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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】車両用変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 3/093 20060101AFI20221101BHJP
   F16H 3/44 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
F16H3/093
F16H3/44 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018129029
(22)【出願日】2018-07-06
(65)【公開番号】P2020008075
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 将英
(72)【発明者】
【氏名】北岡 圭史
【審査官】長清 吉範
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-340138(JP,A)
【文献】特開2014-101953(JP,A)
【文献】特開2010-216605(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0129947(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0042964(KR,A)
【文献】韓国登録特許第10-1459935(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/093
F16H 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力ギヤ群を有し、駆動源の回転による動力が入力される入力軸と、出力ギヤ群を有し、前記入力軸と平行に設置される出力軸とを備え、前記駆動源からの動力を前記出力軸から差動装置に出力する車両用変速機であって、
前記入力軸および前記出力軸と平行に設置されたアイドル軸および中間軸と、
前記入力軸の一端部側に設けられた遊星歯車機構と、
前記入力軸の他端部側に設けられ、前記入力ギヤ群を選択的に前記入力軸に連結する入力軸用の同期装置とを有し、
前記入力ギヤ群は、前記入力軸の他端部側に設置された第1の変速段ギヤ群を有し、
前記出力ギヤ群は、前記出力軸の一端部側に設置された第2の変速段ギヤ群と、前記出力軸の他端部側に設置され、前記第1の変速段ギヤ群に噛み合う第3の変速段ギヤ群とを有し、
前記入力軸に、第1のアイドルギヤが設けられており、
前記アイドル軸に、前記第1のアイドルギヤと噛み合う第2のアイドルギヤが設けられており、
前記アイドル軸に、第3のアイドルギヤが設けられており、
前記中間軸に、前記第3のアイドルギヤに噛み合う第4のアイドルギヤが設けられており、
前記中間軸の一端部側に、前記第2の変速段ギヤ群と噛み合う第4の変速段ギヤ群が設けられており、
前記中間軸の他端部側に、前記第3の変速段ギヤ群に噛み合う第5の変速段ギヤ群が設けられており、
前記中間軸の一端部側に、前記第4の変速段ギヤ群を選択的に前記中間軸に連結する中間軸用の第1の同期装置が設けられており、
前記中間軸の他端部側に、前記第5の変速段ギヤ群を選択的に前記中間軸に連結する中間軸用の第2の同期装置が設けられており、
前記第3の変速段ギヤ群と前記第2の変速段ギヤ群は、前記出力軸に一体で回転するように設けられており、
前記第2の変速段ギヤ群を介する動力伝達と前記第3の変速段ギヤ群を介する動力伝達とが可能な状態となることにより、前記入力軸に入力された回転が変速されて前記出力軸に伝達され
前記第4の変速段ギヤ群と前記第2の変速段ギヤ群とが動力伝達可能な状態となることにより、前記入力軸に入力された回転が前記アイドル軸および前記中間軸を介して変速されて前記出力軸に伝達され、
前記第2の変速段ギヤ群は、前記第3の変速段ギヤ群の径に対して小径に形成されており、
前記第4の変速段ギヤ群は、前記第5の変速段ギヤ群の径に対して大径に形成されており、
大径に形成された前記第4の変速段ギヤ群は、前記第1の同期装置と共に前記入力軸および前記中間軸の軸方向において前記遊星歯車機構と同じ位置に設置されており、
小径に形成された前記第2の変速段ギヤ群は、前記入力軸および前記中間軸の軸方向において前記遊星歯車機構と同じ位置に設置されていることを特徴とする車両用変速機。
【請求項2】
前記アイドル軸の一端部側に、前記第3のアイドルギヤが設けられており、
前記アイドル軸の他端部側に、前記第2のアイドルギヤが設けられており、
前記第3のアイドルギヤは、前記入力軸および前記アイドル軸の軸方向で前記遊星歯車機構と同じ位置に設置されており、
前記第3のアイドルギヤは、前記第2のアイドルギヤの径に対して小径に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用変速機。
【請求項3】
前記第1のアイドルギヤは、前記第1の変速段ギヤ群よりも前記入力軸の他端部側に設置されており、
前記第4のアイドルギヤは、前記第4の変速段ギヤ群よりも前記中間軸の一端部側に設置されており、
前記アイドル軸の軸方向において前記第2のアイドルギヤと前記第3のアイドルギヤの間に、前記第4の変速段ギヤ群と前記第5の変速段ギヤ群が設置されており、
前記アイドル軸の軸方向から見て、前記第2のアイドルギヤと前記第4の変速段ギヤ群とが重なる位置に設置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用変速機。
【請求項4】
前記出力軸の一端部側に前記差動装置のファイナルドリブンギヤに噛み合うファイナルドライブギヤが設けられており、
前記アイドル軸および前記中間軸の軸方向において、前記第3のアイドルギヤおよび前記第4のアイドルギヤは、前記第4の変速段ギヤ群よりも前記アイドル軸の一端部側および前記中間軸の一端部側に設置されており、
前記アイドル軸、前記中間軸および前記出力軸の軸方向において、前記第3のアイドルギヤと前記第4のアイドルギヤと前記ファイナルドライブギヤとが同じ位置に設置されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車両用変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
