10図12のフローチャートにおいて、それぞれ、定義済み処理S20及びS50として扱われる。
【0059】
異常判定処理では、異常判定部33からの指令に基づき、スイッチ制御回路47により充電スイッチSWc及び放電スイッチSWdのオン/オフを操作する。また、異常判定部33からの指令に基づき、AD変換回路45によりAD変換する。以下の説明では、スイッチ制御回路47やAD変換回路45の関与についての記載を省略し、異常判定部33がスイッチ操作やAD変換を行うものとして記載する。
【0060】
図7の充電回路チェックにおいて異常判定部33は、S21で、充電スイッチSWcをオンし放電スイッチSWdをオフする充電操作をした状態で、S22でAD変換を行う。後述する図9の処理ではAD変換後に充電スイッチSWcがオフされるのに対し、図7の処理では、充電回路チェックが終了するまで充電スイッチSWcがオンされた充電操作の状態が継続される。
【0061】
続いて異常判定部33は、S24~S26でAD変換値を下限閾値Vth_Lと比較して充電診断を行う。AD変換値が下限閾値Vth_L以上であり、S24でYESと判断されたとき、S25で正常カウンタがインクリメントされる。AD変換値が下限閾値Vth_L未満であり、S24でNOと判断されたとき、S26で異常カウンタがインクリメントされる。なお、S24において、AD変換値が下限閾値Vth_L以上であることに加え、且つ上限閾値Vth_H以下である場合に正常と診断してもよい。少なくともAD変換値が下限閾値Vth_L未満である場合に異常と診断される点は共通である。
【0062】
1回の充電回路チェックにおいて充電診断は1回以上行われ、正常と診断された回数、又は、異常と診断された回数が所定回数に達したときに、充電回路チェックの正常又は異常が判定される。S27では正常カウンタが正常診断回数閾値N_OKに達したか判断され、NOの場合、S22に戻り再度AD変換を行う。S28では異常カウンタが異常診断回数閾値N_NGに達したか判断され、NOの場合、S22に戻り再度AD変換を行う。このとき充電操作の状態が継続しており、「充電操作をした状態で再度AD変換を行う」という処理が実行されている。
【0063】
S27でYESの場合、S29で充電回路チェックの結果が正常と判定される。S28でYESの場合、S30で充電回路チェックの結果が異常と判定される。なお、診断回数閾値N_OK、N_NGは1以上の整数に設定される。診断回数閾値N_OK、N_NGを1回に設定した場合、実質的にカウンタを設けない場合と等価となる。したがって、図7のフローチャートには、正常判定又は異常判定の一方又は両方にカウンタを設けない構成が含まれる。正常判定のカウンタを設けない場合、S25、S27を無視してよく、異常判定のカウンタを設けない場合、S26、S28を無視してよい。
【0064】
図8の放電回路チェックのフローは、図7の充電回路チェックのフローと基本的に同じである。放電回路チェックにおいて異常判定部33は、S51で、放電スイッチSWdをオンし充電スイッチSWcをオフする放電操作をした状態で、S52でAD変換を行う。後述する図9の処理ではAD変換後に放電スイッチSWdがオフされるのに対し、図8の処理では、放電回路チェックが終了するまで放電スイッチSWdがオンされた放電操作の状態が継続される。
【0065】
続いて異常判定部33は、S54~S56でAD変換値を上限閾値Vth_Hと比較して放電診断を行う。AD変換値が上限閾値Vth_H以下であり、S54でYESと判断されたとき、S55で正常カウンタがインクリメントされる。AD変換値が上限閾値Vth_Hを超えており、S54でNOと判断されたとき、S56で異常カウンタがインクリメントされる。なお、S54において、AD変換値が上限閾値Vth_H以下であることに加え、且つ下限閾値Vth_L以上である場合に正常と診断してもよい。少なくともAD変換値が上限閾値Vth_Hを超えている場合に異常と診断される点は共通である。
【0066】
1回の放電回路チェックにおいて放電診断は1回以上行われ、正常と診断された回数、又は、異常と診断された回数が所定回数に達したときに、放電回路チェックの正常又は異常が判定される。S57では正常カウンタが正常診断回数閾値N_OKに達したか判断され、NOの場合、S52に戻り再度AD変換を行う。S58では異常カウンタが異常診断回数閾値N_NGに達したか判断され、NOの場合、S52に戻り再度AD変換を行う。このとき放電操作の状態が継続しており、「放電操作をした状態で再度AD変換を行う」という処理が実行されている。なお、放電回路チェックの診断回数閾値は、充電回路チェックの診断回数閾値とは異なってもよい。
