(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-31
(45)【発行日】2022-11-09
(54)【発明の名称】主軸装置
(51)【国際特許分類】
H02P 9/48 20060101AFI20221101BHJP
B23Q 11/12 20060101ALI20221101BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20221101BHJP
F16C 41/00 20060101ALI20221101BHJP
F16N 7/38 20060101ALI20221101BHJP
H02P 103/20 20150101ALN20221101BHJP
【FI】
H02P9/48
B23Q11/12 E
F16C33/66 Z
F16C41/00
F16N7/38 B
F16N7/38 E
H02P103:20
(21)【出願番号】P 2018155508
(22)【出願日】2018-08-22
【審査請求日】2021-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】東山 佳路
(72)【発明者】
【氏名】坂▲崎▼ 司
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-047694(JP,A)
【文献】特開2002-118987(JP,A)
【文献】特開2018-087597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 9/48
B23Q 11/12
F16C 33/66
F16C 41/00
F16N 7/38
H02P 103/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転部材である主軸と、固定部材であるハウジングと、前記ハウジングに対して前記主軸を回転可能に支持する一対の転がり軸受と、前記一対の転がり軸受に潤滑油を供給する潤滑油供給装置とを備え、
前記潤滑油供給装置は、電源回路部と、前記電源回路部から直流電力の供給を受ける制御回路部と、潤滑油を貯留するタンクと、前記制御回路部から供給される電気信号により作動して前記タンクに貯留された潤滑油を前記一対の転がり軸受に吐出するポンプ部と、前記主軸に取り付けられた磁石部とを有し、
前記電源回路部、前記制御回路部、前記タンク、前記ポンプ部、及び前記磁石部が前記一対の転がり軸受の間に配置されており、
前記電源回路部は、
前記ハウジングに取り付けられ、前記磁石
部の磁束が鎖交するコイルと、
前記コイルによって発生した交流電圧を直流電圧に変換する整流回路と、
前記整流回路から供給される入力電圧を昇圧
して出力する昇圧用の電圧変換部、及び前記整流回路から供給される入力電圧を降圧して出力する降圧用の電圧変換部と、
前記降圧用の電圧変換部の出力電圧及び前記昇圧用の電圧変換部の出力電圧のうち高い方の出力電圧を出力する出力回路部と、
前記整流回路の出力電圧が所定値以上となったとき、前記整流回路から前記昇圧用の電圧変換部への電圧供給を遮断する遮断回路部と、を備え
た、
主軸装置。
【請求項2】
前記遮断回路部は、前記降圧用の電圧変換部の出力電圧が二つの抵抗器によって分圧された分圧電圧と、前記整流回路の出力電圧が二つの抵抗器によって分圧された分圧電圧とを比較する比較器と、前記比較器の出力電圧が供給される遮断素子とを有しており、
前記昇圧用の電圧変換部には、前記整流回路で直流に変換された直流電圧が前記遮断素子を介して入力される、
請求項1に記載の主軸装置。
【請求項3】
前記出力回路部は、前記昇圧用の電圧変換部の出力電圧がアノードに入力される第1ダイオードと、前記降圧用の電圧変換部の出力電圧がアノードに入力される第2ダイオードとを有し、前記第1ダイオードのカソードと前記第2ダイオードのカソードとが接続されたダイオードオア回路からなる、
請求項1又は2に記載の主軸装置。
【請求項4】
前記電源回路部から直流電力の供給を受ける前記センサ回路部を有し、
前記センサ回路部が振動センサを有し、