変速用の入力ギヤを有し、エンジンから回転による動力が伝達される入力軸と、変速用の出力ギヤを有する出力軸とが平行に設置された平行軸式変速機が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
この変速機によれば、入力軸が、第1入力軸と、変速用の入力ギヤが設けられた第2入力軸とから構成されており、第1入力軸の動力は、遊星歯車機構によって第2入力軸に伝達される。遊星歯車機構は、大型であり、出力軸には入力軸の軸方向で遊星歯車機構と同じ位置に出力ギヤが設置されていないので、入力軸と出力軸との軸間距離の短縮が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-144993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来の変速機にあっては、変速機の多段化を図るために、遊星歯車機構と同じ位置において第2入力軸に他の入力ギヤを追加し、他の入力ギヤを入力軸と別軸に設けられた他の出力ギヤに噛み合わせた場合に、遊星歯車機構と他の出力ギヤとの干渉を避けるために、入力軸と出力軸との軸間距離を短縮できない。この結果、変速機が大型化するおそれがある。
【0006】
軸間距離を短縮して変速機の小型化を図るには出力軸に設けられた出力ギヤと他の出力ギヤとを、出力軸の軸方向で遊星歯車機構から離して設置する必要がある。このため、出力軸の軸長が長くなり、出力軸の軸長が長くなるのに伴って入力軸の軸長も長くなる。この結果、変速機が大型化するおそれがある。
【0007】
本発明は、上記のような事情に着目してなされたものであり、入力軸と出力軸の軸長を短縮しつつ、入力軸と出力軸の軸間距離を短縮でき、小型化を容易に図りつつ、多段化を容易に実現できる車両用変速機を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、入力ギヤ群を有し、駆動源の回転による動力が入力される入力軸と、出力ギヤ群を有し、前記入力軸と平行に設置される出力軸とを備え、前記駆動源からの動力を前記出力軸から差動装置に出力する車両用変速機であって、前記入力軸および前記出力軸と平行に設置されたアイドル軸および中間軸と、前記入力軸の一端部側に設けられた遊星歯車機構と、前記入力軸の他端部側に設けられ、前記入力ギヤ群を選択的に前記入力軸に連結する入力軸用の同期装置とを有し、前記入力ギヤ群は、前記入力軸の他端部側に設置された第1の変速段ギヤ群を有し、前記出力ギヤ群は、前記出力軸の一端部側に設置された第2の変速段ギヤ群と、前記出力軸の他端部側に設置され、前記第1の変速段ギヤ群に噛み合う第3の変速段ギヤ群とを有し、前記入力軸に、第1のアイドルギヤが設けられており、前記アイドル軸に、前記第1のアイドルギヤと噛み合う第2のアイドルギヤが設けられており、前記アイドル軸に、第3のアイドルギヤが設けられており、前記中間軸に、前記第3のアイドルギヤに噛み合う第4のアイドルギヤが設けられており、前記中間軸の一端部側に、前記第2の変速段ギヤ群と噛み合う第4の変速段ギヤ群が設けられており、前記中間軸の他端部側に、前記第3の変速段ギヤ群に噛み合う第5の変速段ギヤ群が設けられており、前記中間軸の一端部側に、前記第4の変速段ギヤ群を選択的に前記中間軸に連結する中間軸用の第1の同期装置が設けられており、前記中間軸の他端部側に、前記第5の変速段ギヤ群を選択的に前記中間軸に連結する中間軸用の第2の同期装置が設けられており、前記第3の変速段ギヤ群と前記第2の変速段ギヤ群は、前記出力軸に一体で回転するように設けられており、前記第2の変速段ギヤ群を介する動力伝達と前記第3の変速段ギヤ群を介する動力伝達とが可能な状態となることにより、前記入力軸に入力された回転が変速されて前記出力軸に伝達され、前記第4の変速段ギヤ群と前記第2の変速段ギヤ群とが動力伝達可能な状態となることにより、前記入力軸に入力された回転が前記アイドル軸および前記中間軸を介して変速されて前記出力軸に伝達され、前記第2の変速段ギヤ群は、前記第3の変速段ギヤ群の径に対して小径に形成されており、前記第4の変速段ギヤ群は、前記第5の変速段ギヤ群の径に対して大径に形成されており、大径に形成された前記第4の変速段ギヤ群は、前記第1の同期装置と共に前記入力軸および前記中間軸の軸方向において前記遊星歯車機構と同じ位置に設置されており、小径に形成された前記第2の変速段ギヤ群は、前記入力軸および前記中間軸の軸方向において前記遊星歯車機構と同じ位置に設置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
このように上記の本発明によれば、入力軸と出力軸の軸長を短縮しつつ、入力軸と出力軸の軸間距離を短縮でき、変速機の小型化を容易に図りつつ、変速機の多段化を容易に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施例に係る車両用変速機の軸の配置を示す側面図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係る車両用変速機のスケルトン図である。
図3図3は、図1のIII-III方向矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施の形態に係る車両用変速機は、入力ギヤ群を有し、駆動源の回転による動力が入力される入力軸と、出力ギヤ群を有し、入力軸と平行に設置される出力軸とを備え、駆動源からの動力を出力軸から差動装置に出力する車両用変速機であって、入力軸の一端部側に設けられた遊星歯車機構と、入力軸の他端部側に設けられ、入力ギヤ群を選択的に入力軸に連結する同期装置とを有し、入力ギヤ群は、入力軸の他端部側に設置された第1の変速段ギヤ群を有し、出力ギヤ群は、出力軸の一端部側に設置された第2の変速段ギヤ群と、出力軸の他端部側に設置され、第1の変速段ギヤ群に噛み合う第3の変速段ギヤ群とを有し、第2の変速段ギヤ群は、第3の変速段ギヤ群の径に対して小径に形成されており、第2の変速段ギヤ群を介する動力伝達と第3の変速段ギヤ群を介する動力伝達とが可能な状態となることにより、入力軸に入力された回転が変速されて出力軸に伝達される。
【0012】
これにより、入力軸と出力軸の軸長を短縮しつつ、入力軸と出力軸の軸間距離を短縮でき、変速機の小型化を容易に図りつつ、変速機の多段化を容易に実現できる。
【実施例
【0013】
以下、本発明の一実施例に係る車両用変速機について、図面を用いて説明する。
