(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】タンディッシュ内合金添加装置、及び、タンディッシュ内合金添加方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/108 20060101AFI20221101BHJP
B22D 11/10 20060101ALI20221101BHJP
B22D 11/11 20060101ALI20221101BHJP
B22D 41/015 20060101ALI20221101BHJP
【FI】
B22D11/108 D
B22D11/10 310F
B22D11/10 310D
B22D11/10 360D
B22D11/11 B
B22D41/015
(21)【出願番号】P 2018136950
(22)【出願日】2018-07-20
【審査請求日】2021-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】藤井 忠幸
(72)【発明者】
【氏名】関 健
(72)【発明者】
【氏名】原田 寛
(72)【発明者】
【氏名】池田 圭太
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雄一
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-320235(JP,A)
【文献】実開平02-138046(JP,U)
【文献】特開平09-122848(JP,A)
【文献】特開2009-266428(JP,A)
【文献】特開平09-239501(JP,A)
【文献】特開2001-162352(JP,A)
【文献】特開昭63-149055(JP,A)
【文献】特開昭64-011057(JP,A)
【文献】国際公開第89/007499(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108339970(CN,A)
【文献】特開2018-034179(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00-11/22
B22D 33/00-47/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンディッシュ内を通過する溶鋼に対して合金元素を添加するタンディッシュ内合金添加装置であって、
前記合金元素を含むワイヤー材を前記タンディッシュ内の溶鋼に供給するワイヤー供給手段と、
前記タンディッシュ内の溶鋼をプラズマ加熱するプラズマ加熱手段と、
前記タンディッシュ内の溶鋼をガスバブリングして撹拌するガスバブリング手段と、を備えており、
前記ワイヤー供給手段、前記プラズマ加熱手段、及び、前記ガスバブリング手段が、前記タンディッシュの溶鋼入口から溶鋼出口までの領域に配置されており、
前記ワイヤー供給手段と前記プラズマ加熱手段とが離間して配置されて
おり、前記タンディッシュの溶鋼入口から溶鋼出口までの距離をLとした場合に、前記ワイヤー供給手段と前記プラズマ加熱手段との間の距離が0.28×L以上1.0×L以下の範囲内とされていることを特徴とするタンディッシュ内合金添加装置。
【請求項2】
前記タンディッシュの溶鋼入口から溶鋼出口に向けて、順に、前記ワイヤー供給手段、前記プラズマ加熱手段、前記ガスバブリング手段が配設されていることを特徴とする
請求項1に記載のタンディッシュ内合金添加装置。
【請求項3】
前記プラズマ加熱手段の電極部が、絶縁筒で覆われていることを特徴とする
請求項1又は請求項2に記載のタンディッシュ内合金添加装置。
【請求項4】
タンディッシュ内を通過する溶鋼に対して合金元素を添加するタンディッシュ内合金添加方法であって、
ワイヤー供給手段により、前記合金元素を含むワイヤー材を前記タンディッシュ内の溶鋼に供給するワイヤー供給工程と、
プラズマ加熱手段により、前記タンディッシュ内の溶融金属をプラズマ加熱するプラズマ加熱工程と、
前記タンディッシュ内の溶融金属をガスバブリングして撹拌するガスバブリング工程と、
を備えており、
前記ワイヤー供給工程と前記プラズマ加熱工程とを離間した箇所で実施する