前記制御回路部は、前記振動センサによって検出される振動が大きいほど高い頻度で潤滑油の液滴が飛び出すように前記ポンプ部を制御する、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の主軸装置。
【請求項5】
前記電源回路部から直流電力の供給を受ける前記センサ回路部を有し、
前記センサ回路部が前記主軸の回転速度を検出するための磁界センサを有し、
前記制御回路部は、前記磁界センサによって検出される前記主軸の回転速度が速いほど高い頻度で潤滑油の液滴が飛び出すように前記ポンプ部を制御する、
請求項1乃至4の何れか1項に項に記載の主軸装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主軸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば工作機械に用いられる主軸装置には、回転部材としての主軸に取り付けられた磁石の回転により交流電圧を発生させ、これを整流及び平滑化して得られた直流電圧を用いて主軸を支持する転がり軸受に潤滑油を供給するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の潤滑油供給装置は、一対の転がり軸受の内輪の間に配置された内輪間座に埋め込まれたリング状の多極磁石、及び非回転に配置された鉄心に巻回された発電コイルにより発電機が構成されている。この発電機で発生した交流電圧は、交直変換器で直流に変換され、コンデンサに蓄電される。コンデンサに蓄電された直流電力は、制御部のCPUや複数のセンサ等の電子部品に供給される。複数のセンサには、転がり軸受の温度を検知する温度センサや転がり軸受の回転速度を検知する速度センサが含まれる。CPUは、これらのセンサの検出信号に基づいて給油ユニットの電磁石を制御し、電磁石の磁力によって弁体を進退移動させてノズルを開閉させる。ノズルが開状態となると、タンクに貯留された潤滑油が転がり軸受に吐出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように構成された発電機で発生する交流電圧は、主軸の回転速度に応じて変化する。一方、CPUや各種のセンサを有する制御部には、直流電源として所定の範囲の電圧を供給する必要がある。このため、特許文献1に記載の潤滑油供給装置では、主軸の回転速度が所定の速度範囲に保たれる場合には転がり軸受に潤滑油を吐出することができても、この速度範囲よりも低回転あるいは高回転となると、制御部に適切な直流電圧を供給することができない。
【0006】
そこで、本発明は、固定部材に対する回転部材の回転速度が大きく変動しても、例えば電子部品を動作させるために適切な所定の直流電圧を発生させることが可能な主軸装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の目的を達成するため、回転部材である主軸と、固定部材であるハウジングと、前記ハウジングに対して前記主軸を回転可能に支持する一対の転がり軸受と、前記一対の転がり軸受に潤滑油を供給する潤滑油供給装置とを備え、前記潤滑油供給装置は、電源回路部と、前記電源回路部から直流電力の供給を受ける制御回路部と、潤滑油を貯留するタンクと、前記制御回路部から供給される電気信号により作動して前記タンクに貯留された潤滑油を前記一対の転がり軸受に吐出するポンプ部と、前記主軸に取り付けられた磁石部とを有し、前記電源回路部、前記制御回路部、前記タンク、前記ポンプ部、及び前記磁石部が前記一対の転がり軸受の間に配置されており、前記電源回路部は、前記ハウジングに取り付けられ、前記磁石部の磁束が鎖交するコイルと、前記コイルによって発生した交流電圧を直流電圧に変換する整流回路と、前記整流回路から供給される入力電圧を昇圧して出力する昇圧用の電圧変換部、及び前記整流回路から供給される入力電圧を降圧して出力する降圧用の電圧変換部と、前記降圧用の電圧変換部の出力電圧及び前記昇圧用の電圧変換部の出力電圧のうち高い方の出力電圧を出力する出力回路部と、前記整流回路の出力電圧が所定値以上となったとき、前記整流回路から前記昇圧用の電圧変換部への電圧供給を遮断する遮断回路部と、を備えた、主軸装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る主軸装置によれば、主軸の回転速度が大きく変動しても、適切に潤滑油を供給することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態に係る主軸装置の構成例を示す断面図である。