図1から図3は、本発明の一実施例に係る車両用変速機を示す図である。図1において、上下前後左右方向は、車両に設置された状態の車両用変速機を基準とし、前後方向に対して直交する方向が左右方向、車両用変速機の高さ方向が上下方向である。また、軸における一端部は、車両用変速機の駆動力源(例えばエンジン)側の端部であり、逆に、他端部は、反駆動力源側の端部である。
【0014】
まず、構成を説明する。
図1において、自動車等の車両に搭載される平行軸式の車両用変速機(以下、単に変速機という)1は、前進7速、後進1速の変速段を有し、例えば、AMT(Automated Manual Transmission)から構成される。
【0015】
図2図3において、自動変速機1は、エンジン2のクランク軸3からトルクコンバータ4を介して動力が伝達される入力軸5と、それぞれ入力軸5と平行に設置される前進用アイドル軸6、後進用アイドル軸7、中間軸8、出力軸9および後進軸10を備えている。
【0016】
図1に示すように、後進用アイドル軸7は、入力軸5、前進用アイドル軸6、中間軸8、出力軸9および後進軸10よりも高い位置に設置されており、本実施例に係る車両用変速機の軸(入力軸5、前進用アイドル軸6、後進用アイドル軸7、中間軸8、出力軸9および後進軸10)の中で最も高い位置に設置されている。入力軸5は、後進用アイドル軸7および後進軸10を除いて最も高い位置に設置されている。前進用アイドル軸6は、入力軸5、中間軸8よりも前方の位置に設置されており、本実施例に係る車両用変速機の軸の中で最も前方の位置に設置されている。中間軸8は、前進用アイドル軸6、出力軸9よりも下方の位置に設置されており、本実施例に係る車両用変速機の軸の中で最も下方の位置に設置されている。
【0017】
出力軸9は、入力軸5に軸支されたギヤと噛み合うギヤと中間軸8に軸支されたギヤと噛み合うギヤを有し、入力軸5の後斜め下方で、かつ、中間軸8の後斜め上方に設置されている。中間軸8は、前進用アイドル軸6に軸支されたギヤと噛み合うギヤと出力軸9に軸支されたギヤと噛み合うギヤを有し、入力軸5の前斜め下方に設置されている。前進用アイドル軸6は、入力軸5に軸支されたギヤと噛み合うギヤと中間軸8に軸支されたギヤと噛み合うギヤを有し、入力軸5の前斜め下方で、かつ、中間軸8の前斜め上方に設置されている。
【0018】
後進用アイドル軸7は、入力軸5の後斜め上方で、かつ、後進軸10の前斜め上方に設置されている。入力軸5と中間軸8との軸間距離は、入力軸5と出力軸9の軸間距離よりも大きく、かつ、入力軸5と前進用アイドル軸6の軸間距離よりも大きい。
【0019】
このように本実施例の自動変速機1は、入力軸5、前進用アイドル軸6、後進用アイドル軸7、中間軸8、出力軸9および後進軸10が近接して設置されており、変速機ケース13(図3参照)に収容されている。これに加えて、入力軸5の上側に後進段を構成する軸が集中して設置され、入力軸5の下側に前進段を構成する軸が集中して設置されている。
【0020】
本実施例のエンジン2は、クランク軸3が車幅方向に延びるように設置される横置きエンジンから構成されており、本発明の駆動源を構成する。
【0021】
図3おいて、トルクコンバータ4は、ドライブプレート4Aを介してクランク軸3に連結されるフロントカバー4Bと、フロントカバー4Bに連結されたシェル4Cとを備えており、エンジン2と自動変速機1との間でオイルを介して動力を伝達する流体継手を構成している。
【0022】
クランク軸3と連結されたシェル4Cの内面には、図示しないポンプインペラが固定されている。シェル4Cの内部には、図示しないタービンランナがポンプインペラに対向して設置されており、タービンランナは、入力軸5に接続されている。ポンプインペラとタービンランナの間には図示しないステータが設置されている。
【0023】
トルクコンバータ4において、クランク軸3が回転すると、ドライブプレート4Aを介してフロントカバー4B、シェル4Cおよびポンプインペラが一体で回転する。このとき、ポンプインペラの回転による遠心力によって、トルクコンバータ4の内部の流体に、ポンプインペラからタービンランナに向かう流れが生じる。
【0024】
この流体の流れによりタービンランナが回転され、タービンランナに接続された入力軸5が回転する。ステータは、タービンランナからの流体の流れをポンプインペラの回転方向に沿うように変換することにより、エンジン2の動力を増幅させる。
【0025】
入力軸5は、軸中心に油路が形成された主入力軸11と、主入力軸11の外周部に主入力軸11と同軸に配置された中空の副入力軸12とを有する。主入力軸11は副入力軸12に挿入され、主入力軸11と副入力軸12とはニードルベアリングを介して相対回転自在に配置されている。
【0026】
主入力軸11の一端部11aにはトルクコンバータ4が連結されており、エンジン2の回転による動力、具体的には、クランク軸3の回転による動力は、トルクコンバータ4を介して主入力軸11に伝達される。
【0027】
自動変速機1は、遊星歯車機構21を有し、遊星歯車機構21は、主入力軸11の一端部11a側に設けられている。すなわち、遊星歯車機構21は、入力軸5の一端部側に設けられている。
【0028】
遊星歯車機構21は、主入力軸11と副入力軸12の外周部に主入力軸11と同軸に配置されており、副入力軸12に対してエンジン2側に設置されている。ここで、主入力軸11の一端部11aは、入力軸5の一端部を構成し、主入力軸11の他端部11bと副入力軸12の他端部12bは、入力軸5の他端部を構成する。
【0029】
遊星歯車機構21は、主入力軸11と副入力軸12の一端部12aとを連結し、主入力軸11の回転を減速しながら副入力軸12に伝達可能に構成されている。具体的には、遊星歯車機構21は、キャリア22、サンギヤ23およびリングギヤ24を備えている。
【0030】
キャリア22は、プラネタリピニオン22Aを自転自在に支持し、主入力軸11に対して回転自在に軸支されている。サンギヤ23は、プラネタリピニオン22Aに噛み合っており、後述するブレーキ装置31によって変速機ケース13に対して回転不能とされる状態と回転が許容される状態とに切換えられる。
【0031】
リングギヤ24は、主入力軸11にスプライン嵌合されており、主入力軸11と一体で回転する。リングギヤ24は、プラネタリピニオン22Aに噛み合っており、リングギヤ24の動力は、キャリア22に伝達される。
【0032】
キャリア22と副入力軸12の一端部12aとの間にはワンウェイクラッチ25が設置されており、ワンウェイクラッチ25は、キャリア22から副入力軸12に副入力軸12の回転速度を上昇させる方向の動力を伝達し、副入力軸12からキャリア22にキャリア22の回転速度を上昇させる方向の動力を伝達しないように構成されている。これにより、ワンウェイクラッチ25は、主入力軸11から副入力軸12に動力を伝達可能とし、副入力軸12から主入力軸11に動力を伝達不能とする。