構成とされており、前記タンディッシュの溶鋼入口から溶鋼出口までの距離をLとした場合に、前記ワイヤー供給手段と前記プラズマ加熱手段との間の距離が0.28×L以上1.0×L以下の範囲内とされていることを特徴とするタンディッシュ内合金添加方法。
【請求項5】
溶鋼が、前記ワイヤー供給工程、前記プラズマ加熱工程、その後、前記ガスバブリング工程の順に通過することを特徴とする
請求項4に記載のタンディッシュ内合金添加方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンディッシュ内を通過する溶鋼に対して合金元素を添加するタンディッシュ内合金添加装置、及び、タンディッシュ内合金添加方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、鋼の連続鋳造設備においては、取鍋と鋳型との間にタンディッシュが配置されており、取鍋内の溶鋼をタンディッシュに受け、タンディッシュから鋳型内へと供給する構成とされている。
ここで、鋳型内へ供給される溶鋼の温度は、操業の安定性や鋳片の品質に大きな影響を与え、連続鋳造において非常に重要な因子である。
【0003】
そこで、上述のタンディッシュには、鋳型内へ供給される溶鋼の温度を調整するために、通過する溶鋼を加熱する手段としてプラズマ加熱装置が配設されている。
このようなプラズマ加熱装置は、プラズマトーチを被加熱物に近接させ、被加熱物とプラズマトーチとの間にアークを発生させることによって、被加熱物を加熱する構成とされている。プラズマトーチとしては、黒鉛製の消耗電極(黒鉛電極)や水冷式の金属製トーチが用いられている。
【0004】
また、上述の鋼の連続鋳造設備においては、溶鋼の成分組成を調整するために、例えば特許文献1に示すように、タンディッシュ内を通過する溶鋼に対して合金元素を添加することがある。
この特許文献1においては、プラズマ加熱装置の黒鉛電極の中空部から、金属ワイヤーあるいは金属粒を添加する構成とされている。
なお、特許文献2には、溶鋼中に合金元素をワイヤーとして供給するワイヤー供給装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-198787号公報
【文献】特開2014-237875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1、2に記載されたように、合金元素を溶鋼中にワイヤー添加した場合、合金元素は溶鋼表面から供給されるため、添加された合金元素が溶鋼の表面に多く存在することになる。さらに、特許文献1に記載されたように、プラズマ加熱装置で溶鋼表面を加熱した場合には、タンディッシュ内の溶鋼の表面側の温度が高くなる。このため、溶鋼表面において合金元素の濃度が高くなり、均一な濃度の溶鋼をタンディッシュから供給することができないおそれがあった。
【0007】
また、特許文献1に示すように、プラズマ加熱装置の黒鉛電極の中空部から、金属ワイヤーあるいは金属粒を添加する構成とした場合には、プラズマガスの流入が阻害され、安定してプラズマアークを発生させることができず、着火不良や異常放電等が発生するおそれがあった。このため、タンディッシュ内の溶鋼を安定して加熱することができないといった問題が懸念される。
【0008】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、タンディッシュ内を通過する溶鋼に対して合金元素を添加して均一な成分組成の溶鋼を安定して供給することが可能なタンディッシュ内合金添加装置、及び、タンディッシュ内合金添加方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係るタンディッシュ内合金添加装置は、タンディッシュ内を通過する溶鋼に対して合金元素を添加するタンディッシュ内合金添加装置であって、前記合金元素を含むワイヤー材を前記タンディッシュ内の溶鋼に供給するワイヤー供給手段と、前記タンディッシュ内の溶鋼をプラズマ加熱するプラズマ加熱手段と、前記タンディッシュ内の溶鋼をガスバブリングして撹拌するガスバブリング手段と、を備えており、前記ワイヤー供給手段、前記プラズマ加熱手段、及び、前記ガスバブリング手段が、前記タンディッシュの溶鋼入口から溶鋼出口までの領域に配置されており、前記ワイヤー供給手段と前記プラズマ加熱手段とが離間して配置されており、前記タンディッシュの溶鋼入口から溶鋼出口までの距離をLとした場合に、前記ワイヤー供給手段と前記プラズマ加熱手段との間の距離が0.28×L以上1.0×L以下の範囲内とされていることを特徴としている。