【
図2】主軸の回転軸線に対して垂直な断面における主軸装置の断面図である。
【
図3】電源回路部の概略構成例を示す回路図である。
【
図4】電源回路部の各部の電圧の時間的な変化を示すグラフであり、(a)は整流回路の出力電圧を、(b)は第1電圧変換部への入力電圧を、(c)は第1電圧変換部の出力電圧を、(d)は第2電圧変換部の出力電圧を、(e)は出力回路部の出力電圧を、それぞれ示す。
【
図5】ポンプ部の構成例を示す模式図であり、(a)はピエゾ素子に電圧が印加されていないときの状態を示し、(b)はピエゾ素子に電圧が印加されたときの状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、
図1乃至
図5を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係る主軸装置の構成例を示す断面図である。
図2は、主軸の回転軸線に対して垂直な断面における主軸装置の断面図である。
図1は、
図2におけるA-A線の断面図である。
【0013】
この主軸装置1は、例えばマシンニングセンター、研削盤、あるいは旋盤等の工作機械において、工作物を加工するために用いられる。主軸装置1は、回転部材としての主軸10と、第1ハウジング部材111及び第2ハウジング部材112を有する固定部材としてのハウジング11と、ハウジング11に対して主軸10を回転可能に支持する一対の転がり軸受12,12と、ステータ131及びロータ132を有するモータ部13と、一対の転がり軸受12,12に潤滑油を供給する潤滑油供給装置2とを有している。ハウジング11は、例えば工作機械のベースに対して位置調整可能に設けられたサドルに非回転に固定される。
【0014】
主軸10は、第1ハウジング部材111に収容された大径部101と、第2ハウジング部材112に収容された小径部102とを一体に有し、回転軸線Oを中心として回転する。以下、回転軸線Oに平行な方向を軸方向という。第1ハウジング部材111と第2ハウジング部材112とは、軸方向に並んで配置され、図略のボルトにより結合されている。モータ部13のロータ132は、複数の磁極を有し、主軸10の大径部101の外周面に固定されている。ステータ131は、第1ハウジング部材111に取り付けられた複数のコア131aに励磁コイル131bが巻き回されている。励磁コイル131bには、図略の上位コントローラからモータ電流が供給される。主軸10は、モータ部13のトルクによってハウジング11に対して回転し、工具や砥石又は工作物を回転させる。
【0015】
一対の転がり軸受12,12のそれぞれは、主軸10の小径部102に外嵌された内輪121と、第2ハウジング部材112に内嵌された外輪122と、内輪121の外周面に形成された軌道面121a及び外輪122の内周面に形成された軌道面122aを転動する複数の球状の転動体123とを有している。一対の転がり軸受12,12の間には、潤滑油供給装置2が間座として配置されている。換言すれば、潤滑油供給装置2が一対の転がり軸受12,12の間に軸方向に挟まれている。
【0016】
一対の転がり軸受12,12のうち、第2ハウジング部材112の奥側(第1ハウジング部材111側)に配置された一方の転がり軸受12の内輪121は、その一側面121bが主軸10の大径部101と小径部102との間の段差面10aに当接し、他方の転がり軸受12の内輪121の一側面121cには、主軸10のねじ部103に螺合した内輪固定ナット14が当接している。また、一方の転がり軸受12の外輪122は、その一側面122bが第2ハウジング部材112に設けられた当接面112aに当接し、他方の転がり軸受12の外輪122の一側面122cには、第2ハウジング部材112の端部に固定された外輪固定部材15が当接している。
【0017】
潤滑油供給装置2は、