【0033】
遊星歯車機構21は、ブレーキ装置31を有する。すなわち、遊星歯車機構21は、ブレーキ装置31を含んで構成されている。ブレーキ装置31は、主入力軸11の径方向外方に主入力軸11と同軸上に設置されており、主入力軸11が貫通する筒状のブレーキケース32を備えている。図3に示すように、ブレーキケース32は、変速機ケース13の右隔壁13Aに固定されており、右隔壁13Aから遊星歯車機構21に向かって突出している。
【0034】
ブレーキケース32には一対の摩擦プレート34、35および筒状のクラッチハブ36が収容されている。クラッチハブ36は、筒状に形成されてサンギヤ23と一体に設けられており、サンギヤ23からブレーキケース32の内部に延びている。本実施例のクラッチハブ36は、サンギヤ23の一部を構成しており、サンギヤ23の一部は、ブレーキケース32に収容されている。
【0035】
摩擦プレート34は、クラッチハブ36の外周部にスプライン嵌合されており、クラッチハブ36と一体で回転し、かつ、主入力軸11の軸方向に移動自在となっている。
【0036】
摩擦プレート35は、ブレーキケース32の内周部にスプライン嵌合されており、ブレーキケース32に対して主入力軸11の回転方向に回転不能で、かつ、主入力軸11の軸方向に移動自在となっている。摩擦プレート34、35は、主入力軸11の軸方向に交互に設置されている。
【0037】
ブレーキ装置31において、摩擦プレート35のうちのトルクコンバータ4側に位置する摩擦プレート35がピストン37によって押圧されると、摩擦プレート34と摩擦プレート35とが摩擦接触し、サンギヤ23をブレーキケース32に固定する。これにより、サンギヤ23が回転不能となる。ピストン37は、図示しない制御バルブからのオイルによって作動され、オイルが作用することにより、摩擦プレート35を遊星歯車機構21側に押圧する。
【0038】
サンギヤ23が回転不能となると、主入力軸11からリングギヤ24を介してキャリア22に動力が伝達される。そして、キャリア22が回転し、キャリア22からワンウェイクラッチ25を介して副入力軸12に動力が伝達される。
【0039】
遊星歯車機構21は、プラネタリピニオン22A、サンギヤ23およびリングギヤ24のギヤ比を任意に設定することにより、主入力軸11の回転を減速して副入力軸12に伝達できる。すなわち、遊星歯車機構21は、減速機として機能する。
【0040】
ブレーキ装置31において、ピストン37に油圧が作用しなくなると、図示しないリターンスプリングの付勢力によって摩擦プレート35が移動し、摩擦プレート35が摩擦プレート34から引き離される。
【0041】
このため、サンギヤ23の回転が許容される。サンギヤ23の回転が許容されると、プラネタリピニオン22Aは空転してキャリア22は回転しなくなり、遊星歯車機構21を介する動力伝達経路では主入力軸11から副入力軸12に動力が伝達されない。
【0042】
主入力軸11の他端部11bと副入力軸12の他端部12bにはクラッチ装置41が設けられている。クラッチ装置41は、変速機ケース13の左隔壁13Bの外面側に設置されており、クラッチドラム42とクラッチハブ43とを有する。クラッチ装置41は、図示しない制御バルブからのオイルによって作動され、オイルが作用することにより、摩擦プレート44と摩擦プレート45とが摩擦接触するように押圧する。なお、クラッチ装置41は、変速機ケース13に取付けられるカバー部材(図示せず)で覆われている。
【0043】
クラッチドラム42は、主入力軸11とスプライン嵌合して一体で回転し、クラッチハブ43は、副入力軸12とスプライン嵌合して一体で回転する。クラッチドラム42には環状の摩擦プレート44が設けられており、摩擦プレート44は、クラッチドラム42と一体で回転し、かつ、主入力軸11の軸方向に移動自在となっている。
【0044】
クラッチハブ43には複数の摩擦プレート45が設けられており、摩擦プレート44と摩擦プレート45とは、主入力軸11の軸方向において交互に設置されている。
【0045】
クラッチ装置41は、摩擦プレート44と摩擦プレート45とが摩擦接触すると、クラッチドラム42とクラッチハブ43とが一体で回転し、エンジン2の動力を主入力軸11から副入力軸12に伝達する。
【0046】
クラッチ装置41は、摩擦プレート44と摩擦プレート45とが離隔すると、主入力軸11から副入力軸12にエンジン2の動力を伝達しなくなる。
【0047】
図2図3に示すように、入力軸5の他端部側である副入力軸12には4速段用の入力ギヤ51、5速段用の入力ギヤ52、入力アイドルギヤ53および同期装置54が設けられている。
【0048】
4速段用の入力ギヤ51、5速段用の入力ギヤ52、入力アイドルギヤ53および同期装置54は、副入力軸12の軸方向においてトルクコンバータ4とクラッチ装置41との間に設置されている。詳細には、4速段用の入力ギヤ51、5速段用の入力ギヤ52、入力アイドルギヤ53および同期装置54は、副入力軸12の軸方向において遊星歯車機構21と左隔壁13Bとの間に設置されている。
【0049】
本実施例の4速段用の入力ギヤ51および5速段用の入力ギヤ52は、本発明の入力ギヤ群および第1の変速段ギヤ群を構成し、入力アイドルギヤ53は、本発明の第1のアイドルギヤを構成する。
【0050】
4速段用の入力ギヤ51および5速段用の入力ギヤ52は、副入力軸12に相対回転自在に支持されている。入力アイドルギヤ53は、4速段用の入力ギヤ51および5速段用の入力ギヤ52よりも副入力軸12の他端部12b側に設置されており、副入力軸12にスプライン嵌合されて副入力軸12と一体で回転する。
【0051】
図3に示すように、同期装置54は、ハブ56およびスリーブ57を有する。ハブ56は、副入力軸12にスプライン嵌合されており、副入力軸12と一体で回転する。スリーブ57は、ハブ56にスプライン嵌合されており、副入力軸12の軸方向に移動自在となっている。
【0052】
スリーブ57は、シフト操作によって4速段または5速段に操作されると、中立位置から図示しないシフトフォークによって4速段用の入力ギヤ51または5速段用の入力ギヤ52側に移動される。
【0053】