【0010】
この構成のタンディッシュ内合金添加装置によれば、ガスバブリング手段で溶鋼を撹拌することにより、プラズマ加熱手段によって加熱された溶鋼の温度を深さ方向で均一化することができ、かつ、ワイヤー供給手段によって供給された合金元素の濃度を均一化させることが可能となる。
また、プラズマ加熱手段によって加熱することで、ワイヤー供給手段によるワイヤー材の添加、及び、ガスバブリング手段によるガスバブリングによる溶鋼の温度低下を抑制することができる。
さらに、ワイヤー供給手段とプラズマ加熱手段とが離間して配置されているので、プラズマガスの流通が妨げられず、着火不良や異常放電等の発生を抑制でき、安定してプラズマアークを発生させることが可能となる。
【0011】
また、前記タンディッシュの溶鋼入口から溶鋼出口までの領域に、前記ワイヤー供給手段、前記プラズマ加熱手段、及び、前記ガスバブリング手段が、それぞれ配置されているので、タンディッシュ内を通過する溶鋼に対して合金元素を安定して添加することが可能となる。
【0012】
また、本発明のタンディッシュ内合金添加装置においては、前記タンディッシュの溶鋼入口から溶鋼出口に向けて、順に、前記ワイヤー供給手段、前記プラズマ加熱手段、前記ガスバブリング手段が配設されていることが好ましい。
この場合、タンディッシュ内を通過する溶鋼に対して、まず、前記ワイヤー供給手段によってワイヤー材が供給され、次に、プラズマ加熱手段で溶鋼が加熱され、その後、前記ガスバブリング手段で溶鋼が撹拌されるので、タンディッシュの溶鋼出口側において溶鋼の温度及び合金濃度をさらに効率良く均一化させることが可能となる。
【0013】
さらに、本発明のタンディッシュ内合金添加装置においては、前記プラズマ加熱手段の電極部が、絶縁筒で覆われていることが好ましい。
この場合、前記プラズマ加熱手段の電極部が絶縁筒で覆われているので、前記プラズマ加熱手段の電極部とワイヤー供給手段によって供給されるワイヤー材との間での放電の発生を抑制でき、溶鋼と電極部との間で安定してプラズマアークを発生させることが可能となる。
【0014】
本発明に係るタンディッシュ内合金添加方法は、タンディッシュ内を通過する溶鋼に対して合金元素を添加するタンディッシュ内合金添加方法であって、ワイヤー供給手段により、前記合金元素を含むワイヤー材を前記タンディッシュ内の溶鋼に供給するワイヤー供給工程と、プラズマ加熱手段により、前記タンディッシュ内の溶融金属をプラズマ加熱するプラズマ加熱工程と、前記タンディッシュ内の溶融金属をガスバブリングして撹拌するガスバブリング工程と、を備えており、前記ワイヤー供給工程と前記プラズマ加熱工程とを離間した箇所で実施する構成とされており、前記タンディッシュの溶鋼入口から溶鋼出口までの距離をLとした場合に、前記ワイヤー供給手段と前記プラズマ加熱手段との間の距離が0.28×L以上1.0×L以下の範囲内とされていることを特徴としている。
【0015】
この構成のタンディッシュ内合金添加方法によれば、ガスバブリング工程で溶鋼を撹拌することにより、プラズマ加熱工程で加熱された溶鋼の温度を深さ方向で均一化することができ、かつ、ワイヤー供給工程で供給された合金元素の濃度を均一化させることが可能となる。
また、プラズマ加熱工程で溶鋼を加熱することで、ワイヤー供給工程におけるワイヤー材の添加、及び、ガスバブリング工程におけるガスバブリングによる溶鋼の温度低下を抑制することができる。
さらに、前記ワイヤー供給工程と前記プラズマ加熱工程とを離間した箇所で実施するので、プラズマガスの流通が妨げられず、着火不良や異常放電等の発生を抑制でき、安定してプラズマアークを発生させることが可能となる。
【0016】
ここで、本発明のタンディッシュ内合金添加方法においては、溶鋼が、前記ワイヤー供給工程、前記プラズマ加熱工程、その後、前記ガスバブリング工程の順に通過する構成としてもよい。