【0067】
S57でYESの場合、S59で放電回路チェックの結果が正常と判定される。S58でYESの場合、S60で放電回路チェックの結果が異常と判定される。図7と同様に、図8のフローチャートには、正常判定又は異常判定の一方又は両方にカウンタを設けない構成が含まれる。正常判定のカウンタを設けない場合、S55、S57を無視してよく、異常判定のカウンタを設けない場合、S56、S58を無視してよい。
【0068】
ここで、図6のNo.5に対応する充放電回路同時チェックについて補足する。充放電回路同時チェックとは、充電スイッチSWcもしくは充電経路Pcの異常、及び、放電スイッチSWdもしくは放電経路Pdの異常を同時に診断するチェックである。異常判定部33は、充放電回路同時チェックにおいて、「充放電同時診断」を1回以上行う。充放電同時診断では、充電スイッチSWc及び放電スイッチSWdを共にオンした状態でAD変換を行い、そのAD変換値が規定範囲内にあるとき、充放電回路42が正常と診断し、そのAD変換値が規定範囲外にあるとき、充放電回路42が異常と診断する。この規定範囲は、式(3)の分圧値Vc-dに対して誤差範囲を含めた範囲に設定される。
【0069】
次に図9に、充電スイッチSWc及び放電スイッチSWdの操作がAD変換と連動する場合のフローチャートを記す。図9では、充電回路チェックと放電回路チェックとを共通のフローで示し、内容が異なるステップについては各チェックの内容を併記する。図7図8と異なる点として、S22、S52のAD変換の後、充電スイッチSWcをオフするS23、又は、放電スイッチSWdをオフするS53のステップが追加される。また、S27、S57でNOと判断された場合、及び、S28、S58でNOと判断された場合、S21、S51の前に戻り、充電操作又は放電操作が再度実施される。なお、図9による充電回路チェック又は放電回路チェックの処理も、それぞれ、図10図12のフローチャートにおける定義済み処理S20及びS50の一例として扱われる。
【0070】
マイコンによっては、AD変換のタイミングでしか充電スイッチSWc又は放電スイッチSWdをオンすることができないものがある。その場合、充電操作又は放電操作は1回のAD変換に対応する短い時間でしか行われないため、サンプリング用コンデンサCshの充放電がされるのに十分な時間が足りない可能性がある。そのため、実際に故障していなければ、最初に異常と診断されたとしても、充電操作又は放電操作を繰り返した状態でのAD変換値を診断し直すことで、充放電が十分なレベルに達したときから正常と診断されるようになる。したがって、充放電が十分なレベルに達すると想定される充電操作又は放電操作の回数よりも多い回数に異常診断回数閾値N_NGを設定することで、正常であるのに異常と判定する誤判定を防止することができる。
【0071】
次に図10を参照し、充電回路チェック及び放電回路チェックを組み合わせた異常判定処理について説明する。フローチャート中、S20の充電回路チェックは図7又は図9に示され、S50の放電回路チェックは図8又は図9に示される。図10では充電回路チェックに引き続き放電回路チェックを行う処理を示す。ただし順番を逆にし、放電回路チェックに引き続き充電回路チェックを行う処理としてもよい。
【0072】
図10のS10では、S20の充電回路チェックに先立って、放電スイッチSWdをオンとし充電スイッチSWcをオフとした状態でサンプリング用コンデンサCshの放電を待つ放電操作が実施される。S20の後のS31では、充電回路チェックの結果が正常であるか判断される。S31でYESの場合、S40に移行し、S31でNOの場合、S33で、あらためて充電回路チェックの結果が異常と判定される。
【0073】
S40では、S50の放電回路チェックに先立って、充電スイッチSWcをオンとし放電スイッチSWdをオフとした状態でサンプリング用コンデンサCshの充電を待つ充電操作が実施される。S50の後のS61では、放電回路チェックの結果が正常であるか判断される。S61でNO場合、S63で、あらためて放電回路チェックの結果が異常と判定される。S61でYESの場合、S64で総合チェック結果が正常と判定される。
【0074】