例えば、自動によるシフト操作が行われる場合には、スリーブ57は、図示しないアクチュエータによって駆動される。アクチュエータは、運転者によって操作されるシフトレバーがドライブレンジにシフトされた状態において、予めスロットル開度と車速とをパラメータとして設定された変速マップに基づいて同期装置54および後述する同期装置68、69を操作して変速段の制御を行う。また、アクチュエータは、シフトレバーがリバースレンジにシフトされた状態において後述する同期装置88を操作する。
【0054】
スリーブ57が中立位置から4速段用の入力ギヤ51側に移動すると、4速段用の入力ギヤ51がスリーブ57に嵌合することにより、スリーブ57を介して副入力軸12と4速段用の入力ギヤ51とが連結され、4速段用の入力ギヤ51が副入力軸12と一体で回転する。
【0055】
スリーブ57が中立位置から5速段用の入力ギヤ52側に移動すると、5速段用の入力ギヤ52がスリーブ57に嵌合することにより、スリーブ57を介して副入力軸12と5速段用の入力ギヤ52とが連結され、5速段用の入力ギヤ52が副入力軸12と一体で回転する。
【0056】
主入力軸11の軸方向においてスリーブ57と4速段用の入力ギヤ51との間およびスリーブ57と5速段用の入力ギヤ52との間にはそれぞれシンクロナイザリング58A、58Bが介装されている。
【0057】
シンクロナイザリング58Aは、スリーブ57が中立位置から4速段の入力ギヤ51側に移動したときに、スプラインがスリーブ57のスプラインに嵌合し、さらに、4速側の入力ギヤ51のテーパ面に摩擦接触することにより、4速段用の入力ギヤ51の回転をスリーブ57の回転に同期させる。
【0058】
シンクロナイザリング58Bは、スリーブ57が中立位置から5速段の入力ギヤ52側に移動したときに、スプラインがスリーブ57のスプラインに嵌合し、さらに、5速側の入力ギヤ52のテーパ面に摩擦接触することにより、5速段用の入力ギヤ52の回転をスリーブ57の回転に同期させる。このように同期装置54は、4速段用の入力ギヤ51と5速段用の入力ギヤ52とを選択的に副入力軸12に連結する。
【0059】
図2図3に示すように、前進用アイドル軸6にはアイドルギヤ61とアイドルギヤ61の径よりも小径に形成されたアイドルギヤ62とが設けられている。アイドルギヤ61は、前進用アイドル軸6の軸方向の他端部6b(クラッチ装置41側)に設けられており、入力アイドルギヤ53に噛み合っている。
【0060】
アイドルギヤ62は、主入力軸11および前進用アイドル軸6の軸方向において遊星歯車機構21と同じ位置に設置されている。具体的には、アイドルギヤ62は、入力軸5および前進用アイドル軸6の軸方向において遊星歯車機構21のブレーキ装置31と同じ位置に設置されている。
【0061】
アイドルギヤ61は、前進用アイドル軸6にスプライン嵌合されており、前進用アイドル軸6と一体で回転する。これにより、アイドルギヤ61は、入力アイドルギヤ53からの動力を前進用アイドル軸6に伝達可能となっている。
【0062】
アイドルギヤ62は、前進用アイドル軸6の一端部6a(トルクコンバータ4側)に設けられており、前進用アイドル軸6と一体で形成されて前進用アイドル軸6と一体で回転する。本実施例のアイドルギヤ61は、本発明の第2のアイドルギヤを構成し、アイドルギヤ62は、本発明の第3のアイドルギヤを構成する。
【0063】
中間軸8にはクラッチ装置41側からトルクコンバータ4側に向かって1-2速段用の変速ギヤ63、3速段用の変速ギヤ64、6速段用の変速ギヤ65、7速段用の変速ギヤ66およびアイドルギヤ67が設けられている。変速ギヤ63から変速ギヤ66は、前進用アイドル軸6の軸方向においてアイドルギヤ61とアイドルギヤ62との間に設置されている。
【0064】
前進用アイドル軸6および中間軸8の軸方向から見て、アイドルギヤ67とアイドルギヤ61とは重なっており、さらに、変速ギヤ63から変速ギヤ66もアイドルギヤ61と重なっている。
【0065】
6速段用の変速ギヤ65および7速段用の変速ギヤ66は、入力軸5および中間軸8の軸方向において遊星歯車機構21と同じ位置に位置している。
【0066】
前進用アイドル軸6の軸方向から見て、6速段用の変速ギヤ65および7速段用の変速ギヤ66は、アイドルギヤ62と重なる位置に設置されている。つまり、6速段用の変速ギヤ65および7速段用の変速ギヤ66は、アイドルギヤ67の径に対して大径に形成されている。
【0067】
前進用アイドル軸6および中間軸8の軸方向において、アイドルギヤ62およびアイドルギヤ67は、6速段用の変速ギヤ65および7速段用の変速ギヤ66よりも前進用アイドル軸6の一端部6a側および中間軸8の一端部8a側に設置されている。
【0068】
変速ギヤ63から変速ギヤ66は、クラッチ装置41側からトルクコンバータ4側に向かうに従って径が順に大きくなる。すなわち、本実施例の6速段用の変速ギヤ65および7速段用の変速ギヤ66は、1-2速段用の変速ギヤ63および3速段用の変速ギヤ64の径に対して大径に形成されている。
【0069】
本実施例の6速段用の変速ギヤ65および7速段用の変速ギヤ66は、本発明の第4の変速段ギヤ群を構成し、1-2速段用の変速ギヤ63および3速段用の変速ギヤ64は、本発明の第5の変速段ギヤ群を構成する。
【0070】
変速ギヤ63から変速ギヤ66は、中間軸8に相対回転自在に設けられている。アイドルギヤ67は、中間軸8と一体で回転するように中間軸8にスプライン嵌合されている。
【0071】
アイドルギヤ67は、前進用アイドル軸6のアイドルギヤ62に噛み合っており、アイドルギヤ67にはアイドルギヤ62から動力が伝達される。本実施例のアイドルギヤ67は、本発明の第4のアイドルギヤを構成する。
【0072】
1-2速段用の変速ギヤ63と3速段用の変速ギヤ64との間には同期装置68が設けられており、6速段用の変速ギヤ65と7速段用の変速ギヤ66との間には同期装置69が設けられている。
【0073】
同期装置68は、シフト操作によって1速段または2速段にシフトされると、1-2速段用の変速ギヤ63を中間軸8に連結する。これにより、1-2速段用の変速ギヤ63は、中間軸8と一体で回転する。
【0074】
同期装置68は、シフト操作によって3速段にシフトされると、3速段用の変速ギヤ64を中間軸8に連結する。これにより、3速段用の変速ギヤ64は、中間軸8と一体で回転する。
【0075】
同期装置69は、シフト操作によって6速段にシフトされると、6速段用の変速ギヤ65を中間軸8に連結する。これにより、6速段用の変速ギヤ65は、中間軸8と一体で回転する。
【0076】
同期装置69は、シフト操作によって7速段にシフトされると、7速段用の変速ギヤ66を中間軸8に連結する。これにより、7速段用の変速ギヤ66は、中間軸8と一体で回転する。同期装置68、69は、同期装置54と同様に動作するので、具体的な構成の説明は省略する。