この場合、タンディッシュ内を通過する溶鋼に対して、まず、ワイヤー供給工程で溶鋼にワイヤー材が供給され、次に、プラズマ加熱工程で溶鋼が加熱され、その後、ガスバブリング工程で溶鋼が撹拌されるので、タンディッシュの溶鋼出口側において溶鋼の温度及び合金濃度をさらに効率良く均一化させることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
上述のように、本発明によれば、タンディッシュ内を通過する溶鋼に対して合金元素を添加して均一な成分組成の溶鋼を安定して供給することが可能なタンディッシュ内合金添加装置、及び、タンディッシュ内合金添加方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態であるタンディッシュ内合金添加装置及びタンディッシュ内合金添加方法が適用される連続鋳造装置の概略説明図である。
【
図2】本発明の実施形態であるタンディッシュ内合金添加装置の概略側面説明図である。
【
図3】本発明の実施形態であるタンディッシュ内合金添加装置の概略上面説明図である。
【
図4】本発明の実施形態であるタンディッシュ内合金添加装置におけるプラズマ加熱手段に用いられる中空電極の断面説明図である。
【
図5】実施例における成分組成の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の一実施形態であるタンディッシュ内合金添加装置及びタンディッシュ内合金添加方法について、添付した図面を参照して説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0020】
まず、本実施形態であるタンディッシュ内合金添加装置20及びタンディッシュ内合金添加方法が適用される連続鋳造設備10について、
図1を参照して説明する。
この連続鋳造設備10は、取鍋11によって転炉から溶鋼3を移送し、ロングノズル13を介してタンディッシュ15に溶鋼3を移し、このタンディッシュ15において大きな介在物を浮上分離した後、浸漬ノズル17を介して連続鋳造用鋳型19内に溶鋼3を供給し、連続鋳造鋳片1を連続的に鋳造するものである。
【0021】
この連続鋳造設備10においては、取鍋11内で溶鋼3の成分組成が調整され、この溶鋼3がタンディッシュ15に供給される。そして、本実施形態においては、タンディッシュ15内を通過する溶鋼3にさらに合金元素を添加して、溶鋼3の成分組成を再調整している。本実施形態では、Ni,Ca等の合金元素をタンディッシュ15内の溶鋼3に添加する構成とされている。
ここで、タンディッシュ15内を通過する溶鋼3に対して合金元素を添加する際に、本実施形態であるタンディッシュ内合金添加装置20及びタンディッシュ内合金添加方法が適用される。
【0022】
本実施形態であるタンディッシュ内合金添加装置20は、
図2及び
図3に示すように、合金元素を含むワイヤー材31をタンディッシュ15内の溶鋼3に向けて供給するワイヤー供給手段30と、タンディッシュ15内の溶鋼3をプラズマ加熱するプラズマ加熱手段40と、タンディッシュ15内の溶鋼3をガスバブリングして撹拌するガスバブリング手段50と、を備えている。
【0023】
本実施形態においては、ワイヤー材31は、Ni,Ca等の合金元素の紛体が鉄製の中空ワイヤー内に充填された構造とされている。
ここで、Ni,Ca等の合金元素の添加量は、ワイヤー供給手段30によるワイヤー材31の供給速度で調整することが可能となる。ここで、本実施形態では、Ni,Ca等の合金元素の添加量は、例えば0.1kg/min以上4.0kg/min以下の範囲内とされている。
【0024】
プラズマ加熱手段40は、タンディッシュ15内の溶鋼面との間にプラズマアークを発生させて、タンディッシュ15内の溶鋼3を加熱するものである。
このプラズマ加熱手段40は、
図2に示すように、タンディッシュ15内の溶鋼面の上方に配設された中空電極41と、タンディッシュ15の壁面に設置された固定電極42と、中空電極41及び固定電極42に電力を印加する直流電源43と、を備えている。
直流電源43は、上述の中空電極41と固定電極42と、の間に配設されている。本実施形態では、
図2に示すように、中空電極41側が陰極、固定電極42側が陽極とされている。すなわち、本実施形態では、プラズマ加熱手段40は、いわゆる熱陰極型シングルトーチ式とされている。
【0025】
ここで、中空電極41は、
図2及び
図4に示すように、概略円筒状をなしており、Ar、N