図10に破線で示したS10又はS40の一方又は両方のステップは省略可能な場合がある。例えばマイコン201の初期特性として、充電回路チェックの実施時にサンプリング用コンデンサCshは十分に低い電位から充電されることがわかっている場合がある。そのような場合には、充電回路チェック前の放電操作(すなわちS10)を省略してもよい。また、充電回路チェックに引き続き放電回路チェックを行う処理の場合、充電回路チェック中にサンプリング用コンデンサCshへの充電が完了しているため、充電回路チェック終了後、あらためて充電操作(すなわちS40)を行うことなく、放電回路チェックを適切に実施することができる。
【0075】
次に図11図12を参照し、充電回路チェック又は放電回路チェックで異常と仮判定された場合にチェックを繰り返した後、最終的な判定を行う処理について説明する。この説明では、最終的な異常判定について「判定」を用い、それ以前のチェックでの異常判定については「仮判定」を用いる。なお、正常判定についてはやり直しをしないため、「仮判定」の用語は用いない。
【0076】
ここで、1回の充電回路チェック又は放電回路チェックにおいて充電診断又は放電診断を繰り返す処理と、1回以上の充電診断又は放電診断を含む充電回路チェック又は放電回路チェックを繰り返す処理とは、動作的には類似するが、目的とする意味合いが異なる。例えば図9を参照して説明したように、充放電スイッチSWc、SWdの操作とAD変換とが連動する場合、1回の充放電操作の時間が足りないため、診断を繰り返して十分なレベルにまで充放電することで誤判定を防止する目的がある。一方、充放電回路チェックを繰り返す場合、AD変換回路45の動作をリセットすることで、誤ったAD変換値に基づく誤ったチェックの影響を解消し、正しいチェックをし直すことを目的とする。
【0077】
図11に示す処理では、異常と仮判定された充電回路チェック又は放電回路チェックを個別に繰り返す。S20の充電回路チェックの後、S31では、充電回路チェックで正常と判定されたか判断される。S31でYESの場合、S50の放電回路チェックに移行する。S31でNO、すなわち充電回路チェックで異常と仮判定された場合、S32で、異常と仮判定された回数が異常判定回数閾値NJ_NGcに達したか判断される。なお、以下の各異常判定回数閾値は1以上の整数に設定される。S32でNOの場合、S20に戻り再度充電回路チェックを行う。S32でYESの場合、S33で充電回路チェック結果が異常と判定される。
【0078】
S50の放電回路チェックの後、S61では、放電回路チェックで正常と判定されたか判断される。S61でNO、すなわち放電回路チェックで異常と仮判定された場合、S62で、異常と仮判定された回数が異常判定回数閾値NJ_NGdに達したか判断される。なお、放電回路チェックの異常判定回数閾値NJ_NGdは、充電回路チェックの異常判定回数閾値NJ_NGcとは異なってもよい。S62でNOの場合、S50に戻り再度放電回路チェックを行う。S62でYESの場合、S63で放電回路チェック結果が異常と判定される。S61でYESの場合、S64で総合チェック結果が正常と判定される。
【0079】
図12に示す処理では、充電回路チェック又は放電回路チェックの少なくとも一方で異常と仮判定された場合、一連のチェックを繰り返す。S20の充電回路チェックに引き続きS50の放電回路チェックが行われた後、S71では、充電回路チェック及び放電回路チェックでいずれも正常と判定されたか判断される。S71でNOの場合、S72で、少なくとも一方のチェックで異常と仮判定された回数が異常判定回数閾値NJ_NGsに達したか判断される。なお、この異常判定回数閾値NJ_NGsは、図11の異常判定回数閾値NJ_NGc、NJ_NGdとは異なってもよい。S72でNOの場合、S20に戻り、再度、充電回路チェック及び放電回路チェックを行う。S72でYESの場合、S73で総合チェック結果が異常と判定される。S71でYESの場合、S74で総合チェック結果が正常と判定される。
【0080】
さらに、これらの異常判定処理は、各信号入力端子Tin1、Tin2・・・TinNに対応する充放電回路421、422・・・42N毎に実施してもよいし、全ての充放電回路421、422・・・42Nに対し一斉に充電操作又は放電操作を行ってから一斉にチェックしてもよい。或いは、特定の信号入力端子に対応する充放電回路について充電操作及び充電回路チェックを行い、その他の信号入力端子に対応する充放電回路について放電操作及び放電回路チェックを行う構成としてもよい。
【0081】
次に図13を参照し、複数の充放電回路421、422・・・42Nのうちいずれか一つ以上が異常と判定された場合の制御演算部31による処理について説明する。S81では、充放電回路チェック結果が正常であるか判断される。チェック結果が正常でありS81でYESと判断された場合、S82で通常制御が実行される。チェック結果が異常でありS81でNOと判断された場合、S83で異常時処置が実行される。