【0077】
このように同期装置68は、1-2速段用の変速ギヤ63と3速段用の変速ギヤ64とを選択的に中間軸8に連結し、同期装置69は、6速段用の変速ギヤ65と7速段用の変速ギヤ66とを選択的に中間軸8に連結する。
【0078】
出力軸9にはクラッチ装置41側からトルクコンバータ4側に向かって1-2-4速段用の出力ギヤ70、3-5速段用の出力ギヤ71、6速段用の出力ギヤ72、7速段用の出力ギヤ73および前進用のファイナルドライブギヤ74が設けられている。
【0079】
前進用アイドル軸6、中間軸8および出力軸9の軸方向において、アイドルギヤ62とアイドルギヤ67とファイナルドライブギヤ74とが同じ位置に設置されている。
【0080】
出力ギヤ70から出力ギヤ73は、クラッチ装置41側(他端部9b側)からトルクコンバータ4側(一端部9a側)に向かうに従って径が順に小さくなる。すなわち、6速段用の出力ギヤ72および7速段用の出力ギヤ73は、1-2-4速段用の出力ギヤ70および3-5速段用の出力ギヤ71の径に対して小径に形成されている。
【0081】
本実施例の6速段用の出力ギヤ72および7速段用の出力ギヤ73は、本発明の出力ギヤ群および第2の変速段ギヤ群を構成し、1-2-4速段用の出力ギヤ70および3-5速段用の出力ギヤ71は、本発明の出力ギヤ群および第3の変速段ギヤ群を構成する。
【0082】
出力ギヤ70から出力ギヤ73は、出力軸9にスプライン嵌合されており、出力軸9と一体で回転する。前進用のファイナルドライブギヤ74は、出力軸9の一端部9aに設けられており、出力軸9と一体に形成されて出力軸9と一体で回転する。
【0083】
1-2-4速段用の出力ギヤ70は、4速段用の入力ギヤ51と1-2速段用の変速ギヤ63とに噛み合っている。1-2-4速段用の出力ギヤ70は、1-2速段用の変速ギヤ63よりも大径に形成されており、4速段用の入力ギヤ51は、1-2-4速段用の出力ギヤ70よりも小径で、かつ、1-2速段用の変速ギヤ63よりも大径に形成されている。
【0084】
3-5速段用の出力ギヤ71は、3速段用の変速ギヤ64と5速段用の入力ギヤ52とに噛み合っている。3-5速段用の出力ギヤ71は、3速段用の変速ギヤ64よりも大径に形成されており、5速段用の入力ギヤ52は、3-5変速段用の出力ギヤ71よりも大径に形成されている。
【0085】
6速段用の出力ギヤ72は、6速段用の変速ギヤ65に噛み合っており、6速段用の変速ギヤ65よりも小径に形成されている。7速段用の出力ギヤ73は、7速段用の変速ギヤ66に噛み合っており、7速段用の変速ギヤ66よりも小径に形成されている。
【0086】
このように、自動変速機1は、各ギヤ51、52、63、64、65、66、70、71、72、73の径を設定することにより、各変速段に応じたギヤ比が設定され、ギヤ比に応じてエンジン2のクランク軸3の回転(回転速度)を変速することができる。なお、変速比に関しては、上記ギヤ比の他に、遊星歯車機構21やアイドルギヤのギヤ比が関係する。
【0087】
ここで、4速段用の入力ギヤ51と1-2-4速段用の出力ギヤ70とは、常時噛み合っている。同期装置54によって4速段用の入力ギヤ51が副入力軸12に連結されると、4速段用の入力ギヤ51から1-2-4速段用の出力ギヤ70に副入力軸12の動力、すなわち、入力軸5の動力が出力軸9に伝達可能となる。
【0088】
したがって、動力伝達可能状態とは、副入力軸12に入力ギヤ51または入力ギヤ52が連結されて入力ギヤ51または入力ギヤ52から相手側のギヤに動力が伝達される状態と、中間軸8に変速ギヤ63、64、65、66のいずれか1つが連結されて変速ギヤ63、64、65、66から相手側のギヤに動力が伝達される状態をいう。
【0089】
前進用のファイナルドライブギヤ74は、差動装置81のファイナルドリブンギヤ81Aに噛み合っている。これにより、出力軸9の動力は、前進用のファイナルドライブギヤ74およびファイナルドリブンギヤ81Aを経て差動装置81に伝達される。
【0090】
図2に示すように、差動装置81にはドライブシャフト82L、82Rを介して左右の駆動輪83L、83Rが連結されており、差動装置81は、エンジン2の動力を差動機構81Bによって左右のドライブシャフト82L、82Rに分配して左右の駆動輪83L、83Rに伝達する。
【0091】
後進用アイドル軸7にはアイドルギヤ84とアイドルギヤ84よりも小径のアイドルギヤ85とが設けられている。アイドルギヤ84は、後進用アイドル軸7の他端部7b(クラッチ装置41側)に設けられており、後進用アイドル軸7にスプライン嵌合されて後進用アイドル軸7と一体で回転する。アイドルギヤ84は、入力アイドルギヤ53に噛み合っている。
【0092】
アイドルギヤ85は、後進用アイドル軸7の一端部7a側(トルクコンバータ4側)に設けられており、後進用アイドル軸7と一体に形成されて後進用アイドル軸7と一体で回転する。
【0093】
後進軸10には後進ギヤ86と、後進ギヤ86よりも小径に形成された後進用のファイナルドライブギヤ87とが設けられている。後進ギヤ86は、後進軸10の軸方向の中央部に設けられており、後進軸10に相対回転自在に設けられている。
【0094】
後進用のファイナルドライブギヤ87は、後進軸10の一端部10aに設けられており、後進軸10と一体に形成されて後進軸10と一体で回転する。後進ギヤ86は、アイドルギヤ85に噛み合っており、後進用のファイナルドライブギヤ87は、ファイナルドリブンギヤ81Aに噛み合っている。
【0095】
後進軸10には同期装置88が設けられている。同期装置88は、シフト操作によって後進段にシフトされると、後進ギヤ86を後進軸10に連結する。これにより、後進ギヤ86は、後進軸10と一体で回転する。
【0096】
このとき、後進用のファイナルドライブギヤ87からファイナルドリブンギヤ81Aに動力が伝達され、ファイナルドリブンギヤ81Aが前進時と反対方向に回転し、車両が後進される。なお、同期装置88は、同期装置54と同様に動作するので、具体的な構成の説明は省略する。
【0097】
図3において、右隔壁13Aには環状のオイルポンプ15(ハッチングで示す)が設けられており、オイルポンプ15は、ブレーキケース32と右隔壁13Aとの間に形成された空間に設置されている。オイルポンプ15は、トルクコンバータ4のポンプ軸4aに係合して回転駆動される図示しないインナロータと、インナロータを取り囲むように径方向の外方に配置された図示しないアウタロータとを備えている。
【0098】