図2に示すように、環状の非磁性体からなるケース部材20と、ケース部材20に収容された電源回路部3と、電源回路部3から直流電力の供給を受ける制御回路部4及びセンサ回路部5と、潤滑油Lを貯留するタンク6と、制御回路部4から供給される電気信号により作動するポンプ部7と、主軸10に取り付けられた環状の磁石部8とを有している。電源回路部3、制御回路部4、センサ回路部5、タンク6、及びポンプ部7は、電線21~24によりそれぞれ接続されている。
【0018】
ケース部材20は、一対の転がり軸受12,12のそれぞれの外輪122,122の間に配置され、ハウジング11の第2ハウジング112に固定されている。また、ケース部材20は、電源回路部3、制御回路部4、センサ回路部5、タンク6、及びポンプ部7を収容している。磁石部8は、一対の転がり軸受12,12のそれぞれの内輪121,121の間に配置され、主軸10の小径部102に固定されている。
【0019】
制御回路部4は、CPU41や、CPU41が実行するプログラム等を記憶するメモリIC42、及びスイッチングによりポンプ部7に供給する電気信号を生成するスイッチング素子43、ならびに上位コントローラとの通信を行うための通信IC44などが回路基板401,402に搭載されている。また、制御回路部4は、主軸10が回転停止状態である場合にもCPU41等に電源を供給するためのバッテリー45を有している。制御回路部4には、電線21によって電源回路部3から直流電力が供給される。
【0020】
センサ回路部5は、例えば振動センサ51や温度センサ52等の各種のセンサ、及びこれらセンサの出力信号を増幅するトランジスタ等の増幅素子53などが回路基板50に実装されている。また、磁石部8の磁界によって主軸10の回転速度を検出するための磁界センサを回路基板50に搭載してもよい。センサ回路部5には、電線22によって電源回路部3から直流電力が供給される。センサ回路部5において検出及び増幅された各種の物理量を示す検出信号は、電線23によって制御回路部4に送られる。
【0021】
磁石部8は、N極が外周側を向きS極が内周側を向く複数の第1磁石81と、S極が外周側を向きN極が内周側を向く複数の第2磁石82と、複数の第1磁石81及び第2磁石82の内周に配置された円筒状のインナスリーブ83と、複数の第1磁石81及び第2磁石82の外周に配置された円筒状のアウタスリーブ84とを有している。複数の第1磁石81及び第2磁石82は、周方向に沿って交互に配置されており、第1磁石81と第2磁石82との間には、例えば樹脂からなる非磁性のスペーサ80が介在して配置されている。インナスリーブ83及びアウタスリーブ84は、例えばオーステナイト系ステンレス等の非磁性金属からなる。
【0022】
インナスリーブ83は、主軸10における小径部102の外周面に例えば接着により固定されている。複数の第1磁石81及び第2磁石82は、インナスリーブ83を介して主軸10に取り付けられており、インナスリーブ83及びアウタスリーブ84と共に主軸10と一体に回転する。アウタスリーブ84とケース部材20の内周面との間には、僅かな隙間(エアギャップ)が形成されている。磁石部8は、電源回路部3と共に発電装置9を構成する。
【0023】
図3は、電源回路部3の概略構成例を示す回路図である。電源回路部3は、回路基板30(
図2参照)と、磁石部8の第1磁石81及び第2磁石82の磁束が鎖交する発電コイル31と、4つのダイオード321~324を組み合わせたダイオードブリッジからなる整流回路32と、整流回路32から供給される入力電圧に対する出力電圧の比がそれぞれ異なる第1電圧変換部33及び第2電圧変換部34と、第1電圧変換部33及び第2電圧変換部34のそれぞれの出力電圧のうち何れかの出力電圧を選択的に出力する出力回路部35と、整流回路32の出力電圧が所定値以上となったとき、整流回路32から第1電圧変換部33への電圧供給を遮断する遮断回路部36とを有している。
【0024】
発電コイル31は、回路基板30に搭載され、回路基板30はケース部材20に固定されている。これにより、発電コイル31は、回路基板30及びケース部材20を介してハウジング11に取り付けられている。主軸10が回転すると、発電コイル31に鎖交する磁束の向き及び大きさが変化し、発電コイル31に交流電圧が発生する。発電コイル31に発生する交流電圧の周波数及び実効値は、主軸10が高速で回転するほど高くなる。整流回路32は、発電コイル31に発生する交流電圧を全波整流して直流に変換する。