【0082】
異常時処置において制御演算部31は、異常と判断された充放電回路42に対応するAD変換値の使用を停止し、正常と判断された充放電回路42に対応するAD変換値のみを用いて制御演算を実行する。また、制御演算の実行中、端子異常判定部32は、正常と判断された充放電回路42に対応する信号入力端子Tinについて、特許文献1による端子異常の検出を適切に実施することができる。
【0083】
(第2実施形態)
第2実施形態について、図14図15を参照して説明する。図14に示すように、第2実施形態のECU102は、AD変換器402において各入力信号経路411、412・・・41Nの信号入力端子Tin1、Tin2・・・TinNと第2接続点J2との間に入力遮断スイッチSWin1、SWin2・・・SWinNが設けられる。入力遮断スイッチSWinは、第2接続点J2よりも信号入力端子Tin側で入力信号経路41を遮断可能である。
【0084】
第2実施形態により充電回路チェック及び放電回路チェックを組み合わせた異常判定処理を行う場合のフローチャートを図15に示す。図15の処理は、図10の処理の最初に、入力遮断スイッチSWinをオフするS01が追加され、処理の最後にSWinをオンするS79が追加される。
【0085】
異常判定部33は、制御用のAD変換を行うタイミングとは異なるタイミングで(例えば制御開始前に)、入力遮断スイッチSWinを遮断し、入力回路15の電圧Vinの影響を受けずに充放電回路42のチェックを行うことができる。また、チェック終了後に入力遮断スイッチSWinを接続することで、ECU102は、制御開始後、入力回路15(例えば電動パワーステアリングシステム90の電流検出回路)から入力信号を取得し、通常制御の制御演算を行うことができる。
【0086】
(第3実施形態)
第3実施形態について、図16を参照して説明する。第3実施形態のECU103は、マイコン203のAD変換器403に診断回路48及び診断結果格納レジスタ49を備える。AD変換回路45にてAD変換されたAD変換値は、AD変換結果格納レジスタ46からバス29を介してCPU301の制御演算部31に取得されると共に、AD変換器403の内部で診断回路48に取得される。診断回路48は、AD変換値を充放電診断における上下限閾値と比較し、その結果を診断結果格納レジスタ49に格納する。すなわち、診断回路48は、AD変換値と閾値との大小関係を判断する機能のみを有する。
【0087】
診断結果格納レジスタ49に格納された診断結果は、バス29を介して異常判定部33に通知され、必要に応じて正常診断又は異常診断の回数がカウントされた上で充放電回路42の正常又は異常が判定される。この構成は、第1、第2実施形態に対し、「異常判定部」の機能の一部を診断回路48が代行するものと考えられる。或いは、AD変換器403の診断回路48とCPU301の異常判定部33とが協働して「異常判定部」の機能を発揮すると考えてもよい。この構成でも第1、第2実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0088】
(その他の実施形態)
(a)特許文献1と同様に、AD変換器40に入力される入力信号ANの数、すなわち信号入力端子Tinの数は、複数でなく一つでもよい。
【0089】
(b)本発明の信号制御装置が適用される電動パワーステアリングシステムは、インバータにより三相交流ブラシレスモータを駆動するものに限らず、Hブリッジ回路によりDCモータを駆動するものでもよい。また、本発明の信号制御装置は、電動パワーステアリングシステムの他、入力信号をAD変換して制御演算を行うどのような装置に適用されてもよい。
【0090】
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0091】
10(101、102、103)・・・ECU(信号制御装置)、
15・・・入力回路、
33・・・(充放電回路)異常判定部、
40(401、402、403)・・・AD変換器、
41・・・入力信号経路、
42・・・充放電回路、
45・・・AD変換回路、
47・・・スイッチ制御回路、
48・・・診断回路(異常判定部)、
J1・・・第1接続点、 J2・・・第2接続点、
Swc・・・充電スイッチ、 Swd・・・放電スイッチ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図14
図15
図16