オイルポンプ15は、例えば、トロコイド式のオイルポンプから構成されており、アウタロータに形成された内歯とインナロータに形成された外歯とが接触することにより、外歯と内歯との間にオイルを収容する図示しない作動室が形成されている。
【0099】
オイルポンプ15において、エンジン2の動力がトルクコンバータ4のポンプ軸4aからインナロータに伝達されることにより、インナロータとアウタロータとが一方向に回転すると、作動室の容積増加および容積減少が連続して発生することにより、オイルを吸入および吐出する。
【0100】
次に、1速段、2速段における動力伝達経路を説明する。
(変速段が1速段の場合の動力伝達経路)
1速段においては、クラッチ装置41が解放された状態、すなわち、摩擦プレート44、45が離隔した状態となるとともに、ブレーキ装置31によってサンギヤ23がブレーキケース32に固定されて回転不能となる。
【0101】
さらに、同期装置68が中立位置から1-2速段用の変速ギヤ63側に移動し、1-2速段用の変速ギヤ63を中間軸8に連結する。
【0102】
これにより、エンジン2の動力は、クランク軸3からトルクコンバータ4、主入力軸11、リングギヤ24、キャリア22、ワンウェイクラッチ25を経て副入力軸12に伝達される。
【0103】
このように遊星歯車機構21を介して主入力軸11から副入力軸12に動力が伝達される場合には、遊星歯車機構21によって主入力軸11の回転が減速されて副入力軸12に伝達される。
【0104】
次いで、副入力軸12に伝達されたエンジン2の動力は、副入力軸12から入力アイドルギヤ53、アイドルギヤ61、前進用アイドル軸6、アイドルギヤ62、アイドルギヤ67を経て中間軸8に伝達される。
【0105】
次いで、中間軸8に伝達されたエンジン2の動力は、同期装置68によって中間軸8に連結された1-2速段用の変速ギヤ63から1-2-4速段用の出力ギヤ70、出力軸9、前進用のファイナルドライブギヤ74を経てファイナルドリブンギヤ81Aに伝達された後、差動機構81Bからドライブシャフト82L、82Rを介して駆動輪83L、83Rに伝達される。
【0106】
(変速段が2速段の場合の動力伝達経路)
2速段においては、クラッチ装置41が締結された状態、すなわち、摩擦プレート44、45が摩擦接触した状態となるとともに、ブレーキ装置31が解放された状態となってサンギヤ23がブレーキケース32に固定されずに回転可能となる。また、同期装置68は、1速段の場合と同じように1-2速段用の変速ギヤ63を中間軸8に連結した状態とする。
【0107】
これにより、エンジン2の動力は、クランク軸3からトルクコンバータ4、主入力軸11、クラッチ装置41を経て副入力軸12に伝達され、以後の動力伝達経路は、1速段の動力伝達経路と同じとなる。
【0108】
また、主入力軸11からクラッチ装置41を経て副入力軸12に動力が伝達される際(つまり、主入力軸11と副入力軸12が一体になって回転する際)には、ワンウェイクラッチ25の作用によって遊星歯車機構21を介して副入力軸12から主入力軸11に動力が伝達されることがない。
【0109】
また、主入力軸11からクラッチ装置41を経て副入力軸12に動力が伝達される際には、副入力軸12の回転が遊星歯車機構21によって減速されることがないので、副入力軸12の回転は主入力軸11の回転速度と同じになり、ワンウェイクラッチ25にて副入力軸12から遊星歯車機構21に動力が伝達されることを確実に防止できる。
【0110】
すなわち、クラッチ装置41が締結されてクラッチ装置41を介して主入力軸11から副入力軸12に動力が伝達される場合には、遊星歯車機構21を介して主入力軸11から副入力軸12に動力が伝達される場合に比べて、副入力軸12の回転速度は大きくなり、ワンウェイクラッチ25は動力を伝達できない方向の差回転状態となる。
【0111】
以上のようなワンウェイクラッチ25の作用によって、1速段から2速段に変速される場合には、ブレーキ装置31の状態に係らずクラッチ装置41を締結することで遊星歯車機構21からクラッチ装置41に動力の伝達経路を切換えることができる。
【0112】
以上に説明したように、1速段から2速段に変速する際に、同期装置68は解除する必要が無く、1-2速段用の変速ギヤ63を中間軸8に連結した状態を維持することができる。これにより、同期装置68を操作することにより発生するトルク抜け(駆動力の途切れ)を防止でき、円滑な変速を行うことができる。
【0113】
このように本実施例の自動変速機1は、エンジン2の回転による動力が入力される主入力軸11と副入力軸12とからなる入力軸5と、副入力軸12に設けられた入力ギヤ51、52とを備えている。
【0114】
自動変速機1は、入力軸5と平行に設置された出力軸9と、出力軸9の他端部9b側に設けられ、入力ギヤ51に噛み合う出力ギヤ70と、出力ギヤ70に対して出力軸9の一端部9a側に設けられ、入力ギヤ52に噛み合う出力ギヤ71とを備えており、エンジン2からの動力を出力軸9から差動装置81に出力する。
【0115】
自動変速機1は、主入力軸11の一端部11a側に設けられた遊星歯車機構21と、入力軸5の他端部側に位置する副入力軸12に設けられ、入力ギヤ51と入力ギヤ52とを選択的に副入力軸12に連結する同期装置54とを有する。
【0116】
出力ギヤ72、73は、高車速用の変速段であって出力ギヤ70、71の径に対して小径に形成されており、出力ギヤ72、73と変速ギヤ65、66がそれぞれ動力伝達可能な状態となることにより、入力軸5に入力された回転が変速されて出力軸9に伝達される。
【0117】
これにより、外径寸法の大きな遊星歯車機構21を有する自動変速機1において、出力軸9に、中間軸8の変速ギヤ65、66にそれぞれ噛み合う出力ギヤ72、73を設けた場合に、出力ギヤ72、73を小径にして出力軸9の軸方向で遊星歯車機構21と同じ位置に配置したので、入力軸5と出力軸9の軸長を短縮しつつ、入力軸5と出力軸9の軸間距離を短縮できる。この結果、自動変速機1の小型化を容易に図ることができ、平行軸式の自動変速機1の多段化を容易に実現できる。
【0118】
また、本実施例の自動変速機1は、入力軸5および出力軸9と平行に設置された前進用アイドル軸6と中間軸8とを備えている。副入力軸12には入力アイドルギヤ53が設けられており、前進用アイドル軸6の他端部6b側には入力アイドルギヤ53に噛み合うアイドルギヤ61が設けられている。
【0119】
中間軸8の一端部8a側には出力ギヤ72、73にそれぞれ噛み合う変速ギヤ65、66が設けられており、中間軸8の他端部8b側に、出力ギヤ70、71にそれぞれ噛み合う変速ギヤ63、64が設けられている。