【0025】
第1電圧変換部33には、整流回路32で直流に変換された直流電圧が遮断回路部36の遮断素子としてのフォトカプラ367(後述)を介して入力される。第2電圧変換部34には、整流回路32で直流に変換された直流電圧が常時直接的に入力される。
【0026】
第1電圧変換部33は、入力電圧を昇圧して出力する昇圧用の電圧変換部であり、整流回路32から供給される入力電圧を規定値の電圧に昇圧して出力することが可能である。第2電圧変換部34は、入力電圧を降圧して出力する降圧用の電圧変換部であり、整流回路32から供給される入力電圧を規定値の電圧に降圧して出力することが可能である。すなわち、第1電圧変換部33と第2電圧変換部34とは、規定値の電圧を出力するために必要な入力電圧の範囲が互いに異なる。第1電圧変換部33の出力電圧の規定値と第2電圧変換部34の出力電圧の規定値とは同じ値である。ここで、規定値とは、出力すべき電圧の目標値をいう。
【0027】
第1電圧変換部33は、昇圧レギュレータIC331と、この昇圧レギュレータIC331に接続された昇圧コイル332及び平滑コンデンサ333とを有し、昇圧レギュレータIC331に内蔵されたスイッチング素子のオン・オフにより昇圧コイル332のエネルギーの蓄積と放出とを繰り返すことにより入力電圧を昇圧して出力する。また、第2電圧変換部34は、降圧レギュレータIC341と、この降圧レギュレータIC341に接続された降圧コイル342及び平滑コンデンサ343とを有し、降圧レギュレータIC341に内蔵されたスイッチング素子のオン・オフにより降圧コイル342に流れる電流量を調整することで入力電圧を降圧して出力する。
【0028】
第1電圧変換部33及び第2電圧変換部34の出力電圧の規定値は、制御回路部4におけるCPU41等の電子部品の動作電圧に対して出力回路部35における電圧降下を見込んだ電圧値であり、例えば4Vである。すなわち、第1電圧変換部33は、入力電圧をこの規定値の電圧まで昇圧して出力し、第2電圧変換部34は、入力電圧をこの規定値の電圧まで降圧して出力する。また、第2電圧変換部34は、入力電圧(平均値)が出力電圧の規定値未満である場合、電圧を出力しない。
【0029】
出力回路部35は、第1電圧変換部33の出力電圧がアノードに入力される第1ダイオード351と、第2電圧変換部34の出力電圧がアノードに入力される第2ダイオード352とを有し、第1ダイオード351のカソードと第2ダイオード352のカソードとが接続されたダイオードオア回路からなる。この出力回路部35は、第1電圧変換部33及び第2電圧変換部34のそれぞれの出力電圧のうち何れか高い方の出力電圧を電線21によって制御回路部4に供給する。
【0030】
遮断回路部36は、第2電圧変換部34の出力電圧が抵抗器361,362によって分圧された分圧電圧と、整流回路32の出力電圧が抵抗器363,364によって分圧された分圧電圧とを比較する比較器365と、比較器365の出力電圧が抵抗器366を介して供給されるフォトカプラ367とを有している。ここで、フォトカプラ367は、遮断回路部36のスイッチの役目を担う。抵抗器361~364は、整流回路32の出力電圧が所定値以上となったとき、整流回路32から第1電圧変換部33への電圧供給が遮断されるように抵抗値が定められている。
【0031】
この所定値は、第2電圧変換部34の出力電圧の規定値よりも高い値である。すなわち、遮断回路部36は、第2電圧変換部34に入力される入力電圧が第1電圧変換部33の出力電圧よりも高い状態で、第1電圧変換部33への電圧供給を遮断する。これにより、出力回路部35には、第1電圧変換部33及び第2電圧変換部34のうち少なくとも何れか一方から規定値の電圧が供給され、遮断回路部36による電圧遮断時に出力回路部35から出力される電圧が一時的にゼロになってしまうことがない。また、遮断回路部36によって第1電圧変換部33へ入力される電圧が遮断されることにより、第1電圧変換部33が過電圧により破壊しないように保護される。
【0032】