2、CO
2等のガスが供給されるガス供給路が設けられている。
この中空電極41を構成する材料としては、例えば、タングステン、特殊合金(Cu-W等)、黒鉛等が挙げられる。本実施形態においては、中空電極41は黒鉛で構成されている。
また、中空電極41の外径は、例えば50mm以上150mm以下の範囲内とされ、中空電極41の内径(ガス供給路の直径)は、例えば10mm以上20mm以下の範囲内とされている。
【0026】
ここで、
図2及び
図4に示すように、中空電極41の外周側には、絶縁筒45が配設されている。この絶縁筒45は、耐熱性に優れたセラミックス(例えば、アルミナ等)で構成されている。
この絶縁筒45により、中空電極41と、ワイヤー供給手段30から供給されるワイヤー材31との間での放電の発生を抑制することが可能となる。
【0027】
ガスバブリング手段50は、タンディッシュ15内の溶鋼3に対して不活性ガスを吹き込んで、溶鋼3を撹拌するものである。
本実施形態においては、
図2に示すように、タンディッシュ15の底部に配設された不活性ガス放出部51と、この不活性ガス放出部51に対して不活性ガスを供給する不活性ガス供給部52と、を備えている。
【0028】
ここで、不活性ガス放出部51は、耐熱性に優れたセラミックス製の多孔質体で構成されている。なお、不活性ガス放出部51を構成する多孔質体の気孔径を選択することにより、溶鋼3に吹き込まれる不活性ガスの気泡径を調整することができる。本実施形態では、不活性ガスの気泡径は、例えば0.1mm以上10mm以下の範囲内とされている。
【0029】
また、ガスバブリング手段50によって吹き込まれる不活性ガスとしては、Ar、N2等を用いることができる。なお、窒化物の生成を抑制するためには、Arガスを用いることが好ましい。
さらに、ガスバブリング手段50においては、溶鋼3の湯面が暴れない程度に、不活性ガスの吹き込み量を調整することが好ましい。本実施形態では、ガスバブリング手段50による不活性ガスの吹き込み量は、1l/min以上20l/min以下の範囲内とすることが好ましい。
【0030】
そして、本実施形態であるタンディッシュ内合金添加装置20においては、
図2及び
図3に示すように、ワイヤー供給手段30とプラズマ加熱手段40とが離間して配置されている。すなわち、ワイヤー供給手段30によるワイヤー材31の供給位置とプラズマ加熱手段40の中空電極41の位置とが離間して配置されている。
ここで、タンディッシュの溶鋼入口から溶鋼出口までの距離をLとした場合に、ワイヤー供給手段とプラズマ加熱手段との間の距離が0.28×L以上1.0×L以下の範囲内とされていることが好ましい。
【0031】
また、本実施形態においては、ワイヤー供給手段30、プラズマ加熱手段40、及び、ガスバブリング手段50が、タンディッシュ15の溶鋼入口15Aから溶鋼出口15Bまでの領域に配置されていることが好ましい。すなわち、タンディッシュ15の溶鋼入口15Aから溶鋼出口15Bまでの距離Lの中に、ワイヤー供給手段30、プラズマ加熱手段40、及び、ガスバブリング手段50が配設されている。
なお、本実施形態においては、
図2及び
図3に示すように、ガスバブリング手段50の不活性ガス放出部51は、ワイヤー供給手段30及びプラズマ加熱手段40が配設された位置の底部に配設されている。
【0032】
次に、
図2から
図4に示すタンディッシュ内合金添加装置20を用いた本実施形態であるタンディッシュ内合金添加方法について説明する。
まず、ガスバブリング手段50から不活性ガスをタンディッシュ15内に吹き込む。この状態で、取鍋11からロングノズル13を介してタンディッシュ15内に溶鋼3を供給する。これにより、ガスバブリング手段50の不活性ガス放出部51(多孔質体)の気孔部に溶鋼3が差し込むことを抑制することが可能となる。
【0033】
また、タンディッシュ15から連続鋳造用鋳型19へと溶鋼3を供給する。このとき、タンディッシュ15内を通過する溶鋼3に対して、合金元素を添加する。
ワイヤー供給手段30により、合金元素の紛体が充填されたワイヤー材31をタンディッシュ15内の溶鋼3に供給するとともに、プラズマ加熱手段40によって、溶鋼3の表面と中空電極41との間にプラズマアークを発生させて溶鋼3を加熱する。
【0034】