【0120】
変速ギヤ65、66は、入力軸5および中間軸8の軸方向において遊星歯車機構21と同じ位置に設置されており、変速ギヤ65、66は、変速ギヤ63、64の径に対して大径に形成されている。しかし、中間軸8に配置されたギヤは、入力軸5に配置されたギヤと直接噛み合わずに前進用アイドル軸6に配置されたギヤを介して駆動力が伝達されるので、中間軸8と入力軸5は軸間距離を大きく確保することが容易となって、遊星歯車機構21と同じ位置に高車速段用で比較的大径の変速ギヤ65、66を設置することができる。
【0121】
そして、変速ギヤ65、66と出力ギヤ72、73とが動力伝達可能な状態となることにより、入力軸5に入力された回転が前進用アイドル軸6および中間軸8を介して変速されて出力軸9に伝達される。
【0122】
これにより、大径の変速ギヤ65、66が入力軸5および中間軸8の軸方向において遊星歯車機構21と同じ位置に設置された場合であっても、入力軸5と中間軸8との間に前進用アイドル軸6を介在させることにより、中間軸8の配置の自由度が向上するとともにギヤ比の設定の自由度が向上し、入力軸5と出力軸9の軸間距離を容易に短縮することができる。この結果、自動変速機1のより一層の小型化を図ることができ、平行軸式の自動変速機1の多段化をより効果的に実現できる。
【0123】
さらに、入力軸5の動力を入力アイドルギヤ53、アイドルギヤ61、前進用アイドル軸6、アイドルギヤ62、67、中間軸8に伝達した後、中間軸8に設置された変速ギヤ63、64、65、66から出力ギヤ70、71、72、73を介して出力軸9に伝達できる。すなわち、中間軸8の変速ギヤ63、64、65、66と出力軸9の出力ギヤ70、71、72、73との間で複数段の変速を実行でき、多段化を容易に実行できる。
【0124】
このため、変速ギヤ63、64に対して大径の変速ギヤ65、66を入力軸5および中間軸8の軸方向において遊星歯車機構21と同じ位置に設置でき、中間軸8の設置の自由度を向上させつつ、自動変速機1の小型化と多段化を図ることができる。
【0125】
また、本実施例の自動変速機1によれば、前進用アイドル軸6の一端部6aにアイドルギヤ62が設けられており、前進用アイドル軸6の他端部6bに、アイドルギヤ61が設けられている。
【0126】
アイドルギヤ62は、入力軸5および前進用アイドル軸6の軸方向において遊星歯車機構21と同じ位置に設置されており、アイドルギヤ62は、アイドルギヤ61の径に対して小径に形成されている。
【0127】
これにより、入力軸5と前進用アイドル軸6との軸間距離を短縮でき、自動変速機1のより一層の小型化を図りつつ、平行軸式の自動変速機1の多段化を実現できる。
【0128】
また、本実施例の自動変速機1によれば、入力アイドルギヤ53は、入力ギヤ51、52よりも副入力軸12の他端部12b側に設置されており、アイドルギヤ67は、変速ギヤ65、66よりも中間軸8の一端部8a側に設置されている。
【0129】
前進用アイドル軸6の軸方向においてアイドルギヤ61とアイドルギヤ62の間に変速ギヤ63から変速ギヤ66が設けられており、前進用アイドル軸6の軸方向から見て、アイドルギヤ61と変速ギヤ65、66とが重なる位置に設置されている。また、前進用アイドル軸6の軸方向から見て、アイドルギヤ62と変速ギヤ65、66とが重なる位置に設置されている。つまり、変速ギヤ65、66は、その一部がアイドルギヤ61とアイドルギヤ62の間に入り込んだ状態に配置されている。
【0130】
これにより、前進用アイドル軸6と中間軸8との軸間距離を短縮でき、自動変速機1のより一層の小型化を図りつつ、平行軸式の自動変速機1の多段化を実現できる。
【0131】
また、本実施例の自動変速機1によれば、出力軸9の一端部9a側に差動装置81のファイナルドリブンギヤ81Aに噛み合うファイナルドライブギヤ74が設けられている。
【0132】
前進用アイドル軸6および中間軸8の軸方向において、アイドルギヤ62およびアイドルギヤ67は、変速ギヤ63から変速ギヤ66よりも前進用アイドル軸6の一端部6a側および中間軸8の一端部8a側に設置されている。
【0133】
前進用アイドル軸6、中間軸8および出力軸9の軸方向において、アイドルギヤ62とアイドルギヤ67とファイナルドライブギヤ74とが同じ位置に設置されている。
【0134】
これにより、前進用アイドル軸6、中間軸8および出力軸9の軸長を短縮でき、入力軸5の軸方向において自動変速機1の軸方向の長さを短縮できる。この結果、自動変速機1のより一層の小型化を図ることができる。
【0135】
なお、本実施例の自動変速機1は、アクチュエータによってシフト操作されるAMT(Automated Manual Transmission)から構成されているが、AT(Automatic Transmission)やMT(Manual Transmission)から構成されてもよい。
【0136】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0137】
1...自動変速機(車両用変速機)、2...エンジン(駆動源)、5...入力軸、6...前進用アイドル軸(アイドル軸)、6a...一端部(アイドル軸の一端部)、6b...他端部(アイドル軸の他端部)、8...中間軸、8a...一端部(中間軸の一端部)、8b...他端部(中間軸の他端部)、9...出力軸、9a...一端部(出力軸の一端部)、9b...他端部(出力軸の他端部)、11a...一端部(入力軸の一端部)、11b...他端部(入力軸の他端部)、12b...他端部(入力軸の他端部)、21...遊星歯車機構、51...4速段用の入力ギヤ(入力ギヤ群、第1の入力ギヤ群)、52...5速段用の入力ギヤ(入力ギヤ群、第1の入力ギヤ群)、53...入力アイドルギヤ(第1のアイドルギヤ)、61...アイドルギヤ(第2のアイドルギヤ)、62...アイドルギヤ(第3のアイドルギヤ)、63...1-2速段用の変速ギヤ(第5の変速段ギヤ群)、64...3速段用の変速ギヤ(第5の変速段ギヤ群)、65...6速段用の変速ギヤ(第4の変速段ギヤ群)、66...7速段用の変速ギヤ(第4の変速段ギヤ群)、67...アイドルギヤ(第4のアイドルギヤ)、70...1-2-4速段用の出力ギヤ(第3の変速段ギヤ群)、71...3-5速段用の出力ギヤ(第3の変速段ギヤ群)、72...6速段用の出力ギヤ(第2の変速段ギヤ群)、73...7速段用の出力ギヤ(第2の変速段ギヤ群)、74...ファイナルドライブギヤ、81...差動装置、81A...ファイナルドリブンギヤ
図1
図2
図3