図4は、主軸10の回転速度がゼロから最大速度付近まで上昇した後にゼロまで下降した場合の電源回路部3の各部の電圧の時間的な変化を示すグラフであり、(a)は整流回路32の出力電圧を、(b)は第1電圧変換部33への入力電圧を、(c)は第1電圧変換部33の出力電圧を、(d)は第2電圧変換部34の出力電圧を、(e)は出力回路部35の出力電圧を、それぞれ示している。
【0033】
図4(a)に示すように、整流回路32の出力電圧は、時刻t
0から時刻t
4まで主軸10の回転速度に連れて上昇し、その後、時刻t
8においてゼロとなる。第1電圧変換部33に入力される電圧は、
図4(b)に示すように、時刻t
3までは整流回路32の出力電圧の上昇と共に高くなるが、時刻t
3において整流回路32の出力電圧が所定値(V
1)となると遮断回路部36により遮断されてゼロとなる。また、時刻t
5において整流回路32の出力電圧が所定値(V
1)以下となると、遮断回路部36による電圧遮断が解除され、第1電圧変換部33に入力される電圧が整流回路32の出力電圧と略等しくなる。
【0034】
第1電圧変換部33の出力電圧は、
図4(c)に示すように、時刻t
1において立ち上がって規定値(V
2)となり、時刻t
3において遮断回路部36によって電圧入力が遮断されるとゼロとなる。また、第1電圧変換部33の出力電圧は、時刻t
5において整流回路32の出力電圧が所定値(V
1)以下となると再び立ち上がり、整流回路32の出力電圧の低下によって時刻t
7において立ち下がるまで規定値(V
2)となる。この所定値(V
1)は、第1電圧変換部33及び第2電圧変換部34の出力電圧の規定値(V
2)よりも高い値である。
【0035】
第2電圧変換部34の出力電圧は、
図4(d)に示すように、整流回路32の出力電圧が第2電圧変換部34の出力電圧の規定値(V
2)となる時刻t
2において立ち上がる。第2電圧変換部34は、時刻t
6において整流回路32の出力電圧が第2電圧変換部34の出力電圧の規定値(V
2)となるまで、規定値(V
2)の電圧を出力する。時刻t
2から時刻t
3までの間、及び時刻t
5から時刻t
6までの間は、第1電圧変換部33及び第2電圧変換部34が共に規定値(V
2)の電圧を出力する重複期間である。
【0036】
出力回路部35からは、時刻t1からt7までの間にわたり、第1電圧変換部33及び第2電圧変換部34の出力電圧の規定値(V2)から第1ダイオード351及び第2ダイオード352の電圧降下分(例えば0.7V)を差し引いた電圧値(V3)の電圧が出力される。この電圧値(V3)は、制御回路部4におけるCPU41等の電子部品の動作電圧として適した値であり、例えば3.3Vである。
【0037】
図5(a),(b)は、ポンプ部7の構成例を示す模式図である。ポンプ部7は、制御回路部4から供給される電気信号により作動し、吐出口71から潤滑油Lの微細な液滴Dを吐出する。本実施の形態では、ポンプ部7が2つの吐出口71(
図1参照)を有し、それぞれの吐出口71から潤滑油供給装置2を挟む一対の転がり軸受12,12のそれぞれの転動体123に向かって潤滑油Lの微細な液滴Dを吐出する。
図5(a),(b)では、一方の吐出口71と、この吐出口71から液滴Dを吐出するための構造を図示している。
【0038】
ポンプ部7は、吐出口71が設けられたポンプ本体部70と、ポンプ本体部70に周縁部が固定されたピエゾ素子72とを有している。ピエゾ素子72は、電圧が印加されると形状が変化する特性を有している。本実施の形態では、電圧の印加によりピエゾ素子72が湾曲してポンプ本体部70内に導入された潤滑油Lが圧縮され、潤滑油Lの一部が液滴Dとして吐出口71から飛び出すようにポンプ部7が構成されている。
【0039】
制御回路部4は、パルス状の電気信号を電線24を介してポンプ部7に供給する。ピエゾ素子72は、この電気信号の電圧が印加されることにより、パルスの立ち上がりで変形して液滴Dを飛び出させる。
図5(a)は、ピエゾ素子72に電圧が印加されていないときの状態を示し、
図5(b)は、ピエゾ素子72に電圧が印加されたときの状態を示している。
【0040】