ここで、ガスバブリング手段50によってタンディッシュ15内の溶鋼3が撹拌される。これにより、ワイヤー供給手段30により供給された合金元素を含む溶鋼3、及び、プラズマ加熱手段40によって加熱された溶鋼3が撹拌され、溶鋼3中の合金元素の濃度、溶鋼3の温度が均一化されることになる。
【0035】
以上のような構成とされた本実施形態であるタンディッシュ内合金添加装置20及びタンディッシュ内合金添加方法によれば、上述のように、ワイヤー供給手段30によって合金元素を含むワイヤー材31をタンディッシュ15内の溶鋼3に供給するとともに、プラズマ加熱手段40によって溶鋼3を加熱し、さらに、ガスバブリング手段50によって不活性ガスをタンディッシュ15内に吹き込んで溶鋼3を撹拌しているので、ワイヤー供給手段30によって供給された合金元素の濃度を均一化することが可能となる。
また、プラズマ加熱手段40によって溶鋼3を加熱することで、ワイヤー供給手段30によるワイヤー材31の添加、及び、ガスバブリング手段50によるガスバブリングによる溶鋼3の温度低下を抑制することができる。
【0036】
そして、ワイヤー供給手段30とプラズマ加熱手段40とが離間して配置されているので、プラズマガスの流通が妨げられず、着火不良や異常放電等の発生を抑制でき、安定してプラズマアークを発生させることが可能となる。
特に、本実施形態においては、タンディッシュ15の溶鋼入口15Aから溶鋼出口15Bまでの距離をLとした場合に、ワイヤー供給手段30によるワイヤー材31の供給位置とプラズマ加熱手段40の中空電極41に位置との間の距離が0.28×L以上1.0×L以下の範囲内とされているので、ワイヤー供給手段30で供給されるワイヤー材31とプラズマ加熱手段40の中空電極41との間で放電が発生することを抑制できる。
【0037】
また、本実施形態においては、タンディッシュ15の溶鋼入口15Aから溶鋼出口15Bまでの距離Lの中に、ワイヤー供給手段30、プラズマ加熱手段40、及び、ガスバブリング手段50が配設されているので、タンディッシュ15内を通過する溶鋼3に対して合金元素を安定して添加することが可能となる。
特に、本実施形態においては、
図2及び
図3に示すように、ガスバブリング手段50が、ワイヤー供給手段30及びプラズマ加熱手段40が配設された位置の底部に配設されているので、ワイヤー供給手段30により供給された合金元素を含む溶鋼3、及び、プラズマ加熱手段40によって加熱された溶鋼3を、効率良く撹拌することができ、合金濃度が均一化された溶鋼3を得ることができる。
【0038】
さらに、本実施形態においては、ガスバブリング手段50によって吹き込まれる不活性ガスの気泡径が0.1mm以上10mm以下の範囲内とされ、ガスバブリング手段50による不活性ガスの吹き込み量が、1l/min以上20l/min以下の範囲内とされているので、タンディッシュ15内の溶鋼3の湯面が暴れることを抑制でき、溶鋼3の再酸化を抑制することが可能となる。
【0039】
以上、本発明の実施形態であるタンディッシュ内合金添加装置及びタンディッシュ内合金添加方法について具体的に説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0040】
例えば、本実施形態では、
図1に示すように、プラズマ加熱手段として、1本の中空電極を用いたシングルトーチ式のものを例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、例えば、溶鋼の湯面に対して2本の電極を配置したツイントーチ式のものを適用してもよい。
また、中空電極を黒鉛で構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、タングステン、特殊合金(Cu-W等)で構成した中空電極を用いてもよい。通常中空電極を構成する材質として、主なものにタングステン、特殊合金、等がある。
【0041】
さらに、タンディッシュの形状や構造等については、本実施形態で例示したものに限定されることはなく、他の構造のものであってもよい。
また、本実施形態では、合金元素の粉末を中空ワイヤー内に充填されたワイヤー材を用いるものとして説明したが、これに限定されることはなく、合金元素からなるワイヤー材を用いてもよい。
【0042】