制御回路部4のCPU41は、例えば主軸10の回転速度に応じて、回転速度が速いほど高い頻度で液滴Dが飛び出すようにポンプ部7を制御する。具体的には、パルス信号の周波数を高くする。これにより、転がり軸受12の摩耗を抑制し、焼き付きなどを防ぐことができる。CPU41は、例えばモータ部13を制御する上位コントローラとの通信により主軸10の回転速度を検知することができる。また、センサ回路部5が主軸10の回転速度を検出するための磁界センサを有している場合には、この磁界センサの検出信号に基づいて主軸10の回転速度を検知してもよい。
【0041】
また、CPU41は、センサ回路部5の振動センサ51によって検出される振動が大きいほど、高い頻度で液滴Dが飛び出すようにポンプ部7を制御する。これにより、転がり軸受12の潤滑不足による主軸装置1の振動を抑制することができる。
【0042】
なお、電源回路部3から制御回路部4に供給された直流電力の一部は、バッテリー45に蓄電され、CPU41等の電子部品は、主軸10の停止時にも、バッテリー45に蓄電された電力によって動作することが可能である。制御回路部4は、主軸10が停止しているときでも、上位コントローラとの通信を行い、例えば振動センサ51による振動強度の検出値や、温度センサ52による温度の検出値の情報を上位コントローラに送信する。
【0043】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明した実施の形態に係る発電装置9によれば、ハウジング11に対する主軸10の回転速度が大きく変動しても、所定の直流電圧を安定的に発生させ、制御回路部4に供給することが可能となる。そして、転がり軸受12に適切に潤滑油Lを供給することが可能となる。特に、本実施の形態では、電源回路部3が昇圧用の電圧変換部としての第1電圧変換部33と降圧用の電圧変換部としての第2電圧変換部34とを有しているため、主軸10の回転速度の広い範囲において、制御回路部4にCPU41等の電子部品を動作させるために適切な電圧値の直流電力を供給することができる。
【0044】
(付記)
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、これらの実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0045】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記の実施の形態では、発電装置9を主軸装置1に適用した場合について説明したが、本発明に係る発電装置の用途は主軸装置に限らず、様々な装置に適用することが可能である。またさらに、上記の実施の形態では、回転部材(主軸10)に複数の磁石(第1磁石81及び第2磁石82)が取り付けられ、固定部材(ハウジング11)にコイル(発電コイル31)が取り付けられた場合について説明したが、これとは逆に、回転部材にコイルを取り付け、固定部材に複数の磁石を取り付けてもよい。この場合、回転部材と共に回転する電子部品等に所定の電圧値の直流電力を供給することができる。
【0046】
また、上記の実施の形態では、ポンプ部7が2つの吐出口71する場合について説明したが、ポンプ部7の吐出口71は一つでもよい。この場合、潤滑油供給装置2を挟む一対の転がり軸受12,12のうち一方の転がり軸受12に潤滑油が供給される。なお、この一方の転がり軸受12は、一対の転がり軸受12,12のうち主軸10の回転時における荷重負荷が大きい方の転がり軸受12であることが望ましい。なお、ポンプ部7の構成も、上記のピエゾ素子を用いたものに限らず、例えば電磁石の磁力によって弁体を進退移動させてノズルを開閉させたり、ダイヤフラムを振動させて供給対象に潤滑油を供給するものであってもよい。
【0047】
また、上記の実施の形態では、複数の電圧変換部として、昇圧用の第1電圧変換部33と、降圧用の第2電圧変換部34とを有する場合について説明したが、これに限らず、昇圧用又は降圧用の第3電圧変換部をさらに備えていてもよい。
【0048】
1…主軸装置
10…主軸(回転部材)
11…ハウジング(固定部材)
31…発電コイル(コイル)
32…整流回路
33…第1電圧変換部(昇圧用の電圧変換部)
34…第2電圧変換部(降圧用の電圧変換部)
35…出力回路部
36…遮断回路部
4…制御回路部
81…第1磁石
82…第2磁石
9…発電装置
L…潤滑油