さらに、本実施形態では、ガスバブリング手段50によって吹き込まれる不活性ガスの気泡径が0.1mm以上10mm以下の範囲内とされ、ガスバブリング手段50による不活性ガスの吹き込み量を、1l/min以上20l/min以下の範囲内とするものとして説明したが、これに限定されることはなく、鋳造状況に合わせて適宜、条件を設定することが好ましい。
【0043】
また、本実施形態においては、ワイヤー供給手段とプラズマ加熱手段が配設された位置の底部にガスバブリング手段を配置したものとして説明したが、これに限定されることはなく、ワイヤー供給手段とプラズマ加熱手段とが離間していれば、ワイヤー供給手段、プラズマ加熱手段、及び、ガスバブリング手段の配置に特に制限はない。
なお、タンディッシュの溶鋼入口から溶鋼出口に向けて、順に、ワイヤー供給手段、プラズマ加熱手段、ガスバブリング手段を配設すれば、タンディッシュ内を通過する溶鋼に対して、まず、ワイヤー供給手段によってワイヤー材が供給され、次に、プラズマ加熱手段で溶鋼が加熱され、その後、ガスバブリング手段で溶鋼が撹拌されるので、タンディッシュの溶鋼出口側において溶鋼の温度及び合金濃度をさらに効率良く均一化させることが可能となる。
【実施例】
【0044】
以下に、本発明の効果を確認すべく、実施した実験結果について説明する。
【0045】
本発明例として、
図2から
図4に示すタンディッシュ内合金添加装置を用いて、ワイヤー供給手段で合金元素を添加するとともに、プラズマ加熱手段で溶鋼を加熱し、さらに、ガスバブリング手段によって溶鋼の撹拌を実施した。
このとき、タンディッシュの溶鋼入口から溶鋼出口までの距離をLとした場合に、ワイヤー供給手段のワイヤー材供給位置とプラズマ加熱手段の中空電極との間の距離を0.28×Lとした。
また、ガスバブリング手段による不活性ガス(Arガス)の吹き込み量を、10l/minとした。
【0046】
従来例として、特許文献1に示すように、プラズマ加熱手段の中空電極の中空部からワイヤー材を供給した。また、ガスバブリング手段を用いなかった。
【0047】
ここで、ワイヤー材で添加する合金元素はNiとし、Niの含有量が0.1質量%となるように、ワイヤー供給手段によってワイヤー材を添加した。
また、溶鋼のスループットは、0.6t/minとし、全体で5.0tの鋳造を実施した。これを、本発明例、及び、従来例で、それぞれ3回実施した。
【0048】
3回の鋳造実験において鋳造状況を確認した。評価結果を表1に示す。
また、ワイヤー供給手段によってワイヤー材の添加を開始後に3分毎に溶鋼をサンプリングし、Ni濃度を測定した。評価結果を
図5に示す。
【0049】
【0050】
(鋳造状況)
プラズマ加熱手段、ガスバブリング手段を用いず、プラズマ加熱手段の中空電極の中空部からワイヤー材を供給した従来例においては、2回目の鋳造時に中空電極において着火不良が発生し、鋳造を中断した。また、3回目の鋳造時に異常放電による設備故障が発生し、鋳造を中断した。
これに対して、ワイヤー供給手段で合金元素を添加するとともに、プラズマ加熱手段で溶鋼を加熱し、さらに、ガスバブリング手段によって溶鋼の撹拌を実施した本発明例においては、プラズマ加熱手段によるプラズマアークが安定して発生しており、3回の鋳造を全て完鋳することができた。
【0051】
(成分組成)
従来例においては、ワイヤー材の供給開始から9min経過後においても、Ni濃度が目標の0.1質量%にまで達することはなかった。
これに対して、本発明例においては、ワイヤー材の供給開始から3min経過後に、既にNi濃度が0.09質量%となった。すなわち、本発明例では、ワイヤー材として添加した合金元素を効率的に添加できた。
【0052】
以上のように、本発明例によれば、タンディッシュ内を通過する溶鋼に対して合金元素を添加して均一な成分組成の溶鋼を安定して供給することが可能なタンディッシュ内合金添加装置、及び、タンディッシュ内合金添加方法を提供可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0053】
3 溶鋼
10 連続鋳造設備
15 タンディッシュ
15A 溶鋼入口
15B 溶鋼出口
20 タンディッシュ内合金添加装置
30 ワイヤー供給手段
31 ワイヤー材
40 プラズマ加熱手段
45 絶縁筒
50 ガスバブリング手段